(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021812
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】硫化アルカリ類含有溶液の処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/72 20230101AFI20240208BHJP
【FI】
C02F1/72 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022124911
(22)【出願日】2022-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】菊池 聡
(72)【発明者】
【氏名】山島 宗悟
(72)【発明者】
【氏名】和食 伸
【テーマコード(参考)】
4D050
【Fターム(参考)】
4D050AA13
4D050AB41
4D050BB09
4D050BC01
4D050BC02
4D050BD06
4D050BD08
4D050CA13
4D050CA17
(57)【要約】 (修正有)
【課題】硫化アルカリ類を含有する溶液を酸化処理して活性汚泥処理可能な処理液を得、酸化処理後、実質的に後処理することなく、活性汚泥処理することが可能な硫化アルカリ類含有溶液の処理方法を提供する。
【解決手段】硫化アルカリ類を含有する溶液に、過酸化水素を添加して酸化処理することにより、該硫化アルカリ類を対応する硫酸塩類に変換した後、活性汚泥処理する方法において、該酸化処理後の溶液中の硫酸塩類の濃度が予め決められた値以上となるように、該硫化アルカリ類を含有する溶液に過酸化水素を存在させた状態で該酸化処理を行うことを含む、硫化アルカリ類含有溶液の処理方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化アルカリ類を含有する溶液に、過酸化水素を添加して酸化処理することにより、該硫化アルカリ類を対応する硫酸塩類に変換した後、活性汚泥処理する方法において、
該酸化処理後の溶液中の硫酸塩類の濃度が予め決められた値以上となるように、該硫化アルカリ類を含有する溶液に過酸化水素を存在させた状態で該酸化処理を行うことを含む、硫化アルカリ類含有溶液の処理方法。
【請求項2】
前記硫化アルカリ類を含有する溶液中の硫化アルカリ類濃度に基づいて、前記過酸化水素の添加量を制御する、請求項1に記載の硫化アルカリ類含有溶液の処理方法。
【請求項3】
前記酸化処理後の前記溶液中の残存過酸化水素の濃度が予め決められた値以下となるように、前記酸化処理の条件を制御することを含む、請求項1に記載の硫化アルカリ類含有溶液の処理方法。
【請求項4】
前記酸化処理の処理温度が95℃以下である、請求項1に記載の硫化アルカリ類含有溶液の処理方法。
【請求項5】
前記酸化処理の圧力が30kg/cm2G以下である、請求項1に記載の硫化アルカリ類含有溶液の処理方法。
【請求項6】
前記硫化アルカリ類が、水硫化アルカリ及び硫化アルカリから選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1に記載の硫化アルカリ類含有溶液の処理方法。
【請求項7】
前記水硫化アルカリが水硫化ナトリウムを含む、請求項6に記載の硫化アルカリ類含有溶液の処理方法。
【請求項8】
前記硫化アルカリ類を含有する溶液が工程排水である、請求項1に記載の硫化アルカリ類含有溶液の処理方法。
【請求項9】
前記硫化アルカリ類を含有する溶液を、前記酸化処理に適切なpHに調整し、pH調整した前記硫化アルカリ類を含有する溶液を前記酸化処理することを含む、請求項1に記載の硫化アルカリ類含有溶液の処理方法。
【請求項10】
前記酸化処理後の前記溶液のpHを6.0~9.0の範囲内に調整して前記活性汚泥処理することを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の硫化アルカリ類含有溶液の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硫化アルカリや硫化アルカリ等の硫化アルカリ類を含有する溶液を酸化処理する硫化アルカリ類含有溶液の処理方法に関する。詳しくは、本発明は、酸化処理後の前記溶液を活性汚泥処理する硫化アルカリ類含有溶液の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナフサの分解プロセスでは、ナフサ分解炉の長寿命化を目的として、原料ナフサにジメチルジスルフィド(DMDS)を添加して、熱分解している。添加されたDMDSは、ナフサ熱分解中に硫化水素(H2S)に変換される。このH2S含有ガスは、苛性ソーダ溶液により洗浄されることで、H2Sは水硫化ナトリウム(NaSH)や硫化ナトリウム(Na2S)等の有害な還元性硫化物塩に変換され、洗浄廃水中に含有されて系外へ排出される。
