(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021236
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】電解液、電気化学デバイス及び電解液用添加剤
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0567 20100101AFI20240208BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240208BHJP
H01G 11/64 20130101ALI20240208BHJP
H01G 11/62 20130101ALI20240208BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/052
H01G11/64
H01G11/62
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123938
(22)【出願日】2022-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100211100
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 直樹
(72)【発明者】
【氏名】小川 秀之
(72)【発明者】
【氏名】中村 真也
(72)【発明者】
【氏名】今野 馨
【テーマコード(参考)】
5E078
5H029
【Fターム(参考)】
5E078AA01
5E078AA02
5E078AA03
5E078AA05
5E078AB01
5E078BA04
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5E078BA17
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5E078BA44
5E078BA47
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5E078BB23
5E078BB26
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5E078BB33
5E078CA02
5E078CA06
5E078CA07
5E078CA08
5E078CA09
5E078DA04
5E078DA06
5E078FA02
5E078FA06
5E078FA12
5E078FA13
5E078FA14
5E078FA15
5E078HA02
5E078HA03
5E078HA05
5E078HA12
5E078HA13
5H029AJ03
5H029AJ06
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL03
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AM03
5H029AM07
5H029HJ01
5H029HJ02
(57)【要約】
【課題】初期充放電後及び充放電サイクル試験後の抵抗上昇を抑制しつつ、電気化学デバイスの放電容量維持率を向上させることができる電解液を提供すること。
【解決手段】下記式(A)で表される化合物と、リチウム塩と、を含み、前記リチウム塩のリチウム原子1モルに対する前記化合物中のフッ素原子の量が0.160モル以上である、電解液。
[式(A)中、Rはそれぞれ独立して置換若しくは無置換のC
1-6アルキル基、置換若しくは無置換のフェニル基、又は、置換若しくは無置換のベンジル基を示し、Rの少なくとも一つが、前記置換若しくは無置換のフェニル基、又は、前記置換若しくは無置換のベンジル基である。]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(A)で表される化合物と、リチウム塩と、を含み、
前記リチウム塩のリチウム原子1モルに対する前記化合物中のフッ素原子の量が0.160モル以上である、電解液。
【化1】
[式(A)中、Rはそれぞれ独立して置換若しくは無置換のC
1-6アルキル基、置換若しくは無置換のフェニル基、又は、置換若しくは無置換のベンジル基を示し、
Rの少なくとも一つが、前記置換若しくは無置換のフェニル基、又は、前記置換若しくは無置換のベンジル基である。]
【請求項2】
前記化合物の含有量が、前記電解液全量を基準として、2.0質量%以上である、請求項1に記載の電解液。
【請求項3】
前記C1-6アルキル基が、ハロゲン原子で置換されたC1-6アルキル基又は無置換のC1-6アルキル基である、請求項1又は2に記載の電解液。
【請求項4】
Rがフッ素原子を含まない、請求項1又は2に記載の電解液。
【請求項5】
前記化合物がフェニルジメチルフルオロシランである、請求項1又は2に記載の電解液。
【請求項6】
正極と、負極と、請求項1又は2に記載の電解液と、を備える電気化学デバイス。
【請求項7】
前記電気化学デバイスは、非水電解液二次電池又はキャパシタである、請求項6に記載の電気化学デバイス。
【請求項8】
下記式(A)で表される化合物を含有する、電解液用添加剤。
【化2】
[式(A)中、Rはそれぞれ独立して置換若しくは無置換のC
1-6アルキル基、置換若しくは無置換のフェニル基、又は、置換若しくは無置換のベンジル基を示し、
Rの少なくとも一つが、前記置換若しくは無置換のフェニル基、又は、前記置換若しくは無置換のベンジル基である。]
【請求項9】
前記C1-6アルキル基が、ハロゲン原子で置換されたC1-6アルキル基又は無置換のC1-6アルキル基である、請求項8に記載の電解液用添加剤。
【請求項10】
Rがフッ素原子を含まない、請求項8又は9に記載の電解液用添加剤。
【請求項11】
前記化合物がフェニルジメチルフルオロシランである、請求項8又は9に記載の電解液用添加剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解液、電気化学デバイス及び電解液用添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯型電子機器、電気自動車等の普及により、リチウムイオン二次電池に代表される非水電解液二次電池、キャパシタ等の高性能な電気化学デバイスが必要とされている。電気化学デバイスの性能を向上させるために、電解液にリチウム塩とともに特定の添加剤が添加されることがある(特許文献1~2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-220415号公報
