(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021170
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】園芸施設における太陽熱利用方法および太陽熱利用システム
(51)【国際特許分類】
F24S 90/00 20180101AFI20240208BHJP
F24F 11/65 20180101ALI20240208BHJP
F24F 11/875 20180101ALI20240208BHJP
F24F 5/00 20060101ALI20240208BHJP
F24S 10/30 20180101ALI20240208BHJP
F24S 10/75 20180101ALI20240208BHJP
A01G 7/00 20060101ALI20240208BHJP
F24F 130/20 20180101ALN20240208BHJP
F24F 110/10 20180101ALN20240208BHJP
【FI】
F24S90/00 100
F24F11/65
F24F11/875
F24F5/00 102C
F24F5/00 K
F24S10/30
F24S10/75
A01G7/00 601Z
F24F130:20
F24F110:10
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123822
(22)【出願日】2022-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(72)【発明者】
【氏名】土屋 遼太
(72)【発明者】
【氏名】大橋 雄太
(72)【発明者】
【氏名】石井 雅久
【テーマコード(参考)】
2B022
3L260
【Fターム(参考)】
2B022DA01
3L260AA15
3L260AB01
3L260AB09
3L260BA41
3L260BA45
3L260BA46
3L260CA12
3L260CB13
3L260CB81
3L260EA07
3L260EA12
3L260FA02
3L260FA10
3L260FB01
(57)【要約】
【課題】園芸施設において、太陽熱をより効率的に利用すること。
【解決手段】実施形態の園芸施設における太陽熱利用方法は、外部からの太陽光を透過する素材を含む園芸施設における太陽熱利用方法であって、蓄熱時には、前記園芸施設の床面に照射された太陽光によって前記園芸施設の床下に設置された配管内を移動する冷媒の温度を上昇させ、前記冷媒の熱を、ヒートポンプを介して熱交換器に伝達し、前記熱交換器からの熱を蓄熱体に蓄え、放熱時には、前記ヒートポンプを介して、前記蓄熱体に蓄えられた熱によって前記配管内の冷媒の温度を上昇させて前記園芸施設の床下に設置した配管内を移動させて前記園芸施設の施設内温度を上昇させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部からの太陽光を透過する素材を含む園芸施設における太陽熱利用方法であって、
蓄熱時には、前記園芸施設の床面に照射された太陽光によって前記園芸施設の床下に設置された配管内を移動する冷媒の温度を上昇させ、前記冷媒の熱を、ヒートポンプを介して熱交換器に伝達し、前記熱交換器からの熱を蓄熱体に蓄え、
放熱時には、前記ヒートポンプを介して、前記蓄熱体に蓄えられた熱によって前記配管内の冷媒の温度を上昇させて前記園芸施設の床下に設置した配管内を移動させて前記園芸施設の施設内温度を上昇させる、
太陽熱利用方法。
【請求項2】
前記蓄熱体は、土壌または水であり、
前記熱交換器は、前記蓄熱体内に設置される、
請求項1に記載の太陽熱利用方法。
【請求項3】
前記床面は、熱伝導性が閾値より高く液相を含まない材料によって形成され、
前記配管は、前記材料内または前記材料の下部に敷設される、
請求項1に記載の太陽熱利用方法。
【請求項4】
前記園芸施設の施設内温度が第1温度以上である場合に、前記蓄熱時における前記蓄熱体への熱の蓄熱を行い、
前記園芸施設の施設内温度が第2温度未満である場合に、前記放熱時における前記園芸施設内への放熱を行う、
請求項1に記載の太陽熱利用方法。
【請求項5】
前記放熱時において、前記蓄熱体の温度が所定温度未満である場合に、前記ヒートポンプの稼働を停止させる、
請求項1に記載の太陽熱利用方法。
【請求項6】
前記蓄熱時において、前記蓄熱体の温度が所定温度以上である場合に、前記ヒートポンプの稼働を停止させる、
請求項1に記載の太陽熱利用方法。
【請求項7】
外部からの太陽光を透過する素材を含む園芸施設の床下に設置された配管と、
前記配管内を移動する冷媒の温度と、熱交換器内を移動する冷媒の温度を制御するヒートポンプと、
前記熱交換器からの熱を蓄熱する蓄熱体と、
前記ヒートポンプの稼働を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
蓄熱時には、前記園芸施設の床面に照射された太陽光によって前記床下に設置された配管内を移動する冷媒の温度を上昇させ、前記冷媒の熱を、前記ヒートポンプを介して熱交換器に伝達させて前記熱交換器からの熱を蓄熱体に蓄え、
放熱時には、前記ヒートポンプを介して、前記蓄熱体に蓄えられた熱によって前記配管内の冷媒の温度を上昇させて前記園芸施設の床下に設置した配管内を移動させて前記園芸施設の施設内温度を上昇させる、
