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  • 特開-粉体組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020773
(43)【公開日】2024-02-15
(54)【発明の名称】粉体組成物
(51)【国際特許分類】
   B01J 2/30 20060101AFI20240207BHJP
   B01D 53/40 20060101ALI20240207BHJP
   B01D 53/81 20060101ALI20240207BHJP
   B01D 46/02 20060101ALI20240207BHJP
   A62D 1/00 20060101ALN20240207BHJP
【FI】
B01J2/30
B01D53/40
B01D53/81
B01D46/02 B
A62D1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123212
(22)【出願日】2022-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】桜井 茂
(72)【発明者】
【氏名】中原 勝正
(72)【発明者】
【氏名】片山 肇
【テーマコード(参考)】
2E191
4D002
4D058
4G004
【Fターム(参考)】
2E191AB51
4D002AB01
4D002BA03
4D002CA11
4D002DA02
4D002DA05
4D002DA16
4D002GA01
4D002GB12
4D058JA04
4D058SA08
4D058UA10
4G004PA01
(57)【要約】
【課題】輸送時や保管時に固結が生じ難い粉体組成物の提供。
【解決手段】水溶性化合物の粉体である水溶性粉体と、非水溶性化合物の粉体である非水溶性粉体とを含む粉体組成物であって、温度30℃、相対湿度90%における、前記粉体組成物の1gあたりの、前記非水溶性粉体による水蒸気吸着量W90から、温度30℃、相対湿度50%における、前記粉体組成物の1gあたりの、前記非水溶性粉体による水蒸気吸着量W50を差し引いた差を表すW90-W50が、1.5cm/g以上である、粉体組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性化合物の粉体である水溶性粉体と、非水溶性化合物の粉体である非水溶性粉体とを含む粉体組成物であって、
温度30℃、相対湿度90%における、前記粉体組成物の1gあたりの、前記非水溶性粉体による水蒸気吸着量W90から、
温度30℃、相対湿度50%における、前記粉体組成物の1gあたりの、前記非水溶性粉体による水蒸気吸着量W50を差し引いた差を表すW90-W50が、1.5cm/g以上である、粉体組成物。
【請求項2】
前記非水溶性粉体が、細孔容積が1.0mL/g以上である多孔質物質を含む、請求項1に記載の粉体組成物。
【請求項3】
前記多孔質物質が多孔質シリカを含む、請求項2に記載の粉体組成物。
【請求項4】
前記非水溶性粉体が、炭酸カルシウムを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の粉体組成物。
【請求項5】
前記粉体組成物の総質量に対して、前記非水溶性粉体の含有量が5質量%以下である、請求項1に記載の粉体組成物。
【請求項6】
前記水溶性粉体が水溶性塩を含む、請求項1に記載の粉体組成物。
【請求項7】
前記水溶性塩がアルカリ金属炭酸塩を含む、請求項6に記載の粉体組成物。
【請求項8】
前記アルカリ金属炭酸塩が炭酸水素ナトリウムを含む、請求項7に記載の粉体組成物。
【請求項9】
前記粉体組成物の平均粒径が3~20μmである、請求項1に記載の粉体組成物。
【請求項10】
前記水蒸気吸着量W90が、2.0~10.0cm/gである、請求項1に記載の粉体組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば炭酸水素ナトリウムなどの水溶性の粉体は、固結して塊状になると取り扱い難くなる。
