IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社アルバックの特許一覧

特開2024-22023測定装置、成膜装置および膜厚測定方法
<>
  • 特開-測定装置、成膜装置および膜厚測定方法 図1
  • 特開-測定装置、成膜装置および膜厚測定方法 図2
  • 特開-測定装置、成膜装置および膜厚測定方法 図3
  • 特開-測定装置、成膜装置および膜厚測定方法 図4
  • 特開-測定装置、成膜装置および膜厚測定方法 図5
  • 特開-測定装置、成膜装置および膜厚測定方法 図6
  • 特開-測定装置、成膜装置および膜厚測定方法 図7
  • 特開-測定装置、成膜装置および膜厚測定方法 図8
  • 特開-測定装置、成膜装置および膜厚測定方法 図9
  • 特開-測定装置、成膜装置および膜厚測定方法 図10
  • 特開-測定装置、成膜装置および膜厚測定方法 図11
  • 特開-測定装置、成膜装置および膜厚測定方法 図12
  • 特開-測定装置、成膜装置および膜厚測定方法 図13
  • 特開-測定装置、成膜装置および膜厚測定方法 図14
  • 特開-測定装置、成膜装置および膜厚測定方法 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022023
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】測定装置、成膜装置および膜厚測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 5/02 20060101AFI20240208BHJP
   C23C 14/24 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
G01N5/02 A
C23C14/24 U
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022125303
(22)【出願日】2022-08-05
(71)【出願人】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永田 純一
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029CA01
4K029DA03
4K029EA02
(57)【要約】
【課題】異常値の排除または抑制を可能とし、かつ真値に対しその処理値の応答性を向上させることができる測定装置、成膜装置および膜厚測定方法を提供する。
【解決手段】本発明の一形態に係る測定装置は、蒸着源を有する成膜装置に設置された振動子の発振周波数に基づいて成膜レートを測定する測定装置であって、測定回路と、制御回路とを具備する。前記測定回路は、前記振動子の発振周波数に関連する周波数関連情報に基づいて単位時間ごとのレート換算値を算出する。前記制御回路は、前記測定回路で算出されたレート換算値をフィルタリングするフィルタ部と、前記蒸着源の温度に関連する温度関連情報に基づいて前記フィルタ部におけるフィルタリングの強さの度合いであるフィルタ係数を変更する制御部と、を有する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着源を有する成膜装置に設置された振動子の発振周波数に基づいて成膜レートを測定する測定装置であって、
前記振動子の発振周波数に関連する周波数関連情報に基づいて単位時間ごとのレート換算値を算出する測定回路と、
前記測定回路で算出されたレート換算値をフィルタリングするフィルタ部と、前記蒸着源の温度に関連する温度関連情報に基づいて前記フィルタ部におけるフィルタリングの強さの度合いであるフィルタ係数を変更する制御部と、を有する制御回路と
を具備する測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の測定装置であって、
前記制御回路は、前記温度関連情報の時間変化に相当する第1近似直線を算出する演算部をさらに有し、
前記制御部は、前記第1近似直線の傾きの絶対値が所定値以上か否かを判定し、前記第1近似直線の傾きの絶対値が前記所定値以上のときは、前記フィルタ係数を第1設定値に設定し、前記第1近似直線の傾きの絶対値が前記所定値未満のときは、前記フィルタ係数を前記第1設定値よりも大きい第2設定値に切り替える
測定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の測定装置であって、
前記演算部は、前記周波数関連情報に基づいて前記振動子におけるアドミッタンスの実数部の時間変化に相当する第2近似直線をさらに算出し、
前記制御部は、前記第1近似直線の傾きの絶対値が前記所定値未満のときは前記第2近似直線の傾きが所定範囲内か否かをさらに判定し、前記第2近似直線の傾きが前記所定範囲外のときは前記フィルタ係数を前記第2設定値よりも大きい第3設定値に切り替える
測定装置。
【請求項4】
請求項3に記載の測定装置であって、
前記第2所定範囲は、マイナスの閾値とプラスの閾値との間にわたる範囲であり、
前記制御部は、前記第2近似直線の傾きが前記マイナスの閾値未満の値から前記マイナスの閾値以上の値に変化したときは、所定時間経過後に前記フィルタ係数を前記第3設定値から前記第2設定値に切り替える
測定装置。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1つに記載の測定装置であって、
前記フィルタ部は、カルマンフィルタを含む
測定装置。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1つに記載の測定装置であって、
前記温度関連情報は、前記蒸着源の温度または前記蒸着源を加熱する電力である
測定装置。
【請求項7】
請求項2又は3に記載の測定装置であって、
前記演算部は、前記測定回路で算出されたレート換算値を平滑化する前処理を実行する
測定装置。
【請求項8】
請求項7に記載の測定装置であって、
前記前処理は、前記単位時間ごとのレート換算値の中央値を算出する中央値算出処理である
測定装置。
【請求項9】
請求項7に記載の測定装置であって、
前記前処理は、前記単位時間ごとのレート換算値の移動平均値を算出する移動平均値算出処理である
測定装置。
【請求項10】
