(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021686
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】マイクロプラスチックの観察方法及びその観察装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/17 20060101AFI20240208BHJP
G01N 21/01 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
G01N21/17 A
G01N21/01 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022124699
(22)【出願日】2022-08-04
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラムA-STEP産学共有(本格型)「海洋マイクロプラスチックの迅速分析を可能にする中赤外レーザー分光顕微鏡装置の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】島 隆之
(72)【発明者】
【氏名】古川 祐光
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 渉
(72)【発明者】
【氏名】岡本 有貴
(72)【発明者】
【氏名】一木 正聡
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA03
2G059AA05
2G059BB05
2G059CC20
2G059DD12
2G059EE01
2G059EE02
2G059EE11
2G059FF01
2G059GG02
2G059HH01
2G059JJ11
2G059JJ12
2G059KK04
(57)【要約】
【課題】 赤外線を用いた水中のマイクロプラスチックの観察方法及びそのための観察装置の提供。
【解決手段】 観察方法は、矩形断面を有し流れ方向に沿って高さ方向の寸法を減じていく狭隘部を含む流路に試料水を通水させ、狭隘部の流れ方向に沿った所定位置での寸法に対応した大きさのマイクロプラスチックを所定位置に捕捉させ、狭隘部の外部から高さ方向に向けて入射させた入射光に対する反射光または透過光を観察する。観察装置は、矩形断面を有し流れ方向に沿って高さ方向の寸法を減じていく狭隘部を含む流路を形成されたセルと、流路に試料水を通水させ、狭隘部の流れ方向に沿った所定位置での寸法に対応した大きさのマイクロプラスチックを所定位置に捕捉させ、狭隘部の外部から高さ方向に向けて入射させた入射光に対する反射光または透過光をセルの外部の受光部で受光する光学系と、を含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線を用いた水中のマイクロプラスチックの観察方法であって、
矩形断面を有し流れ方向に沿って高さ方向の寸法を減じていく狭隘部を含む流路に試料水を通水させ、前記狭隘部の前記流れ方向に沿った所定位置での前記寸法に対応した大きさの前記マイクロプラスチックを前記所定位置に捕捉させ、前記狭隘部の外部から前記高さ方向に向けて入射させた入射光に対する反射光または透過光を観察することを特徴とするマイクロプラスチックの観察方法。
【請求項2】
前記狭隘部は前記寸法を前記流れ方向に沿って連続して減じるテーパー形状流路を有することを特徴とする請求項1記載のマイクロプラスチックの観察方法。
【請求項3】
前記入射光は前記狭隘部の前記流れ方向に沿って帯状に与えられ、前記入射光の前記流れ方向に沿った位置毎に前記反射光または透過光を観察することを特徴とする請求項2記載のマイクロプラスチックの観察方法。
【請求項4】
前記入射光は前記狭隘部の前記流れ方向に沿った所定の位置において前記流路の幅方向に沿って帯状に与えられることを特徴とする請求項2記載のマイクロプラスチックの観察方法。
【請求項5】
前記入射光は赤外線領域を含む波長幅を有し、前記反射光または透過光による分光測定を行うことを特徴とする請求項3または請求項4に記載のマイクロプラスチックの観察方法。
【請求項6】
観察後、前記流れ方向と反対側に向けて前記試料水を押し戻し及び/又は洗浄流体を流通させ、前記狭隘部に捕捉された前記マイクロプラスチックを脱離させることを特徴とする請求項1記載のマイクロプラスチックの観察方法。
