(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021807
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】アライメント装置、成膜装置、アライメント方法、電子デバイスの製造方法、プログラム及び記憶媒体
(51)【国際特許分類】
H05B 33/10 20060101AFI20240208BHJP
C23C 14/04 20060101ALI20240208BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20240208BHJP
【FI】
H05B33/10
C23C14/04 A
H05B33/14 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022124898
(22)【出願日】2022-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷 和憲
(72)【発明者】
【氏名】長沼 義人
【テーマコード(参考)】
3K107
4K029
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107CC33
3K107CC45
3K107GG04
3K107GG33
3K107GG54
4K029AA09
4K029AA24
4K029BA62
4K029BB03
4K029BD01
4K029CA01
4K029DB06
4K029HA01
(57)【要約】
【課題】基板とマスクのアライメントの長時間化を抑制すること
【解決手段】アライメント装置は、基板に設けられた基板マーク及びマスクに設けられたマスクマークを用いて、基板及びマスクのアライメントを行う。複数の検知手段は、基板マーク及びマスクマークを検知する。決定手段は、複数の検知手段の検知結果を用いて、基板及びマスクの相対的な位置調整における調整量を決定する位置調整手段は、決定手段により決定された調整量に基づいて、基板及びマスクの相対的な位置調整を行う。決定手段は、複数の検知手段のうち一部の検知手段により基板マーク又はマスクマークが検知されない場合であっても、一部の検知手段以外の検知手段の検知結果に基づいて、調整量を決定する。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に設けられた基板マーク及びマスクに設けられたマスクマークを用いて、前記基板及び前記マスクのアライメントを行うアライメント装置であって、
前記基板マーク及び前記マスクマークを検知する複数の検知手段と、
前記複数の検知手段の検知結果を用いて、前記基板及び前記マスクの相対的な位置調整における調整量を決定する決定手段と、
前記決定手段により決定された前記調整量に基づいて、前記基板及び前記マスクの相対的な位置調整を行う位置調整手段と、を備え、
前記決定手段は、前記複数の検知手段のうち一部の検知手段により前記基板マーク又は前記マスクマークが検知されない場合であっても、前記一部の検知手段以外の検知手段の検知結果に基づいて、前記調整量を決定する、
ことを特徴とするアライメント装置。
【請求項2】
請求項1に記載のアライメント装置であって、
前記複数の検知手段として3つ以上の検知手段が設けられ、
前記決定手段は、前記3つ以上の検知手段のうち2つ以上の検知手段により前記基板マーク及び前記マスクマークが検知されている場合には、前記調整量を決定する、
ことを特徴とするアライメント装置。
【請求項3】
請求項1に記載のアライメント装置であって、
前記基板には、4つの前記基板マークが設けられ、
前記マスクには、4つの前記マスクマークが設けられ、
前記複数の検知手段として4つの検知手段が設けられ、
前記決定手段は、前記4つの前記基板マークに対応した4点を頂点とする長方形の重心位置と、前記4つの検知手段により検知された前記4つの前記マスクマークに対応する4点を頂点とする長方形の重心位置との距離が第1閾値以下となるように、前記調整量を決定する、
ことを特徴とするアライメント装置。
【請求項4】
請求項3に記載のアライメント装置であって、
前記決定手段は、前記4つの前記検知手段のうち1つの検知手段により前記基板マーク又は前記マスクマークが検知されない場合には、前記1つの検知手段以外の3つの検知手段により検知された3つの前記基板マークに対応する3点を頂点とする直角三角形の斜辺の中点と、前記3つの検知手段により検知された3つの前記マスクマークに対応する3点を頂点とする直角三角形の斜辺の中点との距離が第2閾値以下となるように、前記調整量を決定する、
ことを特徴とするアライメント装置。
【請求項5】
請求項1に記載のアライメント装置であって、
アライメント動作に関する設定を受け付ける受付手段をさらに備え、
前記決定手段は、
前記複数の検知手段のうち一部の検知手段により前記基板マーク又は前記マスクマークが検知されない場合において、前記受付手段が第1設定を受け付けているときは、前記一部の検知手段以外の検知手段の検知結果に基づいて、前記調整量を決定し、
前記複数の検知手段のうち一部の検知手段により前記基板マーク又は前記マスクマークが検知されない場合において、前記受付手段が前記第1設定と異なる第2設定を受け付けているときは、前記調整量を決定しない、
ことを特徴とするアライメント装置。
【請求項6】
請求項5に記載のアライメント装置であって、
前記複数の検知手段のうち一部の検知手段により前記基板マーク又は前記マスクマークが検知されない場合において、前記受付手段が前記第2設定を受け付けているときに通知を行う通知手段をさらに備える、
ことを特徴とするアライメント装置。
【請求項7】
請求項1に記載のアライメント装置であって、
前記複数の検知手段のそれぞれは、前記基板マーク及び前記マスクマークを撮像する複数のカメラを含む、
ことを特徴とするアライメント装置。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のアライメント装置と、
前記マスクを介して前記基板上に成膜する成膜手段と、を備える、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項9】
基板に設けられた基板マーク及びマスクに設けられたマスクマークを用いて、前記基板及び前記マスクのアライメントを行うアライメント方法であって、
複数の検知手段により、前記基板マーク及び前記マスクマークを検知する検知工程と、
前記検知工程での検知結果を用いて、前記基板及び前記マスクの相対的な位置調整における調整量を決定する決定工程と、
前記決定工程で決定された前記調整量に基づいて、前記基板及び前記マスクの相対的な位置調整を行う位置調整工程と、を含み、
前記決定工程は、前記複数の検知手段のうち一部の検知手段により前記基板マーク又は前記マスクマークが検知されない場合であっても、前記一部の検知手段以外の検知手段の検知結果に基づいて、前記調整量を決定する、
ことを特徴とするアライメント方法。
【請求項10】
請求項9に記載のアライメント方法によって前記基板及び前記マスクのアライメントを行うアライメント工程と、
前記アライメント工程によってアライメントが行われた前記マスクを介して前記基板に成膜を行う成膜工程と、を含む、
ことを特徴とする電子デバイスの製造方法。
【請求項11】
請求項9に記載のアライメント方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項12】
請求項9に記載のアライメント方法をコンピュータに実行させるためのプログラムを記憶したコンピュータ読取り可能な記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アライメント装置、成膜装置、アライメント方法、電子デバイスの製造方法、プログラム及び記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL表示装置(有機ELディスプレイ)等の製造においては、蒸着用のマスクを用いて蒸着材料を基板に蒸着させる際に、基板とマスクとのアライメントを行う。特許文献1では、複数のカメラを用いて基板やマスクに設けられたアライメント用のマークを撮像する場合において、マークを検知できなかったカメラについてはマークを検知できるまで検知処理を繰り返すことが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術では、いずれかのカメラでアライメント用のマークを検知することが困難な場合にアライメントに要する時間が長くなってしまう恐れがある。これは、結果として有機EL表示装置の生産性の低下につながる恐れがある。