特許文献1は、廃棄物の焼却処理時に発生する排ガス中の酸性成分を除去するための、炭酸水素ナトリウムを含む酸性成分除去剤に関する。粉体状の酸性成分除去剤をサイロに貯留し、ここから気体流を用いて搬送して排ガス中に供給し、排ガス中の酸性成分と反応させた後、バグフィルターへ送る装置において、粉体の流動性やバグフィルターでの圧力特性を改善するために、炭酸水素ナトリウムに、特定の膠質炭酸カルシウムと特定の疎水性ヒュームドシリカを添加した酸性成分除去剤の例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2018/012434号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者等の知見によれば、炭酸水素ナトリウムを含む酸性成分除去剤を、タンク(積み込み容器)を備えた粉粒体運搬車で輸送や保管をしたとき、タンクに積み込む際には問題がなくても、タンク内で固結や固着が生じて抜き出しが困難になる場合がある。
前記特許文献1は、排ガス処理設備の流路等における酸性成分除去剤の流動性等を改善するものであり、タンク(積み込み容器)内での状態変化の問題は考慮されていない。
本発明は、輸送中や保管中に固結や固着が生じ難い粉体組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、粉体組成物を積み込み容器(以下、「容器」ともいう。)に積み込んだ後の環境変動に着目した。
例えば、温度が高い季節において、外気雰囲気下で粉体組成物を容器に積み込むと、積み込み直後の容器内の雰囲気は水分を多く含むが相対湿度はある程度低い状態である。しかし、輸送中又は保管中に環境が変化して容器内部の温度が低下すると、容器内の雰囲気の相対湿度が高い状態となるため、雰囲気中の水分が結露して水滴となり、粉体組成物に付着し、粉体組成物の固結および固着や粉体組成物と粉粒体運搬車のタンク内面との固着が生じて粉粒体運搬車のタンクからの抜き出しが困難になると考えられる。この現象は粉体組成物の水に対する溶解度が高いほど顕著となる。
これに対して、単純に吸湿性が高い非水溶性粉体を添加すると、積み込み時に非水溶性粉体が大気中の湿気を吸着してしまうため、輸送中や保管中の吸湿効果は充分に得られない。そこで、相対湿度が中程度の雰囲気中では粉体組成物の吸湿量が少なく、相対湿度が高い雰囲気中になると粉体組成物の吸湿量が増加するように非水溶性粉体を選定することで、密閉容器内での相対湿度の変動に伴う固結を抑制できることを見出して本発明に至った。
【0006】
本発明は、下記の態様を有する。
[1] 水溶性化合物の粉体である水溶性粉体と、非水溶性化合物の粉体である非水溶性粉体とを含む粉体組成物であって、温度30℃、相対湿度90%における、前記粉体組成物の1gあたりの、前記非水溶性粉体による水蒸気吸着量W90から、温度30℃、相対湿度50%における、前記粉体組成物の1gあたりの、前記非水溶性粉体による水蒸気吸着量W50を差し引いた差を表すW90-W50が、1.5cm/g以上である、粉体組成物。
[2] 前記非水溶性粉体が、細孔容積が1.0mL/g以上である多孔質物質を含む、[1]に記載の粉体組成物。
[3] 前記多孔質物質が多孔質シリカを含む、[2]に記載の粉体組成物。
[4] 前記非水溶性粉体が、炭酸カルシウムを含む、[1]~[3]のいずれか一項に記載の粉体組成物。
[5] 前記粉体組成物の総質量に対して、前記非水溶性粉体の含有量が5質量%以下である、[1]~[4]のいずれか一項に記載の粉体組成物。
[6] 前記水溶性粉体が水溶性塩を含む、[1]~[5]のいずれか一項に記載の粉体組成物。
[7] 前記水溶性塩がアルカリ金属炭酸塩を含む、[6]に記載の粉体組成物。
[8] 前記アルカリ金属炭酸塩が炭酸水素ナトリウムを含む、[7]に記載の粉体組成物。
[9] 前記粉体組成物の平均粒径が3~20μmである、[1]~[8]のいずれか一項に記載の粉体組成物。
