(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021608
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】アンテナモジュール
(51)【国際特許分類】
H01Q 19/09 20060101AFI20240208BHJP
H01Q 15/08 20060101ALI20240208BHJP
H01Q 3/24 20060101ALI20240208BHJP
H01Q 21/06 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
H01Q19/09
H01Q15/08
H01Q3/24
H01Q21/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022124558
(22)【出願日】2022-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】陳 強
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘康
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 翔
(72)【発明者】
【氏名】長江 眞平
(72)【発明者】
【氏名】加賀谷 修
【テーマコード(参考)】
5J020
5J021
【Fターム(参考)】
5J020AA02
5J020BB01
5J020BC03
5J021AA05
5J021AA09
5J021AA11
5J021AB07
5J021DB05
5J021GA02
5J021GA08
5J021HA02
5J021HA05
5J021JA08
(57)【要約】
【課題】複数の方向にビームを放射可能なアンテナモジュールの構成を簡素化することである。
【解決手段】本開示の一態様にかかるアンテナモジュール1は、第1誘電体層11と、第1誘電体層11の一方の面に配置された第2誘電体層12と、第1誘電体層11の他方の面に配置された反射導体層13と、第1誘電体層11に所定の波長の電磁波を供給する給電部14_1~14_3と、を備える。平面視した際、第1誘電体層11は、誘電率が互いに異なる複数の領域11_1~11_3を備え、給電部14_1~14_3は、複数の領域11_1~11_3の各々に設けられており、第1誘電体層11の各々の領域11_1~11_3の誘電率に応じたチルト角を有する電磁波16_1~16_3が第2誘電体層12の表面から放射される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1誘電体層と、
前記第1誘電体層の一方の面に配置された第2誘電体層と、
前記第1誘電体層の他方の面に配置された反射導体層と、
前記第1誘電体層に所定の波長の電磁波を供給する給電部と、を備え、
平面視した際、前記第1誘電体層は、誘電率が互いに異なる複数の領域を備え、
前記給電部は、前記複数の領域の各々に設けられており、
前記第1誘電体層の前記各々の領域の誘電率に応じたチルト角を有する電磁波が前記第2誘電体層の表面から放射される、
アンテナモジュール。
【請求項2】
前記第1誘電体層には複数の孔部が設けられており、
前記各々の領域の誘電率は、前記各々の領域に占める前記複数の孔部の体積の割合を変えることで調整されている、
請求項1に記載のアンテナモジュール。
【請求項3】
前記第1誘電体層は、前記第1誘電体層の前記一方の面から前記他方の面に向かって伸びる複数の孔部を備え、
前記各々の領域の誘電率は、前記各々の領域に占める前記複数の孔部の体積の割合を変えることで調整されている、
請求項1に記載のアンテナモジュール。
【請求項4】
前記孔部は円筒形状であり、
前記第1誘電体層の前記各々の領域の誘電率を考慮した実効波長をλeとした場合、前記孔部のピッチがλe/2よりも小さい、
請求項3に記載のアンテナモジュール。
【請求項5】
前記孔部は円筒形状であり、
前記第1誘電体層の誘電率は前記複数の孔部の半径が大きくなるほど低くなる、
請求項3に記載のアンテナモジュール。
【請求項6】
前記第1誘電体層の前記各々の領域の誘電率が高いほど、前記第2誘電体層の表面から放射される電磁波のチルト角が大きくなる、請求項1または2に記載のアンテナモジュール。
【請求項7】
前記第1誘電体層の前記各々の領域の誘電率は、前記第2誘電体層の誘電率よりも小さい、請求項1または2に記載のアンテナモジュール。
【請求項8】
前記第2誘電体層の誘電率が4~15である、請求項1または2に記載のアンテナモジュール。
【請求項9】
