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特開2024-22161輸送体、微小物体の輸送デバイス、微小物体の輸送システム、微小物体の輸送方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022161
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】輸送体、微小物体の輸送デバイス、微小物体の輸送システム、微小物体の輸送方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 19/00 20060101AFI20240208BHJP
   B01F 23/50 20220101ALI20240208BHJP
   B01F 23/40 20220101ALI20240208BHJP
   B01F 33/302 20220101ALI20240208BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
B01J19/00 321
B01F23/50
B01F23/40
B01F33/302
G01N37/00 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022125534
(22)【出願日】2022-08-05
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】真部 研吾
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 滉一郎
(72)【発明者】
【氏名】中野 美紀
(72)【発明者】
【氏名】大園 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】則包 恭央
【テーマコード(参考)】
4G035
4G036
4G075
【Fターム(参考)】
4G035AB36
4G035AB43
4G035AE02
4G036AC70
4G075AA13
4G075AA27
4G075AA39
4G075AA61
4G075BB05
4G075CA32
4G075CA33
4G075DA02
4G075DA18
4G075EB31
4G075EB50
4G075FB01
4G075FB02
4G075FB06
4G075FB11
4G075FB12
4G075FB13
4G075FC20
(57)【要約】
【課題】微小液体や微小固体などの微小物体を対象として、当該微小物体の輸送を簡便にでき、輸送性に優れる輸送体の提供、そして、微小物体の輸送を簡便にでき、輸送性に優れる微小物体の輸送デバイスや輸送システム、また微小物体の輸送方法の提供を目的とする。
【解決手段】液体または半固体の流体11と、流体11内に存在し特定波長の光照射により異性化する光異性化化合物13とを含み、光異性化化合物13が異性化することで流体11が流動して、流体表面上の微小物体20を移動させる輸送流体10である。また、基材15上に輸送流体10を設け、微小物体20の輸送デバイス1を構成してもよい。さらに、輸送デバイス1と、流体に光照射するランプと、を備えた輸送システムを構築してもよい。また、輸送流体10を保持し、流体11に光照射することで、流体表面上の微小物体20を輸送する、微小物体の輸送方法としてもよい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体または半固体の流体と、流体内に存在し特定波長の光照射により異性化する光異性化化合物とを含み、光異性化化合物が異性化することで流体が流動して、流体表面上の微小物体を移動させることを特徴とする輸送体。
【請求項2】
前記光異性化化合物はアゾベンゼン誘導体を含むことを特徴とする請求項1に記載の輸送体。
【請求項3】
基材と、前記基材上に設けた請求項1または請求項2に記載の輸送体と、を備えたことを特徴とする微小物体の輸送デバイス。
【請求項4】
前記基材は、それ自体が疎水性であるか、または、基材表面に疎水化処理が施されたものであることを特徴とする請求項3に記載の微小物体の輸送デバイス。
【請求項5】
前記流体は、前記基材に対して、接触角が45°以下の流体であることを特徴とする請求項4に記載の微小物体の輸送デバイス。
【請求項6】
前記微小物体は、微小液滴、または、微小液滴と微小固体との組み合わせ体であることを特徴とする請求項3に記載の微小物体の輸送デバイス。
【請求項7】
請求項3に記載の微小物体の輸送デバイスと、流体に光照射する光照射手段と、を備えたことを特徴とする微小物体の輸送システム。
【請求項8】
請求項1または請求項2に記載の輸送体を保持し、流体に光照射することで、流体表面上の微小物体を移動させることを特徴とする微小物体の輸送方法。
【請求項9】
光の照射方法または流体中の光異性化化合物の濃度を変えて、流体表面上の微小物体の移動方向、移動距離、移動速度のうち少なくとも一つを制御することを特徴とする請求項8に記載の微小物体の輸送方法。
【請求項10】
前記微小物体として、微小液滴、または、微小液滴と微小固体との組み合わせ体を用いることを特徴とする請求項8に記載の微小物体の輸送方法。
【請求項11】
前記微小物体は、複数の微小液滴を含み、前記複数の微小液滴のうち少なくとも1つの微小液滴周辺の流体に光照射することで、当該微小液滴を移動させて、2つ以上の微小液滴同士を結合させることを特徴とする請求項8に記載の微小物体の輸送方法。
【請求項12】
前記光異性化化合物として異なる波長の光により可逆的に異性化する光異性化化合物を用いて、一方の波長の光照射により、前記微小液滴同士を結合させた後、他方の波長の光照射により前記微小液滴同士を合体させることを特徴とする請求項11に記載の微小物体の輸送方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小液体や微小固体などの微小物体を移動させるための輸送体、また、前記輸送体を備える微小物体の輸送デバイスや微小物体の輸送システム、前記輸送体を用いた微小物体の輸送方法に関し、特に、マイクロ流路デバイス、マイクロリアクターなどに用いられる輸送体、微小物体の輸送デバイス、輸送システム、輸送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Industry 4.0に代表される多品種少量生産の発展に伴い、装置の小型化やマイクロ工場の活用が推進されており、それら装置内で精密に液体や微小固体の運動を制御する技術の確立が重要視されている。特に、界面における物質の輸送は、流路不要のマイクロ・ナノフルイディクス、局所的な化学反応を制御するマイクロリアクター、バイオアナリシス等の多くの応用分野において実用化が期待されている。例えば、特許文献1には、ポンプや吸引機等の外部ソースを使用せずとも、重力を推進力として試料を輸送するマイクロ流路デバイスが開示されている。これは、重力方向に流路を形成するという、物理的な構造を用いることで、勾配による駆動力を利用したものである。また、物質の輸送については、他に、外部エネルギーを利用する輸送を実現する手法として、以下の技術がある。
【0003】
例えば、代表的な外部エネルギーとして、電場、磁場、振動、超音波、熱、光を用いて、応答材料と組み合わせた方法が提案されている。例えば、微小液体の輸送に関しては、光熱反応表面(非特許文献1)、光誘起分子表面(非特許文献2)、サーモトロピック液晶(非特許文献3)などの方法が挙げられ、これらの方法によれば赤外光や紫外光などの特定の波長の光を照射することにより駆動するものである。また、微小固体の輸送に関しては、紫外光と可視光を同時に照射することで駆動する光誘起結晶(非特許文献4)の利用などの方法が挙げられる。
