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特開2024-21682ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021682
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 75/0281 20160101AFI20240208BHJP
【FI】
C08G75/0281
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022124689
(22)【出願日】2022-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【弁理士】
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】深澤 啓一郎
(72)【発明者】
【氏名】檜森 俊男
【テーマコード(参考)】
4J030
【Fターム(参考)】
4J030BA03
4J030BA49
4J030BB28
4J030BB29
4J030BB31
4J030BC02
4J030BC08
4J030BD22
4J030BD23
4J030BF01
4J030BG10
4J030BG26
4J030BG27
4J030BG31
(57)【要約】
【課題】 ポリアリーレンスルフィド(PAS)樹脂の重合反応で生じるPASオリゴマーを、高効率にPAS樹脂に回収する方法を提供する。
【解決手段】 少なくとも、ポリハロ芳香族化合物と、スルフィド化剤とを原料として、有機極性溶媒中で重合反応させて、粗反応混合物を得る工程、反応容器内を200℃以下まで冷却し、前記粗反応混合物に副生物含有有機極性溶媒(A)を加えて混合物(B)を得る工程、及び、前記混合物(B)を精製する工程を有し、かつ、前記溶媒(A)が、有機極性溶媒中で、ポリハロ芳香族化合物と、スルフィド化剤とを反応させて粗反応混合物を得たのち、固液分離により固相成分を除去して得られた有機極性溶媒であることを特徴とするPAS樹脂の製造方法。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応容器内で、少なくとも、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、または、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを原料として、有機極性溶媒中で重合反応させて、ポリアリーレンスルフィド樹脂、アルカリ金属ハロゲン化物及び有機極性溶媒を含む粗反応混合物を得る工程(1)、
反応容器内を、200℃以下まで冷却し、前記粗反応混合物に、副生物含有有機極性溶媒(A)を加えて、少なくとも、ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリアリーレンスルフィドオリゴマー、アルカリ金属ハロゲン化物及び有機極性溶媒を含む混合物(B)を得る工程(2)、及び、
前記混合物(B)を精製する工程(3)を有すること、かつ、
前記副生物含有有機極性溶媒(A)が、
有機極性溶媒中で、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、または、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを反応させて、少なくとも、ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリアリーレンスルフィドオリゴマー、有機極性溶媒を含む粗反応混合物を得たのち、固液分離により固相成分を除去して得られた、少なくとも、ポリアリーレンスルフィドオリゴマーを含む有機極性溶媒であることを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記副生物含有有機極性溶媒(A)が、さらに末端SH基含有化合物を含む、請求項1記載のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記副生物含有有機極性溶媒(A)が、さらに下記一般式(1)
【化1】
(式中、Xはアルカリ金属原子または水素原子を表す。)で示される化合物を含む、請求項1又は2記載のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記工程(3)が、
フラッシングにより前記混合物(B)から有機極性溶媒を分離し除去して、少なくとも、ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリアリーレンスルフィドオリゴマー及びアルカリ金属ハロゲン化物を含む混合物(C)を得る工程(3-1)、及び、
前記混合物(C)を水洗して、アルカリ金属ハロゲン化物を除去し、少なくともポリアリーレンスルフィドオリゴマーを含むポリアリーレンスルフィド樹脂を得る工程(3-2)を有する、請求項1又は2の何れか一項に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造工程で得られる、副生物含有有機極性溶媒に含まれるポリアリーレンスルフィドオリゴマーを、製品に高効率で回収するポリアリーレンスルフィド樹脂の製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド(以下、PPSと略すことがある)樹脂に代表されるポリアリーレンスルフィド(以下、PASと略すことがある)樹脂は、耐熱性、耐薬品性等に優れ、電気電子部品、自動車部品、給湯機部品、繊維、フィルム用途等に幅広く利用されている。