前記第1誘電体層の前記各々の領域の誘電率が1~3である、請求項1または2に記載のアンテナモジュール。
【請求項10】
前記電磁波の波長をλとした場合、前記第1誘電体層の前記各々の領域の幅Wおよび長さLの少なくとも一方がλ以上である、請求項1または2に記載のアンテナモジュール。
【請求項11】
前記第1誘電体層の前記各々の領域において、前記給電部は、前記第2誘電体層の表面から放射される前記電磁波の放射方向と反対側の端部に配置されている、請求項1または2に記載のアンテナモジュール。
【請求項12】
前記第1誘電体層の前記各々の領域は、前記第1誘電体層の前記一方の面と平行な第1方向に伸びるように、かつ前記第1誘電体層の前記一方の面および前記第1方向と垂直な第2方向に並ぶように設けられている、請求項1または2に記載のアンテナモジュール。
【請求項13】
前記第1誘電体層の前記各々の領域の厚さが同一である、請求項1または2に記載のアンテナモジュール。
【請求項14】
前記第1誘電体層は、前記各々の領域の間に仕切り部材を備える、請求項1または2に記載のアンテナモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アンテナモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高速かつ大容量の通信インフラが拡大しており、これに伴いアンテナモジュールの開発が進められている。特許文献1には、励振素子から放射される電磁波の垂直面内のビーム方向を変更可能なアンテナ装置が開示されている。
【0003】
特許文献1に開示されているアンテナ装置は、複数の導電体パターンがマトリクス状に配置された周期構造体と励振素子とを有する。そして、励振素子の位置を周期構造体の中心位置から垂直方向あるいは水平方向に移動させ、励振素子から放射される電磁波の垂直面内あるいは水平面内のビーム方向を変更することで、複数の方向にビームを放射している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、特許文献1に開示されている技術では、励振素子の位置を周期構造体の中心位置から移動させ、励振素子から放射される電磁波のビーム方向を変更することで、複数の方向にビームを放射している。
【0006】
しかしながら、励振素子の位置を移動させるためには移動機構が必要となるため、アンテナ装置の構成が複雑になるという問題がある。
【0007】
上記課題に鑑み本開示の目的は、複数の方向にビームを放射可能なアンテナモジュールの構成を簡素化することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様にかかるアンテナモジュールは、第1誘電体層と、前記第1誘電体層の一方の面に配置された第2誘電体層と、前記第1誘電体層の他方の面に配置された反射導体層と、前記第1誘電体層に所定の波長の電磁波を供給する給電部と、を備え、平面視した際、前記第1誘電体層は、誘電率が互いに異なる複数の領域を備え、前記給電部は、前記複数の領域の各々に設けられており、前記第1誘電体層の前記各々の領域の誘電率に応じたチルト角を有する電磁波が前記第2誘電体層の表面から放射される。
【0009】
上述のアンテナモジュールにおいて、前記第1誘電体層には複数の孔部が設けられてもよく、前記各々の領域の誘電率は、前記各々の領域に占める前記複数の孔部の体積の割合を変えることで調整されてもよい。
【0010】
上述のアンテナモジュールにおいて、前記第1誘電体層は、前記第1誘電体層の前記一方の面から前記他方の面に向かって伸びる複数の孔部を備えてもよく、前記各々の領域の誘電率は、前記各々の領域に占める前記複数の孔部の体積の割合を変えることで調整されてもよい。
【0011】
上述のアンテナモジュールにおいて、前記孔部は円筒形状でもよく、前記第1誘電体層の前記各々の領域の誘電率を考慮した実効波長をλeとした場合、前記孔部のピッチがλe/2よりも小さくてもよい。
【0012】
上述のアンテナモジュールにおいて、前記孔部は円筒形状でもよく、前記第1誘電体層の誘電率は前記複数の孔部の半径が大きくなるほど低くなってもよい。
【0013】
上述のアンテナモジュールにおいて、前記第1誘電体層の前記各々の領域の誘電率が高いほど、前記第2誘電体層の表面から放射される電磁波のチルト角が大きくなってもよい。
【0014】
上述のアンテナモジュールにおいて、前記第1誘電体層の前記各々の領域の誘電率は、前記第2誘電体層の誘電率よりも小さくてもよい。
【0015】
上述のアンテナモジュールにおいて、前記第2誘電体層の誘電率が4~15でもよい。
【0016】
