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特開2024-19298ポリカルボシラザンおよびそれを含む組成物、ならびにそれを用いたケイ素含有膜の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024019298
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】ポリカルボシラザンおよびそれを含む組成物、ならびにそれを用いたケイ素含有膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 77/60 20060101AFI20240201BHJP
   H01L 21/316 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
C08G77/60
H01L21/316 G
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023205488
(22)【出願日】2023-12-05
(62)【分割の表示】P 2022562599の分割
【原出願日】2021-05-04
(31)【優先権主張番号】20173584.2
(32)【優先日】2020-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】591032596
【氏名又は名称】メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D-64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 英明
(74)【代理人】
【識別番号】100206265
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 逸子
(72)【発明者】
【氏名】岡村 聡也
(72)【発明者】
【氏名】岡安 哲雄
(72)【発明者】
【氏名】トーステン、フォン、スタイン
(57)【要約】
【課題】酸エッチングに耐えるケイ素含有膜を形成することができるポリカルボシラザン、および前記ポリカルボシラザンを含んでなる組成物の提供。
【解決手段】本発明は、-[RSi-(CH]-および-(RSi-NR)-(ここで、R、R、RおよびRは、それぞれ独立に、単結合、水素、またはC1~4アルキルであり;Rは、独立に、単結合または水素であり;かつ、nは、1~2である)の繰り返し単位を含んでなるポリカルボシラザンおよび前記ポリカルボシラザンを含んでなる組成物を提供する。本発明は、また、前記組成物を基板の上方に塗布し、加熱することを含んでなる、ケイ素含有膜を形成する方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(1)で表される繰り返し単位および以下の式(2)で表される繰り返し単位を含んでなるポリカルボシラザンであって
【化1】
(ここで、
、R、R、およびRは、それぞれ独立に、単結合、水素、またはC1-4アルキルであり、
は、それぞれ独立に、単結合または水素であり、かつ
nは、1~2である)、
H-NMRスペクトルにおいて、1.7~2.2ppmの面積強度と1.0~1.6ppmの面積強度との和に対する、1.7~2.2ppmの面積強度の比が、0.05~0.5であり、
前記ポリカルボシラザンがSi-Si結合を含まないものであり、
前記ポリカルボシラザンがポリペルヒドロカルボシラザンである、ポリカルボシラザン。
【請求項2】
ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定されたポリスチレン換算の質量平均分子量が1,500~25,000である、請求項1に記載のポリカルボシラザン。
【請求項3】
ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定されたポリスチレン換算の質量平均分子量が4,190~25,000である、請求項1または2に記載のポリカルボシラザン。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のポリカルボシラザンおよび溶媒を含んでなる組成物。
【請求項5】
前記溶媒が、芳香族化合物、飽和炭化水素化合物、不飽和炭化水素化合物、エーテル化合物、エステル化合物、およびケトン化合物からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物が、前記組成物の総質量を基準として、1~50質量%のポリカルボシラザンを含んでなる、請求項4または5に記載の組成物。
【請求項7】
ケイ素含有膜の製造方法であって、
請求項4~6のいずれか一項に記載の組成物を用いて、基板の上方に塗膜を形成すること、および
前記塗膜を硬化すること
を含んでなる、方法。
【請求項8】
前記硬化が、水蒸気雰囲気下でおこなわれる、請求項7に記載のケイ素含有膜を製造する方法。
【請求項9】
前記硬化が、非酸化雰囲気下でおこなわれる、請求項7に記載のケイ素含有膜を製造する方法。
【請求項10】
請求項7~9のいずれか一項に記載の方法によって得られるケイ素含有膜。
【請求項11】
請求項7~9のいずれか一項に記載の方法によって製造されたケイ素含有膜を含んでなる、電子素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイス等製造プロセスにおいて酸エッチングに耐性があるケイ素含有膜を形成することができるポリカルボラザン、およびポリカルボシラザンを含んでなる組成物に関するものである。さらに、本発明は、それを用いたケイ素含有膜を形成する方法に関するものでもある。
【背景技術】
【0002】
電子デバイス、とりわけ半導体デバイスの製造において、トランジスタ素子とビットラインとの間、ビットラインとキャパシタとの間、キャパシタと金属配線との間、複数の金属配線の間等に、層間絶縁膜が形成されることが行われる。さらに、基板表面等に形成された分離トレンチに、絶縁材料が埋め込まれることがある。さらに、基板表面に半導体素子が形成された後、封止材料を用いて、被覆層が形成され、パッケージが行われる。層間絶縁膜や被覆層は、ケイ素含有材料から形成されるケースがよくある。
