(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000020
(43)【公開日】2024-01-05
(54)【発明の名称】銅張積層板およびフレキシブルプリント配線板
(51)【国際特許分類】
H05K 1/03 20060101AFI20231225BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20231225BHJP
【FI】
H05K1/03 630H
H05K1/03 670
B32B15/08 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022098524
(22)【出願日】2022-06-20
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西山 芳英
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AB13D
4F100AB16D
4F100AB17B
4F100AB31D
4F100AB33B
4F100AK49A
4F100AT00A
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA04
4F100BA07
4F100EH66D
4F100GB43
4F100JG01B
4F100JK17
(57)【要約】
【課題】耐折性に優れた銅張積層板またはフレキシブルプリント配線板を提供する。
【解決手段】銅張積層板は、ベースフィルムと、ベースフィルムの表面に形成された導体層とを有する。ベースフィルムの厚さと導体層の厚さとを合わせた総厚が38μm以下である。総厚が28μm以下とし、導体層の厚さを9μm以下とすることがより好ましい。銅張積層板の総厚が薄いので、銅張積層板を屈曲させても導体層に生じる応力が小さい。そのため、耐折性に優れる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースフィルムと、
前記ベースフィルムの表面に形成された導体層と、を備え、
前記ベースフィルムの厚さと前記導体層の厚さとを合わせた総厚が38μm以下である
ことを特徴とする銅張積層板。
【請求項2】
前記総厚が28μm以下であり、前記導体層の厚さが9μm以下である
ことを特徴とする請求項1記載の銅張積層板。
【請求項3】
ベースフィルムと、
前記ベースフィルムの表面に形成された配線と、を備え、
前記ベースフィルムの厚さと前記配線の厚さとを合わせた総厚が38μm以下である
ことを特徴とするフレキシブルプリント配線板。
【請求項4】
前記総厚が28μm以下であり、前記配線の厚さが9μm以下である
ことを特徴とする請求項3記載のフレキシブルプリント配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅張積層板およびフレキシブルプリント配線板に関する。さらに詳しくは、本発明は、フレキシブルプリント配線板(FPC)などの製造に用いられる銅張積層板、および銅張積層板から製造されたフレキシブルプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶パネル、ノートパソコン、デジタルカメラ、携帯電話などの電子機器には、樹脂フィルムの表面に配線パターンが形成されたフレキシブルプリント配線板が用いられる。フレキシブルプリント配線板は樹脂フィルムに銅箔を積層した銅張積層板から製造される。
【0003】
銅張積層板の製造方法としてメタライジング法が知られている(例えば、特許文献1)。メタライジング法による銅張積層板の製造は、例えば、つぎの手順で行われる。まず、樹脂フィルムの表面にニッケルクロム合金からなる下地金属層を成膜する。つぎに、下地金属層の上に銅薄膜層を成膜する。つぎに、銅薄膜層の上に銅めっき被膜を成膜する。銅めっきにより、配線パターンを形成するのに適した膜厚となるまで導体層を厚膜化する。メタライジング法により、樹脂フィルム上に直接導体層が成膜された、いわゆる2層基板と称されるタイプの銅張積層板が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年の電子機器の小型化、薄型化にともない、フレキシブルプリント配線板は小さい曲率半径の曲げを伴う使い方が多くなっている。フレキシブルプリント配線板を小さい曲率半径で繰り返し曲げ伸ばしすると配線部の表面からクラックが生じ、クラックが成長して断線することがある。そのため、耐折性に優れたフレキシブルプリント配線板が求められている。