蒸着源を有する成膜装置に設置された振動子の発振周波数に基づいて成膜レートを測定する測定装置であって、
前記振動子の発振周波数に関連する周波数関連情報に基づいて単位時間ごとのレート換算値を算出する測定回路と、
前記測定回路で算出されたレート換算値をフィルタリングするフィルタ部と、前記振動子におけるアドミッタンスの実数部の時間変化に基づいて前記フィルタ部におけるフィルタリングの強さの度合いであるフィルタ係数を変更する制御部と、を有する制御回路と
を具備する測定装置。
【請求項11】
請求項10に記載の測定装置であって、
前記制御回路は、前記蒸着源の温度に関連する温度関連情報の時間変化に相当する第1近似直線を算出する演算部をさらに有し、
前記制御部は、前記第1近似直線の傾きの絶対値が所定値以上か否かを判定し、前記第1近似直線の傾きの絶対値が前記所定値以上のときは、前記フィルタ係数を第1設定値に設定し、前記第1近似直線の傾きの絶対値が前記所定値未満のときは、前記フィルタ係数を前記第1設定値よりも大きい第2設定値に切り替える
測定装置。
【請求項12】
請求項11に記載の測定装置であって、
前記演算部は、前記周波数関連情報に基づいて前記振動子におけるアドミッタンスの実数部の時間変化に相当する第2近似直線をさらに算出し、
前記制御部は、前記第2近似直線の傾きの絶対値が所定値範囲内か否かを判定し、前記第2近似直線の傾きが前記所定範囲内のときは、前記フィルタ係数を第1設定値に設定し、前記第2近似直接の傾きの絶対値が前記所定範囲外のときは、前記フィルタ係数を前記第1設定値よりも大きい第3設定値に切り替える
測定装置。
【請求項13】
真空チャンバと、
前記真空チャンバの内部に配置された蒸着源と、
前記真空チャンバの内部に配置され、所定の共振周波数で発振する振動子を有するセンサヘッドと、
前記振動子の発振周波数に関連する周波数関連情報に基づいて単位時間ごとのレート換算値を算出する測定回路と、
前記測定回路で算出されたレート換算値をフィルタリングするフィルタ部と、前記蒸着源の温度に関連する温度関連情報に基づいて前記フィルタ部におけるフィルタリングの強さの度合いであるフィルタ係数を変更する制御部と、を有する制御回路と
を具備する成膜装置。
【請求項14】
真空チャンバと、
前記真空チャンバの内部に配置された蒸着源と、
前記真空チャンバの内部に配置され、所定の共振周波数で発振する振動子を有するセンサヘッドと、
前記振動子の発振周波数に関連する周波数関連情報に基づいて単位時間ごとのレート換算値を算出する測定回路と、
前記測定回路で算出されたレート換算値をフィルタリングするフィルタ部と、前記振動子におけるアドミッタンスの実数部の時間変化に基づいて前記フィルタ部におけるフィルタリングの強さの度合いであるフィルタ係数を変更する制御部と、を有する制御回路と
を具備する成膜装置。
【請求項15】
成膜装置に設置された振動子の発振周波数に関連する周波数関連情報と前記成膜装置に設置された蒸着源の温度に関連する温度関連情報とを取得し、
前記振動子の発振周波数に関連する周波数関連情報に基づいて単位時間ごとのレート換算値を算出し、
前記測定回路で算出されたレート換算値をフィルタリングし、
前記蒸着源の温度に関連する温度関連情報に基づいて前記フィルタ部におけるフィルタリングの強さの度合いであるフィルタ係数を変更する
膜厚測定方法。
【請求項16】
成膜装置に設置された振動子の発振周波数に関連する周波数関連情報と前記成膜装置に設置された蒸着源の温度に関連する温度関連情報とを取得し、
前記振動子の発振周波数に関連する周波数関連情報に基づいて単位時間ごとのレート換算値を算出し、
前記測定回路で算出されたレート換算値をフィルタリングし、
前記振動子におけるアドミッタンスの実数部の時間変化に基づいて前記フィルタ部におけるフィルタリングの強さの度合いであるフィルタ係数を変更する
膜厚測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置に設置された振動子の発振周波数に基づいて成膜レートを測定する測定装置およびこれを備えた成膜装置、ならびに膜厚測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、真空蒸着装置などの成膜装置においては、基板に成膜される膜の厚みおよび成膜速度(レート)を測定するために、水晶振動子法(QCM:Quartz Crystal Microbalance)という技術が用いられている。この方法は、チャンバ内に配置されている水晶振動子の表面に対し蒸着物が堆積することを利用して、膜厚およびレートを測定する手法である。これは、堆積すなわち表面質量が増加すると水晶振動子の共振周波数が減少するという物理量の変換現象を利用している。したがって、水晶振動子の共振周波数の変化を観測すれば(観測値を利用すれば)、膜の質量を同定することができる。
【0003】
膜厚センサを備えた蒸着装置においては、測定された蒸着レートをもとに、蒸着源における蒸着材料に対する加熱温度がフィードバック制御される。しかしながら、膜厚センサは蒸着材料の突沸(スプラッシュ)や水晶振動子140の表面状態の変化などの物理的な外乱の影響を受けて、観測値が瞬間的に大きく変動することがある。大きく変動した値は実際に堆積した質量(真値)を反映しておらず、よってこの値は異常値として排除(または値を正常範囲へ抑制)する必要がある。
【0004】
従来この問題に対処した測定装置は、フィルタ処理と呼ばれる処理を観測値に対して実行し、処理した値を真値として出力している。フィルタ処理の一例としては、平滑化処理方法が知られている。例えば特許文献1には、ある単位時間間隔で水晶振動子の共振周波数を観測し、これら観測値に基づいて算出される膜厚のある時間範囲における移動平均をとって単位時間あたりの膜厚増加量(レート)を出力している。このように求められた出力値を用いれば安定した成膜方法(安定したフィードバック制御)が実現できるとしている。
【0005】
フィルタ処理の一例である平滑化処理方法の典型的な実施例としては、現在から予め定めた時間までに得られた観測値らを標本とし、この標本に対して移動平均処理を施す方法が知られている。一般的には単純移動平均を使用するが、加重移動平均を使用することもある。他の例としては、異常値をローパスフィルタと呼ばれる遅れ要素(例えば一次遅れフィルタ)を用いて抑制する(異常値は高周波成分となるために抑制される)方法も用いられる。また、これらの要素を複数用いる、あるいは、要素を相互に関連させた処理方法が知られている。
