(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021644
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】発光素子、表示装置及び照明
(51)【国際特許分類】
H05B 33/14 20060101AFI20240208BHJP
H10K 50/15 20230101ALI20240208BHJP
H10K 59/10 20230101ALI20240208BHJP
G09F 9/30 20060101ALI20240208BHJP
C09K 11/66 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
H05B33/14 Z
H05B33/22 D
H01L27/32
G09F9/30 365
C09K11/66
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022124631
(22)【出願日】2022-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(74)【代理人】
【識別番号】100154391
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康義
(72)【発明者】
【氏名】岡部 一毅
(72)【発明者】
【氏名】中山 英典
(72)【発明者】
【氏名】服部 繁樹
【テーマコード(参考)】
3K107
4H001
5C094
【Fターム(参考)】
3K107AA06
3K107BB01
3K107BB02
3K107CC12
3K107CC22
3K107DD53
3K107DD57
3K107DD59
3K107DD71
3K107DD78
4H001CA04
4H001YA35
4H001YA55
4H001YA82
5C094AA24
5C094AA37
5C094BA27
5C094FB01
(57)【要約】
【課題】ハロゲン化鉛ペロブスカイト量子ドットを含有する発光層を有し、駆動電圧が低く、駆動寿命が長い発光素子並びにその発光素子を備える表示装置及び照明を提供すること。
【解決手段】陽極2、陰極7、発光層5、及び正孔注入層3を有する発光素子8であって、前記発光層5は、前記陽極2及び前記陰極7の間に設けられ、前記正孔注入層3は、前記陽極2及び前記発光層5の間に設けられ、前記発光層5は、オリゴマーが配位した、ハロゲン化鉛ペロブスカイト量子ドットを含有し、前記正孔注入層3は、テトラアリールホウ酸イオンを含有する、発光素子。本発明の発光素子8を備える、表示装置又は照明。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極、陰極、発光層、及び正孔注入層を有する発光素子であって、
前記発光層は、前記陽極及び前記陰極の間に設けられ、
前記正孔注入層は、前記陽極及び前記発光層の間に設けられ、
前記発光層は、オリゴマーが配位した、ハロゲン化鉛ペロブスカイト量子ドットを含有し、
前記正孔注入層は、テトラアリールホウ酸イオンを含有する、発光素子。
【請求項2】
前記テトラアリールホウ酸イオンは、下記式(1)で表される、請求項1に記載の発光素子。
【化1】
(式(1)中、
Ar
1、Ar
2、Ar
3及びAr
4は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基、又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基及び置換基を有していてもよい芳香族複素環基から選択される構造が複数連結した1価の基を表し、
Ar
1、Ar
2、Ar
3及びAr
4の少なくとも1つは、フッ素原子又はフッ素置換されたアルキル基を置換基として有する。)
【請求項3】
前記式(1)におけるAr
1、Ar
2、Ar
3及びAr
4の少なくとも1つが、下記式(2)で表される基である、請求項2に記載の発光素子。
【化2】
(式(2)中、
R
1は、各々独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基及び置換基を有していてもよい芳香族複素環基から選択される構造が複数連結した1価の基、又はフッ素置換されたアルキル基であり、
F
4はフッ素原子が4個置換していることを表し、
F
(5-m)は、各々独立にフッ素原子が5-m個置換していることを表し、
kは、各々独立に、0~5の整数を表し、
mは、各々独立に、0~5の整数を表す。)
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の発光素子を備える、表示装置又は照明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン化鉛ペロブスカイト量子ドットを用いた発光素子、並びにその発光素子を備える表示装置及び照明に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜型の電界発光素子として、有機薄膜を用いた有機電界発光素子の開発が行われている。有機電界発光素子(OLED)は、通常、陽極と陰極の間に、正孔注入層、正孔輸送層、有機発光層、電子輸送層などを有し、この各層に適した材料が開発されつつあり、発光色も赤、緑、青と、それぞれに開発が進んでいる。
近年、発光層に無機発光物質である「量子ドット」を用い、赤、緑、及び、青の光源をシャープな発光スペクトルとすることで、より広い色域をカバーする試みがなされている。量子ドットを用いた電界発光素子は量子ドット発光素子(QLED)とも呼ばれている。
その中でも、ハロゲン化鉛ペロブスカイト量子ドットは安価な前駆体を用いて比較的温和な条件で合成できる、量子ドットの粒径に加えてハロゲンの組成により可視光領域で発光波長を制御できる、といった特徴がある。
【0003】
また、量子ドット発光素子は、通常、湿式成膜法(塗布法)によって形成される。湿式成膜法は、大面積化が容易で、様々な機能をもった複数の材料を混合した塗布液を用いることにより、容易に、様々な機能をもった複数の材料を含有する層を形成できる等の利点がある。以上の理由から、塗布法での製膜による量子ドット発光素子の研究開発が進められてきている。
例えば、特許文献1~3には、ポリスチレンスルホン酸を含有する正孔注入層と、ハロゲン化鉛ペロブスカイト量子ドットを含有する発光層とを有する量子ドット発光素子が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-140309号公報
【特許文献2】特開2020-170710号公報
【特許文献3】特開2021-96947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、一般的に、量子ドットはその粒径サイズゆえに表面原子を多く有し、その表面原子は反応性が高いと考えられている。また、ペロブスカイト量子ドットはイオン性であるために、アニオン・カチオンの空孔形成エネルギーが低く、表面欠陥が容易に形成されると考えられる。
そのため、特許文献1~3に開示された技術では、量子ドット発光素子の駆動電圧の低減が不十分であり、また、駆動寿命を向上させることができなかった。特許文献1~3に開示された技術では、強酸性のポリスチレンスルホン酸を含有する正孔注入層を用いているので、正孔注入層形成時に取り込まれた水分やスルホン酸基が、量子ドットと反応したり、量子ドットと酸素等との反応を促進したりすることが原因と考えられる。
【0006】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、ハロゲン化鉛ペロブスカイト量子ドットを含有する発光層を有し、駆動電圧が低く、駆動寿命が長い発光素子、並びにその発光素子を備える表示装置及び照明を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、特定の量子ドットと正孔注入層とを組み合わせることで、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明の要旨は、次の<1>~<4>のとおりである。
<1>陽極、陰極、発光層、及び正孔注入層を有する発光素子であって、
前記発光層は、前記陽極及び前記陰極の間に設けられ、
前記正孔注入層は、前記陽極及び前記発光層の間に設けられ、
前記発光層は、オリゴマーが配位した、ハロゲン化鉛ペロブスカイト量子ドットを含有し、
前記正孔注入層は、テトラアリールホウ酸イオンを含有する、発光素子。
<2>前記テトラアリールホウ酸イオンは、下記式(1)で表される、<1>に記載の発光素子。
【化1】
(式(1)中、
Ar
1、Ar
2、Ar
3及びAr
4は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基、又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基及び置換基を有していてもよい芳香族複素環基から選択される構造が複数連結した1価の基を表し、
Ar
1、Ar
2、Ar
3及びAr
4の少なくとも1つは、フッ素原子又はフッ素置換されたアルキル基を置換基として有する。)
<3>前記式(1)におけるAr
1、Ar
2、Ar
3及びAr
4の少なくとも1つが、下記式(2)で表される基である、<2>に記載の発光素子。
【化2】
(式(2)中、
R
1は、各々独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基及び置換基を有していてもよい芳香族複素環基から選択される構造が複数連結した1価の基、又はフッ素置換されたアルキル基であり、
F
4はフッ素原子が4個置換していることを表し、
F
(5-m)は、各々独立にフッ素原子が5-m個置換していることを表し、
kは、各々独立に、0~5の整数を表し、
mは、各々独立に、0~5の整数を表す。)
<4><1>~<3>のいずれか1つに記載の発光素子を備える、表示装置又は照明。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ハロゲン化鉛ペロブスカイト量子ドットを含有する発光層を有し、駆動電圧が低く、駆動寿命が長い発光素子、並びにその発光素子を備える表示装置及び照明を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の発光素子の構造例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の一実施形態である発光素子を詳細に説明する。以下の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)である第一の実施形態であるが、本発明は、その要旨を超えない限り、これらの内容に特定されない。
【0012】
本発明の発光素子は、陽極、陰極、発光層、及び正孔注入層を有する発光素子であり、発光層は、陽極及び陰極の間に設けられ、正孔注入層は、陽極及び発光層の間に設けられ、発光層は、オリゴマーが配位した、ハロゲン化鉛ペロブスカイト量子ドットを含有し、正孔注入層は、テトラアリールホウ酸イオンを含有する。
【0013】
本発明の発光素子が、駆動電圧が低く、駆動寿命が長い理由は定かではないが、以下が推定される。
【0014】
量子ドットはその粒径サイズゆえに表面原子を多く有し、その表面原子は反応性が高いと考えられており、様々な官能基や酸素、水などと反応しやすい。また、ペロブスカイト量子ドットはイオン性であるために、アニオン・カチオンの空孔形成エネルギーが低く、様々な官能基や酸素、水などにより表面欠陥が容易に形成される。
