(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024019991
(43)【公開日】2024-02-14
(54)【発明の名称】放射線検出素子、放射線検出デバイス及び放射線像撮像装置
(51)【国際特許分類】
G01T 1/24 20060101AFI20240206BHJP
A61B 6/42 20240101ALI20240206BHJP
【FI】
G01T1/24
A61B6/00 300S
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022122824
(22)【出願日】2022-08-01
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】大石 敦史
(72)【発明者】
【氏名】服部 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】羽豆 耕治
(72)【発明者】
【氏名】吉田 尚史
(72)【発明者】
【氏名】細野 秀雄
(72)【発明者】
【氏名】金 正煥
【テーマコード(参考)】
2G188
4C093
【Fターム(参考)】
2G188BB02
2G188BB04
2G188BB06
2G188BB09
2G188CC29
2G188DD05
2G188DD33
2G188DD41
2G188EE01
2G188EE05
2G188EE36
2G188FF12
4C093EB13
4C093EB20
(57)【要約】 (修正有)
【課題】Cd等の有害元素を含まない材料を用いた放射線直接検出装置を提供する。
【解決手段】放射線吸収層と電極とを備える放射線検出素子であって、前記電極は前記放射線吸収層の両面に位置し、前記放射線吸収層は以下(a)~(c)又は(a)、(b)、(d)を満たす、放射線検出素子。
(a)放射線の入射に応じて電荷を生じる性質を示す。
(b)下記式(1)を満たす組成の結晶相を含む。(c)短径の長さが1mm以上の単結晶子を備える。(d)前記結晶相のX線ロッキングカーブ(XRC)における(002)面の半値幅(FWHM)が0.03°以下。
A
3B
xC
y・・・(1)
(式(1)中、AはK、Rb、及びCsのうちの1種以上の元素を含み、BはCuを含み、CはCl、Br、及びIのうちの1種以上の元素を含む。1.5≦x≦2.5、4.0≦y≦6.0)
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線吸収層と電極とを備える放射線検出素子であって、
前記電極は前記放射線吸収層の両面に位置し、
前記放射線吸収層は以下(a)~(c)を満たす、放射線検出素子。
(a)放射線の入射に応じて電荷を生じる性質を示す。
(b)下記式(1)を満たす組成の結晶相を含む。
(c)短径の長さが1mm以上の単結晶子を備える。
A3BxCy・・・(1)
(上記式(1)中、A、B、Cは化合物を構成する元素を指し、
AはK、Rb、及びCsから成る群より選ばれる1種以上の元素を含み、
Bは少なくともCuを含み、
CはCl、Br、及びIから成る群より選ばれる1種以上の元素を含み、
x、yはそれぞれAを3とした時のB及びCのモル比を示し、
1.5≦x≦2.5、4.0≦y≦6.0
である。)
【請求項2】
前記結晶相の結晶構造が直方晶、空間群Pnmaに属する、請求項1に記載の放射線検出素子。
【請求項3】
前記放射線吸収層が単結晶から成る、請求項1に記載の放射線検出素子。
【請求項4】
更に、コンデンサを含む電気信号出力部を備え、
前記コンデンサは前記放射線吸収層の両面の電極のいずれかに接続され、
前記電気基信号出力部は前記コンデンサに蓄積した電荷を電気信号として出力する、請求項1に記載の放射線検出素子。
【請求項5】
放射線吸収層と電極とを備える放射線検出素子であって、
前記電極は前記放射線吸収層の両面に位置し、
前記放射線吸収層は以下(a)、(b)及び(d)を満たす、放射線検出素子。
(a)放射線の入射に応じて電荷を生じる性質を示す。
(b)下記式(1)を満たす組成の結晶相を含む。
(d)前記結晶相のX線ロッキングカーブ(XRC)における(002)面の半値幅(FWHM)が0.03°以下である。
A3BxCy・・・(1)
(上記式(1)中、A、B、Cは化合物を構成する元素を指し、
AはK、Rb、及びCsから成る群より選ばれる1種以上の元素を含み、
Bは少なくともCuを含み、
CはCl、Br、及びIから成る群より選ばれる1種以上の元素を含み、
x、yはそれぞれAを3とした時のB及びCのモル比を示し、
1.5≦x≦2.5、4.0≦y≦6.0
である。)
【請求項6】
前記結晶相の結晶構造が直方晶、空間群Pnmaに属する、請求項5に記載の放射線検出素子。
【請求項7】
前記放射線吸収層が単結晶から成る、請求項5に記載の放射線検出素子。
【請求項8】
更に、コンデンサを含む電気信号出力部を備え、
前記コンデンサは前記放射線吸収層の両面の電極のいずれかに接続され、
前記電気基信号出力部は前記コンデンサに蓄積した電荷を電気信号として出力する、請求項5に記載の放射線検出素子。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の放射線検出素子を1以上備える、放射線検出デバイス。