これらの還元性硫化物塩を含む洗浄廃水は、CODMn濃度が高く、生物学的に害を及ぼすという理由や、該還元性硫化物塩は、廃液を活性汚泥処理する前の中和槽で、悪臭の原因となるH2Sを発生するため、それを防止するための対策が必要となるという理由から、湿式酸化処理により無害な硫酸塩等に変換することが行われている。
【0003】
NaSHやNa2S等の還元性硫化物塩を湿式酸化処理する方法として、非特許文献1には、酸化剤として酸素又は空気を用いて湿式酸化処理する方法が開示されている。
また、特許文献1には、細孔容積総量を規定した活性炭の共存下、酸化剤として酸素又は酸素含有ガスを用いて、硫化アルカリを湿式酸化処理して無害なチオ硫酸ソーダに変換した後、廃液のpHを中性付近に調整した後、微生物処理する方法が開示されている。
また、非特許文献2には、空気又は酸素ガス以外の酸化剤として、過酸化水素を用いて、有機塩素化合物を湿式酸化処理する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】水質汚濁研究、Vol.12(2)、pp15-20(1989)
【非特許文献2】廃棄物学会研究発表会講演論文集、18巻,pp293(2007)
【非特許文献3】神鋼フアウドラー技報、Vol.33(2)、pp26-29(1989年8月)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1に記載された方法では、被酸化物を150~320℃という高温で酸化処理する必要がある。特にエチレン廃ソーダを処理する場合、温度180~220℃、圧力30~50kg/cm2という高温高圧下で、酸化処理する必要があるため、工場設備(減価償却費等)や電力等のユーティリティー費用の面での経済的負担が大きいという課題がある。
【0007】
特許文献1に記載された方法では、温度50℃以上、好ましくは60~150℃、圧力1~7気圧の範囲内で加熱して、湿式酸化処理することができるが、活性炭の劣化により湿式酸化の処理効率が徐々に低下するため、劣化した活性炭を、新しい活性炭に交換したり又は反応系内から取り出して賦活処理したりする必要がある。そのため、湿式酸化処理の操作性に劣るという課題や、メンテナンス費用の面での経済的負担が大きいという課題がある。
【0008】
非特許文献2は、NaSHやNa2S等の還元性硫化物塩を酸化処理することについて何ら言及していないが、非特許文献2に記載された方法では、有機塩素化合物を温度150~180℃という高温で酸化処理する必要がある。また、酸化処理後の廃液を活性汚泥処理するときに、活性汚泥処理前の廃液中に過酸化水素が含まれると、過酸化水素が活性汚泥中の微生物を失活させるという課題もある(例えば、非特許文献3)。
【0009】
本発明はこれらの問題点を解決することを目的とする。
すなわち、本発明は、硫化アルカリ類含有溶液の酸化処理で、活性汚泥処理が可能な処理液を得、この酸化処理液を、実質的に後処理することなく、活性汚泥処理することができる水硫化アルカリ含有溶液の処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、水硫化ナトリウム(NaSH)や硫化ナトリウム(Na2S)を含有する廃液を、過酸化水素で酸化処理し、対応する硫酸塩類に変換することで、活性汚泥処理に先立ち、該廃液を中和する際の硫化水素の発生を抑制し、実質的に後処理することなく、活性汚泥処理に供することができることの知見を得、この知見に基づき本発明を完成させた。
【0011】
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0012】
[1] 硫化アルカリ類を含有する溶液に、過酸化水素を添加して酸化処理することにより、該硫化アルカリ類を対応する硫酸塩類に変換した後、活性汚泥処理する方法において、
