(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021680
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】ポリアリーレンスルフィドオリゴマーを含む組成物の製造方法、及び架橋型ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 75/0281 20160101AFI20240208BHJP
【FI】
C08G75/0281
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022124687
(22)【出願日】2022-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【弁理士】
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】深澤 啓一郎
(72)【発明者】
【氏名】檜森 俊男
【テーマコード(参考)】
4J030
【Fターム(参考)】
4J030BA03
4J030BA49
4J030BB28
4J030BB29
4J030BB31
4J030BC02
4J030BC08
4J030BD02
4J030BD23
4J030BF01
4J030BG10
4J030BG25
4J030BG26
4J030BG27
4J030BG31
(57)【要約】
【課題】ポリアリーレンスルフィド(PAS)樹脂の製造工程で濾別される有機極性溶媒に含まれる環状PASオリゴマーの開環率を制御して濃縮するPASオリゴマー混合物の製造方法を提供する。
【解決手段】有機極性溶媒中で、ポリハロ芳香族化合物と(i)アルカリ金属硫化物とを又は(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを反応させてPAS樹脂、環状PASオリゴマー、鎖状PASオリゴマー、アルカリ金属ハロゲン化物及び有機極性溶媒を含む粗反応混合物を得る工程、該混合物から固相成分を除去してPASオリゴマーを含む溶媒(A)を得る工程、及び、前記溶媒(A)を減圧又は常圧環境下、230℃~280℃で前記溶媒(A)を濃縮してPASオリゴマー混合物(B)を得る工程を有し、かつ、濃縮時の環状PASオリゴマーの開環率が10%以上であるPASオリゴマー混合物の製造方法、該混合物を用いたPAS樹脂の製造方法。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機極性溶媒中で、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、又は、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを反応させて、少なくとも、ポリアリーレンスルフィド樹脂、環状ポリアリーレンスルフィドオリゴマー、鎖状ポリアリーレンスルフィドオリゴマー、アルカリ金属ハロゲン化物及び有機極性溶媒を含む粗反応混合物を得る工程(1)、
前記粗反応混合物から、固液分離により固相成分を除去、少なくとも、環状ポリアリーレンスルフィドオリゴマー及び鎖状ポリアリーレンスルフィドオリゴマーを含む液相成分(A)を得る工程(2)、及び、
蒸発器内に前記液相成分(A)を供給し、減圧又は常圧環境下、230℃~280℃で前記液相成分(A)を濃縮してポリアリーレンスルフィドオリゴマー混合物(B)を得る工程(3)を有すること、かつ、
工程(3)において、濃縮時の環状ポリアリーレンスルフィドオリゴマーの開環率が10%以上であることを特徴とする、ポリアリーレンスルフィドオリゴマー混合物の製造方法。
【請求項2】
さらに、前記オリゴマー混合物(B)と水を接触させてスラリー化する工程(4)を有する、請求項1記載のポリアリーレンスルフィドオリゴマー混合物の製造方法。
【請求項3】
有機極性溶媒中で、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、又は、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを反応させて、少なくとも、ポリアリーレンスルフィド樹脂、アルカリ金属ハロゲン化物及び有機極性溶媒を含む粗反応混合物を得る工程(5)、
前記粗反応混合物に、請求項1記載の製造方法で得られたポリアリーレンスルフィドオリゴマー混合物を添加して、少なくともポリアリーレンスルフィド樹脂、環状ポリアリーレンスルフィドオリゴマー、鎖状ポリアリーレンスルフィドオリゴマー、アルカリ金属ハロゲン化物及び有機極性溶媒を含む混合物(C)を得る工程(6)、
前記混合物(C)をフラッシュ法により固液分離し、少なくともポリアリーレンスルフィド樹脂、環状ポリアリーレンスルフィドオリゴマー、鎖状ポリアリーレンスルフィドオリゴマー及びアルカリ金属ハロゲン化物を含む混合物(D)を得る工程(7)、
前記混合物(D)を洗浄し、アルカリ金属ハロゲン化物を除去し、少なくともポリアリーレンスルフィド樹脂、環状ポリアリーレンスルフィドオリゴマー及び鎖状ポリアリーレンスルフィドオリゴマーを含む混合物(E)を得る工程(8)、及び、前記混合物(E)を酸化性雰囲気下で加熱処理する工程(9)を有することを特徴とする、架橋型ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項4】
有機極性溶媒中で、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、又は、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを反応させて、少なくとも、ポリアリーレンスルフィド樹脂、アルカリ金属ハロゲン化物及び有機極性溶媒を含む粗反応混合物を得る工程(5)、
前記粗反応混合物をフラッシュ法により固液分離し、少なくともポリアリーレンスルフィド樹脂及びアルカリ金属ハロゲン化物を含む固形分(F)を得る工程(10)、
前記固形分(F)に、前記請求項2に記載の製造方法で得られたポリアリーレンスルフィドオリゴマー混合物を添加して、少なくともポリアリーレンスルフィド樹脂、環状ポリアリーレンスルフィドオリゴマー、鎖状ポリアリーレンスルフィドオリゴマー及びアルカリ金属ハロゲン化物を含む混合物(G)を得る工程(11)、
前記混合物(G)を洗浄し、アルカリ金属ハロゲン化物を除去し、少なくともポリアリーレンスルフィド樹脂、環状ポリアリーレンスルフィドオリゴマー及び鎖状ポリアリーレンスルフィドオリゴマーを含む混合物(H)を得る工程(12)及び、前記混合物(H)を酸化性雰囲気下で加熱処理する工程(13)を有することを特徴とする、架橋型ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造工程で濾別される液相成分に含まれる、環状ポリアリーレンスルフィドオリゴマーの開環率を制御して濃縮する、ポリアリーレンスルフィドオリゴマー混合物の製造方法、及び、それを高効率に添加した架橋型ポリアリーレンスルフィド樹脂を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド(以下、PPSと略すことがある)樹脂に代表されるポリアリーレンスルフィド(以下、PASと略すことがある)樹脂は、耐熱性、耐薬品性等に優れ、電気電子部品、自動車部品、給湯機部品、繊維、フィルム用途等に幅広く利用されている。
【0003】
PPS樹脂は、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などの極性有機溶媒中で、スルフィド化剤と、ポリハロ芳香族化合物とを重合反応させる方法等により得られる。この時、PPSオリゴマー、残存スルフィド化剤、塩化ナトリウムなどの副生成物も同時に生成されるが、当該副生成物は不純物とされ、従来活用が進んでいなかった。特に、重合後の溶剤スラリーを固液分離して得られる液相成分に含まれるPPSオリゴマーは、そのほとんどが産業廃棄物として廃棄され、原料費ロスと廃棄費の点から生産における多大な損失を招いていた。
