(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020300
(43)【公開日】2024-02-14
(54)【発明の名称】アンモニウムイオン分析方法、及びアンモニウムイオン分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/76 20060101AFI20240206BHJP
G01N 31/00 20060101ALI20240206BHJP
G01N 31/22 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
G01N21/76
G01N31/00 G
G01N31/22 122
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023189182
(22)【出願日】2023-11-06
(62)【分割の表示】P 2022543936の分割
【原出願日】2021-08-16
(31)【優先権主張番号】P 2020138583
(32)【優先日】2020-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】591237331
【氏名又は名称】株式会社日吉
(71)【出願人】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100171310
【弁理士】
【氏名又は名称】日東 伸二
(72)【発明者】
【氏名】竹中 規訓
(72)【発明者】
【氏名】芝 拓海
(57)【要約】
【課題】化学発光法を用いてアンモニウムイオンを高感度に定量するアンモニウムイオン分析方法を提供する。
【解決手段】アンモニウムイオンと増感剤としてフミン酸とを含有する測定液を調製する調製工程と、測定液と次亜臭素酸イオンを含む試薬とを反応セルに導入し、反応セルにおける化学発光の強度を測定する測定工程と、アンモニウムイオンの濃度と化学発光の強度との相関関係を示す検量線に基づいて、測定工程において測定した化学発光の強度からアンモニウムイオンを定量する定量工程とを包含する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中のアンモニウムイオンを定量するアンモニウムイオン分析方法であって、
前記試料を強塩基性に調整して、第一流路に通流させる試料供給工程と、
ガス透過性材料からなる隔壁を介して前記第一流路と隣接する第二流路に酸性溶媒を供給し、当該酸性溶媒を所定時間に亘って前記第二流路内に滞留させる酸性溶媒供給工程と、
前記第二流路において所定時間に亘って滞留した前記酸性溶媒と、次亜臭素酸イオンを含有する試薬とを反応セルに導入し、前記反応セルにおける化学発光の強度を測定する測定工程と、
アンモニウムイオンの濃度と化学発光の強度との相関関係を示す検量線に基づいて、前記測定工程において測定した化学発光の強度からアンモニウムイオンを定量する定量工程と
を包含するアンモニウムイオン分析方法。
【請求項2】
試料中のアンモニウムイオンを定量するアンモニウムイオン分析装置であって、
第一流路、及びガス透過性材料からなる隔壁を介して前記第一流路と隣接する第二流路を有する分離部と、
前記試料を強塩基性に調整して、前記第一流路に通流させる試料供給手段と、
酸性溶媒を前記第二流路に供給し、当該酸性溶媒を所定時間に亘って前記第二流路内に滞留させる酸性溶媒供給手段と、
前記第二流路において所定時間に亘って滞留した前記酸性溶媒と、次亜臭素酸イオンを含有する試薬とが導入される反応セルと、
前記反応セルにおける化学発光の強度を測定する測定手段と、
アンモニウムイオンの濃度と化学発光の強度との相関関係を示す検量線に基づいて、前記測定手段において測定した化学発光の強度からアンモニウムイオンを定量する定量手段と
を備えるアンモニウムイオン分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニウムイオンを定量するためのアンモニウムイオン化学発光測定用増感剤、並びに、化学発光法を用いたアンモニウムイオン分析方法、及びアンモニウムイオン分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水質においてアンモニアは代表的な栄養素であるが、高濃度になると湖沼、海域等における富栄養化を促進する要因となる。そのため、環境基準の項目の一つとして、アンモニア態窒素を含む全窒素量が定められており、水質保全のためには、定期的なアンモニア態窒素の測定が求められる。
【0003】
水中のアンモニア態窒素(アンモニウムイオン)の定量法として、例えば、化学発光を利用した定量法がある(例えば、特許文献1を参照)。化学発光の強度はアンモニウムイオンの濃度に依存することから、特許文献1の定量法によれば、アンモニウムイオンを次亜ハロゲン酸イオン又はハロゲンガスと接触させ、これらの反応によって生じる化学発光の強度を測定することで、水中のアンモニウムイオンを定量することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、工場排水の規制強化や下水道の整備によって河川、湖沼、海域等における自然水の水質は改善されており、自然水中のアンモニウムイオンは低濃度になっている。特許文献1の定量法は、排気ガスの脱硝装置用途として検討された定量方法であり、自然水の水質検査においては、検出限界濃度を大幅に下げた、より高感度な定量法によりアンモニウムイオンを定量することが望まれる。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、アンモニウムイオンと次亜臭素酸イオンとの反応による化学発光の強度を増幅させるアンモニウムイオン化学発光測定用増感剤、並びに、化学発光法を用いてアンモニウムイオンを高感度に定量するアンモニウムイオン分析方法、及びアンモニウムイオン分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明に係るアンモニウムイオン化学発光測定用増感剤は、
30μM/L以下の濃度範囲においてアンモニウムイオンを定量するためのフミン酸を含有するアンモニウムイオン化学発光測定用増感剤である。
【0008】
本発明者らは、アンモニウムイオンやフミン酸が次亜臭素酸イオンとの反応により生じる化学発光について、種々の実験により検討した(以下、次亜臭素酸イオンとの反応により生じる化学発光を、単に「化学発光」と称する場合もある。)。その結果、アンモニウムイオンとフミン酸との共存下での化学発光の強度は、アンモニウムイオンを単独で次亜臭素酸イオンと反応させた場合の化学発光の強度と、フミン酸を単独で次亜臭素酸イオンと反応させた場合の化学発光の強度との合計より大きくなることが判明した。このことから、本発明者らは、アンモニウムイオンとの共存下で化学発光の強度を増幅するという新たなフミン酸の属性を発見するに至った。本発明者らは、この新たなフミン酸の属性に基づいて、従来では化学発光が微弱なために検出が困難であった30μM/L以下の濃度範囲において、アンモニウムイオンの化学発光を増幅させて測定するための用途に、フミン酸が適することを見い出した。
【0009】
本構成のアンモニウムイオン化学発光測定用増感剤によれば、アンモニウムイオン単独では次亜臭素酸イオンとの反応による化学発光の検出が困難な30μM/L以下の範囲のアンモニウムイオンの濃度であっても、本構成のアンモニウムイオン化学発光測定用増感剤を添加することによって、アンモニウムイオンの濃度に応じた強度の化学発光を検出することができる。従って、本構成のアンモニウムイオン化学発光測定用増感剤を用いることにより、化学発光分析法においてアンモニウムイオンの検出限界濃度を大幅に引き下げることができる。
【0010】
上記課題を解決するための本発明に係るアンモニウムイオン分析方法の特徴構成は、
アンモニウムイオンと増感剤としてフミン酸とを含有する測定液を調製する調製工程と、
前記測定液と次亜臭素酸イオンを含む試薬とを反応セルに導入し、前記反応セルにおける化学発光の強度を測定する測定工程と、
アンモニウムイオンの濃度と化学発光の強度との相関関係を示す検量線に基づいて、前記測定工程において測定した化学発光の強度からアンモニウムイオンを定量する定量工程と
を包含することにある。
【0011】
本構成のアンモニウムイオン分析方法によれば、アンモニウムイオンと増感剤としてフミン酸とを含有する測定液を調製する調製工程と、測定液と次亜臭素酸イオンを含む試薬とを反応セルに導入し、反応セルにおける化学発光の強度を測定する測定工程と、アンモニウムイオンの濃度と化学発光の強度との相関関係を示す検量線に基づいて、測定工程において測定した化学発光の強度からアンモニウムイオンを定量する定量工程とを実施することができる。これにより、アンモニウムイオン単独では次亜臭素酸イオンとの反応による化学発光の検出が困難な30μM/L以下の濃度範囲のアンモニウムイオンの濃度であっても、増感剤であるフミン酸により増幅された化学発光の強度を測定することができる。従って、従来の化学発光分析法では定量不可能であった低濃度のアンモニウムイオンを定量することができる。