【特許文献2】特開2016-186910号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J. C. Burns et al, “Studies ofthe Effect of Varying Vinylene Carbonate (VC) Content in Lithium Ion Cells onCycling Performance and Cell Impedance”, Journal of The ElectrochemicalSociety, 2013, 160(10), A1668-A1674.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電気化学デバイス性能の更なる向上のために、より多くの電解液用添加剤を電解液に添加すると、電気化学デバイスの抵抗が上昇してしまう場合があった(非特許文献1等)。
【0006】
本発明の一側面は、初期充放電後及び充放電サイクル試験後の抵抗上昇を抑制しつつ、電気化学デバイスの放電容量維持率を向上させることができる電解液及び当該電解液を得るための電解液用添加剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、いくつかの側面において、以下の[1]~[10]を提供する。
[1]
下記式(A)で表される化合物と、リチウム塩と、を含み、前記リチウム塩中のリチウム原子1モルに対する前記化合物中のフッ素原子の量が0.160モル以上である、電解液。
【化1】
[式(A)中、Rはそれぞれ独立して置換若しくは無置換のC
1-6アルキル基、置換若しくは無置換のフェニル基、又は、置換若しくは無置換のベンジル基を示し、Rの少なくとも一つが、前記置換若しくは無置換のフェニル基、又は、前記置換若しくは無置換のベンジル基である。]
[2]
前記化合物の含有量が、前記電解液全量を基準として、2.0質量%以上である、[1]に記載の電解液。
[3]
前記C
1-6アルキル基が、ハロゲン原子で置換されたC
1-6アルキル基又は無置換のC
1-6アルキル基である、[1]又は[2]に記載の電解液。
[4]
Rで表される置換基がフッ素原子を含まない、[1]~[3]のいずれかに記載の電解液。
[5]
前記化合物がフェニルジメチルフルオロシランである、[1]~[4]のいずれかに記載の電解液。
[6]
正極と、負極と、[1]~[5]のいずれかに記載の電解液と、を備える電気化学デバイス。
[7]
前記電気化学デバイスは、非水電解液二次電池又はキャパシタである、[6]に記載の電気化学デバイス。
[8]
下記式(A)で表される化合物を含有する、電解液用添加剤。
【化2】
[式(A)中、Rはそれぞれ独立して置換若しくは無置換のC
1-6アルキル基、置換若しくは無置換のフェニル基、又は、置換若しくは無置換のベンジル基を示し、Rの少なくとも一つが、前記置換若しくは無置換のフェニル基、又は、前記置換若しくは無置換のベンジル基である。]
[9]
前記C
1-6アルキル基が、ハロゲン原子で置換されたC
1-6アルキル基又は無置換のC
1-6アルキル基である、[8]に記載の電解液用添加剤。
[10]
前記化合物がフェニルジメチルフルオロシランである、[8]又は[9]に記載の電解液用添加剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、初期充放電後及び充放電サイクル試験後の抵抗上昇を抑制しつつ、電気化学デバイスの放電容量維持率を向上させることができる電解液及び当該電解液を得るための電解液用添加剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は一実施形態に係る電気化学デバイスとしての非水電解液二次電池を示す斜視図である。
【
図2】
図2は
図1に示した二次電池の電極群を示す分解斜視図である。
【
図3】
図3は交流インピーダンスの測定結果を示すグラフである。
【
図4】
図4は各サイクルで放電容量維持率(%)の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態について詳細に説明する。ただし、本開示は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0011】
本明細書において、「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。また、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
【0012】
本明細書において、組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。例示材料は特に断らない限り、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0013】
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。「A又はB」とは、AとBとのどちらか一方を含んでいればよく、両方とも含んでいてもよい。
【0014】
本明細書において「層」との語は、平面図として観察したときに、全面に形成されている形状の構造に加え、一部に形成されている形状の構造も包含される。
【0015】
図1は、一実施形態に係る電気化学デバイスを示す斜視図である。本実施形態において、電気化学デバイスは非水電解液二次電池である。
図1に示すように、非水電解液二次電池1は、正極、負極及びセパレータから構成される電極群2と、電極群2を収容する袋状の電池外装体3とを備えている。正極及び負極には、それぞれ正極集電タブ4及び負極集電タブ5が設けられている。正極集電タブ4及び負極集電タブ5は、それぞれ正極及び負極が非水電解液二次電池1の外部と電気的に接続可能なように、電池外装体3の内部から外部へ突き出している。電池外装体3内には、電解液(図示せず)が充填されている。非水電解液二次電池1は、上述したようないわゆる「ラミネート型」以外の形状の電池(コイン型、円筒型、積層型等)であってもよい。
