(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024019547
(43)【公開日】2024-02-09
(54)【発明の名称】超音波探触子用音響レンズ、超音波探触子、超音波プローブおよび超音波診断装置
(51)【国際特許分類】
A61B 8/00 20060101AFI20240201BHJP
H04R 17/00 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
A61B8/00
H04R17/00 332A
H04R17/00 330J
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023210743
(22)【出願日】2023-12-14
(62)【分割の表示】P 2021553494の分割
【原出願日】2020-10-21
(31)【優先権主張番号】P 2019191863
(32)【優先日】2019-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】大澤 敦
(72)【発明者】
【氏名】吉弘 達矢
(57)【要約】
【課題】深度に関わらず高い画質を有する超音波画像を得ることができる超音波探触子用音響レンズを提供する。
【解決手段】
超音波探触子用音響レンズ(7)は、超音波探触子(1)の前端部に配置される音響レンズであって、凹状の前面(C1)を有し、複数の微粒子(G)が分散された母材(B)から形成され、エレベーション方向の中央部から両端部に向かうほど微粒子(G)の分散度が高いことによりエレベーション方向の中央部から両端部に向かうほど音速が低くなり、エレベーション方向の中央部から両端部にかけて単位体積あたりの微粒子(G)の数が同一である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波探触子の前端部に配置される音響レンズであって、
凹状の前面を有し、
複数の微粒子が分散された母材から形成され、
エレベーション方向の中央部から両端部に向かうほど前記微粒子の分散度が高いことにより前記エレベーション方向の中央部から両端部に向かうほど音速が低くなり、
前記エレベーション方向の中央部から両端部にかけて単位体積あたりの前記微粒子の数が同一である超音波探触子用音響レンズ。
【請求項2】
前記エレベーション方向の中央部に配置された高音速領域用レンズ部と前記エレベーション方向の両端部に配置された低音速領域用レンズ部とを有する請求項1に記載の超音波探触子用音響レンズ。
【請求項3】
超音波探触子の前端部に配置される音響レンズであって、
凸状の前面を有し、
複数の微粒子が分散された母材から形成され、
エレベーション方向の中央部から両端部に向かうほど前記微粒子の分散度が低いことにより前記エレベーション方向の中央部から両端部に向かうほど音速が高くなり、
前記エレベーション方向の中央部から両端部にかけて単位体積あたりの前記微粒子の数が同一である超音波探触子用音響レンズ。
【請求項4】
前記エレベーション方向の中央部に配置された低音速領域用レンズ部と前記エレベーション方向の両端部に配置された高音速領域用レンズ部とを有する請求項3に記載の超音波探触子用音響レンズ。
【請求項5】
前記前面は、前記エレベーション方向の中央部から両端部にかけて同一の曲率半径を有する請求項1~4のいずれか一項に記載の超音波探触子用音響レンズ。
【請求項6】
前記微粒子は、0.01μm以上100.00μm以下の直径を有する請求項1~5のいずれか一項に記載の超音波探触子用音響レンズ。
【請求項7】
前記微粒子は、1.00μm以上10.00μm以下の直径を有する請求項6に記載の超音波探触子用音響レンズ。
【請求項8】
前記微粒子は、鉄、タングステン、アルミナ、ジルコニアまたはシリカからなる請求項1~7のいずれか一項に記載の超音波探触子用音響レンズ。
【請求項9】
バッキング材と、
前記バッキング材の表面上に配列形成された複数の圧電振動子と、
前記複数の圧電振動子の上に配置された音響整合層と、
前記音響整合層の上に配置された請求項1~8のいずれか一項に記載の超音波探触子用音響レンズと
を備える超音波探触子。
【請求項10】
前記音響整合層は、前記エレベーション方向の中央部から両端部に向かうほど超音波の送受信周波数が低くなる第1整合層を含む請求項9に記載の超音波探触子。
【請求項11】
前記複数の圧電振動子は、それぞれ、前記エレベーション方向の中央部から両端部に向かうほど厚くなることにより前記エレベーション方向の中央部から両端部に向かうほど超音波の送受信周波数が低くなる請求項9または10に記載の超音波探触子。
【請求項12】
請求項9~11のいずれか一項に記載の超音波探触子を有する超音波プローブ。
【請求項13】
請求項12に記載の超音波プローブを有する超音波診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波探触子用音響レンズ、その超音波探触子用音響レンズを有する超音波探触子、その超音波探触子を有する超音波プローブ、および、その超音波プローブを有する超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、被検体の内部の画像を得るものとして、超音波診断装置が知られている。超音波診断装置は、一般的に、複数の圧電振動子が配列された振動子アレイが備えられた超音波プローブを備えている。この超音波プローブを被検体の体表に接触させた状態において、振動子アレイから被検体内に向けて超音波ビームが送信され、被検体からの超音波エコーを振動子アレイで受信して超音波エコーに対応する電気信号が取得される。さらに、超音波診断装置は、得られた電気信号を電気的に処理して、被検体の当該部位に対する超音波画像を生成する。
【0003】
近年では、被検体の体表から5mm~20mm程度の深さにある筋構造、神経束等の組織を超音波画像に高精細に描出し、より詳細な観察を行うために、例えば12MHz~15MHz程度の高周波数の超音波を被検体に送信する要望が高くなってきている。このような浅い領域において、エレベーション方向に狭い幅を有する超音波ビームを形成する方法として、例えば、特許文献1に開示されるように、エレベーション方向において複数の曲率半径を有する音響レンズを用いることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の音響レンズは、エレベーション方向に複数の曲率半径を有しているため、音響レンズが被検体に接触して変形した場合に、音響レンズの焦点距離が変化しやすく、超音波ビームが所望の深度で収束できないことがあった。また、特許文献1の音響レンズは、複数の曲率半径を有するために局所的に急激に厚くなっており、音響レンズ中を伝搬する超音波が局所的に減衰しやすく、また、音響レンズが被検体に接触しにくい箇所が生じることがあった。
そのため、特許文献1の音響レンズを使用して超音波画像を撮影した場合に、超音波画像の画質が低下してしまうことがあるという問題があった。
【0006】
本発明は、このような従来の問題点を解決するためになされたものであり、深度に関わらず高い画質を有する超音波画像を得ることができる超音波探触子用音響レンズ、その超音波探触子用音響レンズを有する超音波探触子、その超音波探触子を有する超音波プローブ、および、その超音波プローブを有する超音波診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る第1の超音波探触子用音響レンズは、超音波探触子の前端部に配置される音響レンズであって、凹状の前面を有し、複数の微粒子が分散された母材から形成され、エレベーション方向の中央部から両端部に向かうほど微粒子の分散度が高いことによりエレベーション方向の中央部から両端部に向かうほど音速が低くなり、エレベーション方向の中央部から両端部にかけて単位体積あたりの微粒子の数が同一であることを特徴とする。