【0012】
本発明に係るアンモニウムイオン分析方法において、
前記調製工程は、
前記増感剤を酸性溶媒に添加する添加工程と、
アンモニウムイオンと発光干渉物質とを含有する試料からアンモニアを遊離させ、当該アンモニアを前記増感剤が添加された酸性溶媒に溶解させることにより前記測定液を調製する溶解工程と
を包含することが好ましい。
【0013】
発光干渉物質とは、次亜臭素酸イオンとの反応により化学発光する物質であり、フミン酸、尿素等がある。発光干渉物質は、アンモニウムイオンと共存することで、アンモニウムイオンと次亜臭素酸イオンとの反応による化学発光の強度の測定結果に影響を及ぼす。本構成のアンモニウムイオン分析方法によれば、調製工程として、増感剤を酸性溶媒に添加する添加工程と、アンモニウムイオンと発光干渉物質とを含有する試料からアンモニアを遊離させ、当該アンモニアを増感剤が添加された酸性溶媒に溶解させることにより測定液を調製する溶解工程とを実行することができる。これにより、試料中の発光干渉物質に影響を受けることなく、アンモニウムイオンと次亜臭素酸イオンとの反応による化学発光の強度を測定することができる。従って、アンモニウムイオンと発光干渉物質とを含有する試料、例えば、河川水等の自然水において、従来の化学発光分析法では定量不可能であった低濃度のアンモニウムイオンを定量することができる。
【0014】
本発明に係るアンモニウムイオン分析方法において、
前記調製工程は、
アンモニウムイオンと発光干渉物質とを含有する試料からアンモニアを遊離させ、当該アンモニアを酸性溶媒に溶解させる溶解工程と、
前記アンモニアが溶解した酸性溶媒に、前記増感剤を添加することにより前記測定液を調製する添加工程と
を包含することが好ましい。
【0015】
本構成のアンモニウムイオン分析方法によれば、調製工程として、アンモニウムイオンと発光干渉物質とを含有する試料からアンモニアを遊離させ、当該アンモニアを酸性溶媒に溶解させる溶解工程と、アンモニアが溶解した酸性溶媒に増感剤を添加することにより測定液を調製する添加工程とを実行することができる。これにより、試料中の発光干渉物質に影響を受けることなく、アンモニウムイオンと次亜臭素酸イオンとの反応による化学発光の強度を測定することができる。従って、アンモニウムイオンと発光干渉物質とを含有する試料、例えば、河川水等の自然水において、従来の化学発光分析法では定量不可能であった低濃度のアンモニウムイオンを定量することができる。
【0016】
本発明に係るアンモニウムイオン分析方法において、
前記溶解工程において、アンモニウムイオンと発光干渉物質とを含有する試料を強塩基性に調整し、当該強塩基性に調整された試料からアンモニアを遊離させることが好ましい。
【0017】
本構成のアンモニウムイオン分析方法によれば、前記溶解工程において、アンモニウムイオンと発光干渉物質とを含有する試料を強塩基性に調整し、当該強塩基性に調整された試料からアンモニアを遊離させることにより、水中アンモニウムイオンを遊離アンモニアとし易くなるため、効率よくアンモニアを遊離させることができる。
【0018】
本発明に係るアンモニウムイオン分析方法において、
前記酸性溶媒は、硫酸水溶液であることが好ましい。
【0019】
本構成のアンモニウムイオン分析方法によれば、酸性溶媒が硫酸水溶液であることにより、試料から遊離したアンモニアを効率よく溶解させることができる。
【0020】
本発明に係るアンモニウムイオン分析方法において、
前記溶解工程の実施によりアンモニアが遊離した後の試料に、アンモニウムイオンと発光干渉物質との共存下で生じる化学発光の強度の増幅効果が頭打ちとなる濃度よりも高い濃度でアンモニウムイオンを添加することにより発光干渉物質測定液を調製する追加調製工程と、
前記発光干渉物質測定液と前記試薬とを発光干渉物質測定用反応セルに導入し、前記発光干渉物質測定用反応セルにおける化学発光の強度を測定する発光干渉物質測定工程と、
アンモニウムイオンを含有し発光干渉物質を含有しない標準試料におけるアンモニウムイオンの濃度と、前記発光干渉物質測定用反応セルにおいて生じる化学発光の強度との相関関係を示す検量線に基づいて、前記定量工程において定量したアンモニウムイオンの濃度から、発光干渉物質測定用反応セルにおいてアンモニウムイオンにより生じた化学発光の強度を推定する推定工程と、
前記発光干渉物質測定工程において測定した化学発光の強度から前記推定工程において推定した化学発光の強度を減算することにより、干渉の影響を除去した化学発光の強度を算出する算出工程と、
発光干渉物質を含有しアンモニウムイオンを含有しない標準試料における発光干渉物質の濃度と、前記発光干渉物質測定用反応セルにおいて生じる化学発光の強度との相関関係を示す検量線に基づいて、前記算出工程において算出した干渉の影響を除去した化学発光の強度から発光干渉物質を定量する発光干渉物質定量工程と
をさらに包含することが好ましい。
【0021】
発光干渉物質の一つであるフミン酸は、植物等が微生物によって分解された酸性有機物であって、環境中の自然水に含まれている。そのため、河川等から取水した上水道の原水にもフミン酸が含まれるが、この原水を塩素で殺菌処理したときに、フミン酸はトリハロメタンのような有害物質を生成すると言われている。浄水処理施設では、トリハロメタンの対策を講じるために、原水中の前駆物質であるフミン酸の濃度を測定することが望まれる。本発明者らは、アンモニウムイオンとフミン酸との共存下での化学発光の強度と、アンモニウムイオン及びフミン酸を夫々単独で次亜臭素酸イオンと反応させた場合の化学発光の強度との関係について、種々の実験によりさらに詳細に検討した。その結果、アンモニウムイオンの濃度の上昇に伴って、アンモニウムイオンと発光干渉物質との共存下で生じる化学発光強度の増幅効果は小さくなることを見出した。加えて、増幅効果が頭打ちとなる濃度以上の濃度でアンモニウムイオンを含有する場合、アンモニウムイオンとフミン酸との共存下での化学発光の強度は、アンモニウムイオンを単独で次亜臭素酸イオンと反応させた場合の化学発光の強度と、フミン酸を単独で次亜臭素酸イオンと反応させた場合の化学発光の強度との単純な合計となることを見出した。
【0022】
本構成のアンモニウムイオン分析方法によれば、溶解工程の実施によりアンモニアが遊離した後の試料に、アンモニウムイオンと発光干渉物質との共存下で生じる化学発光の強度の増幅効果が頭打ちとなる濃度よりも高い濃度でアンモニウムイオンを添加することにより発光干渉物質測定液を調製する追加調製工程と、発光干渉物質測定液と試薬とを発光干渉物質測定用反応セルに導入し、発光干渉物質測定用反応セルにおける化学発光の強度を測定する発光干渉物質測定工程とを実施することができる。これにより、溶解工程を実施した後の試料に残存する微量なアンモニウムイオンでは化学発光強度の増幅が生じないため、発光干渉物質測定工程で測定される化学発光の強度は、発光干渉物質測定液に含有される濃度においてアンモニウムイオンを単独で次亜臭素酸イオンと反応させた場合の化学発光の強度と、発光干渉物質測定液に含有される濃度において発光干渉物質を単独で次亜臭素酸イオンと反応させた場合の化学発光の強度との単純な合計となる。また、本構成のアンモニウムイオン分析方法によれば、アンモニウムイオンを含有し発光干渉物質を含有しない標準試料におけるアンモニウムイオンの濃度と発光干渉物質測定用反応セルにおいて生じる化学発光の強度との相関関係を示す検量線に基づいて、定量工程において定量したアンモニウムイオンの濃度から発光干渉物質測定用反応セルにおいてアンモニウムイオンにより生じた化学発光の強度を推定する推定工程を実施することができる。これにより、溶解工程を実施した後の試料に残存する微量のアンモニウムイオンと追加調製工程において添加されたアンモニウムイオンとが次亜臭素酸イオンと反応することによる化学発光の強度、すなわち、発光干渉物質測定液に含有される濃度においてアンモニウムイオンを単独で次亜臭素酸イオンと反応させた場合の化学発光強度を推定することができる。また、本構成のアンモニウムイオン分析方法によれば、発光干渉物質測定工程において測定した化学発光の強度から推定工程において推定した化学発光の強度を減算することにより、干渉の影響を除去した化学発光の強度を算出する算出工程と、発光干渉物質を含有しアンモニウムイオンを含有しない標準試料における発光干渉物質の濃度と、発光干渉物質測定用反応セルにおいて生じる化学発光の強度との相関関係を示す検量線に基づいて、算出工程において算出した干渉の影響を除去した化学発光の強度から発光干渉物質を定量する発光干渉物質定量工程とを実施することができる。これにより、アンモニウムイオンとの干渉の影響を除去して、発光干渉物質を定量することができる。従って、本構成のアンモニウムイオン分析方法によれば、アンモニウムイオンと発光干渉物質とを含有する試料、例えば、河川水等の自然水において、アンモニウムイオンだけではなく、発光干渉物質も定量することができる。