【0006】
これらを用いた測定装置は、観測値らのうちにノイズの影響と考えられる異常値があったとしても、これらを想定される正常値の範囲へ処理または抑制することができるため、その出力値を利用した蒸着源の制御を安定化することが可能であった。しかしながら、その出力値は真値と必ずしも整合せず、特に真のレート値が急激に時間遷移する際には、応答の遅れが問題となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第6060319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の移動平均処理による平滑化では、トレードオフ問題が解決できていない。典型的には標本数を増加させると(予め定めた時間を増加させると)より安定化した処理値が得られるが、単位時間あたりの応答性能は劣化する。また、水晶振動子の表面状態により長周期のノイズが混入する場合があるが、これを除去するためには少なくとも一周期以上の標本数が必須となり、蒸着源を制御する目的(すなわち成膜対象物の生産効率の面)から見て選択肢となりえない。このように応答性と安定性とを両立できないという課題がある。
【0009】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、異常値の排除または抑制を可能とし、かつ真値に対しその処理値の応答性を向上させることができる測定装置、成膜装置および膜厚測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一形態に係る測定装置は、蒸着源を有する成膜装置に設置された振動子の発振周波数に基づいて成膜レートを測定する測定装置であって、測定回路と、制御回路とを具備する。
前記測定回路は、前記振動子の発振周波数に関連する周波数関連情報に基づいて単位時間ごとのレート換算値を算出する。
前記制御回路は、前記測定回路で算出されたレート換算値をフィルタリングするフィルタ部と、前記蒸着源の温度に関連する温度関連情報に基づいて前記フィルタ部におけるフィルタリングの強さの度合いであるフィルタ係数を変更する制御部と、を有する。
【0011】
前記制御回路は、前記温度関連情報の時間変化に相当する第1近似直線を算出する演算部をさらに有してもよい。前記制御部は、前記第1近似直線の傾きの絶対値が所定値以上か否かを判定し、前記第1近似直線の傾きの絶対値が前記所定値以上のときは、前記フィルタ係数を第1設定値に設定し、前記第1近似直線の傾きの絶対値が前記所定値未満のときは、前記フィルタ係数を前記第1設定値よりも大きい第2設定値に切り替えてもよい。
【0012】
前記演算部は、前記周波数関連情報に基づいて前記振動子におけるアドミッタンスの実数部の時間変化に相当する第2近似直線をさらに算出してもよい。前記制御部は、前記第1近似直線の傾きの絶対値が前記所定値未満のときは前記第2近似直線の傾きが所定範囲内か否かをさらに判定し、前記第2近似直線の傾きが前記所定範囲外のときは前記フィルタ係数を前記第2設定値よりも大きい第3設定値に切り替えてもよい。
【0013】
前記第2所定範囲は、マイナスの閾値とプラスの閾値との間にわたる範囲であり、前記制御部は、前記第2近似直線の傾きが前記マイナスの閾値未満の値から前記マイナスの閾値以上の値に変化したときは、所定時間経過後に前記フィルタ係数を前記第3設定値から前記第2設定値に切り替えてもよい。
【0014】
前記フィルタ部は、カルマンフィルタを含んでもよい。
【0015】
前記温度関連情報は、前記蒸着源の温度または前記蒸着源を加熱する電力であってもよい。
【0016】
前記演算部は、前記測定回路で算出されたレート換算値を平滑化する前処理を実行してもよい。
【0017】
前記前処理は、前記単位時間ごとのレート換算値の中央値を算出する中央値算出処理であってもよい。
あるいは、前記前処理は、前記単位時間ごとのレート換算値の移動平均値を算出する移動平均値算出処理であってもよい。
【0018】
本発明の他の形態に係る測定装置は、蒸着源を有する成膜装置に設置された振動子の発振周波数に基づいて成膜レートを測定する測定装置であって、測定回路と、制御回路とを具備する。
前記測定回路は、前記振動子の発振周波数に関連する周波数関連情報に基づいて単位時間ごとのレート換算値を算出する。
前記制御回路は、前記測定回路で算出されたレート換算値をフィルタリングするフィルタ部と、前記振動子におけるアドミッタンスの実数部の時間変化に基づいて前記フィルタ部におけるフィルタリングの強さの度合いであるフィルタ係数を変更する制御部と、を有する。
【0019】
本発明の一形態に係る成膜装置は、真空チャンバと、蒸着源と、センサヘッドと、測定回路と、制御回路とを具備する。
前記蒸着源は、前記真空チャンバの内部に配置される。
前記センサヘッドは、前記真空チャンバの内部に配置され、所定の共振周波数で発振する振動子を有する。
前記測定回路は、前記振動子の発振周波数に関連する周波数関連情報に基づいて単位時間ごとのレート換算値を算出する。
前記制御回路は、前記測定回路で算出されたレート換算値をフィルタリングするフィルタ部と、前記周波数関連情報と前記蒸着源の温度に関連する温度関連情報とに基づいて前記フィルタ部におけるフィルタリングの強さの度合いであるフィルタ係数を変更する制御部と、を有する。
【0020】
本発明の他の形態に係る成膜装置は、真空チャンバと、蒸着源と、センサヘッドと、測定回路と、制御回路とを具備する。
前記蒸着源は、前記真空チャンバの内部に配置される。
前記センサヘッドは、前記真空チャンバの内部に配置され、所定の共振周波数で発振する振動子を有する。
前記測定回路は、前記振動子の発振周波数に関連する周波数関連情報に基づいて単位時間ごとのレート換算値を算出する。
前記制御回路は、前記測定回路で算出されたレート換算値をフィルタリングするフィルタ部と、前記振動子におけるアドミッタンスの実数部の時間変化に基づいて前記フィルタ部におけるフィルタリングの強さの度合いであるフィルタ係数を変更する制御部と、を有する。
【0021】
本発明の一形態に係る膜厚測定方法は、
成膜装置に設置された振動子の発振周波数に関連する周波数関連情報と前記成膜装置に設置された蒸着源の温度に関連する温度関連情報とを取得し、
前記振動子の発振周波数に関連する周波数関連情報に基づいて単位時間ごとのレート換算値を算出し、
