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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020710
(43)【公開日】2024-02-15
(54)【発明の名称】永久磁石及びデバイス
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/055 20060101AFI20240207BHJP
   C22C 19/07 20060101ALI20240207BHJP
   C22C 30/02 20060101ALI20240207BHJP
   B22F 3/00 20210101ALN20240207BHJP
   C22C 1/04 20230101ALN20240207BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20240207BHJP
   C22F 1/10 20060101ALN20240207BHJP
【FI】
H01F1/055 170
C22C19/07 E
C22C30/02
B22F3/00 F
C22C1/04 M
C22F1/00 605
C22F1/00 621
C22F1/00 628
C22F1/00 660D
C22F1/00 687
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 691Z
C22F1/00 692A
C22F1/00 692B
C22F1/10 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123094
(22)【出願日】2022-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】000134257
【氏名又は名称】株式会社トーキン
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】竹澤 昌晃
(72)【発明者】
【氏名】町田 浩明
(72)【発明者】
【氏名】藤原 照彦
(72)【発明者】
【氏名】幕田 裕和
【テーマコード(参考)】
4K018
5E040
【Fターム(参考)】
4K018AA11
4K018BA05
4K018BD01
4K018CA02
4K018CA04
4K018CA11
4K018DA21
4K018DA22
4K018DA28
4K018DA29
4K018DA32
4K018DA33
4K018FA08
4K018KA45
5E040AA06
5E040BD01
5E040CA01
5E040NN01
(57)【要約】
【課題】磁気特性の優れた永久磁石、及び、当該永久磁石を備えるデバイスを提供すること。
【解決手段】R:23~27wt%(ただし、Rは少なくともSmを含む希土類元素の合計)、Fe:22~27wt%、Mn:0.3~2.5wt%、Cu:4.0~5.0wt%を含み、残部がCo及び不可避不純物からなる組成を有する焼結体であって、
複数の結晶粒と粒界相とを有し、前記粒界相におけるCuの濃度が45at%以上である、永久磁石である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
R:23~27wt%(ただし、Rは少なくともSmを含む希土類元素の合計)、Fe:22~27wt%、Mn:0.3~2.5wt%、Cu:4.0~5.0wt%を含み、残部がCo及び不可避不純物からなる組成を有する焼結体であって、
複数の結晶粒と粒界相とを有し、前記粒界相の少なくとも一部におけるCuの濃度が45at%以上である、永久磁石。
【請求項2】
更に、Zr:1.7~2.5wt%を含む、請求項1に記載の永久磁石。
【請求項3】
前記結晶粒は、ThZn17型構造の相と、RCo型構造の相とを有する、請求項1に記載の永久磁石。
【請求項4】
前記結晶粒の平均粒径(A.G.)が100μm以上である、請求項1に記載の永久磁石。
【請求項5】