太陽熱利用システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、園芸施設における太陽熱利用方法および太陽熱利用システムに関する。
【背景技術】
【0002】
園芸用ハウス等の園芸施設では、日射で暖められた床面から施設内空気への伝熱が生じ、施設外より高い気温が形成される。したがって、園芸用ハウスを用いた施設園芸は、寒冷期においても栽培環境の制御により野菜や花き類を生産できることから周年供給を可能にし、消費者の需要に柔軟に対応する農業生産形態であり、植物の生育に最適な環境の形成により、高品質・高負荷価値な生産物を得ることが可能である。しかしながら、施設園芸は、農業生産の中でも特に化石資源に依存した栽培形態であることから、国際的な化石資源価格の変動の影響を受けるリスクが大きいことや農業の中でも特に大きな温暖化ガスの排出源となってしまうといった問題がある。そのため、従来では、園芸施設における蓄熱技術として、施設外に設置した太陽熱集熱器で地中に蓄積した熱を用いたり、北側壁面を蓄熱体として吸収した太陽熱を夜間に自然対流により放熱したり、屋外の集熱器と施設内部とを空気熱交換形式(温冷風吹出し)で構成した地中蓄熱温室等の技術が存在する(例えば、特許文献1~6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-205510号公報
【特許文献2】特開平4-108321号公報
【特許文献3】特許第5560454号公報
【特許文献4】特開2011-4739号公報
【特許文献5】特開2006-84093号公報
【特許文献6】特開2006-125769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術における園芸施設の蓄熱技術において、特にヒートポンプを用いる技術では、施設内空気の顕熱を回収するものが多い。しかしながら、空気中の顕熱は、園芸施設に入射し床面で吸収された太陽熱の一部が分配されたものであるため、蓄熱という面では低効率であり、効率的な熱利用ができない場合があった。
【0005】
本発明の態様は、このような事情を考慮してなされたものであり、園芸施設において、太陽熱をより効率的に利用することができる園芸施設における太陽熱利用方法および太陽熱利用システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る園芸施設における太陽熱利用方法および太陽熱利用システムは、以下の構成を採用した。
本発明の第1の態様である太陽熱利用方法は、外部からの太陽光を透過する素材を含む園芸施設における太陽熱利用方法であって、蓄熱時には、前記園芸施設の床面に照射された太陽光によって前記園芸施設の床下に設置された配管内を移動する冷媒の温度を上昇させ、前記冷媒の熱を、ヒートポンプを介して熱交換器に伝達し、前記熱交換器からの熱を蓄熱体に蓄え、放熱時には、前記ヒートポンプを介して、前記蓄熱体に蓄えられた熱によって前記配管内の冷媒の温度を上昇させて前記園芸施設の床下に設置した配管内を移動させて前記園芸施設の施設内温度を上昇させる、太陽熱利用方法である。
【0007】
本発明の第2の態様である太陽熱利用方法は、更に、前記蓄熱体は、土壌または水であり、前記熱交換器は、前記蓄熱体内に設置されるものである。
【0008】
本発明の第3の態様である太陽熱利用方法は、更に、前記床面は、熱伝導性が閾値より高く液相を含まない材料によって形成され、前記配管は、前記材料内または前記材料の下部に敷設されるものである。
【0009】
本発明の第4の態様である太陽熱利用方法は、更に、前記園芸施設の施設内温度が第1温度以上である場合に、前記蓄熱時における前記蓄熱体への熱の蓄熱を行い、前記園芸施設の施設内温度が第2温度未満である場合に、前記放熱時における前記園芸施設内への放熱を行うものである。
【0010】
本発明の第5の態様である太陽熱利用方法は、更に、前記放熱時において、前記蓄熱体の温度が所定温度未満である場合に、前記ヒートポンプの稼働を停止させるものである。
【0011】
本発明の第6の態様である太陽熱利用方法は、更に、前記放熱時において、前記蓄熱体の温度が所定温度以上である場合に、前記ヒートポンプの稼働を停止させるものである。
【0012】
本発明の第7の態様である太陽熱利用システムは、外部からの太陽光を透過する素材を含む園芸施設の床下に設置された配管と、前記配管内を移動する冷媒の温度と、熱交換器内を移動する冷媒の温度を制御するヒートポンプと、前記熱交換器からの熱を蓄熱する蓄熱体と、前記ヒートポンプの稼働を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、蓄熱時には、前記園芸施設の床面に照射された太陽光によって前記床下に設置された配管内を移動する冷媒の温度を上昇させ、前記冷媒の熱を、前記ヒートポンプを介して熱交換器に伝達させて前記熱交換器からの熱を蓄熱体に蓄え、放熱時には、前記ヒートポンプを介して、前記蓄熱体に蓄えられた熱によって前記配管内の冷媒の温度を上昇させて前記園芸施設の床下に設置した配管内を移動させて前記園芸施設の施設内温度を上昇させる、太陽熱利用システムである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の態様によれば、園芸施設において、太陽熱をより効率的に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態に係る太陽熱利用システム1の構成図である。
