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特開2024-19999ガラス組成物、ガラスペースト、封着パッケージおよび有機エレクトロルミネセンス素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024019999
(43)【公開日】2024-02-14
(54)【発明の名称】ガラス組成物、ガラスペースト、封着パッケージおよび有機エレクトロルミネセンス素子
(51)【国際特許分類】
   C03C 8/04 20060101AFI20240206BHJP
   C03C 8/24 20060101ALI20240206BHJP
   C03C 8/16 20060101ALI20240206BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20240206BHJP
   H05B 33/04 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
C03C8/04
C03C8/24
C03C8/16
H05B33/14 A
H05B33/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022122837
(22)【出願日】2022-08-01
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】泰地 航平
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 智之
【テーマコード(参考)】
3K107
4G062
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107BB02
3K107CC45
3K107DD12
3K107EE43
3K107EE53
4G062AA09
4G062BB12
4G062CC10
4G062DA01
4G062DA02
4G062DB01
4G062DB02
4G062DB03
4G062DC01
4G062DC02
4G062DC03
4G062DD01
4G062DD02
4G062DE04
4G062DF01
4G062EA01
4G062EA10
4G062EB01
4G062EC01
4G062ED01
4G062ED02
4G062EE01
4G062EE02
4G062EF01
4G062EF02
4G062EG01
4G062EG02
4G062EG03
4G062FA01
4G062FB01
4G062FB02
4G062FC01
4G062FC02
4G062FC03
4G062FD01
4G062FD02
4G062FE01
4G062FF04
4G062FF05
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4G062FH02
4G062FJ01
4G062FK01
4G062FK02
4G062FL01
4G062FL02
4G062GA01
4G062GA02
4G062GB01
4G062GC01
4G062GD04
4G062GE01
4G062HH01
4G062HH03
4G062HH04
4G062HH05
4G062HH07
4G062HH08
4G062HH09
4G062HH10
4G062HH11
4G062HH12
4G062HH13
4G062HH15
4G062HH17
4G062HH20
4G062JJ01
4G062JJ03
4G062JJ04
4G062JJ05
4G062JJ07
4G062JJ10
4G062KK01
4G062KK03
4G062KK05
4G062KK07
4G062KK10
4G062MM12
4G062NN29
4G062PP01
4G062PP14
(57)【要約】
【課題】耐水性の観点でより優れ、熱膨張係数がより小さく、溶融時の流動性及び焼成時の許容温度範囲の広さに優れるガラス組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】酸化物基準のモル%表示で、Vを25.0~40.0%、TeOを25.5~30.0%、ZnOを15.0~30.0%、Nbを5.5%~8.0%、Alを0~5.0%、BaOを0~4.5%、Bを0~6.0%、Biを0~0.4%、及びZrOを0~4.5%含有し、実質的にアルカリ金属酸化物及びPbOを含有しないことを特徴とするガラス組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物基準のモル%表示で、
を25.0~40.0%、
TeOを25.5~30.0%、
ZnOを15.0~30.0%、
Nbを5.5~8.0%、
Alを0~5.0%、
BaOを0~4.5%、
を0~6.0%、
Biを0~0.4%、及び
ZrOを0~4.5%含有し、
実質的にアルカリ金属酸化物及びPbOを含有しないことを特徴とするガラス組成物。
【請求項2】
酸化物基準のモル%表示で、Bを1.0~5.0%含有する、請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項3】
酸化物基準のモル%表示で、Nbを6.2%超含有する、請求項1または2に記載のガラス組成物。
【請求項4】
酸化物基準のモル%表示で、VとTeOとZnOの含有量の合計(V+TeO+ZnO)が80~91%である、請求項1または2に記載のガラス組成物。
【請求項5】
酸化物基準のモル%表示で、(V/TeO)で表される含有量の比が1.0~1.6である、請求項1または2に記載のガラス組成物。
【請求項6】
酸化物基準のモル%表示で、BiとTeOとBaOの含有量の合計(Bi+TeO+BaO)が25.5~31.0%である、請求項1または2に記載のガラス組成物。
【請求項7】
酸化物基準のモル%表示で、AlとZrOの含有量の合計(Al+ZrO)が0~7.0%である、請求項1または2に記載のガラス組成物。
【請求項8】
請求項1または2に記載のガラス組成物と、有機ビヒクルとを含有するガラスペースト。
【請求項9】
第1の基板と、前記第1の基板に対向して配置される第2の基板と、前記第1の基板と前記第2の基板との間に配置され、前記第1の基板と前記第2の基板とを接着する封着層と、を有する封着パッケージであって、
前記封着層は、請求項1または2に記載のガラス組成物を含む封着パッケージ。
【請求項10】
基板と、前記基板上に積層された陽極と有機薄膜層と陰極とを有する積層構造体と、前記積層構造体の外表面側を覆って前記基板上に載置されたガラス部材と、前記基板と前記ガラス部材とを接着する封着層と、を備え、