【0016】
電池外装体3は、例えばラミネートフィルムで形成された容器であってよい。ラミネートフィルムは、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等の樹脂フィルムと、アルミニウム、銅、ステンレス鋼等の金属箔と、ポリプロピレン等のシーラント層とがこの順で積層された積層フィルムであってよい。
【0017】
図2は、
図1に示した非水電解液二次電池1における電極群2の一実施形態を示す分解斜視図である。
図2に示すように、電極群2は、正極6と、セパレータ7と、負極8とをこの順に備えている。正極6及び負極8は、正極合剤層10側及び負極合剤層12側の面がそれぞれセパレータ7と対向するように配置されている。
【0018】
正極6は、正極集電体9と、正極集電体9上に設けられた正極合剤層10とを備えている。正極集電体9には、正極集電タブ4が設けられている。
【0019】
正極集電体9は、例えば、アルミニウム、チタン、ステンレス、ニッケル、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス等で形成されている。正極集電体9は、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウム、銅等の表面にカーボン、ニッケル、チタン、銀等で処理が施されたものであってもよい。正極集電体9の厚さは、電極強度及びエネルギー密度の点から、例えば1~50μmである。
【0020】
正極合剤層10は、一実施形態において、正極活物質と、導電剤と、結着剤とを含有する。正極合剤層10の厚さは、例えば20~200μmである。
【0021】
正極活物質は、例えばリチウム酸化物であってよい。リチウム酸化物としては、例えば、LixCoO2、LixNiO2、LixMnO2、LixCoyNi1-yO2、LixCoyM1-yOz、LixNi1-yMyOz、LixMn2O4及びLixMn2-yMyO4(各式中、Mは、Na、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb、V及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示す(ただし、Mは、各式中の他の元素と異なる元素である)。x=0~1.2、y=0~0.9、z=2.0~2.3である。)が挙げられる。LixNi1-yMyOzで表されるリチウム酸化物は、LixNi1-(y1+y2)Coy1Mny2Oz(ただし、x及びzは上述したものと同様であり、y1=0~0.9、y2=0~0.9であり、かつ、y1+y2=0~0.9である。)であってよく、例えばLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2、LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2、LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2であってよい。LixNi1-yMyOzで表されるリチウム酸化物は、LixNi1-(y3+y4)Coy3Aly4Oz(ただし、x及びzは上述したものと同様であり、y3=0~0.9、y4=0~0.9であり、かつ、y3+y4=0~0.9である。)であってよく、例えばLiNi0.8Co0.15Al0.05O2であってもよい。
【0022】
正極活物質は、例えばリチウムのリン酸塩であってもよい。リチウムのリン酸塩としては、例えば、リン酸マンガンリチウム(LiMnPO4)、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)、リン酸コバルトリチウム(LiCoPO4)及びリン酸バナジウムリチウム(Li3V2(PO4)3)が挙げられる。
【0023】
正極活物質の含有量は、正極合剤層全量を基準として、80質量%以上、又は85質量%以上であってよく、99質量%以下であってよい。
【0024】
導電剤は、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、黒鉛、グラフェン、カーボンナノチューブなどの炭素材料であってよい。導電剤の含有量は、正極合剤層全量を基準として、例えば、0.01質量%以上、0.1質量%以上、又は1質量%以上であってよく、50質量%以下、30質量%以下、又は15質量%以下であってよい。
【0025】
結着剤は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリイミド、芳香族ポリアミド、セルロース、ニトロセルロース等の樹脂;SBR(スチレン-ブタジエンゴム)、NBR(アクリロニトリル-ブタジエンゴム)、フッ素ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン-プロピレンゴム等のゴム;スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体又はその水素添加物、EPDM(エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体)、スチレン・エチレン・ブタジエン・エチレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体又はその水素添加物等の熱可塑性エラストマー;シンジオタクチック-1、2-ポリブタジエン、ポリ酢酸ビニル、エチレン・酢酸ビニル共重合体、プロピレン・α-オレフィン共重合体等の軟質樹脂;ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン・フッ化ビニリデン共重合体等のフッ素含有樹脂;ニトリル基含有モノマーをモノマー単位として有する樹脂;アルカリ金属イオン(例えばリチウムイオン)のイオン伝導性を有する高分子組成物などが挙げられる。
【0026】
結着剤の含有量は、正極合剤層全量を基準として、例えば、0.1質量%以上、1質量%以上、又は1.5質量%以上であってよく、30質量%以下、20質量%以下、又は10質量%以下であってよい。
【0027】