【0006】
本発明は上記事情に鑑み、耐折性に優れた銅張積層板またはフレキシブルプリント配線板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の銅張積層板は、ベースフィルムと、前記ベースフィルムの表面に形成された導体層と、を備え、前記ベースフィルムの厚さと前記導体層の厚さとを合わせた総厚が38μm以下であることを特徴とする。
本発明のフレキシブルプリント配線板は、ベースフィルムと、前記ベースフィルムの表面に形成された配線と、を備え、前記ベースフィルムの厚さと前記配線の厚さとを合わせた総厚が38μm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、銅張積層板の総厚が薄いので、銅張積層板を屈曲させても導体層に生じる応力が小さい。そのため、耐折性に優れる。
本発明によれば、フレキシブルプリント配線板の総厚が薄いので、フレキシブルプリント配線板を屈曲させても配線に生じる応力が小さい。そのため、耐折性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る銅張積層板の断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るフレキシブルプリント配線板の断面図である。
【
図3】銅張積層板の総厚と耐折性との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
(銅張積層板)
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る銅張積層板1は、ベースフィルム10と、ベースフィルム10の表面に形成された導体層20とを有する。
図1に示すようにベースフィルム10の片面のみに導体層20が形成されてもよいし、ベースフィルム10の両面に導体層20が形成されてもよい。
【0011】
ベースフィルム10としてポリイミドフィルム、液晶ポリマー(LCP)フィルムなどの樹脂フィルムを用いることができる。
【0012】
導体層20はスパッタリングなどの真空成膜法により成膜される金属層21を有する。金属層21は下地金属層22と銅薄膜層23とからなる。下地金属層22と銅薄膜層23とはベースフィルム10の表面にこの順に積層されている。一般に、下地金属層22はニッケル、クロム、またはニッケルクロム合金からなる。下地金属層22はなくてもよい。銅薄膜層23はベースフィルム10の表面に下地金属層22を介して成膜されてもよいし、下地金属層22を介さずベースフィルム10の表面に直接成膜されてもよい。
【0013】
特に限定されないが、下地金属層22の厚さは5~50nmが一般的であり、銅薄膜層23の厚さは50~400nmが一般的である。
【0014】
導体層20は電解めっきにより成膜される銅めっき被膜24を有する。金属層21と銅めっき被膜24とはベースフィルム10の表面にこの順に積層されている。
【0015】
銅めっき被膜24は、例えば、ロールツーロール方式のめっき装置により成膜できる。この方式のめっき装置は、ロールツーロールにより長尺帯状の基材(ベースフィルム10の表面に金属層21のみが形成されたもの)を搬送しつつ、基材に対して電解めっきを行う装置である。めっき装置はロール状に巻回された基材を繰り出す供給装置と、めっき後の基材(銅張積層板1)をロール状に巻き取る巻取装置とを有する。
【0016】
めっき装置には基材を搬送するための複数のクランプが設けられている。複数のクランプが基材の両縁を把持し、基材を搬送する。基材の搬送経路には、前処理槽、めっき槽、および後処理槽が配置されている。基材はめっき槽内を搬送されつつ、電解めっきによりその表面に銅めっき被膜24が成膜される。これにより、長尺帯状の銅張積層板1が得られる。
【0017】
