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特開2024-195825-ヒドロキシメチル-2-フルフラールおよび2,5-ジホルミルフランの合成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024019582
(43)【公開日】2024-02-09
(54)【発明の名称】5-ヒドロキシメチル-2-フルフラールおよび2,5-ジホルミルフランの合成方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 307/50 20060101AFI20240202BHJP
【FI】
C07D307/50
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023212536
(22)【出願日】2023-12-15
(62)【分割の表示】P 2020028010の分割
【原出願日】2020-02-21
(31)【優先権主張番号】P 2019037479
(32)【優先日】2019-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「非可食性植物由来化学品製造プロセス技術開発/研究開発項目2.木質系バイオマスから化学品までの一貫製造プロセスの開発/木質バイオマスから各種化学品原料の一貫製造プロセスの開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】川波 肇
(57)【要約】
【課題】バイオマス由来の原料から5-ヒドロキシメチル-2-フルフラールを経由して2,5-ジホルミルフランを効率的に合成する。
【解決手段】2,5-ジホルミルフランの合成方法は、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩の一種類以上の塩の存在下、バイオマス由来の炭水化物を含有する原料を、有機液体と水の混合液体を媒体として水熱処理することにより、5-ヒドロキシメチル-2-フルフラールを含有する反応液を得る水熱工程と、反応液の有機液体層から水を除去して5-ヒドロキシメチル-2-フルフラールを含有する粗生成物を得る水除去工程と、粗生成物中の5-ヒドロキシメチル-2-フルフラールを酸化して2,5-ジホルミルフランを得る酸化工程を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩の一種類以上の塩の存在下、バイオマス由来の炭水化物を含有する原料を、有機液体と水の混合液体を媒体として水熱処理することにより、5-ヒドロキシメチル-2-フルフラールを含有する反応液を得る水熱工程と、
前記反応液の有機液体層から水を除去して5-ヒドロキシメチル-2-フルフラールを含有する粗生成物を得る水除去工程と、
前記粗生成物中の5-ヒドロキシメチル-2-フルフラールを酸化して2,5-ジホルミルフランを得る酸化工程と、
を有する2,5-ジホルミルフランの合成方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記水除去工程が、前記有機液体層中の水を氷として除去する過程を備える2,5-ジホルミルフランの合成方法。
【請求項3】
請求項2において、
前記有機液体層中の水を氷として除去する過程では、前記反応液を有機液体の凝固点以上0℃以下の温度に冷却する2,5-ジホルミルフランの合成方法。
【請求項4】
アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩の一種類以上の塩の存在下、糖類を含有する原料を、有機液体と水の混合液体を媒体として水熱処理することにより、5-ヒドロキシメチル-2-フルフラールを含有する反応液を得る水熱工程と、
前記有機液体および水の沸点より沸点が高い高沸点有機液体を前記反応液に加えた後、前記有機液体および水の少なくとも一部を留去して、5-ヒドロキシメチル-2-フルフラールを含有する含有液を得る置換工程と、
前記含有液中の5-ヒドロキシメチル-2-フルフラールを酸化して2,5-ジホルミルフランを得る酸化工程と、
を有する2,5-ジホルミルフランの合成方法。
【請求項5】
請求項4において、
前記有機液体がテトラヒドロフランであり、
前記高沸点有機液体がトルエンまたはアニソールである2,5-ジホルミルフランの合成方法。
【請求項6】
請求項4または5において、
前記原料が芳香族化合物を含まない2,5-ジホルミルフランの合成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマス由来の原料から5-ヒドロキシメチル-2-フルフラールを合成する方法と、5-ヒドロキシメチル-2-フルフラールから2,5-ジホルミルフランを合成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
木、草、藁、竹、もしくは綿などの各種バイオマス、そしてこれらバイオマス由来のチップ、パルプ、糸、またはこれらから得られる紙などの製品を原料として、これらに含まれるセルロースまたはヘミセルロースなどを水熱条件で処理すると、オリゴ糖、グルコマンナン、グルコース、マンノース、キシロース、フルクトースなどの糖類が得られる。これらの糖類をさらに処理すると、炭素数が1個から6個の各種炭化水素の誘導体が得られる。これらの炭化水素の誘導体のうち、2,5-ジホルミルフラン(以下「DFF」と記載することがある)は、中間体である5-ヒドロキシメチル-2-フルフラール(以下「HMF」と記載することがある)を経由して得られる(下記化学反応式)。DFFは、HMFの酸化または脱水素によって得られる。現在、DFFは、流通量が少ないため、医薬品原料価格ベースで約1万円/kgと高価である。
