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特開2024-22271過飽和エリスリトール水溶液、及び過飽和エリスリトール水溶液の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022271
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】過飽和エリスリトール水溶液、及び過飽和エリスリトール水溶液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/00 20160101AFI20240208BHJP
【FI】
A23L27/00 101Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022125728
(22)【出願日】2022-08-05
(71)【出願人】
【識別番号】522500321
【氏名又は名称】シンクレスト株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504165591
【氏名又は名称】国立大学法人岩手大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】徐 鵬宇
(72)【発明者】
【氏名】米山 心
(72)【発明者】
【氏名】三浦 靖
(72)【発明者】
【氏名】松本 実香
【テーマコード(参考)】
4B047
【Fターム(参考)】
4B047LB01
4B047LB08
4B047LB09
4B047LE01
4B047LG01
4B047LG04
4B047LG25
4B047LP02
4B047LP05
4B047LP06
(57)【要約】
【課題】本発明は、新たに、過飽和エリスリトール水溶液、及び過飽和エリスリトール水溶液の製造方法を提供する事を目的とする。
【解決手段】水に、過飽和相当量となるエリスリトールと無機電解質とを混合する工程を含む、過飽和エリスリトール水溶液の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
過飽和エリスリトール水溶液の製造方法であって、
(1)水に、過飽和相当量となるエリスリトールと無機電解質とを混合する工程
を含む、製造方法。
【請求項2】
前記過飽和エリスリトール水溶液は、25℃の水溶液において、エリスリトールが36質量%を超える濃度(w/w)の水溶液である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記無機電解質は、炭酸カリウム(K2CO3)、炭酸ナトリウム(Na2CO3)、炭酸水素カリウム(KHCO3)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)、リン酸カリウム(K3PO4)、リン酸ナトリウム(Na3PO4)、リン酸水素二カリウム(K2HPO4)、リン酸水素二ナトリウム(Na2HPO4)、リン酸二水素カリウム(KH2PO4)、リン酸二水素ナトリウム(NaH2PO3)、水酸化カリウム(KOH)、及び水酸化ナトリウム(NaOH)から成る群から選択される少なくとも一種の無機電解質である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記無機電解質は、前記過飽和エリスリトール水溶液中において、濃度が2質量%~10質量%(w/w)である、請求項1~3の何れかに記載の方法。
【請求項5】
前記過飽和エリスリトール水溶液は、pH10~pH13である、請求項1~4の何れかに記載の方法。
【請求項6】
前記工程(1)の後、
(2)前記混合水溶液を、加熱する工程
を含む、請求項1~5の何れかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記工程(2)の後、
(3)前記加熱した混合水溶液を、冷却する工程
を含む、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
無機電解質を含む、過飽和エリスリトール水溶液。
【請求項9】
25℃の水溶液において、エリスリトールが36質量%を超える濃度(w/w)である、請求項8に記載の過飽和エリスリトール水溶液。
【請求項10】
pH10~pH13である、請求項8又は9に記載の過飽和エリスリトール水溶液。
【請求項11】
請求項8~10の何れかに記載の過飽和エリスリトール水溶液を含む、食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過飽和エリスリトール水溶液、及び過飽和エリスリトール水溶液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、ポリデキストロース、エリスリトール、エリスリトールを除く糖アルコール及びラカンカ抽出物を含む小麦粉用又は小麦粉材用ショ糖代替甘味料材を開示している。
【0003】
特許文献2は、モグロシド化合物を含有する甘味料製品を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-154439号公報
【特許文献2】特開2021-169502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、新たに、過飽和エリスリトール水溶液、及び過飽和エリスリトール水溶液の製造方法を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、前記課題を解決する為に鋭意検討を重ねた結果、水に、過飽和相当量となるエリスリトールと無機電解質とを混合する事に依って、食品において、エリスリトールを均一に分散させる事が出来る過飽和エリスリトール水溶液を製造する事が出来た。
【0007】
本発明は、以下に示す過飽和エリスリトール水溶液、及び過飽和エリスリトール水溶液の製造方法を包含する。
【0008】
項1.