【0005】
本発明は、基板とマスクのアライメントの長時間化を抑制する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面としてのアライメント装置は、基板に設けられた基板マーク及びマスクに設けられたマスクマークを用いて、前記基板及び前記マスクのアライメントを行うアライメント装置であって、前記基板マーク及び前記マスクマークを検知する複数の検知手段と、前記複数の検知手段の検知結果を用いて、前記基板及び前記マスクの相対的な位置調整における調整量を決定する決定手段と、前記決定手段により決定された前記調整量に基づいて、前記基板及び前記マスクの相対的な位置調整を行う位置調整手段と、を備え、前記決定手段は、前記複数の検知手段のうち一部の検知手段により前記基板マーク又は前記マスクマークが検知されない場合であっても、前記一部の検知手段以外の検知手段の検知結果に基づいて、前記調整量を決定する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、基板とマスクのアライメントの長時間化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】一実施形態に係る電子デバイスの製造装置の構成の一部を模式的に示す平面図。
【
図2】一実施形態に係る成膜装置の構成を模式的に示す断面図。
【
図3】一実施形態に係る基板保持ユニットの斜視図。
【
図4】
図2の成膜装置のハードウェアの構成例を示す図。
【
図5】(a)~(c)は、マスク及び基板の構成例を示す平面図。
【
図6】成膜装置によるアライメント工程の概略を模式的に示す図。
【
図7】ファインアライメント工程の一例を説明する図。
【
図10】2つ又は3つのカメラにおいてマークを検知できた場合における調整量の決定方法を説明するための図。
【
図12】(a)は有機EL表示装置の全体図、(b)は1画素の断面構造を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴のうち二つ以上の特徴が任意に組み合わされてもよい。また、同一若しくは同様の構成には同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0010】
以下の説明において、X方向及びY方向は直交する水平方向、Z方向は鉛直方向を表す。また、成膜時の基板の短手方向(短辺に平行な方向)をX方向とし、長手方向(長辺に平行な方向)をY方向とする。また、Z軸まわりの回転角をθで表す。なお、以下の説明においては基板の形状が長方形の場合について説明するが、基板の形状は長方形には限定されない。基板の形状が長方形ではない場合には、基板の被処理面内の直交する2つの方向をX方向およびY方向とすればよい。
【0011】
<第1実施形態>
<製造装置>
図1は、一実施形態に係る電子デバイスの製造装置100の構成の一部を模式的に示す平面図である。
図1の製造装置100は、例えば、有機EL表示装置の表示パネルの製造に用いられる。スマートフォン用の表示パネルの場合、例えば第6世代のフルサイズ(約1850mm×約1500mm)又はハーフカットサイズ(約1500mm×約925mm)の基板5(
図2参照)に有機EL形成のための成膜を行った後、その基板5をダイシングして複数の小サイズのパネルが作成される。
【0012】
図1の例では、製造装置100は、複数のクラスタ型ユニット(CU1,CU2,CU3(不図示),...)が連結室を介して連結された構造を有する。クラスタ型ユニットとは、基板搬送手段としての搬送ロボットの周囲に複数の成膜室が配置された構成の成膜ユニットをいう。
図1には、製造装置100が有する複数のクラスタ型ユニットのうちの一部のクラスタ型ユニットCU1,CU2及び連結室CN1,CN2の構成を示しているが、図示していない他のクラスタ型ユニット及び連結室も同様の構成を有している。なお、成膜ユニットの上流には、例えば、基板のストッカ、加熱装置、洗浄等の前処理装置などが設けられてもよく、成膜ユニットの下流には、例えば、封止装置、加工装置、処理済み基板のストッカなどが設けられてもよく、それら全体を合わせて電子デバイスの製造装置が構成されてもよい。
【0013】
クラスタ型ユニットCU1は、ユニットの中央に配置された搬送室TR1と、搬送室TR1の周囲に配置された複数の成膜室EV11~EV14及びマスク室MS11~MS12を有する。隣接する2つのユニットCU1とCU2の間は連結室CN1で接続されており、同様に、隣接する2つのユニットCU2とCU3(不図示)の間は連結室CN2で接続されている。より具体的には、ユニットCU1,CU2の有する搬送室TR1とTR2との間が連結室CN1で接続されており、ユニットCU2,CU3(不図示)の有する搬送室TR2とTR3(不図示)との間が連結室CN2で接続されている。クラスタ型ユニットCU1内の各室TR1、EV11~EV14、MS11~MS12、及び、連結室CN1は空間的につながっており、その内部は真空又は窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気に維持されている。本実施形態においては、ユニットCUx及び連結室CNxを構成する各室は不図示の真空ポンプ(真空排気手段)に接続されており、それぞれ独立に真空排気が可能となっている。それぞれの室は「真空チャンバ」又は単に「チャンバ」とも呼ばれる。なお、本明細書において「真空」とは、大気圧より低い圧力の気体で満たされた状態、換言すれば減圧状態をいう。
【0014】
搬送室TR1には、基板5及びマスク3を搬送する搬送手段としての搬送ロボットRR1が設けられている。搬送ロボットRR1は、例えば、多関節アームに、基板5及びマスク3を保持するロボットハンドが取り付けられた構造を有する多関節ロボットである。クラスタ型ユニットCU1内において、基板3は基板3の被処理面(被成膜面)が重力方向下方を向いた水平状態を保ったまま、搬送ロボットRR1や後述する搬送ロボットRC1等の搬送手段によって搬送される。搬送ロボットRR1や搬送ロボットRC1の有するロボットハンドは、基板3の被処理面の周縁領域を保持するように保持部を有する。搬送ロボットRR1は、上流側のパス室PS0、成膜室EV11~EV14、下流側のバッファ室BC1の間の基板3の搬送を行う。また、搬送ロボットRR1は、マスク室MS11と成膜室EV11、EV13の間のマスク3の搬送、及び、マスク室MS12と成膜室EV13、EV14の間のマスク3の搬送を行う。搬送ロボットRR1や搬送ロボットRC1の有するロボットハンドは、搬送制御部に格納された所定のプログラムに従って、それぞれ所定の動きを行うように構成されている。各ロボットの動きは、複数の基板に対し複数の成膜室、複数のユニットにおいて順次に、あるいは同時並行的に成膜を行う際において、複数の基板が効率的に搬送されるように設定される。なお、搬送経路上における基板の位置は、例えばアームのしなり具合の変動等に起因したロボットハンドの動きの誤差等により、理想的な搬送位置からずれてくることがある。ロボットハンドの動きを微調整すべく、ロボットハンドの動きを決めるプログラムは必要に応じて修正される。
【0015】
マスク室MS11~MS12には、それぞれ2つずつマスクストッカが設けられる。それぞれの室に設けられる一方のマスクストッカには使用前のマスク3が収容され、他方のマスクストッカには使用済みのマスク3が収容される。マスク室MS11には、成膜室EV11、EV13での成膜で使用される前のマスク3と使用された後のマスク3がストックされ、マスク室MS12には、成膜室EV12、EV14で用いられるマスク3がストックされている。