前記測定回路で算出されたレート換算値をフィルタリングし、
前記周波数関連情報と前記蒸着源の温度に関連する温度関連情報とに基づいて前記フィルタ部におけるフィルタリングの強さの度合いであるフィルタ係数を変更する。
【0022】
本発明の他の形態に係る膜厚測定方法は、成膜装置に設置された振動子の発振周波数に関連する周波数関連情報と前記成膜装置に設置された蒸着源の温度に関連する温度関連情報とを取得し、
前記振動子の発振周波数に関連する周波数関連情報に基づいて単位時間ごとのレート換算値を算出し、
前記測定回路で算出されたレート換算値をフィルタリングし、
前記振動子におけるアドミッタンスの実数部の時間変化に基づいて前記フィルタ部におけるフィルタリングの強さの度合いであるフィルタ係数を変更する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、異常値の排除または抑制を可能とし、かつ真値に対しその処理値の応答性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態に係る測定装置を備えた成膜装置を示す概略断面図である。
図2】上記測定装置の一構成例を示すブロック図である。
図3】センサヘッドの典型的な等価回路である。
図4】共振周波数の半値幅を説明する図である。
図5】上記測定装置における制御回路の機能ブロック図である。
図6】上記制御回路において実行される処理の手順を説明するブロック図である。
図7】上記制御回路において実行される処理の手順を説明するフローチャートである。
図8】比較例1の実験結果を示す図である。
図9】上記測定装置の作用を説明する実験結果である。
図10】比較例1の実験結果を示す図である。
図11】上記測定装置の作用を説明する実験結果である。
図12】上記測定装置の作用を説明する実験結果である。
図13】上記測定装置の作用を説明する実験結果である。
図14】上記制御回路の他の構成例を示すブロック図である。
図15】上記制御回路のさらに他の構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0026】
図1は、本実施形態に係る測定装置を備えた成膜装置を示す概略断面図である。本実施形態では、成膜装置10として真空蒸着装置を例に挙げて説明する。まず、成膜装置10の基本構成について説明する。
【0027】
[成膜装置]
成膜装置10は、真空チャンバ11と、真空チャンバ11の内部に配置された蒸着源12と、蒸着源12と対向するステージ13と、真空チャンバ11の内部に配置された測定点としてのセンサヘッド14と、真空チャンバ11の内部を所定の真空雰囲気に維持する真空ポンプ15と、センサヘッド14の出力に基づいて成膜レートを測定するとともに、蒸着源12を制御可能に構成された測定ユニット17とを有する。センサヘッド14および測定ユニット17により膜厚センサ20(測定装置)が構成される。
【0028】
蒸着源12は、成膜材料の蒸気(粒子)を発生させることが可能に構成される。本実施形態において、蒸着源12は、電源ユニット18に電気的に接続されており、成膜材料を加熱蒸発させて蒸着粒子を放出させる蒸発源を構成する。蒸発源の種類は特に限定されず、本実施形態では抵抗加熱式の蒸発源が用いられるが、これ以外にも、誘導加熱式、電子ビーム加熱式などの種々の方式の蒸発源が適用可能である。あるいは、スパッタ成膜装置の場合は、蒸着源として、スパッタリングターゲットを含むスパッタカソードが採用可能である。成膜材料は、有機材料、金属材料、金属化合物材料(例えば、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物等)などであってもよい。
【0029】
蒸着源12は、成膜材料の加熱温度を検出する温度センサ12aを備える。温度センサ12aは、蒸発源の場合は成膜材料を収容する坩堝に取り付けられる。温度センサ12aの出力は、蒸着源12の温度に関連する温度関連情報として測定ユニット17へ供給される。温度センサ12aに代えて、蒸着源12への投入電力を検出するセンサが用いられてもよい。なお、蒸着源12がスパッタカソードの場合は、上記温度関連情報としてスパッタリングターゲットへ投入される電力値を用いることができる。
【0030】
ステージ13は、半導体ウエハやガラス基板等の、成膜対象である基板Wを、蒸着源12に向けて保持することが可能に構成されている。
【0031】
センサヘッド14は、所定の基本周波数(固有振動数)を有する水晶振動子140(図2参照)を内蔵する。水晶振動子140の表面は、蒸着物が入射して堆積可能となるように蒸着源12と対向する位置に配置され、典型的には、ステージ13の近傍に配置される。センサヘッド14の出力は、水晶振動子140の発振周波数に関連する周波数関連情報として測定ユニット17へ供給される。
【0032】
測定ユニット17は、周波数関連情報である水晶振動子の発振周波数(共振点)の変化に基づいて、水晶振動子への付着物(堆積物)の質量を時系列的に測定する測定装置として構成される。つまり、測定ユニット17は、周波数関連情報から算出される単位時間ごとのレート換算値を算出する。測定ユニット17はさらに、蒸着膜の成膜レートを測定するとともに、当該成膜レートが所定値となるように電源ユニット18を介して蒸着源12を制御することが可能に構成される。
【0033】
成膜装置10は、第1シャッタ16Aおよび第2シャッタ16Bをさらに有する。第1シャッタ16Aは、蒸着源12とステージ13との間に配置されており、蒸着源12からステージ13およびセンサヘッド14に至る蒸着粒子の入射経路を開放あるいは遮断することが可能に構成される。第2シャッタ16Bは、第1シャッタ16Aとステージ13との間であって、蒸着源12からステージ13に至る蒸着粒子の入射経路は遮断可能であるが蒸着源12からセンサヘッド14への蒸着粒子の入射経路を遮断しない位置に配置される。
なお成膜装置の仕様に応じては、第1シャッタ16Aおよび第2シャッタ16Bのうち、いずれか一方、あるいは両方についてはその設置が省略されてもよい。
【0034】
