(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024019878
(43)【公開日】2024-02-14
(54)【発明の名称】検査装置、検査方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 21/956 20060101AFI20240206BHJP
【FI】
G01N21/956 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022122623
(22)【出願日】2022-08-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(71)【出願人】
【識別番号】504162958
【氏名又は名称】株式会社ニューフレアテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 隆志
(72)【発明者】
【氏名】井上 広
(72)【発明者】
【氏名】小野 利幸
【テーマコード(参考)】
2G051
【Fターム(参考)】
2G051AA56
2G051AB01
2G051AB02
2G051AC21
2G051CB01
2G051CB02
2G051EA12
2G051EB05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】簡易な画像処理のみを用いて、比較対象となる画像同士のパターンのずれを許容しつつ、欠陥や異物等の異常のみを検出可能な検査装置を提供する。
【解決手段】実施形態の検査装置は、画像取得部と、画像変形部と、差分生成部と、差分統合部と、異常検出部と、を備える。画像取得部は、検査対象を検査するための第1の画像と第2の画像を取得する。画像変形部は、前記第1の画像及び前記第2の画像の少なくとも一方に対して複数の変形処理を適用して複数の変形画像を生成する。差分生成部は、前記複数の変形画像を用いて、前記第1の画像と前記第2の画像との画素値の差分値を画素毎に算出する。差分統合部は、前記複数の変形画像のそれぞれに対して算出された複数の前記差分値を統合した統合差分値を画素毎に算出する。異常検出部は、前記統合差分値に基づいて検査対象の異常を検出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象を検査するための第1の画像と第2の画像を取得する画像取得部と、
前記第1の画像及び前記第2の画像の少なくとも一方に対して複数の変形処理を適用して複数の変形画像を生成する画像変形部と、
前記複数の変形画像を用いて、前記第1の画像と前記第2の画像との画素値の差分値を画素毎に算出する差分生成部と、
前記複数の変形画像のそれぞれに対して算出された複数の前記差分値を統合した統合差分値を画素毎に算出する差分統合部と、
前記統合差分値に基づいて検査対象の異常を検出する異常検出部と、
を備える検査装置。
【請求項2】
前記第1の画像は、検査対象を透過した光に基づいて生成された透過画像であり、
前記第2の画像は、検査対象から反射した光に基づいて生成された反射画像であり、
前記差分生成部は、前記透過画像及び前記反射画像の一方に対して明暗を反転する反転処理を適用して反転画像を生成し、前記透過画像及び前記反射画像のうち前記反転処理を適用していない通常画像と前記反転画像とを用いて前記差分値を算出する、
請求項1に記載の検査装置。
【請求項3】
前記変形処理は、膨張処理または収縮処理である、
請求項2に記載の検査装置。
【請求項4】
前記画像変形部は、
前記変形処理として前記膨張処理を適用する場合、前記膨張処理の後に前記収縮処理を適用した画像と変形処理を行う前の画像との画素値の変化量に応じて、当該膨張処理を適用するか否かを画素毎に判定し、
前記変形処理として前記収縮処理を適用する場合、前記収縮処理の後に前記膨張処理を適用した画像と変形処理を行う前の画像との画素値の変化量に応じて、当該収縮処理を適用するか否かを画素毎に判定する、
請求項3に記載の検査装置。
【請求項5】
前記画像変形部は、前記変化量が大きい画素に対して前記変形処理を適用せず、前記変化量が小さい画素に対して前記変形処理を適用する、
請求項4に記載の検査装置。
【請求項6】
前記差分生成部は、前記反転画像と前記通常画像との画素値の範囲が一致するように、前記反転画像または前記通常画像に対して画素値補正を実行し、前記画素値補正後の画像を用いて前記差分値を算出する、
請求項2に記載の検査装置。
【請求項7】
前記差分統合部は、前記複数の差分値のうち絶対値が最小の値を前記統合差分値として選択する、
請求項1に記載の検査装置。
【請求項8】
前記差分統合部は、前記複数の差分値の中に符号が異なる値を含む画素について、前記統合差分値を0にする、
請求項1に記載の検査装置。
【請求項9】
前記差分生成部は、
前記第1の画像の変形画像のみが生成されている場合、前記差分値として、前記複数の変形画像のそれぞれの画素値と前記第2の画像の画素値との差分を算出し、
前記第2の画像の変形画像のみが生成されている場合、前記差分値として、前記複数の変形画像のそれぞれの画素値と前記第1の画像の画素値との画素値の差分を算出し、
前記第1の画像の変形画像と前記第2の画像の変形画像の両方が生成されている場合、前記差分値として、前記第1の画像の変形画像のそれぞれの画素値と、前記第2の画像の変形画像のそれぞれの画素値との差分を算出する、
請求項1に記載の検査装置。
【請求項10】
前記差分生成部は、前記第1の画像の変形画像の画素値と前記第2の画像の画素値との差分を第1の差分値として算出し、前記第2の画像の変形画像の画素値と前記第1の画像の画素値との差分を第2の差分値として算出し、
前記差分統合部は、複数の前記第1の差分値を統合して第1の統合差分値を算出し、複数の前記第2の差分値を統合して第2の統合差分値を算出し、前記第1の統合差分値と前記第2の統合差分値とを統合して前記統合差分値を算出する、
請求項1に記載の検査装置。
【請求項11】
検査対象を検査するための第1の画像と第2の画像を取得することと、
前記第1の画像及び前記第2の画像の少なくとも一方に対して複数の変形処理を適用して複数の変形画像を生成することと、
前記複数の変形画像を用いて、前記第1の画像と前記第2の画像との画素値の差分値を画素毎に算出することと、
前記複数の変形画像のそれぞれに対して算出された複数の前記差分値を統合した統合差分値を画素毎に算出することと、
前記統合差分値に基づいて検査対象の異常を検出することと、
を備える検査方法。
【請求項12】
コンピュータに、
検査対象を検査するための第1の画像と第2の画像を取得する機能と、
前記第1の画像及び前記第2の画像の少なくとも一方に対して複数の変形処理を適用して複数の変形画像を生成する機能と、
前記複数の変形画像を用いて、前記第1の画像と前記第2の画像との画素値の差分値を画素毎に算出する機能と、
前記複数の変形画像のそれぞれに対して算出された複数の前記差分値を統合した統合差分値を画素毎に算出する機能と、
前記統合差分値に基づいて検査対象の異常を検出する機能と、
を実現させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、検査装置、検査方法およびプログラムに関し、例えば、ガラス上にパターンを形成した試料の異常を検査する検査装置、検査方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
試料の異常を検査するために、複数の画像を比較する装置が用いられている。検査対象となる試料としては、例えば、半導体素子を製造するためのマスクが挙げられる。検査の際、ガラスなどの素材の上に回路パターンを形成したマスクを通して露光させることでウエハ上にパターンを形成する。このため、マスクのパターン欠陥やマスクに付着した異物等の異常は、歩留まりの低下につながる。
【0003】
マスクのパターン欠陥を検査する方法としては、例えば、特許文献1のように、ダイとダイとの比較検査やダイとデータベースとの比較検査がある。ダイとダイとの比較検査では、レチクル上の2つのダイ、即ち基準となるダイの基準画像と検査対象となるダイの検査画像とを比較する。また、ダイとデータベースとの比較検査では、設計パターンを示すCADデータから生成した基準画像と検査対象となるダイの検査画像とを比較する。また、欠陥や異物を検査する方法としては、例えば、検査対象となるダイを異なる方法で撮像した画像を比較する検査方法がある。この検査方法の代表的なものとしては、特許文献2のように、試料を透過した光で生成した透過画像と、試料から反射した光で生成した反射画像とを比較する方法が挙げられる。
【0004】
近年、半導体素子の微細化に伴い、検査対象の撮像における光学倍率は高くなっている。これに伴い、比較対象同士の位置ずれなどが検査に及ぼす影響が大きくなり、本来見つけるべき欠陥や異物を含まない正常な領域でも検査画像同士で差異が生じてしまい、誤検知の原因となることが問題となっている。
【0005】