【0003】
PPS樹脂は、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などの極性有機溶媒中で、スルフィド化剤と、ポリハロ芳香族化合物とを重合反応させる方法等により得られる。この時、PPSオリゴマー、残存スルフィド化剤、塩化ナトリウムなどの副生成物も同時に生成されるが、当該副生成物は不純物とされ、従来活用が進んでいなかった。特に、重合後の溶剤スラリーを固液分離して得られる液相成分に含まれるPPSオリゴマーは、そのほとんどが産業廃棄物として廃棄され、原料費ロスと廃棄費の点から生産における多大な損失を招いていた。
【0004】
これまでに、上記液相成分を重合原料として回収する方法が開示されている(特許文献1参照)。しかしながら、液相成分中には未反応原料も存在するため、原料比率の調整が困難になるほか、同様に液相成分中に存在するPPSオリゴマー以外の不純物(フェノールなど)は重合反応を阻害するため、再利用率は限定的であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-114922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、PAS樹脂の重合反応で生じるPASオリゴマーを、高効率にPAS樹脂に回収する方法を提供することで、もってオリゴマーの再利用率を向上し、ロスを低減する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは種々の検討を行った結果、PAS樹脂の重合反応後に得られる粗反応混合物が入った反応容器内を200℃まで冷却し、そこにPASオリゴマーを含む副生物含有有機極性溶媒を添加することで、不純物が生じる副反応等によるPAS樹脂の物性低下を抑制しながら、高効率でPAS樹脂にオリゴマーを回収できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、PAS樹脂の製造方法であって、
反応容器内で、少なくとも、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、または、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを原料として、有機極性溶媒中で重合反応させて、PAS樹脂、アルカリ金属ハロゲン化物及び有機極性溶媒を含む粗反応混合物を得る工程(1)、
反応容器内を、200℃以下まで冷却し、前記粗反応混合物に、副生物含有有機極性溶媒(A)を加えて、少なくとも、PAS樹脂、PASオリゴマー、アルカリ金属ハロゲン化物及び有機極性溶媒を含む混合物(B)を得る工程(2)、及び、
前記混合物(B)を精製する工程(3)を有すること、かつ、
前記副生物含有有機極性溶媒(A)が、
有機極性溶媒中で、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、または、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを反応させて、少なくとも、PAS樹脂、PASオリゴマー、有機極性溶媒を含む粗反応混合物を得たのち、固液分離により固相成分を除去して得られた、少なくとも、PASオリゴマーを含む有機極性溶媒であることを特徴とするPAS樹脂の製造方法に関する。
【0009】
なお、本発明において、繰り返し単位2~40(2量体~40量体の混合物)を有する高分子化合物を「オリゴマー」と称することがある。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、副生物含有有機極性溶媒に含まれるオリゴマーをPAS樹脂に高効率で回収でき、さらに得られるPAS樹脂の熱安定性の低下を抑制した、PAS樹脂の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明するが、本発明の範囲はここで説明する一実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更ができる。また、特定のパラメータについて、複数の上限値及び下限値が記載されている場合、これらの上限値及び下限値の内、任意の上限値と下限値とを組合せて好適な数値範囲とすることができる。
【0012】
<PAS樹脂の製造方法>
本発明のPAS樹脂の製造方法は、
反応容器内で、少なくとも、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、または、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを原料として、有機極性溶媒中で重合反応させて、PAS樹脂、アルカリ金属ハロゲン化物及び有機極性溶媒を含む粗反応混合物を得る工程(1)、
反応容器内を、200℃以下まで冷却し、前記粗反応混合物に、副生物含有有機極性溶媒(A)を加えて、少なくとも、PAS樹脂、PASオリゴマー、アルカリ金属ハロゲン化物及び有機極性溶媒を含む混合物(B)を得る工程(2)、及び、
前記混合物(B)を精製する工程(3)を有する。
【0013】
また、前記副生物含有有機極性溶媒(A)が、
有機極性溶媒中で、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、または、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを反応させて、少なくとも、PAS樹脂、PASオリゴマー、有機極性溶媒を含む粗反応混合物を得たのち、固液分離により固相成分を除去して得られた、少なくとも、PASオリゴマーを含む有機極性溶媒であることを特徴とする。以下、詳述する。