前記結晶粒の粒径の変動係数(C.V.)が0.60以下である、請求項4に記載の永久磁石。
【請求項6】
前記粒界相の厚さtが、5~200nmである、請求項1に記載の永久磁石。
【請求項7】
前記永久磁石において、逆磁界を印可した際、少なくとも一部の結晶粒において、当該結晶粒の内部で逆磁区が発生し、当該逆磁区が当該結晶粒内全体に伝搬する、請求項1に記載の永久磁石。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の永久磁石を有する、デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は永久磁石及びデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
永久磁石の一つとしてサマリウムコバルト磁石等の希土類コバルト永久磁石が知られている。希土類コバルト永久磁石は、磁気特性向上など、種々の観点から、例えばFe、Cu、Zr等を添加したものが検討されている。
【0003】
例えば特許文献1には、希土類元素、Fe、Cu、Co、Zr、Ti、Hfを特定量有し、ThZn17型結晶相を含む主相からなる結晶粒と、前記結晶粒の結晶粒界とを有する組織とを備え、前記結晶粒の平均粒径が50~100μmの永久磁石が開示されている。
【0004】
特許文献2には、希土類元素、Fe、Cu、Co、Zr、Ti、Hfを特定量有し、ThZn17型結晶相を有するセル相と、前記セル相よりもCu濃度が高いCuリッチ相とを含み、前記セル相の平均径が220nm以下である、特定の永久磁石が開示されている。
【0005】
また特許文献3には、希土類元素R、Fe、Cu、Co、Zrを特定量有し、ThZn17型結晶相を有するセル相と、前記セル相を囲むRCo型構造の結晶相を含むセル壁を備え、前記セル壁における希土類元素の濃度が前記セル相における希土類元素の濃度よりも25at%以上高い希土類コバルト永久磁石が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-168827号公報
【特許文献2】国際公開第2015/140829号
【特許文献3】特開2020-188140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、磁気特性、特に保磁力及び角形性に優れた永久磁石、及び、当該永久磁石を備えるデバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る永久磁石は、R:23~27wt%(ただし、Rは少なくともSmを含む希土類元素の合計)、Fe:22~27wt%、Mn:0.3~2.5wt%、Cu:4.0~5.0wt%を含み、残部がCo及び不可避不純物からなる組成を有する焼結体であって、複数の結晶粒と粒界相とを有し、前記粒界相の少なくとも一部におけるCuの濃度が45at%以上である、永久磁石。
【0009】
上記永久磁石は、Zr:1.7~2.5wt%を含んでいてもよい。
【0010】
上記いずれかの永久磁石は、前記結晶粒が、ThZn17型構造の相と、RCo型構造の相とを有してもよい。
【0011】
上記いずれかの永久磁石は、前記結晶粒の平均粒径(A.G.)が100μm以上であってもよい。
【0012】
上記いずれかの永久磁石は、前記結晶粒の粒径の変動係数(C.V.)が0.60以下であってもよい。
【0013】
上記いずれかの永久磁石は、前記粒界相の厚さtが、5~200nmである、であってもよい。
【0014】
上記いずれかの永久磁石は、逆磁界を印可した際、少なくとも一部の結晶粒において、当該結晶粒の内部で逆磁区が発生し、当該逆磁区が当該結晶粒内全体に伝搬するものであってもよい。
【0015】
本発明に係るデバイスは、上記いずれかの永久磁石を有する。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、磁気特性、特に保磁力及び角形性に優れた永久磁石、及び、当該永久磁石を備えるデバイスを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態に係る永久磁石の断面の一例を示す模式図である。