前記封着層は、請求項1または2に記載のガラス組成物を含む有機エレクトロルミネセンス素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス組成物、ガラスペースト、封着パッケージおよび有機エレクトロルミネセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ELディスプレイ(Organic Electro-Luminescence Display:OELD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)等の平板型ディスプレイ装置(FPD)は、1対のガラス基板が封着されたガラスパッケージにより発光素子が封止された構造を有する。また、液晶表示装置(LCD)は、1対のガラス基板間に液晶が封止された構造を有する。さらに、有機薄膜太陽電池や色素増感型太陽電池等の太陽電池は、1対のガラス基板間に太陽電池素子(光電変換素子)が封止された構造を有する。
【0003】
この中でも有機ELディスプレイは、水分との接触で有機EL素子の発光特性が著しく劣化することから、有機EL素子を外気から厳密に遮断する必要がある。また、有機EL素子は高温に曝されると損傷することから封止方法が極めて重要である。
【0004】
そこで、有機ELディスプレイの封止方法としてガラス組成物を封着材料に使用し、局所加熱により封止する方法が有力視されている。一般的にはガラス組成物は有機ビヒクルと混合してペースト化して用いる。このペーストを一方のガラス基板にスクリーン印刷もしくはディスペンス等で塗布し、焼き付けて仮焼成層とする。次に他方のガラス基板を重ね合わせて、仮焼成層に対するレーザ等を用いた局所加熱によりガラス組成物を溶融させて封着させる。
【0005】
封着材料に使用されるガラス組成物は、耐水性が高いこと、熱膨張係数が被封着材料に近いこと、レーザ封着における有機EL素子への熱的悪影響を小さくする上で、ガラス組成物の溶融時の許容温度(プロセスマージン)が広いこと、が望ましい。
【0006】
このように、封着材料に使用されるガラス組成物として、例えば、特許文献1には有機ELディスプレイの封止に用いられるTeO-ZnO-B系のガラス組成物が記載されている。また、特許文献2では、V-ZnO-TeO系のガラス組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第6357937号公報
【特許文献2】特許第6022070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、有機ELディスプレイは、画面サイズの大型化が進んでいる。画面サイズが大型となる場合、画面サイズが小型のものと比較して、封着部分の線幅を大きくする必要がある。封着部分の線幅を大きくすると、レーザ封着時において、被封着材料と封着材料との熱膨張差による応力がかかりやすくなり、封着層および被封着材料にクラックが生じるおそれがある。したがって、封着パッケージの信頼性を担保するために、封着材料は熱膨張係数が被封着材料の熱膨張係数により近いことが求められる。
【0009】
さらに、従来の封着パッケージは、ガラス基板同士が封着されたものが一般的であったが、近年では、例えば、金属膜が表面に成膜された基板とガラス基板を封着した封着パッケージなども求められている。金属膜が表面に成膜された基板を封着する場合であっても優れた封着強度が要求される。封着強度は、封着材料の流動性を高めることによって向上できる。
【0010】
特許文献1及び特許文献2に記載のガラス組成物は、耐水性、熱膨張係数の大きさ、溶融時の流動性及び焼成時の許容温度範囲の広さの面で更なる改善の余地があった。
【0011】
本発明は、上述の事情に鑑みて、有機ELディスプレイや液晶ディスプレイ等のフラットディスプレイにおけるガラス部材同士の接合部を、レーザ加熱といった局所加熱方式によって封着するのに用いるバナジウム系ガラス組成物として、従来のガラス組成物と比して、耐水性の観点でより優れ、熱膨張係数がより小さく、溶融時の流動性及び焼成時の許容温度範囲の広さに優れるガラス組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は当該ガラス組成物を含有する封着材料及びガラスペースト、並びに、当該ガラス組成物を含有する封着層を有する封着パッケージ及び有機エレクトロルミネセンス素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、ガラス組成が特定の範囲であるガラス組成物により上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
本発明は以下の構成のガラス組成物、ガラスペースト、封着パッケージおよび有機エレクトロルミネセンス素子を提供する。
[1] 酸化物基準のモル%表示で、
を25.0~40.0%、
TeOを25.5~30.0%、
ZnOを15.0~30.0%、
Nbを5.5~8.0%、
Alを0~5.0%、
BaOを0~4.5%、
を0~6.0%、
Biを0~0.4%、及び
ZrOを0~4.5%含有し、
実質的にアルカリ金属酸化物及びPbOを含有しないことを特徴とするガラス組成物。
[2] 酸化物基準のモル%表示で、Bを1.0~5.0%含有する、[1]に記載のガラス組成物。
[3] 酸化物基準のモル%表示で、Nbを6.2%超含有する、[1]または[2]に記載のガラス組成物。
[4] 酸化物基準のモル%表示で、VとTeOとZnOの含有量の合計(V+TeO+ZnO)が80~91%である、[1]~[3]のいずれか1つに記載のガラス組成物。
[5] 酸化物基準のモル%表示で、(V/TeO)で表される含有量の比が1.0~1.6である、[1]~[4]のいずれか1つに記載のガラス組成物。
[6] 酸化物基準のモル%表示で、BiとTeOとBaOの含有量の合計(Bi+TeO+BaO)が25.5~31.0%である、[1]~[5]のいずれか1つに記載のガラス組成物。
[7] 酸化物基準のモル%表示で、AlとZrOの含有量の合計(Al+ZrO)が0~7.0%である、[1]~[6]のいずれか1つに記載のガラス組成物。
[8] [1]~[7]のいずれか1つに記載のガラス組成物と、有機ビヒクルとを含有するガラスペースト。
[9] 第1の基板と、前記第1の基板に対向して配置される第2の基板と、前記第1の基板と前記第2の基板との間に配置され、前記第1の基板と前記第2の基板とを接着する封着層と、を有する封着パッケージであって、
前記封着層は、[1]~[7]のいずれか1つに記載のガラス組成物を含む封着パッケージ。