【0014】
工程(1)
工程(1)は少なくとも、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、または、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを原料として、有機極性溶媒中で重合反応させて、PAS樹脂、アルカリ金属ハロゲン化物及び有機極性溶媒を含む粗反応混合物を得る工程である。
【0015】
ここで、本発明においてポリハロ芳香族化合物としては、例えば、芳香族環に直接結合した2個以上のハロゲン原子を有するハロゲン化芳香族化合物であり、具体的には、p-ジクロルベンゼン、o-ジクロルベンゼン、m-ジクロルベンゼン、トリクロルベンゼン、テトラクロルベンゼン、ジブロムベンゼン、ジヨードベンゼン、トリブロムベンゼン、ジブロムナフタレン、トリヨードベンゼン、ジクロルジフェニルベンゼン、ジブロムジフェニルベンゼン、ジクロルベンゾフェノン、ジブロムベンゾフェノン、ジクロルジフェニルエーテル、ジブロムジフェニルエーテル、ジクロルジフェニルスルフィド、ジブロムジフェニルスルフィド、ジクロルビフェニル、ジブロムビフェニル等のジハロ芳香族化合物及びこれらの混合物が挙げられ、これらの化合物をブロック共重合してもよい。これらの中でも好ましいのはジハロゲン化ベンゼン類であり、特に好ましいのはp-ジクロルベンゼンを80モル%以上含むものである。また、枝分かれ構造とすることによってPAS樹脂の粘度増大を図る目的で、1分子中に3個以上のハロゲン置換基を有するポリハロ芳香族化合物を分岐剤として所望に応じて用いてもよい。このようなポリハロ芳香族化合物としては、例えば、1,2,4-トリクロルベンゼン、1,3,5-トリクロルベンゼン、1,4,6-トリクロルナフタレン等が挙げられる。更に、アミノ基、チオール基、ヒドロキシル基等の活性水素を持つ官能基を有するポリハロ芳香族化合物を挙げることが出来、具体的には、2,6-ジクロルアニリン、2,5-ジクロルアニリン、2,4-ジクロルアニリン、2,3-ジクロルアニリン等のジハロアニリン類;2,3,4-トリクロルアニリン、2,3,5-トリクロルアニリン、2,4,6-トリクロルアニリン、3,4,5-トリクロルアニリン等のトリハロアニリン類;2,2’-ジアミノ-4,4’-ジクロルジフェニルエーテル、2,4’-ジアミノ-2’,4-ジクロルジフェニルエーテル等のジハロアミノジフェニルエーテル類及びこれらの混合物においてアミノ基がチオール基やヒドロキシル基に置き換えられた化合物などが例示される。また、これらの活性水素含有ポリハロ芳香族化合物中の芳香族環を形成する炭素原子に結合した水素原子が他の不活性基、例えばアルキル基などの炭化水素基に置換している活性水素含有ポリハロ芳香族化合物も使用できる。
【0016】
これらの各種活性水素含有ポリハロ芳香族化合物の中でも、好ましいのは活性水素含有ジハロ芳香族化合物であり、特に好ましいのはジクロルアニリンである。
【0017】
ニトロ基を有するポリハロ芳香族化合物としては、例えば、2,4-ジニトロクロルベンゼン、2,5-ジクロルニトロベンゼン等のモノまたはジハロニトロベンゼン類;2-ニトロ-4,4’-ジクロルジフェニルエーテル等のジハロニトロジフェニルエーテル類;3,3’-ジニトロ-4,4’-ジクロルジフェニルスルホン等のジハロニトロジフェニルスルホン類;2,5-ジクロル-3-ニトロピリジン、2-クロル-3,5-ジニトロピリジン等のモノまたはジハロニトロピリジン類;あるいは各種ジハロニトロナフタレン類などが挙げられる。
【0018】
また、本発明においては、アルカリ金属硫化物またはアルカリ水硫化物及びアルカリ金属水酸化物(以下、スルフィド化剤ということがある)を原料として用いる。
【0019】
本発明において、前記アルカリ金属硫化物としては、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム及びこれらの混合物が含まれる。かかるアルカリ金属硫化物は、水和物あるいは水性混合物あるいは無水物として使用することができる。また、アルカリ金属硫化物はアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物との反応によっても導くことができる。尚、通常、アルカリ金属硫化物中に微量存在するアルカリ金属水硫化物、チオ硫酸アルカリ金属と反応させるために、少量のアルカリ金属水酸化物を加えても差し支えない。
【0020】
また、前記アルカリ金属水硫化物としては、硫化水素リチウム、硫化水素ナトリウム、硫化水素ルビジウム、硫化水素セシウム及びこれらの混合物が含まれる。かかるアルカリ金属水硫化物は、水和物あるいは水性混合物あるいは無水物として使用することができる。
【0021】
また、前記アルカリ金属水硫化物はアルカリ金属水酸化物と伴に用いる。当該アルカリ金属水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等が挙げられるが、これらはそれぞれ単独で用いても良いし、2種以上を混合して用いても良い。これらの中でも、入手が容易なことから水酸化リチウムと水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが好ましく、特に水酸化ナトリウムが好ましい。
【0022】
本発明のPAS樹脂の製造方法は、原料として含水スルフィド化剤を用いることもでき、その場合、少なくとも非プロトン性極性溶媒の存在下で、含水スルフィド化剤を脱水する工程を経て、PAS樹脂の重合反応に供することが好ましい。また、非プロトン性極性溶媒の仕込み量が少ない場合、例えば、スルフィド化剤の硫黄原子1モルに対して、1モル未満の場合、ポリハロ芳香族化合物の存在下で、含水スルフィド化剤と、非プロトン性極性溶媒とを、脱水させることが好ましい。
