(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002134
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】産業車両の制御装置、産業車両、及び産業車両の制御プログラム
(51)【国際特許分類】
B66F 9/24 20060101AFI20231228BHJP
【FI】
B66F9/24 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022101153
(22)【出願日】2022-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 浩光
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】河本 満
(72)【発明者】
【氏名】岡本 浩伸
【テーマコード(参考)】
3F333
【Fターム(参考)】
3F333AA02
3F333AE02
3F333BA02
3F333BD02
3F333DB10
3F333FA11
3F333FA13
3F333FA36
3F333FD20
3F333FE04
3F333FE05
(57)【要約】
【課題】産業車両の状態の推定の精度を向上できる、産業車両の制御装置、産業車両、及び産業車両の制御プログラムを提供する。
【解決手段】制御装置100は、第1の信号及び第2の信号を取得することで、単一の信号ではなく、複数の信号を用いて精度よく産業車両の推定を行うことが可能になる。ここで、データ処理部42は、第1の信号及び第2の信号の時系列データに基づいてデータ処理を行う。これにより、データ処理部42は、第1の信号及び第2の信号の時系列データに基づいて、産業車両の状態の推定に適した態様となるように、データ処理を行うことができる。これにより、状態推定部43は、このように状態を推定し易いように調整がなされたデータ処理の結果を、区別することによって、正確に産業車両の状態を推定できる。以上より、産業車両の状態の推定の精度を向上できる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
産業車両を制御する産業車両の制御装置であって、
第1の信号を取得する第1の信号取得部と、
第2の信号を取得する第2の信号取得部と、
前記第1の信号及び前記第2の信号の時系列データに基づいてデータ処理を行うデータ処理部と、
前記データ処理の結果を、区別することによって、前記産業車両の状態を推定する状態推定部と、を備える、産業車両の制御装置。
【請求項2】
前記第1の信号取得部は、前記産業車両の周辺環境を示す前記第1の信号を取得し、
前記第2の信号取得部は、前記産業車両の自己の状態を示す前記第2の信号を取得する、請求項1に記載の産業車両の制御装置。
【請求項3】
前記第1の信号取得部は、前記第1の信号として音センサから音データを取得し、
前記第2の信号取得部は、前記第2の信号として前記産業車両の荷役部に設けられた加速度センサから加速度データを取得し、
前記状態推定部は、前記産業車両の荷役の状態を推定する、請求項2に記載の産業車両の制御装置。
【請求項4】
前記データ処理部は、
前記第1の信号として音データ、及び前記第2の信号として加速度データの前記時系列データを取得し、
前記時系列データから、異なる観点を基にした複数の特徴量を所定時間毎に抽出し、
前記状態推定部は、前記データ処理部の前記特徴量の抽出結果をクラスタリングすることにより、前記状態を推定する、請求項1に記載の産業車両の制御装置。
【請求項5】
請求項1~4の何れか一項に記載の産業車両の制御装置を備えた産業車両。
【請求項6】
産業車両を制御する産業車両の制御プログラムであって、
第1の信号を取得する第1の信号取得ステップと、
第2の信号を取得する第2の信号取得ステップと、
前記第1の信号及び前記第2の信号の時系列データに基づいてデータ処理を行うデータ処理ステップと、