【0004】
これまでに、上記液相成分を重合原料として回収する方法が開示されている(特許文献1参照)。しかし、液相成分中に存在するPPSオリゴマー以外の不純物(フェノールなど)は重合反応を阻害するため、原料としての再利用率は限定的であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、PAS樹脂の重合反応後の粗反応混合物を固液分離することにより得られる、環状オリゴマーの開環率を10%以上に制御したPASオリゴマーを含む組成物を製造する方法を提供することにある。さらに、前記製造方法により得られたPASオリゴマーを含む組成物を、PAS樹脂の添加物として再利用する架橋型PAS樹脂の製造方法を提供し、もってオリゴマーの再利用率を向上し、ロスを低減する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは種々の検討を行った結果、PAS樹脂の重合反応後に得られる反応混合液を固液分離して得られる液相成分を、減圧又は常圧環境下、230℃以下で濃縮する工程を経ることで、液相成分に含まれる環状PASオリゴマーの開環率を10%以上に制御したPASオリゴマーを含む組成物を製造できること、及び、PAS樹脂の製造に、該PASオリゴマーを含む組成物を添加することで、オリゴマーの再利用率を向上し、かつ、得られる架橋型PAS樹脂の架橋速度の向上及び熱安定性の向上という効果を奏することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、〔1〕有機極性溶媒中で、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、又は、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを反応させて、少なくとも、PAS樹脂、環状PASオリゴマー、鎖状PASオリゴマー、アルカリ金属ハロゲン化物及び有機極性溶媒を含む粗反応混合物を得る工程(1)、前記粗反応混合物から、固液分離により固相成分を除去して、少なくとも、環状PASオリゴマー及び鎖状PASオリゴマーを含む液相成分(A)を得る工程(2)、及び、蒸発器内に前記液相成分(A)を供給し、減圧又は常圧環境下、230℃以下で前記液相成分(A)を濃縮してPASオリゴマー混合物(B)を得る工程(3)を有すること、かつ、工程(3)において、濃縮時の環状PASオリゴマーの開環率が10%以上であることを特徴とする、PASオリゴマー混合物の製造方法に関する。
【0009】
さらに本発明は、〔2〕有機極性溶媒中で、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、又は、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを反応させて、少なくとも、PAS樹脂、アルカリ金属ハロゲン化物及び有機極性溶媒を含む粗反応混合物を得る工程(5)、前記粗反応混合物に、請求項1記載の製造方法で得られたPASオリゴマー混合物を添加して、少なくともPAS樹脂、環状PASオリゴマー、鎖状PASオリゴマー、アルカリ金属ハロゲン化物及び有機極性溶媒を含む混合物(C)を得る工程(6)、前記混合物(C)をフラッシュ法により固液分離し、少なくともPAS樹脂、環状PASオリゴマー、鎖状PASオリゴマー及びアルカリ金属ハロゲン化物を含む混合物(D)を得る工程(7)、前記混合物(D)を洗浄し、アルカリ金属ハロゲン化物を除去し、少なくともPAS樹脂、環状PASオリゴマー及び鎖状PASオリゴマーを含む混合物(E)を得る工程(8)、及び、前記混合物(E)を酸化性雰囲気下で加熱処理する工程(9)を有することを特徴とする、架橋型PAS樹脂の製造方法に関する。
【0010】
さらに本発明は、〔3〕有機極性溶媒中で、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、又は、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを反応させて、少なくとも、PAS樹脂、アルカリ金属ハロゲン化物及び有機極性溶媒を含む粗反応混合物を得る工程(5)、前記粗反応混合物をフラッシュ法により固液分離し、少なくともPAS樹脂及びアルカリ金属ハロゲン化物を含む固形分(F)を得る工程(10)、前記固形分(F)に、前記〔1〕記載の前記オリゴマー混合物(B)にさらに水を接触させてスラリー化する工程を経たPASオリゴマー混合物を添加して、少なくともPAS樹脂、環状PASオリゴマー、鎖状PASオリゴマー及びアルカリ金属ハロゲン化物を含む混合物(G)を得る工程(11)、前記混合物(G)を洗浄し、アルカリ金属ハロゲン化物を除去し、少なくともPAS樹脂、環状PASオリゴマー及び鎖状PASオリゴマーを含む混合物(H)を得る工程(12)及び、前記混合物(H)を酸化性雰囲気下で加熱処理する工程(13)を有することを特徴とする、架橋型PAS樹脂の製造方法に関する。
【0011】
なお、本発明において、繰り返し単位2~40(2量体~40量体の混合物)を有する高分子化合物を「オリゴマー」と称することがある。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、PAS樹脂の重合反応後に濾別される環状PASオリゴマーを、開環率を制御しながら濃縮する方法、さらに、PASオリゴマーをより高効率に回収した架橋型PAS樹脂を製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<PASオリゴマー混合物の製造方法>
本発明は、有機極性溶媒中で、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、又は、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを反応させて、少なくとも、PAS樹脂、環状PASオリゴマー、鎖状PASオリゴマー、アルカリ金属ハロゲン化物及び有機極性溶媒を含む粗反応混合物を得る工程(1)、
粗反応混合物から、固液分離により固相成分を除去して、少なくとも、環状PASオリゴマー及び鎖状PASオリゴマーを含む液相成分(A)を得る工程(2)、及び、
蒸発器内に前記液相成分(A)を供給し、減圧又は常圧環境下、230℃以下で前記液相成分(A)を濃縮してPASオリゴマー混合物(B)を得る工程(3)を有すること、かつ、
工程(3)において、濃縮時の環状PASオリゴマーの開環率が10%以上であること、を特徴とする。以下、詳述する。
【0014】
工程(1)
工程(1)は、有機極性溶媒中で、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、又は、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを反応させて、少なくとも、PAS樹脂、環状PASオリゴマー、鎖状PASオリゴマー、アルカリ金属ハロゲン化物及び有機極性溶媒を含む粗反応混合物を得る工程である。
【0015】
工程(1)で用いられる混合物は、少なくとも、PAS樹脂、環状PASオリゴマー、鎖状PASオリゴマー、アルカリ金属ハロゲン化物及び有機極性溶媒を含む混合物であれば特に限定されるものではないが、好ましくは工程(5)に後述する本発明で用いるPAS樹脂の製造方法において得られる粗反応混合物を用いることが好ましい。
【0016】
工程(2)
工程(2)は、粗反応混合物から、固液分離により固相成分を除去して、少なくとも、環状PASオリゴマー及び鎖状PASオリゴマーを含む液相成分(A)を得る工程である。
【0017】
