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特開2024-21681ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021681
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 75/0281 20160101AFI20240208BHJP
【FI】
C08G75/0281
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022124688
(22)【出願日】2022-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【弁理士】
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】深澤 啓一郎
(72)【発明者】
【氏名】檜森 俊男
【テーマコード(参考)】
4J030
【Fターム(参考)】
4J030BA03
4J030BA49
4J030BB28
4J030BB29
4J030BB31
4J030BC02
4J030BC08
4J030BD22
4J030BD23
4J030BF01
4J030BG10
4J030BG25
4J030BG26
4J030BG27
4J030BG31
(57)【要約】
【課題】 ポリアリーレンスルフィド(PAS)樹脂の重合反応で生じるPASオリゴマーを、PAS樹脂の重合原料として再利用するPAS樹脂の製造方法を提供する。
【解決手段】 有機極性溶媒中で、ポリハロ芳香族化合物と、スルフィド化剤とを反応させて、粗反応混合物を得る工程、粗反応混合物から、固液分離により固相成分を除去して、少なくとも、環状PASオリゴマー及び鎖状PASオリゴマーを含む液相成分(A)を得る工程、蒸発器内に前記液相成分(A)を供給し、減圧又は常圧環境下、230℃以下で濃縮して混合物(B)を得る工程、反応容器内に、前記混合物(B)を供給する工程、反応容器内に、ポリハロ芳香族化合物と、スルフィド化剤と、有機極性溶媒を供給する工程、および、反応容器内で重合反応させる工程を有すること、かつ、濃縮時の環状PASオリゴマーの開環率が10%未満であることを特徴とする、PAS樹脂の製造方法。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機極性溶媒中で、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、又は、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを反応させて、少なくとも、ポリアリーレンスルフィド樹脂、環状ポリアリーレンスルフィドオリゴマー、鎖状ポリアリーレンスルフィドオリゴマー、アルカリ金属ハロゲン化物及び有機極性溶媒を含む粗反応混合物を得る工程(1)、
粗反応混合物から、固液分離により固相成分を除去して、少なくとも、環状ポリアリーレンスルフィドオリゴマー及び鎖状ポリアリーレンスルフィドオリゴマーを含む液相成分(A)を得る工程(2)、
蒸発器内に前記液相成分(A)を供給し、減圧又は常圧環境下、230℃以下で濃縮してポリアリーレンスルフィドオリゴマー混合物(B)を得る工程(3)、
反応容器内に、前記工程(3)で得られたポリアリーレンスルフィドオリゴマー混合物(B)を供給する工程(4)、
前記反応容器内に、少なくとも、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物、または、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物と、有機極性溶媒を供給する工程(5)、及び、
前記工程(4)および(5)を経て得られた反応容器内で、少なくとも、ポリハロ芳香族化合物と、ポリアリーレンスルフィドオリゴマー混合物(B)と、(i)アルカリ金属硫化物とを、または、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを原料として、有機極性溶媒中で重合反応させる工程(6)、を有すること、かつ、
工程(3)において、濃縮時の環状ポリアリーレンスルフィドオリゴマーの開環率が10%未満であることを特徴とする、ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記工程(2)の固液分離工程がクウェンチ法を用いた工程である、請求項1記載のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記工程(4)において供給するポリアリーレンスルフィドオリゴマー混合物(B)に含まれるポリアリーレンスルフィドオリゴマーの量が、工程(6)において得られるPAS樹脂の理論収量に対して0.1~10質量%である、請求項1又は2記載のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造工程で濾別される有機極性溶媒に含まれる、環状ポリアリーレンスルフィドオリゴマーの開環率を制御して濃縮し、それを原料として再利用したポリアリーレンスルフィド樹脂を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド(以下、PPSと略すことがある)樹脂に代表されるポリアリーレンスルフィド(以下、PASと略すことがある)樹脂は、耐熱性、耐薬品性等に優れ、電気電子部品、自動車部品、給湯機部品、繊維、フィルム用途等に幅広く利用されている。
【0003】