【
図2】制御装置240の構成図の一例を示す図である。
【
図3】ヒートポンプ210について説明するための図である。
【
図4】園芸用ハウス110の暖房時におけるヒートポンプ210の処理について説明するための図である。
【
図5】太陽熱利用システム1により実行される蓄熱処理の一例を示すフローチャートである。
【
図6】太陽熱利用システム1により実行される放熱処理の一例を示すフローチャートである。
【
図7】試験1と試験2における計測結果を示す図である。
【
図8】試験1および試験2における暖房負荷、冷房負荷、および吸収日射量と、単位床面積あたりの熱量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照し、本発明の園芸施設における太陽熱利用方法および太陽熱利用システムの実施形態について説明する。
【0016】
[全体構成]
図1は、実施形態に係る太陽熱利用システム1の構成図である。
図1に示す太陽熱利用システム1は、例えば、床面吸放熱システム100と、蓄採熱システム200とを備える。
図1の例において、床面吸放熱システム100と蓄採熱システム200とは所定距離だけ離れた位置に設けられているが、一方のシステム内の構成の少なくとも一部が他方のシステム内に設けられていてもよい。
【0017】
床面吸放熱システム100は、例えば、園芸用ハウス(園芸施設の一例)110と、配管(施設側熱交換器の一例)120とを備える。園芸用ハウス110は、例えば、鋼材または木材を躯体とし、外部からの太陽光を透過させる素材(例えば、合成樹脂フィルム)で外壁の少なくとも一部を被覆した農業施設である。園芸用ハウス110は、例えば、ビニールハウスやプラスチックハウス等とも呼ばれる。配管120は、例えば、園芸用ハウス110内の床下に設置(例えば、埋設)される。配管120は、床面FLに照射される太陽光の熱を吸収し易いように、例えば、床面に沿って平行に敷設される。配管120内には、例えば、冷媒等の媒体(熱媒体)が移動する。冷媒とは、熱を温度の低い所から高い所へ移動させるために使用される流体である。冷媒は、例えば、水または水以外の不凍液であってもよく、空気や他の化合物であってもよい。
【0018】
床面吸放熱システム100では、
図1に示すように、床下に配管120を埋設し、例えば、管内を冷水もしくは温水を循環させることにより床面FLの温度を調整する。例えば、床面吸放熱システム100は、例えば、日中は太陽熱の輸送を促進し、夜間は床暖房として園芸施設110内の空気に熱供給を行う。
【0019】
なお、配管120は、例えば、食物等を生育する土壌130内に埋設されてもよく、土壌130よりも熱伝導性の高い原料や素材、材料、部材等によって形成された物質140内に埋設されてもよい。物質140とは、例えば、コンクリートなどの熱伝導性が高く(閾値より高く)液相を含まない材料(物質)である。なお、床面吸放熱システム100は、配管120を砂等で形成された基礎部分に埋設し、その上部(床面FL付近)にコンクリート等の物質140を配置してもよい。また、物質140には、コンクリートに代えて(または加えて)、モルタルやタイル、金属(鉄、ステンレス等)が含まれてもよい。
【0020】
一般に、土壌130は、気相の割合が大きく熱伝導率が小さいことや液相を有することから、供給された熱の一部が土壌水分の蒸発潜熱に変換される。そのため、床面を土壌130のまま使うと、コンクリート等のように熱伝導率が高く液相を含まない物質よりも熱輸送効率は低くなる。したがって、実施形態では、園芸用ハウス110内の床面FLを熱伝導性の高い物質(例えばコンクリート)とすることで熱輸送の効率を高めることができる。
【0021】
なお、床面吸放熱システム100には、園芸用ハウス110内の空気を循環(換気)する換気システム(不図示)や、園芸用ハウス110内を保温するための保温カーテン(不図示)等の環境制御装置が設けられてもよい。また、床面吸放熱システム100には、園芸用ハウス110内の温度(施設内温度)または園芸用ハウス110の外気温度(施設外温度)を計測する温度センサ(不図示)が設けられてもよい。施設内温度とは、例えば、園芸用ハウス110内の気温(施設内気温)であるが、床面FLの温度や壁の温度、その他の園芸用ハウス110内の物体の温度でもよい。
【0022】
蓄採熱システム200は、例えば、ヒートポンプ210と、熱交換器(蓄採熱側熱交換器の一例)220と、蓄熱体230と、制御装置240とを備える。なお、ヒートポンプ210および制御装置240の少なくとも一方は、床面吸放熱システム100側に設けられていてもよい。また、蓄採熱システム200は、例えば、温度センサ250-1~250-4と、流量センサ252-1~252-2と、循環ポンプ254-1~254-2とを備える。なお、温度センサ250-1~250-4、流量センサ252-1~252-2、および循環ポンプ254-1~254-2の少なくとも一部は、ヒートポンプ210内に設けられてもよい。また、温度センサ250-1~250-2、流量センサ252-1、および循環ポンプ254-1の少なくとも一部は、床面吸放熱システム100に設けられてもよい。なお、太陽熱利用システム1は、温度センサ250-1~250-4、流量センサ252-1~252-2、および、循環ポンプ254-1~254-2の少なくとも一部が設けられていない構成であってもよい。また、熱交換器220や蓄熱体230の温度を計測する温度センサが設けられていてもよい。
【0023】