【0003】
【化1】
【0004】
これらバイオマス等からHMFを合成し、このHMFを酸化してDFFを製造する方法が報告されている(特許文献1~特許文献3および非特許文献1~非特許文献4)。近年では、グルコースまたはフルクトースからHMFを経由して直接DFFを合成する手法も報告されている(特許文献4および特許文献5)。しかし、バイオマスからDFFの合成と各段階で得られる生成物の精製を考えた場合、HMFを経由してその酸化によってDFFを合成する方法が確実である。
【0005】
近年、HMFは、バイオマスから得られる重要な化合物の一つで、様々な化合物原料としての利用が期待されている。例えば、HMF自体に生理活性があることは既に報告されている。医薬品、機能性食品、化粧品、浴用品、または医薬部外品にHMFを配合することで、安全性が高い新しい抗アレルギー剤および抗炎症剤が容易に製造できる(特許文献6)。また、HMFから、鋳型造型用粘結剤、バイオプラスチックモノマー、医薬、農薬、殺虫剤、抗菌剤、香料、および高分子材料等を製造できる(特許文献7~特許文献10)。その他にも、HMFは、燃料改質剤等としての利用価値もあり、潜在的需要が非常に大きい。
【0006】
しかし、バイオマスから得られるHMFは、アルデヒド基、ヒドロメチル基、およびフラン環から形成されるため、一般的な芳香族化合物に比べて反応しやすく、容易にオリゴマーとなりフミン質と呼ばれる褐色の不溶物(固形廃棄物)へと変化し、大量製造の実用化の大きな壁となっている。このため、フミン質への変化を抑えたHMFの精製が重要である。HMFの精製方法として、多種多様な手法が提案されている。HMFの精製は困難である。
【0007】
例えばHMFの物理的な精製方法である蒸留を行う場合、蒸留可能な温度で長時間HMFを晒すと、上記の固形廃棄物またはタール状の生成物が生じる。そのため、例えば超高真空下でHMFを蒸留したり、流下薄膜減圧でHMFを精製したり、より低温でHMFを蒸留したりする方法、および蒸留後にさらに再結晶等を行って精製する方法が報告されている(特許文献11)。これらの精製方法でもHMFの収率低下を抑えることは難しい。
【0008】
さらに、HMFを化学的に精製する方法として、活性なアルデヒド基またはヒドロキシメチル基に保護基を導入し、アセタールまたはエステルに変換してから蒸留した後、保護基を外し、再結晶で精製する方法がよく知られている(非特許文献5~8)。また、酵素を使ってHMFをエステルにしてから精製する方法が報告されている。しかし、これらの精製手法でさえも、エステルからHMFを精製する工程で約23%のHMFが減少する。このため、精製されたHMFは高価である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2017-518386号公報
【特許文献2】特開昭54-9260号公報
【特許文献3】特開昭55-49368号公報
【特許文献4】特表2011-506478号公報
【特許文献5】特開2013-231061号公報
【特許文献6】特開2010-248107号公報
【特許文献7】特開2013-212536号公報
【特許文献8】特開2009-057345号公報
【特許文献9】特開2007-145736号公報
【特許文献10】特開2005-200321号公報
【特許文献11】特開2005-232116号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】William Francis Cooper, Walter Harold Nutall, Journal of the Chemical Society, Transactions, 1921, 101, 1074-1081.
【非特許文献2】J. W. van Reijendam, G. J. Heeres, M. J. Janssen, Tetrahedron, 1970, 26, 1291-1301.
【非特許文献3】Jaroslaw Lewkowski, ARKIVOC, 2001, 17-54.
【非特許文献4】Xinli Tong, Yang Ma, Yongdan Li, Applied Chatalysis A: General, 2010, 385, 1-13.
【非特許文献5】Malgorzata E. Zakrzewska, Ewa Bogel-Lukasik, and Rafal Bolgel-Lukasik,Ionic Liquid-Mediated Formation of 5-Hydroxymethylfurfural - A Promising Biomass-Derived Building Block -, Chemical Review, 2011, 111, 397-417.
【非特許文献6】C. Sievers, I. Musin, T. Marzialetti, M. B. Valenzuela-Olarte, P. K. Agrawal, C. W. Jones, ChemSUSChem, 2009, 2, 665.
【非特許文献7】S. Lima, P. Neves, M. M. Antunes, M. Pillinger, N. Ignatyev, A. A. Valente, Applyied Catalysis, A, 2009, 363, 93.