PPS樹脂は、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などの極性有機溶媒中で、スルフィド化剤と、ポリハロ芳香族化合物とを重合反応させる方法等により得られる。この時、PPSオリゴマー、残存スルフィド化剤、塩化ナトリウムなどの副生成物も同時に生成されるが、当該副生成物は不純物とされ、従来活用が進んでいなかった。特に、重合後の溶剤スラリーを固液分離して得られる液相成分に含まれるPPSオリゴマーは、そのほとんどが産業廃棄物として廃棄され、原料費ロスと廃棄費の点から生産における多大な損失を招いていた。
【0004】
これまでに、上記液相成分を重合原料として回収する方法が開示されている(特許文献1参照)。しかし、液相成分中に存在するPPSオリゴマー以外の不純物(フェノールなど)は重合反応を阻害するため、原料としての再利用率は限定的であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-114922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、PAS樹脂の重合反応後の粗反応混合物を固液分離することにより得られる環状PASオリゴマーを、PAS樹脂の重合原料として再利用するPAS樹脂の製造方法を提供し、もってオリゴマーの再利用率を向上し、ロスを低減する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは種々の検討を行った結果、PAS樹脂の重合反応後に得られる反応混合液を固液分離して得られる液相成分を、減圧又は常圧環境下、230℃以下で濃縮する工程を経ることで、液相成分に含まれる重合阻害性の不純物を除去しながら環状PASオリゴマーの開環率を10%未満に制御できること、及び、PAS樹脂の重合原料として、該PASオリゴマーを含む組成物を使用することで、PASオリゴマーの高効率な回収ができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、有機極性溶媒中で、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、又は、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを反応させて、少なくとも、PAS樹脂、環状PASオリゴマー、鎖状PASオリゴマー、アルカリ金属ハロゲン化物及び有機極性溶媒を含む粗反応混合物を得る工程(1)、粗反応混合物から、固液分離により固相成分を除去して、少なくとも、環状PASオリゴマー及び鎖状PASオリゴマーを含む液相成分(A)を得る工程(2)、蒸発器内に前記液相成分(A)を供給し、減圧又は常圧環境下、230℃以下で濃縮してPASオリゴマー混合物(B)を得る工程(3)、反応容器内に、前記工程(3)で得られたPASオリゴマー混合物(B)を供給する工程(4)、反応容器内に、少なくとも、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物、または、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物と、有機極性溶媒を供給する工程(5)、および、前記工程(4)および(5)を経て得られた反応容器内で、少なくとも、ポリハロ芳香族化合物と、PASオリゴマー混合物(B)と、(i)アルカリ金属硫化物とを、または、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを原料として、有機極性溶媒中で重合反応させる工程(6)、を有すること、かつ、工程(3)において、濃縮時の環状PASオリゴマーの開環率が10%未満であることを特徴とする、PASオリゴマー混合物の製造方法に関する。
【0009】
なお、本発明において、繰り返し単位2~40(2量体~40量体の混合物)を有する高分子化合物を「オリゴマー」と称することがある。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、PAS樹脂の重合反応後に濾別される環状PASオリゴマーを開環率を制御しながら濃縮し、得られたPASオリゴマー混合物を原料として高効率に回収した、PAS樹脂を製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明するが、本発明の範囲はここで説明する一実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更ができる。また、特定のパラメータについて、複数の上限値及び下限値が記載されている場合、これらの上限値及び下限値の内、任意の上限値と下限値とを組合せて好適な数値範囲とすることができる。
【0012】
<PAS樹脂の製造方法>
本発明は、有機極性溶媒中で、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、又は、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを反応させて、少なくとも、PAS樹脂、環状PASオリゴマー、鎖状PASオリゴマー、アルカリ金属ハロゲン化物及び有機極性溶媒を含む粗反応混合物を得る工程(1)、粗反応混合物から、固液分離により固相成分を除去して、少なくとも、環状PASオリゴマー及び鎖状PASオリゴマーを含む液相成分(A)を得る工程(2)、蒸発器内に前記液相成分(A)を供給し、減圧又は常圧環境下、230℃以下で濃縮してPASオリゴマー混合物(B)を得る工程(3)、反応容器内に、前記工程(3)で得られたPASオリゴマー混合物(B)を供給する工程(4)、反応容器内に、少なくとも、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物、または、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物と、有機極性溶媒を供給する工程(5)、および、前記工程(4)および(5)を経て得られた反応容器内で、少なくとも、ポリハロ芳香族化合物と、PASオリゴマー混合物(B)と、(i)アルカリ金属硫化物とを、または、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを原料として、有機極性溶媒中で重合反応させる工程(6)、を有することを特徴とする。以下、詳述する。
