IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社UACJの特許一覧 ▶ 古河電気工業株式会社の特許一覧

特開2024-20847磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランク及び磁気ディスク
<>
  • 特開-磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランク及び磁気ディスク 図1
  • 特開-磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランク及び磁気ディスク 図2
  • 特開-磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランク及び磁気ディスク 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020847
(43)【公開日】2024-02-15
(54)【発明の名称】磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランク及び磁気ディスク
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/00 20060101AFI20240207BHJP
   C23C 28/02 20060101ALI20240207BHJP
   G11B 5/73 20060101ALI20240207BHJP
   G11B 5/84 20060101ALI20240207BHJP
   G11B 5/82 20060101ALI20240207BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20240207BHJP
   C22F 1/04 20060101ALN20240207BHJP
【FI】
C22C21/00 N
C23C28/02
G11B5/73
G11B5/84 A
G11B5/82
C22F1/00 613
C22F1/00 623
C22F1/00 630B
C22F1/00 661D
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 684B
C22F1/00 684C
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686Z
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
C22F1/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123342
(22)【出願日】2022-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】北脇 高太郎
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 航
(72)【発明者】
【氏名】坂本 遼
(72)【発明者】
【氏名】畠山 英之
【テーマコード(参考)】
4K044
5D006
5D112
【Fターム(参考)】
4K044AA06
4K044BA06
4K044BA10
4K044BA18
4K044BA21
4K044BB03
4K044BB04
4K044BB05
4K044CA13
4K044CA14
4K044CA15
4K044CA53
5D006CB04
5D006DA03
5D006FA02
5D112AA02
5D112AA24
5D112BA06
(57)【要約】
【課題】優れた耐衝撃性及び耐変形抵抗性を示す磁気ディスク用アルミニウム合金ブランク及び磁気ディスクを提供する。
【解決手段】Feと、Mn及びNiのうち1種又は2種を含有し、Fe、Mn及びNiの含有量の合計が0.03質量%以上7.00質量%以下であり、Mgの含有量が0質量%以上3.50質量%未満である磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクであって、前記アルミニウム合金ディスクブランクの厚さが0.550mm以下であり、且つ、前記アルミニウム合金ディスクブランクの表面の平均高さ(Rc)が0.25μm以上である磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランク。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Feと、Mn及びNiのうち1種又は2種を含有し、Fe、Mn及びNiの含有量の合計が0.03質量%以上7.00質量%以下であり、Mgの含有量が0質量%以上3.50質量%未満である磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクであって、
前記アルミニウム合金ディスクブランクの厚さが0.550mm以下であり、且つ、前記アルミニウム合金ディスクブランクの表面の平均高さ(Rc)が0.25μm以上であることを特徴とする磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランク。
【請求項2】
Cu:0質量%以上0.40質量%以下、Zn:0質量%以上0.70質量%以下、Cr:0質量%以上0.40質量%以下、Zr:0質量%以上0.30質量%以下、Si:0質量%以上0.60質量%以下、及びBe:0質量%以上0.0020質量%以下からなる群から選択される少なくとも1種の元素を更に含有する、請求項1に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランク。
【請求項3】
Sr:0質量%以上0.10質量%以下、Na:0質量%以上0.10質量%以下、及びP:0質量%以上0.10質量%以下からなる群から選択される少なくとも1種の元素を更に含有する、請求項1又は2に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランク。