上述のアンテナモジュールにおいて、前記第1誘電体層の前記各々の領域の誘電率が1~3でもよい。
【0017】
上述のアンテナモジュールにおいて、前記電磁波の波長をλとした場合、前記第1誘電体層の前記各々の領域の幅Wおよび長さLの少なくとも一方がλ以上でもよい。
【0018】
上述のアンテナモジュールにおいて、前記第1誘電体層の前記各々の領域において、前記給電部は、前記第2誘電体層の表面から放射される前記電磁波の放射方向と反対側の端部に配置されてもよい。
【0019】
上述のアンテナモジュールにおいて、前記第1誘電体層の前記各々の領域は、前記第1誘電体層の前記一方の面と平行な第1方向に伸びるように、かつ前記第1誘電体層の前記一方の面および前記第1方向と垂直な第2方向に並ぶように設けられてもよい。
【0020】
上述のアンテナモジュールにおいて、前記第1誘電体層の前記各々の領域の厚さが同一でもよい。
【0021】
上述のアンテナモジュールにおいて、前記第1誘電体層は、前記各々の領域の間に仕切り部材を備えてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本開示により、複数の方向にビームを放射可能なアンテナモジュールの構成を簡素化できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】実施の形態にかかるアンテナモジュールの構成例を示す断面図である。
【
図2】実施の形態にかかるアンテナモジュールの構成例を示す平面図である。
【
図3】実施の形態にかかるアンテナモジュールの構成例を示す斜視図である。
【
図4】関連技術にかかるアンテナモジュールを示す断面図である。
【
図5】実施の形態にかかるアンテナモジュールの構成例を示す斜視図である。
【
図6】実施の形態にかかるアンテナモジュールの構成例を示す側面図である。
【
図7】実施の形態にかかるアンテナモジュールの構成例を示す底面図である。
【
図8】実施の形態にかかるアンテナモジュールが備える第1誘電体層の構成例を示す平面図である。
【
図9】ビームのチルト角と第1誘電体層の高さとの関係を示すグラフである。
【
図10】実施の形態にかかるアンテナモジュールの他の構成例を示す平面図である。
【
図11】実施例にかかるアンテナモジュールの測定結果を示す図である。
【
図12】実施例にかかるアンテナモジュールの測定結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本開示について説明する。
図1~
図3はそれぞれ、実施の形態にかかるアンテナモジュールの構成例を示す断面図、平面図、及び斜視図である。
【0025】
図1に示すように、本実施の形態にかかるアンテナモジュール1は、第1誘電体層11、第2誘電体層12、反射導体層13、及び給電部14を備える。第2誘電体層12は、第1誘電体層11の一方の面(z軸方向プラス側の面)に配置されている。反射導体層13は、第1誘電体層11の他方の面(z軸方向マイナス側の面)に配置されている。給電部14は、第1誘電体層11に所定の波長の電磁波を供給する。
なお、本実施の形態にかかるアンテナモジュール1が適用される周波数の範囲は、例えば、3GHz~300GHzである。一例を挙げると、5Gミリ波帯(24GHz~30GHz)、今後6G通信として活用が期待される6GHz~24GHzといった帯域や92GHz~300GHzといった帯域等に適用できる。
【0026】
図2に示すように、第1誘電体層11は、平面視した際、誘電率が互いに異なる複数の領域11_1~11_3を備える。給電部14_1~14_3は、複数の領域11_1~11_3の各々に設けられている。そして本実施の形態にかかるアンテナモジュール1では、
図3に示すように、第1誘電体層11の各々の領域11_1~11_3の誘電率に応じたチルト角θ
p(
図1参照)を有する電磁波が第2誘電体層12の表面から放射される。
【0027】
なお、本明細書では、給電部14_1~14_3を総称して給電部14と記載する場合もある。また、本明細書では第1誘電体層11が3つの領域11_1~11_3を備える場合を例として説明するが、第1誘電体層11が備える領域の数は3つに限定されることはない。つまり、第1誘電体層11は2つ以上の領域を備えればよく、領域の数は任意に決定できる。以下、本実施の形態にかかるアンテナモジュール1の詳細について説明する。
【0028】
図2、
図3に示すように、第1誘電体層11は、各々誘電率の異なる複数の領域11_1~11_3を備える。具体的には、第1誘電体層11は、誘電率がε
r11の領域11_1、誘電率がε
r12の領域11_2、及び誘電率がε
