(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024019856
(43)【公開日】2024-02-14
(54)【発明の名称】衛星追尾装置
(51)【国際特許分類】
G01S 3/42 20060101AFI20240206BHJP
H01Q 3/08 20060101ALI20240206BHJP
H01Q 1/12 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
G01S3/42 Z
H01Q3/08
H01Q1/12 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022122594
(22)【出願日】2022-08-01
(71)【出願人】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100143568
【弁理士】
【氏名又は名称】英 貢
(72)【発明者】
【氏名】横澤 真介
【テーマコード(参考)】
5J021
5J047
【Fターム(参考)】
5J021DA00
5J021EA05
5J021HA03
5J047AA01
5J047AA02
5J047AA19
5J047AB05
(57)【要約】
【課題】人工衛星からの信号を受信するためのアンテナの方向調整を自動的に行って精度よく追尾する衛星追尾装置を提供する。
【解決手段】本発明の衛星追尾装置15は、アンテナ11を介して得られる主偏波及び交差偏波の受信レベルを基にステップトラック方式により衛星追尾を行う際に、主偏波の受信レベルが最大値となるアンテナ11の位置を探索して検出する受信レベル最大位置検出部151と、当該主偏波の受信レベルが最大値となるアンテナ11の位置から相対的な仰角及び方位角として所定範囲内に定められた近傍で、交差偏波の受信レベルが局所的最小値となるアンテナ11の位置を検出する受信レベル最小位置検出部152と、アンテナ駆動信号を用いて、当該交差偏波の受信レベルとして局所的最小値を検出した仰角及び方位角を示す位置にアンテナ11を指向させるようにアンテナ11を駆動制御するアンテナ駆動信号生成部154と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工衛星からの信号を受信するためのアンテナの方向調整を自動的に行って追尾する衛星追尾装置であって、
前記アンテナを介して得られる主偏波及び交差偏波の受信レベルを基に所定の角度単位で可変駆動するステップトラック方式により前記アンテナの指向方向を変化させて衛星追尾を行う際に、前記主偏波の受信レベルが最大値となる当該アンテナの仰角及び方位角を示す位置を探索して検出する受信レベル最大位置検出部と、
当該主偏波の受信レベルが最大値となる前記アンテナの位置から相対的な仰角及び方位角として所定範囲内に定められた近傍で、前記交差偏波の受信レベルが局所的最小値となる当該アンテナの仰角及び方位角を示す位置を検出する受信レベル最小位置検出部と、
前記アンテナを駆動制御するためのアンテナ駆動信号を生成する手段を有し、当該交差偏波の受信レベルとして局所的最小値を検出した仰角及び方位角を示す位置に前記アンテナを指向させるように前記アンテナを駆動制御するアンテナ駆動信号生成部と、
を備えることを特徴とする衛星追尾装置。
【請求項2】
前記アンテナは、ビーコン信号における主偏波と交差偏波の受信信号をそれぞれ出力する機能を有するオフセットパラボラアンテナで構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の衛星追尾装置。
【請求項3】
前記所定範囲が、前記アンテナに固有の主偏波のアンテナパターンのピークの形状に対し、より急峻な特性を有するものとして予め測定済みの前記アンテナに固有の交差偏波のアンテナパターンのディップ点のうち前記アンテナのボアサイトに最も近接する位置に存在するディップ点を含むように予め定められた仰角及び方位角の範囲に設定されていることを特徴とする、請求項1に記載の衛星追尾装置。
【請求項4】
前記所定範囲が、当該主偏波の受信レベルが最大値となる当該アンテナの仰角及び方位角の正面であるボアサイトに対して±1.00[deg.]以内の予め定められた仰角及び方位角の範囲に設定されていることを特徴とする、請求項1に記載の衛星追尾装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軌道上の人工衛星の方向へ、人工衛星からの信号を受信するためのアンテナの方向調整を自動的に行って追尾する衛星追尾装置に関する。
【背景技術】
【0002】
静止軌道上の人工衛星は、地上の或る一点から見た位置が変化しないため、その人工衛星からの信号を受信するためのアンテナとして、パラボラアンテナ等の高利得のアンテナを使用でき、放送や通信等の用途に使用されている。
【0003】
ただし、人工衛星は月や太陽による引力や大気の抵抗等の影響を受けるため、軌道が徐々に変化する摂動が発生しており、この摂動による位置の変化を修正するステーションキーピングが定期的に行われている。静止軌道上の人工衛星の位置の変化は、家庭での衛星放送の受信等には影響が軽微なため無視できる。一方で、特に重要な衛星通信や、人工衛星からのビーコン信号を受信して行う電波伝搬の観測等においては、アンテナが人工衛星を正確に指向していることが求められ、摂動に合わせてアンテナの方向を変化させ、人工衛星を追尾する必要がある。
【0004】
衛星追尾には様々な方法が知られているが、アンテナの方向を駆動装置で変化させ、人工衛星からのビーコン信号の受信レベルが最大になる点を探索するステップトラック方式が、特別な装置を要しないというメリットがあるため広く用いられている(例えば、非特許文献1参照)。また、ステップトラック方式はビーコン信号の受信レベルをアンテナの方向の基準としているため、ビーコン信号が何らかの原因により一定レベルで受信できない場合は、その原因に対応した手法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかし、衛星追尾に用いられるステップトラック方式では、ビーコン信号の降雨による減衰やシンチレーションによる受信レベルの変動等により、追尾精度が低下しやすいことが知られている(例えば、非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】G. Heckert, “Step-track A simple autotracking scheme for satellite communication terminals,” in Proc. AIAA 3rd Communications Satellite Systems Conference, No.70-416, Apr.1970, doi: 10.2514/6.1970-416.