例えば、基準画像と検査画像の位置ずれを補正するためのパラメータを連立方程式により算出して当該パラメータを用いて基準画像の位置を補正した補正画像を生成し、補正画像と検査画像との比較を行う検査方法が知られている。しかしながら、実際の画像から位置ずれを正確に計算して補正を行うこのような方法では、連立方程式を解くなどの煩雑な処理や、パターン形状毎に多数の補正情報を保持するなどの処理が必要となる。さらに、光学倍率の向上に伴い、単純な位置ずれのみでなく、欠陥に起因しないパターンの揺らぎや光学特性に起因する画像上の不均一なずれも補正する場合、さらに煩雑な処理が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-229555号公報
【特許文献2】特開昭58-162038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
実施形態が解決しようとする課題は、簡易な画像処理のみを用いて、比較対象となる画像同士のパターンのずれを許容しつつ、欠陥や異物等の異常のみを検出可能な検査装置、検査方法およびプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決するため、実施形態の検査装置は、画像取得部と、画像変形部と、差分生成部と、差分統合部と、異常検出部と、を備える。画像取得部は、検査対象を検査するための第1の画像と第2の画像を取得する。画像変形部は、前記第1の画像及び前記第2の画像の少なくとも一方に対して複数の変形処理を適用して複数の変形画像を生成する。差分生成部は、前記複数の変形画像を用いて、前記第1の画像と前記第2の画像との画素値の差分値を画素毎に算出する。差分統合部は、前記複数の変形画像のそれぞれに対して算出された複数の前記差分値を統合した統合差分値を画素毎に算出する。異常検出部は、前記統合差分値に基づいて検査対象の異常を検出する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一実施形態の検査装置の構成例を示す概念図。
【
図2】一般的な透過画像と反射画像の特徴を説明するための図。
【
図3】透過画像と反射画像を用いて異常を検出する一般的な方法の一例を説明するための図。
【
図4】一実施形態の検査装置の動作例を示すフローチャート。
【
図5】透過画像から複数の変形画像を生成する処理の一例を示す図。
【
図6】透過画像の変形画像と反射画像を用いて差分画像を生成する処理の一例を示す図。
【
図7】透過画像の変形画像と反転反射画像の画素値の一例を示す図。
【
図8】複数の差分値を統合する処理の一例を説明するための図。
【
図9】エッジ検出処理により算出された統合差分値の一例を示す図。
【
図10】第1の変形例の検査装置による変形処理を説明するための示す図。
【
図12】第2の変形例の検査装置の動作例を示すフローチャート。
【
図13】第2の変形例による反射画像の変形画像と透過画像の画素値の一例を示す図。
【
図14】第2の変形例による複数の差分値を統合する処理の一例を説明するための図。
【
図16】第3の変形例の検査装置の動作例を示すフローチャート。
【
図17】第3の変形例による複数の差分値を統合する処理の一例を説明するための図。
【
図18】第4の変形例に係る検査装置のハードウェア構成の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、検査装置、方法およびプログラムの実施形態について詳細に説明する。以下の説明において、略同一の機能及び構成を有する構成要素については、同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。
【0011】
(装置説明)
図1は、一実施形態の検査方法が適用された検査装置10の構成例を示す概念図である。検査装置10は、半導体素子を製造するためのマスクの異常を検査する装置である。マスクの異常は、例えば、マスクの欠陥やマスクに付着した異物である。本実施形態では、主に、マスクに付着した異物を検出する場合について説明する。
【0012】
図1に示すように、検査装置10は、検査装置10全体を制御する処理回路と、記憶媒体(メモリ)と、を備える。処理回路は、記憶媒体内のプログラムを呼び出し実行することにより、画像取得部101、画像変形部102、差分生成部103、差分統合部104、および異常検出部105の機能を実行するプロセッサである。処理回路は、CPU(Central Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)又はFPGA(Field Programmable Gate Array)等を含む集積回路から形成される。プロセッサは、1つの集積回路から形成されてもよく、複数の集積回路から形成されてもよい。
【0013】
なお、画像取得部101、画像変形部102、差分生成部103、差分統合部104、および異常検出部105は、CPU等のプロセッサによって実行されるソフトウェアによって実現されてもよいし、専用のハードウェアによって実現されてもよい。すなわち、画像取得部101、画像変形部102、差分生成部103、差分統合部104、および異常検出部105が有する各機能は、単一の処理回路にて実現されてもよく、複数の独立したプロセッサを組み合わせて処理回路を構成し、各プロセッサがプログラムを実行することにより各機能を実現するものとしても構わない。また、画像取得部101、画像変形部102、差分生成部103、差分統合部104、および異常検出部105が有する各機能は、個別のハードウェア回路として実装してもよい。
【0014】
記憶媒体には、プロセッサで用いられる処理プログラム、及び、プロセッサでの演算で用いられるパラメータ及びテーブル等が記憶される。記憶媒体は、種々の情報を記憶するHDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)、集積回路等の記憶装置である。また、記憶装置は、HDDやSSD等以外にも、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、フラッシュメモリ等の可搬性記憶媒体であってもよく、フラッシュメモリ、RAM(Random Access Memory)等の半導体メモリ素子等との間で種々の情報を読み書きする駆動装置であってもよい。
【0015】
画像取得部101は、検査対象を検査するための画像1と画像2を取得する。画像1は、第1の画像に相当する。画像2は、第2の画像に相当する。画像取得部101は、画像1を画像変形部102に出力し、画像2を差分生成部103に出力する。画像1及び画像2は、検査装置10のメモリに予め記憶されていてもよく、検査装置10に有線または無線で接続された外部機器やデータベースから取得されてもよい。
【0016】
画像1及び画像2は、マスクの異常の検査を行うために用いる2種類の画像である。例えば、マスクに付着した異物の検出を行う場合、画像1及び画像2として、検査対象であるマスクを透過した光に基づいて生成された透過画像と、検査対象であるマスクから反射した光に基づいて生成された反射画像が用いられる。例えば、画像1が透過画像である場合、画像2は反射画像となり、画像1が反射画像である場合、画像2は透過画像となる。
【0017】
また、検査装置10がマスクの欠陥の検出を行う検査装置である場合、画像1及び画像2として、基準となるマスク画像(以下、基準画像と呼ぶ)と検査対象となるマスク画像(以下、検査画像と呼ぶ)が用いられる。例えば、画像1が基準画像である場合、画像2は検査画像となり、画像1が検査画像である場合、画像2は基準画像となる。基準画像は、例えば、マスクの設計パターンを示すCADデータから生成した画像や、正常なマスクを撮影して生成された画像である。
【0018】
画像変形部102は、画像1及び画像2の少なくとも一方に対して複数の変形処理を適用して複数の変形画像を生成する。本実施形態では、画像変形部102は、画像取得部101から出力された画像1に対して複数の異なる変形処理を行い、変形画像を生成する。その後、画像変形部102は、生成された変形画像を差分生成部103に出力する。
【0019】
透過画像と反射画像を画像1及び画像2として用いる場合、変形処理としては、例えば、膨張処理または収縮処理が用いられる。膨張処理とは、各画素の画素値を当該画素の近傍画素における最大の画素値で置き換える処理を指す。収縮処理とは、各画素の画素値を当該画素の近傍画素における最小の画素値で置き換える処理を指す。例えば、変形処理として膨張処理を用いる場合、複数の異なる変形処理として、参照する近傍画素の範囲が異なる複数の膨張処理が用いられる。また、変形処理として収縮処理を用いる場合、複数の異なる変形処理として、参照する近傍画素の範囲が異なる複数の収縮処理が用いられる。
【0020】
差分生成部103は、複数の変形画像を用いて、画像1と画像2との画素値の差分値(以下、画素値差分とも呼ぶ)を画素毎に算出する。本実施形態では、差分生成部103は、画像変形部102から出力された複数の変形画像と、画像取得部101から出力された画像2を取得し、複数の変形画像のそれぞれについて、画像2との画素値の差分値を画素毎に算出する。その後、差分生成部103は、変形画像毎に得られた複数の差分値を差分統合部104に出力する。
