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特開2024-21585シリカ-リン酸カルシウム複合ブロック体、及びシリカ-リン酸カルシウム複合ブロック体の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021585
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】シリカ-リン酸カルシウム複合ブロック体、及びシリカ-リン酸カルシウム複合ブロック体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/02 20060101AFI20240208BHJP
   A61L 27/12 20060101ALI20240208BHJP
   A61L 27/04 20060101ALI20240208BHJP
   A61L 27/00 20060101ALI20240208BHJP
   A61L 27/42 20060101ALI20240208BHJP
   C01B 25/32 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
A61L27/02
A61L27/12
A61L27/04
A61L27/00
A61L27/42
C01B25/32 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022124512
(22)【出願日】2022-08-04
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「橋渡し研究戦略的推進プログラム(慶應義塾大学拠点)」「骨活性ハイドロゲルー骨ミネラル融合骨補填材」委託研究開発、産業技術力産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】599035627
【氏名又は名称】学校法人加計学園
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 悠紀
(72)【発明者】
【氏名】小野 文子
(72)【発明者】
【氏名】野原 正勝
(72)【発明者】
【氏名】久楽 賢治
(72)【発明者】
【氏名】神田 鉄平
(72)【発明者】
【氏名】大和田 一雄
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AB01
4C081AB02
4C081BB08
4C081CE11
4C081CF011
4C081CF131
4C081CG07
4C081DA01
4C081DB03
4C081EA01
4C081EA11
(57)【要約】
【課題】高強度かつ水中で崩壊せず、更に優れた骨産生能を示すシリカ-リン酸カルシウム複合ブロック体を提供する。
【解決手段】無機成分の化学的な結合、又は無機成分の結晶同士の絡み合い若しくは融合により硬化している複合ブロック体であって、ケイ酸を結晶構造中に含有するリン酸カルシウムを含み、体積が2.0mm以上であり、かつ、DTS強度が0.1MPa以上であることを特徴とするシリカ-リン酸カルシウム複合ブロック体。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機成分の化学的な結合、又は無機成分の結晶同士の絡み合い若しくは融合により硬化している複合ブロック体であって、
ケイ酸を結晶構造中に含有するリン酸カルシウムを含み、体積が2.0mm以上であり、かつ、DTS強度が0.1MPa以上であることを特徴とするシリカ-リン酸カルシウム複合ブロック体。
【請求項2】
前記リン酸カルシウムがリン酸八カルシウムを含むことを特徴とする、請求項1に記載の複合ブロック体。
【請求項3】
前記リン酸八カルシウムの含水層をケイ酸が置換していることを特徴とする、請求項2に記載の複合ブロック体。
【請求項4】
前記リン酸カルシウムが炭酸アパタイト又は水酸アパタイトを含むことを特徴とする、請求項1に記載の複合ブロック体。
【請求項5】
前記リン酸カルシウムがリン酸三カルシウムα相又はリン酸三カルシウムβ相を含むことを特徴とする、請求項1に記載の複合ブロック体。
【請求項6】
前記リン酸カルシウムが、更に銀、銅、ガリウム、ストロンチウム、マグネシウム、亜鉛、及びランタノイドからなる群から選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項1-5のいずれか一項に記載の複合ブロック体。
【請求項7】
前記リン酸カルシウムが、更にジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸、ポリカルボン酸及びその錯体、並びに、第四級アンモニウム塩からなる群から選択される少なくとも1種を含有することを特徴とする、請求項1-5のいずれか一項に記載の複合ブロック体。
【請求項8】
多孔体であることを特徴とする、請求項1-5のいずれか一項に記載の複合ブロック体。
【請求項9】
多孔体であることを特徴とする、請求項6に記載の複合ブロック体。
【請求項10】
多孔体であることを特徴とする、請求項7に記載の複合ブロック体。
【請求項11】
カルシウム及び/又はリン酸を含むセラミック(A)と、ケイ酸塩濃度が10質量%以上であり、更にカルシウム及びリン酸のうち、セラミック(A)が含まない組成を含む水溶液(B)とを、前記セラミック(A)に対する前記水溶液(B)の重量比(混水比)が、0.30以上6.00以下となるように混合して、ケイ酸含有リン酸カルシウムを含む混合泥を得る混合泥調製工程と、
前記混合泥を鋳型中で反応させる複合ブロック体調製工程と、
を含むことを特徴とする、ケイ酸含有リン酸カルシウムを含むシリカ-リン酸カルシウム複合ブロック体の製造方法。
【請求項12】
前記セラミック(A)がリン酸カルシウムであることを特徴とする、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記混合泥調製工程で得られる前記ケイ酸含有リン酸カルシウムが、ケイ酸含有リン酸八カルシウムを含むことを特徴とする、請求項11に記載の製造方法。
【請求項14】
請求項13に記載の製造方法で得られた複合ブロック体を、炭酸を含有する溶液に浸漬する工程を更に含み、前記ケイ酸含有リン酸八カルシウムを、ケイ酸含有炭酸アパタイト相に相転移させることを特徴とする、シリカ-リン酸カルシウム複合ブロック体の製造方法。
【請求項15】
請求項13に記載の製造方法で得られた複合ブロック体を、炭酸を含有しない溶液に浸漬する工程を更に含み、前記ケイ酸含有リン酸八カルシウムを、ケイ酸含有水酸アパタイト相に相転移させることを特徴とする、シリカ-リン酸カルシウム複合ブロック体の製造方法。
【請求項16】
前記混合泥調製工程において、更に銀、銅、ガリウム、ストロンチウム、マグネシウム、亜鉛、ランタノイド、第四級アンモニウム塩、並びに、ジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸、ポリカルボン酸及びその塩からなる群から選択される少なくとも1種を含む化合物を混合し、前記化合物を含有する混合泥を調製することを特徴とする、請求項11-15のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項17】
前記複合ブロック体が多孔体であることを特徴とする、請求項11-15のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項18】
前記複合ブロック体が多孔体であることを特徴とする、請求項16に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ-リン酸カルシウム複合ブロック体、及びシリカ-リン酸カルシウム複合ブロック体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リン酸八カルシウム(Ca(HPO(PO・5HO;OCP)は、優れた生体適合性を有し、生体に広く存在するカルシウムとリン酸塩からなるものである。そのため、未成熟骨の主成分だけでなく、新たなバイオマテリアルの中心となる魅力的な素材でもある。特に、その優れた骨置換能は骨補填材に有用である(例えば、非特許文献1)。
【0003】
骨の新陳代謝である骨リモデリングプロセスは、骨補填材の骨置換の割合を制御する。骨細胞と免疫細胞は骨リモデリングプロセスに必須的及び中心的な役割を果たす。これらの細胞を制御することで、骨リモデリングプロセスを促進し、骨形成を促進することができる(例えば、非特許文献2)。
【0004】
ケイ酸イオンは骨芽細胞の活性を増強することが知られ、骨生産量を増大することが知られている(非特許文献3、非特許文献4)。市販品としては、ORTHOREBIRTH株式会社からレボシス(英語名:ReBOSSIS)という綿形状の人工骨充填材が販売されている。本製品は、綿形状であること、β-TCP(β-リン酸三カルシウム)、生体吸収性ポリマー、骨形成を促進させるSiV(ケイ素含有炭酸カルシウム)を主成分としていることが特徴である。
【0005】
リン酸カルシウムや炭酸カルシウムにシリカを担持する場合、通常はシリカ源として有機シリカを使用する(非特許文献5)。しかし、有機シリカが加水分解して生成し、残存する有機分子は、製品化において大きな懸念材料である。
【0006】
一方で、無機シリカ源としてケイ酸塩を用いることで、シリカが担持されたリン酸カルシウム結晶を簡便に製造できることが知られている(特許文献1)。特許文献1では、カルシウム、リン酸の少なくとも1つを含むセラミックを、ケイ酸塩を含む水溶液中で加水分解することによって、シリカ担持リン酸カルシウム結晶を得ている。また、特許文献1で得られるシリカ担持リン酸カルシウム結晶は、常法により、粉末状組成物、ブロック材、又は多孔体の形態にすることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J. Biomed. Mater. Res., 59, 29-34 (2002)