r13の領域11_3を備える。第1誘電体層11の各々の領域11_1~11_3は、第1誘電体層11の主面と平行な第1方向(x軸方向)に伸びるように、かつ第1誘電体層11の主面および第1方向(x軸方向)と垂直な第2方向(y軸方向)に並ぶように設けられている。
【0029】
図1、
図3に示すように、第1誘電体層11の各々の領域11_1~11_3の厚さはh
1であり、同一の厚さを有する。ここで同一の厚さとは、各々の領域11_1~11_3の厚さが略同一である場合を含む。すなわち、各々の領域11_1~11_3をそれぞれ異なる誘電体材料で構成した場合、各々の領域11_1~11_3の厚さは加工精度等に起因する誤差が生じる場合がある。本実施の形態において第1誘電体層11の各々の領域11_1~11_3の厚さh
1は、このような誤差に起因するばらつきが含まれてもよい。なお、各々の領域11_1~11_3の厚さh
1のばらつきは、例えば±5%程度でもよく、±10%程度でもよい。
【0030】
また、本実施の形態では、第1誘電体層11の各々の領域11_1~11_3の間に仕切り部材を設けてもよい。このように仕切り部材を設けることで、各々の領域11_1~11_3間において電磁波が漏れることを抑制できる。例えば、仕切り部材は金属材料等を用いて構成できる。
【0031】
本実施の形態において、第1誘電体層11を構成する各々の領域11_1~11_3の誘電率は、使用する材料自身の誘電率の違いを用いて調整してもよく、また、物理的な形状を用いて誘電率を調整してもよい。物理的な形状を用いて誘電率を調整する場合は、例えば、第1誘電体層11に複数の孔部を形成し、各々の領域11_1~11_3に占める複数の孔部の体積の割合を変えることで、各々の領域11_1~11_3の誘電率を調整してもよい。この場合、第1誘電体層11の各々の領域11_1~11_3を構成する材料を同一の材料としてもよい。なお、複数の孔部を用いて誘電率を調整する場合については後述する。
【0032】
図1、
図3に示すように、第2誘電体層12は、第1誘電体層11のz軸方向プラス側の面に配置されている。具体的には、第2誘電体層12は、第1誘電体層11の複数の領域11_1~11_3の上面を覆うように設けられている。第2誘電体層12の誘電率はε
r2であり、厚さはh
2である。
【0033】
本実施の形態において、第1誘電体層11の各々の領域11_1~11_3の誘電率εr11~εr13は、第2誘電体層12の誘電率εr2よりも小さいことが好ましい。一例を挙げると、第1誘電体層11の各々の領域11_1~11_3の誘電率εr11~εr13は1~3である。また、第2誘電体層12の誘電率は4~15が好ましく、5~10がより好ましい。なお、これらの数値は一例であり、本実施の形態において、第1誘電体層11の各々の領域11_1~11_3の誘電率εr11~εr13、および第2誘電体層12の誘電率εr2は、これら以外の誘電率としてもよい。
【0034】
例えば、第1誘電体層11には、樹脂等の誘電体材料を使用できる。また、第2誘電体層12には、ガラス、セラミック、樹脂等の誘電体材料を使用できる。
【0035】
反射導体層13は、第1誘電体層11のz軸方向マイナス側の面に配置されている。反射導体層13は、給電部14から第1誘電体層11に供給された電磁波を第1誘電体層11のz軸方向マイナス側の面で反射させる。これにより、給電部14から供給された電磁波が第1誘電体層11内を伝搬する。反射導体層13は、金属材料等の導電性を有する材料を用いて構成できる。また、例えば、第1誘電体層11、第2誘電体層12を透明な誘電体材料で構成し、反射導体層13を透明な導電性材料で構成した場合は、アンテナモジュール1を透明なモジュールにできる。透明な導電性材料には、例えばITO(酸化インジウムスズ)等の導電性酸化物を使用できる。反射導体層13の厚さは1μm以上であることがアンテナ性能の点で好ましい。
【0036】
給電部14は、第1誘電体層11に所定の波長の電磁波を供給する。例えば、給電部14は、第1誘電体層11の底面(z軸方向マイナス側の面に)にアンテナ用電極を設けて構成してもよい。この場合は、反射導体層13と給電部14(アンテナ用電極)とが電気的に接触しないように構成する。例えば、反射導体層13と給電部14(アンテナ用電極)との間に絶縁材料(PCB(Printed Circuit Board)基板など)を設けてもよい。電磁波の実効波長をλeとすると、絶縁材料(PCB基板)の厚さは、例えばλe/4以下、好ましくはλe/10以下としてもよい。また、一例を挙げると、給電部14(アンテナ用電極)のx軸方向の長さおよびy軸方向の長さはそれぞれλe/2程度である。
【0037】