【0021】
透過画像と反射画像は、明暗が反転している。このため、画像1及び画像2として透過画像及び反射画像を用いる場合、差分生成部103は、差分値を算出する際に、透過画像及び反射画像の一方に対して明暗を反転する反転処理を適用して反転画像を生成し、透過画像及び反射画像のうち反転処理を適用していない通常画像と、反転処理を適用した反転画像とを用いて差分値を算出する。
【0022】
また、差分値を算出する際に、差分生成部103は、反転画像と通常画像との画素値の範囲が一致するように、反転画像または通常画像に対して画素値補正を実行し、画素値補正後の画像を用いて差分値を算出する。このように、差分値を算出する2つの画像の画素値を合わせこんでから差分値の算出を行うことで、異常が無い正常な領域における差分値を小さく抑えることができる。
【0023】
差分統合部104は、差分生成部103から出力された複数の差分値を統合し、最終的な差分値を得る。具体的には、差分統合部104は、複数の変形画像のそれぞれに対して算出された複数の差分値を統合した差分値(以下、統合差分値と呼ぶ)を画素毎に算出する。例えば、画素毎に、複数の差分値の中から絶対値が最小となる値が選択され、その絶対値が統合差分値として算出される。このように統合差分値を算出することにより、画像1及び画像2におけるパターンのわずかなずれに起因して生じる画素値の差を小さく抑えることができる。なお、他の任意の方法で差分値を統合してもよい。差分統合部104は、算出した統合差分値を異常検出部105に出力する。
【0024】
異常検出部105は、統合差分値に基づいて検査対象の異常を検出する。具体的には、異常検出部105は、差分統合部104から出力された統合差分値に基づいて、画素毎に、正常及び異常のいずれであるかの判定を行う。異物の付着や欠陥等の異常がある場合、異物が付着している領域や欠陥がある領域の画素では、統合差分値が大きくなる。このため、例えば、統合差分値に対する閾値処理を行うことにより、その画素が正常であるか異常であるかの判定を行うことができる。閾値は、予め設定され、例えば検査装置10のメモリに記憶されている。なお、統合差分値を用いた他の任意の方法で異常の検出を行ってもよい。異常検出部105は、異常の検出結果を含む異常情報を外部機器等へ出力する。
【0025】
前述のように、差分統合部104の処理において、複数の差分値の中から絶対値が最小となる値が選択されることにより、パターンのわずかなずれに起因する画素値の差を小さく抑えることができる。これにより、マスクの異常に起因する画素値の差分のみを精度よく検出することができ、結果として異常検出性能が向上する。すなわち、差分統合部104の処理により、画像1と画像2におけるわずかなパターンずれの影響は抑制されているため、異常が存在しない正常領域では、統合差分値が小さくなる。このため、異常検出部105の処理において、閾値以上の差分値を持つ画素のみを異常と判定することで、正しく異常を検出することができる。
【0026】
(動作説明)
次に、検査装置10により実行される処理の動作について説明する。ここでは、異常検出処理として、透過画像と反射画像を用いてマスクに付着した異物を検出する処理を例に説明する。
また、画像1が透過画像であり、画像2が反射画像である場合について説明する。
【0027】
ここで、
図2と
図3を用いて、透過画像と反射画像の一般的な特徴について説明する。
図2は、透過画像と反射画像の一般的な特性を示す概念図である。
図2は、同一試料の同一位置を撮像して透過画像と反射画像を生成した例である。
図2に示すように、一般的に、透過画像と反射画像は、それぞれ試料を透過した光と試料から反射した光を用いて撮像されることから、明暗が逆転した性質を持つ。
図3は、透過画像の画素値と、反射画像の画素値と、透過画像と反射画像の画素値の差分値の一般的な関係を説明するための図である。
図3は、反射画像の明暗を反転させた状態を示している。
【0028】
図3は、異物の影響により、領域A1において透過画像の画素値が低下した例を示している。領域Aでは、異常の存在により透過画像の画素値のみが低下しているため、透過画像と反射画像の差分値が大きくなっており、異常を検知することができる。
【0029】
また、一般的に、透過画像と反射画像では、光学特性に起因するパターンエッジのずれが生じる。このため、
図2に示すように、透過画像における明部のパターンは、反射画像における暗部のパターンと比較して小さく写る。透過画像と反射画像を撮像する際の光学倍率が高くなるほど、パターンエッジのずれが検査に与える影響は大きくなる。パターンエッジのずれが大きくなると、異常が存在しない場合でも、
図3に示すように、パターンエッジの周辺領域A2において大きな差分値が発生し、異常の誤検知が生じることがある。
【0030】
図4は、検査装置10により実行される異常検出処理の手順の一例を示すフローチャートである。なお、以下で説明する各処理における処理手順は一例に過ぎず、各処理は可能な限り適宜変更可能である。また、以下で説明する処理手順について、実施の形態に応じて、適宜、ステップの省略、置換、及び追加が可能である。
【0031】
(ステップS1)
ステップS1において、画像取得部101は、透過画像と反射画像を取得する。例えば、実際に撮像を行うことにより、透過画像と反射画像を取得する。この場合、実際に検査対象試料に可視光や紫外光などの光を照射し、試料を透過した透過光と試料を反射した反射光をセンサで受信し、受信結果に基づいて透過画像と反射画像が生成される。または、あらかじめ撮像しておいた透過画像と反射画像をメモリなどの記憶媒体から読み出すことにより、透過画像と反射画像を取得してもよい。透過画像と反射画像を取得した後、画像取得部101は、透過画像を画像変形部102に出力し、反射画像を差分生成部103に出力する。
【0032】
(ステップS2)
ステップS2において、画像変形部102は、画像取得部101から出力された透過画像に対して変形処理を適用する。上述のように、透過画像における明部パターンは反射画像の同一領域の暗部パターンと比較して小さく写っているため、透過画像に膨張処理を適用することにより、透過画像の明部パターンの大きさを反射画像の暗部パターンに近づけることができる。
図5は、透過画像から複数の変形画像を生成する処理の一例を示す図である。
図5に示すように、本実施形態では、画像変形部102は、参照範囲が異なる3種類の膨張処理を透過画像に適用し、0画素分の近傍画素を参照してその中の最大画素値に置き換えた0画素膨張画像(変形画像1)と、1画素分の近傍画素を参照してその中の最大画素値に置き換えた1画素膨張画像(変形画像2)と、2画素分の近傍画素を参照してその中の最大画素値に置き換えた2画素膨張画像(変形画像3)を複数の変形画像として生成する。0画素膨張画像は、元の透過画像と同じ画像となる。1画素膨張画像は、元の透過画像の明部が1画素分膨張した画像である。2画素膨張画像は、元の透過画像の明部が2画素分膨張した画像である。画像変形部102は、生成した3種類の変形画像を差分生成部103に出力する。
【0033】
本実施形態では、複数の変形画像として3種類の膨張画像が生成される例について説明したが、変形画像が生成される数は、検査対象の画像の性質に応じて任意の数に設定されてもよい。例えば、膨張処理において参照する近傍画素の数が異なる2種類の変形画像が生成されてもよく、4種類以上の変形画像が生成されてもよい。また、透過画像と反射画像のパターンエッジのずれの画素数に応じて、膨張する画素数を設定してもよい。例えば、パターンエッジがずれる画素数を予め調査しておき、その数だけ明部パターンを膨張させる膨張処理を適用してもよい。
【0034】
(ステップS3)
ステップS3において、差分生成部103は、画像取得部101から出力された反射画像と、画像変形部102から出力された各変形画像との画素値の差分値を算出する。差分値は、画素値(輝度値)の差である。本実施形態では画像変形部102により3種類の膨張画像が出力されるため、差分生成部103は、0画素膨張画像と反射画像との差分値と、1画素膨張画像と反射画像の画素の差分値と、2画素膨張画像と反射画像の画素の差分値の3つの差分値を、画素ごとに算出する。
【0035】
ここで、差分値の算出方法について、
図6を用いて詳細に説明する。
図6は、透過画像の変形画像と反射画像を用いて差分画像を生成する処理の一例を示す図である。上述の通り、透過画像と反射画像とは明暗が逆転している。このため、透過画像と反射画像の差分値を算出する際には、まず、透過画像と反射画像のいずれかの明暗を反転させる必要がある。本実施形態では、差分生成部103は、まず、反射画像の明暗を反転した反転反射画像を生成する。明暗の反転は、例えば、理論上の最大画素値から当該画素の画素値を減じることで実現できる。即ち、8ビット画像であれば最大画素値である255から当該画素の画素値を減じることにより、画素値の反転を行うことができる。