【非特許文献2】BMC Med.,9, 66-75 (2011)
【非特許文献3】Acta Biomater., 5, 57-62 (2008)
【非特許文献4】Mater. Sci. Eng.: C, 42, 672-680 (2014)
【非特許文献5】J. Mater. Chem. B, 2, 1250 (2014)
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2022-080165号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、ケイ酸含有リン酸カルシウム結晶を粉末状組成物の形態で得た場合、組織内で粉末が散乱しやすく、更に散乱した粉末が炎症を起こしやすいという課題があった。更に、ケイ酸含有リン酸カルシウム結晶をブロック材又は多孔体の形態で得た場合、得られるブロック材又は多孔体は強度に改善の余地があり、更に組織中で崩壊して粉末状に変化しやすいという課題があった。
【0010】
本発明は上記課題を解決するものであり、高強度かつ水中で崩壊せず、更に優れた骨産生能を示すシリカ-リン酸カルシウム複合ブロック体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討した結果、カルシウム及び/又はリン酸を含むセラミック(A)と、ケイ酸塩を含み、更にカルシウム及びリン酸のうち、セラミック(A)が含まない組成を含む水溶液(B)とを、前記セラミック(A)に対する前記水溶液(B)の重量比(混水比)が、0.30以上6.00以下となるように混合して、ケイ酸含有リン酸カルシウムを含む混合泥を得て、混合泥を鋳型中で反応させることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は以下の[1]-[15]に関する。
[1]無機成分の化学的な結合、又は無機成分の結晶同士の絡み合い若しくは融合により硬化している複合ブロック体であって、
ケイ酸を結晶構造中に含有するリン酸カルシウムを含み、体積が2.0mm以上であり、かつ、DTS強度が0.1MPa以上であることを特徴とするシリカ-リン酸カルシウム複合ブロック体。
[2]前記リン酸カルシウムがリン酸八カルシウムを含むことを特徴とする、[1]に記載の複合ブロック体。
[3]前記リン酸八カルシウムの含水層をケイ酸が置換していることを特徴とする、[2]に記載の複合ブロック体。
[4]前記リン酸カルシウムが炭酸アパタイト又は水酸アパタイトを含むことを特徴とする、[1]-[3]のいずれかに記載の複合ブロック体。
[5]前記リン酸カルシウムがリン酸三カルシウムα相又はリン酸三カルシウムβ相を含むことを特徴とする、[1]-[4]のいずれかに記載の複合ブロック体。
[6]前記リン酸カルシウムが、更に銀、銅、ガリウム、ストロンチウム、マグネシウム、亜鉛、及びランタノイドからなる群から選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする、[1]-[5]のいずれかに記載の複合ブロック体。
[7]前記リン酸カルシウムが、更にジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸、ポリカルボン酸及びその錯体、並びに、第四級アンモニウム塩からなる群から選択される少なくとも1種を含有することを特徴とする、[1]-[6]のいずれかに記載の複合ブロック体。
[8]多孔体であることを特徴とする、[1]-[7]に記載の複合ブロック体。
[9]カルシウム及び/又はリン酸を含むセラミック(A)と、ケイ酸塩濃度が10質量%以上であり、更にカルシウム及びリン酸のうち、セラミック(A)が含まない組成を含む水溶液(B)とを、前記セラミック(A)に対する前記水溶液(B)の重量比(混水比)が、0.30以上6.00以下となるように混合して、ケイ酸含有リン酸カルシウムを含む混合泥を得る混合泥調製工程と、
前記混合泥を鋳型中で反応させる複合ブロック体調製工程と、
を含むことを特徴とする、ケイ酸含有リン酸カルシウムを含むシリカ-リン酸カルシウム複合ブロック体の製造方法。
[10]前記セラミック(A)がリン酸カルシウムであることを特徴とする、[9]に記載の製造方法。
[11]前記混合泥調製工程で得られる前記ケイ酸含有リン酸カルシウムが、ケイ酸含有リン酸八カルシウムを含むことを特徴とする、[9]又は[10]に記載の製造方法。
[12][9]-[11]のいずれかに記載の製造方法で得られた複合ブロック体を、炭酸を含有する溶液に浸漬する工程を更に含み、前記ケイ酸含有リン酸カルシウムを、ケイ酸含有炭酸アパタイト相に相転移させることを特徴とする、シリカ-リン酸カルシウム複合ブロック体の製造方法。
[13][9]-[11]のいずれかに記載の製造方法で得られた複合ブロック体を、炭酸を含有しない溶液に浸漬する工程を更に含み、前記ケイ酸含有リン酸カルシウムを、ケイ酸含有水酸アパタイト相に相転移させることを特徴とする、シリカ-リン酸カルシウム複合ブロック体の製造方法。
[14]前記混合泥調製工程において、更に銀、銅、ガリウム、ストロンチウム、マグネシウム、亜鉛、ランタノイド、第四級アンモニウム塩、並びに、ジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸、ポリカルボン酸及びその塩からなる群から選択される少なくとも1種を含む化合物を混合し、前記化合物を含有する混合泥を調製することを特徴とする、[9]-[13]のいずれかに記載の製造方法。
[15]前記複合ブロック体が多孔体であることを特徴とする、[9]-[14]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、高強度かつ水中で崩壊せず、更に優れた骨産生能を示すシリカ-リン酸カルシウム複合ブロック体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1で得られた複合ブロック体の写真である(図面代用写真)。
図2】実施例1で得られた複合ブロック体のXRD分析結果を示す図である。
図3】実施例1で得られた複合ブロック体のDTS強度の測定結果を示す図である。
図4】実施例1で得られた複合ブロック体のFT-IR分析結果を示す図である。
図5】実施例1で得られた複合ブロック体(濃度19質量%のケイ酸ナトリウム溶液使用)のSEM写真である(図面代用写真)。
図6】(A)シリカと複合化させていないOCPブロック体と、(B)骨置換型骨補填材である炭酸アパタイト(COAp)ブロック体と、(C)実施例1で得られた複合ブロック体(濃度19質量%のケイ酸ナトリウム溶液使用)の動物実験の結果を示すHE染色像である。
図7】実施例2で得られた複合ブロック体の写真である(図面代用写真)。
図8】実施例2で得られた複合ブロック体のDTS強度の測定結果を示す図である。
図9】実施例2で得られた複合ブロック体のXRD分析結果を示す図である。
図10】実施例2で得られた複合ブロック体のFT-IR分析結果を示す図である。
図11】実施例2で得られた複合ブロック体の炭酸含有量を示す図である。
図12】実施例2で得られた複合ブロック体のSEM写真である(図面代用写真)。
図13】実施例3で得られた複合ブロック体の写真である(図面代用写真)。
図14】実施例3で得られた複合ブロック体のXRD分析結果を示す図である。
図15】実施例3で得られた複合ブロック体の抗菌試験の結果を示す写真である(図面代用写真)。
図16】実施例4で得られた複合ブロック体の写真である(図面代用写真)。
図17】実施例4で得られた複合ブロック体のXRD分析結果を示す図である。
図18】実施例4で得られた複合ブロック体のFT-IR分析結果を示す図である。
図19】実施例4で得られた複合ブロック体の抗菌試験の結果を示す写真である(図面代用写真)。
図20】実施例5で得られた複合ブロック体の写真である(図面代用写真)。
図21】実施例5で得られた複合ブロック体のXRD分析結果を示す図である。
図22】実施例6で得られた複合ブロック体の写真である(図面代用写真)。
図23】実施例6で得られた複合ブロック体のXRD分析結果を示す図である。
図24】実施例6で得られた複合ブロック体のFT-IR分析結果を示す図である。
図25】実施例6で得られた複合ブロック体のSEM写真である(図面代用写真)。
図26】実施例7で得られた複合ブロック体の写真である(図面代用写真)。
図27】実施例7で得られた複合ブロック体のXRD分析結果を示す図である。
図28】実施例7で得られた複合ブロック体(チオリンゴ酸0.6g添加)のFT-IR分析結果を示す図である。
図29】実施例7で得られた複合ブロック体のSEM写真である(図面代用写真)。
図30】実施例8で得られた複合ブロック体の写真である(図面代用写真)。
図31】実施例8で得られた複合ブロック体のXRD分析結果を示す図である。
図32】実施例9で得られた複合ブロック体の写真である(図面代用写真)。
図33】実施例9で得られた複合ブロック体のDTS強度の測定結果を示す図である。
図34】実施例9で得られた複合ブロック体のXRD分析結果を示す図である。
図35】比較例1で得られたシリカ担持OCP粉末、ブロック体、及び水中への浸漬前後のブロック体の写真である(図面代用写真)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
数値範囲を表す「XX以上YY以下」や「XX~YY」の記載は、特に断りのない限り、端点である下限及び上限を含む数値範囲を意味する。数値範囲が段階的に記載されている場合、各数値範囲の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。
【0016】
[シリカ-リン酸カルシウム複合ブロック体]