過飽和エリスリトール水溶液の製造方法であって、
(1)水に、過飽和相当量となるエリスリトールと無機電解質とを混合する工程
を含む、製造方法。
【0009】
項2.
前記過飽和エリスリトール水溶液は、25℃の水溶液において、エリスリトールが36質量%を超える濃度(w/w)の水溶液である、請求項1に記載の製造方法。
【0010】
項3.
前記無機電解質は、炭酸カリウム(K2CO3)、炭酸ナトリウム(Na2CO3)、炭酸水素カリウム(KHCO3)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)、リン酸カリウム(K3PO4)、リン酸ナトリウム(Na3PO4)、リン酸水素二カリウム(K2HPO4)、リン酸水素二ナトリウム(Na2HPO4)、リン酸二水素カリウム(KH2PO4)、リン酸二水素ナトリウム(NaH2PO3)、水酸化カリウム(KOH)、及び水酸化ナトリウム(NaOH)から成る群から選択される少なくとも一種の無機電解質である、請求項1又は2に記載の方法。
【0011】
項4.
前記無機電解質は、前記過飽和エリスリトール水溶液中において、濃度が2質量%~10質量%(w/w)である、請求項1~3の何れかに記載の方法。
【0012】
項5.
前記過飽和エリスリトール水溶液は、pH10~pH13である、請求項1~4の何れかに記載の方法。
【0013】
項6.
前記工程(1)の後、
(2)前記混合水溶液を、加熱する工程
を含む、請求項1~5の何れかに記載の製造方法。
【0014】
項7.
前記工程(2)の後、
(3)前記加熱した混合水溶液を、冷却する工程
を含む、請求項6に記載の製造方法。
【0015】
項8.
無機電解質を含む、過飽和エリスリトール水溶液。
【0016】
項9.
25℃の水溶液において、エリスリトールが36質量%を超える濃度(w/w)である、請求項8に記載の過飽和エリスリトール水溶液。
【0017】
項10.
pH10~pH13である、請求項8又は9に記載の過飽和エリスリトール水溶液。
【0018】
項11.
請求項8~10の何れかに記載の過飽和エリスリトール水溶液を含む、食品組成物。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、新たに、過飽和エリスリトール水溶液、及び過飽和エリスリトール水溶液の製造方法を提供する事が出来る。
【0020】
本発明は、食品において、エリスリトールを均一に分散させる事が出来る過飽和エリスリトール水溶液を提供する事が出来る。
【0021】
食品に、本発明の過飽和エリスリトール水溶液を用いると、食品にショ糖と同程度の甘味と食感とを一様に付与する事が出来る。
【0022】
食品に本発明の過飽和エリスリトール水溶液を用いると、食品に添加するショ糖の割合を減らす事が出来、食品のカロリーの削減に繋がる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の過飽和エリスリトール水溶液について、図1は、水溶液でのエリスリトールの結晶化の評価において、晶析操作:エリスリトール結晶の採取の方法を説明する図である。
図2】本発明の過飽和エリスリトール水溶液について、図2は、水溶液でのエリスリトールの結晶化の評価において、晶析実験:結晶化開始温度、及び過飽和保持時間を算出する装置を説明する図である。
図3】本発明の過飽和エリスリトール水溶液について、図3は、水溶液でのエリスリトールの結晶化の評価において、晶析実験:結晶化開始温度、及び過飽和保持時間を算出する方法を説明する図である。
図4】本発明の過飽和エリスリトール水溶液について、図4は、水溶液でのエリスリトールの結晶化の評価において、晶析実験:結晶化率、及びpHの結果を説明する図である。
図5】本発明の過飽和エリスリトール水溶液について、図5は、水溶液でのエリスリトールの結晶化の評価において、結晶構造の観察の方法及び結果を説明する図である。