【0036】
また、変形画像と反転反射画像では、明部や暗部の画素値が異なる場合がある。そこで、差分生成部103は、変形画像と反転反射画像の画素値の範囲(画素値レンジ)が一致するように、変形画像及び反転反射画像の片方または両方に対して画素値を補正する補正処理を実行する。そして、補正後の画像を用いて差分値を算出することで、正常領域における差分値を小さく抑えることができる。
【0037】
ここでは、一例として、反転反射画像の画素位置(x,y)の画素値R(x,y)を式(1)により補正する場合について説明する。
【0038】
【0039】
式(1)におけるR
L、R
D、T
L、T
Dは、それぞれ、反転反射画像の明部の代表画素値、反転反射画像の暗部の代表画素値、変形画像の明部の代表画素値、変形画像の暗部の代表画素値を示す。代表値は、撮像時のキャリブレーション結果などを用いて予め決定してもよく、画像から直接算出しても良い。画像から直接算出する場合、例えば、明部や暗部の一部領域における画素値の平均値や中央値や、画素値のヒストグラムにおいてピークをとる画素値等を代表値として用いることができる。式(1)による線形変換を反転反射画像に適用することで、反転反射画像と変形画像の明部と暗部の画素値が一致する。このため、補正処理を行うことにより、透過画像と反射画像のパターンずれに起因する差分以外の差分を抑制することができる。例えば、
図6の例では、変形画像1と画素値補正後の反転反射画像を用いて算出した差分値に基づいて生成された差分画像1では、パターンエッジ周辺は、透過画像と反射画像のパターンずれに起因する差分値が大きいため明部となり、それ以外の領域では、補正処理により差分値が小さくなるため暗部となっている。
【0040】
なお、ここでは、反射画像に対して明暗を反転する反転処理を行い、反転反射画像に対して画素値を補正する補正処理を行うことにより、反射反転画像の画素値を変形画像に合わせて補正する場合を例に説明したが、これらの処理は透過画像の変形画像に対して行われてもよい。例えば、変形画像に対して反転処理を適用して変形画像の明暗を反転してもよい。また、反転後の変形画像の画素値を反射画像に合わせて補正してもよい。また、変形画像に対して反転処理と補正処理の一方を適用し、反射画像に対して反転処理と補正処理の他方を適用してもよい。
【0041】
また、透過画像の変形画像を生成する前に、透過画像に対して反転処理を実行してもよい。この場合、透過画像を反転した反転透過画像に対して、膨張処理の代わりに収縮処理を変形処理として適用する。これにより、透過画像の膨張画像に対して反転処理を行った場合と同様の画像を生成することができる。
【0042】
(ステップS4)
ステップS4において、差分統合部104は、差分生成部103が出力した複数の差分値を統合して統合差分値を算出する。統合差分値は、最終的な差分値である。差分統合部104は、算出した統合差分値を異常検出部105に出力する。差分値の統合方法としては、例えば、変形画像毎に算出された複数の差分値の絶対値を比較し、その中の最小値を最終的な統合差分値として選択する方法が挙げられる。この方法により、パターンずれに起因する差分値を抑制することができる。
【0043】
ここで、差分値を算出する処理と差分値を統合する処理について
図7乃至
図9を用いて詳細に説明する。
図7は、各変形画像と反転反射画像の画素値を示す図である。
図7は、画像の中心の1画素ラインにおける画素値を示している。
図7の横軸は、1画素ラインにおける位置を示す。
図7の縦軸は、画素値を示す。
図7(a)は、変形画像1(0画素膨張画像)と反転反射画像の画素値を示し、
図7(b)は変形画像2(1画素膨張画像)と反転反射画像の画素値を示し、
図7(c)は変形画像3(2画素膨張画像)と反転反射画像の画素値を示す。
図7では、実線が変形画像の画素値を示し、破線が反転反射画像の画素値を示している。
【0044】
図8は、複数の差分値を統合する処理の一例を説明するための図である。
図8の横軸は、
図7と同じ1画素ラインにおける位置を示す。
図8(a)-(c)の縦軸は、各変形画像と反転反射画像の差分値の絶対値を示す。
図8(a)は、変形画像1(0画素膨張画像)と反転反射画像の差分値の絶対値を示し、
図8(b)は変形画像2(1画素膨張画像)と反転反射画像の差分値の絶対値を示し、
図8(c)は変形画像3(2画素膨張画像)と反転反射画像の差分値の絶対値を示す。
【0045】
図7及び
図8に示すように、透過画像の明部のパターンの幅が反転反射画像よりも小さいため、パターンエッジの周辺領域A2では、透過画像と同じ変形画像1(0画素膨張画像)と反転反射画像との差分値が大きくなっていることがわかる。一方、変形画像2(1画素膨張画像)では、透過画像の明部のパターンの幅が大きくなっているため、パターンエッジの周辺領域A2では、変形画像1に比べてパターンエッジの位置が反転反射画像のパターンエッジの位置に近づいている。このため、変形画像2では、パターンエッジの周辺領域A2では、反転反射画像との差分値が小さくなっている。さらに、変形画像3(2画素膨張画像)では、透過画像の明部のパターンの幅が反転反射画像よりも大きくなり、パターンエッジの位置が外側に移動したことで、パターンエッジの周辺領域A2では、変形画像3と反転反射画像のパターンエッジの位置関係が逆転している。このため、変形画像3と反転反射画像の差分値が大きくなる位置が異なっている。また、変形画像3においても、変形画像1に比べてパターンエッジの位置が反転反射画像のパターンエッジの位置に近づいているため、パターンエッジの周辺領域における反転反射画像との差分値が小さくなっている。
【0046】
図8(d)は、統合差分値を示す図である。
図8(d)の縦軸は、統合差分値を示す。統合差分値は、複数の差分値の中の最小値が画素毎に選択される。このため、例えばパターンエッジの周辺領域A2では、変形画像2(1画素膨張画像)と反転反射画像との差分値と、変形画像3(2画素膨張画像)と反転反射画像との差分値のいずれかの値が選択されるため、統合差分値の値が小さく抑えられていることがわかる。
【0047】
また、本実施形態では、パターンエッジにおける差分値をさらに抑制するために、パターンエッジの位置を特定し、特定した領域の統合差分値を0にする処理(以下、エッジ特定処理と呼ぶ)を実行してもよい。エッジ特定処理は、実行されなくてもよい。
図9は、
図8(d)の統合差分値にエッジ特定処理を適用した場合の統合差分値を示す図である。
図9の横軸は、
図7と同じ1画素ラインにおける位置を示す。
図9の縦軸は、統合差分値を示す。膨張処理の膨張数が大きくなるにつれて、変形処理における変形の度合いが大きくなると、
図7(b)と
図7(c)のように、変形画像と反転反射画像とのパターンエッジの位置関係が逆転する。例えば、パターンエッジ周辺において、
図7(a)、(b)に示すように、変形画像1及び変形画像2の画素値は反転反射画像の画素値よりも大きくなっているが、
図7(b)に示すように、変形画像3の画素値は反転反射画像の画素値よりも小さくなっている。このため、各変形画像と反転反射画像との画素値の大小関係が逆転している画素を特定することにより、反転反射画像におけるパターンエッジの位置を特定することができる。例えば、ある画素について、変形画像1の画素値が反転反射画像の画素値よりも小さく、変形画像3の画素値が反転反射画像の画素値よりも大きい場合、反転反射画像における当該画素はパターンエッジであると推定することができる。そして、パターンエッジと推定された画素における統合差分値を0に置き換えることで、
図9に示すように、パターンエッジ周辺におけるパターンずれの影響で差分値が大きくなることをさらに抑制することができる。
【0048】
ただし、エッジ特定処理を適用した場合、パターンエッジの周辺に小さい異常が存在する場合にその異常を検出できない可能性がある。このため、検出対象となる異常の特徴に応じてエッジ特定処理を適用するか否かを変更することが好ましい。
【0049】
(ステップS5)
ステップS5において、異常検出部105は、差分統合部104が出力した統合差分値に対する閾値処理を行い、検査対象が正常であるか異常であるかの判定を行う。これまでに述べたように、ステップS1-S4の処理により、異物や欠陥などの異常以外の原因に起因して発生した差分値は抑制されている。このため、異常が存在する画素でのみ、統合差分値が大きくなっている。このため、閾値処理により統合差分値が大きい画素を特定することにより、異常の存在を検出することができる。閾値は、予め設定された値であってもよく、画像全体の統合差分値のヒストグラム等を用いて相対的(動的)に設定されてもよい。
【0050】
また、
図7乃至
図9では、一例として、画像の中央の特定の1画素ラインにおける統合差分値の算出方法について説明したが、実際の処理では、この手法を画像全体に適用することで、画像全体の統合差分値を画素ごとに算出し、画像全体において統合差分値を用いた異常の判定が行われる。
【0051】
