(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022291
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】半導体レーザ素子
(51)【国際特許分類】
H01S 5/12 20210101AFI20240208BHJP
H01S 5/022 20210101ALI20240208BHJP
【FI】
H01S5/12
H01S5/022
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022125761
(22)【出願日】2022-08-05
(71)【出願人】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【弁理士】
【氏名又は名称】言上 惠一
(72)【発明者】
【氏名】小川 尚史
(72)【発明者】
【氏名】大森 雅樹
【テーマコード(参考)】
5F173
【Fターム(参考)】
5F173AA08
5F173AB13
5F173AH22
5F173AP33
5F173AR14
5F173AR32
5F173ME44
5F173MF13
5F173MF39
(57)【要約】
【課題】 発振波長のばらつきが小さい横マルチモード型半導体レーザ素子を提供する。
【解決手段】 基板と、活性層を含む導波路を備え、基板上に配置される半導体層部と、を備え、導波路は、回折格子を備える幅広部と、幅広部よりも導波路幅が狭く、活性層で生じる光が横マルチモードで伝播する幅狭部と、を含み、導波路は、幅狭部の端面を含む第1端面と、第1端面の反対側に位置する第2端面と、を備え、幅広部は、幅狭部と連続して接続され、第1端面側から第2端面側に向けて導波路幅が広がる第1領域と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
活性層を含む導波路を備え、前記基板上に配置される半導体層部と、
を備え、
前記導波路は、
回折格子を備える幅広部と、
前記幅広部よりも導波路幅が狭く、前記活性層で生じる光が横マルチモードで伝播する幅狭部と、
を含み、
前記導波路は、前記幅狭部の端面を含む第1端面と、前記第1端面の反対側に位置する第2端面と、を備え、
前記幅広部は、
前記幅狭部と連続して接続され、前記第1端面側から前記第2端面側に向けて導波路幅が広がる第1領域と、
を備える、半導体レーザ素子。
【請求項2】
前記導波路は、第2領域をさらに含み、
前記第2領域は前記第1領域と連続して接続され、
前記第2領域における導波路幅は一定であり、
前記第2領域は、前記回折格子を含む、請求項1に記載の半導体レーザ素子。
【請求項3】
前記半導体層部は、第1屈折率を有する第1半導体層と、前記第1屈折率とは異なる第2屈折率を有する第2半導体層とを含み、
前記回折格子では、該回折格子における光伝播方向において、前記第1半導体層の表面に設けられた1以上の第1凸部と、前記第2半導体層の表面に設けられた1以上の第2凸部とが、周期的に配置されている、請求項1に記載の半導体レーザ素子。
【請求項4】
前記第1半導体層は、前記活性層と前記第2半導体層との間に配置されている、請求項3に記載の半導体レーザ素子。
【請求項5】
前記各第1凸部と前記各第2凸部はそれぞれ、前記第2端面に平行に配置されている、請求項3に記載の半導体レーザ素子。
【請求項6】
前記各第1凸部と前記各第2凸部とはそれぞれ、前記第1端面側から前記第2端面側に向けて凸状に湾曲して配置されている、請求項3に記載の半導体レーザ素子。
【請求項7】
前記各第1凸部の内周の接線及び前記各第2凸部の内周の接線はそれぞれ、伝搬光の波面に対して平行である、請求項6に記載の半導体レーザ素子。
【請求項8】
前記第2端面から発せられる光の合計出力のうち90%以上の出力が、波長幅0.01nm以上0.5nm以下の範囲に含まれる、請求項1から7のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項9】
前記回折格子が設けられる部分の導波路幅は、前記幅狭部における導波路幅の2倍以上4倍以下である、請求項1から7のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項10】