【0013】
工程(1)
工程(1)は、有機極性溶媒中で、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、又は、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを反応させて、少なくとも、PAS樹脂、環状PASオリゴマー、鎖状PASオリゴマー、アルカリ金属ハロゲン化物及び有機極性溶媒を含む粗反応混合物を得る工程である。
【0014】
工程(1)で用いられる混合物は、少なくとも、PAS樹脂、環状PASオリゴマー、鎖状PASオリゴマー、アルカリ金属ハロゲン化物及び有機極性溶媒を含む混合物であれば特に限定されるものではないが、好ましくは工程(6)におけるPAS樹脂の製造方法において得られる粗反応混合物を用いることが好ましい。
【0015】
工程(2)
工程(2)は、粗反応混合物から、固液分離により固相成分を除去して、少なくとも、環状PASオリゴマー及び鎖状PASオリゴマーを含む液相成分(A)を得る工程である。
【0016】
該固液分離には大きく分けて、後述するフラッシュ法とクウェンチ法の2種類がある。フラッシュ法は、粗反応混合物中の溶媒を蒸発させて溶媒回収し、同時に固形物を回収する方法であり、一般的に、粗反応混合物を高温高圧の状態から常圧もしくは減圧の雰囲気中へフラッシュさせ溶媒を留去及び回収すると同時にPAS樹脂を含む固形物を粉粒状にして回収する方法である。フラッシュ法の好ましい態様としては、重合工程で得られた高温高圧(通常250℃以上、0.8MPa以上)の重合反応物を常圧中の窒素又は水蒸気などの雰囲気にノズルから噴出させる方法が挙げられる。フラッシュ法では、高温高圧状態から常圧状態に重合反応物をフラッシュしたときの溶媒の気化熱を利用して効率よく溶媒回収することができるが、フラッシュさせるときの内温が高いほど溶媒回収の効率が向上し生産性も良好となる。そのためフラッシュさせるときの重合系内の温度及び圧力を通常250℃以上、好ましくは255~280℃の温度範囲かつ0.8MPa以上、好ましくは1.0~5.0MPaの圧力範囲とする。この状態から、減圧下ないし常圧中にフラッシュさせるときの雰囲気温度は通常150~250℃の範囲であり、粗反応混合物からの溶媒回収が不足する場合は、フラッシュ後に150~250℃の雰囲気下で加熱を継続しても良い。
【0017】
一方、クウェンチ法は、粗反応混合物を除冷して粒子状のPAS樹脂を回収する方法であり、一般的に、粗反応混合物を高温高圧の状態から徐々に冷却して反応系内のPAS樹脂を晶析させた後に、濾別等により固液分離することでPAS樹脂を含む固形分を顆粒として回収する方法である。冷却時間には特に制限は無いが、通常0.1℃/分~3℃/分が好ましい範囲である。また、徐冷工程の全行程において同一速度で徐冷する必要もなく、PAS樹脂の顆粒状物が晶析するまでは0.1℃/分~1℃/分の範囲とし、その後は1℃/分以上の速度で冷却する方法なども好ましい。最終的には70℃以上、好ましくは100℃以上かつ、200℃以下まで冷却し、その後、固液分離することでポリアリーレンスルフィ樹脂を含む固形分を回収することが好ましい。クウェンチ法における固液分離は、濾過やスクリューデカンター等の遠心分離機を用いて分離した後、得られた濾過残渣に直接水を加えスラリー化したのち、固液分離を繰り返し行う方法や、得られた濾過残渣を非酸化性雰囲気下で加熱して、残存する溶媒を除去する方法などが挙げられる。クウェンチ法は、晶析時にポリマー粒子中に前記副生成物や未反応原料等の不純物を取り込みにくく、PASオリゴマーをより多く回収できるため、本工程においてはクウェンチ法がより好ましい。
【0018】
工程(3)
工程(3)は、蒸発器内に前記液相成分(A)を供給し、減圧又は常圧環境下、230℃以下で前記液相成分(A)を濃縮してPASオリゴマー混合物(B)を得る工程である。
【0019】
本工程で用いる蒸発器は、有機極性溶媒耐性がある素材からなり、加熱及び減圧できる容器であれば特に限定されず、公知のものを用いることができ、例えば、エバポレーター、オートクレーブ、薄膜蒸発器等が挙げられる。
【0020】
前記液相成分(A)を濃縮する際の蒸発器内の温度は、230℃以下であることが好ましい。また、蒸発器内の圧力は、常圧以下であることが好ましく、具体的には10~760mmHgの範囲であることが好ましい。このような条件下で濃縮することにより、環状PASオリゴマーの開環率を10%未満に制御することができる。なお、開環率は次式で表される。
開環率(%)={1-(PASオリゴマー混合物(B)中に含まれるPASオリゴマーに対する環状PASオリゴマーの重量分率)/(液相成分(A)中に含まれるPASオリゴマーに対する環状PASオリゴマーの重量分率)}×100
【0021】
また、前記液相成分(A)を濃縮する際、PASオリゴマー混合物(B)に含まれる固形物(不揮発分)の割合が20~100質量%、好ましくは20~99.99質量%、さらに好ましくは30~90質量%の範囲となるように溶媒の除去量を調節することが望ましい。
【0022】
また、前記液相成分(A)を濃縮する際、PASオリゴマー混合物(B)に含まれる揮発性の物質も有機極性溶媒と共に除去されることから、不純物を低減することができる。不純物としては、例えば、工程(1)において副生したフェノール等や未反応原料であるスルフィド化剤等が挙げられる。
【0023】