【0023】
含水スルフィド化剤の脱水工程は、少なくとも非プロトン性極性溶媒と、含水スルフィド化剤として含水アルカリ金属硫化物または含水アルカリ水硫化物及びアルカリ金属水酸化物を、蒸留装置が設けられた反応容器に仕込み、水が共沸により除去される温度、具体的には、300℃以下の範囲、好ましくは80~220℃の範囲、より好ましくは100~200℃の範囲にまで加熱して、蒸留により水を系外に排出することにより行う。脱水工程では、重合反応を行う系内の水分量が、スルフィド化剤の硫黄原子1モルに対して、5モル以下、より好ましくは、0.01~2.0モルの範囲となるまで脱水することが好ましい。
【0024】
また、本発明において有機極性溶媒としては、ホルムアミド、アセトアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、N-メチル-ε-カプロラクタム、ε-カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、N-ジメチルプロピレン尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン酸などのアミド、尿素及びラクタム類;スルホラン、ジメチルスルホラン等のスルホラン類;ベンゾニトリル等のニトリル類;メチルフェニルケトン等のケトン類及びこれらの混合物を挙げることができ、これらの中でもN-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、N-メチル-ε-カプロラクタム、ε-カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、N-ジメチルプロピレン尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン酸の脂肪族系環状構造を有するアミドが好ましく、N-メチル-2-ピロリドンがさらに好ましい。
【0025】
PAS重合工程におけるPAS樹脂の重合反応は、これらの有機極性溶媒の存在下、スルフィド化剤として上記アルカリ金属硫化物と、ポリハロ芳香族化合物とを反応させる。または、PAS樹脂の重合反応は、これらの有機極性溶媒の存在下、スルフィド化剤として上記アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物と、ポリハロ芳香族化合物とを反応させる。重合条件は一般に、温度200~330℃の範囲であり、圧力は重合溶媒及び重合モノマーであるポリハロ芳香族化合物を実質的に液相に保持するような範囲であるべきであり、一般には0.1~20MPaの範囲、好ましくは0.1~2MPaの範囲より選択される。ポリハロ芳香族化合物の仕込量は、前記スルフィド化剤の硫黄原子1モルに対して、0.2モル~5.0モルの範囲、好ましくは0.8~1.3モルの範囲、さらに好ましくは0.9~1.1モルの範囲となるよう調製する。また、非プロトン性極性溶媒の仕込量は、スルフィド化剤の硫黄原子1モルに対して、1.0~6.0モルの範囲、好ましくは2.5~4.5モルの範囲となるよう調整する。なお、重合反応は少量の水の存在下に行うことが好ましく、その割合は、重合方法や得られるポリマーの分子量や生産性との兼ね合いで適宜調整することが好ましい。具体的には、スルフィド化剤の硫黄原子1モルに対して2.0モル以下、好ましくは1.6モル以下の範囲となるよう脱水操作を行うが、さらにポリハロ芳香族化合物の存在下で脱水操作を行う場合(例えば、下記具体的態様における「5)」の方法)においては0.9モル以下、好ましくは0.05~0.3モル、より好ましくは0.01~0.02モル以下の範囲となるよう脱水操作を行えばよい。
【0026】
上記した非プロトン性極性溶媒の存在下、スルフィド化剤とポリハロ芳香族化合物とを重合させる具体的態様としては、例えば、
1)アルカリ金属カルボン酸塩またはハロゲン化リチウム等の重合助剤を使用する方法、
2)芳香族ポリハロゲン化合物等の分岐剤を使用する方法、
3)少量の水の存在下に重合反応を行い次いで水を追加してさらに重合する方法、
4)アルカリ金属硫化物と芳香族ジハロゲン化合物との反応中に、反応釜の気相部分を冷却して反応釜内の気相の一部を凝縮させ液相に還流させる方法、
5)ポリハロ芳香族化合物の存在下、アルカリ金属硫化物、又は、含水アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物と、脂肪族環状構造を有するアミド、尿素またはラクタムとを、脱水させながら反応させて固形のアルカリ金属硫化物を含むスラリーを製造する工程、該スラリーを製造した後、更にNMPなどの極性有機溶媒を加え、水を留去して脱水を行う工程、次いで、脱水工程を経て得られたスラリー中で、ポリハロ芳香族化合物と、アルカリ金属水硫化物と、前記脂肪族環状構造を有するアミド、尿素またはラクタムの加水分解物のアルカリ金属塩とを、NMPなどの極性有機溶媒1モルに対して反応系内に現存する水分量が0.02モル以下で反応させて重合を行う工程を必須の製造工程として有するPAS樹脂の製造方法、が挙げられる。
【0027】
このように、有機極性溶媒中で、ジハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、または、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを重合反応させることにより、生成物として、PAS樹脂が得られるが、それ以外に、PASオリゴマーも副生される。反応後に含まれる物質としては、その他に、例えば、アルカリ金属含有無機塩、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物、末端SH基含有化合物などの副生成物や未反応原料、水が含まれていても良い。