ヒートポンプ210は、例えば、ヒートポンプ210内に冷媒等の媒体を循環させて低い温度の物体(空気、水、地中等)から熱を奪い(採熱)、高い温度の物体(空気、水、地中等)に伝える(放熱)装置である。例えば、ヒートポンプ210は、床面吸放熱システム100が太陽光から得た熱を吸収して蓄熱体230に蓄積させたり、熱交換器220が蓄熱体230から採熱した熱によって、配管120内を移動する冷媒の温度を上昇させて、床面吸放熱システム100に熱を供給したりする。ヒートポンプ210の詳細については、後述する。
【0024】
熱交換器220は、例えば、熱伝導率の高い材料等で形成された配管等である。熱交換器220は、例えば、土壌等からなる蓄熱体230に埋設される。蓄熱体230は、土壌に代えて水等の液体であってもよく、その場合、熱交換器220は、水槽内に設置される。つまり、熱交換器220は、土壌等の地中または水等の液中などの蓄熱体230内部に設置される。なお、熱交換器220は、蓄熱体230との熱交換が効率的に行われるように、表面積が大きくなる形状(例えば、分岐配管や板状形状)で形成されてもよく、熱伝導率の高い材質(例えば金属等)で形成されてもよい。
【0025】
制御装置240は、太陽熱利用システム1の稼働や停止等の制御を行う。
図2は、制御装置240の構成図の一例を示す図である。制御装置240は、例えば、取得部242と、温度制御部244と、記憶部246とを備える。取得部242と、温度制御部244とは、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現される。また、これらの構成要素のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)等のハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。プログラムは、予めHDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリ等の記憶装置(非一過性の記憶媒体を備える記憶装置)に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROM等の着脱可能な記憶媒体(非一過性の記憶媒体)に格納されており、記憶媒体がドライブ装置等に装着されることで制御装置240の記憶装置にインストールされてもよい。
【0026】
記憶部246は、上記の各種記憶装置、或いはEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等により実現されてよい。また、記憶部246は、例えば、SDカードやUSB(Universal Serial Bus)メモリ等の可搬型記憶媒体であってもよい。記憶部246には、例えば、取得部242により取得されたセンサデータ246A、プログラム、その他各種情報等が格納される。
【0027】
取得部242は、上述した温度センサ250-1~250-4や流量センサ252-1~252-2の計測結果等を取得する。温度センサ250-1は、冷媒が移動する配管120を含む床面吸放熱システム100側の第1流路C1において、ヒートポンプ210から床面吸放熱システム100に供給される冷媒の温度を計測する。温度センサ250-2は、第1流路C1において、配管120を通って床面吸放熱システム100からヒートポンプ210に入力される冷媒の温度を計測する。温度センサ250-3は、冷媒が移動する蓄採熱システム200側の第2流路C2において、ヒートポンプ210から熱交換器220に供給される冷媒の温度を計測する。温度センサ250-4は、第2流路C2において、熱交換器220を通ってヒートポンプ210に入力される冷媒の温度を計測する。第1流路C1および第2流路C2は、例えば配管である。流量センサ252-1は、第1流路C1を移動する冷媒の流量を計測する。流量センサ252-2は、第2流路C2を移動する冷媒の流量を計測する。第1流路C1を移動する冷媒の流量は、循環ポンプ254-1によって調整され、第2流路C2を移動する冷媒の流量は、循環ポンプ254-2によって調整される。循環ポンプ254-1、254-2の稼働制御(すなわち、第1流路C1、第2流路C2の流量制御)は、温度制御部244により制御される。
【0028】
また、取得部242は、園芸用ハウス110の施設内温度または外気温度を計測する温度センサから温度を取得してもよい。また、取得部242は、熱交換器220や蓄熱体230の温度を計測する温度センサにより計測された温度を取得してもよい。取得部242によって取得された情報は、センサデータ246Aとして、記憶部246に格納される。
【0029】
温度制御部244は、取得部242により入力された流路内の冷媒の温度に基づいて、園芸用ハウス110の施設内温度(例えば、施設内気温)が所定の温度範囲(例えば、約20~30度程度)になるように、ヒートポンプ210の稼働や停止等を制御する。例えば、温度制御部244は、ヒートポンプ210内を循環する冷媒の流れを停止したり、流量を調整したり、後述するヒートポンプ内の熱交換器による蒸発器や凝縮器としての動作を停止させることで、熱交換処理を停止または調整したりする。
【0030】