環状PASオリゴマーは、熱等により開環するとSH基等の活性末端を有する鎖状PASオリゴマーとなる。この鎖状PASオリゴマーをPAS樹脂に添加すると、溶融中に鎖状PASオリゴマーがPAS樹脂のスルフィド部位への求核攻撃等を促進して、溶融安定性を低下させる原因となる。本発明では、環状PASオリゴマーの開環率を10%未満に制御することにより、鎖状PASオリゴマーによるPAS樹脂の熱安定性の低下を抑制することができる。
【0024】
本工程で得られた前記液相成分(A)は、一旦、容器に収容して保管してもよい。一旦、容器に収容して保管する場合は、固液分離工程直後の前記有機極性溶媒が室温よりも高い温度であることから、有機極性溶媒、PASオリゴマー、その他の副生成物などが空気中の酸素で酸化が必要以上すすむ場合があり、その後のPAS樹脂の重合反応に利用(再利用)した際に、重合阻害を引き起こす恐れがあるため、さらには突沸等や作業環境の問題から容器外へ飛散する場合があるため、密閉機構を備えた容器を用いて密閉することが好ましい。密閉機構としては、テンション締付け型ロック機構などが挙げられる。
【0025】
工程(4)
工程(4)は、反応容器内に、前記工程(3)で得られたPASオリゴマー混合物(B)を供給する工程である。
【0026】
前記工程(3)で得られた前記PASオリゴマー混合物(B)は、工程(3)の蒸発器から直接供給してもよいし、一旦、別の容器に収容し、当該容器から取り出し、反応容器に移して使用してもよい。
【0027】
本工程で供給するPASオリゴマー混合物(B)の量としては、特に限定されないが、前記PASオリゴマー混合物(B)に含まれるPASオリゴマー量が、後続の重合反応より得られるPAS樹脂の理論収量に対して0.1質量%以上となるように調整することが好ましく、10質量%以下となるように調整することが好ましく、7.0質量%以下となるように調整することがより好ましく、5.0質量%以下となるように調整することがさらに好ましい。かかる範囲において、PASオリゴマー混合物による重合反応の阻害を抑制しながらPASオリゴマーを製品側へ回収することができる。
【0028】
工程(5)
工程(5)は、前記工程(3)で得られたPASオリゴマー混合物(B)を供給した反応容器内に、さらに、少なくとも、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物、または、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物と、有機極性溶媒を供給する工程である。当該工程(4)と工程(5)はどちらか一方の工程を先に行っても、また、同時に行っても、いずれでも良い。
【0029】
ここで、本発明におけるポリハロ芳香族化合物としては、例えば、芳香族環に直接結合した2個以上のハロゲン原子を有するハロゲン化芳香族化合物であり、具体的には、p-ジクロルベンゼン、o-ジクロルベンゼン、m-ジクロルベンゼン、トリクロルベンゼン、テトラクロルベンゼン、ジブロムベンゼン、ジヨードベンゼン、トリブロムベンゼン、ジブロムナフタレン、トリヨードベンゼン、ジクロルジフェニルベンゼン、ジブロムジフェニルベンゼン、ジクロルベンゾフェノン、ジブロムベンゾフェノン、ジクロルジフェニルエーテル、ジブロムジフェニルエーテル、ジクロルジフェニルスルフィド、ジブロムジフェニルスルフィド、ジクロルビフェニル、ジブロムビフェニル等のジハロ芳香族化合物及びこれらの混合物が挙げられ、これらの化合物をブロック共重合してもよい。これらの中でも好ましいのはジハロゲン化ベンゼン類であり、特に好ましいのはp-ジクロルベンゼンを80モル%以上含むものである。また、枝分かれ構造とすることによってPAS樹脂の粘度増大を図る目的で、1分子中に3個以上のハロゲン置換基を有するポリハロ芳香族化合物を分岐剤として所望に応じて用いてもよい。このようなポリハロ芳香族化合物としては、例えば、1,2,4-トリクロルベンゼン、1,3,5-トリクロルベンゼン、1,4,6-トリクロルナフタレン等が挙げられる。更に、アミノ基、チオール基、ヒドロキシル基等の活性水素を持つ官能基を有するポリハロ芳香族化合物を挙げることが出来、具体的には、2,6-ジクロルアニリン、2,5-ジクロルアニリン、2,4-ジクロルアニリン、2,3-ジクロルアニリン等のジハロアニリン類;2,3,4-トリクロルアニリン、2,3,5-トリクロルアニリン、2,4,6-トリクロルアニリン、3,4,5-トリクロルアニリン等のトリハロアニリン類;2,2’-ジアミノ-4,4’-ジクロルジフェニルエーテル、2,4’-ジアミノ-2’,4-ジクロルジフェニルエーテル等のジハロアミノジフェニルエーテル類及びこれらの混合物においてアミノ基がチオール基やヒドロキシル基に置き換えられた化合物などが例示される。また、これらの活性水素含有ポリハロ芳香族化合物中の芳香族環を形成する炭素原子に結合した水素原子が他の不活性基、例えばアルキル基などの炭化水素基に置換している活性水素含有ポリハロ芳香族化合物も使用できる。
【0030】
これらの各種活性水素含有ポリハロ芳香族化合物の中でも、好ましいのは活性水素含有ジハロ芳香族化合物であり、特に好ましいのはジクロルアニリンである。
【0031】
ニトロ基を有するポリハロ芳香族化合物としては、例えば、2,4-ジニトロクロルベンゼン、2,5-ジクロルニトロベンゼン等のモノ又はジハロニトロベンゼン類;2-ニトロ-4,4’-ジクロルジフェニルエーテル等のジハロニトロジフェニルエーテル類;3,3’-ジニトロ-4,4’-ジクロルジフェニルスルホン等のジハロニトロジフェニルスルホン類;2,5-ジクロル-3-ニトロピリジン、2-クロル-3,5-ジニトロピリジン等のモノ又はジハロニトロピリジン類;あるいは各種ジハロニトロナフタレン類などが挙げられる。
【0032】
また、本発明においては、アルカリ金属硫化物又はアルカリ水硫化物及びアルカリ金属水酸化物(以下、スルフィド化剤ということがある)を原料として用いる。
