(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020933
(43)【公開日】2024-02-15
(54)【発明の名称】アブレーションカテーテル
(51)【国際特許分類】
A61B 18/14 20060101AFI20240207BHJP
A61M 25/00 20060101ALI20240207BHJP
A61L 29/04 20060101ALI20240207BHJP
C08L 101/08 20060101ALI20240207BHJP
C08L 33/02 20060101ALI20240207BHJP
C08K 5/098 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
A61B18/14
A61M25/00 550
A61L29/04 100
C08L101/08
C08L33/02
C08K5/098
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123497
(22)【出願日】2022-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100163038
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 武志
(74)【代理人】
【識別番号】100193725
【弁理士】
【氏名又は名称】小森 幸子
(72)【発明者】
【氏名】近藤 嘉紀
(72)【発明者】
【氏名】井本 鷹行
(72)【発明者】
【氏名】菅原 祐大
(72)【発明者】
【氏名】下田 裕也
【テーマコード(参考)】
4C081
4C160
4C267
4J002
【Fターム(参考)】
4C081AC08
4C081BB03
4C081BB09
4C081BC02
4C081CA081
4C081DA12
4C160KK03
4C160KK13
4C160KK36
4C160MM38
4C267AA05
4C267AA29
4C267BB42
4C267CC19
4C267DD10
4C267GG02
4C267HH01
4J002AA061
4J002BG011
4J002EG036
4J002FD146
4J002GB00
(57)【要約】
【課題】 状況に応じて先端近傍部を任意の硬度に変化させることで留置性を高め、治療効果も高めることができるアブレーションカテーテルの提供。
【解決手段】 外部刺激により硬度が変化する硬度調節用物質と、前記硬度調節用物質の硬度を制御する硬度制御手段とを有するアブレーションカテーテル。
【選択図】
図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部刺激により硬度が変化する硬度調節用物質と、前記硬度調節用物質の硬度を制御する硬度制御手段とを有するアブレーションカテーテル。
【請求項2】
前記硬度調節用物質が、熱を前記外部刺激として硬度が変化する物質である、請求項1に記載のアブレーションカテーテル。
【請求項3】
前記硬度調節用物質が、カルボキシル基を有するポリマー及び有機酸2価金属塩を含む温度応答性ハイドロゲルである、請求項2に記載のアブレーションカテーテル。
【請求項4】
前記カルボキシル基を有するポリマーが、カルボキシル基を有するモノマーのホモポリマー又は前記モノマーを含む複数種のモノマーのコポリマーである、請求項3に記載のアブレーションカテーテル。
【請求項5】
前記カルボキシル基を有するモノマーが、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸及びクロトン酸から成る群から選ばれる少なくとも1種である、請求項4に記載のアブレーションカテーテル。
【請求項6】
前記カルボキシル基を有するモノマーのホモポリマーが、ポリアクリル酸又はポリメタクリル酸である、請求項4に記載のアブレーションカテーテル。
【請求項7】
前記硬度制御手段が、前記硬度調節用物質に熱を与える熱付与部を有する請求項2に記載のアブレーションカテーテル。
【請求項8】
前記熱付与部が、ペルチェ素子、マイクロヒーター、フィルムヒーター又はリード線である、請求項7に記載のアブレーションカテーテル。
【請求項9】
前記硬度調節用物質が、電圧を前記外部刺激として硬度が変化する物質である、請求項1に記載のアブレーションカテーテル。
【請求項10】
前記硬度調節用物質が、電気粘性流体である、請求項9に記載のアブレーションカテーテル。
【請求項11】
前記電気粘性流体が、体積一定のまま通電により硬度が変化するゲル状物質である、請求項10に記載のアブレーションカテーテル。
【請求項12】
前記硬度制御手段が、前記硬度調節用物質に電圧を与える電圧付与部を有する、請求項9に記載のアブレーションカテーテル。
【請求項13】
前記アブレーションカテーテルが、生体内に挿入されるシャフト部を有し、
前記シャフト部が、先端部に、生体組織に熱的影響を与える熱要素を有し、
前記シャフト部が、前記先端部の近傍である先端近傍部であって、かつ前記先端部よりも基端側に、前記硬度調節用物質を有する、請求項1に記載のアブレーションカテーテル。
【請求項14】
前記先端近傍部の前記硬度調節用物質の硬度が変化することにより、前記先端部の留置性が高まる、請求項13に記載のアブレーションカテーテル。
【請求項15】
外部刺激により硬度が変化する硬度調節用物質と、前記硬度調節用物質の硬度を制御する硬度制御手段とを有する医療機器。
【請求項16】
前記硬度調節用物質が、熱を前記外部刺激として硬度が変化する物質である、請求項15に記載の医療機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織をアブレーション(焼灼)するための医療機器として用いられるアブレーションカテーテルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、所定の疾患に罹患した生体組織を局所的に処置してその治療を図る方法として、アブレーション治療が実施されている。アブレーション治療は、生体組織に対して熱エネルギー等を付与して疾患部位を焼灼や壊死させることにより、疾患により引き起こされる機能不全等の症状の回復を図る治療方法である。アブレーション治療は、例えば、頻脈性不整脈を治療するための心筋焼灼術や、近年注目されている腎交感神経焼灼術(腎交感神経アブレーション)などへの適用が試みられている。
【0003】
アブレーション治療は、アブレーションカテーテルと呼ばれる医療機器を使用して行われる。アブレーションカテーテルは、一般的に、生体組織に対して熱エネルギー等を付与するための熱要素と、その熱要素を生体内の所望の位置へ送達させるための長尺状のシャフト部が備えられる。術者は、治療に際して、X線撮影などにより予め取得した疾患部位周辺の画像を参考にして、手元でアブレーションカテーテルを操作して、処置対象部位となる生体組織へ熱要素を出力する位置決めする作業を行う。そして、位置決めした後、カテーテル先端部を組織に接地した状態で留置し、熱要素から生体組織へ熱エネルギー等を付与してその処置を完了する。
【0004】
近年では、頻脈性不整脈を治療するためのアブレーションカテーテルとして、Tacti Cath(アボット社)やThermо Cооl SmartTоuch(バイオセンス・ウエブスター社)などから、先端にコンタクトフォース(CF)センサーが組み込まれたアブレーションカテーテルが市販されている。CFは焼灼サイズを規定する重要な因子である。CFに加え、出力と通電時間が重要な指標とみなされており、これらはAblatiоn Indexと呼ばれる。出力は高周波出力発生装置にて設定可能なのに対して、通電時間はアブレーションカテーテルの留置性に影響を受けてしまう。つまり、アブレーションカテーテルの先端の留置性が低い状態(焼灼したい組織から容易に離れてしまう状態)では通電時間をコントロールできず、総通電時間が短くなる恐れがある。その結果、十分な治療効果が得られず、場合によっては再発に至ってしまう。
【0005】