【0023】
本発明に係るアンモニウムイオン分析方法において、
前記調製工程において、アンモニウムイオンを含有し発光干渉物質を含有しない試料に、前記増感剤を添加することにより前記測定液を調製することが好ましい。
【0024】
本構成のアンモニウムイオン分析方法によれば、アンモニウムイオンを含有し発光干渉物質を含有しない試料において、従来の化学発光分析法では定量不可能であった低濃度のアンモニウムイオンを、簡便な手順で定量することができる。
【0025】
上記課題を解決するための本発明に係るアンモニウムイオン分析装置の特徴構成は、
試料中のアンモニウムイオンと発光干渉物質とを定量するアンモニウムイオン分析装置であって、
第一流路、及びガス透過性材料からなる隔壁を介して前記第一流路と隣接する第二流路を有する分離部と、
増感剤としてフミン酸を添加した酸性溶媒を前記第一流路に通流させる酸性溶媒供給手段と、
前記試料を強塩基性に調整して、前記第二流路に通流させる試料供給手段と、
前記第一流路から流出した酸性溶媒と、次亜臭素酸イオンを含有する試薬とが導入される第一反応セルと、
前記第一反応セルにおける化学発光の強度を測定する第一測定手段と、
アンモニウムイオンを含有する標準試料におけるアンモニウムイオンの濃度と、前記第一反応セルにおいて生じる化学発光の強度との相関関係を示す検量線に基づいて、前記第一測定手段において測定した化学発光の強度からアンモニウムイオンを定量する第一定量手段と、
前記第二流路から流出した試料に、アンモニウムイオンと発光干渉物質との共存下で生じる化学発光の強度の増幅効果が頭打ちとなる濃度よりも高い濃度でアンモニウムイオンを添加する添加手段と、
アンモニウムイオンを添加した後の試料と、次亜臭素酸イオンを含有する試薬とが導入される第二反応セルと、
前記第二反応セルにおける化学発光の強度を測定する第二測定手段と、
アンモニウムイオンを含有し発光干渉物質を含有しない標準試料におけるアンモニウムイオンの濃度と、前記第二反応セルにおいて生じる化学発光の強度との相関関係を示す検量線に基づいて、前記第一定量手段により定量したアンモニウムイオンの濃度から、第二反応セルにおいてアンモニウムイオンにより生じた化学発光の強度を推定する推定手段と、
前記第二測定手段により測定した化学発光の強度から前記推定手段により推定した化学発光の強度を減算することにより、干渉の影響を除去した化学発光の強度を算出する算出手段と、
発光干渉物質を含有しアンモニウムイオンを含有しない標準試料における発光干渉物質の濃度と、前記第二反応セルにおいて生じる化学発光の強度との相関関係を示す検量線に基づいて、前記算出手段により算出した干渉の影響を除去した化学発光の強度から発光干渉物質を定量する第二定量手段と
を備えることにある。
【0026】
本構成のアンモニウムイオン分析装置によれば、第一流路、及びガス透過性材料からなる隔壁を介して第一流路と隣接する第二流路を有する分離部と、増感剤としてフミン酸を添加した酸性溶媒を第一流路に通流させる酸性溶媒供給手段と、試料を強塩基性に調整して、第二流路に通流させる試料供給手段と、第一流路から流出した酸性溶媒と次亜臭素酸イオンを含有する試薬とが導入される第一反応セルと、第一反応セルにおける化学発光の強度を測定する第一測定手段と、アンモニウムイオンを含有する標準試料におけるアンモニウムイオンの濃度と第一反応セルにおいて生じる化学発光の強度との相関関係を示す検量線に基づいて、第一測定手段において測定した化学発光の強度からアンモニウムイオンを定量する第一定量手段とを備えることができる。これにより、アンモニウムイオン単独では次亜臭素酸イオンとの反応による化学発光の検出が困難な30μM/L以下の濃度範囲のアンモニウムイオンの濃度であっても、増感剤であるフミン酸により増幅された化学発光の強度を測定することができる。従って、従来の化学発光分析法では定量不可能であった低濃度のアンモニウムイオンを定量することができる。
【0027】
また、本構成のアンモニウムイオン分析装置によれば、第二流路から流出した試料に、アンモニウムイオンと発光干渉物質との共存下で生じる化学発光の強度の増幅効果が頭打ちとなる濃度よりも高い濃度でアンモニウムイオンを添加する添加手段と、アンモニウムイオンを添加した後の試料と次亜臭素酸イオンを含有する試薬とが導入される第二反応セルと、第二反応セルにおける化学発光の強度を測定する第二測定手段とを備えることができる。これにより、第二流路から流出した試料に残存する微量なアンモニウムイオンでは化学発光強度の増幅が生じない。このため、第二測定手段で測定される化学発光の強度は、添加手段においてアンモニウムイオンを添加した後の試料に含有される濃度においてアンモニウムイオンを単独で次亜臭素酸イオンと反応させた場合の化学発光の強度と、添加手段においてアンモニウムイオンを添加した後の試料に含有される濃度において発光干渉物質を単独で次亜臭素酸イオンと反応させた場合の化学発光の強度との単純な合計となる。さらに、アンモニウムイオンを含有し発光干渉物質を含有しない標準試料におけるアンモニウムイオンの濃度と第二反応セルにおいて生じる化学発光の強度との相関関係を示す検量線に基づいて、第一定量手段により定量したアンモニウムイオンの濃度から第二反応セルにおいてアンモニウムイオンにより生じた化学発光の強度を推定する推定手段を備えることができる。これにより、添加手段においてアンモニウムイオンを添加した後の試料に含有される濃度においてアンモニウムイオンを単独で次亜臭素酸イオンと反応させた場合の化学発光強度を推定することができる。また、本構成のアンモニウムイオン分析装置によれば、第二測定手段により測定した化学発光の強度から推定手段により推定した化学発光の強度を減算することにより、干渉の影響を除去した化学発光の強度を算出する算出手段と、発光干渉物質を含有しアンモニウムイオンを含有しない標準試料における発光干渉物質の濃度と第二反応セルにおいて生じる化学発光の強度との相関関係を示す検量線に基づいて、算出手段により算出した干渉の影響を除去した化学発光の強度から発光干渉物質を定量する第二定量手段とを備えることができる。これにより、アンモニウムイオンとの干渉の影響を除去して、発光干渉物質を定量することができる。従って、本構成のアンモニウムイオン分析装置によれば、アンモニウムイオンと発光干渉物質とを含有する試料、例えば、河川水等の自然水において、アンモニウムイオンだけではなく、発光干渉物質も定量することができる。
【0028】
上記課題を解決するための本発明に係るアンモニウムイオン分析方法の特徴構成は、
試料中のアンモニウムイオンを定量するアンモニウムイオン分析方法であって、
前記試料を強塩基性に調整して、第一流路に通流させる試料供給工程と、
ガス透過性材料からなる隔壁を介して前記第一流路と隣接する第二流路に酸性溶媒を供給し、当該酸性溶媒を所定時間に亘って前記第二流路内に滞留させる酸性溶媒供給工程と、
前記第二流路において所定時間に亘って滞留した前記酸性溶媒と、次亜臭素酸イオンを含有する試薬とを反応セルに導入し、前記反応セルにおける化学発光の強度を測定する測定工程と、
アンモニウムイオンの濃度と化学発光の強度との相関関係を示す検量線に基づいて、前記測定工程において測定した化学発光の強度からアンモニウムイオンを定量する定量工程と
を包含することにある。
【0029】
本構成のアンモニウムイオン分析方法によれば、試料を強塩基性に調整して、第一流路に通流させる試料供給工程と、ガス透過性材料からなる隔壁を介して第一流路と隣接する第二流路に酸性溶媒を供給し、当該酸性溶媒を所定時間に亘って第二流路内に滞留させる酸性溶媒供給工程と、第二流路において所定時間に亘って滞留した酸性溶媒と次亜臭素酸イオンを含有する試薬とを反応セルに導入し、反応セルにおける化学発光の強度を測定する測定工程と、アンモニウムイオンの濃度と化学発光の強度との相関関係を示す検量線に基づいて、測定工程において測定した化学発光の強度からアンモニウムイオンを定量する定量工程とを実施することができる。これにより、強塩基性に調整された試料から遊離したアンモニアが隔壁を透過し、第二流路内に滞留する酸性溶媒に溶解するため、試料中のアンモニウムイオンを分離・濃縮して化学発光を測定することができる。従って、試料中に発光干渉物質が含まれている場合にも発光干渉物質の影響を受けることがなく、従来の化学発光分析法では定量不可能であった低濃度のアンモニウムイオンを定量することができる。
【0030】
上記課題を解決するための本発明に係るアンモニウムイオン分析装置の特徴構成は、
試料中のアンモニウムイオンを定量するアンモニウムイオン分析装置であって、
第一流路、及びガス透過性材料からなる隔壁を介して前記第一流路と隣接する第二流路を有する分離部と、