【0033】
本発明において、前記アルカリ金属硫化物としては、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム及びこれらの混合物が含まれる。かかるアルカリ金属硫化物は、水和物あるいは水性混合物あるいは無水物として使用することができる。また、アルカリ金属硫化物はアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物との反応によっても導くことができる。尚、通常、アルカリ金属硫化物中に微量存在するアルカリ金属水硫化物、チオ硫酸アルカリ金属と反応させるために、少量のアルカリ金属水酸化物を加えても差し支えない。
【0034】
また、前記アルカリ金属水硫化物としては、硫化水素リチウム、硫化水素ナトリウム、硫化水素ルビジウム、硫化水素セシウム及びこれらの混合物が含まれる。かかるアルカリ金属水硫化物は、水和物あるいは水性混合物あるいは無水物として使用することができる。
【0035】
また、前記アルカリ金属水硫化物はアルカリ金属水酸化物と伴に用いる。当該アルカリ金属水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等が挙げられるが、これらはそれぞれ単独で用いても良いし、2種以上を混合して用いても良い。これらの中でも、入手が容易なことから水酸化リチウムと水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが好ましく、特に水酸化ナトリウムが好ましい。
【0036】
本発明のPAS樹脂の製造方法は、原料として含水スルフィド化剤を用いることもでき、その場合、少なくとも非プロトン性極性溶媒の存在下で、含水スルフィド化剤を脱水する工程を経て、PAS樹脂の重合反応に供することが好ましい。また、非プロトン性極性溶媒の仕込み量が少ない場合、例えば、スルフィド化剤の硫黄原子1モルに対して、1モル未満の場合、ポリハロ芳香族化合物の存在下で、含水スルフィド化剤と、非プロトン性極性溶媒とを、脱水させることが好ましい。
【0037】
含水スルフィド化剤の脱水工程は、少なくとも非プロトン性極性溶媒と、含水スルフィド化剤として含水アルカリ金属硫化物又は含水アルカリ水硫化物及びアルカリ金属水酸化物を、蒸留装置が設けられた反応容器に仕込み、水が共沸により除去される温度、具体的には、300℃以下の範囲、好ましくは80~220℃の範囲、より好ましくは100~200℃の範囲にまで加熱して、蒸留により水を系外に排出することにより行う。脱水工程では、重合反応を行う系内の水分量が、スルフィド化剤の硫黄原子1モルに対して、5モル以下、より好ましくは、0.01~2.0モルの範囲となるまで脱水することが好ましい。
【0038】
また、本発明において有機極性溶媒としては、ホルムアミド、アセトアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、N-メチル-ε-カプロラクタム、ε-カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、N-ジメチルプロピレン尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン酸などのアミド、尿素及びラクタム類;スルホラン、ジメチルスルホラン等のスルホラン類;ベンゾニトリル等のニトリル類;メチルフェニルケトン等のケトン類及びこれらの混合物を挙げることができ、これらの中でもN-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、N-メチル-ε-カプロラクタム、ε-カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、N-ジメチルプロピレン尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン酸の脂肪族系環状構造を有するアミドが好ましく、N-メチル-2-ピロリドンがさらに好ましい。
【0039】
工程(6)
工程(6)は、前記工程(4)および(5)を経て得られた反応容器内で、少なくとも、ポリハロ芳香族化合物と、PASオリゴマー混合物と(B)、(i)アルカリ金属硫化物とを、または、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを原料として、有機極性溶媒中で重合反応させる工程である。工程(6)として重合反応を行った後、固液分離や洗浄等の必要な後処理工程を施して、PAS樹脂を製造することができる。
【0040】
PAS重合工程におけるPAS樹脂の重合反応は、有機極性溶媒の存在下、スルフィド化剤として上記アルカリ金属硫化物と、ポリハロ芳香族化合物とを反応させる。又は、PAS樹脂の重合反応は、これらの有機極性溶媒の存在下、スルフィド化剤として上記アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物と、ポリハロ芳香族化合物とを反応させる。重合条件は一般に、温度200~330℃の範囲であり、圧力は重合溶媒及び重合モノマーであるポリハロ芳香族化合物を実質的に液相に保持するような範囲であるべきであり、一般には0.1~20MPaの範囲、好ましくは0.1~2MPaの範囲より選択される。ポリハロ芳香族化合物の仕込量は、前記スルフィド化剤の硫黄原子1モルに対して、0.2モル~5.0モルの範囲、好ましくは0.8~1.3モルの範囲、さらに好ましくは0.9~1.1モルの範囲となるよう調製する。また、非プロトン性極性溶媒の仕込量は、スルフィド化剤の硫黄原子1モルに対して、1.0~6.0モルの範囲、好ましくは2.5~4.5モルの範囲となるよう調整する。なお、重合反応は少量の水の存在下に行うことが好ましく、その割合は、重合方法や得られるポリマーの分子量や生産性との兼ね合いで適宜調整することが好ましい。具体的には、スルフィド化剤の硫黄原子1モルに対して2.0モル以下、好ましくは1.6モル以下の範囲となるよう脱水操作を行うが、さらにポリハロ芳香族化合物の存在下で脱水操作を行う場合(例えば、下記具体的態様における「5)」の方法)においては0.9モル以下、好ましくは0.05~0.3モル、より好ましくは0.01~0.02モル以下の範囲となるよう脱水操作を行えばよい。