【請求項7】
赤外線を用いた水中のマイクロプラスチックの観察装置であって、
矩形断面を有し流れ方向に沿って高さ方向の寸法を減じていく狭隘部を含む流路を形成されたセルと、
前記流路に試料水を通水させ、前記狭隘部の前記流れ方向に沿った所定位置での前記寸法に対応した大きさの前記マイクロプラスチックを前記所定位置に捕捉させ、前記狭隘部の外部から前記高さ方向に向けて入射させた入射光に対する反射光または透過光を前記セルの外部の受光部で受光する光学系と、を含むことを特徴とするマイクロプラスチックの観察装置。
【請求項8】
前記狭隘部は前記寸法を前記流れ方向に沿って連続して減じるテーパー形状流路を有することを特徴とする請求項7記載のマイクロプラスチックの観察装置。
【請求項9】
前記入射光は前記狭隘部の前記流れ方向に沿って帯状に与えられ、前記受光部は前記入射光の前記流れ方向に沿った位置毎に前記反射光または透過光の観察を与えることを特徴とする請求項8記載のマイクロプラスチックの観察装置。
【請求項10】
前記入射光は前記狭隘部の前記流れ方向に沿った所定の位置において前記流路の幅方向に沿って帯状に与えられることを特徴とする請求項8記載のマイクロプラスチックの観察装置。
【請求項11】
前記入射光は赤外線領域を含む波長幅を有し、前記受光部で前記反射光または透過光による分光測定を行うことを特徴とする請求項9または10に記載のマイクロプラスチックの観察装置。
【請求項12】
前記光学系は、前記セルに隣接させたプリズムを含み、前記入射光及び前記反射光を導くことを特徴とする請求項7記載のマイクロプラスチックの観察装置。
【請求項13】
観察後、前記流れ方向と反対側に向けて前記試料水を押し戻し及び/又は洗浄流体を流通させ、前記狭隘部に捕捉された前記マイクロプラスチックを脱離させることを特徴とする請求項7記載のマイクロプラスチックの観察装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線を用いた水中のマイクロプラスチックの観察方法及びその観察装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックゴミが環境中で細かく分断され、例えば、大きさ5mm以下の「マイクロプラスチック」と称されるような微小なプラスチック片となって海洋や河川に漂い、これをヒトや動物が体内に取り込んで健康被害などを受けるといった報告がなされている。かかるマイクロプラスチックの観察には、海洋等から採取した液体(以下、単に「水」と称する。)を前処理してマイクロプラスチックを分離した後に、これを必要に応じた手法で観察することとなる。
【0003】
例えば、特許文献1では、船舶に取り込まれた環境水からろ過装置にてマイクロプラスチック試料を採取する方法を開示している。また、非特許文献1では、フィルタ上に採取されたマイクロプラスチック試料を900~1700nmの近赤外域のハイパースペクトルカメラで観察する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】"Characterization of microplastics on filter substrates based on hyperspectral imaging: Laboratory assessments", Chunmao Zhu, Yugo Kanaya, Ryota Nakajima, Masashi Tsuchiya, Hidetaka Nomaki, Tomo Kitahashi, Katsunori Fujikura, Environmental Pollution, Volume 263, Part B, August 2020, 114296
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、取り込まれた水の中からマイクロプラスチックを分離することなく、直接、水中で観察できれば観察効率に優れる。ここで、光源に赤外線を利用することでマイクロプラスチックの樹脂種別を光学的に識別可能となる。しかしながら、水中での赤外線の光吸収は非常に大きく、水中のマイクロプラスチックのような微小で動きのある小片を観察することは非常に難しかった。