前記幅狭部において、導波路幅は15μm以上90μm以下である、請求項1から7のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項11】
前記回折格子が設けられる部分の導波路幅は、30μm以上360μm以下である、請求項1から7のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項12】
前記第1端面から前記回折格子までの距離は、整数mと、各横モードの実効屈折率neffと、各横モードの真空中での波長λ0と、を用いて、
(m+1/4)×λ0/neff
と表される、請求項1から7のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項13】
前記第2端面から出射される光のM2因子は、5以上50以下である、請求項1から7のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項14】
複数の光源部と、
合波用回折格子と、を備え、
前記複数の光源部のそれぞれは、
請求項1から7のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子と、
前記半導体レーザ素子から出射される光が入射する位置に設けられたコリメートレンズと、を備え、
前記合波用回折格子は、前記複数の光源部から出射される光を合波する、光源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体レーザ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体レーザ素子の使用目的が多岐にわたっていることに伴い、横シングルモード型半導体レーザ素子よりも高出力が得られやすい横マルチモード型半導体レーザ素子の需要が高まっている。例えば、特許文献1は、横マルチモード型半導体レーザ素子を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1が開示する横マルチモード型半導体レーザ素子は、縦モードのばらつきが大きい、すなわち発振波長のばらつきが大きい。
【0005】
そこで、本開示は、発振波長のばらつきが小さい横マルチモード型半導体レーザ素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一実施形態に係る半導体レーザ素子は、基板と、活性層を含む導波路を備え、基板上に配置される半導体層部と、を備え、導波路は、回折格子を備える幅広部と、幅広部よりも導波路幅が狭く、活性層で生じる光が横マルチモードで伝播する幅狭部と、を含み、導波路は、幅狭部の端面を含む第1端面と、第1端面の反対側に位置する第2端面と、を備え、幅広部は、幅狭部と連続して接続され、第1端面側から第2端面側に向けて導波路幅が広がる第1領域と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一実施形態に係る半導体レーザ素子は、発振波長のばらつきが小さい横マルチモード型半導体レーザ素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の実施形態1に係る半導体レーザ素子の概略上面図である。
【
図2】
図1に示す半導体レーザ素子のII-II線における概略断面図である。
【
図3】
図1に示す半導体レーザ素子のIII-III線における概略断面図である。
【
図4】
図1に示す半導体レーザ素子のIV-IV線における概略断面図である。
【
図5A】実施形態1に係る半導体レーザ素子の製造方法における一工程を示す概略断面図である。
【
図5B】実施形態1に係る半導体レーザ素子の製造方法における一工程を示す概略断面図である。
【
図5C】実施形態1に係る半導体レーザ素子の製造方法における一工程を示す概略断面図である。
【
図5D】実施形態1に係る半導体レーザ素子の製造方法における一工程を示す概略断面図である。
【
図5E】実施形態1に係る半導体レーザ素子の製造方法における一工程を示す概略上面図である。
【
図5F】実施形態1に係る半導体レーザ素子の製造方法における一工程を示す概略断面図である。
【
図6】本開示の実施形態2に係る半導体レーザ素子の概略上面図である。