第1シャッタ16Aおよび第2シャッタ16Bの開閉は、図示しない制御ユニットによって制御される。典型的には、第1シャッタ16Aおよび第2シャッタ16Bは、蒸着開始時、蒸着源12において蒸着粒子の放出が安定するまで閉塞される。そして、上記制御ユニットは、温度センサ12aの出力に基づいて蒸着粒子の放出が安定したと判定したときに第1シャッタ16Aを開放し、次いで、センサヘッド14の出力に基づいて蒸着粒子の安定した放出を確認しときに第2シャッタ16Bを開放する。これにより、蒸着源12からの蒸着粒子がステージ13上の基板Wに到達し、基板Wの成膜処理が開始される。同時に、蒸着源12からの蒸着粒子は、測定ユニット17において基板W上の蒸着膜の膜厚およびその成膜レートが監視される。
【0035】
[測定ユニット]
図2は、測定ユニット17の一構成例を示すブロック図である。測定ユニット17は、発振回路41と、測定回路42と、制御回路43と、記憶部44とを有する。
【0036】
測定ユニット17は、水晶振動子140の共振周波数付近を電気的に掃引することで取得される、水晶振動子140に対する発信と当該発信に対応する水晶振動子140からの受信との相関関係を用いて、水晶振動子140に付着した物質(成膜材料)の質量を測定するように構成される。
【0037】
発振回路41および測定回路42は、ネットワークアナライザとして機能する。発振回路41は、センサヘッド14の水晶振動子140へ所定周波数の正弦波信号を発信、すなわち入力することで水晶振動子140を発振させる。測定回路42は、水晶振動子140の出力信号や発振回路41から出力される入力信号を受信し、これに基づいて、水晶振動子140の共振周波数や位相などの電気的特性を測定して、制御回路43へ出力するように構成される。
【0038】
水晶振動子140を構成する材料は、例えば、ATカット型水晶振動子、SCカット型水晶振動子などの圧電素子である。水晶振動子140の基本周波数は、例えば、3MHz以上6MHz以下であり、本実施形態では5MHzである。なお、付着する質量が微小である場合は、質量の検出感度を高める意味で水晶振動子の基本周波数は高い値とされる。例えば気中に存在する微小質量の検出を行う際には、例えば、数十MHzの基本周波数を有する水晶振動子が選択される。
【0039】
基板Wへの成膜時は、水晶振動子140の表面にも蒸着源12からの成膜材料が付着する。水晶振動子140の表面に付着する成膜材料は、任意の時間間隔で新たに付加された質量として、水晶振動子140の振動周波数を変化させる。また、水晶振動子140の表面における付着物の質量は、付着物の密度と相関を有する。つまり、水晶振動子140の振動周波数の変化を測定すれば、水晶振動子140の表面に付着した成膜材料の膜の厚み(膜厚)を求めることができる。測定ユニット17は、発信することで水晶振動子140を加振し、加振の結果である振動波形から膜厚を間接的に測定する。
【0040】
測定ユニット17は、発信信号として所定周波数の正弦波信号を用い、加振を行う。加振された水晶振動子140は、表面に付着した堆積物を含めた系として応答する。測定ユニット17は、機械的な振動現象を含む水晶振動子140の応答を、水晶振動子140の圧電効果を介した電気的な振動波形として受信する。測定ユニット17は、受信結果である波形を記憶し、記憶された波形の解析を行う。水晶振動子140の振動波形は、記憶部44に記憶される。測定ユニット17は、波形の解析結果に含まれる膜厚を抽出して出力する。
【0041】
記憶部44は、半導体メモリ、ハードディスクドライブなどの記憶装置で構成される。記憶部44は、発振回路41により発信された所定周波数の正弦波信号をセンサヘッド14に入力したときの水晶振動子140の振動波形を含む検出系からの周波数応答を記憶する。記憶部44はさらに、後述する制御回路43において実行される各種処理の制御プログラムや演算に必要な各種パラメータなどを記憶する。
【0042】
図3は、センサヘッド14の典型的な等価回路である。同図に示すように、水晶振動子140は、モーショナル容量C1、モーショナルインダクタンスL1、直列等価抵抗R1から構成される直列共振回路と、スタティック容量C0との並列回路として示される。直列共振回路は、水晶振動子140の機械振動要素を含む等価回路である。スタティック容量C0は、例えば、水晶振動子140の表裏面に形成された電極間の容量と、水晶振動子140を保持するホルダなどが有する寄生容量とを含む。直列等価抵抗R1は、水晶振動子140が振動するときの内部摩擦、機械的な損失、音響損失などの振動の損失成分を示す。一般に、直列等価抵抗R1が高いほど、水晶振動子140は、振動しにくくなる。
【0043】
発振回路41からの励振により水晶振動子140の共振周波数を計測する方法としては、位相がゼロになる周波数を計測する方法、アドミッタンスの虚数成分であるサセプタンスがゼロになる周波数を計測する方法、インピーダンスの虚数成分であるリアクタンスがゼロになる周波数を計測する方法などが挙げられる。
【0044】
図4に示すように、半値周波数F1,F2は、直列共振周波数Fsにおけるコンダクタンスの最大値の1/2を与える周波数である。半値周波数幅は、半値半幅Fwの2倍であり、一方の半値周波数F1と他方の半値周波数F2との差分値である。半値半幅Fwは、半値周波数幅の1/2である。なお、コンダクタンスはアドミッタンスの実数部であり、図4は、発信信号として電流を用い、受信信号として電圧を用い測定した例を示す。直列共振周波数Fsは、基本波と、基本波の3倍波などのn倍波が利用できる。なお、単一の直列共振周波数Fsを選択する場合であれば、基本波を利用する場合にコンダクタンス値が一般的に最大となり、そして、信号強度比であるS/N比を大きく得られる観点から、基本波を直列共振周波数Fsとして選択することが好ましい。
【0045】
制御回路43は、CPUやメモリを含むコンピュータで構成される。制御回路43は、測定ユニット17の動作を統括的に制御する。制御回路43は、1回の計測で共振周波数の変化量、共振周波数の近傍の電気的な情報などを取得する。共振周波数の近傍の電気的な情報とは、水晶振動子140に対する発信と当該発信に対応する水晶振動子140からの受信との相関関係から導かれる、位相、レジスタンスやリアクタンス、コンダクタンスやサセプタンスの値を含む。制御部43は、設定された時間間隔(繰り返し周期)で、共振周波数の経時変化量と電気的な情報の変位を繰り返し計測する。繰り返し周期は特に限定されず、例えば、100ミリ秒である。なお、共振周波数の変化量の取得にあたっては、過去の計測結果を併用して導いても良い。
【0046】