図6】本発明の過飽和エリスリトール水溶液について、図6は、水溶液でのエリスリトールの結晶化の評価において、エリスリトールの結晶構造の観察の結果を説明する図である。
図7】本発明の過飽和エリスリトール水溶液について、図7は、水溶液でのエリスリトールの結晶化の評価において、エリスリトールの結晶の粒子径の結果を説明する図である。
図8】本発明の過飽和エリスリトール水溶液について、図8は、エリスリトールの結晶化に対する無機電解質の物質量において、晶析実験の方法及び結果を説明する図である。
図9】本発明の過飽和エリスリトール水溶液について、図9は、エリスリトールの結晶化に対する無機電解質の物質量において、エリスリトール結晶の構造に及ぼすNaOH、KOHの影響を説明する図である。
図10】本発明の過飽和エリスリトール水溶液について、図10は、ショ糖代替素材でのエリスリトールの結晶化に対する無機電解質を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0025】
本発明を表す実施の形態は、発明の趣旨がより良く理解出来る説明であり、特に指定のない限り、発明内容を限定するものではない。
【0026】
本明細書において、「含む」及び「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」のいずれも包含する概念である。
【0027】
本明細書において、数値範囲を「A~B」で示す場合、数値範囲はA以上、B以下を意味する。
【0028】
1.過飽和エリスリトール水溶液の製造方法
(1)水に、過飽和相当量となるエリスリトールと無機電解質とを混合する工程
本発明の過飽和エリスリトール水溶液の製造方法は、(1)水に、過飽和相当量となるエリスリトールと無機電解質とを混合する工程を含む。
【0029】
本発明の過飽和エリスリトール水溶液の製造方法では、過飽和エリスリトール水溶液に無機電解質を混合(添加)する事に依り、エリスリトールの結晶核の形成を遅延させる事が出来、エリスリトールの結晶成長を抑制させる事が出来る。
【0030】
食品分野において、健康志向が一段と高まっている。最近では、ショ糖を用いない減糖食品(低糖質食品)の開発が盛んに行われている。一方、減糖食品の食感及び味は、一般的な食品と比べて、十分でない場合が有る。その様な中で、減糖食品について、ショ糖を用いる一般的な食品と同程度な食感及び味を付与する技術が望まれている。
【0031】
ショ糖を用いない減糖食品として、ショ糖を用いる一般的な食品と同程度な食感を持たせる事が、減糖食品の更なる発展に繋がり、また糖代替物の大量生産にも繋がる。
【0032】
本発明は、食品に、ショ糖代替物として、過飽和エリスリトール水溶液を用いる事に依り、食品中にエリスリトールを均一に分散させる事が出来、食品に、ショ糖同様に、食感及び味を付与する事が出来る。
【0033】
本発明の過飽和エリスリトール水溶液は、エリスリトールの結晶化が抑制されており、エリスリトールを高濃度に含み、例えば、パン、マフィン等の膨化食品を製造する時のショ糖代替素材と成る。
【0034】
本発明の過飽和エリスリトール水溶液は、食品中にエリスリトールを均一に分散させる事が出来、食品製造において有用である。
【0035】
本発明の過飽和エリスリトール水溶液は、ショ糖を用いない減糖食品として、ショ糖を用いる一般的な食品と同程度な食感を持たせる事が出来、減糖食品の更なる発展に繋がり、また糖代替物の大量生産にも繋がる。
【0036】
エリスリトール(分子量:122)
構造:メソ体
由来:酵母を用いて、澱粉を発酵させる事に依り得られる。
特徴:エネルギー0kcal/g(ゼロカロリー)、非う蝕性、耐熱性(メイラード反応を生じない)、吸湿し難い、溶解度約36%(w/w)(飽和濃度)、ショ糖の約75%の甘味を表す。