【0003】
ケイ素質膜、窒化ケイ素膜、炭化ケイ素膜、炭窒化ケイ素膜などのケイ素含有膜を形成するために、化学気相成長法(CVD法)、ゾルゲル法、ケイ素含有ポリマーを含む組成物を塗布して加熱する方法等が用いられる。比較的簡易な方法であるため、これらの方法のうち、組成物を用いてケイ素含有膜を形成する方法がよく採用される。ケイ素含有膜を形成するために、ポリシラザン、ポリシロキサン、ポリシロキサザン、ポリカルボシラン、またポリシランなどのケイ素含有ポリマーを含んでなる組成物を、基板等の表面の上方に適用し、ポリマーを加熱して硬化し、ケイ素含有膜を形成する。
【0004】
半導体デバイスの狭く、高アスペクト比のトレンチを埋めることができ、硬化によって、酸耐性を有するケイ素含有膜に転化することができる材料が求められている。さらに、硬化プロセス後に残留応力の小さいことが強く求められている。
【0005】
米国特許第5,011,801号明細書に、1,2-ビス(オルガニルジクロロシリル)エタンをアンモニアと反応させることによって、エチレン架橋されたクロロシラザン重合体の調製方法が開示される。エチレン架橋されたクロロシラザン重合体は、アンモニアとの反応によってポリシラザンに転化される。ポリシラザンを、不活性雰囲気下で、熱分解によって、窒化ケイ素含有セラミック材料に転化することができる。
【0006】
特開2014-201734号公報に、ガラス質膜の製造に使用される組成物が開示され、この組成物を用いることで低温硬化でフレキシブルなガラス質膜を製造することができることが開示される。ガラス質膜の製造に用いられる組成物は、-[(NR-Si(R 3-n)-(CR -Si(R 3-m)(-]-)の繰り返し単位を含むポリマーを含む。ここで、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子、置換基を含んでいてもよい、1~6の炭素原子を有するアルキル基、または置換基を含んでいてもよいフェニル基であり、ただし、RおよびRは、同時に水素原子とはならず、pは、1~6の整数であり、nおよびmは、それぞれ独立に、1~3の整数である。
【0007】
米国特許出願公開第2019/0040279号明細書に、望ましい電気および物理特性を有する膜を製造するためのSi含有膜形成組成物が開示される。この組成物は、式[-NR-RSi-(CH-SiRを有する前駆体を含んでなる。ここで、t=1~4であり;n=2~400であり;R、R、R、RおよびRは、独立に、H、炭化水素基、またはアルキルアミノ基であり、ただし、R、R、RおよびRのうちの少なくとも1つがHであり;Rは、独立に、H、炭化水素基、またはシリル基である。
【0008】
米国特許第4,869,854号明細書に、1,2-ビス(トリクロロシリル)エタン、メチルジクロロシランおよびメチルトリクロロシランの混合物のアンモノリシスによって有機シラザンを調製する方法が開示される。アンモノリシス生成物は、塩基性触媒を用いて重合される。有機シラザンポリマーは、焼結され、炭化ケイ素-窒化ケイ素で構成されるセラミック材料が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第5,011,801号明細書
【特許文献2】特開2014-201734号公報
【特許文献3】米国特許出願公開第2019/0040279号明細書
【特許文献4】米国特許第4,869,854号明細書
【発明の概要】
【0010】
本発明の一形態は、半導体デバイス等の製造プロセス中の酸エッチングに耐性を有するケイ素含有膜を形成することができる、ポリカルボシラザンを提供する。
【0011】
本発明の別の形態は、狭く、高アスペクト比のトレンチを埋めることができ、厚いケイ素含有膜を製造することができる、ポリカルボシラザンおよび溶媒を含んでなる組成物を提供する。
【0012】
本発明のさらに別の形態は、優れた電気特性を有するケイ素含有膜を製造する方法を提供する。
【0013】
本発明のさらにまた別の形態は、優れた電気特性を有するケイ素含有膜を有する電子デバイスを製造する方法を提供する。
【0014】
本発明の一形態は、以下の式(1)で表される繰り返し単位および以下の式(2)で表される繰り返し単位を含んでなるポリカルボシラザンを提供する。
【化1】
ここで、R、R、R、およびRは、それぞれ独立に、単結合、水素、またはC1-4アルキルであり;Rは、それぞれ独立に、単結合または水素であり;かつnは、1~2である。
【0015】
ポリカルボシラザンは、H-NMRスペクトルにおいて、1.7~2.2ppmの面積強度(以降、「CH強度」ということがある)と1.0~1.6ppmの面積強度(以降、「NH強度」ということがある)との和に対する、1.7~2.2ppmの面積強度の比が、0.05~0.5である。H-NMRスペクトルにおける1.7~2.2ppmのシグナルは、CHに起因し、H-NMRスペクトルにおける1.0~1.6ppmのシグナルは、NHに起因するものと考えられる。
【0016】
ポリカルボシラザンは、Si-Si結合を含まないものである。
【0017】
ポリカルボシラザンは、ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定されたポリスチレン換算の質量平均分子量1,500~25,000を有する。
【0018】
本発明の別の形態は、上記のポリカルボシラザンおよび溶媒を含んでなる組成物を提供する。
【0019】
本発明のさらに別の形態は、上記の組成物を基板の上方に適用し、塗膜を形成すること、および塗膜を水蒸気雰囲気下または非酸化雰囲気下で塗膜を硬化することを含んでなる、ケイ素含有膜を製造する方法を提供する。
【0020】
本発明のさらに別の形態は、上記の組成物を基板の上方に適用し、塗膜を形成すること、および塗膜を水蒸気雰囲気下または非酸化雰囲気下で塗膜を硬化することを含んでなる方法によって製造されるケイ素含有膜を有する電子素子を製造する方法を提供する。
【0021】
本発明のポリカルボシラザンは、半導体等の製造プロセス中の酸エッチングに耐性を有するケイ素含有膜を得ることができる。ポリカルボシラザンを含んでなる組成物は、狭く、高アスペクト比のトレンチを埋めることができる。さらに、得られるケイ素含有膜は、硬化後の残留応力が小さく、その電気特性は優れているという特徴を有する。ポリカルボシラザンを含んでなる組成物を用いることで、電子デバイスの歩留まりを改善することができる。
