(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024019491
(43)【公開日】2024-02-09
(54)【発明の名称】植物の高温耐性誘導剤および植物の高温耐性誘導方法
(51)【国際特許分類】
A01N 35/02 20060101AFI20240201BHJP
A01P 21/00 20060101ALI20240201BHJP
A01N 25/08 20060101ALI20240201BHJP
A01G 7/06 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
A01N35/02
A01P21/00
A01N25/08
A01G7/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023208639
(22)【出願日】2023-12-11
(62)【分割の表示】P 2023544077の分割
【原出願日】2022-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2021174292
(32)【優先日】2021-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江口 創
(72)【発明者】
【氏名】小口 亮平
(72)【発明者】
【氏名】宮嶋 達也
(57)【要約】
【課題】効果の持続性に優れる植物の高温耐性誘導剤および植物の高温耐性誘導方法の提供。
【解決手段】この植物の高温耐性誘導剤は、200℃以下の沸点または昇華点を有する化合物を1種以上含む有効成分が多孔質材料に担持された担持体を含む。植物の高温耐性誘導方法は、この高温耐性誘導剤を植物に施用する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
200℃以下の沸点または昇華点を有する化合物を1種以上含む有効成分が多孔質材料に担持された担持体を含む、植物の高温耐性誘導剤。
【請求項2】
前記多孔質材料がシリカを含む、請求項1に記載の高温耐性誘導剤。
【請求項3】
前記シリカが多孔質シリカ、ゼオライトおよびモンモリロナイトから選択される少なくとも一種である、請求項2に記載の高温耐性誘導剤。
【請求項4】
前記シリカがシリカゲルである、請求項2に記載の高温耐性誘導剤。
【請求項5】
前記シリカの含有量が、前記多孔質材料の総質量に対し95~100質量%である、請求項2~4のいずれか一項に記載の高温耐性誘導剤。
【請求項6】
前記多孔質材料の比表面積が100~1,000m2/gである、請求項1~5のいずれか一項に記載の高温耐性誘導剤。
【請求項7】
前記化合物が不飽和カルボニル化合物である、請求項1~6のいずれか一項に記載の高温耐性誘導剤。
【請求項8】
前記化合物が2-ヘキセナールである、請求項1~6のいずれか一項に記載の高温耐性誘導剤。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の高温耐性誘導剤を植物に施用する、植物の高温耐性誘導方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の高温耐性誘導剤および植物の高温耐性誘導方法に関する。
本願は、2021年10月26日に日本に出願された特願2021-174292号について優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
農園芸用植物が高温に曝されると、高温障害によって農園芸用植物の品質や収量の低下が生じる。従来、高温障害を防止するために、日よけの設置や農園芸用ハウスへの換気扇の設置が行われているが、これらの対策は多額の費用を要し、容易に実施できない。