用途:吸熱作用が高く、冷菓へ利用される。飲料、チューイングガム、チョコレート、キャンディー、ベーカリー製品に利用される。
【0037】
エリスリトール(C4H10O4)は、エリトロース(4炭糖)のカルボニル基を還元した糖アルコールである。エリスリトールは、ゼロカロリーであり、血糖値、インスリン濃度を上げない効果が有る。エリスリトールは、ショ糖の約75%の甘味度を有し、ショ糖代替素材として有用である。
【0038】
エリスリトールは、一般に、低温で水への溶解度が低く、25℃の飽和濃度は、36%(w/w)(質量パーセント濃度(エリスリトール質量/水溶液質量))であり、再結晶化し易いという性質が有る。
【0039】
ショ糖の25℃の飽和濃度は、70%(w/w)である。
【0040】
本発明の過飽和エリスリトール水溶液は、25℃の水溶液において、エリスリトールが好ましくは、36質量%(w/w)を超える濃度の水溶液であり、より好ましくは、40質量%(w/w)を超える濃度の水溶液であり、更に好ましくは、45質量%(w/w)を超える濃度の水溶液である。
【0041】
本発明の過飽和エリスリトール水溶液は、25℃の水溶液において、エリスリトールが好ましくは、上限60質量%(w/w)の濃度の水溶液であり、好ましくは、上限50質量%(w/w)の濃度の水溶液である。
【0042】
例えば、43質量%(w/w)程度の過飽和エリスリトール水溶液(200g水溶液)(25℃)を調製すれば良い。
【0043】
本発明の過飽和エリスリトール水溶液が含む無機電解質は、好ましくは、
炭酸カリウム(K2CO3)、炭酸ナトリウム(Na2CO3)等の炭酸塩;
炭酸水素カリウム(KHCO3)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)等の炭酸水素塩;
リン酸カリウム(K3PO4)、リン酸ナトリウム(Na3PO4)等のリン酸塩;
リン酸水素二カリウム(K2HPO4)、リン酸水素二ナトリウム(Na2HPO4)、リン酸二水素カリウム(KH2PO4)、リン酸二水素ナトリウム(NaH2PO3)等のリン酸水素塩;
水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)等の水酸化物(アルカリ);
等の無機電解質である。
【0044】
無機電解質は、好ましくは、炭酸塩;炭酸水素塩;リン酸塩;リン酸水素塩;及び、水酸化物(アルカリ);から成る群から選択される少なくとも一種の無機電解質である。無機電解質は、より好ましくは、炭酸カリウム(K2CO3)、炭酸ナトリウム(Na2CO3);炭酸水素カリウム(KHCO3)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3);リン酸カリウム(K3PO4)、リン酸ナトリウム(Na3PO4);リン酸水素二カリウム(K2HPO4)、リン酸水素二ナトリウム(Na2HPO4)、リン酸二水素カリウム(KH2PO4)、リン酸二水素ナトリウム(NaH2PO3);及び、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH);から成る群から選択される少なくとも一種の無機電解質である。
【0045】
無機電解質は、これらの無機電解質を1種単独で用いても良く、或は2種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0046】
無機電解質の中でも、炭酸塩、炭酸水素塩は、水溶液中でのエリスリトールの結晶成長を抑制する事が出来、エリスリトールの結晶化率を小さくさせる事が出来、好ましい無機電解質である。
【0047】
無機電解質の中でも、炭酸水素塩は、水溶液中でのエリスリトール結晶の粒子を丸くさせ、エリスリトールの結晶成長の速度を遅らせる事が出来、好ましい無機電解質である。
【0048】