前記データ処理の結果を、区別することによって、前記産業車両の状態を推定する状態推定ステップと、をコンピュータシステムに実行させる、産業車両の制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業車両の制御装置、産業車両、及び産業車両の制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の産業車両の制御装置としては、例えば特許文献1に記載されている技術が知られている。特許文献1に記載の制御装置は、産業車両に搭載されたものである。この制御装置は、産業車両に設けられた複数のセンサで取得した信号に基づいて、産業車両の状態を推定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、産業車両の状態をより正確に推定するには、複数の信号を考慮することが必要になる。しかしながら、単に信号を取得しただけでは、当該取得結果が推定に必要なものであるかを把握することができない。従って、各信号の取得結果を推定に必要な情報に切り分けることで、産業車両の状態の推定の精度を向上することが求められる。
【0005】
本発明は、産業車両の状態の推定の精度を向上できる、産業車両の制御装置、産業車両、及び産業車両の制御プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る産業車両の制御装置は、産業車両を制御する産業車両の制御装置であって、第1の信号を取得する第1の信号取得部と、第2の信号を取得する第2の信号取得部と、第1の信号及び第2の信号の時系列データに基づいてデータ処理を行うデータ処理部と、データ処理の結果を、区別することによって、産業車両の状態を推定する状態推定部と、を備える。
【0007】
本発明の一態様に係る産業車両の制御装置は、第1の信号及び第2の信号を取得することで、単一の信号ではなく、複数の信号を用いて精度よく産業車両の推定を行うことが可能になる。ここで、データ処理部は、第1の信号及び第2の信号の時系列データに基づいてデータ処理を行う。これにより、データ処理部は、第1の信号及び第2の信号の時系列データに基づいて、産業車両の状態の推定に適した態様となるように、データ処理を行うことができる。状態推定部は、このように状態を推定し易いように調整がなされたデータ処理の結果を、区別することによって、正確に産業車両の状態を推定できる。以上より、産業車両の状態の推定の精度を向上できる。
【0008】
第1の信号取得部は、産業車両の周辺環境を示す第1の信号を取得し、第2の信号取得部は、産業車両の自己の状態を示す第2の信号を取得してよい。この場合、状態推定部は、産業車両の周辺環境の側面と、及び産業車両の自己の状態という側面の二つの側面を考慮して、正確に産業車両の状態を推定することができる。
【0009】
第1の信号取得部は、第1の信号として音センサから音データを取得し、第2の信号取得部は、第2の信号として産業車両の荷役部に設けられた加速度センサから加速度データを取得し、状態推定部は、産業車両の荷役の状態を推定してよい。この場合、状態推定部は、産業車両の動作などによって周囲で発生する音、及び荷役部の動作や産業車両の走行による加速度を考慮して、正確に産業車両の状態を推定することができる。
【0010】
データ処理部は、第1の信号として音データ、及び第2の信号として加速度データの時系列データを取得し、時系列データから、異なる観点を基にした複数の特徴量を所定時間毎に抽出し、状態推定部は、データ処理部の特徴量の抽出結果をクラスタリングすることにより、状態を推定してよい。この場合、データ処理部は、音データと加速度データという、性質の異なるデータから、産業車両の状態を推定し易くなるように、複数の特徴量を所定時間毎に抽出することができる。そして、状態推定部は、抽出結果を抽出した特徴量の傾向に基づいて、産業車両の複数の状態を示すような分類にクラスタリングすることができる。これにより、状態推定部は、産業車両の状態を正確に推定することができる。
【0011】
本発明の一態様に係る産業車両は、上述の産業車両の制御装置を備えている。この産業車両は、上述の制御装置と同様な作用・効果を得ることができる。
【0012】
本発明の一態様に係る産業車両の制御プログラムは、産業車両を制御する産業車両の制御プログラムであって、第1の信号を取得する第1の信号取得ステップと、第2の信号を取得する第2の信号取得ステップと、第1の信号及び第2の信号の時系列データに基づいてデータ処理を行うデータ処理ステップと、データ処理の結果を、区別することによって、産業車両の状態を推定する状態推定ステップと、をコンピュータシステムに実行させる。
【0013】