【非特許文献8】J. B. Binder, R. T. Raines, Journal of American Chemical Society, 2009, 131, 1979.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、バイオマス由来の各種原料からHMFを効率的に合成する方法と、HMFからDFFを効率的に合成する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、安価なアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩と、塩化鉄などの卑金属塩の混合物を用い、テトラヒドロフランなどの有機液体と水を混合した混合液体中で、各種バイオマス由来のセルロース、六炭糖であるグルコースもしくはフルクトース等、もしくは六炭糖から構成されるオリゴ糖を含有する原料、またはこれらオリゴ糖を含有する原料をさらに糖化して得られたグルコースもしくはフルクトース等の糖類を含む糖液を含有する原料を水熱処理することで、HMFが高選択的に得られることを見出した。
【0013】
また、得られたHMFは反応液中で不安定で、特に水の存在が安定性に影響を与える。そこで、このHMFを含む反応液を冷却し、反応液中の水を固体(氷)として除去することで、HMFがフミン質に変化するのを極力抑えたHMF含有液が得られることを見出した。一方、芳香族化合物を含まずに、グルコースまたはフルクトースを含む糖液を原料として製造したHMFは、反応溶液中で安定であることを見出した。したがって、溶媒中でHMFを取り扱うことで、HMFのロスが極力抑えられる。
【0014】
さらに、このHMF含有液を酸化することでDFFが容易に合成できることと、その後の既報で示された各種簡単な再結晶等の精製操作で純度95%以上のDFFが得られることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成に至ったものである。本発明のHMFの合成方法は、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩の一種類以上の塩の存在下、バイオマス由来の炭水化物を含有する原料を、有機液体と水の混合液体を媒体として水熱処理することにより、HMFを含有する反応液を得る水熱工程を有する。
【0015】
本発明のある態様のDFFの合成方法は、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩の一種類以上の塩と、卑金属塩の混合物の存在下、バイオマス由来の炭水化物を含有する原料を、有機液体と水の混合液体を媒体として水熱処理することにより、HMFを含有する反応液を得る水熱工程と、反応液の有機液体層から水を除去してHMFを含有する粗生成物を効率的に得る水除去工程と、粗生成物中のHMFを酸化してDFFを得る酸化工程を有する。
【0016】
本発明の他の態様のDFFの合成方法は、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩の一種類以上の塩の存在下、糖類を含有する原料を、有機液体と水の混合液体を媒体として水熱処理することにより、HMFを含有する反応液を得る水熱工程と、有機液体および水の沸点より沸点が高い高沸点有機液体を反応液に加えた後、有機液体および水の少なくとも一部を留去して、HMFを含有する含有液を得る置換工程と、含有液中のHMFを酸化してDFFを得る酸化工程を有する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、水に溶解する糖類はもちろん、水に溶けないバイオマスなどを原料とした水熱処理によってHMFが効率的に製造できる。また、得られたHMFを含有する反応液から水を除去することにより、HMFの安定性が向上し、HMFを高度に精製せずにこのまま酸化することで、DFFが効率良く製造できる。さらに、糖類を原料とした水熱処理によって得られたHMFは、有機溶媒中で安定している。このため、HMFを含有する反応液に高沸点有機液体を加えた後に、有機液体と水の少なくとも一部を留去すれば、HMFは高沸点有機液体中でそのまま酸化できる。したがって、HMFのロスを抑えながらDFFが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態に係るHMFの合成方法は水熱工程を備えている。水熱工程では、塩の存在下、原料を水熱処理して、HMFを含有する反応液を得る。本実施形態で用いる塩は、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩の一種類以上である。この塩の存在によって、HMFの反応収率が向上する。塩は、リチウム塩、ナトリウム塩、またはカルシウム塩であることが好ましい。塩のアニオンとしては、F、Cl、Br、I、HSO 、SO 2-、CFSO 、NO 、(CFSO、BF 、PF 、CHCOO、CFCOO、HPO 、およびPO 2-などが挙げられる。
【0019】
アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩の一種類以上の塩と、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩以外であって、塩化鉄および塩化亜鉛などの卑金属塩の存在下で水熱処理することで、HMFの反応収率がさらに向上する。卑金属塩のカチオンとしては、鉄、鉄鋼、銅、アルミニウム、鉛、亜鉛、すず、タングステン、インジウム、モリブデン、クロム、ゲルマニウム、タンタル、マグネシウム、コバルト、カドミウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、ガリウム、アンチモン、マンガン、ニッケル、ハフニウム、ニオブ、ビスマス、レニウム、およびタリウムなどが挙げられる。卑金属塩のアニオンとしては、F、Cl、Br、I、HSO 、SO 2-、CFSO 、NO 、(CFSO、BF 、PO 3-、PF 、CHCOO、CFCOO、HPO 、およびPO 2-などが挙げられる。
【0020】
原料は、バイオマス由来の炭水化物を含有する。より具体的には、この原料は、例えば、稲わらまたはスギチップ等の草木系バイオマス、これらのバイオマス由来のパルプ、紙および再生紙、これらを糖化して得られたセルロース、ならびにこれらを糖化して得られた六炭糖および六炭糖から構成されるオリゴ糖を含む糖液を含有する。また、原料としては、水に溶解するグルコースまたはフルクトース等の六炭糖およびこれらの六炭糖からなるオリゴ糖等の糖類はもちろん、ソーダパルプ、クラフトパルプ、サルファイトパルプ、ケミグランドパルプ、リファイナーグランドパルプ、サーモメカニカルパルプ、および蒸解パルプなどの各種パルプ、水に溶けないセルロースを含むバイオマス、ならびに段ボール、新聞、紙容器、および再生紙などの紙が挙げられる。
【0021】
水に溶けないセルロースを含むバイオマスとしては、例えば松、杉、ブナ、楓、およびユーカリなどの木材、稲わら、麦わら、もみがら、およびバガスなどの草、ならびに綿、麻、亜麻、椰子の果皮、および竹などの非木材が挙げられる。
原料に含まれる炭水化物としては、セルロース、グルコースまたはフルトースなど六炭糖、および六炭糖から構成されるオリゴ糖、ならびにバイオマス由来の物質に含まれるセルロースを糖化した糖類の一種類以上が挙げられる。
【0022】
原料に含まれる炭水化物の元となるバイオマスは特に制限はされず、じゃがいもまたはサトウキビのデンプンなどを含む食料となるバイオマスも使用できる。しかし、近年の食糧事情等から鑑みるに、食料に影響を及ぼさないまたは影響が小さい稲わら、麦わら、もみがら、椰子の果皮、バガス、トウモロコシの芯などの残渣、および野草などの草本系バイオマス由来の原料、ユーカリ、竹、杉、クヌギ、アカシデ、松などの薪、チップ、ペレット、ブリケット、木くず、製材端材などの木質系バイオマス由来の原料、ならびにこれらを糖化した糖類を含む糖液などを用いることが好ましい。
【0023】
これらの中でも原料は、ユーカリ、竹、および杉由来のチップ、ならびにこれらから得られる各種パルプ、そしてさらに各種パルプを糖化した糖類を含む糖液が好ましく、ユーカリ、竹、および杉由来のチップ、ならびにこれらから得られた蒸解パルプ、さらに杉またはユーカリのパルプを糖化した糖類を含む糖液がより好ましい。バイオマスを原料として直接用いる以外にも、近年はセルロース、六炭糖、および六炭糖から構成されるオリゴ糖を含む古紙なども原料として用いることができる。また、汎用的に流通しているグルコース、フルクトース、果糖、でんぷん、およびセルロースなどの炭水化物を含む物質も、原料として当然用いることができる。
【0024】
本実施形態では、有機液体と水の混合液体を媒体として原料を水熱処理する。水熱処理は、バッチ式、フロー式、またはパーコレート式で行える。また、水熱処理は温度100℃以上250℃以下で行える。また、水熱処理は、バッチ式の場合は1時間以上60時間以下で、フロー式およびパーコレート式の場合は10分以上の滞在時間で行える。また、水熱処理は圧力0.1MPa以上20MPa以下で行える。水熱処理の媒体としては、有機液体と水の混合液体が使用できる。セルロース、グルコース、およびフルクトースが反応しやすいからである。有機液体は、温度100℃以上250℃以下、圧力0.1MPa以上20MPa以下で、セルロース、グルコース、およびフルクトースと反応せず、かつ分解しないものから選択できる。
【0025】
このような有機液体としては、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、ジメチルイミダゾリジノン、アセトニトリル、メタノール、エタノール、ブタノール、メチルイソブチルケトン、ヘキサフルオロイソプロパノール、酢酸エチル、ヘキサン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルフィド、アセトン、メチルエチルケトン、アセトンなどが挙げられる。これらの中で、有機液体としては、水に少しだけ溶け、かつ水と相分離できるテトラヒドロフラン、ジオキサン、ブタノール、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルフィド、メチルエチルケトンなどが好ましい。