無機電解質の中でも、Na3PO4、KOH、NaOH等は、水溶液中でのエリスリトールの結晶核形成を抑制する事が出来、エリスリトールの過飽和保持時間は長く、好ましい無機電解質である。
【0049】
本発明の過飽和エリスリトール水溶液では、無機電解質を含む事に依り、エリスリトールの結晶核の形成を遅延する事が出来、エリスリトールの結晶成長を抑制する事が出来、エリスリトールの結晶化を抑制する事が出来る。
【0050】
本発明の過飽和エリスリトール水溶液が含む無機電解質は、前記過飽和エリスリトール水溶液中において、濃度が、好ましくは、2質量%~10質量%(w/w)(質量パーセント濃度(無機電解質質量/水溶液質量))であり、より好ましくは、3質量%~8質量%(w/w)であり、更に好ましくは、3質量%~6質量%(w/w)である。
【0051】
例えば、K2CO3、Na2CO3、KHCO3、NaHCO3、K3PO4、Na3PO4、K2HPO4、Na2HPO4、KH2PO4、NaH2PO3、KOH、NaOH等の無機電解質を4質量%(w/w)(8g/200g水溶液)程度の水溶液を調製すれば良い。
【0052】
過飽和エリスリトール水溶液では、無機電解質の物質量を増加させると、エリスリトールの過飽和保持時間を延長する事が出来る。共存するイオン(K+、Na+、H+、OH-)の数に依り、エリスリトールの結晶核形成を抑制する事が出来る。過飽和エリスリトール水溶液では、無機電解質の物質量の増減に由り、pHは変化しない。
【0053】
過飽和エリスリトール水溶液では、共存するイオンの中でも、K+、Na+は、エリスリトール分子の表面に吸着し、エリスリトールの結晶核形成を抑制し、エリスリトールの結晶成長を抑制する事が出来る。
【0054】
本発明の過飽和エリスリトール水溶液では、無機電解質は、ショ糖代替素材の中でも、エリスリトールの結晶化率を減少させる事が出来、共存するイオンの中でも、K+、Na+は、ショ糖代替素材の中でもエリスリトールの結晶化を抑制する事が出来る。
【0055】
本発明の過飽和エリスリトール水溶液は、好ましくは、pH4~pH13であり、より好ましくは、pH7~pH13であり、より好ましくは、pH10~pH13である。
【0056】
本発明の過飽和エリスリトール水溶液は、好ましくは、Na3PO4、KOH、NaOH等を含む事に依り、アルカリ性を示す。
【0057】
本発明の過飽和エリスリトール水溶液では、pH10~pH13に調整する事に依り、エリスリトールの結晶核の形成を遅延する事が出来、エリスリトールの結晶成長を抑制する事が出来、エリスリトールの結晶化を抑制する事が出来る。
【0058】
(2)工程1で得られた混合水溶液を、加熱する工程
本発明の過飽和エリスリトール水溶液の製造方法では、前記工程(1)の後、好ましくは、(2)前記混合水溶液(無機電解質と過飽和相当量となるエリスリトールとの混合水溶液)を加熱する工程を含む。
【0059】
混合水溶液を加熱する工程では、過飽和状態のエリスリトールを溶解する事が出来る加熱温度であれば良く、加熱温度は特に制限されない。加熱する工程では、過飽和エリスリトール水溶液を、好ましくは、30℃~60℃の温度範囲で加熱し、より好ましくは、35℃~50℃の温度範囲で加熱し、過飽和状態のエリスリトールを溶解する。
【0060】
混合水溶液を加熱する工程では、過飽和状態のエリスリトールを溶解する事が出来る加熱時間であれば良く、加熱時間は特に制限されない。加熱する工程では、過飽和エリスリトール水溶液を、好ましくは、10分~4時間の時間範囲で加熱し、より好ましくは、30分~2時間の時間範囲で加熱し、過飽和状態のエリスリトールを溶解する。
【0061】
例えば、過飽和エリスリトール水溶液を、40℃で、1時間、加熱し、過飽和状態のエリスリトールを溶解する。
【0062】
(3)工程(2)で得られた加熱した混合水溶液を、冷却する工程