[10] 前記水蒸気吸着量W90が、2.0~10.0cm/gである、[1]~[9]のいずれか一項に記載の粉体組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、輸送時や保管時に固結が生じ難い粉体組成物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例に係る耐湿性試験を説明するための斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の用語の定義は、本明細書および特許請求の範囲にわたって適用される。
「~」で表される数値範囲は、~の前後の数値を下限値及び上限値とする数値範囲を意味する。
水溶性化合物とは、溶媒を水とする、20℃での飽和溶解液の濃度が1g/L以上となる化合物である。
非水溶性化合物とは、溶媒を水とする、20℃での飽和溶解液の濃度が1g/L未満となる化合物である。
多孔質物質の細孔容積は、窒素吸着法により測定した値である。窒素吸着法による細孔容積の測定は、比表面積・細孔分布測定装置(例えば、マイクロメリティック社製「トライスターII」等)を用いて実施できる。
粉体組成物の平均粒径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(例えば、日機装社製、マイクロトラックFRA9220)を用いて測定した体積基準の平均粒径である。
【0010】
本実施形態の粉体組成物は、水溶性化合物の粉体である水溶性粉体と、非水溶性化合物の粉体である非水溶性粉体とを含む。
粉体組成物の平均粒径は3~20μmが好ましく、5~18μmがより好ましく、8~15μmがさらに好ましい。上記範囲の上限値以下であると、密閉容器内での相対湿度の変動に伴う固結がより生じやすく、本発明による効果が大きい点で好ましい。また、本発明の粉体組成物を酸性成分除去剤などのガスと反応させる用途に用いる場合、ガスとの反応効率が高い点で前記平均粒径の上限値以下であることが好ましい。上記範囲の下限値以上であると、良好な流動性が得られやすい。
【0011】
<水溶性粉体>
水溶性粉体として用いる水溶性化合物は、常温で固体であり、粉体として存在できるものであればよい。粉体組成物の用途に応じて選択できる。
水溶性化合物としては、水溶性塩、水溶性有機物が例示できる。排ガス中の酸性ガスとの高い反応性や保存安定性の点で水溶性塩が好ましい。
水溶性塩としては、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、アルカリ土類金属水酸化物が例示できる。
アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、アルカリ土類金属水酸化物としては、炭酸ナトリウム(NaCO)、炭酸ナトリウム水和物、炭酸水素ナトリウム(NaHCO)、これらと水の複塩であるセスキ炭酸ソーダ(NaCO・NaHCO・2HO)、無水複塩であるウェグシャイダー塩(NaCO・3NaHCO)、水酸化カルシウム(Ca(OH))及び水酸化ドロマイトが例示できる。
水溶性粉体として用いる水溶性化合物は1種でもよく、2種以上を併用してもよい。
【0012】
例えば、粉体組成物の用途が排ガスの酸性成分除去剤である場合、水溶性粉体がアルカリ金属炭酸塩を含むことが好ましい。
特に、排ガスとの高い反応性の点で、水溶性粉体が炭酸水素ナトリウムを含むことが好ましい。
【0013】
<非水溶性粉体>
非水溶性粉体として用いる非水溶性化合物は、常温で固体であり、粉体として存在できるものであって、水溶性粉体と反応しないものであればよい。粉体組成物の用途に応じて選択できる。
非水溶性粉体として用いる非水溶性化合物は1種でもよく、2種以上を併用してもよい。粉体組成物の性能のバランスを調整しやすい点で2種以上の併用が好ましい。
【0014】
例えば、粉体組成物の用途が排ガスの酸性成分除去剤である場合、酸性成分除去剤に含有させる公知の非水溶性化合物を用いることができる。具体例としては、炭酸カルシウム、シリカ、ゼオライト、活性炭、塩基性炭酸マグネシウム、珪藻土、金属脂肪酸、タルク等が例示できる。
炭酸カルシウムとしては、前記特許文献1に記載されている膠質炭酸カルシウム、表面疎水化処理した炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム等が例示できる。流動性付与の点で膠質炭酸カルシウムが好ましい。