【非特許文献2】飯田尚志, “衛星通信”, (株)オーム社, 1997年2月発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、
図8及び
図9を参照して、人工衛星からのビーコン信号の受信レベルに基づく従来の典型的なステップトラック方式による衛星追尾装置150を備える衛星追尾システム100について説明する。
図8は、従来の典型的なステップトラック方式による衛星追尾装置150を備える衛星追尾システム100の概略構成を示すブロック図である。
【0009】
図8に例示する衛星追尾システム100は、アンテナ11、アンテナ駆動装置12、ビーコン受信機13、及び衛星追尾装置150を備える。
【0010】
アンテナ11は、本例では人工衛星からのビーコン信号を受波するパラボラアンテナで構成される。ここで、アンテナ11として、オフセットパラボラアンテナ等の指向性が鋭いものを想定している。また、アンテナ11は、ここではビーコン信号における主偏波の受信信号を出力する機能を有する。尚、
図8において、アンテナ11は、ビーコン信号における主偏波の受信信号だけでなく、交差偏波の受信信号を出力する機能を有するものであってもよいが、従来の衛星追尾の制御においては利用しないことから、その図示を省略している。
【0011】
アンテナ駆動装置12は、アンテナ11の仰角及び方位角について所定の角度(ステップ角度)単位で駆動するための装置であり、アンテナ11の現在の仰角及び方位角を示すアンテナ位置信号をフィードバック制御のために衛星追尾装置150に出力するとともに、衛星追尾装置150からのアンテナ駆動信号に基づいて、アンテナ11の仰角及び方位角を可変駆動する機能を有する。尚、衛星追尾装置150によってアンテナ11の仰角及び方位角の設定による監視制御(即ち、フィードフォワード制御)を行う場合には、アンテナ駆動装置12において、アンテナ位置信号の出力を省略した形態とすることも可能である。
【0012】
ビーコン受信機13は、アンテナ11から得られる主偏波の受信信号を入力して、その主偏波の受信レベルを測定し、衛星追尾装置150に出力する機能を有する。
【0013】
衛星追尾装置150は、アンテナ11を介して得られる主偏波の受信レベルを基に所定の角度(ステップ角度)単位で可変駆動するステップトラック方式によりアンテナ11の指向方向を変化させて衛星追尾を行う装置である。より具体的に、衛星追尾装置150は、アンテナ11の仰角及び方位角について所定の角度(ステップ角度)単位で可変駆動するためのアンテナ駆動信号を生成してアンテナ駆動装置12を制御し、本例ではアンテナ駆動装置12から得られるアンテナ位置信号を参照しながら主偏波の受信レベルを観測する。そして、衛星追尾装置150は、ビーコン受信機13から得られる主偏波の受信レベルが最大値となるアンテナ11の位置(仰角及び方位角に関する指向方向)を探索して検出する機能、及び主偏波の受信レベルとしてその最大値を検出した仰角及び方位角を示す位置にアンテナ11を指向させるようにアンテナ駆動信号を生成し、アンテナ駆動装置12を介してアンテナ11を駆動制御する機能を有する。
【0014】
図9は、従来の衛星追尾装置150における典型的なステップトラック方式による衛星追尾の制御例を示すフローチャートである。
【0015】
まず、衛星追尾装置150は、ステップトラック方式による所定の最大位置探索アルゴリズムに基づいて、アンテナ11を仰角・方位角方向に所定の角度(ステップ角度)単位で駆動制御し(ステップS11)、ビーコン受信機13から得られる主偏波の受信レベルが最大値となるアンテナ11の位置(仰角及び方位角に関する指向方向)を探索して検出する(ステップS12)。
【0016】
ステップトラック方式は、アンテナ11の指向方向を変化させながら、最も受信レベルが高くなる方向を探索する方式であり、通常、衛星通信設備が有するアンテナ11とビーコン受信機13以外に特別な機器が不要となり、低コスト化を実現できることから広く用いられている手法である。
【0017】