【0026】
なお、反応容器の耐圧性の事情などで高圧での水熱処理ができない場合、有機液体の一部を、より高沸点の有機液体に置換することで、目的のHMFが得られる。例えば、有機液体であるテトラヒドロフランの約75質量%を、より高沸点の有機液体であるトルエンなどの芳香族炭化水素で置換すれば、HMFの収率の低下を抑えつつ、圧力1MPa以下で水熱反応を行える。
【0027】
原料の形態には特に制限がないが、混合液体中に均一に溶解または均一に分散していることが好ましい。原料からHMFへの選択率が向上するからである。糖類を含む糖液が原料である場合は、混合液体中に原料が溶解するので、糖液を混合液体中に溶かした溶液をそのまま水熱処理できる。一方、木質系バイオマスまたは草本系バイオマスなどの水を含む各種媒体に難溶性のセルロースを含む原料は、予め粉砕して、混合液体に均一に分散させた分散液を水熱処理するのが好ましい。反応時に、混合液体中の原料に含まれる炭水化物の量は、0.1質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましく、25質量%以上であることが最も好ましい。
【0028】
バッチ式での水熱処理では、この原料の粉砕後の粒径が水熱処理に影響しないため、原料の粉砕後の粒径は、特に限定されない。しかし、フロー式で水熱処理を行う場合は、原料の粉砕後の粒径を100μm以下にすることが好ましく、50μm以下にすることがより好ましく、30μm以下にすることがさらに好ましく、20μm以下にすることが最も好ましい。原料が分散した混合液体の分散液が安定するからである。
【0029】
本発明の実施形態に係るDFFの合成方法は、水熱工程と、水除去工程と、酸化工程を備えている。水熱工程では、本実施形態のHMFの合成方法の水熱工程と同様に、HMFを含有する反応液を得る。必要に応じた濾過によって残った原料を取り除いたこの反応液を放置すると、水層と有機液体層に分離する。生成したHMFは有機液体層により多く溶解している。
【0030】
そこで、反応液から有機液体層を採取して、次の酸化工程に用いる。有機液体層に含まれるHMFを酸化してDFFを生成させるためには、水を含む有機液体層から、できるだけ多くの水を除去する必要がある。水除去工程では、反応液の有機液体層から水を除去して、HMFを含有する粗生成物を得る。
【0031】
しかし、このHMFを含有する反応液を加熱すると、HMFは、フミン質からなる不溶性固体であって、HMFへの再生が不可能な物質に容易に変換されてしまう。このため、蒸留などの加熱が必要な方法で、この反応液の有機液体層から水分を除去することは好ましくない。そこで、この反応液を冷却して、有機液体層中の水分を凍らせた後に氷を濾過することによって、有機液体層中の水を除去でき、HMFを含有する粗生成物が得られる。このときの反応液の冷却温度は、有機液体の凝固点以上0℃以下が好ましい。例えば、有機液体がテトラヒドロフラン(以下「THF」と記載することがある)のとき、反応液を-108℃以上0℃以下に冷却すれば、好適に反応液中の水を氷として除去できる。
【0032】
なお、次の酸化工程の前に、HMFを含有する反応液の有機液体を、酸化工程で用いる他の有機液体に置換する場合、従来は、反応液から有機液体を除去した後に、この他の有機液体を添加していた。この従来の方法では、有機液体の除去時に濃縮されたHMFと微量に残る水分などが要因となって、HMFがフミン質に変わる現象が著しかった。このため、HMFの大幅なロスを招き、最終的生成物であるDFFの収率の低下をもたらした。
【0033】
しかし、リグニン成分などの芳香族化合物を含まず、グルコースまたはフルクトースを含む糖類を原料とした場合、水熱工程で得られた反応液中で、HMFが長時間安定していた。このため、反応液中の水を氷として除去しなくても、液・液分離による水分除去のみで、次の酸化工程が行える。さらに、水熱工程で得られた反応液中の有機液体および水の沸点より沸点が高く、酸化工程で用いる高沸点有機液体を反応液に加えた後、有機液体を留去しつつ、共沸現象を利用して有機液体に含まれる水を留去すれば、溶液状態のままで有機媒体を置換でき、HMFを含有する含有液が得られる。
【0034】
すなわち、糖類を含有する原料を水熱工程に用いる場合、本実施形態の水除去工程に代えて置換工程が適用できる。なお、本願の「糖類」は、単糖類と二糖類だけでなく、オリゴ糖などの少糖類、およびでんぷんなどの多糖類も含む。この置換工程では、有機液体および水の沸点より沸点が高い高沸点有機液体を反応液に加えた後、有機液体を留去しつつ、共沸現象を利用して有機液体に含まれる水の少なくとも一部を留去して、HMFを含有する含有液を得る。留去する有機液体および水の量は多いほど好ましい。酸化工程に適した高沸点有機液体の含有量を限りなく多くできるとともに、HMFの不安定化の原因の一つとなる水を少なくできるからである。不可避的に含まれる有機液体および水以外は、高沸点有機液体に置換することが最も好ましい。
【0035】