以上より、アブレーション治療において、アブレーションカテーテル先端部の組織接地の留置性は非常に重要である。これまでに可撓性先端部を有するアブレーションカテーテルが検討されている(特許文献1および特許文献2)。変形可能なヘッドを有するカテーテルや、力が加わった時に先端の溝により先端の軸方向長さが短縮することで可撓性を提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6403947号公報
【特許文献2】実用新案登録第3161030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
アブレーションカテーテルの先端部の組織接地の留置性を上げるにはアブレーションカテーテルの先端近傍部の硬度を上げると良いと考えられる。一方、穿孔防止など安全性の観点からはアブレーションカテーテル先端近傍部の硬度は下げた形態が好ましい。留置性と安全性向上を考慮するとアブレーションカテーテルの先端近傍部の硬度を任意に調節できるものが好ましい。
しかし、先端近傍部を任意の硬度に変化可能なアブレーションカテーテルの報告例は無い。
【0008】
そこで本発明は、状況に応じて先端近傍部を任意の硬度に変化させることで留置性を高め、治療効果も高めることができるアブレーションカテーテルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決する為、鋭意検討を行った結果、上記の課題を解決出来ることを見出し、以下の要旨を有する本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は以下の態様を包含するものである。
[1] 外部刺激により硬度が変化する硬度調節用物質と、前記硬度調節用物質の硬度を制御する硬度制御手段とを有するアブレーションカテーテル。
[2] 前記硬度調節用物質が、熱を前記外部刺激として硬度が変化する物質である、[1]に記載のアブレーションカテーテル。
[3] 前記硬度調節用物質が、カルボキシル基を有するポリマー及び有機酸2価金属塩を含む温度応答性ハイドロゲルである、[2]に記載のアブレーションカテーテル。
[4] 前記カルボキシル基を有するポリマーが、カルボキシル基を有するモノマーのホモポリマー又は前記モノマーを含む複数種のモノマーのコポリマーである、[3]に記載のアブレーションカテーテル。
[5] 前記カルボキシル基を有するモノマーが、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸及びクロトン酸から成る群から選ばれる少なくとも1種である、[4]に記載のアブレーションカテーテル。
[6] 前記カルボキシル基を有するモノマーのホモポリマーが、ポリアクリル酸又はポリメタクリル酸である、[4]に記載のアブレーションカテーテル。
[7] 前記硬度制御手段が、前記硬度調節用物質に熱を与える熱付与部を有する[2]から[6]のいずれかに記載のアブレーションカテーテル。
[8] 前記熱付与部が、ペルチェ素子、マイクロヒーター、フィルムヒーター又はリード線である、[7]に記載のアブレーションカテーテル。
[9] 前記硬度調節用物質が、電圧を前記外部刺激として硬度が変化する物質である、[1]に記載のアブレーションカテーテル。
[10] 前記硬度調節用物質が、電気粘性流体である、[9]に記載のアブレーションカテーテル。
[11] 前記電気粘性流体が、体積一定のまま通電により硬度が変化するゲル状物質である、[10]に記載のアブレーションカテーテル。
[12] 前記硬度制御手段が、前記硬度調節用物質に電圧を与える電圧付与部を有する、[9]から[11]のいずれかに記載のアブレーションカテーテル。
[13] 前記アブレーションカテーテルが、生体内に挿入されるシャフト部を有し、
前記シャフト部が、先端部に、生体組織に熱的影響を与える熱要素を有し、
前記シャフト部が、前記先端部の近傍である先端近傍部であって、かつ前記先端部よりも基端側に、前記硬度調節用物質を有する、[1]から[12]のいずれかに記載のアブレーションカテーテル。
[14] 前記先端近傍部の前記硬度調節用物質の硬度が変化することにより、前記先端部の留置性が高まる、[13]に記載のアブレーションカテーテル。
[15] 外部刺激により硬度が変化する硬度調節用物質と、前記硬度調節用物質の硬度を制御する硬度制御手段とを有する医療機器。
[16] 前記硬度調節用物質が、熱を前記外部刺激として硬度が変化する物質である、[15]に記載の医療機器。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、状況に応じて先端近傍部を任意の硬度に変化させることで留置性を高め、治療効果も高めることができるアブレーションカテーテルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態に係るアブレーションカテーテルを有するアブレーションシステムの概略図である。
【
図2A】
図2Aは、アブレーションカテーテルの先端の拡大断面図である。
【
図4A】
図4Aは、硬度制御手段の変形例であり、かつアブレーションカテーテルの先端の拡大断面図である。
【
図5】
図5は、硬度制御手段の他の変形例であり、かつアブレーションカテーテルの先端の拡大断面図である。
【
図6A】
図6Aは、硬度調節用物質及び硬度制御手段の変形例であり、かつアブレーションカテーテルの先端の拡大断面図である。
【
図7A】
図7Aは、本発明の実施の形態に係るガイドワイヤの概略図である。
【
図8A】
図8Aは、本発明の実施の形態に係る電極カテーテルの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(アブレーションカテーテル)
本発明のアブレーションカテーテルは、硬度調節用物質と、硬度制御手段とを有する。
アブレーションカテーテルは、例えば、生体内に挿入されるシャフト部を有する。
シャフト部は、例えば、先端部に、生体組織に熱的影響を与える熱要素を有する。
シャフト部は、例えば、先端部の近傍である先端近傍部であって、かつ先端部よりも基端側に、硬度調節用物質を有する。
【0014】
本発明のアブレーションカテーテルでは、先端近傍部の硬度調節用物質の硬度が変化することにより、先端部の留置性が高まる。
【0015】
本発明において、アブレーションカテーテルのシャフト部において、生体内に挿入する側を「先端側」、操作する手元側を「基端側」と称する。
また、本発明において、「先端部」及び「先端近傍部」からなる領域を「先端」と称する。
【0016】
アブレーションカテーテルは、アブレーションカテーテルシステムに用いられる。
アブレーションカテーテルシステムは、アブレーションカテーテルを有し、更に必要に応じて、エネルギー供給装置、対極板などを有する。
【0017】
<硬度調節用物質>
硬度調節用物質は、外部刺激により硬度が変化する。外部刺激としては、例えば、熱、電圧、磁力などが挙げられる。
硬度調節用物質は、例えば、熱を外部刺激として硬度が変化する物質である。
硬度調節用物質が、例えば、電圧を外部刺激として硬度が変化する物質である。
硬度調節用物質が、例えば、磁力を外部刺激として硬度が変化する物質である。
【0018】
<<温度応答性ハイドロゲル>>
熱を外部刺激として硬度が変化する物質としては、特に制限されないが、カルボキシル基を有するポリマー及び有機酸2価金属塩を含む温度応答性ハイドロゲルが好ましい。このような温度応答性ハイドロゲルとしては、例えば、国際公開第2018/117165号パンフレットに記載の温度応答性ハイドロゲルが挙げられる。国際公開第2018/117165号パンフレットの内容は、全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。
【0019】
温度応答性ハイドロゲルにおいて、例えば、カルボキシル基を有するポリマーは、カルボキシル基を有するモノマーのホモポリマー又はモノマーを含む複数種のモノマーのコポリマーである。
カルボキシル基を有するモノマーは、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸及びクロトン酸から成る群から選ばれる少なくとも1種である。