【0041】
上記した非プロトン性極性溶媒の存在下、スルフィド化剤とポリハロ芳香族化合物とを重合させる具体的態様としては、例えば、
1)アルカリ金属カルボン酸塩又はハロゲン化リチウム等の重合助剤を使用する方法、
2)芳香族ポリハロゲン化合物等の分岐剤を使用する方法、
3)少量の水の存在下に重合反応を行い次いで水を追加してさらに重合する方法、
4)アルカリ金属硫化物と芳香族ジハロゲン化合物との反応中に、反応釜の気相部分を冷却して反応釜内の気相の一部を凝縮させ液相に還流させる方法、
5)ポリハロ芳香族化合物の存在下、アルカリ金属硫化物、又は、含水アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物と、脂肪族環状構造を有するアミド、尿素又はラクタムとを、脱水させながら反応させて固形のアルカリ金属硫化物を含むスラリーを製造する工程、該スラリーを製造した後、更にNMPなどの極性有機溶媒を加え、水を留去して脱水を行う工程、次いで、脱水工程を経て得られたスラリー中で、ポリハロ芳香族化合物と、アルカリ金属水硫化物と、前記脂肪族環状構造を有するアミド、尿素又はラクタムの加水分解物のアルカリ金属塩とを、NMPなどの極性有機溶媒1モルに対して反応系内に現存する水分量が0.02モル以下で反応させて重合を行う工程を必須の製造工程として有するPAS樹脂の製造方法、が挙げられる。
【0042】
このように、有機極性溶媒中で、ジハロ芳香族化合物と、PASオリゴマー混合物(B)と、(i)アルカリ金属硫化物とを、又は、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを重合反応させることにより、生成物として、PAS樹脂が得られるが、それ以外に、環状PASオリゴマーや鎖状PASオリゴマーも副生される。反応後に含まれる物質としては、その他に、例えば、アルカリ金属含有無機塩、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物、末端SH基含有化合物などの副生成物や未反応原料、水が含まれていても良い。
【0043】
その後PAS樹脂を製造するために必要な後処理工程としては、特に制限されるものではないが、例えば、(a)重合反応終了後、先ず反応混合物をそのまま、あるいは酸または塩基を加えた後、減圧下または常圧下で溶媒を留去し、次いで溶媒留去後の固形物を水、反応溶媒(又は低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回または2回以上洗浄し、更に中和、水洗、濾過および乾燥する方法、或いは、(b)重合反応終了後、反応混合物に水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素などの溶媒(使用した重合溶媒に可溶であり、かつ少なくともPASに対しては貧溶媒である溶媒)を沈降剤として添加して、PASや無機塩等の固体状生成物を沈降させ、これらを濾別、洗浄、乾燥する方法、或いは、(c)重合反応終了後、反応混合物に反応溶媒(又は低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)を加えて撹拌した後、濾過して低分子量重合体を除いた後、水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回または2回以上洗浄し、その後中和、水洗、濾過および乾燥をする方法、(d)重合反応終了後、反応混合物に水を加えて水洗浄、濾過、必要に応じて水洗浄の時に酸を加えて酸処理し、乾燥をする方法、(e)重合反応終了後、反応混合物を濾過し、必要に応じ、反応溶媒で1回または2回以上洗浄し、更に水洗浄、濾過および乾燥する方法、等が挙げられる。
【0044】
なお、上記(a)~(e)に例示したような後処理方法において、PAS樹脂の乾燥は真空中で行なってもよいし、空気中あるいは窒素のような不活性ガス雰囲気中で行なってもよい。粉末状ないし顆粒状のPAS樹脂として調製することもできる。
【0045】
<組成物・用途等>
上記の製造方法により得られたPAS樹脂は、本発明の効果を損ねない範囲で、離型剤、着色剤、耐熱安定剤、紫外線安定剤、発泡剤、防錆剤、難燃剤、滑剤、カップリング剤、充填材などの添加剤を含有せしめることができる。充填剤としては、本発明の効果を損なうものでなければ公知慣用の材料を用いることもでき、例えば、繊維状のものや、粒状や板状などの非繊維状のものなど、さまざまな形状の無機充填剤等が挙げられる。具体的には、ガラス繊維、炭素繊維、シランガラス繊維、セラミック繊維、アラミド繊維、金属繊維、チタン酸カリウム、炭化珪素、珪酸カルシウム、ワラストナイト等の繊維、天然繊維等の繊維状充填剤が使用でき、またガラスビーズ、ガラスフレーク、硫酸バリウム、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、セリサイト、マイカ、タルク、アタパルジャイト、フェライト、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、ゼオライト、ミルドファイバー、硫酸カルシウム等の非繊維状充填剤も使用できる。
【0046】
