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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021473
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】シーラント材
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/60 20060101AFI20240208BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20240208BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20240208BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
C08G63/60
C09K3/10 Z
B32B27/36
B32B27/00 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022124310
(22)【出願日】2022-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福原 忠仁
(72)【発明者】
【氏名】佐近 和樹
(72)【発明者】
【氏名】小西 啓之
(72)【発明者】
【氏名】俊成 謙太
【テーマコード(参考)】
4F100
4H017
4J029
【Fターム(参考)】
4F100AK41
4F100AK41A
4F100AT00B
4F100BA02
4F100BA07
4F100DG10B
4F100JA04
4F100JA04A
4F100JA05
4F100JA05A
4F100JA07
4F100JC00
4F100JK06
4F100JL12
4F100JL12A
4F100YY00A
4H017AA04
4H017AB13
4H017AD06
4H017AE05
4J029AA05
4J029AB01
4J029AC03
4J029AD01
4J029AD06
4J029AD07
4J029AE16
4J029BA07
4J029BA10
4J029CA02
4J029CA04
4J029CA05
4J029CA06
4J029EA05
4J029EH01
4J029JA061
4J029JA091
4J029JB171
4J029JF371
4J029KC01
4J029KD02
4J029KD07
4J029KE02
4J029KE05
4J029KE09
4J029KE15
(57)【要約】
【課題】良好な生分解性を有するシーラント材を提供する。
【解決手段】
ポリ乳酸単位(a)を主単位として含むブロック構造単位(A)とポリエステル単位(b)を主単位として含むブロック構造単位(B)とを含み、かつ、融点が110℃以上185℃以下であるブロック共重合体を含むシーラント材であり、
前記ポリエステル単位(b)が、脂肪族ジオール(b1)と脂肪族ジカルボン酸(b2)に由来する単位を含有し、前記脂肪族ジオール(b1)がアルキル基を分岐鎖として有するジオールである、シーラント材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸単位(a)を主単位として含むブロック構造単位(A)とポリエステル単位(b)を主単位として含むブロック構造単位(B)とを含み、かつ、融点が110℃以上185℃以下であるブロック共重合体を含むシーラント材であり、
前記ポリエステル単位(b)が、脂肪族ジオール(b1)と脂肪族ジカルボン酸(b2)に由来する単位を含有し、前記脂肪族ジオール(b1)がアルキル基を分岐鎖として有するジオールである、シーラント材。
【請求項2】
前記ブロック共重合体のガラス転移点が-80℃以上-15℃以下である、請求項1に記載のシーラント材。
【請求項3】
前記脂肪族ジオール(b1)が有する2つの水酸基が1級水酸基であり、かつ、前記脂肪族ジオール(b1)が4級炭素を有さないジオールである、請求項1又は2に記載のシーラント材。
【請求項4】
前記脂肪族ジオール(b1)の炭素数が4以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載のシーラント材。
【請求項5】
前記ブロック構造単位(A)と前記ブロック構造単位(B)の合計100質量%に対し、前記ブロック構造単位(A)が5質量%以上95質量%以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載のシーラント材。
【請求項6】
前記脂肪族ジオール(b1)の炭素数が10以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載のシーラント材。
【請求項7】
前記脂肪族ジオール(b1)が有する前記分岐鎖が、メチル基である、請求項1~6のいずれか1項に記載のシーラント材。
【請求項8】
前記ポリ乳酸単位(a)中、D-乳酸若しくはD-ラクチドに由来する単位の割合が、L-乳酸若しくはL-ラクチドに由来する単位とD-乳酸若しくはD-ラクチドに由来する単位との合計100質量%に対して10質量%未満、又は、L-乳酸若しくはL-ラクチドに由来する単位の割合が、L-乳酸若しくはL-ラクチドに由来する単位とD-乳酸若しくはD-ラクチドに由来する単位との合計100質量%に対して10質量%未満である、請求項1~7のいずれか1項に記載のシーラント材。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のシーラント材を含むシール層と基材とを含む、積層体。
【請求項10】
前記基材が紙である、請求項9に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な生分解性を有するシーラント材に関する。
【背景技術】
【0002】
環境保護の見地から、バイオプラスチックに関する開発が盛んに行われている。例えば、バイオプラスチックであるポリ乳酸は、光合成により生産されるとうもろこし等の植物由来再生可能資源を原料とし、幅広い分野において利用されることが期待されている。
例えば、特許文献1には、特定の要件を満たす結晶化された乳酸系ポリエステル組成物(A)からなる基材層と、特定の要件を満たす非晶性の乳酸系ポリエステル組成物(B)からなるヒートシール層とから成るヒートシールフィルムが記載されている。
特許文献2には、結晶化された乳酸系ポリマー(A)からなる基材層(I)と、乳酸系ポリマー(A)の融点より低い軟化点を有する非晶性の乳酸系ポリマー(B)からなるシール層(II)とを有する熱融着可能な乳酸系ポリマー積層体が記載されている。
特許文献3には、特定のポリ乳酸繰り返し単位を含むハードセグメントおよび特定のポリウレタンポリオール繰り返し単位の含むソフトセグメントを含むポリ乳酸樹脂を含み、長さ方向および幅方向のヤング率の合計、並びに、長さ方向および幅方向の初期引張強度の合計が、それぞれ、特定の範囲であるポリ乳酸樹脂フィルムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-94585号公報
【特許文献2】特開平10-151715号公報
【特許文献3】特表2014-507524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1~3に記載されたポリ乳酸を含有する樹脂又は樹脂組成物は、ある程度の生分解性を有するものと推測できる。ここで、「生分解性」とは微生物等の生物によって最終的には水と二酸化炭素に分解される性質であり、ポリ乳酸を含有する樹脂はコンポスト中で生分解性を示すことが知られている。しかし、環境意識の高まりから、より良好な生分解性を発現させることが要求されている。
前述のとおり、バイオプラスチックに関する様々な用途への適用が検討されているが、近年、シーラント材についても、環境保護の見地から、より良好な生分解性が要求されている。
そこで、本発明は、良好な生分解性を有するシーラント材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、特定の要件を満たすブロック共重合体を含むシーラント材とすることで、前記課題を解決し得ることを見出した。
すなわち、本発明は、以下の発明を包含する。
[1] ポリ乳酸単位(a)を主単位として含むブロック構造単位(A)とポリエステル単位(b)を主単位として含むブロック構造単位(B)とを含み、かつ、融点が110℃以上185℃以下であるブロック共重合体を含むシーラント材であり、
前記ポリエステル単位(b)が、脂肪族ジオール(b1)と脂肪族ジカルボン酸(b2)に由来する単位を含有し、前記脂肪族ジオール(b1)がアルキル基を分岐鎖として有するジオールである、シーラント材。
[2] 前記ブロック共重合体のガラス転移点が-80℃以上-15℃以下である、前記[1]に記載のシーラント材。
[3] 前記脂肪族ジオール(b1)が有する2つの水酸基が1級水酸基であり、かつ、前記脂肪族ジオール(b1)が4級炭素を有さないジオールである、前記[1]又は[2]に記載のシーラント材。
[4] 前記脂肪族ジオール(b1)の炭素数が4以上である、前記[1]~[3]のいずれか1つに記載のシーラント材。