【0007】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、赤外線を用いた水中のマイクロプラスチックの観察方法及びそのための観察装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による観察方法は、赤外線を用いた水中のマイクロプラスチックの観察方法であって、矩形断面を有し流れ方向に沿って高さ方向の寸法を減じていく狭隘部を含む流路に試料水を通水させ、前記狭隘部の前記流れ方向に沿った所定位置での前記寸法に対応した大きさの前記マイクロプラスチックを前記所定位置に捕捉させ、前記狭隘部の外部から前記高さ方向に向けて入射させた入射光に対する反射光または透過光を観察することを特徴とする。
【0009】
かかる特徴によれば、狭隘部の高さ方向の流路壁に沿ってマイクロプラスチックを整列させ得て、入射光及び反射光または透過光の試料水中での通過距離を減じ、赤外線であっても減衰することなく反射光または透過光を得られて観察できるのである。
【0010】
上記した発明において、前記狭隘部は前記寸法を前記流れ方向に沿って連続して減じるテーパー形状流路を有することを特徴としてもよい。また、前記入射光は前記狭隘部の前記流れ方向に沿って帯状に与えられ、前記入射光の前記流れ方向に沿った位置毎に前記反射光または透過光を観察することを特徴としてもよく、又は、前記入射光は前記狭隘部の前記流れ方向に沿った所定の位置において前記流路の幅方向に沿って帯状に与えられることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、大きさの異なるマイクロプラスチックを大きさ毎に分類して、又は、特定の大きさのマイクロプラスチックをまとめて観察できるのである。
【0011】
上記した発明において、前記入射光は赤外線領域を含む波長幅を有し、前記反射光または透過光による分光測定を行うことを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、マイクロプラスチックの材質の判定を与え得るのである。
【0012】
上記した発明において、観察後、前記流れ方向と反対側に向けて前記試料水を押し戻し及び/又は洗浄流体を流通させ、前記狭隘部に捕捉された前記マイクロプラスチックを脱離させることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、試料水を変更しても連続して観察できるのである。
【0013】
本発明による観察装置は、赤外線を用いた水中のマイクロプラスチックの観察装置であって、矩形断面を有し流れ方向に沿って高さ方向の寸法を減じていく狭隘部を含む流路を形成されたセルと、前記流路に試料水を通水させ、前記狭隘部の前記流れ方向に沿った所定位置での前記寸法に対応した大きさの前記マイクロプラスチックを前記所定位置に捕捉させ、前記狭隘部の外部から前記高さ方向に向けて入射させた入射光に対する反射光または透過光を前記セルの外部の受光部で受光する光学系と、を含むことを特徴とする。
【0014】
かかる特徴によれば、狭隘部の高さ方向の流路壁に沿ってマイクロプラスチックを整列させ得て、入射光及び反射光または透過光の試料水中での通過距離を減じ、赤外線であっても減衰することなく反射光または透過光を得られて観察できるのである。
【0015】
上記した発明において、前記狭隘部は前記寸法を前記流れ方向に沿って連続して減じるテーパー形状流路を有することを特徴としてもよい。また、前記入射光は前記狭隘部の前記流れ方向に沿って帯状に与えられ、前記受光部は前記入射光の前記流れ方向に沿った位置毎に前記反射光または透過光の観察を与えることを特徴としてもよく、又は、前記入射光は前記狭隘部の前記流れ方向に沿った所定の位置において前記流路の幅方向に沿って帯状に与えられることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、大きさの異なるマイクロプラスチックを大きさ毎に分類して、又は、特定の大きさのマイクロプラスチックをまとめて観察できるのである。
【0016】
上記した発明において、前記入射光は赤外線領域を含む波長幅を有し、前記反射光または透過光による分光測定を行うことを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、大きさの異なるマイクロプラスチックの材質の判定を与え得るのである。
【0017】
上記した発明において、前記光学系は、前記セルに隣接させたプリズムを含み、前記入射光及び前記反射光を導くことを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、マイクロプラスチックの反射光による観察を簡便に与え得るのである。