有機液体がTHFのとき、酸化工程で用いる高沸点有機液体としては、常圧での沸点が66℃以上の有機媒体が挙げられる。このような有機媒体としては、ヘキサン、酢酸エチル、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、またはトリクロロベンゼンなどの脂肪族系溶媒、およびトルエン、エチルベンゼン、クメン、キシレン、アニソール、ベンズアルデヒド、アセトフェノン、ベンゾフェノン、またはピリジンなどの芳香族系溶媒が挙げられる。これらの中でも、酸素または空気を酸化剤とする触媒反応でHMFからDFFを合成するのに適したトルエン、エチルベンゼン、クメン、キシレン、またはアニソールが好ましい。さらに、トルエンまたはアニソールが好ましい。水熱工程で用いたTHFを容易に置換できると同時に、これらの有機媒体は水と共沸するため、有機媒体に溶解している水も除去できるからである。
【0036】
酸化工程では、水除去工程で得られた粗生成物中のHMFを酸化してDFFを得る。より具体的には、例えば、HMFを含有する粗生成物から有機液体を除去した後、酸化反応に用いる溶媒にこのHMFを溶かして酸化反応を行う。HMFの酸化方法には特に制限がない。しかし、粗生成物中には数十質量%のバイオマス由来の不純物が含まれており、HMFの酸化に固体触媒などを用いると、触媒被毒が起こりやすく、酸化反応を効率的に進ませることができない。
【0037】
このため、酸化工程では、均一系の酸化触媒または強い酸化剤などを用いることが好ましいが、酸化マンガンなど不均一系の酸化剤等も好ましい。酸化触媒としては、塩化銅、ヨウ化銅、ニトロキシラジカル(RN-O・)、およびバナジウム錯体などが挙げられ、酸化剤としては、酸化マンガン、過マンガン酸、クロム酸、二クロム酸、酸化クロム、硝酸、塩素酸、次亜塩素酸、ハロゲン、オゾン、酸素、過酸化水素、過酸化物、および酸素などが挙げられる。酸化工程では、これらの酸化剤と前述の各種酸化触媒とを組み合わせた酸化も行うことができる。また、酸化工程では、置換工程で得られたHMF含有液中のHMFを酸化してDFFを得てもよい。
【実施例0038】
以下、実施例に基づいて、本発明のHMFの合成方法およびDFFの合成方法を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0039】
HMFの収率は、原料中のユーカリチップ、杉チップ、孟宗竹チップ、パルプ、セルロース、または糖液に含まれるグルコース相当の物質量(いわゆるモル量)に対する得られたHMFの物質量を百分率(原料%)で表した。DFFの収率は、用いたHMFの物質量に対する得られたDFFの物質量を百分率(HMF%)で表したか、原料中のユーカリチップ、杉チップ、孟宗竹チップ、パルプ、セルロース、または糖液に含まれるグルコース相当の物質量に対する得られたDFFの物質量を百分率(原料%)で表した。転化率は、原料中のグルコース相当の物質量または質量に対する反応した原料の物質量または質量を百分率(%)で表した。
【0040】
(実施例1:糖液からHMFの合成)
グルコース7.84gとキシロース1.35gを含む糖液35gに、塩である塩化リチウム10.5g(0.24mol)と、卑金属塩である塩化鉄6水和物6.7g(0.024mol)を入れ、よくかき混ぜて完全に溶解させてから、容積300mLのオートクレーブに充填した。オートクレーブにTHF200mLをさらに入れた後、オートクレーブを密閉し、窒素置換を行った。その後、加熱炉でオートクレーブを加熱し、反応温度150℃になってから反応開始とし、その後20時間反応を行った。反応時のオートクレーブ内の圧力は4MPaであった。その後、反応液を室温まで冷やした。冷却後、得られた反応液の有機層(THF層)と水層をそれぞれ別々に採取した。有機層および水層に含まれるHMFの糖液からの収率は46原料%であった。
【0041】
(実施例2:HMFからDFFの合成)
実施例1で得られた反応液から分取した有機層を-30℃に冷却した後、析出した氷を濾過し、有機層から水分を除去した。なお、濾液(有機層)の水分が十分に除去されなかった場合は、必要に応じて、冷却温度をさらに下げて、または再度冷却して氷を除去するなどの操作を繰り返すことで、濾液に含まれる水分をできる限り除去した。得られた濾液(HMFを含むTHF溶液)を60℃以下の低温で減圧留去した。得られたHMFを含む粘性の高い反応物に、酸化反応で用いる溶媒のジクロロメタン100mLを加えた。ジクロロメタンに不溶な固体を濾過して除去した。必要に応じて、アルミナを用いてフミン質およびその他の不純物を取り除いた。
【0042】
得られたHMFのジクロロメタン溶液に、酸化剤である二酸化マンガン20mg~30mg程度を数回に分けて添加し、室温で反応を行った。反応中、ガスクロマトグラフィーを用いてHMFの残量を確認し、HMFが残っている場合は二酸化マンガンをさらに加えて反応を進めた。HMFがほぼ消失したことを確認した後、二酸化マンガンを濾過して回収した。使用した二酸化マンガンは、硫酸で洗浄して再利用した。得られた濾液にアルミナを加えて不純物を吸着させて濾過した。得られた濾液は減圧下で溶媒を留去した。その後、ジクロロメタンとヘキサンを適切な比で混合した溶液を加えて再結晶を行い、目的の物質であるDFF2.50g(糖液からの収率46原料%)を得た。
【0043】