[定義]
【0022】
本明細書において、特に言及されない限り、明細書および特許請求の範囲で使用される以下の用語は、本明細書の目的のために、以下の意味を有するものとする。
【0023】
本明細書において、特に言及されない限り、単数形は複数形を含み、「1つの」や「その」は「少なくとも1つ」を意味する。用語「含んでいる(including)」は、「含む(includes)」および「含まれる(included)」等の他の語法と同様に、限定的ではない。また、「要素」または「成分」等の用語は、特に明記しない限り、1つのユニットを含んでなる、要素または成分、および1つより多いユニットを含んでなる、要素または成分の両方を包含する。本明細書において、特に明記しない限り、接続詞「および」は包括的であることが意図され、かつ接続詞「または」は排他的であることを意図するものではない。例えば、語句「または、その代わりに(or,alternatively)」は排他的であることを意図している。用語「および/または」は、要素の全ての組み合わせを含み、また単体での使用も含む。
【0024】
用語「約(about)」または「およそ(approximately)」は、測定可能な数値に関連して使用される場合、変数の指示値および表示値の実験誤差内(例えば、平均に対して95%内の信頼限界)または表示値の±10パーセント内のいずれか大きい方のすべての変数値を意味する。
【0025】
本明細書において、「Cx~y」、「C~C」および「C」などの記載は、分子または置換基中の炭素の数を意味する。例えば、C1-6アルキルは、1以上6以下の炭素を有するアルキル(メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル等)を意味する。
【0026】
本明細書において、特に言及されない限り、「アルキル」とは、直鎖または分岐のアルキルを意味し、「シクロアルキル」とは、環状構造を含むアルキルを意味する。環状構造が直鎖または分岐のアルキルで置換されたものも、シクロアルキルと称する。さらに、ビシクロアルキルのような多環式構造を有する場合も、シクロアルキルに含まれる。「ヘテロアルキル」は、特に言及されない限り、主鎖または側鎖に酸素または窒素を含むアルキルを意味し、例えば、オキシ、ヒドロキシ、アミノ、カルボニル等を含むアルキルを意味する。さらに、「ヒドロカルビル基」は、炭素および水素、所望により酸素または窒素を含む、を一価、二価またはそれ以上の基を意味する。さらに、本明細書において、特に言及されない限り、「アルキレン」は、前記アルキルに対応する二価基を意味し、例えば、直鎖アルキレン、または側鎖を有する分岐アルキレンを含む。
【0027】
本明細書において、「~」または「-」を用いて数値範囲を示した場合、これらは両方の端点を含み、単位は共通する。例えば、5~25モル%は、5モル%以上25モル%以下を意味する。
【0028】
本明細書において、-25~-5ppmの「面積強度」は、-25~-5ppmの範囲のプロトン核磁気共鳴(H-NMR)の積分値、つまり、強度が0となるベースラインと曲線とによって囲まれた領域の面積を意味する。
【0029】
本明細書において、ポリマーが特に定義がなく複数種類の繰り返し単位を有する場合、これらの繰り返し単位は共重合する。これら共重合は、交互共重合、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合、またはこれらの混在のいずれかである。
【0030】
本明細書において、特に言及されない限り、温度の単位は摂氏(Celsius)を使用する。例えば、20度とは摂氏20度を意味する。
【0031】
本明細書において、特に言及されない限り、「%」は「質量%」、「部」は「質量部」を表す。
【0032】
本明細書において使用されている節の見出しは、構成上の目的のためであり、記載された主題を限定するものとして解釈されるべきではない。この出願において引用した、すべての文書または文書の部分は、特許、特許出願、記事、書籍、論文を含めて、しかしこれらに限定されずに、任意の目的のためにその全体に関して本明細書に明示的に組み込まれる。組み込まれた文献および類似の材料の1つ以上が、本出願の中でのその用語の定義と矛盾するように用語を定義している場合、本願がコントロールする。
【発明の詳細な説明】
【0033】
以下、本発明による実施の形態について詳細に説明する。
【0034】
[ポリカルボシラザン]
本発明のポリカルボシラザンは、以下の式(1)で表される繰り返し単位および以下の式(2)で表される繰り返し単位を含んでなる。
【0035】
【化2】
ここで、
、R、R、およびRは、それぞれ独立に、単結合、水素、またはC1-4アルキルであり、
は、それぞれ独立に、単結合または水素であり、かつ
nは、1~2である。
【0036】
ポリカルボシラザンは、H-NMRスペクトルにおいて、(CH強度)/[(CH強度)+(NH強度)]が、0.05~0.5である。H-NMRの測定は、具体的には、0.4gのポリカルボシラザンを1.6gの重クロロホルム等の重水素化溶媒に溶解させて調製された試料溶液で行われる。ケミカルシフトを較正するために、内標準物質として、テトラメチルシラン(TMS)が試料溶液に加えられる。試料溶液は核磁気共鳴装置JNM-ECS400型(JEOL Ltd.)を用いて80回測定され、H-NMRスペクトルを得る。本発明において、例えば、「CH強度」は、1.7~2.2ppmの範囲の積分強度を意味し、「NH強度」は、1.0~1.6ppmの範囲の積分強度を意味する。
【0037】
ポリカルボシラザンは、Si-Si結合を含まない。ポリカルボシラザンにおけるSi-Si結合の存在は、29Si-NMR測定によって評価される。29Si-NMRの測定は、具他的には、0.4gのポリカルボシラザンを1.6gの重クロロホルム等の重水素化溶媒に溶解させて調製された試料溶液で行われる。ケミカルシフトを較正するために、内標準物質として、テトラメチルシラン(TMS)が試料溶液に加えられる。試料溶液は核磁気共鳴装置JNM-ECS400型(JEOL Ltd.)を用いて1,000回測定され、H-NMRスペクトルを得る。得られる29Si-NMRスペクトルにおいて、-20~-10ppmの間のSi-Si結合に割り当てられたピークで、その存在が確認される。