【請求項4】
前記厚さが0.490mm以下である、請求項1又は2に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランク。
【請求項5】
前記厚さが0.390mm以下である、請求項4に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランク。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクを用いて形成されたアルミニウム合金基板と、該アルミニウム合金基板の表面に設けられたNi-Pめっき処理層と、該Ni-Pめっき処理層上に設けられた磁性体層とを備える磁気ディスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランク及び当該磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクを用いた磁気ディスクに関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブ(以下、「HDD」と省略する)は、コンピュータや映像記録装置等の電子機器における記憶装置として多用されており、HDDには、データを記録するための磁気ディスクが組み込まれている。磁気ディスクは、アルミニウム合金からなる円環状のアルミニウム合金基板と、アルミニウム合金基板の表面を覆うNi-Pめっき処理層と、Ni-Pめっき処理層上に積層された磁性体層とを有している。
【0003】
ところで、近年においては、マルチメディア等のニーズから、HDD等の磁気ディスク装置に対する大容量化及び高密度化の要求が高まっている。更なる大容量化のため、記憶装置に搭載される磁気ディスクの枚数は増加傾向にあり、それに伴って磁気ディスクの薄肉化も要求されている。
【0004】
しかしながら、磁気ディスク用基板を薄肉化すると剛性と強度が低下してしまう問題がある。剛性が低下すると、基板が変形し難い程度を示す耐衝撃性が低下してしまうため、基板には耐衝撃性の向上が求められている。また、強度が低下すると基板が塑性域内で変形し難い程度を示す耐変形抵抗性も低下してしまうため、基板には耐変形抵抗性の向上も求められている。
【0005】
このような実情から、近年では耐衝撃性と耐変形抵抗性に優れた磁気ディスク用基板の開発が検討されている。例えば、特許文献1では、アルミニウム合金基板の剛性向上に寄与するFe、Mn、Ni等の元素を多く含有させて、剛性を向上させる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-186597号公報
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されるFe、Mn、Ni等の含有量を増加して剛性のみを向上させる方法では、目標とする耐変形抵抗性は得られていないのが現状であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、優れた耐衝撃性及び耐変形抵抗性を示す磁気ディスク用アルミニウム合金ブランク及び磁気ディスクを提供することを目的とする。
【0009】
本発明者らは、磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクにおいて、アルミニウム合金に含まれる各種添加元素の含有量と表面の平均高さ(Rc)を制御することにより、厚さが薄くても、優れた耐衝撃性と耐変形抵抗性を示す磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施態様に係る磁気ディスク用アルミニウム合金ブランクは、Feと、Mn及びNiのうち1種又は2種を含有し、Fe、Mn及びNiの含有量の合計が0.03質量%以上7.00質量%以下であり、Mgの含有量が0質量%以上3.50質量%未満であり、前記アルミニウム合金ディスクブランクの厚さが0.550mm以下であり、且つ、前記アルミニウム合金ディスクブランクの表面の平均高さ(Rc)が0.25μm以上である。
【0011】
本発明の一実施態様において、磁気ディスク用アルミニウム合金ブランクは、Cu:0質量%以上0.40質量%以下、Zn:0質量%以上0.70質量%以下、Cr:0質量%以上0.40質量%以下、Zr:0質量%以上0.30質量%以下、Si:0質量%以上0.60質量%以下、及びBe:0質量%以上0.0020質量%以下からなる群から選択される少なくとも1種の元素を更に含有する。
【0012】
本発明の一実施態様において、磁気ディスク用アルミニウム合金ブランクは、Sr:0質量%以上0.10質量%以下、Na:0質量%以上0.10質量%以下、及びP:0質量%以上0.10質量%以下からなる群から選択される少なくとも1種の元素を更に含有する。
【0013】
本発明の一実施態様において、前記厚さが0.490mm以下であり、好ましくは0.390mm以下である。
【0014】
本発明の実施態様に係る磁気ディスクは、上述の磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランクを用いて形成されたアルミニウム合金基板と、該アルミニウム合金基板の表面に設けられたNi-Pめっき処理層と、前記Ni-Pめっき処理層上に設けられた磁性体層とを備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、優れた耐衝撃性及び耐変形抵抗性を示す磁気ディスク用アルミニウム合金ブランク及び磁気ディスクを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金ブランクのヤング率を測定するための、アルミニウム合金ブランクの圧延方向と平行な方向における測定用サンプルを示す平面図である。
図2図2は、本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金ブランクの表面の平均高さ(Rc)を測定する任意の領域Rを示す平面図である。