シリカとしては、多孔質シリカ、前記特許文献1に記載されている疎水性ヒュームドシリカ、親水性ヒュームドシリカ、ヒューズドシリカ等が例示できる。
【0015】
非水溶性粉体は、細孔容積が1.0mL/g以上である多孔質物質を含むことが好ましい。多孔質物質は粉体組成物の吸湿性に寄与し、固結や固着の防止に寄与する。
細孔容積が1.0mL/g以上であると、少量で吸湿量を高くすることができるため非水溶性粉体の添加量を低く抑えることが可能となる。そのため、粉体組成物において本来の機能を発現させる水溶性粉体の濃度を高くすることができる。
前記細孔容積は1.3mL/g以上が好ましく、1.5mL/g以上がより好ましく、2.0mL/g以上がさらに好ましい。上限は特に限定されないが、粒子強度の低下に伴う崩壊・微粉発生を抑制する観点から3.5mL/g以下が好ましく、3.0mL/g以下がより好ましく、2.5mL/g以下がさらに好ましい。
多孔質物質としては、多孔質シリカ、珪藻土、ゼオライト、エアロゲルが例示できる。入手の容易性、及び、大きな細孔容積を持つ点で多孔質シリカが好ましい。
【0016】
非水溶性粉体が、炭酸カルシウムを含むことが好ましい。炭酸カルシウムは粉体組成物の流動性に寄与する。
非水溶性粉体が、前記多孔質物質と炭酸カルシウムの両方を含むことが好ましく、前記多孔質シリカと炭酸カルシウムの両方を含むことがより好ましい。
【0017】
粉体組成物の総質量に対して非水溶性粉体の合計の含有量は5質量%以下が好ましく、4質量%以下がより好ましく、3質量%以下がさらに好ましい。上記上限値以下であると、水溶性粉体の効果に優れる。前記非水溶性粉体の含有量の下限値は特に限定されないが、例えば0.1質量%以上が好ましく、0.2質量%以上がより好ましく、0.3質量%以上がさらに好ましい。
粉体組成物の総質量は、水溶性粉体の含有量と非水溶性粉体の含有量の合計である。
【0018】
<粉体組成物>
本実施形態の粉体組成物は、下記W90から下記W50を差し引いた差を表すW90-W50が1.5cm/g以上である。
90は、温度30℃、相対湿度90%における、粉体組成物の1gあたりの、非水溶性粉体による水蒸気吸着量である。言い換えると、温度30℃、相対湿度90%のときに、粉体組成物の1g中に存在する非水溶性粉体の全量によって吸着可能な水分量である。
50は、温度30℃、相対湿度50%における、粉体組成物の1gあたりの、非水溶性粉体による水蒸気吸着量である。言い換えると、温度30℃、相対湿度50%のときに、粉体組成物の1g中に存在する非水溶性粉体の全量によって吸着可能な水分量である。
前記W90-W50の値が大きいことは、相対湿度が中程度の雰囲気中では粉体組成物の吸湿量が少なく、相対湿度が高い雰囲気中になると粉体組成物の吸湿量が増加することを表す。
前記W90-W50が1.5cm/g以上であると、密閉容器内での相対湿度の変動に伴う固結を抑制する効果に優れる。
前記W90-W50は、1.7cm/g以上が好ましく、2.0cm/g以上がより好ましく、2.5cm/g以上がさらに好ましい。前記W90-W50の値は大きければ大きいほどよいため上限は特に限定されないが、非水溶性粉体として使用する化合物の入手し易さ、取り扱いやすさ等を考慮し、非水溶性粉体を適切な添加量とするために、7cm/g以下が好ましく、6cm/g以下がより好ましく、5cm/g以下がさらに好ましい。
【0019】
前記W90の値が大きいことは、相対湿度が高い雰囲気中における粉体組成物の吸湿量が多いことを表す。
前記W90は2.0~10.0cm/gが好ましく、2.2~9.0cm/gがより好ましく、2.5~8.0cm/gがさらに好ましい。上記範囲の下限値以上であると湿度が50%よりも高い状態からの環境変化でも効能を発揮する。上限値以下であると湿度が50%よりも高い状態からの環境の変化に弱くなる。
【0020】
本発明の粉体組成物の総質量に対して、水溶性粉体の含有量は好ましくは95~99.5質量%が好ましく、96~99質量%がより好ましく、非水溶性粉体の含有量は0.5~5質量%が好ましく、1~4質量%がより好ましい。