【0038】
本発明によるポリカルボシラザンは、以下の式(3)で表されるケイ素化合物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物と、以下の式(4)で表されるケイ素化合物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物との共アンモノリシス(co-ammonolysis)によって得ることができる。
【化3】
ここで、
、R、R、RおよびR10は、それぞれ独立に、水素、塩素、臭素またはC1-4アルキルであり;
11は、水素またはC1-4アルキルであり;
Xは、塩素または臭素であり;かつ
mは、1~2である。
【0039】
式(3)で表される化合物の、式(4)で表される化合物に対するモル比は、好ましくは0.02~0.5であり、より好ましくは0.03~0.33である。モル比が0.02より低い場合に、形成されたケイ素含有膜の、半導体デバイス製造プロセス等における酸エッチングに耐えられなくなる。一方、モル比が0.5より高い場合に、ポリカルボシラザンは、熱により溶解し、半導体デバイス等の製造プロセスにおいて扱いづらくなる。
【0040】
式(3)で表されるケイ素化合物の例としては、ビス(トリクロロシリル)メタン、ビス(ジクロロシリル)メタン、ビス(クロロシリル)メタン、ビス(クロロジメチルシリル)メタン、ビス(クロロエチルメチルシリル)メタン、ビス(クロロジエチルシリル)メタン、ビス(クロロジイソプロピルシリル)メタン、ビス(クロロジブチルシリル)メタン、ビス(ジクロロメチルシリル)メタン、ビス(ジクロロエチルシリル)メタン、ビス(ジクロロイソプロピルシリル)メタン、ビス(ブチルジクロロシリル)メタン、トリクロロ[(ジクロロシリル)メチル]シラン、クロロシリル(ジクロロシリル)メタン、ジクロロメチル[(トリクロロシリル)メチル]シラン、クロロジメチル[(トリクロロシリル)メチル]シラン、ジクロロ[(ジクロロシリル)メチル]メチルシラン、クロロ[(ジクロロシリル)メチル]ジメチルシラン、クロロ[(ジクロロシリル)メチル]メチルシラン、クロロ[(ジクロロメチルシリル)メチル]ジメチルシラン、ジクロロエチル[(トリクロロシリル)メチル]シラン、クロロジエチル[(トリクロロシリル)メチル]シラン、ジクロロ[(ジクロロシリル)メチル]エチルシラン、クロロ[(ジクロロシリル)メチル]ジエチルシラン、クロロ[(ジクロロシリル)メチル]エチルシラン、1,2-ビス(トリクロロシリル)エタン、1,2-ビス(ジクロロシリル)エタン、1,2-ビス(クロロシリル)エタン、1,2-ビス(ジクロロメチルシリル)エタン、1,2-ビス(ジクロロエチルシリル)エタン、1,2-ビス(ジクロロプロピルシリル)エタン、1,2-ビス(ジクロロブチルシリル)エタン、1,2-ビス(クロロジメチルシリル)エタン、1,2-ビス(クロロエチルメチルシリル)エタン、1,2-ビス(クロロジエチルシリル)エタン、1,2-ビス(クロロジプロピルシリル)エタン、1,2-ビス(クロロジブチルシリル)エタン、トリクロロ[2-(ジクロロシリル)エチル]シラン、トリクロロ[2-(クロロメチルシリル)エチル]シラン、ジクロロメチル[2-(トリクロロシリル)エチル]シラン、トリクロロ[2-(クロロメチルシリル)エチル]シラン、クロロジメチル[2-(トリクロロシリル)エチル]シラン、ジクロロ[2-(クロロメチルシリル)エチル]メチルシラン、ジクロロエチル[2-(トリクロロシリル)エチル]シラン、ジクロロ[2-(ジクロロシリル)エチル]エチルシラン、クロロ[2-(ジクロロエチルシリル)エチル]ジエチルシラン、ジクロロ[2-(ジクロロエチルシリル)エチル]メチルシラン、およびクロロ[2-(クロロジメチルシリル)エチル]エチルメチルシランが挙げられる。これらは、単一で、または二以上の組み合わせで使用することができる。
【0041】
式(4)で表されるケイ素化合物の例としては、トリクロロシラン、ジクロロシラン、メチルジクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、エチルジクロロシラン、ジエチルジクロロシラン、エチルメチルジクロロシラン、プロピルジクロロシラン、ジプロピルジクロロシラン、メチルプロピルジクロロシラン、ブチルジクロロシラン、ブチルメチルジクロロシラン、ジブチルジクロロシラン、ジ-tert-ブチルジクロロシラン、およびtert-ブチルメチルジクロロシランが挙げられる。これらは、単一で、または二以上の組み合わせで使用することができる。
【0042】
式(3)で表されるケイ素化合物と、式(4)で表されるケイ素化合物との共アンモノリシスは、溶媒中で行われる。式(3)で表されるケイ素化合物が溶媒に溶解され、次に式(4)で表されるケイ素化合物がその混合物に加えられる。その混合物に、アンモニアが加えられる。加えられるアンモニアのモル数は、式(3)によって表されるケイ素化合物のモル数と式(4)で表されるケイ素化合物のモル数との合計モル数に対して、好ましくは3~6倍である。共アンモノリシスは、-10~20℃で1~24時間行われ、その反応後、反応混合物の副生成物がろ過により除去され、溶媒中のポリカルボシラザンを得る。
【0043】
多くの種類の溶媒が、共アンモノリシスに用いられる。好適な溶媒は、特に限定されないが、例えば、芳香族化合物(例えばベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、トリメチルベンゼン、トリエチルベンゼン);飽和炭化水素化合物(例えばシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ジペンテン、n-ペンタン、i-ペンタン、n-ヘキサン、i-ヘキサン、n-ヘプタン、i-ヘプタン、n-オクタン、i-オクタン、n-ノナン、i-ノナン、n-デカン、エチルシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘキサン、p-メンタン);不飽和炭化水素(例えばシクロヘキセン);ハロゲン化炭化水素化合物(例えば、塩化メチレン、クロロホルム、テトラクロロメタン、ブロモホルム、塩化エチレン、塩化エチリデン、トリクロロエタン、およびテトラクロロエタン);ヘテロ環化合物(例えば、ピロリジン、ピロール、イミダゾリジン、ピペリジン、ピリジン、メチルピリジン、ジメチルピリジン、ピリダジン、アゼパン、およびキノリン);エーテル化合物(例えばジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、アニソール);エステル化合物(例えば、酢酸n-ブチル、酢酸i-ブチル、酢酸n-アミル、酢酸i-アミル);ケトン化合物(例えばメチルイソブチルケトン(MIBK);およびターシャリーアミン化合物(例えば、トリメチルアミン、ジメチルエチルアミン、ジエチルメチルアミン、およびトリエチルアミン)である。溶媒は、単独で、または2以上を組み合わせて使用できる。