【0018】
上記した発明において、観察後、前記流れ方向と反対側に向けて前記試料水を押し戻し及び/又は洗浄流体を流通させ、前記狭隘部に捕捉された前記マイクロプラスチックを脱離させることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、試料水を変更しても連続して観察できるのである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明による実施例としての観察装置のブロック図である。
【
図2】本発明による実施例としての観察装置の要部の断面図である。
【
図3】観察装置に用いるセルの部品の(a)正面図及び(b)底面図である。
【
図4】プリズムを用いて反射光を測定するときの観察装置に用いるセルの正面図である。
【
図5】本発明による実施例としての他の観察装置のブロック図である。
【
図6】本発明による実施例としてのさらに他の観察装置のブロック図である。
【
図7】本発明による実施例としてのさらに他の観察装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明による1つの実施例であるマイクロプラスチックの観察装置及び観察方法について、
図1及び
図2を用いて説明する。
【0021】
図1に示すように、観察装置1は、水中のマイクロプラスチックP(
図2参照)を観察する装置であり、試料水を通水させるセル10を含む。観察装置1は、装置内に試料水を導くためにフィルタ3を備える試料水導入口2と、洗浄流体排出口8と、第1三方弁7とをセル10の一方の側(紙面左側)に備える。三方弁7は、Lポート構造を有し、セル10に対して試料水導入口2へ通じる流路と洗浄流体排出口8へ通じる流路とを切り替え可能としている。また、セル10の他方の側(紙面右側)には、試料水を排出する排水口5と、セル10を洗浄するための洗浄流体導入口6と第2三方弁4とを備える。第2三方弁4もLポート構造を有し、セル10に対して、排水口5へ通じる流路と洗浄流体導入口6へ通じる流路とを切り替え可能としている。
【0022】
マイクロプラスチックの観察を行う場合、第1三方弁7と第2三方弁4とを操作して試料水導入口2、セル10、排水口5をつなぐ流路を形成させる。そして、試料水を試料水導入口2から供給する。すると、試料水はフィルタ3を通過してセル10へ供給され、セル10を通過した後に排水口5から排出される。
【0023】
図2を併せて参照すると、セル10は、マイクロプラスチックPを捕捉するための狭隘部12を含む流路11を備える。狭隘部12は流れ方向(紙面右方向;矢印参照)に垂直な断面において矩形となる矩形断面を有する。狭隘部12は、さらに、流れ方向に沿って高さ方向(紙面上下方向)の寸法を減じていくように成形されている。つまり、流路11は、狭隘部12によって紙面に平行な断面においてくさび形となるような流路を形成している。
【0024】
これによって、流れ方向に沿った所定位置での高さ方向の寸法に対応した大きさのマイクロプラスチックが、狭隘部12のうちのかかる所定位置において、高さ方向(紙面上下方向)の両側の流路壁に押し付けられるようにして挟まれて捕捉されることになる。よって、マイクロプラスチックPはその大きさに対応して捕捉される流れ方向の位置を定められる。つまり、狭隘部12では、高さ方向の両側の流路壁に押し付けるようにしてマイクロプラスチックPを捕捉し、かかる高さ方向の流路壁に沿ってマイクロプラスチックPをその大きさに準じて整列させることができる。換言すれば、狭隘部12の流路に沿った方向の特定の位置を観察することで特定の大きさのマイクロプラスチックPを観察できることになる。なお、流路11及び狭隘部12は、流路11の高さ方向の寸法よりも十分大きな寸法の幅(紙面に垂直な方向)を有している。また、狭隘部12の最も高さ方向の寸法の小さくなった最狭部13よりも下流側においては、流れ方向に沿って高さ方向の寸法を増加させている。
【0025】
狭隘部12は、例えば、高さ方向の寸法を連続して減じるテーパー形状流路とされていることも好ましい。これによって、上記した特定の位置を簡単に算出することができ、マイクロプラスチックPを大きさ毎に分類して観察することが容易になる。
【0026】