また、連続した複数の画素において異常が検出された場合、それらの画素を含む領域の大きさや形状に応じて、異常の種類や、異常の誤検知であるか否かなどをさらに判定してもよい。
【0052】
(効果)
以下、本実施形態に係る検査装置10の効果について説明する。
前述のように、検査対象の撮像における光学倍率が高くなることにより、透過画像と反射画像におけるパターンエッジの位置ずれが大きくなり、異物や欠陥などの異常が存在しない正常な領域であっても画素値の差分値(画素値差分)が大きくなってしまい、異常の誤検知が生じる可能性があった。
【0053】
本実施形態に係る検査装置10は、画像取得部101と、画像変形部102と、差分生成部103と、差分統合部104と、異常検出部105を備える。画像取得部101は、透過画像と反射画像を取得する。画像変形部102は、透過画像に対して膨張数の異なる複数の膨張処理を適用して複数の変形画像(0画素膨張画像、1画素膨張画像及び2画素膨張画像)を生成する。差分生成部103は、複数の変形画像を用いて、透過画像と反射画像との画素値の差分値を画素毎に算出する。この際、差分生成部103は、反射画像に対して明暗を反転する反転処理を適用して反転画像(反射反転画像)を生成し、反転処理を適用していない通常画像(透過画像の変形画像)と反転画像(反射反転画像)とを用いて差分値を算出する。差分統合部104は、複数の変形画像のそれぞれに対して算出された複数の差分値を統合した統合差分値を画素毎に算出する。
例えば、差分統合部104は、画素毎に、複数の差分値のうち絶対値が最小の値を統合差分値として選択する。異常検出部105は、統合差分値に基づいてマスクに付着した異物を検出する。
【0054】
上記構成により、本実施形態に係る検査装置10によれば、透過画像の膨張画像では、パターンエッジの位置が反射反転画像のパターンエッジに近づいているため、膨張画像と反射反転画像とを用いて差分値を算出することで、パターンエッジの位置ずれに起因する差分値を小さくすることができる。また、複数の変形画像を用いた差分値を統合することで、位置ずれを厳密に補正することなく画素毎に最適な差分値を選択することができる。これにより、統合差分値では、パターンエッジの位置ずれに起因する差分の発生の影響が抑制され、マスクに付着した異物のみが大きく影響する。このため、統合差分値を用いて異常の検出を行うことにより、異物の検出における誤検知を抑制し、異物の検出精度が向上する。
【0055】
なお、変形処理は、透過画像と反射画像の少なくとも1つに適用されればよい。変形処理としては、適用する画像や他の処理との順番等に応じて、膨張処理と収縮処理のいずれかが適用される。本実施形態では、透過画像のみに膨張処理を適用し反射画像には変形処理を適用しない場合について説明したが、反射画像のみに変形処理が適用されてもよく、透過画像と反射画像の両方に変形処理が適用されてもよい。
【0056】
例えば、本実施形態のように透過画像の変形画像のみが生成されている場合、差分生成部103は、差分値として、複数の変形画像のそれぞれの画素値と反転画像の画素値との差分を算出する。また、反転画像の変形画像のみが生成されている場合、差分生成部103は、差分値として、複数の変形画像のそれぞれの画素値と透過画像の画素値との画素値の差分を算出する。また、透過画像の変形画像と反転画像の変形画像の両方が生成されている場合、差分生成部103は、差分値として、透過画像の変形画像のそれぞれの画素値と、反転画像の変形画像のそれぞれの画素値との差分を算出する。
【0057】
また、反転処理は透過画像及び反射画像の一方に適用されればよい。本実施形態では、反射画像に反転処理を適用する場合について説明したが、透過画像に反転処理を適用してもよい。また、透過画像または反射画像に反転処理と変形処理の両方を適用してもよい、この場合、反転処理を適用した後に変形処理を適用してもよく、変形処理を適用した後に反転処理を適用してもよい。
【0058】
本実施形態で説明したように、透過画像に変形処理を適用し、反射画像に対して反転処理を適用する場合、変形処理として膨張処理が用いられる。また、反射画像に変形処理を適用し、透過画像に反転処理を適用する場合も、変形処理として膨張処理が用いられる。また、透過画像または反射画像に対して変形処理と反転処理の両方を適用する場合、膨張処理を行った後に反転処理を行うか、あるいは、反転処理を行った後に収縮処理が行われる。
【0059】
また、本実施形態では、差分生成部103は、差分値を算出する際に、反転画像と通常画像との画素値の範囲が一致するように、反転画像または通常画像に対して画素値補正を実行し、画素値補正後の画像を用いて差分値を算出する。このように、差分値を算出する2つの画像の画素値を合わせこんでから差分値の算出を行うことで、異常が無い正常な領域における差分値を小さく抑えることができる。
【0060】
また、本実施形態では、パターンエッジの位置を特定し、特定した領域の統合差分値を0にするエッジ特定処理を実行することもできる。この際、差分統合部104は、複数の差分値の中に符号が異なる値を含む画素について、統合差分値を0にする。このように、変形処理における変形の度合いが大きくなると、変形画像と変形処理が適用されていない通常画像とのパターンエッジの位置関係が逆転することを利用し、各変形画像と通常画像との画素値の大小関係が逆転している画素を特定することにより、パターンエッジの位置を特定することができる。そして、パターンエッジと推定された画素における統合差分値を0に置き換えることで、パターンエッジ周辺におけるパターンずれの影響で差分値が大きくなることを抑制することができる。
【0061】
(第1の変形例)
第1の変形例について説明する。本変形例は、実施形態の構成を以下の通りに変形したものである。実施形態と同様の構成、動作、及び効果については、説明を省略する。本変形例の検査装置10は、膨張処理によって異常が検出できなくなる懸念を考慮して、膨張処理を適用するか否かを画素ごとに判定する点で実施形態と異なる。
【0062】
本変形例では、画像変形部102は、変形処理として膨張処理を適用する場合、膨張処理の後に収縮処理を適用した画像と変形処理を行う前の画像との画素値の変化量に応じて、膨張処理を適用するか否かを画素毎に判定し、変形処理として収縮処理を適用する場合、収縮処理の後に膨張処理を適用した画像と変形処理を行う前の画像との画素値の変化量に応じて、当該収縮処理を適用するか否かを画素毎に判定する。この際、画像変形部102は、変化量が大きい画素に対して変形処理を適用せず、変化量が小さい画素に対して変形処理を適用する。
【0063】
例えば、透過画像に膨張処理を適用する場合、画像変形部102は、膨張処理の後に収縮処理を適用した画像と膨張処理を行う前の透過画像との画素値の変化量に応じて、当該膨張処理を適用するか否かを画素毎に判定する。この際、画像変形部102は、変化量が大きい画素に対して膨張処理を適用せず、変化量が小さい画素に対して膨張処理を適用する。
【0064】
また、透過画像に反転処理を行った反転透過画像に対して収縮処理を適用する場合、画像変形部102は、収縮処理の後に膨張処理を適用した画像と膨張処理を行う前の反転透過画像との画素値の変化量に応じて、当該収縮処理を適用するか否かを画素毎に判定する。この際、画像変形部102は、変化量が大きい画素に対して収縮処理を適用せず、変化量が小さい画素に対して収縮処理を適用する。
【0065】
図10は、本変形例に係る変形処理の様子を説明する図である。
図10は、本変形例に係る各変形画像と反転反射画像の差分値を示す図である。
図10の横軸は、
図7と同じ1画素ラインにおける位置を示す。
図10(a)-(c)の縦軸は、差分値の絶対値を示す。
図10(a)は、変形画像1(0画素膨張画像)と反転反射画像の画素値を示し、
図10(b)は変形画像2(1画素膨張画像)と反転反射画像の画素値を示す。
図10(c)は、変形画像2(1画素膨張画像)に収縮処理を適用した比較用の画像(以下、比較画像と呼ぶ)の画素値を示す。
図10(d)は、比較画像と透過画像との比較結果に応じて画素ごとに膨張処理を適用するか否かを切り替えて生成された変形画像2を示す。
【0066】
図10(a)は、透過画像中に小さいサイズの異物が含まれる場合の変形画像1(0画素膨張画像)の画素値を示す。
図10(a)では、領域A1において、異物の影響により透過画像の画素値が低下している。この異物のサイズは、2画素程度である。このような透過画像に対して膨張処理を適用すると、
図10(b)に示すように、異物の存在により低下した画素値が膨張処理により周囲の正常な画素値に置き換えられ、異物による画素値低下が失われる。この場合、パターンエッジで生じる差分値を小さくできるものの、異物を検出することはできないため、膨張処理によって異常が検出できなくなる懸念がある。
【0067】
図10(c)は、変形画像2に対して1画素分の収縮処理を適用した比較画像の画素値を示す図である。