カルボキシル基を有するモノマーのホモポリマーは、例えば、ポリアクリル酸又はポリメタクリル酸である。
コポリマーを構成するカルボキシル基を有するモノマー以外のモノマーは、例えば、(メタ)アクリレート系単量体、(メタ)アクリルアミド系単量体、スチレン系単量体から成る群から選ばれる少なくとも1種である。
コポリマーは、例えば、モル比で50%以上がカルボキシル基を有するモノマー由来である。
ポリマー中のカルボキシル基の含有量は、例えば、0.001~0.05mol/gの範囲である。
カルボキシル基を有するポリマーは、例えば、架橋構造を有する。
架橋構造は、化学架橋構造及び/又は物理架橋構造である。
有機酸は、例えば、ギ酸、酢酸、及びプロピオン酸から成る群から選ばれる少なくとも1種の有機酸である。
2価金属は、例えば、アルカリ土類金属である。
有機酸2価金属塩のポリマー中の濃度は、50mMから飽和濃度までの範囲である。
温度応答性ハイドロゲルは、例えば、下限臨界共溶温度(LCST)を有する。
温度応答性ハイドロゲルは、例えば、LCST未満の温度域では透明であり、LCST超の温度域では白濁状態である。
温度応答性ハイドロゲルの下限臨界共溶温度(Low critical solution temperature(LCST))は、例えば、10~80℃の範囲である。
【0020】
温度応答性ハイドロゲルは、例えば、以下の性質を有する。
(1)LCST未満では透明、LCST超では相分離し白濁する。
(2)LCST未満では柔らかく、LCST超では相対的に高強度・高靱性を示す。LCST超では温度が高いほど弾性率及び靱性が向上する傾向があるが、ある温度以上では強い相分離によって弾性率が急上昇し(極めて硬くなり)、靱性が下がる場合がある。
(3)LCST前後で体積の変化がほぼゼロであり、体積相転移を示さない。
(4)温度応答性相分離は可逆的である。
【0021】
化学架橋構造(架橋剤による)を有する温度応答性ハイドロゲルは、例えば、以下の性質を有する。
(5)昇温降温ともに温度応答性が、物理架橋構造のゲルに比べて速い。
【0022】
物理架橋構造(架橋剤によらない)を有する温度応答性ハイドロゲルは、例えば、以下の性質を有する。
(6)温度応答性が、化学架橋構造のゲルに比べて遅い。特に降温が遅い傾向がある。
(7)LCST超で極めて硬くなる(プラスチック(例えば、アクリル樹脂)に近い硬度を示すことがある)。
(8)切れても、切断面を接しておけば再生する(自己修復性)ことができる。
(9)LCSTより低温における形状を、LCSTより高温でも保持できる(形状維持性)。
(10)生体環境下(例えば、生理食塩水中)で溶解性を示す(生分解性・生体内吸収性)。
【0023】
カルボキシル基を有するポリマーは、カルボキシル基を有する有機高分子化合物であれば特に制限はなく、例えば、カルボキシル基を有するモノマーのホモポリマー又はモノマーを含む複数種のモノマーのコポリマーである。
【0024】
カルボキシル基を有するモノマーは、例えば、分子内に1個又は2個以上のカルボキシル基を含むα,β-不飽和カルボン酸であることができる。そのようなα,β-不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、アコニット酸、フマル酸及びクロトン酸等を挙げることができる。
【0025】
カルボキシル基を有するモノマーのホモポリマーは、例えば、ポリアクリル酸、又はポリメタクリル酸であることができる。但し、これらのホモポリマーに限定される意図ではない。
【0026】
コポリマーは、カルボキシル基を有するモノマーの複数種からなるコポリマー、及びカルボキシル基を有するモノマーとカルボキシル基を有するモノマー以外のモノマーとのコポリマーであることができる。コポリマーを構成するカルボキシル基を有するモノマー以外のモノマーは特に制限はなく、例えば、(メタ)アクリレート系単量、(メタ)アクリルアミド系単量体、スチレン系単量体から成る群から選ばれる少なくとも1種であることができる。
【0027】
(メタ)アクリレート系単量体としては、特に限定されないが、例えば、α,β-エチレン性不飽和カルボン酸エステル、α,β-エチレン性不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステル、α,β-エチレン性不飽和カルボン酸のアルコキシアルキルエステル等が挙げられる。
エチレン性不飽和カルボン酸エステルとしては、例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、n-プロピルアクリレート、n-プロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート等が挙げられる。
α,β-エチレン性不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステルとしては、例えば、2-ヒドロキシルエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、3-ヒドロキシプロピルメタクリレート等が挙げられる。
α,β-エチレン性不飽和カルボン酸のアルコキシアルキルエステルとしては、例えば、ジエチレングリコールメタクリレート等が挙げられる。
【0028】
アクリルアミド系単量体としては、特に限定されないが、例えば、アクリルアミド、メチロールメタクリルアミド等が挙げられる。
【0029】
スチレン系単量体としては、特に限定されないが、例えば、スチレン、アルキルスチレン等が挙げられる。
【0030】
コポリマーの場合は、モル比で50%以上がカルボキシル基を有するモノマー由来であることが、ハイドロゲルの特性である温度応答性を示す上で好ましい。モル比で60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、最も好ましくは90%以上がカルボキシル基を有するモノマー由来であるコポリマーが好適である。
【0031】
ポリマー中のカルボキシル基の含有量は、ハイドロゲルの特性である温度応答性を示す上では、例えば、0.001~0.05mol/gの範囲であることが適当であり、好ましくは0.005~0.03mol/gの範囲、より好ましくは0.007~0.014mol/gの範囲である。
【0032】
カルボキシル基を有するポリマーは、架橋構造を有することができ、架橋構造は、化学架橋構造又は物理架橋構造であることができる。化学架橋構造はポリマー形成時又はポリマー形成後に架橋剤で架橋することで形成できる。
【0033】
化学架橋構造形成に用いる架橋剤としては、2官能性以上のモノマーを用いることができる。架橋剤としては、例えば、N,N’-メチレンビスアクリルアミド(MbAAd)、N,N’-エチレンビスアクリルアミド、ジエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1-アクリロイルオキシ-3-メタクリロイルオキシ-2-プロパノール等を挙げることができる。架橋剤の量は、所望の架橋の程度に応じて、モノマーの濃度に対して例えば、0~10mol%の範囲とすることができる。
【0034】
ポリマーの質量平均分子量は特に制限はないが、例えば、5,000,000以下、より好ましくは500,000以下である。下限は、例えば、5,000以上、好ましくは10,000以上である。但し、架橋構造を有するポリマーについての平均分子量の測定は事実上不可能である場合がある。
【0035】
物理架橋構造は、ポリマーが有する2つのカルボキシル基と1つの2価金属が塩を形成すること、及び/又はポリマーが絡み合うことで形成される。前者の物理架橋構造は、架橋剤を用いることなく形成されたポリマーに2価金属による塩を形成させることで形成される。物理的に切断されたハイドロゲルが切断後に再度接合する現象は、主に、カルボキシル基と2価金属との塩形成に起因する。但し、比較的長い時間の経過によりポリマー絡み合いも進行し、塩形成による再接合をさらに補強するものと推察される。尚、化学架橋構造を有するハイドロゲルは、ポリマーが有する2つのカルボキシル基と1つの2価金属が塩を形成しており、かつポリマーの絡み合いも存在することから、物理架橋構造も併せ持つ。
【0036】