該固液分離には大きく分けて、後述するフラッシュ法とクウェンチ法の2種類がある。フラッシュ法は、粗反応混合物中の溶媒を蒸発させて溶媒回収し、同時に固形物を回収する方法であり、一般的に、粗反応混合物を高温高圧の状態から常圧もしくは減圧の雰囲気中へフラッシュさせ溶媒を留去及び回収すると同時にPAS樹脂を含む固形物を粉粒状にして回収する方法である。フラッシュ法の好ましい態様としては、重合工程で得られた高温高圧(通常250℃以上、0.8MPa以上)の重合反応物を常圧中の窒素又は水蒸気などの雰囲気にノズルから噴出させる方法が挙げられる。フラッシュ法では、高温高圧状態から常圧状態に重合反応物をフラッシュしたときの溶媒の気化熱を利用して効率よく溶媒回収することができるが、フラッシュさせるときの内温が高いほど溶媒回収の効率が向上し生産性も良好となる。そのためフラッシュさせるときの重合系内の温度及び圧力を通常250℃以上、好ましくは255~280℃の温度範囲かつ0.8MPa以上、好ましくは1.0~5.0MPaの圧力範囲とする。この状態から、減圧下ないし常圧中にフラッシュさせるときの雰囲気温度は通常150~250℃の範囲であり、粗反応混合物からの溶媒回収が不足する場合は、フラッシュ後に150~250℃の雰囲気下で加熱を継続しても良い。
【0018】
一方、クウェンチ法は、粗反応混合物を除冷して粒子状のPAS樹脂を回収する方法であり、一般的に、粗反応混合物を高温高圧の状態から徐々に冷却して反応系内のPAS樹脂を晶析させた後に、濾別等により固液分離することでPAS樹脂を含む固形分を顆粒として回収する方法である。冷却時間には特に制限は無いが、通常0.1℃/分~3℃/分が好ましい範囲である。また、徐冷工程の全行程において同一速度で徐冷する必要もなく、PAS樹脂の顆粒状物が晶析するまでは0.1℃/分~1℃/分の範囲とし、その後は1℃/分以上の速度で冷却する方法なども好ましい。最終的には70℃以上、好ましくは100℃以上かつ、200℃以下まで冷却し、その後、固液分離することでPAS樹脂を含む固形分を回収することが好ましい。クウェンチ法における固液分離は、濾過やスクリューデカンター等の遠心分離機を用いて分離した後、得られた濾過残渣に直接水を加えスラリー化したのち、固液分離を繰り返し行う方法や、得られた濾過残渣を非酸化性雰囲気下で加熱して、残存する溶媒を除去する方法などが挙げられる。クウェンチ法は、晶析時にポリマー粒子中に前記副生成物や未反応原料等の不純物を取り込みにくく、PASオリゴマーをより多く回収できるため、本工程においてはクウェンチ法がより好ましい。
【0019】
工程(3)
工程(3)は、蒸発器内に前記液相成分(A)を供給し、減圧又は常圧環境下、230℃~280℃で前記液相成分(A)を濃縮してPASオリゴマー混合物(B)を得る工程である。
【0020】
本工程で用いる蒸発器は、有機極性溶媒耐性がある素材からなり、加熱及び減圧できる容器であれば特に限定されず、公知のものを用いることができ、例えば、エバポレーター、オートクレーブ、薄膜蒸発器等が挙げられる。
【0021】
前記液相成分(A)を濃縮する際の蒸発器内の温度は、230℃以上であることが好ましく、280℃以下であることが好ましい。また、蒸発器内の圧力は、常圧以下であることが好ましく、具体的には10~760mmHgの範囲であることが好ましい。このような条件下で濃縮することにより、環状PASオリゴマーの開環率を10%以上に制御することができる。なお、開環率は次式で表される。
開環率(%)={1-(PASオリゴマー混合物(B)中に含まれるPASオリゴマーに対する環状PASオリゴマーの重量分率)/(液相成分(A)中に含まれるPASオリゴマーに対する環状PASオリゴマーの重量分率)}×100
【0022】
また、前記液相成分(A)を濃縮する際、PASオリゴマー混合物(B)に含まれる固形物(不揮発分)の割合が20~100質量%、好ましくは20~99.99質量%、さらに好ましくは30~90質量%の範囲となるように溶媒の除去量を調節することが望ましい。
【0023】
本工程で環状PASオリゴマーの開環率を10%以上に制御することにより、得られるPASオリゴマー混合物を用いたPAS樹脂の製造において、架橋速度の向上、熱処理時間の短縮、及び、得られる架橋型PAS樹脂の溶融安定性向上ができる。
【0024】
環状PASオリゴマーは、熱等により開環するとSH基等を有する鎖状PASオリゴマーとなる。この鎖状オリゴマーは、さらに酸化性雰囲気下で加熱処理すると一部がチイルラジカル(S・)などの活性種となる。架橋型PAS樹脂の製造工程において、この鎖状PASオリゴマーをPAS樹脂に添加した場合、加熱処理工程において鎖状PASオリゴマーが活性種となってPAS樹脂同士のカップリングを促進するため、架橋速度を向上させることができる。この効果は、環状PASオリゴマーをPAS樹脂に添加し加熱処理した場合には小さい。なぜならば、熱処理工程において、環状PASオリゴマーの開環によるSH基等のラジカル化が、活性種への変換よりも優先されるためである。架橋速度が小さく加熱処理に長時間を要すると、鎖状PASオリゴマー以外から生じる酸素系ラジカル等の活性種がPAS樹脂中に生成及び蓄積され、それにより溶融時に著しい増粘を招くことがある。そのため、架橋速度を向上して熱処理時間が短縮することで、得られる架橋型PAS樹脂の溶融時の増粘が抑制されて溶融安定性が向上する。
【0025】
工程(1)~(3)を経て得られたPASオリゴマー混合物は、そのまま用いる他に、さらに、PASオリゴマーを抽出・精製して用いてもよい。その場合には、PASオリゴマー混合物に対して公知の抽出・精製操作を行うことによって、鎖状PASオリゴマー及び/又は環状PASオリゴマーを得ることができる
【0026】
工程(4)
工程(4)として、さらに、前記オリゴマー混合物(B)と水を接触させてスラリー化する工程を含むこともできる。スラリー化することによって、PAS樹脂の製造工程において添加する際に、該混合物(B)の仕込精度向上や攪拌負荷低減などを実現することができる。
【0027】
前記オリゴマー混合物(B)に接触させる水の量はPAS樹脂の質量に対して0.01倍~10倍の範囲であることが好ましい。また、水の温度は、室温以上であることが好ましく、具体的には20~90℃の範囲であることが好ましい。
【0028】
<PAS樹脂組成物の製造方法>
本発明のPAS樹脂の製造方法は、有機極性溶媒中で、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、又は、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを反応させて、少なくとも、PAS樹脂、アルカリ金属ハロゲン化物及び有機極性溶媒を含む粗反応混合物を得る工程(5)、前記粗反応混合物に、〔1〕記載の製造方法で得られたPASオリゴマー混合物を添加して、少なくともPAS樹脂、環状PASオリゴマー、鎖状PASオリゴマー、アルカリ金属ハロゲン化物及び有機極性溶媒を含む混合物(C)を得る工程(6)、前記混合物(C)をフラッシュ法により固液分離して液相成分を除去し、少なくともPAS樹脂、環状PASオリゴマー、鎖状PASオリゴマー及びアルカリ金属ハロゲン化物を含む混合物(D)を得る工程(7)、前記混合物(D)を洗浄し、アルカリ金属ハロゲン化物を除去し、少なくともPAS樹脂、環状PASオリゴマー及び鎖状PASオリゴマーを含む混合物(E)を得る工程(8)、及び、前記混合物(E)を酸化性雰囲気下で加熱処理する工程(9)を有する。
【0029】
又は、本発明のPAS樹脂の製造方法は、有機極性溶媒中で、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、又は、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを反応させて、少なくとも、PAS樹脂、アルカリ金属ハロゲン化物及び有機極性溶媒を含む粗反応混合物を得る工程(5)、前記粗反応混合物をフラッシュ法により固液分離して液相成分を除去し、少なくともPAS樹脂及びアルカリ金属ハロゲン化物を含む固形分(F)を得る工程(10)、前記固形分(F)に、〔1〕記載の前記オリゴマー混合物(B)にさらに水を接触させてスラリー化する工程を経たPASオリゴマー混合物を添加して、少なくともPAS樹脂、環状PASオリゴマー、鎖状PASオリゴマー及びアルカリ金属ハロゲン化物を含む混合物(G)を得る工程(11)、前記混合物(G)を洗浄し、アルカリ金属ハロゲン化物を除去し、少なくともPAS樹脂、環状PASオリゴマー及び鎖状PASオリゴマーを含む混合物(H)を得る工程(12)及び、前記混合物(H)を酸化性雰囲気下で加熱処理する工程(13)を有する。以下、詳述する。