この産業車両の制御プログラムは、上述の制御装置と同様な作用・効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、産業車両の状態の推定の精度を向上できる、産業車両の制御装置、産業車両、及び産業車両の制御プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係る制御装置を備えるリーチ式フォークリフトの側面図である。
【
図2】
図1に示す制御装置及びそれに関わる構成要素を示すブロック構成図である。
【
図4】データ処理がなされた時系列データの一例を示す表である。
【
図6】各時間において特徴量をクラスタリングした結果を示すグラフである。
【
図7】制御装置の制御内容を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
図1は、本実施形態に係る制御装置を備えるリーチ式フォークリフトの側面図である。なお、以降の説明においては「左」「右」を用いて説明するが、これらは後方から前方を見た時を基準としたときの「左」「右」に対応するものとする。
図1に示すように、産業車両としてのリーチ式フォークリフト(以下、単にフォークリフトと称す)50は、前二輪従動・後一輪駆動の3輪車タイプであり、車両(機台)2の前部に収容されたバッテリを電源として走行するバッテリ車である。フォークリフト50は、車両2、及び荷役装置3を備える。
【0018】
車両2は、前方へ延出する左右一対のリーチレグ4を備える。左右の前輪5は、左右のリーチレグ4にそれぞれ回転可能に支持されている。後輪6は、後一輪であって、操舵輪を兼ねた駆動輪である。車両2の後部は、立席タイプの運転席12となっている。運転席12の前側にあるインストルメントパネル9には、荷役操作のための荷役レバー10、及び前後進操作のためのアクセルレバー11が設けられている。また、インストルメントパネル9の上面にはステアリング13が設けられている。
【0019】
荷役装置3は、車両2の前側に設けられる。荷役レバー10のうちのリーチレバー操作時には、リーチシリンダが伸縮駆動することによって、荷役装置3がリーチレグ4に沿って所定ストローク範囲内で前後方向に移動する。また、荷役装置3は、2段式のマスト23、リフトシリンダ24、ティルトシリンダ及びフォーク25を備える。荷役レバー10のうちのリフトレバー操作時には、リフトシリンダ24が伸縮駆動することによりマスト23が上下方向にスライド伸縮し、これに連動してフォーク25が昇降する。
【0020】
フォークリフト50は、車両2に本実施形態に係る制御装置100を有している。また、フォークリフト50は、フォークリフト50の周辺環境を撮影し易い位置にカメラ30を有する。フォークリフト50はフォーク25(荷役部)に加速度センサ31を有する。なお、カメラ30及び加速度センサ31の位置は特に限定されるものではなく、設ける位置を適宜変更してもよい。例えば加速度センサ31は、バックレストのようにフォーク25と共に昇降する部材に取り付けられてもよい。
【0021】
次に、
図2を参照して、本実施形態に係るフォークリフト50の制御装置100について更に詳細に説明する。
図2は、本実施形態に係る制御装置100及びそれに関わる構成要素を示すブロック構成図である。
図2に示すように、フォークリフト50は、カメラ30と、加速度センサ31と、出力部32と、制御装置100と、を備える。
【0022】
カメラ30は、フォークリフト50の周辺環境を示す映像及び音を取得する機器である。カメラ30は、映像データを取得する映像センサ33と、音データを取得する音センサ34と、を有する。また、カメラ30は、映像データ及び音データを時系列で取得することができる。カメラ30は、時系列の映像データ及び音データを制御装置100へ送信する。
【0023】
加速度センサ31は、フォークリフト50の自己の状態を示す情報である加速度データを取得する機器である。加速度センサ31は、フォーク25(
図1参照)に設けられているため、フォークリフト50自体が走行・停止するときの加速度データに加え、フォーク25が上下動・停止するときの加速度データを取得することができる。また、加速度センサ31は、加速度データを時系列で取得することができる。加速度センサ31は、時系列の加速度データを制御装置100へ送信する。
【0024】