図2図1のA部(結晶粒の一部)を拡大して示す模式図である。
図3】角形比などの物理量を説明するための永久磁石の模式的なヒステリシス曲線である。
図4】一般的な永久磁石中の逆磁区の発生及び伝播の課程を説明するための模式図である。
図5】本実施形態の永久磁石中の逆磁区の発生及び伝播の課程を説明するための模式図である。
図6】本実施形態の永久磁石の製造方法を説明するための模式図である。
図7】実施例2の永久磁石の粒界相の組成を示すグラフである。
図8】比較例5の永久磁石の粒界相の組成を示すグラフである。
図9】実施例1の永久磁石の減衰曲線と逆磁区伝搬の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る永久磁石及びデバイスについて説明する。
なお、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。また、説明のため図面中の各部材は縮尺が大きく異なることがある。
また、数値範囲を示す「~」は特に断りがない限り、その下限値及び上限値を含むものとする。
【0019】
[永久磁石]
本発明に係る永久磁石(以下、本永久磁石ともいう)は、R:23~27wt%(ただし、Rは少なくともSmを含む希土類元素の合計)、Fe:22~27wt%、Mn:0.3~2.5wt%、Cu:4.0~5.0wt%を含み、残部がCo及び不可避不純物からなる組成を有する焼結体であって、複数の結晶粒と粒界相とを有し、前記粒界相の少なくとも一部におけるCuの濃度が45at%以上である。
【0020】
図1及び図2を参照して本実施形態に係る永久磁石の金属組織の構造について説明する。図1は本永久磁石の断面の一例を示す模式図であり、図2図1のA部(結晶粒10の一部)を拡大して示す模式図である。図1の例に示されるように、本永久磁石100は複数の結晶粒10と、結晶粒10間に存在する粒界相20を有する。また図2の例に示されるように結晶粒10は、ThZn17型構造の相11(以下、2-17相ということがある)と、RCo型構造の相12(以下、1-5相ということがある)とを有し、2-17相が主相(体積比率が50%以上)である構造を有する。なお、結晶粒10は更にTbCu型構造の結晶相(以下、1-7相ということがある)を有していてもよい(不図示)。
ThZn17型構造の相11はR-3m型の空間群を有する結晶構造であり、本永久磁石においては、通常、Th部位を希土類元素及びZrが占め、Zn部位にCo、Cu、Fe、及びZrが占めている。また、RCo型構造の相12は、通常、R部位を希土類元素及びZrが占め、Co部位にCo、Cu、Feが占めている。また、TbCu型構造の結晶相は、通常、Tb部位を希土類元素及びZrが占め、Cu部位にCo、Cu、Feが占めている。結晶構造はX線回折法により決定できる。
【0021】
本永久磁石はMnを0.3~2.5wt%含有し、後述する製造方法で製造することにより、粒界相20内の少なくとも一部においてCuを45at%以上まで濃縮することができる。その結果、優れた磁気特性、特に高い角形比を有する永久磁石を得ることができる。
【0022】
図3を参照して、角形比などについて説明する。図3は、永久磁石の模式的なヒステリシス曲線であり、第1象限と第2象限(減衰曲線)を示す。縦軸は磁化(磁気分極)を示し、横軸は磁界の強さを表す。横軸正の値は永久磁石を着磁する方向に印加した磁界の強さを示し、負の値は、永久磁石が減磁する方向に印加した磁界の強さを示す。
永久磁石に正方向の磁界を印加すると、初期磁化曲線に従って磁気分極が生じ、飽和磁化に達する。次いで飽和磁化状態の永久磁石に負方向の磁界を印加すると、クニック点を経て急激に減磁する。磁気分極が0になるときの磁界の強さが固有保磁力(Hcj)である。
本実施形態においては、残留磁化の90%磁化における磁界をHkとし、固有保磁力Hcjとの比(Hk/Hcj)を角形比と定義する。本永久磁石は、当該角形比が65%以上、好ましくは70%以上を達成することができる。
【0023】