【0028】
工程(2)
工程(2)は、反応容器内を、200℃以下まで冷却し、前記粗反応混合物に、副生物含有有機極性溶媒(A)を加えて、少なくとも、PAS樹脂、PASオリゴマー、アルカリ金属ハロゲン化物及び有機極性溶媒を含む混合物(B)を得る工程である。
【0029】
・副生物含有有機極性溶媒(A)
工程(2)で用いる副生物含有有機極性溶媒(A)は、有機極性溶媒中で、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、または、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを反応させて、少なくとも、PAS樹脂、PASオリゴマー、有機極性溶媒を含む粗反応混合物を得たのち、固液分離により固相成分を除去して得られた、少なくとも、PASオリゴマーを含む有機極性溶媒である。
【0030】
有機極性溶媒中で、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、または、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを反応させて、少なくとも、PAS樹脂、PASオリゴマー、有機極性溶媒を含む粗反応混合物を得る方法としては、特に限定されないが、例えば工程(1)と同様の方法が挙げられる。
【0031】
上記、少なくとも、PAS樹脂、PASオリゴマー、有機極性溶媒を含む粗反応混合物から固液分離により固相成分を除去する方法としては、大きく分けて、後述するフラッシュ法とクウェンチ法の2種類がある。フラッシュ法は、粗反応混合物中の溶媒を蒸発させて溶媒回収し、同時に固形物を回収する方法であり、一般的に、粗反応混合物を高温高圧の状態から常圧もしくは減圧の雰囲気中へフラッシュさせ溶媒を留去及び回収すると同時にPAS樹脂を含む固形物を粉粒状にして回収する方法である。フラッシュ法の好ましい態様としては、重合工程で得られた高温高圧(通常250℃以上、0.8MPa以上)の重合反応物を常圧中の窒素または水蒸気などの雰囲気にノズルから噴出させる方法が挙げられる。フラッシュ法では、高温高圧状態から常圧状態に重合反応物をフラッシュしたときの溶媒の気化熱を利用して効率よく溶媒回収することができるが、フラッシュさせるときの内温が高いほど溶媒回収の効率が向上し生産性も良好となる。そのためフラッシュさせるときの重合系内の温度及び圧力を通常250℃以上、好ましくは255~280℃の温度範囲かつ0.8MPa以上、好ましくは1.0~5.0MPaの圧力範囲とする。この状態から、減圧下ないし常圧中にフラッシュさせるときの雰囲気温度は通常150~250℃の範囲であり、粗反応混合物からの溶媒回収が不足する場合は、フラッシュ後に150~250℃の雰囲気下で加熱を継続しても良い。
【0032】
一方、クウェンチ法は、粗反応混合物を除冷して粒子状のPAS樹脂を回収する方法であり、一般的に、粗反応混合物を高温高圧の状態から徐々に冷却して反応系内のPAS樹脂を晶析させた後に、濾別等により固液分離することでPAS樹脂を含む固形分を顆粒として回収する方法である。冷却時間には特に制限は無いが、通常0.1℃/分~3℃/分が好ましい範囲である。また、徐冷工程の全行程において同一速度で徐冷する必要もなく、PAS樹脂の顆粒状物が晶析するまでは0.1℃/分~1℃/分の範囲とし、その後は1℃/分以上の速度で冷却する方法なども好ましい。最終的には70℃以上、好ましくは100℃以上かつ、200℃以下まで冷却し、その後、固液分離することでポリアリーレンスルフィ樹脂を含む固形分を回収することが好ましい。クウェンチ法における固液分離は、濾過やスクリューデカンター等の遠心分離機を用いて分離した後、得られた濾過残渣に直接水を加えスラリー化したのち、固液分離を繰り返し行う方法や、得られた濾過残渣を非酸化性雰囲気下で加熱して、残存する溶媒を除去する方法などが挙げられる。
【0033】
該粗反応混合物から、少なくとも、PASオリゴマーを含む有機極性溶媒を得るには、クウェンチ法で固液分離し、固相成分を除去することが、高効率に液相成分を回収できるため好ましい。
【0034】
工程(2)で、前記粗反応混合物に添加する副生物含有有機極性溶媒(A)の量は、前記粗反応混合物に含まれるPAS樹脂(理論収量)に対して、副生物含有有機極性溶媒(A)に含まれるPASオリゴマーが0.1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましい。また、40質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。
【0035】
なお、副生物含有有機極性溶媒(A)に含まれるPASオリゴマーの量は、前記溶媒(A)中に溶存する固形物を水洗、乾燥して得られる残渣を秤量することによって定量することができる。
【0036】
前記副生物含有有機極性溶媒(A)はPASオリゴマーの他に、さらに、末端SH基含有化合物を含むことができる。末端SH基含有化合物としては、例えば、下記一般式(1)
【0037】
【化1】
(nは4~30の整数を表す。)で示される化合物が挙げられる。
【0038】
反応容器内が200℃以上で副生物含有有機極性溶媒(A)を添加した場合、末端SH基含有化合物がPAS樹脂を分解することがあり、その結果、樹脂の分子量低下、ガス発生量の増加及び熱安定性低下を生じることがある。反応容器内を200℃以下に冷却してから副生物含有有機極性溶媒(A)を添加することで、これを抑制できる。