【0004】
特に、光をエネルギーの入力として用いるシステム(光入力型システム)では、非接触、非侵襲で運動を遠隔かつ可逆的に制御することができるという優位性を有するために、研究開発が推進されている。この光入力型システムでは、分子の動きからマクロな動きを生み出すことが可能な光応答性の分子を組み込むか(非特許文献5)、カーボン等で構成された光熱反応を利用した輸送方法(非特許文献6)がこれまでに提案されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2010/061598号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Chunlei Gao, et al. ‘Droplets Manipulated on Photothermal Organogel Surfaces’, Adv. Funct. Mater. (2018) Volume 28, 1803072
【非特許文献2】Kunihiro Ichimura, et al. ‘Light-Driven Motion of Liquids on a Photoresponsive Surface’, Science 2000. (2000) vol 288, p.1624-1626
【非特許文献3】Yang Xu, et al. ‘Liquid Crystal-based Open Surface Microfluidics Manipulate Liquid Mobility and Chemical Composition on Demand’, Science Advances (2021) vol 7, eabi7607
【非特許文献4】Emi Uchida, et al. ‘Light-Induced Crawling of Crystals on a Glass Surface’, Nature Communications (2015) vol 6, 7310
【非特許文献5】Yang Xu, et al. ‘Modularizable Liquid-Crystal-Based Open Surfaces Enable Programmable Chemical Transport and Feeding Using Liquid Droplets’, Advance Materials (2022) Volume 34, 2108788
【非特許文献6】Chao Chen, et al. ‘Remote Photothermal Actuation of Underwater Bubble toward Arbitrary Direction on Planar Slippery Fe3O4-Doped Surfaces’, Adv. Funct. Mater. (2019) Volume 29, 1904766
【非特許文献7】Hujun Wang, et al. ‘Improved dynamic stability of superomniphobic surfaces and droplet transport on slippery surfaces by dual-scale re-entrant structures’, Chemical Engineering Journal (2020) volume 394, 124871
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これらの方法には以下のような問題がある。
重力を利用したような受動的な方法では、上記したエネルギー勾配によって物質の輸送が限定されることで、短い輸送距離、遅い輸送速度、特定の物質(固体を除く液滴もしくは気泡)のみの輸送などの問題がある。
また、外部エネルギーを利用した能動的な方法では、微小液体の輸送において、例えば、光誘起分子表面(非特許文献2)やサーモトロピック液晶(非特許文献3)による方法では液体の輸送の正確性は高いが、毛細管駆動力が極めて弱いため、輸送速度が遅く、輸送可能な液体の体積範囲が小さいという問題がある。
【0008】
また、微小固体の輸送において、例えば、可視光と紫外光の同時照射によりアゾベンゼン誘導体の結晶がガラス板上を移動する現象では(非特許文献4)、移動速度が遅いだけでなく、輸送対象物自体が光誘起結晶、すなわち光刺激に対して反応する物質でなければならないために、輸送可能な物質が限られてしまう。このことは、光応答性の分子を組み込む技術(非特許文献5)についても同様のことがいえる。そして、光熱を駆動源とする場合は(非特許文献1、非特許文献6)、局所的に高温にする必要があり、輸送対象の液滴の蒸発や微小固体の損傷を招くリスクが高く、一般的な大気環境においては適用できない(非特許文献7)。このように、これまでの光入力型システムは低出力、または輸送のために高いエネルギー入力が必要になり、また熱により界面表面が不安定状態に陥るなどの問題があった。
【0009】
本発明は、このような問題を解決するためになされたもので、微小液体や微小固体などの微小物体を対象として、当該微小物体の輸送を簡便にでき、輸送性に優れる輸送体の提供を目的とする。また、微小物体の輸送を簡便にでき、輸送性に優れる微小物体の輸送デバイスや微小物体の輸送システム、微小物体の輸送方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記本発明の課題は、光によって異性化する光異性化化合物を含む流体を微小物体の輸送体として用いることで、解決される。すなわち、光異性化化合物の異性化による化学勾配を利用して流体の流動性を制御することで、流体表面上で微小物体の移動を制御することが可能となる。具体的には、以下の構成を有する。
(1) 液体または半固体の流体と、流体内に存在し特定波長の光照射により異性化する光異性化化合物とを含み、光異性化化合物が異性化することで流体が流動して、流体表面上の微小物体を移動させる、輸送体である。
(2)基材と、前記基材上に設けた前記(1)に記載の輸送体と、を備えた微小物体の輸送デバイスである。
(3) 前記(2)に記載の微小物体の輸送デバイスと、流体に光照射する光照射手段と、を備えた、微小物体の輸送システムである。
(4)前記(1)に記載の輸送体を保持し、流体に光照射することで、流体表面上の微小物体を移動させる、微小物体の輸送方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、微小物体の輸送を簡便にでき、輸送性に優れる輸送体の提供、また、微小物体の輸送を簡便にでき、輸送性に優れる微小物体の輸送デバイスや輸送システム、微小物体の輸送方法の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】微小物体の輸送デバイスの構成図である。
図2】微小物体周辺の拡大図(模式図)である。
図3】微小物体(水滴)の移動する様子を示した写真である。
図4】液層の吸収スペクトルである。
図5】光照射前と照射後の、DMAB濃度と液層の表面張力との関係を示した図である。
図6】異なる濃度のDMABを添加した液層表面に紫外光を照射した時の、照射時間と表面温度との関係を示したグラフである。
図7】DMAB濃度別に、光照射による時間経過と水滴の移動距離との関係を示したグラフである。