次に図4及び図5を参照して、本実施形態の永久磁石の逆磁区の発生機構について説明する。図4は、一般的な永久磁石中の逆磁区の発生及び伝播の課程を説明するための模式図であり、図5は本実施形態の永久磁石中の逆磁区の発生及び伝播の課程を説明するための模式図である。
【0024】
図4に示すように、永久磁石の減衰曲線における初期状態(逆磁界が印加されていない状態)では逆磁区は発生していない。永久磁石にH逆磁界を印加すると、一般に結晶粒10の粒界相20界面付近(粒界)から逆磁区が発生する。その後、逆磁界を強くしていくと粒界相20から結晶粒10内に逆磁区が伝播する(逆磁界H)。更に逆磁界を強くしていくと、結晶粒10内に逆磁区14が広がると共に、結晶粒10内においても逆磁区15が発生する(逆磁界H)。そして、更に逆磁界を強くしていくと(H~H)、結晶粒10内の逆磁区14が更に広がると共に、結晶粒10内において発生した逆磁区15が結晶粒10内で伝播し、結晶粒10全体に逆磁区16が広がり永久磁石の磁化反転が終了する。なお図4及び図5におけるH~Hは負の値であり、H、H・・・の順に絶対値が大きいものとする。
【0025】
本実施形態の永久磁石は、粒界相20中のCu濃度が高く非磁性化が顕著であるため、粒界からの逆磁区が生じにくくなっているものと推定される。そのため、ある程度の逆磁界(例えばH)を印加したときにまず結晶粒10の内部で逆磁区15が発生し、当該逆磁区15が結晶粒内全体に伝搬する、逆磁区の発生及び伝播機構が主なものとなると推定される。その結果、図3の減衰曲線(第2象限)におけるクニック点よりも逆磁界の小さな領域における曲線の傾きが小さくなり、角形性が格段に向上するものと推定される。
【0026】
次に本実施形態の永久磁石の組成等、金属組織にについて説明する。
本実施形態において希土類元素Rとは、Sc、Y、及びランタノイド(原子番号57~71の元素)の総称であり、希土類元素Rとして少なくともSmを含む。希土類元素RはSmのみ単独で用いてもよく、Smと、1種又は2種以上の他の希土類元素との組み合わせであってもよい。他の希土類元素としては、磁気特性の観点から、中でもPr、Nd、Ce、Laが好ましい。また、磁気特性の観点から、希土類元素R全体に対してSmは80wt%以上が好ましく、90wt%以上がより好ましく、95wt%以上が更に好ましい。
本永久磁石中、希土類元素Rは23~27wt%含有する。上記割合で含有することにより、磁気異方性が高く、且つ、高い保磁力を有する永久磁石が得られる。
【0027】
本永久磁石は、Feを22~27wt%含有する。Feを22wt%以上含有することにより飽和磁化が向上する。また、Feの含有量が27wt%以下であることにより高い保磁力を有する永久磁石となる。
【0028】
本永久磁石は、Cuを4.0~5.0wt%含有する。Cuを4.0wt%以上含有することにより、粒界相におけるCuの濃度が45at%以上を達成でき、高い保磁力を有する永久磁石となる。また、Cuの含有量が5.0wt%以下であることにより磁化の低下が抑制される。
【0029】
本永久磁石は、Mnを0.3~2.5wt%含有する。Mnを0.3wt%以上含有することで、粒界相におけるCuの濃度を高めることができる。また、Mnを上記範囲で含有することで、比較的大きな粒径で、粒径のそろった結晶粒を有する結晶組織が得られやすくなり、角形比が向上する。一方、Mnが2.5wt%を超過するとかえって粒径が小さくなる傾向が見られる。
Mnを0.3wt%以上含有することで融点が低下し、焼結時に液相が多く出現してCu等に濃度分布が生じるものと推定される。また、液相が多く出現することで結晶粒の粒径が大きくなるものと推定される。また、Mnも粒界相の非磁性化に寄与すると推定され、粒界相での逆磁区発生が抑制されているものと推定される。
【0030】
本永久磁石は、更に、Zrを1.7~2.5wt%含有することが好ましい。Zrを1.7~2.5%含有することにより、磁石が保持できる最大の静磁エネルギーである最大エネルギー積(BH)mの高い永久磁石が得られる。
【0031】