【0030】
工程(5)
工程(5)は、有機極性溶媒中で、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、又は、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを反応させて、少なくとも、PAS樹脂、アルカリ金属ハロゲン化物及び有機極性溶媒を含む粗反応混合物を得る工程である。
【0031】
ここで、本発明においてポリハロ芳香族化合物としては、例えば、芳香族環に直接結合した2個以上のハロゲン原子を有するハロゲン化芳香族化合物であり、具体的には、p-ジクロルベンゼン、o-ジクロルベンゼン、m-ジクロルベンゼン、トリクロルベンゼン、テトラクロルベンゼン、ジブロムベンゼン、ジヨードベンゼン、トリブロムベンゼン、ジブロムナフタレン、トリヨードベンゼン、ジクロルジフェニルベンゼン、ジブロムジフェニルベンゼン、ジクロルベンゾフェノン、ジブロムベンゾフェノン、ジクロルジフェニルエーテル、ジブロムジフェニルエーテル、ジクロルジフェニルスルフィド、ジブロムジフェニルスルフィド、ジクロルビフェニル、ジブロムビフェニル等のジハロ芳香族化合物及びこれらの混合物が挙げられ、これらの化合物をブロック共重合してもよい。これらの中でも好ましいのはジハロゲン化ベンゼン類であり、特に好ましいのはp-ジクロルベンゼンを80モル%以上含むものである。また、枝分かれ構造とすることによってPAS樹脂の粘度増大を図る目的で、1分子中に3個以上のハロゲン置換基を有するポリハロ芳香族化合物を分岐剤として所望に応じて用いてもよい。このようなポリハロ芳香族化合物としては、例えば、1,2,4-トリクロルベンゼン、1,3,5-トリクロルベンゼン、1,4,6-トリクロルナフタレン等が挙げられる。更に、アミノ基、チオール基、ヒドロキシル基等の活性水素を持つ官能基を有するポリハロ芳香族化合物を挙げることが出来、具体的には、2,6-ジクロルアニリン、2,5-ジクロルアニリン、2,4-ジクロルアニリン、2,3-ジクロルアニリン等のジハロアニリン類;2,3,4-トリクロルアニリン、2,3,5-トリクロルアニリン、2,4,6-トリクロルアニリン、3,4,5-トリクロルアニリン等のトリハロアニリン類;2,2’-ジアミノ-4,4’-ジクロルジフェニルエーテル、2,4’-ジアミノ-2’,4-ジクロルジフェニルエーテル等のジハロアミノジフェニルエーテル類及びこれらの混合物においてアミノ基がチオール基やヒドロキシル基に置き換えられた化合物などが例示される。また、これらの活性水素含有ポリハロ芳香族化合物中の芳香族環を形成する炭素原子に結合した水素原子が他の不活性基、例えばアルキル基などの炭化水素基に置換している活性水素含有ポリハロ芳香族化合物も使用できる。
【0032】
これらの各種活性水素含有ポリハロ芳香族化合物の中でも、好ましいのは活性水素含有ジハロ芳香族化合物であり、特に好ましいのはジクロルアニリンである。
【0033】
ニトロ基を有するポリハロ芳香族化合物としては、例えば、2,4-ジニトロクロルベンゼン、2,5-ジクロルニトロベンゼン等のモノ又はジハロニトロベンゼン類;2-ニトロ-4,4’-ジクロルジフェニルエーテル等のジハロニトロジフェニルエーテル類;3,3’-ジニトロ-4,4’-ジクロルジフェニルスルホン等のジハロニトロジフェニルスルホン類;2,5-ジクロル-3-ニトロピリジン、2-クロル-3,5-ジニトロピリジン等のモノ又はジハロニトロピリジン類;あるいは各種ジハロニトロナフタレン類などが挙げられる。
【0034】
また、本発明においては、アルカリ金属硫化物又はアルカリ水硫化物及びアルカリ金属水酸化物(以下、スルフィド化剤ということがある)を原料として用いる。
【0035】
本発明において、前記アルカリ金属硫化物としては、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム及びこれらの混合物が含まれる。かかるアルカリ金属硫化物は、水和物あるいは水性混合物あるいは無水物として使用することができる。また、アルカリ金属硫化物はアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物との反応によっても導くことができる。尚、通常、アルカリ金属硫化物中に微量存在するアルカリ金属水硫化物、チオ硫酸アルカリ金属と反応させるために、少量のアルカリ金属水酸化物を加えても差し支えない。
【0036】
また、前記アルカリ金属水硫化物としては、硫化水素リチウム、硫化水素ナトリウム、硫化水素ルビジウム、硫化水素セシウム及びこれらの混合物が含まれる。かかるアルカリ金属水硫化物は、水和物あるいは水性混合物あるいは無水物として使用することができる。
【0037】
また、前記アルカリ金属水硫化物はアルカリ金属水酸化物と伴に用いる。当該アルカリ金属水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等が挙げられるが、これらはそれぞれ単独で用いても良いし、2種以上を混合して用いても良い。これらの中でも、入手が容易なことから水酸化リチウムと水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが好ましく、特に水酸化ナトリウムが好ましい。
【0038】
本発明のPAS樹脂の製造方法は、原料として含水スルフィド化剤を用いることもでき、その場合、少なくとも非プロトン性極性溶媒の存在下で、含水スルフィド化剤を脱水する工程を経て、PAS樹脂の重合反応に供することが好ましい。また、非プロトン性極性溶媒の仕込み量が少ない場合、例えば、スルフィド化剤の硫黄原子1モルに対して、1モル未満の場合、ポリハロ芳香族化合物の存在下で、含水スルフィド化剤と、非プロトン性極性溶媒とを、脱水させることが好ましい。
【0039】
含水スルフィド化剤の脱水工程は、少なくとも非プロトン性極性溶媒と、含水スルフィド化剤として含水アルカリ金属硫化物又は含水アルカリ水硫化物及びアルカリ金属水酸化物を、蒸留装置が設けられた反応容器に仕込み、水が共沸により除去される温度、具体的には、300℃以下の範囲、好ましくは80~220℃の範囲、より好ましくは100~200℃の範囲にまで加熱して、蒸留により水を系外に排出することにより行う。脱水工程では、重合反応を行う系内の水分量が、スルフィド化剤の硫黄原子1モルに対して、5モル以下、より好ましくは、0.01~2.0モルの範囲となるまで脱水することが好ましい。
【0040】
また、本発明において有機極性溶媒としては、ホルムアミド、アセトアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、N-メチル-ε-カプロラクタム、ε-カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、N-ジメチルプロピレン尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン酸などのアミド、尿素及びラクタム類;スルホラン、ジメチルスルホラン等のスルホラン類;ベンゾニトリル等のニトリル類;メチルフェニルケトン等のケトン類及びこれらの混合物を挙げることができ、これらの中でもN-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、N-メチル-ε-カプロラクタム、ε-カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、N-ジメチルプロピレン尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン酸の脂肪族系環状構造を有するアミドが好ましく、N-メチル-2-ピロリドンがさらに好ましい。
【0041】