また、温度制御部244は、例えば、ヒートポンプ210の稼働中において所定条件を満たす場合に、稼働を強制停止するよう制御してもよい。所定条件とは、例えば、園芸用ハウス110の施設内温度を上昇させる場合(放熱による暖房時)に蓄熱体230の温度(例えば、温度センサ250-4で計測される冷媒の温度)が所定温度未満である場合や、蓄熱時に、蓄熱体230の温度が所定温度(例えば、熱交換器220の温度)以上の場合である。放熱時に蓄熱体230から得られる熱の温度が低すぎると、第1流路C1を循環する冷媒の温度を充分に上げることができず園芸用ハウス110内を暖めることができないため、温度制御部244は、ヒートポンプ210を強制停止する。また、蓄熱時に蓄熱体230の温度が熱交換器220の温度より高い場合には、熱交換器220が放熱できない(逆に採熱してしまう)ため、温度制御部244は、ヒートポンプ210を強制停止する。これにより、ヒートポンプ210の不要な稼働を抑制することができる。なお、強制停止させた場合、温度制御部244は、停止理由と共にエラー情報を記憶部246に記憶させてもよく、通信装置(不図示)を介して利用者の端末装置等に通知してもよく、制御装置240に設けられるディスプレイ(不図示)に停止理由を表示させてもよい。
【0031】
[ヒートポンプを用いた太陽熱利用]
次に、ヒートポンプ210の詳細と、ヒートポンプ210を用いた太陽熱利用について図を用いて説明する。なお、ヒートポンプ210の稼働や停止は制御装置240によって制御されているものとする。
図3は、ヒートポンプ210について説明するための図である。
図3の例では、ヒートポンプ210以外の太陽熱利用システム1の構成を簡略化して示している。また、
図3の例では、蓄熱時(園芸用ハウス内冷房)におけるヒートポンプ210の処理内容を示すものである。
【0032】
ヒートポンプ210は、例えば、第1熱交換器211と、圧縮機212と、第2熱交換器213と、膨張弁214とを備える。また、ヒートポンプ210は、例えば、水等の冷媒が第1熱交換器211と、圧縮機212と、第2熱交換器213と、膨張弁214とを循環する第3流路(例えば、配管)C3を備える。第1熱交換器211および第2熱交換器213は、第3流路C3を移動する冷媒を蒸発させたり凝縮させたりする。圧縮機212は、第3流路C3を移動する冷媒ガスを圧縮し、圧力を高めることで冷媒の温度を上昇させる。膨張弁214は、第3流路C3を移動する冷媒を膨張させることで減圧し、冷媒の温度を低下させる。
【0033】
図3の例において、太陽光の照射によって園芸用ハウス110内の床面FLが温められ、その熱(太陽熱)がコンクリート等の物質140内を通って配管120内の冷媒に吸収される。太陽熱によって加熱された冷媒は、配管120と連結された第1流路C1を通ってヒートポンプ210に入力される。
【0034】
第1熱交換器211は、第1流路C1を移動する冷媒の熱を吸収し、吸収した熱を、第3流路C3を移動する冷媒に伝達させる。具体的には、第1熱交換器211は、蒸発器として、第1流路C1を移動する冷媒からの熱を吸収し、その熱を利用して第3流路C3内の冷媒を蒸発させる。第3流路C3内で蒸発した冷媒ガスは、圧縮機212に送られる。圧縮機212は、低圧の冷媒ガスを圧縮し、圧力を高めて高温化する。高温化された冷媒は、第3流路C3によって第2熱交換器213に入力される。第2熱交換器213は、第3流路C3を移動する冷媒ガスの熱を、第2流路C2を移動する冷媒に伝達させる。具体的には、第2熱交換器213は、凝縮器として、高温・高圧となった冷媒ガスの熱を第2流路C2内の冷媒に放出する。これにより、第3流路C3を流れる冷媒ガスは、熱を失い、高圧下で凝縮されて液化する。
【0035】
冷媒ガスによって、加熱された第2流路C2を移動する冷媒は、熱交換器220内を移動することで、熱交換器220から蓄熱体230に放熱する。これにより、蓄熱体230が加熱されることで、蓄熱される。熱交換器220を通過した冷媒は、放熱によって低温化され、再び第2熱交換器213に入力される。
【0036】
また、第3流路C3内の冷媒は、第2熱交換器213から膨張弁214に入力される。膨張弁214は、高圧の冷媒を減圧して元の低温・低圧の液体に戻して、再び第1熱交換器211に入力される。これにより、園芸用ハウス110内の熱を蓄熱体230に蓄えることができる。
【0037】
また、第1流路C1を移動する冷媒は、第1熱交換器211で熱を放出した後、再び配管120内を移動する。これにより、太陽熱を継続して吸収することができるため、床面FLの温度を低下させ、園芸用ハウス110内の温度の上昇を抑制することができるため、園芸用ハウス110内を冷房することができる。
【0038】
次に、蓄熱体230によって蓄熱された熱を園芸用ハウス110内に放熱してハウス内を暖房する場合について説明する。
図4は、園芸用ハウス110の暖房時におけるヒートポンプ210の処理について説明するための図である。
図4の例において、熱交換器220は、制御装置240の制御により、蓄熱体230の熱を吸収(採熱)して第2流路C2を移動する冷媒の温度を上昇させる。第2流路C2内の冷媒は、第2熱交換器213に入力される。第2熱交換器213は、蒸発器として、第2流路C2内の冷媒からの熱を吸収し、その熱を利用して第3流路C3内の冷媒を蒸発させる。第3流路C3内で蒸発した冷媒ガスは、圧縮機212に送られる。圧縮機212は、低圧の冷媒ガスを圧縮し、圧力を高めて高温化する。高温化された冷媒ガスは、第3流路C3を移動して第1熱交換器211に入力される。第1熱交換器211は、凝縮器として、高温・高圧となった冷媒ガスの熱を放出することで、第1流路C1の冷媒を加熱する。このとき、第2流路C2を流れる冷媒ガスは、高圧下で凝縮されて液化する。第3流路C3内の冷媒は、第1熱交換器211から膨張弁214に入力され、高圧の冷媒を減圧して元の低温・低圧の液体に戻して、再び第2熱交換器213に入力される。