セパレータ7は、正極6及び負極8間を電子的には絶縁する一方でイオンを透過させ、かつ、正極6側における酸化性及び負極8側における還元性に対する耐性を備えるものであれば、特に制限されない。このようなセパレータ7の材料(材質)としては、樹脂、無機物等が挙げられる。
【0028】
樹脂としては、オレフィン系ポリマー、フッ素系ポリマー、セルロース系ポリマー、ポリイミド、ナイロン等が挙げられる。セパレータ7は、電解液に対して安定で、保液性に優れる観点から、好ましくは、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンで形成された多孔質シート又は不織布である。
【0029】
無機物としては、アルミナ、二酸化珪素等の酸化物、窒化アルミニウム、窒化珪素等の窒化物、硫酸バリウム、硫酸カルシウム等の硫酸塩が挙げられる。セパレータ7は、例えば、不織布、織布、微多孔性フィルム等の薄膜状基材に、繊維状又は粒子状の無機物を付着させたセパレータであってよい。
【0030】
負極8は、負極集電体11と、負極集電体11上に設けられた負極合剤層12とを備えている。負極集電体11には、負極集電タブ5が設けられている。
【0031】
負極集電体11は、銅、ステンレス、ニッケル、アルミニウム、チタン、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、アルミニウム-カドミウム合金等で形成されている。負極集電体11は、接着性、導電性、耐還元性向上の目的で、銅、アルミニウム等の表面にカーボン、ニッケル、チタン、銀等で処理が施されたものであってもよい。負極集電体11の厚さは、電極強度及びエネルギー密度の点から、例えば1~50μmである。
【0032】
負極合剤層12は、例えば、負極活物質と、結着剤とを含有する。
【0033】
負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な物質であれば特に制限されない。負極活物質としては、例えば、炭素材料、金属複合酸化物、錫、ゲルマニウム、ケイ素等の第四族元素の酸化物又は窒化物、リチウムの単体、リチウムアルミニウム合金等のリチウム合金、Sn、Si等のリチウムと合金を形成可能な金属などが挙げられる。負極活物質は、安全性の観点からは、好ましくは炭素材料及び金属複合酸化物からなる群より選択される少なくとも1種である。負極活物質はこれらの1種単独又は2種以上の混合物であってよい。負極活物質の形状は、例えば、粒子状であってよい。
【0034】
炭素材料としては、非晶質炭素材料、天然黒鉛、天然黒鉛に非晶質炭素材料の被膜を形成した複合炭素材料、人造黒鉛(エポキシ樹脂、フェノール樹脂等の樹脂原料、又は、石油、石炭等から得られるピッチ系原料を焼成して得られるもの)などが挙げられる。金属複合酸化物は、高電流密度充放電特性の観点からは、好ましくはチタン及びリチウムのいずれか一方又は両方を含有し、より好ましくはリチウムを含有する。
【0035】
負極活物質の中でも炭素材料は、導電性が高く、低温特性及びサイクル安定性に特に優れている。炭素材料の中でも高容量化の観点からは、黒鉛が好ましい。黒鉛においては、好ましくはX線広角回折法における炭素網面層間(d002)が0.34nm未満であり、より好ましくは0.3354nm以上0.337nm以下である。このような条件を満たす炭素材料を、擬似異方性炭素と称する場合がある。
【0036】
負極活物質には、ケイ素及びスズからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含む材料が更に含まれていてもよい。ケイ素及びスズからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含む材料は、ケイ素又はスズの単体、ケイ素及びスズからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物であってよい。当該化合物は、ケイ素及びスズからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含む合金であってよく、例えば、ケイ素及びスズの他に、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモン及びクロムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む合金である。ケイ素及びスズからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物は、酸化物、窒化物、又は炭化物であってもよく、具体的には、例えば、SiO、SiO2、LiSiO等のケイ素酸化物、Si3N4、Si2N2O等のケイ素窒化物、SiC等のケイ素炭化物、SnO、SnO2、LiSnO等のスズ酸化物などであってよい。
【0037】
負極8は、低温入力特性等の電気化学デバイスの性能を更に向上させる観点から、負極活物質として、好ましくは炭素材料を含み、より好ましくは黒鉛を含む。
【0038】
負極活物質の含有量は、負極合剤層全量を基準として、80質量%以上、又は85質量%以上であってよく、99質量%以下であってよい。
【0039】
結着剤及びその含有量は、上述した正極合剤層における結着剤及びその含有量と同様であってよい。
【0040】
負極合剤層12は、粘度を調節するために増粘剤を含有してもよい。増粘剤は、特に制限されないが、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、酸化スターチ、リン酸化スターチ、カゼイン、これらの塩等であってよい。増粘剤は、これらの1種単独又は2種以上の混合物であってよい。
【0041】
負極合剤層12が増粘剤を含む場合、その含有量は特に制限されない。増粘剤の含有量は、負極合剤層の塗布性の観点からは、負極合剤層全量を基準として、0.1質量%以上であってよく、好ましくは0.2質量%以上であり、より好ましくは0.5質量%以上である。増粘剤の含有量は、電池容量の低下又は負極活物質間の抵抗の上昇を抑制する観点からは、負極合剤層全量を基準として、5質量%以下であってよく、好ましくは3質量%以下であり、より好ましくは2質量%以下である。
【0042】
電解液は、一実施形態において、下記式(A)で表される化合物(以下「化合物A」ともいう。)と、リチウム塩と、非水溶媒とを含有する。一実施形態において、化合物Aを含有する電解液用添加剤が提供される。
