(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020855
(43)【公開日】2024-02-15
(54)【発明の名称】静電チャック、基板固定装置、ペースト
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20240207BHJP
C04B 35/111 20060101ALI20240207BHJP
C04B 35/505 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
H01L21/68 R
C04B35/111
C04B35/505
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123355
(22)【出願日】2022-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】000190688
【氏名又は名称】新光電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】堀内 道夫
(72)【発明者】
【氏名】堀 凌輔
【テーマコード(参考)】
5F131
【Fターム(参考)】
5F131CA17
5F131EA03
5F131EB78
5F131EB81
(57)【要約】
【課題】静電電極にタングステンに代わる材料を用いた、基体と静電電極との密着性が高い静電チャックの提供。
【解決手段】本静電チャックは、基体と、前記基体に内蔵された静電電極と、を有し、前記基体は、セラミックスであり、前記静電電極は、チタニウムの酸化物であるTi
xO
y(原子比y/xは1.7未満)を主成分とする。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、
前記基体に内蔵された静電電極と、を有し、
前記基体は、セラミックスであり、
前記静電電極は、チタニウムの酸化物であるTixOy(原子比y/xは1.7未満)を主成分とする、静電チャック。
【請求項2】
前記静電電極は、前記チタニウムの酸化物のみから構成されている、請求項1に記載の静電チャック。
【請求項3】
前記静電電極は、前記チタニウムの酸化物、及びチタニウムの酸窒化物の内の一以上のみ、から構成されている、請求項1に記載の静電チャック。
【請求項4】
前記チタニウムの酸窒化物は、TiO0.34N0.74である、請求項3に記載の静電チャック。
【請求項5】
前記チタニウムの酸化物は、Ti3O5である、請求項1に記載の静電チャック。
【請求項6】
前記基体は、イットリウム・アルミニウム・ガーネット相を10モルパーセント以上80モルパーセント以下含有する酸化アルミニウムセラミックスである、請求項1乃至5の何れか一項に記載の静電チャック。
【請求項7】
前記基体は、酸化アルミニウムの純度が99重量パーセント以上の酸化アルミニウムセラミックスである、請求項1乃至5の何れか一項に記載の静電チャック。
【請求項8】
前記基体は、300℃における絶縁抵抗率が1014Ωcm以上である、請求項1乃至5の何れか一項に記載の静電チャック。
【請求項9】
ベースプレートと、
前記ベースプレートの一方の面に搭載された請求項1乃至5の何れか一項に記載の静電チャックと、を有する基板固定装置。
【請求項10】
二酸化チタン粉末とカーボン粉末を含有し、静電チャックの静電電極に用いるペーストであって、
前記二酸化チタン粉末の量に対する前記カーボン粉末の量が、モル比で1.8以上2.2以下の範囲となるように、前記二酸化チタン粉末及び前記カーボン粉末を含有するペースト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電チャック、基板固定装置、ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体装置を製造する際に使用される成膜装置やプラズマエッチング装置は、ウェハを真空の処理室内に精度良く保持するためのステージを有する。このようなステージとして、例えば、ベースプレートに搭載された静電チャックによりウェハを吸着保持する基板固定装置が提案されている。
【0003】