[5] 前記ブロック構造単位(A)と前記ブロック構造単位(B)の合計100質量%に対し、前記ブロック構造単位(A)が5質量%以上95質量%以下である、前記[1]~[4]のいずれか1つに記載のシーラント材。
[6] 前記脂肪族ジオール(b1)の炭素数が10以下である、前記[1]~[5]のいずれか1つに記載のシーラント材。
[7] 前記脂肪族ジオール(b1)が有する前記分岐鎖が、メチル基である、前記[1]~[6]のいずれか1つに記載のシーラント材。
[8] 前記ポリ乳酸単位(a)中、D-乳酸若しくはD-ラクチドに由来する単位の割合が、L-乳酸若しくはL-ラクチドに由来する単位とD-乳酸若しくはD-ラクチドに由来する単位との合計100質量%に対して10質量%未満、又は、L-乳酸若しくはL-ラクチドに由来する単位の割合が、L-乳酸若しくはL-ラクチドに由来する単位とD-乳酸若しくはD-ラクチドに由来する単位との合計100質量%に対して10質量%未満である、前記[1]~[7]のいずれか1つに記載のシーラント材。
[9] 前記[1]~[8]のいずれか1つに記載のシーラント材を含むシール層と基材とを含む、積層体。
[10] 前記基材が紙である、前記[9]に記載の積層体。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、良好な生分解性を有するシーラント材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施態様の一例(以下、「本発明の一態様」ともいう。)に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施態様は、本発明の技術思想を具体化するための例示であって、本発明は以下の記載に限定されない。
また、本明細書において、実施態様の好ましい形態を示すが、個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、好ましい形態である。
また、本明細書において、数値範囲で示した事項について、いくつかの数値範囲がある場合、それらの下限値と上限値とを選択的に組み合わせて好ましい形態とすることができる。
すなわち、本明細書において、数値範囲について、段階的に記載された下限値及び上限値は、それぞれ独立して組み合わせることができる。例えば、同一事項に対する「好ましくは10~90、より好ましくは30~60」という記載から、「好ましい下限値(10)」と「より好ましい上限値(60)」とを組み合わせて、「10~60」とすることもできる。
また、数値範囲について、例えば、「好ましくは10~90、より好ましくは30~60」との記載に基づいて、上限値は特に規定せずに下限値側だけ「10以上」又は「30以上」と規定することもでき、同様に、下限値は特に規定せずに上限値側だけ「90以下」又は「60以下」と規定することもできる。
なお、本明細書において、特に言及しない限り、例えば、「XX~YY」との数値範囲の記載がある場合、「XX以上YY以下」を意味する(XXは下限値、YYは上限値を表す)。
前記同様、例えば、同一事項に対する「好ましくは10以上、より好ましくは30以上」の記載と「好ましくは90以下、より好ましくは60以下」という記載から、「好ましい下限値(10)」と「より好ましい上限値(60)」とを組み合わせて、「10以上60以下」とすることもできる。また、前記同様、下限値側だけ「10以上」又は「30以上」と規定することもでき、同様に、上限値側だけ「90以下」又は「60以下」と規定することもできる。
また、本明細書において、「~単位」(ここで「~」は重合体を示す)とは「~に由来する構造単位」を意味する。例えば「ポリ乳酸単位」とは「ポリ乳酸に由来する構造単位」を意味し、「ポリエステル単位」とは「ポリエステルに由来する構造単位」を意味する。
また、本明細書において、特に言及しない限り、重合体の「主鎖」とは、ポリマー分子中において最も長い分子鎖を意味する。
また、本明細書において、「固形分」とは、重合体及び重合体の原料成分から選ばれる少なくとも1種を、有機溶媒及び水から選ばれる少なくとも1種を含む媒体に溶解又は分散させて得られる溶液又は分散体中における、前記媒体を除いた、前記重合体及び重合体の原料成分の合計含有量を指す。
また、本明細書において、特に言及しない限り、「生分解性」及び「耐加水分解性」との表記は、本発明の一態様であるシーラント材、並びに、当該シーラント材が含むブロック共重合体の「生分解性」及び「耐加水分解性」を指す。
また、本明細書において、特に言及しない限り、「シール強度」との表記は、本発明の一態様であるシーラント材の「シール強度」を指す。
【0008】
[シーラント材]
本発明の一態様であるシーラント材は、ポリ乳酸単位(a)を主単位として含むブロック構造単位(A)とポリエステル単位(b)を主単位として含むブロック構造単位(B)とを含み、かつ、融点が110℃以上185℃以下であるブロック共重合体を含むシーラント材であり、前記ポリエステル単位(b)が、脂肪族ジオール(b1)と脂肪族ジカルボン酸(b2)に由来する単位を含有し、前記脂肪族ジオール(b1)がアルキル基を分岐鎖として有するジオールである。
以下、前記シーラント材が含有するブロック共重合体について説明する。
【0009】
<ブロック共重合体>
前記ブロック共重合体は、ポリ乳酸単位(a)を主単位として含むブロック構造単位(A)とポリエステル単位(b)を主単位として含むブロック構造単位(B)とを含み、かつ、融点が110℃以上185℃以下である。そして、前記ポリエステル単位(b)が、脂肪族ジオール(b1)と脂肪族ジカルボン酸(b2)に由来する単位を含有し、前記脂肪族ジオール(b1)がアルキル基を分岐鎖として有するジオールである。
上記要件を満たすブロック共重合体を用いることで、良好な生分解性が実現できる理由は定かではないが、前記ブロック構造単位(B)が非晶性構造を形成しやすくなるので、前記ブロック共重合体が生分解する際に、微生物がポリマー構造へ入り込みやすくなり、良好な生分解性が実現し、それにより、シーラント材も良好な生分解性を有するものと推測する。また、脂肪族ジオール(b1)がアルキル基を分岐鎖として有することで、より生分解性が向上すると考えられる。一方、ブロック構造単位(B)が非晶性構造を形成しない場合、前記ブロック共重合体が生分解する際に微生物がポリマー構造に入り込みにくくなると考えられ、本発明の効果を得ることが難しくなると考えられる。しかしながら、ポリマーが非晶性構造を有することは生分解性に影響を及ぼす一つの要因でしかない。微生物が非晶性構造を餌として認識するかどうか、酵素や微生物が近づきやすいか、主鎖の立体障害、融点、結晶化度等の様々な要因が複合して生分解性に影響を及ぼすと考えられるためである。よって、単に、ポリマーが非晶性構造を有するものであれば本発明の効果が得られるというわけではない。
【0010】
(ブロック構造単位(A))
〈ポリ乳酸単位(a)〉
ブロック構造単位(A)は、ポリ乳酸単位(a)を主単位とする。
前記「主単位」とは、ブロック構造単位(A)を構成する単位のうちで最も含有割合の高い単位を意味する。
ブロック構造単位(A)における、ポリ乳酸単位(a)の含有割合は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは85質量%以上、より更に好ましくは90質量%以上であり、100質量%含んでいてもよい。また、ブロック構造単位(A)に含まれるポリ乳酸単位(a)の上限に制限は無く、例えば、100質量%以下である。
【0011】
ポリ乳酸単位(a)を構成するポリ乳酸は、乳酸の直接縮合法によって調製してもよく、ラクチドの開環重合法によって調製してもよい。前記乳酸としては、例えば、L-乳酸、D-乳酸、及びDL-乳酸からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。入手容易性の観点からは、L-乳酸が好ましい。前記ラクチドとしては、例えば、L-ラクチド、D-ラクチド、DL-ラクチド、及びmeso-ラクチドからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。入手容易性の観点からは、L-ラクチドが好ましい。
また、ポリ乳酸は、ポリL-乳酸、ポリD-乳酸、ポリDL-乳酸、ポリL-乳酸とポリD-乳酸とを混合することによって得られるステレオコンプレックスポリ乳酸を用いることができる。コスト、原料の入手性、及びブロック共重合体の取り扱い易さの観点から、ポリ乳酸単位(a)を構成するポリ乳酸は、ポリL-乳酸、ポリD-乳酸、及びポリDL-乳酸からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、ポリL-乳酸及びポリD-乳酸から選ばれる少なくとも1種がより好ましく、原料の入手容易性の観点からはポリL-乳酸が更に好ましい。