【0015】
一般に、正孔注入層には電子受容性化合物を用いることで、金属である陽極からの正孔注入を促進させ、駆動電圧を低減する方法が用いられている。しかし、従来の技術では、正孔注入層の上の層を、湿式成膜法によって形成する際に、正孔注入層中の強酸性の電子受容性化合物が拡散して発光層に到達し、電子受容性化合物がハロゲン化鉛ペロブスカイト量子ドットの表面原子と素子駆動中に反応、あるいは表面欠陥を形成したり、またあるいは電子受容性化合物がハロゲン化鉛ペロブスカイト量子ドットの表面原子と酸素等との反応を促進したりすることで、駆動電圧の上昇や、駆動寿命の低減につながっていたと考えられる。
【0016】
一方、テトラアリールホウ酸イオンを正孔注入層に含有させることで、正孔注入層の上の層を、湿式成膜法によって形成する際に、電子受容性化合物が拡散することを抑制することができ、拡散して発光層に到達した場合にも、テトラアリールホウ酸イオンは安定であるため、その反応性は小さいと考えられる。このため、テトラアリールホウ酸イオンを用いることで、駆動中の劣化反応を抑えることができると推定される。
【0017】
以上のように、ハロゲン化鉛ペロブスカイト量子ドットを発光層に用い、テトラアリールホウ酸イオンを正孔注入層に含有させることで、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
[発光層]
発光層は、発光物質としてハロゲン化鉛ペロブスカイト量子ドットを含む。ハロゲン化鉛ペロブスカイト量子ドットは、発光性のハロゲン化鉛ペロブスカイト量子ドットのナノ粒子で、通常、直径は1nm以上、好ましくは3nm以上であり、また30nm以下であり、好ましくは20nm以下である。
【0019】
量子ドットに使用されるハロゲン化鉛ペロブスカイトは、一般式ABX3で表される化合物である。ここで、AはAサイトを占有する化学種(つまり、Aサイトカチオン)であり、BはBサイトを占有する化学種(つまり、Bサイトカチオン)であり、Xは、Xサイトを占有する化学種である。なお、Aサイトカチオン及びBサイトカチオンという用語は、形式電荷としてそれぞれ+1価及び+2価を有するものの、あくまでAサイト及びBサイトの各サイトの化学種を表し、実際の化合物において形式電荷のとおりの電荷を有していなくてもよい。
【0020】
Aサイトカチオンとしては、有機カチオン及び無機カチオンの少なくとも一方である。無機カチオンとしては、アルカリ金属イオンが挙げられる。アルカリ金属イオンとしては、Cs+、Rb+、K+、Na+、及びLi+が挙げられる。
【0021】
Aサイトの有機カチオンとしては、窒素含有有機カチオンが挙げられる。窒素含有有機カチオンとしては、アンモニウムカチオン、アミジニウムカチオン、グアニジウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン及びプロトン化チオウレアカチオンからなる群から選択される少なくとも一種であるカチオンが挙げられ、より具体的には、以下の式(a-1)~(a-7)で表されるカチオン、すなわち、第一級~第四級アンモニウムカチオン(a-1)(ただし、(a-2)で表されるものを除く)、ピロリジニウムカチオン(a-2)、アミジニウムカチオン(a-3)、グアニジニウムカチオン(a-4)、イミダゾリウムカチオン(a-5)、ピリジニウムカチオン(a-6)、及びプロトン化チオウレアカチオン(a-7)等が挙げられる。
【0022】
【0023】
ここで、式(a-1)において、Rは、互いに独立して、水素原子、又は炭素数1~4のアルキル基、フェニル基、ベンジル基、フェネチル基、ハロゲン原子、若しくは擬ハロゲンを表す、又は2つのRが一緒になって炭素数2~6のアルキレン基を形成する。
Rがアルキル基の場合、Rとしては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。
2つのRが一緒になって炭素数2~6のアルキレン基を形成する場合、当該アルキレン基としては、エチレン基、n-プロピレン基、2,2-ジメチルプロピレン基等が挙げられる。
式(a-1)で表されるカチオンとしては、ベンジルアンモニウムカチオン、iso-ブチルアンモニウムカチオン、n-ブチルアンモニウムカチオン、t-ブチルアンモニウムカチオン、ジエチルアンモニウムカチオン、ジメチルアンモニウムカチオン、エチルアンモニウムカチオン、メチルアンモニウムカチオン(MA)、フェネチルアンモニウムカチオン、iso-プロピルアンモニウムカチオン、n-プロピルアンモニウムカチオン等が挙げられ、メチルアンモニウムカチオンが好ましい。
【0024】
式(a-2)~(a-7)において、R2は、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表す。炭素数1~4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、tert-ブチル基等が挙げられ、メチル基、又はエチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。なお、分子内にR2が複数ある場合、各R2は、互いに異なっていてもよく、同じものであってもよい。
式(a-3)において、R1は、メチル基、水素原子、ハロゲン原子、又は擬ハロゲンを表す。
式(a-3)のカチオンとしては、アセトアミジニウムカチオン、ホルムアミジニウムカチオン(FA)等が挙げられ、ホルムアミジニウムカチオンが好ましい。
式(a-2)、及び式(a-4)~(a-7)のカチオンとしては、ピリジニウムカチオン、グアニジニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、1-メチルイミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、1-メチルピリジニウムカチオン、プロトン化チオウレアカチオンが挙げられる。
【0025】
BサイトカチオンはPbである。また、BサイトカチオンはPbに加えて、Pb以外の金属のカチオンを含んでもよい。Pb以外の金属のカチオンには、例えば、Ge、Sn、Sb、Bi、Cu、Ni、Co、Fe、Mn、Cr、Pd、Cd、Eu、Yb、Ag等が挙げられ、Snのカチオンが好ましい。Bサイトカチオンは1種のみであってもよいが、2種以上であってもよい。
【0026】
Xは、Xサイトを占有する化学種である。なお、Xサイトは、Bサイトに位置する元素を中心とした八面体構造の頂点に位置するサイトであり、ペロブスカイト型酸化物の酸素が存在するサイトに対応するものである。Xとしては、Cl、Br、I等のハロゲンが挙げられ、Cl、Br又はIが好ましい。これらは、アニオンとして存在していてもよく、Bサイトを占有する元素に配位結合していてもよい。また、Xは、ハロゲンに加えて、ハロゲン以外の元素を含んでもよい。ハロゲン以外の元素には、例えば、-CN(シアニド)、-SCN(チオシアネート)、-NSC(イソチオシアネート)、-S(スルフィド)等が挙げられ、これらも、アニオンとして存在していてもよく、Bサイトを占有する元素に配位結合していてもよい。ハロゲン化鉛ペロブスカイトは、Xとして、1種又は2種以上の化学種を含むことができる。
【0027】
A、B及びXは、発光性ナノ粒子内のポテンシャル、並びにA、B及びXに含まれる原子のサイズ等を考慮して適宜選択することができる。
【0028】
これらのハロゲン化鉛ペロブスカイトは,1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。これらのハロゲン化鉛ペロブスカイトの中で、CsPbBr3、CsPbBrnI3-nが望ましい。
【0029】
ハロゲン化鉛ペロブスカイト量子ドットには、オリゴマーが配位している。ハロゲン化鉛ペロブスカイト量子ドットに配位するオリゴマーには、例えば、チオフェン、ピロール、フェニレンビニレン、ビニルカルバゾール、フルオレン、フェニレン、側鎖または主鎖に芳香族アミンを含むアリーレン、側鎖または主鎖にカルバゾールを含むアリーレン骨格等を繰り返し単位として有するオリゴマーが挙げられる。ハロゲン化鉛ペロブスカイト量子ドットに配位するオリゴマーは、好ましくは2~100量体であり、より好ましくは3~20量体である。
【0030】
ハロゲン化鉛ペロブスカイト量子ドットに配位する共役系のポリマー及びオリゴマーは、ハロゲン化鉛ペロブスカイト量子ドットに吸着するための吸着部位を有していてもよい。吸着部位としては、一価の基としては、カルボキシル基(-COOH)、アミノ基(-NH2)、ホスフィノ基(-PH2)、及び、チオール基(-SH)等が挙げられ、また、2価の基としては、カルボニル基(>(C=O))等があげられ、また、3価の基としては、ホスホロソ基(>(P=O)-)等が挙げられる。また、2,2’-ビピリジン骨格や8-キノリノール骨格等も吸着部位として使用できる。
【0031】
ハロゲン化鉛ペロブスカイト量子ドットの作製方法は、特に限定されず、既知の作製方法でハロゲン化鉛ペロブスカイト量子ドットを作製することができる。ハロゲン化鉛ペロブスカイト量子ドットの作製方法には、例えば、トップダウン手法、ボトムアップ手法、フロー合成法等が挙げられる。トップダウン手法とは、粉砕、すり潰し、超音波照射等の物理的操作によりハロゲン化鉛ペロブスカイト量子ドットを作製する手法である。トップダウン手法には、例えば、乾式又は湿式のボールミル粉砕法、超音波ビーズミル法等が挙げられる。ボトムアップ手法とは、原紙や分子の組合せやそれらの集積により、ハロゲン化鉛ペロブスカイト量子ドットを作製する手法である。ボトムアップ手法には、例えば、ハロゲン化鉛ペロブスカイト量子ドットの前駆体からハロゲン化鉛ペロブスカイト量子ドットを再沈殿する手法であるホットインジェクション法、極性溶媒中にペロブスカイト量子ドットのA、Bサイト前駆体、2種の配位子を溶解した前駆体溶液を調整し、調整した前駆体溶液を非極性溶媒中に一気に注入することで、2つの溶媒の溶解度差でハロゲン化鉛ペロブスカイト量子ドットを作製する手法である配位子支援再沈殿法等が挙げられる。フロー合成法とは、ハロゲン化鉛ペロブスカイト量子ドットを断続的に作製可能なスケールアップ手法である。フロー合成法には、例えば、T字ミキサー法、強制薄膜式マイクロリアクター法等が挙げられる。これらのハロゲン化鉛ペロブスカイト量子ドットの作製方法の中でボトムアップ手法、特にホットインジェクション法が好ましい。
【0032】
[発光層形成用組成物]
発光層の形成方法は、真空蒸着法及び湿式成膜法のどちらでもよいが、好ましくは湿式成膜法である。湿式成膜法の場合、発光層は有機溶剤を含む発光層形成用組成物を塗布、乾燥して成膜する。
発光層形成用組成物は、オリゴマーが配位した、ハロゲン化鉛ペロブスカイト量子ドット(以下、「ハロゲン化鉛ペロブスカイト量子ドット」を単に「量子ドット」と呼ぶ場合がある)及び有機溶剤を含む。
【0033】
(有機溶剤)
発光層形成用組成物に含有される有機溶剤は、湿式成膜により量子ドットを含む層を形成するために用いる、揮発性を有する液体成分である。
【0034】
該有機溶剤は、溶質である量子ドットが良好に溶解する有機溶剤であれば特に限定されない。
【0035】