銅めっき液は水溶性銅塩を含む。銅めっき液に一般的に用いられる水溶性銅塩であれば特に限定されず用いられる。銅めっき液は硫酸を含んでもよい。硫酸の添加量を調整することで、銅めっき液のpHおよび硫酸イオン濃度を調整できる。銅めっき液は一般的にめっき液に添加される添加剤を含んでもよい。添加剤として、ブライトナー成分、レベラー成分、ポリマー成分、塩素成分などから選択された1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
銅めっき液の各成分の含有量は任意に選択できる。ただし、銅めっき液は銅を15~70g/L、硫酸を20~250g/L含有することが好ましい。そうすれば、銅めっき被膜24を十分な速度で成膜できる。銅めっき液はブライトナー成分を1~50mg/L含有することが好ましい。そうすれば、析出結晶を微細化し銅めっき被膜24の表面を平滑にできる。銅めっき液はレベラー成分を1~300mg/L含有することが好ましい。そうすれば、突起を抑制し平坦な銅めっき被膜24を成膜できる。銅めっき液はポリマー成分を10~1,500mg/L含有することが好ましい。そうすれば、基材端部への電流集中を緩和し均一な銅めっき被膜24を成膜できる。銅めっき液は塩素成分を20~80mg/L含有することが好ましい。そうすれば、異常析出を抑制できる。
【0019】
銅めっき液の温度は20~35℃が好ましい。また、めっき槽内の銅めっき液を撹拌することが好ましい。例えば、ノズルから噴出させた銅めっき液を基材に吹き付けることで、銅めっき液を撹拌できる。
【0020】
ベースフィルム10に成膜された金属層21は比較的薄いため、電解めっきの初期に電流密度を高くすると、金属層21のうち給電部(クランプ)と接触する部分が溶解する恐れがある。一方で、生産性を上げるには電流密度をできるだけ高くすることが好ましい。そこで、電解めっきの初期において、電流密度を徐々に上昇させることが行われる。電流密度上昇期間における電流密度は、1~5A/dm2の範囲で徐々に上昇させることが好ましい。
【0021】
電流密度上昇期間を経て、溶解の恐れがない程度の厚さ(例えば、1.0μm)まで銅めっき被膜24が厚くなった後は、比較的高い一定の電流密度で電解めっきを行う。
【0022】
銅めっき被膜24は枚葉方式のめっき装置によっても成膜できる。枚葉状の基材をめっき槽内の銅めっき液に浸漬して電解めっきを行い、基材の表面に銅めっき被膜24を成膜する。
【0023】
銅張積層板1の耐折性とは、繰り返しの曲げ伸ばしに対する強度を意味し、MIT試験により評価される。銅張積層板1を屈曲させると、屈曲の内側には圧縮応力が生じ、外側には引張応力が生じる。屈曲により導体層20に生じる応力は銅張積層板1が厚いほど大きくなる。これは、銅張積層板1が厚いほど屈曲の内側の縮み量、および外側の伸び量が大きくなるからである。そこで、耐折性の観点からは、銅張積層板1が薄いことが好ましい。銅張積層板1を薄くすれば、銅張積層板1を屈曲させても導体層20に生じる応力が小さくなり、耐折性に優れる。
【0024】
具体的には、銅張積層板1の総厚を38μm以下とすることが好ましい。そうすれば、耐断線回数を100回以上にできる。ここで、総厚とはベースフィルム10の厚さと導体層20の厚さとを合わせた厚さである。ベースフィルム10の両面に導体層20が形成された両面銅張積層板の場合、両方の導体層20の厚さの合計と、ベースフィルム10の厚さとを合わせた厚さが総厚となる。
【0025】
また、銅張積層板1の総厚が30μm以下の場合には、導体層20が薄い方が耐折性に優れるという傾向がある。具体的には、銅張積層板1の総厚を28μm以下とし、導体層20の厚さを9μm以下とすることが好ましい。そうすれば、耐断線回数を2,000回以上にできる。ベースフィルム10の両面に導体層20が形成された両面銅張積層板の場合、両方の導体層20のそれぞれの厚さを9μm以下とすればよい。
【0026】
なお、本明細書において厚さとは、製造上不可避的に発生する微視的な厚さの揺らぎを除外した平均的な厚さを意味する。
【0027】
(フレキシブルプリント配線板)
図2に示すように、本発明の一実施形態に係るフレキシブルプリント配線板2は、ベースフィルム10と、ベースフィルム10の表面に形成された配線30とを有する。
図2に示すようにベースフィルム10の片面のみに配線30が形成されてもよいし、ベースフィルム10の両面に配線30が形成されてもよい。配線30は、サブトラクティブ法、セミアディティブ法などの公知の方法で銅張積層板1の導体層20を加工することにより形成される。