【0016】
成膜室EV11~EV14は、基板5の表面に材料層を成膜するための室である。ここで、成膜室EV11とEV13は同じ機能をもつ室(同じ成膜処理を実施可能な室)であり、同様に成膜室EV12とEV14も同じ機能をもつ室である。この構成により、成膜室EV11→EV12という第1ルートでの成膜処理と、成膜室EV13→EV14という第2ルートでの成膜処理を並列に実施することができる。
【0017】
連結室CN1は、ユニットCU1とユニットCU2とを接続し、ユニットCU1で成膜された基板5を後段のユニットCU2に受け渡す機能を有している。本実施形態の連結室CN1は、上流側から順に、バッファ室BC1、旋回室TC1、及びパス室PS1から構成される。ただし、連結室CN1の構成はこれに限られず、バッファ室BC1又はパス室PS1のみで連結室CN1が構成されていてもよい。
【0018】
バッファ室BC1は、ユニットCU1内の搬送ロボットRR1と、連結室CN1内の搬送ロボットRC1との間で、基板5の受け渡しを行うための室である。バッファ室BC1は、ユニットCU1と後段のユニットCU2の間に処理速度の差がある場合、又は、下流側のトラブルの影響で基板5を通常どおり流すことができない場合などに、複数の基板5を一時的に収容することで、基板5の搬入速度や搬入タイミングを調整する機能をもつ。例えば、バッファ室BC1内には、複数枚の基板5を基板5の被処理面が重力方向下方を向く水平状態を保ったまま収納可能な多段構造の基板収納棚(カセットとも呼ばれる)と、基板5を搬入又は搬出する段を搬送位置に合わせるために基板収納棚を昇降させる昇降機構とが設けられる。
【0019】
旋回室TC1は、基板5の向きを180度回転させるための室である。旋回室TC1内には、バッファ室BC1からパス室PS1へと基板5を受け渡す搬送ロボットRC1が設けられている。基板5の上流側の端部を「後端」、下流側の端部を「前端」と呼ぶ場合に、搬送ロボットRC1は、バッファ室BC1で受け取った基板5を支持した状態で180度旋回しパス室PS1に引き渡すことで、バッファ室BC1内とパス室PS1内とで基板5の前端と後端が入れ替わるようにする。これにより、成膜室に基板5を搬入する際の向きを、上流側のユニットCU1と下流側のユニットCU2とで同じ向きにすることができる。その結果、基板5に対する成膜のスキャン方向やマスク3の向きを各ユニットCUxにおいて一致させることができ、マスクMの管理が簡易化されユーザビリティを高めることができる。
【0020】
パス室PS1は、連結室CN1内の搬送ロボットRC1と、下流側のユニットCU2内の搬送ロボットRR2との間で、基板5の受け渡しを行うための室である。本実施形態では、パス室PS1内において基板5のアライメントが行われる。基板5は搬送ロボットRR1及び搬送ロボットRC1によって搬送されるが、基板の搬送の過程や基板の受け渡しの際に基板の位置にずれが生じ得る。そこで、パス室PS1内における基板5の位置を理想的な位置に合わせるようにアライメントしておくことによって、下流側のユニットCU2の各成膜室に搬入される際の基板の位置精度を高めることができる。その結果、当該成膜室におけるアライメントの精度を高めたり、アライメントに要するタクトタイムを短縮したりすることができる。
【0021】
成膜室EV11~EV14、マスク室MS11~MS12、搬送室TR1、バッファ室BC1、旋回室TC1、パス室PS1の間には、開閉可能な扉(例えば、ドアバルブ又はゲートバルブ)が設けられていてもよいし、常に開放された構造であってもよい。
【0022】
各成膜室EV11~EV14にはそれぞれ成膜装置10(蒸着装置)が設けられている。成膜装置10は、搬送ロボットRR1からの基板5の受け渡し、基板5とマスク3(
図2参照)の相対位置の調整(アライメント)、マスク3上への基板5の固定、成膜(蒸着)等の一連のプロセスを自動で行う。なお、各成膜室EV11~EV14内の成膜装置10は、蒸発源(
図2参照)やマスク3の違いなどはあるものの、主な構成は共通している。成膜装置10の詳細については<成膜装置>で説明する。
【0023】
なお、製造装置100は、上述の有機EL表示装置の表示パネルに限らず、製造過程において基板表面に真空蒸着やスパッタ、CVD等の各種成膜方法により所望のパターンの薄膜(材料層)を形成する製品の製造に使用可能である。具体的には、製造装置100は、薄膜太陽電池や有機光電変換素子(有機薄膜撮像素子)のような有機電子デバイスや、光学部材等の製造に使用可能である。また、成膜装置10で成膜が行われる基板5の材料としては、ガラス、樹脂、金属等の材料を適宜選択可能であり、ガラス上にポリイミド等の樹脂層が形成されたものが好適に用いられる。また、蒸着材料としては、有機材料、無機材料等の材料を適宜選択可能である。
【0024】
<成膜装置>
図2は、一実施形態に係る成膜装置10の構成を模式的に示す断面図である。また、
図3は、一実施形態に係る基板保持ユニット13の斜視図である。成膜装置10は、マスク3を用いて蒸着材料を基板5に蒸着させることにより、基板5に対して所定のパターンでの成膜を行う装置である。本実施形態では、成膜装置10は、チャンバ11、蒸発源12、基板保持ユニット13、位置調整機構14(
図4参照)、マスク台15、検知ユニット16、及び冷却ユニット17を含む。
【0025】
チャンバ11は、その内部を真空雰囲気、あるいは窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気に維持する。チャンバ11の内部には、主として蒸発源12、基板保持ユニット13、マスク台15及び冷却ユニット17が設けられている。
【0026】
蒸発源12は、真空雰囲気又は不活性ガス雰囲気に維持されたチャンバ11内において蒸着材料を蒸発又は昇華させて基板5上に成膜する成膜手段である。例えば、蒸発源12は、蒸着材料を加熱蒸発させるためのヒータ等の熱源、蒸着材料を収容する容器、蒸着レートを監視する蒸着モニタ等を含み得る。本実施形態では、蒸発源12は複数のノズル(不図示)がX方向に並んで配置され、それぞれのノズルから蒸着材料が放出されるリニア蒸発源である。蒸発源12は、蒸発源移動機構(不図示)によってY方向に往復移動される。
【0027】
基板保持ユニット13は、チャンバ11内において基板5を保持、搬送する。本実施形態では、基板保持ユニット13は、支持枠体131と、基板アクチュエータ132と、クランプ部材133と、クランプアクチュエータ134とを含む。
【0028】
支持枠体131は、基板5を支持する。一実施形態において、支持枠体131は、基板5を支持した際に基板を囲むように設けられる枠部1311と、枠部1311から枠部1311の内側に延び、基板5の4辺の近傍(一対の短辺の近傍および一対の長辺の近傍)を下側から支持する複数の支持部1312を有する。基板アクチュエータ132は、枠部1311に接続するように設けられ、支持枠体131を上下方向(Z方向)に移動させることにより、支持枠体131に支持された基板5を上下に移動させる。なお、
図3の例では枠部1311は矩形状の基板5の外周を取り囲むような切れ目のない矩形枠形としたが、これに限定はされず、部分的に切り欠きがある矩形枠形であってもよい。これにより、搬送ロボットRR1から基板保持ユニット13の支持部1312へと基板5を受け渡す際に搬送ロボットRR1は枠部1311を避けて退避することができるようになる。よって、基板5の搬送および受け渡しの効率を向上させることができる。
【0029】
クランプ部材133は、支持枠体131とともに基板5を保持する。具体的には、クランプ部材133は、基板5の長辺の近傍(以下、単に「長辺」と称することがある)を支持している複数の支持部1312の位置に対応してそれぞれ設けられた複数の押圧部材1331と、基板5の各長辺に沿ってそれぞれ設けられ、押圧部材1331を支持する基部1332と、を含み、押圧部材1331を支持部1312に押圧させる。これにより、基板5が押圧部材1331と支持部1312とで挟み込まれる。クランプアクチュエータ134は、クランプ部材133を上下方向に移動させる。これにより、支持枠体131及びクランプ部材133は、基板5を挟持したり、挟持状態から解放したりする。なお、クランプアクチュエータ134は、基板アクチュエータ132によって支持枠体131とともに上下方向に移動するように設けられることにより、支持枠体131が上昇又は下降しても基板5の挟持状態が変化しないように構成され得る。なお、支持部1312は「受け爪」又は「フィンガ」とも呼ばれ、押圧部材1331は「クランプ」とも呼ばれることがある。