好ましい有機溶剤としては、例えば、n-デカン、シクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、デカリン、ビシクロヘキサン等のアルカン類;トルエン、キシレン、メシチレン、フェニルシクロヘキサン、テトラリン、メチルナフタレン等の芳香族炭化水素類;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素類;1,2-ジメトキシベンゼン、1,3-ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2-メトキシトルエン、3-メトキシトルエン、4-メトキシトルエン、2,3-ジメチルアニソール、2,4-ジメチルアニソール、ジフェニルエーテル等の芳香族エーテル類;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n-ブチル等の芳香族エステル類;シクロヘキサノン、シクロオクタノン、フェンコン等の脂環族ケトン類;シクロヘキサノール、シクロオクタノール等の脂環族アルコール類;メチルエチルケトン、ジブチルケトン等の脂肪族ケトン類;ブタノール、ヘキサノール等の脂肪族アルコール類;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル類;等が挙げられる。
【0036】
これらの中でも、粘度と沸点の観点から、アルカン類、芳香族炭化水素類、芳香族エステル類が好ましい。
【0037】
これらの有機溶剤は1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、及び比率で用いてもよい。
【0038】
用いる有機溶剤の沸点は通常80℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、また、通常350℃以下、好ましくは330℃以下、より好ましくは300℃以下である。有機溶剤の沸点がこの範囲を下回ると、湿式成膜時において、発光層形成用組成物からの溶剤蒸発により、成膜安定性が低下する可能性がある。有機溶剤の沸点がこの範囲を上回ると、湿式成膜時において、成膜後の溶剤残留により、成膜安定性が低下する可能性がある。
【0039】
(含有量)
発光層形成用組成物における量子ドットの含有量は、通常0.001質量%以上、好ましくは0.01質量%以上、通常30.0質量%以下、好ましくは20.0質量%以下である。当該含有量をこの範囲とすることにより、隣接する層(例えば、正孔輸送層や正孔阻止層)から発光層へ効率良く、正孔や電子の注入が行われ、駆動電圧を低減することができる。なお、量子ドットは発光層形成用組成物中に、1種のみ含まれていてもよく、2種以上が組み合わされて含まれていてもよい。
【0040】
発光層形成用組成物に含まれる有機溶媒の含有量は、通常10質量%以上、好ましくは50質量%以上、特に好ましくは80質量%以上で、通常99.95質量%以下、好ましくは99.9質量%以下、特に好ましくは99.8質量%以下である。有機溶媒の含有量が上記下限以上であれば適度な粘度を有して塗布性が向上し、上記上限以下であれば均一な膜が得られやすく成膜性が良好となる。
【0041】
(その他の成分)
発光層形成用組成物は、必要に応じて、上記の化合物の他に、更に他の化合物を含有してもよい。他の化合物としては、好ましくは、酸化防止剤として知られているジブチルヒドロキシトルエンや、ジブチルフェノール等のフェノール類、及び、公知の電荷輸送性化合物が挙げられる。
【0042】
(成膜方法)
発光層の形成方法は、好ましくは湿式成膜法である。湿式成膜法とは、組成物を塗布して液膜を形成し、乾燥して有機溶媒を除去し、発光層の膜を形成する方法である。塗布方法としては、例えば、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、キャピラリーコート法、インクジェット法、ノズルプリンティング法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法等の湿式で成膜させる方法を採用し、塗布膜を乾燥させて膜形成を行う。これらの塗布方法の中でも、スピンコート法、スプレーコート法、インクジェット法、ノズルプリンティング法等が好ましい。量子ドットの発光素子を備えた量子ドット表示装置を製造する場合は、インクジェット法又はノズルプリンティング法が好ましく、インクジェット法が特に好ましい。
【0043】
乾燥方法は特に限定されないが、自然乾燥、減圧乾燥、加熱乾燥、又は、加熱しながらの減圧乾燥を適宜用いることができる。加熱乾燥は、自然乾燥又は減圧乾燥の後、更に残留有機溶媒を除去するために実施してもよい。
【0044】
減圧乾燥は、発光層形成用組成物に含まれる有機溶媒の蒸気圧以下に減圧することが好ましい。
【0045】
加熱する場合は、加熱方法は特に限定されないが、ホットプレートによる加熱、オーブン内での加熱、赤外線加熱等を用いることができる。加熱温度は通常80℃以上、100℃以上が好ましく、110℃以上がさらに好ましく、また、200℃以下が好ましく、150℃以下がさらに好ましい。
【0046】
加熱時間は、通常1分以上、2分以上が好ましく、通常60分以下、30分以下が好ましく、20分以下がさらに好ましい。
【0047】
[正孔注入層]
正孔注入層は正孔を輸送する機能が必要であるため、正孔輸送材料を含む。
【0048】
陽極から正孔注入層への正孔注入性を向上させ、正孔注入層内での正孔輸送性を向上させるため、正孔注入層に含まれる正孔輸送材料はカチオンラジカル部位を含むことが好ましい。正孔輸送材料をカチオンラジカル化させるため、正孔注入層を形成する場合に電子受容性化合物を用いる。電子受容性化合物の母骨格としては、後述するイオン価1のアニオンであるテトラアリールホウ酸イオンと対カチオンからなるイオン化合物が高い安定性を有するため好ましい。
【0049】
正孔輸送材料のカチオンラジカル化は次のように行われる。正孔輸送材料として例えばトリアリールアミン構造を有する化合物を用いた場合、ジアリールヨードニウムを対カチオンとするテトラアリールホウ酸塩を電子受容性化合物として用いると、正孔注入層形成時に、下記式のように対カチオンはジアリールヨードニウムからトリアリールアミニウムに変わり得る。
【0050】
【0051】
(例えば、Ar、Ar1~Ar4は各々独立に、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基、又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基及び置換基を有していてもよい芳香族複素環基から選択される構造が複数連結した1価の基である。)
【0052】
上記反応で生成したトリアリールアミニウムは電子を受容し得る半占軌道(SOMO)を有している。本発明においては、この正孔輸送材料のカチオンとアニオンであるテトラアリールホウ酸イオンからなる化合物を、電荷輸送性イオン化合物と称する。詳細は後述する。
【0053】
[テトラアリールホウ酸イオン]
テトラアリールホウ酸イオンは、ホウ素原子に、4つの、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環又は置換を有していてもよい芳香族複素環が置換した、イオン価1のアニオンである。
【0054】
本発明の発光素子に含まれる、テトラアリールホウ酸イオンは、アリール基の置換基として、フッ素原子又はフッ素置換されたアルキル基を有することが、安定性がさらに向上する点で好ましい。すなわち、下記式(1)で表されることが好ましい。
【0055】
【0056】
(式(1)中、
Ar1、Ar2、Ar3及びAr4は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基、又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基及び置換基を有していてもよい芳香族複素環基から選択される構造が複数連結した1価の基を表し、
Ar1、Ar2、Ar3及びAr4の少なくとも1つは、フッ素原子又はフッ素置換されたアルキル基を置換基として有する。)
【0057】
Ar1、Ar2、Ar3及びAr4に用いられる芳香族炭化水素環基としては、単環、2~6縮合環が好ましい。具体的には、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、フルオレン環、ビフェニル構造、テルフェニル構造、又はクアテルフェニル構造が挙げられる。
【0058】
Ar1、Ar2、Ar3及びAr4に用いられる芳香族複素環基としては、単環、2~6縮合環が好ましい。具体的には、フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シンノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、又はアズレン環が挙げられる。
【0059】
中でも、安定性、耐熱性に優れることから、ベンゼン環、ナフタレン環、フルオレン環、ピリジン環もしくはカルバゾール環由来の1価の基またはビフェニル基がより好ましい。特に好ましくはベンゼン環由来の1価の基、すなわちフェニル基又はビフェニル基である。
【0060】
置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基及び置換基を有していてもよい芳香族複素環基から選択される構造が複数連結した1価の基に含まれる、単環又は2~6縮合環の芳香族炭化水素環基及び、単環又は2~6縮合環の芳香族複素環基の合計の数は2以上であり、8以下が好ましく、4以下がさらに好ましく、3以下がより好ましい。
【0061】
Ar1、Ar2、Ar3及びAr4が有してもよい置換基としては、後述の置換基群Wに記載の基が挙げられる。
【0062】
Ar1、Ar2、Ar3及びAr4の置換基としては、アニオンの安定性が増し、カチオンを安定させる効果が向上する点から、フッ素原子又はフッ素置換されたアルキル基が好ましい。また、フッ素原子又はフッ素置換されたアルキル基は、Ar1、Ar2、Ar3及びAr4のうち、2つ以上に置換していることが好ましく、3つ以上に置換していることがより好ましく、4つに置換していることが最も好ましい。
【0063】
Ar1、Ar2、Ar3及びAr4の置換基としてのフッ素置換されたアルキル基としては、炭素数1~12の直鎖又は分岐のアルキル基であってフッ素原子が置換している基が好ましく、パーフルオロアルキル基がより好ましく、炭素数1~5の直鎖又は分岐のパーフルオロアルキル基がさらに好ましく、炭素数1~3の直鎖又は分岐のパーフルオロアルキル基が特に好ましく、パーフルオロメチル基が最も好ましい。
【0064】
本発明の発光素子に含まれる、テトラアリールホウ酸イオンは、アニオンの安定性がさらに増し、カチオンを安定させる効果がさらに向上する点で、前記式(1)におけるAr1、Ar2、Ar3及びAr4の少なくとも一つが式(2)で表される基であることが好ましく、Ar1、Ar2、Ar3及びAr4の少なくとも二つが各々独立に式(2)で表される基であることがより好ましく、Ar1、Ar2、Ar3及びAr4の少なくとも三つが各々独立に式(2)で表される基であることがさらに好ましく、Ar1、Ar2、Ar3及びAr4すべてが各々独立に式(2)で表される基であることが最も好ましい。
【0065】
【0066】
(式(2)中、
R1は、各々独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基及び置換基を有していてもよい芳香族複素環基から選択される構造が複数連結した1価の基、フッ素置換されたアルキル基、又は置換基であり、
F4はフッ素原子が4個置換していることを表し、
F(5-m)は、各々独立にフッ素原子が5-m個置換していることを表し、
kは、各々独立に、0~5の整数を表し、
mは、各々独立に、0~5の整数を表す。)
【0067】