【0039】
前記副生物含有有機極性溶媒(A)はPASオリゴマーの他に、さらに、下記一般式(2)
【0040】
【化2】

(式中、Xはアルカリ金属原子または水素原子を表す。)で表される化合物が含まれていてもよい(この化合物を“CP-MABA”と略記することがある)。
【0041】
前記CP-MABAは、PAS樹脂の重合過程で重合反応を阻害する一因となるため、これらを含む副生物含有有機極性溶媒(A)を重合原料とした場合には、樹脂の分子量低下、ガス発生量の増加及び熱安定性低下を生じることがある。工程(2)で反応容器内を200℃以下に冷却してから副生物含有有機極性溶媒(A)を添加することで、これを抑制できる。
【0042】
工程(3)
工程(3)は、前記混合物(B)を精製する工程である。精製方法は特に限定されないが、例えば、溶媒固液分離工程、水洗ないし熱水洗による精製工程を経ることができる。
【0043】
溶媒固液分離工程は、前述のとおり、大きく分けてフラッシュ法とクウェンチ法の2種類があるが、本工程の溶媒固液分離工程としては、フラッシュ法により前記混合物(B)から有機極性溶媒を分離し除去して、少なくとも、PAS樹脂、PASオリゴマー及びアルカリ金属ハロゲン化物を含む混合物(C)を得る工程(3-1)を有することが好ましい。
【0044】
前記混合物(B)または前記混合物(C)は、本発明の水洗ないし熱水洗により洗浄工程を経て、精製される(工程3-2)。水洗後、PAS樹脂を濾別することにより固液分離する方法としては、例えば、ろ過装置を用いてろ過する方法、前記したろ過によって得られた水分を含有するろ過残渣(以下「含水ケーキ」と略記する。)に再度水を加えてスラリーとした後にろ過する方法、または前記含水ケーキがろ過器に保持された状態で再度水を加えろ過する方法等が挙げられる。
【0045】
前記水洗の際、前記混合物(C)に加える水の量は最終的に得られるPAS樹脂の理論収量に対して2倍~10倍の範囲にあることが好ましく洗浄効率の点から好ましく、上記の量の水を2~10回、好ましくは2~4回に分割して水洗に供することが好ましい。前記水洗は、窒素ないし空気雰囲気下、水温20℃~300℃の範囲で行うことが好ましく、洗浄効率が良好となる点から、なかでも、50℃~100℃の範囲で行うことがより好ましく、さらに70℃~90℃の範囲で行うことが最も好ましい。前記水洗は、一回または複数回繰り返し行うことができる。複数回繰り返し水洗浄する場合、前記雰囲気・温度条件は同一でも異なっていても良い。
【0046】
濾別されたPAS樹脂には、微量のアルカリ金属ハロゲン化物やスルフィド化剤が十分に洗浄しきれずに残留していることがあるため、さらに、100℃~280℃の範囲の水と接触させた後に固液分離(以下、「熱水洗」ということがある)できる。
【0047】
熱水洗の温度は、例えば、100~280℃の範囲が好ましく、さらに120~275℃の範囲であることが、樹脂中に残留するアルカリ金属ハロゲン化物やスルフィド化剤の抽出効率が良好となる点から好ましい。更に具体的には、反応器内の気相の圧力を加圧下、より好ましくは0.2~4.6MPa(ゲージ圧)なる条件下、140~260℃の熱水で抽出処理を行うことが好ましい。
【0048】
このような熱水洗を行う具体的方法は、前記の水洗後に濾別されたPAS樹脂を圧力容器中において所定の圧力条件及び温度条件下に水で攪拌下に洗浄する方法が挙げられる。熱水洗時の水量はPASの質量に対して1.5倍~10倍であることが、前記アルカリ金属ハロゲン化物やスルフィド化剤の抽出効率が良好となる点から好ましく、この量の熱水を2回以上に分けて熱水洗を行ってもよい。例えば、熱水洗を2回繰り返す場合、1回目の熱水洗と2回目の熱水洗の間にはろ過を行い、1回目の熱水洗で抽出したアルカリ金属ハロゲン化物及びスルフィド化剤とPAS樹脂とを濾別することが好ましい。また、熱水洗を一回実施した後に濾過を行い、前記した水洗を実施しても良い。この操作によってもアルカリ金属ハロゲン化物及びスルフィド化剤と、PAS樹脂との分離、除去がより促進されうる。また1回目の熱水洗工程と2回目の熱水洗工程の条件は前記の条件より任意に選ぶことができるものの、1回目の熱水洗工程の温度は例えば120℃~200℃の範囲にある温度に設定して、まず高アルカリ性の濾液を濾別して除去した後に、2回目の熱水洗工程の温度を1回目の熱水洗工程の温度より高い温度、例えば150℃~275℃の範囲にある温度に設定して実施することが前記熱水洗で用いられる装置の耐薬品性の観点から好ましい。
【0049】
なお、本工程においては、洗浄中に酸や塩基を添加してpH調整をすることができ、特に熱水洗後のpHが11.0以上13.0未満の範囲になるように制御することが好ましい。その際に用いる酸としては、例えば、塩酸、硫酸、炭酸、酢酸、シュウ酸等が挙げられ、これらの中でも炭酸、酢酸、シュウ酸が好ましい。また、常圧または加圧下で炭酸ガスを導入し接触させても良い。一方、塩基としては水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、または炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、リン酸ナトリウム等が挙げられ、これらの中でも水酸化ナトリウムが好ましい。
【0050】