図3図3は、図2における領域Rの拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本実施形態に係る磁気ディスク用アルミニウム合金ブランク及び磁気ディスクについて詳細に説明する。
【0018】
1.磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランク
本実施形態に係る磁気ディスク用アルミニウム合金ディスクブランク(以下、「アルミニウム合金ディスクブランク」とも称する)は、所定の合金組成のアルミニウム合金を用いてアルミニウム合金板を作製し、これをディスクブランク状に打ち抜くことで得られる。アルミニウム合金ディスクブランクは、Feと、Mn及びNiのうち1種又は2種を含有し、Fe、Mn及びNiの含有量の合計が0.03質量%以上7.00質量%以下であり、Mgの含有量が0質量%以上3.50質量%未満である。また、アルミニウム合金ディスクブランクの厚さが0.550mm以下であり、さらに、アルミニウム合金ディスクブランクの表面の平均高さ(Rc)が0.25μm以上である。このように、アルミニウム合金ディスクブランクの厚さが薄くても、合金組成とアルミニウム合金ディスクブランクの表面における平均高さ(Rc)を制御することにより、優れた耐衝撃性及び耐変形抵抗性を示すアルミニウム合金ディスクブランク及び磁気ディスクを提供することができる。
【0019】
<合金組成>
アルミニウム合金ディスクブランクに用いるアルミニウム合金の合金組成について、以下に詳細に説明する。
【0020】
アルミニウム合金ディスクブランクは、Fe(鉄)と、Mn(マンガン)及びNi(ニッケル)のうち1種又は2種を含有し、また、Fe、Mn及びNiの含有量の合計が0.03質量%以上7.00質量%以下である。必須元素であるFeは、主として第二相粒子(Al-Fe系金属間化合物等)として、一部はマトリックスに固溶して存在し、アルミニウム合金ディスクブランクの剛性(ヤング率)や強度等を向上させる効果を発揮する。Mn及びNiも、主として第2相粒子(Al-Mn系金属間化合物、Al-Ni系金属間化合物等)として存在すると共に、一部はマトリックスに固溶して存在する。第2相粒子の生成とマトリックスへの固溶により、Mn及びNiもアルミニウム合金ディスクブランクのヤング率や強度等を向上させる効果を発揮する。
【0021】
しかしながら、FeとMnとNiの含有量の合計が0.03質量%未満である場合、第2相粒子の形成が不十分であり、耐衝撃性と耐変形抵抗性が低下してしまう。一方、FeとMnとNiの含有量の合計が7.00質量%を超えると、粗大な第2相粒子が多数生成する。第2相粒子は、アルミニウムマトリックスに比べて硬度が高いため、削り難く、研削加工時の研削レート低下の原因となり、生産コストの増大を招く。また、このような粗大な第2相粒子が、エッチング時、ジンケート処理時、切削加工時や研削加工時において脱落して大きな窪みが発生し、めっきピット発生によるめっき表面の平滑性の低下及びめっき剥離が懸念される。さらに、圧延工程における加工性の低下も生じるため、圧延加工時に大きな割れが発生するおそれがある。したがって、FeとMnとNiの含有量の合計は0.03質量%以上7.00質量%以下であり、0.05質量%以上6.50質量%以下であることが好ましく、0.50質量%以上6.00質量%以下であることがより好ましく、1.00質量%以上5.00質量%以下であることがさらに好ましい。
【0022】
(Mg:マグネシウム)
Mgはアルミニウム合金に任意成分として含有され、主として固溶Mgとして存在し、アルミニウム合金ディスクブランクの強度を向上させる効果を発揮する。また、アルミニウム合金ディスクブランクのジンケート処理時のジンケート皮膜を均一に、薄く、且つ、緻密に付着させるため、ジンケート処理工程の次工程であるめっき工程において、Ni-Pからなるめっき表面の平滑性を向上させる。
【0023】
アルミニウム合金ディスクブランクにおいて、Mgの含有量は0質量%以上3.50質量%未満である。Mgの含有量が3.50質量%以上である場合、ヤング率が低下するため、アルミニウム合金基板における剛性の低下をもたらし、その結果、耐衝撃性が低下する。また、Mgの含有量が多いと、アルミニウム合金ディスクブランクの製造において、アルミニウム合金ディスクブランクの加圧焼鈍を行った際にアルミニウム合金ディスクブランク同士又はアルミニウム合金ディスクブランクとスペーサーの密着力が高まる。そのため、これらを剥離する際に大きな力が必要となり、アルミニウム合金ディスクブランクの変形を招くため、耐変形抵抗性が低下する。なお、Mgの含有量は、強度と製造性との兼合いから、0.30質量%以上3.30質量%であることが好ましく、0.50質量%以上3.00質量%以下であることがより好ましく、1.00質量%以上2.50質量%あることがさらに好ましい。
【0024】
アルミニウム合金ディスクブランクは、Cu:0質量%以上0.40質量%以下、Zn:0質量%以上0.70質量%以下、Cr:0質量%以上0.40質量%以下、Zr:0質量%以上0.30質量%以下、Si:0質量%以上0.60質量%以下、及びBe:0質量%以上0.0020質量%以下からなる群から選択される少なくとも1種の元素を更に含有していてもよい。
【0025】
(Cu:銅)
アルミニウム合金には、任意成分として0.40質量%以下のCuが含まれていてもよい。Cuは、磁気ディスクの製造過程においてジンケート処理を行った際に、アルミニウム合金からのAlの溶出を抑制する作用を有する。Cuの含有量が0.40質量%以下であることにより、磁気ディスクの製造過程においてジンケート処理を行った際に、アルミニウム合金基板の表面に、緻密で厚みが薄く、且つ厚みのバラつきが小さいZn皮膜を付着させることができる。そして、このようなZn皮膜を形成することにより、後工程である無電解Ni-Pめっき処理によって平滑なNi-Pめっき処理層を形成することができる。
【0026】