【化3】
【0043】
式(A)中、Rはそれぞれ独立して置換若しくは無置換のC1-6アルキル基、置換若しくは無置換のフェニル基、又は、置換若しくは無置換のベンジル基を示し、Rの少なくとも一つは、置換若しくは無置換のフェニル基、又は、置換若しくは無置換のベンジル基である。複数存在するRは同一であっても異なっていてもよい。
【0044】
本明細書において「C1-6アルキル基」は炭素数が1~6であるアルキル基を意味する。Rは、それぞれ独立して、炭素数が1~4、1~3又は1~2であるアルキル基であってよい。Rで表されるC1-6アルキル基は、直鎖状でも分岐状でもよい。Rは、メチル基、エチル基、プロピル基(n-プロピル基、若しくはイソプロピル基)、又はブチル基(n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、若しくはtert-ブチル基)であってよい。
【0045】
Rで表されるC1-6アルキル基の置換基としては、ハロゲン原子が挙げられる。ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。置換のC1-6アルキル基は、上述したC1-6アルキル基の水素原子の一部又は全部がハロゲン原子で置換された基であってよい。置換のC1-6アルキル基としては、例えば、トリフルオロメチル基が挙げられる。
【0046】
Rで表される置換又は無置換のC1-6アルキル基は、ハロゲン原子で置換されたC1-6アルキル基又は無置換のC1-6アルキル基であることが好ましく、フッ素原子で置換されたC1-6アルキル基又は無置換のC1-6アルキル基であることがより好ましい。
【0047】
Rで表されるフェニル基及びベンジル基の置換基としては、例えば、アルキル基、ハロゲン原子、スルホ基、ケトン基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、ニトロ基、アミノ基、アルデヒド基が挙げられる。
【0048】
Rの少なくとも一つが、置換若しくは無置換のフェニル基、又は、置換若しくは無置換のベンジル基であり、かつ、Rの少なくとも一つが置換若しくは無置換のC1-6アルキル基であってよい。Rのうち一つ又は二つが置換若しくは無置換のフェニル基、又は、置換若しくは無置換のベンジル基であり、かつ、残りのRが置換若しくは無置換のC1-6アルキル基であってよい。Rのうち一つが置換若しくは無置換のフェニル基であり、かつ、残りのRが置換若しくは無置換のC1-6アルキル基であることが好ましい。Rは、フッ素原子を含んでいなくてよい。
【0049】
化合物Aは下記式(A1)で表される化合物を含んでいてよい。
【化4】
【0050】
式(A1)中、R1はそれぞれ独立して置換又は無置換のC1-6アルキル基を示し、R2は置換若しくは無置換のフェニル基、又は置換若しくは無置換のベンジル基を示す。複数存在するR1はそれぞれ同種の基であっても異種の基であってもよい。
【0051】
R1で表される置換又は無置換のC1-6アルキル基は、Rで表される置換又は無置換のC1-6アルキル基と同様の置換基であってよい。R2で表される置換又は無置換のフェニル基は、Rで表される置換又は無置換のフェニル基と同様の置換基であってよい。R2で表される置換又は無置換のベンジル基は、Rで表される置換又は無置換のベンジル基と同様の置換基であってよい。
【0052】
化合物Aは、例えば、フェニルジメチルフルオロシラン、フェニルジエチルフルオロシラン、フェニルジプロピルフルオロシラン、ジフェニルメチルフルオロシラン、トリフェニルフルオロシラン、フルオロフェニルジメチルフルオロシラン、ジフルオロフェニルジメチルフルオロシラン、トリフルオロフェニルジメチルフルオロシラン、ペンタフルオロフェニルジメチルフルオロシラン、フェニルジトリフルオロメチルフルオロシラン、ペンタフルオロフェニルジトリフルオロメチルフルオロシラン、ベンジルジメチルフルオロシラン、及びペンタフルオロベンジルジトリフルオロメチルフルオロシランからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてよい。化合物Aは、好ましくはフェニルジメチルフルオロシランである。
【0053】
化合物Aは、含有量を高くした場合でも初期充放電後及び充放電サイクル試験後の抵抗上昇が抑制されている。そのため、電解液用添加剤として化合物Aを用いることによって、含有量を高めることによる初期充放電後及び充放電サイクル試験後の抵抗上昇を抑制しながら、電気化学デバイスの放電容量維持率を向上させることができる。
【0054】
化合物Aは、置換若しくは無置換のフェニル基、又は、置換若しくは無置換のベンジル基を含むため、過充電防止効果に優れている。このような効果が得られる理由としては、特に限定されないが、化合物Aにおいて、置換若しくは無置換のフェニル基、又は、置換若しくは無置換のベンジル基が所定の電圧で分解及び重合して正極表面を被覆、又はセパレータ孔を目詰めすること、分解及び重合の際に水素ガスを発生してCID(電流遮断装置)を作動させること等によって奏されると推察される。
【0055】
化合物Aは、置換若しくは無置換のフェニル基、又は、置換若しくは無置換のベンジル基を含むため、電極、特に黒鉛負極への浸透性にも優れている。
【0056】
化合物Aの含有量は、電解液全量を基準として、放電容量保持率が更に向上することから、1.5質量%以上、2.0質量%以上、2.5質量%以上、3.0質量%以上、3.5質量%以上、4.0質量%以上、4.5質量%以上、5.0質量%以上、6.0質量%以上、7.0質量%以上、8.0質量%以上、9.0質量%以上、10.0質量%以上、12.0質量%以上、14.0質量%以上、16.0質量%以上、18.0質量%以上、20.0質量%以上、22.0質量%以上、24.0質量%以上、26.0質量%以上、又は28.0質量%以上であってよい。化合物Aの含有量は、電解液全量を基準として、30.0質量%以下、28.0質量%以下、26.0質量%以下、24.0質量%以下、22.0質量%以下、20.0質量%以下、18.0質量%以下、16.0質量%以下、14.0質量%以下、12.0質量%以下、10.0質量%以下、9.0質量%以下、8.0質量%以下、7.0質量%以下、6.0質量%以下、5.0質量%以下、4.0質量%以下又は3.0質量%以下であってよい。