また、例えば、給電部14は、第1誘電体層11の底面に導波管を接続して構成してもよい。この場合は、第1誘電体層11の底面に設けられる反射導体層13のうち、導波管が接続される部分に開口部18を設ける(
図7参照)。
【0038】
本実施の形態にかかるアンテナモジュール1は誘電体漏れ波アンテナであり、第2誘電体層12の表面から電磁波が放射される条件は下記の通りである。
【0039】
【0040】
ここで、h1は第1誘電体層11の厚さ、εr1は第1誘電体層11の誘電率、h2は第2誘電体層12の厚さ、εr2は第2誘電体層12の誘電率、λ0は給電部14から第1誘電体層11に供給される電磁波の波長、m、nは正の整数である。なお、上記εr1は、第1誘電体層11の各々の領域11_1~11_3の誘電率εr11~εr13に対応している。
【0041】
本実施の形態では、各パラメータが上記条件を満たす場合に、第2誘電体層12の表面から電磁波が正面方向に高い利得で放射される。
【0042】
また、
図1に示すように、第2誘電体層12の表面から放射される電磁波のチルト角をθ
pとした場合、チルト角θ
pの電磁波が高い利得で放射される条件は下記の通りである。
【0043】
【0044】
本実施の形態にかかるアンテナモジュール1では、第1誘電体層11の各々の領域11_1~11_3の誘電率εr11~εr13を調整することで、各々の領域11_1~11_3に対応する位置から放射される電磁波のチルト角θpを決定できる。
【0045】
また、本実施の形態では、第2誘電体層12の表面から放射される電磁波がチルトビームとなるように、給電部14の位置を第1誘電体層11の端部側(第1誘電体層11を平面視した際の端部側)としてもよい。すなわち、給電部14の位置によっては、第2誘電体層12の表面から放射される電磁波がコニカルビームとなる場合がある。ここでコニカルビームとは、チルトビームを中心軸を中心に一周させた形状のビームである。この点を考慮し本実施の形態では、
図2、
図3に示すように、給電部14_1~14_3の位置を第1誘電体層の各々の領域11_1~11_3の端部側としている。このような構成とすることで、第2誘電体層12の表面から放射される電磁波をチルトビームにできる。
【0046】
例えば、第1誘電体層11の各々の領域11_1~11_3において、給電部14_1~14_3は、第2誘電体層12の表面から放射される電磁波16_1~16_3(
図3参照)の放射方向と反対側の端部に配置してもよい。具体的には、
図3に示すように、第1誘電体層11の領域11_2において、電磁波16_2の放射方向はx軸方向プラス側なので、給電部14_2は領域11_2のx軸方向マイナス側に配置する。また、第1誘電体層11の領域11_3において、電磁波16_3の放射方向はx軸方向マイナス側なので、給電部14_3は領域11_3のx軸方向プラス側に配置する。なお、給電部14のz軸方向の位置は特に限定されないが、例えば給電部14(アンテナ用電極)に給電するための配線をz軸方向マイナス側に設ける場合は、反射導体層13の近傍(例えば、λ
e/10以下程度)に給電部14を設けるのが好ましい。
【0047】
図4は、関連技術にかかるアンテナモジュールを示す断面図である。
図4に示すアンテナモジュール101は、第1誘電体層111_1~111_3、第2誘電体層112、反射導体層113_1~113_3、及び給電部114_1~114_3を備える。例えば、第1誘電体層111_1~111_3を構成する材料を同一の誘電率ε
r1を有する材料で構成した場合、上記式(3)、(4)に示したように、第2誘電体層112の表面から放射される電磁波のチルト角θ
pは、第1誘電体層11の厚さh
1を用いて調整する。このため、
図4に示すアンテナモジュール101では、電磁波のチルト角θ
pに応じて、第1誘電体層111_1~111_3の厚さh
11~h
13を調整する必要がある。しかしながらこの場合は、電磁波のチルト角θ
pごとに第1誘電体層111_1~111_3の厚さh
11~h
13が変わるので、アンテナモジュールの構造が複雑になる。
【0048】
これに対して本実施の形態にかかるアンテナモジュール1では、
図1、
図2に示すように第1誘電体層11の各々の領域11_1~11_3の誘電率ε
r11~ε
r13を調整することで、各々の領域11_1~11_3に対応する位置から放射される電磁波のチルト角θ
pを決定している。このような構成とすることで、第1誘電体層11の各々の領域11_1~11_3の厚さを同一の厚さh
1にできる。したがって、アンテナモジュールの構成を簡素化できる。
【0049】
次に、本実施の形態にかかるアンテナモジュール1が備える第1誘電体層11の構成例について説明する。
図5~