【
図7】本開示の実施形態3に係る半導体レーザ素子の概略上面図である。
【
図8】本開示の実施形態4に係る光源装置の概略上面図である。
【
図9A】シミュレーションにおける導波路幅と横モード毎の実効屈折率との関係を表すグラフである。
【
図9B】シミュレーションにおける回折格子を設ける位置での導波路幅とブラッグ波長との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本開示に係る発明を実施するための実施形態、変形例、及び実施例を説明する。なお、以下に説明する、本開示に係る半導体レーザ素子は、本開示に係る発明の技術思想を具体化するためのものであって、特定的な記載がない限り、本開示に係る発明を以下のものに限定しない。
各図面中、同一の機能を有する部材には、同一符号を付している場合がある。要点の説明または理解の容易性を考慮して、便宜上実施形態、変形例、若しくは実施例に分けて示す場合があるが、異なる実施形態、変形例、及び実施例で示した構成の部分的な置換または組み合わせは可能である。後述の実施形態、変形例、及び実施例では、前述と共通の事柄についての記述を省略し、異なる点についてのみ説明する。特に、同様の構成による同様の作用効果については、実施形態、変形例、及び実施例ごとには逐次言及しないものとする。各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため、誇張して示している場合もある。なお、本明細書において、「直交」または「平行」とは、それぞれ±0.1度のずれも含む。
【0010】
実施形態
1.実施形態1
本開示に係る半導体レーザ素子は、基板と、活性層を含む導波路を備え、前記基板上に配置される半導体層部と、を備え、前記導波路は、回折格子を備える幅広部と、前記幅広部よりも導波路幅が狭く、前記活性層で生じる光が横マルチモードで伝播する幅狭部と、を含み、前記導波路は、前記幅狭部の端面を含む第1端面と、前記第1端面の反対側に位置する第2端面と、を備え、前記幅広部は、前記幅狭部と連続して接続され、前記第1端面側から前記第2端面側に向けて導波路幅が広がる第1領域と、を備える。
【0011】
以下、実施形態1の半導体レーザ素子及びその製造方法について、
図1から
図5Fを参照して説明する。
図2に示すように、実施形態1に係る半導体レーザ素子1は、基板2と、半導体層部3と、を備える。
半導体層部3は、基板2上に配置される。半導体層部3は、活性層30を含む導波路50を備える。本明細書において、第1方向Xはレーザ光が発振する方向(すなわち、共振する方向)を意味する。第2方向Yは導波路50の幅方向を意味する。第3方向Zは、半導体層部3の積層方向(すなわち、基板2から半導体層部3に向かう方向)を意味する。なお、第1方向X、第2方向Y、および第3方向Zは、互いに直交している。導波路50は、第1方向Xに沿って延びる。
図1に示すように、導波路50は、幅広部54と、幅狭部53と、を含む。
導波路50はさらに、第1端面51と、第1端面51の反対側に位置する第2端面52と、を含む。第1端面51は、幅狭部53の端面53aを含む。
幅広部54は、回折格子60を備える。幅広部54は、幅狭部53と連続して接続される。幅広部54は、第1端面51側から第2端面52側に向けて導波路幅が広がる第1領域55を備える。
幅狭部53は、幅広部54よりも導波路幅が狭い。幅狭部53は、活性層30で生じる光が横マルチモードで伝播する。
【0012】
(基板)
本発明の半導体レーザ素子1に用いる基板2は、例えば半導体基板である。基板2は、例えばGaN基板等の窒化物半導体基板である。窒化物半導体基板は、n型不純物を含んでよい。n型不純物となる元素は、例えば、O、Si、またはGeであってよい。基板2は、窒化物半導体基板を用いて、その上面を+c面(すなわち、(0001)面)とすることができる。本実施形態において、c面は、厳密に(0001)面と一致する面に限らず、±1度以下、好ましくは±0.03度以下のオフ角を有する面も含む。半導体レーザ素子1は基板2を有していなくてもよい。基板の上面としては、非極性面(M面やA面)や、半極性面(R面)を用いてもよい。
【0013】
(半導体層部)
半導体層部3は、
図2から
図4に示すように、基板2側から順に、第1層10と、活性層30と、第2層20とを含む。