そこで、多くの農業現場で容易に実施可能な対策として、植物に高温耐性誘導剤を施用することが検討されている。高温耐性誘導剤としては、例えばヒドロキシアクロレイン、エチルビニルケトンおよび2-ヘキセナール等の不飽和カルボニル化合物が知られている(特許文献1)。また、2-ヘキセナールを昇華性担体の2,4,6-トリイソプロピル-1,3,5-トリオキサンに担持させ、錠剤化した製品が市販されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、本発明者らの検討によれば、高温耐性誘導剤が200℃以下の沸点または昇華点を有する場合、施用後に急速に気化して、効果の持続期間が短いことがある。効果の持続期間が短いと、高温耐性誘導剤を頻繁に施用することになり、手間やコストが増える。2-ヘキセナールを昇華性担体に担持させると、効果の持続期間は延びるが、その効果は充分ではない。
【0005】
本発明は、効果の持続性に優れる植物の高温耐性誘導剤および植物の高温耐性誘導方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]200℃以下の沸点または昇華点を有する化合物を1種以上含む有効成分が多孔質材料に担持された担持体を含む、植物の高温耐性誘導剤。
[2]前記多孔質材料がシリカを含む、前記[1]の高温耐性誘導剤。
[3]前記シリカが多孔質シリカ、ゼオライトおよびモンモリロナイトから選択される少なくとも一種である、前記[2]の高温耐性誘導剤。
[4]前記シリカがシリカゲルである、前記[2]の高温耐性誘導剤。
[5]前記シリカの含有量が、前記多孔質材料の総質量に対し95~100質量%である、前記[1]~[4]のいずれかの高温耐性誘導剤。
[6]前記多孔質材料の比表面積が100~1,000m2/gである、前記[1]~[5]のいずれかの高温耐性誘導剤。
[7]前記化合物が不飽和カルボニル化合物である、前記[1]~[6]のいずれかの高温耐性誘導剤。
[8]前記化合物が2-ヘキセナールである、前記[1]~[6]のいずれかの高温耐性誘導剤。
[9]前記[1]~[8]のいずれかの高温耐性誘導剤を植物に施用する、植物の高温耐性誘導方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の植物の高温耐性誘導剤および植物の高温耐性誘導方法は、効果の持続性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明において、「沸点」および「昇華点」はそれぞれ、常圧(1気圧)における値である。
数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含むことを意味する。
【0009】
本発明の一実施形態に係る植物の高温耐性誘導剤は、有効成分が多孔質材料に担持された担持体を含む。
【0010】
(有効成分)
有効成分は、植物の高温耐性を誘導する作用を有する。
本実施形態において有効成分は、200℃以下の沸点または昇華点を有する化合物(以下、「化合物A」とも記す。)を含む。有効成分中の化合物Aは、1種でもよく2種以上でもよい。
【0011】
化合物Aは、沸点または昇華点が200℃以下であるので、植物の生育環境下(例えば0~50℃)で気化(蒸発または昇華)し得る。
化合物Aの沸点または昇華点は、175℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましい。沸点または昇華点が低いほど、施用後に気化しやすいので、本発明の有用性が高い。
化合物Aの沸点または昇華点は、効果の持続性の点では、80℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましい。
化合物Aは、25℃において液体であってもよく固体であってもよい。
【0012】
化合物Aは、植物の高温耐性誘導作用を有するものとして公知の化合物のなかから、200℃以下の沸点または昇華点を有するものを適宜選定できる。
植物の高温耐性誘導作用を有する化合物の一例として、不飽和アルデヒドおよび不飽和ケトン等の不飽和カルボニル化合物が挙げられる。不飽和カルボニル化合物の具体例としては、特開2011-157307号公報や国際公開第2016/031775号に記載のものが挙げられる。
【0013】
不飽和カルボニル化合物としては、下式1で表される化合物が好ましい。
R1-CH=CH-C(=O)-R2 ・・・式1
ただし、R1は、水素原子、ヒドロキシ基または炭素数1~9のアルキル基であり、R2は、水素原子または炭素数1~5のアルキル基である。
R1、R2それぞれにおけるアルキル基は、直鎖状でも分岐状でもよい。