図7はそれぞれ、本実施の形態にかかるアンテナモジュールの構成例を示す斜視図、側面図、及び底面図である。
【0050】
図5、
図6に示す第1誘電体層11は、第1誘電体層11の一方の面から他方の面に向かって伸びる複数の孔部22を備える。つまり、第1誘電体層11は母材21と当該母材21に設けられた複数の孔部22を備える。
図7に示すように、アンテナモジュールの底面に配置された反射導体層13には開口部18が設けられている。開口部18には導波管(不図示)が接続される。導波管(不図示)を伝搬した電磁波は、開口部18を介して第1誘電体層11に供給される。
【0051】
図8は、本実施の形態にかかるアンテナモジュールが備える第1誘電体層の構成例を示す平面図である。
図8に示すように、第1誘電体層11の各々の領域11_1~11_3の誘電率は、各々の領域11_1~11_3に占める複数の孔部22_1~22_3(
図5、
図6に示した孔部22に対応)の体積の割合を変えることで調整できる。すなわち、第1誘電体層11の領域11_1の誘電率は、領域11_1の母材21_1と複数の孔部22_1との体積の割合を変えることで調整できる。また、第1誘電体層11の領域11_2の誘電率は、領域11_2の母材21_2と複数の孔部22_2との体積の割合を変えることで調整できる。また、第1誘電体層11の領域11_3の誘電率は、領域11_3の母材21_3と複数の孔部22_3との体積の割合を変えることで調整できる。なお、各々の領域11_1~11_3の母材21_1~21_3は同一の材料を用いて構成してもよく、異なる材料を用いて構成してもよい。異なる材料を用いて構成した場合は、材料そのものの誘電率と、母材に占める孔部22の割合の2つを用いて、誘電率を調整できる。
【0052】
例えば、
図5に示すように、孔部22は円筒形状でもよく、この場合は円筒形状の孔部22の半径rを調整することで、第1誘電体層11の誘電率を調整できる。具体的には、第1誘電体層11の誘電率は、複数の孔部22の半径rが大きくなるほど低くなり、複数の孔部22の半径rが小さくなるほど高くなる。なお、
図5においてpは孔部22のピッチを示している。
【0053】
つまり、第1誘電体層11の誘電率(実効誘電率)εsは、母材の誘電率をεm、空気の誘電率を1とした場合、次の式で表される。
【0054】
実効誘電率εs=(εm×母材の体積+1×孔部の体積)/第1誘電体層の領域の体積
【0055】
ここで、母材の誘電率εmは1よりも大きいので、第1誘電体層11の各々の領域の誘電率は、孔部22の半径rが大きくなるほど低くなり、孔部22の半径rが小さくなるほど高くなる。
【0056】
本実施の形態にかかるアンテナモジュール1では第1誘電体層11の各々の領域11_1~11_3の厚さはh
1で均一である。よって、第2誘電体層12の表面から放射される電磁波のチルト角θ
pは、
図8に示すように、第1誘電体層11の各々の領域11_1~11_3の実効誘電率を調整することで、つまり、各々の領域11_1~11_3の孔部22_1~22_3の半径rをそれぞれ調整することで決定できる。このときの実効誘電率ε
sとチルト角θ
pの関係は次の式で表される。
【0057】
【0058】
上記式から、第1誘電体層11の各々の領域11_1~11_3の誘電率(実効誘電率)εsが高いほど、第2誘電体層12の表面から放射される電磁波のチルト角θpが大きくなる。逆に、第1誘電体層11の各々の領域11_1~11_3の誘電率(実効誘電率)εsが低いほど、第2誘電体層12の表面から放射される電磁波のチルト角θpが小さくなる。
【0059】
換言すると、第1誘電体層11の各々の領域11_1~11_3の孔部22_1~22_3の半径rが大きいほど誘電率(実効誘電率)ε
sが低くなるので、第2誘電体層12の表面から放射される電磁波のチルト角θ
pは小さくなる。逆に、第1誘電体層11の各々の領域11_1~11_3の孔部22_1~22_3の半径rが小さいほど誘電率(実効誘電率)ε
sが高くなるので、第2誘電体層12の表面から放射される電磁波のチルト角θ
pは大きくなる。
図8に示す構成例では、第1誘電体層11の領域11_1、領域11_2、領域11_3の順に孔部22_1~22_3の半径rが小さくなるので、領域11_1、領域11_2、領域11_3の順に電磁波のチルト角θ
pは大きくなる。
【0060】
また、本実施の形態では、第1誘電体層11の各々の領域の誘電率を考慮した実効波長をλ
eとした場合、孔部22のピッチp(
図5参照)がλ
e/2よりも小さいことが好ましい。
【0061】
また、本実施の形態では、電磁波の波長をλとした場合、第1誘電体層11の各々の領域の幅W(