ポリマー調製のための重合方法としては、熱開始剤によるラジカル重合(熱重合)や、光開始剤による光重合が挙げられる。光重合が好ましい。重合開始剤として公知の開始剤を適宜使用することができる。光開始剤としては、例えば、αケトグルタル酸などを挙げる事ができる。開始剤、モノマーの濃度に対して、例えば、0.01~10mol%の範囲とすることができる。
【0037】
有機酸2価金属塩を構成する有機酸は、特に制限はないが、脂肪酸(脂式カルボン酸)、芳香族カルボン酸、オキソカルボン酸、及びその他有機酸を挙げることができる。
【0038】
脂肪酸(脂式カルボン酸)としては、以下の化合物を挙げることができる。
・ギ(蟻)酸[メタン酸]
・酢酸[エタン酸]
・プロピオン酸[プロパン酸]
・酪酸(ブチル酸)[ブタン酸]
・イソ酪酸
・吉草酸(バレリアン酸)[ペンタン酸]
・イソ吉草酸
・カプロン酸[ヘキサン酸]
・エナント酸(ヘプチル酸)[ヘプタン酸]
・カプリル酸[オクタン酸]
・ペラルゴン酸[ノナン酸]
・カプリン酸[デカン酸]
・ラウリン酸[ドデカン酸]
・ミリスチン酸[テトラデカン酸]
・ペンタデシル酸[ペンタデカン酸]
・パルミチン酸(セタン酸)[ヘキサデカン酸]
・マルガリン酸[ヘプタデカン酸]
・ステアリン酸[オクタデカン酸]
・オレイン酸
・リノール酸
・リノレン酸
・ツベルクロステアリン酸[ノナデカン酸]
・アラキジン酸[イコサン酸]
・アラキドン酸
・エイコサペンタエン酸
・ベヘン酸[ドコサン酸]
・ドコサヘキサエン酸
・リグノセリン酸[テトラコサン酸]
・セロチン酸[ヘキサコサン酸]
・モンタン酸[オクタコサン酸]
・メリシン酸[トリアコンタン酸]
【0039】
芳香族カルボン酸としては、以下の化合物を挙げることができる。
・サリチル酸[ヒドロキシ安息香酸]
・没食子酸(トリヒドロキシ安息香酸)
・安息香酸[ベンゼンカルボン酸]
・フタル酸
・ケイ(桂)皮酸(β-フェニルアクリル酸)
・メリト酸(メリット酸、黒鉛酸)[ベンゼンヘキサカルボン酸]
【0040】
オキソカルボン酸としては、以下の化合物を挙げることができる。
・ピルビン酸(オキソプロピオン酸、α-ケトプロピオン酸、焦性ブドウ酸)
【0041】
その他の有機酸としては、以下の化合物を挙げることができる。
・シュウ酸[エタン二酸]
・乳酸(α-ヒドロキシプロパン酸)
・酒石酸
・マレイン酸
・フマル酸(フマール酸、アロマレイン酸、ボレティックアシッド、リケニックアシッド)
・マロン酸[プロパン二酸]
・コハク酸
・リンゴ酸(ヒドロキシコハク酸)
・クエン酸
・アコニット酸
・グルタル酸
・アジピン酸[ヘキサン二酸]
・アミノ酸
・L-アスコルビン酸(ビタミンC)
【0042】
有機酸は、例えば、ギ酸、酢酸、又はプロピオン酸であることが、ハイドロゲル中の水溶液に対する塩の溶解性及び溶解度曲線を考慮すると好ましい。例えば、ギ酸カルシウムは、0~100℃の範囲では、温度との関係では比較的小さい正の溶解度曲線を示す(温度が挙がると溶解度は上昇する)。それに対して酢酸カルシウムは、0~約60℃の範囲では、温度との関係では負の溶解度曲線を示し、約50℃~約85℃の範囲では、比較的小さい正の溶解度曲線を示す。プロピオン酸カルシウムは、0~約50℃の範囲では、温度との関係では負の溶解度曲線を示し、約50℃~100℃の範囲では、正の溶解度曲線を示す。
【0043】
有機酸2価金属塩を構成する2価金属は、特に制限はないが、例えば、アルカリ土類金属であることができる。アルカリ土類金属は、例えば、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)などであることができる。
【0044】
有機酸2価金属塩は、好ましくはギ酸Ca、酢酸Ca、プロピオン酸Ca、ギ酸Mg、酢酸Mg、プロピオン酸Mgなどである。用いる有機酸2価金属塩の種類により、ハイドロゲルのLCSTを変化させることができる。
【0045】
有機酸2価金属塩のポリマー中の濃度は、温度応答性ハイドロゲルに要求される物性及びポリマー中のカルボキシル基の量を考慮して適宜決定することができる。ポリマー中に含浸させる有機酸2価金属塩水溶液の濃度は、例えば、50mM~飽和濃度の範囲であることがで、好ましくは50mM~500mMの範囲である。飽和濃度とは、ポリマー中のカルボキシル基の量に対する飽和量(等しい当量)を意味する。ポリマー中に含まれる有機酸2価金属塩の濃度により、ハイドロゲルのLCSTを変化させることができる。ポリマー中2価金属の濃度は、ポリマー中に含浸させる有機酸2価金属塩水溶液の2価金属濃度より高い傾向があり、ポリマー中のカルボキシル基濃度や水溶液中の有機酸2価金属塩の濃度等の条件により変化するが、例えば、1.1~2.0倍程度、より典型的には1.2~1.5倍程度濃度が高いことがある。2価金属がカルシウムの場合、ポリマー中2価金属の濃度は、ポリマー(ゲル)1g中に例えば、約1mg~100mgの範囲であり、より典型的には約10mg~70mgの範囲、さらに典型的には約15mg~50mgの範囲であることができる。
【0046】
ポリマー中の全金属イオンの濃度は、例えば、誘導結合プラズマ発光分析(ICP)で測定することができる。既知の体積のポリマーを焼結して(例えば、約1000℃)有機成分を除去し、残差を既知の量の水に溶解させ、この水溶液をICPで測定することで、金属イオンの濃度を決定することができる。ポリマー中の有機酸塩を形成していない遊離の金属イオン濃度は、例えば、金属イオン電極で測定できる。ポリマー中には、有機酸塩を形成している金属イオンと遊離の金属イオンが存在する場合には、この方法で両者を分別することが可能である。
【0047】
ハイドロゲルに関し、ハイドロゲルは、水又は水溶液とポリマーとを主な構成成分とするゲルである。上記ポリマーがハイドロゲルを形成するかしないかは、主にポリマーの長さ(換言すると重合開始剤の濃度)に依存する。ポリマー質量が同じであっても、重合開始剤の濃度が高いとゲル化する傾向が高くなる。このような観点から、重合開始剤は、例えば、モノマーが、アクリル酸の場合には、濃度が0.1mol%の場合は3M以上、濃度が0.01mol%のときは2M以上でゲル化する傾向がある。モノマーが、メタクリル酸の場合もほぼ同程度である。重合開始剤の種類やモノマーの種類に応じて、ハイドロゲルを形成する範囲で重合開始剤の濃度は適宜選択することができる。
【0048】
温度応答性ハイドロゲルの一例としては、LCSTを有するものが挙げられる。LCSTは、ハイドロゲルが相分離することにより白濁する下限臨界共溶温度であり、相分離温度の指標となる。LCSTを有することは、例えば、紫外可視近赤外分光光度計により濁度(透過度)を測定することで評価することができる。または、示差走査熱量計により、発吸熱ピークを測定することでも評価することができる。または、レオメーター(粘弾性測定装置)により動的弾性率の温度依存を測定することで評価することができる。温度応答性ハイドロゲルのLCSTは、ポリマーの組成並びに有機酸2価金属塩の種類及び濃度により変化するが、例えば、10~80℃の範囲、好ましくは25~45℃の範囲である。
【0049】
温度応答性ハイドロゲルは、例えば、LCST未満の温度域では透明であり、LCST超の温度域では白濁状態である。本発明における透明とは、波長550nmにおける透過率が85%以上であることを意味し、白濁状態とは、波長550nmにおける透過率が30%以下であることを意味する。
【0050】
温度応答性ハイドロゲルの製造方法は、例えば、カルボキシル基を有するポリマーを、有機酸2価金属塩水溶液に浸漬することを含む。
ポリマーの有機酸2価金属塩水溶液への浸漬は、常温、例えば、4℃~30℃の範囲の温度で実施することができる。但し、得られる温度応答性ハイドロゲルのLCSTを考慮して、LCSTより高い温度または低い温度で実施することができる。
【0051】
有機酸2価金属塩水溶液の有機酸2価金属塩濃度は、ポリマー及び有機酸2価金属塩の種類及び所望のLCSTを考慮して、適宜決定できるが、例えば、50mM~飽和濃度の範囲であることができる。例えば、50mMから飽和濃度までの有機酸2価金属塩含有水溶液にほぼ平衡となるまで浸漬することで温度応答性ハイドロゲルを得ることができる。浸漬時間は、化学架橋ゲルの場合、例えば、1~72時間程度でほぼ平衡となるが、物理架橋ゲルの場合、2~7日間でほぼ平衡となる。但し、所望の物性が得られれば、平衡となるまでの浸漬は不要である場合もある。