本発明の一実施形態であるシリカ-リン酸カルシウム複合ブロック体(以下、単に「複合ブロック体」ともいう)は、無機成分の化学的な結合、又は無機成分の結晶同士の絡み合い若しくは融合により硬化している複合ブロック体であって、ケイ酸を結晶構造中に含有するリン酸カルシウムを含み、体積が2.0mm以上であり、かつ、DTS強度が0.1MPa以上である。また、後述するシリカ-リン酸カルシウム複合ブロック体の製造方法により、複合ブロック体を得ることが好ましい。
【0017】
複合ブロック体が含有するリン酸カルシウム(以下、単に「リン酸カルシウム」ともいう)は、例えば、リン酸八カルシウム(Ca(HPO(PO・5HO;OCP)、水酸アパタイト(HAp)、炭酸アパタイト(COAp)、リン酸三カルシウムα相(α-TCP)、リン酸三カルシウムβ相(β-TCP)が挙げられる。
【0018】
リン酸カルシウムがリン酸八カルシウムを含む場合、リン酸八カルシウムの含水層をケイ酸が置換していることが好ましい。なお、リン酸八カルシウムを含む複合ブロック体は、後述する通り、シリカ-リン酸カルシウム複合ブロック体の製造方法で使用する水溶液(B)のケイ酸塩濃度を調整することで、得ることができる。
【0019】
複合ブロック体は、ケイ酸の含有量が、好ましくは10原子%以上、より好ましくは1
2原子%以上、更に好ましくは15原子%以上であり、一方で、好ましくは50原子%未満、より好ましくは30原子%以下、更に好ましくは25原子%以下である。なお、リン酸カルシウムの化学量論的組成として、CaとPOの比率は単一化合物中50原子%超である。
【0020】
リン酸カルシウムは、アパタイト相を含んでいてもよい、リン酸カルシウムがアパタイト相を含む場合、リン酸カルシウムは、炭酸アパタイトを含んでいてもよく、水酸アパタイトを含んでいてもよい。従来のアパタイトは粉末状であるが、本発明により、アパタイトをシリカとの複合ブロック体として得ることができる。
【0021】
炭酸アパタイトを含む複合ブロック体は、後述する、炭酸を含有する溶液にシリカ-リン酸カルシウム複合ブロック体を浸漬する工程を含む、シリカ-リン酸カルシウム複合ブロック体の製造方法により、得ることができる。
【0022】
水酸アパタイトを含む複合ブロック体は、後述する、炭酸を含有しない溶液にシリカ-リン酸カルシウム複合ブロック体を浸漬する工程を含む、シリカ-リン酸カルシウム複合ブロック体の製造方法により、得ることができる。
【0023】
リン酸カルシウムは、リン酸三カルシウムα相又はリン酸三カルシウムβ相を含んでいてもよい。
リン酸三カルシウムα相又はリン酸三カルシウムβ相を含む複合ブロック体は、後述する、シリカ-リン酸カルシウム複合ブロック体を焼成する工程を含む、シリカ-リン酸カルシウム複合ブロック体の製造方法により、得ることができる。
【0024】
リン酸カルシウムは、その結晶構造中に、更に銀、銅、ガリウム、ストロンチウム、マグネシウム、亜鉛、及びランタノイドからなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。従来の骨補填材は、術後感染の懸念や、骨形成が不完全となる懸念があった。上記の元素のうち、銀、銅、ガリウムは抗菌元素であり、ストロンチウム、マグネシウム、亜鉛は骨活性元素であり、ランタノイドは、抗菌分子との錯体系性能を有する。上記の元素を担持させることで、骨補填材としての複合ブロック体の機能改善に繋がる。
【0025】
ここでいうランタノイドとは、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムに加え、希土類元素として挙動が類似する、イットリウム、スカンジウム、ハフニウムを指す。
【0026】
リン酸カルシウムが、その結晶構造中に、更に銀、銅、ガリウム、ストロンチウム、マグネシウム、亜鉛、及びランタノイドからなる群から選択される少なくとも1種を含む場合、複合ブロック体における、銀、銅、ガリウム、ストロンチウム、マグネシウム、亜鉛、及びランタノイドの合計含有量の下限値が、好ましくは0.01原子%以上、より好ましくは0.1原子%以上、更に好ましくは0.5原子%以上である。一方で複合ブロック体は、銀、銅、ガリウム、ストロンチウム、マグネシウム、亜鉛、及びランタノイドの合計含有量の上限値が、好ましくは15原子%以下、より好ましくは10原子%以下、更に好ましくは5原子%以下である。
上記の元素の合計含有量が、上記範囲内であることで、骨補填材としての複合ブロック体の機能をより改善することができる。
【0027】
リン酸カルシウムは、その結晶構造中或いは、結晶表面に、更にジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸、ポリカルボン酸及びその錯体からなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。リン酸カルシウムが、更にジカルボン酸、トリカルボ
ン酸、テトラカルボン酸、ポリカルボン酸及びその錯体からなる群から選択される少なくとも1種を含む場合、含水層にジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸、ポリカルボン酸及びその錯体からなる群から選択される少なくとも1種を担持させることができる。ジカルボン酸は、例えば、マレイン酸、リンゴ酸、コハク酸、イタコン酸、マロン酸、アジピン酸、イミノ二酢酸、酒石酸、チオリンゴ酸、シュウ酸、マロン酸、ジチオグリコール酸、ジチオジ酢酸、ピリジンジカルボン酸等が挙げられる。トリカルボン酸としては、クエン酸、トリメシン酸、イソクエン酸、アコニット酸、トリカルバリル酸等が挙げられる。テトラカルボン酸としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレンテトラカルボン酸、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、4,4'-カルボ
ニルジフタル酸、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸、4,4'-(エチン-1,2-ジイル)ジフタル酸、ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸、4,4'-オキシジフタル酸、4,4'-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸、4,4'-(4,4'-イソプロピリデンジフェノキシ)ジフタル酸、ジシクロヘキシル-3,4,3',4'-テト
ラカルボン酸等が挙げられる。ポリカルボン酸としては、ポリアクリル酸、ポリクエン酸、アルギン酸、ポリマンヌロン酸等が挙げられる。
例えば、チオリンゴ酸は抗リウマチ薬の前駆体であるため、リン酸カルシウムがチオリンゴ酸を含む場合、骨補填材としての複合ブロック体に、抗リウマチ薬の前駆体としての機能を付与することができる。
【0028】
リン酸カルシウムが、更にジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸、ポリカルボン酸及びその錯体からなる群から選択される少なくとも1種を結晶構造中或いは、結晶表面に含む場合、複合ブロック体における、ジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸、ポリカルボン酸及びその錯体の合計含有量の下限値が、好ましくは0.1原子%以上、より好ましくは0.2原子%以上、更に好ましくは0.5原子%以上である。一方で複合ブロック体は、ジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸、ポリカルボン酸及びその錯体の合計含有量の上限値が、好ましくは10原子%以下、より好ましくは5原子%以下、更に好ましくは2原子%以下である。
ジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸、ポリカルボン酸及びその錯体の合計含有量が、上記範囲内であることで、骨補填材としての複合ブロック体の機能をより改善することができる。
【0029】
リン酸カルシウムは、更にその結晶構造中或いは、結晶表面に、第四級アンモニウム塩を含んでいてもよい。リン酸カルシウムが、更に第四級アンモニウム塩を含む場合、含水層に第四級アンモニウム塩を担持させることができる。第四級アンモニウム塩は、例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化メチルベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム、セトリモニウム、塩化ドファニウム、塩化ポリドロニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、臭化ドミフェン、レシチン、ホスファチジルコリン、グリセロホスホリルコリン、塩化コリン、トリメチルグリシン、アセチルコリン、エドロホニウム、エルゴチオネイン、金化テトラメチルアンモニウム、サフラニン、ベタニン、ペントリニウム、ミルテホシン、メルドニウム、ヤヌスグリーン等が挙げられる。
第四級アンモニウム塩は抗菌性を有するため、リン酸カルシウムが第四級アンモニウム塩を含む場合、骨補填材としての複合ブロック体に、抗菌性を付与することができる。
【0030】
リン酸カルシウムが、更に第四級アンモニウム塩をその結晶構造中或いは、結晶表面に含む場合、複合ブロック体における、第四級アンモニウム塩の含有量の下限値が、好ましくは0.01原子%以上、より好ましくは0.1原子%以上、更に好ましくは0.5原子%以上である。一方で複合ブロック体は、第四級アンモニウム塩の含有量の上限値が、好ましくは10原子%以下、より好ましくは5原子%以下、更に好ましくは3原子%以下である。
第四級アンモニウム塩の含有量が、上記範囲内であることで、骨補填材としての複合ブロック体の抗菌性をより改善することができる。
【0031】