【0039】
また、第1流路C1を流れる冷媒は、第1熱交換器211によって、第2流路C2を流れる冷媒の熱を受け取り、配管120内を移動することで、配管120からの熱が物質140を通って床面FLから園芸用ハウス110内に放熱され、園芸用ハウス110内の空気を上昇させる。これにより、太陽光によって蓄熱体230に蓄えられた熱を有効に利用して園芸用ハウス110内の温度を適切に上昇させることができる。このように、実施形態では、ヒートポンプ210を用いて温度制御(暖房)を行っているため、ガスや石油による燃焼方式によって暖房することに比べて、二酸化炭素の排出量を大幅に削減することができる。
【0040】
蓄採熱システム200の制御装置240は、例えば、ヒートポンプ210(園芸用ハウス110側および蓄熱体230側の両方で、冷媒による熱交換を行うヒートポンプ)を利用して、気温が上がる日中には、
図3に示すように床面吸放熱システム100で吸収した太陽熱を蓄熱体(地中や水槽等)230に蓄熱する蓄熱処理を行う。また、制御装置240は、気温が下がる夜間には、ヒートポンプ210を利用して、
図4に示すように、蓄熱体230から採熱して床面吸放熱システム100に輸送し暖房熱として利用する放熱処理を行う。なお、制御装置240は、例えば、園芸用ハウス110の施設内温度が、第1温度以上の場合には蓄熱処理を行い、第2温度未満の場合には放熱処理を行うように制御してもよい。実施形態では、上述した施設内温度に代えて、外気温度を用いてもよい。第1温度は、第2温度と同温度でもよく、第2温度よりも高い温度であってもよい。以下、太陽熱利用システム1により実行される処理の一例についてフローチャートを用いて説明する。
【0041】
図5は、太陽熱利用システム1により実行される蓄熱処理の一例を示すフローチャートである。
図5の例では、園芸用ハウス110内の照射された太陽光による熱を、蓄熱体230に蓄熱する蓄熱処理を示すものである。
図5の例において、制御装置240は、例えば、園芸用ハウス110の施設内温度が第1温度以上であるか否かを判定する(ステップS100)。施設内温度が第1温度以上であると判定した場合、制御装置240は、ヒートポンプ210を稼働させる(ステップS110)。次に、ヒートポンプ210は、園芸用ハウス110の床下に埋設した配管120内を移動した冷媒の熱を熱交換器220に伝達する(ステップS120)。次に、熱交換器220は、熱交換器220の熱を蓄熱体230に放熱する(ステップS130)。これにより、本フローチャートの処理は終了する。
【0042】
また、ステップS100の処理において、施設内温度が第1温度以下でない(第1温度未満である)と判定した場合、本フローチャートの処理は、終了する。なお、
図5の処理は、所定周期で繰り返し実行されてよい。また、
図5の処理において、ヒートポンプ210の稼働中に、日照強度の低下等により園芸用ハウスの施設内温度が第1温度未満になった場合、制御装置240は、ヒートポンプ210を停止させる処理を行ってもよい。
図5に示す蓄熱処理により、太陽熱を用いてより効率的な蓄熱を行うことができると共に、園芸用ハウス110内の不要な温度上昇を抑制し、園芸用ハウス110内温度を安定化させることができる。
【0043】
図6は、太陽熱利用システム1により実行される放熱処理の一例を示すフローチャートである。
図6の例では、蓄熱体に蓄熱された熱を、園芸用ハウス110内に放出(供給)する放熱処理を示すものである。
図6の例において、制御装置240は、園芸用ハウス110の施設内温度が第2温度未満であるか否かを判定する(ステップS200)。施設内温度が第2温度未満であると判定した場合、制御装置240は、ヒートポンプ210を稼働させる(ステップS210)。次に、熱交換器220は、蓄熱体230から採熱する(ステップS220)。次に、ヒートポンプ210は、熱交換器220の熱を、配管120内を移動する冷媒に伝達し(ステップS230)、冷媒を園芸用ハウス110の床下に埋設された配管120内を循環(移動)させることで、園芸用ハウス110内の温度を上昇させる(ステップS240)。これにより、本フローチャートの処理は終了する。
【0044】
また、ステップS200の処理において、施設内温度が第2温度未満ではない(第2温度以上である)と判定した場合、本フローチャートの処理は、終了する。なお、
図6の処理は、所定周期で繰り返し実行されてよい。また、
図6の処理において、ヒートポンプ210の稼働中に、施設内温度が第2温度以上になった場合、制御装置240は、ヒートポンプを停止させる処理を行ってもよい。
【0045】
図6に示す放熱処理により、例えば日中に蓄えた熱を有効活用することができる。また、
図5および
図6に示す処理を行うことで、園芸用ハウス110内の温度をより安定化させることができる。なお、太陽熱利用システム1は、
図5および
図6に示す処理のうち、一方のみを行ってもよい。
【0046】
なお、制御装置240は、管理者等の利用者により指示された日時または時間帯に蓄熱処理および放熱処理を行ってもよく、利用者の指示により循環ポンプ254-1~254-2を制御して第1流路C1や第2流路C2の冷媒の流量を調整してもよい。冷媒の流量が多いほど、蓄熱および放熱を早く行うことができる。
【0047】
