(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021383
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】メタクリル系樹脂成形体及びメタクリル系樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08J 5/00 20060101AFI20240208BHJP
G02B 1/04 20060101ALI20240208BHJP
G02B 5/02 20060101ALI20240208BHJP
C08L 33/10 20060101ALI20240208BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
C08J5/00 CEY
G02B1/04
G02B5/02 A
C08L33/10
C08L83/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022124175
(22)【出願日】2022-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】中村 萌
【テーマコード(参考)】
2H042
4F071
4J002
【Fターム(参考)】
2H042BA01
2H042BA02
2H042BA16
2H042BA20
4F071AA33
4F071AA67
4F071AD02
4F071AE22
4F071AF29Y
4F071AF30Y
4F071AH07
4F071AH12
4F071AH19
4F071BA01
4F071BB05
4J002BG061
4J002CP032
4J002FD202
4J002GP00
(57)【要約】
【課題】高い光拡散性と光透過性を両立するメタクリル系樹脂成形体及びメタクリル系樹脂組成物を提供する
【解決手段】肉厚2mmの偏平シートとしたときの全光線透過率が40%以上であり、かつ、相対輝度(5°/0°)が70%以上であることを特徴とする、メタクリル系樹脂成形体。メタクリル系樹脂100質量部に対して、シリコーン樹脂由来の拡散剤を0.7質量部以上含有することを特徴とする、メタクリル系樹脂組成物。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
肉厚2mmの偏平シートとしたときの全光線透過率が40%以上であり、かつ、相対輝度(5°/0°)が70%以上であることを特徴とする、メタクリル系樹脂成形体。
【請求項2】
前記相対輝度(5°/0°)が80%以上である、請求項1に記載のメタクリル系樹脂成形体。
【請求項3】
前記全光線透過率が50%以上である、請求項1又は2に記載のメタクリル系樹脂成形体。
【請求項4】
メタクリル系樹脂100質量部に対して、シリコーン樹脂由来の拡散剤を0.7質量部以上含有することを特徴とする、メタクリル系樹脂組成物。
【請求項5】
前記シリコーン樹脂由来の拡散剤の含有量が0.75質量部以上4.0質量部以下である、請求項4に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項6】
前記シリコーン樹脂由来の拡散剤の体積平均粒径が1.0~3.0μmである、請求項4に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項7】
前記シリコーン樹脂由来の拡散剤の屈折率が1.00~2.00である、請求項4に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【請求項8】
請求項4~7のいずれか一項に記載のメタクリル系樹脂組成物を成形してなる、メタクリル系樹脂成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光拡散性及び光透過性に優れたメタクリル系樹脂成形体及びメタクリル系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクリル系樹脂(PMMA)は光学特性、耐候性、耐薬品性、硬度などに優れた熱可塑性樹脂であり、車両用部材;建築部材;住宅設備向け部材や商業用部材等の成形材料として多用されている。
【0003】
メタクリル系樹脂の用途のうち、住宅設備向け部材における照明器具カバー、商業用部材におけるディスプレイ用アクリル板等にあっては、近年、商品価値を高めるために、全面にわたって光の明度が均一で、光源のイメージが透けて見えないことが要求されている。
光源のイメージを消失させるためには光の拡散性を向上させればよい。すなわち、光の拡散性を高めると光源のイメージが消失する方向を示し、光の拡散性の尺度となる輝度分布比率((最も暗い点での輝度値)/(最も明るい点での輝度値))や後述する光拡散率の値も大きくなる。しかし、光源のイメージを消失させる程度に材料の光拡散性を高めると、光透過性が急激に低下し、光源の明るさが極端に損なわれてしまう問題がある。
【0004】