更に銀、銅、ガリウム、ストロンチウム、マグネシウム、亜鉛、及びランタノイドからなる群から選択される少なくとも1種を含むブロック体、更にジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸、ポリカルボン酸及びその錯体からなる群から選択される少なくとも1種を含むブロック体、及び、更に第四級アンモニウム塩を含むブロック体は、後述する、混合泥調製工程において、更に銀、銅、ガリウム、ストロンチウム、マグネシウム、亜鉛、ランタノイド、第四級アンモニウム塩、並びに、ジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸、ポリカルボン酸及びその塩からなる群から選択される少なくとも1種を含む化合物を混合し、該化合物を含有する混合泥を調製する、シリカ-リン酸カルシウム複合ブロック体の製造方法により、得ることが好ましい。
【0032】
複合ブロック体は、DTS強度(ダイアメトラル引張強さ)が0.1MPa以上であり、好ましくは0.15MPa以上であり、より好ましくは0.2MPa以上である。複合ブロック体のDTS強度の上限は、特に限定されないが、通常10MPa以下である。
DTS強度が上記下限値以上であることで、ピンセットで強めに摘まんでも崩壊しないため、生体内の骨欠損部への移植を容易に行える。更に、移植後に組織内でブロックが崩壊せず、安定して存在することができる。また、後述するシリカ-リン酸カルシウム複合ブロック体の製造方法において、セラミック(A)に対する水溶液(B)の重量比(混水比)を0.30以上6.00以下とすることによって、DTS強度が0.1MPa以上の複合ブロック体を得ることができる。
【0033】
複合ブロック体の形状は、混合泥を充填する際に使用する鋳型の形に依存するが、一定の強度を有することから、特定形状に加工することも可能である。例えば、立方体、直方体、円柱、円錐形、円錐台形、球、八面体、四面体などに加工することが可能である。また、後述するシリカ-リン酸カルシウム複合ブロック体の製造方法において、セラミック(A)に対する水溶液(B)の重量比(混水比)を0.30以上6.00以下とすることによって、体積が2mm以上の複合ブロック体を得ることができる。
複合ブロック体の体積は、体積が2mm以上であれば特に限定されないが、好ましくは5mm以上、より好ましくは10mm以上、更に好ましくは30mm以上である。複合ブロック体の体積が上記下限値以上であることにより、組織内で複合ブロック体が固定化されやすくなる。また、後述するシリカ-リン酸カルシウム複合ブロック体の製造方法により、このような大型の複合ブロック体を製造できる。一方、1000mmを超えると、強度が低下することが懸念される。
【0034】
本願発明において複合ブロック体とは、間にコラーゲンなどの介在する物質なく、無機成分の構成成分であるOCPをはじめとする無機物の結晶同士が、化学的な結合、又は結晶同士の絡み合い若しくは融合し合うことで硬化して形態を保っているものをいう。また、後述するシリカ-リン酸カルシウム複合ブロック体の製造方法において、セラミック(A)に対する水溶液(B)の重量比(混水比)を0.30以上6.00以下とすることによって、無機成分の化学的な結合、又は無機成分の結晶同士の絡み合い若しくは融合により硬化している複合ブロック体を得ることができる。
【0035】
本願発明において化学的な結合とは、無機成分を構成する結晶間に、共有結合、イオン結合、キレート結合、水素結合のいずれかに分類される化学結合が1つ以上あることをいう。
【0036】
本願発明において結晶同士の絡み合いとは、微視的には複合ブロック体を構成している複数の結晶が、お互いの結晶面を介して接し合う構造をしていることをいう。
【0037】
本願発明において結晶同士の融合とは、複合ブロック体を構成している複数の結晶が、結晶面などで、互いの結晶と隙間なく接している部分があり、この部分では粒界が不明瞭で観察できないことをいう。
【0038】
前述の結晶同士の絡み合い、及び結晶同士の融合は、複合ブロック体の微細構造を観察することで、簡単に判別することが出来る。微細構造の観察には、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)が用いられる。この時、試料の導電性を確保するため、イオンスパッタ装置を用いて、試料にオスミウム(Os)、炭素(C)等、通常のSEM観察で用いられる手法で前処理したのち観察しても良い。
【0039】
無機成分の化学的な結合、又は無機成分の結晶同士の絡み合い若しくは融合により硬化している複合ブロック体は、少なくとも水に1時間浸漬しても崩壊せずに形態を保つ。これは、結晶同士の接合により、間隙に水などが入り込んでも、その表面張力よりも、結晶同士の接合力の方が強く、崩壊しないからである。したがって、リン酸カルシウム粉末を圧粉して成形した、リン酸カルシウム圧粉体は、粉末を構成する粒子間にこれらの接合が期待されないため、これに含まれない。
【0040】
なお、「水に1時間浸漬しても崩壊せずに形態を保つ」とは、複合ブロック体を蒸留水中に1時間浸漬した後も、明瞭に形状を維持しており、更にピンセットで摘まんで取り出すことができ、かつピンセットで摘まんで取り出し乾燥させた後の複合ブロック体の質量減少が、浸漬前の質量に対して20質量%以下であることをいう。
複合ブロック体が、水中に1時間浸漬しても崩壊しないことで、移植後に組織内でブロックが崩壊せず、安定して存在することができる。
【0041】
リン酸カルシウム結晶の結晶学的情報は、例えば、X線回折法(XRD)により常法に従い得ることができる。装置としては、例えば、MiniFlex600(株式会社リガク、日本)が挙げられる。なお結晶とは、粉末試料のXRDパターンにおいて明確な回折ピークが得られ、また、結晶成長を阻害しない自由空間で成長した場合、結晶構造に起因する固有の外形を示す粒子のことを指す。
【0042】
結晶中の元素含有量は、例えば、蛍光X線分析法(XRF)により常法に従い評価することができる。装置としては、例えば、SEA2210(セイコーインスツルメンツテクノロジー株式会社、日本)が挙げられる。
【0043】
結晶の化学振動スキームは、例えば、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)により常法に従い評価することができる。装置としては、例えば、Nicolet NEXUS670(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社、米国)が挙げられる。
【0044】
結晶の微細構造は、例えば、電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM)により常法に従い評価することができる。装置としては、例えば、JSM-6700F(日本電子株式会社、日本)が挙げられる。前記結晶の表面の電荷蓄積を防止するために、前記結晶にOsなどを用いてスパッタコーティングをしてもよい。
【0045】
複合ブロック体は、多孔体であってもよい。多孔体の孔の形状は特に限定されない。通常は、連通多孔体、孤立気孔体、ハニカム構造体などがあげられる。
また、気孔率は特に限定されない。好ましくは、30%以上、更に好ましくは、50%以上、特に好ましくは70%以上である。気孔サイズは特に限定されない、好ましくは10μm以上、1000μm以下、特に好ましくは100μm以上、700μm以下、更に好ましくは、200μm以上、500μm以下である。
【0046】
[シリカ-リン酸カルシウム複合ブロック体の製造方法]
本発明の一実施形態であるシリカ-リン酸カルシウム複合ブロック体の製造方法(以下、単に「複合ブロック体の製造方法」ともいう)は、カルシウム及び/又はリン酸を含むセラミック(A)と、ケイ酸塩濃度が10質量%以上であり、更にカルシウム及びリン酸のうち、セラミック(A)が含まない組成を含む水溶液(B)とを、前記セラミック(A)に対する前記水溶液(B)の重量比(混水比)が、0.30以上6.00以下となるように混合して、ケイ酸含有リン酸カルシウムを含む混合泥を得る混合泥調製工程と、前記混合泥を鋳型中で反応させる複合ブロック体調製工程と、を含む。
【0047】
複合ブロック体は、本実施形態の複合ブロック体の製造方法によって製造することが好ましい。以下、複合ブロック体の製造方法における各工程について説明する。
【0048】
(混合泥調製工程)
混合泥調製工程では、ケイ酸含有リン酸カルシウムを含む混合泥を得る工程であり、ケイ酸含有リン酸カルシウムを含む混合泥を得るために、カルシウム及び/又はリン酸を含むセラミック(A)と、ケイ酸塩濃度が10質量%以上であり、カルシウム及びリン酸のうち、セラミック(A)が含まない組成を含む水溶液(B)とを、前記セラミック(A)に対する前記水溶液(B)の重量比(混水比)が、0.30以上6.00以下となるように混合する。
【0049】
混合泥調製工程で使用される、カルシウム及び/又はリン酸を含むセラミック(A)(以下、単に「セラミック(A)」ともいう)は、カルシウム及びリン酸を含むセラミックであってもよく、カルシウムを含み、リン酸を含まないセラミックであってもよく、リン酸を含み、カルシウムを含まないセラミックであってもよい。
【0050】
カルシウム及びリン酸を含むセラミックは、リン酸カルシウムであり、例えば、リン酸水素カルシウム二水和物(DCPD)、リン酸水素カルシウム無水和物、リン酸二水素カルシウム水和物(MCPM)、リン酸二水素カルシウム無水和物、リン酸三カルシウムα相、又はリン酸三カルシウムβ相、リン酸四カルシウム(TTCP)、アモルファスリン酸カルシウム(ACP)、水酸アパタイト、炭酸アパタイト、ナトリウム置換水酸アパタイト、等を用いることができる。これらは単独でも使用してもよく、複数を任意の比率で混合して使用してもよい。
【0051】