また、制御装置240は、例えば、外部装置から所定日数分(例えば、1週間分)の気温の変動予測情報を取得し、取得した変動予測情報に基づいて、1日の平均気温を比較し、気温が高くなる日に蓄熱処理を行い、気温が低くなる日に放熱処理を行うよう制御してもよい。例えば、制御装置240は、1年のうち、気温が高い夏場に蓄熱処理を行い、気温が低い冬場に放熱処理を行うように制御してもよい。これにより、時間帯ごと、日ごと、所定期間ごとの温度の変動に基づいて、より効率的な熱利用を実現することができる。
【0048】
また、制御装置240は、外部の天候に基づいて、晴れている場合に蓄熱処理を優先的に行い、雨や雪の場合に放熱処理を優先的に行うよう制御してもよい。また、制御装置240は、蓄熱体230に蓄熱した時間が所定時間未満の場合や、温度センサ250-4によって計測された熱交換器220を通過した冷媒の温度が所定温度以下である場合に、蓄熱処理を優先的に行うように制御してもよい。これにより、熱量不足で放熱処理ができなくなることを抑制することができる。また、制御装置240は、天気予報情報等に含まれる園芸用ハウス110付近の予想最高気温や予想最低気温に基づいて、冷媒の流量を調整してもよい。例えば、予想最高気温が閾値より高い場合には、循環ポンプ254-1~254-2を制御して第1流路C1や第2流路C2の冷媒の流量を増加して、通常よりも早く蓄熱処理(ハウス内冷房)が行われるようにしてもよい。また、予想最低気温が閾値より低い場合には、循環ポンプ254-1~254-2を制御して第1流路C1や第2流路C2の冷媒の流量を増加して、通常よりも早く放熱処理(ハウス内暖房)が行われるようにしてもよい。
【0049】
[太陽熱利用システム1の実施結果と評価]
ここで、実施形態の太陽熱利用システム1を用いて、吸収日射を地中蓄熱することによる地中暖房を実施した結果の一例について説明する。なお、以下では、太陽熱利用システム1を用いて園芸用ハウス110での太陽熱の蓄熱と、夜間暖房の結果を所定の指標値で定量化すると共に、床冷暖房が園芸施設環境に与える効果を2つの試験(試験1、試験2)によって評価する。
【0050】
試験1では、2022年1月31日~2月1日の期間で暖房を17時から運転し、日中の冷房稼働はなく、ハウス内の自然換気あり、太陽熱の蓄熱処理なしの状態での暖房効果試験を行った。試験2では、2022年2月2日~2月3日の期間で冷房を8時30分~15時00分の間で行い、暖房は17時から運転し、日中の冷房稼働あり、ハウス内の自然換気なし、保温カーテンでハウス内を密閉し、太陽熱の蓄熱処理ありの状態での暖房効果試験を行った。つまり、試験1では、ヒートポンプ210による暖房運転(放熱処理)のみを行い、試験2では、ヒートポンプによる冷房運転(蓄熱処理)と暖房運転(放熱処理)の両方を行った。
【0051】
ここで、評価するための指標値の一例であるヒートポンプの稼働中の熱輸送(冷房負荷(=地中蓄熱量)、暖房負荷)は、以下に示す(1)式で算出した。
【数1】
なお、(1)式において、H
loadは、試験期間内の単位床面積あたりの熱輸送量[Jm
-2]、ρwは、第1流路C1を移動する水(冷媒)の密度[kgm
-3]、c
p,wは、水の定圧比熱[Jkg
-1K
-1]、Qwは、流量センサ252-1により計測される床冷暖房の配管120の循環流量[m
3s
-1]、T
w,leaveは、温度センサ250-1により計測されるヒートポンプ210から出ていく水の温度[℃]、T
w,returnは、流量センサ252-2により計測されるヒートポンプ210に戻る水の温度[℃]、tは時間[s]、Area
greenhouseは施設の床面積[m
2]]を示す。また、Qwは、愛知時計静電容量式電磁流量モニター(CX20A-NA-3)を用いた。流量は安定していたため、目視から15.5[L/min]の流量を定数として用いた。T
w,leave、T
w,returnは、チノー測温抵抗体(R050-3)を管路内に設置して計測した。
【0052】
また、吸収日射量は、全天日射強度計測装置(英弘正規株式会社製MS-60A)を用いて施設中央で計測し、既往研究で明らかにしたアルベド(0.32)を用いて以下に示す(2)式から算出した。
【数2】
なお、(2)式において、Sol
absは、吸収日射量[Jm
-2]、sol
gは、全天日射強度[Wm
-2]を示す。また、園芸施設環境(気温)については、施設中央に設置された温度センサのデータを利用した。
【0053】
図7は、試験1と試験2における計測結果を示す図である。
図7の例において、横軸は時刻を示し、縦軸は、日射強度[Wm
-2]と、水温[℃]を示している。また、
図7において、実線は、温度センサ250-1により計測されたヒートポンプ(HP)210から園芸用ハウス110内に出力される水(冷媒)の温度を示し、点線は、温度センサ250-2により計測された園芸用ハウス110からヒートポンプ210に入力される水(冷媒)の温度を示している。
図5に示すように、試験1では、日照強度が少なくなると施設内温度が低下するため、ヒートポンプ210により暖房運転が実施され、ヒートポンプ210から出力された温水が配管120を移動することによって床面FLが暖められてハウス内温度が上昇(昇温)する。配管120から放熱することによって温度が下がった水は、再びヒートポンプ210に入力される。
【0054】