一方、合成のコスト、煩雑さ、及びブロック共重合体の加工性の観点から、ポリ乳酸単位(a)を構成するポリ乳酸が、ステレオコンプレックスを形成しないことが好ましい。例えば、前記ポリ乳酸単位(a)中、D-乳酸若しくはD-ラクチドに由来する単位の割合が、L-乳酸若しくはL-ラクチドに由来する単位とD-乳酸若しくはD-ラクチドに由来する単位との合計100質量%に対して10質量%未満であること、又は、L-乳酸若しくはL-ラクチドに由来する単位の割合が、L-乳酸若しくはL-ラクチドに由来する単位とD-乳酸若しくはD-ラクチドに由来する単位との合計100質量%に対して10質量%未満であることがより好ましく;前記ポリ乳酸単位(a)中、D-乳酸若しくはD-ラクチドに由来する単位の割合が、L-乳酸若しくはL-ラクチドに由来する単位とD-乳酸若しくはD-ラクチドに由来する単位との合計100質量%に対して5質量%未満であること、又は、L-乳酸若しくはL-ラクチドに由来する単位の割合が、L-乳酸若しくはL-ラクチドに由来する単位とD-乳酸若しくはD-ラクチドに由来する単位との合計100質量%に対して5質量%未満であることが更に好ましい。
また、前記ポリ乳酸単位(a)中、D-乳酸若しくはD-ラクチドに由来する単位の割合が、L-乳酸若しくはL-ラクチドに由来する単位とD-乳酸若しくはD-ラクチドに由来する単位との合計100質量%に対して10質量%未満であることが更に好ましく、5質量%未満であることがより更に好ましい。
【0012】
また、より一層良好な生分解性を得易くする観点から、ポリ乳酸単位(a)は、L-乳酸若しくはL-ラクチドに由来する構成単位を好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上含む;又は、ポリ乳酸単位(a)は、D-乳酸若しくはD-ラクチドに由来する構成単位を、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上含む。また、ポリ乳酸単位(a)中、L-乳酸若しくはL-ラクチドに由来する構成単位の含有量の上限に制限は無く、例えば、100質量%以下である。同様に、ポリ乳酸単位(a)中、D-乳酸若しくはD-ラクチドに由来する構成単位の含有量の上限に制限は無く、例えば、100質量%以下である。
また、ポリ乳酸単位(a)の一態様としては、ポリ乳酸単位(a)がL-乳酸若しくはL-ラクチドに由来する構成単位、又は、D-乳酸若しくはD-ラクチドに由来する構成単位からなること、すなわち、ポリ乳酸単位(a)中、L-乳酸若しくはL-ラクチドに由来する構成単位の含有量、又は、D-乳酸若しくはD-ラクチドに由来する構成単位の含有量が100質量%であることが好ましい。また、ポリ乳酸単位(a)の一態様としては、ポリ乳酸単位(a)中、L-乳酸若しくはL-ラクチドに由来する構成単位の含有量が100質量%であることがより好ましい。
【0013】
〈ポリ乳酸単位(a)以外の単位(a’)〉
ブロック構造単位(A)は、ポリ乳酸単位(a)以外の単位(a’)を含んでもよく、又は、含まなくてもよい。
単位(a’)を構成する単量体としては、本発明の効果を損なわない範囲において特に限定されない。
ブロック構造単位(A)における、単位(a’)の含有割合は、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは15質量%以下、より更に好ましくは10質量%以下である。
【0014】
〈ブロック構造単位(A)の数平均分子量〉
ブロック構造単位(A)の数平均分子量は、好ましくは1,000~150,000、より好ましくは3,000~100,000、更に好ましくは4,000~25,000である。上記数値範囲内であれば、ブロック共重合体の製造容易性と、より良好な耐加水分解性とのバランスに優れる。
なお、ブロック共重合体が複数のブロック構造単位(A)を有する場合、ブロック構造単位(A)の数平均分子量とは、全てのブロック構造単位(A)の数平均分子量の合計を意味する。
ブロック構造単位(A)の数平均分子量は、後述するブロック共重合体の数平均分子量と、ブロック構造単位(A)の質量含有率から求めることができる。
【0015】
(ブロック構造単位(B))
〈ポリエステル単位(b)〉
ブロック構造単位(B)は、ポリエステル単位(b)を主単位とする。
前記「主単位」とは、ブロック構造単位(B)を構成する単位のうちで最も含有割合の高い単位を意味する。
また、本明細書において、ポリ乳酸は前記ポリ乳酸単位(a)を構成する単位であり、前記ポリエステル単位(b)を構成する単位としては含めない。
ブロック構造単位(B)における、ポリエステル単位(b)の含有割合は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、より更に好ましくは85質量%以上、より更に好ましくは90質量%以上であり、そして、100質量%含んでいてもよい。また、ブロック構造単位(B)に含まれるポリエステル単位(b)の上限に制限は無く、例えば、100質量%以下である。
ポリエステル単位(b)は、脂肪族ジオール(b1)及び脂肪族ジカルボン酸(b2)に由来する単位を含有する。具体的には、ポリエステル単位(b)は、脂肪族ジオール(b1)と脂肪族ジカルボン酸(b2)とを反応させて得られるポリエステルに由来する単位を含有する。ポリエステル単位(b)は、脂肪族ジオール(b1)及び脂肪族ジカルボン酸(b2)以外の単量体に由来する単位を含んでもよく、又は、含まなくてもよい。
脂肪族ジオール(b1)及び脂肪族ジカルボン酸(b2)以外の単量体としては、本発明の効果を損なわない範囲において特に限定されない。
ポリエステル単位(b)における、脂肪族ジオール(b1)及び脂肪族ジカルボン酸(b2)に由来する単位の総量は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、更に好ましくは99質量%以上であり、そして、100質量%であってもよい。また、ポリエステル単位(b)に含まれる脂肪族ジオール(b1)及び脂肪族ジカルボン酸(b2)に由来する単位の総量の上限に制限は無く、例えば、100質量%以下である。
【0016】
{脂肪族ジオール(b1)}
脂肪族ジオール(b1)は、アルキル基を分岐鎖として有する脂肪族ジオールである。
ここで、脂肪族ジオール(b1)における「分岐鎖」とは、脂肪族ジオール(b1)における「主鎖」から枝分かれしている部分構造を指し、その末端に水酸基は結合していない。
そして、前記脂肪族ジオール(b1)における「主鎖」とは、分子中の2つの水酸基を両末端として、前記2つの水酸基間を繋ぐ複数の原子、好ましくは炭素原子から構成されている分子鎖である部分構造を指す。したがって、前記脂肪族ジオール(b1)における「主鎖」の両末端には、前記脂肪族ジオール(b1)における2つの水酸基が位置する。
脂肪族ジオール(b1)が、アルキル基を分岐鎖として有しない場合、ブロック構造単位(B)が結晶化しやすく、また、ブロック共重合体は、良好な生分解性を発揮することができない。
また、脂肪族ジオール(b1)において、分岐鎖の数は、好ましくは1つ又は2つ、より好ましくは1つである。また、脂肪族ジオール(b1)が有する分岐鎖は、好ましくはメチル基、エチル基、及びプロピル基からなる群より選ばれる少なくとも1種、より好ましくはメチル基及びエチル基から選ばれる少なくとも1種、更に好ましくはメチル基である。また、脂肪族ジオール(b1)が分岐鎖を複数有する場合、それぞれの分岐鎖は同一であってもよく、又は、異なってもよい。
【0017】
また、ジカルボン酸と反応しやすく、ブロック共重合体を容易に製造できる観点から、脂肪族ジオール(b1)が有する2つの水酸基が1級水酸基であることが好ましい。
また、ジカルボン酸と反応しやすく、ブロック共重合体を容易に製造できる観点、並びに良好な生分解性を得易くする観点から、脂肪族ジオール(b1)が4級炭素を有さないジオールであることが好ましい。
したがって、脂肪族ジオール(b1)が有する2つの水酸基が1級水酸基であり、かつ、脂肪族ジオール(b1)が4級炭素を有さないジオールであることがより好ましい。
【0018】
脂肪族ジオール(b1)の炭素数は4以上であることが好ましい。
なお、上記「炭素数」は、上記アルキル基を成す炭素数を含む脂肪族ジオール(b1)全体の炭素数である。
脂肪族ジオール(b1)の炭素数が4以上であると、耐加水分解性にも優れるため好ましい。耐加水分解性により一層優れる観点から、脂肪族ジオール(b1)の炭素数は、好ましくは5以上、より好ましくは6以上である。
また、入手性の観点から、脂肪族ジオール(b1)の炭素数は、好ましくは10以下、より好ましくは9以下である。
【0019】
脂肪族ジオール(b1)は、例えば、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、2,3-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、2-メチル-1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2-エチル-1,5-ペンタンジオール、2,4-ジメチル-1,5-ペンタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,3-ヘキサンジオール、1,4-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、2-エチル-1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオールが挙げられる。脂肪族ジオール(b1)は、好ましくは2-メチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール及び2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオールからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくは3-メチル-1,5-ペンタンジオールである。