【0030】
位置調整機構14(
図4参照)は、基板5及びマスク3の相対的な位置調整を行う。具体的には、位置調整機構14は、基板5及びマスク3のXY方向の相対位置及びZ軸回りの相対角度について調整を行う。本実施形態では、位置調整機構14は、基板保持ユニット13をX方向に移動させるアクチュエータ、基板保持ユニット13をY方向に移動させるアクチュエータ及び基板保持ユニット13をZ軸周りに回転させるアクチュエータを備える(いずれも不図示)。これにより、位置調整機構14は、マスク3の位置を維持しながら、基板5を保持した基板保持ユニット13を移動させることにより位置調整を行う。しかしながら、位置調整機構14は、基板5の位置を維持しながらマスク3を移動させたり、基板5及びマスク3の両方を移動させたりすることでこれらの相対位置を調整してもよい。
【0031】
ここで、本実施形態の成膜装置10は、位置調整機構14により、基板5及びマスク3間のアライメントとして、ラフアライメント及びファインアライメントの2段階のアライメントを実行する。ラフアライメントは基板5及びマスク3の大まかな位置調整であり、ファインアライメントはラフアライメントよりも高精度の基板5及びマスク3の位置調整である。これらの詳細については後述する。
【0032】
マスク台15は、チャンバ11内においてマスクを支持する台であり、基板保持ユニット13の下方かつ蒸発源12の上方に設けられる。成膜時には、マスク台15に支持されたマスク3の上に基板5が載置される。
【0033】
検知ユニット16は、基板5及びマスク3に設けられたアライメント用のマークを検知する。本実施形態では、検知ユニット16は、ラフアライメント用のマークを検知する複数のカメラ1601,1602と、ファインアライメント用のマークを検知する複数のカメラ1611~1614とを含む。カメラ1601,1602は、基板5の短辺中央付近の所定領域をそれぞれ撮影し、マスクマーク301,302及び基板マーク501,502(
図5(a)~
図5(c)参照)を検知する。また、カメラ1611~1614は、基板5の角付近の所定領域をそれぞれ撮影し、マスクマーク311~314及び基板マーク511~514(
図5(a)~
図5(c)参照)をそれぞれ検知する。なお、以下の説明において、カメラ1601,1602を総称してラフカメラ160と呼び、カメラ1611~1614を総称してファインカメラ161と呼ぶ場合がある。また、検知ユニット16は、カメラに限らずその他の光学的な方法でマークを検知してもよい。
【0034】
冷却ユニット17は、基板5を冷却し、その温度上昇を抑えることで有機材料の変質や劣化を抑制する。本実施形態では、冷却ユニット17は、冷却板170と、冷却板アクチュエータ171とを含む。
【0035】
冷却板170は、基板5を冷却する板状の部材であり、例えば蒸発源12によって成膜がなされる基板5の領域と同程度の大きさを有する。例えば、冷却板170は、基板保持ユニット13によって保持された基板5の上側に位置するように設けられ、基板5の成膜がなされる面と反対側の面に接触することで基板5を冷却する。また、冷却板170は、磁力によってマスク3を基板5に引き付けて、基板5とマスク3の密着性を高めるマグネット板を兼ねていてもよい。なお、冷却板170とは別体にマグネット板が設けられる構成も採用可能である。また、冷却板170は水冷機構等によって積極的に基板5を冷却するものに限定はされず、水冷機構等は設けられていないものの基板5と接触することによって基板5の熱を奪うような板状部材であってもよい。冷却板170は押さえ板と呼ぶこともできる。
【0036】
冷却板アクチュエータ171は、冷却板170を上下方向(Z方向)に移動させる。なお、冷却板170とマグネット板が別体に設けられる場合には、これらを独立に移動可能なように、マグネット板を上下方向に移動させるアクチュエータが別途設けられてもよい。
【0037】
<制御構成>
図4は、
図2に示した成膜装置10のハードウェアの構成例を示す図である。
図4では、基板5とマスク3のアライメントに関連する構成を中心に示している。例えば、成膜装置10は、製造装置100を統括的に制御するホストコンピュータHからの指示に基づいて、所定の動作を実行する。
【0038】
制御部18は、処理部181と、記憶部182と、I/F部183(インタフェース部)とを備え、これらは互いに不図示のバスにより接続されている。処理部181は例えばCPUである。処理部181は、記憶部182に記憶されたプログラムを実行することにより、位置調整機構14や各種アクチュエータ20の駆動を制御する。記憶部182は、例えば、RAM、ROM、ハードディスク等であり、処理部181が実行するプログラムの他、各種のデータが格納される。I/F部183は、処理部181と外部デバイスとの信号の送受信を中継する。I/F部183は、例えば、通信I/Fや入出力I/Fから構成される。
【0039】
表示部19は、各種情報を表示する。また、各種アクチュエータ20としては、上述の基板アクチュエータ132、クランプアクチュエータ134、冷却板アクチュエータ171等が含まれ得る。
【0040】
<基板及びマスク>
図5(a)~(c)は、マスク3及び基板5の構成例を示す平面図であって、
図5(a)はマスク3単体、
図5(b)は基板5単体、
図5(c)はマスク3と基板5が重ねられた状態を示している。なお、
図5(c)において、領域R1~R6はそれぞれ、カメラ1611~1614,1601,1602の検知領域を示す。また、
図5(a)~(c)は、理解を容易にするため各マークを強調して示しているため、実際のサイズとは異なる。
【0041】
マスク3は、所望のパターンで基板5に蒸着材料を蒸着するためのものである。マスク3の基板5と重なる領域には、所定のパターンの開口が形成されており(
図5(a)等では省略)、基板5の一方の面がマスク3に覆われた状態で蒸着を行うことにより、開口に応じたパターンで基板5に蒸着材料が蒸着する。なお、マスク3としては、枠状のマスクフレームに数μm~数十μm程度の厚さのマスク箔が溶接固定された構造を有するマスクを用い得る。マスク3の材質は特に限定はされないが、インバー材などの熱膨張係数の小さい金属を用いることが好ましい。
【0042】
また、マスク3には、ラフアライメント用のマスクマーク301,302及びファインアライメント用のマスクマーク311~314が設けられている。マスクマーク301,302はそれぞれ、マスク3の短辺の中央付近に設けられ、対応するカメラ1601,1602によって検知される。マスクマーク311~314はそれぞれ、マスク3の角付近に設けられ、対応するカメラ1611~1614によって検知される。なお、以下の説明において、マスクマーク301,302を総称してマスクラフマーク30と呼び、マスクファインマーク311~314を総称してマスクマーク31と呼ぶ場合がある。すなわち、マスクラフマーク30はラフカメラ160によって検知され、マスクファインマーク31はファインカメラ161によって検知される。
【0043】
基板5は、蒸着物質が蒸着される対象となる部材であり、検知ユニット16によって検知される光を透過する透過性を有する。基板5は、搬送ロボットRR1により基板5がチャンバ11内に搬送されると、基板保持ユニット13に保持された状態で、位置調整機構14によりマスク3との間で位置調整が行われる。また、基板5が透過性を有することにより、マスク3と検知ユニット16の間に基板5が配置されていても検知ユニット16がマスクマーク30,31を検知することができる。
【0044】