(実施例3:各種塩を用いた糖液からHMFの合成)
下記の表1に示す塩を用い、反応時間を2時間にし、塩化鉄を用いずに、実施例1と同様にして糖液からHMFを合成した。その結果を表1に示す。転化率に対する収率の比(収率/転化率)は、塩化リチウムを塩として用いたときが最も大きかった。
【0044】
【表1】
【0045】
(実施例4:各種条件での糖液からHMFの合成)
下記の表2に示す条件で、塩化リチウムのみ、または表中の物質量比で塩化リチウムと塩化鉄を用いて、実施例1と同様の方法で糖液からHMFを合成した。その結果を表2に示す。さらに塩化鉄を用いることで、転化率と収率が上がることがわかった。また、塩化リチウムの物質量に対する塩化鉄の物質量の比が0.1以上であるときに、転化率と収率の上昇効果があることがわかった。さらに、反応時間が長くなるものの、反応温度を150℃に下げることで、副生成物の生成を極力抑え、高収率でHMFが得られることがわかった。
【0046】
【表2】
【0047】
(実施例5:各種条件での糖液からHMFの合成)
下記の表3に示す条件で、塩化リチウムより安価で入手容易な塩化カルシウムのみ、または表中の物質量比で塩化カルシウムと塩化鉄を用いて、実施例1と同様の方法で糖液からHMFを合成した。その結果を表3に示す。塩化カルシウムと塩化鉄を用いると、塩化カルシウムのみを用いたときと比べて、転化率は同等であるものの、収率が上がることがわかった。
【0048】
【表3】
【0049】
また、反応温度190℃のとき、オートクレーブ内の圧力は3MPa程度であったが、反応温度を150℃に下げることで、オートクレーブ内の圧力が1MPa程度となり、より汎用的な反応装置を用いてHMFが製造できることがわかった。さらに、反応温度130℃~160℃でHMFの製造を行ったところ、反応温度145℃~155℃のときに、転化率と収率がおおむね同等であった。すなわち、反応温度のむらが生じるような環境であっても、反応温度145℃~155℃で反応を行うことができれば、安定した収率でHMFが得られることがわかった。
【0050】
(実施例6:溶媒の一部を置換したHMFの合成)
反応圧力を低下させる目的で、有機液体であるTHFの一部を、THFの沸点より高沸点の有機液体であるトルエンに置き換えて、実施例5と同様の方法で糖液からHMFを合成した。容積30mLのオートクレーブに、塩である塩化カルシウム1.2gと卑金属塩である塩化鉄0.12gを入れ、糖液2.0gと水3.0gをさらに加え、下記の表4に示す量でTHFとトルエンをさらに加え、反応温度150℃で24時間反応を行った。
【0051】
反応後、液体クロマトグラフィーで生成物の分析を行い、有機相と水相にそれぞれ含まれる成分を調べ、転化率と収率を求めた。反応時のオートクレーブ内の圧力と、HMFの転化率および収率を表4に示す。その結果、トルエンの置換量が増加すると、収率が10%程度減少するものの、反応圧力を下げられることがわかった。これによって、耐圧性が低い反応容器を用いて、HMFが合成できることが証明された。
【0052】
【表4】
【0053】
(実施例7:杉由来パルプからHMFの合成)
下記の表5に示す条件で、原料として杉由来のパルプ0.5gを用いて、実施例1と同様の方法でHMFの合成を行った。その結果を表5に示す。原料としてパルプを用いてもHMFを合成できることがわかった。塩化リチウムのみを用いた場合は、収率が19%であったが(No.1)、塩化リチウムに塩化鉄を加えることで、転化率と収率が向上した(No.2の68%と40%)。
【0054】
塩化亜鉛のみを用いた場合、塩化リチウムのみまたは塩化鉄のみを用いた場合と比べてパルプの溶解度が向上し、HMFの収率が28%と上昇することもわかった(No.4)。また、塩化リチウムに塩化亜鉛を加えることで転化率と収率が改善された(No.5の84%と45%)。さらに、塩化リチウムと塩化鉄または塩化亜鉛(No.2とNo.5)の代わりに、塩化カルシウムと塩化鉄または塩化亜鉛(No.6とNo.7)を用いた場合、転化率と収率の若干の低下が見られるが、おおむね良好な結果を得た。
【0055】
【表5】
【0056】
(実施例8:HMFからDFFの合成)
下記の表6に示す酸化触媒と酸化剤と、パルプから得たHMF溶液を用いて、実施例2と同様にしてDFFを合成した。その結果を表6に示す。パルプから得られるHMFを含む反応液には、水分とTHFに不要な固形分が除去されているものの、リグニン由来の成分等が少量含まれている。このため、DFFの合成に固体触媒(No.1~No.4)を用いることは難しい傾向にある。逆に均一系のバナジウム触媒(No.5)は、収率が高い傾向にあった。
【0057】
【表6】
【0058】
(実施例9:杉由来パルプからDFFの合成)
原料として杉由来のパルプ1.16gを用いた点を除いて、実施例2と同様にしてHMFを経由してDFFを合成した。DFFの収量は36.2mgで、DFFの収率は、パルプに含まれるセルロース換算で17.9原料%であった。
【0059】
(実施例10:ユーカリ由来パルプからDFFの合成)
原料としてユーカリ由来のパルプ1.06gを用いた点を除いて、実施例2と同様にしてHMFを経由したDFFの合成を行った。DFFの収量は45.4mgで、DFFの収率はパルプに含まれるセルロース換算で7.47%であった。