図8】DMAB濃度別に、光の照射強度と輸送速度との関係を示したグラフである。
図9】DMAB濃度別に、輸送する水滴の量と輸送速度との関係を示したグラフである。
図10】異なる量の水滴を輸送した時の観察画像である。
図11】水滴の往復輸送を説明するための側面図である。
図12】水滴の往復輸送時の変位を示したグラフである。
図13】微小物体を変えた場合の輸送デバイスの使用状態を示す構成図である(実施例2)。
図14】微小物体を輸送した時の観察画像である(実施例2)。
図15】複数の水滴を輸送した時の観察画像である(実施例3)。
図16】複数の水滴を輸送した時の観察画像である(実施例4)。
図17】複数の水滴を輸送した時の観察画像である(実施例5)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下において、本発明の実施の形態について詳しく説明する。なお、本発明の実施の形態において、濃度範囲や波長範囲等の数値範囲を示すときは、上限値及び下限値を含むものとする。
【0014】
本実施形態の輸送体は、流体11と、流体11内に存在し光照射により異性化する光異性化化合物13とを含む輸送流体10であり、光異性化化合物13が異性化することで流体11が流動して、流体表面上の微小物体20を移動させるものである。なお、輸送とは、単に、微小物体を流体表面上のある位置から異なる位置に移動させることを意味する。
図1には、基材15上に輸送流体10を設けた微小物体20の輸送デバイス1の構成(側面図)を示す。図1(A)は、輸送デバイス1の基本構成を示しており、図1(B)は、輸送デバイス1の使用状態を示している。なお、輸送対象(輸送対象物ともいう)となる微小物体20は、微小液体や微小固体であるが、「微小」とは肉眼で認識できないほど小さいものに限定されるわけではなく、10センチ程度またはそれ以下から、ミリオーダー、ミクロンオーダー、ナノオーダーのものをいう。例えば、化学、生化学などに広く利用されるマイクロ流路デバイスやマイクロリアクターにおいて対象となる微小物体を含む。多くは、ナノメートルからミリメートルオーダーであり、概ね1μm-10mm程度のものである。
【0015】
微小物体20の輸送の原理は以下のように説明される。例えば、光異性化化合物13として、アゾベンゼン誘導体であるジメチルアゾベンゼン(3,3’-dimethylazobenzene)(以下、DMABという。)を用いた場合、紫外光または可視光を照射することで、化学式(1)で示す反応が起こる。
【化1】
【0016】
流体11内において、光異性化化合物(光異性化分子ともいう)13が光に誘起されると、光の当たっているところでは、例えばトランス体からシス体に異性化が起こり、化合物の構造が変化することで化学勾配が生じる(シス体が増加する)。そして、化学勾配を減少させるために、増加した異性体(この場合はシス体)は流体内を拡散し、その結果として流体に流動が生まれることで、流体表面上の微小物体20(図1(B))を自在に輸送することができる。
【0017】
(光異性化化合物)
光異性化化合物13は、特定波長の光照射によって異性化するものであれば、可逆的に起こるものでも一方向にのみ起こるものでもよく、すなわち、アゾベンゼン誘導体のようなシス・トランス型に限らず、フォトクロミズム型や片道異性化型などでもよい。特定波長としては、紫外線(280-400nm)や可視光線(400-730nm)や赤外線(780-1200nm)などがある。この特定波長は、光異性化化合物の種類によって変化するが、通常300-400nm程度の紫外線であることが多い。
シス・トランス型としては、アゾベンゼン誘導体の他に、オレフィン系、スチルベン誘導体、アルキルスチレン誘導体、ケイ皮酸エチル、レチナール、ビタミンA、インジゴ誘導体、ヘミインジゴ誘導体などが挙げられる。また、フォトクロミズム型では、ジアリールエテン誘導体、スピロピラン類、スピロオキサジン類、ナフトピラン、ジメチルジヒドロピレン、フルギド類、DASA(Donor-Acceptor Stenhouse Adducts)、ビナフチル架橋型イミダゾール二量体、サリチリデンアニリン類などが挙げられる。
【0018】
また、これらの誘導体の置換基は、光により可逆的に異性化するものならば特に限定されない。置換基としては直鎖状あるいは分枝状のC1~C4アルキル基(メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチルなど)、直鎖状あるいは分枝状のC1~C4アルコキシ基(メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソプロポキシ、n-ブトキシ、イソブトキシ、sec-ブトキシ、tert-ブトキシなど)、アリールオキシ(フェニルオキシ、ナフチルオキシなど)、アラルキルオキシ(ベンジルオキシ、フェネチルオキシなど)、ハロゲン原子(F,Cl,Br,I)、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノ、モノアルキルアミノ(メチルアミノ、エチルアミノ、n-プロピルアミノ、イソプロピルアミノ、n-ブチルアミノ、イソブチルアミノ、sec-ブチルアミノ、tert-ブチルアミノなど)、ジアルキルアミノ(ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジn-プロピルアミノ、ジイソプロピルアミノ、ジn-ブチルアミノ、ジイソブチルアミノ、ジsec-ブチルアミノ、ジtert-ブチルアミノなど)、アルカノイル(アセチル、プロピオニル、n-ブチリル、イソブチリル、sec-ブチリル、tert-ブチリルなど)、アシルオキシ(アセチルオキシ、プロピオニルオキシ、n-ブチリルオキシ、イソブチリルオキシ、sec-ブチリルオキシ、tert-ブチリルオキシ、バレリルオキシ、ベンゾイルオキシ)などがあげられる。さらに、一方向にのみ生じる片道異性化では、ノルボルナジエン-クワドリシクラン誘導体、シススチルベン-フェナントレン、アントラセン及びベンゼン置換オレフィン、ジメチルオレフィン類、ヒドロキシカルコン類などが挙げられる。
そして、これらの中でも、レーザー光よりも安全性が高く、高出力エネルギーを必要としない紫外線や可視光線で異性化するものが好ましく、特に、置換基の導入が容易であり、置換基の変更により異性化する波長や流体への可溶性を変更することができるという理由から、DMABなどのアゾベンゼン誘導体が好ましい。
【0019】
そして、これらの光異性化化合物13は、常温で液体(シロップ状なども含む)の場合はそのまま用いればよく、固体の場合は粉末状、粒子状等の粉粒体として、流体11に混合、撹拌することで、流体中では、分散、溶解、複合化(固化)している状態で存在する。なお、図1には、分かりやすいように、粒子状の光異性化化合物13を複数図示しているが(模式図)、実際には、溶解している場合や複合化している場合など、種々の形態で存在している。
【0020】
(流体)
流体11は、常温(15-35℃)や常温付近で液体やゾル、半固体・半流動体(例えば、粘度30Pa・s以上またはちょう度220以上のものなど)のものであり、流動可能なものをいう。半固体・半流動体としては、例えばグリースやパラフィンのようなものがある。