kはアニオンの安定性がさらに向上する点で1以上が好ましく、2以上がより好ましい。kは偏りなく分散しやすい点で0又は1が好ましく、0が好ましい。
【0068】
mは耐久性により優れる点で、0が好ましく、テトラアリールホウ酸イオンに種々の機能を導入可能な点で、1以上が好ましく、耐久性との両立の点で1又は2がさらに好ましい。
アニオンの安定性が向上し、耐久性も優れる点で、k+m≧1であることが好ましい。
【0069】
R1の芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基としては、その好ましい構造及び有してもよい置換基は、Ar1、Ar2、Ar3及びAr4の構造及び有してもよい置換基と同様である。
【0070】
R1の置換基及びR1が置換基である場合の置換基としては、後述の置換基群Wに記載の基が挙げられる。
【0071】
式(2)においては、アニオンの安定性がさらに増し、カチオンを安定させる効果がさらに向上する点で、少なくとも一つのR1は前記フッ素置換されたアルキル基であることが好ましく、ペルフルオロアルキル基であることが好ましく、トリフルオロメチル基であることがより好ましい。
【0072】
(置換基群W)
置換基群Wは、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、1~5の芳香族炭化水素環からなる芳香族炭化水素環基、脂肪族炭化水素環基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルケトン基またはアリールケトン基である。
【0073】
ハロゲン原子の例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、沃素原子などが挙げられ、フッ素原子が化合物の安定性から好ましい。化合物の安定性の面からフッ素原子が4つ以上置換されていることが特に好ましい。
【0074】
1~5の芳香族炭化水素環からなる芳香環族炭化水素基としては、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、クアテルフェニル基、ナフチル基、フェナントレニル基、トリフェニレン基、ナフチルフェニル基等が挙げられ、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、ターフェニル基またはクアテルフェニル基が化合物の安定性から好ましい。
【0075】
脂肪族炭化水素環基の例としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0076】
アルキル基としては、炭素数が通常1以上であり、好ましくは4以上であり、通常24以下であり、好ましくは12以下であり、さらに好ましくは8以下であり、より好ましくは6以下である。具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、2エチルヘキシル基、ドデシル基等が挙げられる。
【0077】
アルケニル基としては、炭素数が通常2以上であり、通常24以下であり、好ましくは12以下である。具体的には、ビニル基、プロペニル基、ブテニル基等が挙げられる。
【0078】
アルキニル基としては、炭素数が通常2以上であり、通常24以下であり、好ましくは12以下であり、具体的には、アセチル基、プロピニル基、ブチニル基等が挙げられる。
【0079】
アラルキル基の例としては、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルヘキシル基等が挙げられる。
【0080】
アルコキシ基としては、炭素数が通常1以上であり、通常24以下であり、好ましくは12以下でありさらに好ましくは6以下であり、具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、ブチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基等が挙げられる。
【0081】
アリールオキシ基としては、炭素数が通常4以上であり、好ましくは5以上であり、さらに好ましくは6以上であり、通常36以下であり、好ましくは24以下であり、さらに好ましくは12以下であり、具体例としては、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等が挙げられる。
【0082】
アルキルチオ基としては、炭素数が通常1以上であり、通常24以下であり、好ましくは12以下であり、具体例としては、メチルチオ基、エチルチオ基、ブチルチオ基、ヘキシルチオ基等が挙げられる。
【0083】
アリールチオ基としては、炭素数が通常4以上であり、好ましくは5以上であり、通常36以下であり、好ましくは24以下であり、具体例としては、フェニルチオ基、ナフチルチオ基等が挙げられる。
【0084】
アルキルケトン基としては、炭素数が通常1以上であり、通常24以下であり、好ましくは12以下でありさらに好ましくは6以下であり、具体例としては、アセチル基、エチルカルボニル基、ブチルカルボニル基、オクチルカルボニル基等が挙げられる。
【0085】
アリールケトン基としては、炭素数が通常5以上であり、好ましくは7以上であり、通常25以下であり、好ましくは13以下であり、具体例としては、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基等が挙げられる。
【0086】
また、隣り合う置換基同士が結合して、環を形成してもよい。
環を形成した例としては、シクロブテン環、シクロペンテン環等が挙げられる。
【0087】
また、これらの置換基にさらに置換基が置換されていてもよく、その置換基の例としては、ハロゲン原子、アルキル基、又はアリール基が挙げられる。
【0088】
これらの置換基の中でも、ハロゲン原子またはアリール基が化合物の安定性の点で好ましい。最も好ましくはハロゲン原子であり、ハロゲン原子の中でもフッ素原子が好ましい。
【0089】
[テトラアリールホウ酸イオンの具体例]
以下に、本発明の発光素子に用いるテトラアリールホウ酸イオンの具体例を挙げるが、これらに限定されるものではない。
【0090】
【0091】
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
上記具体例のうち、電子受容性、耐熱性、溶解性の点で、好ましくは、(A-1)、(A-2)の化合物である。
【0100】
[テトラアリールホウ酸イオンを含む電子受容性イオン化合物]
テトラアリールホウ酸イオンは、テトラアリールホウ酸イオンを含む電子受容性イオン化合物として用いられることも好ましい。テトラアリールホウ酸イオンを含む電子受容性イオン化合物を第1のイオン化合物と称する。第1のイオン化合物は、アニオンである前記テトラアリールホウ酸イオンと対カチオンからなる。第1のイオン化合物は、電子受容性化合物として用いられる。
【0101】
対カチオンとしては、ヨードニウムカチオン、スルホニウムカチオン、カルボカチオン、オキソニウムカチオン、アンモニウムカチオン、ホスホニウムカチオン、シクロヘプチルトリエニルカチオンまたは遷移金属を有するフェロセニウムカチオンが好ましく、ヨードニウムカチオン、スルホニウムカチオン、カルボカチオン、アンモニウムカチオンがより好ましく、ヨードニウムカチオンが特に好ましい。
【0102】
ヨードニウムカチオンとして好ましくは、後述の一般式(6)で表される構造であり、さらに好ましい構造も同様である。
【0103】
ヨードニウムカチオンとして具体的には、ジフェニルヨードニウムカチオン、ビス(4-tert-ブチルフェニル)ヨードニウムカチオン、4-tert-ブトキシフェニルフェニルヨードニウムカチオン、4-メトキシフェニルフェニルヨードニウムカチオン、4-イソプロピルフェニル-4-メチルフェニルヨードニウムカチオン等が好ましい。
【0104】
スルホニウムカチオンとして具体的には、トリフェニルスルホニウムカチオン、4-ヒドロキシフェニルジフェニルスルホニウムカチオン、4-シクロヘキシルフェニルジフェニルスルホニウムカチオン、4-メタンスルホニルフェニルジフェニルスルホニウムカチオン、(4-tert-ブトキシフェニル)ジフェニルスルホニウムカチオン、ビス(4-tert-ブトキシフェニル)フェニルスルホニウムカチオン、4-シクロヘキシルスルホニルフェニルジフェニルスルホニウムカチオン等が好ましい。
【0105】
カルボカチオンとして具体的には、トリフェニルカルボカチオン、トリ(メチルフェニル)カルボカチオン、トリ(ジメチルフェニル)カルボカチオンなどの三置換カルボカチオン等が好ましい。
【0106】
アンモニウムカチオンとして具体的には、トリメチルアンモニウムカチオン、トリエチルアンモニウムカチオン、トリプロピルアンモニウムカチオン、トリブチルアンモニウムカチオン、トリ(n-ブチル)アンモニウムカチオンなどのトリアルキルアンモニウムカチオン;N,N-ジエチルアニリニウムカチオン、N,N-2,4,6-ペンタメチルアニリニウムカチオンなどのN,N-ジアルキルアニリニウムカチオン;ジ(イソプロピル)アンモニウムカチオン、ジシクロヘキシルアンモニウムカチオンなどのジアルキルアンモニウムカチオン等が好ましい。
【0107】
ホスホニウムカチオンとして具体的には、テトラフェニルホスホニウムカチオン、テトラキス(メチルフェニル)ホスホニウムカチオン、テトラキス(ジメチルフェニル)ホスホニウムカチオンなどのテトラアリールホスホニウムカチオン;テトラブチルホスホニウムカチオン、テトラプロピルホスホニウムカチオンなどのテトラアルキルホスホニウムカチオン等が好ましい。
【0108】
これらの中では、化合物の膜安定性の点でヨードニウムカチオン、カルボカチオン、スルホニウムカチオンが好ましく、ヨードニウムカチオンがより好ましい。
【0109】
第1のイオン化合物の対カチオンとしてのヨードニウムカチオンは、下記式(3)で表される構造が好ましい。
【0110】
【0111】
式(3)中、Ar5、Ar6は各々独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基である。Ar5、Ar6としての芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基は、Ar1、Ar2、Ar3及びAr4の場合と同じ構造から選択することが出来、好ましい構造もAr1、Ar2、Ar3及びAr4の場合と同じ構造から選択することが出来る。
【0112】
また、前記式(3)で表される対カチオンは、下記式(4)で表されることが好ましい。
【0113】
【0114】
式(4)中、Ar7及びAr8は、前述の式(3)におけるAr5及びAr6が有していてもよい置換基と同様である。
【0115】
本発明において使用される第1のイオン化合物の分子量は、通常900以上、好ましくは1000以上、更に好ましくは1200以上、また、通常10000以下、好ましくは5000以下、更に好ましくは3000以下の範囲である。分子量が小さすぎると、正電荷及び負電荷の非局在化が不十分なため、電子受容能が低下するおそれがあり、分子量が大きすぎると、電荷輸送の妨げとなるおそれがある。
【0116】
[具体例]
以下に本発明における第1のイオン化合物として、ヨードニウムカチオンとのイオン化合物の具体例を挙げるが、第1のイオン化合物はこれらに限定されるものではない。
【0117】
【0118】
【0119】
【0120】
【0121】
【0122】
【0123】
【0124】
【0125】
【0126】
【0127】
【0128】