該酸化処理後の溶液中の硫酸塩類の濃度が予め決められた値以上となるように、該硫化アルカリ類を含有する溶液に過酸化水素を存在させた状態で該酸化処理を行うことを含む、硫化アルカリ類含有溶液の処理方法。
【0013】
[2] 前記硫化アルカリ類を含有する溶液中の硫化アルカリ類濃度に基づいて、前記過酸化水素の添加量を制御する、[1]に記載の硫化アルカリ類含有溶液の処理方法。
【0014】
[3] 前記酸化処理後の前記溶液中の残存過酸化水素の濃度が予め決められた値以下となるように、前記酸化処理の条件を制御することを含む、[1]又は[2]に記載の硫化アルカリ類含有溶液の処理方法。
【0015】
[4] 前記酸化処理の処理温度が95℃以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の硫化アルカリ類含有溶液の処理方法。
【0016】
[5] 前記酸化処理の圧力が30kg/cm2G以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の硫化アルカリ類含有溶液の処理方法。
【0017】
[6] 前記硫化アルカリ類が、水硫化アルカリ及び硫化アルカリから選ばれる少なくとも1種を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の硫化アルカリ類含有溶液の処理方法。
【0018】
[7] 前記水硫化アルカリが水硫化ナトリウムを含む、[6]に記載の硫化アルカリ類含有溶液の処理方法。
【0019】
[8] 前記溶液が工程排水である、[1]~[7]のいずれかに記載の硫化アルカリ類含有溶液の処理方法。
【0020】
[9] 前記溶液を、前記酸化処理に適切なpHに調整した後に、pH調整した前記溶液を前記酸化処理することを含む、[1]~[8]のいずれかに記載の硫化アルカリ類含有溶液の処理方法。
【0021】
[10] 前記酸化処理後の前記溶液のpHを6.0~9.0の範囲内に調整して前記活性汚泥処理することを含む、[1]~[9]のいずれかに記載の硫化アルカリ類含有溶液の処理方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、水硫化アルカリを含有する溶液を過酸化水素で酸化処理することで、活性汚泥処理可能な処理液を得ることができ、この酸化処理液を、実質的に後処理することなく、活性汚泥処理することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
【0024】
なお、特に断らない限り、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味し、「A~B」は、A以上B以下であることを意味する。
【0025】
また、本明細書において「硫酸塩類」とは、硫化アルカリ類を酸化処理して得られた、該硫化アルカリ類に対応する硫酸塩、亜硫酸塩、及び、チオ硫酸塩のことをいう。前記酸化処理により硫酸塩のみが得られる場合、亜硫酸塩のみが得られる場合、又は、チオ硫酸塩のみが得られる場合、前記「硫酸塩類」とは、それぞれ当該硫酸塩、当該亜硫酸塩、又は当該チオ硫酸塩のことをいう。
【0026】
[硫化アルカリ類含有溶液の処理方法]
本発明の硫化アルカリ類含有溶液の処理方法は、硫化アルカリ類を含有する溶液に、過酸化水素を添加して酸化処理する(以下、適宜「酸化処理工程」という。)ことにより、該硫化アルカリ類を対応する硫酸塩類に変換した後、活性汚泥処理する(以下、適宜「活性汚泥処理工程」という。)方法において、該酸化処理後の溶液中の硫酸塩類の濃度が予め決められた値以上となるように、該硫化アルカリ類を含有する溶液に過酸化水素を存在させた状態で該酸化処理を行うことを含む。
【0027】
さらに、本発明においては、前記硫化アルカリ類を含有する溶液中の硫化アルカリ類濃度に基づいて、前記過酸化水素の添加量を制御することができる。
【0028】
さらに、本発明においては、前記酸化処理後の前記溶液中の残存過酸化水素の濃度が予め決められた値以下となるように、前記酸化処理の条件を制御することができる。
【0029】
さらに、本発明においては、硫化アルカリ類含有溶液を、酸化処理工程に先立ち、酸化処理に適切なpHにpH調整すること(pH調整工程)ができる。
【0030】
さらに、本発明においては、酸化処理後は、酸化処理液のpHを6.0~9.0の範囲に調整した後に、活性汚泥処理することができる。
【0031】