【請求項10】
請求項4又は8に記載の放射線検出素子を1以上備える放射線検出装デバイスと、前記電気信号出力部からの信号を画像に変換する画像変換部とを備える、放射線像撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線検出素子、放射線検出デバイス及び放射線像撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線検出はセキュリティ、医療、資源探索等様々な分野で活用されており、例えば、放射線を電気信号に変換する放射線変換素子(以下、単に「変換素子」と記載する場合もある)をアレイ状に並べ、対象物に放射線を照射することで、対象物の位置ごとに放射線の吸収率が異なる場合に、前記各変換素子に入射する放射線量が異なることを利用し、変換素子ごとの検出線量に基づいて対象物の像を描画する。
放射線を電気信号に変換する主な手法として、シンチレータと光電変換部を含む放射線検出素子(以降、単に「検出素子」と記載する場合もある)を用い、放射線をシンチレータにより可視光などの電磁波に変換した後、該電磁波を光電変換部により電気信号に変換する手法(間接変換法)と、半導体等の変換素子により放射線を直接電気信号に変換する手法(直接変換法)が存在する。
【0003】
間接変換法はシンチレータが放出する電磁波が全方位に放出され、さらにシンチレータ中で散乱するため、ある検出素子内のシンチレータから放出された電磁波が近傍の検出素子で検出される所謂「クロストーク」が起きやすく、位置分解能が低下する傾向にある。
これに対し、直接変換法は例えば、放射線を電荷に変換する放射線吸収層の両面に電極を配置し、一方の電極に対して電圧を印加することで放射線吸収層内に電界を発生させた状態で放射線を照射することで、放射線吸収層で生じた電荷が電界方向に従って移動し、他方の電極に到達する。ここでこの電極への電荷の蓄積、もしくはそれによる電極間の電圧の変化を電気信号として取り出すという原理で放射線を検出する。
この様に放射線吸収層で生じた電荷を特定の方向に誘導することで、前記クロストークの発生を抑えることができるため、直接変換法は間接変換法より位置分解能に優れているが、サイズの大きい結晶性素子を必要とする。
【0004】
間接変換法による放射線検出装置として、例えばCsI、CsI及び混晶系などのハライド系材料を用いたものが挙げられる(特許文献1,2)。しかし、特許文献1,2の材料は、いずれも蒸着による薄膜や針状結晶などの形状をしており、用途も前述のクロストークの問題を抱える間接変換法に留まり、位置分解能に優れる直接変換法への応用、及びこれに必要となる大きなサイズの結晶性素子は報告されていない。
直接変換法による放射線検出装置の例として、例えばCdTe、CdZnTe等の無機化合物単結晶を放射線吸収層に用い、高い感度で放射線を検出するものが報告されている(特許文献3,4)。しかし、これらの材料はいずれも変換素子製造のコストが非常に高いほか、有害なCdを含むという課題を抱えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-147343号公報
【特許文献2】特開2015-045636号公報
【特許文献3】特開2016-202901号公報
【特許文献4】特開2017-096798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来技術の課題に鑑み、本発明は、Cd等の有害元素を含まない材料を用いた放射線直接検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意検討を重ねた結果、特定の組成を示す結晶相を有し、かつ結晶性の高い放射線吸収層を備える放射線検出素子を用いることで上記課題を解決できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下を要旨とする。
[1]放射線吸収層と電極とを備える放射線検出素子であって、
前記電極は前記放射線吸収層の両面に位置し、
前記放射線吸収層は以下(a)~(c)を満たす、放射線検出素子。
(a)放射線の入射に応じて電荷を生じる性質を示す。
(b)下記式(1)を満たす組成の結晶相を含む。
(c)短径の長さが1mm以上の単結晶子を備える。
A3BxCy・・・(1)
(上記式(1)中、A、B、Cは化合物を構成する元素を指し、
AはK、Rb、及びCsから成る群より選ばれる1種以上の元素を含み、
Bは少なくともCuを含み、
CはCl、Br、及びIから成る群より選ばれる1種以上の元素を含み、
x、yはそれぞれAを3とした時のB及びCのモル比を示し、
1.5≦x≦2.5、4.0≦y≦6.0
である。)
[2]前記結晶相の結晶構造が直方晶、空間群Pnmaに属する、[1]に記載の放射線検出素子。
[3]前記放射線吸収層が単結晶から成る、[1]又は[2]に記載の放射線検出素子。
[4]更に、コンデンサを含む電気信号出力部を備え、
前記コンデンサは前記放射線吸収層の両面の電極のいずれかに接続され、