なお、フィルタ3は、狭隘部12において捕捉させようとするマイクロプラスチックよりも大きいマイクロプラスチックやその他の固形物を導入された試料水から除去するように設けられる。例えば、φ300μm以下のマイクロプラスチックを捕捉させようとする場合、フィルタ3は、φ300μmよりも大きな固形物を通過させないようなものとされる。一方で、狭隘部12の高さ方向の寸法の最も小さい部分である最狭部13の高さ方向の寸法は、捕捉できるマイクロプラスチックの大きさの下限以下とされる。例えば、最狭部13の高さ方向の寸法を50μmとするとき、φ50μm以上のマイクロプラスチックを捕捉できることになる。
【0027】
ところで、プリズムを用いて反射光を測定するときの一例として、セル10において、狭隘部12の高さ方向下側の流路壁はプリズム20によって構成されている。つまり、プリズム20の上側の面は流路壁面14とされる。プリズム20は、狭隘部12によって捕捉したマイクロプラスチックPを観察するための光学系の一部としてセル10に隣接するよう配置されたものである。光学系としては、さらに光源21、入射側光学部品L1、反射側光学部品L2及び受光部22を含む。入射側光学部品L1および反射側光学部品L2としては、シリンドリカルレンズやビームエクスパンダなど、光束の形状や大きさを制御する光学部品が挙げられる。
【0028】
かかる光学系は、光源21から出射させた赤外線を流路壁面14で反射させ、狭隘部12に捕捉されたマイクロプラスチックPによって強度の変化した反射光を受光部22に導くよう配置される。例えば、光源21から出射された赤外線は、入射側光学部品L1及びプリズム20を介して狭隘部12の外部から上記した高さ方向に向けて流路壁面14に入射させる。また、狭隘部12に捕捉されたマイクロプラスチックPによって強度の変化した赤外線の反射光は、プリズム20及び反射側光学部品L2を介してセル10の外部の受光部22へ導かれる。
【0029】
プリズム20は、赤外線の減衰を抑制するような形状とされることが好ましい。例えば、プリズム20は、上記したように狭隘部12の下側の流路壁を構成しており、かかる流路壁の内表面の法線を対象軸として入射光側斜面20aと反射光側斜面20bとを線対称の位置としている。これにより、光源21からの赤外線を入射光側斜面20aに対して垂直方向に入射させることで、反射光を反射光側斜面20bに対して垂直方向に通過させることができる。また対称軸を基準とした光源21からの赤外線のプリズム20への入射角は、プリズム及び試料水の屈折率に基づき、流路壁面14で全反射する範囲で選択されることが望ましい。
【0030】
光源21としては、少なくとも赤外線を出射できるものであり、観察内容に応じて適宜定められる。例えば、マイクロプラスチックの材質(樹脂種別)を判定し、さらにはその由来を推定しようとする場合、光源21としては、入射光として赤外線領域を含む波長幅を有する光を出射できるものとし、反射光についての分光測定を行えるようにされる。光源21としては、また、波長を変化させながら赤外線を出射できるものとしてもよく、この場合、出射波長を高速に変化させ得る量子カスケードレーザーなどとし得る。マイクロプラスチックの大きさの分布を得ようとするのであれば、光源21は、赤外線の単色光を出射できるものとしてもよい。
【0031】
受光部22としては、例えば、ラインセンサを用い得る。ラインセンサを流れ方向及び高さ方向を含む面(紙面に平行な面)内に配置するようにしてプリズム20の反射光側斜面20bに正対させるようにすると、ラインセンサの各受光素子の位置を狭隘部12の流れ方向の各位置に対応させることができる。つまり、狭隘部12に捕捉されたマイクロプラスチックPの大きさ毎にラインセンサの各受光素子を対応させることができる。そして、入射光の流れ方向に沿った位置毎に反射光を観察することで大きさの異なるマイクロプラスチックPを大きさ毎に分類して観察することができる。この場合、狭隘部12への入射光は、流路壁面14上で流れ方向に沿って延びる帯状の範囲を通るような光束にされる。
【0032】
赤外線による入射光は狭隘部12に捕捉されたマイクロプラスチックPによって強度を変化させて反射光となる。このとき、マイクロプラスチックPは流路壁面14に押し付けられるように捕捉されている。そのため、入射光及び反射光の試料水中での通過距離を減じ、赤外線であっても減衰することなく反射光を受光部22で受光できて、マイクロプラスチックPの観察を行うことができる。
【0033】