本発明の過飽和エリスリトール水溶液の製造方法では、前記工程(2)の後、好ましくは、(3)前記加熱した混合水溶液(加熱溶解させたエリスリトールと無機電解質との混合水溶液)を冷却する工程を含む。
【0063】
加熱した混合水溶液を冷却する工程では、混合水溶液を、降温する事が出来れば良く、冷却温度は特に制限されない。冷却する工程では、混合水溶液を、好ましくは、室温(1℃~30℃、日本薬局方)、或は常温(15℃~25℃、日本薬局方)にまで、降温する。
【0064】
加熱した混合水溶液を冷却する工程では、混合水溶液を、降温(室温、或は常温)する事が出来る冷却時間であれば良く、冷却時間は特に制限されない。冷却する工程では、混合水溶液を、好ましくは、10分~4時間の時間範囲を掛けて冷却し、より好ましくは、30分~2時間の時間範囲を掛けて冷却する。
【0065】
例えば、加熱した混合水溶液を、-0.2℃・min-1(1分毎に-0.2℃ずつ)降温し、25℃まで冷却する。その後、冷却した混合水溶液を25℃で保持する。
【0066】
2.過飽和エリスリトール水溶液
本発明は、本発明の過飽和エリスリトール水溶液の製造方法に依り製造される過飽和エリスリトール水溶液を包含する。
【0067】
本発明の過飽和エリスリトール水溶液は、無機電解質を含む。
【0068】
本発明の過飽和エリスリトール水溶液は、好ましくは、25℃の水溶液において、エリスリトールが36質量%を超える濃度(w/w)である。
【0069】
本発明の過飽和エリスリトール水溶液は、好ましくは、pH10~pH13である。
【0070】
本発明の過飽和エリスリトール水溶液において、無機電解質、過飽和水溶液の態様、pH等は、前記1.過飽和エリスリトール水溶液の製造方法の項目で説明する通りである。
【0071】
3.食品組成物
本発明は、本発明の過飽和エリスリトール水溶液、又は本発明の過飽和エリスリトール水溶液の製造方法に依り製造される過飽和エリスリトール水溶液を含む食品組成物を包含する。
【0072】
本発明の過飽和エリスリトール水溶液は、エリスリトールの結晶化が抑制されており、エリスリトールを高濃度に含む。
【0073】
食品に、本発明の過飽和エリスリトール水溶液を用いると、従来の低糖質食品、例えば、糖質の配合量を低減する食品、糖質代替素材を組み合わる食品、例えば、小麦粉代替素材(難消化性澱粉等)、ショ糖代替素材(高甘味度甘味料等)等、ショ糖、薄力小麦粉を使用した食品に比べて、食品の形状、構造、及びテクスチャーは良好であり、食品の味の強度及び質は良好である。
【0074】
食品分野では、エリスリトール主剤(本発明の過飽和エリスリトール水溶液:エリスリトール、例えば、NaOH、KOH等の水酸化物、水を含む主剤)と、ショ糖代替助剤(液体:例えば、ポリデキストロース、還元マルトオリゴ糖、イヌリン、イソマルトデキストリン等を含む助剤)として提供する事が出来る。
【0075】
食品の製造時使用時に、エリスリトール主剤とョ糖代替助剤とを併用する事に依り、低糖質食品を提供する事が可能である。
【0076】
食品に、本発明の過飽和エリスリトール水溶液を用いると、例えば、パン、マフィン等の膨化食品を製造する時のショ糖代替素材と成るので、食品製造において有用であり、低糖質食品の需要の増大に繋がる。
【実施例0077】
以下に実施例を示して、本発明の過飽和エリスリトール水溶液の製造方法を具体的に説明する。但し、本発明は、実施例に限定されるものではない。
【0078】
実験の目的
ショ糖代替素材として、過飽和エリスリトール水溶液を製造した。過飽和エリスリトール水溶液は、低糖質食品の需要に応える事が出来る。
【0079】
実験は、過飽和エリスリトール水溶液において、エリスリトールの結晶核の形成を遅延する方法、及びエリスリトールの結晶成長を抑制する方法を検討した。
【0080】
実験の方法
[1]水溶液でのエリスリトールの結晶化の評価
1.晶析操作:エリスリトール結晶の採取
図1
方法