[硫化アルカリ類含有溶液]
本発明で処理対象とする硫化アルカリ類含有溶液は、硫化アルカリ類を含有する溶液である。
前述のナフサの分解プロセスにおいて、ジメチルジスルフィド(DMDS)等のジスルフィド化合物を含む原料ナフサ、又は、前記ジスルフィド化合物が添加された原料ナフサを熱分解すると、硫化水素(H2S)含有ガス及び炭酸ガスを含む分解ガスが生成する。この分解ガスを苛性ソーダ溶液により洗浄する際に、硫化水素(H2S)含有ガスと苛性ソーダとが反応することにより水硫化ナトリウム(NaSH)や硫化ナトリウム(Na2S)等の有害な還元性硫化物塩が発生する。
本発明の処理方法が用いられる使途又は用途は、特に限定されるものではなく、例えば、工程排水、特に、上述した原料ナフサの熱分解により生成した、水硫化ナトリウム(NaSH)や硫化ナトリウム(Na2S)等の有害な還元性硫化物塩を含む洗浄廃水である、硫化アルカリ類含有溶液の処理に好適に用いることができる。
【0032】
このような工程排水等の硫化アルカリ類含有溶液中の水硫化アルカリ、硫化アルカリ等の硫化アルカリ類の濃度は、特に限定されるものではなく、通常は0.1~10.0質量%程度である。
なお、上記のナフサ分解プロセスの洗浄廃水として排出される硫化アルカリ類含有溶液には、通常、上述した炭酸ガスと苛性ソーダとの反応で発生した炭酸ナトリウム等の炭酸アルカリが1.0~50.0質量%程度含まれている。このため、後掲の実施例では、この洗浄廃水を模擬して水硫化ナトリウム及び硫化ナトリウムと炭酸ナトリウムを含む試験用水溶液について酸化処理実験を行っている。
【0033】
[酸化処理工程]
本発明における酸化処理工程では、上記のような硫化アルカリ類含有溶液に過酸化水素を添加して硫化アルカリ類含有溶液中の硫化アルカリ類の酸化処理を行う。
当該酸化処理により、硫化アルカリ類含有溶液中の硫化アルカリ類は、該硫化アルカリ類に対応する硫酸塩、該硫化アルカリ類に対応する亜硫酸塩や、該硫酸アルカリ類に対応するチオ硫酸塩に変換される。
【0034】
酸化処理に供する硫化アルカリ類含有溶液の水素イオン濃度指数(pH)は、特に限定されるものではないが、硫化アルカリ類含有溶液は酸性条件下では悪臭の原因となるH2Sを発生する虞があることから、pH7~14の範囲であることが好ましく、pH8~13の範囲であることがより好ましい。
通常、前述のナフサの分解プロセスで排出される洗浄廃水のpHは7~14程度であるが、酸化処理に供する硫化アルカリ類含有溶液のpHが上記範囲を外れる場合は、塩酸、硫酸等の酸又は水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリを添加して、酸化処理に先立ち、予めpHを、pH7~14の範囲内に調整することが好ましい。
【0035】
硫化アルカリ類含有溶液に添加する過酸化水素は、その取扱い性から水溶液の形態で用いることが好ましく、この場合、過酸化水素水溶液の過酸化水素濃度は10~50質量%が好ましく、20~50質量%であることがより好ましい。過酸化水素濃度が上記下限以上であれば、硫化アルカリ類の酸化処理効率に優れる。一方、過酸化水素濃度が上記上限以下であれば、過酸化水素水溶液の取り扱いが比較的容易となり、安全性の観点から好ましい。
【0036】
本発明の処理方法においては、酸化処理後の溶液(酸化処理液)中の硫酸塩類の濃度が予め決められた値以上となるように、酸化処理に供する硫化アルカリ類含有溶液に過酸化水素を存在させた状態で該酸化処理を行うことを特徴とする。
この酸化処理液の硫酸塩類の濃度は、酸化処理に供する硫化アルカリ類含有溶液中の硫化アルカリ類の濃度によっても異なるが、硫化アルカリ類含有溶液中の硫化アルカリ類の総質量を100%として、該硫化アルカリ類の50質量%以上、特に70~100質量%が、該硫化アルカリ類に対応する硫酸塩及び該硫化アルカリ類に対応する亜硫酸塩に酸化処理された濃度であることが、後段の活性汚泥処理における処理効率が優れる観点から好ましい。さらに、前記酸化処理液の硫酸塩類の濃度が、前記硫化アルカリ類のすべて(100質量%)が該硫化アルカリ類に対応する硫酸塩に酸化処理された濃度であることが、より好ましい。
【0037】
本発明の処理方法のより好ましい一実施態様として、過酸化水素の添加量を、酸化処理する硫化アルカリ類含有溶液中の硫化アルカリ類の濃度に基づいて制御する方法が挙げられる(実施態様A)。