基板5には、ラフアライメント用の基板マーク501,502及びファインアライメント用の基板マーク511~514が設けられている。基板マーク501,502はそれぞれ、基板5の短辺の中央付近に設けられ、対応するカメラ1601,1602によって検知される。基板マーク511~514はそれぞれ、基板5の角付近に設けられ、対応するカメラ1611~1614によって検知される。なお、以下の説明において、基板マーク501,502を総称して基板ラフマーク50と呼び、基板ファインマーク511~514を総称して基板マーク51と呼ぶ場合がある。すなわち、基板ラフマーク50はラフカメラ160によって検知され、基板ファインマーク51はファインカメラ161によって検知される。
【0045】
本実施形態では、基板マーク50,51はそれぞれ、位置検知用マーク50a,51aと角度検知用マーク50b,51bとにより構成される。しかしながら、これらが一体となった構成や各基板マーク50,51の位置のみを検知する構成も採用可能である。あるいは、基板ファインマーク51は位置検知用マーク51a及び角度検知用マーク51bにより構成され、基板ラフマーク50は位置検知用マーク50aのみによって構成されてもよい。すなわち、基板マーク50,51のいずれか一方は位置検知用マーク及び角度検知用マークにより構成され、他方は位置検知用マークのみによって構成されてもよい。
【0046】
また、本実施形態では、ラフアライメントにおいては、基板ラフマーク50とそれらに対応するマスクラフマーク30との位置関係が所定条件を満たすように基板5及びマスク3の相対位置が調整される。また、ファインアライメントにおいては、基板ファインマーク51とそれらに対応するマスクファインマーク31との位置関係が所定条件を満たすように基板5及びマスク3に相対位置が調整される。
【0047】
<アライメント工程の概略>
図6は、成膜装置10によるアライメント工程の概略を模式的に示す図である。状態ST1~ST2はアライメント実施前の状態、状態ST3はラフアライメントが実行されている状態、状態ST4~ST8はファインアライメントが実行されている状態をそれぞれ示している。
【0048】
状態ST1は、基板5が搬送ロボットRR1によりチャンバ11内に搬入された状態を示している。この状態では、基板5は支持枠体131上に載置されているが、クランプ部材133は基板5の上方に離間している。したがって、基板5は、挟持されていない。また、基板5は自重により中央部分が撓んでいる。
【0049】
状態ST2は、支持枠体131とクランプ部材133とにより基板5が挟持された状態を示している。具体的には、状態ST1から、クランプアクチュエータ134によりクランプ部材133が下方に移動することで支持枠体131とクランプ部材133とによって基板5の長辺を挟持している。
【0050】
状態ST3は、ラフアライメントが実行されている状態を示している。具体的には、ラフカメラ160により、基板ラフマーク50及びマスクラフマーク30を検知し、その検知結果に基づいて位置調整機構14が基板5のXY方向の位置及びZ軸周りの回転角θを調整する。なお、位置調整機構14による調整後、再度ラフカメラ160により基板ラフマーク50及びマスクラフマーク30を検知し、検知結果が条件を満たさない場合は再度位置調整機構14による位置調整を行ってもよい。
【0051】
状態ST4以降は、ファインアライメントが実行されている状態を示している。状態ST4は、基板アクチュエータ132により基板保持ユニット13を下降させてファインカメラ161により基板ファインマーク51及びマスクファインマーク31の検知を行っている状態を示している。なお、検知結果が条件を満たしている場合は状態ST5,ST6を省略してもよい。ここで、アライメントによる位置調整の精度を向上させるためには、検知ユニット16による各マークの検知精度を高めることが求められる。そのため、高い精度での位置調整が求められるファインアライメントにおいて用いられるファインカメラ161としては、高い解像度で画像を取得可能なカメラを用いることが好ましい。しかしながら、カメラの解像度を高めると被写界深度が浅くなるため、撮影対象となる基板5に形成されているマークとマスク3に形成されているマークを同時に撮影するために両マークをファインカメラ161の光軸方向においてより一層接近させる必要がある。そこで本実施形態では、ファインアライメントにおいて基板ファインマーク51及びマスクファインマーク31を検知する際に、基板5を、ラフアライメントにおいて基板ラフマーク50及びマスクラフマーク30を検知する際よりもマスク3に接近させる。このとき、
図6の状態ST4に示されるように、基板5は部分的にマスク3と接触した状態となる。基板5は周縁領域を支持されているために自重によって中央部が撓んだ状態となるため、典型的には、基板5の中央部が部分的にマスク3と接触した状態となる。
【0052】
なお、ラフアライメントにおいては
図6の状態ST3に示すように基板5とマスク3とが離間した状態で、基板ラフマーク50およびマスクラフマーク30の検知と、基板5およびマスク3の位置の調整と、が行われる。ラフアライメントにおいては、比較的被写界深度の深いラフカメラ160を用いることで、基板5とマスク3とが離間したままアライメントを行うことができる。本実施形態ではこのように、ラフアライメントによって基板5とマスク3とを離間させたまま大まかに位置の調整を行ってから、位置調整の精度がより高いファインアライメントを行うようにしている。これにより、ファインアライメントにおいてマークの検知のために基板5とマスク3を接近させて接触させた際には、基板5とマスク3はその相対位置が既にある程度調整されているため、基板5の上に形成されている膜のパターンとマスク3の開口パターンとがある程度整列した状態で接触するようになる。そのため、基板5とマスク3とが接触することによる基板5の上に形成されている膜へのダメージを低減することができる。すなわち、本実施形態のように基板5とマスク3を離間させたまま大まかに位置調整を行うラフアライメントと、基板5とマスク3とを部分的に接触させる工程を含むファインアライメントと、を組み合わせて実行することにより、基板5の上に形成されている膜へのダメージを低減しつつ高精度の位置調整を実現することができる。
【0053】
状態ST5は、カメラ161による検知結果に基づいて、基板5の位置調整を行っている状態を示している。具体的には、基板アクチュエータ132により基板保持ユニット13を上昇させて基板5をマスク3から離間させた後に、位置調整機構14が基板5のXY方向の位置及びZ軸周りの回転角θを調整している。
【0054】
状態ST6は、基板5をマスク3に再度接近させ、基板5がマスク3に接触した状態でカメラ161により基板マーク51及びマスクマーク31を検知している状態を示している。検知結果が条件を満たしている場合は状態ST7に進み、条件を満たさない場合は状態ST5に戻る。
【0055】
状態ST7は、基板5をマスク3上に載置し、その上に冷却板170を重ねた状態を示している。具体的には、基板アクチュエータ132により基板保持ユニット13を下降させて基板5をマスク3上に載置した後、冷却板アクチュエータ171により冷却板170を下降させて冷却板170を基板5に接触させている。
【0056】
状態ST8は、カメラ161による最終的な位置確認を実行している状態を示している。状態ST7で基板5がマスク3と冷却板170とに挟まれた状態となった後に、クランプアクチュエータ134によりクランプ部材133が上方に移動することでクランプ部材133が基板5から離間し、基板5の長辺の挟持状態が解除される。その後、基板アクチュエータ132により基板保持ユニット13を下降させ、基板5の周縁領域と接触していた支持枠体131の複数の支持部1312を基板5から離間させる。これにより、基板5は基板保持ユニット13から離間し、マスク3と冷却板170とによって挟持された状態となる。この状態で、ファインカメラ161により基板ファインマーク51及びマスクファインマーク31を検知し、これらの位置関係が条件を満たしているか否かを確認する。これらの位置関係が条件を満たしていれば基板5とマスク3のアライメントを終了し、条件を満たしていなければ状態ST5に戻る。
【0057】
図7は、ファインアライメント工程の一例を説明する図である。