流体が流動することで、表面に存在する微小物体20の移動を引き起こす。流体として、例えば、鉱物油、合成油、植物油、動物油、アルコール類、水溶液、水等を選択できる。具体的には、各種シリコーンオイル(デカメチルシクロテトラシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、メチルシリコーン、メチルフェニルシリコーン、メチルヒドロキシシリコーン、アミノ変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、カルボキシ変性シリコーンオイル、カルビノール変性シリコーンオイル、メタクリル変性シリコーンオイル、メルカプト変性シリコーンオイル、フェノール変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、メチルスチリル変性シリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、脂肪酸エステル変性シリコーンオイル、部分フッ素変性シリコーンオイル)、低級飽和脂肪酸、高級飽和脂肪酸、低級不飽和脂肪酸、高級不飽和脂肪酸、高級アルコール、脂肪酸化合物(ごま油、菜種油、アーモンドオイル、綿実油、サラダ油等)、フルオロアルキルエトキシシラン、フルオロアルキルメトキシシラン、アルキルエトキシシラン、アルキルメトキシシラン、CnHx(n>4以上)のアルカン、アルケン、アルキン、油脂(牛脂、ラード、ヒマシ油、パーム油等)、ポリオキシアルキレン化油脂(ヒマシ油、硬化ヒマシ油)、塩素化油、硫化油(大豆油、ラード)、重合油(大豆油、魚油)、その他脂肪酸誘導体(脂肪酸、セッケン、エステル、アミド、ポリオキシアルキレン付加体、塩素化/硫化/重合化脂肪酸アルキルエステル)を含む液体、芳香環を有する潤滑流体として、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルクロロシラン、フェニルメチルクロロシラン、2-(4,6-ジフェニル1,3,5-トリアジン-2-イル) -5-[(ヘキシル)オキシ] -フェノール、1-[2-{3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}エチル]-4-{3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4,4'-ビス(α,α-ジメチル-ベンジル)ジフェニルアミン、2,4-ジアミノ-フェニル-1,3,5-トリアジン、トリス(ノニルフェニル)フォスファイト、トリス(ミックスド,モノおよびジノニルフェニル)フォスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイト、4,4'-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニル-ジ-トリデシルフォスファイト)、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ジ-トリデシルフォスファイト-5-t-ブチル-フェニル)ブタンとジフェニルフォスファイト混合物、4,4'ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニルフォスファイト)、トリス(シクロヘキシルフェニル)フォスファイト、2-t-ブチル-α-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル) -P-クメニルビス(P-ノニルフェニル)フォスファイト、ビス-[2-メチル-4,6-ビス-(1,1-ジメチルエチル)フェニル]エチルフォスファイト、3,9-ビス{2,4-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノキシ}-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5,5]ウンデカン、6-[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロポキシ-2,4,8,10-テトラ-t-ブチルベンズ[d, f] [1,3,2]ジオキサホスフェピン、n-オクタデシル-β-(4'-ヒドロキシ-3',5'-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオネート、4,4'-ブチリデンビス(6-t-ブチル-m-クレゾール)又は1,1-ビス(2'-メチル-4'-ヒドロキシ-5'-t-ブチル-フェニル)ブタン、トリエチレングリコールビス-3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート、2,2'-オキサミドビス〔エチル3- (3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン)、2-t-ブチル-6-(3-t-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート、テトラキス〔メチレン-3-(3',5)ジ-t-ブチル-4'-ヒドロキシフェニル〕プロピオネート〕メタン、ビス 〔3,3 -ビス(4'-ヒドロキシ-3'-t-ブチルフェニル)ブタン酸〕グリコールエステル、1,4-ベンゼンジカルボン酸ビス〔2-(1,1-ジメチルエチル)-6-〔〔3-(1,エジメチルエチル)-2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル〕メチル〕-4-メチルフェニル〕エステル、N,N,-ビス{3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニル}ヒドラジン、3,9-ビス[2-{3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチル フェニル)プロピオニルオキシ}-1,1-ジメチルエチル]-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ペンチルフェニル)エチル]-4,6-ジ-t-ペンチルフェニルアクリレート、p-t-ブチルフェニルサリシレート、2,4-ジ-t-ブチルフェニル-3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエ一ト、2-(2'-ヒドロキシ-5'-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2'-ヒドロキシ-3'-t-ブチル-5'-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、サリチル酸フェニル又はフェニルサリシレート、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノール、2-(2'ハイドロキシ-5'-メタクリルオキシエチルフェニル)-2H-べンゾトリアゾールとメチルメタクリレト共重合物、2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリル酸-2-エチルヘキシル、ポリ(オキシ-1,2-エタンジイル),α-[4-(3-ブトキシ-2-シアノ-3-オキソ-1-プロペン-1-イル)-2-メトキシフェニル]-ω-ヒドロキシ-2-(2'-ヒドロキシ-3'5'-ジ)-t-アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、ポリオキシエチレン(4~50モル)アルキル(C7以上)フェニルエーテル、ポリオキシエチレン(4~50モル) アルキル(C7以上)フェニルエーテルサルフェート(Na,NH4)、ポリオキシエチレン(5~55モル) ノニルフェニルホスフェート、α(p-ノニルフェニル)-ω-ヒドロキシポリ(オキシエチレン)燐酸二水素エステル,燐酸一水素エステル混合物、メチルフェニルポリシロキサン、ポリオルガノ(C1~C32のアルキル基および/またはフェニル基)シロキサンとポリアルキレン(C2~C3)グリコール縮合物、ベンゼン-1、2-ジメチル-4、5-ビス(1-フェニルエチル)、ベンゼン-4-(1、3ジフェニルブチル)-1、2ジメチル、ベンゼン[1-(3、4-ジメチルフェニル)エチル](1-フェニルエチル)混合物、分岐ポリカーボネート、リン酸ビス(4-t-ブチルフェニル)ナトリウム、リン酸2,2'-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)ナトリウム、フェニルホスホン酸亜鉛(II) 、7,8,9-トリデオキシ-3,5:4,6-O-ビス-(4-プロピルフェニル)メチレン=D-グリセロ-L-グロ-ノニトール、パラフィン、グリース等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種類以上を混合しても良い。