【0008】
第1の超音波探触子用音響レンズは、エレベーション方向の中央部に配置された高音速領域用レンズ部とエレベーション方向の両端部に配置された低音速領域用レンズ部とを有することができる。
【0009】
本発明に係る第2の超音波探触子用音響レンズは、超音波探触子の前端部に配置される音響レンズであって、凸状の前面を有し、複数の微粒子が分散された母材から形成され、エレベーション方向の中央部から両端部に向かうほど微粒子の分散度が低いことによりエレベーション方向の中央部から両端部に向かうほど音速が高くなり、エレベーション方向の中央部から両端部にかけて単位体積あたりの微粒子の数が同一であることを特徴とする。
【0010】
第2の超音波探触子用音響レンズは、エレベーション方向の中央部に配置された低音速領域用レンズ部とエレベーション方向の両端部に配置された高音速領域用レンズ部とを有することができる。
【0011】
第1の超音波探触子用音響レンズと第2の超音波探触子用音響レンズの前面は、エレベーション方向の中央部から両端部にかけて同一の曲率半径を有することが好ましい。
【0012】
また、微粒子は、0.01μm以上100.00μm以下の直径を有することが好ましく、1.00μm以上10.00μm以下の直径を有することがより好ましい。
また、微粒子は、鉄、タングステン、アルミナ、ジルコニアまたはシリカからなることが好ましい。
【0013】
本発明に係る超音波探触子は、バッキング材と、バッキング材の表面上に配列形成された複数の圧電振動子と、複数の圧電振動子の上に配置された音響整合層と、音響整合層の上に配置された本発明の第1の超音波探触子用音響レンズまたは第2の超音波探触子用音響レンズとを備えることを特徴とする。
【0014】
音響整合層は、エレベーション方向の中央部から両端部に向かうほど超音波の送受信周波数が低くなる第1整合層を含むことができる。
複数の圧電振動子は、それぞれ、エレベーション方向の中央部から両端部に向かうほど厚くなることによりエレベーション方向の中央部から両端部に向かうほど超音波の送受信周波数が低くなることができる。
【0015】
本発明の超音波プローブは、本発明の超音波探触子を有することを特徴とする。
本発明の超音波診断装置は、本発明の超音波プローブを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、超音波探触子用音響レンズが、凹状の前面を有し、複数の微粒子が分散された母材から形成され、エレベーション方向の中央部から両端部に向かうほど微粒子の分散度が高いことによりエレベーション方向の中央部から両端部に向かうほど音速が低くなり、エレベーション方向の中央部から両端部にかけて単位体積あたりの微粒子の数が同一であるため、深度に関わらず高い画質を有する超音波画像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施の形態1に係る超音波探触子用音響レンズを有する超音波探触子の斜視図である。
【
図2】本発明の実施の形態1に係る超音波探触子用音響レンズを有する超音波探触子の断面図である。
【
図3】本発明の実施の形態1における超音波探触子を有する超音波診断装置の構成を示すブロック図である。
【
図4】本発明の実施の形態1における送受信回路の内部構成を示すブロック図である。
【
図5】本発明の実施の形態1における画像生成部の内部構成を示すブロック図である。
【
図6】本発明の実施の形態2に係る超音波探触子用音響レンズを有する超音波探触子の断面図である。
【
図7】本発明の実施の形態3における超音波探触子の断面図である。
【
図8】本発明の実施の形態3の変形例における超音波探触子の断面図である。
【
図9】本発明の実施の形態4における超音波探触子の断面図である。
【
図10】本発明の実施の形態4の変形例における超音波探触子の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において、「同一」、「同じ」は、技術分野で一般的に許容される誤差範囲を含むものとする。
【0019】
実施の形態1
図1に示すように、本発明の実施の形態1における超音波探触子1は、バッキング材2を備えており、バッキング材2の表面上においてアジマス方向に配列ピッチPで配列された複数の圧電振動子3が配置され、複数の圧電振動子3の表面上にそれぞれ音響整合層4が配置され、複数の音響整合層4の表面上、すなわち、超音波探触子1の前端部に、本発明の実施の形態1に係る超音波探触子用音響レンズ7が配置されている。また、複数の音響整合層4は、それぞれ、圧電振動子3の表面上に配置されている第1整合層5と、第1整合層5の表面上に配置されている第2整合層6を有している。また、隣り合う圧電振動子3間および隣り合う音響整合層4間に、エポキシ樹脂等が充填された分離部8が形成されている。
【0020】
なお、複数の圧電振動子3に、図示しない引出し電極がそれぞれ接続され、バッキング材2の側面に、複数の引出し電極に接続された図示しないフレキシブルプリント基板が配置されるが、説明のために省略されている。また、以下では、説明のために、複数の圧電振動子3および複数の音響整合層4が配列するアジマス方向をX方向、バッキング材2、圧電振動子3、音響整合層4、超音波探触子用音響レンズ7の積層方向をZ方向、X方向およびZ方向に対して直交するエレベーション方向をY方向と呼ぶ。
【0021】
圧電振動子3は、超音波探触子1に接続された図示しないパルサ等から供給される駆動信号に従って超音波を発生すると共に、超音波エコーを受信して、超音波エコーに基づく信号を出力するものである。圧電振動子3は、例えば、PZT(Lead Zirconate Titanate:チタン酸ジルコン酸鉛)に代表される圧電セラミック、PVDF(Poly Vinylidene Di Fluoride:ポリフッ化ビニリデン)に代表される高分子圧電素子およびPMN-PT(Lead Magnesium Niobate-Lead Titanate:マグネシウムニオブ酸鉛-チタン酸鉛固溶体)に代表される圧電単結晶等からなる圧電体の両端に電極を形成することにより構成される。
【0022】
バッキング材2は、複数の圧電振動子3を支持すると共に、複数の圧電振動子3から発せられて後方に伝搬した超音波を吸収するものである。バッキング材2は、例えば、フェライトゴム等のゴム材料により形成される。
【0023】
音響整合層4は、超音波探触子1が接触する被検体と圧電振動子3との間の音響インピーダンスを整合して、被検体内に超音波を入射させやすくするためのものである。一般的に、圧電振動子3の音響インピーダンスは、超音波探触子用音響レンズ7および被検体内の音響インピーダンスよりも高いことが多いため、音響整合層4は、圧電振動子3の音響インピーダンスよりも低く且つ音響レンズおよび被検体内の音響インピーダンスよりも高い音響インピーダンスを有する材料により形成されることができる。また、音響整合層4に含まれる第1整合層5は、圧電振動子3から発せられ且つ第1整合層5中を伝搬する超音波を共振させて超音波の強度を増強するために、第1整合層5中を伝搬する超音波の波長の4分の1程度の厚さを有することが望ましい。また、第2整合層6についても、同様にして、第2整合層6中を伝搬する超音波の波長の4分の1程度の厚さを有することが望ましい。
【0024】
音響整合層4の第1整合層5は、圧電振動子3の表面上に形成され、圧電振動子3よりも低い音響インピーダンスを有する。第1整合層5の材料として、エポキシ樹脂またはウレタン樹脂等の樹脂材料を使用することができる。
第2整合層6は、第1整合層5の表面上に形成され、第1整合層5よりも低く且つ超音波探触子用音響レンズ7よりも高い音響インピーダンスを有する。第2整合層6の材料として、第1整合層5と同様に、エポキシ樹脂またはウレタン樹脂等の樹脂材料を使用することができる。