【0057】
リチウム塩は、例えば、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiB(C6H5)4、LiCH3SO3、CF3SO2OLi、LiN(SO2F)2(Li[FSI]、リチウムビスフルオロスルホニルイミド)、LiN(SO2CF3)2(Li[TFSI]、リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド)、及びLiN(SO2CF2CF3)2からなる群より選ばれる少なくとも1種であってよい。リチウム塩は、リチウム原子及びフッ素原子を含む化合物であってよく、溶媒に対する溶解性、二次電池の充放電特性、出力特性、サイクル特性等に更に優れる観点から、好ましくはLiPF6を含む。
【0058】
リチウム塩の濃度は、充放電特性に優れる観点から、非水溶媒全量を基準として、好ましくは0.5mol/L以上、より好ましくは0.7mol/L以上、更に好ましくは0.8mol/L以上であり、また、好ましくは1.5mol/L以下、より好ましくは1.3mol/L以下、更に好ましくは1.2mol/L以下である。
【0059】
電解液において、リチウム塩のリチウム原子1モルに対する化合物A中のフッ素原子の量は、0.160モル以上である。化合物A中のフッ素原子の量は、化合物A中の、シリコン原子と直接結合したフッ素原子(Si-F結合におけるフッ素原子)の量であってよい。リチウム塩のリチウム原子1モルに対する化合物A中のフッ素原子の量を大きくすることによって、電気化学デバイスの放電容量維持率は向上する傾向がある。一方、従来の電解液は、リチウム塩のリチウム原子1モルに対する添加剤の添加量を多くすると、、初期充放電後及び充放電サイクル試験後の抵抗が上昇する傾向がある。本実施形態に係る電解液は、化合物Aを含むことにより、初期充放電後及び充放電サイクル試験後の抵抗上昇を抑制しながら、電気化学デバイスの放電容量維持率を向上させることができる。
【0060】
リチウム塩のリチウム原子1モルに対する化合物A中のフッ素原子の量は、放電容量保持率が更に向上することから、0.165モル以上、0.170モル以上、0.180モル以上、0.190モル以上、0.200モル以上、0.240モル以上、0.280モル以上、0.320モル以上、0.360モル以上、0.400モル以上、0.500モル以上、0.600モル以上、0.700モル以上、0.800モル以上、0.900モル以上、1.000モル以上、1.200モル以上、1.400モル以上、1.600モル以上、1.800モル以上、2.000モル以上又は2.400モル以上であってよい。リチウム塩のリチウム原子1モルに対する化合物A中のフッ素原子の量は、電解液の費用対効果が更に向上する観点から、3.000モル以下、2.600モル以下、2.200モル以下、1.800モル以下、1.400モル以下、1.000モル以下、0.600モル以下、0.500モル以下、0.400モル以下、0.300モル以下、0.200モル以下、又は0.180モル以下であってよい。
【0061】
リチウム塩のリチウム原子1モルに対する化合物A中のフッ素原子の量は、19F NMRを用いて測定することができる。電解液が、化合物Aと、リチウム塩として、リチウム原子及びフッ素原子を含む化合物(例えばLiPF6)とを含む電解液である場合、リチウム塩のリチウム原子1モルに対する化合物A中のフッ素原子の量は例えば次の方法によって測定することができる。まず、化合物A及びリチウム塩を含有する電解液を使用して検量線を作成する。化合物Aの含有量が電解液全量を基準として特定量である検量線作成用の複数の電解液を用意する。例えば、検量線作成用の電解液中の化合物Aの含有量はそれぞれ、電解液全量を基準として、1質量%、3質量%又は5質量%である。検量線作成用の各電解液において、リチウム塩の含有量は一定である。検量線作成用の電解液10μLを1体積%のテトラメチルシラン(TMS)を含有する重アセトニトリル700μLで希釈し、NMRチューブに入れ、検量線のためのNMR測定用試料を準備する。検量線のためのNMR測定用試料を用いて、19F NMRにて化合物A中のフッ素原子に由来するピークの面積及びリチウム塩のフッ素原子に由来するピークの面積を算出する。リチウム塩が複数のフッ素原子を含有する場合、リチウム塩のフッ素原子に由来するピークの面積は、リチウム塩の複数のフッ素に由来するピークの合計面積である。横軸に「リチウム塩のフッ素原子1モルに対する、化合物Aのフッ素原子の物質量」(仕込み量)、縦軸に「リチウム塩のフッ素原子に由来するピークの面積に対する、化合物Aのフッ素原子に由来するピークの面積の比」をプロットした検量線を作成する。次いで、測定対象の電解液を用いたこと以外は、検量線を作成する場合と同様にして、19F NMR測定を行う。測定対象の電解液における「リチウム塩のフッ素原子に由来するピークの面積に対する、化合物A中のフッ素原子に由来するピーク面積の比」を算出し、検量線から電解液におけるリチウム塩のリチウム原子1モルに対する化合物A中のフッ素原子の量を算出することができる。
【0062】
非水溶媒は、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、γ-ブチルラクトン、アセトニトリル、1,2-ジメトキシエタン、ジメトキシメタン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、塩化メチレン、酢酸メチル等であってよい。非水溶媒は、これらの1種単独又は2種以上の混合物であってよく、好ましくは2種以上の混合物である。
【0063】
非水溶媒の含有量は、電解液全量を基準として、40質量%以上、45質量%以上、50質量%以上、55質量%以上、60質量%以上、65質量%以上、70質量%以上、75質量%以上、80質量%以上、又は85質量%以上であってよく、95質量%以下、90質量%以下、85質量%以下、80質量%以下、又は75質量%以下であってよい。
【0064】
電解液は、化合物A、リチウム塩及び非水溶媒以外のその他の材料を更に含有してもよい。その他の材料は、例えば、環状カーボネート、環状スルホン化合物、又はニトリル化合物であってよい。
【0065】