これらの中でも、特に、アゾベンゼン誘導体などのベンゼン環を有する化合物を溶解しやすいという理由から、分子構造内の側鎖や末端にメチル基、フェニル基、水素が含まれているシリコーンオイルや炭素数6以上の脂肪酸などの油が好ましい。
【0021】
(基材)
基材15は、流体として水溶液、または水を用いる場合以外では、疎水性の基材であり、それ自体が疎水性のものでもよいが、表面が疎水性であればよい。例えば、ガラスなどの基材表面が親水性のものの場合は、基材表面に疎水化処理を行うとよい。流体として水溶液、または水を用いる場合は、親水性の表面であればよく、親水性の基材、もしくは親水化処理を施した基材を用いる。
疎水化処理を行う場合は、疎水性の基準として、例えば、水に対して、接触角が90度以上であることが好ましい。また、基材15の材質としては、ステンレス、シリコン、石英又はガラスである無機基材や、樹脂又はゴムである有機基材、プラスチック、コンクリート、木材、金属、革などがある。
また、基材15は、流体を保持できるものであれば、変形自在な材質のもの(例えば、指でつまんで変形可能なゴムなど)でもよい。また、基材15の大きさは、輸送対象とする微小物体20の大きさや用途にもよるが、例えば、マイクロ流路デバイスに用いる場合は、10×10cm程度の板状のものが想定される。また、形状は板状に限られず、表面や内部に流体を保持できればよく、皿状や箱状や筒状など種々の形状でもよい。
【0022】
(微小物体の輸送デバイスの作製方法)
輸送デバイス1は、以下の方法により作製できる。
まず、流体として水溶液、または水を用いる場合以外では、表面が疎水性である基材15を準備する。ここで、基材自体が疎水性の基材であるか、基材の表面が疎水性のものであればよい。表面が親水性の基材の場合は、基材表面に疎水化処理を行う。例えば、基材を疎水性物質でコーティングして薄膜を形成する場合、基材表面に疎水化剤を接触させて行う。疎水化剤は、従来から種々の材料の疎水化に使用されている疎水化剤から、特に制限なく選択できる。好ましい疎水化剤としては、疎水化の用途で用いられている種々のシランカップリング剤、N,N-ジアルキルアミノシラン化合物、非環状ジシラザン化合物、及び環状シラザン化合物等が挙げられる。また、フッ素系の化合物を用いてもよい。
【0023】
そして、これらの疎水化剤を、例えば、スピンコーティング法、ディップ(浸漬)方式、ロール・ツー・ロール方式、スキージ法、ドクターブレード法、塗布、散布、キャスト法、交互積層法(交互吸着法)などの方式により、基材の表面に接触させることで、表面が疎水性の基材15を作製できる。なお、これらの方式は単独で用いてもよいし、2つ以上の方式を組み合わせて用いてもよい。例えば、ディップ方式で基材表面を疎水化処理した後に、スプレー方式で流体を吹き付けて、薄膜を形成することもできる。これらの方法は、基材上や薄膜上に流体11を設ける場合にも適用できる。なお、流体として水溶液、または水を用いる場合は、基材自体が親水性の基材であるか、表面が親水性である基材15を準備する。例えば、親水化の代表的な表面処理法としてイオン注入法がある。また、上記疎水化処理と同様の方式により、ポリビニルピロリドンなどの親水性高分子や酸化チタンなどの親水化剤により基材表面に親水化処理を施してもよい。
【0024】
次に、基材15上に保持させる輸送流体10を調製する。なお、この工程と基材の準備工程はどちらが先でも構わない。
輸送流体10は、流体11に光異性化化合物13を混合、撹拌することで容易に調製できる。ここで、流体11は、光異性化化合物13や基材15との相性や用途、目的に応じて選択するとよい。例えば、輸送速度を速めたいなど、流体の流動性を高くしたい場合は、粘度の低い液体のもの、特に脂肪酸を含む油やオイルを用いるとよい。また、脂肪酸を含む油やオイルの場合は光異性化化合物13も溶解しやすいものが多く(特にメチル基、フェニル基、水素、ベンゼン環を有するもの)、光異性化化合物13の扱いも容易となり流体中にまんべんなく行き渡らせることもできる。一方、輸送位置を細かく制御したいなど、流体の流動性を低くしたい場合は、粘度の高い液体、ゾル、半固体・半流動体状の、例えばパラフィンやグリースなどを用いるとよい。
【0025】
そして、流体として水溶液、または水を用いる場合以外では、基材自体または基材表面の疎水化剤との相性として、第一に、基材表面と反応しないものを選択する必要がある。さらに、流体が基材表面上に全体的に広がるように、基材表面に対してその流体の接触角が45°以下、好ましくは20°以下、さらに好ましくは10°以下となるように、疎水化処理を施すとよい。なお、流体が水溶液または水の場合は、その流体の接触角がそのまま適用されるため、基材表面は親水化されていることが好ましい。そして、この場合も、流体は基材表面と反応しないものが選定される。
また、光異性化化合物13は、常温で固体の場合は、粉末状、粒子状等の粉粒体(例えば、径10-100μm程度)に調整して用いると、速く溶解するため好ましい。そして、光異性化化合物13は、分散、溶解している状態の方が、基材15上の物体の移動範囲を有効に活用できるため、流体11に分散、溶解しやすいものを選択するとよい。または、流体11を、光異性化化合物13を分散、溶解させやすいものに選択してもよい。光異性化化合物13は、例えば、流体11に対して、0.1mM以上存在していればよく、好ましくは1-100mM程度となるように、加えるとよい。光異性化化合物13の量が多すぎると、異性化に伴って発生する熱量が増加して、輸送対象物である微小物体20や流体の表面張力に影響を及ぼすことや、温度上昇によりマランゴニ対流が生じ、局所的な流動が起こりにくくなることが考えられる。一方、少なすぎても異性化による流動の効果が低減する。
また、流体11は輸送対象の微小物体20よりも密度が大きく(微小物体20が浮く条件をみたすもの)、微小物体20が崩壊、分解、溶解せず、反応性もないものが選択される。
【0026】
そして、基材15上に輸送流体10を、注入、塗布、滴下等の方法により載置する。なお、上記した疎水化処理の方式を用いて輸送流体10を基材15上に載置してもよい。そして、微小物体20の大きさや密度などの物性にもよるが、基材15上の輸送流体10の量は、0.01μL/cm以上、好ましくは0.1μL/cm以上にするとよい。すなわち、微小物体20が移動できるように十分な量があればよい。
本実施形態により、簡便、容易に輸送デバイスを作製することができる。
【0027】
これらの流体11、光異性化化合物13、基材15などの選定は、例えば以下のように行うことができる。