一方、Cuの含有量が多過ぎると、アルミニウム合金ディスクブランクの耐食性が低下し、局所的にAlが溶出しやすい領域が形成される。そのため、磁気ディスクの製造過程においてジンケート処理を行った際に、アルミニウム合金基板の表面においてAlの溶解量にムラが発生し、Zn皮膜の厚みのバラつきが大きくなりやすい。その結果、Ni-Pめっき処理層とアルミニウム合金基板との密着性の低下やNi-Pめっき処理層の平滑性の低下を招くおそれがある。
【0027】
アルミニウム合金中のCuの含有量が0.40質量%以下、好ましくは0.30質量%以下であることにより、めっきピットの形成を抑制し、Ni-Pめっき処理層の平滑性をより高めることができる。なお、Cuの含有量の下限は、0.003質量%であることが好ましく、0.010質量%であることがより好ましい。
【0028】
(Zn:亜鉛)
アルミニウム合金には、任意成分として0.60質量%以下のZnが含まれていてもよい。Znは、Cuと同様に、ジンケート処理におけるアルミニウム合金からのAlの溶出を抑制する作用を有する。Znの含有量が0.60質量%以下であることにより、磁気ディスクの製造過程においてジンケート処理を行った際に、アルミニウム合金基板の表面に、緻密で厚みが薄く、且つ厚みのバラつきが小さいZn皮膜を付着させることができる。そして、このようなZn皮膜を形成することにより、後工程である無電解Ni-Pめっき処理によって平滑なNi-Pめっき処理層を形成することができる。
【0029】
一方、Znの含有量が多過ぎると、アルミニウム合金ディスクブランクの耐食性が低下し、局所的にAlが溶出し易い領域が形成される。そのため、磁気ディスクの製造過程においてジンケート処理を行った際に、アルミニウム合金基板の表面においてAlの溶解量にムラが発生し、Zn皮膜の厚みのバラつきが大きくなりやすい。その結果、Ni-Pめっき処理層とアルミニウム合金基板との密着性の低下やNi-Pめっき処理層の平滑性の低下を招くおそれがある。
【0030】
アルミニウム合金中のZnの含有量が0.60質量%以下、好ましくは0.50質量%以下であることにより、めっきピットの形成を抑制し、Ni-Pめっき処理層の平滑性をより高めることができる。なお、Znの含有量の下限は、0.005質量%であることが好ましく、0.01質量%であることがより好ましい。
【0031】
(Si:ケイ素)
アルミニウム合金には、任意成分として0.60質量%以下のSiが含まれていてもよい。Siは、アルミニウム合金にMgが含有される場合に、Mgとの間にMg-Si系金属間化合物を形成する。
【0032】
このようなMg-Si系金属間化合物がアルミニウム合金ディスクブランクの表面から脱落した場合、後工程である無電解Ni-Pめっき処理においてめっきピットが形成されやすくなる。アルミニウム合金中のSiの含有量が0.60質量%以下、好ましくは0.10質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下であることにより、アルミニウム合金ディスクブランク中に存在する上記金属間化合物の含有量をより低減することができる。その結果、めっきピットの形成を抑制し、Ni-Pめっき処理層の平滑性をより高めることができる。
【0033】
上記金属間化合物によるめっきピットの発生を抑制するためには、Siの含有量を少なくすることが好ましい。しかしながら、Siは、一般的な純度の地金はもとより、Alの純度が99.9質量%以上である高純度の地金にも含まれている。そのため、Siを殆ど含有しないアルミニウム合金ディスクブランクを作製しようとすると、鋳造時にSiを除去するための特殊な処理を行う必要があり、アルミニウム合金ディスクブランクの製造コストの増大を招くことになる。
【0034】
アルミニウム合金中のSiの含有量が0.01質量%以下であれば、Siを除去するための特殊な処理を行うことなくアルミニウム合金ディスクブランクを作製することができる。その結果、アルミニウム合金ディスクブランクの製造コストの増大を回避しつつ、その平滑性をより高めることができる。また、アルミニウム合金中のSiの含有量が0.01質量%を超えても0.60質量%以下であれば、より純度の低い地金を用いてアルミニウム合金ディスクブランクを作製することができる。これにより、アルミニウム合金ディスクブランクの材料コストをより低減することができる。
【0035】
(Be:ベリリウム)
Beは、Mgを含むアルミニウム合金を鋳造する際に、Mgの酸化を抑制することを目的として溶湯内に添加される元素である。また、アルミニウム合金中に含有されるBeの含有量が0.0020質量%以下であることにより、磁気ディスクの製造過程においてアルミニウム合金基板の表面に形成されるZn皮膜をより緻密にするとともに、厚みのバラつきをより小さくすることができる。その結果、アルミニウム合金基板上に形成されるNi-P処理層の平滑性をより高めることができる。
【0036】
一方、アルミニウム合金中のBe含有量が多過ぎると、アルミニウム合金ディスクブランクの製造過程においてアルミニウム合金ディスクブランクが加熱された際に、アルミニウム合金ディスクブランクの表面にBe系酸化物が形成されやすくなる。また、アルミニウム合金が更にMgを含有する場合、アルミニウム合金ディスクブランクが加熱された際に、アルミニウム合金ディスクブランクの表面にAl-Mg-Be系酸化物が形成されやすくなる。これらの酸化物量が多くなると、Zn皮膜の厚みのバラつきが大きくなり、めっきピットの発生を招くおそれがある。
【0037】
アルミニウム合金中のBeの含有量が0.0020質量%以下、好ましくは0.0010質量%以下であることにより、Al-Mg-Be系酸化物の量が低減し、Ni-Pめっき処理層の平滑性をより高めることができる。なお、アルミニウム合金中にBeが含まれる場合、Beの含有量の下限については、0.0001質量%であることが好ましい。
【0038】
(Cr:クロム)
アルミニウム合金には、任意成分として0.40質量%以下のCrが含まれていてもよい。Crの一部は、鋳造時に生じる微細な金属間化合物としてアルミニウム合金ディスクブランク内に分散している。鋳造時に金属間化合物を形成しなかったCrはAlマトリクス中に固溶し、固溶強化によってアルミニウム合金ディスクブランクの強度を向上させる作用を有する。