前記試料を強塩基性に調整して、前記第一流路に通流させる試料供給手段と、
酸性溶媒を前記第二流路に供給し、当該酸性溶媒を所定時間に亘って前記第二流路内に滞留させる酸性溶媒供給手段と、
前記第二流路において所定時間に亘って滞留した前記酸性溶媒と、次亜臭素酸イオンを含有する試薬とが導入される反応セルと、
前記反応セルにおける化学発光の強度を測定する測定手段と、
アンモニウムイオンの濃度と化学発光の強度との相関関係を示す検量線に基づいて、前記測定手段において測定した化学発光の強度からアンモニウムイオンを定量する定量手段と
を備えることにある。
【0031】
本構成のアンモニウムイオン分析装置によれば、第一流路、及びガス透過性材料からなる隔壁を介して第一流路と隣接する第二流路を有する分離部と、試料を強塩基性に調整して第一流路に通流させる試料供給手段と、酸性溶媒を第二流路に供給し、当該酸性溶媒を所定時間に亘って第二流路内に滞留させる酸性溶媒供給手段と、第二流路において所定時間に亘って滞留した酸性溶媒と次亜臭素酸イオンを含有する試薬とが導入される反応セルと、反応セルにおける化学発光の強度を測定する測定手段と、アンモニウムイオンの濃度と化学発光の強度との相関関係を示す検量線に基づいて、測定手段において測定した化学発光の強度からアンモニウムイオンを定量する定量手段とを備えることができる。これにより、強塩基性に調整された試料から遊離したアンモニアが隔壁を透過し、第二流路内に滞留する酸性溶媒に溶解するため、試料中のアンモニウムイオンを分離・濃縮して化学発光を測定することができる。従って、試料中に発光干渉物質が含まれている場合にも発光干渉物質の影響を受けることがなく、従来の化学発光分析法では定量不可能であった低濃度のアンモニウムイオンを定量することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】
図1は、アンモニア水溶液(100μM/L)、フミン酸水溶液(1ppm)、並びにアンモニア(100μM/L)及びフミン酸(1ppm)の混合溶液と、次亜臭素酸イオンとの反応により生じる化学発光の強度を示すグラフである。
【
図2】
図2は、フミン酸水溶液(1ppm)に、濃度が0~100μM/Lとなるようにアンモニアを添加したサンプルにおける化学発光の強度を示すグラフである。
【
図3】
図3は、アンモニア水溶液(100μM/L)に、濃度が0~1ppmとなるようにフミン酸を添加したサンプルにおける化学発光の強度を示すグラフである。
【
図4】
図4は、第一実施形態に係るアンモニウムイオン分析装置の構成図である。
【
図5】
図5は、第一定量手段において用いるアンモニウムイオンの検量線の一例である。
【
図6】
図6は、推定手段において用いるアンモニウムイオンの検量線の一例である。
【
図7】
図7は、第二定量手段において用いる発光干渉物質の検量線の一例である。
【
図8】
図8は、発光干渉物質を含有しない試料中のアンモニウムイオンを定量する変形例に係るアンモニウムイオン分析装置の構成図である。
【
図9】
図9は、アンモニウムイオンと発光干渉物質とを含有する試料中のアンモニウムイオンのみを定量し、試料中の発光干渉物質を定量しない変形例に係るアンモニウムイオン分析装置の構成図である。
【
図10】
図10は、第二実施形態に係るアンモニウムイオン分析装置の構成図である。
【
図11】
図11は、第二定量手段において用いるアンモニウムイオンの検量線の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明のアンモニウムイオン化学発光測定用増感剤、並びに、アンモニウムイオン分析方法、及びアンモニウムイオン分析装置について説明する。ただし、本発明は、以下の構成に限定されることを意図しない。
【0034】
<第一実施形態>
[アンモニウムイオン化学発光測定用増感剤]
本発明のアンモニウムイオン化学発光測定用増感剤を開発するに先立ち、アンモニウムイオンと次亜臭素酸イオンとの反応による化学発光の強度について、以下のような確認試験を行った。先ず、アンモニア水溶液(100μM/L)と次亜臭素酸との化学発光、フミン酸水溶液(1ppm)と次亜臭素酸との化学発光、並びにアンモニア(100μM/L)及びフミン酸(1ppm)の混合溶液(水溶液)と次亜臭素酸との化学発光について、夫々の化学発光の強度を測定した。その結果、
図1に示すように、混合溶液における化学発光の強度は、24.7(A.U.)であり、アンモニア水溶液(100μM/L)における化学発光の強度2.23(A.U.)と、フミン酸水溶液(1ppm)における化学発光の強度6.36(A.U.)との合計の約3倍まで大きくなった。この結果から、本発明者らは、フミン酸はアンモニウムイオンとの共存下で化学発光の強度を増幅するという、フミン酸の新たな属性を発見するに至った。アンモニウムイオンとフミン酸との共存下で化学発光の強度が増幅される詳細なメカニズムはまだ十分に解明されていないが、アンモニウムイオンとフミン酸とが共存することで、フミン酸の分子構造中の何かがハロゲンと反応し易くなり、より大きな化学発光が生じたものと考えられる。
【0035】
さらに、フミン酸水溶液(1ppm)に、濃度が0~100μM/Lとなるようにアンモニアを添加し、化学発光の強度を測定した。その結果、
図2に示すように、0~40μM/Lの範囲において、アンモニウムイオンの濃度に応じて化学発光の強度変化が大きくなることが確認された。
【0036】
本発明者らは、この新たなフミン酸の属性に基づいて、従来、化学発光が微弱なために検出が困難であった30μM/L以下の濃度範囲において、さらには6.1μM以下の濃度範囲において、アンモニウムイオンの化学発光を増幅させて測定するための用途に、フミン酸が適することを見い出した。本発明のアンモニウムイオン化学発光測定用増感剤は、フミン酸を含有するものであり、アンモニウムイオンを含有する液体に添加することで、30μM/L以下のアンモニウムイオンの濃度において、さらには6.1μM以下の濃度範囲において、アンモニウムイオンの化学発光を増幅させて測定するための用途に使用される。本発明のアンモニウムイオン化学発光測定用増感剤の添加量は、添加後にフミン酸の濃度が0.1~1ppmの範囲となるように調整されることが好ましい。
図3は、アンモニア水溶液(100μM/L)に、アンモニウムイオン化学発光測定用増感剤としてフミン酸を添加したサンプルにおける化学発光の強度を示すグラフである。
図3に示すように、アンモニア水溶液に本発明のアンモニウムイオン化学発光測定用増感剤を添加することによって、フミン酸の濃度が0.1~1ppmとなる範囲では、化学発光の強度が直線的に大きくなり、化学発光の強度の増幅効果が得られる。
【0037】
[アンモニウムイオン分析装置]
図4は、第一実施形態に係るアンモニウムイオン分析装置1の構成図である。アンモニウムイオン分析装置1(以下、単に「分析装置1」とする。)は、本発明のアンモニウムイオン化学発光測定用増感剤(以下、単に「増感剤」とする。)を用いて試料中のアンモニウムイオンを高感度に定量し、さらに、試料中の発光干渉物質を定量するものである。発光干渉物質とは、次亜臭素酸イオンとの反応により化学発光する物質であり、試料においてアンモニウムイオンと共存することで、アンモニウムイオンによる化学発光の強度の測定結果に影響を及ぼす物質である。このような発光干渉物質には、フミン酸、尿素等がある。
【0038】
分析装置1は、分離部101、酸性溶媒供給手段102、試料供給手段103、試薬供給手段104、第一反応セル105、第一測定手段106、第一定量手段107、添加手段108、第二反応セル109、第二測定手段110、推定手段111、算出手段112、及び第二定量手段113を備えている。
【0039】
分離部101は、第一流路11、ガス透過性材料からなる隔壁12、及び隔壁12を介して第一流路11と隣接する第二流路13を有する。分離部101は、例えば、外管をガラス管で形成し、内管をガス透過膜で形成した二重管構造管により構成することができる。分離部101では、第一流路11に増感剤を添加した酸性溶媒を通流させ、第二流路13に強塩基性に調整された試料を通流させると、第二流路13において試料から遊離したアンモニアが隔壁12を透過し、第一流路11に通流する酸性溶媒に溶解することになる。
【0040】