制御装置100は、フォークリフト50を制御する装置である。制御装置100は、装置を統括的に管理するECU[ElectronicControl Unit]を備えている。ECUは、CPU[Central Processing Unit]、ROM[Read Only Memory]、RAM[Random Access Memory]、CAN[Controller Area Network]通信回路等を有する電子制御ユニットである。ECUでは、例えば、ROMに記憶されているプログラムをRAMにロードし、RAMにロードされたプログラムをCPUで実行することにより各種の機能を実現する。ECUは、複数の電子ユニットから構成されていてもよい。
【0025】
制御装置100は、第1の信号取得部40と、第2の信号取得部41と、データ処理部42と、状態推定部43と、記憶部44と、を備える。
【0026】
第1の信号取得部40は、第1の信号として、フォークリフト50の周辺環境を示す音データを取得する。第1の信号取得部40は、カメラ30の音センサ34から時系列の音データを取得する。
【0027】
第2の信号取得部41は、第2の信号として、フォークリフト50の自己の状態を示す加速度データを取得する。第2の信号取得部41は、加速度センサ31から時系列の加速度データを取得する。なお、加速度データは、三次元空間における各方向の加速度の情報を含んでおり、X軸方向の加速度、Y軸方向の加速度、Z軸方向の加速度の情報を含んでいる。
【0028】
データ処理部42は、第1の信号及び第2の信号に基づいてデータ処理を行う。データ処理部42は、第1の信号として音データ、及び第2の信号として加速度データの時系列データを取得する。ここで、音データと加速度データとでは、データ取得の周期やデータ形式等が互いに異なるため、音の時系列データと加速度の時系列データとをそのまま同時に取り扱うことは難しい。従って、データ処理部42は、時系列データから、異なる観点を基にした複数の特徴量を所定時間毎に抽出する。データ処理部42は、所定時間毎の時系列の音データを使って、複数の特徴量を抽出する。また、データ処理部42は、所定時間毎の時系列の加速度データを使って、複数の特徴量を抽出する。
【0029】
まず、音データのデータ処理方法について説明する。例えば、音データのサンプリング周波数を16kHzとすると、第1の信号取得部40は当該周波数の音データを取得する。データ処理部42は、1秒毎の音データを使って、互いに異なる観点を基にした三つの特徴量を抽出する。データ処理部42は、一つ目の特徴量として、音の大小度という観点を基にした特徴量であるバーク尺度を用いたソノグラム(
図3(a):横軸を時間、縦軸をバーク尺度)を算出する。データ処理部42は、二つ目の特徴量として、音の高低度という観点を基にした特徴量であるスペクトログラム(
図3(b):横軸を時間、縦軸を音の周波数)を算出する。データ処理部42は、三つ目の特徴量として、音の継続度という観点を基にした特徴量であるクロマグラム(
図3(c):横軸を時間変化量、縦軸を音階)を算出する。これにより、例えば、
図4の「音データの特徴量」の「大小度」「高低度」「継続度」の項目に示す値が時系列(1秒毎)で得られる。なお、
図4は変換された時系列データの一例を示している。「音データの特徴量」について、クロマグラム(
図3(c))からも音の高低度を求めることができ、スペクトログラム(
図3(b))から音の継続度は求めることができる。「大小度」に関しては、1種類である。よって、「音データの特徴量」について「スケール値」「大小度」「高低度」「継続度」のデータセットが2通り得られる。
【0030】
データ処理部42は、データ処理部42は、1秒毎の加速度データを使って、互いに異なる観点を基にした三つの特徴量を抽出する。データ処理部42は、音データと同趣旨の演算を行うことで、「大小度」「高低度」「継続度」という三つの特注量を算出する。これにより、例えば、
図4の「加速度データの特徴量」の「大小度」「高低度」「継続度」の項目に示す値が、X軸、Y軸、Z軸のそれぞれに対して時系列(1秒毎)で得られる。
【0031】
データ処理部42は、音データ及び加速度データの三つの特徴量に基づいてスケール値を演算する。スケール値は、予め準備して記憶部44に記憶されたカラースケール変換表を用いて算出される値である。カラースケール変換表は、