典型的な従来のステップトラック方式の最大位置探索アルゴリズムは、仰角及び方位角を個別に可変駆動しながら主偏波の受信レベルを所定の時間積分毎に観測し、前回の観測値よりも大きくなっていればアンテナ11の指向方向を前回の観測値が得られた方向と同じ方向に更に所定の角度(ステップ角度)だけ回転させ、前回の観測値よりも小さくなっていれば逆方向に回転させるものである。ここで、仰角及び方位角を同時に可変しながら最大値の探索を行う方法や、仰角及び方位角のうち一方を固定し他方を可変しながら観測し、その固定及び可変する対象を入れ替えながら行う方法や、これらの方法を組み合わせた方法とすることができる。また、受信レベル差に応じてステップ角度を可変する方法や、受信レベルそのものに応じてステップ角度を決定する方法を組み入れることもできる。
【0018】
そして、衛星追尾装置150は、当該アンテナ駆動信号を用いて、その最大値を検出した仰角及び方位角を示す位置に、アンテナ11を指向させるように駆動制御する(ステップS13)。このようにして、従来の衛星追尾装置150は、アンテナ11を仰角・方位角方向に駆動制御し、ビーコン受信機13により観測したビーコン信号の主偏波の受信レベルが最大になる位置を探索し、その最大になる位置へアンテナ11を駆動制御することで衛星追尾を実現している。
【0019】
しかしながら、上述したように、衛星追尾に用いられる従来のステップトラック方式では、ビーコン信号の降雨による減衰やシンチレーションによる受信レベルの変動等により、追尾精度が低下しやすいという課題がある。
【0020】
従って、本発明の目的は、上述の問題に鑑みて、人工衛星からの信号を受信するためのアンテナの方向調整を自動的に行って精度よく追尾する衛星追尾装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の衛星追尾装置は、人工衛星からの信号を受信するためのアンテナの方向調整を自動的に行って追尾する衛星追尾装置であって、前記アンテナを介して得られる主偏波及び交差偏波の受信レベルを基に所定の角度単位で可変駆動するステップトラック方式により前記アンテナの指向方向を変化させて衛星追尾を行う際に、前記主偏波の受信レベルが最大値となる当該アンテナの仰角及び方位角を示す位置を探索して検出する受信レベル最大位置検出部と、当該主偏波の受信レベルが最大値となる前記アンテナの位置から相対的な仰角及び方位角として所定範囲内に定められた近傍で、前記交差偏波の受信レベルが局所的最小値となる当該アンテナの仰角及び方位角を示す位置を検出する受信レベル最小位置検出部と、前記アンテナを駆動制御するためのアンテナ駆動信号を生成する手段を有し、当該交差偏波の受信レベルとして局所的最小値を検出した仰角及び方位角を示す位置に前記アンテナを指向させるように前記アンテナを駆動制御するアンテナ駆動信号生成部と、を備えることを特徴とする。
【0022】
また、本発明の衛星追尾装置において、前記アンテナは、ビーコン信号における主偏波と交差偏波の受信信号をそれぞれ出力する機能を有するオフセットパラボラアンテナで構成されていることを特徴とする。
【0023】
また、本発明の衛星追尾装置において、前記所定範囲が、前記アンテナに固有の主偏波のアンテナパターンのピークの形状に対し、より急峻な特性を有するものとして予め測定済みの前記アンテナに固有の交差偏波のアンテナパターンのディップ点のうち前記アンテナのボアサイトに最も近接する位置に存在するディップ点を含むように予め定められた仰角及び方位角の範囲に設定されていることを特徴とする。
【0024】
また、本発明の衛星追尾装置において、前記所定範囲が、当該主偏波の受信レベルが最大値となる当該アンテナの仰角及び方位角の正面であるボアサイトに対して±1.00[deg.]以内の予め定められた仰角及び方位角の範囲に設定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、ビーコン信号の降雨による減衰やシンチレーションによる受信レベルの変動等の影響を軽減したステップトラック方式により、精度よく衛星追尾を行うことが可能となる。特に、本発明によれば、主偏波及び交差偏波の受信に対応した設備において、特段の設備の追加なく、受信レベルの変動に対する耐性を高めることで衛星追尾の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明による一実施形態の衛星追尾装置を備える衛星追尾システムの概略構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明による一実施形態の衛星追尾装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図3】衛星追尾装置に用いるアンテナの主偏波と交差偏波のアンテナパターンを示す図である。