酸性溶媒供給手段102は、増感剤を添加した酸性溶媒を分離部101の第一流路11に通流させる手段であって、例えば、増感剤を添加した酸性溶媒を収容したタンク(不図示)と、配管となる樹脂チューブと、ダイヤフラムポンプ、チューブポンプ等のポンプP1とにより構成することができる。酸性溶媒としては、例えば、硫酸水溶液を用いることができる。酸性溶媒として硫酸水溶液を用いる場合、硫酸濃度は、1~500μM/Lであることが好ましい。硫酸濃度が1~500μM/Lの範囲であれば、第二流路13に通流する試料から遊離したアンモニアを効率よく溶解させることができる。硫酸濃度が1μM/L未満である場合、少量のアンモニアが溶解するだけでpHが上昇してしまい、アンモニウムイオンの分離効率が低下する虞がある。硫酸濃度が500μM/Lを超える場合、第一反応セル105内のpHが過剰に低くなり、第一反応セル105における化学発光の強度が小さくなる虞がある。増感剤に含有するフミン酸としては、例えば、富士フイルム和光純薬株式会社製のものを用いることができる。酸性溶媒における増感剤の添加量は、フミン酸の濃度が0.1~1ppmの範囲となるように調整されることが好ましい。フミン酸の濃度が0.1ppm未満である場合、化学発光の強度の増幅効果が十分に得られず、低濃度のアンモニウムイオンによる化学発光を検出できない虞がある。フミン酸の濃度が1ppmを超える場合、フミン酸の添加量が過剰となり、コストの低減という観点においてデメリットとなる虞がある。ポンプP1による送液量は、3~20mL/minであることが好ましく、4~16mL/minであることがより好ましい。ポンプP1による送液量が3~20mL/minの範囲であれば、第一反応セル105における化学発光の強度が大きくなり、アンモニウムイオンの検出限界濃度が十分に小さいものとなる。ポンプP1による送液量が3mL/min未満である場合、アンモニウムイオンと次亜臭素酸イオンとの反応による化学発光の発光時間は短いため、第一反応セル105へ酸性溶媒が流入する流速が小さくなることにより、第一反応セル105における化学発光の強度が小さくなる虞がある。ポンプP1による送液量が20mL/minを超える場合、第一反応セル105における化学発光の強度が頭打ちとなり、コスト及び排液量の低減という観点においてデメリットとなる虞がある。
【0041】
試料供給手段103は、試料を強塩基性に調整して、第二流路13に通流させる手段であって、例えば、試料を収容したタンク(不図示)と、強塩基性溶媒を収容したタンク(不図示)と、配管となる樹脂チューブと、試料を送液するポンプP2と、強塩基性溶媒を送液するポンプP3とにより構成することができる。配管は、第二流路13に接続する前に、試料を送液する流路と強塩基性溶媒を送液する流路とが接続している。これにより、第二流路13に流入する試料は、強塩基性に調整されたものとなる。試料供給手段103は、さらに、
図4に示すように、装置校正用の蒸留水等の水を第二流路13に通流させるために、水を収容したタンク(不図示)と、水を送液するポンプP4と、第二流路13に接続する流路を、試料を送液する流路及び水を送液する流路の何れかに切り替える六方バルブとを任意の構成として備える。分析装置1において分析する試料としては、河川、湖沼、海域等のアンモニウムイオンと発光干渉物質とを含有する自然水を用いることができる。強塩基性溶媒としては、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液を用いることができ、水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。強塩基性溶媒のpH、及び試料への強塩基性溶媒の添加量は、強塩基性溶媒が添加された後の試料のpHが12以上となるように調整されることが好ましい。試料のpHが12以上となることで、水中アンモニウムイオンはほぼ全てが遊離アンモニアとなるため、分離部101において効率よくアンモニアを分離することができる。試料のpHが12未満の場合、第二流路13における試料からのアンモニアの遊離が不十分となり、低濃度のアンモニウムイオンによる化学発光を検出できない虞がある。ポンプP2、P3による送液量は、1~5mL/minであることが好ましく、2~4mL/minであることがより好ましい。ポンプP2、P3による送液量が1~5mL/minの範囲であれば、第一反応セル105における化学発光の強度と、第二反応セル109における化学発光の強度との何れもが適度に大きくなり、アンモニウムイオン及び発光干渉物質の検出限界濃度が十分に小さいものとなる。ポンプP2、P3による送液量が1mL/min未満である場合、発光干渉物質と次亜臭素酸イオンとの反応による化学発光の発光時間は短いため、第二反応セル109へ試料が流入する流速が小さくなることにより、第二反応セル109における化学発光の強度が小さくなる虞がある。ポンプP2、P3による送液量が5mL/minを超える場合、分離部101において分離されるアンモニアの量が不足することにより、第二反応セル109における化学発光の強度が小さくなる虞がある。
【0042】
試薬供給手段104は、次亜臭素酸イオンを含有する試薬を、第一反応セル105及び第二反応セル109に導入する手段であって、例えば、試薬を収容したタンク(不図示)と、配管となる樹脂チューブと、試薬を送液するポンプP5とにより構成することができる。試薬としては、例えば、臭素濃度が0.2~0.3質量%となるように臭素水を強塩基性溶液で稀釈した次亜臭素酸溶液を用いることが好ましい。臭素濃度が0.2質量%未満である場合、第一反応セル105及び第二反応セル109に導入される次亜臭素酸イオンが不足し、十分な化学発光が生じない虞がある。臭素濃度が0.3質量%を超える場合、第一反応セル105及び第二反応セル109に導入される次亜臭素酸イオンが過剰な量となり、コストの低減という観点においてデメリットとなる虞がある。ポンプP5による送液量は、0.5~3mL/minであることが好ましく、0.5~2.5mL/minであることがより好ましい。ポンプP5による送液量が0.5~3mL/minの範囲であれば、第一反応セル105における化学発光の強度と、第二反応セル109における化学発光の強度との何れもが大きくなり、アンモニウムイオン及び発光干渉物質の検出限界濃度が十分に小さいものとなる。ポンプP5による送液量が0.5mL/min未満である場合、第一反応セル105及び第二反応セル109に流入する試薬の流量が安定しない虞がある。ポンプP5による送液量が3mL/minを超える場合、第一反応セル105及び第二反応セル109における化学発光の強度は、ポンプP5の送液量に大きな影響を受けることはないが、コスト及び排液量の低減という観点においてデメリットとなる虞がある。
【0043】
第一反応セル105は、第一流路11から流出した酸性溶媒と、次亜臭素酸イオンを含有する試薬とが導入されることで、アンモニウムイオンと次亜臭素酸イオンとの反応による化学発光が生じる反応セルである。第二反応セル109は、第二流路13から流出した試料と、次亜臭素酸イオンを含有する試薬とが導入されることで、発光干渉物質と次亜臭素酸イオンとの反応による化学発光が生じる反応セルである。第一反応セル105及び第二反応セル109は、例えば、渦巻状のガラス管により構成することができる。
【0044】
添加手段108は、第二流路13から流出した試料に、アンモニウムイオンを添加する手段であって、例えば、アンモニウムイオン含有溶液を収容したタンク(不図示)と、配管となる樹脂チューブと、アンモニウムイオン含有溶液を送液するポンプP6とにより構成することができる。アンモニウムイオン含有溶液としては、例えば、塩化アンモニウム水溶液を用いることができる。添加手段108の配管は、第二流路13から試料が流出する配管が第二反応セル109に接続する前に、第二流路13から試料が流出する配管に接続している。アンモニウムイオン含有溶液におけるアンモニウムイオンの濃度、及びポンプP6によるアンモニウムイオン含有溶液の送液量は、アンモニウムイオン含有溶液が添加された後の試料におけるアンモニウムイオンの濃度が、アンモニウムイオンと発光干渉物質との共存下で生じる化学発光の強度の増幅効果が頭打ちとなるアンモニウムイオンの濃度よりも高い濃度となるように調整されることが好ましい。「アンモニウムイオンと発光干渉物質との共存下で生じる化学発光の強度の増幅効果が頭打ちとなるアンモニウムイオンの濃度」は、発光干渉物質の濃度に応じて大きくなる。例えば、発光干渉物質であるフミン酸の濃度が1ppm以下であるとき、
図2に示すように、おおよそ60mM/Lを超えると、化学発光の強度の増幅効果が頭打ちとなる。添加手段108によるアンモニウムイオンの添加により、第二反応セル109には、アンモニウムイオンと発光干渉物質との共存下で生じる化学発光の強度の増幅効果が頭打ちとなるアンモニウムイオンの濃度よりも高い濃度でアンモニウムイオンを含有した試料が導入される。この試料が導入された第二反応セル109では、分離部101において分離せず第二流路13から流出した試料に残存していた微量なアンモニウムイオンによって化学発光の強度が増幅されることはない。この結果、第二反応セル109における化学発光は、第二反応セル109に導入される試料と同濃度のアンモニウムイオンを単独で次亜臭素酸イオンと反応させた場合の化学発光の強度と、第二反応セル109に導入される試料と同濃度の発光干渉物質を単独で次亜臭素酸イオンと反応させた場合の化学発光の強度との単純な合計となる。そのため、後述する推定手段111及び算出手段112における処理によって、第二反応セル109における化学発光の強度からアンモニウムイオンを単独で次亜臭素酸イオンと反応させた場合の化学発光の強度を差し引くことで、発光干渉物質を単独で次亜臭素酸イオンと反応させた場合の化学発光の強度を算出することができる。