処理部181は、各カメラ1611~1614の検知結果に基づいて、マスク3に設けられた複数のマスクマーク311~314の位置P1~P4を取得する。本実施形態では、位置P1~P4はそれぞれ、円形のマスクマーク311~314の中心位置である。また、本実施形態では、記憶部182には、各カメラ1611~1614のそれぞれの視野内における座標系(カメラ座標系)と、成膜装置10の全体における座標系(ワールド座標系)とを紐づけた情報が記憶されている。処理部181は、各カメラ1611~1614のそれぞれの検知結果に基づいて、それぞれのカメラ座標系におけるマスクマーク311~314の位置P1~P4の座標を算出する。処理部181は、上述のカメラ座標系とワールド座標系とを紐づける情報から複数のマスクマーク311~314の位置P1~P4のワールド座標系における座標を取得する。
【0058】
また、処理部181は、各カメラ1611~1614の検知結果に基づいて、基板5に設けられた複数の基板マーク511~514から、マスクマーク311~314のそれぞれに対応する目標位置511T~514Tを基板5上に設定する。なお、目標位置511T~514Tについてもマスクマーク311~314の位置P1~P4と同様に、カメラ座標系とワールド座標系とを紐づけた情報に基づいて、ワールド座標系における座標で設定される。本実施形態では、十字形の位置検知用マーク511a~514aのX方向に延びる部分から、所定距離だけ基板5の内側の位置に目標位置511T~514Tが設定される。なお、
図7では、位置P1と目標位置511Tとの間の距離をL1で示している。位置P2~P4と目標位置512T~514Tとの間のそれぞれの距離についても同様にL2~L4で示している。
【0059】
そして、処理部181は、複数のマスクマーク311~314の位置P1~P4と、それらに対応する目標位置511T~514Tとに基づいて、位置調整機構14により基板5とマスク3の相対位置を調整する。一例として、まず、処理部181は、位置P1~P4の重心と、目標位置511T~514Tの重心とが一致するように位置調整機構14により基板5の位置を調整する。その後、処理部181は、距離L1~L4の二乗和が最小になるように、位置P1~P4の重心と目標位置511T~514Tの重心が一致した状態を維持しながら基板5を位置調整機構14により回転させる。なお、説明したアライメント方法は例示であって、他の周知の技術を適用可能である。
【0060】
なお、ここでは、目標位置511T~514Tが位置検知用マーク511a~514aからそれぞれ離れた位置に設定されるが、目標位置511T~514Tは位置検知用マーク511a~514aの位置であってもよい。換言すれば、距離L1~L4は0でもよい。また、ここでは、目標位置511T~514Tと、マスクマーク311~314の位置P1~P4との位置関係を調整している。しかし、位置検知用マーク511a~514aの各位置と、マスクマーク311~314の位置P1~P4から所定距離だけ離れた4点の位置と、に基づいて基板5及びマスク3の位置調整が行われてもよい。つまり、本実施形態では、基板マーク511~514に対応する点と、マスクマーク311~314に対応する点と、に基づいて基板5及びマスク3の位置調整が行われる。そして、「基板マーク511~514に対応する点」は、基板マーク511~514自体の位置を示す点であってもよいし、基板マーク511~514と所定の位置関係にある点(例えば目標位置511T~514T)であってもよい。同様に、「マスクマーク311~314に対応する点」は、マスクマーク311~314自体の位置を示す点(例えば位置P1~P4)であってもよいし、マスクマーク311~314と所定の位置関係にある点であってもよい。
【0061】
さて、上述したように、本実施形態では複数のカメラ1611~1614を用いて基板5及びマスク3間のアライメントとしてのファインアライメントを行う。その際、何らかの理由により複数のカメラ1611~1614の少なくともいずれかが基板5及びマスク3に設けられたアライメント用のマークを検知できない場合がある。例えば、基板5は複数の成膜室に順次搬送されつつ複数の蒸着材料による成膜が繰り返し行われるため、搬送の際や成膜の際に基板5のマークが形成されている領域にも材料が付着する等して汚れてしまうことがある。あるいは、蒸着工程の前のTFT回路形成工程(バックプレーン工程)等において基板5のマークが形成されている領域が汚れ、汚れた状態の基板5が蒸着を行う成膜室に搬入されてくることがある。このような場合には、アライメントを行う際に、基板5の汚れ等により検知ユニット16が基板マーク51を検知できないことがある。
【0062】
基板5及びマスク3に設けられたアライメント用のマークを検知できなかった場合、そのマークを検知できるまで検知ユニット16による検知処理を繰り返すことが考えられる。しかしながら、検知処理を繰り返すと、アライメントの長時間化につながる恐れがある。また、結果として有機EL表示装置の生産性の低下につながる恐れがある。そこで、本実施形態では、基板5とマスク3のアライメントの長時間化を抑制するため、処理部181が以下の処理を実行する。
【0063】
<処理例>
図8は、処理部181の処理例を示すフローチャートであり、ファインアライメントを行う際の処理の概略を示している。より具体的には、検知ユニット16により全てのマークを検知できなかった場合であっても、検知できたマークに基づいてアライメントを実行する場合の処理が示されている。例えば、本フローチャートは、
図6の状態ST4~ST5で示す動作の中で実行される。また、本フローチャートは、例えば処理部181が記憶部182に記憶されているプログラムを読み出して実行することにより実現される。
【0064】
ステップS1で、処理部181は、マーク検知処理を行う。具体的には、処理部181は、検知ユニット16としてのカメラ1611~1614により、マスク3に設けられたマスクマーク311~314、及びマスクマーク311~314にそれぞれ対応して基板5に設けられた基板マーク511~514を検知する。なお、処理部181は、検知ユニット16により検知できないマーク(マスクファインマーク31又は基板ファインマーク51)があった場合には、その旨の情報を取得しうる。
【0065】
ステップS2で、処理部181は、位置調整処理を行う。具体的には、処理部181は、ステップS1において検知できたマークに基づいて基板5及びマスク3の位置調整を行う。処理の詳細については後述する。
【0066】
ステップS3で、処理部181は、位置調整後に再度のマーク検知処理を行う。具体的な処理はステップS1と同様である。ステップS4で、処理部181は、ステップS3の検知結果が所定条件を満たすか否かを判定し、満たしていればフローチャートを終了し、満たしていなければステップS2の処理に戻る。例えば、処理部181は、複数のマスクマーク311~314の位置P1~P4と、それらに対応する目標位置511T~514Tとの距離の二乗和が所定値以下である場合に所定条件を満たすと判定する。
【0067】
図9は、処理部181の処理例を示すフローチャートであり、
図8のフローチャートのステップS2の具体例を示している。
【0068】
ステップS21で、処理部181は、カメラ1611~1614のうち、アライメント用のマークを検知できたカメラの数を確認する。処理部181は、全て(4つ)のカメラがマークを検知した場合はS22に進む。処理部181は、2つ又は3つのカメラがマークを検知した場合はS23に進む。処理部181は、0又は1つのカメラがマークを検知した場合はS25に進む。
【0069】
ステップS22で、処理部181は、全てのカメラ1611~1614の撮影画像を用いて調整量を決定する。例えば、処理部181は、
図7を参照して説明した方法により、基板5とマスク3の相対的な位置調整を行う調整量を決定する。すなわち、ここで決定される調整量は、基板5の重心位置の移動量であり得る。また例えば、ここで決定される調整量は、重心位置を回転中心とした基板5の回転量(回転角度)であり得る。
【0070】