過飽和(43%(w/w))エリスリトール水溶液(200g)に、無機電解質(K2CO3、Na2CO3、KHCO3、NaHCO3、Na2HPO4、K2HPO4、NaH2PO3、KH2PO4、Na3PO4、KOH、NaOH)8g(4%(w/w))を添加した。
(1)水溶液を、40℃、1時間、加熱し、過飽和状態のエリスリトールを溶解した。
(2)加熱した水溶液を、-0.2℃・min-1で、25℃まで冷却(降温)した。
(3)25℃まで冷却した水溶液を25℃で保持した。
(4)冷却した水溶液において、晶析(結晶化)を確認した。
結晶化率の算出、結晶形状の観察、及び粒子径の測定を行った。
【0081】
2.晶析実験:結晶化開始温度、及び過飽和保持時間の算出
図2
装置
プログラム式恒温水槽において、43%(w/w)エリスリトール水溶液槽を、攪拌羽根で撹拌し、K型熱電対(φ0.9mm)及び温度計で温度を測りながら、PCでモニタリングした。
【0082】
図3
方法
・結晶化率の算出:結晶化率[%(w/w)]=結晶の質量[g]/溶質の質量[g]
・pHの測定:pH電極(9615S-10D、(株)堀場製作所)を装着したpH測定装置
F-74、(株)堀場製作所
加熱溶解後のエリスリトール水溶液のpHを測定する。
(1)結晶化開始温度を、25℃とし、加熱した。
(2)加熱した水溶液を、25℃まで冷却(降温)した。
(3)25℃まで冷却した水溶液を25℃で保持した。
結晶核形成の結晶化開始点を観察し、過飽和保持時間を測定した。
【0083】
図4
結果1
過飽和エリスリトール水溶液に、無機電解質として、炭酸塩、炭酸水素塩等を添加すると、水溶液中のエリスリトールの結晶成長を抑制する事が出来、水溶液中のエリスリトールの結晶化率を小さくする事が出来た。
【0084】
結果2
過飽和エリスリトール水溶液に、無機電解質として、Na3PO4等のリン酸塩、KOH、NaOH等の水酸化物(アルカリ)を添加すると、水溶液中のエリスリトールの結晶核形成を抑制する事が出来、水溶液中のエリスリトールの過飽和保持時間を長くする事が出来た。
【0085】
3.エリスリトールの結晶構造の観察
図5>及び<図6
方法
・試料:篩分級したエリスリトール結晶
・ハイスピードマイクロスコープで二次元画像を取得した。
本体VW-9000型/超小型高性能ズームレンズ
VHZ-20R/偏光証明アダプタOP-87429/フリーアングル観察システム
VHX-J20から構成されるマイクロスコープ、(株)キーエンス
【0086】
結果3
過飽和エリスリトール水溶液に、無機電解質として、炭酸水素塩を添加すると、水溶液中のエリスリトール結晶の粒子は丸く、水溶液中のエリスリトールの結晶の成長の速度を遅延させる事が出来た。
【0087】
エリスリトールの結晶の粒子径
図7
方法
・電磁式篩振盪機(A-3SPARTAN、FRITCH社)、振幅2.5mmで20min。
・篩目開き:1.0mm、710μm、425μm、250μm
(JIS Z 8801、φ200mm×H60mm、東京スクリーン(株))
【0088】
結果4
過飽和エリスリトール水溶液に、無機電解質として、Na2HPO4添加系では、エリスリトールの結晶の粒子径として、250μm以下の粒子が有意に多かった。過飽和エリスリトール水溶液に、無機電解質として、Na2HPO4を添加すると、水溶液中のエリスリトールの結晶の成長を抑制する事が出来る。
【0089】
[2]エリスリトールの結晶化に対する無機電解質の物質量
1.晶析実験
図8
方法
・過飽和(43%(w/w))エリスリトール水溶液に、KOH、NaOHを、4水準(0.01mol、0.05mol、0.10mol、0.15mol)で添加し、晶析操作した。
・過飽和保持時間、及びpHを測定した。
【0090】
結果5