式1で表される化合物のなかでも、R1が水素原子または炭素数1~6のアルキル基であり、R2が水素原子または炭素数1~5のアルキル基であり、R1およびR2の炭素数の和が6以下(総炭素数が9以下)の化合物が好ましい。
【0014】
200℃以下の沸点または昇華点を有する不飽和カルボニル化合物としては、例えば2-ヘキセナール(沸点146℃)、2-ブテナール(沸点105℃)、2-ペンテナール(沸点126~130℃)、2-ヘプテナール(沸点166℃)、1-ペンテン-3-オン(沸点81℃)、3-ペンテン-2-オン(沸点123℃)、4-ヘキセン-3-オン(沸点137℃)、3-ヘプテン-2-オン(沸点156℃)および2-オクテン-4-オン(沸点178℃)が挙げられる。
【0015】
植物の高温耐性誘導作用を有する化合物の他の例として、分岐鎖アミノ酸およびその生合成経路および消費経路における中間体(以下、これらをまとめて「分岐鎖アミノ酸類」とも記す。)が挙げられる。分岐鎖アミノ酸類の具体例としては、特開2012-197249号公報に記載のものが挙げられる。
200℃以下の沸点または昇華点を有する分岐鎖アミノ酸類としては、例えばロイシン(昇華点145~148℃)およびα-ケトイソ吉草酸(沸点171℃)が挙げられる。
【0016】
有効成分は、本発明の効果を損なわない範囲で、化合物A以外の、植物の高温耐性を誘導する作用を有する化合物をさらに含んでいてもよい。
有効成分の総質量に対する化合物Aの割合は特に限定されないが、例えば1質量%以上、さらには10質量%以上であり、100質量%であってもよい。化合物Aの割合が上記範囲であると、植物の高温耐性を誘導する作用を充分に発揮できる。
【0017】
(多孔質材料)
多孔質材料は、有効成分を担持する担体である。
多孔質材料は、シリカを含んでいてもよい。本明細書において、シリカとは酸化ケイ素を含む化合物を意味する。シリカとしては、例えば、シリカゲル、珪藻土、メソポーラスシリカ等の多孔質シリカ、ゼオライト、モンモリロナイト、沸騰石、多孔質ガラス、カオリナイト、セリサイト、イライト、グローコナイト、クロライトおよびタルクが挙げられる。シリカは、多孔質シリカ、ゼオライトおよびモンモリロナイトからなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましく、多孔質シリカであることがより好ましく、シリカゲルであることがさらに好ましい。
【0018】
多孔質材料は、シリカ以外の他の成分を含んでいてもよい。シリカの含有量は、多孔質材料の総質量に対し50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、95質量%以上が特に好ましく、100質量%であってもよい。シリカの含有率が前記の範囲であると、徐放性、有効成分の安定性がより優れる傾向がある。
【0019】
多孔質材料の比表面積は、例えば1~3,000m2/g、さらには100~1,000m2/gである。多孔質材料の比表面積は、200~1,000m2/gであることが好ましく、420~1,000m2/gであることがより好ましい。多孔質材料の比表面積が1~3,000m2/gであると、化合物Aの残存率が高く、効果の持続性を向上できる。多孔質材料の比表面積が420~1,000m2/gであると、化合物Aの残存率がより高く、効果の持続性をさらに向上できる。比表面積は、ガス吸着法により測定される。具体的には、比表面積測定装置(島津製作所社製、商品名3Flex)を用い、試料を100mgセットし、極低温の条件で比表面積を測定する。
【0020】
多孔質材料の細孔容積は、例えば0.01~10mL/g、0.05~3mL/g、さらには0.1~1.7mL/gである。細孔容積は、Barrett-Joyner-Halenda(BJH)法により測定される。具体的には、細孔分布測定装置(例えば、島津製作所社製、3Flex)を用い、試料を100mgセットし、極低温の条件で細孔容積を測定する。
多孔質材料の細孔直径は、例えば0.5~1,000nm、さらには0.5~100nm、さらには1~25nmである。細孔直径は、ガス吸着法により測定される。具体的には、比表面積測定装置(例えば、島津製作所社製、3Flex)を用い、試料を100mgセットし、極低温の条件で細孔直径を測定する。