ステップS23で、処理部181は、アライメント動作に関する設定を確認する。処理部181は、アライメント動作に関する設定が「設定1」の場合はS24に進み、「設定2」の場合はS25に進む。ここでは、アライメント動作に関する設定は、カメラ1611~1614の少なくともいずれかがマークを検知できなかった場合に、検知できたマークに基づいて基板5及びマスク3の位置調整の調整量を決定するかどうかに関する設定である。「設定1」は、カメラ1611~1614の少なくともいずれかがマークを検知できなかった場合であっても、検知できたマークに基づいて基板5及びマスク3の位置調整の調整量を決定する、という設定である。「設定2」は、カメラ1611~1614の少なくともいずれかがマークを検知できなかった場合には、当該調整量を決定しないという設定である。例えば、ユーザは、ホストコンピュータHや成膜装置10の不図示の入力部を介してアライメント動作に関する設定を予め選択可能であり得る。ユーザが予め選択した設定に関する情報は、例えば記憶部182が記憶していてもよい。或いは、処理部181は、S21からS23に進んだタイミングでホストコンピュータHや成膜装置10の不図示の入力部を介してアライメント動作に関する設定を受け付けることで、アライメント動作に関する設定を確認してもよい。
【0071】
ステップS24で、処理部181は、マークを検知できたカメラの撮影画像を用いて調整量を決定する。本実施形態では、4つのカメラ1611~1614のうち、2つ又は3つのカメラにおいてマークを検知できた場合には、調整量を決定する。
【0072】
図10(a)~
図10(c)は、2つ又は3つのカメラにおいてマークを検知できた場合における調整量の決定方法を説明するための図である。
【0073】
図10(a)は、3つのカメラ(カメラ1611、1613、1614)がマークを検知できた場合の調整量の決定方法を説明するための図である。この場合、処理部181は、位置検知用マーク511a、513a、514aにそれぞれ対応する3点(目標位置511T、513T、514T)を頂点とする直角三角形の斜辺の中点5001に基づいて調整量を決定する。例えば、処理部181は、中点5001の位置と、マスクマーク311、313、314の位置P1、P3、P4(
図7参照)を頂点とする直角三角形の斜辺の中点の位置とが一致するように、基板5の移動量を決定する。また例えば、処理部181は、距離L1、L3、L4(
図7参照)の二乗和が最小になるように、基板5の回転量を決定する。
【0074】
図10(b)は、対角に配置される2つのカメラ(カメラ1611、1614)がマークを検知できた場合の調整量の決定方法を説明するための図である。この場合、処理部181は、位置検知用マーク511a、514aにそれぞれ対応する2点(目標位置511T、514T)を頂点とする直角三角形の斜辺の中点5002に基づいて調整量を決定する。例えば、処理部181は、中点5002の位置と、マスクマーク311、314の位置P1、P4(
図7参照)の中点の位置とが一致するように、基板5の移動量を決定する。また例えば、処理部181は、距離L1、L4(
図7参照)の二乗和が最小になるように、基板5の回転量を決定する。
【0075】
図10(c)は、基板5の同じ辺に配置される2つのカメラ(カメラ1611、1613)がマークを検知できた場合の調整量の決定方法を説明するための図である。この場合、処理部181は、位置検知用マーク511a、513aにそれぞれ対応する2点(目標位置511T、513T)を底辺とする二等辺三角形の頂角に対応する頂点5003に基づいて調整量を決定する。例えば、処理部181は、頂点5003の位置と、マスクマーク311、313の位置P1、P3(
図7参照)を底辺とする二等辺三角形の頂角に対応する頂点の位置とが一致するように、基板5の移動量を決定する。また例えば、処理部181は、距離L1、L3(
図7参照)の二乗和が最小になるように、基板5の回転量を決定する。
【0076】
ステップS25で、処理部181は、エラー通知を行う。例えば、処理部181は、表示部19にアライメント用のマークが検知できなかった旨の情報を表示する。なお、マークを検知したカメラの数が2つ又は3つであり、アライメント動作に関する設定が「設定2」の場合には(S21→S23→S25)、エラー通知と併せて検知できたマークに基づいてアライメント動作を実行するかどうかを確認してもよい。
図11はその一例を示している。ここでは、エラーメッセージ1101と、アライメント動作を中断するためのボタン1102と、検知できたマークに基づいてアライメント動作を実行するためのボタン1103が示されている。ユーザが不図示の入力装置によりボタン1102を選択した場合、処理部181はアライメント動作、すなわち
図8及び
図9のフローチャートを終了してもよい。ユーザが不図示の入力装置によりボタン1103を選択した場合、処理部181はS24に進んでもよい。なお、検知できたマークが0又は1つの場合にはボタン1103は表示されない。
【0077】
本実施形態によれば、カメラ1611~1614のうち一部においてアライメント用のマークが検知されない場合であっても、マークを検知できたカメラの検知結果に基づいてアライメントにおける基板5及びマスク3の調整量が決定される。したがって、マークの検知を繰り返し行うことによるアライメントの長時間化を抑制することができる。
【0078】
また、本実施形態によれば、カメラ1611~1614のうち一部においてアライメント用のマークが検知されない場合であって、アライメント動作に関する設定が「設定1」である場合には、基板5及びマスク3の調整量が決定される。したがって、アライメントの長時間化の抑制と、アライメント精度の確保のどちらを優先するかといったユーザの意図を反映した処理を行うことができる。ユーザは、アライメント精度の確保を優先した場合には、一旦アライメント動作を中断させ、カメラがマークを検知できなかった要因を取り除いた上でアライメント動作を再開させることができる。
【0079】
<他の実施形態>
上記実施形態では、4つのカメラのうち一部のカメラにおいてマークを検知できなかった場合に、マークを検知できたカメラの検知結果に基づいてアライメント動作を実行している。しかしながら、3つ或いは5つ以上のカメラのうち一部のカメラにおいてマークを検知できなかった場合に、マークを検知できたカメラの検知結果に基づいてアライメント動作を実行してもよい。
図10(b)及び
図10(c)で示すように、少なくとも2つのカメラがマークを検知できれば、上記実施形態のようにアライメント動作を実行することができる。よって、検知ユニットとして設けられる3つ以上のカメラのうち2つ以上のカメラにおいてマークを検知できた場合には、アライメント動作を実行することができる。
【0080】
また、上記実施形態では、アライメント動作に関する設定を「設定1」及び「設定2」から選択可能である。しかし、3つ以上の設定を選択可能であってもよい。例えば、以下のいずれかの設定を選択可能であってもよい。
設定A:全てのカメラがマークを検知できた場合に調整量を決定する
設定B:3つ以上のカメラがマークを検知できた場合に調整量を決定する
設定C:2つ以上のカメラがマークを検知できた場合に調整量を決定する
【0081】
また、上記実施形態ではファインアライメント工程において、マークを検知できないカメラが存在してもマークを検知できたカメラの検知結果に基づいてアライメント動作を実行している。しかしながら、ラフアライメント工程においても同様の処理を適用可能である。この場合には、基板5及びマスク3に3つ以上のラフアライメント用のマークが設けられてもよい。また、ラフアライメントとファインアライメントの2段階のアライメントを実行する場合に限らず、1種類のアライメントを実施、あるいは3段階以上のアライメントを実施する場合にも上記実施形態に係る構成を採用可能である。
【0082】
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラム(ソフトウェア)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサーがプログラムを読み出して実行する処理において、そのプログラム、及び該プログラムを格納するコンピュータ読み取り可能な非一時的な記憶媒体によって構成されてもよい。
【0083】
<電子デバイスの製造方法>