粉体組成物中における水溶性粉体の含有量と非水溶性粉体の含有量の合計は100質量%である。
【0021】
<粉体組成物の設計方法>
前記W90-W50の値、及び前記W90の値は、非水溶性粉体の種類及び添加量によって調整できる。
粉体組成物の組成を設計するには、予め、各非水溶性粉体について、温度30℃において、水の飽和蒸気圧(P)に対する相対圧力(P/P)が0.9のときの非水溶性粉体の1gあたりの水蒸気吸着量V(標準状態換算)を求め、V0.9(単位:cm(STP)/g)とする。V0.9は、温度30℃、相対湿度90%の時に、非水溶性粉体1gが吸着可能な水分量を表す。
また、各非水溶性粉体について、温度30℃において、水の飽和蒸気圧(P)に対する相対圧力(P/P)が0.5のときの非水溶性粉体の1gあたりの水蒸気吸着量V(標準状態換算)を求め、V0.5(単位:cm(STP)/g)とする。V0.5は、温度30℃、相対湿度50%の時に、非水溶性粉体1gが吸着可能な水分量を表す。
【0022】
0.9及びV0.5は以下の方法で測定できる。
測定対象の非水溶性粉体を200℃、3時間の条件で真空乾燥したものを試料とし、蒸気吸着量測定装置を用い、吸着ガスをHO、吸着温度を30℃として、P/Pと水蒸気吸着量V(標準状態換算、単位:cm(STP)/g)との関係を表す水蒸気吸着等温線を測定する。得られた水蒸気吸着等温線において、(P/P)が0.9のときのVを読み取りV0.9とする。(P/P)が0.5のときのVを読み取りV0.5とする。
【0023】
粉体組成物の組成は、各非水溶性粉体のV0.9-V0.5の値に基づいて、W90-W50が1.5cm/g以上となるように、さらに好ましくはW90が2.0~10.0cm/gとなるように、非水溶性粉体の種類と添加量を選定することで設計できる。
【0024】
例えば、粉体組成物が、第1の非水溶性粉体をa質量%含有し、かつ第2の非水溶性粉体をb質量%含有する場合、W90-W50、及びW90は、それぞれ下記式(I)、(II)で求められる。
90-W50=(V0.9 -V0.5 )×(a/100)+(V0.9 -V0.5 )×(b/100)・・・(I)
90=(V0.9 )×(a/100)+(V0.9 )×(b/100)・・・(II)
上記式(I)、(II)において、以下を表す。
0.9 :第1の非水溶性粉体のV0.9
0.9 :第2の非水溶性粉体のV0.9
0.5 :第1の非水溶性粉体のV0.5
0.5 :第2の非水溶性粉体のV0.5
前記式(I)で求められるW90-W50が、1.5cm/g以上となるように、非水溶性粉体の種類(V0.9 、V0.5 、V0.9 、V0.5 )及び添加量(a、b)を選択して、粉体組成物の組成を設計する。
非水溶性粉体が3種以上の場合も同様にして設計できる。
【0025】
例えば、V0.9からV0.5を差し引いた差であるV0.9-V0.5(単位:cm(STP)/g)の値が大きい非水溶性粉体を用いると、所望のW90-W50を得るための非水溶性粉体の添加量が少なくて済む点で好ましい。
0.9-V0.5の値が大きい非水溶性粉体としては、前記細孔容積が1.0mL/g以上である多孔質物質が好ましい。
【0026】
例えば、好ましい態様として以下が挙げられる。
(態様1)
水溶性粉体が炭酸水素ナトリウムを含み、非水溶性粉体が炭酸カルシウム及び細孔容積が1.0mL/g以上である多孔質シリカを含み、
粉体組成物の総質量に対して、前記炭酸水素ナトリウムの含有量が95~99.9質量%、好ましくは96~99質量%であり、前記炭酸カルシウムの含有量が0.5~4.5質量%、好ましくは1~4質量%であり、前記多孔質シリカの含有量が0.1~4.5質量%、好ましくは0.1~4.5質量%であり、W90-W50が1.5cm/g以上である粉体組成物。
態様1において、前記炭酸水素ナトリウムの含有量と、前記炭酸カルシウムの含有量と、前記多孔質シリカの含有量の合計は97~100質量%が好ましく、99~100質量%がより好ましい。
【0027】
<粉体組成物の製造方法>
本実施形態の粉体組成物は、水溶性粉体および非水溶性粉体を混合した後に粉砕する方法、又は粉砕と同時に混合する方法で製造できる。