【
図4】衛星追尾装置に用いるアンテナの指向方向として方位角のみを変化させたときの主偏波及び交差偏波の受信レベルの例を示すシミュレーション結果である。
【
図5】本発明による一実施形態の衛星追尾装置における本発明に係るステップトラック方式による衛星追尾の制御例を示すフローチャートである。
【
図6】(a)乃至(f)は、それぞれ本発明による一実施形態の衛星追尾装置と従来技術とを対比して、降雨減衰やシンチレーション等を模擬したガウス雑音の強度を変化させた時の衛星追尾の理想位置に対する誤差を示すシミュレーション結果の分布を示す図である。
【
図7】本発明による一実施形態の衛星追尾装置と従来技術とを対比して、衛星追尾の精度を理想位置からの距離で評価した図である。
【
図8】従来の典型的なステップトラック方式による衛星追尾装置を備える衛星追尾システムの概略構成を示すブロック図である。
【
図9】従来の衛星追尾装置における典型的なステップトラック方式による衛星追尾の制御例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して、人工衛星からのビーコン信号の受信レベルに基づく本発明に係るステップトラック方式による一実施形態の衛星追尾装置15について説明する。
【0028】
(衛星追尾システム)
図1は、本発明による一実施形態の衛星追尾装置15を備える衛星追尾システム1の概略構成を示すブロック図である。
【0029】
図1に示す一実施形態の衛星追尾システム1は、アンテナ11、アンテナ駆動装置12、第1のビーコン受信機13、第2のビーコン受信機14、及び衛星追尾装置15を備える。尚、
図1において、
図8に示すものと同様の構成要素には、同一の参照番号を付している。
【0030】
アンテナ11は、本例では人工衛星からのビーコン信号を受波するパラボラアンテナで構成される。ここで、本実施形態では、アンテナ11として、オフセットパラボラアンテナ等の指向性が鋭いものを想定している。また、アンテナ11は、本実施形態において、ビーコン信号における主偏波と交差偏波の受信信号をそれぞれ出力する機能を有する。
【0031】
アンテナ駆動装置12は、アンテナ11の仰角及び方位角について所定の角度(ステップ角度)単位で駆動するための装置であり、アンテナ11の現在の仰角及び方位角を示すアンテナ位置信号をフィードバック制御のために衛星追尾装置15に出力するとともに、衛星追尾装置15からのアンテナ駆動信号に基づいて、アンテナ11の仰角及び方位角を可変駆動する機能を有する。尚、衛星追尾装置15によってアンテナ11の仰角及び方位角の設定による監視制御(即ち、フィードフォワード制御)を行う場合には、アンテナ駆動装置12において、アンテナ位置信号の出力を省略した形態とすることも可能である。
【0032】
第1のビーコン受信機13は、アンテナ11から得られる主偏波の受信信号を入力して、その主偏波の受信レベルを測定し、衛星追尾装置15に出力する機能を有する。
【0033】
第2のビーコン受信機14は、アンテナ11から得られる交差偏波の受信信号を入力して、その交差偏波の受信レベルを測定し、衛星追尾装置15に出力する機能を有する。
【0034】
衛星追尾装置15は、アンテナ11を介して得られる主偏波及び交差偏波の受信レベルを基に所定の角度(ステップ角度)単位で可変駆動するステップトラック方式によりアンテナ11の指向方向を変化させて衛星追尾を行う装置である。より具体的に、衛星追尾装置15は、アンテナ11の仰角及び方位角について所定の角度(ステップ角度)単位で可変駆動するためのアンテナ駆動信号を生成してアンテナ駆動装置12を制御し、本例ではアンテナ駆動装置12から得られるアンテナ位置信号を参照しながら主偏波及び交差偏波の受信レベルを観測する。そして、衛星追尾装置15は、第1のビーコン受信機13から得られる主偏波の受信レベルが最大値となるアンテナ11の位置(仰角及び方位角に関する指向方向)を探索して検出する機能、当該主偏波の受信レベルが最大値となるアンテナ11の位置から相対的な仰角及び方位角として所定範囲(本例では±1[deg.])内に定められた近傍で、第2のビーコン受信機14から得られる交差偏波の受信レベルが局所的最小値(アンテナパターン上のディップ点を示す局所的な最小値)となるアンテナ11の位置(仰角及び方位角に関する指向方向)を検出する機能、及び当該交差偏波の受信レベルとして局所的最小値を検出した仰角及び方位角を示す位置にアンテナ11を指向させるようにアンテナ駆動信号を生成し、アンテナ駆動装置12を介してアンテナ11を駆動制御する機能を有する。