本工程においては、撹拌機を有する水洗槽及び固液分離するための遠心分離機を用いることも可能であるが、容器内部に撹拌翼を有し、且つ、底部に濾過用フィルターが配設された混合機能を有す容器内で行うこともできる。また、100℃を超える熱水洗でも、熱水洗を行う撹拌機を有する水洗槽、及び、その後の20~100℃でろ過するため、遠心分離機を用いることも可能であるが、容器内部に撹拌翼を有し、且つ、底部に濾過用フィルターが配設された密閉型あるいは密閉可能な混合機能を有す容器内で行うことも可能である。本発明において、水洗ないし熱水洗は連続的に行っても良いし、バッチ式に行ってもいずれでも良い。
【0051】
濾別されたPAS樹脂は回収され、その後、そのまま乾燥してPAS樹脂粉末として用いても良いし、更に洗浄処理した後、固液分離し、乾燥を行って粉末状ないし顆粒状のPAS樹脂として調製することもできる。
【0052】
<組成物・用途等>
上記のように、本発明の工程(1)~(3)を経て得られたPAS樹脂は、本発明の効果を損ねない範囲で、離型剤、着色剤、耐熱安定剤、紫外線安定剤、発泡剤、防錆剤、難燃剤、滑剤、カップリング剤、充填材などの添加剤を含有せしめることができる。更に、同様に下記のごとき合成樹脂及びエラストマーを混合して使用することもできる。これら合成樹脂としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリアリーレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ四弗化エチレン、ポリ二弗化エチレン、ポリスチレン、ABS樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、液晶ポリマー等が挙げられ、エラストマーとしては、ポリオレフィン系ゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム等が挙げられる。
【0053】
さらに、本発明の工程(1)~(3)を経て得られたPAS樹脂は、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形等の各種溶融加工法により、耐熱性、成形加工性、寸法安定性等に優れる。このため、例えば、コネクタ・プリント基板・封止成形品などの電気・電子部品、ランプリフレクター・各種電装部品などの自動車部品、各種建築物や航空機・自動車などの内装用材料、あるいはOA機器部品・カメラ部品・時計部品などの精密部品等の射出成形・圧縮成形品、あるいは繊維・フィルム・シート・パイプなどの押出成形・引抜成形品、3Dプリンタ造形品等として幅広く利用可能である。
【0054】
本発明により、PAS樹脂の製造工程で生じるオリゴマーを製品に回収することにより、産業廃棄物の低減による環境負荷の低減と、原料原単位の低下を抑制し、PAS樹脂の生産性を向上させることができる。
【実施例0055】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。これら例は例示的なものであって限定的なものではない。なお、以下、特に断りが無い場合「%」や「部」は質量基準とする。
【0056】
<評価>
【0057】
(1)溶融粘度及び溶融安定性の評価
島津製作所製フローテスター「CFT-500D」を用い、300℃、荷重:20kgf/cm、L/D=10(mm)/1(mm)で6分間又は30分間保持後の溶融粘度を測定した。溶融安定性は、粘度変化率αにより比較した。粘度変化率αは次式のように定義した。αがより小さい値の時、樹脂の粘度変化率が小さく、溶融安定性に優れることを示す。また、V6粘度は6分保持した際の溶融粘度、V30粘度は30分保持した際の溶融粘度を意味する。
α=|{(V30-V6)/V6}|×100
【0058】
(2)ウェイトロスの定量
PPSの粉体試料を精密天秤にて4.0000gアルミ製シャーレに秤量した。150℃に設定された乾燥機内に試料を1時間静置した後、シャーレを取出して、室温まで放冷してから秤量した。次いで、同シャーレを、370℃に設定された乾燥機内に1時間静置した後、シャーレを取出して、室温まで放冷してから秤量した。次式より各試料のウェイトロスを算出した。
{(150℃加熱後の秤量値)-(370℃加熱後の秤量値)}÷(150℃加熱後の秤量値)×100
【0059】
(3)PPSオリゴマーの定量
副生物含有有機極性溶媒10gを分取して水を添加し、水スラリー化サンプルを作製した。該サンプルを固液分離、洗浄及び乾燥し、得られた粉体(PPSオリゴマー)の重量と副生物含有有機極性溶媒全体の重量から、副生物含有有機極性溶媒に含まれるPPSオリゴマーの量を算出した。
【0060】
<実施例1>
・副生物含有有機極性溶媒の製造
圧力計、温度計、コンデンサ-を連結した撹拌翼及び底弁付き150リットルオートクレーブに、フレーク状硫化ソーダ(60.3重量%NaS)19.413kg(150モル)と、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)45.0kg(454モル)を仕込んだ。窒素気流下攪拌しながら209℃まで昇温して、水4.644kgを留出させた(残存する水分量は硫化ソーダ1モル当り1.13モル)。その後、オートクレーブを密閉して180℃まで冷却し、p-ジクロロベンゼン(以下、p-DCBと略す)21.631kg(147モル)及びNMP18.0kg(182モル)を仕込んだ。液温150℃で窒素ガスを用いてゲージ圧で0.1MPaに加圧して昇温を開始した。液温240℃まで135分かけて昇温し30分保持した。その後40分かけて液温250℃まで昇温し73分保持して反応を完結させた。その後、オートクレーブを冷却した。