【0039】
また、Crは、切削性及び研削性をより高めるとともに再結晶組織をより微細化する作用を有する。その結果、アルミニウム合金基板とNi-Pめっき処理層との密着性をより高め、めっきピットの発生を抑制する。
【0040】
一方、アルミニウム合金中のCrの含有量が多過ぎると、アルミニウム合金基板中に粗大なAl-Cr系金属間化合物が形成されやすくなる。このような粗大なAl-Cr系金属間化合物がアルミニウム合金基板の表面から脱落した場合、後工程の無電解Ni-Pめっき処理においてめっきピットが形成されやすくなる。
【0041】
アルミニウム合金中のCrの含有量が0.40質量%以下、好ましくは0.30質量%以下であることにより、めっきピットの形成を抑制し、平滑なNi-Pめっき処理層を形成するとともにアルミニウム合金基板の強度をより向上させることができる。なお、のCrの含有量の下限は特に限定されず、0質量%であってもよい。
【0042】
(Zr:ジルコニウム)
アルミニウム合金には、任意成分として0.30質量%以下のZrが含まれていてもよい。Zrの一部は、鋳造時に生じる微細な金属間化合物としてアルミニウム合金ディスクブランク内に分散している。鋳造時に金属間化合物を形成しなかったZrはAlマトリクス中に固溶し、固溶強化によってアルミニウム合金ディスクブランクの強度を向上させる作用を有する。
【0043】
また、Zrは、切削性及び研削性をより高めるとともに再結晶組織をより微細化する作用を有する。その結果、アルミニウム合金基板とNi-Pめっき処理層との密着性をより高め、めっきピットの発生を抑制する。
【0044】
一方、アルミニウム合金中のZrの含有量が多過ぎると、アルミニウム合金基板中に粗大なAl-Zr系金属間化合物が形成されやすくなる。このような粗大なAl-Zr系金属間化合物がアルミニウム合金基板の表面から脱落した場合、後工程の無電解Ni-Pめっき処理においてめっきピットが形成されやすくなる。
【0045】
アルミニウム合金中のZrの含有量が0.30質量%以下、好ましくは0.20質量%以下であることにより、めっきピットの形成を抑制し、平滑なNi-Pめっき処理層を形成するとともにアルミニウム合金基板の強度をより向上させることができる。なお、のZrの含有量の下限は特に限定されず、0質量%であってもよい。
【0046】
また、アルミニウム合金ディスクブランクは、Sr:0質量%以上0.10質量%以下、Na:0質量%以上0.10質量%以下、及びP:0質量%以上0.10質量%以下からなる群から選択される少なくとも1種の元素を更に含有していてもよい。
【0047】
(Sr:ストロンチウム、Na:ナトリウム、P:リン)
Sr、Na及びPは、アルミニウム合金ディスクブランク中の第二相粒子(主にSi粒子)を微細化し、めっき性を改善する効果を発揮する。また、アルミニウム合金ディスクブランク中の第二相粒子のサイズの不均一性を小さくし、耐衝撃特性のバラつきを低減させる効果も発揮する。そのため、アルミニウム合金中にSr、Na、Pのそれぞれが、0.10質量%以下含まれていてもよい。
【0048】
一方、アルミニウム合金中にSr、Na及びPのそれぞれが0.10質量%を超えて含有されても、上記効果は飽和し、更なる顕著な効果が得られない。また、上記効果を得るためには、Sr、Na及びPのそれぞれの下限が、0.0005質量%であることが好ましい。
【0049】
(残部:Alおよび不可避不純物)
アルミニウム合金ディスクブランクに用いるアルミニウム合金の合金組成として、上述した必須成分及び任意成分以外の残部はAl(アルミニウム)及び不可避的不純物である。ここで、不可避的不純物は、製造工程上、不可避的に含まれ得る含有レベルの不純物を意味する。不可避的不純物として含まれ得る元素としては、例えば、Ti(チタン)、B(ホウ素)、Ga(ガリウム)などが挙げられ、その含有量は、各元素について0.10質量%以下、合計で0.30質量%以下であれば本発明の作用効果を損なわない。
【0050】
<アルミニウム合金ディスクブランクの厚さ>
アルミニウム合金ディスクブランクの厚さは、近年の磁気ディスクの薄肉化の観点から、0.550mm以下であり、0.490mm以下であることが好ましく、0.390mm以下であることがより好ましい。本発明に係るアルミニウム合金ディスクブランクは、このような厚さであっても、優れた耐衝撃性及び耐変形抵抗性を示す。
【0051】
<アルミニウム合金ディスクブランクの特性>
(ヤング率)
アルミニウム合金ディスクブランクのヤング率を大きくすることによって磁気ディスクの耐衝撃性を向上させる効果が発揮される。そのため、アルミニウム合金ディスクブランクのヤング率は70GPa以上であることが好ましい。磁気ディスク装置の落下時等において磁気ディスクが変形することがあるが、この変形は弾性域内の変形である。そのため、アルミニウム合金ディスクブランクのヤング率を向上させることで、耐衝撃性が向上し、このような変形を抑制することができる。
【0052】
アルミニウム合金ディスクブランクのヤング率が70GPa未満の場合、磁気ディスク装置の落下時等において磁気ディスクが大きく変形するおそれがあり、変形した磁気ディスクが他部材(他の磁気ディスクやヘッドの退避場所であるランプロードなど)と多数衝突すると、粉塵等が発生し記録エラーの原因となるおそれがある。本発明では、磁気ディスクが変形しにくい特性を耐衝撃性とする。耐衝撃性の低下を回避するため、アルミニウム合金ディスクブランクのヤング率は70GPa以上であることが好ましく、71GPa以上であることがより好ましく、72GPa以上であることが更に好ましい。なお、アルミニウム合金ディスクブランクのヤング率の上限は特に限定されるものではないが、アルミニウム合金ディスクブランクの材質や組成、ならびに、製造条件によって自ずと決まるものであり、本発明においてはおよそ80GPaであることが好ましい。
【0053】