図5に示すように、R、G、Bという三つの色要素から一つの色を決めるための表であり、R、G、Bの値を当てはめることで一つのスケール値を決めることができる。なお、データ処理部42は、カラースケール変換表に完全に一致するR、G、Bの組み合わせが無い場合は、近い値を用いてスケール値を算出する。なお、
図5に示すR、G、Bの最大値は255であるのに対し、
図4に示す「大小度」「高低度」「継続度」の最大値は25である。従って、データ処理部42は、値の尺度を調整した上で、「大小度」「高低度」「継続度」をカラースケール変換表に当てはめ、スケール値を算出する。従って、データ処理部42は、
図4に示すように、「音データの特徴量」の各時間における「大小度」「高低度」「継続度」の値から「スケール値」に示す値を算出する。また、データ処理部42は、
図4に示すように、「加速度データの特徴量」の「X軸」「Y軸」「Z軸」の各時間における「大小度」「高低度」「継続度」の値から「スケール値」に示す値を算出する。
【0032】
状態推定部43は、データ処理部42によるデータ処理の結果を、区別することによって、フォークリフト50の状態を推定する。状態推定部43は、フォークリフト50の荷役の状態を推定する。状態推定部43は、データ処理部42の特徴量の抽出結果をクラスタリングすることにより、フォークリフト50の状態を推定する。
【0033】
状態推定部43は、音データについては、
図4に示す「音データの特徴量」及び「加速度データの特徴量」の中から項目をピックアップし、ピックアップされた特徴量の組み合わせの傾向をクラスタリングすること(区別すること)によって、フォークリフト50の状態を推定する。状態推定部43は、「音データの特徴量」については、「スケール値」「大小度」「高低度」「継続度」の全ての項目(すなわち8項目の値)をピックアップする。一方、本発明者らは、鋭意研究の結果、加速度データについては、「スケール値」以外の項目として、「大小度」及び「継続度」の項目はクラスタリングに含めず、「高低度」の項目だけをクラスタリングに含めると、推定精度が向上することを見出した。従って、状態推定部43は、「加速度データの特徴量」については、
図4において仮想線で囲んだ項目、すなわち「X軸」「Y軸」「Z軸」における「スケール値」「高低度」の項目をピックアップする。
【0034】
ここで、状態推定部43は、ある時間(t秒)におけるピックアップされた特徴量の組み合わせの傾向を取得し、当該傾向を予め準備しておいた状態遷移モデルと照らし合わせることで、t秒におけるフォークリフト50の状態を推定する。状態遷移モデルは、フォークリフト50の状態を複数の分類に分け、各状態における特徴量の組み合わせの傾向が設定されている。状態遷移モデルは、試験場などで実際にフォークリフト50の運転を行い、取得された時系列データに基づいて、特徴量の組み合わせの傾向を取得して、クラスタリングすることによって得られる。得られた状態遷移モデルは記憶部44に記憶される。なお、フォークリフト50の作業とその作業音に類似がある状態でクラスは構成されている。例えば「フォークリフトを上げて作業開始の状態が多く入っているクラス」「リフトにモノを載せて、引き摺ってしまった状態が多く入っているクラス」などが挙げられる。状態として、「正常に荷役動作中である状態」「荷役対象物が干渉している状態」などが取得される。
【0035】
図6に示す例では、フォークリフト50の状態が「0」~「5」という6個に分類されている。実際のフォークリフト50の運転では、状態推定部43は、ある時間(t秒)の特徴量の組み合わせの傾向を取得し、状態遷移モデルと照らし合わせ、当該傾向が「0」~「5」のどの状態に属するかを判定する。そして、状態推定部43は、t秒では、フォークリフト50が判定した状態にあるものと推定する。
図6では、状態推定部43は、20秒のときはフォークリフト50が「5」の状態にあると推定する(
図6のP1参照)。状態推定部43は、60秒のときはフォークリフト50が「0」の状態にあると推定する(
図6のP2参照)。
【0036】
状態推定部43は、得られた推定結果をフォークリフト50の運転に有効に利用する。例えば、フォークリフト50が自動運転である場合、推定結果をフォークリフト50の自動制御にフィードバックすることができる。フォークリフト50が有人運転の場合、推定結果を運転者に出力してよい。このような推定結果は、例えば、運転、特に作業の危険回避運転に対して有効に利用することができる。また、作業者がフォークリフト50を運転する場合では、高揚高での作業や棚奥などで作業者が目視確認困難な状態で、荷役が正常かの確認を行うことが可能になる。