次に降温させると共にオートクレーブ上部の冷却を止めた。オートクレーブ上部を冷却中、液温が下がらないように一定に保持した。反応中の最高圧力は、0.85MPaであった。反応後、冷却した。100℃でオートクレーブ底弁を開き、反応スラリーを150リットル平板ろ過機に移送して120℃で加圧ろ過した。NMP48.0kgを加え、再度加圧ケーキ洗浄ろ過した。回収したNMPろ液(副生物含有有機極性溶媒)の重量は80.0kgであり、PPSオリゴマー1.09kg、Na型CP-MABA0.365kgを含んでいた。
【0061】
・工程(1)
圧力計、温度計、コンデンサ-、デカンタ-、精留塔を連結した撹拌翼付き150リットルオートクレーブにp-DCB21.667kg(147モル)、NMP1.487kg(15モル)、47.23質量%NaSH水溶液17.804kg(150モル)、及び49.21質量%NaOH水溶液12.087kg(149モル)を仕込み、撹拌しながら窒素雰囲気下で173℃まで5時間掛けて昇温して、水17.804kgを留出させた後、釜を密閉した。脱水時に共沸により留出したDCBはデカンタ-で分離して、随時釜内に戻した。脱水終了後の釜内は微粒子状の無水硫化ナトリウム組成物がDCB中に分散した状態であった。上記脱水工程終了後に、内温を160℃に冷却し、NMP30.973kg(312モル)を仕込み、185℃まで昇温した。圧力が0.00MPaに到達した時点で、精留塔を連結したバルブを開放し、内温200℃まで1時間掛けて昇温した。この際、精留塔出口温度が110℃以下になる様に冷却とバルブ開度で制御した。留出したDCBと水の混合蒸気はコンデンサーで凝縮し、デカンターで分離して、DCBは釜へ戻した。留出水量は117gであった。内温200℃から230℃まで3時間掛けて昇温し、1時間攪拌した後、250℃まで昇温し、1時間攪拌した。最終圧力は0.48MPaであった。なお、本工程ではフレッシュNMPを用いた。
【0062】
・工程(2)
反応容器内を徐冷し150℃に到達後、副生物含有有機極性溶媒34.061kgを添加した。この時添加したオリゴマーの量は、PPS樹脂に対して3.0質量%であった。その後、攪拌し室温まで冷却した。
【0063】
・工程(3)
上記スラリー260g中に含まれるNMPを、真空乾燥機で150℃、2時間減圧留去した。この混合物に70℃のイオン交換水360gを加えて10分間攪拌した後にろ過し、ろ過後のケーキに70℃のイオン交換水480gを加えケーキ洗浄を行った。得られた含水ケーキとイオン交換水180gを0.5リッターオートクレーブに仕込み150℃で30分間攪拌を行った。室温まで冷却した後、ろ過し、ろ過後のケーキに70℃のイオン交換水480gを加えケーキ洗浄を行った。得られた含水ケーキとイオン交換水169gを0.5リットルオートクレーブに仕込み、200℃で30分間攪拌を行った。室温まで冷却した後、ろ過し、ろ過後のケーキに70℃のイオン交換水480gを加えケーキ洗浄を行った。その後、120℃で4時間乾燥し、粉体(1)39.98gを得た。
【0064】
<実施例2>
工程(2)で、添加した副生物含有有機極性溶媒の量を34.061kgから56.769kgに変更したこと以外は、実施例1と同様に行い、粉体(2)32.60gを得た。添加したオリゴマーはPPS樹脂に対して5.0質量%であった。
【0065】
<実施例3>
工程(1)で、NaSHの仕込み量を150モルから100モルへ変更、p-DCB、NMP、NaOHの仕込み量についても、NaSHと同じ比率で変えたこと、及び、工程(2)で、添加した副生物含有有機極性溶媒の量を34.061kgから75.692kgに変更したこと以外は、実施例1と同様に行い、粉体(3)22.30gを得た。添加したオリゴマーはPPS樹脂に対して10.0質量%であった。
【0066】
<実施例4>
工程(1)で、NaSHの仕込み量を150モルから30モルへ変更し、p-DCB、NMP、NaOHの仕込み量も同様に、NaSHと同じ比率で変更したこと、オートクレーブの容量を150リットルから100リットルへ変更したこと、工程(2)で、添加した副生物含有有機極性溶媒の量を34.061kgから68.123kgに変更したこと、工程(3)で、乾燥するスラリー量を260gから500gへ変更したこと以外は、実施例1と同様に行い、粉体(4)18.95gを得た。添加したオリゴマーはPPS樹脂に対して30.0質量%であった。
<参考例1>
工程(2)で、副生物含有有機極性溶媒を添加しないこと以外は、実施例1と同様に行い、粉体(R1)60.54gを得た。
【0067】
<比較例1>
工程(1)で、脱水終了後の反応釜に仕込む溶媒を、フレッシュNMP32.460kgから副生物含有有機極性溶媒34.061kgへ変更したこと以外は、参考例1と同様に行い、粉体(C1)59.11gを得た。添加したオリゴマーはPPS樹脂に対して3.0質量%であった。
【0068】
<比較例2>
工程(1)で、副生物含有有機極性溶媒の仕込み量を34.061kgから56.769へ変更したこと以外は、比較例1と同様に行い、粉体(C2)44.28gを得た。添加したオリゴマーはPPS樹脂に対して5.0質量%だった。
【0069】
<比較例3>
工程(1)で、副生物含有有機極性溶媒の仕込み量を34.061kgから75.692へ変更したこと以外は、比較例1と同様に行い、粉体(C3)27.22gを得た。添加したオリゴマーはPPS樹脂に対して10.0質量%だった。
【0070】
<比較例4>
工程(2)で、副生物含有有機極性溶媒を添加する際の反応釜内温を、150℃から250℃(重合終了直後)へ変更したこと以外は、実施例1と同様に行い、粉体(C4)32.60gを得た。添加したオリゴマーはPPS樹脂に対して5.0質量%であった。
【0071】
【表1】
【0072】
表1の結果から、実施例は比較例と対比して、粘度変化率が低く、ウェイトロスが少ないことが示されたことから、熱安定性に優れたPPSが得られることが認められた。