PAS重合工程におけるPAS樹脂の重合反応は、これらの有機極性溶媒の存在下、スルフィド化剤として上記アルカリ金属硫化物と、ポリハロ芳香族化合物とを反応させる。又は、PAS樹脂の重合反応は、これらの有機極性溶媒の存在下、スルフィド化剤として上記アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物と、ポリハロ芳香族化合物とを反応させる。重合条件は一般に、温度200~330℃の範囲であり、圧力は重合溶媒及び重合モノマーであるポリハロ芳香族化合物を実質的に液相に保持するような範囲であるべきであり、一般には0.1~20MPaの範囲、好ましくは0.1~2MPaの範囲より選択される。ポリハロ芳香族化合物の仕込量は、前記スルフィド化剤の硫黄原子1モルに対して、0.2モル~5.0モルの範囲、好ましくは0.8~1.3モルの範囲、さらに好ましくは0.9~1.1モルの範囲となるよう調製する。また、非プロトン性極性溶媒の仕込量は、スルフィド化剤の硫黄原子1モルに対して、1.0~6.0モルの範囲、好ましくは2.5~4.5モルの範囲となるよう調整する。なお、重合反応は少量の水の存在下に行うことが好ましく、その割合は、重合方法や得られるポリマーの分子量や生産性との兼ね合いで適宜調整することが好ましい。具体的には、スルフィド化剤の硫黄原子1モルに対して2.0モル以下、好ましくは1.6モル以下の範囲となるよう脱水操作を行うが、さらにポリハロ芳香族化合物の存在下で脱水操作を行う場合(例えば、下記具体的態様における「5)」の方法)においては0.9モル以下、好ましくは0.05~0.3モル、より好ましくは0.01~0.02モル以下の範囲となるよう脱水操作を行えばよい。
【0042】
上記した非プロトン性極性溶媒の存在下、スルフィド化剤とポリハロ芳香族化合物とを重合させる具体的態様としては、例えば、
1)アルカリ金属カルボン酸塩又はハロゲン化リチウム等の重合助剤を使用する方法、
2)芳香族ポリハロゲン化合物等の分岐剤を使用する方法、
3)少量の水の存在下に重合反応を行い次いで水を追加してさらに重合する方法、
4)アルカリ金属硫化物と芳香族ジハロゲン化合物との反応中に、反応釜の気相部分を冷却して反応釜内の気相の一部を凝縮させ液相に還流させる方法、
5)ポリハロ芳香族化合物の存在下、アルカリ金属硫化物、又は、含水アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物と、脂肪族環状構造を有するアミド、尿素又はラクタムとを、脱水させながら反応させて固形のアルカリ金属硫化物を含むスラリーを製造する工程、該スラリーを製造した後、更にNMPなどの極性有機溶媒を加え、水を留去して脱水を行う工程、次いで、脱水工程を経て得られたスラリー中で、ポリハロ芳香族化合物と、アルカリ金属水硫化物と、前記脂肪族環状構造を有するアミド、尿素又はラクタムの加水分解物のアルカリ金属塩とを、NMPなどの極性有機溶媒1モルに対して反応系内に現存する水分量が0.02モル以下で反応させて重合を行う工程を必須の製造工程として有するPAS樹脂の製造方法、が挙げられる。
【0043】
このように、有機極性溶媒中で、ジハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、又は、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを重合反応させることにより、生成物として、PAS樹脂が得られるが、それ以外に、環状PASオリゴマーや鎖状PASオリゴマーも副生される。反応後に含まれる物質としては、その他に、例えば、アルカリ金属含有無機塩、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物、末端SH基含有化合物などの副生成物や未反応原料、水が含まれていても良い。
【0044】
工程(6)
工程(6)は、前記粗反応混合物に、〔1〕記載の製造方法で得られたPASオリゴマー混合物を添加して、少なくともPAS樹脂、PASオリゴマー、アルカリ金属ハロゲン化物及び有機極性溶媒を含む混合物(C)を得る工程である。
【0045】
前記粗反応混合物に添加するPASオリゴマー混合物の量は、粗反応混合物に含まれるPAS樹脂に対してPASオリゴマーが0.1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましい。また、40質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。
【0046】
工程(7)
工程(7)は、少なくともPAS樹脂、環状PASオリゴマー、鎖状PASオリゴマー、アルカリ金属ハロゲン化物及び有機極性溶媒を含む混合物(C)をフラッシュ法により固液分離して、少なくともPAS樹脂、PASオリゴマー及びアルカリ金属ハロゲン化物を含む混合物(D)を得る工程である。
【0047】
本工程におけるフラッシュ法による固液分離は、工程(2)と同様の方法で行うことができる。フラッシュ法を用いて固液分離して液相成分を回収すると、オリゴマーを高効率で製品側に回収できるため好ましい。
【0048】
工程(8)
工程(8)は、少なくともPAS樹脂、環状PASオリゴマー、鎖状PASオリゴマー及びアルカリ金属ハロゲン化物を含む混合物(D)を洗浄し、アルカリ金属ハロゲン化物を除去して、少なくともPAS樹脂、環状PASオリゴマー及び鎖状PASオリゴマーを含む混合物(E)を得る工程である。
【0049】
本工程において、前記混合物(D)は、水洗ないし熱水洗により洗浄される。水洗後、PAS樹脂を濾別することにより固液分離する方法としては、例えば、後述するPAS製造工程で得られた粗反応混合物から非プロトン性極性溶媒を固液分離させて得られた反応スラリーに水を加えて撹拌した後にろ過装置を用いてろ過する方法、前記したろ過によって得られた水分を含有するろ過残渣(以下「含水ケーキ」と略記する。)に再度水を加えてスラリーとした後にろ過する方法、又は前記含水ケーキがろ過器に保持された状態で再度水を加えろ過する方法等が挙げられる。
【0050】
前記水洗の際、前記混合物(D)に加える水の量は最終的に得られるPAS樹脂の理論収量に対して2倍~10倍の範囲にあることが好ましく洗浄効率の点から好ましく、上記の量の水を2~10回、好ましくは2~4回に分割して水洗に供することが好ましい。前記水洗は、窒素ないし空気雰囲気下、水温20℃~300℃の範囲で行うことが好ましく、洗浄効率が良好となる点から、なかでも、50℃~100℃の範囲で行うことがより好ましく、さらに70℃~90℃の範囲で行うことが最も好ましい。前記水洗は、一回又は複数回繰り返し行うことができる。複数回繰り返し水洗浄する場合、前記雰囲気・温度条件は同一でも異なっていても良い。
【0051】
濾別されたPAS樹脂には、微量のアルカリ金属ハロゲン化物やスルフィド化剤が十分に洗浄しきれずに残留していることがあるため、さらに、100℃~280℃の範囲の水と接触させた後に固液分離(以下、「熱水洗」ということがある)できる。
【0052】
熱水洗の温度は、例えば、100~280℃の範囲が好ましく、さらに120~275℃の範囲であることが、樹脂中に残留するアルカリ金属ハロゲン化物やスルフィド化剤の抽出効率が良好となる点から好ましい。更に具体的には、反応器内の気相の圧力を加圧下、より好ましくは0.2~4.6MPa(ゲージ圧)なる条件下、140~260℃の熱水で抽出処理を行うことが好ましい。
【0053】
このような熱水洗を行う具体的方法は、前記の水洗後に濾別されたPAS樹脂を圧力容器中において所定の圧力条件及び温度条件下に水で攪拌下に洗浄する方法が挙げられる。熱水洗時の水量はPAS樹脂の質量に対して1.5倍~10倍であることが、前記アルカリ金属ハロゲン化物やスルフィド化剤の抽出効率が良好となる点から好ましく、この量の熱水を2回以上に分けて熱水洗を行ってもよい。例えば、熱水洗を2回繰り返す場合、1回目の熱水洗と2回目の熱水洗の間にはろ過を行い、1回目の熱水洗で抽出したアルカリ金属ハロゲン化物及びスルフィド化剤とPAS樹脂とを濾別することが好ましい。また、熱水洗を一回実施した後に濾過を行い、前記した水洗を実施しても良い。この操作によってもアルカリ金属ハロゲン化物及びスルフィド化剤と、PAS樹脂との分離、除去がより促進されうる。また1回目の熱水洗工程と2回目の熱水洗工程の条件は前記の条件より任意に選ぶことができるものの、1回目の熱水洗工程の温度は例えば120℃~200℃の範囲にある温度に設定して、まず高アルカリ性の濾液を濾別して除去した後に、2回目の熱水洗工程の温度を1回目の熱水洗工程の温度より高い温度、例えば150℃~275℃の範囲にある温度に設定して実施することが前記熱水洗で用いられる装置の耐薬品性の観点から好ましい。