また、本永久磁石は、残部がCo及び不可避不純物からなる。Coを含有することにより、永久磁石の熱安定性が向上する。一方、Coの含有量が過剰となると相対的にFeの含有割合が低下する。
不可避不純物は、原料や製造工程から不可避的に混入する元素であって、具体的には、例えば、C、N、P、S、Al、Ti、Cr、Ni、Hf、Sn、Wなどが挙げられるが、これらに限定されない。本永久磁石において不可避不純物の含有割合は本永久磁石全量に対し、合計で5wt%以下であることが好ましく、1wt%以下であることがより好ましく、0.1wt%以下であることが更に好ましい。
永久磁石中の各元素の局所的な含有割合は、例えば、エネルギー分散型X線分析(EDX:Energy dispersive X-ray spectrometry)を用いて測定することができる。
【0032】
本実施形態の永久磁石は、結晶粒の平均粒径(A.G.)が100μm以上の金属組織を有することが好ましい。更に本実施形態の永久磁石は、結晶粒の粒径の変動係数(C.V.)が0.6以下であることが好ましい。
本永久磁石の結晶粒の平均粒径(A.G.)と変動係数(C.V.)の測定方法について説明する。
まず測定対象となる永久磁石をまず耐水研磨紙で研磨する。耐水研磨紙は始め目の粗いものを使用し、徐々に細かいものに切り替える。耐水研磨紙での研磨後、バフ研磨機等を使用して鏡面研磨する。鏡面研磨後の永久磁石は、酸溶媒に含侵してエッチングする。このとき粒界相20が結晶粒10部分より速く腐食されるため、粒界がはっきりと現れ、一つ一つの結晶粒を明瞭に観察することができる。次いで純水等で洗浄して乾燥する。得られた永久磁石の処理面を光学顕微鏡で観察することで結晶粒が確認できる。
本実施形態において結晶粒の粒径は、最大フェレー(Feret)径を用いるものとする。フェレー径は結晶粒を挟む2本の平行線間の距離で定義され、本発明においては、その最大値を結晶粒の粒径とする。なお結晶粒の粒径は画像処理ソフトを用いるとより正確に把握することができる。
測定面積500μm×500μmとして、当該面内に存在する結晶粒の粒径を求め、これらの値から、平均結晶粒径(A.G.)と変動係数(C.V.)を算出する。
平均結晶粒径(A.G.)は100μm以上であればよく、中でも120μm以上が好ましい。一方、上限は特に限定されないが、通常は1000μm以下であり、500μm以下が好ましい。
また、変動係数(C.V.)は0.6以下であればよく、中でも0.5以下が好ましい。
【0033】
また本実施形態の永久磁石は、粒界相の厚さtが5~200nmであることが好ましい。粒界相の厚さは上記結晶粒の粒径の測定において、結晶粒間の平均距離から求めてもよいが、本実施形態においては、厚さが100nm以下の粒界相が形成されるため、上記エネルギー分散型X線分析においてCuの濃度が10at%以上の範囲を粒界相の厚さとする。
【0034】
<永久磁石の製造方法>
上記本永久磁石は、特に限定されるものではないが、例えば熱処理条件を調整することで、粒界相のCu濃度を高めることができる。一例として、焼結後の溶体化工程を2段階にする方法が挙げられる(図6参照)。図6の例では第1溶体化において結晶粒内の大部分において固相拡散を促す一方、粒界相に液相を残存させる。次いで、降温速度を制御して、Cu以外の元素を液相から固相へと排出し、液相においてCuを濃縮する。当該降温速度は0.1~5℃/minが好ましい。次いで、第2溶体化では液相を完全に消失させて、固相拡散により組成の均質化を進める。このような製造方法により粒界相におけるCu濃度を高めることができる。以下、各工程をより具体的に説明する。
【0035】
まず、R:23~27wt%(ただし、Rは少なくともSmを含む希土類元素の合計)、Fe:22~27wt%、Mn:0.3~2.5wt%、Cu:4.0~5.0wt%を含み、残部がCo及び不可避不純物からなる組成を有する合金を準備する。当該合金の準備方法は、所望の組成を有する合金の市販品を入手することにより準備してもよく、各元素を所望の組成となるように配合することにより合金を準備してもよい。
以下、各元素を配合する具体例について一例を挙げて説明する。