脂肪族ジオール(b1)は、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0020】
{脂肪族ジカルボン酸(b2)}
脂肪族ジカルボン酸(b2)の炭素数は、本発明の効果を損なわない限りに制限されない。一方、例えば、耐加水分解性が向上し易くなる観点から、脂肪族ジカルボン酸(b2)の炭素数は、好ましくは4以上、より好ましくは5以上、更に好ましくは6以上である。また、入手性の観点から、脂肪族ジカルボン酸(b2)の炭素数は、好ましくは12以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは8以下である。
【0021】
脂肪族ジカルボン酸(b2)は、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、デカンジカルボン酸が挙げられる。好ましくはコハク酸、アジピン酸、及びセバシン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくはコハク酸及びアジピン酸から選ばれる少なくとも1種であり、更に好ましくはアジピン酸である。
脂肪族ジカルボン酸(b2)は、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0022】
〈脂肪族ジオール(b1)と脂肪族ジカルボン酸(b2)の好ましい組合せ〉
脂肪族ジオール(b1)と脂肪族ジカルボン酸(b2)の組合せ例の好適な一態様としては、例えば、良好な生分解性、及びより優れたシール強度を発揮できる観点から、2-メチル-1,3-プロパンジオールとコハク酸の組合せ、3-メチル-1,5-ペンタンジオールとコハク酸の組合せ、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオールとコハク酸の組合せ、2-メチル-1,3-プロパンジオールとアジピン酸の組合せ、3-メチル-1,5-ペンタンジオールとアジピン酸の組合せ、及び2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオールとアジピン酸の組合せからなる群より選ばれる少なくとも1種の組合せが好ましく、2-メチル-1,3-プロパンジオールとアジピン酸の組合せ、3-メチル-1,5-ペンタンジオールとコハク酸の組合せ、3-メチル-1,5-ペンタンジオールとアジピン酸の組合せ、及び2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオールとアジピン酸の組合せからなる群より選ばれる少なくとも1種の組合せがより好ましく、3-メチル-1,5-ペンタンジオールとコハク酸の組合せ、及び3-メチル-1,5-ペンタンジオールとアジピン酸の組合せから選ばれる少なくとも1種の組合せが更に好ましく、3-メチル-1,5-ペンタンジオールとアジピン酸の組合せがより更に好ましい。
【0023】
〈脂肪族ジオール(b1)と脂肪族ジカルボン酸(b2)の割合〉
脂肪族ジオール(b1)と脂肪族ジカルボン酸(b2)とを反応させる際の仕込みモル比[脂肪族ジオール(b1)/脂肪族ジカルボン酸(b2)]は、好ましくは、1.4/1~1/1.4、より好ましくは1.2/1~1/1.2である。
【0024】
〈ポリエステル単位(b)以外の単位(b’)〉
ブロック構造単位(B)は、ポリエステル単位(b)以外の単位(b’)を含んでもよく、又は、含まなくてもよい。
単位(b’)を構成する単量体としては、本発明の効果を損なわない範囲において特に限定されない。
ブロック構造単位(B)における、単位(b’)の含有割合は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下、よりさらに好ましくは15質量%以下、特に好ましくは10質量%以下である。
【0025】
〈ブロック構造単位(B)の数平均分子量〉
ブロック構造単位(B)の数平均分子量は、好ましくは2,000以上、より好ましくは2,500以上、更に好ましくは4,000以上、より更に好ましくは5,000以上である。
また、ブロック共重合体の製造容易性の観点から、ブロック構造単位(B)の数平均分子量は、好ましくは180,000以下、より好ましくは100,000以下、更に好ましくは50,000以下、より更に好ましくは40,000以下であり、30,000以下であってもよく、20,000以下であってもよく、15,000以下であってもよい。
ブロック構造単位(B)の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって求めることができ、具体的には実施例に記載の方法により測定できる。
【0026】
(構造単位割合)
ブロック構造単位(A)とブロック構造単位(B)の合計100質量%に対し、ブロック構造単位(A)は、好ましくは5質量%以上95質量%以下である。
前記ブロック構造単位(A)の割合が、5質量%以上であれば、ブロック共重合体のハンドリング性に優れる傾向にある。また、前記ブロック構造単位(A)の割合が、95質量%以下であれば、ブロック共重合体及びシーラント材の生分解性に優れる傾向にある。ここで、「ハンドリング性」とは、材料としての扱い易さのことであり、例えば、ブロック共重合体の常温(23℃)における性状が、固体状のものであると、樹脂材料として扱い易く、液状のものと比べて、ハンドリング性が良好になる傾向がある。
また、本明細書において、特に言及しない限り、「ハンドリング性」とは、ブロック共重合体のハンドリング性を指す。
ハンドリング性の観点から、前記ブロック構造単位(A)の割合は、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上である。また、より良好な生分解性を得易くする観点から、前記ブロック構造単位(A)の割合は、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは75質量%以下である。
前記ブロック構造単位(A)の割合は、H-NMRによって求めることができ、具体的には実施例に記載の方法により測定できる。また、後述する実施例において、前記ブロック構造単位(A)の割合を「ハード比率」とも称する。
【0027】
また、ブロック共重合体における、ブロック構造単位(A)とブロック構造単位(B)の含有割合の合計は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、更に好ましくは98質量%以上であり、そして、100質量%であってもよい。また、ブロック共重合体における、ブロック構造単位(A)とブロック構造単位(B)の含有割合の合計の上限に制限は無く、例えば、100質量%以下である。
【0028】
ブロック共重合体は、ブロック構造単位(A)及びブロック構造単位(B)以外の単位を含んでもよく、又は、含まなくてもよい。
ブロック構造単位(A)及びブロック構造単位(B)以外の単位としては、本発明の効果を損なわない範囲において特に限定されない。
ブロック共重合体における、ブロック構造単位(A)及びブロック構造単位(B)以外の単位の含有割合は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは2質量%以下である。
【0029】
(ブロック共重合体の数平均分子量)
ブロック共重合体の数平均分子量は、例えば、ハンドリング性の観点から、より好ましくは5,000以上、より好ましくは8,000以上、更に好ましくは10,000以上、より更に好ましくは11,000以上である。
また、例えば、ブロック共重合体の製造容易性、加工性の観点から、ブロック共重合体の数平均分子量は、好ましくは450,000以下、より好ましくは200,000以下、更に好ましくは100,000以下、より更に好ましくは80,000以下、より更に好ましくは50,000以下、より更に好ましくは45,000以下であり、また、例えば、合成容易性の観点から、35,000以下であってもよく、25,000以下であってもよく、15,000以下であってもよい。
ブロック共重合体の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって求めることができ、具体的には実施例に記載の方法により測定できる。
【0030】
(ブロック共重合体の結合形式)
ブロック共重合体の結合形式は、トリブロック型及びジブロック型が好ましく、トリブロック型がより好ましい。ブロック共重合体は、トリブロック型とジブロック型の混合物であってもよい。具体的には、結合形式は、[ブロック構造単位(A)]-[ブロック構造単位(B)]-[ブロック構造単位(A)]であることが好ましい。
また、前述のとおり、ブロック共重合体は、ブロック構造単位(A)及びブロック構造単位(B)以外の単位を含んでもよく、又は、含まなくてもよい。ブロック構造単位(A)及びブロック構造単位(B)以外の単位を含む場合、例えば、上記結合形式において、ブロック構造単位(A)及びブロック構造単位(B)以外の単位を介して[ブロック構造単位(A)]と[ブロック構造単位(B)]とが結合していてもよく、又は、ブロック構造単位(A)及びブロック構造単位(B)以外の単位が分子構造の末端に結合していてもよい。