静電チャックは、基体、基体に内蔵された静電電極等を有する。基体は、例えば、高純度のアルミナセラミックスであり、静電電極は、例えば、タングステンを主成分とし、酸化ニッケル、酸化アルミニウム、及び二酸化ケイ素を含む焼結体である。
【0004】
上記の焼結体では、セラミックスとタングステンを同一条件で焼結させるが、タングステンは高融点(3300℃以上)のため焼結するのが難しく、適切な焼結助剤の添加が必要である。上記の焼結体では、酸化ニッケル、酸化アルミニウム、及び二酸化ケイ素が焼結助剤として機能する。このような、焼結助剤を用いることにより、基体と静電電極との密着性が高い静電チャックを実現している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、基体の材料によっては、タングステンに焼結助剤を加えると、焼結助剤の成分がセラミックス側へ拡散し、絶縁抵抗率が低下する場合がある。一方、タングステンに焼結助剤を加えないと、タングステンの焼結が進まず、基体と静電電極との密着性が得られなくなる。
【0007】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、静電電極にタングステンに代わる材料を用いた、基体と静電電極との密着性が高い静電チャックの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本静電チャックは、基体と、前記基体に内蔵された静電電極と、を有し、前記基体は、セラミックスであり、前記静電電極は、チタニウムの酸化物であるTixOy(原子比y/xは1.7未満)を主成分とする。
【発明の効果】
【0009】
開示の技術によれば、静電電極にタングステンに代わる材料を用いた、基体と静電電極との密着性が高い静電チャックを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態に係る基板固定装置を簡略化して例示する断面図である。
【
図2】本実施形態に係る基板固定装置を簡略化して例示する平面図である。
【
図3】本実施形態に係る静電チャックの製造工程について例示する斜視図(その1)である。
【
図4】本実施形態に係る静電チャックの製造工程について例示する斜視図(その2)である。
【
図5】実施例で作製した試験用サンプルの外観を示す写真である。
【
図6】実施例で作製した試験用サンプルの電極のX線回折分析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。なお、各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0012】
[基板固定装置の構造]
図1は、本実施形態に係る基板固定装置を簡略化して例示する断面図である。
図1を参照すると、基板固定装置1は、主要な構成要素として、ベースプレート10と、静電チャック20とを有している。基板固定装置1は、静電チャック20により吸着対象物である基板W(例えば、半導体ウェハ等)を吸着保持する装置である。
【0013】
ベースプレート10は、静電チャック20を搭載するための部材である。ベースプレート10の厚さは、例えば、20~40mm程度である。ベースプレート10は、例えば、アルミニウムや超硬合金等の金属材料や、その金属材料とセラミックス材との複合材料等から形成され、プラズマを制御するための電極等として利用できる。例えば、入手のし易さ、加工のし易さ、熱伝導性が良好である等の点から、アルミニウム又はその合金を使用し、その表面にアルマイト処理(絶縁層形成)を施したものが好適に使用できる。
【0014】
例えば、ベースプレート10に所定の高周波電力を給電することで、発生したプラズマ状態にあるイオン等を静電チャック20上に吸着された基板Wに衝突させるためのエネルギーを制御し、エッチング処理を効果的に行うことができる。
【0015】
ベースプレート10の内部に、静電チャック20上に吸着された基板Wを冷却する不活性ガスを導入するガス供給路が設けられてもよい。基板固定装置1の外部からガス供給路に、例えば、HeやAr等の不活性ガスが導入され、静電チャック20上に吸着された基板Wの裏面に不活性ガスが供給されると、基板Wを冷却できる。
【0016】
ベースプレート10の内部に、冷媒流路が設けられてもよい。冷媒流路は、例えば、ベースプレート10の内部に環状に形成された孔である。基板固定装置1の外部から冷媒流路に、例えば、冷却水やガルデン等の冷媒が導入される。冷媒流路に冷媒を循環させベースプレート10を冷却することで、静電チャック20上に吸着された基板Wを冷却できる。