【0054】
なお、本工程においては、洗浄中に酸や塩基を添加してpH調整をすることができ、特に熱水洗後のpHが9.5以上13.5未満、好ましくは11.0以上13.0未満、さらに好ましくは12.0以上13.0未満の範囲となるように制御することが好ましい。その際に用いる酸としては、例えば、塩酸、硫酸、炭酸、酢酸、シュウ酸等が挙げられ、これらの中でも炭酸、酢酸、シュウ酸が好ましい。また、常圧又は加圧下で炭酸ガスを導入し接触させても良い。一方、塩基としては水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、又は炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、リン酸ナトリウム等が挙げられ、これらの中でも水酸化ナトリウムが好ましい。
【0055】
また、本熱水洗を行う工程において、さらに〔1〕又は〔2〕記載の製造方法で得られたPASオリゴマー混合物を添加してもよい。添加するPASオリゴマー混合物の量は、前記混合物(D)に含まれるPAS樹脂に対してPASオリゴマーが0.1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましい。また、40質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。
【0056】
また、本工程においては、熱水洗と固液分離を繰り返し行うこともできる。その場合、各熱水洗後のpHが異なる値になるように個別に調整することもできる。
【0057】
本工程においては、撹拌機を有する水洗槽及び固液分離するための遠心分離機を用いることも可能であるが、容器内部に撹拌翼を有し、且つ、底部に濾過用フィルターが配設された混合機能を有す容器内で行うこともできる。また、100℃を超える熱水洗でも、熱水洗を行う撹拌機を有する水洗槽、及び、その後の20~100℃でろ過するため、遠心分離機を用いることも可能であるが、容器内部に撹拌翼を有し、且つ、底部に濾過用フィルターが配設された密閉型あるいは密閉可能な混合機能を有す容器内で行うことも可能である。本発明において、水洗ないし熱水洗は連続的に行っても良いし、バッチ式に行ってもいずれでも良い。
【0058】
濾別されたPAS樹脂は回収され、その後、そのまま乾燥してPAS樹脂粉末として用いても良いし、更に洗浄処理した後、固液分離し、乾燥を行って粉末状ないし顆粒状のPAS樹脂として調製することもできる。
【0059】
工程(9)
工程(9)は、工程(8)で得られた少なくともPAS樹脂、環状PASオリゴマー及び鎖状PASオリゴマーを含む混合物(E)を酸化性雰囲気下で加熱処理する工程である。
【0060】
この酸化性雰囲気下での加熱処理(以下、「熱酸化架橋処理」ということがある)としては、前記混合物(E)を、空気あるいは酸素富化空気中などの酸化性雰囲気下で加熱処理を行う方法が挙げられる。前記加熱処理は押出機等を用いてPAS樹脂の融点以上で、PAS樹脂を溶融した状態で行ってもよいが、PAS樹脂の熱劣化の可能性が高まるため、融点プラス100℃以下で行うことが好ましい。また、融点以下の固相(固体)状態で加熱処理する場合は、加熱処理に要する時間と、加熱処理後のPAS樹脂の溶融時の熱安定性が良好となる観点から180℃~PAS樹脂の融点より20℃低い温度範囲であることが好ましい。ただし、ここでの融点とは、示差走査熱量計(パーキンエルマー製DSC装置 Pyris Diamond)を用いてJIS K 7121に準拠して測定したものをさす。
【0061】
酸化性雰囲気の酸素濃度は好ましくは5~30体積%の範囲、特に好ましくは10~25体積%の範囲である。上記範囲を超えては、ラジカル発生量が増大して加熱処理時の増粘が著しくなり、また色相が暗色化して好ましくない。上記範囲未満では、酸化速度が遅くなり処理に長時間を要し好ましくない。
【0062】
本発明の製造方法により得られた架橋型PAS樹脂は、その非ニュートン指数が1.26~2.00の範囲であり、好ましくは1.30~1.95の範囲であり、さらに好ましくは1.35~1.90の範囲である。また、本発明の架橋型PAS樹脂は、300℃で測定した溶融粘度(V6)が20~5,000〔Pa・s〕の範囲であり、より好ましくは50~2,000〔Pa・s〕の範囲であり、さらに好ましくは100~1,000〔Pa・s〕の範囲である。
【0063】
工程(10)
工程(10)は、少なくとも、PAS樹脂、アルカリ金属ハロゲン化物及び有機極性溶媒を含む前記粗反応混合物をフラッシュ法により固液分離して液相成分を除去し、少なくともPAS樹脂及びアルカリ金属ハロゲン化物を含む固形分(F)を得る工程である。本工程におけるフラッシュ法による固液分離は、工程(2)と同様の方法で行うことができる。フラッシュ法を用いて固液分離して液相成分を回収すると、オリゴマーを高効率で製品側に回収できるため好ましい。
【0064】
工程(11)
工程(11)は、少なくともPAS樹脂及びアルカリ金属ハロゲン化物を含む固形分(F)に、前記〔2〕に記載の製造方法で得られたPASオリゴマー混合物を添加して、少なくともPAS樹脂、PASオリゴマー及びアルカリ金属ハロゲン化物を含む混合物(G)を得る工程である。
【0065】
前記固形物(F)に添加するPASオリゴマー混合物の量は、前記固形物(F)に含まれるPAS樹脂に対してPASオリゴマーが0.1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましい。また、40質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。
【0066】
工程(12)
工程(12)は、少なくともPAS樹脂、PASオリゴマー及びアルカリ金属ハロゲン化物を含む混合物(G)を洗浄し、アルカリ金属ハロゲン化物を除去して、少なくともPAS樹脂、環状PASオリゴマー及び鎖状PASオリゴマーを含む混合物(H)を得る工程である。本工程における洗浄は、工程(8)と同様の方法で行うことができる。濾別されたPAS樹脂は回収され、その後、そのまま乾燥してPAS樹脂粉末として用いても良いし、更に洗浄処理した後、固液分離し、乾燥を行って粉末状ないし顆粒状のPAS樹脂として調製することもできる。
【0067】
工程(13)
工程(13)は、工程(12)で得られた少なくともPAS樹脂、環状PASオリゴマー及び鎖状PASオリゴマーを含む混合物(H)を酸化性雰囲気下で加熱処理する工程である。本工程における熱処理は、工程(9)と同様の方法で行うことができる。
【0068】
<組成物・用途等>
上記の製造方法により得られたPAS樹脂は、本発明の効果を損ねない範囲で、離型剤、着色剤、耐熱安定剤、紫外線安定剤、発泡剤、防錆剤、難燃剤、滑剤、カップリング剤、充填材などの添加剤を含有せしめることができる。充填剤としては、本発明の効果を損なうものでなければ公知慣用の材料を用いることもでき、例えば、繊維状のものや、粒状や板状などの非繊維状のものなど、さまざまな形状の無機充填剤等が挙げられる。具体的には、ガラス繊維、炭素繊維、シランガラス繊維、セラミック繊維、アラミド繊維、金属繊維、チタン酸カリウム、炭化珪素、珪酸カルシウム、ワラストナイト等の繊維、天然繊維等の繊維状充填剤が使用でき、またガラスビーズ、ガラスフレーク、硫酸バリウム、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、セリサイト、マイカ、タルク、アタパルジャイト、フェライト、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、ゼオライト、ミルドファイバー、硫酸カルシウム等の非繊維状充填剤も使用できる。