図10(c)に示すように、1画素膨張画像に対して1画素分の収縮処理を行うと、パターンエッジなどの比較的大きな領域では、膨張処理を適用する前の透過画像の画素値が復元される。しかしながら、小さい異物が存在するような微小領域では、膨張処理の後に収縮処理を適用すると、異物による画素値低下は復元されず、膨張処理を適用する前の透過画像の画素値が復元されることはない。このため、比較画像の画素値と膨張処理の適用前の透過画像の画素値との変化量が大きい画素は、異物が存在する可能性があると判断され、膨張処理を適用する対象外に設定される。なお、透過画像の変わりに、0画素膨張画像を用いて比較画像との比較を行ってもよい。
【0068】
図10(d)は、変化量が所定の値以下の画素に対して膨張処理を適用し、変化量が所定の値より大きい画素に対して膨張処理を適用した場合の変形画像2の画素値と、反転反射画像の画素値を示す図である。
図10(d)に示すように、画素ごとに膨張処理の有無を切り替えることで、異物が存在する可能性がある画素に対して膨張処理を適用しないようにすることで、異物の存在による画素値変化を保持したまま、パターンエッジの位置ずれに起因する差分値の発生を抑制することができる。
【0069】
(第2の変形例)
第2の変形例について説明する。本変形例は、実施形態の構成を以下の通りに変形したものである。実施形態と同様の構成、動作、及び効果については、説明を省略する。本変形例の検査装置20は、画像変形部に入力される画像が画像2である点と、差分生成部の処理が変更されている点で検査装置10と異なる。
【0070】
(装置説明)
図11は、本変形例の検査装置20の構成例を示す概念図である。検査装置20は、画像取得部101、画像変形部202、差分生成部203、差分統合部104、および異常検出部105を備える。画像取得部101、差分統合部104、および異常検出部105については、検査装置10と同様のため、説明を省略する。
【0071】
画像変形部202は、画像取得部101から出力された画像2に対して変形処理を行い、複数の変形画像を生成する。その後、画像変形部102は、生成された変形画像を差分生成部103に出力する。つまり、検査装置20は、画像1ではなく画像2に対して変形処理を適用する点で検査装置10と異なる。
【0072】
差分生成部203は、画像変形部102から出力された複数の変形画像のそれぞれに対し、画像取得部101から出力された画像1との差分値を画素毎に算出する。差分生成部203は、得られた複数の差分値を差分統合部104に出力する。
【0073】
(動作説明)
次に、検査装置20により実行される処理の動作について説明する。
図12は、検査装置20により実行される異常検出処理の手順の一例を示すフローチャートである。実施形態の検査装置10と同様に、異常検出処理として、透過画像と反射画像を用いてマスクに付着した異物を検出する処理を例に説明する。また、実施形態の検査装置10と同様に、画像1が透過画像であり、画像2が反射画像である場合について説明する。なお、以下で説明する各処理における処理手順は一例に過ぎず、各処理は可能な限り適宜変更可能である。また、以下で説明する処理手順について、実施の形態に応じて、適宜、ステップの省略、置換、及び追加が可能である。
【0074】
(ステップS1)
ステップS1において、画像取得部101は、実施形態と同様に、透過画像と反射画像を取得する。透過画像と反射画像を取得した後、画像取得部101は、反射画像を画像変形部102に出力し、透過画像を差分生成部103に出力する。
【0075】
(ステップS2)
ステップS2において、画像変形部202は、画像取得部101から出力された反射画像に対して変形処理を適用する。本変形例でも、変形処理として膨張処理が用いられる。画像変形部202は、0画素膨張処理、1画素膨張処理及び2画素膨張処理の3種類の異なる膨張処理を反射画像に対して適用し、0画素膨張画像、1画素膨張画像及び2画素膨張画像の3種類の膨張画像を変形画像として生成する。0画素膨張画像は、元の反射画像と同じ画像となる。1画素膨張画像は、1画素膨張処理により元の反射画像の明部が1画素分膨張した画像である。2画素膨張画像は、2画素膨張処理により元の反射画像の明部が2画素分膨張した画像である。画像変形部202は、生成した3種類の変形画像を差分生成部203に出力する。
【0076】
ここで、実施形態の検査装置10の画像変形部102による処理と本変形例の検査装置20の画像変形部202との違いについて、
図13を用いて説明する。
図13は、各変形画像と透過画像の画素値を示す図である。
図13は、各変形画像の明暗を反転させた状態の画素値を示している。
図13は、画像の中心の1画素ラインにおける画素値を示している。
図13の横軸は、1画素ラインにおける位置を示す。
図13の縦軸は、画素値を示す。
図13(a)は、変形画像1(0画素膨張画像)と透過画像の画素値を示し、
図13(b)は変形画像2(1画素膨張画像)と透過画像の画素値を示し、
図13(c)は変形画像3(2画素膨張画像)と透過画像の画素値を示す。
図13では、実線が変形画像を示し、破線が透過画像を示している。
【0077】
図5乃至
図7に示すように、実施形態の検査装置10では、透過画像に対して膨張処理により変形を加える例について説明した。このため、検査装置10による変形処理では、透過画像において中心に位置するパターンの面積を大きくすることで透過画像を反射画像に近づける処理が実行された。一方、本変形例の検査装置20は、
図13に示すように、反射画像に対して膨張処理による変形を加える。この場合、膨張処理により、反射画像の中心に位置する暗部のパターンの面積を小さくすることで、反射画像を透過画像に近づける処理が行われる。このため、パターンエッジの周辺領域A2におけるパターンエッジの位置が、検査装置10と検査装置20で異なる。
【0078】
(ステップS3)
ステップS3において、差分生成部203は、画像取得部101から出力された透過画像と、画像変形部202から出力された各変形画像との画素値の差分値を算出する。画像変形部202により3種類の膨張画像が出力されるため、差分生成部203は、0画素膨張画像と透過画像との差分値と、1画素膨張画像と透過画像との差分値と、2画素膨張画像と透過画像との差分値の3つの差分値を、画素ごとに算出する。差分生成部203は、算出した3つの差分値を差分統合部104に出力する。
【0079】
この際、差分生成部203は、明暗を反転する前述の反転処理を各変形画像に実行して3つの反転変形画像を生成し、各反転変形画像と透過画像の画素値の範囲(画素値レンジ)が一致するように前述の補正処理を各反転変形画像に対して実行した後に、補正後の反転変形画像と透過画像の画素値を用いて差分値を算出する。本変形例の補正処理は、例えば、前述の式(1)におけるRL、RD、TL、TDをそれぞれ反転変形画像の明部の代表画素値、反転変形画像の暗部の代表画素値、透過画像の明部の代表画素値、透過画像の暗部の代表画素値に置き換えた式を用いて実行することができる。
【0080】
なお、ここでは、反射画像の変形画像に対して明暗を反転する反転処理を行うことにより、反射画像の変形画像の画素値を透過画像に合わせて補正する場合を例に説明したが、これらの処理は透過画像に対して行われても良い。例えば、透過画像に対して反転処理を適用して透過画像の明暗を反転してもよい。また、透過画像の画素値を変形画像に合わせて補正してもよい。
【0081】
また、反射画像の明暗をあらかじめ反転した後に、生成された画像に収縮処理を行ってもよい。これにより、膨張処理の後に変形画像の明暗を反転する場合と同様の画像を生成することができる。
【0082】
図14は、複数の差分値を統合する処理の一例を説明するための図である。
図14の横軸は、
図13と同じ1画素ラインにおける位置を示す。
図14(a)-
図14(c)の縦軸は、差分値の絶対値を示す。
図14(a)は、変形画像1(0画素膨張画像)と透過画像の差分値の絶対値を示し、
図14(b)は変形画像2(1画素膨張画像)と透過画像の差分値の絶対値を示し、
図14(c)は変形画像3(2画素膨張画像)と透過画像の差分値の絶対値を示す。
【0083】
(ステップS4)
ステップS4において、差分統合部104は、差分生成部203が出力した複数の差分値を統合して統合差分値を算出する。差分統合部104による差分値の統合方法は実施形態の検査装置10と同様のため、説明を省略する。差分統合部104は、算出した統合差分値を異常検出部105に出力する。
【0084】
図14(d)は、統合差分値を示す図である。
図14(d)の縦軸は、統合差分値を示す。
図14(d)に示すように、本変形例の検査装置20においても、
図7及び
図8に示される検査装置10と同様に、パターンエッジの周辺領域A2の差分値を小さく抑えることができるため、検査装置10と同様の効果を得られる。一方、
図13及び
図14では、パターンエッジに由来する差分値の発生位置が
図7及び
図8に比べて内側に位置しており、変形対象となる画像が異なることにより差分値が発生する位置が異なっていることが分かる。
【0085】
(ステップS5)
ステップS5において、異常検出部105は、差分統合部104が出力した統合差分値に対する閾値処理を行い、検査対象が正常であるか異常であるかの判定を行う。異常検出部105による判定方法は実施形態の検査装置10と同様のため、説明を省略する。