多孔質材料の吸油量は、例えば1~1,000mL/100g、さらには10~500mL/100g、さらには40~300mL/100gである。吸油量は、煮あまに油法により測定される。具体的には、多孔質材料と煮あまに油を少量ずつ混ぜ、ヘラを用いてらせん状に巻くことが出来る状態になったときの、多孔質材料100gあたりの煮あまに油の使用量を測定し、吸油量とする。
【0021】
多孔質材料の形状としては、特に制限はなく、例えば粒子状、ブロック状、フィルム状、ペレット状およびハニカム状が挙げられる。入手容易性の点では、粒子状が好ましい。粒子の形状としては、例えば真球状、楕円球状等の球状、針状、鱗片状および不定形状が挙げられる。
多孔質材料が粒子状である場合、多孔質材料の平均粒子径は、例えば0.1~1,000μm、4~1,000μm、さらには0.5~300μmである。平均粒子径は、コールターカウンター(例えば、ベックマン・コールター社製、マルチサイザー4e)により測定される。
【0022】
多孔質材料としては、多孔質シリカのなかでも、安全性の点から、シリカゲルが好ましい。
シリカゲルの平均粒子径は、例えば0.5~300μm、さらには4~70μmである。シリカゲルの平均粒子径は、粒度分布計(ベックマン・コールター社製、マルチサイザー4e)を用い、溶液中の条件で測定したときの50%累積体積粒度である。
シリカゲルの比表面積は、例えば30~1,000m2/g、100~1,000m2/g、150~1,000m2/g、200~1,000m2/g、さらには420~1,000m2/gである。
シリカゲルの細孔容積は、例えば0.05~3mL/g、0.2~2.5mL/g、さらには0.5~1.7mL/gである。
シリカゲルの細孔直径は、例えば0.5~100nm、2~50nm、さらには3~25nmである。
シリカゲルの吸油量は、例えば10~500mL/100g、50~450mL/100g、さらには100~300mL/100gである。
【0023】
(担持体)
担持体において、有効成分の担持率は、担持体の全量に対し、例えば0.01~1,000質量%、さらには0.1~10質量%である。
有効成分の担持率は、有効成分を溶解可能な溶媒によって担持体から有効成分を抽出し、得られた抽出液をガスクロマトグラフィー(例えば、Agilent社製、7890A)によって分析することで求められる。
【0024】
(他の成分)
高温耐性誘導剤は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、有効成分および多孔質材料以外の他の成分をさらに含んでいてもよい。
高温耐性誘導剤が他の成分を含む場合、他の成分は、担持体に担持されていてもよく、担持体に担持されていなくてもよい。
他の成分としては、例えば、酸化防止剤、カップリング剤およびバインダーが挙げられる。
【0025】
(高温耐性誘導剤の製造方法)
高温耐性誘導剤は、化合物Aを1種以上含む有効成分を多孔質材料に担持させることで得られる。
【0026】
担持方法は、特に限定されず、公知の方法を適宜採用できる。
例えば、有効成分を、化合物Aの沸点または昇華点よりも沸点が低い液状媒体とともに多孔質材料と接触させ、その後、化合物Aの沸点または昇華点よりも低温で乾燥(液状媒体を除去)する方法によって担持体が得られる。
液状媒体としては、有効成分を溶解または分散可能であればよい。液状媒体の使用量は、例えば担持体の100質量部に対して10~10,000質量部、さらには100~1,000質量部である。
有効成分および液状媒体を多孔質材料と接触させる方法としては、特に制限はなく、浸漬および噴霧等の公知の方法を適用できる。接触時間は、有効成分が多孔質材料に充分に含浸できればよく、多孔質材料の大きさおよび材質等に応じて適宜調整できる。
有効成分が液体である場合、有効成分のみを多孔質材料と接触させる方法によっても担持体が得られる。
【0027】
必要に応じて、得られた担持体を、必要に応じて他の成分とともに、任意の剤形に賦形してもよい。
担持体を任意の剤形に賦形する場合、剤形は、特に限定されず、例えば錠剤、細粒、フィルムおよびブロックが挙げられる。賦形方法は、公知の方法を適用できる。