半導体レーザ素子1において、第1層10及び第2層20としては、III-V族半導体層であってよい。III-V族半導体層としては、例えば、In
αAl
βGa
1-α-βN、(0≦α、0≦β、α+β≦1)の組成で形成される窒化物半導体層が挙げられる。
【0014】
窒化物半導体層に用いるn型不純物となる元素は、例えばSiまたはGeが挙げられる。また、p型不純物となる元素としては、例えばMgが挙げられる。これにより、各導電型の窒化物半導体層を形成することができる。
【0015】
(第1層)
第1層10は、n型不純物を含有する半導体層を1以上有する。第1層10は、不純物を意図的にドープしないアンドープの層を有していてもよい。第1層10は、基板2側から順に、屈折率が第2屈折率n2である第2n側半導体層12、屈折率が第1屈折率n1である第1n側半導体層11を含む。第1層10は、これら以外の層を含んでいてもよい。
第1屈折率n1、第2屈折率n2は、活性層30の屈折率n5よりも小さい。第1屈折率n1、及び第2屈折率n2は互いに異なる。例えば、第1屈折率n1は第2屈折率n2より大きい。
【0016】
第2n側半導体層12は、活性層30と基板2との間に配置されている。第2n側半導体層12は、例えば、窒化物半導体層であってよい。窒化物半導体は、例えば、AlGaNまたはGaNが挙げられる。第2n側半導体層12の膜厚は、0.45μm以上3.0μm以下であってよい。n型不純物の含有量は、1×1017cm-3以上5×1018cm-3以下であってよい。実施形態1において、第2n側半導体層12は、例えば、n側クラッド層として機能させることができる。
【0017】
第1n側半導体層11は、活性層30と第2n側半導体層12との間に配置されている。第1n側半導体層11は、例えば、窒化物半導体層であってよい。窒化物半導体は、例えば、AlGaN、GaN、またはInGaNが挙げられる。第1n側半導体層11の膜厚は、例えば0.05μm以上0.5μm以下であってよい。n型不純物の含有量は、1×1017cm-3以上5×1018cm-3以下であってよい。実施形態1において、第1n側半導体層11は、例えば、n側光ガイド層として機能させることができる。
【0018】
(活性層)
第1n側半導体層11上には活性層30が形成されている。活性層30は、例えば、波長が360nm以上520nm以下の光を発する。活性層30は、1以上の井戸層と複数の障壁層とにより構成される量子井戸構造をとってよい。井戸層および障壁層は、例えばGaN、InGaN、AlGaN、AlInGaNである。井戸層は、例えばAlGaN、GaN、InGaNであり、障壁層よりバンドギャップの小さい窒化物半導体である。活性層30は、多重量子井戸構造または単一量子井戸構造であってよい。なお、井戸層及び障壁層のいずれか一方または両方に不純物を含有させてもよい。
【0019】
(第2層)
活性層30上には、p型不純物を含む半導体層(以下、p側半導体層とも呼ぶ)を1以上有する第2層20が形成されている。第2層20は、不純物を意図的にドープしないアンドープの層を有していてもよい。第2層20は、p側光ガイド層とp側クラッド層とを有してもよく、これら以外の層を有してもよい。具体的には、第2層20は、基板2側から(すなわち活性層30側から)順に、屈折率が第3屈折率n3である第1p側半導体層21、屈折率が第4屈折率n4である第2p側半導体層22を含む。第2層20は、これら以外の層を含んでいてもよい。
第3屈折率n3、第4屈折率n4は、活性層30の屈折率n5よりも小さい。第3屈折率n3、第4屈折率n4は互いに異なる。例えば、第3屈折率n3は第4屈折率n4より大きい。
【0020】
第1p側半導体層21は、例えば、窒化物半導体層であってよい。窒化物半導体は、例えば、AlGaNまたはGaNが挙げられる。第1p側半導体層21の膜厚は、0.05μm以上0.25μm以下であってよい。また、第1p側半導体層21はアンドープの層であってよく、1×1016cm-3以上1×1018cm-3以下の範囲でp型不純物が含有されていてもよい。実施形態1において、第1p側半導体層21は、例えば、p側光ガイド層として機能させることができる。
【0021】