【0025】
本発明の実施の形態1に係る超音波探触子用音響レンズ7は、屈折を利用して超音波ビームを絞り、Y方向の分解能を向上させるものである。超音波探触子用音響レンズ7には、
図1に示すように、一定の曲率半径を有する凹状の前面C1が形成されており、超音波探触子用音響レンズ7は、前面C1が音響整合層4とは反対側に向くように配置されている。また、超音波探触子用音響レンズ7は、凹状の前面C1を有することにより、被検体中に超音波ビームを収束させるために、被検体よりも小さい屈折率を有する材料から形成されている。ここで、
図2に示すように、超音波探触子用音響レンズ7は、複数の微粒子Gが分散された母材Bから形成されている。
【0026】
母材Bは、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂およびポリメチルペンテン樹脂等の樹脂材料およびシリコンゴム等のゴム材料等から形成される。また、微粒子Gは、金属またはセラミックスから形成され、その材料として、例えば、鉄、タングステン、アルミナまたはジルコニア等が用いられる。微粒子Gは、超音波探触子用音響レンズ7中の超音波の減衰を低減するために、0.01μm以上100.00μm以下の直径を有することが好ましく、1.00μm以上10.00μm以下の直径を有することがより好ましい。
【0027】
また、超音波探触子用音響レンズ7において、Y方向の中央部から両端部に向かうほど微粒子Gの分散度が高くなっており、Y方向の中央部から両端部にかけて超音波探触子用音響レンズ7における単位体積あたりの微粒子Gの数が同一である。ここで、微粒子Gの分散度とは、母材B中において互いに隣接する微粒子G間の距離のバラつきを表す指標であり、母材B中の微粒子Gの配置位置が均一に分布しているほど分散度が高く、微粒子G同士が局所的に近接し、母材B中の微粒子Gの配置位置が不均一に分布しているほど分散度が低い。
図2に示す例では、Y方向の中央部において、互いに接触または近接している微粒子Gが多い、すなわち、微粒子Gの分散度が低い高音速領域用レンズ部A1が形成され、Y方向の両端部において、互いに離れている微粒子Gが多く且つ母材B中の微粒子Gの配置位置の分布がより均一である、すなわち、微粒子Gの分散度が高い低音速領域用レンズ部A2が形成されている。ここで、超音波探触子用音響レンズ7のY方向の中央部から両端部にかけて、単位体積あたりの微粒子Gの数が同一であるため、高音速領域用レンズ部A1の音響インピーダンスと低音速領域用レンズ部A2の音響インピーダンスは、互いにほぼ同一である。
【0028】
ところで、互いに異なる音響インピーダンスを有する2つの材料が互いに接触しており、その境界面を音波が透過する場合に、音波の位相が影響を受けることにより、2つの材料の境界面において音波の進行方向の群速度が低くなる現象が知られている。
図2に示すように、高音速領域用レンズ部A1では、互いに接触または近接している微粒子Gが多いため、超音波探触子用音響レンズ7中をZ方向に進行する超音波の伝搬経路上における、母材Bと微粒子Gとの実効的な境界面の総量が比較的少なく、低音速領域用レンズ部A2では、複数の微粒子Gがより均一に分布しているため、超音波探触子用音響レンズ7中をZ方向に進行する超音波の伝搬経路上における、母材Bと微粒子Gとの実効的な境界面の総量が比較的多い。
【0029】
そのため、例えば、超音波探触子用音響レンズ7中を伝搬する超音波のZ方向の群速度は、高音速領域用レンズ部A1において比較的高くなり、低音速領域用レンズ部A2において比較的低くなる。これにより、高音速領域用レンズ部A1の実効的な屈折率は比較的小さくなり、低音速領域用レンズ部A2の実効的な屈折率は比較的大きくなる。さらに、超音波探触子用音響レンズ7は、凹状の前面C1を有しており、超音波探触子用音響レンズ7の屈折率は、被検体の屈折率よりも小さいため、超音波が超音波探触子用音響レンズ7から前面C1を通って被検体へと進行する際に、高音速領域用レンズ部A1を透過した超音波は、低音速領域用レンズ部A2を透過した超音波よりも、超音波探触子用音響レンズ7のY方向における中央部側に向かって大きく屈折することになる。そのため、高音速領域用レンズ部A1の焦点距離は、低音速領域用レンズ部A2の焦点距離よりも短くなる。ここで、焦点距離とは超音波探触子用音響レンズ7の前面C1のY方向の中央部から、超音波ビームの幅がY方向に最も狭くなる位置までの距離のことを表すものとする。
【0030】
ここで、一般的に、音響レンズの焦点距離Fは、音響レンズの前面の曲率半径をR、音響レンズ中を伝搬する超音波の群速度をV1、被検体中を伝搬する超音波の群速度をV2として、R=F×|(V2/V1)-1|という関係により決定されることが知られている。この関係を用いることにより、高音速領域用レンズ部A1の焦点距離Fが低音速領域用レンズ部A2の焦点距離Fよりも短いことを具体的に確認することができる。
【0031】
超音波探触子用音響レンズ7には、一定の曲率半径Rを有する凹状の前面C1が形成され、超音波探触子用音響レンズ7の屈折率は被検体の屈折率よりも小さいため、超音波探触子用音響レンズ7中を伝搬する超音波の群速度V1は、被検体中を伝搬する超音波の群速度V2よりも高い。そのため、超音波探触子用音響レンズ7中を伝搬する超音波の群速度V1に対する被検体中を伝搬する超音波の群速度V2の速度比(V2/V1)は、0.0よりも大きく1.0よりも小さくなる。さらに、高音速領域用レンズ部A1中を伝搬する超音波の群速度V1は、低音速領域用レンズ部A2中を伝搬する超音波の群速度V1よりも高いため、高音速領域用レンズ部A1に対応する速度比(V2/V1)は、低音速領域用レンズ部A2に対応する速度比(V2/V1)よりも小さくなる。
【0032】
ここで、具体例として、高音速領域用レンズ部A1に対応する速度比(V2/V1)を0.8とし、低音速領域用レンズ部A2に対応する速度比(V2/V1)を0.9とすると、高音速領域用レンズ部A1については、R=0.2×Fという関係が得られ、低音速領域用レンズ部A2については、R=0.1×Fという関係が得られる。そのため、高音速領域用レンズ部A1の焦点距離Fは、5×Rとなり、低音速領域用レンズ部A2の焦点距離Fは、10×Rとなる。このように、高音速領域用レンズ部A1の焦点距離Fが、低音速領域用レンズ部A2の焦点距離Fよりも短くなることが確認できる。
【0033】
このように、本発明の実施の形態1に係る超音波探触子用音響レンズ7によれば、高音速領域用レンズ部A1を透過した超音波により形成された超音波ビームは、被検体の浅部に収束することができ、低音速領域用レンズ部A2を透過した超音波により形成された超音波ビームは、被検体の深部に収束することができる。そのため、超音波探触子用音響レンズ7の前面C1がY方向に一定の曲率半径Rを有しながらも、深度に関わらず高い画質を有する超音波画像を得ることができる。
また、例えば、複数の圧電振動子3として、高周波数の超音波を発する圧電振動子が使用された場合には、特に、被検体内の浅部を高精細に描出した超音波画像を得ることができる。
【0034】
また、従来から、浅部において収束し且つY方向に狭い幅を有する超音波ビームを形成する方法として、Y方向において複数の曲率半径Rを有する前面が形成された音響レンズを用いることが知られている。しかしながら、この方法では、音響レンズの前面がY方向に複数の曲率半径Rを有しているため、音響レンズが被検体に接触して変形した場合に、音響レンズの焦点距離Fが変化しやすく、超音波ビームが所望の深度で収束できないことがあった。また、音響レンズの前面が複数の曲率半径Rを有するため、音響レンズが局所的に急激に厚くなり、音響レンズ中を伝搬する超音波が減衰しやすく、また、音響レンズが被検体に接触しにくい箇所が生じることがあった。これらの問題は、超音波画像の画質が低下してしまう要因となる。
【0035】