[10] 基板と、前記基板上に積層された陽極と有機薄膜層と陰極とを有する積層構造体と、前記積層構造体の外表面側を覆って前記基板上に載置されたガラス部材と、前記基板と前記ガラス部材とを接着する封着層と、を備え、
前記封着層は、[1]~[7]のいずれか1つに記載のガラス組成物を含む有機エレクトロルミネセンス素子。
【発明の効果】
【0013】
本発明のガラス組成物は、従来のガラス組成物に比して、耐水性の観点でより優れ、熱膨張係数がより小さく、溶融時の流動性及び焼成時の許容温度範囲の広さに優れる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、封着パッケージの一実施形態を示す正面図である。
図2図2は、図3に示す封着パッケージのA-A線断面図である。
図3A図3Aは、封着パッケージの製造方法の一実施形態を示す工程図である。
図3B図3Bは、封着パッケージの製造方法の一実施形態を示す工程図である。
図3C図3Cは、封着パッケージの製造方法の一実施形態を示す工程図である。
図3D図3Dは、封着パッケージの製造方法の一実施形態を示す工程図である。
図4図4は、図1に示す封着パッケージの製造に用いられる第1の基板の平面図である。
図5図5は、図4に示す第1の基板のB-B線断面図である。
図6図6は、図1に示す封着パッケージの製造に用いられる第2の基板の平面図である。
図7図7は、図6に示す第2の基板のC-C線断面図である。
図8図8は、封着パッケージの一例である有機エレクトロルミネセンス素子の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。また、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明することがあり、重複する説明は省略または簡略化することがある。また、図面に記載の実施形態は、本発明を明瞭に説明するために模式化されており、実際のサイズや縮尺を必ずしも正確に表したものではない。
【0016】
<ガラス組成物>
本実施形態のガラス組成物は、酸化物基準のモル%表示で、Vを25.0~40.0%、TeOを25.5~30.0%、ZnOを15.0~30.0%、Nbを5.5~8.0%、Alを0~5.0%、BaOを0~4.5%、Bを0~6.0%、Biを0~0.4%、及びZrOを0~4.5%含有し、実質的にアルカリ金属酸化物及びPbOを含有しないことを特徴とする。
【0017】
次に、本実施形態のガラス組成物の各成分について説明する。以下の説明において、特に断りのない限り、ガラス組成物の各成分の含有量における「%」の表示は、酸化物基準、すなわち酸化物換算のモル%表示である。本明細書において、数値範囲を表す「~」は、上下限を含む意味で使用される。
【0018】
封着材料に用いられるガラス組成物がアルカリ金属酸化物を含有すると、封着時や、封着後において封着材料が高温にさらされた際に、ガラス基板などの被封着材料にアルカリ成分が拡散し、被封着材料が劣化する。したがって、本実施形態のガラス組成物は実質的にアルカリ金属酸化物を含有しない。なお、本明細書において、「実質的に含有しない」とは、不可避的な不純物以外には含有しないという意味、即ち、意図的には添加されていないという意味である。したがって、本実施形態のガラス組成物は、不可避不純物としてのアルカリ金属酸化物を微量含有し得る。本実施形態のガラス組成物におけるアルカリ金属酸化物の含有量は、1000ppm以下が好ましく、500ppm以下がより好ましい。
なお、本明細書においてアルカリ金属酸化物とは、LiO、NaO及びKOを意味するものとする。また、ppmとは質量ppmを意味する。
【0019】
また、本実施形態のガラス組成物は環境に対する負荷を低減するために、実質的に鉛、すなわち、PbOを含有しない。なお、PbOについて、「実質的に含有しない」とは、ガラス組成物中のPbOの含有量が、1000ppm以下であることを意味する。
【0020】
は、ガラス形成酸化物であり、ガラスのネットワークを形成するとともに、低軟化成分として必須である。また、レーザ吸収成分としても有効である。一方、Vの含有量が多いと、耐水性が低下し、またガラス製造時にガラス安定性が低下してガラスが失透しやすくなるおそれがある。また、Vの含有量が少なすぎると、ガラス転移温度が上昇し低温封着性が悪化するおそれがある。したがって、Vの含有量は25.0~40.0%とする。Vの含有量は28.0%以上が好ましく、30.0%以上がより好ましく、32.0%以上がさらに好ましく、また、39.0%以下が好ましく、38.0%以下がより好ましく、37.0%以下がさらに好ましい。
【0021】
TeOは、ガラス形成酸化物であり、ガラスネットワークを形成するとともに、低軟化成分として必須である。また、ガラス組成物の流動性および耐水性を向上させる機能を有する。一方、TeOの含有量が多いと、熱膨張係数が大きくなる。また、少なすぎると、ガラス転移温度が上昇し低温封着性が悪化するおそれがあり、また封着焼成時に結晶化しやすくなる。さらに、流動性および耐水性の向上の効果を十分に得ることができない。したがって、TeOの含有量を25.5~30.0%とする。TeOの含有量は26.0%以上が好ましく、また、29.0%以下が好ましく、28.0%以下がより好ましく、27.5%以下がさらに好ましい。
【0022】
ZnOは、熱膨張係数を低下させる成分として必須である。一方、ZnOの含有量が多いと、ガラス製造時にガラス安定性が低下してガラスが失透しやすくなるおそれがある。また少なすぎると、熱膨張係数が大きくなる。したがって、ZnOの含有量は15.0~30.0%である。ZnOの含有量は17.0%以上が好ましく、18.5%以上がより好ましく、20.0%以上がさらに好ましく、また、28.0%以下が好ましく、26.5%以下がより好ましく、25.0%以下がさらに好ましい。
【0023】
Nbは、熱膨張係数を低下させ、また耐水性を向上させる成分として必須である。一方、Nbの含有量が多いと、レーザ焼成封着時にガラスが結晶化しやすく、また、少なすぎると、熱膨張係数が大きくなり、さらに耐水性を向上の効果が十分に得られない。したがって、Nbの含有量を5.5~8.0%とする。
一般的にNbは含有量が多いと(例えば、5%以上)、レーザ焼成封着時にガラスが結晶化しやすくなるため、従来、Nbを多く添加することが困難であった。本発明者らは、TeO等の非晶質成分の割合を十分に高めることによって、Nbを5.5%以上含有させても、焼成によってガラスが結晶化せず、優れた耐水性および熱膨張係数の小さいガラス組成物が得られることを見出した。