【0052】
<<電気粘性流体>>
電圧を外部刺激として硬度が変化する物質としては、例えば、電気粘性流体が挙げられる。
電気粘性流体は、体積一定のまま通電により硬度が変化することが好ましい。
【0053】
電気粘性流体としては、例えば、ポリメタクリル酸コバルト塩などの誘電体の微粒子をシリコーンゴムやイソプレンゴムのマトリックス材で固めたものが挙げられる。この電気粘性流体に電圧を印加していないとき、そのポリメタクリル酸コバルト塩微粒子は、そのマトリックス材の中で分散しているが、電圧を印加することで、そのポリメタクリル酸コバルト塩微粒子が分極し、隣り合う微粒子のプラスとマイナスが引き付け合うようになる。これによってマトリックス材中の微粒子が骨格構造を形成し、全体として体積一定のまま硬くなる。
【0054】
<<磁気粘性流体>>
磁力を外部刺激として硬度が変化する物質としては、例えば、磁気粘性流体が挙げられる。
磁気粘性流体としては、例えば、磁性体粒子を分散媒に分散させたものが挙げられる。
磁性体粒子としては、強磁性体であればよく、特に磁力が強いという観点では、Feからなる粒子が好ましい。また、FeとFe以外の強磁性体とを混合したものを用いてもよい。磁性体粒子の粒径は、特に制限されない。分散媒としては、非極性オイルまたは極性オイル等が好ましい。分散媒としては、非極性オイルまたは極性オイルを用いる場合には、例えば、室温(20℃)において100~1000(mPa・秒)の粘度を有することが好ましい。
【0055】
<硬度制御手段>
硬度制御手段は、硬度調節用物質の硬度を制御する。
硬度制御手段は、例えば、硬度調節用物質に接する。
硬度調節用物質が熱を外部刺激として硬度が変化する物質である場合、硬度制御手段は、例えば、硬度調節用物質に熱を与える熱付与部を有する。熱付与部は、例えば、ペルチェ素子、マイクロヒーター、フィルムヒーター、リード線などが挙げられる。マイクロヒーターとは、例えば、金属シースと直線状の発熱体との間を高純度の無機絶縁物(例えば、酸化マグネシウムMgO)で強固に充填した発熱部からなるヒーターである。金属シースの外形は、例えば、1.0mm~6.4mmである。マイクロヒーターは曲げることが可能である。フィルムヒータとは、発熱体に金属薄膜を使用した面状に発熱するヒーターである。リード線には、例えば、高周波電流が供給される。
硬度調節用物質が電圧を外部刺激として硬度が変化する物質である場合、硬度制御手段は、例えば、硬度調節用物質に電圧を与える電圧付与部を有する。電圧付与部は、例えば、硬度調節用物質を挟む一対の電極である。
硬度調節用物質が磁気を外部刺激として硬度が変化する物質である場合、硬度制御手段は、例えば、硬度調節用物質に磁気を与える磁気付与部を有する。磁気付与部は、例えば、電磁石である。
【0056】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
図1は、本発明の実施の形態に係るアブレーションカテーテルを有するアブレーションシステムを説明するための概略図である。
【0057】
本発明の実施の形態に係るアブレーションシステム1は、例えば、頻脈性不整脈の治療のために適用され、
図1に示されるように、アブレーションカテーテル10、エネルギー供給装置90及び対極板98を有する。
【0058】
アブレーションカテーテル10は、生体内の管腔に挿入されるシャフト部20と、術者が手元で操作する手元操作部60と、を有する。生体内の管腔は、例えば、大動脈、下大静脈、前肘静脈、内顎静脈などが挙げられる。
【0059】
以下、シャフト部20の実施形態を図を用いて説明する。以下の
図2A~
図2C、
図4A、
図4B、
図5、
図6A、及び
図6Bにおいて、シャフト部20の長手方向をX軸とし、X軸に直交する任意の方向をY軸とし、X軸及びY軸に直交する方向をZ軸とする。
【0060】
シャフト部20の先端は、
図2A~
図2Cに示されるように、電極チップ22、温度応答性ハイドロゲル30a、ペルチェ素子31a、測温部29、及び牽引ワイヤ26を有する。
シャフト部20は、長尺の管状体であり、内部には、筒状の内部空間であるルーメン25を有する。ルーメン25には、牽引ワイヤ26、測温部29、リード線23、及び電線32が延長している。
リード線23は、エネルギー供給装置90からの高周波電流を電極チップ22に供給するために使用される。
電線32は、エネルギー供給装置90からの直流電流をペルチェ素子31aに供給するために使用される。なお、ペルチェ素子31aへの直流電流の供給は、エネルギー供給装置90以外のエネルギー供給源によって行われてもよい。
【0061】
電極チップ22は、疾患部に係る処置対象部位に対してエネルギーを付与して熱変性させる熱要素である。電極チップ22は、例えば、モノポーラ電極から構成されている。電極チップ22は、シャフト部20の先端部に配置される。組織の熱変性は、例えば、心筋の焼灼又は壊死である。心筋を選択的に焼灼する又は壊死させることで、頻脈、不整脈の原因となる異常な興奮を発する部位や異常な興奮が旋回する回路・伝導路を治療する。例えば、心房細動は、主には、肺から左心房に帰ってくる血管である肺静脈や左心房との接合部で異常な興奮が生じ、それをきっかけとして心房細動が起こる。その肺静脈周囲(心房との境界部位)をアブレーションにより焼灼することで、異常な興奮が左心房に伝わらなくなり(肺静脈電気的隔離術)、また、その周囲の不均一な伝導を治療することにより心房細動発作を抑制できる。
【0062】
測温部29は、例えば、熱電対からなり、アブレーションの加熱温度を測定するために使用される。測温部29の端部は、電極チップ22に固定されており、電極チップ22の温度を測定するように構成されている。
【0063】
シャフト部20の先端において、温度応答性ハイドロゲル30a及びペルチェ素子31aは、先端部の近傍であって、先端部よりも基端側である先端近傍部に配されている。
一実施形態では、
図2Bに示すように、弧状の2層の温度応答性ハイドロゲル30aがルーメン25を挟んで対向配置されている。弧状の2層のペルチェ素子31aのそれぞれは、各温度応答性ハイドロゲル30aの外側に配されている。各ペルチェ素子31aの一方の面は各温度応答性ハイドロゲル30aの外側の表面に接している。
なお、温度応答性ハイドロゲル30a及びペルチェ素子31aは、ルーメン25の外周に沿った円筒形状であってもよい。
【0064】
牽引ワイヤ26は、電極チップ22が配置される部位を同伴して、シャフト部20の先端近傍部を湾曲させ、電極チップ22を心筋に接触させるために使用される湾曲機構を構成する。
【0065】
手元操作部60は、牽引ワイヤ26を牽引して、
図2Cに示すようにシャフト部20の先端近傍部を湾曲させるように構成されている。
アブレーションカテーテル10は、上記のように、シャフト部20の先端近傍部を湾曲させて、疾患部に係る処置対象部位である心筋に電極チップ22を接触させる。
【0066】
エネルギー供給装置90は、コンピュータ等の演算手段が接続あるいは内蔵されている高周波発生装置からなり、第1ケーブル94及び第2ケーブル96を有する。
【0067】
第1ケーブル94は、コネクタ92を介してアブレーションカテーテル10に接続される。コネクタ92は、電極チップ22、ペルチェ素子31a、及び測温部29が接続されている。
【0068】
エネルギー供給装置90は、第1ケーブル94及びコネクタ92を介して、電極チップ22に高周波電流を供給し、また、測温部29に生じる電圧を検出計測することにより、電極チップ22の温度を計測することが可能である。つまり、エネルギー供給装置90は、アブレーションの加熱温度を監視しつつ、加熱温度及び加熱時間等を制御することができる。
また、エネルギー供給装置90は、第1ケーブル94及びコネクタ92を介して、ペルチェ素子31aに直流電流を供給する。直流電流が供給されたペルチェ素子31aの一方の面は発熱し、その発熱により温度応答性ハイドロゲル30aの硬度を変化及び調節させることができる。