【0031】
(ブロック共重合体の融点)
ブロック共重合体の融点は、前述のとおり、110℃以上185℃以下である。
ブロック共重合体の融点が110℃以上であると、ブロック共重合体のガラス転移温度以上の温度でも軟化し難く、耐熱性に優れる。また、ブロック共重合体の融点が185℃以下であると、融点が高くなり過ぎず、例えば、溶融加工がし易くなる等、加工性に優れる。そのため、ブロック共重合体の融点は、好ましくは115℃以上、より好ましくは120℃以上、更に好ましくは125℃以上であり、そして、好ましくは180℃以下、より好ましくは170℃以下、更に好ましくは160℃以下である。
ブロック共重合体の融点は、示差走査熱量計によって求めることができ、具体的には実施例に記載の方法により測定できる。
【0032】
(ブロック共重合体のガラス転移温度)
ブロック共重合体のガラス転移温度は、好ましくは-80℃以上-15℃以下である。上記数値範囲内であれば、ブロック共重合体の柔軟性や耐衝撃性に優れる傾向にある。
低温での耐衝撃性等の低温特性の観点から、ブロック共重合体のガラス転移温度は、より好ましくは-20℃以下、更に好ましくは-25℃以下、より更に好ましくは-30℃以下、より更に好ましくは-35℃以下である。
ブロック共重合体のガラス転移温度の下限値は低い方が好ましいが、例えば、-75℃以上であってもよく、-70℃以上であってもよく、-65℃以上であってもよい。
ブロック共重合体のガラス転移温度は、示差走査熱量測定によって求めることができ、具体的には実施例に記載の方法により測定できる。
【0033】
<ブロック共重合体の製造方法>
ブロック共重合体の製造方法は、公知の製造方法を採用することができる。
ブロック共重合体の公知の製造方法は、例えば、ポリエステル単位(b)を構成するポリエステルを合成し、当該ポリエステルとラクチドとを重合反応させる方法であってもよい。
上記ポリエステルは、公知の方法で合成することができる。例えば、脂肪族ジオール(b1)と脂肪族ジカルボン酸(b2)とを、エステル化触媒(例えば、オクチル酸スズ、塩化スズ、酸化スズ)を用いて反応させ、ポリエステルを合成することができる。
ポリエステルとラクチドとを重合反応させる際、開環重合触媒(例えば、オクチル酸スズ、塩化スズ、酸化スズ)を用いることが好ましい。重合反応は、溶液重合、溶融重合、界面重縮合等が挙げられ、いずれも公知の重合反応条件を設定することができる。
【0034】
ブロック共重合体の別の公知の製造方法としては、例えば、ポリ乳酸単位(a)を構成するポリ乳酸と、ポリエステル単位(b)を構成するポリエステルとを、それぞれ合成し、当該ポリ乳酸と当該ポリエステルとを反応させる方法であってもよい。
ポリ乳酸は、公知の方法で合成することができる。例えば、乳酸を直接縮合法により反応させてポリ乳酸を合成してもよく、ラクチドを開環重合法より反応させてポリ乳酸を合成してもよい。
ポリ乳酸とポリエステルとを重合反応させる際、エステル化触媒(例えば、オクチル酸スズ、塩化スズ、酸化スズ)を用いることが好ましい。重合反応は、溶液重合、溶融重合、界面重縮合等が挙げられ、いずれも公知の重合反応条件を設定することができる。
【0035】
<その他の成分>
また、前記シーラント材は、本発明の効果が奏される範囲内で、必要に応じて、前記ブロック共重合体以外の成分(以下、「その他の成分」ともいう。)を含んでもよく、又は、含まなくてもよい。
その他の成分としては、例えば、前記ブロック共重合体以外の重合体(以下、「その他の重合体」ともいう。);染料、顔料などの着色剤;紫外線吸収剤などの安定剤;帯電防止剤;難燃剤;難燃補助剤;潤滑剤;可塑剤;無機充填剤;無機層状化合物;有機化処理された無機層状化合物;等が挙げられる。
前記その他の重合体としては、本発明の効果を損なわない範囲において特に限定されないが、例えば、ポリ乳酸;ポリ乳酸単位とポリエステル単位を有する共重合体であるが、前記の要件を満たさない共重合体;ポリビニルアルコール;でんぷん;等の生分解性樹脂が挙げられる。
また、後述するように、本発明の一態様であるシーラント材を、溶媒中に溶解させてコーティング液として用いる場合、ハロゲン系溶媒を用いずに溶解できることが好ましく、その他の重合体を含む場合、その他の重合体も、ハロゲン系溶媒を用いずに溶解できることが好ましい。
【0036】
また、その他の成分は、後述するシーラントとして用いる際に、前記ブロック共重合体に配合してもよく、又は、予め配合した状態でシーラントとして用いてもよい。前記ブロック共重合体にその他の成分を配合する方法は、本発明の効果が奏される範囲内で、特に制限はなく、例えば、前記ブロック共重合体とその他の成分とを各種ミキサーや各種ブレンダー等を用いて予め混合してから、各種押出機、各種ミキサー、加熱ロール、各種ニーダー等を用いて溶融混練する方法等、公知の方法を用いて配合することができる。
【0037】
また、例えば、良好な生分解性とより良好なシール強度とを両立し易くする観点から、前記シーラント材中、前記ブロック共重合体の含有量は、シーラント材全量100質量%中、好ましくは50質量%以上、より好ましくは55質量%以上、更に好ましくは60質量%以上である。また、前記シーラント材の一態様として、例えば、前記シーラント材中、前記ブロック共重合体の含有量は、シーラント材全量100質量%中、85質量%以上であってもよく、90質量%以上であってもよく、95質量%以上であってもよい。また、シーラント材に含まれる前記ブロック共重合体の含有量の上限に制限は無く、例えば、シーラント材全量100質量%中、100質量%以下である。
【0038】
前記シーラント材は、その使用方法について、特に制限はないが、例えば、ペレット状のまま加熱溶融して用いてもよく、また、例えば、前記シーラント材をフィルム状又はシート状に成形してシーラントフィルムとして用いてもよい。
一般的に、シーラントフィルムは、食品、飲料、薬品、化粧品、医療器具等の包装材料等において、広く使用されている。例えば、シーラントフィルムは、シール層として包装材の最内層等に配置され、シール層の表面同士が互いに接触した状態にてヒートシールされることによって、包装体を密封することができる。包装材料についても、環境保護の観点から、生分解性を有する材料へのニーズが高まっており、本発明の一態様である前記シーラント材は良好な生分解性を有するため、シーラントフィルムに好適である。
前記シーラントフィルムは単層フィルムであってもよく、又は、シーラントフィルムを隣接して2層以上含む多層フィルムであってもよい。
前記シーラントフィルムが多層フィルムの場合、本発明の一態様である前記シーラント材から形成される層を少なくとも1層以上有し、また、各層は、互いに同一であっても異なっていてもよく、良好な生分解を得る観点からは、各層が本発明の一態様である前記シーラント材から形成される層であることが好ましい。
また、前述のとおり、シーラントフィルムは、例えば、シール性能を主目的としていない基材等の層と、シール層とを有する積層体中の前記シール層の1層以上として用いてもよい。例えば、前記シーラントフィルムは、本発明の一態様である下記積層体中のシール層として用いられることが好ましい。
【0039】
[積層体]
本発明の一態様である積層体としては、少なくとも、前記シーラント材を含むシール層と基材とを含む。
【0040】
<シール層>
前記シール層は、前述の本発明の一態様であるシーラント材を含む。
前記シール層が含むシーラント材が含む各成分については、前記シーラント材の欄で説明したとおりであり、その好適な態様も同様である。
また、前述のとおり、前記シール層が、前記シーラント材中における前記ブロック共重合体以外のその他の成分を含む場合、当該その他の成分は、予め、シーラント材として前記ブロック共重合体と配合されていてもよく、又は、シール層を形成するタイミングでその他の成分の一部又は全部が配合されていてもよい。いずれの場合であっても、最終的に得られるシール層中に、前記シーラント材の構成を満たす成分が含まれている場合、当該シール層は、前記シーラント材を含む層である。
【0041】
シール層により良好な生分解性を付与する観点から、前記シール層中、前記シーラント材の含有量は、シール層全量100質量%中、好ましくは80質量%以上、より好ましくは85質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、より更に好ましくは95質量%以上、より更に好ましくは98質量%以上である。また、シール層に含まれる前記シーラント材の含有量の上限に制限は無く、例えば、シーラント材全量100質量%中、100質量%以下である。
また、前記シーラント材の含有量は、シール層全量100質量%中、100質量%であってもよい。すなわち、前記シール層は、前記シーラント材のみから形成される層であってもよい。
【0042】
前記シール層は単層であってもよく、又は、シール層を隣接して2層以上含む多層構造であってもよい。
また、前記積層体は、2層以上含んでいてもよく、例えば、前記基材の両面に、直接又はその他の層を介して前記シール層を有してもよい。
前記積層体が、前記シール層を2層以上含む場合、本発明の一態様である前記シーラント材から形成されるシール層を少なくとも1層以上有し、また、各層は、互いに同一であっても異なっていてもよく、前記積層体として良好な生分解を得る観点からは、全ての層が本発明の一態様である前記シーラント材から形成されるシール層であることが好ましい。