【0028】
フレキシブルプリント配線板2の総厚を38μm以下とすることが好ましい。そうすれば、耐断線回数を100回以上にできる。ここで、総厚とはベースフィルム10の厚さと配線30の厚さとを合わせた厚さである。ベースフィルム10の両面に配線30が形成された両面基板の場合、両方の配線30の厚さの合計と、ベースフィルム10の厚さとを合わせた厚さが総厚となる。
【0029】
フレキシブルプリント配線板2の総厚を28μm以下とし、配線30の厚さを9μm以下とすることがさらに好ましい。そうすれば、耐断線回数を2,000回以上にできる。ベースフィルム10の両面に配線30が形成された両面基板の場合、両方の配線30のそれぞれの厚さを9μm以下とすればよい。
【実施例0030】
ベースフィルムとして、厚さ12.5μmのポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製50EN-C)、厚さ25μmのポリイミドフィルム(宇部興産社製 Upilex-25SGAV1)、厚さ35μmのポリイミドフィルム(宇部興産社製 Upilex-35SGAV1)を用意した。ベースフィルムをマグネトロンスパッタリング装置にセットした。マグネトロンスパッタリング装置内にはニッケルクロム合金ターゲットと銅ターゲットとが設置されている。ニッケルクロム合金ターゲットの組成はCrが20質量%、Niが80質量%である。真空雰囲気下で、各ベースフィルムの片面に、厚さ25nmのニッケルクロム合金からなる下地金属層を形成し、その上に厚さ150nmの銅薄膜層を形成した。
【0031】
つぎに、銅めっき液を調整した。銅めっき液は硫酸銅を120g/L、硫酸を70g/L、ブライトナー成分を16mg/L、レベラー成分を20mg/L、ポリマー成分を1,100mg/L、塩素成分を50mg/L含有する。ブライトナー成分としてビス(3-スルホプロピル)ジスルフィド(RASCHIG GmbH社製の試薬)を用いた。レベラー成分としてジアリルジメチルアンモニウムクロライド-二酸化硫黄共重合体(ニットーボーメディカル株式会社製 PAS-A―5)を用いた。ポリマー成分としてポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール共重合体(日油株式会社製 ユニルーブ50MB-11)を用いた。塩素成分として塩酸(和光純薬工業株式会社製の35%塩酸)を用いた。
【0032】
前記銅めっき液が貯留されためっき槽に基材を供給した。電解めっきにより基材の片面に銅めっき被膜を成膜した。ここで、銅めっき液の温度を31℃とした。また、電解めっきの間、ノズルから噴出させた銅めっき液を基材の表面に対して略垂直に吹き付けることで、銅めっき液を撹拌した。銅めっき被膜の厚さを2.4μm、5.4μm、8.5μm、12.4μmの4パターンとして、銅張積層板の試料を作製した。
【0033】
得られた試料の耐折性をMIT試験により評価した。MIT試験はJIS C6471(1995)に従って行った。試験機として東洋精機製作所製MIT耐折疲労試験機D型を用いた。試料には1mm幅の配線パターンを形成した。試料を曲率半径0.36mm、荷重500gf、反復速度175cpm(毎分175回で折り曲げ)の条件にて135°折り曲げ、続いて反対方向に135°折り曲げる操作を繰り返して、配線の導通が途切れたときの回数(耐断線回数)を測定した。なお、評価に際して、測定時間が長くなり過ぎるため、折り曲げ回数の上限を3,000回とした。測定結果を表1に示す。
【0034】
【0035】
また、総厚と耐断線回数との関係を
図3のグラフに示す。
図3より、全体的な傾向として、総厚が薄いほど耐断線回数が多いことが分かる。総厚を38μm以下にすれば、耐断線回数を100回以上にできる。
【0036】
また、総厚が30μm以下の場合には、導体層(配線)が薄いほど耐断線回数が多いという傾向が見られる。総厚を28μm以下とし、導体層(配線)の厚さを9μm以下とすれば、耐断線回数を2,000回以上にできる。
【0037】
なお、耐折性の観点からすると、総厚および導体層(配線)の厚さはいずれも薄い方が好ましく、特に下限値はない。しかし、
図3の結果からすると、少なくとも、総厚を15μmまで薄くしても耐折性が優れた状態を維持できる。また、導体層(配線)を2.5μmまで薄くしても耐折性が優れた状態を維持できる。