環状カーボネートとしては、例えば、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、ジメチルビニレンカーボネート(4,5-ジメチルビニレンカーボネート)、エチルビニレンカーボネート(4,5-ジエチルビニレンカーボネート)、及びジエチルビニレンカーボネート、1,2-ジフルオロエチレンカーボネート、1,1-ジフルオロエチレンカーボネート、1,1,2-トリフルオロエチレンカーボネート、及び1,1,2,2-テトラフルオロエチレンカーボネートが挙げられる。
【0066】
環状スルホン化合物としては、例えば、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、2,4-ブタンスルトン、1,3-プロペンスルトン、1,4-ブテンスルトン、1-メチル-1,3-プロパンスルトン、3-メチル-1,3-プロパンスルトン、1-フルオロ-1,3-プロパンスルトン、3-フルオロ-1,3-プロパンスルトン、メチレンメタンジスルホン酸エステル、エチレンメタンジスルホン酸エステル、スルホラン、2-メチルスルホラン、3-メチルスルホラン、2-エチルスルホラン、3-エチルスルホラン、2,4-ジメチルスルホラン、2-フェニルスルホラン、3-フェニルスルホラン、スルホレン、及び3-メチルスルホレン、エチレンサルファイト、プロピレンサルファイト、ブチレンサルファイト、ビニレンサルファイト、及びフェニルエチレンサルファイトが挙げられる。
【0067】
ニトリル化合物としては、例えば、ブチロニトリル、バレロニトリル、n-ヘプタンニトリル、スクシノニトリル、グルタルニトリル、アジポニトリル、ピメロニトリル、スベロニトリル、1,2,3-プロパントリカルボニトリル、及び1,3,5-ペンタントリカルボニトリルが挙げられる。
【0068】
その他の材料の含有量は、電解液全量を基準として、0.1質量%以上、0.3質量%以上、0.5質量%以上、0.7質量%以上、0.9質量%以上、1.1質量%以上、1.3質量%以上、1.5質量%以上、又は1.7質量%以上であってよく、20.0質量%以下、15.0質量%以下、10.0質量%以下、5.0質量%以下、又は2.0質量%以下であってよい。環状カーボネートの含有量が、上記その他の材料の含有量で述べた範囲であってよい。
【0069】
続いて、非水電解液二次電池1の製造方法を説明する。非水電解液二次電池1の製造方法は、正極6を得る第1の工程と、負極8を得る第2の工程と、電極群2を電池外装体3に収容する第3の工程と、電解液を電池外装体3に注液する第4の工程と、を備える。第1~第4の工程の順序は任意である。
【0070】
第1の工程では、正極合剤層10に用いる材料を混練機、分散機等を用いて分散媒に分散させてスラリー状の正極合剤を得た後、この正極合剤をドクターブレード法、ディッピング法、スプレー法等により正極集電体9上に塗布し、その後分散媒を揮発させることにより正極6を得る。分散媒を揮発させた後、必要に応じて、ロールプレスによる圧縮成型工程が設けられてもよい。正極合剤層10は、上述した正極合剤の塗布から分散媒の揮発までの工程を複数回行うことにより、多層構造の正極合剤層として形成されてもよい。分散媒は、水、1-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPともいう。)等であってよい。
【0071】
第2の工程は、上述した第1の工程と同様であってよく、負極集電体11に負極合剤層12を形成する方法は、上述した第1の工程と同様の方法であってよい。
【0072】
第3の工程では、作製した正極6及び負極8の間にセパレータ7を挟み、電極群2を形成する。次いで、この電極群2を電池外装体3に収容する。
【0073】
第4の工程では、電解液を電池外装体3に注入する。電解液は、例えば、電解質塩をはじめに溶媒に溶解させてから、その他の材料を溶解させることにより調製することができる。
【0074】
他の実施形態として、電気化学デバイスはキャパシタであってもよい。キャパシタは、上述した非水電解液二次電池1と同様に、正極、負極及びセパレータから構成される電極群と、電極群を収容する袋状の電池外装体とを備えていてよい。キャパシタにおける各構成要素の詳細は、非水電解液二次電池1と同様であってよい。
【実施例0075】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0076】
フェニルジメチルフルオロシラン(PDFS)を次の方法で合成し、添加剤X1とした。内部を窒素ガスで置換したPFA(パーフルオロアルコキシアルカンポリマー)フラスコに、撹拌子、フェニルジメチルクロロシラン(東京化成工業株式会社製)25.7gを配置し、そこへふっ化水素アンモニウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)の粉末を9.5g投入した。窒素雰囲気下、スターラーで1時間攪拌後、2.5gのふっ化水素アンモニウムを追加投入し、更に1時間攪拌した。反応後の溶液をろ過し、ふっ化水素アンモニウムを除去した。得られた溶液に乾燥済みのモレキュラーシーブを2.5g投入し、オイルバス190℃にて常圧で蒸留することで添加剤X1を得た。GC-FIDにより算出した純度は99.3%であった。
【0077】
アリルジメチルフルオロシラン(ADFS)を次の方法で合成し、添加剤X2とした。内部を窒素ガスで置換したPFAフラスコに、撹拌子、アリルジメチルクロロシラン(東京化成工業株式会社)20gを配置し、そこへふっ化水素アンモニウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)の粉末を9.3g投入した。窒素雰囲気下、スターラーで1時間攪拌後、2.5gのふっ化水素アンモニウムを追加投入し、更に1時間攪拌した。反応後の溶液をろ過し、ふっ化水素アンモニウムを除去した。得られた溶液に乾燥済みのモレキュラーシーブを2.5g投入し、オイルバス70℃にて常圧で蒸留することで添加剤X2を得た。GC-FIDにより算出した純度は99.0%であった。
【0078】
<評価用二次電池1の作製>
[正極合剤層(正極活物質層)の作製]