まず、輸送対象物を特定した後、流体11を選定する。上述したように、流体11は、基本的に微小物体20が浮く条件をみたすものであり、微小物体20が崩壊、分解、溶解せず、反応性もないものが選択される。また、流体11に加える光異性化化合物13も流体11に分散、溶解しやすいものを選択するとともに、基材15も、流体11の性質(水溶液や水の場合とそれ以外の場合)に合うものを準備する。なお、この選定工程は基本的なものであるが、他の部材または物質の選定を優先しても構わない。また、輸送対象物が流体11に対して浮かせることが難しいものや、反応性が高いものなどの場合でも、浮く部材等を用いた積層構造を形成することで、輸送可能となる(図13参照)。
【0028】
(微小物体の輸送デバイスの使用方法)
図2には、微小物体20周辺の拡大図(模式図)を示す。
そして、輸送デバイス1を使用する場合、輸送流体10上に輸送対象の微小物体20を載置する。微小物体20は、輸送流体10上に浮かぶものであり(密度が小さいもの)、崩壊、分解、溶解せず、流体との反応性もないものであれば、液体でも固体でもよい。液体の場合は、シロップなどの液状のものや液滴などのまとまったかたまりとなっているものが挙げられる。また、その大きさも10センチメートルや数センチメートルからミクロンオーダー、ナノオーダーのものまで選択可能である。なお、微小物体20が液体の場合は、輸送流体10上を移動可能なように、輸送流体10(流体11)に対して大きな表面張力を有するものを選択するとよい。
【0029】
そして、微小物体20周辺の輸送流体10に向けて、光異性化化合物13が異性化を起こす波長の光を照射する。照射手段としては、光異性化を起こす波長にもよるが、紫外光と可視光との間で異性化を起こす化合物の場合、手軽で便利であることから可視光や紫外光を照射できるLEDライト30を用いるとよい。そして、図1(B)、図2に示すように、LEDライト30により、斜めから(例えば、40-80°の範囲)で光を当てるとよい。LEDライト30からの光33が輸送流体10に当たると、その部分(照射部位35)が熱を帯びるとともに、輸送流体10中の光異性化化合物13が異性化を起こす。例えば、上記したDMABの場合、化学式(1)で示す反応を起こして、トランス体からシス体に異性化する。そして、この異性化に伴い、照射部位35における輸送流体10(流体11)が流動して微小物体は照射部位35とは反対側の矢印D方向に移動する。微小物体20が移動すると、それにあわせて照射部位35を変えることで、意図する方向に移動させることができる。例えば、光異性化化合物13の濃度や流体量にもよるが、小型のLEDライトを用いてミリオーダーの水滴を輸送する場合、照射強度としては、5-25mW/cm程度の強度でも十分である。
【0030】
また、手動によりLEDライト30を操作してもよいし、微小物体20の位置を検出するセンサとLEDライト30の移動装置を設けて、自動的にLEDライト30を制御するようにしてもよい。手動の場合は、手でLEDライト30を持つ場合とステージにLEDライト30を固定してネジ送りする場合などがある。そして、LEDライト30の照射位置、照射方向、照射角度、照射時間、照射強度などの光照射方法(照射条件)を変えることで微小物体20の移動方向、移動距離、移動速度などを制御することができ、目的とする位置まで輸送できる。また、輸送流体10中の光異性化化合物13の濃度を変えることでも、微小物体20の移動速度等を制御することができる。これら照射方法や光異性化化合物13の濃度などの条件は適宜組み合わせてもよい。また、LEDライト30は、点消灯や照射光の波長や強度などを自動制御できるものであってもよい。このように、輸送デバイス1とLEDライト30によって、輸送システムが構築される。そして、微小物体20を、化学物質を含む微小液体や微小固体または化学物質自体とすれば、種々の化学物質の輸送も可能である。例えば、酸性の液滴と塩基性の液滴を輸送し、結合させて中和された液滴を生成することなどにも適用できる。
【実施例0031】
(実施例1)
基材15としてガラス基板(松浪硝子工業株式会社製、品番S9111、大きさ52×76mm、厚み1mm)を用い、その表面に疎水性のアルキルシランのコーティング処理を施した。コーティング溶液は、デシルトリメトキシシラン(東京化成工業株式会社製)、テトラエトキシシラン(富士フイルム和光純薬株式会社製)、エタノール(関東化学株式会社製)、水、塩酸(関東化学株式会社製)を混合して調製し(デシルトリメトキシシラン:テトラエトキシシラン:エタノール:塩酸:水=モル比で0.95 × 10-3:7.2 × 10-3: 206 × 10-3:222 × 10-3:7.7 × 10-6)、ガラス基板上にディップコーティングすることで(ディップ速度1.0mm/秒)、疎水化処理をした。
【0032】
次に、疎水化処理をしたガラス基板表面の濡れ性(親水性)について評価した。この評価は以下のようにして行った。水平に静置した基材15の上に10μLの液滴を滴下し、その時の基材15に対する接触角を測定した。
疎水性のデシルトリメトキシシランの作用により、コーティング後は水に対して、108.6°の接触角を示し、水に対して非濡れ性を示した。
【0033】
そして、疎水化処理をしたガラス基板表面上に光異性化分子を含む輸送流体10を液層として保持させて(以下、この輸送流体10のことを液層という。)、輸送デバイス1を作製し、以下の実験に用いた。輸送流体10は、ベースとなる潤滑流体11としてシリコーンオイル(信越化学工業株式会社製、ジメチルシリコーン、KF-96)を用いて、光異性化化合物13(光異性化分子)としては、DMAB(東京化成工業株式会社製)を用いた。具体的には、シリコーンオイルにDMABの粉末を加えて、混合、撹拌し、DMAB濃度10mMの輸送流体10を調製した。そして、輸送流体10をガラス基板表面上に0.4μL/cm滴下して保持させた。
【0034】
また、DMABを含む輸送流体10とは別に、流体11のみを疎水化処理したガラス基板表面上に0.4μL/cm滴下してその表面上における水の転落角と接触角を調べた。測定方法および測定条件は、前記濡れ性についての評価と同様とした。
液層表面上では、水(水滴(10μL))に対し、2°以下の転落角を示した。また、接触角の前進(Adv)接触角と後退(Rec)接触角から計算した接触角ヒステリシス(cosθRec - cosθAdv)は、液層の保持前後で1/10未満となった。接触角ヒステリシスは、小さい方が水滴の形状を保つことができる。この結果から、ガラス基板の疎水性表面から液層表面への変換により、微小物体20を水滴とした場合の形状の変形は抑制されることが確認された。
【0035】
(微小物体の輸送1)
そして、作製した輸送デバイス1の液層(DMAB濃度10mM)に微小物体20としての水滴を載せて、LEDライト(UVライト、シーシーエス株式会社製、HLV-24UV365)30を用いて、波長365nmの紫外光(25mW/cm)を水滴周辺の液層に照射した(図2参照)。この条件は、以下の微小物体2-5の輸送においても、特に断り書きがない限り同様とした。なお、光を当てると水滴は直ぐに移動するが、この水滴の移動に追従するように手持ちで斜めから(概ね40-60°の範囲内でほぼ一定角度に保持)光を当てて行った(図1(B)、図2参照)。