上述した制御方法として、具体的には、該酸化処理後の溶液中の硫酸塩類の濃度が予め決められた値以上となるように、過酸化水素の添加量を制御することができる。
【0038】
或いは、本発明の処理方法のより好ましい、他の実施態様として、前記酸化処理後の酸化処理液中の残存過酸化水素濃度が予め決められた値以下となるように、前記酸化処理の条件を制御する方法が挙げられる(実施態様B)。
前記酸化処理条件として、具体的には、酸化処理の温度を制御する方法や、過酸化水素の添加量を制御する方法が挙げられる。前述した本発明の処理方法のより好ましい一実施態様である過酸化水素添加量を制御する方法と区別するため、酸化処理の温度を制御する方法がより好ましい。
【0039】
さらに、本発明の処理方法においては、前記実施態様Aと前記実施態様Bとを組み合わせて行うことができる。
【0040】
硫化アルカリ類含有溶液中の硫化アルカリ類の酸化処理に必要な過酸化水素量の量は、
硫化アルカリ類含有溶液中の硫化アルカリ類由来の硫黄原子(S)の含有量(単位:mol)に対して、4倍モル量である。
即ち、例えば水硫化ナトリウム(NaSH)、硫化ナトリウム(Na2S)の過酸化水素(H2O2)による酸化は以下の反応式に示すように進行するため、硫黄原子(S)に対して4倍モル量の過酸化水素が反応当量(1当量)となる。
NaSH+4H2O2→NaHSO4+4H2O
Na2S+4H2O2→Na2SO4+4H2O
このため、十分量の過酸化水素の存在下に硫化アルカリ類含有溶液中の硫化アルカリ類を高度に酸化処理して硫酸塩類に変換するには、過酸化水素の添加量は、特に限定されるものではないが、通常は上記反応当量(1当量)を基準として0.5~2.5当量の範囲内にあることが好ましく、0.6~2.0当量の範囲内にあることがより好ましい。
【0041】
一方で、酸化処理液中に酸化処理に使用されなかった余剰の過酸化水素が残留すると、この残存過酸化水素が後段の活性汚泥処理の阻害要因となる。残存過酸化水素による活性汚泥中の微生物の失活を抑制するためには、活性汚泥処理に供される酸化処理液中の残存過酸化水素濃度は1.5質量%以下とすることが好ましく、1.0質量%以下とすることがより好ましい。
【0042】
従って、本発明においては、硫化アルカリ類含有溶液中の硫化アルカリ類濃度を予め測定し、過酸化水素の添加量が上記反応当量(1当量)を基準として、好ましくは0.5~2.5当量、より好ましくは0.6~2.0当量となる量とする一方で、酸化処理液中の過酸化水素濃度を測定し、酸化処理液中の残存過酸化水素濃度が上記上限以下となるように、過酸化水素の添加量を制御する。
この過酸化水素の添加量制御は、硫化アルカリ類含有溶液の硫化アルカリ類濃度の測定手段と、酸化処理液の過酸化水素濃度の測定手段と、これらの測定手段の測定値に基づいて過酸化水素の添加量を制御する制御手段とを設けることで、自動制御で実施することができる。
【0043】
なお、酸化処理に供される硫化アルカリ類含有溶液中の硫化アルカリ類の含有量は、塩酸等の酸性物質を用いた中和滴定により分析することができる。
また、過酸化水素濃度は、後掲の実施例の項に記載されるように、過マンガン酸カリウムによる酸化還元滴定により分析することができる。
【0044】
酸化処理の処理温度の上限は、特に限定されるものではないが、通常は95℃以下であることが好ましい。処理温度が95℃を超えると反応液が沸騰する虞がある。一方で、酸化処理の処理温度の下限は、特に限定されるものではないが、酸化処理効率の観点から5℃以上であることが好ましい。加熱コストと処理効率等の観点から、酸化処理の処理温度はより好ましくは10~90℃である。
【0045】
酸化処理の圧力の上限は、特に限定されるものではないが、設備の設計の容易さや設備装置の費用の観点から、30kg/cm2G以下であることが好ましい。圧力が30kg/cm2G以下であれば、反応器や配管等の設計が比較的容易となり、設備費用を低く抑えることができる。酸化処理温度にもよるが、過酸化水素による酸化処理は、大気圧(0kg/cm2G)においても円滑に進行するため、加圧コストや耐圧容器等の観点から、酸化処理の圧力は0~20kg/cm2Gの範囲とすることが好ましい。
【0046】
酸化処理の時間は、特に限定されるものではなく、処理温度及び圧力や過酸化水素添加量等に応じて、硫化アルカリ類含有溶液中の硫化アルカリ類が十分に酸化処理される時間を設定すればよい。
【0047】