【0017】
静電チャック20は、吸着対象物である基板Wを吸着保持する部分である。静電チャック20の平面形状は、基板Wの形状に応じて形成されるが、例えば、円形である。静電チャック20の吸着対象物であるウェハの直径は、例えば、8、12、又は18インチである。
【0018】
なお、平面視とは対象物をベースプレート10の上面10aの法線方向から視ることを指し、平面形状とは対象物をベースプレート10の上面10aの法線方向から視た形状を指すものとする。
【0019】
静電チャック20は、接着層を介して、ベースプレート10の上面10aに搭載されている。接着層は、例えば、シリコーン系接着剤である。接着層の厚さは、例えば、0.1~2.0mm程度である。接着層は、ベースプレート10と静電チャック20を接着すると共に、セラミックス製の静電チャック20とアルミニウム製のベースプレート10との熱膨張率の差から生じるストレスを低減させる効果を有する。なお、ベースプレート10に対して静電チャック20をネジにより固定してもよい。
【0020】
静電チャック20は、主要な構成要素として、基体21と、静電電極22と、発熱体24とを有するセラミックス基板である。基体21の上面は、吸着対象物が載置される載置面21aである。静電チャック20は、例えば、クーロン力型静電チャックである。
【0021】
基体21は、誘電体である。基体21の厚さは、例えば、5~10mm程度である。基体21の比誘電率(1kHz)は、例えば、9~10程度である。基体21は、300℃における絶縁抵抗率が1014Ωcm以上であることが好ましい。
【0022】
基体21は、例えば、酸化アルミニウム(Al2O3)、イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)を主成分とするセラミックスである。
【0023】
基体21は、イットリウム・アルミニウム・ガーネット相(YAG相)を10モルパーセント以上80モルパーセント以下含有する酸化アルミニウムセラミックスであることが好ましい。これにより、300℃における基体21の絶縁抵抗率を1014Ωcm以上とすることができる。
【0024】
基体21は、酸化アルミニウムの純度が99重量パーセント以上の酸化アルミニウムセラミックスであってもよい。これにより、300℃における基体21の絶縁抵抗率を1014Ωcm以上とすることができる。なお、純度が99%以上であることは、焼結助剤を添加することなく形成されることを示す。又、純度が99%以上であることは、製造工程等において意図しない不純物を含む場合もあることを意味している。基体21は、酸化アルミニウムに対する相対密度が97%以上であることが好ましい。基体21において、酸化アルミニウムの平均粒径は、1.0μm以下であることが、焼結性を高めるうえで好ましい。
【0025】
静電電極22は、導電体パターンにより形成された薄膜電極であり、基体21に内蔵されている。本実施形態では、静電電極22は双極タイプであり、第1静電電極22aと第2静電電極22bを有している。なお、静電電極22として、1つの静電電極からなる単極タイプが使用されてもよい。
【0026】
静電電極22は、チタニウムの酸化物であるTixOy(原子比y/xは1.7未満)を主成分とする。ここで主成分とは、静電電極22を構成する全物質の80wt%以上を占める成分のことを意味する。静電電極22は、チタニウムの酸化物であるTixOy(原子比y/xは1.7未満)のみ、または、チタニウムの酸化物であるTixOy(原子比y/xは1.7未満)及びチタニウムの酸窒化物の内の一以上のみ、から構成されることが好ましい。チタニウムの酸化物であるTixOy(原子比y/xは1.7未満)は、例えばTi3O5であるが、これには限定されない。また、チタニウムの酸窒化物は、例えばTiO0.34N0.74であるが、これには限定されない。
【0027】
静電電極22が、チタニウムの酸化物であるTixOy(原子比y/xは1.7未満)を主成分とする場合、焼結助剤を用いないで静電電極22となるペーストを焼成しても、基体21との密着性を確保できる。また、焼結助剤を用いないため、焼結助剤の成分が基体21側へ拡散することがなく、基体21は高い絶縁抵抗率を維持できる。これらの効果を奏する基体21には、少なくとも、YAG相を10モルパーセント以上80モルパーセント以下含有する酸化アルミニウムセラミックスと、酸化アルミニウムの純度が99重量パーセント以上の酸化アルミニウムセラミックスとが含まれる。