第2p側半導体層22は、例えば、窒化物半導体層であってよい。窒化物半導体は、例えば、AlGaNまたはGaNが挙げられる。単層構造であってもよく、互いに組成が異なる窒化物半導体層を積層した多層構造であってもよい。p型不純物の含有量は、1×1017cm-3以上1×1020cm-3以下であってよい。実施形態1において、第2p側半導体層22は、例えば、p側クラッド層として機能させることができる。
【0022】
(リッジ)
図2から
図4に示すように、半導体層部3の第2層20の上面には、リッジ70が設けられる。
図2は、
図1のIIーII線断面であり、幅狭部53の断面図である。
図3は、
図1のIIIーIII線断面であり、幅広部54の断面である。
図4は、
図1のIV-IV線断面である。リッジ70は、例えば、第2p側半導体層22の上面の一部に設けられる。リッジ70は、
図4に示すように、第1方向Xにおいて、半導体レーザ素子1の第1面1aと第2面1bとの間に延びる。なお、
図4では、図面の理解を容易するために、第2p側半導体層22のうちリッジ70に相当する部分を点線で区分けしている。
【0023】
リッジ70の下方には、活性層30を含む導波路50が形成される。導波路50は、コアとクラッドを含む。コアは活性層30を含み、活性層30から発光された光が主に伝播する部分である。コアは、活性層30及びその周辺に位置する半導体層部3の少なくとも一部を含んでいてよい。
【0024】
リッジ70の第2方向Yにおける断面視形状は、
図2及び
図3に示すように、例えば、基板2から離れるに従って第2方向Yにおける幅が狭くなる台形形状である。また、リッジ70の第2方向Yにおける断面視形状は、第2方向Yにおける幅が第3方向Zに沿って一定である矩形形状であってもよい。
リッジ70の上面視における形状、特に第2方向Yの幅は、後述する導波路50の形状が得られるように適宜決定される。
【0025】
なお、本実施形態では、リッジ型導波路を用いて説明しているが、利得型導波路であってもよい。
【0026】
(導波路)
以下、
図1から
図3を参照して、導波路50の詳細な形状について説明する。
図1は、半導体レーザ素子1の概略上面図であり、導波路50及び回折格子60を破線により透視して描いている。
図2及び
図3に示す破線は、導波路50が含まれる範囲の一例を示す。
【0027】
図1に示すように、導波路50は、第1方向Xに延びる。導波路50は、第1方向Xにおいて、第1端面51と、第1端面51と反対側に位置する第2端面52とを含む。導波路50は、幅狭部53と、幅狭部53より幅が広い幅広部54とを含む。
【0028】
幅狭部53の一端面53aは、第1端面51に含まれる。実施形態1では、幅狭部53の一端面53aは、第1端面51と一致する。幅狭部53では、活性層30で生じる光が横マルチモードで伝播する。幅狭部53の幅および導波路のコアとクラッドの屈折率差によって、半導体レーザ素子1の横モード数が決定される。つまり、幅狭部53では、横マルチモードの導波路となるように、規格化周波数Vが以下の式1を満たす。
【0029】
【0030】
式1において、Nは横モードのモード次数である。
【0031】
本実施形態の半導体レーザ素子は、式1に示すように、規格化周波数Vはπ/2以上である。幅狭部53の規格化周波数Vは、好ましくは、9π/2以上100π/2以下、より好ましくは9π/2以上50π/2以下である。これにより、所望な数の横モード数を得ることができる。
【0032】
幅狭部53の幅は、例えば、15μm以上90μm以下である。これにより、所望の横モード数を有する半導体レーザ素子が得られる。なお、幅狭部53の幅は、一定である。一定とは、0%以上10%以下の範囲で幅が変化していることを含む。
【0033】
幅狭部53において、横マルチモードをとる導波路とすることで、例えば以下のような利点がある。1つ目の利点は、光出射面での頓死の低減である。これは、出力されるビームのニアフィールドパターンが、横シングルモードの場合と比べて、光密度の局所的な集中を低減できるためである。2つ目の利点は、出力の揺らぎの低減である。これは、横モード毎に縦モードが存在し、半導体レーザ素子全体として縦マルチモードで発振する場合、これらの合計出力の揺らぎは小さいためである。縦シングルモードをとる半導体レーザの場合、自由スペクトル間隔で隣り合うモードとの競合が生じると、発振する縦モードにより出力が揺らぎ得る。
【0034】