上記具体例のうち、電子受容性、耐熱性、溶解性の点で、好ましくは、(B-1)、(B-2)のいずれかで表される化合物である。
【0129】
[正孔輸送材料]
正孔注入層は、正孔輸送材料を含んでもよい。正孔輸送材料としては、4.5eV~5.5eVのイオン化ポテンシャルを有する化合物が正孔輸送能の点で好ましい。正孔輸送材料には、例えば、芳香族アミン化合物、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、オリゴチオフェン誘導体等が挙げられる。中でも非晶質性、溶剤への溶解度、可視光の透過率の点から、芳香族アミン化合物が好ましい。
【0130】
芳香族アミン化合物の中でも、本発明では特に、芳香族三級アミン化合物が好ましい。なお、本発明でいう芳香族三級アミン化合物とは、芳香族三級アミン構造を有する化合物であって、芳香族三級アミン由来の基を有する化合物も含む。
【0131】
芳香族三級アミン化合物の種類は特に制限されないが、高分子化合物である芳香族三級アミン高分子化合物が好ましい。高分子化合物の重量平均分子量は、表面平滑化効果の点から、5000以上が好ましく、7000以上がさらに好ましく、10000以上が特に好ましく、1000000以下が好ましく、200000以下がさらに好ましく、100000以下が特に好ましい。芳香族三級アミン高分子化合物の中でも、正孔輸送性の観点から、トリフェニルアミン構造を主鎖に有する高分子化合物がさらに好ましい。
【0132】
[芳香族三級アミン高分子化合物]
芳香族三級アミン高分子化合物の好ましい例として、下記式(5)で表わされる繰り返し単位を有する高分子化合物が挙げられる。
【0133】
【0134】
上記式(5)中、j10、k10、l10、m10、n10、p10は、各々独立に、0以上の整数を表す。但し、l10+m10≧1である。
【0135】
上記式(5)中、Ar11、Ar12、Ar14は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい2価の芳香環基を表す。Ar13は、置換基を有していてもよい2価の芳香環基または下記式(6)で表される2価の基を表し、Q11、Q12は、各々独立に、酸素原子、硫黄原子、置換基を有していてもよい炭素数6以下の炭化水素鎖を表し、S1~S4は、各々独立に、下記式(7)で示される基で表される。
【0136】
Ar11、Ar12、Ar14の芳香環基は、置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい2価の芳香族複素環基、又は2価の芳香族炭化水素基及び2価の芳香族複素環基から選択される少なくとも2つの基が複数個連結した2価の基を表す。Ar11、Ar12、Ar14の芳香環基の炭素数は60以下が好ましい。
【0137】
芳香族炭化水素基としては、炭素数が6以上、30以下が好ましく、具体的には、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、又はフルオレン環等の、6員環の単環若しくは2~5縮合環の2価の基が挙げられる。
【0138】
芳香族複素環基としては、炭素数が3以上、30以下が好ましく、具体的には、フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シンノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、又はアズレン環等の2価の基が挙げられる。
【0139】
中でも、電荷輸送性が優れる点、耐久性、耐熱性に優れることから、ベンゼン環、ナフタレン環、フルオレン環、ピリジン環もしくはカルバゾール環由来の2価の基またはビフェニル基が好ましい。
【0140】
これら芳香環基は置換基を有してもよく、有してよい置換基は前記置換基群Wから選択することができる。
【0141】
Ar13が芳香環基である場合は、Ar11、Ar12、Ar14の場合と同様である。
Ar13はまた、下記式(6)で表される2価の基が好ましい。
【0142】
【0143】
上記式(6)中、R11は、アルキル基、芳香環基または炭素数40以下のアルキル基と芳香環基からなる3価の基を表し、これらは置換基を有していてもよい。R12は、アルキル基、芳香環基または炭素数40以下のアルキル基と芳香環基からなる2価の基を表し、これらは置換基を有していてもよい。Ar31は、1価の芳香環基を表し、これらの基は置換基を有していてもよい。アスタリスク(*)は式(5)の窒素原子との結合手を示す。
【0144】
R11の芳香環基の具体例としては、フェニル環、ナフタレン環、カルバゾール環、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環及びこれらが連結した炭素数30以下の連結環由来の3価の基が挙げられる。
【0145】
R11のアルキル基の具体例としては、メタン、エタン、プロパン、イソプロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン由来の3価の基等が挙げられる。
【0146】
R12の芳香環基の具体例としては、フェニル環、ナフタレン環、カルバゾール環、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環及びこれらが連結した炭素数30以下の連結環由来の2価の基が挙げられる。
【0147】
R12のアルキル基の具体例としては、メタン、エタン、プロパン、イソプロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン由来の2価の基等が挙げられる。
【0148】
Ar31の芳香環基の具体例としては、フェニル環、ナフタレン環、カルバゾール環、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環及びこれらが連結した炭素数30以下の連結環由来の1価の基が挙げられる。
【0149】
S1~S4は各々独立に、下記式(7)で表される基である。
【0150】
【0151】
上記式(7)中、q,rは各々独立に、0~6の整数を表す。
q、rは各々独立に好ましくは0~4であり、さらに好ましくは0または1である。
【0152】
Ar21、Ar23は、それぞれ独立に、2価の芳香環基を表し、これらの基は置換基を有していてもよい。Ar22は置換基を有していてもよい1価の芳香環基を表し、R13は、アルキル基、芳香環基またはアルキル基と芳香環基からなる2価の基を表し、これらは置換基を有していてもよい。Ar32は1価の芳香環基を表し、これらの基は置換基を有していてもよい。アスタリスク(*)は一般式(5)の窒素原子との結合手を示す。
【0153】
Ar21、Ar23の芳香環基の例としては、Ar11、Ar12、Ar14の場合と同様である。
【0154】
Ar22、Ar32の芳香環基は、置換基を有していてもよい一価の芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい一価の芳香族複素環基、又は一価の芳香族炭化水素基及び一価の芳香族複素環基から選択される少なくとも2つの基が複数個連結した一価の基を表す。Ar22、Ar32の芳香環基の炭素数は60以下が好ましい。
【0155】
芳香族炭化水素基としては、炭素数が6以上、30以下が好ましく、具体的には、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、又はフルオレン環等の、6員環の単環若しくは2~5縮合環の一価の基が挙げられる。
【0156】
芳香族複素環基としては、炭素数が3以上、30以下が好ましく、具体的には、フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シンノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、又はアズレン環等の一価の基が挙げられる。
【0157】
中でも、電荷輸送性が優れる点、耐久性、耐熱性に優れることから、ベンゼン環、ナフタレン環、フルオレン環、ピリジン環もしくはカルバゾール環由来の一価の基またはビフェニル基が好ましい。
【0158】
これら芳香環基は置換基を有してもよく、有してよい置換基は前記置換基群Wから選択することができる。
【0159】
R13のアルキル基または芳香環基の例としては、R12と同様である。
【0160】
上記Ar11~Ar14、R11、R12、Ar21~Ar23、Ar31~Ar32、Q11、Q12はいずれも、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、更に置換基を有していてもよい。置換基の分子量としては、通常400以下、中でも250以下程度が好ましい。置換基の種類は特に制限されないが、例としては、前記置換基群Wから選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
【0161】
特に、式(5)で表わされる繰り返し単位を有する高分子化合物の中でも、下記式(8)で表わされる繰り返し単位を有する高分子化合物が、正孔注入性及び正孔輸送性が非常に高くなるので好ましい。
【0162】
【0163】
上記式(8)中、R21~R25は各々独立に、任意の置換基を表わす。R21~R25の置換基の具体例は、前記置換基群Wに記載されている置換基と同様である。
【0164】
Y’は置換基を有していてもよい炭素数30以下の2価の芳香環基を表わす。Y’の芳香環基の例としては、前記Ar11、Ar12及びAr14の場合と同様であり、有してよい置換基も同様である。
【0165】
s、tは各々独立に、0以上、5以下の整数を表わす。
u、v、wは各々独立に、0以上、4以下の整数を表わす。
【0166】
芳香族三級アミン高分子化合物の好ましい例として、下記式(9)及び/又は式(10)で表わされる繰り返し単位を含む高分子化合物が挙げられる。
【0167】
【0168】
上記式(9)、式(10)中、Ar45、Ar47及びAr48は各々独立して、置換基を有していてもよい1価の芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい1価の芳香族複素環基を表わす。Ar44及びAr46は各々独立して、置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい2価の芳香族複素環基を表わす。R41~R43は各々独立して、水素原子又は任意の置換基を表わす。rは0~2の整数である。
【0169】
Ar45、Ar47及びAr48の具体例、好ましい例、有していてもよい置換基の例及び好ましい置換基の例は、それぞれ独立に、Ar22及びAr32の場合と同様である
。
【0170】
Ar44及びAr46の具体例、好ましい例、有していてもよい置換基の例及び好ましい置換基の例は、それぞれ独立に、Ar11及びAr14の場合と同様である。
【0171】
R41~R43として好ましくは、水素原子又は前記置換基群Wに記載されている置換基であり、中でも好ましくは、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、芳香族炭化水素基または芳香族複素環基である。
【0172】
rは好ましくは0または1であり、さらに好ましくは0である。
【0173】
以下に、本発明において適用可能な、式(9)及び/又は式(10)で表わされる繰り返し単位の好ましい具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0174】
【0175】