【0069】
第2ケーブル96は、対極板98に接続されている。対極板98は、電極チップ22と対極をなし、生体の体表面(例えば、背中の体表面)に張り付けられる。これにより、エネルギー供給装置90、電極チップ22、生体、対極板98の間で回路が形成される。
【0070】
したがって、エネルギー供給装置90から供給される高周波電流は、電極チップ22を経由して生体組織に流入し、対極板98へ回帰し、この際、抵抗加熱によりジュール熱が発生する。電極チップ22と生体組織との接触面である心筋は、電流が集中するため、ジュール熱による局所的な温度上昇が引き起こされる。これにより、組織の熱変性、例えば、心筋の焼灼、又は壊死が促される。
電極チップ22から生体組織に熱エネルギーを付与している間、先端部の組織接地の留置性を上げるために、温度応答性ハイドロゲル30aの硬度が留置性を上げるのに適した硬度に調節される。温度応答性ハイドロゲル30aの硬度の調節は、ペルチェ素子31aに直流電流を付与して一方の面の温度を上げることで行われる。ペルチェ素子31aの一方の面の熱が温度応答性ハイドロゲル30aに伝わり、温度応答性ハイドロゲル30aの温度が高くなると、温度応答性ハイドロゲル30aの硬度が上昇する。そうすることで、先端部の組織接地の留置性を上げることができる。
他方で、生体組織に対して熱エネルギーを付与する前では、温度応答性ハイドロゲル30aはペルチェ素子31aからは熱を与えられておらず、温度応答性ハイドロゲル30aは柔らかい状態である。そのため、穿孔防止などの安全性が保たれる。
【0071】
なお、アブレーションカテーテル10は、電極チップと生体組織との接触状態を調べるインピーダンスセンサを有することも可能である。必要に応じ、アブレーションのエネルギーとして、高周波電流の代わりに、直流を適用することも可能である。
【0072】
測温部29は、2本の異なる種類の金属線からなる熱電対によって構成する形態に限定されず、例えば、サーミスタを適用することも可能である。
【0073】
シャフト本体部40は、例えば、
図3に示されるように、第1柔軟部42、第2柔軟部44及び高剛性部46を有する。シャフト本体部40の外径及び肉厚は、例えば、0.5~3.0mm及び100~300μmである。
【0074】
第1柔軟部42及び第2柔軟部44は、螺旋状のスリット48が形成されている。第2柔軟部44は、第1柔軟部42と高剛性部46との間に位置する。スリット48は、例えば、レーザー加工によって、連続的(一体的)に形成される。
【0075】
第1柔軟部42のスリット48のピッチP1は、第2柔軟部44のスリット48のピッチP2より小さく設定されている。例えば、ピッチP1は、0.2~l.0mmであり、ピッチP2は、1.0~2.0mmである。なお、ピッチP1及びピッチP2は、隣接するスリット48の間隔である。
【0076】
第1柔軟部42及び第2柔軟部44は、スリット48が形成されているため、曲げ剛性が低減されて曲がりやすい柔軟な構造となっている。また、第1柔軟部42は、第2柔軟部44に比較し、スリット48のピッチが狭いため、第2柔軟部44より曲げ剛性が低くなっている。
【0077】
高剛性部46は、基端側に位置し、螺旋状のスリット48が形成されておらず、第1柔軟部42及び第2柔軟部44より曲げ剛性が大きい。
【0078】
シャフト本体部40の先端側は、曲げ剛性が低く柔軟である第1柔軟部42及び第2柔軟部44が位置するため、生体内の管腔の湾曲部位を、シャフト部20が容易に通過でき、高い到達性及び操作性が得られる。また、シャフト本体部40の基端側は、曲げ剛性が大きい高剛性部46が位置するため、シャフト本体部40の十分な押し込み性が確保される。
【0079】
第1柔軟部42の長さ及び第2柔軟部44の長さは、挿入される管腔の構成等を考慮し、適宜設定される。
【0080】
シャフト本体部40は、スリット48のピッチが異なる柔軟部を2つ有する形態に限定されない。スリット48のピッチは、漸次変化するように設定することも可能である。スリット48は、螺旋状である形態に限定されない。
【0081】
電極チップ22は、半球形状であり、シャフト本体部40の先端部を構成している。したがって、電極チップ22を心筋に接触させることが容易である。電極チップ22は、半球形状である形態に限定されない。また、電極チップ22は、シャフト本体部40の先端部を構成する形態に限定されず、例えば、シャフト本体部40の先端部の一部のみを構成することも可能である。
【0082】
牽引ワイヤ26は、例えば、上記のように湾曲機構を構成している。具体的には、牽引ワイヤ26は、先端側が電極チップ22よりもわずかに基端側のシャフト本体部40の内壁に固定されており、基端側は手元操作部60内のワイヤ固定部(不図示)に固定されている。このため、手元操作部60によって牽引ワイヤ26を牽引することで、シャフト本体部40の先端側が牽引され、略直線状に延びるシャフト本体部40の第1柔軟部42及び第2柔軟部44を含む部位を撓ませることができる。つまり、手元操作部60によって牽引ワイヤ26を牽引することで、シャフト部20の先端を撓ませることができる。また、牽引ワイヤ26による牽引を緩めることで、シャフト部20の先端を、シャフト本体部40の第1柔軟部42及び第2柔軟部44の弾性力によって、元の略直線状に復帰させることができる。
【0083】
シャフト部20の先端近傍部が湾曲する向きは、例えば、第1柔軟部42及び第2柔軟部44のスリット48の構成や、牽引ワイヤ26の固定位置を調整することにより、制御することが可能である。
【0084】
シャフト本体部40は、比較的剛性の高い金属材料、例えば、Ni-Ti、真鍮、SUS、アルミニウムが適用される。また、ポリイミド、塩化ビニル、ポリカーボネート等の比較的剛性の高い高分子材料を適用することも可能である。
【0085】
次に、硬度制御手段の変形例を示す。
図4A及び
図4Bは、硬度制御手段の変形例である。この変形例では、硬度調節用物質は温度応答性ハイドロゲルであり、熱付与部はマイクロヒーターである。
シャフト部20の先端は
図4Aに示されるように、電極チップ22、温度応答性ハイドロゲル30a、マイクロヒーター31b、測温部29、及び牽引ワイヤ26を有する。
シャフト部20は、長尺の管状体であり、内部には、筒状の内部空間であるルーメン25を有する。ルーメン25には、牽引ワイヤ26、測温部29、リード線23、及び電線32が延長している。
リード線23は、エネルギー供給装置90からの高周波電流を電極チップ22に供給するために使用される。
電線32は、エネルギー供給装置90からの電流をマイクロヒーター31bに供給するために使用される。なお、マイクロヒーター31bへの電流の供給は、エネルギー供給装置90以外のエネルギー供給源によって行われてもよい。
シャフト部20の先端において、温度応答性ハイドロゲル30a及びマイクロヒーター31bは、先端部の近傍であって、先端部よりも基端側である先端近傍部に配されている。
一実施形態では、
図4Bに示すように、弧状の2層の温度応答性ハイドロゲル30aがルーメン25を挟んで対向配置されている。2本のマイクロヒーター31bのぞれぞれは、各温度応答性ハイドロゲル30aの内部に挿入されている。なお、
図4Bでは、1層の温度応答性ハイドロゲル30aに1本のマイクロヒーター31bが挿入されているが、1層の温度応答性ハイドロゲル30aに2本以上のマイクロヒーター31bが挿入されていてもよい。
なお、温度応答性ハイドロゲル30aは、ルーメン25の外周に沿った円筒形状であってもよい。
電流が供給されたマイクロヒーター31bは発熱し、その発熱により温度応答性ハイドロゲル30aの硬度を変化及び調節させることができる。
【0086】
図5は、硬度制御手段の他の変形例である。この変形例では、硬度調節用物質は温度応答性ハイドロゲルであり、熱付与部はフィルムヒーターである。
シャフト部20の先端は、
図5に示されるように、電極チップ22、温度応答性ハイドロゲル30a、フィルムヒーター31c、測温部29、及び牽引ワイヤ26を有する。
シャフト部20は、長尺の管状体であり、内部には、筒状の内部空間であるルーメン25を有する。ルーメン25には、牽引ワイヤ26、測温部29、リード線23、及び電線32が延長している。