本発明における酸化処理では、前述の反応式に示される通り、硫化アルカリ類含有溶液中の硫化アルカリ類、即ち、Na2S等の硫化アルカリやNaSH等の水硫化アルカリが酸化処理されて、チオ硫酸イオン(S2O3
2-)、亜硫酸イオン(HSO3
-)、硫酸イオン(SO4
2-)のいずれかの、前記硫化アルカリ類に対応するチオ硫酸塩、亜硫酸塩、又は硫酸塩に酸化される。
【0048】
前述の通り、本発明においては、酸化処理における過酸化水素添加量、処理温度、処理圧力及び処理時間を適切に設定することで、硫化アルカリ類の50質量%以上、特に70~100質量%が、該硫化アルカリ類に対応する硫酸塩及び該硫化アルカリ類に対応する亜硫酸塩に酸化処理されること、特にすべて(100質量%)の硫化アルカリ類が前記硫酸塩に酸化処理されることが、後段の活性汚泥処理効率の観点から好ましい。
【0049】
[活性汚泥処理工程]
酸化処理工程で得られる酸化処理液は、活性汚泥処理に供される。本発明では、酸化処理液中の残存過酸化水素濃度が低く抑えることができるため、酸化処理後の活性汚泥処理における過酸化水素による活性阻害の問題は殆どない。
活性汚泥処理は、以下の通り、常法に従って行うことができる。
【0050】
活性汚泥処理による排水処理装置は、原水槽、薬液を排水に注入して前処理を行い、かつ排水を温度調整する中和槽、排水を酸素曝気しつつ排水中の有機物を酸化分解、凝集させる曝気槽、及び凝集汚泥を沈澱させる沈澱槽を備え、活性汚泥法により排水を浄化し、浄化した濁度の低い処理水を流出させる。
活性汚泥法による排水処理方法は、排水の生物処理法の一つであって、排水中の各種の有機物を培養基として、溶存酸素の存在下で微生物の混合集団を連続培養し、酸化分解、凝集、沈澱の各作用により主として排水中の有機物を除去する処理方法である。技報堂
出版の「水処理工学」によれば、活性汚泥処理プロセス は、浄化機能を有するフロック状の生物増殖体を必要に応じて生物反応系で絶えず循環し、曝気槽内で基質(排水のBOD成分)と浄化微生物の比率が一定となるように人為的に操作し、溶存酸素の存在のもとで、異種個体
群の微生物によって構成されるフロックと基質とを十分に接触せしめて、これを好気的に酸化、分解する処理プロセスであると定義されている。
【0051】
このような活性汚泥処理は、微生物の活性及び安定した活性汚泥処理の観点から、pH6.0~9.0の中性域で行うことが好ましい。
このため、活性汚泥処理に供する酸化処理液のpHは、pH6.0~9.0に調整することが好ましく、pH6.5~9.0に調整することがより好ましい。
【0052】
通常、前述の酸化処理を行って得られる酸化処理液のpHは、硫酸塩の生成でpH8~13程度となることがある。このような場合、硫酸等の酸性物質を添加して、酸化処理液のpHを上記pHの範囲内に調整することができる。
本発明によれば、酸化処理液にpH調整を行うのみで、その他の処理を施すことなく活性汚泥処理に供することができる。
【0053】
活性汚泥処理を行って得られる活性汚泥処理液は、CODMnが十分に低減されており、そのまま、或いは必要に応じて濾過等の処理を行った後、放流される。
【0054】
[ナフサ分解プロセスへの適用]
本発明で処理対象とする硫化アルカリ類含有溶液の一例として、ナフサ分解プロセスからの洗浄廃水を酸化処理する場合の処理工程について、説明する。
【0055】
原料ナフサに、ジメチルジスルフィド(DMDS)が添加された後、分解炉に送給されて熱分解される。分解炉からの熱分解生成物は、軽沸成分と重沸成分に分離され、エチレン、プロピレン等は分留工程へ送給される。熱分解中にDMSから生成した硫化水素(H2S)を含む分解ガスは、ソーダ洗浄塔に送給され、苛性ソーダ(NaOH)溶液により洗浄される。
【0056】
ソーダ洗浄塔において、硫化水素と苛性ソーダが反応して水硫化ソーダ及び硫化ソーダが生成する。また、分解ガスが炭酸ガス(二酸化炭素)を含む場合は、炭酸ガスと苛性ソーダが反応して炭酸ソーダが生成する。このようにして生成した水硫化ソーダ(水硫化ナトリウム)等や炭酸ソーダを含む洗浄廃水は、必要に応じてpH調整された後、本発明による酸化処理の処理対象の硫化アルカリ類含有溶液として、ポンプPにより過酸化水素が添加され酸化処理に供される。そして、酸化処理液は、好ましくはpH5~14の範囲内、より好ましくはpH6.0~9.0の範囲内にpH調整された後、活性汚泥処理に供され、活性汚泥処理液は、必要に応じて後処理された後、河川ないし海に放流される。