【0045】
第一測定手段106は、第一反応セル105における化学発光の強度を測定する手段であり、第二測定手段110は、第二反応セル109における化学発光の強度を測定する手段である。第一測定手段106、及び第二反応セル109としては、例えば、浜松ホトニクス株式会社製の光電子増倍管(製品名:R374)を用いることができる。第一測定手段106、及び第二反応セル109は、光電子増倍管により検出した発光強度を適宜増幅する増幅器を含むよう構成してもよい。第一測定手段106、及び第二反応セル109は、化学発光のピーク波長近傍の光のみを透過させる分光フィルタ等を介して、光電子増倍管に受光させるよう構成してもよい。
【0046】
第一定量手段107、推定手段111、算出手段112、及び第二定量手段113は、例えば、コンピュータ等において、メモリに記録されているプログラムをCPUが読み出して実行することで、それらの機能が実現されるよう構成することができる。
【0047】
第一定量手段107は、検量線に基づいて、第一測定手段106において測定した化学発光の強度から、試料中のアンモニウムイオンを定量する手段である。第一定量手段107において用いる検量線は、既知濃度のアンモニウムイオンを含有する標準試料を測定対象として、第一反応セル105において生じる化学発光の強度を測定することにより、予め作成されたものであり、コンピュータ等のストレージ(不図示)に記録されている。
図5は、第一定量手段107において用いるアンモニウムイオンの検量線の一例である。
図5に示す検量線は、アンモニウムイオンを含有し、発光干渉物質であるフミン酸を含有しない標準試料を用いて作成することにより、アンモニウムイオンの濃度と第一反応セル105において生じる化学発光の強度との相関関係を示すものとなっている。第一測定手段106における測定結果は、検量線により示されるように、アンモニウムイオンの濃度が0~100μM/Lの範囲で高い相関性(直線性)がある。標準試料を用いた測定において、第一測定手段106によるアンモニウムイオンの検出限界濃度は、0.41μM/L(アンモニア態窒素として5.74μg/L)であった。この検出限界濃度は、イオンクロマトグラフィーでの測定と同程度の精度であり、湖沼での全窒素の環境基準(水道1、2、3級:0.2mg/L)よりも十分に小さい。
【0048】
推定手段111は、検量線に基づいて、第一測定手段106において定量したアンモニウムイオンの濃度から、第二反応セル109において生じる化学発光中でアンモニウムイオンによる化学発光の強度を推定する手段である。推定手段111において用いる検量線は、既知濃度のアンモニウムイオンを含有し、発光干渉物質を含有しない標準試料を測定対象として、第二反応セル109において生じる化学発光の強度を測定することにより、予め作成されたものであり、コンピュータ等のストレージ(不図示)に記録されている。
図6は、推定手段111において用いるアンモニウムイオンの検量線の一例である。
図6に示す検量線は、アンモニウムイオンを含有し、発光干渉物質であるフミン酸を含有しない標準試料を用いて作成することにより、試料中のアンモニウムイオンの濃度と第二反応セル109において生じる化学発光の強度との相関関係を示すものとなっている。そのため、推定手段111により推定される化学発光の強度は、第二反応セル109に導入される試料と同濃度のアンモニウムイオンを単独で次亜臭素酸イオンと反応させた場合の化学発光の強度となる。
【0049】
算出手段112は、第二測定手段110により測定した化学発光の強度から推定手段111により推定した化学発光の強度を減算する手段である。第二反応セル109には、アンモニウムイオンと発光干渉物質との共存下で生じる化学発光の強度の増幅効果が頭打ちとなるアンモニウムイオンの濃度よりも高い濃度でアンモニウムイオンを含有した試料が導入されるため、第二測定手段110により測定した化学発光の強度は、第二反応セル109に導入される試料と同濃度のアンモニウムイオンを単独で次亜臭素酸イオンと反応させた場合の化学発光の強度と、第二反応セル109に導入される試料と同濃度の発光干渉物質を単独で次亜臭素酸イオンと反応させた場合の化学発光の強度との合計と同じ強度になっている。そのため、算出手段112における減算により、アンモニウムイオンによる干渉の影響を除去して、発光干渉物質による化学発光の強度を算出することができる。
【0050】
第二定量手段113は、検量線に基づいて、算出手段112において算出した発光干渉物質による化学発光の強度から、試料中の発光干渉物質を定量する手段である。第二定量手段113において用いる検量線は、既知濃度の発光干渉物質を含有し、アンモニウムイオンを含有しない標準試料を測定対象として、第二反応セル109において生じる化学発光の強度を測定することにより、予め作成されたものであり、コンピュータ等のストレージ(不図示)に記録されている。
図7は、第二定量手段113において用いる発光干渉物質の検量線の一例である。
図7に示す検量線は、発光干渉物質であるフミン酸を含有し、アンモニウムイオンを含有しない標準試料を用いて作成することにより、発光干渉物質の濃度と第二反応セル109において生じる化学発光の強度との相関関係を示すものとなっている。第二測定手段110における測定結果は、検量線により示されるように、発光干渉物質であるフミン酸の濃度が0~1ppmの範囲で高い相関性(直線性)がある。標準試料を用いた測定において、第二測定手段110によるフミン酸の検出限界濃度は、1.1ppbであった。この検出限界濃度は、従来の化学発光分析法によるフミン酸の検出限界濃度の1/10以下の小さい値である。
【0051】
以上のように、第一実施形態に係る分析装置1では、本発明のアンモニウムイオン化学発光測定用増感剤を利用することにより、従来では化学発光が微弱なために検出が困難であった30μM/L以下の濃度範囲、さらには6.1μM以下の濃度範囲において、試料中のアンモニウムイオンを高感度に定量することができる。分析装置1によるアンモニウムイオンの検出限界濃度は、0.41μM/L(アンモニア態窒素として5.74μg/L)であり、湖沼での全窒素の環境基準(水道1、2、3級:0.2mg/L)よりも十分に小さい。さらに、分析装置1では、高濃度のアンモニウムイオンを添加することにより、アンモニウムイオンによる化学発光と発光干渉物質による化学発光との増幅効果を抑制しながら、定量した試料中のアンモニウムイオンの濃度を参照してアンモニウムイオンによる化学発光の強度を推定することにより、アンモニウムイオンとの干渉の影響を除去して発光干渉物質を定量することができる。このように、分析装置1は、アンモニウムイオンと発光干渉物質とを同時に高精度に定量することが可能であることから、アンモニウムイオンと発光干渉物質とを含有する試料、例えば、河川、湖沼、海域等の自然水のモニタリングに使用することができる。
【0052】
[アンモニウムイオン分析方法]
第一実施形態に係るアンモニウムイオン分析方法は、本発明のアンモニウムイオン化学発光測定用増感剤を用いて、アンモニウムイオンを高感度に定量するものである。このアンモニウムイオン分析方法(以下、単に「分析方法」とする。)は、アンモニウムイオンと増感剤としてフミン酸とを含有する測定液を調製する調製工程と、測定液と次亜臭素酸イオンを含む試薬とを反応セルに導入し、反応セルにおける化学発光の強度を測定する測定工程と、検量線に基づいて、測定した化学発光の強度からアンモニウムイオンを定量する定量工程とを包含するものである。これらの各工程は、分析装置1を用いて実施することができる。
【0053】
分析装置1を用いる場合、調製工程、測定工程、及び定量工程は、夫々、上述した分離部101、第一測定手段106、及び第一定量手段107の動作により実施される。例えば、調製工程は、分析装置1を用いる場合、分離部101の第一流路11に増感剤が添加された酸性溶媒を通流させ、第二流路13に強塩基性に調整した試料を通流させることで実施され、試料から遊離したアンモニアが第一流路11において酸性溶媒に溶解したものが測定液となる。分析装置1とは異なる構成の装置において調製工程を実施する場合、例えば、強塩基性に調整された試料から遊離したアンモニアを酸性溶媒に溶解させ、その後に増感剤を添加することで測定液を調製することも可能である。また、試料がアンモニウムイオンを含有し発光干渉物質を含有しない場合には、分離部101によるアンモニウムイオンの遊離は必要がないため、例えば、
図8に示すアンモニウムイオン分析装置1Aを用いて、試料に増感剤を直接添加することにより、測定液を調製することも可能である。
【0054】