リード線23は、エネルギー供給装置90からの高周波電流を電極チップ22に供給するために使用される。
電線32は、エネルギー供給装置90からの電流をフィルムヒーター31cに供給するために使用される。なお、フィルムヒーター31cへの電流の供給は、エネルギー供給装置90以外のエネルギー供給源によって行われてもよい。
シャフト部20の先端において、温度応答性ハイドロゲル30a及びフィルムヒーター31cは、先端部の近傍であって、先端部よりも基端側である先端近傍部に配されている。
この変形例における温度応答性ハイドロゲル30a及びフィルムヒーター31cの形状及び配置は、
図2A及び
図2Bに示す実施形態と同様である。即ち、弧状の2層の温度応答性ハイドロゲル30aがルーメン25を挟んで対向配置されている。弧状の2層のフィルムヒーター31cのそれぞれは、各温度応答性ハイドロゲル30aの外側に配されている。各フィルムヒーター31cは各温度応答性ハイドロゲル30aに接している。
なお、温度応答性ハイドロゲル30a及びフィルムヒーター31cは、ルーメン25の外周に沿った円筒形状であってもよい。
電流が供給されたフィルムヒーター31cは発熱し、その発熱により温度応答性ハイドロゲル30aの硬度を変化及び調節させることができる。
【0087】
図6A及び
図6Bは、硬度調節用物質及び硬度制御手段の変形例である。この変形例では、硬度調節用物質は電気粘性流体であり、電圧付与部は一対の電極である。
シャフト部20の先端は
図6Aに示されるように、電極チップ22、電気粘性流体30b、電極31d、測温部29、及び牽引ワイヤ26を有する。
シャフト部20は、長尺の管状体であり、内部には、筒状の内部空間であるルーメン25を有する。ルーメン25には、牽引ワイヤ26、測温部29、リード線23、及び電線32が延長している。
リード線23は、エネルギー供給装置90からの高周波電流を電極チップ22に供給するために使用される。
電線32は、エネルギー供給装置90からの電流を電極31dに供給するために使用される。なお、電極31dへの電流の供給は、エネルギー供給装置90以外のエネルギー供給源によって行われてもよい。
シャフト部20の先端において、電気粘性流体30b及び電極31dは、先端部の近傍であって、先端部よりも基
端側である先端近傍部に配されている。
一実施形態では、
図6Bに示すように、弧状の2層の電気粘性流体30bがルーメン25を挟んで対向配置されている。2組の一対の電極31dのぞれぞれは、各電気粘性流体30bを挟むように各電気粘性流体30bに接して配置されている。
なお、温度応答性ハイドロゲル30a及び一対の電極31dは、ルーメン25の外周に沿った円筒形状であってもよい。
電流が供給された一対の電極31d間には電位差(電圧)が生じる。その電圧により電気粘性流体30bの硬度を変化及び調節させることができる。
【0088】
本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲で種々改変することができる。
【0089】
例えば、熱要素によって付与されるエネルギーは、高周波通電による抵抗加熱を利用する形態に限定されず、冷却、マイクロ波、超音波、レーザー等のコヒーレント光を利用することも可能である。
【0090】
高周波通電による抵抗加熱は、モノポーラ電極および対極板を利用する形態に限定されず、バイポーラ電極を適用することも可能である。
【0091】
本発明のアブレーションカテーテルの用途は、頻脈性不整脈の治療に限定されない。
本発明のアブレーションカテーテル心不全、腎疾患、慢性腎不全、交感神経機能亢進、糖尿病、代謝異常、不整脈、急性心筋梗塞、心腎症候群等の治療に適用することも可能である。
【0092】
(医療機器)
本発明のアブレーションカテーテルにおける硬度調節用物質及び硬度制御手段の組み合わせは、他の医療機器にも応用することができる。
即ち、本発明の一例は、外部刺激により硬度が変化する硬度調節用物質と、前記硬度調節用物質の硬度を制御する硬度制御手段とを有する医療機器である。
硬度調節用物質の具体例及び好適例としては、本発明のアブレーションカテーテルの説明で挙げた硬度調節用物質の具体例及び好適例が挙げられる。
硬度制御手段の具体例及び好適例としては、本発明のアブレーションカテーテルの説明で挙げた硬度制御手段の具体例及び好適例が挙げられる。
【0093】
医療機器としては、特に制限されないが、例えば、ガイドワイヤ、アブレーションカテーテル以外のカテーテル(例えば、電極カテーテル、バルーンカテーテル)、ガイドチューブ、カニューレ(例えば、気管カニューレ、鼻カニューレ等)などが挙げられる。
ガイドワイヤとは、カテーテル、ステントなどの他の医療機器の生体内への挿入を補助するワイヤである。例えば、予めガイドワイヤを生体内の治療目的部位に挿入しておき、カテーテル、ステントなどの他の医療機器を当該ガイドワイヤに沿って生体内に挿入することにより、他の医療機器を治療目的部位に到達させることができる。
ガイドチューブとしては、例えば、経口的に胃内に挿入されて、胃の一部を切除する際の切断ラインをガイドするガイドチューブが挙げられる。
カニューレとは、体腔及び血管内などに挿入し、薬液の注入や体液の排出、気管切開の際の空気の通路とする場合などに用いるパイプ状の医療機器である。
【0094】
医療機器は、例えば、生体内に挿入されるシャフト部を有する。
硬度調節用物質及び硬度制御手段は、例えば、シャフト部において、硬度を変化させる箇所に配される。
硬度を変化させる箇所は、シャフト部の先端部であってもよいし、シャフト部の先端部の近傍である先端近傍部であってもよいし、シャフト部の根元部であってもよいし、シャフト部のその他の位置であってもよい。
シャフト部の任意の箇所が硬度調節用物質及び硬度制御手段を有することにより、シャフト部が生体内に挿入された状態で、シャフト部の当該任意の箇所の硬度を変化させることができる。これにより、シャフト部の挿入性、留置性などを向上させることができる。
【0095】
本発明の医療機器の実施の形態に係るガイドワイヤは、例えば、コイル体と、コアシャフトと、硬度調節用物質と、硬度制御手段とを有する。コイル体は、素線を螺旋状に巻回して形成される略円筒形状である。コアシャフトは、基端側が太径で先端側が細径とされた、先細りした長尺状の部材である。コアシャフトの一部は、略円筒形状のコイル体の内部空間に挿入されている。言い換えれば、コアシャフトの一部は、コイル体に覆われている。硬度調節用物質及び硬度制御手段は、例えば、略円筒形状のコイル体の内部空間において、コアシャフトとコイル体の内壁との間に配されている。
【0096】
図7Aは、本発明の実施の形態に係るガイドワイヤを説明するための概略図である。
ガイドワイヤ101は、例えば血管にカテーテルを挿入する際に用いられる医療機器であり、コアシャフト110と、コイル体120と、温度応答性ハイドロゲル130と、ペルチェ素子131と、先端側固定部151と、基端側固定部152とを備えている。
図7Aでは、ガイドワイヤ101の中心に通る軸を軸線O(一点鎖線)で表す。以降の例では、第1太径部115より基端側のコアシャフト110の中心を通る軸と、コイル体120の中心を通る軸とは、いずれも軸線Oと一致する。しかし、コアシャフト110の中心を通る軸と、コイル体120の中心を通る軸とは、それぞれ軸線Oとは相違していてもよい。
【0097】
また、
図7Aには、相互に直交するXYZ軸が図示されている。X軸は、ガイドワイヤ101の軸線方向に対応し、Y軸は、ガイドワイヤ101の高さ方向に対応し、Z軸は、ガイドワイヤ101の幅方向に対応する。
図7Aの左側(-X軸方向)をガイドワイヤ101及び各構成部材の「先端側」と呼び、
図7Aの右側(+X軸方向)をガイドワイヤ101及び各構成部材の「基端側」と呼ぶ。また、ガイドワイヤ101及び各構成部材について、先端側に位置する端部を「先端部」または単に「先端」と呼び、基端側に位置する端部を「基端部」または単に「基端」と呼ぶ。本実施形態において、先端側は「遠位側」に相当し、基端側は「近位側」に相当する。
【0098】