【0057】
本実施形態では、炭酸ソーダ廃水中の硫化アルカリ類濃度(又は硫黄濃度)を測定する測定手段、酸化処理液中の過酸化水素濃度を測定する測定手段と、これらの測定手段の測定値が入力される制御装置が設けられており、該制御装置は、入力された炭酸ソーダ廃水の硫化アルカリ類濃度(又は硫黄濃度)の測定値と、酸化処理液の過酸化水素濃度の測定値とから、前述の処理すべき硫化アルカリ類に対する過酸化水素の好適当量及び酸化処理液の残存過酸化水素濃度となるように、必要な過酸化水素添加量を演算し、算出した過酸化水素添加量となるように、過酸化水素添加用ポンプの制御信号を出力する。
このような過酸化水素添加量の制御を行うことで、硫化アルカリ類含有溶液中の硫化アルカリ類を高度に酸化処理して硫酸塩類に変換すると共に、酸化処理液中の過酸化水素濃度を、後段の活性汚泥処理に影響を及ぼすことのない濃度として、酸化処理及び活性汚泥処理を効率的に行うことができる。
【実施例0058】
以下に実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0059】
以下の実施例で使用した化合物の名称は以下のとおりである。
水硫化ナトリウム(商品名:NaSH・nH2O、富士フイルム和光純薬(株)製)
硫化ナトリウム(商品名:Na2S・5H2O、富士フイルム和光純薬(株)製)
炭酸ナトリウム(商品名:NaCO3、富士フイルム和光純薬(株)製)
45質量%過酸化水素水(三菱ガス化学(株)製)
水(商品名:精製水 Pure Water、富士フイルム和光純薬(株)製)
【0060】
<評価方法>
(1)水硫化アルカリ、硫化アルカリ及び炭酸アルカリ水溶液の調製方法
水硫化アルカリとして水硫化ナトリウム、硫化アルカリとして硫化ナトリウム、炭酸アルカリとして炭酸ナトリウム、及び水を下記に示した質量比率で配合して、pH12.2の試験用水溶液を調製した。
(試験用水溶液の組成)
・水硫化ナトリウム: 0.3質量%
・硫化ナトリウム : 0.1質量%
・炭酸ナトリウム :20.0質量%
・水 :79.6質量%
【0061】
(2)酸化処理方法
(1)で調製した試験用水溶液100gに対して、45質量%過酸化水素水を、前記試験用水溶液に含まれる硫黄原子(S)の含有量(単位:mol)に対して、過酸化水素として4倍モル量を1当量として、所定の当量となるように添加し、温度40℃、大気圧下(圧力0kg/cm2G)で酸化処理した。
【0062】
(3)残存過酸化水素の濃度測定
酸化処理後の試験用水溶液に1.0M硫酸水溶液をpH2~7の範囲内となるように添加した。次いで、ビュレットを使用して0.02M過マンガン酸カリウム溶液による酸化還元滴定を行い、酸化処理後の試験用水溶液中の過酸化水素の濃度(単位:質量%)を測定した。
【0063】
(4)硫酸塩類の含有量測定
酸化処理後の試験用溶液中に含まれる、硫酸塩類の含有量として、チオ硫酸イオン、亜硫酸イオン及び硫酸イオンの含有量を、下記の方法に従って測定した。
試験用溶液中の水硫化ナトリウム及び硫化ナトリウムが酸化処理されることにより、硫酸塩として、チオ硫酸イオン、亜硫酸イオン及び硫酸イオンが生成するので、本測定では、これらのイオンの含有量を測定する。
具体的には、前記(2)で得られた酸化処理後の試験用水溶液について、イオンクロマトグラフィーを用いて、チオ硫酸イオン、亜硫酸イオン及び硫酸イオンのそれぞれの含有量C2-1、C2-2、C2-3(単位:mol)を測定した。
【0064】
(5)硫酸塩類及び硫化アルカリ類の含有割合の算出
前記(1)で調製した酸化処理前の試験用水溶液について、水硫化ナトリウムと硫化ナトリウムの仕込み量から、水硫化ナトリウム及び硫化ナトリウムの合計含有量C1(単位:mol)を算出した。
酸化処理前の試験用水溶液中のC1から、前記(4)で算出した酸化処理後の試験用水溶液中のチオ硫酸イオン、亜硫酸イオン及び硫酸イオンの含有量C2-1、C2-2、C2-3を引いて、これを酸化処理後の試験用水溶液中の硫化アルカリ類の含有量C2-4(単位:mol)とした。
得られたC2-1~C2-4の値から、酸化処理後の試験用溶液中に含まれる、硫酸塩類及び硫化アルカリ類の含有割合として、チオ硫酸イオン、亜硫酸イオン、硫酸イオン、並びに、水硫化ナトリウム及び硫化ナトリウム(合計)の合計含有量(単位:mol)を100%としたときの、チオ硫酸イオン、亜硫酸イオン、硫酸イオン、並びに、水硫化ナトリウム及び硫化ナトリウム(合計)の、それぞれの含有割合(単位:mol%)を算出した。