本発明の実施の形態1に係る超音波探触子用音響レンズ7によれば、超音波探触子用音響レンズ7に、一定の曲率半径Rを有する前面C1が形成されているため、超音波探触子用音響レンズ7が被検体に接触して変形したとしても、変形の影響が少なく、安定して所望の焦点距離Fに従って超音波ビームを収束させることができる。また、超音波探触子用音響レンズ7に、一定の曲率半径Rを有する前面C1が形成されているため、超音波探触子用音響レンズ7が局所的に急激に厚くなることなく、超音波探触子用音響レンズ7中を伝搬する超音波の減衰を低減しながらも、深度に関わらず高い画質を有する超音波画像を得ることができる。さらに、超音波探触子用音響レンズ7が局所的に急激に厚くなることがないため、超音波探触子用音響レンズ7の前面C1のY方向における全体を被検体に容易に接触させることもできる。
【0036】
また、超音波探触子用音響レンズ7の前面C1が凹状であり、超音波探触子用音響レンズ7の中央部において比較的薄い高音速領域用レンズ部A1が配置されているため、複数の圧電振動子3から高周波数の超音波が発せられた場合でも、高音速領域用レンズ部A1を伝搬する高周波数の超音波の減衰を、より低減することができ、高い画質を有する超音波画像を得ることができる。
【0037】
次に、本発明の実施の形態1に係る超音波探触子用音響レンズ7の製造方法について説明する。
まず、鉄、タングステン、アルミナまたはジルコニア等から形成される微粒子Gに対して表面処理がなされる。
【0038】
微粒子Gに対する表面処理としては、例えば、炭化水素油、エステル油、ラノリン等による油剤処理、ジメチルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン等によるシリコーン処理、パーフルオロアルキル基含有エステル、パーフルオロアルキルシラン、パーフルオロポリエーテルおよびパーフルオロアルキル基を有する重合体等によるフッ素化合物処理、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等によるシランカップリング剤処理、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルピロホスフェート)チタネート等によるチタンカップリング剤処理、金属石鹸処理、アシルグルタミン酸等によるアミノ酸処理、水添卵黄レシチン等によるレシチン処理、コラーゲン処理、ポリエチレン処理、保湿性処理、無機化合物処理、メカノケミカル処理、リン酸、亜リン酸、リン酸塩、亜リン酸塩等によるリン酸化合物処理等の処理方法が用いられる。中でも、微粒子Gの分散度を制御する観点から、リン酸化合物処理が行われることが好ましい。
【0039】
この際に、表面処理の度合いが大きい高音速領域用の微粒子Gと、表面処理の度合いが小さい低音速領域用の微粒子Gが得られる。例えば、同一の表面処理剤を用いる場合でも、表面処理の際に表面処理剤の量を多くするほど、母材Bに対する分散度が高い微粒子Gを得ることができ、表面処理剤の量を少なくするほど、母材Bに対する分散度が低い微粒子Gを得ることができる。また、例えば、表面処理の回数を多くするほど、母材Bに対する分散度が高い微粒子Gを得ることができ、表面処理の回数を少なくするほど、母材Bに対する分散度が低い微粒子Gを得ることができる。
【0040】
ここで、圧電振動子3から発せられ且つ超音波探触子用音響レンズ7中を伝搬する超音波の減衰を低減するために、0.01μm以上100.00μm以下の直径を有することが好ましく、1.00μm以上10.00μm以下の直径を有することがより好ましいが、微粒子Gの直径は、次のように計測されることができる。まず、十分に表面処理がなされた微粒子Gを0.5質量%となるようにメタノールに添加し、10分間超音波にかけることにより、メタノール中に微粒子Gを分散させる。このようにしてメタノール中に分散した微粒子Gの粒度分布を、レーザ解析散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所製、商品名:LA950V2)により測定し、測定された粒度分布に基づいて体積基準メジアン径を算出することにより、微粒子Gの直径を得ることができる。この際の体積基準メジアン径とは、粒度分布を累積分布として表した場合の累積50%に相当する粒子径である。
【0041】
次に、母材Bとして、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリメチルペンテン樹脂等の加熱により硬化する樹脂材料またはシリコンゴム等の加熱により硬化するゴム材料等を用意し、硬化前の樹脂材料またはゴム材料に高音速領域用の微粒子Gを添加して、樹脂材料またはゴム材料と高音速領域用の微粒子Gをいわゆる遊星式のミキサ等により混合することにより、高音速領域用の混合物を得る。また、硬化前の樹脂材料またはゴム材料に低音速領域用の微粒子Gを添加して、樹脂材料またはゴム材料と低音速領域用の微粒子Gを遊星式のミキサ等により混合することにより、低音速領域用の混合物を得る。
【0042】
このようにして得られた硬化前の高音速領域用の混合物と、硬化前の低音速領域用の混合物を、それぞれ成形用の型に入れて加熱することにより硬化させて、高音速領域用のレンズ部材と低音速領域用のレンズ部材を得る。このようにして得られた高音速領域用のレンズ部材と低音速領域用のレンズ部材は、それぞれ同一の曲率半径Rを有するように湾曲した前面を有している。高音速領域用のレンズ部材は、超音波探触子用音響レンズ7の高音速領域用レンズ部A1に対応する部材であり、低音速領域用のレンズ部材は、低音速領域用レンズ部A2に対応する部材である。
【0043】
最後に、エポキシ接着剤等の接着剤を用いて、高音速領域用のレンズ部材の両端に、それぞれ、低音速領域用のレンズ部材を接着することにより、
図1および
図2に示すような超音波探触子用音響レンズ7が得られる。
【0044】
ところで、Y方向に狭い幅を有する超音波ビームを形成するための音響レンズとして、Y方向に複数の曲率半径Rを有する前面が形成された音響レンズが知られている。一般的に、12MHz~15MHz等の高周波数の超音波を発する超音波探触子は、小さいサイズを有していることが多く、このような小さいサイズを有する超音波探触子に合わせて、Y方向に複数の曲率半径Rを有する前面が形成された音響レンズを製造することは困難であった。
【0045】
本発明の実施の形態1に係る超音波探触子用音響レンズ7は、一定の曲率半径Rを有する前面C1が形成されているため、例えば、超音波探触子1が高周波数の超音波の発振に対応する小さいサイズを有している場合であっても、超音波探触子1のサイズに合わせて容易に製造されることができる。
【0046】
次に、本発明の実施の形態1に係る超音波探触子1を有する超音波診断装置について説明する。
図3に示すように、超音波診断装置11において、超音波探触子1に、送受信回路12、画像生成部13、表示制御部14およびモニタ15が順次接続されている。また、送受信回路12、画像生成部13および表示制御部14に、装置制御部16が接続されている。また、装置制御部16に、入力装置17が接続されている。また、装置制御部16に、図示しないメモリが接続されている。
また、超音波診断装置11は、超音波探触子1および送受信回路12を含む超音波プローブ21を備えている。また、画像生成部13、表示制御部14および装置制御部16により超音波診断装置11用のプロセッサ22が構成されている。
【0047】
送受信回路12は、装置制御部16による制御の下で、超音波探触子1から超音波を送信し且つ超音波探触子1により取得された受信信号に基づいて音線信号を生成する。送受信回路12は、
図4に示すように、超音波探触子1に接続されるパルサ23と、超音波探触子1から順次直列に接続される増幅部24、AD(Analog Digital:アナログデジタル)変換部25、ビームフォーマ26を有している。
【0048】