粉砕を行なう時間の大部分において水溶性粉体および非水溶性粉体が共存していることが好ましい。このため、両者を混合してその混合物を粉砕機に供給するか、又は水溶性粉体と非水溶性粉体をほぼ同時に粉砕機に供給して粉砕することが好ましい。
【0028】
粉砕手段としては、衝撃式粉砕機(高速回転する羽根等による粉砕機)、ジェットミル(衝突気流による粉砕機)、ボールミルが例示できる。細かい粒子が得られやすい点で、衝撃式粉砕機又はジェットミルがより好ましい。
【0029】
粉砕手段で粉砕した粉砕物を分級手段で分級してもよい。分級手段で分級された粒径が50μmを超える粒子を前記粉砕手段に戻す方法で粉体組成物を製造してもよい。前記粒径が50μmを超える粒子を分級手段で分級した後、粉砕手段に戻し、繰り返し粉砕する手法を用いることでも、平均粒径を3~20μmに調整できる。
【0030】
本実施形態の粉体組成物は、後述の実施例に示されるように、密閉容器内での相対湿度の変動に伴う固結や固着を抑制できる。したがって、輸送中や保管中の環境変動に伴う固結や固着が生じ難い。
【0031】
<用途>
本実施形態の粉体組成物の用途として、例えば、水溶性粉体が炭酸水素ナトリウムを含む場合、排ガスの酸性成分除去剤、発泡剤、中和剤、入浴剤、消火剤、食品用添加物、洗浄剤、ブラスト材が挙げられる。
【実施例0032】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0033】
<測定方法・評価方法>
[非水溶性粉体のV0.9、V0.5
蒸気吸着量測定装置(マイクロトラック・ベル社製、BELSORP maxII)を用、前述の方法で水蒸気吸着等温線を測定し、V0.9、V0.5、V0.9-V0.5(単位:cm(STP)/g)を求めた。
【0034】
[耐湿性試験(60℃)]
下記の工程で、密閉容器内で粉体組成物を60℃飽和水蒸気の雰囲気に暴露した後、密閉容器ごと5℃の雰囲気へ移動し、気相中の水蒸気が結露する状態を模擬した状態をつくり、これに暴露した時の固結の状態を調べた。
(工程1)図1に示すように、有底中空の円筒状(内径146mm、高さ90mm)のポリスチレン製容器1に、粉体組成物の試料2を30.0g収容した。前記試料2は、容器1の底面のうち、中央部の円形部分(直径約40mm)を除くドーナツ状に置いた。ドーナツ状の試料2の厚みは約5mmであった。
前記中央部の円形部分は、後述の工程3において蒸留水が入ったビーカー3を設置する部分である。
(工程2:初期化)底部に粒状シリカゲルを備えた箱型デシケータ(大きさ:幅550mm、奥行き580mm、高さ700mm)を用意した。前記試料2を収容した前記容器1を、開口部を閉じない開放状態で前記箱型デシケータに入れ、24時間保存した。デシケータ内は温度23℃、相対湿度20%RHであった。
(工程3:60℃飽和水蒸気の雰囲気への暴露)
前記箱型デシケータ内に24時間保存した後、前記容器1を前記箱型デシケータから取り出した。図1に示すように、5mLの蒸留水を入れたビーカー(外径34mm、高さ60mm)3を、容器1の底面中央部の前記試料2が無い部分に置いた後、容器1の開口部を、軟質ポリエチレン製の蓋4で覆って密閉した。前記蓋4で密閉した容器1を60℃恒温槽に入れ、1時間保存した。
(工程4:5℃飽和水蒸気の雰囲気への暴露)
前記60℃恒温槽内に1時間後保存した後、密閉状態を維持しつつ容器1を恒温槽から取り出し、続いて5℃冷蔵庫に入れ、30分間保存した。
(工程5:固着状態の評価)
前記冷蔵庫に30分間保存した後、前記蓋4で密閉した容器1を冷蔵庫から取り出し、蓋4を取り外し、前記ビーカー3を取り出した後、容器1内の試料2の固着状態を目視で観察した。固着の状態を下記の基準(評価値1~4)で評価した。評価値3以上のものを、密閉容器内での相対湿度の変動の影響を受け難い良好な試料であると判定した。
(評価基準)
評価値4:固着無し。
評価値3:ポリスチレン容器の内壁に僅かに固着有り、底面に固着無し。
評価値2:ポリスチレン容器の底面に固着有り。
評価値1:ポリスチレン容器の底面で激しく固着有り。
【0035】
[流動性試験:フローファンクション(ffc)の測定]