カルシウムを含み、リン酸を含まないセラミックは、カルシウム無機塩あるいはカルシウム有機塩を用いることができる。カルシウム無機塩は、例えば、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、塩化カルシウム、フッ化カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム、リン化カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸カルシウム半水和物、硫酸カルシウム二水和物、シュウ酸カルシウム無水和物、シュウ酸カルシウム一水和物、シュウ酸カルシウム二水和物、シュウ酸カルシウム三水和物、亜硫酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、ピロリン酸カルシウム、タングステン酸カルシウム、モリブデン酸カルシウム等を用いることができる。カルシウム有機塩は、例えば、酢酸カルシウム、コハク酸カルシウム、クエン酸カルシウム、リンゴ酸カルシウム、チオリンゴ酸カルシウム、安息香酸カルシウム、乳酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム等を用いることができる。これらは単独でも使用してもよく、複数を任意の比率で混合して使用してもよい。
【0052】
リン酸を含み、カルシウムを含まないセラミックは、例えば、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、リン酸マグネシウムアンモニウム、リン酸マグネシウム等を用い
ることができる。これらは単独でも使用してもよく、複数を任意の比率で混合して使用してもよい。
【0053】
混合泥調製工程で使用される、ケイ酸塩濃度が10質量%以上であり、更にカルシウム及びリン酸のうち、セラミック(A)が含まない組成を含む水溶液(B)(以下、単に「水溶液(B)」ともいう)は、セラミック(A)と混合してケイ酸含有リン酸カルシウムを含む混合泥が得られる限りは、ケイ酸塩のみを含む水溶液であってもよく、ケイ酸塩及びカルシウムを含む水溶液であってもよく、ケイ酸塩及びリン酸を含む水溶液であってもよい。
【0054】
セラミック(A)がカルシウム及びリン酸を含むセラミックである場合、水溶液(B)は、ケイ酸塩のみを含む水溶液であってもよく、ケイ酸塩及びカルシウムを含む水溶液であってもよく、ケイ酸塩及びリン酸を含む水溶液であってもよい。
【0055】
セラミック(A)がカルシウムを含み、リン酸を含まないセラミックである場合、水溶液(B)は、ケイ酸塩及びリン酸を含む水溶液である。
セラミック(A)がリン酸を含み、カルシウムを含まないセラミックである場合、水溶液(B)は、ケイ酸塩及びカルシウムを含む水溶液である。
【0056】
水溶液(B)は、後述する銀、銅、ガリウム、ストロンチウム、マグネシウム、亜鉛、ランタノイド、第四級アンモニウム塩、並びに、ジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸、ポリカルボン酸及びその塩からなる群から選択される少なくとも1種を含む化合物を更に含有する水溶液であってもよい。
【0057】
水溶液(B)に用いられるケイ酸塩は、例えば、水ガラス(NaSiO)、ケイ酸カリウム、ケイ酸セシウム、ヘキサフルオロケイ酸アンモニウム等を用いることができる。この中でも水ガラスは、カウンターカチオンであるナトリウムイオンがリン酸八カルシウム形成を誘導するため好ましい。また、ブロック体に担持させたいケイ酸塩溶液以外の化合物を添加してもよい。その場合は、溶液或いは、コロイド粒子の状態で均一に分散している必要がある。
【0058】
水溶液(B)に用いられるカルシウムは、例えば、上記の「カルシウムを含み、リン酸を含まないセラミック」として挙げた化合物等を用いることができる。
水溶液(B)に用いられるリン酸は、例えば、リン酸(HPO)や、上記の「リン酸を含み、カルシウムを含まないセラミック」として挙げた化合物等を用いることができる。
【0059】
水溶液(B)におけるケイ酸塩の濃度は、10質量%以上であれば特に限定されない。通常は、10質量%以上、50質量%以下、好ましくは15質量%以上、40質量%以下、更に好ましくは18質量%以上、30質量%以下である。
【0060】
なお、水溶液(B)のケイ酸塩濃度を18~23質量%とすることで、リン酸八カルシウム(OCP)単相である複合ブロック体を得ることができる。
【0061】
混合泥調製工程では、セラミック(A)と水溶液(B)とを混合して混合泥とする。混合方法に特に制限は無いが、例えば、セラミック(A)の粉末に、水溶液(B)を滴下し、スパチュラなどを用いて十分に混合して、混合泥とすることができる。ケイ酸塩はリン酸と接触することにより、直ちに加水分解し、シリカハイドロゲルとなるが、更に練和することにより、シリカとリン酸カルシウムからなる複合体を形成することができる。また、混合時に激しく発泡して、部分的に硬化することがあるが、発泡反応が落ち着くまで、
混ぜ続けることが好ましい。
【0062】
セラミック(A)に対する水溶液(B)の重量比(混水比)は、0.30以上6.00以下であるが、好ましくは0.50以上5.00以下であり、より好ましくは1.00以上3.00以下である。
【0063】
セラミック(A)に対する水溶液(B)の重量比(混水比)が上記範囲内であると、混合泥中のセラミック濃度が高くなることから、リン酸カルシウム結晶を強固に絡み合わせることができ、無機成分の化学的な結合、又は無機成分の結晶同士の絡み合い若しくは融合により硬化している複合ブロック体であって、体積が2.0mm以上であり、かつ、DTS強度が0.1MPa以上である複合ブロック体を製造できる。また、混水比が上記範囲内であると、混合泥が適度な粘性を有することから、鋳型の形状を維持したシリカ-リン酸カルシウム複合ブロック体を製造できる。
一方で、特許文献1の実施例に開示されたシリカ担持リン酸カルシウム結晶は、セラミックに対する、ケイ酸塩を含む水溶液の重量比(混水比)を6.00超として製造したものである。混水比が高いことに起因して、特許文献1のシリカ担持リン酸カルシウム結晶は、強度に改善の余地があり水中で崩壊しやすい粉末状、ブロック材もしくは多孔体の形態で得られる。
【0064】
混合泥調製工程で得られるケイ酸含有リン酸カルシウムは、例えば、リン酸八カルシウム(Ca(HPO(PO・5HO;OCP)、水酸アパタイト(HAp)、炭酸アパタイト(COAp)、リン酸三カルシウムα相(α-TCP)、リン酸三カルシウムβ相(β-TCP)が挙げられる。
【0065】
混合泥調製工程において、更に銀、銅、ガリウム、ストロンチウム、マグネシウム、亜鉛、ランタノイド、第四級アンモニウム塩、並びに、ジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸、ポリカルボン酸及びその塩からなる群から選択される少なくとも1種を含む化合物を混合し、該化合物を含有する混合泥を調製してもよい。該化合物の混合方法は特に制限されず、該化合物を水溶液(B)に含有させてもよく、該化合物を粉末としてセラミック(A)及び水溶液(B)と混合させてもよい。
【0066】
銀、銅、ガリウム、ストロンチウム、マグネシウム、亜鉛、ランタノイド、第四級アンモニウム塩、並びに、ジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸、ポリカルボン酸及びその塩からなる群から選択される少なくとも1種を含む化合物は、特に限定されない。
例えば、銀、銅、ガリウム、ストロンチウム、マグネシウム、亜鉛、及びランタノイドからなる群から選択される少なくとも1種を含む化合物は、各元素の硝酸塩、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、硫酸塩、炭酸塩、クロム酸塩、酢酸塩等を用いることができる。第四級アンモニウム塩は、上記の第四級アンモニウム塩等を用いることができる。ジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸、ポリカルボン酸及びその塩からなる群から選択される少なくとも1種を含む化合物は、上記のジカルボン酸等及びその錯体を用いることができる。これらは単独でも使用してもよく、複数を任意の比率で混合して使用してもよい。
【0067】
セラミック(A)と、銀、銅、ガリウム、ストロンチウム、マグネシウム、亜鉛、ランタノイド、第四級アンモニウム塩、並びに、ジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸、ポリカルボン酸及びその塩からなる群から選択される少なくとも1種を含む化合物の混合割合は、特に限定されないが、セラミック(A)1gに対し、該化合物の添加量を0.1mmol以上1mol以下とすることができる。
【0068】
(複合ブロック体調製工程)
複合ブロック体調製工程では、混合泥調製工程で得られた混合泥を、鋳型(モールド)中で反応させる。本実施形態の複合ブロック体の製造方法では、複合ブロック体調製工程(カルシウムイオンとリン酸イオンとが反応する工程)において、鋳型(モールド)中で、混水比が特定の範囲内である混合泥を反応させることにより、シリカが複合化したリン酸カルシウム結晶が析出し、結晶が複雑に絡み合うことで、モールドの形状を維持した高強度かつ水中で崩壊しないブロック体を得ることができる。使用する鋳型は特に限定されないが、例えばシリコンモールドを使用することができる。
【0069】
反応温度及び反応時間は適宜設定してよく、反応温度は、好ましくは5~95℃、より好ましくは15~80℃とすることができる。反応時間は、好ましくは2~120時間、より好ましくは6~96時間とすることができる。なお、反応は密封状態で行うことが好ましい。反応を密封状態で行うとは、混合泥を鋳型中に充填し、更に蓋をして、混合泥と外部の空気との接触を避けながら反応を進行させることを指すが、鋳型の内部に空気が入っていてもよい。反応を密封状態で行う場合、混合泥に適宜荷重をかけてもよい。反応を密封状態で行うことで、混合泥の乾燥など、反応の進行が阻害される要因を防止することができ、また析出したリン酸カルシウム結晶同士が強固に絡み合うことで、より高強度な複合ブロック体が得られる。