上記の製造方法により得られたPAS樹脂は、本発明の効果を損ねない範囲で、更に、同様に下記のごとき合成樹脂及びエラストマーを混合して使用することもできる。これら合成樹脂としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリアリーレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ四弗化エチレン、ポリ二弗化エチレン、ポリスチレン、ABS樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、液晶ポリマー等が挙げられ、エラストマーとしては、ポリオレフィン系ゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム等が挙げられる。
【0047】
さらに、本発明のPAS樹脂は、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形等の各種溶融加工法により、耐熱性、成形加工性、寸法安定性等に優れる。このため、例えば、コネクタ・プリント基板a・封止成形品などの電気・電子部品、ランプリフレクター・各種電装部品などの自動車部品、各種建築物や航空機・自動車などの内装用材料、あるいはOA機器部品・カメラ部品・時計部品などの精密部品等の射出成形・圧縮成形品、あるいは繊維・フィルム・シート・パイプなどの押出成形・引抜成形品等として幅広く利用可能である。
【実施例0048】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。これら例は例示的なものであって限定的なものではない。なお、以下、特に断りが無い場合「%」や「部」は質量基準とする。
【0049】
<評価>
【0050】
(1)液相成分濃縮によるフェノール低減率の評価
PPSオリゴマーを含む液相成分(以下、「NMPろ液」という)、及び、該ろ液の濃縮物(以下、「NMPろ液濃縮物」という)のフェノール含有量をそれぞれ下記の方法より測定し、濃縮によるフェノール低減率を下記計算式より算出した。
フェノール低減率(%)={1-(NMPろ液濃縮物のフェノール含有量)÷(NMPろ液のフェノール含有量)}×100
・NMPろ液
蓋付バイアル瓶にNMPろ液2gを分取し、モノクロロベンゼン0.1g、アセトン8gを加えて攪拌した。得られたスラリーの上澄み液のフェノール量を、島津製作所製ガスクロマトグラフ装置を用いて測定し、元のNMPろ液のフェノール含有量を算出した。
・NMPろ液濃縮物
蓋付バイアル瓶にNMPろ液濃縮物1g、水10gを分取し、さらに5M塩酸を氷浴下でゆっくり滴下して内容物のpHを4以下に調整した。続いて、モノクロロベンゼン1g、アセトン100gを添加してから攪拌した。得られたスラリーの上澄み液のフェノール量を、島津製作所製ガスクロマトグラフ装置を用いて測定し、元のNMPろ液濃縮物のフェノール含有量を算出した。
【0051】
(2)PPSオリゴマーの開環率の評価
NMPろ液、及び、NMPろ液濃縮物にそれぞれ水を添加し、水スラリー化した。各水スラリーを固液分離、洗浄、乾燥し、粉体を得た。得られた粉体を5.0000g分取し、クロロホルム75mLを加えて、65℃に加熱しながら1時間還流した。抽出後の残渣を鎖状PPSオリゴマーとして、得られたクロロホルム抽出液を室温まで徐冷した際に含まれる固形物を環状PPSオリゴマーとして、それぞれ重量を測定し、NMPろ液及びNMPろ液濃縮物それぞれにおける、PPSオリゴマー含有量を算出した。得られた値から、NMPろ液濃縮工程での環状PPSオリゴマーの開環率を、下記計算式より算出した。結果を表1に示す。
=NMPろ液に含有されるPPSオリゴマー5g中の環状PPSオリゴマー量
=NMPろ液濃縮物に含有されるPPSオリゴマー5g中の環状PPSオリゴマー量
開環率(%)=(1-W/W)×100
【0052】
(3)溶融粘度及び溶融安定性の評価
島津製作所製フローテスター「CFT-500D」を用い、300℃、荷重:20kgf/cm、L/D=10(mm)/1(mm)で6分間又は30分間保持後の溶融粘度を測定した。溶融安定性は、粘度変化率αにより比較した。粘度変化率αは次式のように定義した。αがより小さい値の時、樹脂の粘度変化率が小さく、溶融安定性に優れることを示す。また、V6粘度は6分保持した際の溶融粘度、V30粘度は30分保持した際の溶融粘度を意味する。
α=|{(V30-V6)/V6}|×100
【0053】
<実施例1>
工程(1)
圧力計、温度計、コンデンサ-を連結した撹拌翼及び底弁付き150リットルオートクレーブに、フレーク状硫化ソーダ(60.3重量%NaS)19.413kg(150モル)と、N-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPと略す)45.0kg(454モル)を仕込んだ。窒素気流下攪拌しながら209℃まで昇温して、水4.644kgを留出させた(残存する水分量は硫化ソーダ1モル当り1.13モル)。その後、オートクレーブを密閉して180℃まで冷却し、p-ジクロロベンゼン(以下、p-DCBと略す)21.631kg(147モル)及びNMP18.0kg(182モル)を仕込んだ。液温150℃で窒素ガスを用いてゲージ圧で0.1MPaに加圧して昇温を開始した。液温240℃まで135分かけて昇温し30分保持した。その後40分かけて液温250℃まで昇温し73分保持して反応を完結させた。その後、オートクレーブを冷却した。
【0054】
工程(2)
100℃でオートクレーブの底弁を開き、反応スラリーを150リットル平板ろ過機に移送し120℃で加圧ろ過し、NMP48.0kgを加え、再度加圧ケーキ洗浄ろ過した。回収したNMPろ液(1)の重量は80.0kgであり、フェノール0.0190kg、PPSオリゴマー1.09kg(環状オリゴマー0.763kg、鎖状オリゴマー0.328kg)が含まれていた。
【0055】
工程(3)