【0086】
本変形例の検査装置20においても、
図14(d)に示すように、パターンエッジ周辺の統合差分値を小さく抑えることができるため、検査装置10と同様の効果を得られる。
【0087】
(第3の変形例)
第3の変形例について説明する。本変形例は、実施形態の構成を以下の通りに変形したものである。実施形態と同様の構成、動作、及び効果については、説明を省略する。本変形例の検査装置30は、実施形態の検査装置10と第2の変形例の検査装置20のそれぞれから得られる統合差分値を組み合わせることで、パターンエッジ周辺の差分値をより小さく抑えることができる。
【0088】
(装置説明)
図15は、本変形例の検査装置30の構成例を示す概念図である。検査装置30は、画像取得部101、画像変形部102、画像変形部202、差分生成部103、差分生成部203、差分統合部304、および異常検出部105を備える。画像取得部101、画像変形部102、画像変形部202については、検査装置10または検査装置20と同様のため、説明を省略する。
【0089】
差分生成部103は、画像1の変形画像の画素値と画像2の画素値との差分値1を算出する。差分値1は、第1の差分値に相当する。差分値1を算出する処理は検査装置10と同様のため、説明を省略する。差分生成部103は、算出した差分値1を差分統合部304に出力する。
【0090】
差分生成部203は、画像2の変形画像の画素値と画像1の画素値との差分値2を算出する。差分値2は、第2の差分値に相当する。差分値を算出する処理は検査装置20と同様のため、説明を省略する。差分生成部203は、算出した差分値2を差分統合部304に出力する。
【0091】
差分統合部304は、差分生成部103から出力された複数の差分値1を統合して統合差分値1を算出し、差分生成部203から出力された複数の差分値2を統合して統合差分値2を算出する。統合差分値1は第1の統合差分値1に相当し、統合差分値2は第2の統合差分値に相当する。差分値を統合する処理は検査装置10及び検査装置20と同様のため、説明を省略する。また、差分統合部304は、統合差分値1と統合差分値2とを統合して統合差分値3を算出する。統合差分値3は第3の統合差分値に相当する。統合差分値3の算出には、統合差分値1及び統合差分値2を算出する場合と同様の方法を用いることができる。例えば、統合差分値1と統合差分値2のうちの小さい方の値を統合差分値3として選択することにより、統合差分値3が算出される。差分統合部304は、算出した統合差分値3を異常検出部105に出力する。
【0092】
異常検出部105は、差分統合部304から出力された統合差分値3に対する閾値処理を行い、検査対象が正常であるか異常であるかの判定を行う。異常検出部105による判定方法は実施形態の検査装置10または検査装置20と同様のため、説明を省略する。
【0093】
(動作説明)
次に、検査装置30により実行される処理の動作について説明する。
図16は、検査装置30により実行される異常検出処理の手順の一例を示すフローチャートである。実施形態の検査装置10及び第2の変形例の検査装置20と同様に、異常検出処理として、透過画像と反射画像を用いてマスクに付着した異物を検出する処理を例に説明する。また、実施形態の検査装置10及び第2の変形例の検査装置20と同様に、画像1が透過画像であり、画像2が反射画像である場合について説明する。なお、以下で説明する各処理における処理手順は一例に過ぎず、各処理は可能な限り適宜変更可能である。また、以下で説明する処理手順について、実施の形態に応じて、適宜、ステップの省略、置換、及び追加が可能である。
【0094】
(ステップS1)
ステップS1において、画像取得部101は、透過画像と反射画像を取得する。透過画像と反射画像を取得した後、画像取得部101は、透過画像を画像変形部102と差分生成部203のそれぞれに出力し、反射画像を画像変形部202と差分生成部103のそれぞれに出力する。
【0095】
(ステップS2-1)
ステップS2-1において、画像変形部102は、実施形態の検査装置10と同様に、画像取得部101から出力された透過画像に対して0画素膨張処理、1画素膨張処理及び2画素膨張処理の3種類の異なる膨張処理を適用し、0画素膨張画像、1画素膨張画像及び2画素膨張画像の3種類の膨張画像を変形画像として生成する。画像変形部102は、生成した3種類の変形画像を差分生成部103に出力する。
【0096】
(ステップS3-1)
ステップS3-1において、差分生成部103は、実施形態の検査装置10と同様に、画像取得部101から出力された反射画像と、画像変形部102から出力された各変形画像との画素値の差分値として、0画素膨張画像と反射画像の差分値と、1画素膨張画像と反射画像の差分値と、2画素膨張画像と反射画像の差分値の3つの差分値を、画素ごとに算出する。この際、差分生成部103は、反転処理を反射画像に実行して反転反射画像を生成し、各変形画像と反転反射画像の画素値の範囲(画素値レンジ)が一致するように前述の補正処理を反射反転画像に対して実行した後に、補正後の反射反転画像と各変形画像の画素値を用いて差分値を算出する。差分生成部203は、算出した3つの差分値を含む差分値1を差分統合部304に出力する。
【0097】
(ステップS2-2)
ステップS2-2において、画像変形部202は、第2の変形例の検査装置20と同様に、画像取得部101から出力された反射画像に対して0画素膨張処理、1画素膨張処理及び2画素膨張処理の3種類の異なる膨張処理を適用し、0画素膨張画像、1画素膨張画像及び2画素膨張画像の3種類の膨張画像を変形画像として生成する。画像変形部202は、生成した3種類の変形画像を差分生成部203に出力する。
【0098】
(ステップS3-2)
ステップS3-2において、差分生成部203は、第2の変形例の検査装置20と同様に、画像取得部101から出力された透過画像と、画像変形部202から出力された各変形画像との画素値の差分値として、0画素膨張画像と透過画像との差分値と、1画素膨張画像と透過画像との差分値と、2画素膨張画像と透過画像との差分値の3つの差分値を、画素ごとに算出する。この際、差分生成部203は、反転処理を各変形画像に実行して3つの反転変形画像を生成し、各反転変形画像と透過画像の画素値の範囲(画素値レンジ)が一致するように前述の補正処理を各反転変形画像に対して実行した後に、補正後の反転変形画像と透過画像の画素値を用いて差分値を算出する。差分生成部203は、算出した3つの差分値を含む差分値2を差分統合部304に出力する。
【0099】
以上の処理により、それぞれが3つの差分値を含む差分値1と差分値2が差分統合部304に出力されるため、差分統合部304には6つの異なる差分値が出力される。
【0100】
(ステップS4-1)
ステップS4-1において、差分統合部304は、実施形態の検査装置10と同様に、差分生成部103から出力された差分値1に含まれる3つの差分値を統合して統合差分値1を算出する。
【0101】
(ステップS4-2)
ステップS4-2において、差分統合部304は、第2の変形例の検査装置20と同様に、差分生成部203から出力された差分値2に含まれる3つの差分値を統合して統合差分値2を算出する。
【0102】
ステップS4-1及びステップS4-2における統合処理は、例えば、各差分値の絶対値から最小値を選択することにより実行される。この際、パターンエッジの位置を特定し、特定した領域の統合差分値を0にする前述のエッジ特定処理を実行してもよい。この場合、透過画像に変形処理を適用した場合と反射画像に変形処理を適用した場合ではパターンエッジであると判定される画素の位置が異なるため、統合差分値1と統合差分値2の両方に対してエッジ特定処理を適用することが好ましい。
【0103】
(ステップS5)
ステップS5において、差分統合部304は、ステップS4-1及びステップS4-2の処理で得られた統合差分値1と統合差分値2をさらに統合して統合差分値3を算出する。ここでの統合処理では、統合差分値1と統合差分値2のうちの最小値が選択される。
【0104】
ここで、差分統合部304による統合の効果について、
図17を用いて説明する。
図17は、統合差分値を示す図である。
図17は、画像の中心の1画素ラインにおける画素値を示している。
図17の横軸は、1画素ラインにおける位置を示す。
図17の縦軸は、統合差分値を示す。
図17(a)は統合差分値1を示し、
図17(b)は統合差分値2を示し、
図17(c)は統合差分値3を示す。
【0105】
図17に示すように、
図17(a)に示す統合差分値1と、
図17(b)に示す統合差分値2では差分値のピークの位置がずれている。このため、統合差分値1と統合差分値2をさらに統合することにより、
図17(c)に示す統合差分値3では、パターンエッジの周辺領域A2における差分値がさらに小さく抑えられていることがわかる。このように、2つの入力画像(透過画像と反射画像)のそれぞれに対して変形処理を適用し、各変形画像と変形処理を適用しない通常画像との差分値をそれぞれに対して算出し、算出した差分値を統合することで、2つの入力画像(透過画像と反射画像)の一方のみに対して変形処理を適用した場合に比べて、パターンエッジの周辺領域A2の差分値を小さく抑えることができる。