第一実施形態に係る分析方法は、さらに、試料中の発光干渉物質を定量するために任意に実施する工程として、溶解工程の実施によりアンモニアが遊離した後の試料に、アンモニウムイオンと発光干渉物質との共存下で生じる化学発光の強度の増幅効果が頭打ちとなる濃度よりも高い濃度でアンモニウムイオンを添加することにより発光干渉物質測定液を調製する追加調製工程と、発光干渉物質測定液と試薬とを発光干渉物質測定用反応セルに導入し、発光干渉物質測定用反応セルにおける化学発光の強度を測定する発光干渉物質測定工程と、検量線に基づいて、定量工程において定量したアンモニウムイオンの濃度から化学発光の強度を推定する推定工程と、発光干渉物質測定工程において測定した化学発光の強度から推定工程において推定した化学発光の強度を減算することにより、干渉の影響を除去した化学発光の強度を算出する算出工程と、検量線に基づいて、算出工程において算出した干渉の影響を除去した化学発光の強度から発光干渉物質を定量する発光干渉物質定量工程とを包含するものである。分析装置1を用いて実施する場合、第二反応セル109が発光干渉物質測定用反応セルとなり、追加調製工程、発光干渉物質測定工程、推定工程、算出工程、及び発光干渉物質定量工程は、夫々、添加手段108、第二測定手段110、推定手段111、算出手段112、及び第二定量手段113の動作により実施される。なお、アンモニウムイオンと発光干渉物質とを含有する試料中のアンモニウムイオンのみを測定し、試料中の発光干渉物質を定量しない場合には、添加手段108、第二反応セル109、第二測定手段110、推定手段111、算出手段112、及び第二定量手段113は必要がないため、例えば、
図9に示す簡略な装置構成のアンモニウムイオン分析装置1Bを用いて、アンモニウムイオン分析方法を実施することができる。
【0055】
<第二実施形態>
[アンモニウムイオン分析装置]
第一実施形態では、アンモニウムイオン化学発光測定用増感剤を用いてアンモニウムイオンを高感度に定量したが、第二実施形態は、試料中のアンモニウムイオンを分離部において分離する際に、濃縮することによって、アンモニウムイオンを高感度に定量するものである。
図10は、第二実施形態に係るアンモニウムイオン分析装置2の構成図である。アンモニウムイオン分析装置2(以下、単に「分析装置2」とする。)は、分離部201、試料供給手段202、酸性溶媒供給手段203、試薬供給手段204、反応セル205、測定手段206、及び定量手段207を備えている。分離部201、反応セル205、測定手段206については、分析装置1の分離部101、第一反応セル105、第一測定手段106と同様の構成であるため説明を省略し、以下では、分析装置1と構成が相違する試料供給手段202、酸性溶媒供給手段203、試薬供給手段204、及び定量手段207について説明する。
【0056】
試料供給手段202は、試料を強塩基性に調整して、第一流路11に通流させる手段であって、例えば、試料を収容したタンク(不図示)と、強塩基性溶媒を収容したタンク(不図示)と、配管となる樹脂チューブと、試料を送液するポンプP11と、強塩基性溶媒を送液するポンプP12とにより構成することができる。配管は、第一流路11に接続する前に、試料を送液する流路と強塩基性溶媒を送液する流路とが接続している。これにより、第一流路11に流入する試料は、強塩基性に調整されたものとなる。試料としては、河川、湖沼、海域等のアンモニウムイオンと発光干渉物質とを含有する自然水を用いることができる。強塩基性溶媒としては、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液を用いることができ、水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。強塩基性溶媒のpH、及び試料への強塩基性溶媒の添加量は、強塩基性溶媒が添加された後の試料のpHが12以上となるように調整されることが好ましい。試料のpHが12以上となることで、水中アンモニウムイオンはほぼ全てが遊離アンモニアとなるため、分離部201において効率よくアンモニアを分離することができる。試料のpHが12未満の場合、第一流路11における試料からのアンモニアの遊離が不十分となり、低濃度のアンモニウムイオンによる化学発光を検出できない虞がある。ポンプP11による送液量は、1~2.5mL/minであることが好ましい。ポンプP11による送液量が1~2.5mL/minの範囲であれば、反応セル205における化学発光の強度が大きくなり、アンモニウムイオンの検出限界濃度が十分に小さいものとなる。ポンプP11による送液量が1mL/min未満である場合、分離部201における試料の流量が小さくなり、ここで分離されるアンモニアの量が不足することにより、反応セル205における化学発光の強度が小さくなる虞がある。ポンプP11による送液量が2.5mL/minを超える場合、試料が第一流路11内に滞在する時間が短すぎるため、分離部201においてアンモニウムイオンを十分に分離することができず、反応セル205における化学発光の強度が小さくなる虞がある。
【0057】
酸性溶媒供給手段203は、酸性溶媒を分離部201の第二流路13に通流させる手段であるが、第一実施形態に係る分析装置1の酸性溶媒供給手段102と比較して、第二流路13に供給した酸性溶媒を、所定時間に亘って第二流路13内に滞留させる点で相違する。酸性溶媒供給手段203は、例えば、酸性溶媒を収容したタンク(不図示)と、配管となる樹脂チューブと、ポンプP13と、分離部201の上流側及び下流側に設けられた二つの三方バルブとにより構成することができる。分離部201の上流側及び下流側に設けられた二つの三方バルブは、夫々が経路Aを開き、経路Bを閉じることで酸性溶媒を分離部201の第二流路13を通って反応セル205に流入させる第一期間と、夫々が経路Bを開き、経路Aを閉じることで酸性溶媒を分離部201を迂回させて反応セル205に流入させる第二期間とを交互に繰り返す。この動作により、第二期間において、第二流路13に酸性溶媒が滞留することになり、この期間に第一流路11を通流する試料から遊離したアンモニアが隔壁12を透過し、第二流路13に滞留する酸性溶媒に溶解することで、試料中のアンモニウムイオンが濃縮されることになる。こうしてアンモニウムイオンが濃縮された第二流路13内の酸性溶媒は、その後、第一期間において反応セル205へ導入される。この結果、試料中のアンモニウムイオンの濃度が極めて小さくとも、反応セル205では、酸性溶媒中の濃縮されたアンモニウムイオンによる化学発光を測定することになるため、容易に発光強度を測定することができる。第二流路13内に酸性溶媒を滞留させる第二期間、即ち濃縮時間は、1~10分であることが好ましい。濃縮時間が1~10分の範囲であれば、試料中のアンモニウムイオンが酸性溶媒に適切に濃縮されるため、アンモニウムイオンの検出限界濃度が十分に小さいものとなる。濃縮時間が1分未満である場合、アンモニウムイオンを十分に濃縮することができず、反応セル205における化学発光の強度が小さくなる虞がある。濃縮時間が10分を超える場合、測定に係る時間が長くなり、連続測定の利便性を損なう虞がある。酸性溶媒としては、例えば、硫酸水溶液を用いることができる。酸性溶媒として硫酸水溶液を用いる場合、硫酸濃度は、0.001~100mM/Lであることが好ましい。硫酸濃度が0.001~100mM/Lの範囲であれば、第二流路13に通流する試料から遊離したアンモニアを効率よく溶解させることができる。硫酸濃度が0.001mM/L未満である場合、少量のアンモニアが溶解するだけでpHが上昇してしまい、アンモニウムイオンの分離効率が低下する虞がある。硫酸濃度が100mM/Lを超える場合、反応セル205内のpHが過剰に低くなり、反応セル205における化学発光の強度が小さくなる虞がある。ポンプP13による送液量は、10~15mL/minであることが好ましく、11~13mL/minであることがより好ましい。ポンプP13による送液量が10~15mL/minの範囲であれば、反応セル205における化学発光の強度が大きくなり、アンモニウムイオンの検出限界濃度が十分に小さいものとなる。ポンプP13による送液量が10mL/min未満である場合、アンモニウムイオンと次亜臭素酸イオンとの反応による化学発光の発光時間は短いため、反応セル205へ酸性溶媒が流入する流速が小さくなることにより、反応セル205における化学発光の強度が小さくなる虞がある。ポンプP13による送液量が15mL/minを超える場合、反応セル205における化学発光の強度が頭打ちとなり、コスト及び排液量の低減という観点においてデメリットとなる虞がある。
【0058】
試薬供給手段204は、第一実施形態に係る分析装置1の試薬供給手段104と同様に、次亜臭素酸イオンを含有する試薬を、反応セル205に導入する手段であって、例えば、試薬を収容したタンク(不図示)と、配管となる樹脂チューブと、試薬を送液するポンプP14とにより構成することができる。ポンプP14による送液量は、ポンプP13による送液量と同程度とすることが好ましい。
【0059】