その他、正孔輸送材料として適用可能な芳香族アミン化合物としては、量子ドット発光素子における正孔注入性及び正孔輸送性の層形成材料として利用されてきた、従来公知の化合物が挙げられる。例えば、1,1-ビス(4-ジ-p-トリルアミノフェニル)シクロヘキサン等の3級芳香族アミンユニットを連結した芳香族ジアミン化合物(日本国特開昭59-194393号公報);4,4’-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニルで代表される2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族アミン(日本国特開平5-234681号公報);トリフェニルベンゼンの誘導体でスターバースト構造を有する芳香族トリアミン(米国特許第4,923,774号明細書);N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス(3-メチルフェニル
)ビフェニル-4,4’-ジアミン等の芳香族ジアミン(米国特許第4,764,625号明細書);α,α,α’,α’-テトラメチル-α,α’-ビス(4-ジ-p-トリルアミノフェニル)-p-キシレン(日本国特開平3-269084号公報);分子全体として立体的に非対称なトリフェニルアミン誘導体(日本国特開平4-129271号公報);ピレニル基に芳香族ジアミノ基が複数個置換した化合物(日本国特開平4-175395号公報);エチレン基で3級芳香族アミンユニットを連結した芳香族ジアミン(日本国特開平4-264189号公報);スチリル構造を有する芳香族ジアミン(日本国特開平4-290851号公報);チオフェン基で芳香族3級アミンユニットを連結したもの(日本国特開平4-304466号公報);スターバースト型芳香族トリアミン(日本国特開平4-308688号公報);ベンジルフェニル化合物(日本国特開平4-364153号公報);フルオレン基で3級アミンを連結したもの(日本国特開平5-25473号公報);トリアミン化合物(日本国特開平5-239455号公報);ビスジピリジルアミノビフェニル(日本国特開平5-320634号公報);N,N,N-トリフェニルアミン誘導体(日本国特開平6-1972号公報);フェノキサジン構造を有する芳香族ジアミン(日本国特開平7-138562号公報);ジアミノフェニルフェナントリジン誘導体(日本国特開平7-252474号公報);ヒドラゾン化合物(日本国特開平2-311591号公報);シラザン化合物(米国特許第4,950,950号明細書);シラナミン誘導体(日本国特開平6-49079号公報);ホスファミン誘導体(日本国特
開平6-25659号公報);キナクリドン化合物等が挙げられる。これらの芳香族アミン化合物は、必要に応じて2種以上を混合して用いてもよい。
【0176】
また、正孔輸送材料として適用可能な芳香族アミン化合物のその他の具体例としては、ジアリールアミノ基を有する8-ヒドロキシキノリン誘導体の金属錯体が挙げられる。上記の金属錯体は、中心金属がアルカリ金属、アルカリ土類金属、Sc、Y、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Cd、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Sm、Eu、Tbのいずれかから選ばれ、配位子である8-ヒドロキシキノリンはジアリールアミノ基を置換基として1つ以上有するが、ジアリールアミノ基以外に任意の置換基を有することがある。
【0177】
また、正孔輸送材料として適用可能なフタロシアニン誘導体又はポルフィリン誘導体の好ましい具体例としては、ポルフィリン、5,10,15,20-テトラフェニル-21H,23H-ポルフィリン、5,10,15,20-テトラフェニル-21H,23H-ポルフィリンコバルト(II)、5,10,15,20-テトラフェニル-21H,23H-ポルフィリン銅(II)、5,10,15,20-テトラフェニル-21H,23H-ポルフィリン亜鉛(II)、5,10,15,20-テトラフェニル-21H,23H-ポルフィリンバナジウム(IV)オキシド、5,10,15,20-テトラ(4-ピリジル)-21H,23H-ポルフィリン、29H,31H-フタロシアニン銅(II)、フタロシアニン亜鉛(II)、フタロシアニンチタン、フタロシアニンオキシドマグネシウム、フタロシアニン鉛、フタロシアニン銅(II)、4,4’,4’’,4’’’-テトラアザ-29H,31H-フタロシアニン等が挙げられる。
【0178】
また、正孔輸送材料として適用可能なオリゴチオフェン誘導体の好ましい具体例としては、α-セキシチオフェン等が挙げられる。
【0179】
なお、これらの正孔輸送材料の分子量は、上述した特定の繰り返し単位を有する高分子化合物の場合を除いて、通常5000以下、好ましくは3000以下、より好ましくは2000以下、更に好ましくは1700以下、特に好ましくは1400以下、また、通常200以上、好ましくは400以上、より好ましくは600以上の範囲である。正孔輸送材料の分子量が大き過ぎると合成及び精製が困難であり好ましくない一方で、分子量が小さ過ぎると耐熱性が低くなる虞がありやはり好ましくない。
【0180】
本発明の発光素子の正孔注入層は、テトラアリールホウ酸イオンに加えて、上述の正孔輸送材料のうち何れか一種を単独でさらに含有していてもよく、二種以上を含有していてもよい。正孔注入層が、テトラアリールホウ酸イオンに加えて二種以上の正孔輸送材料を含有する場合、その組み合わせは任意であるが、テトラアリールホウ酸イオンに加えて、芳香族三級アミン高分子化合物一種又は二種以上と、その他の正孔輸送材料一種又は二種以上とを併用するのが好ましい。前述の高分子化合物と併用する正孔輸送材料の種類としては、芳香族アミン化合物が好ましい。
【0181】
本発明の発光素子の正孔注入層における正孔輸送材料の含有量は、上述した電子受容性化合物との比率を満たす範囲となるようにする。二種以上の正孔輸送材料を併用する場合には、これらの合計の含有量が上記範囲に含まれるようにする。
【0182】
[電荷輸送性イオン化合物]
本発明の発光素子の正孔注入層は、前記テトラアリールホウ酸イオンと、正孔輸送材料のカチオンラジカルとがイオン結合した電荷輸送性イオン化合物を含むことが好ましい。
【0183】
本発明の発光素子の正孔注入層は、前記テトラアリールホウ酸イオンと、正孔輸送材料として前記芳香族三級アミン高分子化合物のカチオンラジカルとがイオン結合した電荷輸送性イオン化合物を含むことが特に好ましい。
【0184】
この電荷輸送性イオン化合物は、以下のいずれかの方法で得ることができる。
i)前記第1のイオン化合物と、前記正孔輸送材料とを有機溶剤に溶解又は分散して混合する。
ii)前記第1のイオン化合物と、前記正孔輸送材料とを有機溶剤に溶解又は分散して混合し、さらに加熱する。
iii)前記i)またはii)で得られた組成物を湿式成膜し、膜を加熱する。
【0185】
第1のイオン化合物は電子受容性化合物であるため、上記いずれかの方法で第1のイオン化合物によって前記正孔輸送材料が酸化されてカチオンラジカル化する。その結果、前記テトラアリールホウ酸イオンを対アニオンとし、正孔輸送材料のカチオンラジカルを対カチオンとしたイオン化合物である、電荷輸送性イオン化合物が生成する。
【0186】
本発明の発光素子の正孔注入層は、前記テトラアリールホウ酸イオンを対アニオンとして含む第1のイオン化合物と正孔輸送材料を含むことが好ましく、前記テトラアリールホウ酸イオンを対アニオンとし、正孔輸送材料のカチオンラジカルを対カチオンとした電荷輸送性イオン化合物を含むことが、電荷輸送性の観点からさらに好ましい。
【0187】
[正孔注入層形成用組成物]
本発明の発光素子の正孔注入層は、正孔注入層形成用組成物を湿式成膜して得ることが好ましい。
【0188】
正孔注入層形成用組成物は、前記テトラアリールホウ酸イオン構造を有する第1のイオン化合物及び前記正孔輸送材料を有機溶剤に溶解又は分散させる工程を経て得られた組成物であることが好ましい。
【0189】
均一な正孔注入層の膜を得る観点から、正孔注入層形成用組成物は、好ましくは、第1のイオン化合物及び前記正孔輸送材料が有機溶剤に溶解している溶液である。
【0190】
前記i)の方法で得られた正孔注入層形成用組成物中には、前記電荷輸送性イオン化合物が含まれていなくても、前記ii)または前記iii)の方法で前記電荷輸送性イオン化合物が得られればよく、前記ii)の方法で得られた正孔注入層形成用組成物中に前記電荷輸送性イオン化合物が含まれていなくても、前記iii)の方法で前記電荷輸送性イオン化合物が得られればよい。
【0191】
正孔注入層形成用組成物を得るための、前記第1のイオン化合物と前記正孔輸送材料の配合比は、前記第1のイオン化合物の量が、前記正孔輸送材料100質量部に対して通常0.1質量部以上、好ましくは1質量部以上、また、通常100質量部以下、好ましくは40質量部以下である。前記第1のイオン化合物の含有量が上記下限以上であれば、フリーキャリア(正孔輸送材料のカチオンラジカル)が十分に生成でき、正孔輸送性が向上して好ましく、上記上限以下であれば、十分な電荷輸送能が確保でき好ましい。前記第1のイオン化合物を二種以上併用する場合には、これらの合計の含有量が上記範囲に含まれるようにする。前記正孔輸送材料についても同様である。
【0192】
(有機溶剤)
正孔注入層形成用組成物における有機溶剤の濃度は、通常10質量%以上、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上であり、また、通常99.999質量%以下、好ましくは99.99質量%以下、更に好ましくは99.9質量%以下の範囲である。なお、二種以上の有機溶剤を混合して用いる場合には、これらの有機溶剤の合計がこの範囲を満たすようにする。
【0193】
好ましい有機溶剤としては、例えば、エーテル系溶剤及びエステル系溶剤が挙げられる。
【0194】
具体的には、エーテル系溶剤としては、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル;1,2-ジメトキシベンゼン、1,3-ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2-メトキシトルエン、3-メトキシトルエン、4-メトキシトルエン、2,3-ジメチルアニソール、2,4-ジメチルアニソール等の芳香族エーテル等が挙げられる。これらは何れか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。
【0195】
エステル系溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、乳酸エチル、乳酸n-ブチル等の脂肪族エステル;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n-ブチル等の芳香族エステル等が挙げられる。これらは何れか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。
【0196】
上述のエーテル系溶剤及びエステル系溶剤以外に使用可能な溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド系溶剤、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。これらは何れか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。また、これらの溶剤のうち一種又は二種以上を、上述のエーテル系溶剤及びエステル系溶剤のうち一種又は二種以上と組み合わせて用いてもよい。特に、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤は、電子受容性化合物、フリーキャリア(カチオンラジカル)を溶解する能力が低いため、エーテル系溶剤及びエステル系溶剤と混合して用いることが好ましい。