前記電気基信号出力部は前記コンデンサに蓄積した電荷を電気信号として出力する、[1]~[3]のいずれかに記載の放射線検出素子。
[5]放射線吸収層と電極とを備える放射線検出素子であって、
前記電極は前記放射線吸収層の両面に位置し、
前記放射線吸収層は以下(a)、(b)及び(d)を満たす、放射線検出素子。
(a)放射線の入射に応じて電荷を生じる性質を示す。
(b)下記式(1)を満たす組成の結晶相を含む。
(d)前記放射線吸収層のX線ロッキングカーブ(XRC)の(002)面の半値幅(FWHM)が0.03°以下である。
A3BxCy・・・(1)
(上記式(1)中、A、B、Cは化合物を構成する元素を指し、
AはK、Rb、及びCsから成る群より選ばれる1種以上の元素を含み、
Bは少なくともCuを含み、
CはCl、Br、及びIから成る群より選ばれる1種以上の元素を含み、
x、yはそれぞれAを3とした時のB及びCのモル比を示し、
1.5≦x≦2.5、4.0≦y≦6.0
である。)
[6]前記結晶相の結晶構造が直方晶、空間群Pnmaに属する、[5]に記載の放射線検出素子。
[7]前記放射線吸収層が単結晶から成る、[5]又は[6]に記載の放射線検出素子。
[8]更に、コンデンサを含む電気信号出力部を備え、
前記コンデンサは前記放射線吸収層の両面の電極のいずれかに接続され、
前記電気基信号出力部は前記コンデンサに蓄積した電荷を電気信号として出力する、[5]~[7]のいずれかに記載の放射線検出素子。
[9][1]~[8]のいずれかに記載の放射線検出素子を1以上備える、放射線検出デバイス。
[10][4]又は[8]に記載の放射線検出素子を1以上備える放射線検出装デバイスと、前記電気信号出力部からの信号を画像に変換する画像変換部とを備える、放射線像撮像装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、Cd等の有害元素を含まない材料を用いた放射線直接検出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1で得られた単結晶Cs
3Cu
2I
5を示す写真である。
【
図2a】実施例1で得られた単結晶Cs
3Cu
2I
5の(002)面におけるX線ロッキングカーブを示す図である。
【
図2b】実施例1で得られた単結晶Cs
3Cu
2I
5の(002)面におけるX線ロッキングカーブを、縦軸を対数軸で示す図である。
【
図3】実施例1で製作した厚み1.6mmの結晶板の直線透過率のチャートを示す図である。
【
図4】実施例1で作製した放射線検出素子の放射線応答電流の測定のための測定デバイスを示す模式図である。
【
図5】実施例1で作製した放射線検出素子の放射線応答電流密度の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態によって何ら限定されるものではない。
【0012】
本発明は一実施形態において、放射線吸収層と電極とを備える放射線検出素子であって、前記電極は前記放射線吸収層の両面に位置し、前記放射線吸収層は以下(a)及び(b)を満たす、放射線検出素子である。
(a)放射線の入射に応じて電荷を生じる性質を示す。
(b)下記式(1)を満たす組成の結晶相を含む。
A3BxCy・・・(1)
(上記式(1)中、A、B、Cは化合物を構成する元素を指し、
AはK、Rb、及びCsから成る群より選ばれる1種以上の元素を含み、
Bは少なくともCuを含み、
CはCl、Br、及びIから成る群より選ばれる1種以上の元素を含み、
x、yはそれぞれAを3とした時のB及びCのモル比を示し、
1.5≦x≦2.5、4.0≦y≦6.0
である。)
本発明は特定の実施形態において、前記放射線吸収層が前記(a)及び(b)に加えて以下(c)を満たす。
(c)短径の長さが1mm以上の単結晶子を備える。
本発明は特定の実施形態において、前記放射線吸収層が前記(a)及び(b)に加えて以下(d)を満たす。
(d)前記放射線吸収層のX線ロッキングカーブ(XRC)の(002)面の半値幅(FWHM)が0.03°以下である。
【0013】
以降、これらの実施形態における放射線検出素子を単に「本放射線検出素子」と記載する場合がある。
【0014】
本放射線検出素子は一実施形態において、更にコンデンサを含む電気信号出力部を備え、前記コンデンサは前記放射線吸収層の両面の電極のいずれかに接続され、前記電気基信号出力部は前記コンデンサに蓄積した電荷を電気信号として出力する、前記放射線検出素子である。
【0015】
本発明は別の実施形態においては、本放射線検出素子を1以上備える、放射線検出デバイスである。
以降、本実施形態における放射線検出デバイスを単に「本放射線検出デバイス」と記載する場合がある。
【0016】
本発明は一実施形態において、本放射線検出装デバイスと、前記電気信号出力部からの信号を画像に変換する画像変換部とを備える、放射線像撮像装置である。
以降、本実施形態における放射線像撮像装置を単に「本放射線撮像装置」と記載する場合がある。
【0017】
<放射線検出素子>
本放射線検出素子は、放射線吸収層とこの放射線吸収層の両面に位置する電極とを備える。
放射線吸収層の形状は2つの主面を備える。本明細書では説明の便宜のため、前記2つの主面をそれぞれ第一面と第二面と称する。