【0035】
(衛星追尾装置の構成)
より具体的に、
図2及び
図3を参照して、本発明に係る衛星追尾装置15の構成及び制御動作について説明する。
【0036】
まず、
図2は、本発明による一実施形態の衛星追尾装置15の概略構成を示すブロック図である。
図2に示す一実施形態の衛星追尾装置15は、受信レベル最大位置検出部151、受信レベル最小位置検出部152、アンテナ位置信号分配部153、及びアンテナ駆動信号生成部154を備える。
【0037】
受信レベル最大位置検出部151は、アンテナ位置信号分配部153によって分配されたアンテナ駆動装置12からのアンテナ位置信号を入力するとともに、第1のビーコン受信機13から主偏波の受信レベルを入力する。そして、受信レベル最大位置検出部151は、アンテナ駆動信号生成部154におけるステップトラック方式による所定の最大位置探索アルゴリズムに基づいてアンテナ11の仰角及び方位角の可変駆動制御が行われると、第1のビーコン受信機13からアンテナ位置信号に応じた主偏波の受信レベルを入力して記録し、主偏波の受信レベルが最大値となるアンテナ11の位置(仰角及び方位角に関する指向方向)を探索して検出し、アンテナ駆動信号生成部154に出力する機能を有する。
【0038】
尚、上記の最大位置探索アルゴリズムについては、従来と同様とすることができる。即ち、受信レベル最大位置検出部151は、ステップトラック方式における最大位置探索アルゴリズムとして、仰角及び方位角を個別に可変駆動しながら観測した主偏波の受信レベルから、主偏波の受信レベルが最大値となるアンテナ11の仰角及び方位角を示す位置を探索して検出するように構成される。
【0039】
受信レベル最小位置検出部152は、アンテナ位置信号分配部153によって分配されたアンテナ駆動装置12からのアンテナ位置信号を入力するとともに、第2のビーコン受信機14から交差偏波の受信レベルを入力する。そして、受信レベル最小位置検出部152は、アンテナ駆動信号生成部154におけるステップトラック方式による所定の最小位置探索アルゴリズムに基づいてアンテナ11の仰角及び方位角の可変駆動制御が行われると、第2のビーコン受信機14からアンテナ位置信号に応じた交差偏波の受信レベルを入力して記録し、当該主偏波の受信レベルが最大値となるアンテナ11の位置から相対的な仰角及び方位角として所定範囲(本例では±1[deg.])内に定められた近傍で、交差偏波の受信レベルが局所的最小値(アンテナパターン上のディップ点を示す局所的な最小値)となるアンテナ11の位置(仰角及び方位角に関する指向方向)を探索して検出し、アンテナ駆動信号生成部154に出力する機能を有する。
【0040】
尚、上記の最小位置探索アルゴリズムについては、最大位置探索アルゴリズムと同様とすることができる。
【0041】
アンテナ位置信号分配部153は、アンテナ駆動装置12からアンテナ位置信号を入力し、受信レベル最大位置検出部151、受信レベル最小位置検出部152、及びアンテナ駆動信号生成部154へと分配する機能部である。
【0042】
アンテナ駆動信号生成部154は、ステップトラック方式による主偏波に関する所定の最大位置探索アルゴリズムに基づいてアンテナ11の仰角及び方位角の可変駆動制御を行うためのアンテナ駆動信号を生成しアンテナ駆動装置12を介してアンテナ11を駆動制御する機能、及びステップトラック方式による交差偏波に関する所定の最小位置探索アルゴリズムに基づいてアンテナ11の仰角及び方位角の可変駆動制御を行うためのアンテナ駆動信号を生成しアンテナ駆動装置12を介してアンテナ11を駆動制御する機能を有する。また、アンテナ駆動信号生成部154は、一連の制御として、上述した最大位置探索アルゴリズム及び最小位置探索アルゴリズムに基づく制御に続いて、交差偏波の受信レベルとして局所的最小値を検出したアンテナ位置信号に対応する仰角及び方位角を示す位置にアンテナ11を指向させるようにアンテナ駆動信号を生成し、アンテナ駆動装置12を介してアンテナ11を駆動制御する機能を有する。