【0044】
式(1)で表される繰り返し単位の数をN1および式(2)で表される繰り返し単位の数をN2とすると、ポリカルボシラザンは、N1/(N1+N2)が、0.02~0.33であり、より好ましくは0.03~0.25である。
【0045】
本発明のポリカルボシラザンは、特定の分子量を有する。本発明のポリカルボシラザンを含んでなる組成物を加熱して、ケイ素含有膜に転化する場合、ポリカルボシラザンの質量平均分子量は、低分子量成分の気化を防ぎ、微細なトレンチ内での体積減少を防ぐために、好ましくは大きい。一方、良好な塗布性や、高アスペクト比のトレンチでも良好に埋めるために、低粘度であることが好ましい。ポリカルボシラザンの質量平均分子量は、好ましくは1,500~25,000であり、より好ましくは2,000~20,000である。ここで質量平均分子量とは、ポリスチレン換算質量平均分子量であり、ポリスチレンの基準としてゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。
【0046】
式(1)および式(2)のR、R、RおよびRは、特に限定されないが、例えば、単結合、水素、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチルが挙げられる。本発明のポリカルボシラザンは、好ましくは、式(1)および式(2)中のR、R、R、RおよびRが、それぞれ単結合または水素である、ポリペルヒドロカルボシラザンである。ポリペルヒドロカルボシラザンは、-SiHの末端基を有することができる。
【0047】
ポリペルヒドロカルボシラザンの例は、以下である。
【化4】
【0048】
[組成物]
本発明の組成物は、ポリカルボシラザンおよび溶媒を含んでなる。多くの種類の溶媒が、組成物に使用されうる。好適な溶媒は、特に限定されないが、例えば、芳香族化合物、飽和炭化水素化合物、不飽和炭化水素化合物、エーテル化合物、エステル化合物およびケトン化合物からなる群から選択される少なくとも1つである。具体的には、以下が挙げられる。芳香族化合物(例えばベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、トリメチルベンゼン、トリエチルベンゼン);飽和炭化水素化合物(例えばシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ジペンテン、n-ペンタン、i-ペンタン、n-ヘキサン、i-ヘキサン、n-ヘプタン、i-ヘプタン、n-オクタン、i-オクタン、n-ノナン、i-ノナン、n-デカン、エチルシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘキサン、p-メンタン);不飽和炭化水素(例えばシクロヘキセン);エーテル化合物(例えばジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、アニソール);エステル化合物(例えば、酢酸n-ブチル、酢酸i-ブチル、酢酸n-アミル、酢酸i-アミル);ケトン化合物(例えばメチルイソブチルケトン(MIBK)。溶媒は、単独で、または2以上を組み合わせて使用できる。複数種の溶媒を使用することによって、ポリカルボシラザンの溶解性および溶媒の蒸発速度を調整することもできる。
【0049】
採用された塗布方法の作業性や、微細なトレンチへの組成物の浸透性や、トレンチ外の必要とされる膜厚を考慮すると、組成物中の溶媒の量は、採用されたポリカルボシラザンの質量平均分子量に応じて適切に選択することができる。本発明の組成物は、組成物の総質量を基準として、1~50質量%、好ましくは1~30質量%のポリカルボシラザンを含む。
【0050】
本発明による組成物は、任意成分(例えば、界面活性剤等)を組み合わせることができる。界面活性剤は塗布性を改善することができるため、用いることが好ましい。本発明による組成物に使用することのできる界面活性剤としては、例えば非イオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられる。
【0051】
非イオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル類やポリオキシエチレン脂肪酸ジエステル、ポリオキシエチレン脂肪酸モノエステル、ポリオキシエチレンポリオキシピロピレンブロックポリマー、アセチレンアルコール、アセチレングリコール、アセチレンアルコールのポリエトキシレートなどのアセチレンアルコール誘導体、アセチレングリコールのポリエトキシレートなどのアセチレングリコール誘導体、フッ素含有界面活性剤、例えばフロラード(商品名、スリーエム株式会社製)、メガファック(商品名、DIC株式会社製)、スルフロン(商品名、旭硝子株式会社製)、または有機シロキサン界面活性剤、例えばKP341(商品名、信越化学工業株式会社製)などが挙げられる。前記アセチレングリコールとしては、3-メチル-1-ブチン-3-オール、3-メチル-1-ペンチン-3-オール、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、2,5-ジメチル-3-ヘキシン-2,5-ジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオールなどが挙げられる。
【0052】