パルサ23は、例えば、複数のパルス発生器を含んでおり、装置制御部16からの制御信号に応じて選択された送信遅延パターンに基づいて、超音波探触子1の複数の圧電振動子3から送信される超音波が超音波ビームを形成するようにそれぞれの駆動信号を、遅延量を調節して複数の圧電振動子3に供給する。このように、圧電振動子3の電極にパルス状または連続波状の電圧が印加されると、圧電振動子3が伸縮し、それぞれの圧電振動子3からパルス状または連続波状の超音波が発生して、それらの超音波の合成波から、超音波ビームが形成される。
【0049】
送信された超音波ビームは、例えば、被検体内の組織等において反射され、超音波プローブ21の超音波探触子1に向かって伝搬する。超音波探触子1のそれぞれの圧電振動子3は、このようにして超音波探触子1に向かって伝搬する超音波エコーを受信することにより伸縮して、電気信号である受信信号を発生させ、これらの受信信号を増幅部24に出力する。
【0050】
増幅部24は、超音波探触子1のそれぞれの圧電振動子3から入力された信号を増幅し、増幅した信号をAD変換部25に送信する。AD変換部25は、増幅部24から送信された信号をデジタルの受信データに変換し、これらの受信データをビームフォーマ26に送信する。ビームフォーマ26は、装置制御部16からの制御信号に応じて選択された受信遅延パターンに基づいて設定される音速または音速の分布に従い、AD変換部25により変換された各受信データに対してそれぞれの遅延を与えて加算することにより、いわゆる受信フォーカス処理を行う。この受信フォーカス処理により、AD変換部25で変換された各受信データが整相加算され且つ超音波エコーの焦点が絞り込まれた音線信号が取得される。
【0051】
画像生成部13は、
図5に示されるように、信号処理部27、DSC(Digital Scan Converter:デジタルスキャンコンバータ)28および画像処理部29が順次直列に接続された構成を有している。
信号処理部27は、送受信回路12のビームフォーマ26により生成された音線信号に対し、超音波の反射位置の深度に応じて距離による減衰の補正を施した後、包絡線検波処理を施すことにより、被検体内の組織に関する断層画像情報であるBモード画像信号を生成する。
【0052】
DSC28は、信号処理部27で生成されたBモード画像信号を通常のテレビジョン信号の走査方式に従う画像信号に変換(ラスター変換)する。
画像処理部29は、DSC28から入力されるBモード画像信号に階調処理等の各種の必要な画像処理を施した後、Bモード画像信号を表示制御部14に出力する。本発明では、画像処理部29により画像処理が施されたBモード画像信号を、単に、超音波画像と呼ぶ。
【0053】
表示制御部14は、装置制御部16の制御の下、画像生成部13により生成された超音波画像に所定の処理を施して、超音波画像をモニタ15に表示する。
モニタ15は、表示制御部14による制御の下、画像生成部13により生成された超音波画像を表示するものであり、例えば、LCD(Liquid Crystal Display:液晶ディスプレイ)、有機ELディスプレイ(Organic Electroluminescence Display)等のディスプレイ装置を含む。
【0054】
装置制御部16は、予め記憶している制御プログラム等に基づいて、超音波診断装置11の各部の制御を行う。
入力装置17は、ユーザが入力操作を行うためのものであり、キーボード、マウス、トラックボール、タッチパッドおよびタッチパネル等を備えて構成することができる。
【0055】
図示しないが、装置制御部16に接続されるメモリは、超音波診断装置11の制御プログラム等を記憶するものであり、メモリとしては、フラッシュメモリ、HDD(Hard Disc Drive:ハードディスクドライブ)、SSD(Solid State Drive:ソリッドステートドライブ)、FD(Flexible Disc:フレキシブルディスク)、MOディスク(Magneto-Optical disc:光磁気ディスク)、MT(Magnetic Tape:磁気テープ)、RAM(Random Access Memory:ランダムアクセスメモリ)、CD(Compact Disc:コンパクトディスク)、DVD(Digital Versatile Disc:デジタルバーサタイルディスク)、SDカード(Secure Digital card:セキュアデジタルカード)、USBメモリ(Universal Serial Bus memory:ユニバーサルシリアルバスメモリ)等の記録メディア、またはサーバ等を用いることができる。
【0056】
なお、画像生成部13、表示制御部14および装置制御部16を有するプロセッサ22は、CPU(Central Processing Unit:中央処理装置)、および、CPUに各種の処理を行わせるための制御プログラムから構成されるが、FPGA(Field Programmable Gate Array:フィードプログラマブルゲートアレイ)、DSP(Digital Signal Processor:デジタルシグナルプロセッサ)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit:アプリケーションスペシフィックインテグレイテッドサーキット)、GPU(Graphics Processing Unit:グラフィックスプロセッシングユニット)、その他のIC(Integrated Circuit:集積回路)を用いて構成されてもよく、もしくはそれらを組み合わせて構成されてもよい。
【0057】
また、プロセッサ22の画像生成部13、表示制御部14および装置制御部16は、部分的にあるいは全体的に1つのCPU等に統合させて構成されることもできる。
【0058】
本発明の実施の形態1における超音波診断装置11は、本発明の実施の形態1に係る超音波探触子用音響レンズ7を有する超音波探触子1を備えているため、深度に関わらず高い画質を有する超音波画像を得ることができる。特に、超音波探触子1から比較的高周波数の超音波が発せられる場合には、浅部の領域が高精細に描出された超音波画像を得ることができる。
【0059】
なお、超音波探触子用音響レンズ7における母材Bに対する微粒子Gの分散度は、微粒子Gに表面処理を施すことにより調整されているが、微粒子Gの分散度を調整する方法は、表面処理に限定されない。例えば、微粒子Gを母材B中に機械的に混合する方法を変えることにより、母材B中における微粒子Gの分散度を変化させることができる。例えば、いわゆるプロペラ式のミキサを使用して母材B中に微粒子Gを混合することにより、遊星式のミキサを使用して微粒子Gを混合する場合よりも、微粒子Gの分散度を低くすることができる。そのため、高音速領域用の混合物を作製する場合には、プロペラ式のミキサを使用して母材B中に微粒子Gを混合し、低音速領域用の混合物を作製する場合には、遊星式のミキサを使用して母材B中に微粒子Gを混合することができる。
また、例えば、母材B中に微粒子Gを混合する時間を変化させることによっても、微粒子Gの分散度を変化させることができる。
【0060】
また、例えば、母材Bの硬化に要する時間を変えることによっても、微粒子Gの分散度を変化させることができる。例えば、母材Bと微粒子Gの混合物を加熱する温度を低くして母材Bの硬化に要する時間を長くすると、微粒子Gの分散度を低くすることができ、母材Bと微粒子Gの混合物を加熱する温度を高くして母材Bの硬化に要する時間を短くすると、微粒子Gの分散度を高くすることができる。
【0061】
また、超音波探触子用音響レンズ7が、高音速領域用レンズ部A1と低音速領域用レンズ部A2の2種類の領域により構成される例が示されているが、Y方向の中央部から両端部に向かうほど母材B中の微粒子Gの分散度が高くなっていれば、微粒子Gの分散度が異なる3種類以上の領域により超音波探触子用音響レンズ7を構成することもできる。また、超音波探触子用音響レンズ7のY方向の中央部から両端部に向かうほど母材B中の微粒子Gの分散度が連続的に高くなるように、超音波探触子用音響レンズ7を構成することもできる。これにより、より均一な画質を有する超音波画像を得ることができる。