【0060】
(実施例11:孟宗竹チップからのDFFの合成)
原料として孟宗竹チップ1.5gを用いた点を除いて、実施例2と同様にしてHMFを経由してDFFを合成した。DFFの収量は60.2mgで、DFFの収率は、チップに含まれるセルロース換算で、10.7原料%であった。
【0061】
(実施例12:試薬のセルロース、グルコース、フルクトースを使用したDFFの合成)
原料として、試薬で購入した純度95%以上のセルロース(アビセル)1.0g、グルコース1.0g、およびフルクトース1.0gをそれぞれ用いて、実施例1および実施例2と同様にしてHMFを経由してDFFを合成した。DFFの収量(収率)は、それぞれ121.5mg(15.8%)、215.1mg(31.2%)、306.4mg(44.5%)であった。
【0062】
(実施例13:二酸化マンガンの再利用)
実施例8から実施例12で用いた二酸化マンガンを回収し、室温で濃硫酸を加えて撹拌後、濾過、水で洗浄し、60℃のオーブンで1日乾燥させて再生した。得られた二酸化マンガンを20g~30g程度に数回に分けて実施例8のHMF溶液に添加し、室温でDFFの合成を行った。反応中、ガスクロマトグラフィーを用いてHMFの残量を確認し、残っている場合はさらに二酸化マンガンを加えて反応を進めた。
【0063】
HMFがほぼ消失したことを確認後、濾過して二酸化マンガンを回収した。なお、使用した二酸化マンガンは、さらに硫酸で洗浄して再々利用した。得られた濾液にアルミナを加えて不純物を吸着させてさらに濾過した。減圧下で得られた濾液の溶媒を留去した。その後、ジクロロメタン-ヘキサンを適当な比で混合した溶液を加えて再結晶を行い、目的の物質DFF(2.50g、糖液からの収率46原料%)を得た。
【0064】
(実施例14:糖液からHMFの合成2)
容量30mLのオートクレーブに、実施例1で用いた糖液2g(グルコース含有量0.82g)、塩である塩化カルシウム1.2g、卑金属塩である塩化鉄0.12g、水2mL、およびTHF20mLを加え、反応温度150℃で24時間反応させた。反応後、生成物を液体クロマトグラフィーで分析したところ、HMFの収率は62%であった。分液ロートでTHF相のみを採取し、不溶物を濾過除去した。
【0065】
このHMFを含むTHF溶液の一部を採取して、常温常圧で15日間放置した。採取した直後のHMF含有量に対する時間経過後のHMF含有量の比(時間経過後のHMF含有量/採取直後のHMF含有量(以下「HMF含有量比」と記載することがある))は、1日経過後が0.98で、4日経過後が1.10で、5日経過後が0.95で、6日経過後が1.02で、15日経過後が1.01であった。HMFを含むTHF溶液の採取から15日経過しても、HMF含有量比はほとんど変化なく、HMFがフミン質などに変化する傾向は見られなかった。
【0066】
一方、HMFを含むTHF溶液を一部採取して、20分間でTHFを留去した直後にTHFと同じ量のトルエンを加えてHMF含有量を測定したところ、HMF含有量比は0.65であった。さらに、HMFを含むTHF溶液を一部採取し、そこにTHFの沸点より高沸点のトルエンをTHFの1.5倍量加え、THFと水分を留去し、HMF含有量を測定したところ、HMF含有量比は0.9であった。これらの結果から、HMFは有機液体中で安定しており、THFの沸点より高沸点の有機液体を用いることで、HMFのロスを抑えた溶媒置換が可能であることがわかった。
【0067】
(実施例15:HMFからDFFの合成2)
下記の表7に示すように、実施例14の方法で得られたHMFを含有する反応液を芳香族系のトルエンとアニソールでそれぞれ置換したHMFを含有する含有液に、触媒である5質量%ルテニウム担持アルミナ触媒(和光純薬社製)200mgを加え、さらに酸素を導入して酸化工程を行った。トルエンとアニソールのそれぞれの沸点は、THFおよび水の沸点より高い。その結果を表7に示す。
【0068】
【表7】
【0069】
実施例8では、パルプから得られたHMFをルテニウム担持アルミナ触媒で酸素酸化したとき、触媒被毒によりDFFが得られなかった(表6のNo.1)。このため、酸化マンガンを用いて酸化工程を行う必要があった。しかし、リグニンなどの芳香族化合物を含まない糖液を原料として得られたHMFは、ルテニウム担持アルミナ触媒で酸素酸化を行えることが判明した。表7に示すように、DFFが収率90%以上で得られた。また、実施例6では空気が酸化剤であったが、本実施例では、酸化剤として空気以外の酸素を用いることで、短時間でDFFが得られた。
【0070】
高沸点有機液体がトルエンの場合で反応温度について検討したところ、反応温度がトルエンの沸点を大幅に超えると収率が下がった。生成したDFFが揮発するためだと考えられる。不純物を含む純度75%の粗DFF0.89gを200℃に加熱して昇華精製を行った。無色透明の針状の結晶0.45gが得られた(収率67%)。この結晶をNMR測定した結果、純度がほぼ100%であった。すなわち、DFFは昇華性があり、昇華精製によって極めて高純度のDFFが得られることがわかった。