また、第一面側に位置する電極を「第一電極」、第二面側に位置する電極を「第二電極」と記載する場合がある。
また、説明の便宜上、電圧を印加する側の電極を「第一電極」とする。即ち、第一面に電圧が印加される。
以下、放射線吸収層と電極につき説明する。
【0018】
<放射線吸収層>
前記放射線吸収層(以下、単に「放射線吸収層」と記載する場合がある)は、放射線等のエネルギー線を受けて電荷を発生する物質(以下、放射線吸収部材と記載することもある)を含む。放射線吸収部材は1種を用いてもよく、2種以上を組み合わせてもよく、他の物質と組み合わせて用いてもよい。2種以上の放射線吸収部材又は放射線吸収物質と他の物質との組み合わせの態様は特に限定されず、例えば第一電極と第二電極を結ぶ厚み方向に積層してもよく、該厚み方向と垂直な面方向に並べて配置してもよい。
【0019】
放射線としては例えばα線、γ線、X線、中性子線が挙げられ、医療、セキュリティの分野で活用する観点では好ましくはX線又はγ線であり、応用分野の汎用性から好ましくはX線である。検出対象とする電荷は電子または正孔である。
【0020】
放射線吸収層は第一面に対向する第二面を備えていれば特に制限されないが、第一面に電圧を印加した場合に生じる電界強度が放射線吸収層内で均一であることが好ましい観点から、少なくとも前記第一電極及び第二電極と接する領域において第一面と第二面との間隔が等しい、即ち第一面と第二面とは平行な面であることが好ましい。また、第一面と第二面の形状は特に制限されず、平面又は曲面とすることができ、例えば四角形、長方形などの矩形、円形、多角形、或いは球面とすることもできる。装置製造の簡便さの観点からは平面が好ましく、矩形がより好ましい。また放射線吸収層は、その面方向に複数の電極を配置した1つの層であってもよく、1つの層に1対の電極のみを配置してもよく、後者の場合には複数の放射線吸収層が、その面方向に配置され得る。別の側面から論ずれば、放射線吸収層は複数の放射線検出素子間で連結して1つの層を成していてもよく、検出素子ごとに独立していてもよい。
【0021】
放射線吸収層の第一面及び第二面の面積はそれぞれ独立に、通常1mm2以上、好ましくは4mm2以上、より好ましくは16mm2以上である。放射線吸収層の第一面及び第二面の面積の上限は特に制限されないが、製造の難易度の観点から、通常1000mm2以下である。面積が上記下限以上であることで、一度の撮像でより広い面積の画像を得ることができる。
また、放射線吸収層の厚みは通常0.5mm以上、好ましくは1mm以上、より好ましくは1.5mm以上、更に好ましくは2.0mm以上である。厚みの上限は特に制限されないが、通常50mm以下であり、30mm以下、20mm以下、又は10mm以下としてもよい。
放射線吸収層の厚みが上記範囲にあることで、放射線吸収率を高めることができる。
【0022】
放射線吸収部材は感度の均一性の観点から結晶であることが好ましく、具体的には、短径の長さが1mm以上の単結晶子を含むことが好ましく、特に好ましくは単結晶である。
別の観点では、前記結晶子の短径の長さは好ましくは1mm以上、より好ましくは5mm以上である。単結晶子が大きく、欠陥が少ないほど放射線により生じた電荷がトラップ、散乱、又は吸収される可能性が低くなり、単結晶子から電極に到達する電荷量が増加し、結果として放射線から電流への変換効率が向上する。
【0023】
放射線吸収層のX線ロッキングカーブ(XRC)における(002)面の半値幅(FWHM)は通常0.03°以下であり、好ましくは0.01°以下、より好ましくは0.07°以下である。X線ロッキングカーブにおける半値幅が上記上限以下の放射線吸収層を備えることで、欠陥が少なく、放射線吸収率が向上し、放射線検出感度の高い放射線検出デバイスを提供できる。
X線ロッキングカーブは常法により測定することができるが、本明細書では後述の実施例の項に記載の方法で測定した数値を用いる。
【0024】
前記結晶相の結晶構造は、好ましくは空間群Pnmaの直方晶系に属する。
ここで、結晶構造はXRD測定とその結果を用いたリートベルト解析法により決定できる。
【0025】
放射線吸収部材のバンドギャップは放射線のエネルギーを超えない範囲で大きいほど好ましく、下限は通常1.25eV以上、好ましくは1.5eV以上、より好ましくは2.0eV以上、さらに好ましくは2.2eV以上であり、特に好ましくは5eV以上である。一方、印加電圧が必要以上とならない範囲で、放射線吸収部材のバンドギャップの上限は通常100keV以下、好ましくは80keV以下、より好ましくは60keV以下である。バンドギャップが上記下限以上であることで、熱キャリアの発生頻度を低減し、放射線照射に依らずに発生する電気信号のノイズを低減することができる。また、バンドギャップが上記上限以下であることで、入射放射線のエネルギーを効率的に吸収でき、発生した電荷を効率的に電極に輸送できるため、検出感度を高めることができる。
【0026】
放射線吸収部材の電気抵抗は通常104Ωcm以上、好ましくは106Ωcm以上、より好ましくは108Ωcm以上である。放射線吸収部材の電気抵抗が上記下限以上であることで、漏れ電流を低減でき、高いシグナル/ノイズ(S/N)比が得られる。放射線吸収部材の電気抵抗の上限は特に制限されず、高いほど放射線で励起されていないときに絶縁体の性質を示すため、好ましい。