【0062】
また、高音速領域用レンズ部A1における単位体積あたりの微粒子Gの数と、低音速領域用レンズ部A2における単位体積あたりの微粒子Gの数は、互いに同一であることが説明されているが、高音速領域用レンズ部A1と低音速領域用レンズ部A2の音響インピーダンスを整えるために、微調整されることもできる。
【0063】
実施の形態2
本発明の実施の形態1に係る超音波探触子用音響レンズ7は、凹状の前面C1を有しているが、凸状の前面を有することもできる。
図6に示すように、本発明の実施の形態2における超音波探触子1Aは、
図1および
図2に示す実施の形態1における超音波探触子1において、超音波探触子用音響レンズ7の代わりに、超音波探触子用音響レンズ7Aを備えている。
【0064】
本発明の実施の形態2に係る超音波探触子用音響レンズ7Aは、実施の形態1の超音波探触子用音響レンズ7と同様にして、複数の微粒子Gが分散された母材Bから形成されているが、一定の曲率半径Rを有する凸状の前面C2を有しており、超音波探触子用音響レンズ7AのY方向の中央部において、微粒子Gの分散度が高い低音速領域用レンズ部A2を有し、超音波探触子用音響レンズ7AのY方向の両端部において、微粒子Gの分散度が低い高音速領域用レンズ部A1を有している。このように、超音波探触子用音響レンズ7Aにおいて、Y方向の中央部から両端部に向かうほど微粒子Gの分散度が低くなっている。また、超音波探触子用音響レンズ7Aにおける単位体積あたりの微粒子Gの数は、Y方向の中央部から両端部にかけて同一である。そのため、低音速領域用レンズ部A2の音響インピーダンスと高音速領域用レンズ部A1の音響インピーダンスは、互いにほぼ同一である。
また、超音波探触子用音響レンズ7Aは、被検体中に超音波ビームを収束させるために、被検体よりも大きい屈折率を有する材料により形成されている。
【0065】
ここで、超音波探触子用音響レンズ7Aを伝搬する超音波のZ方向の群速度V1は、Y方向の中央部に配置された低音速領域用レンズ部A2において比較的低くなり、Y方向の両端部に配置された高音速領域用レンズ部A1において比較的高くなるため、低音速領域用レンズ部A2の実効的な屈折率は比較的大きくなり、高音速領域用レンズ部A1の実効的な屈折率は比較的小さくなる。さらに、超音波探触子用音響レンズ7Aは、凸状の前面C2を有しており、超音波探触子用音響レンズ7Aの屈折率は、被検体の屈折率よりも大きいため、超音波が超音波探触子用音響レンズ7Aから前面C2を通って被検体へと進行する際に、低音速領域用レンズ部A2を透過した超音波は、高音速領域用レンズ部A1を透過した超音波よりも、超音波探触子用音響レンズ7AのY方向における中央部側に向かって大きく屈折することになる。そのため、低音速領域用レンズ部A2の焦点距離Fは、高音速領域用レンズ部A1の焦点距離Fよりも短くなる。
【0066】
また、超音波探触子用音響レンズ7Aには、一定の曲率半径Rを有する凸状の前面C2が形成され、超音波探触子用音響レンズ7Aの屈折率は被検体の屈折率よりも大きいため、超音波探触子用音響レンズ7A中を伝搬する超音波の群速度V1は、被検体中を伝搬する超音波の群速度V2よりも低い。そのため、超音波探触子用音響レンズ7A中を伝搬する超音波の群速度V1に対する被検体中を伝搬する超音波の群速度V2の速度比(V2/V1)は、1.0よりも大きくなる。さらに、低音速領域用レンズ部A2中を伝搬する超音波の群速度V1は、高音速領域用レンズ部A1中を伝搬する超音波の群速度V1よりも低いため、低音速領域用レンズ部A2に対応する速度比(V2/V1)は、高音速領域用レンズ部A1に対応する速度比(V2/V1)よりも大きくなる。
【0067】
ここで、具体例として、低音速領域用レンズ部A2に対応する速度比(V2/V1)を1.2とし、高音速領域用レンズ部A1に対応する速度比(V2/V1)を1.1とすると、R=F×|(V2/V1)-1|の関係から、低音速領域用レンズ部A2については、R=0.2×Fという関係が得られ、高音速領域用レンズ部A1については、R=0.1×Fという関係が得られる。そのため、低音速領域用レンズ部A2の焦点距離Fは、5×Rとなり、高音速領域用レンズ部A1の焦点距離Fは、10×Rとなる。このように、低音速領域用レンズ部A2の焦点距離Fが、高音速領域用レンズ部A1の焦点距離Fよりも短くなることが確認できる。
【0068】
このように、本発明の実施の形態2に係る超音波探触子用音響レンズ7Aによれば、低音速領域用レンズ部A2を透過した超音波により形成された超音波ビームは、被検体の浅部に収束することができ、高音速領域用レンズ部A1を透過した超音波により形成された超音波ビームは、被検体の深部に収束することができる。そのため、超音波探触子用音響レンズ7Aの前面C2がY方向に一定の曲率半径Rを有しながらも、深度に関わらず高い画質を有する超音波画像を得ることができる。
また、例えば、複数の圧電振動子3として、高周波数の超音波を発する圧電振動子が使用された場合には、特に、被検体内の浅部を高精細に描出した超音波画像を得ることができる。
【0069】
また、超音波探触子用音響レンズ7Aに、一定の曲率半径Rを有する前面C2が形成されているため、超音波探触子用音響レンズ7Aが被検体に接触して変形したとしても、変形の影響が少なく、安定して所望の焦点距離Fに従って超音波ビームを収束させることができる。また、超音波探触子用音響レンズ7Aに、一定の曲率半径Rを有する前面C2が形成されているため、超音波探触子用音響レンズ7Aが局所的に急激に厚くなることなく、超音波探触子用音響レンズ7A中を伝搬する超音波の減衰を低減しながらも、深度に関わらず高い画質を有する超音波画像を得ることができる。さらに、超音波探触子用音響レンズ7Aが局所的に急激に厚くなることがないため、超音波探触子用音響レンズ7Aの前面C2のY方向における全体を被検体に容易に接触させることもできる。
【0070】
なお、超音波探触子用音響レンズ7Aが、低音速領域用レンズ部A2と高音速領域用レンズ部A1の2種類の領域により構成される例が示されているが、Y方向の中央部から両端部に向かうほど母材B中に微粒子Gの分散度が低くなっていれば、微粒子Gの分散度が異なる3種類以上の領域により超音波探触子用音響レンズ7Aを構成することもできる。また、超音波探触子用音響レンズ7AのY方向の中央部から両端部に向かうほど母材B中の微粒子Gの分散度が連続的に低くなるように、超音波探触子用音響レンズ7Aを構成することもできる。これにより、より均一な画質を有する超音波画像を得ることができる。
【0071】
実施の形態3
実施の形態1に係る超音波探触子用音響レンズ7は、複数の微粒子Gが分散した母材Bから形成されているが、さらに、音響整合層4に、複数の微粒子Gが分散した母材Bから形成される層が含まれることもできる。
図7に示すように、実施の形態3における超音波探触子1Bは、
図2に示す実施の形態1における超音波探触子1において、音響整合層4の代わりに音響整合層4Bを備えている。また、音響整合層4Bは、実施の形態1における音響整合層4において、第1整合層5の代わりに第1整合層5Bを有している。第1整合層5Bは、
図7に示すように、複数の微粒子Gが分散された母材Bから形成される。
【0072】
第1整合層5Bにおいて、Y方向の中央部から両端部に向かうほど微粒子Gの分散度が高くなっており、Y方向の中央部から両端部にかけて第1整合層5における単位体積あたりの微粒子Gの数が同一である。