このような要求に対し、実際の商品として使用された状態で光源のイメージがなく、かつ光透過性が従来特性と同等程度の光拡散性材料として、特定の光拡散剤を含む光拡散性樹脂組成物からなり、肉厚2mmの扁平シートとしたときの全光線透過率が60%以上であり、かつ、該シートの輝度分布比率が0.8以上である条件を満たす光拡散性樹脂成形体が提案されている(特許文献1)。
ここで、輝度分布比率とは、例えば、2本の蛍光管を備えた照明光源の前面に光拡散性材料を設置し、その面上の輝度分布パターンを測定したときの測定範囲内での最大値と最小値の比に該当する。
特許文献1では、この輝度分布比率の値が1に近いほど完全拡散体に近くなり、光源のイメージや明るさの不均一性が消失するとされている。
【0005】
特許文献2には、特定の光拡散剤を含み、全光線透過率が50%以上であり、且つ、光拡散率が80%以上である条件を満たす光拡散性に優れたアクリル系樹脂板が提案されている。
ここで、光拡散率とは、乳白色半透明板(拡散板)の光拡散性能を示す尺度となるもので、
図2に示すように、試験片に対して光を透過させ、DIN5036規格に基づき後述する式によって求められる。
特許文献2では、この光拡散率の値が100%に近いほど完全拡散体に近くなり、光源のイメージや明るさの不均一性が消失するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6-73296号公報
【特許文献2】特開平11-172019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、近年の指向性の高いLED光源の普及により、従来の輝度分布比率や光拡散率では、光拡散性の指標として光源の透けを反映できず、実際に目視した場合との相関が得られないことから、光拡散性において、より適した指標が求められている。
【0008】
本発明は上記従来の実状に鑑みてなされたものであって、指向性の高いLED光源を用いた場合であっても、高い光拡散性と光透過性を両立することができるメタクリル系樹脂成形体及びメタクリル系樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、光拡散性の指標として、従来の輝度分布比率や光拡散率ではなく、相対輝度(5°/0°)を用いることにより、あらゆる光源に対してより的確に光拡散性を評価することができることを知見した。
本発明はこのような知見に基づいて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0010】
[1] 肉厚2mmの偏平シートとしたときの全光線透過率が40%以上であり、かつ、相対輝度(5°/0°)が70%以上であることを特徴とする、メタクリル系樹脂成形体。
【0011】
[2] 前記相対輝度(5°/0°)が80%以上である、[1]に記載のメタクリル系樹脂成形体。
【0012】
[3] 前記全光線透過率が50%以上である、[1]又は[2]に記載のメタクリル系樹脂成形体。
【0013】
[4] メタクリル系樹脂100質量部に対して、シリコーン樹脂由来の拡散剤を0.7質量部以上含有することを特徴とする、メタクリル系樹脂組成物。
【0014】
[5] 前記シリコーン樹脂由来の拡散剤の含有量が0.75質量部以上4.0質量部以下である、[4]に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【0015】
[6] 前記シリコーン樹脂由来の拡散剤の体積平均粒径が1.0~3.0μmである、[4]又は[5]に記載のメタクリル系樹脂組成物。
【0016】
[7] 前記シリコーン樹脂由来の拡散剤の屈折率が1.00~2.00である、[4]~[6]のいずれかに記載のメタクリル系樹脂組成物。
【0017】
[8] [4]~[7]のいずれかに記載のメタクリル系樹脂組成物を成形してなる、メタクリル系樹脂成形体。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、指向性の高いLED光源を用いた場合であっても、高い光拡散性と光透過性を両立することができるメタクリル系樹脂成形体及びメタクリル系樹脂組成物を提供することができる。
このため、本発明によれば、光源のイメージが透けて見えずに、かつ、光源の明るさが損なわれることのない、商品価値の高い照明商品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1(a)は、本発明における光拡散性の指標である相対輝度(5°/0°)を説明する図であり、
図1(b)は、出射光輝度分布の一例を示す図である。
【
図3】光源の透けの有無の評価方法の説明図である。
【
図4】実施例における全光線透過率と相対輝度(5°/0°)との関係を示すグラフである。
【
図5】実施例のサンプルの光源の透けの評価におけるカメラ映像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、詳細に本発明の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0021】