JIS Z 8835(2016年)、「一面せん断試験による限界状態線(CSL)及び壁面崩壊線(WYL)の測定方法」の附属書A(参考)「一面せん断試験の詳細及び特徴」に記載されている下部セル直動型のせん断試験にて粉体物性を測定、評価した。
下部セル直動型の測定が可能な装置(株式会社ナノシーズ社製、粉体層せん断力測定装置NS-S500)にて、上部から荷重(押し込み荷重)をかけて圧縮した粉体層に水平方向の荷重をかけた際の、押し込み荷重、底面荷重、水平せん断距離、粉体層厚みの変化を測定し、垂直応力とせん断応力との相関を求めた。なお、上部からの荷重の設定を50N、100N、150N、200N、又は250Nとし、各々の条件で測定を実施した。すなわち、1検体について条件を変えて5回測定を実施した。
前記垂直応力とせん断応力との相関から、単軸崩壊応力(σ)と最大主応力(σ)を求め、σに対するσの比であるフローファンクション(ffc)を求めた。ffcは次の式(1)で定義される。ffc=σ÷σ・・・(1)
ffcの値が大きいほど、例えばσが同一であるときのσが小さいほど、粉体粒子の付着力が小さいことになるため、粉体層が崩れやすく、流れやすい粉体となる、と評価できる。
以下の例においては、σ=100(kPa)のときのσの値を用いてffc(100)の値を求めた。一般に、流動性の目安は以下の通りである。
1<ffc<2:非常にながれにくい。
2<ffc<4:やや流れにくい。
4<ffc<10:流れやすい。
ffc>10:非常に流れやすい。
(評価基準)
例7のffcと例10のffcの平均値を基準値とし、ffc(100)の値に基づいて、下記の基準で流動性を評価した。
○:ffc(100)が「基準値×0.9」以上。基準値と同等以上。
△:ffc(100)が「基準値×0.7」以上、「基準値×0.9」未満。基準値よりやや劣る。
×:ffc(100)が「基準値×0.7」未満。基準値より劣る。
【0036】
<原料>
[水溶性粉体]
・炭酸水素ナトリウム(平均粒径:9μm)。
[非水溶性粉体]
・炭酸カルシウムA(膠質炭酸カルシウム、白石カルシウム社製品名「カルライトKT」)。
・炭酸カルシウムB(膠質炭酸カルシウム、竹原化学社製品名「ネオライトVT」)。
・シリカA(多孔質シリカ、水澤化学社製品名「ミズカシルP-78D」、細孔容積2.2mL/g)。
・シリカB(疎水性ヒュームドシリカ、トクヤマ社製品名「REOLOSIL CP-102」)。
各非水溶性粉体について、上記の方法でV0.9、V0.5、V0.9-V0.5を求めた。結果を表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
(例1~11)
例1~6は実施例、例7~11は比較例である。
なお、例7及び例10は炭酸水素ナトリウム97.5質量%と膠質炭酸カルシウム2.5質量%の混合物である点で、上記特許文献1の表4の例5と配合が共通する。例9は炭酸水素ナトリウム97.7質量%と膠質炭酸カルシウム2質量%と疎水性ヒュームドシリカ0.3質量%の混合物である点で上記特許文献1の表4の例1と配合が共通する。
【0039】
表2に示す配合で水溶性粉体と非水溶性粉体を混合した後、風力式分級機を備えた衝撃式粉砕機(ホソカワミクロン社製品名「ACMパルベライザACM-10A型」)を用い、平均粒径が9μmの粉体組成物を得た。
上記式(I)、(II)及び表1の測定値を用いて、粉体組成物のW90-W50及びW90を求めた。結果を表2に示す。
得られた粉体組成物について、上記の方法で耐湿性試験(60℃)及び流動性試験を行った。結果を表2に示す。
【0040】
【表2】
【0041】
上記耐湿性試験は、密閉空間に収容された状態で、温度低下による結露が生じやすい条件での過酷試験である。
表2の結果に示されるように、W90-W50が1.5cm/g以上である例1~6は、耐湿性試験の評価値が3以上であり、固結防止性に優れる。
例1~6のなかでも、特に、炭酸カルシウムA又はBと、シリカAとを含む例1~4及び例6は、流動性も基準値(例7、9)と同程度に良好であった。
【符号の説明】
【0042】
1 ポリスチレン製容器(容器)
2 試料
3 蒸留水が入ったビーカー
4 蓋
図1