【0043】
このように、
図2に示す一実施形態の衛星追尾装置15は、主偏波の受信レベルについては最大値近傍であり、交差偏波の受信レベルについては局所的最小値となるアンテナ11の位置を検出し、その交差偏波の受信レベルについて局所的最小値を検出した仰角及び方位角を示す位置にアンテナ11を指向させるように駆動制御することで衛星追尾する。
【0044】
ところで、衛星追尾装置15(或いは従来の衛星追尾装置150)に用いるアンテナ11として用いることができるオフセットパラボラアンテナは、一般的に、主偏波は半値角で数度以内の鋭い指向性であるのに対して、交差偏波は偏波間干渉を抑圧するために、ボアサイトにおいて約40dB以上の交差偏波識別度となるよう設計されている。
【0045】
図3は、本発明に係る衛星追尾装置15に用いるアンテナ11の主偏波と交差偏波のアンテナパターンを示す図である。
図3に示されるように、交差偏波のアンテナパターンは、指向性アンテナにおける主偏波の最大利得を示す軸となるボアサイト(衛星の方向に対するアンテナ11の向きを示すオフセット角として0[deg.])付近において相対利得としてディップ点が見られることが特徴である。この交差偏波のアンテナパターンのディップ点は主偏波のアンテナパターンのピークの形状に対し、より急峻な特性を有しており、本発明に係る衛星追尾装置15は、この特徴を利用して、主偏波の受信レベルについては最大値近傍であり、交差偏波の受信レベルについては局所的最小値となるアンテナ11の位置を検出する。
【0046】
特に、
図4は、本発明に係る衛星追尾装置15に用いるアンテナ11の指向方向として方位角のみを変化させたときの主偏波及び交差偏波の受信レベルの例を示すシミュレーション結果である。
図4に示すこのシミュレーションでは静止軌道上の人工衛星から送信される無変調のビーコン信号を受信することを想定しており、アンテナ11の方位角を変化させると、アンテナパターンに応じた受信レベルとなることを利用している。これはアンテナパターンの測定法そのものでもある。一般的に人工衛星からのビーコン信号の受信レベルは微弱であるため受信系の熱雑音の影響を受けやすく、降雨減衰やシンチレーション等による伝搬路の影響もあるため、このシミュレーションでは、これらをガウス雑音で模擬している。この雑音が付加されることで、主偏波及び交差偏波の受信レベルのピークと
図3に示す実際のアンテナパターンのピークとに角度の誤差が生じてしまい、従来の衛星追尾装置150において、従来のステップトラック方式による衛星追尾を行った際には追尾精度が低下しやすいことがわかる。尚、図示を省略するが、アンテナ11の指向方向として仰角のみを変化させたときも交差偏波に利得のディップ点が生じる。
【0047】
そこで、本発明に係る衛星追尾装置15は、
図3に示すアンテナパターンのボアサイト付近において、交差偏波に利得のディップ点があることを利用し、ビーコン信号の受信レベルが主偏波で最大となる点を探索した後、その近傍周囲に限ってビーコン信号の受信レベルが交差偏波でアンテナパターン上のディップ点を示す局所的に最小となる点を探索することで、衛星追尾を行った際の追尾精度を向上させるようにしている。
【0048】
(衛星追尾装置の制御動作)
図5は、本発明による一実施形態の衛星追尾装置15における本発明に係るステップトラック方式による衛星追尾の制御例を示すフローチャートである。
【0049】
まず、衛星追尾装置15は、アンテナ駆動信号生成部154及び受信レベル最大位置検出部151の制御動作により、ステップトラック方式による所定の最大位置探索アルゴリズムに基づいて、アンテナ11を仰角・方位角方向に所定の角度(ステップ角度)単位で駆動制御し(ステップS1)、ビーコン受信機13から得られる主偏波の受信レベルが最大値となるアンテナ11の位置(仰角及び方位角に関する指向方向)を探索して検出する(ステップS2)。
【0050】
ここで、本発明に係るステップトラック方式における最大位置探索アルゴリズムは、従来技術と同様に、仰角及び方位角を個別に可変駆動しながら主偏波の受信レベルを所定の時間積分毎に観測し、前回の観測値よりも大きくなっていればアンテナ11の指向方向を前回の観測値が得られた方向と同じ方向に更に所定の角度(ステップ角度)だけ回転させ、前回の観測値よりも小さくなっていれば逆方向に回転させるものとすることができる。ここで、仰角及び方位角を同時に可変しながら最大値の探索を行う方法や、仰角及び方位角のうち一方を固定し他方を可変しながら観測し、その固定及び可変する対象を入れ替えながら行う方法や、これらの方法を組み合わせた方法とすることができる。また、受信レベル差に応じてステップ角度を可変する方法や、受信レベルそのものに応じてステップ角度を決定する方法を組み入れることもできる。