【0027】
放射線吸収部材の密度は通常2.0g/cm3以上、好ましくは3.0以上、より好ましくは4.0以上であり、上限は特に制限されず、高ければ高いほど良いが、通常10g/cm3以下である。放射線吸収部材の密度が上記下限以上であることで、放射線吸収効率が高まり、放射線検出装置において高い放射線検出感度を得ることができる。
【0028】
放射線吸収部材の実効原子番号は通常40以上、好ましくは50以上、より好ましくは55以上、さらに好ましくは60以上であり、上限は特に制限されず、高ければ高いほど良いが、通常100以下である。放射線吸収部材の実効原子番号が上記下限以上であることで、放射線吸収効率が高まり、放射線検出装置において高い放射線検出感度を得ることができる。なお、実効原子番号は放射線吸収部材の組成に基づき、Medical Physics、39(2012)、p1769-1778の記載を参考に決定することができる。
【0029】
放射線吸収部材の正孔移動度μhと正孔寿命τhの積μhτhは通常10-7cm2/V以上、好ましくは10-5cm2/V以上、より好ましくは10-3cm2/V以上であり、上限は特に制限されず、高ければ高いほど良いが、通常10-1cm2/V以下である。放射線吸収部材の正孔移動度μhと正孔寿命τhの積μhτhが上記下限以上であることで、高い正孔検出感度を得ることができる。なお、正孔移動度と正孔寿命の積μhτhは光励起しながら電流電圧測定を行う光伝導性測定を行い、関係式から決定することができる(Journal of Physics of and Chemistry of Solids 1965, Vol.26,p575-578参照)。
【0030】
放射線吸収部材の電子移動度μeと電子寿命τeの積μeτeも前記正孔の場合と同様に通常10-7cm2/V以上、好ましくは10-5cm2/V以上、より好ましくは10-3cm2/V以上である。なお、電子移動度と電子寿命の積μeτeは前記正孔の場合と同様の方法で決定することができる(上記文献参照)。
【0031】
放射線吸収部材は、下記式(1)で表される結晶相を含む。
A3BxCy・・・(1)
(上記式(1)中、A、B、Cは化合物を構成する元素を指し、
AはK、Rb、及びCsから成る群より選ばれる1種以上の元素を含み、
Bは少なくともCuを含み、
CはCl、Br、及びIから成る群より選ばれる1種以上の元素を含み、
x、yはそれぞれAを3とした時のB及びCのモル比を示し、
1.5≦x≦2.5、4.0≦y≦6.0
である。)
【0032】
前記A元素はK、Rb、及びCsのいずれか1種以上を含み、好ましくはCsを含む。AがCsを含む実施形態においては、A元素に占めるCsの割合は好ましくは50モル%以上であり、より好ましくは70モル%以上、更に好ましくは80モル%以上、特に好ましくは90モル%以上であり、最も好ましくは100モル%である。
A元素がCsを含むことで結晶構造が安定化する。さらには、不純物を除去し結晶歪を低下させることで、透明な単結晶子を得ることができ、放射線の散乱等を防ぐことができる。
【0033】
前記B元素は通常Cuを含む。B元素に占めるCuの割合は好ましくは50モル%以上であり、より好ましくは70モル%以上、更に好ましくは80モル%以上、特に好ましくは90モル%以上であり、最も好ましくは100モル%である。
B元素がCuを含むことで結晶構造が安定化する。さらには、不純物を除去し結晶歪が低下することで、透明な単結晶子を得ることができ、放射線の散乱等を防ぐことができる。
【0034】
前記C元素は通常Cl、Br、及びIのいずれか1種以上を含み、好ましくはIを含む。C元素がIを含む実施形態においては、C元素に占めるIの割合は好ましくは50モル%以上であり、より好ましくは70モル%以上、更に好ましくは80モル%以上、特に好ましくは90モル%以上であり、最も好ましくは100モル%である。
C元素がCl、Br、及びIのいずれか1種以上、好ましくはIを含むことで結晶構造が安定化する。さらには、不純物を除去し結晶歪が低下することで、透明な単結晶子を得ることができ、放射線の散乱等を防ぐことができる。また、より原子番号が大きい元素を含むことで、材料全体の放射線吸収率が向上する。
【0035】
上記x、yはそれぞれ化合物におけるAのモル比を3とした時のB、Cの相対的なモル比を示し、それぞれ独立に、
xは通常1.5以上、好ましくは1.7以上、より好ましくは1.8以上であり、通常2.5以下、好ましくは2.3以下、より好ましくは2.2以下であり、
yは通常4.0以上、好ましくは4.3以上、より好ましくは4.7以上であり、通常6.0以下、好ましくは5.7以下、より好ましくは5.3以下である。
x、yが上記範囲にあることで、結晶構造が安定化し、また均一な品質の放射線吸収層を得ることができる。
結晶相の組成は、GD-MS、ICP分析などの常法で測定できる。
【0036】
放射線吸収層は、厚さ1.6mmにおける波長500nmより長波長領域の直線透過率は通常70%以上であり、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上である。上記透過率が高い放射線吸収層を備えることで、結晶性が向上し、吸収効率の高い放射線検出素子及び放射線検出デバイスを提供できる。