受光部22は、また、流路11の幅方向(紙面に垂直な方向)に受光素子を並べるようにラインセンサを配置したものとしてもよい。ラインセンサは、プリズム20の反射光側斜面20bに正対させるようにする。すると、ラインセンサの全ての受光素子の位置を狭隘部12の流れ方向に沿った所定の位置に対応させることができる。このとき、さらに、狭隘部12への入射光は、流路壁面14上で幅方向に沿って延びる帯状の範囲を通るような光束にされるとともに、上記した所定の位置に照射される。このようにした場合、狭隘部12に捕捉されたマイクロプラスチックPのうちの流れ方向に沿った所定の位置において流路11の幅方向に広く捕捉された特定の大きさのものをまとめて観察することができる。
【0034】
受光部22は、さらに、流路11の流れ方向及び幅方向の両方向に対応するようにマトリクス状に受光素子を配置したエリアセンサとすることもできる。この場合、狭隘部12への入射光は、流路壁面14上で面状に拡がるようにされる。これにより、狭隘部12で捕捉したマイクロプラスチックPの形状も計測できる。また、マイクロプラスチックPに材質の異なる付着物があった場合にこれを推定することも可能となる。
【0035】
観察を終えたら、狭隘部12に捕捉されたマイクロプラスチックPを流路11から取り除いて、次の観察に備える。マイクロプラスチックPを流路11から取り除く場合、セル10に上記した流れ方向とは反対側へ向けて洗浄流体を供給し、試料水を押し戻す。試料水のうち水が残存しない場合は、上記した流れ方向とは反対側へ洗浄流体を流通させる。例えば、第1三方弁7と第2三方弁4とを操作して洗浄流体導入口6、セル10、洗浄流体排出口8をつなぐ流路を形成させる。そして、洗浄流体を洗浄流体導入口6から供給する。すると、洗浄流体はセル10において試料水が流れていた方向とは反対方向に流れる。これによって、狭隘部12に捕捉されたマイクロプラスチックPを流路11の高さ方向の寸法の大きい方へ向けて押圧して狭隘部12から脱離させて、洗浄流体とともに洗浄流体排出口8から排出させることができる。このように洗浄を行うことで、試料水を変更しても連続してマイクロプラスチックの観察を行うことができる。なお、洗浄流体は最狭部13を通過できない固形物を含まない流体であればよく、水などの液体を好適に使用し得るが、空気などの気体であってもよい。
【0036】
ところで、
図3に示すように、上記した狭隘部12を含むセル10としては、例えば、セル上側部材30を用いて作製することができる。セル上側部材30は、平板31に流路11の天井部分を形成するための溝32a及び32bを形成したものである。紙面左側の溝32aの左側端部、及び、紙面右側の溝32bの右側端部にはそれぞれ平板31を貫通する穴33a及び33bが設けられる。溝32a及び32bはともに矩形断面を有し、溝32aの右側部分、及び、溝32bの左側部分において、それぞれ傾斜面34a及び34bを含んでいる。傾斜面34a及び34bの間には、平板31の主面から連続した平面である尾根状部35を有する。なお、傾斜面34aが狭隘部12の天井部分に対応し、尾根状部35が最狭部13の天井部分に対応する。また、穴33aはセル10への試料水の入口、穴33bはセル10からの試料水の出口となる。なお、溝32bにおいては、傾斜面34aで捕捉されなかったマイクロプラスチックなどの固形物を詰まらせない形状であればよく、傾斜面34bの代わりに段付き形状など他の形状としてもよい。さらには、溝32bを設けずに最狭部13を連続させる形状とすることもできる。
【0037】
さらに、
図4に示すように、セル上側部材30の底面にスペーサ39を取り付け、プリズム20を含む蓋体29をかぶせて固定すればセル10となる。ここで、スペーサ39は、最狭部13(
図2参照)の高さ方向の寸法と同じ寸法の厚さを有する板状体であり、底面視で穴33a、溝32a、尾根状部35、溝32b、及び、穴33bの全体の外周形状と同じ形状の貫通穴をこれらに重ねるように備える。つまり、スペーサ39の貫通穴は、その内周部分を流路11の高さ方向に平行な壁面の一部となるよう組み合わされる。スペーサ39を交換してその厚さを変えれば、最狭部13とともに流路11全体の高さ方向の寸法を変更し調整できる。
【0038】
例えば、スペーサ39の厚さを50μmとすると、最狭部13の高さ方向の寸法も50μmとなる。なお、この場合における他の部分の寸法の一例を下記する。流路11の最も高い部分の高さ方向の寸法を550μm、狭隘部12のテーパー形状流路の長さを5mm、流路11の幅を2mmなどとすることができる。このような寸法の場合、流路11の幅については、さらに10~20mmと広くすることも好ましい。
【0039】