ヤング率は、共振法によって測定することができる。例えば、図1に示すように、アルミニウム合金ディスクブランクの表面において、圧延方向と長手方向が平行な任意の四角形領域をサンプルとして採取し、そのサンプルからヤング率を測定することができる。なお、ヤング率はアルミニウム合金ディスクブランクに限らず、研削加工後後のアルミニウム合金基板、めっき処理後のアルミニウム合金基板、スパッタリング後の磁気ディスクを用いて測定してもよい。めっき処理後のアルミニウム合金基板、磁気ディスクを用いてヤング率を測定する場合には、Ni-Pめっき処理層を含むめっき皮膜を剥離し、さらに表面を5~30μm研削したアルミニウム合金からサンプルを採取して、ヤング率を測定することができる。また、測定に必要なサンプルのサイズ(縦、横、厚さ)は、マイクロメーターとノギス、重量は電子天秤を用いて測定することができる。
【0054】
(表面の平均高さ(Rc))
本発明において、アルミニウム合金ディスクブランクの表面の平均高さ(Rc)は0.25μm以上である。これにより、加圧焼鈍後のアルミニウム合金ディスクブランク同士又はアルミニウム合金ディスクブランクとスペーサーの密着力を低くすることができるため、耐変形抵抗性が向上する。表面の平均高さ(Rc)が高いことにより、アルミニウム合金ディスクブランク同士又はアルミニウム合金ディスクブランクとスペーサーが密着した際に僅かな隙間が形成されるため、密着力が低下する。そのため、加圧焼鈍後に大きな力を必要とせずにこれらを剥離することができ、その結果、アルミニウム合金ディスクブランクの変形を防止することができる。なお、表面の平均高さ(Rc)については、JIS B 0601:2013において定義されている。
【0055】
アルミニウム合金ディスクブランクの表面の平均高さ(Rc)が0.25μm未満である場合、加圧焼鈍後のアルミニウム合金ディスクブランク同士又はアルミニウム合金ディスクブランクとスペーサーの密着力が高くなり、加圧焼鈍後の剥離時に変形し、耐変形抵抗性が低下するおそれがある。そのため表面の平均高さ(Rc)は0.25μm以上であり、0.30μm以上であることが好ましい。また、表面の平均高さ(Rc)の上限は特に限定されるものではないが、およそ3.0μmである。
【0056】
表面の平均高さ(Rc)は、レーザー顕微鏡(例えば、レーザーテック社製、「コンフォーカル顕微鏡HD100D」)を用いて測定することができる。例えば、図2及び図3に示すように、アルミニウム合金ディスクブランクの表面の任意の領域Rにおいて、レーザー顕微鏡を用いて3次元像を測定し、自動水平補正を行う。次いで、メディアンフィルタ処理を行い、アルミニウム合金ディスクブランクの表面において、圧延方向Yに対して直角な方向(直角方向)Xにおいて所定の長さを有する線L上の表面の平均高さ(Rc)を測定する。
【0057】
<アルミニウム合金ディスクブランクの製造方法>
以下、アルミニウム合金ディスクブランクの製造方法について詳細に説明する。
【0058】
A.アルミニウム合金板の作製
(1)鋳造工程
所定の合金組成のアルミニウム材の原料を溶解し、溶湯を溶製してからこれを鋳造して鋳塊を作製する。鋳造としては、半連続鋳造(DC鋳造)法、金型鋳造法、連続鋳造(CC鋳造)法が用いられる。DC鋳造法においては、スパウトを通して注がれた溶湯が、ボトムブロックと、水冷されたモールドの壁、並びにインゴット(鋳塊)の外周部に直接吐出される冷却水で熱を奪われることによって凝固し、鋳塊として下方に引き出される。金型鋳造法においては、鋳鉄等で作製された中空の金型に注がれた溶湯が、金型の壁に熱を奪われることによって凝固し、鋳塊が作製される。CC鋳造法では、一対のロール(又は、ベルトキャスタ、ブロックキャスタ)の間に鋳造ノズルを通して溶湯を供給し、ロールからの抜熱で薄板を直接鋳造する。
【0059】
このような鋳造工程において、溶湯中の溶存ガスを低減する脱ガス処理及び溶湯中の固形物を除去するろ過処理をインラインで行うことが好ましい。
【0060】
脱ガス処理としては、例えば、SNIF(Spinning Nozzle Inert Flotation)プロセスと呼ばれる処理方法やAlpurプロセスと呼ばれる処理方法等を採用することができる。これらのプロセスにおいては、羽根付き回転体により溶湯を高速で攪拌しながらアルゴンガスやアルゴンと塩素との混合ガス等のプロセスガスを吹き込み、溶湯中にプロセスガスの微細な気泡を形成する。これにより、溶湯中に溶存した水素ガスや介在物を短時間で除去することができる。脱ガス処理には、インライン式の脱ガス装置を使用することができる。
【0061】
ろ過処理としては、例えば、ケークろ過方式やろ材ろ過方式などを採用することができる。また、ろ過処理には、例えば、セラミックチューブフィルター、セラミックフォームフィルター、アルミナボールフィルタ-などのフィルターを使用することができる。
【0062】
(2)均質化処理工程
鋳塊を作製した後、熱間圧延を行うまでの間に、必要に応じて鋳塊の面削を行い、均質化処理を行ってもよい。均質化処理における保持温度は、例えば500~650℃の範囲から適宜設定することができる。また、均質化処理における保持時間は、例えば1~60時間の範囲から適宜設定することができる。
【0063】
(3)熱間圧延工程
次に、鋳塊に熱間圧延を行い、熱間圧延板を作製する。熱間圧延の圧延条件は特に限定されるものではないが、例えば、開始温度が400~550℃の範囲、終了温度が260~380℃の範囲である熱間圧延を行うことができる。また、熱間圧延板の厚みは、例えば、2.0~6.0mmの範囲から適宜設定することができる。
【0064】
(4)冷間圧延工程
熱間圧延を行った後、得られた熱間圧延板に1パス以上の冷間圧延を行うことにより、冷間圧延板を得ることができる。冷間圧延時に熱間圧延板と接するロールの直径は200mm以上であることが好ましい。ロール径が200mm以上であることによって、摩擦力が低下し、ロールから熱間圧延板への転写が少なくなり、得られる冷間圧延板において表面の平均高さ(Rc)を高くすることができる。なお、冷間圧延において冷間圧延板の厚さ、冷間圧延率は特に限定されることはなく、所望するアルミニウム合金ディスクブランクの厚み及び強度に応じて適宜設定すればよい。例えば、冷間圧延における総圧下率は20~95%であることが好ましい。また、冷間圧延板の厚みは、例えば、0.2~1.9mmの範囲から適宜設定することができる。