また、ここで測定される波長500nmの光の直線透過率を波長780nmの光の直線透過率で除した値の絶対値が10%以下、特に5%以下であることが、優れた結晶性を持ち吸収効率の高い放射線検出素子及び放射線検出デバイスを提供できる観点から好ましい。
【0037】
<電極>
本放射線検出素子が備える電極(第一電極及び第二電極)は通常、前記放射線吸収層の2つの主面上にそれぞれ位置する。
【0038】
前記電極の材質に特に制限は無いが、通常導電性が高い金属を用いることができ、例えばAl、W、Ru、Ni、Pd、Cu、Ag、Au、Pt、Pb、Bi等を用いることができる。電極は、電極が接する放射線吸収層への拡散を防止する観点から、好ましくは拡散係数の低い特性を有することが好ましく、例えばAl、W、Ru、Ni、Pd、Cu、Au、Pt、Pb、Biを用いることができる。
電極の仕事関数の絶対値は、良好な高抵抗の電気抵抗率を得る観点から、放射線吸収層の伝導帯の仕事関数の絶対値と比較して大きいことが好ましく、また放射線吸収層の価電子帯の仕事関数の絶対値と比較して小さいことが好ましい。なお、仕事関数は常法で求めることができる。
【0039】
本放射線検出素子は通常、第一電極に電圧を印加し、第一電極と第二電極の電極間に電場が生じた状態で使用する。放射線により電荷が発生した際には、電界により2つの電極にそれぞれ電子と正孔の何れかが到達する。通常、第一電極に負電圧を印加した場合、該第一電極に正孔が到達し、第二電極に電子が到達する。正孔を到達させることを意図した電極の仕事関数の絶対値は、他方の電極の仕事関数の絶対値より小さいことが好ましい。
【0040】
<電力供給部>
本放射線検出素子は、電極間に電圧を印加するための電力供給部を備えていてもよい。電力供給部は第一電極と接続され、前記第一電極に電圧を印加する。電力供給部は外部電源と接続して用いることで第一電極に電力を供給してもよく、自己電源を含むことで、自ら第一電極に電力を供給してもよい。前記外部電源、又は自己電源には、通常用いられる電源を用いることができ、例えば直流(DC)電源、交流(AC)電源を用いることができる。
【0041】
<電圧変換器>
電力供給部は、前記第一電極に対して異なる印加する電圧を調節する目的で、電圧変換器を備えていてもよい。電圧変換器の配置は上記の目的が達成される限り特に制限されず、通常電源と第一電極との間に配置される。例えば電圧変換器を電源に直接接続してもよく、何らかの回路を介して接続してもよい。電圧変換器には公知のものを利用でき、例えばリニアレギュレータ、スイッチングレギュレータを用いることができる。
【0042】
<電気信号出力部>
本放射線検出素子は、電気信号出力部を備えていてもよい。前記電気信号出力部は前記電極のいずれかに接続され、該電極に蓄積された電荷を電気信号として出力する。
前記電気信号出力部は本放射線検出素子の内部に備えられていてもよく、外部の電気信号出力器を用いてもよい。
本放射線検出素子を2以上備える本放射線検出デバイスにおいては、前記電気信号出力部は本放射線検出素子ごとに1つ備わり、かつ該各電気信号出力部は対応する電極に接続されていることが好ましい。
前記電気信号出力部は通常のものを用いることができるが、例えば前記電極に蓄積した電荷を二次的に蓄積する1以上の電荷蓄積回路、及び電荷蓄積回路に蓄積された電荷を電気信号として出力する電気信号出力回路を含むものを利用できる。電荷蓄積回路は特に制限されないが、例えばコンデンサを用いることができる。
【0043】
電気信号出力回路の動作としては、前記電荷蓄積部のいずれかに蓄積された電荷が閾値以上に達した時に該電荷に基づく電気信号を出力すること、前記コンデンサのいずれかに蓄積された電荷を一定のタイミングで電気信号として出力すること、及び前記コンデンサのいずれかに蓄積された電荷を外部電力の動作により電気信号として出力すること(例えばトランジスタスイッチなどを用いる)のうち少なくとも1つ以上の動作を可能とすることが好ましく、これらを実現可能な回路を用いることができる。これらの動作は単独で行ってもよく、組み合わせてもよい。また、これらの動作に対応する回路のうち一部又は全部を複数備えていてもよく、繰り返しの構造を取っていてもよい。上記の動作により、第二電極の各ピクセルに蓄積した電荷を一定の閾値ごと、及び/または一定のタイミングごとに電気信号として出力できる。
【0044】
また、電気信号出力部は、電荷又は電気信号の情報を増幅する増幅回路(アンプ、積分増幅回路など)、サンプルホールド回路などのグリッチ除去回路、電荷を蓄積し得る回路と接続可能なアース及びアースと該回路の接続のON/OFFを切り替えるスイッチ、不要な低周波数と高周波数のノイズを除去するフィルタ回路(ローパスフィルタ、ハイパスフィルタなど)などを備えていてもよい。これらの回路を適宜備えることで、感度の向上、ノイズの除去、電気信号注出力後の残留電荷の除去などを行い、電気信号の精度を向上することができる。
【0045】