【0069】
上記の製造方法により得られたPAS樹脂は、本発明の効果を損ねない範囲で、更に、同様に下記のごとき合成樹脂及びエラストマーを混合して使用することもできる。これら合成樹脂としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリアリーレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ四弗化エチレン、ポリ二弗化エチレン、ポリスチレン、ABS樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、液晶ポリマー等が挙げられ、エラストマーとしては、ポリオレフィン系ゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム等が挙げられる。
【0070】
さらに、本発明のPAS樹脂は、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形等の各種溶融加工法により、耐熱性、成形加工性、寸法安定性等に優れる。このため、例えば、コネクタ・プリント基板a・封止成形品などの電気・電子部品、ランプリフレクター・各種電装部品などの自動車部品、各種建築物や航空機・自動車などの内装用材料、あるいはOA機器部品・カメラ部品・時計部品などの精密部品等の射出成形・圧縮成形品、あるいは繊維・フィルム・シート・パイプなどの押出成形・引抜成形品等として幅広く利用可能である。
【実施例0071】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。これら例は例示的なものであって限定的なものではない。なお、以下、特に断りが無い場合「%」や「部」は質量基準とする。
【0072】
<評価>
【0073】
(1)PPSオリゴマーの開環率の評価
PPSオリゴマーを含む液相成分(以下、NMPろ液という)、及び、該ろ液の濃縮物(以下、「NMPろ液濃縮物」という)にそれぞれ水を添加し、水スラリー化した。各水スラリーを固液分離、洗浄、乾燥し、粉体を得た。得られた粉体を5.0000g分取し、クロロホルム75mLを加えて、65℃に加熱しながら1時間還流した。抽出後の残渣を鎖状PPSオリゴマーとして、得られたクロロホルム抽出液を室温まで徐冷した際に含まれる固形物を環状PPSオリゴマーとして、それぞれ重量を測定し、NMPろ液及びNMPろ液濃縮物それぞれにおける、PPSオリゴマー含有量を算出した。得られた値から、NMPろ液濃縮工程での環状PPSオリゴマーの開環率を、下記計算式より算出した。結果を表1及び2に示す。
W1=NMPろ液に含有されるPPSオリゴマー5g中の環状PPSオリゴマー量
W2=NMPろ液濃縮物に含有されるPPSオリゴマー5g中の環状PPSオリゴマー量
開環率(%)=(1-W2/W1)×100
【0074】
(2)溶融粘度及び溶融安定性の評価
島津製作所製フローテスター「CFT-500D」を用い、300℃、荷重:20kgf/cm2、L/D=10(mm)/1(mm)で6分間又は30分間保持後の溶融粘度を測定した。溶融安定性は、粘度変化率αにより比較した。粘度変化率αは次式のように定義した。αがより小さい値の時、樹脂の粘度変化率が小さく、溶融安定性に優れることを示す。また、V6粘度は6分保持した際の溶融粘度、V30粘度は30分保持した際の溶融粘度を意味する。測定値を表1及び2に示す。
α=|{(V30-V6)/V6}|×100
【0075】
<実施例1>
工程(1)
圧力計、温度計、コンデンサ-を連結した撹拌翼及び底弁付き150Lオートクレーブに、フレーク状硫化ソーダ(60.3重量%Na2S)19.413kg(150モル)と、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)45.0kg(454モル)を仕込んだ。窒素気流下攪拌しながら209℃まで昇温して、水4.644kgを留出させた(残存する水分量は硫化ソーダ1モル当り1.13モル)。その後、オートクレーブを密閉して180℃まで冷却し、p-ジクロロベンゼン(以下、p-DCBと略す)21.631kg(147モル)及びNMP18.0kg(182モル)を仕込んだ。液温150℃で窒素ガスを用いてゲージ圧で0.1MPaに加圧して昇温を開始した。液温240℃まで135分かけて昇温し30分保持した。その後40分かけて液温250℃まで昇温し73分保持して反応を完結させた。その後、オートクレーブを冷却した。
【0076】
工程(2)
100℃でオートクレーブの底弁を開き、反応スラリーを150L平板ろ過機に移送し120℃で加圧ろ過し、NMP48.0kgを加え、再度加圧ケーキ洗浄ろ過した。回収したNMPろ液(1)の重量は80.0kgであり、PPSオリゴマー1.09kg(環状オリゴマー0.763kg、鎖状オリゴマー0.328kg)が含まれていた。
【0077】
工程(3)
NMPろ液を缶壁温度250℃とした蒸発器に仕込み、150mmHgの減圧下でNMPを蒸留により除去し、不揮発分45質量%の茶色固形状残渣3.78kgを得た。残渣中の環状オリゴマー量は0.534kg、鎖状オリゴマー量は0.556kgであり、環状PPSオリゴマーの開環率は30.0%であった。
【0078】
工程(5)
圧力計、温度計、コンデンサ-、デカンタ-、精留塔を連結した撹拌翼付き150Lオートクレーブにp-DCB33.222kg(226モル)、NMP2.280kg(23モル)、47.23質量%NaSH水溶液27.300kg(230モル)、及び49.21質量%NaOH水溶液18.533kg(228モル)を仕込み、撹拌しながら窒素雰囲気下で173℃まで5時間掛けて昇温して、水27.300kgを留出させた後、釜を密閉した。脱水時に共沸により留出したp-DCBはデカンタ-で分離して、随時釜内に戻した。脱水終了後の釜内は微粒子状の無水硫化ナトリウム組成物がp-DCB中に分散した状態であった。上記脱水工程終了後に、内温を160℃に冷却し、NMP47.492kg(479モル)を仕込み、185℃まで昇温した。圧力が0.00MPaに到達した時点で、精留塔を連結したバルブを開放し、内温200℃まで1時間掛けて昇温した。この際、精留塔出口温度が110℃以下になる様に冷却とバルブ開度で制御した。留出したDCBと水の混合蒸気はコンデンサーで凝縮し、デカンターで分離して、DCBは釜へ戻した。留出水量は179gであった。内温200℃から230℃まで3時間掛けて昇温し、1時間攪拌した後、250℃まで昇温し、1時間攪拌した。最終圧力は0.48MPaであった。
【0079】
工程(6)
室温まで冷却した後、得られたスラリー260g中に、工程(3)で得た茶色残渣10.49gを添加した。
【0080】
工程(7)
該スラリーに含まれるNMPを、真空乾燥機で150℃、2時間減圧留去した。
【0081】
工程(8)
NMP留去後の混合物に70℃のイオン交換水360gを加えて10分間攪拌した後にろ過し、ろ過後のケーキに70℃のイオン交換水480gを加えケーキ洗浄を行って固液分離し、固体分(含水ケーキ)を得た。得られた含水ケーキとイオン交換水180gを0.5Lオートクレーブに仕込み150℃で30分間攪拌を行った。室温まで冷却した後、ろ過し、ろ過後のケーキに70℃のイオン交換水480gを加えケーキ洗浄を行って固液分離し、固体分(含水ケーキ)を得た。得られた含水ケーキとイオン交換水180gを0.5Lオートクレーブに仕込み、48%NaOH水溶液を添加してpH11.9に調整し、200℃で30分間攪拌を行った。室温まで冷却した後、ろ過した。ろ液のpHは12.2であった。ろ過後のケーキに70℃のイオン交換水480gを加えケーキ洗浄を行って固液分離し、固体分(含水ケーキ)を得た。得られた含水ケーキを、120℃で4時間乾燥し、粉体(1a)63.57gを得た。添加したオリゴマーはPPS樹脂に対して5.0質量%であった。
【0082】
工程(9)
粉体(1a)を250℃に設定した熱風乾燥機で90分間熱処理し、粉体(1b)を得た。
【0083】
<実施例2>