図3には、水滴の移動する様子の写真を示す。図3(A)は、直線状に水平方向に移動する水滴(100μL)の写真であり、図3(B)は、ジグザグ状に水平方向に移動する水滴(10μL)の写真である。これらの写真に示されるように、LEDライト30により、水滴を任意の方向へ移動させることができた。また、LEDライト30を動かして任意の方向から光を当てることにより直線的な輸送だけではなく、ジグザグ軌道に沿った輸送も実現できた。紫外光を照射されたDMABは上記したように、トランス体からシス体に異性化する。この異性化は、流体内で異性化による化学勾配を引き起こし(併せて光吸収による熱を帯びる)、流体の表面張力の勾配の形成を促す。したがって、DMABの拡散に伴う局所的な流動が引き起こされ、水滴の移動に繋がったと考えられた。
【0036】
また、液層中でDMABの異性化が起きているかについて調べるために、輸送デバイス1の液層(DMAB濃度10mM)にLEDライト30を当てながら吸収スペクトルを計測した。測定には、Ocean Insight社製分光器(Ocean Optics Flame)を用いた。その結果を図4に示す。なお、LEDライト30は、光学用の水平移動ステージで角度50°に固定して照射した。
光照射により320nm付近を中心頂点とする260nm-370nmのピークは減少する一方、400-500nmのピークは上昇したことから(右枠の拡大部分を参照)、シリコーンオイル内にDMABを分散させた状態においてもトランス体からシス体に異性化が起きることが確認された。この傾向は、照射時間を長くした方が顕著であった。
【0037】
さらに、光照射により液層の表面張力が変化するかについて、異なる濃度のDMABを添加したシリコーンオイル液滴を用いて調べた。具体的には、流体11(シリコーンオイル)に添加するDMABの量を変えて、複数の輸送デバイス1を作製した。なお、それ以外の条件は前記(微小物体の輸送1)で用いた輸送デバイス1と同様とした。また、この輸送デバイス1(DMAB濃度が異なるもの)は、後述する(微小物体の輸送2-4)においても使用した。
図5には、その結果を示す。なお、LEDライト30は、光学用の水平移動ステージで角度50°に固定して波長365nmの紫外光(25mW/cm)を照射した。図5によれば、DMABを添加した場合、添加濃度が大きくなるにつれて、表面張力の減少率が高くなった。また、1、10、100mMのDMABを含むシリコーンオイル液滴における表面張力の減少率は、それぞれ、2、3、10%であった。DMABの添加の影響によって、表面張力が減少するが、特に高濃度の場合は、光吸収による熱の発生も影響しているものと推察される。
【0038】
また、上記異なる濃度のDMABを添加した液層表面に、波長365nmの紫外光(25mW/cm)を照射し(5-45秒間)、その表面温度の変化を評価した。その結果を図6に示す。照射方法は、図5の場合と同様とした。表面温度は輸送デバイス1の垂直上方に設置したサーモグラフィー(フリアーシステムズ社製)を用いて測定した。
DMABを添加していない0mMの液層の場合は、光による影響を受けないため、温度は変化しなかった。一方、DMABを添加した液層では、いずれも光照射直後から温度が上昇し始め、照射から10秒程度で飽和状態となりそれ以後は温度が一定であった。また、LEDライトをオフにしてから(45秒)定常状態(光照射前の温度)に戻るまでの時間は、DMABの濃度に依存せず、15秒程度であった。DMABの濃度が高いと、液層の表面温度が高くなり、輸送対象の微小物体20も熱の影響を受けることが考えられる。一方、DMABの濃度が10mM程度では、熱による温度変化は+5℃程度であり、ほとんど熱を帯びることはないことがいえる。
【0039】
(微小物体の輸送2)
さらに、液層中のDMABの濃度を変えた輸送デバイス1を用いて、紫外光(波長365nm、25mW/cm)を照射した時の、液層表面での水滴(10μL)の輸送について検討した。LEDライト30は、光学用の水平移動ステージで固定してネジ送りでスライドさせることで、角度を50°に保持したまま動かした。この照射方法は、後述する微小物体の輸送3-4においても同様である。DMABの濃度別に、光照射による時間経過と水滴の移動距離(変位)についてまとめた結果を図7に示す。この結果から、DMABの濃度が10mMの場合に、移動距離が飛躍的に伸びることが分かった。また、DMABの濃度が0,1,10,100mMの液層では、水滴を輸送する際、それぞれの平均速度は0,0.0008,0.2704,0.0282mm/sであった。そして、図7からも、水滴を、DMABの濃度に依らず、ほぼ一定の速度で輸送できることがいえる。このことから、照射強度が一定の場合は、DMABの濃度を適切な範囲、例えば5-50mM、好ましくは10mM前後にすることで、輸送効率が向上することがいえる。また、DMABの濃度を変えることで、水滴の移動速度や移動距離を制御できるものである。
【0040】
(微小物体の輸送3)
次に、紫外光(波長365nm)の照射強度と液層中のDMAB濃度が、水滴の輸送速度に与える影響について調べた。液層中のDMABの濃度を変えた輸送デバイス1を用いて、液層に水滴(10μL)を載せて、紫外光の照射強度を5-25mW/cmの間で変えて、水滴を輸送した。その結果を図8に示す。図8からも明らかなように、紫外光の照射強度が大きいほど、輸送速度は上昇した。特に、DMABの濃度が10mMの場合に、この傾向は顕著であった。この結果からも、強い光によって光異性化反応が促進され、多くの液層の流動が引き起こされたものといえる。したがって、照射光の強度を変えることで、水滴の移動速度を制御できる。なお、照射距離を短くまたは長くすることで、照射部位35の照射強度を強くまたは弱くすることも可能である。
【0041】
(微小物体の輸送4)
さらに、輸送する水滴の量(大きさ)と液層中のDMAB濃度が、水滴の輸送速度に与える影響について調べた。液層中のDMABの濃度を変えた輸送デバイス1を用いて、液層に水滴(10-100μL)を載せて40秒間、紫外光(波長365nm)の照射強度が25mW/cmの条件で、水滴を輸送した。その結果を図9に示す。図9からも明らかなように、DMABの濃度が10mMの場合に、水滴量10-100μLの範囲で再現良く輸送現象を実現できた。なお、輸送する水滴量が増えれば、輸送速度が減少する傾向を示したが、200μL-1mLの比較的大きな水滴でも十分輸送可能であるといえる。また、逆に10μLよりも小さい水滴の輸送も可能である。
【0042】
図10には、輸送デバイス1を用いて、10μL(図10(A)),50μL(図10(B)),100μL(図10(C))の水滴を同条件(DMAB濃度:10mM、光の強度:25mW/cm)で輸送した時の観察画像(写真)を示す。図10からも明らかなように、水滴が小さい程輸送速度が速く、水滴が大きい程輸送速度が遅かった。また水滴の進行方向に対して水滴の後方側(各画像内の左側)に紫外光を照射したが、前方の接触角と後方の接触角にはほとんど差異が見られなかった。熱や光熱効果による輸送では、水滴の表面張力にも影響を与えてしまうため、そのエネルギーが与えられた場所においては、水滴の表面張力が減少し、接触角が小さくなる傾向がある。しかしながら、DMAB濃度が10mMの場合は、光照射前後で熱による温度上昇は5℃程度であり(図6)、水滴の表面張力にはほとんど影響を与えなかったものといえる。
【0043】
(微小物体の輸送5)
図11には、水滴の往復輸送を説明する図(側面図)を示し、図12には、往復輸送時の変位のグラフを示す。