図7に示す例では、Y方向の中央部において、微粒子Gの分散度が低い高周波数領域用整合部H1が形成され、Y方向の両端部において、微粒子Gの分散度が高い低周波数領域用整合部H2が形成されている。ここで、高周波数領域用整合部H1は、超音波探触子用音響レンズ7の高音速領域用レンズ部A1に対応するY方向の位置に形成され、低周波数領域用整合部H2は、超音波探触子用音響レンズ7の低音速領域用レンズ部A2に対応するY方向の位置に形成されている。また、第1整合層5BのY方向の中央部から両端部にかけて単位体積あたりの微粒子Gの数が同一であるため、高周波数領域用整合部H1の音響インピーダンスと、低周波数領域用整合部H2の音響インピーダンスは、互いにほぼ同一である。
【0073】
ここで、音速の群速度をV、周波数をQ、波長をWとして、V=Q×Wの関係が知られている。第1整合層5Bの厚さに起因する共振条件により、一定の波長Wを有する超音波が強められるため、波長Wを一定とすると、第1整合層5Bの高周波数領域用整合部H1を伝搬する超音波の群速度Vは比較的速いため、その周波数Qは高くなり、低周波数領域用整合部H2を伝搬する超音波の群速度Vは比較的遅いため、その周波数は低くなることがわかる。
【0074】
また、高周波数領域用整合部H1は、音響整合層4BのY方向における中央部に配置されているため、音響整合層4のY方向の全体の幅に比べて比較的広い開口幅を有している。一方、低周波数領域用整合部H2は、音響整合層4Bの両端部に配置されているため、比較的広い開口幅を有している。そのため、高周波数領域用整合部H1を透過した超音波が超音波探触子用音響レンズ7により収束された超音波ビームのY方向の幅は、比較的狭くなり、低周波数領域用整合部H2を透過した超音波が超音波探触子用音響レンズ7により収束された超音波ビームのY方向の幅は、比較的広くなる。
【0075】
したがって、第1整合層5Bの高周波数領域用整合部H1と超音波探触子用音響レンズ7の高音速領域用レンズ部A1を透過した超音波から形成される超音波ビームは、比較的高い周波数Qを有し且つY方向に比較的狭い幅を有し、さらに、短い焦点距離Fに従って収束する。また、第1整合層5Bの低周波数領域用整合部H2と超音波探触子用音響レンズ7の低音速領域用レンズ部A2を透過した超音波から形成される超音波ビームは、比較的低い周波数Qを有し、長い焦点距離Fに従って収束する。
これにより、本発明の実施の形態3における超音波探触子1Bによれば、深度に関わらずより高い画質を有する超音波画像を得ることができる。
【0076】
なお、実施の形態3の態様は、実施の形態1における超音波探触子1に適用されることが示されているが、実施の形態2における超音波探触子1Aにも同様にして適用されることができる。例えば
図8に示すように、実施の形態3の変形例における超音波探触子1Cは、
図6に示す実施の形態2における超音波探触子1Aにおいて、第1整合層5の代わりに第1整合層5Bが備えられたものである。
【0077】
この場合に、第1整合層5Bの高周波数領域用整合部H1と超音波探触子用音響レンズ7Aの低音速領域用レンズ部A2を透過した超音波から形成される超音波ビームは、比較的高い周波数Qを有し且つY方向に比較的狭い幅を有し、さらに、短い焦点距離Fに従って収束する。また、第1整合層5Bの低周波数領域用整合部H2と超音波探触子用音響レンズ7Aの高音速領域用レンズ部A1を透過した超音波から形成される超音波ビームは、比較的低い周波数Qを有し、長い焦点距離Fに従って収束する。
このように、本発明の実施の形態3の変形例における超音波探触子1Cによれば、実施の形態3における超音波探触子1Bと同様にして、深度に関わらずより高い画質を有する超音波画像を得ることができる。
【0078】
また、高周波数領域用整合部H1のY方向の長さを低周波数領域用整合部H2のY方向の長さよりも長くすることにより、高周波数領域用整合部H1を通して送受信される超音波の割合を増加させることができる。高い周波数を有する超音波ほど減衰しやすいが、高周波数領域用整合部H1をY方向に長くすることにより、比較的高周波数の超音波が被検体内において減衰したとしても、高周波数領域用整合部H1を通して受信される超音波エコーの量を十分に確保して、比較的浅部の超音波画像の輝度が低下することを防止することができる。これにより、より均一な画質を有する超音波画像を得ることができる。
【0079】
この場合に、例えば、高周波数領域用整合部H1のY方向の長さは、第1整合層5BのY方向の全長に対して1/2よりも長いことが好ましい。具体的には、例えば、高周波数領域用整合部H1のY方向における長さは、低周波数領域用整合部H2のY方向における長さの2倍であってもよく、3倍であってもよい。
【0080】
また、第1整合層5Bが、高周波数領域用整合部H1と低周波数領域用整合部H2の2種類の領域により構成される例が示されているが、Y方向の中央部から両端部に向かうほど超音波の送受信周波数が低くなるように、Y方向の中央部から両端部に向かうほど母材B中の微粒子Gの分散度が高くなっていれば、微粒子Gの分散度が異なる3種類以上の領域により第1整合層5Bを構成することもできる。また、第1整合層5BのY方向の中央部から両端部に向かうほど母材B中の微粒子Gの分散度が連続的に高くなるように、第1整合層5Bを構成することもできる。そのため、より均一な画質を有する超音波画像を得ることができる。
【0081】
また、例えば、第1整合層5Bを、互いに音響インピーダンスが異なる複数の層からなる多層構造により構成することもできる。例えば、Z方向において圧電振動子3側に向かうほど、音響インピーダンスの高い母材Bに複数の微粒子Gが分散された層を配置し、Z方向において第2整合層6に向かうほど、音響インピーダンスの低い母材Bに複数の微粒子Gが分散された層を配置することができる。また、母材B中に分散される単位体積あたりの微粒子Gの数が多くなるほど音響インピーダンスを増加させることができるため、例えば、Z方向において圧電振動子3側に向かうほど、母材B中に分散される単位体積あたりの微粒子Gの数が多い層を配置し、Z方向において第2整合層6に向かうほど、母材B中に分散される単位体積あたりの微粒子Gの数が少ない層を配置することができる。
【0082】
このように、第1整合層5Bが、互いに異なる音響インピーダンスを有する複数の層からなる多層構造を有することにより、超音波探触子1Bが接触する被検体と圧電振動子3との間の音響インピーダンスを精度良く整合させ、被検体内に超音波をより入射させやすくすることができる。
【0083】
また、図示しないが、実施の形態3における超音波探触子1Bまたは超音波探触子1Cを有する超音波診断装置11に、いわゆるローパスフィルタおよびハイパスフィルタを備え、ローパスフィルタおよびハイパスフィルタを用いて、例えばAD変換部25によりデジタル化された受信データに対して、深度に応じたフィルタ処理を行うことができる。より具体的には、例えば、超音波ビームの焦点深さ以上の浅部においては定められた下限値以下の低周波数成分の信号をカットし、高周波数成分の信号のみにより超音波画像を生成し、超音波ビームの焦点深さよりも深い深部においては、定められた上限値以上の高周波数成分の信号をカットし、低周波数成分の信号のみにより超音波画像を生成することができる。
【0084】
また、例えば、超音波ビームの焦点深さよりも深部において、深度が深くなるほど徐々に低周波数成分の信号の割合が多くなるように、高周波数成分の信号を徐々にカットすることもできる。
このように、受信データに対して深度に応じたフィルタ処理を施すことにより、深度に関わらず、より高い画質を有する超音波画像を得ることができる。
【0085】
実施の形態4
実施の形態1における超音波探触子1では、複数の圧電振動子3は、Y方向において一定の厚さを有しているが、その厚さがY方向の位置によって変化してもよい。
図9に示すように、本発明の実施の形態4における超音波探触子1Dは、
図1および
図2に示す実施の形態1における超音波探触子1において、バッキング材2の代わりにバッキング材2Dが備えられ、複数の圧電振動子3の代わりに複数の圧電振動子3Dが備えられたものである。
【0086】