原料として、所望の希土類元素、Fe、Mn、Coの各金属元素と、母合金を準備する。ここで、母合金として共晶温度の低い組成のものを選択することが、得られる合金の組成の均一化を図りやすい点から好ましい。本発明においては、母合金として、FeZr又はCuZrを選択して用いることが好ましい。FeZrとしては、一例としてFe20%Zr80%前後のものが好適である。また、CuZrとしては、一例としてCu50%Zr50%前後のものが好適である。
これらの原料を所望の組成となるように配合し、アルミナ等の坩堝にいれ、1×10-2torr以下の真空中または不活性ガス雰囲気において高周波溶解炉により溶解することで、均一化した合金が得られる。更に、本発明においては当該溶解した合金を金型により鋳造して合金インゴットとする工程を含んでいてもよい。また、別法として、溶解した合金を銅ロールに滴下することにより1mm厚程度のフレーク上の合金を製造してもよい(ストリップキャスト法)。
また前記鋳造により合金インゴットとした場合、当該合金インゴットの溶体化温度で1~20時間熱処理してもよい。なお、合金インゴットの溶体化温度は、合金の組成等に応じて適宜調整すればよい。
【0036】
次に、合金を粉砕して粉体とする。合金の粉砕方法は特に限定されず、従来公知の方法の中から適宜選択すればよい。一例として、まず、合金インゴット又はフレーク状の合金を、公知の粉砕機により100~500μm程度の大きさに粗粉砕し、次いで、ボールミルやジェットミルなどで微粉砕する方法などが好適に挙げられる。粉体の平均粒径は特に限定されないが、後述する焼結工程の焼結時間を短縮することを可能とし、また、均一な永久磁石を製造する点から、平均粒径が1μm以上10μm以下、好ましくは平均粒径が6μm以下、更に好ましくは粒径8μm以下のものが60質量%以上の粉体とする。
【0037】
次に、得られた粉体を、加圧成形して所望の形状の成形体とする。本製造方法においては、粉体の結晶方位を揃えて磁気特性を向上する点から、一定の磁場中で加圧成形することが好ましい。磁場の方向と、プレス方向との関係は特に限定されず、製品の形状等に応じて適宜選択すればよい。例えば、リング磁石や、薄板状の磁石を製造する場合には、プレス方向に対して、平行方向に磁場を印加する並行磁場プレスとすることができる。一方、磁気特性に優れる点からは、プレス方向に対して、直角に磁場を印加する直角磁場プレスとすることが好ましい。
【0038】
磁場の大きさは特に限定されず、製品の用途等に応じて、例えば15kOe以下の磁場であってもよく、15kOe以上の磁場であってもよい。中でも磁気特性に優れる点からは、15kOe以上の磁場中で加圧成形することが好ましい。また、加圧成形の際の圧力は、製品の大きさ、形状等に応じて適宜調整すればよい。一例として、0.5~2.0ton/cmの圧力とすることができる。すなわち本発明の永久磁石の製造方法においては、磁気特性の観点から、前記粉体を15kOe以上の磁場中で、磁場に垂直に0.5~2.0ton/cm以下の圧力で加圧成形することが特に好ましい。
【0039】
次に、前記成形体を加熱することにより焼結体とする。本製造方法において、焼結条件は得られる焼結体の緻密化が充分に行われればよく、公知の条件とすることができる。焼結体の緻密化の点から、焼結温度は1170~1215℃が好ましく、1180~1205℃がより好ましい。1215℃以下とすることで、希土類元素、特にSmの蒸発が抑制されて、磁気特性に優れた永久磁石を製造することができる。また、本発明においてはMnを有することで融点が低下する傾向があるため、1215℃以下で十分な焼結が可能である。
焼結工程における昇温条件は、成形体に含まれる吸着ガスを取り除く観点から、まず室温において真空引きを開始し、1~10℃/分で昇温することが好ましい。当該昇温過程においては真空引きの代わりに水素雰囲気下としてもよい。この場合も、1150℃以下の範囲で真空雰囲気に切り替えることが好ましい。