【0065】
(5)焼鈍工程
上記の製造方法においては、冷間圧延における1パス目の前及びパス間のうち少なくとも一方において、必要に応じて焼鈍処理を行ってもよい。焼鈍処理は、バッチ式熱処理炉を用いて行ってもよく、連続式熱処理炉を用いて行ってもよい。バッチ式熱処理炉を用いる場合、焼鈍時の保持温度は250~430℃、保持時間は0.1~10時間の範囲であることが好ましい。また、連続式熱処理炉を用いる場合、炉内の滞在時間は60秒以内、炉内の温度は400~500℃であることが好ましい。このような条件で焼鈍処理を行うことにより、冷間圧延時の加工性を回復させることができる。以上の工程によって、アルミニウム合金板が作製される。
【0066】
B.アルミニウム合金ディスクブランクの作製
上記の工程を経て作製したアルミニウム合金板からアルミニウム合金ディスクブランクを製造するに当たって、例えば、以下の方法を採用することができる。まず、アルミニウム合金板に打ち抜き加工を行って円環状を呈する中空円板を作製する。その後、中空円板を厚み方向の両側から加圧しながら加熱して加圧焼鈍を行うことにより、中空円板の歪みを低減させ、平坦度を向上させる。加圧焼鈍における保持温度と圧力は、例えば、250~430℃で1.0~3.0MPaの範囲から適宜選択することができる。また、加圧焼鈍における保持時間は、例えば、30分以上とすることができる。以上の工程によって、アルミニウム合金ディスクブランクが作製される。
【0067】
<アルミニウム合金基板の製造方法>
加圧焼鈍を行ったアルミニウム合金ディスクブランクに、切削加工及び研削加工を施す前に、焼鈍を行うことが好ましい。焼鈍時の保持温度は190~260℃であることが好ましく、190~240℃であることがより好ましく、190~220℃であることがさらに好ましい。また、焼鈍時の保持時間は0.1~10時間であることが好ましく、0.5~10時間であることがより好ましく、1~10時間であることがさらに好ましい。このような条件で焼鈍処理を行うことにより、固溶Mg等が析出し、その結果、アルミニウム合金ディスクブランクの導電率を上げることができる。
【0068】
焼鈍を行った後、アルミニウム合金ディスクブランクに切削加工及び研削加工を順次行い、所望の形状を有するアルミニウム合金基板を作製する。これらの加工を行った後に、必要に応じて、150~350℃で0.1~10.0時間の条件で、加工時の歪を除去する歪取り熱処理を行ってもよい。以上の工程によって、アルミニウム合金基板が作製される。
【0069】
2.磁気ディスク
本発明に係る磁気ディスクは、上述のアルミニウム合金ブランクを用いて形成されたアルミニウム合金基板と、当該アルミニウム合金基板の表面に設けられたNi-Pめっき処理層と、当該Ni-Pめっき処理層上に設けられた磁性体層とを備える。なお、Ni-Pめっき処理層は、無電解めっき処理により形成した無電解Ni-Pめっき処理層であることが好ましい。
【0070】
磁気ディスクは、更に、ダイヤモンドライクカーボン等の炭素系材料からなり、磁性体層上に積層された保護層を有していてもよく、保護層上に潤滑油が塗布された潤滑層を有していてもよい。
【0071】
<磁気ディスクの製造方法>
アルミニウム合金基板から磁気ディスクを製造する際、例えば、以下の方法を採用することができる。まず、めっき前処理として、アルミニウム合金基板に脱脂洗浄を行いアルミニウム合金基板の表面に付着した加工油等の油分を除去する。脱脂洗浄の後、必要に応じて、酸を用いてアルミニウム合金基板にエッチングを施してもよい。エッチングを行った場合には、エッチング後に、エッチングによって生じたスマットをアルミニウム合金基板から除去するデスマット処理を行なうことが好ましい。これらの処理における処理条件は、処理液の種類に応じて適宜設定することができる。
【0072】
これらのめっき前処理を行った後に、アルミニウム合金基板の表面にZn皮膜を形成するジンケート処理を行う。ジンケート処理においては、AlをZnに置換する亜鉛置換めっきを行うことにより、Zn皮膜を形成することができる。ジンケート処理としては、1回目の亜鉛置換めっきを行った後に、アルミニウム合金基板の表面に形成されたZn皮膜を一旦剥離し、再度亜鉛置換めっきを行ってZn皮膜を形成する、いわゆるダブルジンケート法を採用することが好ましい。ダブルジンケート法によれば、1回目の亜鉛置換めっきのみによって形成されるZn皮膜に比べて、より緻密なZn皮膜をアルミニウム合金基板の表面に形成することができる。その結果、後工程の無電解Ni-Pめっき処理においてNi-Pめっき処理層の欠陥を低減することができる。
【0073】
ジンケート処理によってアルミニウム合金基板の表面にZn皮膜を形成した後に、およそ80℃~95℃の温度で無電解Ni-Pめっき処理を行うことにより、Zn皮膜をNi-Pめっき処理層によって置換することができる。そして、無電解Ni-Pめっき処理においてこのようなZn皮膜をNi-Pめっき処理層によって置換することにより、めっきピットが少なく平滑なNi-Pめっき処理層を形成することができる。
【0074】
Ni-Pめっき処理層の厚さを厚くすると、めっきピットが少なくなる傾向があり、平滑なNi-Pめっき処理層を形成することができる。そのため、Ni-Pめっき処理層の厚さ(めっき厚)は7μm以上であることが好ましく、18μm以上であることがより好ましく、25μm以上であることが更に好ましい。なお、実用上、めっき厚の上限はおよそ40μmである。
【0075】
無電解Ni-Pめっき処理の後に、Ni-Pめっき処理層を研磨することにより、Ni-Pめっき処理層の表面の平滑性を更に高めることができる。
【0076】
無電解Ni-Pめっき処理又は研磨処理の後、Ni-Pめっき処理層上に、スパッタリングによって磁性体を付着させて磁性体層を形成する。磁性体層は、単一の層から構成されていてもよく、又は、互いに異なる組成を有する複数の層から構成されていてもよい。スパッタリングの温度等は常法が適用されるが、スパッタリングの温度が特に100℃以下の場合に、アルミニウム合金基板の導電率が高いと省エネルギー効果を発揮する。スパッタリングを行った後に、CVD(Chemical Vapor Deposition)によって磁性体層上に炭素系材料からなる保護層を形成する。次いで、保護層上に潤滑油を塗布して潤滑層を形成する。以上の工程により、磁気ディスクが作製される。