【0043】
前記シール層の厚さは、本発明の効果を損なわない範囲において特に限定されないが、シール層及び積層体のシール強度と経済性の観点から、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上、更に好ましくは3μm以上であり、そして、好ましくは100μm以下、より好ましくは80μm以下、更に好ましくは60μm以下である。
当該シール層の厚さは、シール層単層の厚さである。
【0044】
<基材>
前記基材としては、例えば、紙、合成紙又は樹脂フィルムが挙げられ、好ましくは紙、又は樹脂フィルム、より好ましくは紙である。紙は、再生可能資源でもあり、基材層についても生分解性を有し易くする観点、及び、環境保護の観点からも好ましい。
前記紙としては、積層体の用途によって、適宜、選択可能であるが、例えば、上質紙、クラフト紙、グラシン紙、パーチメント紙、レーヨン紙、グラビア紙、アート紙、コート紙、再生紙等が挙げられる。
前記樹脂フィルムとしては、各種ポリオレフィン系樹脂、各種ポリエステル系樹脂から形成される樹脂フィルムなど、積層体の用途によって、適宜、選択可能であるが、例えば、基材層も生分解性を有し易くする観点から、ポリ乳酸系樹脂、ポリブチレンサクシネート系樹脂等の生分解性樹脂から形成される樹脂フィルム等が好適例として挙げられる。
【0045】
前記基材は単層であってもよく、又は、多層であってもよい。
前記基材が多層の場合、各層は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
前記基材の厚さは、特に限定されず、得られる積層体の用途により、適宜、設定することができる。前記基材の一態様として、紙を用いる場合、例えば、5μm以上、3mm以下の範囲であってもよいが、前述のとおり、得られる積層体の用途により、適宜、設定することができるため、特に限定されるものではない。
【0046】
<その他の層>
前記積層体は、前記シール層及び基材以外のその他の層(以下、「その他の層」ともいう。)を1層以上有していてもよく、又は、有していなくてもよい。
前記積層体が、その他の層を有する場合、その他の層は、例えば、前記シール層と前記基材との間に有してもよく、又は、前記基材の前記シール層が設けられた面とは反対側の面上に有してもよい。
前記その他の層としては、例えば、バリア層;各層間の接着性を向上させるための接着層;印刷層;リサイクル層;等が挙げられる。
【0047】
前記バリア層とは、主に酸素等の気体を透過させにくくする事を目的として設けられる層であり、好ましくは前記シール層と前記基材層との間に設けられることが好ましい。
したがって、前記積層体の一態様として、基材、バリア層、及びシール層をこの順で有する積層体が好ましく、基材、バリア層、及びシール層をこの順で直接積層された積層体がより好ましい。前記「直接積層」とは、各層間に他の層を介さず、各層が直接に積層されていることを意味する。
また、前記バリア層を形成する材料としては、例えば、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール樹脂等のポリビニルアルコール系樹脂;ポリ塩化ビニリデン樹脂等が挙げられる。生分解性の観点からは、好ましくはポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール樹脂等のポリビニルアルコール系樹脂を用いることができる。
【0048】
前記その他の層の厚さは、特に限定されず、その他の層を設ける目的に応じて、適宜、設定することができる。
一例として、前述の基材、バリア層、及びシール層をこの順で有する積層体において、前記バリア層の厚さは、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上、更に好ましくは3μm以上であり、そして、好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下、更に好ましくは20μm以下である。
また、前記積層体の総厚は、本発明の効果を損なわない範囲において特に限定されず、積層体の用途等により、適宜、設定することができる。
【0049】
また、前記積層体のシール層の露出面には、例えば、シール層の表面を保護する目的、保管及び輸送時の他の層へのシール層の融着等を防止する等の目的から、剥離紙若しくは剥離フィルム等の剥離材、又は、紙若しくは保護フィルム等の保護層を設けてもよい。これらの剥離材又は保護層は、積層体を使用する際にシール層の露出面から剥離される。
前記積層体の基材層の露出面、又は、基材層表面に設けられたその他の層の露出面上にも、同様に、剥離材又は保護層を設けてもよい。
【0050】
[積層体のシール強度]
前記積層体は、前記シール層の露出面同士が互いに接触した状態にてヒートシールして、接着させた場合のシール強度が、好ましくは2.0N/15mm以上、より好ましくは4.0N/15mm以上、更に好ましくは6.0N/15mm以上、より更に好ましくは6.5N/15mm以上、より更に好ましくは7.0N/15mm以上、より更に好ましくは7.5N/15mm以上、より更に好ましくは8.0N/15mm以上、より更に好ましくは8.5N/15mm以上である。
前記積層体のシール強度は、具体的には実施例に記載の方法により測定できる。
【0051】
[積層体の製造方法]
前記積層体の製造方法は、前記積層体が得られる限り特に限定されないが、例えば、前記基材の少なくとも一方の面側に、前記シール層を積層することにより製造することができる。
前記基材のシール層を積層する面には、例えば、前述したバリア層等のその他の層が積層されていてもよい。その場合、当該基材上に積層されたその他の層の露出面上に前記シール層を積層することにより、前記積層体を製造することができる。
したがって、以下の説明において、「前記基材の少なくとも一方の面側」とは、前記基材の少なくとも一方の露出面上である場合と、前記基材の少なくとも一方の面側に積層されたその他の層の露出面上である場合の両方を含む。
【0052】
ここで、前記基材の少なくとも一方の面側に、前記シール層を積層する方法としては、例えば、(i)前記シーラント材を有機溶媒及び水から選ばれる少なくとも1種を含む媒体に溶解又は分散させたコーティング液として前記基材の少なくとも一方の面側に塗工して塗布膜を形成し、当該塗布膜を乾燥してシール層を形成して積層する方法;(ii)前記基材の少なくとも一方の面側に、前記シーラント材を溶融押出してシール層を形成して積層する方法;又は、(iii)前記基材の少なくとも一方の面側に、予め作製したシーラントフィルムをシール層として貼り合わせて積層する方法;等が挙げられる。
例えば、積層体の製造時に、比較的低温での製造が可能となる観点等から、これらの中でも、(i)の方法が好ましい。
【0053】
前記シーラント材が含む前記ブロック共重合体は、分子構造中に塩素原子等のハロゲン原子を含有しない非ハロゲン系の有機溶媒を用いて溶解させることもできるため、前記(i)の方法で有機溶媒を用いる場合は、環境負荷低減、生体への安全性向上等の観点から、前記シーラント材の溶解に用いる有機溶媒としては、非ハロゲン系の有機溶媒を用いることが好ましい。
ここで、前記シーラント材を含むコーティング液は本発明の一実施形態として挙げられる。そして、コーティング液が有機溶媒を含む場合、ハロゲン系の有機溶媒の含有量は、用いる有機溶媒の全量100質量%中、例えば、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下、より更に好ましくは実質的にハロゲン系の有機溶媒を含まないコーティング液は本発明の好適な一実施形態として挙げられる。
ここで、「実質的にハロゲン系の有機溶媒を含まない」とは、分子構造中に塩素原子等のハロゲン原子を含む有機溶媒の含有量が、用いる有機溶媒の全量100質量%中、例えば、好ましくは5質量%以下、より好ましくは1質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下であることをいう。また、ハロゲン系の有機溶媒を全く含まないことがより更に好ましい。
前記非ハロゲン系の有機溶媒としては、ハロゲン原子を含有せず、前記ブロック共重合体を溶解できるものであれば、特に制限はないが、例えば、トルエン、テトラヒドロフラン等が挙げられる。これらの中では、トルエンが好適例として挙げられる。
【0054】
また、本発明の一実施形態として、前記シーラント材を含むコーティング液は、前記シーラント材と水とを含むことが好ましく、水性コーティングであることが好ましい。ここで、「水性コーティング」とは、前記コーティング液中、シーラント材を溶解又は分散させるために用いる媒体の全量100質量%中、水の含有量が、好ましくは50質量%以上、より好ましくは75質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、より更に好ましくは95質量%以上、より更に好ましくは98質量%以上であることをいう。また、前記水の上限に制限は無く、例えば、シーラント材を溶解又は分散させるために用いる媒体の全量100質量%中、100質量%以下である。
【0055】