アニオン系界面活性剤としては、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸のアンモニウム塩または有機アミン塩、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸のアンモニウム塩または有機アミン塩、アルキルベンゼンスルホン酸のアンモニウム塩または有機アミン塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸のアンモニウム塩または有機アミン塩、アルキル硫酸のアンモニウム塩または有機アミン塩などが挙げられる。
【0053】
両性界面活性剤としては、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリウムベタイン、ラウリル酸アミドプロピルヒドロキシスルホンベタインなどが挙げられる。
【0054】
これら界面活性剤は、単独でまたは2種以上混合して使用することができ、その配合比は、組成物の総質量を基準として、通常50~10,000ppm、好ましくは100~5,000ppmである。
【0055】
[ケイ素含有膜の製造方法]
本発明のケイ素含膜の製造方法は、上記の組成物を基板の上方に適用して、塗膜を形成すること、および塗膜を酸化雰囲気下または非酸化雰囲気化で硬化することを含んでなる。
【0056】
そのような基板に対する組成物の塗布方法は、特に限定されないが、従来公知の方法、例えば、スピンコート、ディップコート、スプレーコート、転写法、ロールコート、バーコート、ドクターコート、刷毛塗り、フローコート、またはスリットコート等から任意に選択することができる。組成物が適用される基板は、例えば、シリコン基板、ガラス基板、樹脂フィルム等である。これらの基板には、必要に応じて各種の半導体素子などが形成されていてもよい。
【0057】
組成物を適用後、その塗膜の乾燥または予備硬化のために、好ましくは、プリベーク工程が行われる。プリベーク工程は、非酸化雰囲気下で硬化する場合に、不活性ガスの雰囲気で、または非酸化雰囲気下で硬化する場合に空気中で行われ、プロセス条件は、例えば、ホットプレートで、50~400℃で、10秒~30分である。
【0058】
プリベークされた塗膜を、酸化雰囲気下または非酸化雰囲気下で、硬化させる。
【0059】
酸化雰囲気は、全圧が101kPaのときに、酸素分圧が、20~101kPaであることをいい、好ましくは40~101kPaであり、より好ましくは1.5~80kPaの水蒸気分圧を含む。
【0060】
水蒸気を含む雰囲気下で加熱されることが好ましい。水蒸気を含む雰囲気とは、水蒸気分圧が、0.5~101kPa、好ましくは1~90kPa、より好ましくは1.5~80kPaの範囲であることを意味する。加熱は、200~800℃の温度範囲で行われる。
【0061】
水蒸気を含む雰囲気において、高温(例えば600℃を超える温度)で加熱すると、同時に加熱処理にさらされる電子デバイス等の他の要素が存在する場合、その他の要素への悪影響が懸念されることがある。このような場合、この硬化工程を3段階以上に分けることができる。例えば、最初に水蒸気を含む雰囲気において低温(例えば、200~400℃の温度範囲)で加熱し、次に、水蒸気を含む雰囲気において比較的低温(例えば、300~600℃の温度範囲)で加熱し、そして、水蒸気を含まない雰囲気でより高温(例えば、400~800℃)で加熱することができる。
【0062】
水蒸気を含む雰囲気における水蒸気以外の成分(以下、「希釈ガス」ということがある)としては、任意のガスを使用することができ、例えば、空気、酸素、窒素、酸化窒素、オゾン、ヘリウム、アルゴンが挙げられる。ケイ素含有膜の膜質を考慮すると、希釈ガスとして酸素を用いることが好ましい。
【0063】
非酸化雰囲気とは、酸素濃度1ppm以下、かつ露点-76℃以下である雰囲気のことをいう。好ましくは、N、Ar、He、Ne、H、またはこれらの2種類以上の混合ガス雰囲気である。
加熱は、200~1000℃の温度範囲で行われる。
【0064】
加熱の際の目標温度までの昇温速度および降温速度は、特に限定されないが、一般に、1~100℃/分の範囲とすることができる。目標温度到達後の加熱保持時間にも特に制限はなく、一般に1分~10時間の範囲とすることができる。
【0065】
酸化雰囲気下で硬化させて得られるケイ素含有膜は、シリカ質膜である。本発明において、シリカ質膜とは、ケイ素原子数に対する酸素原子数の比(O/Si)が、1.20~2.50、好ましくは1.40~2.50、より好ましくは1.60~2.45である酸素原子およびケイ素原子を含んでなる膜のことをいう。シリカ質膜は、水素、窒素、炭素などの他の原子を含むことができる。
【0066】
非酸化雰囲気下で硬化させて得られるケイ素含有膜は、炭窒化ケイ素質膜(silicon carbonitrogenous film)である。本発明において、炭窒化ケイ素質膜とは、ケイ素原子に対する窒素原子の比(N/Si)が、0.70~1.10、好ましくは0.75~0.98、であり、かつケイ素原子に対する炭素原子の比(C/Si)が、0.02~12.5、好ましくは0.03~11.5である、炭素原子、窒素原子およびケイ素原子を含んでなる膜のことをいう。炭窒化ケイ素質膜は、水素および酸素などの他の原子を含むことができる。
【0067】
ケイ素含有膜の膜厚は、特に限定されないが、好ましくは、0.1~1.5μm、より好ましくは0.1~1.2μmである。
【0068】
本発明による電子素子の製造方法は、上記の製造方法を含んでなるものである。好ましくは、本発明による電子素子は、半導体素子、太陽電池チップ、有機発光ダイオード、無機発光ダイオードである。本発明の電子素子の好ましい一形態は、半導体素子である。
【0069】
[実施例]
以降において本発明を実施例により説明する。これらの実施例は説明のためのものであり、本願発明の範囲を制限することを意図しない。
【0070】
[実施例1]