Nbの含有量は6.2%超が好ましく、6.5%以上がより好ましい。また、レーザ焼成封着時におけるガラスの結晶化を回避するため、Nbの含有量は8.0%以下であり、7.8%以下が好ましく、7.6%以下がより好ましく、7.4%以下がさらに好ましい。
【0024】
Alは必須ではないが、熱膨張係数を低下させる効果を有する成分であり、さらに耐水性を向上させる効果があるため、本実施形態のガラス組成物に含有させることが好ましい。本実施形態において、Alの含有量は0~5.0%である。ここで、Alを含有させる場合、Alの含有量は、0.5%以上が好ましく、1.0%以上がより好ましく、1.5%以上がさらに好ましい。また、ガラス転移温度を適切な範囲に保ち、さらにレーザ焼成封着時のガラスの結晶化を回避するために、Alの含有量は、5.0%以下であり、4.5%以下が好ましく、4.0%以下がより好ましく、3.5%以下がさらに好ましい。
【0025】
BaOは必須ではないが、ガラスを安定化させるために有効な成分であるため、本実施形態のガラス組成物に含有させることが好ましい。本実施形態において、BaOの含有量は0~4.5%である。ここで、BaOを含有させる場合、BaOの含有量は、0.5%以上が好ましい。また、ガラス転移温度や熱膨張係数を適切な範囲に保つために、BaOの含有量は、4.5%以下であり、3.5%が好ましく、2.5%以下がより好ましく、2.0%以下がさらに好ましい。
【0026】
は必須ではないが、ガラス形成酸化物であり、ガラスネットワークを形成し、ガラス安定性を向上させる成分であるため、本実施形態のガラス組成物に含有させることが好ましい。本実施形態において、Bの含有量は0~6.0%である。ここで、Bを含有させる場合、Bの含有量は1.0%以上が好ましく、1.5%以上がより好ましく、2.0%以上がさらに好ましい。また、Bの含有量が多いと、逆にガラスが不安定になり、レーザ焼成封着時に結晶化しやすくなる。したがって、Bが過剰に含有されることによるガラスの結晶化を回避するために、Bの含有量は6.0%以下であり、5.0%以下が好ましく、4.5%以下がより好ましく、4.0%以下がさらに好ましい。
【0027】
Biは封着時にガラス基板と反応しやすく、反応層を形成することで接着強度を向上させる成分であるため、本実施形態のガラス組成物に含有させることが好ましい。また、Biの含有量が多いと、レーザ焼成封着時にガラスが結晶化しやすく、さらに熱膨張係数が大きくなるおそれがある。その上、過度にガラス基板と反応し、ガラス基板中のSiO等の高融点成分をガラス組成物中に取り込むことで、固着点が上がり、封着後の封着材料の残留応力が大きくなるおそれがある。したがって、Biの含有量は0~0.4%である。ここで、Biの含有量は、0.3%以下が好ましく、0.2%以下がより好ましく、0.15%以下がさらに好ましく、0.1%以下が特に好ましい。また、Biの含有量の下限は0%であり、すなわち、本実施形態のガラス組成物においてBiは実質的に含有しなくてもよい。
【0028】
ZrOは必須ではないが、化学的安定性を向上させる成分であるため、含有させることが好ましい。本実施形態において、ZrOの含有量は0~4.5%である。ここで、ZrOを含有させる場合、ZrOの含有量は、0.5%以上が好ましく、1.0%以上がより好ましい。また、ガラス転移温度を適切な範囲に保ち、さらにレーザ焼成封着時のガラスの結晶化を回避するために、ZrOの含有量は、4.5%以下であり、3.5%以下が好ましく、3.0%以下がより好ましく、2.5%以下がさらに好ましい。
【0029】
、TeOおよびZnOの含有量の合計(V+TeO+ZnO)が80~91%であると、耐水性とガラスの安定化を両立させやすいため好ましい。また、同様の理由から、(V+TeO+ZnO)は82%以上がより好ましく、84%以上がさらに好ましく、また、89%以下がより好ましく、88%以下がさらに好ましい。
【0030】
とTeOとの含有量の比(V/TeO)が1.0~1.6であると、封着焼成時の結晶化を抑制でき、ガラスが安定化するため好ましい。また、同様の理由から、(V/TeO)は1.1以上がより好ましく、また、1.5以下がより好ましい。
【0031】
Bi、TeOおよびBaOの含有量の合計(Bi+TeO+BaO)が25.5~31.0%であると、熱膨張係数を適切な範囲にできるため、好ましい。また、同様の理由から、(Bi+TeO+BaO)は26.0%以上がより好ましく、また、30.0%以下がより好ましい。
【0032】
AlおよびZrOの含有量の合計(Al+ZrO)が0~7.0%であると、レーザ焼成封着時のガラスの結晶化を抑制しつつ、耐水性を向上できるため好ましい。また、同様の理由から、(Al+ZrO)は1.5%以上がより好ましく、2.5%以上がさらに好ましく、また、6.0%以下がより好ましく、5.0%以下がさらに好ましい。
【0033】
CuOは必須ではないが、熱膨張係数を低下させる効果を有する成分であり、また耐水性を向上させる効果があるため、含有させてもよい。さらにレーザ吸収成分としても有効である。そのため、CuOを含有させることで、ガラスペースト作製時に、レーザ吸収を目的として含有させる顔料の添加量を減らし、代わりに低膨張充填剤を多く含有させることができるため、より熱膨張係数が低いガラスペーストの製造が可能になる。一方、CuOの含有量が多いと、レーザ封着焼成時に結晶化しやすくなる。したがって、CuOの含有量は1.0~10.0%であることが好ましい。ここで、レーザ吸収の効果を十分得るために、CuOの含有量は1.0%以上が好ましく、2.0%以上がより好ましく、3.0%以上がさらに好ましい。また、ガラスの結晶化を回避するために、CuOの含有量は10.0%以下が好ましく、8.0%以下がより好ましく、7.0%以下がさらに好ましい。
【0034】
Feは必須ではないが、レーザ吸収成分としても有効であるため、含有させてもよい。Feを含有させることで、ガラスペースト作製時に、レーザ吸収を目的として含有させる顔料の添加量を減らし、代わりに低膨張充填剤を多く含有させることができるため、より熱膨張係数が低いガラスペーストの作製が可能になる。一方で、Feの含有量が多いとレーザ焼成封着時にガラスが結晶化しやすくなり、さらに、ガラスの軟化点が上がり、低温封着性が悪くなる。したがって、Feの含有量は1.0~7.0%であることが好ましい。ここで、Feの含有量は7.0%以下が好ましく、5.0%以下がより好ましく、2.0%以下がさらに好ましい。また、レーザ吸収の効果を得るために、Feの含有量は1.0%以上が好ましい。ただし、CuOが含まれていれば、Feを含有していなくても上記効果を得ることができる。
【0035】