工程(1)~(3)及び工程(5)は、実施例1と同様に行った。
【0084】
工程(4)
工程(3)で得た茶色残渣に70℃のイオン交換水3.97kgを加え、残渣の水スラリー7.75kgを得た。
【0085】
工程(10)
室温まで冷却した後、得られたスラリー260g中に含まれるNMPを、真空乾燥機で150℃、2時間減圧留去した。
【0086】
工程(11)
NMP留去後の混合物に70℃のイオン交換水360g、および、工程(4)で得た残渣の水スラリー21.50gを添加した。
【0087】
工程(12)
得られた水スラリーを10分間攪拌した後にろ過し、ろ過後のケーキに70℃のイオン交換水480gを加えケーキ洗浄を行って固液分離し、固体分(含水ケーキ)を得た。得られた含水ケーキとイオン交換水180gを0.5Lオートクレーブに仕込み、150℃で30分間攪拌を行った。室温まで冷却した後、ろ過し、ろ過後のケーキに70℃のイオン交換水480gを加えケーキ洗浄を行って固液分離し、固体分(含水ケーキ)を得た。得られた含水ケーキとイオン交換水180gを0.5Lオートクレーブに仕込み、48%NaOH水溶液を添加してpH11.9に調整し、200℃で30分間攪拌を行った。室温まで冷却した後、ろ過した。ろ液のpHは12.2であった。ろ過後のケーキに70℃のイオン交換水480gを加えケーキ洗浄を行って固液分離し、固体分(含水ケーキ)を得た。得られた含水ケーキを、120℃で4時間乾燥し、粉体(2a)63.57gを得た。添加したオリゴマーはPPS樹脂に対して5.0質量%であった。
【0088】
工程(13)
粉体(2a)を250℃に設定した熱風乾燥機で90分間熱処理を行い、粉体(2b)を得た。
【0089】
<実施例3>
工程(6)で、茶色残渣の添加量を20.97gとしたこと、及び、工程(9)で粉体(3a)を250℃に設定した熱風乾燥機で70分間熱処理を行ったこと以外は実施例1と同様に行い、粉体(3b)66.59gを得た。添加したオリゴマー量はPPS樹脂に対して10.0質量%であった。
【0090】
<実施例4>
工程(11)で、残渣の水スラリーの添加量を43.00gとしたこと、工程(13)粉体(3a)を250℃に設定した熱風乾燥機で70分間熱処理を行ったこと以外は実施例2と同様に行い、粉体(4b)66.59gを得た。添加したオリゴマー量はPPS樹脂に対して10.0質量%であった。
【0091】
<実施例5>
工程(6)で、茶色残渣の添加量を41.95gとしたこと、及び、工程(9)で粉体(5a)を250℃に設定した熱風乾燥機で55分間熱処理を行ったこと以外は、実施例1と同様に行い、粉体(5b)72.65gを得た。添加したオリゴマー量はPPS樹脂に対して20.0質量%であった。
【0092】
<実施例6>
工程(11)で、残渣の水スラリーの添加量を85.99gとしたこと、及び、工程(13)で、粉体(6a)を250℃に設定した熱風乾燥機で55分間熱処理を行ったこと以外は実施例2と同様に行い、粉体(6b)72.65gを得た。添加したオリゴマー量はPPS樹脂に対して20.0質量%であった。
【0093】
<実施例7>
工程(1)、(2)、(5)~(8)は実施例1と同様に行い、粉体(7b)63.57gを得た。工程(3)では、缶壁温度を270℃とし、不揮発分45質量%の茶色固形状残渣3.78kgを得た。残渣中の環状オリゴマー量は0.311kg、鎖状オリゴマー量は0.780kgであり、環状PPSオリゴマーの開環率は59.3%であった。工程(9)では、粉体(7a)を250℃に設定した熱風乾燥機で65分間熱処理を行った。添加したオリゴマー量はPPS樹脂に対して5.0質量%であった。
【0094】
<実施例8>
工程(1)、(2)、(5)、(10)~(12)は実施例2と同様に行い、粉体(8b)63.57gを得た。工程(3)で、缶壁温度を270℃とし、不揮発分45質量%の茶色固形状残渣3.78kgを得た。残渣中の環状オリゴマー量は0.311kg、鎖状オリゴマー量は0.780kgであり、環状PPSオリゴマーの開環率は59.3%であった。工程(13)では、粉体(8a)を250℃に設定した熱風乾燥機で65分間熱処理を行った。添加したオリゴマー量はPPS樹脂に対して5.0質量%であった。
【0095】
<実施例9>
工程(6)で茶色残渣の添加量を20.97gとしたこと、及び、工程(9)で粉体(9a)を250℃に設定した熱風乾燥機で50分間熱処理を行ったこと以外は実施例7と同様に行い、粉体(9b)66.59gを得た。添加したオリゴマー量はPPS樹脂に対して10.0質量%であった。
【0096】
<実施例10>
工程(11)で、残渣の水スラリーの添加量を43.00gとしたこと、及び、工程(13)で粉体(10a)を250℃に設定した熱風乾燥機で50分間熱処理を行ったこと以外は実施例8と同様に行い、粉体(10b)66.59gを得た。添加したオリゴマー量はPPS樹脂に対して10.0質量%であった。
【0097】
<比較例1>
工程(1)、(2)、(5)~(8)は実施例1と同様に行い、粉体(C1b)63.57gを得た。工程(3)では、缶壁温度を150℃としてNMPろ液を濃縮し、不揮発分45質量%の茶色固形状残渣3.78kgを得た。残渣中の環状オリゴマー量は0.763kg、鎖状オリゴマー量は0.328kgであり、環状PPSオリゴマーの開環率は0.00%であった。工程(9)では、粉体(C1a)を250℃に設定した熱風乾燥機で150分間熱処理を行った。添加したオリゴマー量はPPS樹脂に対して5.0質量%であった。
【0098】
<比較例2>
工程(3)で、缶壁温度を150℃としてNMPろ液を濃縮し、不揮発分45質量%の茶色固形状残渣3.78kgを得た。残渣中の環状オリゴマー量は0.763kg、鎖状オリゴマー量は0.328kgであり、環状PPSオリゴマーの開環率は0.00%であった。それ以外は実施例2と同様に行い、粉体(C2a)63.57gを得、添加したオリゴマー量はPPS樹脂に対して5.0質量%であった。得られた粉体(C2a)の溶融粘度(V6)は39Pa・sであった。工程(13)では、粉体(C2a)を250℃に設定した熱風乾燥機で150分間熱処理を行った。粉体(C2a)のkは1.9であった。熱処理後に得られた粉体(C2b)の溶融粘度は181Pa・s、粘度変化率は15.5%であった。
【0099】
<比較例3>
工程(6)で茶色残渣の添加量を20.97gとしたこと、及び、工程(9)で粉体(C3a)を250℃に設定した熱風乾燥機で170分間熱処理を行ったこと以外は比較例1と同様に行い、粉体(C3b)66.59gを得た。添加したオリゴマー量はPPS樹脂に対して10.0質量%であった。
【0100】
<比較例4>
工程(6)で、茶色残渣の添加量を41.95gとしたこと、及び、工程(9)で粉体(C4a)を250℃に設定した熱風乾燥機で170分間熱処理を行ったこと以外は比較例1と同様に行い、粉体(C4a)72.65gを得た。添加したオリゴマー量はPPS樹脂に対して20.0質量%であった。
【0101】
<比較例5>
工程(3)で、缶壁温度210℃、常圧下にてNMPろ液を濃縮した。不揮発分45質量%の茶色固形状残渣3.78kgを得、残渣中の環状オリゴマー量は0.760kg、鎖状オリゴマー量は0.331kgであり、環状PPSオリゴマーの開環率は0.39%であった。工程(9)では、粉体(C5a)を250℃に設定した熱風乾燥機で150分間熱処理を行った。それ以外は実施例1と同様に行い、粉体(C5b)63.57gを得た。添加したオリゴマー量はPPS樹脂に対して5.0質量%であった。
【0102】
<参考例1>
工程(1)~(4)は行わず、工程(5)~(9)のみを実施例1と同様に行い、工程(9)では、粉体(R1a)を250℃に設定した熱風乾燥機で180分間熱処理を行った。オリゴマー添加率0.00%の粉体(R1b)60.54gを得た。
【0103】
【0104】
【0105】
表1及び2の結果から、実施例は比較例と対比して、熱処理時間が短いことから架橋速度が増加したこと、及び得られた樹脂の粘度変化率が小さいことが示された。よって、PASオリゴマーを高効率で回収し、かつ、熱安定性に優れる架橋型PPS樹脂が得られることが認められた。