【0051】
次に、衛星追尾装置15は、アンテナ駆動信号生成部154及び受信レベル最小位置検出部152の制御動作により、当該主偏波の受信レベルが最大値となるアンテナ11の位置から相対的な仰角及び方位角として所定範囲(本例では±1[deg.])内に定められた近傍で、第2のビーコン受信機14から得られる交差偏波の受信レベルが局所的最小値となるアンテナ11の位置を検出する(ステップS3)。
【0052】
ここで、本発明に係るステップトラック方式における最小位置探索アルゴリズムは、最大位置探索アルゴリズムと同様とすることができる。
【0053】
最終的に、衛星追尾装置15は、アンテナ駆動信号生成部154の制御動作により、交差偏波の受信レベルとして局所的最小値を検出した仰角及び方位角を示す位置にアンテナ11を指向させるようにアンテナ駆動信号を生成し、アンテナ駆動装置12を介してアンテナ11を駆動制御する(ステップS4)。このようにして、本発明に係る衛星追尾装置15は、アンテナ11を仰角・方位角方向に駆動制御し、主偏波の受信レベルが最大になる位置を探索した後、その位置から相対的な仰角及び方位角として所定範囲内に定められた近傍で、交差偏波の受信レベルがアンテナパターン上のディップ点を示す局所的に最小となるアンテナ11の位置を検出し、その交差偏波の受信レベルについて局所的最小値を検出した仰角及び方位角を示す位置にアンテナ11を指向させるように駆動制御することで衛星追尾する。
【0054】
即ち、従来のステップトラック方式は主偏波のビーコン受信レベルが最大になる位置を探索するが、ビーコン信号の主偏波及び交差偏波の受信レベルは先に述べた通り一定ではないため、これが追尾誤差の原因となる場合がある。このため、本発明に係る衛星追尾装置15は、主偏波の受信レベルのピーク利得付近において、交差偏波のアンテナパターンが急峻なディップ点を有することを利用し、追尾誤差を軽減させる。
【0055】
つまり、この急峻なディップ点はビーコン信号の受信レベルの変動があったとしても、一般的にその変化には埋もれにくいと考えらえる。そこで、このアンテナパターンのディップ点を利用するためには、交差偏波の受信レベルだけではなく、まず主偏波の受信レベルが最大となる位置を検出して、その位置の周囲で交差偏波の受信レベルがアンテナパターン上のディップ点を示す局所的に最小となる位置を検出するのが有効である。従って、本発明に係るステップトラック方式によれば、交差偏波のアンテナパターンにおいてディップ点はあくまで局所的最小値であるから、探索範囲を限定することができ、ビーコン信号の受信レベルの変動に対する高い耐性を持たせることができるようになり、精度の良い衛星追尾が可能となる。
【0056】
ところで、本実施形態では、受信レベル最小位置検出部152の制御動作において、当該主偏波の受信レベルが最大値となるアンテナ11の位置から±1[deg.]とした所定範囲内に定められた近傍で、その円状に探索した結果から交差偏波の局所的最小値を得るとして説明したが、その「所定範囲」について、用途に応じて可変に設定できる。
【0057】
例えば、その「所定範囲」は、アンテナ11に固有の主偏波のアンテナパターンのピークの形状に対し、より急峻な特性を有するものとして予め測定済みのアンテナ11に固有の交差偏波のアンテナパターンのディップ点のうちアンテナ11のボアサイトに最も近接する位置に存在するディップ点を含むように予め定められた仰角及び方位角の範囲に設定されているものとする。例えば、5[dB/deg.]以上となる急峻な特性を有する箇所をディップ点として定めることができる。これにより、アンテナ11に固有の探索範囲に限定することができ、探索時間を縮小させることができる。
【0058】
一方、種々のアンテナパターンを持つアンテナ11に対して汎用性を持たせる所定範囲とする場合には、その「所定範囲」は、当該主偏波の受信レベルが最大値となるアンテナ11の仰角及び方位角の正面であるボアサイトに対して±1.00[deg.]以内の予め定められた仰角及び方位角の範囲に設定されているとする。このように種々のアンテナパターンを持つアンテナ11に対して汎用的でかつ限定的な探索範囲とすることで、余剰な探索時間を避けることができる。