【0028】
このように、静電チャック20では、産業上や軍事上で重要性の高い金属ながら、地球の地殻において濃度の低い元素であり、産出地も偏在しており、紛争鉱物にも指定されているタングステンを用いずに電極を形成できる。また、特にY2O3を含むセラミックス中へ拡散して特性を劣化させやすいSiO2等の焼結助剤を用いないため、焼結助剤の成分が基体21側へ拡散することがない。
【0029】
第1静電電極22aは、基板固定装置1の外部に設けられた電源40aの正極側に接続されている。又、第2静電電極22bは、基板固定装置1の外部に設けられた電源40bの負極側に接続されている。電源40aの負極側と電源40bの正極側が基板固定装置1の外部で接続されており、接続点が接地電位となる。
【0030】
第1静電電極22aに電源40aからプラス(+)の電圧が印加され、第2静電電極22bに電源40bからマイナス(-)の電圧が印加される。これにより、第1静電電極22aにプラス(+)電荷が帯電し、第2静電電極22bにマイナス(-)電荷が帯電する。これに伴って、第1静電電極22aに対応する基板Wの部分Waにマイナス(-)電荷が誘起され、第2静電電極22bに対応する基板Wの部分Wbにプラス(+)電荷が誘起される。
【0031】
基板Wと静電電極22とその間に配置される静電チャック20(基体21)のセラミックス部25とをコンデンサとみなした場合、セラミックス部25が誘電層に相当する。そして、セラミックス部25を介して静電電極22と基板Wとの間に発生したクーロン力によって基板Wが静電チャック20の上に静電吸着される。吸着保持力は、静電電極22に印加される電圧が高いほど強くなる。
【0032】
発熱体24は、基体21に内蔵されており、電流が流れると発熱して基体21の載置面21aが所定の温度となるように加熱するヒータである。発熱体24は、第1静電電極22a及び第2静電電極22bの下側(ベースプレート10側)に配置されている。発熱体24は、膜状に形成された導電体である。発熱体24は、基体21を平面的に複数の領域(ヒータゾーン)を独立して加熱制御することが可能な複数のヒータ電極として設けられる。なお、発熱体24は、1つのヒータ電極として設けられてもよい。発熱体24の材料としては、例えば、静電電極22と同様の材料を使用することができる。
【0033】
基板固定装置1の外部に設けられた電源から発熱体24に電流が供給されると、発熱体24が発熱して静電チャック20が加熱される。静電チャック20の温度により、基板Wが所定の温度に制御される。静電チャック20の加熱温度は、50℃~200℃の範囲内で、例えば150℃に設定される。
【0034】
図2は、本実施形態に係る基板固定装置を簡略化して例示する平面図である。
図2を参照すると、基板固定装置1では、円盤状のベースプレート10の上に静電チャック20が配置され、静電チャック20の周囲においてベースプレート10の周縁部が露出している。ベースプレート10の周縁部には、半導体製造装置のチャンバに取り付けるための取付孔11が周縁部に沿って配列されている。
【0035】
又、静電チャック20及びベースプレート10は、中央部に複数(
図2では3つ)のリフトピン用開口部12を有している。リフトピン用開口部12には、基板Wを上下方向に移動するリフトピンが挿通される。リフトピンで基板Wを載置面21aより上昇させることにより、搬送装置による基板Wの自動搬送が可能になる。
【0036】
[静電チャックの製造方法]
次に、静電チャック20の製造方法について説明する。
図3及び
図4は、本実施形態に係る静電チャックの製造工程について例示する斜視図である。
【0037】
まず、
図3(a)に示すように、セラミックス材料と有機材料からなるグリーンシート51を準備する。グリーンシート51は、例えば、矩形板状に形成されている。グリーンシート51のセラミックス材料は、例えば、YAG相を10モルパーセント以上80モルパーセント以下含有する酸化アルミニウムセラミックスや、酸化アルミニウムの純度が99重量パーセント以上の酸化アルミニウムセラミックスである。グリーンシート51のセラミックス材料は、焼結助剤を含まない。グリーンシート51は、有機成分が除去されセラミックス材料が焼結し、緻密化することにより、