MnOは必須ではないが、レーザ吸収成分として有効な成分であるため、含有させてもよい。MnOを含有させることで、ガラスペースト作製時に、レーザ吸収を目的として含有させる顔料の添加量を減らし、代わりに低膨張充填剤を多く含有させることができるため、より熱膨張係数が低いガラスペーストの作製が可能になる。一方で、MnOの含有量が多いと、レーザ焼成封着時にガラスが結晶化しやすくなる。したがって、MnOの含有量は1.0~7.0%であることが好ましい。ここで、MnOの含有量は7.0%以下が好ましく、5.0%以下がより好ましく、2.0%以下がさらに好ましい。また、レーザ吸収の効果を得るために、MnOの含有量は1.0%以上が好ましい。ただし、CuOやFeが含まれていれば、MnOを含有していなくても上記効果を得ることができる。
【0036】
本実施形態のガラス組成物は、上記成分以外の成分(以下、「他の成分」という。)を本発明の目的を損なわない範囲で含有してもよい。他の成分の合計の含有量は好ましくは10.0%以下である。
【0037】
本実施形態のガラス組成物は、他の成分としてSiO、MgO、CaO、SrO、P、TiO、CeO、La、CoO、MoO、Sb、WO、GeO、Taなどを含有してもよい。ただし、Pを含有させ過ぎると、耐水性が低下するおそれがある。そのため、Pを含有してもよいが、含有量は5%以下が好ましく、実質的に含有しないことがさらに好ましい。なお、Pについて、「実質的に含有しない」とは、ガラス組成物中のPの含有量が、1000ppm以下であることを意味する。
【0038】
(ガラス組成物の熱特性)
本実施形態のガラス組成物は、ガラス転移温度Tgが340℃以下であることが、低温封着性が良好となるため好ましい。Tgはより好ましくは330℃以下であり、320℃以下がさらに好ましい。Tgの下限は特に限定されないが、例えば、280℃以上である。
【0039】
本実施形態のガラス組成物は、熱分析装置(DTA)を用いて加熱した際の第4変曲点Tsが400℃以下であることが、低温封着性が良好となるため好ましい。Tsはより好ましくは390℃以下であり、380℃以下がさらに好ましい。Tsの下限は特に限定されないが、例えば、350℃以上である。
【0040】
本実施形態のガラス組成物は、熱分析装置(DTA)を用いて加熱した際の結晶化開始温度Tcsが470℃以上であることが、低温封着性が良好となるため好ましい。Tcsはより好ましくは480℃以上であり、490℃以上がさらに好ましい。Tcsの上限は特に限定されない。
【0041】
本実施形態のガラス組成物は、熱分析装置(DTA)を用いて加熱した際の結晶化温度Tcpが450℃以上であることが、低温封着性が良好となるため好ましい。Tcpはより好ましくは470℃以上であり、480℃以上がさらに好ましい。Tcpの上限は特に限定されない。
【0042】
本実施形態に係るガラス組成物は、結晶化開始温度と第4変曲点の温度差(Tcs-Ts)が100℃より大きいことが好ましい。(Tcs-Ts)が100℃より大きいことで、ガラス溶融時のプロセスマージンを広げることができ、レーザ焼成封着時における有機EL素子への熱影響を小さくできる。(Tcs-Ts)は、110℃以上がより好ましく、120℃以上がさらに好ましい。(Tcs-Ts)の上限は、特に限定されない。
【0043】
ガラス転移温度Tg、第4変曲点Ts、結晶化開始温度Tcsおよび結晶化温度Tcpは、示差熱分析(DTA)装置を用いて測定したDTAチャートの第1変曲点をTg、第4変曲点をTs、発熱ピークの開始点をTcs、発熱ピーク温度をTcpとして求められる。
【0044】
(ガラス組成物の製造方法)
本実施形態のガラス組成物の製造方法は、特に限定されない。例えば、以下に示す方法で製造できる。
【0045】
まず、原料混合物を準備する。原料は、通常の酸化物系のガラスの製造に用いる原料であれば特に限定されず、酸化物や炭酸塩等を用い得る。得られるガラス組成物の組成が上記の範囲となるように原料の種類および割合を適宜調整して原料混合物とする。
【0046】
次に、原料混合物を公知の方法で加熱して溶融物を得る。加熱溶融する温度(溶融温度)は、950~1200℃が好ましく、1000℃以上がより好ましく、また、1150℃以下がより好ましい。加熱溶融する時間は、30~90分が好ましい。
【0047】
その後、溶融物を冷却し固化することにより、本実施形態のガラス組成物が得られる。冷却方法は特に限定されない。ロールアウトマシンやプレスマシンを使用してもよく、また、冷却液体への滴下等により急冷する方法であってもよい。得られるガラス組成物は完全に非晶質である、すなわち結晶化度が0%であることが好ましい。ただし、本発明の効果を損なわない範囲であれば、結晶化した部分を含んでいてもよい。
【0048】
こうして得られる本実施形態のガラス組成物は、いかなる形態であってもよい。例えば、ブロック状、板状、薄い板状(フレーク状)、粉末状等であってもよい。
【0049】
本実施形態のガラス組成物を封着材料として用いる場合には、ガラス組成物はガラス粉末であることが好ましい。なお、ガラス組成物の上記特性の評価をする際の形態についても、封着材料としての性能をみる観点から、ガラス粉末が好ましい。
【0050】
(ガラス粉末)
本実施形態のガラス組成物をガラス粉末とする場合、ガラス粉末の粒度は、用途に応じて適宜選択できる。ガラス粉末の典型的な用途である封着材料の場合、ガラス粉末の粒度は0.1~100μmが好ましい。
【0051】
また、ガラス粉末の粒度が大きいと、ペースト化して塗布や乾燥した際に、沈降分離しやすく、さらに、得られる封着層の厚みが増加するという問題もある。したがって、ガラス粉末をペースト化して使用する場合は、ガラス粉末の粒度は0.1~5.0μmの範囲にするのが好ましく、より好ましくは0.1~2.5μmである。
【0052】
なお、本明細書においては、「粒度」は、累積粒度分布における体積基準の50%粒径(D50)を意味し、具体的には、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて測定した粒径分布の累積粒度曲線において、その積算量が体積基準で50%を占めるときの粒径を意味する。
【0053】
本実施形態のガラス組成物からなるガラス粉末は、例えば、ガラス組成物を粉砕して得られる。よって、ガラス粉末の粒度は、粉砕の条件により調整できる。粉砕の方法としては、回転ボールミル、振動ボールミル、遊星ミル、ジェットミル、アトライター、媒体撹拌ミル(ビーズミル)、ジョークラッシャー、ロールクラッシャーなどが挙げられる。
【0054】
特にガラス粉末を、5.0μm以下といった細かい粒度にする場合は、湿式粉砕を用いるのがよい。湿式粉砕は水もしくはアルコールのような溶媒中でアルミナやジルコニアからなるメディアもしくはビーズミルを用いて粉砕するものである。
【0055】