図5は、制御回路43の機能ブロック図である。制御回路43は、機能ブロックとして、取得部431と、バッファ部432と、演算部433と、フィルタ部434と、制御部435とを有する。これらの機能ブロックは、制御回路43が記憶部44に格納された所定の制御プログラムを実行することで実現される。図6は、制御回路43において実行される処理の手順を説明するブロック図である。
【0047】
取得部431は、所定のサンプリング周期で水晶振動子140の共振周波数に基づいて算出される単位時間ごとのレート換算値およびアドミッタンスの実数部を測定回路42から取得する。また、取得部431は、所定のサンプリング周期で蒸着源12の温度(以下、蒸着源温度ともいう)を温度センサ12aから取得する。サンプリング周期は特に限定されず、典型的にはミリ秒~数秒であり、本実施形態では2秒である。共振周波数のサンプリング周期と蒸発源温度のサンプリング周期は同一である場合に限られず、異なっていてもよい。
【0048】
バッファ部432は、例えば、取得部431で取得した共振周波数(レート換算値、アドミッタンスの実数部)および蒸発源温度をそれぞれ時系列的に記憶し読み出すFIFO(First In First Out)型のメモリである。バッファ部432の容量は特に限定されず、例えば、数秒~数十秒である。
【0049】
演算部433は、取得部431で取得した水晶振動子140の単位時間ごとのレート換算値を平滑化する前処理を実行する。これにより、後述するフィルタ部434へ入力されるレート換算値からノイズ成分を低減できるため、算出されるレート値の推定精度を高めることができる。
【0050】
上記前処理としては、例えば、バッファ部432に格納された所定時間分の単位時間ごとのレート換算値の中央値Rpを算出する中央値算出処理が挙げられる。これに限られず、上記前処理として、バッファ部432に格納された所定時間分の単位時間ごとのレート換算値の移動平均値を算出する移動平均値算出処理が採用されてもよいし、中央値算出処理と移動平均値算出処理とが組み合わされてもよい。
【0051】
演算部433はさらに、温度関連情報である蒸着源温度の時間変化に相当する第1近似直線と、周波数関連情報に基づいて振動子140におけるアドミッタンスの実数部の時間変化に相当する第2近似直線とを算出する。本実施形態において第1近似直線および第2近似直線は、バッファ部432に格納された所定時間分のレート換算値および蒸着源温度を用いて算出された最小自乗直線である。
【0052】
フィルタ部434は、測定回路42で算出されたレート換算値をフィルタリングする。フィルタ部434は、測定回路42から出力されるレート換算値からノイズを減らして真のレート換算値に回帰させるためのもので、本実施形態ではカルマンフィルタで構成される。
なお、フィルタ部434は、内部状態が推定可能な状態空間モデルで構成されたフィルタを用いて構成することができる。典型例としては水晶振動子表面に付着した堆積物を含めた系を状態空間モデルとして用いたフィルタが挙げられる。また実施する系を模擬した状態空間モデルであれば、より内部状態を正確に推定出来る事が期待されると共に、フィルタ係数(後述)として用いる状態量の設計自由度が上昇する面からも好ましい。
【0053】
カルマンフィルタは、状態空間モデルと呼ばれる数理モデルにおいて、内部の見えない「状態」を効率的に推定するための計算手法である。本実施形態では、センサヘッド14や温度センサ12aから得られる情報を「観測値」としてそこから今回(現在)の状態を推定し、推定した状態から観測値を計算し(図6の「推定レートRf」に相当)、これに基づいて蒸着源12を制御する。つまり、前回の推定レートをXk-1、今回のレート換算値(観測値)をYk、カルマンゲインをKとすると、今回の推定レートXk(推定レートRf)は、以下のように表される。
k=Xk-1+K×(Yk-Xk-1
【0054】
カルマンゲインKは、前回の推定状態Pk-1より以下のように表される。
K=(Pk-1+σw)/(Pk-1+σw+σv)
ここで、σwを固定値とし、σvを可変値とすると、σvの値が大きいほどカルマンゲインKは小さくなり、これにより現在の推定レートXkの前回の推定レートXk-1からの変化量が小さくなる結果、フィルタとしての効果が大きく(強く)なる。以下、σvを、フィルタ部434におけるフィルタリングの強さの度合いを示すフィルタ係数ともいう。本実施形態ではフィルタ係数σvとして複数の設定値が用意されている。
【0055】
制御部435は、測定ユニット42において算出されたレート換算値と温度センサ12aで検出された蒸着源温度に基づいて、フィルタ係数σvを変更することが可能に構成される。つまり本実施形態では、レート以外の観測値である蒸着源温度や水晶振動子140のアドミッタンス実数部をも参照して、フィルタ係数σvを調整するようにしている。本実施形態では、フィルタ係数σvとして第1設定値σv1と、第2設定値σv2と、第3設定値σv3が用意される。
【0056】
後に詳細に説明するように、制御部435は、演算部433で算出される蒸着源温度(温度関連情報)の時間変化に相当する第1近似直線(最小自乗直線)の傾きStの絶対値が所定値S1以上か否かを判定する。この場合、制御部435は、第1近似直線の傾きStの絶対値が所定値S1以上のときは、フィルタ係数σvを第1設定値σv1に設定し、第1近似直線の傾きStの絶対値が所定値S1未満のときは、フィルタ係数σvを第1設定値σv1よりも大きい第2設定値σv2に切り替えるように構成される。
【0057】
成膜処理の開始当初などは蒸着源12の温度の上昇に応じてレート観測値も増加する傾向にある。このため本実施形態では、蒸着源温度の最小自乗直線(第1近似直線)の傾きStの絶対値が所定値S1以上のときは、レート観測値が蒸着源温度の上昇に追従しやすくなるようにフィルタ部434におけるフィルタリング作用が比較的弱い第1設定値σv1にフィルタ係数σvを設定する。第1設定値σv1の値は特に限定されず、上記作用が得られる値であれば任意に設定可能であり、例えば1,000~2,000である。
【0058】
一方、傾きStの絶対値が所定値S1未満のときは、レート観測値に含まれるノイズの影響を抑えるため、フィルタ部434におけるフィルタリング作用が比較的強い第2設定値σv2にフィルタ係数σvを設定するようにしている。これにより、フィルタリング後のレート換算値の安定化を図ることができる。第2設定値σv2の値は特に限定されず、上記作用が得られる値であれば任意に設定可能であり、例えば10,000~20,000である。
【0059】