焼結時間は、Smの蒸発を抑制しながら、緻密化を充分に行う点から、20~210分が好ましく、30~150分がより好ましい。また、酸化を抑制する観点から、上記焼結工程は1000Pa以下の真空中または不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましく、更に、焼結体の密度を大きくする点から100Pa以下の真空中で行うことがより好ましい。
【0040】
焼結後、溶体化温度まで降温して溶体化処理を行う。結晶粒の粒径を揃える(変動係数(C.V.)の上昇を抑える)点から、当該溶体化温度までの降温速度を0.01~3℃/minとすることが好ましい。
【0041】
溶体化処理は、2-17相と1-5相へ分離させるための前駆体である1-7相(TbCu型構造)を形成させるための工程である。本製造方法では溶体化を2段階で行う。第1溶体化温度は、粒界相に液相を残存させる観点から、1130℃~1180℃が好ましく、1140℃~1170℃がより好ましい。また第1溶体化時間は、Cu以外の均質化の点から5~150時間が好ましく、10~100時間がより好ましい。次いで、降温速度を制御して、Cu以外の元素を液相から固相へと排出し、液相においてCuを濃縮する。当該降温速度は0.1~5℃/minが好ましい。第2溶体化では液相を完全に消失させて、固相拡散により組成の均質化を進める。第2溶体化温度は、1110℃~1165℃が好ましく、1120℃~1160℃がより好ましい。また第2溶体化時間は、均質化の点から5~150時間が好ましく、10~100時間がより好ましい。溶体化は1000Pa以下の真空中、もしくは不活性雰囲気中で行うことが好ましい。
【0042】
溶体化処理後は、少なくとも600℃以下まで急冷することが好ましい。急冷速度は80℃/min以上が好ましい。急冷を行うことで、1-7相の結晶構造が維持される。一方、冷却速度の上限は、成形体の形状にもよるが、一例として250℃/min以下が好ましい。
【0043】
次に、急冷工程後の成形体を時効処理して、2-17相と1-5相とを形成する。時効温度は特に限定されないが、2-17相を主相とし、2-17相と1-5相とを均質に有する永久磁石を得るために、700~900℃の温度で2~20時間保持し、その後、少なくとも400℃まで冷却するまでの間、冷却速度を2℃/min以下とする方法とすることが好ましい。700℃~900℃の温度で2~20時間保持することにより、2-17相と1-5相とを均質に形成することができる。中でも800~850℃の温度範囲で時効処理することが好ましい。また、良好な磁気特性を得る点から、冷却速度を2℃/min以下とすることが好ましく、0.5℃/min以下とすることがより好ましい。
【0044】
上記の製造方法により、複数の結晶粒と粒界相とを有し、前記粒界相の少なくとも一部におけるCuの濃度が45at%以上である永久磁石を得ることができる。また、上記製造法によれば、結晶粒の平均粒径(A.G.)が100μm以上であり、且つ、粒径の変動係数(C.V.)が0.60以下である金属組織を有する永久磁石を製造しやすい。
【0045】
[デバイス]
本発明は、更に前記本永久磁石を有するデバイスを提供することができる。このようなデバイスの具体例としては、例えば、時計、電動モータ、各種計器、通信機、コンピューター端末機、スピーカー、ビデオディスク、センサなどが挙げられる。また本永久磁石は、前述のとおり、高残留磁束密度、低保磁力で、高い角形比を有することから、中でも、可変磁界モータに好適に適用することができ、低速から高速まで高効率を実現する可変磁界モータを得ることができる。
【実施例0046】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、これらの記載により本発明を制限するものではない。
【0047】
(実施例1~3)
表1の実施例1~3の組成になるように、各々Fe20%Zr80%の母合金及び各原料を調整し、高周波溶解炉により溶解し、鋳造して、合金インゴットを得た。
得られた母合金を不活性ガス中で平均約100~500μmになるように粗粉砕し、次いでボールミルを用いて不活性ガス中で平均約6μmになるように微粉砕を行った。
これらの粉末を各々15kOeの磁場中で1ton/cmの圧力でプレスすることにより成形体を得た。