【0070】
反応後は、乾燥機などで乾燥させてもよい。また、取り出し後、未反応成分が残存している場合には、蒸留水などを用いて洗浄、除去することが好ましい。
【0071】
(アパタイト相への相転移)
複合ブロック体の製造方法は、複合ブロック体調製工程で得られた複合ブロック体を、炭酸を含有する溶液又は炭酸を含有しない溶液に浸漬する工程を更に含んでもよい。複合ブロック体を、炭酸を含有する溶液に浸漬させることで、ケイ酸含有リン酸カルシウム準安定相を、ケイ酸含有炭酸アパタイト相に相転移させることができる。また、複合ブロック体を、炭酸を含有しない溶液に浸漬させることで、ケイ酸含有リン酸カルシウム準安定相を、ケイ酸含有水酸アパタイト相に相転移させることができる。
【0072】
複合ブロック体を、炭酸を含有する溶液又は炭酸を含有しない溶液に浸漬させて、ケイ酸含有炭酸アパタイト相又はケイ酸含有水酸アパタイト相に相転移させる場合、反応機構、特に最終生成物中の炭酸含有量の調整の観点から、ケイ酸含有リン酸カルシウムは、ケイ酸含有リン酸八カルシウムであることが好ましい。
【0073】
炭酸を含有する溶液における炭酸源としては、例えば、炭酸ガス、炭酸アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウムなどが挙げられる。これらは、単独で使用してもよいし、複数を混合して使用してもよい。炭酸を含有する溶液における炭酸の濃度は、特に限定されないが、好ましくは0.001mol/L以上10mol/L以下であり、より好ましくは0.05mol/L以上5mol/L以下であり、更に好ましくは0.1mol/L以上3mol/L以下である。
【0074】
複合ブロック体を、炭酸を含有する溶液又は炭酸を含有しない溶液に浸漬する際の温度及び時間は適宜設定してよく、浸漬温度は、好ましくは25~99℃、より好ましくは37~95℃、更に好ましくは50~90℃とすることができる。浸漬時間は、好ましくは30分以上14日間以下、より好ましくは1時間以上10日間以下、更に好ましくは2時間以上7日間以下とすることができる。
【0075】
浸漬時のpHは、特に限定されないが、好ましくは6.0以上、より好ましくは7.0以上、更に好ましくは8.0以上である。pH調整のために、溶液中に水酸化ナトリウム
水溶液や塩酸などを添加することは、通常あり得ることである。
【0076】
浸漬後は、乾燥機などで乾燥させてもよい。また、取り出し後、蒸留水などを用いて洗浄してもよい。
【0077】
(複合ブロック体の焼成)
複合ブロック体の製造方法は、複合ブロック体調製工程で得られた複合ブロック体を、焼成する工程を更に含んでもよい。複合ブロック体を焼成することで、リン酸三カルシウムα相又はリン酸三カルシウムβ相を含む複合ブロック体を製造できる。
【0078】
リン酸三カルシウムα相を含む複合ブロック体を製造する場合、焼成温度はβ-α転移温度である1180℃以上とする必要がある。好ましくは1200~1700℃、より好ましくは1400~1600℃とすることができる。焼成時間は、好ましくは2~72時間、より好ましくは5~24時間とすることができる。
リン酸三カルシウムβ相を含む複合ブロック体を製造する場合、焼成温度は1180℃以下とする必要がある。好ましくは800~1180℃、より好ましくは900~1150℃とすることができる。焼成時間は、好ましくは2~96時間、より好ましくは6~48時間とすることができる。
【0079】
複合ブロック体の製造方法で得られる複合ブロック体は、多孔体であってもよい。多孔体の孔の形状は特に限定されない。通常は、連通多孔体、孤立気孔体、ハニカム構造体などがあげられる。
また、気孔率は特に限定されない。好ましくは、30%以上、更に好ましくは、50%以上、特に好ましくは70%以上である。気孔サイズは特に限定されない、好ましくは10μm以上、1000μm以下、特に好ましくは100μm以上、700μm以下、更に好ましくは、200μm以上、500μm以下である。
【実施例0080】
以下、実施例に基づいて説明する。なお、本実施例はあくまで一例であり、これらの例によって何ら制限されるものではない。すなわち、本発明は特許請求の範囲によってのみ制限されるものであり、本発明に含まれる実施例以外の種々の変形を包含するものである。
【0081】
実施例で得られた複合ブロック体の物性評価は、以下の測定装置や測定条件によって行った。
[DTS強度]
複合ブロック体のダイアメトラル引張強さ(DTS強度)については、島津製作所製万能試験機、AGS-Jを用いて、ヘッドスピード1mm/minの速度にて測定した。
【0082】
[X線回折分析]
X線回折分析装置(MiniFlex600、株式会社リガク、日本、ターゲット:Cu、波長:0.15406nm)により複合ブロック体のXRD分析を行った。XRDの測定条件は、加速電圧及び振幅をそれぞれ40kV、15mAとし、特性評価については2°/分の操作速度で、3°から70°にわたり2θの値で回折角を連続的にスキャンした。
【0083】
[FT-IR分析]
フーリエ変換赤外分光(FT-IR:Nicolet NEXUS670、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社、米国)により、GeSeで作られた減衰全反射プリズムを有する硫酸トリグリシン検出器(32スキャン、解像度2cm-1)を用いて
、複合ブロック体の化学振動スキームの特性を評価した。測定を行うためのバックグラウンドとして雰囲気を考慮した。
【0084】
[電子顕微鏡観察]
電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM:JSM-6700F、日本電子株式会社、日本)により、複合ブロック体の微細構造を評価した。加速電圧を5kVとし、表面の電荷蓄積を防止するため、サンプルにOsを用いてスパッタコーティングをした。
【0085】
[XRF分析]
加速電圧を15kVとし、蛍光X線分析法(XRF:SEA2210、セイコーインスツルメンツテクノロジー株式会社、日本)により、複合ブロック体の化学組成を評価した。
【0086】
[CHN分析]
ヘリウム-酸素混合ガスをキャリア-ガスとし、CHN分析法(CHN:ヤナコCHNコーダー MT-6、ヤナコ―株式会社、日本)により、複合ブロック体のC、H、N含有量を評価した。
【0087】
[動物実験]
実験に先立ち、産業技術総合研究所及び、岡山理科大学の倫理委員会の承認を受けた(承認番号:動2021-0356(産業技術総合研究所)、E2020-096(岡山理科大学))。なお、本動物実験は、岡山理科大学獣医学部の動物実験施設で行った。
日本SLC株式会社より購入した日本白色家兎18週齢、雄を使用した。2%イソフルラン吸入により、意識を消失させた後、ケタミン-セラクタール混合麻酔液4mLを臀部
に筋注し、深麻酔下に置いた。呼吸、脈拍、体温、酸素濃度をモニタリングし、深麻酔下であることを確認し、両膝部を毛刈りし、更にポビドンヨード及び、ヒビスクラブ溶液にて交互に3回患部を殺菌した。
十分に切開部に薬液が塗布されたことを確認後、メスで膝部分の皮膚及び筋肉を切開し、大腿骨遠位端を展開した。大腿骨遠位端内側部にトレフィンバーを用いて、直径6mm、厚さ3mmの骨欠損を作成した。ここで、複合ブロック体、或いは参照試料として、シリカと複合化させていないOCPブロック体又は骨置換型骨補填材である炭酸アパタイト(COAp)ブロック体で再建した。埋入させたブロック体は、いずれも直径6mm、厚さ3mmのシリンダー型の緻密試料である。骨欠損部を再建後、筋肉、皮膚を縫合し、麻酔から覚醒したことを確認後、ケージに戻して通常飼育した。なお、負荷などを追加する処置は行わなかった。
1か月の通常飼育の後、埋入部に炎症・腫瘍形成の所見が無いことを確認後、耳静脈への麻酔薬の過剰投与により、ウサギを安楽死させた。直ちに、ブロック体埋入部を周囲組織毎一塊になるように取り出し、中性緩衝ホルマリン溶液にて固定した。その後、通例に従って病理標本を作成した。
【0088】
[抗菌試験]
実験に先立ち、産業技術総合研究所の倫理委員会の承認を得た(承認番号:微2019-0110(産業技術総合研究所))。直径6mm×1mmのディスク状に成型した複合ブロック体を、Staphylococcus aureusを塗布した寒天培地上に静置した。複合ブロック体は、70%エタノールに浸漬後、PBSで十分に無菌的に洗浄したものを使用した。複合ブロック体を寒天培地上に静置後、37℃の恒温槽に1日静置した。
【0089】
[実施例1]シリカ-OCP複合化ブロック体の調製
セラミック(A)として、リン酸水素カルシウム二水和物(DCPD)1gと、リン酸
二水素カルシウム水和物(MCPM)1gとを使用し、乳鉢にてよく擂り潰しながら混合して、均一な混合粉末とした。この混合粉末2gに、水溶液(B)として濃度0~38質量%のケイ酸ナトリウム溶液を4.32mL滴下し、混合した。すなわち、セラミック(A)に対する水溶液(B)の重量比(混水比)は、2.16である。ケイ酸ナトリウム溶液である水溶液(B)は、MCPM及びDCPDと接触することにより、直ちに加水分解し、シリカハイドロゲルとなった。これを継続して練和することにより、シリカハイドロゲルとリン酸カルシウムからなる複合体を形成させた。更に混合を継続して、リン酸カルシウムと接触による加水分解反応によりシリカハイドロゲルの形成を誘起させると共に、全体を均一な混合泥とした。
【0090】
得られた混合泥を、直径6mm、厚さ3mmのシリコンモールドに充填し、密封状態で60℃、1日間養生した。養生後、40℃、12時間以上乾燥させた後、乾燥させた混合泥をモールドから取り出した。その後、蒸留水で十分に洗浄し、残存した未反応成分を除去した後、再び40℃で24時間以上乾燥させた。
【0091】