また、制御部435は、第1近似直線の傾きStの絶対値が所定値S1未満のときは、演算部433で算出される水晶振動子140におけるアドミッタンスの実数部(周波数関連情報)の時間変化に相当する第2近似直線(最小自乗直線)の傾きSaが所定範囲S2内か否かをさらに判定する。制御部435は、第2近似直線の傾きSaが上記所定範囲S2外のときは、フィルタ係数σvを第2設定値σv2よりも大きい第3設定値σv3に切り替えるように構成される。
【0060】
蒸着源温度の最小自乗直線(第1近似直線)の傾きStの絶対値が所定値S1未満のときでも、蒸着材料の突沸(スプラッシュ)や水晶振動子140の表面状態の変化などの物理的な外乱の影響を受けて、レート観測値が瞬間的に大きく変動することがある。そこで本実施形態では、水晶振動子140からの応答信号に基づいて算出されるアドミッタンス実数部分の最小自乗直線の傾きSaを監視し、これが所定範囲S2外にあると判定したときは、フィルタ係数σvを第2設定値σv2から第3設定値σv3に切り替えてフィルタ部434におけるフィルタリング作用をさらに強めるようにしている。これにより、突沸等の影響によるレート観測値の急変を抑えて、レート観測値から異常値を排除するようにしている。第3設定値σv3の値は特に限定されず、上記作用が得られる値であれば任意に設定可能であり、例えば50,000~300,000である。
【0061】
ここで、所定範囲S2は、例えば、絶対値|S2|以下の範囲、つまり、-S2以上+S2以下の0を含む範囲とすることができる。制御部435は、第2近似直線の傾きSaが上記マイナスの閾値(-S2)未満の値から当該マイナスの閾値(-S2)以上の値に変化したときは、所定時間経過後に、フィルタ係数σvを第3設定値σv3から第2設定値σv2に切り替えるように構成される。
【0062】
これは、突沸等によるアドミッタンス実数部の瞬間的な変動は下に凸なるピークを伴うことが一般的であるため、アドミッタンス実数部の傾きSaがマイナスの閾値(-S2)以上に回復したとしても、それは上記ピークの頂点付近の観測値である蓋然性が高い。この場合、傾きSaは再び上向きに急激に上昇することが予想されるため、傾きSaの所定範囲S2内への回復とともにフィルタ係数σvを小さくすると真値を反映していない観測値が得られてしまう。そこで本実施形態では、アドミッタンス実数部の傾きSaが所定範囲S2内に回復してもフィルタ係数σvを第3設定値σv3に所定時間維持して、第2設定値σv2に復帰させるまでの時間にディレイをもたせるようにしている。これにより、アドミッタンス実数部が真値に安定するまでフィルタ係数σvを第3設定値σv3に維持できるため、真値を反映したレート観測値が得られやすくなる。
【0063】
[測定ユニットの動作]
続いて、制御回路43の詳細について測定ユニット17の動作とともに説明する。図7はそのフローチャートである。
【0064】
成膜装置10による成膜処理が開始すると、制御回路43は、まず、水晶振動子140の基本周波数付近の周波数領域を掃引することで、水晶振動子140の周波数関連情報(レート換算値、アドミッタンス実数部)と温度関連情報(蒸着源温度)を取得する(ステップ101)。
【0065】
より具体的に、制御回路43は、水晶振動子140の共振周波数に基づいて算出されたレート換算値およびアドミッタンス実数部と、温度センサ12aで検出された蒸着源温度を取得する。
【0066】
続いて制御回路43は、取得したレート換算値、アドミッタンス実数部および蒸着源温度をバッファ部432へ格納し、レート換算値の中央値Rpと、蒸着源温度の最小自乗直線(第1近似直線)の傾きStと、水晶振動子140におけるアドミッタンス実数部の最小自乗直線(第2近似直線)の傾きSaとをそれぞれ算出する(ステップ102,103,104)。
【0067】
続いて制御回路43は、フィルタ部434におけるフィルタ係数σvを決定する処理を実行する。具体的に、制御回路43は、蒸着源温度の最小自乗直線の傾きStの絶対値が所定値S1以上か否かを判定し(ステップ105)、傾きStの絶対値が所定値S1以上のときは(ステップ105においてNo)、フィルタ係数σvを第1設定値σv1に設定する(ステップ106)。
【0068】
また、制御回路43は、傾きStの絶対値が所定値S1未満のときは(ステップ105においてYes)、アドミッタンス実数部の最小自乗直線の傾きSaが所定範囲S2外(傾きSaの絶対値が閾値S2を超える)か否かを判定する(ステップ107)。そして、傾きSaが所定範囲S2内のときは(ステップ107においてNo)、制御回路43は、傾きSaが所定範囲S2のマイナスの閾値以上(Sa≧-S2)に復帰後所定時間未満か否かを判定し(ステップ108)、Noのときはフィルタ係数σvを第2設定値σv2に設定する(ステップ109)。
【0069】
一方、制御回路43は、ステップ107においてアドミッタンス実数部の最小自乗直線の傾き傾きSaが所定範囲S2外のときは(ステップ107においてYes)、フィルタ係数σvを第3設定値σv3に設定する(ステップ110)。制御回路43は、ステップ108において傾きSaが所定範囲S2のマイナスの閾値以上(Sa≧-S2)に復帰後所定時間未満のときは(ステップ108においてYes)も同様に、フィルタ係数σvを第3設定値σv3に設定する(ステップ110)。
【0070】
続いて制御回路43は、ステップ102において算出されたレート換算値の中央値に対して、上述のようにしてフィルタ係数σvが決定されたフィルタ部434においてフィルタリングすることで、推定レートRfを算出する(ステップ111)。算出された推定レートRfは、次回の推定レートRfの算出に際してカルマンフィルタに入力される前回の推定レートとして利用される。
【0071】
以後、上述の処理を繰り返し実行することで、基板Wに堆積した蒸着物質の膜厚を測定する。本実施形態によれば、異常値の排除または抑制を可能とし、かつ真値に対しその処理値の応答性を向上させることができる。
【0072】
(比較例1)
図8(A)は、成膜処理の開始当初(蒸着源立ち上がり時)における成膜レート(左縦軸)および蒸着源温度(右縦軸)の時間変化を示す一実験結果である。図8(B)は、図8(A)において蒸着源温度が比較的安定した160min付近の拡大図である。
【0073】