以上のように、観察装置1によれば、赤外線であっても減衰することなく反射光を得られて、マイクロプラスチックPの観察を行うことができる。なお、光学系としてはプリズム20を含まない他の光学系も考慮される。また、反射光ではなく、セル10を透過する透過光であっても狭隘部12の天井側から赤外線を減衰させることなく得ることができ、マイクロプラスチックPの観察を同様に行うことができる。
【0040】
また、上記したような帯状の範囲だけでなく、セル10の流れ方向及び幅方向に拡がる面上で狭隘部12のマイクロプラスチックPを観察するようにすることもできる。
【0041】
例えば、
図5に示す様に、観察装置51は、その光学系として、光源21から出射された赤外線の光束を拡大するビームエクスパンダ21aと、これを流路11の幅方向(紙面に垂直な方向)に延びる線状に集光するシリンドリカルレンズ23aと、シリンドリカルレンズ23aを通った赤外線を反射させてプリズム20を介してセル10に導くためのミラー24aを備える。さらに、セル10からの反射光をさらに反射させるミラー24bと、ミラー24bからの赤外線を集光して受光部22のラインセンサに導くシリンドリカルレンズ23b及び23cを備える。なお、受光部22のラインセンサは流路11の幅方向に受光素子を並べており、シリンドリカルレンズ23cからの幅方向に延びた線状の赤外線を受光することができる。なお、ミラー24a及び24bには高い反射率を有する金ミラーを用いることが好ましい。
【0042】
ここでミラー24a及び24bは、共に流路11の幅方向(紙面に垂直な方向)に平行な回転軸周りにその角度を調整可能なように回動可能とされる。これによってセル10の狭隘部12への入射光を流れ方向に移動させて、その反射光を受光部22に導くことができる。つまり、狭隘部12の全面において捕捉されたマイクロプラスチックPを観察することができる。これにより、マイクロプラスチックPの形状を含む狭隘部12の全面をイメージングした画像を得ることができる。
【0043】
なお、受光部22のラインセンサの受光素子を流路の高さ方向(紙面上下方向)に並べて同様の構成とすることもできる。この場合、シリンドリカルレンズ23a、23b及び23cは、赤外線を同じく高さ方向に延びる線状に集光するように配置される。さらに、ミラー24a及び24bは、紙面とミラー表面との交線と平行な直線を回動軸として回動可能とされる。これによっても、同様に、マイクロプラスチックPの形状を含む狭隘部12の全面をイメージングした画像を得ることができる。
【0044】
図6に示すように、観察装置52は、観察装置51と同様に、シリンドリカルレンズ23a、23b及び23c、ミラー24a及び24bを備える。但し、ミラー24a及び24bは固定されており、代わりにセル10及びプリズム20が流れ方向(紙面左右方向)に移動可能とされている。なお、観察装置51の場合と同様に、受光部22のラインセンサの受光素子を流路の高さ方向(紙面上下方向)に並べて同様の構成とすることもできる。この場合、セル10及びプリズム20は、幅方向(紙面に垂直方向)に移動可能とされる。このような観察装置52においても、マイクロプラスチックPの形状を含む狭隘部12の全面をイメージングした画像を得ることができる。
【0045】
図7に示すように、観察装置53は、その光学系として、光源21から出射された赤外線の光束を拡大するビームエクスパンダ21aと、ビームエクスパンダ21aを通った赤外線を反射させてプリズム20を介してセル10に導くためのミラー24aを備える。さらに、セル10からの反射光をさらに反射させるミラー24bを備える。さらに、受光部22であるラインセンサを可動としている。図示したように、流路11の幅方向(紙面に垂直な方向)に受光素子を並べて配置されたラインセンサは高さ方向(紙面上下方向)に移動可能とされる。また、受光素子を高さ方向に並べてラインセンサを配置した場合には、ラインセンサを幅方向に移動可能とすればよい。このような観察装置53においても、マイクロプラスチックPの形状を含む狭隘部12の全面をイメージングした画像を得ることができる。
【0046】
以上、本発明による代表的な実施例を説明したが、本発明は必ずしもこれに限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、様々な代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。
【符号の説明】
【0047】
1 観察装置
10 セル
11 流路
12 狭隘部
14 流路壁面
20 プリズム