定量手段207は、例えば、コンピュータ等において、メモリに記録されているプログラムをCPUが読み出して実行することで、それらの機能が実現されるよう構成することができる。定量手段207は、検量線に基づいて、測定手段206において測定した化学発光の強度から、試料中のアンモニウムイオンを定量する手段である。定量手段207において用いる検量線は、既知濃度のアンモニウムイオンを含有する標準試料を測定対象として、反応セル205において生じる化学発光の強度を測定することにより、予め作成されたものであり、コンピュータ等のストレージ(不図示)に記録されている。
図11は、定量手段207において用いるアンモニウムイオンの検量線の一例である。
図11に示す検量線は、アンモニウムイオンを含有し、発光干渉物質であるフミン酸を含有しない標準試料を用いて作成することにより、アンモニウムイオンの濃度と反応セル205において生じる化学発光の強度との相関関係を示すものとなっている。測定手段206における測定結果は、検量線により示されるように、アンモニウムイオンの濃度が0~600μM/Lの範囲で高い相関性(直線性)がある。標準試料を用いた測定において、測定手段206によるアンモニウムイオンの検出限界濃度は、2.74μM/L(アンモニア態窒素として38.36μg/L)であった。この検出限界濃度は、湖沼での全窒素の環境基準(水道1、2、3級:0.2mg/L)よりも十分に小さい値である。
【0060】
以上のように、第二実施形態に係る分析装置2では、分離部201において酸性溶媒を一定時間滞留させることで、試料中のアンモニウムイオンを酸性溶媒中に分離・濃縮して化学発光を測定することができる。そのため、試料中に発光干渉物質が含まれている場合にも発光干渉物質の影響を受けることがなく、従来では化学発光が微弱なために検出が困難であった30μM/L以下の濃度範囲、さらには6.1μM以下の濃度範囲において、低濃度のアンモニウムイオンを定量することができる。
【0061】
[アンモニウムイオン分析方法]
第二実施形態に係るアンモニウムイオン分析方法は、試料を強塩基性に調整して、第一流路に通流させる試料供給工程と、ガス透過性材料からなる隔壁を介して第一流路と隣接する第二流路に酸性溶媒を供給し、当該酸性溶媒を所定時間に亘って前記第二流路内に滞留させる酸性溶媒供給工程と、第二流路において所定時間に亘って滞留した前記酸性溶媒と次亜臭素酸イオンを含有する試薬とを反応セルに導入し、反応セルにおける化学発光の強度を測定する測定工程と、検量線に基づいて、測定工程において測定した化学発光の強度からアンモニウムイオンを定量する定量工程とを包含するものである。これらの各工程は、分析装置2を用いて実施することができる。
【0062】
分析装置2を用いる場合、試料供給工程、酸性溶媒供給工程、測定工程、及び定量工程の各工程は、夫々、上述した試料供給手段202、酸性溶媒供給手段203、測定手段206、及び定量手段207の動作により実施される。
【実施例0063】
<実施例1>
河川、及び湖沼の自然水、並びに水道水を試料として採取し、試料中のアンモニウムイオン及びフミン酸の濃度を、本発明のアンモニウムイオン分析装置を用いて測定した。また、比較のために、試料中のアンモニウムイオンの濃度をイオンクロマトグラフィーにより測定し、フミン酸の濃度をNBS-CL法により測定した。
【0064】
本発明のアンモニウムイオン分析装置として
図4に示す分析装置1を用いた。分析装置1では、ポンプP1の送液量は16mL/minに設定し、ポンプP1により送液する酸性溶媒として、500μM/Lの硫酸水溶液にフミン酸の濃度が1ppmとなるように増感剤を添加したものを用いた。ポンプP2、P3、P4、P6の送液量は3mL/minに設定した。ポンプP4により送液する強塩基性溶媒として、0.1M/Lの水酸化ナトリウム水溶液を用いた。ポンプP6により送液するアンモニウムイオン含有溶液として、200μM/Lの塩化アンモニウム水溶液を用いた。ポンプP5の送液量は2mL/minに設定し、ポンプP5により送液する試薬として、臭素水を水酸化ナトリウム水溶液で希釈し、臭素の濃度を0.2~0.3質量%、水酸化ナトリウムの濃度を1M/Lに調製したものを用いた。測定結果を、表1に示す。
【0065】
【0066】
分析装置1を用いたアンモニウムイオンの定量では、自然水の試料2、3でのみアンモニウムイオンが検出された。自然水の試料2でのアンモニウムイオンの濃度は、分析装置1を用いた測定において29.06μM/Lであり、イオンクロマトグラフィーによる測定値28.74μM/Lと極めて近い値となった。自然水の試料3でのアンモニウムイオンの濃度は、分析装置1を用いた測定において15.80μM/Lであった。一方、イオンクロマトグラフィーによる測定では、自然水の試料3中のアンモニウムイオンを検出できなかった。自然水の試料3中のアンモニウムイオンをイオンクロマトグラフィーによって検出できなかったのは、自然水の試料3はナトリウムイオンを多く含んでおり、イオンクロマトグラフィーにおいてアンモニウムイオンのピークとナトリウムイオンのピークとが重なったためである。これに対して、分析装置1では、分離部101において試料中のアンモニウムイオンを硫酸水溶液中に分離し、硫酸水溶液においてアンモニウムイオンの化学発光を測定するため、試料中のナトリウムイオンによって化学発光の測定に干渉を受けなかったと考えられる。
【0067】
本実施例では、全ての試料からフミン酸が検出された。分析装置1を用いたフミン酸の濃度の測定値と、NBS-CL法によるフミン酸の濃度の測定値とは、多少のばらつきが見られたが、十分に大きな相関を有するものであった。分析装置1を用いたフミン酸の濃度の測定値とNBS-CL法によるフミン酸の濃度の測定値との相関に、ややばらつきが見られたのは、フミン酸において、分析装置1により測定される化学発光が生じる構造単位と、NBS-CL法により測定される化学発光が生じる構造単位とが異なるためであると考えられる。
【0068】
以上より、本発明の分析装置1によれば、従来では化学発光が微弱なために検出が困難であった30μM/L以下の低濃度のアンモニウムイオンを、イオンクロマトグラフィーによる測定と同程度の精度で定量でき、同時に、NBS-CL法と同程度の精度でフミン酸も定量できることが確認された。特に、一般的に自然水にはナトリウムイオンが含有されていることが多いが、本発明の分析装置1によれば、ナトリウムイオンによって干渉を受けることがないため、イオンクロマトグラフィーと比較して、ナトリウムイオンの除去操作が必要のないより簡便な測定が可能であると考えられる。
【0069】
<実施例2>
本発明のアンモニウムイオン分析装置を野外水路に設置し、水路に流れる水を試料として流速2mL/minでアンモニウムイオン分析装置に絶えず流し続け、試料中のアンモニウムイオンの濃度を連続して測定した。また、比較のために、野外水路から1時間毎に試料を採取し、試料中のアンモニウムイオンの濃度をイオンクロマトグラフィーにより測定した。
【0070】
本発明のアンモニウムイオン分析装置として
図10に示す分析装置2を用いた。分析装置2では、ポンプP11、P12の送液量は2mL/minに設定した。ポンプP12により送液する強塩基性溶媒として、1M/Lの水酸化ナトリウム水溶液を用いた。ポンプP13、P14の送液量は12mL/minに設定した。ポンプP13により送液する酸性溶媒として、10mM/Lの硫酸水溶液を用いた。ポンプP14により送液する試薬として、臭素水を水酸化ナトリウム水溶液で希釈し、臭素の濃度を0.2~0.3質量%、水酸化ナトリウムの濃度を1M/Lに調製したものを用いた。1時間毎の測定結果を、表2に示す。
【0071】
【0072】
測定の結果、時間経過に伴うアンモニウムイオンの濃度の増減が見られた。分析装置2を用いたアンモニウムイオンの濃度の測定値と、イオンクロマトグラフィーによるアンモニウムイオンの濃度の測定値とは、時間経過に伴う増減パターンが類似しており、十分に大きな相関を有するものであった。
【0073】
以上より、本発明の分析装置2によれば、イオンクロマトグラフィーによる測定と同程度の精度で、アンモニウムイオンを定量できることが確認された。なお、アンモニウムイオンの濃度の増減は、風によって水路に流れる水が撹拌されることにより水路中の汚泥等からのアンモニアの溶出量が増減したり、微生物の活動による影響を受けたりしたためと考えられる。また、測定開始から8時間経過後における分析装置2を用いたアンモニウムイオンの濃度の測定値は、18.72μM/Lであった。このことから、本発明の分析装置2によれば、従来では化学発光が微弱なために検出が困難であった30μM/L以下の低濃度のアンモニウムイオンを定量できることが確認された。
本発明のアンモニウムイオン化学発光測定用増感剤、並びに、アンモニウム分析方法、及びアンモニウム分析装置は、水中のアンモニウムイオンの定量に利用することができ、特に、アンモニウムイオンと発光干渉物質であるフミン酸とが共存する河川、湖沼、海域等の自然水において、アンモニア態窒素量を測定するモニタリングへの利用に適する。