【0059】
(衛星追尾装置の性能評価)
図6(a)乃至(f)は、それぞれ本発明による一実施形態の衛星追尾装置と従来技術とを対比して、降雨減衰やシンチレーション等を模擬したガウス雑音の強度を変化させた時の衛星追尾の理想位置に対する誤差を示すシミュレーション結果の分布を示す図である。尚、
図6中の原点は、理想的な衛星追尾結果(理想位置)に相当する。ガウス雑音σは一例として、それぞれ
図6(a)乃至(f)に示すように、平均値0[dB]とする標準偏差0~5[dB]を想定している。
【0060】
図6(a)に示すガウス雑音σ=0[dB]は、即ち雑音がない場合を示しており、従来及び本発明によるステップトラック方式のいずれにおいても追尾誤差はないことを示している。
【0061】
しかし、
図6(b)乃至(f)に示すように、ガウス雑音σの雑音強度の増加にともない、従来及び本発明によるいずれのステップトラック方式においても追尾誤差が増加していることがわかる。これは、ステップトラック方式において基準としているビーコン信号の主偏波及び交差偏波の受信レベルの各最大値が、雑音により擾乱されるためである。
図6に係るシミュレーションで想定したいずれの雑音強度においても、従来と比較して本発明に係るステップトラック方式の方が理想位置に対する誤差が小さくなる傾向が示されており、より良好な追尾精度を実現できることがわかる。
【0062】
また、
図7は、本発明による一実施形態の衛星追尾装置15と従来技術とを対比して、衛星追尾の精度を理想位置からの距離で評価した図である。
図7では、
図6の衛星追尾の精度を表す評価として、理想位置(
図6中の原点)からのユークリッド距離の平均値(追尾誤差の平均値)を示している。
図7から、従来と本発明に係るステップトラック方式のいずれも、雑音強度の増加に伴い追尾誤差が増加しているが、従来と比較して本発明に係るステップトラック方式の方がより良好な追尾精度を実現できることがわかる。
【0063】
このように、
図6及び
図7で示したシミュレーション結果では、従来技術と比較して、本発明に係る衛星追尾装置15の方がよりロバスト性があることを示している。従って、本発明に係る衛星追尾装置15は、ビーコン信号の受信レベルの変動に対する高い耐性を持たせることができるようになり、精度の良い衛星追尾が可能となる。
【0064】
以上、特定の実施形態の例を挙げて本発明を説明したが、本発明は前述の実施形態の例に限定されるものではなく、その技術思想を逸脱しない範囲で種々変形可能である。例えば、上述した一実施形態の衛星追尾システム1の例では、主偏波のビーコン信号用の第1のビーコン受信機13と、交差偏波のビーコン信号用の第2のビーコン受信機14をそれぞれ個別に備える例を説明したが、1つのビーコン受信機を用いて、主偏波と交差偏波の信号レベルをスイッチ等で切り替えて計測する形態とすることもできる。また、本発明に係る衛星追尾装置15は、衛星通信や電波の観測など、人工衛星からのビーコン信号を基に行う種々の衛星追尾の形態に利用できるものであり、例えばアンテナ11について放送設備又は通信設備等に非移動箇所に設置されている場合に限らず、船舶、飛行機、電車、自動車などの移動体に搭載されたものとすることができ、移動体の移動中においても衛星を精度よく追尾する用途に利用できる。従って、本発明は、前述の実施形態の例に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載によってのみ制限される。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明によれば、衛星通信や電波の観測など、人工衛星からのビーコン信号を基に行う衛星追尾において有用である。
【符号の説明】
【0066】
1 本発明に係る衛星追尾システム
11 アンテナ
12 アンテナ駆動装置
13 第1のビーコン受信機(又はビーコン受信機)
14 第2のビーコン受信機
15 衛星追尾装置
100 従来の衛星追尾システム
150 従来の衛星追尾装置
151 受信レベル最大位置検出部
152 受信レベル最小位置検出部
153 アンテナ位置信号分配部
154 アンテナ駆動信号生成部