コアシャフト110は、基端側が太径で先端側が細径とされた、先細りした長尺状の部材である。コアシャフト110は、例えば、SUS304、SUS316等のステンレス合金、ニッケルチタン(NiTi)合金等の超弾性合金、ピアノ線、ニッケル-クロム系合金、コバルト合金、タングステン等の材料で形成できる。コアシャフト110は、先端側から基端側に向かって順に、細径部111、第1縮径部112、第1太径部115、第2縮径部116、第2太径部117を有している。各部の外径や長さは任意に決定できる。
【0099】
コアシャフト110の細径部111は、コアシャフト110の先端側に配置されている。細径部111は、コアシャフト110の外径が最小の部分であり、一定の外径を有する略円柱形状である。
【0100】
第1縮径部112は、細径部111と第1太径部115との間に配置されている。第1縮径部112は、基端側から先端側に向かって外径が縮径した略円錐台形状である。第1太径部115は、第1縮径部112と第2縮径部116との間に配置されている。第1太径部115は、細径部111の外径よりも大きな一定の外径を有する略円柱形状である。第2縮径部116は、第1太径部115と第2太径部117との間に配置されている。第2縮径部116は、基端側から先端側に向かって外径が縮径した略円錐台形状である。第2太径部117は、コアシャフト110の基端側に配置されている。第2太径部117は、コアシャフト110の外径が最大の部分であり、一定の外径を有する略円柱形状である。
【0101】
細径部111、第1縮径部112、及び第1太径部115の外側面は、後述するコイル体120によって覆われている。一方、第2縮径部116及び第2太径部117は、コイル体120によって覆われておらず、コイル体120から露出している。第2太径部117は、術者がガイドワイヤ101を把持する際に使用される。
【0102】
コイル体120は、コアシャフト110に対して、素線121を螺旋状に巻回して形成される略円筒形状である。コイル体120を形成する素線121は、1本の素線からなる単線でもよいし、複数の素線を撚り合せた撚線でもよい。素線121を単線とした場合、コイル体120は単コイルとして構成され、素線121を撚線とした場合、コイル体120は中空撚線コイルとして構成される。また、単コイルと中空撚線コイルとを組み合わせてコイル体120を構成してもよい。素線121の線径と、コイル体120におけるコイル平均径(コイル体120の外径と内径の平均径)とは、任意に決定できる。
【0103】
素線121は、例えば、SUS304、SUS316等のステンレス合金、NiTi合金等の超弾性合金、ピアノ線、ニッケル-クロム系合金、コバルト合金等の放射線透過性合金、金、白金、タングステン、これらの元素を含む合金(例えば、白金-ニッケル合金)等の放射線不透過性合金で形成することができる。なお、素線121は、上記以外の公知の材料によって形成されてもよい。
【0104】
先端側固定部151は、ガイドワイヤ101の先端部に配置されている。先端側固定部151は、任意の接合剤、例えば、銀ロウ、金ロウ、亜鉛、Sn-Ag合金、Au-Sn合金等の金属はんだや、エポキシ系接着剤などの接着剤によって形成できる。基端側固定部152は、コアシャフト110の第1太径部115の基端部に配置され、コアシャフト110と、コイル体120の基端部とを一体的に保持している。基端側固定部152は、先端側固定部151と同様に任意の接合剤によって形成できる。基端側固定部152と先端側固定部151とは、同じ接合剤を用いてもよく、異なる接合剤を用いてもよい。
【0105】
温度応答性ハイドロゲル130及びペルチェ素子131は、コイル体120の内部空間に配されている。温度応答性ハイドロゲル130及びペルチェ素子131は、コイル体120の内部空間において、
一実施形態では、
図7Bに示すように、弧状の2層の温度応答性ハイドロゲル130がコアシャフト110を挟んで対向配置されている。弧状の2層のペルチェ素子131のそれぞれは、各温度応答性ハイドロゲル130の外側に配されている。各ペルチェ素子131の一方の面は各温度応答性ハイドロゲル130の外側の表面に接している。
なお、温度応答性ハイドロゲル130及びペルチェ素子131は、コアシャフト110の外周に沿った円筒形状であってもよい。
【0106】
ペルチェ素子131は、電線132に接続されている。電線132は、不図示のエネルギー供給装置に接続されている。電線132は、エネルギー供給装置からの直流電流をペルチェ素子131に供給するために使用される。
直流電流が供給されたペルチェ素子131の一方の面は発熱し、その発熱により温度応答性ハイドロゲル130の硬度を変化及び調節させることができる。
【0107】
本発明の医療機器の実施の形態に係る電極カテーテルは、例えば、生体内の管腔に挿入されるシャフト部と、術者が手元で操作する手元操作部とを有する。
【0108】
以下、電極カテーテル201のシャフト部の実施形態を
図8A及び
図8Bを用いて説明する。以下の
図8A及び
図8Bにおいて、シャフト部220の長手方向をX軸とし、X軸に直交する任意の方向をY軸とし、X軸及びY軸に直交する方向をZ軸とする。
【0109】
シャフト部220の先端は、
図8A及び
図8Bに示されるように、2つのリング電極211a及びリング電極211b、温度応答性ハイドロゲル230、ペルチェ素子231、並びに牽引ワイヤ226を有する。
シャフト部220は、長尺の管状体であり、内部には、筒状の内部空間であるルーメン225を有する。ルーメン225には、電線212、牽引ワイヤ226、リード線223、及び電線232が延長している。
リング電極211a及び211bは、円環状であり、シャフト部220に埋め込まれている。
電線212は、リング電極211a及びリング電極211bと心電図等とを接続する。電線212は、リング電極211a及びリング電極211bで検出した生体内の電気信号を心電図等に伝える。
電線232は、不図示のエネルギー供給装置からの直流電流をペルチェ素子231に供給するために使用される。なお、ペルチェ素子231への直流電流の供給は、エネルギー供給装置以外のエネルギー供給源によって行われてもよい。
牽引ワイヤ226は、シャフト部220の先端近傍部を湾曲させる湾曲機構を構成する。
【0110】
シャフト部220の先端において、温度応答性ハイドロゲル230及びペルチェ素子231は、先端部の近傍であって、先端部よりも基端側である先端近傍部に配されている。
一実施形態では、
図8Bに示すように、弧状の2層の温度応答性ハイドロゲル230がルーメン225を挟んで対向配置されている。弧状の2層のペルチェ素子231のそれぞれは、各温度応答性ハイドロゲル230の外側に配されている。各ペルチェ素子231の一方の面は各温度応答性ハイドロゲル230の外側の表面に接している。
なお、温度応答性ハイドロゲル230及びペルチェ素子231は、ルーメン225の外周に沿った円筒形状であってもよい。
電線232を介して直流電流が供給されたペルチェ素子231の一方の面は発熱し、その発熱により温度応答性ハイドロゲル230の硬度を変化及び調節させることができる。
【符号の説明】
【0111】
1 アブレーションシステム
10 アブレーションカテーテル
20 シャフト部
22 電極チップ
23 リード線
25 ルーメン
29 測温部
26 牽引ワイヤ
30a 温度応答性ハイドロゲル
30b 電気粘性流体
31a ペルチェ素子
31b マイクロヒーター
31c フィルムヒーター
31d 電極
32 電線
40 シャフト本体部
42 第1柔軟部
44 第2柔軟部
46 高剛性部
48 スリット
60 手元操作部
90 エネルギー供給装置
92 コネクタ
94 第1ケーブル
96 第2ケーブル
98 対極板
101 ガイドワイヤ
110 コアシャフト
111 細径部
112 第1縮径部
115 第1太径部
116 第2縮径部
117 第2太径部
120 コイル体
121 素線
130 温度応答性ハイドロゲル
131 ペルチェ素子
132 電線
151 先端側固定部
152 基端側固定部
201 電極カテーテル
211a リング電極
211b リング電極
212 電線
220 シャフト部
225 ルーメン
226 牽引ワイヤ226
230 温度応答性ハイドロゲル
231 ペルチェ素子
232 電線