NMPろ液を缶壁温度150℃とした蒸発器に仕込み、50mmHgの減圧下でNMPを蒸留により除去し、不揮発分45質量%の茶色固形状残渣3.78kgを得た。残渣中のフェノール量は0.0010kg、環状オリゴマー量は0.763kg、鎖状オリゴマー量は0.328kgであり、濃縮によるフェノール低減率は94.7%、環状オリゴマーの開環率は0.00%であった。
【0056】
工程(4)
圧力計、温度計、コンデンサ-を連結した撹拌翼及び底弁付き150リットルオートクレーブに、工程(3)で得た茶色残渣0.802kgを仕込んだ。
【0057】
工程(5)
同オートクレーブに、フレーク状硫化ソーダ(60.3重量%NaS)19.413kgと、NMP45.0kgを仕込んだ。窒素気流下攪拌しながら209℃まで昇温して、水4.644kgを留出させた(残存する水分量は硫化ソーダ1モル当り1.13モル)。その後、オートクレーブを密閉して180℃まで冷却し、p-DCB21.631kg及びNMP18.0kgを仕込んだ。工程(4)にて添加したオリゴマー量は、後続(工程(6))の重合反応におけるPPS樹脂の理論収量に対して1.5質量%であった。
【0058】
工程(6)
同オートクレーブ内の液温150℃で窒素ガスを用いてゲージ圧で0.1MPaに加圧して昇温を開始した。液温240℃まで135分かけて昇温し30分保持した。その後40分かけて液温250℃まで昇温し73分保持して反応を完結させ、その後、3時間かけて120℃まで冷却してスラリーを得た。次に、得られたスラリー100.0gをろ過(桐山ロートに保留粒子1μmのセルロースろ紙を引き、スラリーを入れたビーカーをウォーターバスにかけ、スラリー温度が50℃になってから、ロートに投入し、水流ポンプでの減圧ろ過)して溶媒を除去し、ろ過残渣に残ったNMPと副生成物の塩化ナトリウムを溶解するため60℃の温水400gに分散し10分間撹拌した後、さらにろ過し、ろ過ケーキに60℃の温水400gを通過させた。この操作を3回繰り返した後、含水ろ過ケーキは、120℃において3時間熱風循環乾燥機中で乾燥し、粉体(1)を得た。
【0059】
<実施例2>
工程(4)で、茶色残渣の添加量を1.60kgとしたこと以外は実施例1と同様に行い、粉体(2)を得た。添加したオリゴマー量はPPS樹脂の理論収量に対して3.0質量%であった。
【0060】
<実施例3>
工程(4)で、茶色残渣の添加量を2.67kgとしたこと以外は実施例1と同様に行い、粉体(3)を得た。添加したオリゴマー量はPPS樹脂の理論収量に対して5.0質量%であった。
【0061】
<実施例4>
工程(4)で、茶色残渣の添加量を3.74kgとしたこと以外は実施例1と同様に行い、粉体(4)を得た。添加したオリゴマー量はPPS樹脂の理論収量に対して7.0質量%であった。
【0062】
<実施例5>
工程(3)で、缶壁温度210℃、常圧下にてNMPろ液を濃縮した。不揮発分45質量%の茶色固形状残渣3.78kgを得、残渣中のフェノール量は0.0006kg、環状オリゴマー量は0.760kg、鎖状オリゴマー量は0.331kgであり、濃縮によるフェノール低減率は96.8%、環状オリゴマーの開環率は0.39%であった。それ以外は実施例2と同様に行い、粉体(5)を得た。添加したオリゴマー量はPPS樹脂に対して3.0質量%であった。
【0063】
<実施例6>
工程(3)で、缶壁温度210℃、常圧下にてNMPろ液を濃縮したこと以外は実施例3と同様に行い、粉体(6)を得た。添加したオリゴマー量はPPS樹脂に対して5.0質量%であった。
【0064】
<比較例1>
工程(3)で、缶壁温度250℃、常圧下にてNMPろ液を濃縮した。不揮発分45質量%の茶色固形状残渣3.78kgを得、残渣中のフェノール量は0.0006kg、環状オリゴマー量は0.534kg、鎖状オリゴマー量は0.556kgであり、濃縮によるフェノール低減率は96.8%、環状オリゴマーの開環率は30.0%であった。それ以外は実施例2と同様に行い、粉体(C1)を得た。添加したオリゴマー量はPPS樹脂に対して3.0質量%であった。
【0065】
<比較例2>
工程(3)で、缶壁温度250℃、常圧下にてNMPろ液を濃縮したこと以外は実施例3と同様に行い、粉体(C2)を得た。添加したオリゴマー量はPPS樹脂に対して5.0質量%であった。
【0066】
<比較例3>
工程(3)で、缶壁温度270℃、常圧下にてNMPろ液を濃縮した。不揮発分45質量%の茶色固形状残渣3.78kgを得、残渣中のフェノール量は0.0005kg、環状オリゴマー量は0.311kg、鎖状オリゴマー量は0.780kgであり、濃縮によるフェノール低減率は97.3%、環状オリゴマーの開環率は59.3%であった。それ以外は実施例2と同様に行い、粉体(C3)を得た。添加したオリゴマー量はPPS樹脂に対して3.0質量%であった。
【0067】
<比較例4>
工程(3)で、缶壁温度270℃、常圧下にてNMPろ液を濃縮したこと以外は実施例3と同様に行い、粉体(C4)を得た。添加したオリゴマー量はPPS樹脂に対して5.0質量%であった。
【0068】
<比較例5>
実施例2において、工程(3)、工程(4)を行わず、工程(5)で、脱水前のオートクレーブに仕込むNMP45.0kgのうち34.1kgを、工程(2)で得たNMPろ液とした。それ以外は実施例2と同様に行い、粉体(C5)を得た。添加したオリゴマー量はPPS樹脂に対して3.0質量%であった。
【0069】
<参考例(1)>
工程(1)~(4)は行わず、工程(5)、(6)のみを実施例1と同様に行い、オリゴマー添加率0%の粉体(R1)を得た。
【0070】
【表1】
【0071】
表1の結果から、実施例は比較例と対比して、得られるPAS樹脂のV6粘度が大きく、かつ、粘度変化率が小さいことが示されたことから、オリゴマーを高効率に回収し、かつ、熱安定性に優れたPPSが得られることが認められた。