冷却コンデンサー、メカニカルスターラーおよび温度制御装置を備えた1L反応容器内部を乾燥窒素で置換した後、乾燥ピリジン500mlを反応容器に投入し、-3℃まで冷却する。23g(0.107mol)のビス(ジクロロシリル)メタンをその容器に導入する。そして、32g(0.317mol)のジクロロシランをその混合物に添加し、固体の付加物(SiHCl・2CN)を生成した。反応混合物が-3℃以下になったことを確認し、撹拌しながら反応混合物にゆっくりと36gのアンモニアを吹き込む。引き続いて、12時間撹拌し続けた後、乾燥窒素を液層に30分間吹き込み、過剰のアンモニアを除去する。得られた反応生成物は、5.0μmの孔径のPTFEフィルター、続いて0.2μmの孔径のPTFEフィルターを通すことで、副生成物を除去する。ピリジンを溜去後、キシレン中の濃度20質量%濃度のポリカルボシラザンの組成物を得る。このポリカルボシラザンはFTIR6100(JASCO Corporation)を用いた赤外吸収スペクトル(FT-IR)、H-NMRおよび29Si-NMRの測定から、ポリペルヒドロカルボシラザンである。質量平均分子量は、GPCによるポリスチレン換算で、11450である。H-NMRスペクトルにおいて、(CH強度)/[(CH強度)+(NH強度)]が0.426である。このポリペルヒドロカルボシラザンは、29Si-NMR測定からSi-Si結合を有していない。
【0071】
ポリペルヒドロカルボシラザン組成物を、1HDX2(ミカサ株式会社)を用いて、シリコンウェハにスピンコートする。塗膜を、大気下でホットプレートで150℃で1分間プリベークする。プリベークされた膜を、酸素雰囲気下で250℃30分間で、次に、水蒸気(40kPa)を含む雰囲気下で400℃で60分間硬化する。得られた膜を、650℃で60分間アニールする。硬化膜の電気特性、相対ウェットエッチングレート、残留応力を測定する。膜厚は、0.4μmである。
【0072】
[実施例2]
実施例1のポリペルヒドロカルボシラザン組成物が、1HDX2(ミカサ株式会社)を用いて、シリコンウェハにスピンコートする。塗膜を、窒素雰囲気下でホットプレートで150℃で1分間プリベークする。プリベークされた膜を、窒素雰囲気下で650℃60分間硬化する。得られた膜を、650℃で60分間アニールする。硬化膜の電気特性、相対ウェットエッチングレート、残留応力を測定する。膜厚は、0.3μmである。
【0073】
[実施例3]
冷却コンデンサー、メカニカルスターラーおよび温度制御装置を備えた1L反応容器内部を乾燥窒素で置換した後、乾燥ピリジン350mlを反応容器に投入し、-3℃まで冷却する。6.6g(0.031mol)のビス(ジクロロシリル)メタンをその容器に導入する。そして、25g(0.248mol)のジクロロシランをその混合物に添加し、固体の付加物(SiHCl・2CN)を生成した。反応混合物が-3℃以下になったことを確認し、撹拌しながら反応混合物にゆっくりと24gのアンモニアを吹き込む。引き続いて、12時間撹拌し続けた後、乾燥窒素を液層に30分間吹き込み、過剰のアンモニアを除去する。得られた反応生成物は、5.0μmの孔径のPTFEフィルター、続いて0.2μmの孔径のPTFEフィルターを通すことで、副生成物を除去する。ピリジンを溜去後、キシレン中の濃度20質量%濃度のポリカルボシラザンの組成物を得る。このポリカルボシラザンは、FT-IR、H-NMRおよび29Si-NMRの測定から、ポリペルヒドロカルボシラザンである。質量平均分子量は、GPCによるポリスチレン換算で、4190である。H-NMRスペクトルにおいて、(CH強度)/[(CH強度)+(NH強度)]が0.276である。このポリペルヒドロカルボシラザンは、29Si-NMR測定からSi-Si結合を有していない。ケイ素含有膜は、実施例1と同一の方法によって製造される。
【0074】
[実施例4]
ケイ素含有膜は、実施例3のポリベルヒドロカルボシラザン組成物から、実施例3と同一の方法によって製造される。
【0075】
[実施例5]
冷却コンデンサー、メカニカルスターラーおよび温度制御装置を備えた1L反応容器内部を乾燥窒素で置換した後、乾燥ピリジン500mlを反応容器に投入し、-3℃まで冷却する。2.1g(0.010mol)のビス(ジクロロシリル)メタンをその容器に導入する。その後、32g(0.317mol)のジクロロシランをその混合物に添加し、固体の付加物(SiHCl・2CN)を生成した。反応混合物が-3℃以下になったことを確認し、撹拌しながら反応混合物にゆっくりと28gのアンモニアを吹き込む。引き続いて、12時間撹拌し続けた後、乾燥窒素を液層に30分間吹き込み、過剰のアンモニアを除去する。得られた反応生成物は、5.0μmの孔径のPTFEフィルター、続いて0.2μmの孔径のPTFEフィルターを通すことで、副生成物を除去する。ピリジンを溜去後、キシレン中の濃度20質量%濃度のポリカルボシラザンの組成物を得る。このポリカルボシラザンは、FT-IR、H-NMRおよび29Si-NMRの測定から、ポリペルヒドロカルボシラザンである。質量平均分子量は、GPCによるポリスチレン換算で、1958である。H-NMRスペクトルにおいて、(CH強度)/[(CH強度)+(NH強度)]が0.065である。このポリペルヒドロカルボシラザンは、29Si-NMR測定からSi-Si結合を有していない。ケイ素含有膜は、実施例1と同一の方法によって製造される。
【0076】
[実施例6]
ケイ素含有膜は、実施例5のポリベルヒドロカルボシラザン組成物から、実施例2と同一の方法によって製造される。
【0077】
[実施例7]
冷却コンデンサー、メカニカルスターラーおよび温度制御装置を備えた1L反応容器内部を乾燥窒素で置換した後、乾燥ピリジン500mlを反応容器に投入し、-3℃まで冷却する。5.6g(0.019mol)の1,2-ビス(トリクロロシリル)エタンを20gのピリジンに溶解させ、その溶液をその容器に導入する。そして、30g(0.297mol)のジクロロシランをその混合物に添加し、固体の付加物(SiHCl・2CN)を生成した。反応混合物が-3℃以下になったことを確認し、撹拌しながら反応混合物にゆっくりと27gのアンモニアを吹き込む。引き続いて、12時間撹拌し続けた後、乾燥窒素を液層に30分間吹き込み、過剰のアンモニアを除去する。得られた反応生成物は、5.0μmの孔径のPTFEフィルター、続いて0.2μmの孔径のPTFEフィルターを通すことで、副生成物を除去する。ピリジンを溜去後、キシレン中の濃度20質量%濃度のポリカルボシラザンの組成物を得る。このポリカルボシラザンは、FT-IR、H-NMRおよび29Si-NMRの測定から、ポリペルヒドロカルボシラザンである。質量平均分子量は、GPCによるポリスチレン換算で、5670である。H-NMRスペクトルにおいて、(CH強度)/[(CH強度)+(NH強度)]が0.131である。このポリペルヒドロカルボシラザンは、29Si-NMR測定からSi-Si結合を有していない。ケイ素含有膜は、実施例1と同一の方法によって製造される。