ガラス粉末の粒度を調整するために、ガラス組成物の粉砕に加えて、必要に応じて篩等を用いて、分級を行ってもよい。
【0056】
また、本実施形態のガラス組成物からなるガラス粉末を封着材料として用いる場合は、ガラス粉末をそのままの形態で用いてもよいが、封着方法に応じて、低膨張充填材および/またはレーザ吸収物質とともに混合した封着材料としてもよい。また、該ガラス組成物並びに該封着材料は、作業性を高める観点から、ペースト化して用いることが好ましい。
【0057】
<ガラスペースト>
本実施形態のガラスペーストは、上記の本実施形態のガラス組成物と、有機ビヒクルとを含有する。また、ガラスペーストは、封着方法に応じて低膨張充填材および/またはレーザ吸収物質を含有してもよい。以下、有機ビヒクル、低膨張充填材、レーザ吸収物質について説明する。
【0058】
有機ビヒクルとしては、例えば、溶剤にバインダ成分である樹脂を溶解したものが用いられる。
具体的には、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、オキシエチルセルロース、ベンジルセルロース、プロピルセルロース、ニトロセルロース等の樹脂を、ターピネオール、テキサノール、ブチルカルビトールアセテート、エチルカルビトールアセテート等の溶剤に溶解したものを有機ビヒクルとして使用できる。
また、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロオキシエチル(メタ)アクリレート等のアクリル系樹脂を、メチルエチルケトン、ターピネオール、テキサノール、ブチルカルビトールアセテート、エチルカルビトールアセテート等の溶剤に溶解したものを有機ビヒクルとして使用できる。なお、本明細書において(メタ)アクリレートとは、アクリレート及びメタクリレートの少なくとも一方を意味する。
また、ポリエチレンカーボネート、ポリプロピレンカーボネート等のポリアルキレンカーボネートを、アセチルクエン酸トリエチル、プロピレングリコールジアセテート、コハク酸ジエチル、エチルカルビトールアセテート、トリアセチン、テキサノール、アジピン酸ジメチル、安息香酸エチル、プロピレングリコールモノフェニルエーテルとトリエチレングリコールジメチルエーテルの混合物等の溶剤に溶解したものを有機ビヒクルとして使用できる。
【0059】
有機ビヒクルにおける樹脂と溶剤の割合は、特に制限されないが、有機ビヒクルの粘度がガラスペーストの粘度を調整できる粘度となるように選択される。有機ビヒクルにおける樹脂と溶剤の割合は、具体的には、樹脂:溶剤で示す質量比が、3:97~30:70程度が好ましい。
【0060】
低膨張充填材はガラス組成物より低い熱膨張係数を有し、概ね-15×10-7~45×10-7/℃程度の熱膨張係数を有する。低膨張充填材は、封着層の熱膨張係数を低下させる目的で添加される。
【0061】
低膨張充填材としては、特に限定されないが、シリカ、アルミナ、ジルコニア、珪酸ジルコニウム、コージェライト、リン酸ジルコニウム系化合物、ソーダライムガラス、および硼珪酸ガラスから選ばれる少なくとも1種が好ましい。リン酸ジルコニウム系化合物としては、(ZrO)、NaZr(PO、KZr(PO、Ca0.5Zr(PO、NbZr(PO、Zr(WO)(PO、これらの複合化合物等が挙げられる。
【0062】
低膨張充填材の粒度は、0.1~5.0μmが好ましく、より好ましくは0.1~2.0μmである。
【0063】
低膨張充填材の含有量は、封着層の熱膨張係数が被封着材料(例えば、ガラス基板)の熱膨張係数に近づくように設定される。低膨張充填材の含有量は、ガラス組成物と、低膨張充填材と、レーザ吸収物質を混合したもの(以下、混合材料と称することがある)の体積の合計に対して1体積%以上が好ましく、5体積%以上がより好ましく、10体積%以上がさらに好ましい。一方、低膨張充填材の含有量が多すぎると、封着材料の溶融時の流動性が不良となるため、低膨張充填材の含有量は、混合材料の体積に対して50体積%以下が好ましく、45体積%以下がより好ましく、40体積%以下がさらに好ましい。
【0064】
レーザ吸収物質としては、特に限定されないが、先述したCuO、Fe、MnOを構成するCu、Fe、Mnの他に、Cr、Ni、Co等から選ばれる少なくとも1種の金属または該金属を含む酸化物等の化合物(無機顔料)等が挙げられる。また、レーザ吸収物質はこれら以外の顔料でもよい。
【0065】
レーザ吸収物質の粒度は、0.1~5.0μmが好ましく、より好ましくは0.1~2.0μmである。
【0066】
レーザ吸収物質の含有量が少なすぎると、レーザ照射により封着材料を十分に溶融させることが困難になるおそれがある。したがって、他のレーザ吸収物質を含む、レーザ吸収物質の合計の含有量が、混合材料の体積に対して0.1体積%以上が好ましく、1体積%以上がより好ましく、3体積%以上がさらに好ましい。一方、レーザ吸収物質の含有量が多すぎると、封着材料の溶融時の流動性が不良となり、これにより接着強度が低減する。したがって、レーザ吸収物質の含有量は、混合材料の体積に対して20体積%以下が好ましく、18体積%以下がより好ましく、15体積%以下がさらに好ましい。
【0067】
ガラスペーストにおける混合材料と有機ビヒクルの割合は、求められるガラスペーストの粘度に応じて適宜調整される。具体的には、混合材料:有機ビヒクルで示す質量比が、60:40~90:10程度が好ましい。ガラスペーストには、混合材料と有機ビヒクル以外に必要に応じて、かつ、本発明の目的に反しない限度において公知の添加剤を配合できる。
【0068】
ガラスペーストの調整は、攪拌翼を備えた回転式の混合機、ロールミル、ボールミル等を用いた公知の方法により行われる。
【0069】
<封着パッケージ>
次に、本実施形態のガラス組成物が適用される封着パッケージについて説明する。
図1、2は、封着パッケージの一実施形態を示す平面図および断面図である。図3A図3Dは、図3に示す封着パッケージの製造方法の一実施形態を示す工程図である。図4、5は、図1、2に示す封着パッケージの製造に用いられる第1の基板の平面図および断面図である。図6、7は、図1、2に示す封着パッケージの製造に用いられる第2の基板の平面図および断面図である。
【0070】
封着パッケージ10は、OELD、PDP、LCD等のFPD、有機エレクトロルミネセンス(OEL)素子等の発光素子を使用した照明装置(OEL照明等)、あるいは色素増感型太陽電池のような太陽電池等を構成する。
すなわち、封着パッケージ10は、第1の基板11と、前記第1の基板に対向して配置される第2の基板12と、前記第1の基板と前記第2の基板との間に配置され、前記第1の基板と前記第2の基板とを接着する封着層15とを有する。また、当該封着層15は、上記の本実施形態のガラス組成物を含む。