Li(Co0.2Ni0.6Mn0.2)O2(正極活物質)92質量部、カーボンブラック(導電剤、商品名:Li400、平均粒径48nm(製造元カタログ値)、デンカ株式会社)4質量部、ポリフッ化ビニリデン溶液(結着剤(バインダ)、商品名:クレハKFポリマ#1120、固形分:12質量%、株式会社クレハ)33.3質量部(うち固形分4質量部)、及びN-メチル-2-ピロリドン(分散媒、NMP)15質量部を混合してスラリを調製した。このスラリを正極集電体(厚さ15μmのアルミニウム箔)上に塗布し、120℃で乾燥後、圧延して、片面塗布量200g/m2、合剤密度2.8g/cm3の正極合剤層を形成した。これにより、正極集電体の一面上に正極合剤層が形成された矩形の正極積層体を得た。
【0079】
[負極合剤層(負極活物質層)の作製]
黒鉛(負極活物質)98質量部、CMC(カルボキシメチルセルロース)-SBR(スチレン-ブタジエンゴム)2質量部が均一に分散するよう純水を混合してスラリを調製した。このスラリを負極集電体(厚さ10μmの銅箔)上に塗布し、80℃で乾燥後圧延して、片面塗布量102g/m2、合剤密度1.6g/cm3の負極合剤層を形成した。これにより、負極集電体の一面上に負極合剤層が形成された矩形の負極積層体を得た。
【0080】
[電解液の調製]
1mol/LのLiPF6を含む、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)及びエチルメチルカーボネート(EMC)の混合溶液(EC/DMC/EMC=1:1:1(体積比))に、電解液全量基準で、1質量%のビニレンカーボネート(VC)、及び3.8質量%の添加剤X1を添加して、電解液を調製した。リチウム塩のリチウム原子1モルに対する添加剤X1のシリコン原子と直接結合したフッ素原子の量は0.317モルであった。
【0081】
[電池の組立て]
13.5cm2の四角形に切断した正極電極を、セパレータであるポリエチレン製多孔質シート(商品名:ハイポア(登録商標)、旭化成株式会社製、厚さ30μm)で挟み、さらに14.3cm2の四角形に切断した負極を重ね合わせて電極群を作製した。この電極群を、アルミニウム製のラミネートフィルム(商品名:アルミラミネートフィルム、大日本印刷株式会社製)で形成された容器(電池外装体)に収容した。次いで、容器の中に電解液を1mL添加し、容器を熱溶着させ、評価用二次電池1を作製した。
【0082】
<評価用二次電池2の作製>
電解液の調製において、3.8質量%の上記添加剤X1に代えて、0.38質量%の上記添加剤X1を添加した以外は、評価用二次電池1と同様にして評価用二次電池2を作製した。リチウム塩のリチウム原子1モルに対する添加剤X1のシリコン原子と直接結合したフッ素原子の量は0.032モルであった。
【0083】
<評価用二次電池3の作製>
電解液の調製において、3.8質量%の上記添加剤X1に代えて、0.29質量%の上記添加剤X2を添加した以外は、評価用二次電池1と同様にして評価用二次電池3を作製した。リチウム塩のリチウム原子1モルに対する添加剤X2のシリコン原子と直接結合したフッ素原子の量は0.032モルであった。
【0084】
<評価用二次電池4の作製>
電解液の調製において、3.8質量%の上記添加剤X1に代えて、2.9質量%の上記添加剤X2を添加した以外は、評価用二次電池1と同様にして評価用二次電池4を作製した。リチウム塩のリチウム原子1モルに対する添加剤X2のシリコン原子と直接結合したフッ素原子の量は0.316モルであった。
【0085】
<基準用二次電池の作製>
電解液の調製において、3.8質量%の上記添加剤X1を添加しなかった以外は、評価用二次電池1と同様にして基準用二次電池を作製した。
【0086】
<交流インピーダンスの測定>
評価用二次電池1~4及び基準用二次電池の交流インピーダンスを次の方法によって測定した。交流インピーダンス測定は、ポテンショガルバノスタット1287型と周波数応答アナライザ1260型(各Solartron社製)を接続し、恒温槽中にて25℃、印加電圧10mV、0.05Hz~200kHzの範囲で測定した。全てのセルはSOC100(満充電状態)にて測定を実施した。
図3は交流インピーダンスの測定結果を示す。
図3中、「Ref」は基準用二次電池、「PDFS3.8」は評価用二次電池1、「PDFS0.38」は評価用二次電池2、「ADFS0.29」は評価用二次電池3、「PDFS3.8」は評価用二次電池4を用いた場合の測定結果を示す。
【0087】
図3に示すとおり、添加剤X2(ADFS)は添加量を増加させることによって抵抗が大きく上昇した。一方で、添加剤X1(PDFS)は添加量を増加させた場合でも初期充放電後及び充放電サイクル試験後の抵抗上昇は確認されなかった。
【0088】
<放電容量維持率の評価>
評価用二次電池1~2及び基準用二次電池について、以下に示す方法で初回充放電を実施した。まず、25℃の環境下において0.1Cの電流値で定電流充電を上限電圧4.2Vまで行い、続いて4.2Vで定電圧充電を行った。充電終止条件は、電流値0.01Cとした。その後、0.1Cの電流値で終止電圧2.7Vの定電流放電を行った。この充放電サイクルを3回繰り返した(電流値の単位として用いた「C」とは、「電流値(A)/電池容量(Ah)」を意味する。)。続いて、50℃の環境下において同様の充放電サイクルを1回行った。
【0089】
初回充放電後に、充放電を繰り返すサイクル試験によって、各二次電池の放電容量維持率を評価した。充電パターンとしては、45℃の環境下で、評価用二次電池1~2及び基準用二次電池について、0.5Cの電流値で定電流充電を上限電圧4.2Vまで行い、続いて4.2Vで定電圧充電を行った。充電終止条件は、電流値0.05Cとした。放電については、1Cで定電流放電を2.7Vまで行い、放電容量を求めた。この一連の充放電を500サイクル繰り返し、充放電の度に放電容量を測定した。なお、100サイクル目、300サイクル目には、容量確認のための充放電を実施した。すなわち、0.2Cの定電流充電を上限電圧4.2Vまで行い、続いて4.2Vで定電圧充電を行った。充電終止条件は、電流値0.02Cとした。放電については、0.2Cで定電流放電を2.7Vまで行った。1サイクル目の充放電後の放電容量に対する、各サイクルでの放電容量の相対値(放電容量維持率(%))を求めた。結果を
図4に示す。
図4中、「F0_2」は基準用二次電池、「PDFS3.8_1」は評価用二次電池1、「PDFS0.38_2」は評価用二次電池2を用いた場合の測定結果を示す。表1は500サイクル後での放電容量維持率を示す。
【表1】