【0065】
[実施例1]
上述した調製方法(1)で調製した試験用水溶液100gに、上述した前記(2)の手順に従って、過酸化水素を1.2当量添加し、酸化処理を行った。過酸化水素を添加して酸化処理を開始してから15分後に酸化処理を停止した。
酸化処理後の試験用溶液について、上述した前記(3)の手順に従って残存過酸化水素の濃度を測定した。
また、酸化処理後の試験用溶液について、上述した前記(4)及び前記(5)の手順に従って、硫酸塩類及び硫化アルカリ類の含有量(単位:mol)及び含有割合(単位:mol%)を測定した。評価結果を表1に示した。
【0066】
実施例1で得られた酸化処理後の試験用溶液を、活性汚泥処理に供したところ、CODMn110mg/Lの活性汚泥処理液を得ることができた。なお、酸化処理前のCODMnの値は2,000mg/Lであった。
【0067】
[比較例1]
実施例1における過酸化水素の添加量を0.2当量に変更した以外は、実施例1と同様の条件で酸化処理を行ない、残存過酸化水素の濃度、硫酸塩類及び硫化アルカリ類の含有量及び含有割合を測定した。評価結果を表1に示した。
【0068】
[実施例2]
実施例1における過酸化水素の添加量を1.5当量に変更した以外は、実施例1と同様の条件で酸化処理を行ない、残存過酸化水素の濃度、硫酸塩類及び硫化アルカリ類の含有量及び含有割合を測定した。評価結果を表1に示した。
得られた酸化処理後の試験用溶液を実施例1と同様に活性汚泥処理したところ、得られた活性汚泥処理液のCODMnは70mg/Lであった。なお、酸化処理前のCODMnの値は2,000mg/Lであった。
【0069】
[比較例2]
実施例1における過酸化水素の添加量を3.0当量に変更した以外は、実施例1と同様の条件で酸化処理を行ない、残存過酸化水素の濃度、硫酸塩類及び硫化アルカリ類の含有量及び含有割合を測定した。評価結果を表1に示した。
【0070】
【0071】
実施例1、2及び比較例2の製造条件では、酸化処理前の試験用水溶液中の硫化アルカリ類(水硫化ナトリウム及び硫化ナトリウム)は、過酸化水素を添加して酸化処理することにより、硫化アルカリ類の全量が硫酸塩類(硫酸イオン)に転化された。
特に、実施例1及び2の酸化処理条件では、硫化アルカリ類(水硫化ナトリウム及び硫化ナトリウム)から硫酸塩類への転化率は100%であり、かつ酸化処理後の試験用水溶液中に残存する過酸化水素の濃度は、定量下限未満(0.5質量%未満)であった。
このため、実施例1、2ではCODMnが十分に低減された活性汚泥処理液が得られた。
一方、比較例1の酸化処理条件では、過酸化水素の添加量が少ないため(0.2当量)、硫化アルカリ類(水硫化ナトリウム及び硫化ナトリウム)から硫酸塩類への転化率は36.4mol%(18.2+12.1+6.1=36.4)であった。
また、比較例2の酸化処理条件では、過酸化水素の添加量が多いため(3.0当量)、硫化アルカリ類(水硫化ナトリウム及び硫化ナトリウム)から硫酸塩類への転化率は100%であったが、酸化処理後の試験用水溶液中に残存する過酸化水素の濃度は1.6質量%であった。
この比較例2では、試験用水溶液の過酸化水素濃度が高いため、活性汚泥処理における微生物阻害の問題が懸念される。
【0072】
以上の実施例及び比較例より、酸化処理後の硫酸塩類の濃度が所定値以上となるように、好ましくは、硫化アルカリ類含有溶液中の硫化アルカリ類(又は硫黄)濃度、更には酸化処理液の過酸化水素濃度に基づいて過酸化水素添加量を制御する本発明の硫化アルカリ類含有溶液の処理方法よれば、硫化アルカリ類(水硫化ナトリウム及び硫化ナトリウム)等の有害な還元性硫化物塩を含む、洗浄廃水等の硫化アルカリ類含有溶液を、過酸化水素水で効率的に酸化処理して、無害な硫酸塩類に分解することができると共に、活性汚泥処理の阻害要因となる過酸化水素の残留を抑制して酸化処理液を効率的に活性汚泥処理に供することができることが期待される。
また、廃液を活性汚泥処理する前の還元性硫化物塩の中和処理が不要となるため、悪臭の原因となるH2Sが発生することを回避できることが期待される。
特に、本発明の硫化アルカリ類含有溶液の処理方法によれば、酸化処理液を、過酸化水素を含まない、又は、過酸化水素濃度の低い酸化処理液とすることができるため、活性汚泥処理に供しても、活性汚泥中の微生物を失活させることがないことが期待される。