[メタクリル系樹脂成形体]
本発明のメタクリル系樹脂成形体は、肉厚2mmの扁平シートとしたときの全光線透過率(以下、単に「全光線透過率」と称す場合がある)が40%以上であり、かつ、相対輝度(5°/0°)(以下、単に「相対輝度(5°/0°)」と称す場合がある。)が70%以上であることを特徴とする。
【0022】
<メカニズム>
特許文献1における輝度分布比率とは、例えば、2本の蛍光管を備えた照明光源の前面に光拡散性材料を設置し、その面上の輝度分布パターンを測定したときの測定範囲内での輝度の最大値と最小値の比に該当する。
また、特許文献2における光拡散率は、乳白色半透明板(拡散板)の光拡散性能を示す尺度となるもので、
図2に示すように、試験片に対して光を透過させ、DIN5036規格に基づき以下の式から求められる。
【0023】
【0024】
しかしながら、従来の輝度分布比率や拡散率では、この値が大きくても小さくても光源のイメージが消失しない場合があり、本発明者は、輝度分布比率や光拡散率は光拡散性の指標としては不適切であることを確認した。これは、輝度分布比率は輝度の最大値と最小値の場合のみを使用し計算しており、輝度の斑について十分に反映していないためと考えられる。また、光拡散率は直下輝度(θ=0°)の場合が計算されておらず、光源のイメージの透けの程度を十分に反映し得ないことによるものと考えられる。
【0025】
本発明では、従来の輝度分布比率や光拡散率に代えて、
図1(a)に示すように、試験片に光(入射光(平行光線))を透過させた場合の出射光輝度を測定し、下記式で算出される相対輝度(5°/0°)を光拡散性、即ち、光源のイメージの透けの程度の指標とする。
相対輝度(5°/0°)=L(5°)/L(0°)×100(%)
L(5°):試験片の法線となす角度θ=5°における輝度
L(0°):試験片の法線(角度θ=0°)における輝度
【0026】
図1(a)は、出射光輝度分布の一例を示すものであり、
図1中のA~Dは、次の通りであり、Eは直下輝度を示し、出射光直下付近(θ=5°)における輝度と直下(θ=0°)輝度との差が大きいと光源の透けが大きい。
A:完全拡散(輝度分布が半球状になる)
どの方向から見ても均一な明るさに見える。
輝度分布比率や拡散率が最も高く、透けも最も小さい。
B:輝度分布比率や拡散率がAに次いで高く、透けはAに次いで小さい。
C:輝度分布比率や拡散率は最も低いが、透けはBに次いで小さい。
D:輝度分布比率や拡散率はCより高くBより低いが、透けが最も大きい。
即ち、輝度分布比率や拡散率については、
C<D<B<A
の順で高いが、光源のイメージの透けについては、
A<B<C<D
の順で大きい。即ち、光源のイメージの透け防止については、
D<C<B<A
の順で好ましい。
したがって、輝度分布比率や拡散率により示される値が、光源のイメージのすけを判断するための指標として適切でないことがあることが判明した。この要因としては、
図1(b)のDで示されるように、半球状の出射光輝度分布ではなく、θ=0°~5°の範囲において、変曲点を持つ場合があるためである。このような場合、出射光直下付近(θ=5°)における輝度と直下(θ=0°)輝度との差が大きくなり、光源の透けが大きくなる。
従って、上述した状況を加味した相対輝度(5°/0°)は、光源のイメージの透けを適正に反映して数値化する光拡散性の指標であることが分かる。
【0027】
<全光線透過率・相対輝度(5°/0°)>
本発明のメタクリル系樹脂成形体の全光線透過率が40%以上であれば光透過性に優れる。光透過性の観点から、この全光線透過率は50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましい。光透過性の観点からは、全光線透過率は高い程好ましいが、以下の相対輝度(5°/0°)を確保する観点から、全光線透過率の上限は通常95%以下である。
【0028】
本発明のメタクリル系樹脂成形体の相対輝度(5°/0°)が70%以上であることは、光源のイメージを十分に消失できるほど、出射光直下付近(θ=5°)における輝度と直下(θ=0°)輝度との差が小さいことを示し、光拡散性、光源のイメージの透け防止性に優れる。この観点から、相対輝度(5°/0°)は高い程好ましく、80%以上、特に90%以上であることが好ましい。
【0029】
本発明における全光線透過率及び相対輝度(5°/0°)は、具体的には、後掲の実施例の項に記載の方法で測定される。
【0030】
なお、本発明では、全光線透過率及び相対輝度(5°/0°)の評価において、「肉厚2mmの扁平シート」を用いるが、本発明のメタクリル系樹脂成形体の形状、寸法は、何ら肉厚2mmの扁平シートに限定されるものではなく、形状においては、曲面を有するシートや、屈曲部を有するシート等であってもよい。また、光拡散性の観点から、肉厚は0.1mm以上であることが好ましく、1mm以上であることがより好ましい。また、光透過性の観点から、肉厚は10mm以下であることが好ましく、5mm以下であることがより好ましい。