図1に示す基板Wが搭載される部分の基体21となるものである。
【0038】
次に、
図3(b)に示すように、グリーンシート51と同様の材料及び同様の形状からなるグリーンシート52を準備し、グリーンシート52の上面に、例えば印刷法(スクリーン印刷)により導電性のペーストを印刷して導電体パターン55を形成する。導電体パターン55は、後述する工程において焼成されることにより、
図1に示す静電電極22となるものである。なお、導電体パターン55は、グリーンシート51の下面に形成されてもよい。
【0039】
導電体パターン55を形成するためのペーストとしては、例えば、二酸化チタン粉末とカーボン粉末を含有するペーストを用いることができる。このペーストは、二酸化チタン粉末の量に対するカーボン粉末の量が、モル比で1.8以上2.2以下の範囲となるように、二酸化チタン粉末及びカーボン粉末を含有することが好ましい。このようなペーストを用いることで、後の工程において導電体パターン55を焼結すると、チタニウムの酸化物であるTixOy(原子比y/xは1.7未満)を主成分とする静電電極22が得られる。
【0040】
次に、
図3(c)に示すように、グリーンシート51と同様の材料及び同様の形状からなるグリーンシート53を準備し、グリーンシート53の上面に、例えば印刷法(スクリーン印刷)により、導電性ペーストを印刷して導電体パターン57を形成する。導電体パターン57を形成する導電性ペーストは、上述の導電体パターン55を形成する導電性ペーストと同じ材料の導電性ペーストを用いることができる。グリーンシート53は、焼成されることにより、
図1に示す発熱体24を形成するためのものであり、ベースプレート10に接着される部分の基体21となるものである。導電体パターン57は、後述する工程において焼成されることにより、発熱体24となるものである。なお、導電体パターン57は、上述のグリーンシート52の下面に形成されてもよい。
【0041】
次に、
図4(a)に示すように、各グリーンシート51~53が積層されて構造体71aが形成される。各グリーンシート51~53は、加熱しながら加圧することにより、互いに接着される。次に、
図4(b)に示すように、構造体71aの周囲を切断して円盤状の構造体71bが形成される。
【0042】
次に、
図4(b)に示す構造体71bを焼成して、
図4(c)に示すセラミックス基板72aが得られる。焼成する際の温度は、例えば、1600℃である。この工程では、導電体パターン55を焼結することで、チタニウムの酸化物であるTi
xO
y(原子比y/xは1.7未満)を主成分とする静電電極22が得られる。また、導電体パターン57を焼結することで発熱体24が得られる。
【0043】
次に、セラミックス基板72aに対して各種の加工が施され、静電チャック20が完成する。例えば、セラミックス基板72aの上下両面が研磨されて載置面と接着面とが形成される。又、セラミックス基板72aに、
図1に示すリフトピン用開口部12が形成される。
【0044】
以下、実施例を挙げて本発明について更に具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0045】
[実施例]
二酸化チタン(TiO2)粉末とカーボン(C:グラファイト)粉末をモル比1:2で混合し、エチルセルロースとテレピネオールを主成分とする市販のビークルと混練して電極形成用ペーストを準備した。
【0046】
一方、Y2O3(純度99.99重量パーセント)を10モルパーセント含み、残部が酸化アルミニウム(純度99.99重量パーセント)からなる無機粉末混合物に、ポリビニルブチラールとフタル酸ジnブチルを主たる有機成分として加え、有機溶媒を用いたボールミル法によりスラリーを調合し、ドクターブレード法にてグリーンシートを準備した。
【0047】
次に、このグリーンシートを特定形状に打ち抜いた後、2層を加熱加圧法により積層体とした。この積層体上に粘着テープを用いてマスクを形成し、上記の電極形成用ペーストを簡易的なスキージ法で塗布し、試験用サンプルとした。
【0048】
次に、上記の試験用サンプルを大気雰囲気中400℃で加熱処理し、有機成分を除去した。このように、脱脂雰囲気として大気が利用できるので、脱脂が容易であり、また焼成中の残留有機物の影響を排除できる。