幅広部54は、幅狭部53に連続して接続する。幅広部54は、幅狭部53の第2端面52側に位置する。幅広部54の一端面54aは、第2端面52に含まれる。実施形態1では、幅広部54の一端面54aは、第2端面52と一致する。幅広部54は、第1端面51から第2端面52に向かう第1方向Xに沿って幅が広がる第1領域55を含む。本実施形態において、幅広部54と第1領域55とは同一範囲である。したがって、第1領域55の一端面が第2端面52である。
【0035】
幅広部54の幅、すなわち第1領域55の幅は、幅狭部53で決定される横マルチモードのモード数が伝搬にともなって増減しにくいように変化する(広がる)。第1領域55の幅は、例えば、15μmより大きく360μm以下の範囲で変化する。第1領域55の幅は、例えば、第1端面51から第2端面52に向かう第1方向Xに沿って一定の割合で広がる。すなわち、
図1に破線で示すように、上面視において第1領域55の輪郭線形状は、直線であってよい。また、横モードのモード数が増減しにくいような形状であれば、上面視において第1領域55の輪郭線形状は、曲線であってもよい。
【0036】
第1領域55の幅の変化(広がり程度)は、例えば、第1領域55の第2端面52側の端部の幅y2が、第1領域55の第1端面51側の端部の幅y1の2倍以上4倍以下である。これにより、電流が印可されたことにより生じる熱が第2端面52側に偏りにくくなり、半導体レーザ素子1が受ける熱損傷を低減することができる。
【0037】
上述したように、リッジ70は、上面視において、導波路50と重なる形状を有する。実施形態1におけるリッジ70は、上記の形状を有する導波路50が得られる形状に形成される。
【0038】
(回折格子)
回折格子60は、
図1に示すように、上面視において、幅広部54に設けられている。実施形態1の半導体レーザ素子では、幅広部54にのみ回折格子が設けられている。横モード毎の実効屈折率の差が小さい領域、すなわち、横モード毎の実効屈折率のばらつきが小さい領域で波長選択をすることが可能となる。したがって、発振波長のばらつきが小さい横マルチモード型半導体レーザ素子が得られる。この点に関して、シミュレーションの結果を用いて説明する。
【0039】
まず、シミュレーションの条件を説明する。シミュレーションでは、簡単のため、対称3層平板導波路を仮定して、固有値方程式を解いた。シミュレーションの条件は、コアの屈折率nコア=2.5035、また、クラッドの屈折率nクラッド=2.4974とした。なお、パラメータの有効数字を5桁まで設定しているが、これはシミュレーションの精度を高めるためであり、実際の製造でも同様な精度を求めるものではない。
【0040】
図9Aは、導波路幅と横モード毎の実効屈折率との関係を表している。
図9Aは、導波路幅が15μmのときに発振が可能な横モードのみを示している。つまり、本実施形態の半導体レーザ素子に関して、幅狭部53の導波路幅が15μmの場合に発振が可能な横モードを示している。今回のシミュレーションでは、基本モード(0次のモード)から12次の高次モードまでがプロットされている。
図9Aにおいて、基本モードの実効屈折率は最も左側の実線で表され、12次の高次モードの実効屈折率は最も右側の実線で表されている。なお、実効屈折率は、各導波路幅に対して固有値方程式を解いて得られる規格化周波数および規格化伝搬定数を用いて得られる値である。
【0041】
次に、
図9Aの結果に基づいて、導波路に回折格子60を設ける場合のブラッグ波長をシミュレーションした。
図9Bは、回折格子60を設ける位置での導波路幅とブラッグ波長との関係を表している。
図9Bにおいて、基本モードのブラッグ波長は最も左側の実線で表され、12次の高次モードのブラッグ波長は最も右側の実線で表されている。ブラッグ波長は、ブラッグ波長(λ
B)=実効屈折率(n
eff)×回折格子のピッチ(または周期、P)×2の式から求めた。ただし、回折格子60の周期は、80.886nmとした。これは、導波路幅が十分広い時、基本モードが405nmに収束すると仮定したときの値である。
【0042】
導波路幅が15μm、30μm、および60μmの位置でシミュレーションの結果を比較する。
図9Aおよび
図9Bでは、これらの位置が参照しやすくなるように破線で示した。まず