【0106】
また、上述したエッジ特定処理を行わない場合、ステップS4-1、ステップS4-2、及びステップS5の代わりに、差分値1と統合差分値2に含まれる6つの差分値を一度に統合してもよい。この場合でも、統合差分値1と統合差分値2を統合する場合と同様の結果を得ることができる。
【0107】
(ステップS6)
ステップS6において、異常検出部105は、差分統合部304が出力した統合差分値3に対する閾値処理を行い、検査対象が正常であるか異常であるかの判定を行う。異常検出部105による判定方法は実施形態の検査装置10と同様のため、説明を省略する。
【0108】
上述のように、実施形態では、パターンずれに起因してパターンエッジ周辺で発生する差分値を抑制することで、異常が存在する領域でのみ大きな差分が発生させる検査方法について説明した。また、第1の変形例では、変形処理を適用する画像を変更すると、比較的大きい差分値が発生する位置が変化することについて説明した。本変形例の検査装置30では、実施形態の検査装置10から得られる統合差分値1と、検査装置20から得られる統合差分値2をさらに統合することにより、
図17(c)に示すように、パターンエッジ周辺の統合差分値をさらに小さく抑えることができる。そして、この統合差分値3を用いて異常の検出を行うことにより、異物の検出における誤検知を抑制し、異物の検出精度をさらに向上させることができる。
【0109】
なお、検査装置30の構成は適宜変更しても同様の効果を得ることができる。例えば、画像変形部102で生成された透過画像に膨張処理を適用した画像と、画像変形部202で生成された反射画像に膨張処理と反転処理を順番に適用した画像との差分値を算出し、算出した差分値を同様の方法で統合してもよい。
【0110】
(第4の変形例)
図18は、第4の変形例に係る検査装置40のハードウェア構成を例示するブロック図である。第4の変形例は、実施形態及び第1乃至第3の変形例の具体例であり、検査装置10、20、30をコンピュータにより実現した形態となっている。
【0111】
検査装置40は、ハードウェアとして、CPU(Central Processing Unit)401、RAM(Random Access Memory)402、プログラムメモリ403、補助記憶装置404及び入出力インタフェース405を備えている。CPU401は、バスを介して、RAM402、プログラムメモリ403、補助記憶装置404、および入出力インタフェース405と通信する。すなわち、本実施形態の検査装置40は、このようなハードウェア構成のコンピュータにより実現されている。
【0112】
CPU401は、汎用プロセッサの一例である。RAM402は、ワーキングメモリとしてCPU401に使用される。RAM402は、SDRAM(Synchronous Dynamic Random Access Memory)などの揮発性メモリを含む。プログラムメモリ403は、各実施形態に応じた各部を実現するためのデータ解析プログラムを記憶する。このデータ解析プログラムは、例えば、画像取得部101、画像変形部102、202、差分生成部103、203、差分統合部104、304および異常検出部105の各機能をコンピュータに実現させるためのプログラムとしてもよい。また、プログラムメモリ403として、例えば、ROM(Read-Only Memory)、補助記憶装置404の一部、またはその組み合わせが使用される。補助記憶装置404は、データを非一時的に記憶する。補助記憶装置404は、HDD(hard disc drive)またはSSD(solid state drive)などの不揮発性メモリを含む。
【0113】
入出力インタフェース405は、他のデバイスと接続するためのインタフェースである。入出力インタフェース405は、例えば、キーボード、マウス、データベース及びディスプレイとの接続に使用される。
【0114】
プログラムメモリ403に記憶されているデータ解析プログラムはコンピュータ実行可能命令を含む。データ解析プログラム(コンピュータ実行可能命令)は、処理回路であるCPU401により実行されると、CPU401に所定の処理を実行させる。例えば、データ解析プログラムは、CPU401により実行されると、CPU401に
図1、
図11又は
図15の各部に関して説明された一連の処理を実行させる。例えば、データ解析プログラムに含まれるコンピュータ実行可能命令は、CPU401により実行されると、CPU401にデータ解析方法を実行させる。データ解析方法は、前述した画像取得部101、画像変形部102、202、差分生成部103、203、差分統合部104、304および異常検出部105の各機能に対応する各ステップを含んでもよい。また、データ解析方法は、
図4、
図12又は
図16に示した各ステップを適宜、含んでもよい。
【0115】
データ解析プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態でコンピュータである検査装置40に提供されてよい。この場合、例えば、検査装置40は、記憶媒体からデータを読み出すドライブ(図示せず)をさらに備え、記憶媒体からデータ解析プログラムを取得する。記憶媒体としては、例えば、磁気ディスク、光ディスク(CD-ROM、CD-R、DVD-ROM、DVD-Rなど)、光磁気ディスク(MOなど)、半導体メモリなどが適宜、使用可能である。記憶媒体は、非一時的なコンピュータ読み取り可能な記憶媒体(non-transitory computer readable storage medium)と呼んでもよい。また、データ解析プログラムを通信ネットワーク上のサーバに格納し、検査装置40が入出力インタフェース405を使用してサーバからデータ解析プログラムをダウンロードするようにしてもよい。
【0116】
データ解析プログラムを実行する処理回路は、CPU401などの汎用ハードウェアプロセッサに限らず、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などの専用ハードウェアプロセッサを用いてもよい。処理回路(処理部)という語は、少なくとも1つの汎用ハードウェアプロセッサ、少なくとも1つの専用ハードウェアプロセッサ、または少なくとも1つの汎用ハードウェアプロセッサと少なくとも1つの専用ハードウェアプロセッサとの組み合わせを含む。
図18に示す例では、CPU401、RAM402、およびプログラムメモリ403が処理回路に相当する。
【0117】
(他の適用例)
ここまで、透過画像と反射画像を比較して検査対象であるマスクに付着した異物を検出する場合を例に説明したが、基準画像と検査画像を比較してマスクの欠陥を検出する装置にも本願の構成を適用することができる。この場合、画像1が基準画像と検査画像のいずれか一方となり、画像2が基準画像と検査画像の他方になる。そして、基準画像と検査画像の少なくとも一方に対し、変形処理として拡大処理、縮小処理、平行移動処理、回転処理等が適用された変形画像が生成される。
【0118】
変形処理は、画像1と画像2の特徴に応じて任意の変形処理を用いて構わない。例えば、一般的に透過画像と反射画像の光学倍率は等倍であり透過画像と反射画像における位置については既に合わせられているため、前述の実施形態のように画像1及び画像2として透過画像及び反射画像を用いる場合、膨張処理や収縮処理が変形処理として用いられる。また、画像1及び画像2の光学倍率が異なる場合、変形処理として拡大処理や縮小処理が用いられる。また、画像1及び画像2の位置がずれている場合、変形処理として平行移動処理が用いられる。また、画像1及び画像2のどちらかが回転している場合、変形処理として回転処理が用いられる。また、変形処理は、上記複数の処理を組み合わせた処理であってもよい。
【0119】
このように、画像の特徴や取得方法に起因して、比較検査に用いられる2つの画像に位置ずれが発生した場合でも、比較画像の特徴に応じて任意の変形処理を適用して複数の変形画像を生成し、複数の変形画像を用いて複数の差分値(画素値差分)を算出し、算出した複数の差分値を統合することにより、位置ずれの影響で差分が発生することを抑制し、差分を用いた異常の判定精度を向上させることができる。
【0120】
かくして、前述のいずれかの実施形態によれば、簡易な画像処理のみを用いて、比較対象となる画像同士のパターンのずれを許容しつつ、欠陥や異物等の異常のみを検出可能な検査装置、検査方法およびプログラムを提供することができる。
【0121】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0122】
10、20、30、40…検査装置、101…画像取得部、102、202…画像変形部、103、203…差分生成部、104、304…差分統合部、105…異常検出部、401…CPU、402…RAM、403…プログラムメモリ、404…補助記憶装置、405…入出力インタフェース。