【0031】
このような全光線透過率及び相対輝度(5°/0°)を満たす本発明のメタクリル系樹脂成形体を製造する方法には特に制限はないが、好ましくは、本発明のメタクリル系樹脂成形体は、以下に説明する本発明のメタクリル系樹脂組成物を成形することにより製造される。
【0032】
[メタクリル系樹脂組成物]
本発明のメタクリル系樹脂組成物は、メタクリル系樹脂100質量部に対して、シリコーン樹脂由来の拡散剤を0.7質量部以上含有することを特徴とする。
シリコーン樹脂由来の拡散剤の含有量が上記下限未満では、光拡散性に優れたメタクリル系樹脂成形体を得ることはできない。光拡散性の観点から、本発明のメタクリル系樹脂組成物中のシリコーン樹脂由来の拡散剤の含有量は、メタクリル系樹脂100質量部に対して0.75質量部以上であることが好ましく、1.0質量部以上であることがより好ましい。一方で、シリコーン樹脂由来の拡散剤の含有量が多過ぎると、光透過性が低下する傾向にあることから、本発明のメタクリル系樹脂組成物のシリコーン樹脂由来の拡散剤の含有量は、メタクリル系樹脂100質量部に対して4.0質量部以下であることが好ましく、3.0質量部以下であることが好ましい。
【0033】
該拡散剤を構成するシリコーン樹脂は、有機基が結合した珪素原子と酸素原子とが交互に繰り返されたシロキサン結合が、三次元的な網状構造をなしてポリマーとなったものである。珪素原子に結合する有機基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基、カルボキシル基、カルボニル基、エステル基、エーテル基など、本発明で用いるメタクリル系樹脂又はそのモノマーに対して親和力を有する有機基が好ましい。代表的な有機基としてはメチル基が挙げられる。
【0034】
シリコーン樹脂由来の拡散剤は、前述の全光線透過率及び相対輝度(5°/0°)を満たすために、不定形ではなく、微粒子状であることが好ましく、中でも、その形状については、楕円球状ないし球状であることが好ましい。
シリコーン樹脂由来の拡散剤の体積平均粒径は、1.0~3.0μmの範囲であることが好ましく、1.5~2.5μmの範囲であることがより好ましい。シリコーン樹脂由来の拡散剤の体積平均粒径が小さ過ぎると、光透過性に劣り、全光線透過率40%以上を達成できない場合がある。シリコーン樹脂由来の拡散剤の体積平均粒径が大き過ぎると、光拡散性に劣り、相対輝度(5°/0°)70%以上を達成できない場合がある。
ここで、シリコーン樹脂由来の拡散剤の体積平均粒径は、レーザー回折散乱法により測定された一定体積に含まれる拡散剤粒子の粒子径を測定し平均値を算出したものであるが、市販品についてはカタログ値を採用することができる。
【0035】
また、シリコーン樹脂由来の拡散剤の屈折率は、1.00~2.00、特に1.2~1.6であることが好ましい。シリコーン樹脂由来の拡散剤の屈折率が上記範囲内であれば、光透過性および光拡散性に優れたメタクリル系樹脂成形体を得ることができる。
ここで、シリコーン樹脂由来の拡散剤の屈折率は、ナトリウムd線(589nm)の測定値である。
【0036】
<メタクリル系樹脂>
本発明のメタクリル系樹脂組成物の主成分となるメタクリル系樹脂は、メタクリル酸メチル(MMA)由来の繰り返し単位(以下、「MMA単位」という。)を含む重合体である。
【0037】
メタクリル酸メチル重合体中の、MMA単位の含有割合の下限は、メタクリル系樹脂組成物の透明性、耐溶剤性等が良好となる観点から、該メタクリル酸メチル重合体の総質量100質量%に対して、70質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、98.5質量%以上が特に好ましい。MMA単位の含有割合の上限は、特に制限されるものではなく、100質量%であってもよい。
【0038】
メタクリル酸メチル重合体は、本発明のメタクリル系樹脂組成物の透明性、耐溶剤性等を損なわない範囲内で、MMAと共重合可能な他の単量体(以下、「その他の単量体」という。)由来の繰り返し単位を含むことができる。
【0039】
その他の単量体としては、MMAと共重合性を有する単量体であれば、特に制限されるものではなく、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸2-エチルヘキシル等のMMA以外のメタクリル酸アルキル類;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル等のアクリル酸アルキル類;メタクリル酸、アクリル酸等の不飽和酸類;スチレン、α-メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物;無水マレイン酸;及びフェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系化合物が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