【0037】
次に、制御装置100による制御内容について、
図7を参照して説明する。
図7は、制御装置100の制御内容を示すフローチャートである。この制御処理は、記憶部45に記憶された制御プログラムP(
図2参照)をコンピュータシステムが実行することによって実施される。
【0038】
まず、制御装置100の第1の信号取得部40は、第1の第1の信号として音データを取得する(ステップS10:第1の信号取得ステップ)。次に、第2の信号取得部41は、第2の信号として加速度データを取得する(ステップS20:第2の信号取得ステップ)。次に、データ処理部42は、第1の信号及び第2の信号の時系列データに基づいてデータ処理を行う(ステップS30:データ処理ステップ)。次に、状態推定部43は、データ処理の結果を、区別することによって、フォークリフト50の状態を推定する(ステップS40:状態推定ステップ)。以上により、
図7に示す制御処理が終了し、再びステップS10から処理が繰り返される。
【0039】
次に、本実施形態に係るフォークリフト50の制御装置100、フォークリフト50、制御プログラムの作用・効果について説明する。
【0040】
産業車両の動作・作業中に発生する音・振動は、動作状況や異常を含む状態を把握するための信号として有用である。しかし、一般的な作業現場では、産業車両の動作により発生する音以外にも周囲で発生する環境音もあり、まずは産業車両の動作に関係する音と環境音の切り分けが必要となる。しかし、環境音の発生位置は事前に特定することはできず、周囲で同じような作業・機器が動作している場合など、産業車両の動作に関係する音と環境音との間で、取得した信号の特徴に明確な違いがでないことがあるため、音データの信号単品を扱う制御装置では、自身の動作に関する音と環境音とを区別することが難しい。振動に関しても音と同様で、動作する軸が同じ場合など、動作の状況・状態が変化しても振動の信号の特徴に明確な差が見られない場合が考えられ、加速度信号単品からでは動作の状況・状態を推定することが難しい。
【0041】
上記課題の解決策として、音・振動の信号を組み合わせて見ることで、動作の状況・状態の推定、産業車両から発生する音と環境音の切り分けの精度が向上することが考えられる。この解決策を成立させるには、異なるセンサで取得した音信号・加速度信号を時系列情報として融合する手法の確立が課題となる。また、音や振動を用いた状態推定や、環境音との区別を行う手法として、機械学習を用いた方法があるが、機械学習を用いる場合、多量の学習データが必要であり、且つ、産業車両を運用する環境が変わるたびに多量の学習データを用意しなければならないという問題がある。よって、上記課題を解決するために機械学習を用いない手法が必要となる。
【0042】
上記課題に対し、本実施形態に係る産業車両の制御装置100は、第1の信号及び第2の信号を取得することで、単一の信号ではなく、複数の信号を用いて精度よく産業車両の推定を行うことが可能になる。ここで、データ処理部42は、第1の信号及び第2の信号の時系列データに基づいてデータ処理を行う。これにより、データ処理部42は、第1の信号及び第2の信号の時系列データに基づいて、産業車両の状態の推定に適した態様となるように、データ処理を行うことができる。これにより、状態推定部43は、このように状態を推定し易いように調整がなされたデータ処理の結果を、区別することによって、正確に産業車両の状態を推定できる。以上より、産業車両の状態の推定の精度を向上できる。
【0043】
第1の信号取得部40は、産業車両の周辺環境を示す第1の信号を取得し、第2の信号取得部41は、産業車両の自己の状態を示す第2の信号を取得してよい。この場合、状態推定部43は、産業車両の周辺環境の側面と、及び産業車両の自己の状態という側面の二つの側面を考慮して、正確に産業車両の状態を推定することができる。
【0044】
第1の信号取得部40は、第1の信号として音センサ34から音データを取得し、第2の信号取得部41は、第2の信号として産業車両の荷役部に設けられた加速度センサ31から加速度データを取得し、状態推定部43は、産業車両の荷役の状態を推定してよい。この場合、状態推定部43は、産業車両の動作などによって周囲で発生する音、及び荷役部のフォーク25の動作や産業車両の走行による加速度を考慮して、正確に産業車両の状態を推定することができる。