前記コーティング液中、前記シーラント材の含有量は、コーティング液を塗工できる限り、特に制限はないが、例えば、塗工性及び乾燥のし易さ等の観点から、コーティング液の全量100質量%中、好ましくは5質量%以上、好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは80質量%以下、好ましくは60質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。
【0056】
前記コーティング液の塗工方法としては、コーティング液を塗工できる限り、特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。例えば、バーコート法、スプレーコート法、ロールコート法、スピンコート法、グラビアコート法、ダイコート法、ナイフコート法、ロールナイフコート法、ブレードコート法といった公知のコート法が挙げられる。
【0057】
また、前記塗布膜の乾燥方法としては、前記有機溶媒を揮発又は蒸発させることで、前記シール層を形成できる限り、特に制限はなく、公知の乾燥方法を用いることができる。例えば、オーブン等の乾燥機器を用いてもよく、又は、室温条件下でも揮発する有機溶媒を用いる場合、乾燥機等を用いずに自然乾燥させてもよい。
【0058】
また、前記(ii)の方法を用いる場合、前記シーラント材を溶融押出する方法としては、例えば、押出機等を用いて溶融させたシーラント材を、Tダイ等のダイから、前記基材の少なくとも一方の面側に、押し出して、直接、シール層を形成する方法等が挙げられる。前記シーラント材を溶融する際の温度は、前記ブロック共重合体の融点より高い温度に設定すればよく、押出機の運転圧や溶融物の押出量等を考慮して、適宜、設定することができる。また、溶融して押出されたシーランド材に対して、積極的に冷却処理を行って固化させてシール層を形成してもよく、又は、自然冷却によって、シール層を形成してもよい。
【0059】
また、前記(iii)の方法を用いる場合、例えば、前記シーラント材を、前記(i)で説明したコーティング液を剥離材上に塗布、乾燥させて、シーラントフィルムを形成した後、又は前記(ii)の方法で説明した溶融押出によって、剥離材上にシーラントフィルムを形成した後に、剥離材上のシーラントフィルムを、前記基材の少なくとも一方の面側にシール層として貼り合わせる方法等が挙げられる。シーラントフィルムを貼合する際には、必要に応じて、ラミネーター等を用いて積層してもよい。
【実施例0060】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0061】
実施例及び比較例におけるブロック共重合体及びポリ乳酸の物性は、次の方法により測定又は評価した。
(1)数平均分子量(Mn)
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって、ブロック共重合体及びポリ乳酸の数平均分子量(Mn)を標準ポリスチレン換算で求めた。また、ブロック構造単位(B)のMnは、ブロック共重合体のMnと、ブロック構造単位(B)の質量含有率から求めた。
〈GPCの測定条件〉
装置:東ソー株式会社製 GPC装置「HLC-8220」
分離カラム:東ソー株式会社製 「TSKgel SuperMultiporeHZ-M(カラム径=4.6mm、カラム長=15cm)」(2本を直列に繋いで使用)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
溶離液流量:0.35mL/分
カラム温度:40℃
検出方法:示差屈折率(RI)
注入量:10μL
濃度:1mg/1mL((ブロック共重合体又はポリ乳酸)/THF)
【0062】
(2)ハード比率(質量%)(ポリ乳酸単位(a)を主単位とするブロック構造単位(A)の質量含有率)
H-NMRによってブロック共重合体のハード比率を算出した。得られたスペクトルのポリ乳酸単位(a)に由来する5.2ppm付近のシグナルとポリエステル単位(b)を主単位とする構造単位(B)に由来するシグナル(例えば、実施例1~3及び5の場合、3-メチル-1,5-ペンタンジオールに由来するメチル基に由来する0.9ppm付近のシグナル)との面積比から、ブロック構造単位(A)とブロック構造単位(B)のモル比を算出した。当該モル比にブロック構造単位の分子量を乗ずることで質量比とし、その質量比の合計が100になるように調整した際のブロック構造単位(A)の質量比をハード比率とした。
H-NMRの測定条件〉
装置:日本電子株式会社製 核磁気共鳴装置「JNM-ECX400」
溶媒:重クロロホルム
測定温度:50℃
積算回数:1024回
【0063】
(3)融点(℃)
ブロック共重合体の融点を、JIS K7121:2012に記載の方法で、示差走査熱量計により測定した。ピークが複数観測された場合は、最も高温側のピークに由来する方の融点をブロック共重合体の融点とした。
装置:メトラー・トレド株式会社製 示差走査熱量分析装置「DSC822」
測定条件:昇温速度10℃/min
【0064】
(4)ガラス転移温度(℃)
ブロック共重合体のガラス転移温度を、JIS K7121:2012に記載の方法で、示差走査熱量計により測定した。
装置:メトラー・トレド株式会社製 示差走査熱量分析装置「DSC822」
測定条件:昇温速度10℃/min
【0065】
(5)シール強度
基材である「ОKプリンス紙(上質紙)」(王子製紙株式会社製)上に、株式会社クラレ製「エクセバール(登録商標)RS-2117」(株式会社クラレ製)/「クラレポバール(登録商標)22-88」の重量比50/50の5%水溶液を乾燥後の塗工量が7g/mとなるように塗工した後、1日間、室温(25℃)の条件で風乾してバリア層を形成した。その後、形成したバリア層上に、各実施例又は比較例で重合した重合体を溶媒に溶解させたポリマー溶液(コーティング液)を乾燥後の塗工量が6g/mとなるように塗工した後、3日間、室温(25℃)、相対湿度65%RHの条件で養生し乾燥させて、シール層を形成し、基材層/バリア層/シール層から構成される積層体としてシール強度測定サンプルを得た。得られたサンプルのシール面同士を120℃、0.3MPa、5秒間の条件でヒートシールし、JIS Z1707:2019に準じた方法に従ってシール強度を測定した。
【0066】
(6)生分解性(コンポスト)
ISО 14855-2:2018に準じた方法に従ってコンポスト中での生分解性を測定した。15日経過時における分解率が20質量%以上であれば「A」、10質量%以上20質量%未満であれば「B」、5質量%以上10質量%未満であれば「C」、5質量%未満であれば「F」と評価した。
【0067】
(7)生分解性(活性汚泥)
ISО 14851:2019に準じた方法に従って活性汚泥中での生分解性を測定した。90日経過時における分解率が5質量%以上であれば「A」、5質量%未満であれば「F」と評価した。
【0068】
実施例及び比較例におけるシーラント材であるブロック共重合体又は重合体は、次の方法により製造した。各重合体の合成に使用した化合物は以下のとおりである。
3-メチル-1,5-ペンタンジオール(株式会社クラレ製)
2-メチル-1,3-プロパンジオール(東京化成工業株式会社製)
2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール(東京化成工業株式会社製)
1,4-ブタンジオール(東京化成工業株式会社製)
アジピン酸(東京化成工業株式会社製)
コハク酸(東京化成工業株式会社製)
L-ラクチド(東京化成工業株式会社製)
オクチル酸スズ(東京化成工業株式会社製)
トルエン(キシダ化学株式会社製)
メタノール(富士フイルム和光純薬株式会社製)
塩化メチレン(富士フイルム和光純薬株式会社製)
【0069】
[実施例1]
発生する液体を留去できる器具及び真空ポンプを備えたフラスコに、3-メチル-1,5-ペンタンジオールとアジピン酸をモル比で、3-メチル-1,5-ペンタンジオール/アジピン酸=1.1/1となるように仕込み、さらにオクチル酸スズを3-メチル-1,5-ペンタンジオールとアジピン酸の合計重量に対して0.1質量%となるように加え、窒素雰囲気下、常圧、160℃で3時間加熱し、更に、220℃で3時間加熱して水を留去させながら反応を行った。次に2,000Paに減圧し3時間反応させた後、80Paまで減圧して数平均分子量が6,000になるまで適宜確認しながら反応させることで、ポリエステル単位(b)を主単位とする構造単位(B’)からなるポリマーを合成した。反応終了後、常圧に戻し、温度を80℃まで冷却した後、トルエンを加え固形分濃度を40質量%に希釈してから溶液全量の2倍量のメタノール中に上述のトルエン溶液を投入した。上澄み液を捨て、投入したトルエン溶液の量と同量のメタノールを再び加え洗浄した。上澄み液を捨て、回収した不溶分を、真空乾燥機を用いて温度40℃の条件で乾燥することにより有機揮発分を除去し、ポリエステル単位(b)を主単位とする構造単位(B’)からなるポリマーを得た。
精製した構造単位(B’)からなるポリマーに再度トルエンを加えて、構造単位(B’)からなるポリマーのトルエン溶液の固形分濃度が33質量%になるように希釈してから、その温度を140℃まで上げることで加えたトルエンの重量の10質量%分を留去して系内の脱水を行った。