次に、紫外光の照射角度は固定(50°)とし、照射部位35(図2)のみを変えることで、輸送デバイス1(前記(微小物体の輸送1)で用いた輸送デバイス1)を用いて(DMAB濃度は10mM)、水滴(10μL)の往復輸送を行った。LEDライト30は、光学用の水平移動ステージで固定してネジ送りでスライドさせることで、角度を一定に保持したまま動かした。そして、水滴を通り越す形式で照射する場合(右からの光照射、図11(A))、水滴は比較的ゆっくりと動き(図11(B))、その時の速度は0.11mm/sであった(図12(A))。一方、紫外光の照射方向に対して順方向に水滴を輸送する場合(左からの光照射、図11(C))、水滴はより速く進み(図11(D))、その時の速度は0.27mm/sであった(図12(A))。この結果から、紫外光の照射方向が輸送速度に影響を与えることが示唆された。また、往復輸送を繰り返したところ、光の照射位置を変えることのみで、正確な位置移動を繰り返し実現できた(図12(B))。したがって、光の照射位置を変えることで、水滴の移動速度を制御できる。
【0044】
このように、本実施例によれば、液層中のDMABが、紫外光の照射によって異性化することで、液層の流動を引き起こし、この流動によって表面に浮かぶ水滴を輸送することができる。そして、光の照射位置、照射方向、照射角度、照射時間、照射強度等のなどの光照射方法やDMABの濃度などを変えることで水滴の移動方向、移動距離、移動速度などを制御することができる。
【0045】
(実施例2)
実施例1では、微小物体20を水滴(液滴)として、水滴が変形することなく水平に輸送できることを示した。本実施例では、輸送デバイス1(前記(微小物体の輸送1)で用いた輸送デバイス1)(DMAB濃度10mM)により、図13(A)に示すように、水滴20の上に複数の微小固体を載せて微小物体25を形成し、当該微小物体25の輸送を行った。本実施例において、水滴と微小固体などを組み合わせたものを微小物体として用いた点で、実施例1とは相違するが、それ以外は実施例1と同様の方法および条件で行った。また、LEDライト30は、光学用の水平移動ステージで固定してネジ送りでスライドさせることで、角度を50°に保持したまま動かした。
水滴20は撥水メッシュ(材質はポリエステル、メッシュカウント39/cm、線径55um、開口部幅199um、株式会社くればぁ製)21と輸送流体10の液層との間に挟み込まれた状態である。このように、物質間に水滴が存在すると、水滴の周囲の空気や液層との表面張力差によって生じるラプラス圧力により、表面に載せた物質を上に持ち上げる力(荷重方向と逆向きの力)Fが生じる(図13(B))。なお、図中のθAは水滴20の撥水メッシュ21に対する接触角を示している。
実施例1において微小物体20として用いた水滴(50μL)の上に撥水メッシュ21を載せたところ、撥水メッシュ21は接触角θAが150°以上であり、水滴上に載せても水は撥水メッシュ21に浸透せず、撥水メッシュ21は沈み込まずに水滴20の表面に保持された。
【0046】
さらに、複数の物体からなる微小物体25(組み合わせ体)の輸送を実施するため、撥水メッシュ21の上に微小固体であるポリスチレン片(最大箇所4×3×3mm(縦×横×高さ)、0.5mg)23を、ピンセットを用いて載せた。ポリスチレン片23は撥水メッシュ21で遮られているため、ポリスチレン片23には直接水滴20は接触しなかった。
そして、実施例1と同様に、輸送流体10の液層表面に、波長365nmの紫外光(25mW/cm)を照射したところ、微小物体25は、その積重状態を保持したまま輸送することができた。図14には、この時の観察画像を示す。図14に示すように、水滴の上に複数の微小固体を載せた場合でも、輸送速度にはほとんど影響を与えることなく、安定した輸送を実現できた。本実施例によれば、水滴20と、さらにその上に撥水メッシュ21のような台を設けることで、台上に様々な微小固体や微小液体など(例えば、ソフトマテリアル、細胞、細菌、ウイルス等)を載置して輸送することができる。
【0047】
(実施例3)
輸送流体10の流体11をシリコーンオイルからオレイン酸(関東化学株式会社製)に変更した以外は、実施例1と同様の方法および条件で輸送デバイス1を作製した(DMAB濃度10mM)。また、微小物体20の輸送の方法および条件は、微小物体を、量の異なる複数の水滴20a、20b(10μL、5μL)としたこと以外は実施例1の(微小物体の輸送1)の場合と同様とし、LEDライト30により手持ちで斜めから(概ね40-60°の範囲内でほぼ一定角度に保持)紫外光(365nm、25mW/cm)を照射した。図15には、この時の観察画像を示す。図15(A)には、5μLの水滴20bを輸送した時の観察画像を示し、図15(B)には10μLの水滴20aを輸送した時の観察画像を示し、図15(C)には、2つの水滴20a、20bの輸送が終了したとき(点線部分)の観察画像を示している。本実施例においても、他の実施例と同様に、液層表面上で異なる水滴20a、20bの輸送ができたことが確認された。
【0048】
(実施例4)
本実施例では、微小物体を、複数の水滴20c、20dとした点で、実施例3と共通するが、複数の水滴20c、20dを同じ量(10μL)として同じ位置に輸送した点で、実施例3とは異なる。その他の条件は実施例3と同様とした(流体11はオレイン酸である)。
輸送デバイス1のマイクロリアクターへの応用を想定し、液層表面上で2つの水滴20c、20dを結合させることを試みた。図16には、この時の観察画像を示す。2つの水滴20c、20dのうちの一方の水滴20d付近に光照射して(365nm、25mW/cm)輸送し、中央付近で結合させた(図16(C))。さらに、そのまま光照射を継続することで2つの水滴20c、20dが合体せずに、結合・連結した状態のまま輸送することができた(図16(D)、(E))。なお、2つの水滴20c、20dの両方に光照射して結合させてもよい。
本実施例によれば、このように、複数の物質を所定位置に輸送し、結合させて同時に輸送することが可能である。また、結合後に分離することも可能である。
【0049】
(実施例5)
本実施例では、実施例4に記載の方法により、複数の水滴20c、20dを結合させた後、2つの水滴20c、20d周辺に、波長465nmの可視光(強度25mW/cm)を、UVライトとは別のLEDライト(シーシーエス株式会社製、HLV3-22BL-2C)を用いて手持ちで斜めから(概ね40-60°の範囲内でほぼ一定角度に保持)照射したものである。図17には、この時の観察画像を示す。この場合に、2つの水滴20c、20dは合体し、1つの水滴20eにすることができた。
液層中のDMABは、式(1)で示したように、可視光によってシス体からトランス体に可逆的に異性化する。そして、この時、液層の表面張力が変化することにより(図5)、2つの水滴20c、20dの合体が起こりやすい条件となったことが推察される。
本実施例によれば、液層表面上で複数の物質の合体等、流路不要なマイクロリアクター等として活用できる。マイクロリアクターの活用例としては、微小反応場を利用した新薬の開発や細胞培養などが挙げられる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、マイクロリアクター、マイクロ流路、μ-TAS(マイクロタス)、マイクロバブル、バイオアナリシス、摩擦の制御、汚れの付着防止、防氷、防曇、霧・水捕集、ノズル等の吐出制御、浄水、熱伝達制御などの、あらゆる技術分野において利用可能性がある。
【符号の説明】
【0051】
1 輸送デバイス
10 輸送流体
11 流体
13 光異性化化合物
15 基材
20 微小物体(水滴)
21 撥水メッシュ
23 ポリスチレン片
25 微小物体(組み合わせ体)
30 LEDライト
33 光
35 照射部位

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17