バッキング材2Dは、Y方向の中央部において、一定の厚さを有している。また、Y方向の両端部において、バッキング材2Dの厚さは、そのY方向の両端部に向かうほど徐々に薄くなっている。
【0087】
複数の圧電振動子3Dは、それぞれ、Y方向の中央部において、一定の厚さT1を有する高周波数領域用圧電部K1を含み、Y方向の両端部において、それぞれの圧電振動子3Dの厚さが、Y方向の中央部から両端部に向かうほど厚さT1から一定の厚さT2まで徐々に厚くなる低周波数領域用圧電部K2を含んでいる。高周波数領域用圧電部K1は、Y方向において、超音波探触子用音響レンズ7の高音速領域用レンズ部A1に対応する位置に配置され、低周波数領域用圧電部K2は、Y方向において、超音波探触子用音響レンズ7の低音速領域用レンズ部A2に対応する位置に配置されている。
図9に示す例において、複数の圧電振動子3Dの低周波数領域用圧電部K2は、それぞれ、バッキング材2Dに接触し且つY方向の中央部から両端部に向かうほど音響整合層4から遠ざかるように、一定の傾きにより傾斜する傾斜面部Jを有している。
【0088】
ここで、圧電振動子3Dが厚くなるほど、圧電振動子3Dによる超音波の送受信周波数が低くなり、圧電振動子3Dが薄くなるほど、圧電振動子3Dによる超音波の送受信周波数が高くなるため、高周波数領域用圧電部K1は、比較的高周波数の超音波を送受信し、低周波数領域用圧電部K2は、比較的低周波数の超音波を送受信する。
【0089】
そのため、複数の圧電振動子3Dの高周波数領域用圧電部K1から発せられた比較的高周波数の超音波は、超音波探触子用音響レンズ7の高音速領域用レンズ部A1中を伝搬し、高音速領域用レンズ部A1を透過した超音波から形成された超音波ビームは、Y方向に狭い幅を有し且つ比較的短い焦点距離Fに従って収束する。また、複数の圧電振動子3Dの低周波数領域用圧電部K2から発せられた比較的低周波数の超音波は、超音波探触子用音響レンズ7の低音速領域用レンズ部A2中を伝搬し、低音速領域用レンズ部A2を透過した超音波から形成された超音波ビームは、比較的長い焦点距離Fに従って収束する。
【0090】
このようにして、本発明の実施の形態4における超音波探触子1Dによれば、複数の圧電振動子3Dが、それぞれ、Y方向の中央部から両端部に向かうほど厚くなることにより、Y方向の中央部から両端部に向かうほどそれぞれの圧電振動子3Dによる超音波の送受信周波数が低くなるため、Y方向において狭い幅を有し且つ比較的高周波数の超音波ビームが浅部に収束し、減衰しにくい比較的低周波数の超音波ビームが深部に収束する。そのため、深度に関わらず高い画質を有する超音波画像を得ることができる。
【0091】
なお、実施の形態4の態様は、実施の形態1における超音波探触子1に適用されることが示されているが、実施の形態2における超音波探触子1Aにも同様にして適用されることができる。例えば
図10に示すように、実施の形態4の変形例における超音波探触子1Eは、
図6に示す超音波探触子1Aにおいて、バッキング材2の代わりにバッキング材2Dが備えられ、複数の圧電振動子3の代わりに複数の圧電振動子3Dが備えられたものである。
【0092】
この場合に、複数の圧電振動子3Dの高周波数領域用圧電部K1から発せられた比較的高周波数の超音波は、超音波探触子用音響レンズ7Aの低音速領域用レンズ部A2中を伝搬し、低音速領域用レンズ部A2を透過した超音波から形成された超音波ビームは、Y方向に狭い幅を有し且つ比較的短い焦点距離Fに従って収束する。また、複数の圧電振動子3Dの低周波数領域用圧電部K2から発せられた比較的低周波数の超音波は、超音波探触子用音響レンズ7Aの高音速領域用レンズ部A1中を伝搬し、高音速領域用レンズ部A1を透過した超音波から形成された超音波ビームは、比較的長い焦点距離Fに従って収束する。
【0093】
このように、本発明の実施の形態4の変形例における超音波探触子1Eによれば、実施の形態4における超音波探触子1Dと同様にして、深度に関わらずより高い画質を有する超音波画像を得ることができる。
【0094】
また、
図9および
図10には、複数の圧電振動子3Dの低周波数領域用圧電部K2が、それぞれ、一定の傾きを有し且つY方向の中央部から両端部に向かうほど音響整合層4から遠ざかるように傾斜する傾斜面部Jを有していることが示されているが、複数の圧電振動子3Dが、それぞれ、Y方向の中央部から両端部に向かうほど厚くなるのであれば、この態様に特に限定されない。また、例えば、低周波数領域用圧電部K2の厚さが、Y方向の中央部から両端部に向かって厚さT1から厚さT2までなだらかに変化するように、Y方向の中央部から両端部に向かって傾斜面部Jの傾きが徐々に変化していてもよい。また、例えば、低周波数領域用圧電部K2は、厚さT1よりも厚い一定の厚さT2を有するように、傾斜面部Jの代わりにX方向およびY方向に沿って延びる図示しない平面部を有することもできる。
【0095】
また、高周波数領域用圧電部K1のY方向の長さを低周波数領域用圧電部K2のY方向の長さよりも長くすることにより、複数の圧電振動子3Dにより発振される、比較的高周波数の超音波の割合を増加させることができる。高い周波数を有する超音波ほど減衰しやすいが、高周波数領域用圧電部K1をY方向に長くすることにより、比較的高周波数の超音波が被検体内において減衰したとしても、高周波数領域用圧電部K1により受信される超音波エコーの量を十分に確保して、比較的浅部の超音波画像の輝度が低下することを防止することができる。これにより、より均一な画質を有する超音波画像を得ることができる。
【0096】
この場合に、例えば、高周波数領域用圧電部K1のY方向の長さは、圧電振動子3DのY方向の全長に対して1/2よりも長いことが好ましい。具体的には、例えば、高周波数領域用圧電部K1のY方向における長さは、低周波数領域用圧電部K2のY方向における長さの2倍であってもよく、3倍であってもよい。
【0097】
また、図示しないが、実施の形態4における超音波探触子1Dまたは超音波探触子1Eを有する超音波診断装置11に、いわゆるローパスフィルタおよびハイパスフィルタを備え、ローパスフィルタおよびハイパスフィルタを用いて、例えばAD変換部25によりデジタル化された受信データに対して、深度に応じたフィルタ処理を行うことができる。より具体的には、例えば、超音波ビームの焦点深さ以上の浅部においては定められた下限値以下の低周波数成分の信号をカットし、高周波数成分の信号のみにより超音波画像を生成し、超音波ビームの焦点深さよりも深い深部においては、定められた上限値以上の高周波数成分の信号をカットし、低周波数成分の信号のみにより超音波画像を生成することができる。
【0098】
また、例えば、超音波ビームの焦点深さよりも深部において、深度が深くなるほど徐々に低周波数成分の信号の割合が多くなるように、高周波数成分の信号を徐々にカットすることもできる。
このように、受信データに対して深度に応じたフィルタ処理を施すことにより、深度に関わらず、より高い画質を有する超音波画像を得ることができる。
【0099】
また、実施の形態4の態様は、実施の形態1および実施の形態2と同様にして、実施の形態3に対しても適用されることができる。
【符号の説明】
【0100】
1,1A,1B,1C,1D,1E 超音波探触子、2,2D バッキング材、3,3D 圧電振動子、4,4B 音響整合層、5,5B 第1整合層、6 第2整合層、7,7A 超音波探触子用音響レンズ、8 分離部、11 超音波診断装置、12 送受信回路、13 画像生成部、14 表示制御部、15 モニタ、16 装置制御部、17 入力装置、21 超音波プローブ、22 プロセッサ、23 パルサ、24 増幅部、25 AD変換部、26 ビームフォーマ、27 信号処理部、28 DSC、29 画像処理部、A1 高音速領域用レンズ部、A2 低音速領域用レンズ部、B 母材、C1,C2 前面、G 微粒子、H1 高周波数領域用整合部、H2 低周波数領域用整合部、K1 高周波数領域用圧電部、K2 低周波数領域用圧電部、P 配列ピッチ、T1,T2 厚さ。