図5参照)はλ以上が好ましく、3λ/2以上がより好ましく、利得を考慮すると2λ以上が更に好ましい。一方、幅Wが大きすぎると開口効率が悪化する(つまり、放射に寄与しない部分が増加する)ため、幅Wは8λ以下が好ましい。
【0062】
また、本実施の形態では、電磁波の波長をλとした場合、第1誘電体層11の各々の領域の長さL(
図5参照)はλ以上が好ましく、3λ/2以上がより好ましく、利得を考慮すると2λ以上が更に好ましい。一方、長さLが大きすぎると開口効率が悪化する(つまり、放射に寄与しない部分が増加する)ため、長さLは8λ以下が好ましい。
【0063】
また、本実施の形態では、
図7に示した距離l
s(第2誘電体層12の端部から開口部18までの距離)は、電磁波の波長をλとした場合、2λ以下が好ましい。このような範囲とすることで、コニカルビームの発生を抑制でき、第2誘電体層12の表面から放射される電磁波をペンシルビームにできる。性能面を考慮すると、距離l
sの範囲は、λ以下がより好ましい。また、
図7に示した開口部18の寸法bは、導波管内の誘電体(誘電率ε
rg)に対する電気長をλ
gとするとλ
g/2以上λ
g以下としてもよい。ここで、λ
g=λ/(ε
rg)
1/2である。また、開口部18の寸法aは、λ
g/2よりも小さい値となる。
【0064】
なお、本実施の形態では、第1誘電体層11および第2誘電体層12の側面に金属壁を設けてもよく、この場合は距離lsの最小値は0となる。つまり、第1誘電体層11および第2誘電体層12の側面に金属壁を設けた場合は、距離lsを0にしても第1誘電体層11および第2誘電体層12の側面から電磁波が放射されるのを抑制できる。したがって、この場合は、距離lsの最小値は0となる。また、第1誘電体層11および第2誘電体層12の側面に金属壁を設けた場合は、他のビームのアンテナとの干渉を抑制できる。
【0065】
図9は、ビームのチルト角θ
pと第1誘電体層の高さh
1との関係を示すグラフである。
図9は式(5)を用いて作成したグラフであり、第1誘電体層11の実効誘電率ε
sを1、1.33、2とし、m=1、2の場合を図示している。
【0066】
図9に示すように、第1誘電体層11の実効誘電率ε
sが1の場合は、第1誘電体層11の高さh
1において、モードm=1のビーム(チルト角θ
p=60°)とモードm=2のビーム(チルト角θ
p=0°)の2つのビームが放射される。つまり、この場合は、第2誘電体層12の表面から放射される電磁波が2つに割れてしまう。
【0067】
一方、第1誘電体層11の実効誘電率εsが1.33、2の場合は、モードm=1のチルト角θp=0~90°およびモードm=2のチルト角θp=0~90°において重なる部分がないので、第2誘電体層12の表面から放射される電磁波が1つとなる。したがってこの場合は、ビームが2つに割れることを抑制できる。
【0068】
第1誘電体層11の実効誘電率εsの範囲について検討すると、上記式(5)において通常はm=1を用いるので、2つのビームができる条件は、最大チルト角θpのとき、m=2の条件で別のチルト角θpのビームがあるか否かで判断できる。この判断は以下の式から行える。
【0069】
【0070】
このとき最大となるεsはεr1なので、第1誘電体層11の誘電率εr1は、εr1>4/3sin2θpが好ましい。また、このとき第1誘電体層11の誘電率εr1と第2誘電体層12の誘電率εr2とが、εr1<εr2を満たす必要もある。
【0071】
また、第1誘電体層11の高さh
1について検討すると、
図5に示したように第1誘電体層11に孔部22を設けた場合は、実現できる実効誘電率に下限が存在する。つまり、第1誘電体層11に孔部22を設けた際に孔部22同士が接続されたり、3Dプリンタで第1誘電体層11を作製した場合でも強度の問題が発生する。このため、チルト角θ
p=0の場合に要求される実効誘電率ε
sが、実現可能な最低値よりも大きな値となるように高さを設定する必要がある。このようにすることで、幅広い角度のビームを実現できる。
【0072】
例えば、第1誘電体層11にドリルを用いて穴を開けて孔部22を形成する場合、実効誘電率εsは下記の式で表される。
【0073】
【0074】
このとき、孔部22同士がつながらない条件として、0≦r<p/2を設定すると、実効誘電率εsの範囲は下記の式で表される。
【0075】
【0076】
このとき、高さh1の範囲は、孔部22が空いた状態で、チルト角θp=0を達成するために、下記の範囲である必要がある。
【0077】
【0078】
なお、上記説明では孔部22を設けた場合について説明したが、孔部22を備える構造以外として、より一般的に表現すると以下の通りとなる。
【0079】