【0197】
これらの有機溶剤の中でもさらに好ましくは、芳香族炭化水素構造を有する溶剤である。
【0198】
(成膜方法)
正孔注入層は、正孔注入層形成用組成物を用いて湿式成膜し、形成することができる。湿式成膜方法としては発光層形成用組成物を湿式成膜にて成膜する方法と同様であるが、塗布乾燥後、加熱することが好ましい。加熱温度は120℃以上が好ましく、150℃以上がさらに好ましく、180℃以上がより好ましく、また、300℃以下が好ましく、260℃以下がさらに好ましい。
【0199】
また、加熱により、第1のイオン化合物の対アニオンであるテトラアリールホウ酸イオンと正孔輸送材料のカチオンラジカルとのイオン化合物である、電荷輸送性イオン化合物の形成が促進され、好ましい。
【0200】
<発光素子の構造>
本発明の発光素子の構造の一例として、
図1に量子ドット発光素子8の構造例の模式図(断面)を示す。
図1において、1は基板、2は陽極、3は正孔注入層、4は正孔輸送層、5は発光層、6は電子輸送層、7は陰極を各々表す。
【0201】
[基板]
基板1は、量子ドット発光素子の支持体となるものであり、通常、石英やガラスの板、金属板や金属箔、プラスチックフィルムやシート等が用いられる。これらのうち、ガラス板や、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホン等の透明な合成樹脂の板が好ましい。基板は、外気による量子ドット発光素子の劣化が起こり難いことからガスバリア性の高い材質とするのが好ましい。このため、特に合成樹脂製の基板等のようにガスバリア性の低い材質を用いる場合は、基板の少なくとも片面に緻密なシリコン酸化膜等を設けてガスバリア性を上げるのが好ましい。
【0202】
[陽極]
陽極2は、発光層5側の層に正孔を注入する機能を担う。
【0203】
陽極2は、通常、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属;インジウム及び/又はスズの酸化物等の金属酸化物;ヨウ化銅等のハロゲン化金属;カーボンブラック及びポリ(3-メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子等により構成される。
【0204】
陽極2の形成は、通常、スパッタリング法、真空蒸着法等の乾式法により行われることが多い。また、銀等の金属微粒子、ヨウ化銅等の微粒子、カーボンブラック、導電性の金属酸化物微粒子、導電性高分子微粉末等を用いて陽極を形成する場合には、適当なバインダー樹脂溶液に分散させて、基板上に塗布することにより形成することもできる。また、導電性高分子の場合は、電解重合により直接基板上に薄膜を形成したり、基板上に導電性高分子を塗布してしたりして、陽極を形成することもできる(Appl.Phys.Lett.,60巻,2711頁,1992年)。
【0205】
陽極2は、通常、単層構造であるが、適宜、積層構造としてもよい。陽極2が積層構造である場合、1層目の陽極上に異なる導電材料を積層してもよい。
【0206】
陽極2の厚みは、必要とされる透明性と材質等に応じて決めればよい。特に高い透明性が必要とされる場合は、可視光の透過率が60%以上となる厚みが好ましく、可視光の透過率が80%以上となる厚みが更に好ましい。陽極2の厚みは、通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下である。一方、透明性が不要な場合は、陽極2の厚みは必要な強度等に応じて任意に厚みとすればよく、この場合、陽極2は基板と同一の厚みでもよい。
【0207】
陽極2の表面に他の層を成膜する場合は、成膜前に、紫外線/オゾン、酸素プラズマ、アルゴンプラズマ等の処理を施すことにより、陽極2上の不純物を除去すると共に、そのイオン化ポテンシャルを調整して正孔注入性を向上させておくことが好ましい。
【0208】
[正孔注入層]
量子ドット発光素子における正孔注入層は、上述した通りである。正孔注入層の成膜方法については、湿式成膜法について上述したが、真空蒸着法を用いてもよい。
【0209】
[真空蒸着法による正孔注入層の形成]
正孔注入層を真空蒸着法にて形成する場合、テトラアリールホウ酸イオンを含む材料として前記第1のイオン化合物を用い、正孔輸送材料としては蒸着可能な低分子正孔輸送材料を用いることができる。蒸着可能な低分子正孔輸送材料としては、分子量1500以下の正孔輸送材料が好ましく、さらに好ましくは分子量1000以下の正孔輸送材料であり、分子量400以上の正孔輸送材料が好ましく、分子量600以上の正孔輸送材料がさらに好ましい。低分子正孔輸送材料としては、芳香族アミン系化合物が好ましく、芳香族三級アミン化合物がさらに好ましい。
【0210】
真空蒸着法により正孔注入層3を形成する場合には、通常、正孔注入層3の構成材料の1種類又は2種類以上を真空容器内に設置された坩堝に入れ(2種類以上の材料を用いる場合は、通常各々を別々の坩堝に入れ)、真空容器内を真空ポンプで10-4Pa程度まで排気する。その後、坩堝を加熱して(2種類以上の材料を用いる場合は、通常各々の坩堝を加熱して)、坩堝内の材料の蒸発量を制御しながら蒸発させ(2種類以上の材料を用いる場合は、通常それぞれ独立して蒸発量を制御しながら蒸発させ)、坩堝に向き合って置かれた基板上の陽極上に正孔注入層を形成する。なお、2種類以上の材料を用いる場合は、それらの混合物を坩堝に入れ、加熱、蒸発させて正孔注入層を形成することもできる。
【0211】
蒸着時の真空度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1×10-6Torr(0.13×10-4Pa)以上、9.0×10-6Torr(12.0×10-4Pa)以下である。蒸着速度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1Å/秒以上、5.0Å/秒以下である。蒸着時の成膜温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、好ましくは10℃以上、50℃以下で行われる。
【0212】
[正孔輸送層]
正孔輸送層4は、陽極2側から発光層5側に正孔を輸送する機能を担う層である。正孔輸送層4は、本発明の発光素子では、必須の層では無いが、陽極2から発光層5に正孔を輸送する機能を強化する点では、この層を形成することが好ましい。正孔輸送層4を形成する場合、通常、正孔輸送層4は、陽極2と発光層5の間に形成される。また、上述の正孔注入層3がある場合は、正孔注入層3と発光層5の間に形成される。
【0213】
正孔輸送層4の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また、一方、通常300nm以下、好ましくは100nm以下である。
【0214】
正孔輸送層4の形成方法は、真空蒸着法でも、湿式成膜法でもよい。成膜性が優れる点では、湿式成膜法により形成することが好ましい。
【0215】
正孔輸送層4は、通常、正孔輸送性化合物を含有する。
【0216】
正孔輸送性化合物としては、4,4’-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニルで代表される、2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族ジアミン(特開平5-234681号公報)、4,4’,4’’-トリス(1-ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン等のスターバースト構造を有する芳香族アミン化合物(J.Lumin.,72-74巻、985頁、1997年)、トリフェニルアミンの四量体から成る芳香族アミン化合物(Chem.Commun.,2175頁、1996年)、2,2’,7,7’-テトラキス-(ジフェニルアミノ)-9,9’-スピロビフルオレン等のスピロ化合物(Synth.Metals,91巻、209頁、1997年)、4,4’-N,N’-ジカルバゾールビフェニル等のカルバゾール誘導体等が好ましいものとして挙げられる。また、例えばポリビニルカルバゾール、ポリビニルトリフェニルアミン(特開平7-53953号公報)、テトラフェニルベンジジンを含有するポリアリーレンエーテルサルホン(Polym.Adv.Tech.,7巻、33頁、1996年)等を含んでもよい。
【0217】
[湿式成膜法による正孔輸送層の形成]
湿式成膜法で正孔輸送層を形成する場合は、通常、上述の正孔注入層を湿式成膜法で形成する場合と同様にして、正孔注入層形成用組成物の代わりに正孔輸送層形成用組成物を用いて形成させる。
【0218】
湿式成膜法で正孔輸送層を形成する場合は、通常、正孔輸送層形成用組成物は、更に溶媒を含有する。正孔輸送層形成用組成物に用いる溶媒は、上述の正孔注入層形成用組成物で用いる溶媒と同様の溶媒を使用することができる。
【0219】
正孔輸送層形成用組成物中における正孔輸送性化合物の濃度は、正孔注入層形成用組成物中における正孔輸送性化合物の濃度と同様の範囲とすることができる。
【0220】
[真空蒸着法による正孔輸送層の形成]
真空蒸着法で正孔輸送層を形成する場合についても、通常、上述の正孔注入層を真空蒸着法で形成する場合と同様にして、正孔注入層形成用組成物の代わりに正孔輸送層形成用組成物を用いて形成させることができる。蒸着時の真空度、蒸着速度及び温度等の成膜条件などは、前記正孔注入層の真空蒸着時と同様の条件で成膜することができる。
【0221】
[発光層]
発光層5は、一対の電極間に電界が与えられた時に、陽極2から注入される正孔と陰極7から注入される電子が再結合することにより励起され、発光する機能を担う層である。発光層5は、陽極2と陰極7の間に形成される層であり、発光層は、陽極の上に正孔注入層がある場合は、正孔注入層と陰極の間に形成され、陽極の上に正孔輸送層がある場合は、正孔輸送層と陰極の間に形成される。
【0222】
量子ドット発光素子の発光層は上述した通り、発光物質としてオリゴマーが配位した、ハロゲン化鉛ペロブスカイト量子ドットを含む。
【0223】
発光層5の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、膜に欠陥が生じ難い点では厚い方が好ましく、また、一方、薄い方が低駆動電圧としやすい点で好ましい。このため、発光層5の膜厚は、3nm以上であるのが好ましく、5nm以上であるのが更に好ましく、また、一方、通常200nm以下であるのが好ましく、100nm以下であるのが更に好ましい。
【0224】
発光層5は、少なくとも、発光の性質を有する材料(発光材料)を含有するとともに、好ましくは、1つまたは複数のホスト材料を含有する。
【0225】
[正孔阻止層]
発光層5と後述の電子注入層との間に、正孔阻止層を設けてもよい。正孔阻止層は、発光層5の上に、発光層5の陰極7側の界面に接するように積層される層である。
【0226】
この正孔阻止層は、陽極2から移動してくる正孔を陰極7に到達するのを阻止する役割と、陰極7から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送する役割とを有する。正孔阻止層を構成する材料に求められる物性としては、電子移動度が高く正孔移動度が低いこと、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いことが挙げられる。