【0077】
以上、本発明に係るアルミニウム合金ブランク及び磁気ディスクについて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想に基づき、各種の変形及び変更が可能である。
【実施例0078】
以下に、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、室温とは20℃±10℃の範囲として定義する。
【0079】
<実施例1~3、比較例1~3>
(1)アルミニウム合金板の作製
以下の方法により、アルミニウム合金板を作製した。まず、溶解炉において、表1に示す化学成分を有する溶湯を調製した。
【0080】
【表1】
【0081】
次に、溶解炉内の溶湯を移し、表2に示す鋳造方法で鋳塊を作製した。次いで、鋳塊の表面を面削し、鋳塊表面に存在する偏析層を除去した。面削を行った後に鋳塊を表2に示す条件で加熱処理することによって均質化処理を行った。その後、熱間圧延を実施して熱間圧延板を得た。更に、表2に示す条件で冷間圧延を実施し、アルミニウム合金板を作製した。なお、比較例3は、熱間圧延で熱間圧延板に大きな割れが発生したため、冷間圧延以降の処理は行わなかった。
【0082】
(2)アルミニウム合金ディスクブランクの作製
作製したアルミニウム合金板に打ち抜き加工を施し、外径98mm、内径24mmの円環状を呈する中空円板を作製した。ここで、得られた中空円板を厚み方向の両側から加圧しつつ表2に示す温度及び0.1MPaの圧力で3時間保持して加圧焼鈍を実施し、アルミニウム合金ディスクブランクの試験材を作製した。なお、アルミニウム合金ディスクブランクの厚さは、表2に示す冷間圧延後の板厚と同じである。
【0083】
(ヤング率の測定)
加圧焼鈍後のアルミニウム合金ディスクブランクの表面から、60mm×8mmのサンプルをワイヤーカットで採取し、ヤング率を測定した。圧延方向と長手方向が平行な任意の領域におけるサンプルの採取方法は、図1に示す通りである。ヤング率の測定は、日本テクノプラス社製のJE-RT型の装置を用い共振法により室温で行った。測定に必要なサンプルのサイズ(縦、横、厚さ)は、マイクロメーターとノギスを用い測定し、重量は電子天秤を用いて測定した。ヤング率が70GPa以上である場合、耐衝撃性を「〇(優)」と評価し、70GPa未満である場合、耐衝撃性を「×(劣)」と評価した。結果を表2に示す。
【0084】
(表面の平均高さ(Rc))
加圧焼鈍後のアルミニウム合金ディスクブランクの表面の圧延方向Yに対して直角の方向(直角方向)Xにおいて、コンフォーカル顕微鏡(レーザーテック社製、HD100D)を用いて一の直線の長さ800μmの線上の平均高さ(Rc)を測定した。図2、3に示すように、まず、アルミニウム合金ディスクブランク表面の任意の領域Rにおいて、800μm×800μmの3次元画像を測定し、自動水平補正を行った。次いで、メディアンフィルタ処理(フィルタサイズ:5×5)を行い、圧延方向Yに対して直角方向Xにおいて、長さ800μmの線L上の平均高さ(Rc)を算出した。なお、表面の平均高さ(Rc)を測定する際は、測定断面曲線にカットオフ値λc=0.08mmのフィルタを適用して得られた曲線を用いて平均高さ(Rc)を算出した。
【0085】
(平坦度の測定)
加圧焼鈍後のアルミニウム合金ディスクブランクを用い平坦度の測定を行った。平坦度は、平坦度測定機(ZyGO社製、MESA)を用いて測定した。なお、平坦度とは、アルミニウム合金ディスクブランクの表面全体における最大山高さと最大谷深さの差で表わされる。ここで、最大山高さは測定範囲における輪郭曲線の平均線と測定範囲内で最も高い値との差であり、最大谷深さは当該平均線と測定範囲内で最も低い値との差である。平坦度が10μm以下である場合、耐変形抵抗性を評価「〇(優)」と評価し、10μmを超える場合、耐変形抵抗性を評価「×(劣)」と評価した。結果を表2に示す。
【0086】
【表2】
【0087】
表1及び2に示すように、所定の合金組成を有するアルミニウム合金ディスクブランクにおいて、アルミニウム合金ディスクブランクの表面の平均高さ(Rc)が0.25μm以上である実施例1~3では、高いヤング率及び平坦度を示し、優れた耐衝撃性及び耐変形抵抗性を達成することができた。
【0088】
一方、比較例1では、アルミニウム合金ディスクブランクの表面の平均高さ(Rc)が0.25μm未満であり、平坦度が10μmを超えていたため、耐変形抵抗性に劣っていた。
【0089】
比較例2では、アルミニウム合金ディスクブランクの表面の平均高さ(Rc)が0.25μm以上であるものの、アルミニウム合金ディスクブランクの合金組成において、Mgの含有量が3.50質量%より多く、また、Fe、Mn及びNiの含有量の合計も0.03質量%未満であったため、70GPa以上のヤング率を示さず、平坦度も10μmを超えていた。そのため、耐衝撃性及び耐変形抵抗性のいずれも劣っていた。
【0090】
比較例3では、アルミニウム合金ディスクブランクの合金組成において、Fe、Mn及びNiの含有量の合計が7.00質量%を超えていたため、粗大な第2相粒子が多数生成し、それに伴い、熱間圧延工程において熱間圧板に大きな割れが発生した。そのため、冷間圧延以降の処理は行うことができず、耐衝撃性及び耐変形抵抗性を評価することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明に係るアルミニウム合金ディスクブランクは、特定の合金組成との表面の平均高さ(Rc)を有することで、アルミニウム合金ディスクブランクの厚さが薄くても、優れた耐衝撃性及び耐変形抵抗性を示す。また、このようなアルミニウム合金ディスクブランクを用いることにより、耐衝撃性と耐変形抵抗性に優れた磁気ディスクを提供できる。
図1
図2
図3