【0071】
第1の基板11は、例えば、電子素子部13が主として設けられる素子基板である。第2の基板12は、例えば、封止に主として用いられる封止基板である。第1の基板11には、電子素子部13が設けられる。第1の基板11と第2の基板12とは互いに対向するように配置され、これらの間に枠状に配置された封着層15により接着されている。
【0072】
第1の基板11、第2の基板12には、ガラス基板、金属膜が表面に成膜された基板等が挙げられる。
ガラス基板としては、ソーダライムガラス基板、無アルカリガラス基板等が用いられる。ソーダライムガラス基板として、例えば、AS、PD200(いずれもAGC社製、商品名)、これらを化学強化したものが挙げられる。また、無アルカリガラス基板として、例えば、AN100(AGC社製、商品名)、EAGLE2000(コーニング社製、商品名)、EAGLE GX(コーニング社製、商品名)、JADE(コーニング社製、商品名)、#1737(コーニング社製、商品名)、OA-10(日本電気硝子社製、商品名)、テンパックス(ショット社製、商品名)等が挙げられる。
金属膜が表面に成膜された基板としては、Tiを含む膜がガラス基板表面に成膜された基板等が挙げられる。なお、基板の材料は特に限定されず、公知のものであってもよい。なお、金属膜が多層膜である場合、最表面の層にTiを含むことが好ましい。
第1の基板11および第2の基板12は、同一の基板であってもよく、異なる基板を組み合わせてもよい。
【0073】
電子素子部13は、例えば、OELDやOEL照明であればOEL素子、PDPであればプラズマ発光素子、LCDであれば液晶表示素子、太陽電池であれば色素増感型太陽電池素子(色素増感型光電変換部素子)を有する。電子素子部13は、各種公知の構造にて構成でき、図示される構造に限定されない。
【0074】
図1、2の封着パッケージ10では、電子素子部13として、OEL素子、プラズマ発光素子等が第1の基板11に設けられている。電子素子部13が色素増感型太陽電池素子等の場合、図示しないが第1の基板11および第2の基板12のそれぞれの対向面に配線膜や電極膜等の素子膜が設けられる。
【0075】
電子素子部13がOEL素子等の場合、第1の基板11と第2の基板12との間には一部空間が残存する。この空間は、このままの状態でもよいし、透明な樹脂等が充填されてもよい。透明樹脂は、第1の基板11および第2の基板12に接着してもよいし、接触するだけでもよい。
【0076】
電子素子部13が色素増感型太陽電池素子等の場合、図示しないが第1の基板11と第2の基板12との間の全体に電子素子部13が配置される。なお、封止対象は、電子素子部13に限定されず、光電変換装置等でもよい。また、封着パッケージ10は、電子素子部13を有しない複層ガラスのような建材でもよい。
【0077】
以下、封着パッケージの一例として、OELDを構成する有機エレクトロルミネセンス素子について図8を参照して詳細に説明する。
本実施形態のガラス組成物を用いて得られる有機エレクトロルミネセンス素子210は、基板211と、基板211上に積層された陽極213aと有機薄膜層213bと陰極213cとを有する積層構造体213と、積層構造体213の外表面側を覆って基板211上に載置されたガラス部材212と、基板211とガラス部材212とを接着する封着層215とを備える。また、当該封着層215は、上記の本実施形態のガラス組成物を含む。
【0078】
(封着パッケージの製造方法)
次に、上述した本実施形態のガラス組成物が適用される封着パッケージの製造方法の実施形態について説明する。
封着には上述したガラスペーストを用いる。ガラスペーストは、第2の基板12に枠状に塗布された後、乾燥されて塗布層となる。塗布方法として、スクリーン印刷、グラビア印刷等の印刷法、ディスペンス法等が挙げられる。乾燥は、溶剤を除去するために実施され、通常は120℃以上の温度で10分以上行われる。塗布層に溶剤が残留すると、その後の仮焼成でバインダ成分が十分に除去されないおそれがある。
【0079】
塗布層には仮焼成が行われて仮焼成層15aとされる(図6図7)。仮焼成は、塗布層を封着材料に含まれるガラス組成物のガラス転移温度以下の温度に加熱してバインダ成分を除去した後、封着材料に含まれるガラス組成物の軟化点以上の温度に加熱することにより行われる。
【0080】
第1の基板11には、封着パッケージ10の仕様に応じて、電子素子部13が設けられる(図4図5)。
【0081】
次いで、仮焼成層15aが設けられた第2の基板12と、電子素子部13が設けられた第1の基板11とを、仮焼成層15aとが対向するように配置して積層する(図3A図3B)。
【0082】
その後、第2の基板12を通して仮焼成層15aにレーザ光16を照射して焼成を実施する(図3C)。レーザ光16は、枠状形状の仮焼成層15aに沿って走査しながら照射される。仮焼成層15aの全周にわたってレーザ光16が照射されることで、第1の基板11と第2の基板12との間に枠状の封着層15が形成される。なお、レーザ光16は、第1の基板11を通して仮焼成層15aに照射されてもよい。
【0083】
レーザ光16の種類は、特に限定されるものではなく、半導体レーザ、炭酸ガスレーザ、エキシマレーザ、YAGレーザ、HeNeレーザ等のレーザ光が使用される。レーザ光16の照射条件は、仮焼成層15aの厚さ、線幅、厚さ方向の断面積等に応じて選択される。レーザ光16の出力は、2~150Wが好ましい。レーザ光の出力が2W未満であると、仮焼成層15aが溶融されないおそれがある。レーザ光の出力が150Wを超えると、第1の基板11、第2の基板12にクラック等が発生しやすくなる。レーザ光16の出力は、5~120Wがより好ましい。
【0084】
このようにして、第1の基板11と第2の基板12との間に封着層15によって電子素子部13が気密封止された封着パッケージ10が製造される(図3D)。
【0085】
以上、レーザ光16の照射により焼成を行う方法について説明したが、焼成の方法は必ずしもレーザ光16の照射により行われる方法に限られない。焼成方法は、電子素子部13の耐熱性、封着パッケージ10の構成等に応じて他の方法を採用できる。例えば、電子素子部13の耐熱性が高い場合、または電子素子部13を有しない場合、レーザ光16の照射に代えて、図3Bに示すような組立体の全体を電気炉等の焼成炉内に配置して、仮焼成層15aを含めた組立体の全体を加熱して封着層15としてもよい。
【0086】
以上、本発明の封着パッケージの実施形態を、一例を挙げて説明したが、本発明の封着パッケージはこれらに限定されるものではない。本発明の趣旨に反しない限度において、また必要に応じて、その構成を適宜変更できる。