図1に、実施例1で得られた複合ブロック体の写真を示す。図1から、ケイ酸塩水溶液を用いた場合には、複合ブロック体がモールドの形を維持していることが分かる。また、ケイ酸ナトリウム溶液を用いて得られた複合ブロック体の体積は、いずれも80mm以上であった。
【0092】
図2に、実施例1で得られた複合ブロック体のXRDによる分析結果を示す。濃度19質量%のケイ酸ナトリウム溶液を用いた場合に、複合ブロック体の結晶相がリン酸八カルシウム(OCP)単相となっていた。なお、混合時のケイ酸ナトリウム溶液の濃度を変化させて検証した所、18~23質量%のケイ酸ナトリウム溶液を用いた場合に、複合ブロック体の結晶相がOCP単相となることが分かった。
【0093】
図3に、実施例1で得られた複合ブロック体のDTS強度の測定結果を示す。ケイ酸塩濃度が15質量%以上であるケイ酸ナトリウム溶液を用いて得られた複合ブロック体のDTS強度は、いずれも0.1MPa以上であり、ピンセットなどで摘まんでも崩壊しない程度であった。
【0094】
図4に、実施例1で得られた複合ブロック体(濃度19質量%のケイ酸ナトリウム溶液使用)のFT-IRによる分析結果を示す。図4から、リン酸基の吸収バンドに加え、シラノール基のバンドが観察され、シリカハイドロゲルが十分に形成している様子が観察された。すなわち、複合ブロック体はシリカハイドロゲルとOCPとが複合化した構造を有することが分かった。
【0095】
図5に、実施例1で得られた複合ブロック体(濃度19質量%のケイ酸ナトリウム溶液使用)のSEM写真を示す。ケイ酸ナトリウム溶液を用いて得られた複合ブロック体は、細かな板状結晶が集積した構造を有していた。また、水中に1時間浸漬しても崩壊しなかった。すなわち、ケイ酸ナトリウム溶液を用いて得られた複合ブロック体は、無機成分の化学的な結合、又は無機成分の結晶同士の絡み合い若しくは融合により硬化している複合ブロック体であることが分かった。
【0096】
図6に、(A)シリカと複合化させていないOCPブロック体と、(B)骨置換型骨補填材である炭酸アパタイト(COAp)ブロック体と、(C)実施例1で得られた複合ブロック体(濃度19質量%のケイ酸ナトリウム溶液使用)とを用いた、動物実験の結果を示す、HE(ヘマトキシリン・エオジン)染色像を示す。なお、いずれの試料も、直径6mm、厚さ3mmのブロック体を用いている。(A)シリカと複合させていないOCPブロック体と、(B)骨置換型骨補填材である炭酸アパタイト(COAp)ブロック体
の調製方法の詳細は、それぞれ下記文献に記載されている。
・Y Sugiura, K Ishikawa, “Fabrication of pure octacalcium phosphate blocks from
dicalcium hydrogen phosphate dihydrate blocks via a dissolution-precipitation reaction in a basic solution”, Materials Letters, Vol. 239, March 2019, p.143-146
・Y Sugiura, K Ishikawa, “Fabrication of carbonate apatite blocks from octacalcium phosphate blocks through different phase conversion mode depending on carbonate concentration”, Journal of Solid State Chemistry, Vol. 267, November 2018, p.85-91
【0097】
(C)実施例1で得られた複合ブロック体を埋入させた場合、周囲組織において炎症・腫瘍の所見は観察されなかった。更に実施例1で得られた複合ブロック体は、埋入後に顕著にサイズの減少が見られ、更に埋入周辺部において非常に活発な骨形成が観察された。複合ブロック体の体積にして凡そ30%吸収されていた。これは、骨リモデリングプロセスにより複合ブロック体が生体に吸収され、骨新生が活発に起きていることを示している。
一方で、(A)シリカと複合化させていないOCPブロック体と、(B)骨置換型骨補填材である炭酸アパタイト(COAp)ブロック体では、埋入後もほとんど形状変化は無く、周辺部において骨組織と直接結合している様子が観察された。すなわち、実施例1で得られた複合ブロック体は、シリカと複合化させたことにより、優れた性質を示すことが分かった。
【0098】
[実施例2]シリカ-アパタイト複合化ブロック体の調製
実施例1で得られた複合ブロック体(濃度19質量%のケイ酸ナトリウム溶液使用)10個を、50mLの遠沈管に入れた濃度0~2mol/Lの炭酸アンモニウム溶液に浸漬し、密閉して80℃の恒温槽内で3日間反応させた。複合ブロック体は、溶液に浸漬しても崩壊せず、形状を維持していた。
反応後、複合ブロック体を蒸留水で複数回洗浄し、内部に浸透した溶液を除去した後、80℃の恒温槽にて12時間以上静置し、乾燥させた。
【0099】
図7に、実施例2で得られた複合ブロック体の写真を示す。図7から、溶液に浸漬させた後の複合ブロック体が、浸漬前の形を維持していることが分かった。また、得られた複合ブロック体の体積は、いずれも80mm以上であった。
【0100】
図8に、実施例2で得られた複合ブロック体のDTS強度の測定結果を示す。複合ブロック体のDTS強度は、処理に用いた炭酸アンモニウム溶液の濃度増大に伴って減少傾向にあったが、最も濃い濃度で処理した複合ブロック体でも0.1MPa以上であり、ピンセットで摘まんでも崩壊しない程度であった。
【0101】
図9に、実施例2で得られた複合ブロック体のXRDによる分析結果を示す。得られた複合ブロック体は、全てアパタイト単相になったことが分かった。
【0102】
図10に、実施例2で得られた複合ブロック体のFT-IRによる分析結果を示す。図10から、溶液浸漬前の複合ブロック体で観察されたリン酸基の吸収バンドに加え、シラノール基のバンドが観察され、シリカハイドロゲルが十分に残存してアパタイト単相に相転移している様子が観察された。また、処理に用いた炭酸アンモニウム溶液の濃度増大に伴い、リン酸基及びシラノール基のバンドに加え、炭酸基のバンドが観察された。このため、炭酸を含有しない溶液で処理した場合は、水酸アパタイトに、炭酸を含有した溶液で処理した場合は、炭酸アパタイトになっている様子が観察され、シリカハイドロゲルとこれらのアパタイトが複合化したことが分かった。
【0103】
図11に、実施例2で得られた複合ブロック体の、CHN分析による炭酸含有量の結果を示す。炭酸アンモニウム溶液の濃度増大に伴い、ブロック体の炭酸含有量が増大することが分かった。
【0104】
図12に、実施例2で得られた複合ブロック体のSEM写真を示す。実施例1同様、細かな板状結晶が集積した構造を有していた。複合ブロック体内部には、溶液浸漬前の複合ブロック体(シリカ-OCP複合ブロック体)の特定の成分が溶出したような所見は観察されなかった。また、水中に1時間浸漬しても崩壊しなかった。すなわち、得られた複合ブロック体は、無機成分の化学的な結合、又は無機成分の結晶同士の絡み合い若しくは融合により硬化している複合ブロック体であることが分かった。
【0105】
[実施例3]Ag含有シリカ-OCP複合ブロック体の調製
水溶液(B)として、濃度38質量%のケイ酸ナトリウム溶液2.16mLと、0~200mmol/Lの硝酸銀水溶液2.16mLとを混合したものを滴下して練和し、混合泥を得た以外は、実施例1と同様にして、複合ブロック体を得た。すなわち、混水比は2.16であり、水溶液(B)におけるケイ酸塩濃度は19質量%である。硝酸銀水溶液の濃度が50mmol/L未満の条件では、白色の複合ブロック体が得られた。一方で硝酸銀水溶液の濃度が50mmol/L以上の条件では、黄白色の複合ブロック体が得られ、時間経過と共に褐色、黒色に変化した。
【0106】
図13に、実施例3で得られた複合ブロック体の写真を示す。複合ブロック体はモールドの形を維持しており、体積はいずれも80mm以上であった。なお、実施例3で得られた複合ブロック体のDTS強度はいずれも0.2MPa以上であり、ピンセットで摘まんでも崩壊せず、かつ水中に1時間浸漬しても崩壊しなかった。すなわち、得られた複合ブロック体は、無機成分の化学的な結合、又は無機成分の結晶同士の絡み合い若しくは融合により硬化している複合ブロック体であることが分かった。
【0107】
図14に、実施例3で得られた複合ブロック体のXRDによる分析結果を示す。いずれのAg濃度においても、OCPが形成されたことが分かった。
【0108】
図15に、実施例3で得られた複合ブロック体の抗菌試験の結果を示す。Agを含む複合ブロック体では、周囲に菌が存在しない領域が明瞭に観察された。一方で、Agを含まない複合ブロック体では、試料と菌が明らかに接触する様子が観察された。
【0109】
[実施例4]第四級アンモニウム塩含有シリカ-OCP複合ブロック体の調製
水溶液(B)として、濃度38質量%のケイ酸ナトリウム溶液2.16mLと、0~200mmol/Lの塩化セチルピリジニウム(CPC)水溶液2.16mLとを混合したも
のを滴下して練和し、混合泥を得た以外は、実施例1と同様にして、複合ブロック体を得た。すなわち、混水比は2.16であり、水溶液(B)におけるケイ酸塩濃度は19質量%である。
【0110】
図16に、実施例4で得られた複合ブロック体の写真を示す。複合ブロック体はモールドの形を維持しており、体積はいずれも80mm以上であった。なお、実施例4で得られた複合ブロック体のDTS強度はいずれも0.36±0.12MPa以上であり、ピンセットで摘まんでも崩壊せず、かつ水中に1時間浸漬しても崩壊しなかった。すなわち、得られた複合ブロック体は、無機成分の化学的な結合、又は無機成分の結晶同士の絡み合い若しくは融合により硬化している複合ブロック体であることが分かった。
【0111】
図17に、実施例4で得られた複合ブロック体のXRDによる分析結果を示す。いずれ