また、試験2では、日照強度が多くなることで施設内温度が所定温度以上となり、ヒートポンプ210による冷房運転が実施され、ヒートポンプ210から出力された水が配管120を移動することによって床面FLに照射された太陽光の熱を吸収することで、ハウス内温度が下げる(または上昇が抑制される)。太陽熱を吸収した配管120の水は、再びヒートポンプ210に入力される。また、試験2では、日照強度が少なくなると施設内温度が低下するため、試験1と同様にヒートポンプ210により暖房運転が実施される。なお、試験2では、冷房運転によって、蓄熱体230に蓄熱されている分だけ暖房運転時間は、試験1よりも長くなっている。つまり、試験1および試験2により、実際に構築した床材をコンクリートとし、蓄熱体230を地中としたシステム構成において、日中に冷房運転を行う場合(=太陽熱の蓄熱)と行わない試験1と比較して、太陽熱を蓄熱した試験2の方が、夜間暖房時の熱枯れが生じず安定した熱供給が行われることが確認された。
【0055】
また、試験1および試験2により、温度差をキープして熱を取り続けることが分かった。なお、試験2の冷房運転では、換気用の側窓と保温カーテンを全閉したがハウスと比較して過度な昇温は抑制された。また、試験2により、実施形態の太陽熱利用システム1によりハウス内において一定の温度の安定化が実現できた。
【0056】
図8は、試験1および試験2における暖房負荷、冷房負荷、および吸収日射量と、単位床面積あたりの熱量(上述したH
loadの算出値)との関係を示す図である。
図8に示すように、日中冷房運転の有無が夜間暖房に与える影響を定量化した。
図8に示すように、日中冷房運転を行った場合、日中に冷房を運転しなかった場合よりも多くの熱を暖房として供給することができた。
【0057】
上述した実施形態によれば、外部からの太陽光を透過する素材を含む園芸施設(例えば、園芸用ハウス110)における太陽熱利用方法であって、蓄熱時には、園芸施設の床面に照射された太陽光によって園芸施設の床下に設置された配管120内を移動する冷媒の温度を上昇させ、冷媒の熱を、ヒートポンプ210を介して熱交換器220に伝達し、熱交換器220からの熱を蓄熱体230に蓄え、放熱時には、ヒートポンプ210を介して、蓄熱体230に蓄えられた熱によって配管120内の冷媒の温度を上昇させて園芸施設の床下に設置した配管120内を移動させて園芸施設の施設内温度を上昇させることにより、園芸施設において、太陽熱をより効率的に利用することができる。
【0058】
具体的には、実施形態によれば、園芸施設の暑熱の要因となる「無駄な」熱を効率的に蓄熱体に輸送し、熱が必要となるタイミングで蓄熱体から引き出すことにより、自然に得られる熱の利用を最大化し、園芸施設での安定した熱利用を実現できる。また、実施形態では、床冷暖房や地中熱源・水熱源ヒートポンプといった構成を適切に組み合わせることで太陽熱の最大限の活用という新たな利点を生み出すことができる。
【0059】
例えば、実施形態によれば、ヒートポンプを用いた床冷暖房を用いることで、園芸施設の床表面で吸収される日射による熱(太陽熱)が施設内の空気に分配される前に、速やかに施設外へ輸送し、一度蓄熱体(地中・水槽等)に溜め込んだ上で、暖房が必要となるタイミングで再度ヒートポンプを用いて熱を取り出し、暖房に利用することができる。例えば、従来の化石燃料を用いた暖房では、消費エネルギーの約0.9倍程度が熱として供給されるが、ヒートポンプでは、消費エネルギーの約3~5倍程度の熱を供給することが可能となる。
【0060】
また、実施形態によれば、園芸施設等の日射透過性の高い壁体を有する建築物内の温熱環境を、太陽熱を最大限に利用して制御することができる。また、実施形態によれば、園芸用ハウス内の床面にコンクリートを敷設することで、土壌よりも熱伝導性が高くなるため、コンクリートが空気を温めるよりも早く、コンクリート内またはコンクリート下部の配管の水(熱媒体)を温めることができる。したがって、より効率的に蓄熱等を行うことができる。また、実施形態によれば、例えば、冬期において、日中の床冷房と夜間の床暖房に利用することができ、換気窓(換気システム)の閉鎖が可能になるため、効果的なCO2の利用(光合成促進)と夜間暖房時の熱源不足を防止することができる。また、実施形態によれば、例えば、夏期において、日中の床冷房に用いることができ、床面で採熱したエネルギーを蓄え、暖房期の熱源として利用することができる。したがって、本実施形態によれば、地産地消型エネルギーシステムによる地域経済社会の強靭化を図ることができる。実施形態によれば、日中の太陽熱を夜間に利用するだけでなく、例えば、夏場の暑熱を冬季の暖房に利用することも可能であるため、園芸施設での自然熱エネルギー利用の革新に繋げることができる。
【0061】
現在では施設園芸分野での熱利用の大半は、化石資源に依存しているため、世界的な脱炭素の流れから日本でも全産業において温暖化ガス排出量の削減が求められている。本実施形態は、自然エネルギーである太陽熱を電力により最大限に活用するシステムであるため、施設園芸の脱炭素化に貢献することができ、ネット・ゼロ・エネルギー・グリーンハウス(ZEG)の要素技術となりうるものである。
【0062】
以上、本発明を実施するための形態について実施形態を用いて説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0063】
1…太陽熱利用システム、100…床面吸放熱システム、110…園芸用ハウス、120…配管、130…土壌、140…物質、200…蓄採熱システム、210…ヒートポンプ、220…熱交換器、230…蓄熱体、240…制御装置、242…取得部、244…温度制御部、246…記憶部