この成形体を1000Pa未満の真空中において1200℃で80分焼結した後、1150℃で20時間第1溶体化処理を行い、1.0℃/minで徐冷し、1135℃で50時間第2溶体化処理を行った。次いで1000~600℃までを80℃/minの冷却速度で急冷した。急冷後、850℃で12時間保持し、続いて0.5℃/minの冷却速度で350℃まで徐冷する条件で時効し、永久磁石を得た。
【0048】
(比較例1~2)
組成を表1の比較例1~2のように変更した以外は、前記実施例1~3と同様にして永久磁石を得た。
【0049】
(実施例4~6)
実施例1~3において、組成を表2の実施例4~6のように変更したことと、第1溶体化処理から第2溶体化処理までの間の徐冷速度を表2のように変更したこと以外は、実施例1~3と同様にして永久磁石を得た。
【0050】
(比較例3~4)
実施例1~3において、組成を表2の比較例3~4のように変更したことと、第1溶体化処理から第2溶体化処理までの間の徐冷速度を表2のように変更したこと以外は、実施例1~3と同様にして永久磁石を得た。
【0051】
(比較例5)
実施例1において、Mnを添加しなかった以外は実施例1と同様にして比較例5の永久磁石を得た。
【0052】
[評価]
<角形比測定>
得られた永久磁石の磁気特性は、B-Hトレーサーを用いて測定し、磁化が残留磁化の90%になったときの磁場(Hk)と保磁力(Hcj)との比(Hk/Hcj)で表される角形比を求めた。結果を表1~表2に示す。
【0053】
<粒界相のCu濃度測定>
得られた永久磁石を切断し、粒界相を含む断面を、エネルギー分散型X線分析装置を用いて測定した。Cuの濃度の最大値を表1及び表2に示す。また、実施例2及び比較例5の測定結果を図7及び図8に示す。
【0054】
<逆磁区の発生機構>
得られた永久磁石を、Kerr効果顕微鏡を用いて磁場を印加しながら磁区観察を行い、主な逆磁区の発生機構を決定した。結果を表1及び表2に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
図7及び図8により示されるように、実施例2及び比較例5はともに粒界相におけるCuの濃縮が観察されるが、実施例2のようにMnを0.3~2.5wt%含むことでCuの濃縮が格段に進みやすくなっている。その結果、実施例2では粒界相内においてCuの濃度が45at%以上の部分が観察される。実施例1、実施例3~6についても同様に粒界相内においてCuの濃度が45at%以上の部分が観察された。
図9は実施例1の永久磁石の減衰曲線と逆磁区伝搬の関係を示す図である。図9では1つの結晶粒10に着目している。当該結晶粒10は、逆磁界が0~-8kOeの間では逆磁区15は観察されず、-8kOeのときにはじめて結晶粒内で逆磁区15が観察され、-13kOeのときに磁化反転が完了している。このように本発明の永久磁石は、逆磁区の発生から磁化反転の完了までに強い逆磁界が必要であり、その結果、減衰曲線におけるクニック点よりも逆磁界の小さな領域における曲線の傾きが小さくなり、角形性が格段に向上するものと推定される。他の実施例も同様の結果が得られている。
【0057】
表1及び表2に示されるように実施例1~6の永久磁石は、複数の結晶粒と粒界相とを有し、粒界相の少なくとも一部においてCuの濃度が45at%以上であることが確認された。これら実施例1~6の永久磁石は結晶粒内で逆磁区が発生することが確認され、角形比(Hk/Hcj)が65%以上となることが確認された。
【0058】
以上、本発明を上記実施の形態に即して説明したが、本発明は上記実施の形態の構成にのみ限定されるものではなく、本願特許請求の範囲の請求項の発明の範囲内で当業者であればなし得る各種変形、修正、組み合わせを含むことは勿論である。
【符号の説明】
【0059】
10 結晶粒
11 ThZn17型構造の相(2-17相)
12 RCo型構造の相(1-5相)
14、15、16 逆磁区
20 粒界相
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9