のCPC濃度においても、OCPが形成されたことが分かった。
【0112】
図18に、実施例4で得られた複合ブロック体のFT-IRによる分析結果を示す。図18から、リン酸基の吸収バンドに加え、シラノール基のバンドが観察された。すなわち、複合ブロック体はシリカハイドロゲルとOCPとが複合化した構造を有することが分かった。
【0113】
図19に、実施例4で得られた複合ブロック体の抗菌試験の結果を示す。CPCを含む複合ブロック体では、周囲に菌が存在しない領域が明瞭に観察された。一方で、CPCを含まない複合ブロック体では、試料と菌が明らかに接触する様子が観察された。
【0114】
[実施例5]ランタノイド含有シリカ-OCP複合ブロック体の調製
水溶液(B)として、濃度38質量%のケイ酸ナトリウム溶液2.16mLと、10mmol/L又は100mmol/Lのランタノイド(La、Ce、Y又はPr)硝酸塩水溶液2.16mLとを混合したものを滴下して練和し、混合泥を得た以外は、実施例1と同様にして、複合ブロック体を得た。すなわち、混水比は2.16であり、水溶液(B)におけるケイ酸塩濃度は19質量%である。
【0115】
図20に、実施例5で得られた複合ブロック体の写真を示す。複合ブロック体はモールドの形を維持しており、体積はいずれも80mm以上であった。なお、実施例5で得られた複合ブロック体のDTS強度はいずれも0.1MPa以上であり、ピンセットで摘まんでも崩壊せず、かつ水中に1時間浸漬しても崩壊しなかった。すなわち、得られた複合ブロック体は、無機成分の化学的な結合、又は無機成分の結晶同士の絡み合い若しくは融合により硬化している複合ブロック体であることが分かった。
【0116】
図21に、実施例5で得られた複合ブロック体のXRDによる分析結果を示す。いずれのCPC濃度においても、OCPが形成されたことが分かった。
【0117】
[実施例6]炭酸カルシウム-リン酸-ケイ酸塩を混合して製造したシリカ-OCP複合ブロック体の調製
セラミック(A)として炭酸カルシウム0.7gを使用し、水溶液(B)として4mol/Lのリン酸水溶液2mLと38質量%のケイ酸ナトリウム溶液1.08mLとを混合したものを使用した以外は、実施例1と同様にして、複合ブロック体を得た。すなわち、混水比は4.40であり、水溶液(B)におけるケイ酸塩濃度は13質量%である。なお、混合に伴って炭酸カルシウム粉末が発泡したため、混合後、十分な時間静置することで脱気を行った。
【0118】
図22に、実施例6で得られた複合ブロック体の写真を示す。複合ブロック体はモールドの形を維持しており、体積はいずれも80mm以上であった。なお、実施例6で得られた複合ブロック体のDTS強度は0.97±0.17MPaであり、セラミック(A)としてリン酸カルシウムを使用した実施例1の3倍程度の強度であった。また、ピンセットで摘まんでも崩壊しなかった。
【0119】
図23に、実施例6で得られた複合ブロック体のXRDによる分析結果を示す。セラミック(A)として炭酸カルシウムを使用した場合でも、OCPが形成されたことが分かった。
【0120】
図24に、実施例6で得られた複合ブロック体のFT-IRによる分析結果を示す。図24から、リン酸基の吸収バンドに加え、シラノール基のバンドが観察された。すなわち、複合ブロック体はシリカハイドロゲルとOCPとが複合化した構造を有することが分か
った。
【0121】
図25に、実施例6で得られた複合ブロック体のSEM写真を示す。複合ブロック体内部は、板状結晶が緻密に集合した構造をなしており、また一部が融合した構造をなしていることが分かった。また、水中に1時間浸漬しても崩壊しなかった。すなわち、得られた複合ブロック体は、無機成分の化学的な結合、又は無機成分の結晶同士の絡み合い若しくは融合により硬化している複合ブロック体であることが分かった。
【0122】
[実施例7]ジカルボン酸含有シリカ-OCP複合ブロック体の調製
セラミック(A)として炭酸カルシウム1.2gを使用し、更に0~0.6gのチオリンゴ酸を添加して混合した以外は、実施例6と同様にして、複合ブロック体を得た。すなわち、混水比は2.57であり、水溶液(B)におけるケイ酸塩濃度は13質量%である。
【0123】
図26に、実施例7で得られた複合ブロック体の写真を示す。複合ブロック体はモールドの形を維持しており、体積はいずれも80mm以上であった。なお、実施例7で得られた複合ブロック体のDTS強度はいずれも0.1MPa以上であり、更にチオリンゴ酸を0.6g添加して得られた複合ブロック体のDTS強度は1.23±0.31MPaであり、チオリンゴ酸を添加しない場合(実施例6)よりやや高かった。また、ピンセットで摘まんでも崩壊しなかった。
【0124】
図27に、実施例7で得られた複合ブロック体のXRDによる分析結果を示す。チオリンゴ酸を0.6g添加して得られた複合ブロック体は、OCP単相となっていることが分かった。また、OCPのd(100)のピークが、4.7°から4.2°と低角側にシフトしている様子が観察された。これにより、チオリンゴ酸がOCPの層間に含有されていることが分かった。
【0125】
図28に、実施例7で得られた複合ブロック体(チオリンゴ酸0.6g添加)のFT-IRによる分析結果を示す。図28から、リン酸基の吸収バンドに加え、シラノール基及びカルボキシル基のバンドが観察された。すなわち、複合ブロック体はシリカハイドロゲルとOCPとカルボン酸とが複合化した構造を有することが分かった。
【0126】
図29に、実施例7で得られた複合ブロック体のSEM写真を示す。複合ブロック体内部は、板状結晶が緻密に集合した構造をなしており、また一部が融合した構造をなしていることが分かった。また、水中に1時間浸漬しても崩壊しなかった。すなわち、得られた複合ブロック体は、無機成分の化学的な結合、又は無機成分の結晶同士の絡み合い若しくは融合により硬化している複合ブロック体であることが分かった。
【0127】
[実施例8]シリカ-リン酸三カルシウム複合化ブロック体の調製
実施例1で得られた複合ブロック体(濃度19質量%のケイ酸ナトリウム溶液使用)及び実施例6で得られた複合ブロック体を、アルミナ焼き皿に載せ、電気炉にて5℃/minの昇温速度で1000℃まで加熱し、1000℃で12時間焼成した。
【0128】
図30に、実施例8で得られた複合ブロック体の写真を示す。いずれの複合ブロック体もモールドの形を維持しつつも、やや収縮していた。複合ブロック体の体積はいずれも60mm以上であった。なお、実施例8で得られた複合ブロック体のDTS強度はいずれも0.1MPa以上であり、ピンセットで摘まんでも崩壊せず、かつ水中に1時間浸漬しても崩壊しなかった。すなわち、得られた複合ブロック体は、無機成分の化学的な結合、又は無機成分の結晶同士の絡み合い若しくは融合により硬化している複合ブロック体であることが分かった。
【0129】
図31に、実施例8で得られた複合ブロック体のXRDによる分析結果を示す。焼成して得られた複合ブロック体は、リン酸三カルシウムβ相及び、クリストバライトの混合相となっていることが分かった。
【0130】
[実施例9]ポリアクリル酸含有シリカ-OCP複合ブロック体の調製
水溶液(B)として、4mol/Lのリン酸水溶液2mLと、1~50g/Lのポリアクリル酸ナトリウム(PAA-Na)溶液1mLと、38質量%のケイ酸ナトリウム溶液1.08mLとを混合したものを使用した以外は、実施例6と同様にして、複合ブロック体を得た。すなわち、混水比は5.83であり、水溶液(B)におけるケイ酸塩濃度は10質量%である。なお、混合に伴って炭酸カルシウム粉末が発泡したため、混合後、十分な時間静置することで脱気を行った。
【0131】
図32に、実施例9で得られた複合ブロック体の写真を示す。複合ブロック体はモールドの形を維持しており、体積はいずれも80mm以上であった。
【0132】
図33に、実施例9で得られた複合ブロック体のDTS強度の測定結果を示す。いずれの複合ブロック体でも0.1MPa以上であり、ピンセットで摘まんでも崩壊しない程度であった。また、実施例9で得られた複合ブロック体は、水中に1時間浸漬しても崩壊しなかった。すなわち、得られた複合ブロック体は、無機成分の化学的な結合、又は無機成分の結晶同士の絡み合い若しくは融合により硬化している複合ブロック体であることが分かった。
【0133】
図34に、実施例9で得られた複合ブロック体のXRDによる分析結果を示す。得られた複合ブロック体は、いずれも4.7°付近に明瞭なピークが観察され、複合ブロック体中にOCPを含有することが分かった。
【0134】
[比較例1]シリカ担持OCP粉末の調製
特許文献1の実施例1に倣い、以下の通りシリカ担持OCP粉末を得た。
セラミック(A)としてリン酸水素カルシウム二水和物(DCPD)粉末2.39gを使用し、水溶液(B)として1mol/Lのケイ酸ナトリウム溶液20mLを使用した。セラミック(A)と水溶液(B)を遠沈管中で反応させ、反応後の試料を蒸留水で数回洗浄した後、40℃の乾燥機中にて完全に乾燥させて、シリカ担持OCP粉末を得た。すなわち、混水比は8.37である。
得られた粉末0.1gを、φ8mmのステンレス製一軸加圧モールドに入れ、油圧プレスにて100MPaの荷重をかけてブロック体とした後、蒸留水中にブロック体を投入し、室温で30分静置した。
【0135】
図35に、比較例1で得られたシリカ担持OCP粉末、ブロック体、及び水中への浸漬前後のブロック体の写真を示す。特許文献1に記載された方法で製造したシリカ担持OCP粉末は、加圧により錠剤型のブロック体となったが、製造条件において混水比が6.00超であることに起因して、蒸留水に浸漬することで崩壊した。
図1
図2
図3
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図11
図12
図13
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図15
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図35