【0080】
以上で説明した本開示により、複数の方向にビームを放射可能なアンテナモジュールの構成を簡素化できる。
【0081】
図10は、本実施の形態にかかるアンテナモジュールの他の構成例を示す平面図である。本実施の形態では、
図10に示すように、第1誘電体層11の各々の領域11_1~11_3に複数の給電部14a~14hを設けてもよい。
【0082】
具体的には
図10に示すように、領域11_1に給電部14a、14b、14cを設け、領域11_2に給電部14d、14eを設け、領域11_3に給電部14f、14g、14hを設けてもよい。そして、これらの給電部14a~14hの中から電磁波を供給する給電部を切り替えることで、第2誘電体層12の表面から放射される電磁波の方向(チルト角)を切り替えられる。換言すると、第1誘電体層11の各々の領域11_1~11_3において、第1誘電体層11の各々の領域11_1~11_3の誘電率および給電部14a~14hの位置に応じたチルト角θ
pを有する電磁波を、第2誘電体層12の表面から放射できる。
【0083】
また、上記構成例では、第1誘電体層11の各々の領域11_1~11_3に形成された孔部22の割合を変えることで、各々の領域11_1~11_3の誘電率を調整する場合について説明した。しかし本実施の形態では、各々の領域11_1~11_3の誘電材料(母材)に混合物を入れ、密度を調整することで誘電率を調整してもよい。また、2種以上の誘電材料を用いて、各々の領域11_1~11_3の誘電率を調整してもよい。また上述の孔部22の形状を円筒形状以外の形状としてもよい。また、上述の孔部22は第1誘電体層11を貫通しなくてもよく、孔部22の深さを調整することで、各々の領域11_1~11_3の誘電率を調整してもよい。また、各々の領域11_1~11_3の誘電材料(母材)に気泡を混入させることで、各々の領域11_1~11_3の誘電率を調整してもよい。なお、これらは一例であり、本実施の形態では、これら以外の手法を用いて各々の領域11_1~11_3の誘電率を調整してもよい。
【実施例0084】
次に、実施例について説明する。実施例にかかるアンテナモジュールとして、
図5~
図7に示した構成を備えるアンテナモジュールを作成した。このとき、第1誘電体層11(
図5参照)の長さLを240mm、幅Wを60mm、高さh
1を12.5mmとした。第1誘電体層11には高密度ポリエチレンを用いた。また、第2誘電体層12の高さh
2(
図6参照)を3.3mmとした。なお、第2誘電体層12の長さLおよび幅W(
図5参照)は、第1誘電体層11と同様である(長さL=240mm、幅W=60mm)。第2誘電体層12にはガラス板を用いた。第1誘電体層11のピッチpは10mm、開口部18の寸法aは10.16mm、寸法bは22.86mm、第2誘電体層12の端部から開口部18までの距離l
sは、放射される電磁波の設定角度(チルト角)θ
pが0°の場合は108.57mmとし、それ以外の設定角度の場合は8.57mmとした。
【0085】
また、放射される電磁波の設定角度(チルト角)θpに応じて、第1誘電体層11の実効誘電率を決定した。実効誘電率は、第1誘電体層11に形成する孔部22の半径rを変更することで調整した。
【0086】
具体的には、
図12の表に示すように、設定角度θ
pが0°の場合は孔部22の半径rを4.62mmとし、実効誘電率を1.44とした。設定角度θ
pが20°の場合は孔部22の半径rを4.31mmとし、実効誘電率を1.56とした。設定角度θ
pが40°の場合は孔部22の半径rを3.40mmとし、実効誘電率を1.85とした。設定角度θ
pが60°の場合は孔部22の半径rを1.89mmとし、実効誘電率を2.19とした。
【0087】
そして、給電部14から第1誘電体層11に動作周波数10GHzの電磁波を供給した際のビームパターン(利得)を測定した。
図11、
図12に測定結果を示す。設定角度θ
pが0°のサンプルでは、ピーク角度が10°、利得が11.2dBiとなった。設定角度θ
pが20°のサンプルでは、ピーク角度が12°、利得が11.8dBiとなった。設定角度θ
pが40°のサンプルでは、ピーク角度が44°、利得が7.2dBiとなった。設定角度θ
pが60°のサンプルでは、ピーク角度が59°、利得が10.5dBiとなった。このように、第1誘電体層11の実効誘電率を調整することで、放射される電磁波のチルト角θ
pを調整できた。
【0088】
以上、本発明を上記実施の形態に即して説明したが、本発明は上記実施の形態の構成にのみ限定されるものではなく、本願特許請求の範囲の請求項の発明の範囲内で当業者であればなし得る各種変形、修正、組み合わせを含むことは勿論である。