【0078】
[実施例8]
冷却コンデンサー、メカニカルスターラーおよび温度制御装置を備えた1L反応容器内部を乾燥窒素で置換した後、乾燥ピリジン500mlを反応容器に投入し、-3℃まで冷却する。17.2g(0.08mol)の1,2-ビス(クロロジメチルシリル)エタンを100gのピリジンに溶解させ、その溶液をその容器に導入する。そして、32g(0.317mol)のジクロロシランをその混合物に添加し、固体の付加物(SiHCl・2CN)を生成した。反応混合物が-3℃以下になったことを確認し、撹拌しながら反応混合物にゆっくりと27gのアンモニアを吹き込む。引き続いて、12時間撹拌し続けた後、乾燥窒素を液層に30分間吹き込み、過剰のアンモニアを除去する。得られた反応生成物は、5.0μmの孔径のPTFEフィルター、続いて0.2μmの孔径のPTFEフィルターを通すことで、副生成物を除去する。ピリジンを溜去後、キシレン中の濃度20質量%濃度のポリカルボシラザンの組成物を得る。質量平均分子量は、GPCによるポリスチレン換算で、2240である。H-NMRスペクトルにおいて、(CH強度)/[(CH強度)+(NH強度)]が0.344である。このポリペルヒドロカルボシラザンは、29Si-NMR測定からSi-Si結合を有していない。ケイ素含有膜は、実施例1と同一の方法によって製造される。
【0079】
[比較例1]
ケイ素、窒素および水素で構成され、式(2)の繰り返し単位を含んでなるポリマーであって、質量平均分子量が2850であるペルヒドロポリシラザン組成物をJPH01-138108Aに記載の方法により得た。ケイ素含有膜は、実施例1と同一の方法によって製造される。
【0080】
[比較例2]
比較例1のペルヒドロポリシラザン組成物から、実施例2と同一の方法で、ケイ素含有膜が製造される。
【0081】
[比較例3]
冷却コンデンサー、メカニカルスターラーおよび温度制御装置を備えた1L反応容器内部を乾燥窒素で置換した後、乾燥ピリジン500mlを反応容器に投入し、-3℃まで冷却する。1.1g(0.005mol)のビス(ジクロロシリル)メタンをその容器に導入する。その後、32g(0.317mol)のジクロロシランをその混合物に添加し、固体の付加物(SiHCl・2C5H5N)を生成した。反応混合物が-3℃以下になったことを確認し、撹拌しながら反応混合物にゆっくりと27gのアンモニアを吹き込む。引き続いて、12時間撹拌し続けた後、乾燥窒素を液層に30分間吹き込み、過剰のアンモニアを除去する。得られた反応生成物は、5.0μmの孔径のPTFEフィルター、続いて0.2μmの孔径のPTFEフィルターを通すことで、副生成物を除去する。ピリジンを溜去後、キシレン中の濃度20質量%濃度のポリカルボシラザンの組成物を得る。このポリカルボシラザンは、FT-IR、H-NMRおよび29Si-NMRの測定から、ポリペルヒドロカルボシラザンである。質量平均分子量は、GPCによるポリスチレン換算で、1848である。H-NMRスペクトルにおいて、(CH強度)/[(CH強度)+(NH強度)]が0.018である。このポリペルヒドロカルボシラザンは、29Si-NMR測定からSi-Si結合を有していない。ケイ素含有膜は、実施例1と同一の方法によって製造される。ケイ素含有膜は、実施例1と同一の方法によって製造される。
【0082】
実施例1~8および比較例1~3の結果が、表1に示される。
【0083】
【表1】
【0084】
[質量平均分子量]
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)は、allianceTM e2695型高速GPCシステム(日本ウォーターズ株式会社)およびSuper Multipore HZ-N型GPCカラム(東ソー株式会社)を用いて測定される。測定は、単分散ポリスチレンを標準試料とし、テトラヒドロフランを展開溶媒として、流量0.6ミリリットル/分、カラム温度40℃の測定条件で行った上で、標準試料への相対分子量として質量平均分子量を算出する。
【0085】
[NMR測定]
H-NMRの測定は、0.4gのポリカルボシラザンを1.6gの重クロロホルムに溶解させて調製される試料溶液を用いて行われる。ケミカルシフトを較正するために、内標準物質として、テトラメチルシランが試料溶液に加えられる。各試料溶液はJNM-ECS400型核磁気共鳴装置(日本電子株式会社)を用いて80回測定され、H-NMRスペクトルを得る。1.7~2.2ppmの積分強度をCH強度として、1.0~1.6ppmの積分強度をNH強度として、測定する。CH強度を、CH強度とNH強度との和によって、割り算することにより、CH強度/[(CH強度+NH強度)]を得る。
【0086】
29Si-NMRの測定は、0.4gのポリカルボシラザンを1.6gの重クロロホルムに溶解させて調製される試料溶液を用いて行われる。ケミカルシフトを較正するために、内標準物質として、テトラメチルシラン(TMS)が試料溶液に加えられる。試料溶液は、JNM-ECS400型核磁気共鳴装置(日本電子株式会社)を用いて1,000回測定され、29Si-NMRスペクトルを得る。
【0087】
[残留応力]
ケイ素含有膜の残留応力は、薄膜応力測定装置FLX-3300-T(東朋テクノロジー)を用いて測定される。
【0088】
[相対ウェットエッチングレート(WER)]
4-インチシリコンウェハに被覆されたケイ素含有膜および比較対象としてシリコンウェハに被覆されたシリコン熱酸化膜が準備される。膜厚は、分光エリプソメーターM-2000V(JA ウーラム)を用いて測定される。ウェハは、1.0重量%のフッ化水素酸水溶液に、20℃で3分間浸漬され、その後、純水でリンスおよび乾燥される。浸漬後の膜厚が、測定される。この作業を繰り返し行う。ウェットエッチングレートは、エッチング時間と膜厚の減少量との関係を線形近似することによって計算される。相対WERは、ケイ素含有膜のウェットエッチングレートをシリコン熱酸化膜のWERで割った値である。
【0089】
[破壊電界(Fbd)]
膜厚200nmのケイ素含有膜の破壊電界をSSM495 272A-M100(日本エス・エス・エム株式会社製)を使用して測定する。電流密度が1E-6(A/cm)を超えた時の電界をFbd(MV/cm)とする。