蒸着源温度の上昇に伴ってレート観測値(rawデータ、aveデータ)も増加する。rawデータは、各測定回での測定値(生データ)であり、aveデータは、その測定値の移動平均値である。フィルタ係数σvが第1設定値σv1のときと第2設定値σv2のときで比較すると、第1設定値σv1のときは、蒸着源温度の上昇に伴うレート変化に十分に追従できるが、蒸着源温度が一定のときはノイズの影響でレートの出力値がやや不安定であることが確認された。
一方、フィルタ係数σvが第2設定値σv2の場合、レート換算値に対するフィルタリング作用が強くなりすぎてしまい、蒸着源温度の上昇に伴うレート変化に追従できないが、蒸着源温度が一定のときはノイズが少ない安定したレートを出力することが確認された。
【0074】
(実施例1)
図9(A)、(B)は、図8(A),(B)と同様な実験結果であって、蒸着源温度の傾きStに応じてフィルタ係数σvを第1設定値σv1と第2設定値σv2との間で切り替える制御(図7のステップ105~109)を実行したときのレート変化の様子を示している。本実施形態によれば、蒸着源温度の傾きStの絶対値が所定値S1より大きいとき(蒸着源温度が上昇しているとき)は第1設定値σv1に、所定値以下のときは第2設定値σv2にフィルタ係数σvを切り替えることで、蒸着源の立ち上げ時のレート変化に追従でき、温度安定時はノイズの少ないレートを出力することができる。
【0075】
(比較例2)
図10は、蒸着源温度一定時における成膜レート(左縦軸)およびアドミッタンス実数部(右縦軸)の時間変化であって、フィルタ係数σvが第2設定値σv2固定のときの実験結果である。蒸着源温度が安定しているため、第2設定値σv2のフィルタリングの強さでノイズの少ないレートが取り出せている。一方、44min付近と46.5min付近で、スプラッシュあるいは水晶振動子140の表面状態の変化などが原因でアドミッタンスの実数部(Real)が減少したとき、それに引っ張られるようにレートも変動しやすい傾向にある。
【0076】
(実施例2)
図11は、図10と同様な実験結果であって、アドミッタンス実数部の傾きSaに応じてフィルタ係数σvを第2設定値σv2と第3設定値σv3で切り替える制御(図7のステップ107~110)を実行したときのレート変化の様子を示している。アドミッタンス実数部の傾きSaが所定範囲を超えて大きく減少したとき、第2設定値σv2から第3設定値σv3に切り替えることで、フィルタリングの作用が強まりレート変動を小さく抑えられることが確認できる。
【0077】
(実施例3)
図12は、図10と同様な実験結果であって、フィルタ係数を第3設定値σv3から第2設定値σv2に切り替える際にディレイをもたたせる制御(図7のステップ108,110)を実行したときのレート変化の様子を示している。
【0078】
図11の例では、アドミッタンス実数部の傾きSaの所定範囲S2内への復帰に合わせてフィルタ係数を第3設定値σv3から第2設定値σv2に切り替えたため、アドミッタンス実数部のプラス方向への急激な上昇に伴うレート変動を抑えられなかった。これに対して、フィルタ係数を第3設定値σv3から第2設定値σv2への切り替えにディレイをもたせた図12の実験結果によれば、アドミッタンス実数部が大きく変動する時間の全域にわたってフィルタを強く作用させることができるため、アドミッタンス実数部のプラス方向への急激な上昇に伴うレート変動を小さく抑えることができる。
【0079】
なお、上記ディレイの長さは、アドミッタンス実数部のピーク付近の幅より長くするのが好ましい。また、第3設定値σv3から第2設定値σv2への切り替え時のディレイ制御は、上述のようにアドミッタンス実数部の傾きSaがマイナス方向からプラス方向への復帰の際にのみ適用される。これにより、アドミッタンス実数部が下ピーク位置から安定値(傾きSaがほぼゼロ)に遷移する過程でフィルタ係数を第3設定値σv3から第2設定値σv2へ迅速に切り替えることで、レートが正常値へ復帰させる時間が早められる。
【0080】
さらに図13を参照して、観測値(レート(raw))に対するフィルタ処理として、移動平均(レート(ave))と、カルマンフィルタ1(フィルタ係数固定(σv2))と、カルマンフィルタ2(フィルタ係数可変(σv3/σv2+ディレイ)とを比較する。図13に示す例では、アドミッタンス実数部の変化に対しては、移動平均と比較して、カルマンフィルタ1の場合は約1/2に、カルマンフィルタ2の場合は約1/5にそれぞれレート変動を抑えることができる。
【0081】
以上の実施形態では、蒸着源温度の傾きStの絶対値とアドミッタンス実数部の傾きSaの絶対値の双方に基づいてフィルタ係数σvを第1~第3設定値σv1~σv3のいずれかに切り替える制御について説明したが、これに限られない。例えば図14に示すように、制御回路43は、蒸着源温度の傾きStの絶対値が所定値S1以上か否かにのみ基づいて、フィルタ係数σvを第1設定値σv1および第2設定値σv2の間で切り替えるようにしてもよい。つまり、図7においてステップ107,ステップ108およびステップ110の処理を省略することができる。
【0082】
本実施形態はフィルタ部434がカルマンフィルタで構成されているため、内部状態を推定出来る状態空間モデルで構成されたフィルタと比較して計算負荷を低くする事が出来、制御回路43に対し、その実装が容易となる利点がある。なお制御回路43の処理能力が十分であれば、実施する系を模擬した状態空間モデルを用いたフィルタを実装することで、より安定的かつ応答性を向上させる事も可能となる。
【0083】
同様に、制御回路43は、例えば図15に示すように、振動子140のアドミッタンス実数部の傾きSaの絶対値が所定範囲S2内か否かにのみ基づいて、フィルタ係数σvを切り替えるようにしてもよい。この場合、傾きSaの絶対値が所定範囲外のときは、フィルタ係数σvを第3設定値σv3に設定することで、上述の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。なお、傾きSaの絶対値が所定範囲内のときは、フィルタ係数σvを第1設定値σvと第2設定値σv2のいずれに設定されてもよい。
【符号の説明】
【0084】
10…成膜装置
11…真空チャンバ
12…蒸着源
14…センサヘッド
17…測定ユニット(測定装置)
41…発振回路
42…測定回路
43…制御回路
140…水晶振動子
432…バッファ部
433…演算部
434…フィルタ部
435…制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15