【実施例0087】
以下、本発明について実施例を参照してさらに詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されない。例1~15が実施例である。例16~37は比較例である。
【0088】
[例1~37]
(ガラス組成物の製造)
表1~表2のガラス組成の欄にモル%表示で示す組成となるように原料を調合して混合し、1000~1100℃の電気炉中で白金ルツボを用いて1時間溶融した。得られた溶融液を、水冷ローラによりシート状に成形した後、これをボールミルにより乾式粉砕を行った。これを目開き100メッシュの篩に通したものをガラス組成物とした。
このガラス組成物のD50を、マイクロトラック粒度分布測定装置(日機装社製)により測定したところ、いずれも2~5μmの範囲内であった。
【0089】
次に、これらのガラス組成物について以下の測定および評価を行った。
なお、表1~2中、評価の欄の「-」は、DTAによる結晶化ピークが見られなかったまたはガラス化しなかったため未評価であることを示す。
【0090】
(DTA試験)
リガク社製、示差熱分析(DTA)装置TG-DTA8122にて昇温速度;10℃/分でガラス組成物の熱分析を行い、得られたDTAチャートから、ガラス転移温度Tg、第4変曲点Ts[℃]、結晶化開始温度Tcs[℃]、結晶化温度Tcp[℃]をそれぞれ求めた。なお、ガラス転移温度Tg、第4変曲点Ts、結晶化開始温度Tcsおよび結晶化温度Tcpは、DTAチャートの第1変曲点をTg、第4変曲点をTs、発熱ピークの開始点をTcs、発熱ピーク温度をTcpとして求めた。また、焼成時の許容温度の評価として、結晶化開始温度と第4変曲点の温度差(Tcs-Ts)を求め、得られた結果を下記表に示した。(Tcs-Ts)の値が、100℃より大きいものを合格とした。
【0091】
(熱膨張係数(α))
各ガラス組成物を直方体状に成形し、熱膨張測定用焼成体を得た。得られた熱膨張測定用焼成体を直径が5±0.5mm、長さが2±0.05cmの円柱形に加工した。加工した熱膨張測定用焼成体をRIGAKU社製、熱膨張計ThermoplusEVO2システムTDL8411で昇温速度10℃/分の条件で加熱し、50~250℃における熱膨張係数α(単位:10-7/℃)を算出した。得られた結果を下記表に示した。熱膨張係数αが91未満のものを合格とした。
【0092】
(流動性評価)
4gのガラス組成物をプレス成形して直径が15mmであるサンプル(フローボタン)作製した。得られたフローボタンをガラス基板上に配置し、各ガラス組成物の軟化点にあわせて450~460℃に30分保持する焼成を行って流動性評価用焼成体を得た。次に、得られた流動性評価用焼成体について、角度を4等分して4箇所の径を測定し、その4箇所径の平均値を算出しFB径(単位:mm)とした。各サンプルについて、以下の基準にしたがい、流動性、光沢、接着の有無を評価した。得られた結果を下記表に示した。流動性および光沢の評価で〇のものを合格とした。
<流動性>
〇:FB径が24mm以上である。
×:FB径が24mm未満である。
<光沢>
〇:流動性評価用焼成体の表面全体に光沢があった。
△:流動性評価用焼成体の表面の一部に光沢がなかった。
×:流動性評価用焼成体の表面の全体に光沢がなかった。
【0093】
(耐水性評価)
各ガラス組成物のガラスフレークを用い、温度121℃、湿度100%RHの環境下で48時間静置した。静置後の耐水性評価用焼成体に対して、以下の基準にしたがい、耐水性を評価した。得られた結果を下記表に示した。判定としては、〇のものを合格とした。
<耐水性の評価基準>
〇:耐水性評価用焼成体の表面全体で変色している箇所が見られなかった。
△:耐水性評価用焼成体の表面の一部に変色している箇所が見られた。
×:耐水性評価用焼成体の表面の全体が変色していた。
【0094】
【表1】
【0095】
【表2】
【0096】
実施例である例1~15のガラス組成物は、優れた耐水性を示し、熱膨張係数が小さく、溶融時の流動性及び焼成時の許容温度範囲の広さに優れた。
【0097】
一方、比較例である例16は、Biが0.4%超かつTeOが25.5%未満であるため、焼成時の許容温度範囲が狭く、さらに流動性が劣った。
また、比較例である例17~19は、Nbが5.5%未満であるため、熱膨張係数が大きく、さらに耐水性が劣った。
また、比較例である例20は、Biが0.4%超であるため、熱膨張係数が大きかった。
また、比較例である例21は、Nbが8.0%超であるため、焼成時の許容温度範囲が狭く、また、流動性および耐水性が劣った。
また、比較例である例22は、Vが40.0%超かつNbが5.5%未満であるため、流動性および耐水性が劣った。
また、比較例である例23は、TeOが30.0%超であるため、熱膨張係数が大きく、さらに耐水性が劣った。
また、比較例である例24、25は、TeOが25.5%未満かつZnOが30.0%超であるため、耐水性が劣り、例25においては焼成時の許容温度範囲が狭く、流動性も劣った。
また、比較例である例26、27は、ZrOが4.5%超であるため、耐水性が劣った。
また、比較例である例28は、Biが0.4%超であるため、熱膨張係数が大きかった。
また、比較例である例29は、Vが40.0%超、ZnOが15.0%未満かつBaOが4.5%超であるため、焼成時の許容温度範囲も狭く、熱膨張係数が大きく、さらに流動性が劣った。
また、比較例である例30は、Vが25.5%未満かつZnOが30.0%超であるため、ガラス化しなかった。
また、比較例である例31は、ZnOが30.0%超であるため、耐水性評価が劣った。
また、比較例である例32は、Alが5.0%超であるため、焼成時の許容温度範囲も狭く、さらに流動性が劣った。
また、比較例である例33は、Vが40.0%超であるため、焼成時の許容温度範囲も狭く、熱膨張係数が大きく、さらに、流動性および耐水性が劣った。
また、比較例である例34~36は、Biが0.4%超であるため、例34は焼成時の許容温度が狭く、例35は耐水性が劣り、例36は熱膨張係数が大きく、さらに耐水性が劣った。
また、比較例である例37は、Bが6.0%超であるため、耐水性が劣った。
【符号の説明】
【0098】
10:封着パッケージ
11:第1の基板
12:第2の基板
13:電子素子部
15:封着層
15a:仮焼成層
16:レーザ光
210:有機エレクトロルミネセンス素子
211:基板
212:ガラス部材
213:積層構造体
213a:陽極
213b:有機薄膜層
213c:陰極
215:封着層
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5
図6
図7
図8