<その他の成分>
本発明のメタクリル系樹脂組成物は、メタクリル系樹脂、シリコーン樹脂由来の拡散剤以外に、本発明の目的を損なわない範囲で、メタクリル系樹脂以外の透明樹脂や、その他の各種添加剤を含むものであってもよい。透明樹脂は、少なくとも可視光領域で高い光線透過率(例えば可視光線透過率が60%以上)を有する透明樹脂であれば、特に制限されるものではなく、公知の透明樹脂を用いることができる。
メタクリル系樹脂以外の透明樹脂としては、ポリカーボネート樹脂及びポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂等の一種又は二種以上が挙げられる。これらは1種を使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
また、添加剤としては、紫外線吸収剤、酸化防止剤等の安定剤、ホコリ等の付着防止のための帯電防止剤、鋳型との剥離を容易にする離型剤、流動性を向上させる滑剤、シリコーン樹脂由来の拡散剤以外の無機系顔料や蛍光増白剤等が挙げられる。
【0042】
<メタクリル系樹脂組成物の製造方法・成形方法>
本発明のメタクリル系樹脂組成物は、メタクリル系樹脂、シリコーン樹脂由来の拡散剤、及び必要に応じて用いられるその他の成分をヘンシェルミキサー等で混合し、さらに射出成形法や押出成形法により所定の形状に成形することで、目的とするメタクリル系樹脂成形体、即ち、全光線透過率が40%以上で相対輝度(5°/0°)が70%以上のメタクリル系樹脂成形体を製造することができる。
【0043】
本発明のメタクリル系樹脂成形体の肉厚は2mmが望ましいが、何ら2mmに限定されないことは前述の通りである。
【0044】
[用途]
本発明のメタクリル系樹脂成形体は、光透過性と光拡散性に優れ、光源のイメージの透けを防止した上で高い照明効果を得ることができ、屋外看板、屋外照明のカバー材料、各種ディスプレイ用材料や車両部品として産業上極めて有用である。
【実施例0045】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0046】
[原材料]
以下の実施例でメタクリル系樹脂成形体の製造に用いた原材料は以下の通りである。
【0047】
<メタクリル系樹脂>
三菱ケミカル社製「アクリペット(登録商標)VH001」
【0048】
<拡散剤>
固体状シリコーン樹脂微粒子(体積平均粒径:2μm、屈折率:1.4)
【0049】
[物性及び特性の測定・評価方法]
<全光線透過率の測定>
村上色彩技術研究所製 ヘーズメーター HM-150を用いて、光透過率(D65)を測定し、下記基準で評価した。
A:全光線透過率40%以上
B:全光線透過率40%未満
【0050】
<測定輝度(5°/0°)の測定>
村上色彩技術研究所製 変角光度計GONIO PHOTO METER GP-200型を用いて出射光輝度分布を測定した。樹脂成形体に対して垂直(0°)に照射した光を、受光部が0°~90°に移動して輝度を測定し、0°の輝度(直下輝度)を100%としたときの5°における相対輝度を算出し、下記基準で評価した。
A:相対輝度(5°/0°)70%以上
B:相対輝度(5°/0°)70%未満
【0051】
<光源の透けの有無の評価>
図3に示すように、2個のLED光源1A,1BをLEDの間の距離が18mmになるように設置し、LEDから厚さ2mmの樹脂成形体のサンプル2までの距離が25mmになるように固定した。
また、CCDカメラ3を、樹脂成形体のサンプル2までの距離が840mmとなるように固定した。
LED光源1A,1Bから照射された光が樹脂成形体のサンプル2を透過した様子をCCDカメラ3を用いて見え方を観察し、下記基準で評価した。
○:光源の透けは無い。
×:光源の透けがある。
*:メタクリル系樹脂成形体のサンプル自体が暗く、光源の透けを評価できない。
【0052】
<明暗の判別>
LED光源から樹脂成形体のサンプルに光を透過させたとき、樹脂成形体の輪郭が見えるものを「明」、見えないものを「暗」とした。
【0053】
[実施例1~4]
メタクリル系樹脂100質量部に対して、表1に示す拡散剤を表1に示す量添加して溶融混練して得られたメタクリル系樹脂組成物を、80℃で約4時間熱風乾燥した後に、射出成形機(機種名「FAS-T100D」、ファナック(株)製)により肉厚2mmの偏平シートに成形してメタクリル系樹脂成形体のサンプルを得た。
得られたメタクリル系樹脂成形体のサンプルについて、前述の測定・評価を行い、結果を表1に示した。
また、各実施例及び比較例における全光線透過率と相対輝度(5°/0°)との関係をグラフ化したものを
図4に、光源の透けの評価におけるカメラ映像を
図5に示す。
【0054】
【0055】
表1より、シリコーン樹脂由来の拡散剤を所定の割合で含むメタクリル系樹脂組成物よりなり、全光線透過率が40%以上で相対輝度(5°/0°)が70%以上の実施例1~4のメタクリル系樹脂成形体は、光拡散性と光透過性に優れ、光源の明るさを損なうことなく、光源のイメージの透けを防止することができる。