【0227】
このような条件を満たす正孔阻止層の材料としては、例えば、ビス(2-メチル-8-キノリノラト)(フェノラト)アルミニウム、ビス(2-メチル-8-キノリノラト)(トリフェニルシラノラト)アルミニウム等の混合配位子錯体、ビス(2-メチル-8-キノラト)アルミニウム-μ-オキソ-ビス-(2-メチル-8-キノリラト)アルミニウム二核金属錯体等の金属錯体、ジスチリルビフェニル誘導体等のスチリル化合物(特開平11-242996号公報)、3-(4-ビフェニルイル)-4-フェニル-5-(4-tert-ブチルフェニル)-1,2,4-トリアゾール等のトリアゾール誘導体(特開平7-41759号公報)、バソクプロイン等のフェナントロリン誘導体(特開平10-79297号公報)等が挙げられる。更に、国際公開第2005/022962号に記載
の2,4,6位が置換されたピリジン環を少なくとも1個有する化合物も、正孔阻止層の材料として好ましい。
【0228】
正孔阻止層の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法で形成できる。
【0229】
正孔阻止層の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.3nm以上、好ましくは0.5nm以上であり、また、通常100nm以下、好ましくは50nm以下である。
【0230】
[電子輸送層]
電子輸送層6は素子の電流効率をさらに向上させることを目的として、発光層5と陰極7との間に設けられる。
【0231】
電子輸送層6は、電界を与えられた電極間において陰極7から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送することができる化合物より形成される。電子輸送層6に用いられる電子輸送性化合物としては、陰極7からの電子注入効率が高く、かつ、高い電子移動度を有し、注入された電子を効率よく輸送することができる化合物であることが必要である。
【0232】
電子輸送層に用いる電子輸送性化合物としては、具体的には、例えば、8-ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体等の金属錯体(特開昭59-194393号公報)、10-ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体、オキサジアゾール誘導体、ジスチリルビフェニル誘導体、シロール誘導体、3-ヒドロキシフラボン金属錯体、5-ヒドロキシフラボン金属錯体、ベンズオキサゾール金属錯体、ベンゾチアゾール金属錯体、トリスベンズイミダゾリルベンゼン(米国特許第5645948号明細書)、キノキサリン化合物(特開平6-207169号公報)、フェナントロリン誘導体(特開平5-331459号公報)、2-tert-ブチル-9,10-N,N’-ジシアノアントラキノンジイミン、n型水素化非晶質炭化シリコン、n型硫化亜鉛、n型セレン化亜鉛等が挙げられる。
【0233】
電子輸送層6の膜厚は、通常1nm以上、好ましくは5nm以上であり、また、通常300nm以下、好ましくは100nm以下である。
【0234】
電子輸送層6は、前記と同様にして湿式成膜法、或いは真空蒸着法により正孔阻止層上に積層することにより形成される。通常は、真空蒸着法が用いられる。
【0235】
[電子注入層]
電子注入層は、陰極7から注入された電子を効率よく、電子輸送層6又は発光層5へ注入するために設けられてもよい。
【0236】
電子注入を効率よく行うには、電子注入層を形成する材料は、仕事関数の低い金属が好ましい。例としては、ナトリウムやセシウム等のアルカリ金属、バリウムやカルシウム等のアルカリ土類金属等が用いられる。その膜厚は通常0.1nm以上、5nm以下が好ましい。
【0237】
更に、バソフェナントロリン等の含窒素複素環化合物や8-ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体等の金属錯体に代表される有機電子輸送材料に、ナトリウム、カリウム、セシウム、リチウム、ルビジウム等のアルカリ金属をドープする(特開平10-270171号公報、特開2002-100478号公報、特開2002-100482号公報等に記載)ことも、電子注入性及び電子輸送性が向上し優れた膜質を両立させることが可能となるため好ましい。
【0238】
電子注入層の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また通常200nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。
【0239】
電子注入層は、湿式成膜法或いは真空蒸着法により、発光層5又はその上の正孔阻止層や電子輸送層6上に積層することにより形成される。
湿式成膜法の場合の詳細は、前述の発光層の場合と同様である。
【0240】
正孔阻止層、電子輸送層、電子注入層を電子輸送材料とリチウム錯体共ドープの操作で一層にする場合にもある。
【0241】
[陰極]
陰極7は、発光層5側の層(電子注入層又は発光層など)に電子を注入する役割を果たす。
【0242】
陰極7の材料としては、前記の陽極2に使用される材料を用いることが可能であるが、効率良く電子注入を行なう上では、仕事関数の低い金属を用いることが好ましく、例えば、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の金属又はそれらの合金等が用いられる。具体例としては、例えば、マグネシウム-銀合金、マグネシウム-インジウム合金、アルミニウム-リチウム合金等の低仕事関数の合金電極等が挙げられる。
【0243】
量子ドット発光素子の安定性の点では、陰極の上に、仕事関数が高く、大気に対して安定な金属層を積層して、低仕事関数の金属からなる陰極を保護することが好ましい。積層する金属としては、例えば、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、クロム、金、白金等の金属が挙げられる。
【0244】
陰極の膜厚は通常、陽極と同様である。
【0245】
[その他の層]
本発明の発光素子は、本発明の効果を著しく損なわなければ、更に他の任意の層を有していてもよい。すなわち、陽極と陰極との間に、上述の他の任意の層を有していてもよい。
【0246】
[その他の素子構成]
本発明の発光素子は、上述の説明とは逆の構造、即ち、例えば、基板上に陰極、電子注入層、電子輸送層、正孔阻止層、発光層、正孔輸送層、正孔注入層、陽極の順に積層することも可能である。
【0247】
本発明の発光素子を有機電界発光装置に適用する場合は、単一の量子ドット発光素子として用いても、複数の量子ドット発光素子がアレイ状に配置された構成にして用いても、陽極と陰極がX-Yマトリックス状に配置された構成にして用いてもよい。
【0248】
<量子ドット表示装置>
本発明の量子ドット表示装置(量子ドット発光素子表示装置)は、本発明の発光素子を備える。本発明の量子ドット表示装置の型式や構造については特に制限はなく、本発明の発光素子を用いて常法に従って組み立てることができる。
【0249】
例えば、「有機ELディスプレイ」(オーム社、平成16年8月20日発行、時任静士、安達千波矢、村田英幸著)に記載されているような方法を参考に有機発光層を、量子ドットを含む発光層に置き換えることで、本発明の量子ドット表示装置を形成することができる。
【0250】
<量子ドット照明>
本発明の量子ドット照明(量子ドット発光素子照明)は、本発明の発光素子を備える。本発明の量子ドット照明の型式や構造については特に制限はなく、本発明の発光素子を用いて常法に従って組み立てることができる。
【実施例0251】
以下、本発明について、実施例及び比較例により、詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0252】
[作製例1]
発光層にペロブスカイト量子ドットを有する電界発光素子を以下の方法で作製した。
ガラス基板上にインジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を50nmの厚さに堆積したもの(ジオマテック社製、スパッタ成膜品)を通常のフォトリソグラフィー技術と塩酸エッチングを用いて2mm幅のストライプにパターニングして陽極を形成した。このようにITOをパターン形成した基板を、界面活性剤水溶液による超音波洗浄、超純水による水洗、超純水による超音波洗浄、超純水による水洗の順で洗浄後、圧縮空気で乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行った。
【0253】
正孔注入層形成用組成物として、下記式(HI-1)の繰り返し構造を有する正孔輸送性高分子化合物3.0重量%と、電子受容性化合物(PD-1)0.6重量%とを、安息香酸エチルに溶解させた組成物を調製した。
【0254】
【0255】
【化36】
この溶液を、大気中で上記基板上にスピンコートし、大気中ホットプレートで230℃、30分乾燥させ、膜厚40nmの均一な薄膜を形成し、正孔注入層とした。
【0256】
次に、下記の構造式(HT-1)を有する正孔輸送性高分子化合物を、アニソールに溶解させ、0.9重量%の溶液を調製した。
この溶液を、上記正孔注入層を塗布成膜した基板上に窒素グローブボックス中でスピンコートし、窒素グローブボックス中のホットプレートで230℃、30分間乾燥させ、膜厚30nmの均一な薄膜を形成し、正孔輸送層とした。
【0257】
【0258】
引続き、例えばNano.Lett.,2015,15,3692-3696に記載の方法で合成されるCsPbBr3ナノ粒子の10mg/mLトルエン溶液1.2mLに酢酸メチル1.2mLを加え、毎分6000回転で10分間遠心分離を行い、上澄みを除去し沈殿物を回収した。これに1mLのトルエンを加えて再度CsPbBr3ナノ粒子を分散させた。この溶液に、例えばChem.Commun.,2019,55,1833-1836に記載の方法で合成される下記の構造式(P-1)を有する化合物2.6mgを加え、室温で30分間攪拌して配位子交換を実施し、発光層形成用溶液とした。
【0259】
【0260】
発光層形成用溶液を、前記正孔輸送層までを塗布成膜した基板上に滴下し、窒素グローブボックス中で毎分1000回転で30秒間、次いで3500回転で15秒間スピンコートして発光層とした。
発光層までを成膜した基板を真空蒸着装置に設置し、装置内を2×10-4Pa以下になるまで排気した。
次に、2,2‘,2“-(1,3,5-ベンジントリイル)-トリス(1-フェニルー1-H-ベンズイミダゾール)を真空蒸着法にて成膜し、発光層上に膜厚50nmの電子輸送層を形成した。引き続き、8-ヒドロキシキノリノラトリチウムを真空蒸着法にて成膜し、電子輸送層上に1nmの膜厚で電子注入層を形成した。
【0261】
続いて、陰極蒸着用のマスクとして2mm幅のストライプ状シャドーマスクを、陽極のITOストライプとは直交するように基板に密着させて、アルミニウムをモリブデンボートにより加熱して、膜厚80nmのアルミニウム層を形成して陰極を形成した。以上の様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する、発光層にペロブスカイト量子ドットを有する電界発光素子が得られた。
【0262】
この電界発光素子に電圧を印加したところ、化合物(P-1)が配位したCsPbBr3ナノ粒子に由来する、ピーク波長509nm、半値幅21nmの発光が得られた。