本放射線検出素子の連続放射線照射による応答電流測定を行った際の、放射線照射時の電流密度をE1、放射線非照射時の電流密度をE2としたとき、E1/E2の値は通常5以上、好ましくは8以上、より好ましくは10以上、更に好ましくは15以上、特に好ましくは20以上、殊更好ましくは30以上であり、上限は特に制限されず、高い方が望ましい。例えば理想的には、放射線非照射時の電流密度が0に近づき、前記E1/E2の値は無限大に近づく。
【0046】
本放射線検出デバイスが2以上の本放射線検出素子を備える場合、2以上の本放射線検出素子は放射線吸収層と電極とを備える本放射線吸収素子が互いに分断された状態で並んでいてもよく、一部の電極又は放射線吸収層を共有していてもよく、異なる本放射線吸収素子で生じた電荷を区別し、位置情報を得られるものであれば、特に制限はない。
【0047】
<そのほかの部位>
本放射線検出素子または本放射線検出デバイスは、その他の部位を含んでいてもよい。例えば、電圧を印加する電極と放射線吸収層との間に絶縁層を備えていてもよく、また外部に素子又はデバイスを保護する保護層を備えていてもよい。
または、各層の密着性を高めるための接着層を備えていてもよい。
【0048】
<画像変換部>
本発明は、別の実施形態によれば、本放射線検出デバイスを備え、更に画像変換部を備える、放射線撮像装置である。
前記画像変換部は、本放射線検出デバイスから出力された電気信号を基に画像データを作成する。すなわち、電気信号の信号値のデータ収集を開始し、電気信号の信号値からエネルギー値を、本放射線検出素子の位置から位置情報を取得する。また、送信されたタイミングから時間の情報を取得することもできる。そして、位置ごとの放射線エネルギー値を積算することで、位置ごとの放射線入射方向における被写体の放射線吸収率に応じた像を構築する。画像信号の出力制御方式は、常法を用いることができ、例えばCMOSイメージセンサ、CCDイメージセンサ等により用いられる従来の方式が用いられる。
なお、画像変換部は、電気信号の情報を処理するため、一般には信号処理部、情報処理部と呼ばれることもある。
【0049】
本放射線撮像装置は電気信号出力部と画像変換部との間にA/D変換器を備えていてもよい。画像変換部がデジタル信号を処理する場合、A/D変換を行うことで適切に電気信号を処理できる。
【0050】
本放射線撮像装置は、そのまま放射線検出装置として用いることもでき、また空間線量計等スポットで放射線を検出する機器に用いてもよく、手荷物検査装置、医療用放射線像撮像装置、資源探索用放射線検出装置など、様々な用途に用いることができる。
【0051】
<放射線吸収部材の製法>
前記放射線吸収部材は式(1)で表される結晶相を含み、かつ短径が1mm以上の単結晶子を含む。この様な単結晶子を含む結晶相の製法は特に制限されないが、例えば各元素のモル比が得るべき化合物の組成比となるように各元素の原料を混合した溶媒を添加して飽和溶液を作成し、結晶成長させることで得られる。
結晶成長の方法としては特に制限はないが、例えばVSA法(Vapor Saturation of an Antisolvent)で結晶成長させる方法が挙げられる。
【0052】
具体的な製法の一例を以下に記す。結晶相に用いる各元素のモル比が目的の組成と等しくなるように各元素の原料を混合し、10℃以上80℃以下の環境下で粉末が観察されなくなるまで撹拌した後、適切な溶媒で飽和溶液を作製し、残った粉末状の固形物をフィルタによって濾過する。
攪拌時の温度は好ましくは20℃以上であり、好ましくは70℃以下、より好ましくは60℃以下である。
前記溶媒は特に制限されないが、原料が溶解し、かつ目的物が適切に析出するものが好ましい。例えば前記式(1)におけるA及びB元素のハロゲン化物を用いる場合、原料の溶解度を確保する目的でアルコール類等の極性溶媒を用いることができ、また生成物の析出を促すためにアセトンなどの貧溶媒を用いることもできる。溶媒は原料及び目的物に応じて適宜変え、或いは混合して用いることができる。
【0053】
各元素の原料は特に制限されないが、A、B、C元素のいずれかから成る化合物を用いると、不要な元素を排除できる点で好ましく、例えばAとBそれぞれのハロゲン化物などが好ましい。原料の純度は高いほど好ましく、通常95%モル以上、好ましくは99モル%以上である。
【0054】
濾過に用いるフィルタの材質は反応性の低いものが好ましく、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の樹脂を用いることができるが、これに限定されない。
フィルタの空孔サイズは通常5.0μm以下、好ましくは2.0μm以下、より好ましくは1.0μm以下、更に好ましくは0.6μm以下であり、下限は特に制限されないが、通常0.1μm以上である。
【0055】
濾過後、濾過した溶液をVSA法(Vapor Saturation of an Antisolvent)で結晶成長させる。すなわち、上述した飽和溶液を小瓶に注入し、穴の開いたフィルムで覆った後、適切な溶媒を満たしたビーカーの中に設置する。その後、ビーカーの上部もフィルムで覆った後、10℃以上80℃以下のホットプレート等に24時間以上静置することで、短径が1mm以上の単結晶を得ることができる。