【0028】
必要に応じて、得られた高温耐性誘導剤を、植物への施用のための容器に収容してもよい。
高温耐性誘導剤の施用後、化合物Aが気化し、空気中を拡散して植物に到達することで、高温耐性を誘導する。したがって、容器は、気化した化合物Aを容器外に放出可能とするために、気体透過性のあるもの、または容器の内部と外部とを連通する1以上の開口を有するものが好ましい。
容器は、容器を植物や任意の支持体に取り付けるための取り付け部材を備えていてもよい。
【0029】
(用途)
高温耐性誘導剤は、植物の高温耐性を誘導するために、植物に施用される。高温耐性誘導剤を植物に施用することで、植物の高温耐性を誘導できる。
高温障害とは、気温の高さによって植物の生育に悪影響が及ぶことを指す。
農園芸用植物に高温障害が生じると、農園芸用植物の品質や収量が低下する。具体的な障害としては、結球性の農園芸用植物の小型化、肥大不足、糖度不足および短茎、ならびに花の奇形化および花色不良が例示できる。
【0030】
高温耐性誘導剤が適用される植物としては、化合物Aによって高温耐性を誘導可能なものであればよく、特に制限はない。本実施形態において高温耐性誘導剤が適用される植物は、典型的には、気孔を有する植物であり、好ましくは農園芸用植物である。具体的な植物(特に、農園芸用植物)としては、例えば、穀類(稲、大麦、小麦、ライ麦、オート麦およびトウモロコシ等)、豆類(大豆、小豆、そら豆、エンドウおよび落花生等)、果樹・果実類(リンゴ、柑橘類、梨、ブドウ、桃、梅、桜桃、クルミ、アーモンド、バナナおよびイチゴ等)、野菜類(キャベツ、トマト、ナス、ほうれん草、ブロッコリー、レタス、タマネギ、ネギおよびピーマン等)、根菜類(ニンジン、馬鈴薯、サツマイモ、大根およびかぶ等)、加工用作物類(綿、麻、コウゾ、ミツマタ、菜種、ビート、ホップ、サトウキビ、テンサイ、オリーブ、ゴム、コーヒー、タバコおよび茶等)、瓜類(カボチャ、キュウリ、スイカおよびメロン等)、牧草類(オーチャードグラス、ソルガム、チモシー、クローバーおよびアルファルファ等)、芝類(高麗芝およびベントグラス等)、花卉類(キク、バラおよびラン等)、香料等用作物類(ラベンダー、ローズマリー、タイム、パセリ、胡椒およびしょうが等)が挙げられる。
【0031】
本発明の高温耐性誘導方法は、本発明の高温耐性誘導剤を植物に施用することを含む。高温耐性誘導剤の植物への施用方法としては、公知の方法を適用できる。例えば、有効成分を担持させたシリカゲルを気体透過性のある袋に充填し、植物の周辺に設置する方法が挙げられる。高温耐性誘導剤が、前記した開口を有する容器に収容されている場合、この容器を、植物の周辺の地面等に設置してもよい。容器が前記した取り付け部材を備えている場合、この容器を植物や任意の支持体に取り付けてもよい。
高温耐性誘導剤の施用量は、有効成分の種類、温度、湿度、気圧および対象植物における最適濃度に応じて適宜設定できる。例えば2-ヘキセナールの場合、大気中の2-ヘキセナール濃度が0.001~0.1ppmの濃度になる程度である。
【実施例0032】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例の記載に限定されるものではない。「%」は「質量%」を示す。
例1~10、13は、実施例であり、例11~12、14~15は、比較例である。
【0033】
(例1~10)
200mLナスフラスコに、表1に示す特性を持つシリカを含む多孔質材料を20~30gの範囲内で秤量し、シリカを含む多孔質材料の質量に対して0.35質量%の2-ヘキセナール(trans体)を加えた。さらにジクロロメタンの100gを加え、1分間撹拌し、ロータリーエバポレーターでジクロロメタンを蒸発させて、粉末状の高温耐性誘導剤(担持体)を得た。
得られた高温耐性誘導剤の1.00~1.20gをサンプルとして20mLバイアルに入れ、以下の評価を行った。結果を表1に示す。
【0034】
<評価1a:2-ヘキセナール担持率の測定>