過飽和エリスリトール水溶液中に、無機電解質の物質量を増加させると、水溶液中のエリスリトールの過飽和保持時間を延長する事が出来た。過飽和エリスリトール水溶液中に、無機電解質の物質量を増加させても、過飽和エリスリトール水溶液のpHの変化は無かった。過飽和エリスリトール水溶液中では、共存するイオン(K+、Na+、H+、OH-)の数に依り、水溶液中のエリスリトールの結晶核形成を抑制する事が出来る。
【0091】
2.エリスリトール結晶の構造に及ぼすNaOH、KOHの影響
図9
方法
・試料:篩分級したエリスリトール結晶
・X線構造解析装置(XtaLAB Pro P200-SIM、Rigaku)
・線源MoKα、印加電圧50kV、印加電流40mV、測定範囲5~50deg(2θ)
ステップサイズ0.02deg
【0092】
結果6
過飽和エリスリトール水溶液中に、KOH、NaOH等の水酸化物(アルカリ)を添加すると、エリスリトールは添加した無機電解質と共晶していなかった。過飽和エリスリトール水溶液中に、KOH、NaOH等の水酸化物(アルカリ)を添加すると、共存するイオン(K+、Na+)がエリスリトール分子の表面に吸着し、水溶液中のエリスリトールの結晶核形成を抑制する事が出来、水溶液中のエリスリトールの結晶成長を抑制する事が出来る。
【0093】
[3]ショ糖代替素材でのエリスリトールの結晶化に対する無機電解質
図10
方法
・試料:ショ糖代替素材
エリスリトール、ポリデキストロース、還元マルトオリゴ糖、
イヌリン、イソマルトデキストリンから構成される。
・1h攪拌溶解、25℃で30日間保持した。
・結晶化率、及びpHを測定した。
・色特性:分光測色計で色相a*、b*、明度L*を測定した。
CM-3500d、シャーレ用ターゲットマスクCM-A127、コニカミノルタ(株)
【0094】
結果7
K+(KOH)、Na+(NaOH)等は、ショ糖代替素材の中でも、エリスリトールの結晶化率を減少させ、水溶液中のエリスリトールの結晶化を抑制する事が出来た。
【0095】
食品に、エリスリトール主剤(本発明の過飽和エリスリトール水溶液:エリスリトール、NaOH、KOH等の水酸化物、水を含む主剤)に、ショ糖代替助剤(液体:ポリデキストロース、還元マルトオリゴ糖、イヌリン、イソマルトデキストリン等を含む助剤)を併用して提供し、食品の製造時に使用する事が出来る。
【0096】
実験の結果及び考察
過飽和エリスリトール水溶液において、特に、炭酸塩、炭酸水素塩等の無機電解質を添加すると、良好に、エリスリトールの結晶成長を抑制する事が出来た。
【0097】
過飽和エリスリトール水溶液において、特に、NaOH、KOH等の水酸化物(アルカリ)を添加すると、その添加量を増加させると、良好に、エリスリトールの結晶核の形成を抑制する事が出来た。
【0098】
従来、スポンジケーキ等の膨化食品に、ショ糖代替素材を使用すると、膨化食品(低糖質食品)は、十分に膨化せず、硬く成っていた。
【0099】
食品の中でも、パン、マフィン等の膨化食品に、本発明の過飽和エリスリトール水溶液(エリスリトールを高濃度に含むエリスリトール主剤)を、ショ糖代替助剤と組み合わせて適用する事が出来る。本発明の過飽和エリスリトール水溶液は、低糖質食品として、食品テクスチャーが良好であり、低糖質食品(ゼロカロリー食品)のニーズに応える事が出来る。
【0100】
従来のショ糖を用いた食品と同等の理化学的特性、及び味を有する食品を製造する事が出来た。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の過飽和エリスリトール水溶液は、エリスリトールの結晶化が抑制されており、エリスリトールを高濃度に含み、例えば、パン、マフィン等の膨化食品を製造する時のショ糖代替素材と成るので、食品製造において有用である。本発明の過飽和エリスリトール水溶液は、低糖質食品用のショ糖代替素材の開発に繋がる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10