図5(a)に示すように、この脱脂体の外観は、グリーンシート部(図中301で示す)は完全な白色であり、タングステンペースト層を含む場合に採用される中性雰囲気(N
2またはN
2+H
2O)中で処理された脱脂体の黒灰色とは明確に異なる色相であった。
【0049】
一方、電極形成用ペーストの塗布部(図中302で示す)は黒灰色で、膨張などの異常は観られなかった。坩堝に入れて同時に熱処理した未乾燥処理のグラファイト粉末の重量変化は約0.9パーセントであった。
【0050】
次に、上記の脱脂体をドライN
2雰囲気中、1560℃で2時間焼成した結果、
図5(b)に示すように、セラミックス部(図中301Fで示す)が完全な白色で、電極(図中302Fで示す)が黒灰色を呈する緻密な焼結体が得られた。電極302Fの膨れや周縁部の滲みは観られず、スクラッチテストでも破壊や剥離が発生せず、十分な密着性が得られていた。また、室温二端子法による電極302Fの抵抗値は約20Ωであり、静電チャック20の静電電極22として機能するのに十分な導電性が確認された。
【0051】
次に、電極302FのX線回折分析を行った。
図6は、実施例で作製した試験用サンプルの電極302FのX線回折分析結果である。
図6において、横軸はX線の回折角(2θ)、縦軸は回折X線の強度である。
図6に示すように、Ti
3O
5の回折パターンが確認された。なお、チタニウムの酸窒化物であるTiO
0.34N
0.74も同一の回折パターンをもつが、微量窒素の検出には限界があるため、そのような酸窒化物が僅かに共存する可能性は否定できない。
【0052】
X線回折分析の結果を前述の室温二端子法による測定結果と合わせて考えると、Ti3O5を主成分とする電極の抵抗値は約20Ωであり、これは静電電極として機能するのに十分な導電性である。また、Ti3O5においてTiに対する酸素の原子比は約1.7である。よって、チタニウムの酸化物であるTixOyにおいて原子比y/xが1.7未満であれば、Ti3O5よりも低い抵抗値が得られることになり、静電電極として使用可能である。
【0053】
なお、上記は電極形成用ペーストの塗布部の確認及び解析のために、電極を表層に形成したが、電極を積層体中に形成しても問題となる知見は無い。
【0054】
また、カーボンが共存しない高温での条件下では、TiO2はAl2O3と反応してAl2TiO5を生成するが、今回の無酸素雰囲気(ドライN2)中のカーボンが共存する条件下では、TiO2はAl2O3との直接反応物は確認されなかった。しかしながら、電極形成用ペーストの塗布部とセラミックスとの界面部では検出化限界以下の微量の反応物の生成可能性を否定できる知見は無い。
【0055】
また、Al2O3自体は、TiO2が共存せず、カーボンとN2のみが共存する場合は、約1150℃から還元窒化されてAlNが生成されるが、今回の試験用サンプルでは検出されていない。
【0056】
また、今回の条件下では、TiO2相は約800℃で消失することが分かった。
【0057】
以上、好ましい実施形態等について詳説したが、上述した実施形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0058】
例えば、本実施形態において、発熱体24は、静電チャック20とベースプレート10との間に配設されてもよい。又、発熱体24は、ベースプレート10に内設されてもよい。又、発熱体24は、静電チャックの下に外付けされてもよい。
【0059】
又、本実施形態に係る基板固定装置は、半導体製造装置、例えばドライエッチング装置(例えば平行平板型の反応性イオンエッチング(RIE:Reactive Ion Etching)装置)に適用される。
【0060】
又、本実施形態に係る基板固定装置の吸着対象物としては、半導体ウェハ(シリコンウエハ等)以外に、液晶パネル等の製造工程で使用されるガラス基板等を例示できる。
【符号の説明】
【0061】
1 基板固定装置
10 ベースプレート
11 取付孔
12 リフトピン用開口部
20 静電チャック
21 基体
22 静電電極
22a 第1静電電極
22b 第2静電電極
24 発熱体
25 セラミックス部
40a、40b 電源
51、52、53 グリーンシート
55、57 導電体パターン
71a、71b 構造体
72a セラミックス基板