その後、構造単位(B’)からなるポリマーのトルエン溶液を80℃に冷却して、構造単位(B’)からなるポリマーとL-ラクチドを質量比で、構造単位(B’)からなるポリマー/L-ラクチド=50/50となるように構造単位(B’)からなるポリマーのトルエン溶液に対してL-ラクチドを加え、さらに前述の留去した重量分のトルエンを加えて、構造単位(B’)からなるポリマー及びL-ラクチドのトルエン溶液の固形分濃度が50質量%になるように調整した。その後、前記溶液の温度を100℃まで昇温したところでオクチル酸スズを構造単位(B’)からなるポリマーに対して0.1質量%加え、100℃で、4時間反応させることでポリ乳酸単位(a)を主単位とするブロック構造単位(A)及びポリエステル単位(b)を主単位とするブロック構造単位(B)からなるブロック共重合体を合成し、当該ブロック共重合体のトルエン溶液を得た。なお、前記ブロック構造単位(B)の構造は、構造単位(B’)と同じである。
この溶液に、更にトルエンを加えて固形分濃度を40質量%に希釈してから、溶液全量の2倍量のメタノール中に上述の固形分濃度40質量%のトルエン溶液を投入して固体を析出させた。上澄みのメタノールを捨て、投入したトルエン溶液の量と同量のメタノールを再び加え洗浄した。メタノールを捨て、回収した固体を真空乾燥機で40℃の条件で、乾燥することで有機揮発分を除去し、ポリ乳酸単位(a)を主単位とするブロック構造単位(A)と、ポリエステル単位(b)を主単位とするブロック構造単位(B)からなるブロック共重合体を得た。
得られたブロック共重合体について、前述の各測定及び評価を行った。結果を下記表1に示す。
なお、前述のシール強度測定サンプルの作製時には、室温(25℃)の条件で、トルエン中、前記ブロック共重合体の含有量が20質量%の濃度となるように溶解させ、前述のブロック共重合体のポリマー溶液として用いた。
【0070】
[実施例2及び3]
それぞれ、ポリエステル単位(b)を主単位とする構造単位(B’)からなるポリマーの合成時の反応時間を調整することで数平均分子量を調整したこと、及び、使用したL-ラクチドの質量比を変更したこと以外は実施例1と同様にして、ポリ乳酸単位(a)を主単位とするブロック構造単位(A)と、ポリエステル単位(b)を主単位とするブロック構造単位(B)からなる各ブロック共重合体を合成した。
得られた各ブロック共重合体について、前述の各測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0071】
[実施例4]
3-メチル-1,5-ペンタンジオールの代わりに2-メチル-1,3-プロパンジオールを使用したこと、及び、ポリエステル単位(b)を主単位とする構造単位(B’)からなるポリマーの合成時の反応時間を調整することで数平均分子量を調整したこと以外は実施例1と同様にして、ポリ乳酸単位(a)を主単位とするブロック構造単位(A)と、ポリエステル単位(b)を主単位とするブロック構造単位(B)からなるブロック共重合体を合成した。
得られたブロック共重合体について、前述の各測定及び評価を行った。結果を下記表1に示す。
【0072】
[実施例5]
アジピン酸の代わりにコハク酸を使用したこと、及び、ポリエステル単位(b)を主単位とする構造単位(B’)からなるポリマーの合成時の反応時間を調整することで数平均分子量を調整したこと以外は実施例1と同様にして、ポリ乳酸単位(a)を主単位とするブロック構造単位(A)と、ポリエステル単位(b)を主単位とするブロック構造単位(B)からなるブロック共重合体を合成した。
得られたブロック共重合体について、前述の各測定及び評価を行った。結果を下記表1に示す。
【0073】
[実施例6]
3-メチル-1,5-ペンタンジオールの代わりに2、4-ジエチル-1,5-ペンタンジオールを使用したこと、及び、ポリエステル単位(b)を主単位とする構造単位(B’)からなるポリマーの合成時の反応時間を調整することで数平均分子量を調整したこと以外は実施例1と同様にして、ポリ乳酸単位(a)を主単位とするブロック構造単位(A)と、ポリエステル単位(b)を主単位とするブロック構造単位(B)とからなるブロック共重合体を合成した。
得られたブロック共重合体について、前述の測定及び評価を行った。結果を下記表1に示す。
【0074】
[比較例1]
200℃の条件で、L-ラクチドに対しオクチル酸スズを0.1質量%加え、数平均分子量が40,000になるまで反応させ、ポリ乳酸を得た。
得られたポリ乳酸について前述の各測定及び評価を行った。結果を下記表2に示す。
なお、得られたポリ乳酸は、シール強度測定用のサンプル作製時に、室温(25℃)では、トルエンに20質量%の固形分濃度では溶解しなかったため、ハロゲン系溶媒である塩化メチレンを使用して室温(25℃)で20質量%の固形分濃度で溶解させて、前述のポリマー溶液として用いた。当該ポリ乳酸は、実施例のブロック共重合体と比較して、生分解性に劣り、また、シール強度も低い結果となった。これは、当該ポリ乳酸が、前記構造単位(B)を有していないためと考えられる。
【0075】
[比較例2]
3-メチル-1,5-ペンタンジオールの代わりに1,4‐ブタンジオールを使用したこと、アジピン酸の代わりにコハク酸を使用したこと、及び、ポリエステル単位を主単位とする構造単位(B’)からなるポリマーの合成時の反応時間を調整することで数平均分子量を調整したこと以外は実施例1と同様にして、ポリエステル単位を主単位とするブロック構造単位(B”)を合成した。200℃の条件で、L-ラクチドを構造単位(B”)からなるポリマーとL-ラクチドを質量比で、L-ラクチドを構造単位(B”)からなるポリマー/L-ラクチド=50/50となるように加え、構造単位(B”)からなるポリマーに対しオクチル酸スズを0.1質量%加えて、反応させた。数平均分子量が40,000になるまで随時L-ラクチドを追加しながら反応させることで、ポリ乳酸単位(a)を主単位とするブロック構造単位(A)と、ポリエステル単位を主単位とするブロック構造単位とからなるブロック共重合体を得た。
比較例1と同様にしてシール強度測定用のサンプルを作製したこと以外は、実施例1と同様にして前述の各測定及び評価を行った。結果を下記表2に示す。比較例2で得られたブロック共重合体は、実施例のブロック共重合体と比較して、生分解性に劣り、シール強度も低い結果となった。これは、原料として使用した1,4-ブタンジオールがアルキル基を分岐鎖として有しないためと考えられる。
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】
【0078】
表1及び表2中の略号が表す化合物は、次のとおりである。
PLLA:ポリL-乳酸
MPD:3-メチル-1,5-ペンタンジオール
MPDiol:2-メチル-1,3-プロパンジオール
DEPD:2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール
BD:1,4-ブタンジオール
AA:アジピン酸
SA:コハク酸
【0079】
表1及び表2の結果から、ポリ乳酸単位(a)を主単位として含むブロック構造単位(A)とポリエステル単位(b)を主単位として含むブロック構造単位(B)とを含み、かつ、融点が110℃以上185℃以下であるブロック共重合体を含むシーラント材であり、前記ポリエステル単位(b)が、脂肪族ジオール(b1)と脂肪族ジカルボン酸(b2)に由来する単位を含有し、前記脂肪族ジオール(b1)がアルキル基を分岐鎖として有するジオールである、各実施例のシーラント材は、コンポスト及び活性汚泥を用いたいずれの場合でも、生分解性が優れていることが確認された。更に、表1に示されるこれら実施例のシーラント材は、シール層の材料として用いることで、表2に示される比較例のシーラント材と比べて、より優れたシール強度が得られることも確認された。
【0080】
比較例1は、各実施例と比較して、生分解性が劣り、特に、活性汚泥中では生分解が進行し難いことが確認された。更に、比較例1は、各実施例と比較して、シール強度も低いことが確認され、また、シール層を形成する際のポリマー溶液を調製するために、ハロゲン系溶媒を使用する必要があった。これらの結果は、比較例1で用いたポリマーの構造中に前記ブロック構造単位(B)を有していないためと考えられる。
また、比較例2は、各実施例と比較して、生分解性が劣ることが確認された。更に、比較例2は、各実施例と比較して、シール強度も低いことが確認され、また、シール層を形成する際のポリマー溶液を調製するために、ハロゲン系溶媒を使用する必要があった。これらの結果は、比較例2で用いたポリマー中のブロック構造単位(B)がアルキル基を分岐鎖として有するジオールに由来する単位を含有していないためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
実施例結果でも示されるように、本発明の一態様であるシーラント材は良好な生分解性を有する。また、本発明の一態様であるシーラント材は、良好なシール強度も有する。また、本発明の一態様であるシーラント材が含む前記ブロック共重合体の融点が所定の範囲にあるため、シーラント材の用途によっては、耐熱性とハンドリング性の両立が期待できる。さらに、本発明の好適な一態様であるシーラント材として、前記ブロック共重合体のガラス転移温度は低いことが好ましく、この場合、シーラント材の用途によっては低温特性も期待できる。したがって、本発明の一態様であるシーラント材、前記シーラント材の含むシール層、及び、前記シール層を含む積層体は、工業的な有用性が極めて高い。