ここで用いる溶媒は、溶解度の変化を抑制するため、前記飽和溶液に用いた溶媒と同じものを用いることが好ましい。また、静置する際の温度も、同じ理由で前記飽和溶液と同じ温度であることが好ましい。
前記フィルムは非反応性の材質であることが好ましく、例えばパラフィン等を用いることができる。
静置時間は結晶相が十分に成長すれば特に制限されないが、好ましくは36時間以上、より好ましくは48時間以上である。結晶成長が穏やかであるほど欠陥の少ない結晶を得やすく、その場合静置により多くの時間がかかる。
【実施例0056】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
[ロッキングカーブ及び半値幅の測定]
X線回折(XRD)は、Cu KαをX線源とする、全自動多目的X線回折装置SmartLab(Rigaku社製)を用いて測定した。なお、XRDピークの半値幅に適したモノクロメータを用いて、X線源の単色化・平行化を行った。
上記方法で得られたX線回折スペクトルから結晶相の(002)面に由来するピーク位置を求めた。次に、このピーク位置が得られた角度にX線回折装置のディテクターを固定し、X線の入射角ωを変えてX線回折測定を行うことで、山形のX線回折スペクトル(ロッキングカーブ)を得た。
得られたX線回折スペクトルから、ロッキングカーブの最大強度が半分になる位置の幅(半値幅)を求めた。
【0058】
[透過率測定]
U-3310(日立ハイテクサイエンス社製)により、後述の結晶サンプルの透過率を評価した。
測定は1.6mm厚の試料を1mmφのピンホールを開けた黒色治具に透明テープで固定し、試料が固定された黒色治具を入射光の中央にピンホールが来るように積分球に密着させ、直線透過率を測定した。
【0059】
[実施例1]
<Cs3Cu2I5蛍光体の製造>
ジメチルスルホキシドとメタノールとの体積比率が5:2の混合溶媒に対して、シグマアルドリッチ製のCsI(純度99.9%)を1.88mol/L、CuI(純度99.999%)を1.25mol/Lとなる様に加えた後、原料が溶解するまで室温で攪拌し、Cs3Cu2I5に換算した際の濃度が0.63mol/LとなるCs/Cu/I溶液を作製した。この溶液にアセトンを加え、十分に均一になるまで攪拌した後、0.45μmのPTFEフィルタを通過させ、析出用溶液を作製した。
析出用溶液が入った容器を、析出用溶液の10倍の体積のアセトンが入った容器の内部に設置し、結晶育成容器を用意した。
結晶育成容器を、恒温槽中に設置して、40℃まで30分で昇温し、40℃で2日保持した後に取り出し、結晶育成容器中に析出した結晶を取り出した。
【0060】
次いで、析出用溶液中に、取り出した結晶を設置したこと以外は、同様の手順を繰り返し、結晶育成容器中に析出した結晶を取り出した。
図1は、得られた単結晶Cs
3Cu
2I
5の写真である。
図1より、この単結晶Cs
3Cu
2I
5の短径の長さは11mmであることが分かる。
【0061】
得られた単結晶Cs
3Cu
2I
5の(002)面のX線ロッキングカーブを上述の方法で測定した。結果を
図2a、
図2bに示す。(002)面における、回折ピークの半値幅は0.007°であった。
また、XRD解析から、本単結晶の結晶構造は、空間群Pnmaの直方晶系に属することが分かった。
【0062】
得られた結晶を、6mm×6mm×1.6mm(第一面及び第二面の面積36mm
2)に成形し、結晶板を作製した。得られた結晶板について、厚さ1.6mmにおける波長300nm~800nmの光の直線透過率を
図3に示す。
500nmにおける直線透過率は77%、780nmにおける直線透過率は82%であり、500nmの値を780nmの値で除した値は0.94であった。
【0063】
上記の結晶板(Cs
3Cu
2I
5単結晶)を用いて、
図1に示すように放射線検出素子を作製し、その放射線応答電流の測定を行った。
まず、Cs
3Cu
2I
5単結晶3の上面及び下面に、メタルマスクを通して金をそれぞれ100nmの膜厚で蒸着することで、電極2,4を形成した後、金電極2,4に金線6A,6Bをそれぞれ銀ペーストで接合することで、放射線検出素子測定デバイスを作製した。金線6A,6Bは、アースされたエレクトロメーター5に接続して電圧を変えて電流値の測定を行った。
X線照射装置としては、X線ターゲットがタングステン、管電圧が100kV、管電流が0.5mAで構成されるものを使用した。測定位置に線量率計を置いて線量率を測定すると、3.52mGy/sであった。
【0064】
暗所で測定デバイスに電圧をかけて電流測定を行ったところ、
図5に示す通り、-200Vの電圧をかけた測定用デバイスから検出された電流密度は11.1nA/cm
2であった。また、-200Vの電圧をかけたまま、X線照射装置で測定用デバイスにX線を照射して電流測定を行ったところ、X線照射時に検出された電流密度は129nA/cm
2であった。これより、X線照射時の電流値とX線非照射時の電流密度の比率(ON/OFF比)は11.6と算出された。
さらに、X線照射時と非照射時に検出された電流密度の差を、照射したX線の線量率で除して算出した感度は、0.0336μC/mGy/cm
2であった。
【0065】
以上示した通り、本発明によれば、Cd等の有害元素を含まない材料を用いた放射線直接検出装置を提供することができる。