次に、電子デバイスの製造方法の一例を説明する。以下、電子デバイスの例として有機EL表示装置の構成及び製造方法を例示する。
【0084】
まず、製造する有機EL表示装置について説明する。
図12(a)は有機EL表示装置50の全体図、
図12(b)は1画素の断面構造を示す図である。
【0085】
図12(a)に示すように、有機EL表示装置50の表示領域51には、発光素子を複数備える画素52がマトリクス状に複数配置されている。詳細は後で説明するが、発光素子のそれぞれは、一対の電極に挟まれた有機層を備えた構造を有している。なお、ここでいう画素とは、表示領域51において所望の色の表示を可能とする最小単位を指している。カラー有機EL表示装置の場合、互いに異なる発光を示す第1発光素子52R、第2発光素子52G、第3発光素子52Bの複数の副画素の組み合わせにより画素52が構成されている。画素52は、赤色(R)発光素子と緑色(G)発光素子と青色(B)発光素子の3種類の副画素の組み合わせで構成されることが多いが、これに限定はされない。画素52は少なくとも1種類の副画素を含めばよく、2種類以上の副画素を含むことが好ましく、3種類以上の副画素を含むことがより好ましい。画素52を構成する副画素としては、例えば、赤色(R)発光素子と緑色(G)発光素子と青色(B)発光素子と黄色(Y)発光素子の4種類の副画素の組み合わせでもよい。
【0086】
図12(b)は、
図12(a)のA-B線における部分断面模式図である。画素52は、基板53上に、第1の電極(陽極)54と、正孔輸送層55と、赤色層56R・緑色層56G・青色層56Bのいずれかと、電子輸送層57と、第2の電極(陰極)58と、を備える有機EL素子で構成される複数の副画素を有している。これらのうち、正孔輸送層55、赤色層56R、緑色層56G、青色層56B、電子輸送層57が有機層に当たる。赤色層56R、緑色層56G、青色層56Bは、それぞれ赤色、緑色、青色を発する発光素子(有機EL素子と記述する場合もある)に対応するパターンに形成されている。また、第1の電極54は、発光素子ごとに分離して形成されている。正孔輸送層55と電子輸送層57と第2の電極58は、複数の発光素子52R、52G、52Bにわたって共通で形成されていてもよいし、発光素子ごとに形成されていてもよい。すなわち、
図12(b)に示すように正孔輸送層55が複数の副画素領域にわたって共通の層として形成された上に赤色層56R、緑色層56G、青色層56Bが副画素領域ごとに分離して形成され、さらにその上に電子輸送層57と第2の電極58が複数の副画素領域にわたって共通の層として形成されていてもよい。なお、近接した第1の電極54の間でのショートを防ぐために、第1の電極54間に絶縁層59が設けられている。さらに、有機EL層は水分や酸素によって劣化するため、水分や酸素から有機EL素子を保護するための保護層60が設けられている。
【0087】
図12(b)では正孔輸送層55や電子輸送層57が一つの層で示されているが、有機EL表示素子の構造によって、正孔ブロック層や電子ブロック層を有する複数の層で形成されてもよい。また、第1の電極54と正孔輸送層55との間には第1の電極54から正孔輸送層55への正孔の注入が円滑に行われるようにすることのできるエネルギーバンド構造を有する正孔注入層を形成してもよい。同様に、第2の電極58と電子輸送層57の間にも電子注入層を形成してもよい。
【0088】
赤色層56R、緑色層56G、青色層56Bのそれぞれは、単一の発光層で形成されていてもよいし、複数の層を積層することで形成されていてもよい。例えば、赤色層56Rを2層で構成し、上側の層を赤色の発光層で形成し、下側の層を正孔輸送層又は電子ブロック層で形成してもよい。あるいは、下側の層を赤色の発光層で形成し、上側の層を電子輸送層又は正孔ブロック層で形成してもよい。このように発光層の下側又は上側に層を設けることで、発光層における発光位置を調整し、光路長を調整することによって、発光素子の色純度を向上させる効果がある。なお、ここでは赤色層56Rの例を示したが、緑色層56Gや青色層56Bでも同様の構造を採用してもよい。また、積層数は2層以上としてもよい。さらに、発光層と電子ブロック層のように異なる材料の層が積層されてもよいし、例えば発光層を2層以上積層するなど、同じ材料の層が積層されてもよい。
【0089】
次に、有機EL表示装置の製造方法の例について具体的に説明する。ここでは、赤色層56Rが下側層56R1と上側層56R2の2層からなり、緑色層56Gと青色層56Bは単一の発光層からなる場合を想定する。
【0090】
まず、有機EL表示装置を駆動するための回路(不図示)及び第1の電極54が形成された基板53を準備する。なお、基板53の材質は特に限定はされず、ガラス、プラスチック、金属などで構成することができる。本実施形態においては、基板53として、ガラス基板上にポリイミドのフィルムが積層された基板を用いる。
【0091】
第1の電極54が形成された基板53の上にアクリル又はポリイミド等の樹脂層をバーコートやスピンコートでコートし、樹脂層をリソグラフィ法により、第1の電極54が形成された部分に開口が形成されるようにパターニングし絶縁層59を形成する。この開口部が、発光素子が実際に発光する発光領域に相当する。
【0092】
絶縁層59がパターニングされた基板53を第1の成膜室に搬入し、正孔輸送層55を、表示領域の第1電極54の上に共通する層として成膜する。正孔輸送層55は、最終的に1つ1つの有機EL表示装置のパネル部分となる表示領域51ごとに開口が形成されたマスクを用いて成膜される。
【0093】
次に、正孔輸送層55までが形成された基板53を第2の成膜室に搬入する。基板53とマスクとのアライメントを行い、基板をマスクの上に載置し、正孔輸送層55の上の、基板53の赤色を発する素子を配置する部分(赤色の副画素を形成する領域)に、赤色層56Rを成膜する。ここで、第2の成膜室で用いるマスクは、有機EL表示装置の副画素となる基板53上における複数の領域のうち、赤色の副画素となる複数の領域にのみ開口が形成された高精細マスクである。これにより、赤色発光層を含む赤色層56Rは、基板53上の複数の副画素となる領域のうちの赤色の副画素となる領域のみに成膜される。換言すれば、赤色層56Rは、基板53上の複数の副画素となる領域のうちの青色の副画素となる領域や緑色の副画素となる領域には成膜されずに、赤色の副画素となる領域に選択的に成膜される。
【0094】
赤色層56Rの成膜と同様に、第3の成膜室において緑色層56Gを成膜し、さらに第4の成膜室において青色層56Bを成膜する。赤色層56R、緑色層56G、青色層56Bの成膜が完了した後、第5の成膜室において表示領域51の全体に電子輸送層57を成膜する。電子輸送層57は、3色の層56R、56G、56Bに共通の層として形成される。
【0095】
電子輸送層57までが形成された基板を第6の成膜室に移動し、第2電極58を成膜する。本実施形態では、第1の成膜室~第6の成膜室では真空蒸着によって各層の成膜を行う。しかし、本発明はこれに限定はされず、例えば第6の成膜室における第2電極58の成膜はスパッタによって成膜するようにしてもよい。その後、第2電極68までが形成された基板を封止装置に移動してプラズマCVDによって保護層60を成膜して(封止工程)、有機EL表示装置50が完成する。なお、ここでは保護層60をCVD法によって形成するものとしたが、これに限定はされず、ALD法やインクジェット法によって形成してもよい。
【0096】
ここで、第1の成膜室~第6の成膜室での成膜は、形成されるそれぞれの層のパターンに対応した開口が形成されたマスクを用いて成膜される。成膜の際には、基板53とマスクとの相対的な位置調整(アライメント)を行った後に、マスクの上に基板53を載置して成膜が行われる。ここで、各成膜室において行われるアライメント工程は、上述のアライメント工程の通り行われる。
【0097】
発明は上記の実施形態に制限されるものではなく、発明の要旨の範囲内で、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0098】
3 マスク、5 基板、10 成膜装置、14 位置調整機構、16 検知ユニット、1611~1613 カメラ、181 処理部