【0045】
データ処理部42は、第1の信号として音データ、及び第2の信号として加速度データの時系列データを取得し、時系列データから、異なる観点を基にした複数の特徴量を所定時間毎に抽出し、状態推定部43は、データ処理部42の特徴量の抽出結果をクラスタリングすることにより、状態を推定してよい。この場合、データ処理部42は、音データと加速度データという、性質の異なるデータから、産業車両の状態を推定し易くなるように、複数の特徴量を所定時間毎に抽出することができる。そして、状態推定部43は、抽出結果を抽出した特徴量の傾向に基づいて、産業車両の複数の状態を示すような分類にクラスタリングすることができる。これにより、状態推定部43は、産業車両の状態を正確に推定することができる。
【0046】
本実施形態に係る産業車両は、上述の産業車両の制御装置100を備えている。この産業車両は、上述の制御装置と同様な作用・効果を得ることができる。
【0047】
本実施形態に係る産業車両の制御プログラムは、産業車両を制御する産業車両の制御プログラムであって、第1の信号を取得する第1の信号取得ステップS10と、第2の信号を取得する第2の信号取得ステップS20と、第1の信号及び第2の信号の時系列データに基づいてデータ処理を行うデータ処理ステップS30と、データ処理の結果を、区別することによって、産業車両の状態を推定する状態推定ステップS40と、をコンピュータシステムに実行させる。
【0048】
この産業車両の制御プログラムは、上述の制御装置と同様な作用・効果を得ることができる。
【0049】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。
【0050】
例えば、上述の実施形態では、産業車両の一例としてリーチ式のフォークリフトを例示したが、カウンターバランス式のフォークリフトといった、各種フォークリフトを採用してもよい。なお、カウンターバランス式のフォークリフトに採用する場合は、リーチ操作の検出を省略する。また、走行駆動系は、走行モータを備えていてもよくエンジンを備えていてもよい。
【0051】
[形態1]
産業車両を制御する産業車両の制御装置であって、
第1の信号を取得する第1の信号取得部と、
第2の信号を取得する第2の信号取得部と、
前記第1の信号及び前記第2の信号の時系列データに基づいてデータ処理を行うデータ処理部と、
前記データ処理の結果を、区別することによって、前記産業車両の状態を推定する状態推定部と、を備える、産業車両の制御装置。
[形態2]
前記第1の信号取得部は、前記産業車両の周辺環境を示す前記第1の信号を取得し、
前記第2の信号取得部は、前記産業車両の自己の状態を示す前記第2の信号を取得する、形態1に記載の産業車両の制御装置。
[形態3]
前記第1の信号取得部は、前記第1の信号として音センサから音データを取得し、
前記第2の信号取得部は、前記第2の信号として前記産業車両の荷役部に設けられた加速度センサから加速度データを取得し、
前記状態推定部は、前記産業車両の荷役の状態を推定する、形態2に記載の産業車両の制御装置。
[形態4]
前記データ処理部は、
前記第1の信号として音データ、及び前記第2の信号として加速度データの前記時系列データを取得し、
前記時系列データから、異なる観点を基にした複数の特徴量を所定時間毎に抽出し、
前記状態推定部は、前記データ処理部の前記特徴量の抽出結果をクラスタリングすることにより、前記状態を推定する、形態1~3の何れか一項に記載の産業車両の制御装置。
[形態5]
形態1~4の何れか一項に記載の産業車両の制御装置を備えた産業車両。
[形態6]
産業車両を制御する産業車両の制御プログラムであって、
第1の信号を取得する第1の信号取得ステップと、
第2の信号を取得する第2の信号取得ステップと、
前記第1の信号及び前記第2の信号の時系列データに基づいてデータ処理を行うデータ処理ステップと、
前記データ処理の結果を、区別することによって、前記産業車両の状態を推定する状態推定ステップと、をコンピュータシステムに実行させる、産業車両の制御プログラム。
【符号の説明】
【0052】
2…車両、40…第1の信号取得部、41…第2の信号取得部、42…データ処理部、43…状態推定部、50…フォークリフト(産業車両)、100…制御装置。