サンプルが入ったバイアルに、クロロホルム:メタノール=9:1(体積比)の混合溶剤の5gを入れ、1分間撹拌して、担持されている2-ヘキセナールを抽出した。そこに内部標準物質としてヘキサデカンを加え、得られた混合物をろ過した。得られたろ液(内部標準物質を含む抽出液)をガスクロマトグラフィーによって分析し、予めヘキサデカンを内部標準として作成した検量線によって2-ヘキセナールの担持量(mg)を算出した。求めた担持量(mg)とバイアルに入れたサンプルの質量から、サンプル100%中の2-ヘキセナールの担持率(%)を求めた。
【0035】
<評価1b:2-ヘキセナール残存率の測定>
サンプルが入ったバイアルを、フタを付けない状態で、23℃または50℃の環境で7日間静置した。静置後、上記「評価1a」と同様にして2-ヘキセナールの担持率(%)を求めた。
測定結果から、23℃静置、50℃静置それぞれの場合について下式により2-ヘキセナール残存率を算出した。式中の「初期の2-ヘキセナール含有率」は、上記「2-ヘキセナール担持率の測定」で求めた値である。
2-ヘキセナール残存率(%)=静置後の2-ヘキセナール担持率(%)/初期の2-ヘキセナール担持率(%)×100
【0036】
(例11)
2,4,6-トリイソプロピル-1,3,5-トリオキサン(以下、単に「トリオキサン」と記す。)に2-ヘキセナールが担持されている市販の錠剤を例11の高温耐性誘導剤とした。
この高温耐性誘導剤をサンプルとして20mLバイアルに入れ、以下の評価を行った。結果を表1に示す。
【0037】
<評価2a:2-ヘキセナール担持率の測定>
サンプルが入ったバイアルに、クロロホルムを入れ、サンプルを溶解させ、得られた溶液に内部標準物質としてヘキサデカンを加え、ガスクロマトグラフィー(Agilent社製、7890A)によって分析した以外は上記「評価1a」と同様にして、サンプル100%中の2-ヘキセナールの担持率(%)を求めた。
【0038】
<評価2b:2-ヘキセナール残存率の測定>
サンプルが入ったバイアルを、23℃または50℃の環境で7日間静置した。静置後、上記「評価2a」と同様にして2-ヘキセナールの担持率(%)を求めた。
測定結果から上記「評価1b」と同様にして2-ヘキセナール残存率(%)を求めた。
【0039】
(例12)
2-ヘキセナールをそのまま例12の高温耐性誘導剤とした。
この高温耐性誘導剤をサンプルとして20mLバイアルに入れ、以下の評価を行った。結果を表1に示す。
【0040】
<評価3b:2-ヘキセナール残存率の測定>
サンプルが入ったバイアルを、23℃または50℃の環境で7日間静置した。静置後、バイアル内に残存するサンプルの質量(mg)を測定し、この値を静置後の2-ヘキセナール担持率とした。
測定結果から上記「評価1b」と同様にして2-ヘキセナール残存率(%)を求めた。
なお、例12では2-ヘキセナールをそのまま用いたので、初期の2-ヘキセナール担持率は100%とした。
【0041】
【0042】
(例13)
有効成分を2-ヘキセナールの代わりに3-ヘプテン-2-オンとしたこと以外は例1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0043】
(例14)
トリオキサンと3-ヘプテン-2-オンとを混合(100:0.35質量比)し乾固させた剤を高温耐性誘導剤として、例11と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0044】
(例15)
3-ヘプテン-2-オンをそのまま例15の高温耐性誘導剤とした。
例12と同様にして評価を行った。結果を表2に示す。
【0045】
【0046】
担体を用いていない例12、15の高温耐性誘導剤は、23℃静置、50℃静置のいずれの場合においても、7日後に有効成分が残存していなかった。
担体としてトリオキサンを用いた例11、14の高温耐性誘導剤は、23℃静置の場合は7日後に2-ヘキセナールがわずかに残存していたが、50℃静置の場合は残存していなかった。
これに対し、例1~10、13の高温耐性誘導剤は、23℃静置、50℃静置のいずれの場合においても、7日後に2-ヘキセナールが残存していた。また、23℃静置の場合の残存率は、例11、14よりも大幅に高かった。
本発明の植物の高温耐性誘導剤は、効果の持続性に優れる。従って、開口を有する容器に収容して、当該容器を気孔を有する植物の周辺の地面等に設置したり、植物や任意の支持体に取り付けたりすることで、植物の品質や収量の低下を防げる。