図9Aにおいて、これらの破線の位置での実効屈折率に注目すると、導波路幅が大きくなるにつれて、横モード毎の実効屈折率の差が小さくなることがわかる。これは、横モード毎にクラッドへの染み出し量が異なるが、導波路幅が大きくなるにつれてクラッドへの染み出し量が少なくなるためである。次に、
図9Bにおいて、
図9Aと同様に、これらの破線の位置におけるブラッグ波長に注目すると、導波路幅が大きくなるにつれて、横モード毎のブラッグ波長の差が小さくなることがわかる。これは、導波路幅が大きくなるにつれて実効屈折率の差、つまり実効屈折率のばらつきが小さくなるためである。たとえば、導波路幅が15μm、30μm、および60μmの位置において、基本モードのブラッグ波長と12次の高次モードのブラッグ波長との差、すなわち各ブラッグ波長のうち最も長い波長と最も短い波長との差は、それぞれ0.874nm、0.235nm、および0.063nmであった。
【0043】
このシミュレーションは、前述のように、幅狭部53の導波路幅として15μmを仮定したものである。したがって、
図9Aおよび
図9Bにおいて、導波路幅が15μmの結果は、導波路幅を広げていない状態が表されている、といえる。また、導波路幅が15μmよりも大きい場合、例えば30μmおよび60μmの結果は、導波路幅を広げた状態が表されている、すなわち、幅広部54に対応する状態が示されている、といえる。したがって、シミュレーションの結果から、実施形態1に係る半導体レーザ素子は、幅狭部53よりも導波路幅が大きな幅広部54に回折格子60を設けることで、幅狭部53よりも実効屈折率のばらつきが小さい領域で波長選択が可能となり、ブラッグ波長、すなわち発振波長のばらつきが小さい横マルチモード型半導体レーザ素子1が得られる。
【0044】
回折格子60は、例えば、幅広部54において、横モード毎の発振波長が、波長幅0.01nm以上0.5nm以下、好ましくは0.01nm以上0.3nm以下、より好ましくは0.01nm以上0.1nm以下の範囲内に収まる部分に設けられる。
【0045】
回折格子60は、例えば、異なる屈折率を有し、隣り合う2つの半導体層の間に設けられる。回折格子60は、例えば、一方の半導体層の表面に設けられた1以上の第1凸部と、他方の半導体層の表面に設けられた1以上の第2凸部と、を含む。第1凸部と第2凸部とはそれぞれ、例えば、複数設けられる。第1凸部と第2凸部とは、光伝播方向において周期的に配置される。第1凸部と第2凸部とは、例えば、互いが交互に配置される。
【0046】
本実施形態の回折格子60は、例えば、
図4に示すように、第1n側半導体層11と第2n側半導体層12との間に設けられる。回折格子60は、第1n側半導体層11の表面に設けられた1以上の第2凸部62と、第2n側半導体層12の表面に設けられた1以上の第1凸部61と、を含む。第2凸部62は、第1n側半導体層11の第2n側半導体層12側の表面に設けられる。すなわち、第2凸部62は、第1n側半導体層11の下層側の表面に設けられる。第1凸部61は、第2n側半導体層12の第1n側半導体層11側の表面に設けられる。すなわち、第1凸部61は、第2n側半導体層12の上層側の表面に設けられる。第1凸部61は、例えば、第2n側半導体層12の上層側の表面に設けられた第1凹部63と交互に、かつ周期的に形成される。
あるいは、第1n側半導体層11の下層部分に第2凹部64と第2凸部62とが交互に、かつ周期的に形成され、第2n側半導体層12の上層部分に第1凸部61が形成されているとみなしてもよい。
【0047】
図1及び
図4に示すように、第1凸部61と第2凸部62とは、第1方向Xにおいて、周期的に配置されている。第1凸部61と第2凸部62とはそれぞれ、第2端面52に平行に配置されている。言い換えると、
図1に示すように、各第1凸部61が延在する方向、及び各第2凸部62が延在する方向はそれぞれ、第2方向Yに平行である。
【0048】
回折格子60は、導波路50だけでなく、
図1に示すように、上面視において、半導体層部3の第2方向Y全体にわたって設けられてもよい。具体的には、半導体レーザ素子1においては、回折格子60は、第2方向Yにおいて導波路50の両側に位置する第1n側半導体層11及び第2n側半導体層12に設けられてもよい。幅広部54と重なる回折格子60の幅y3は、例えば、第2方向Yにおいて回折格子60の幅の0.1倍以上0.9以下である。幅広部と重ならない領域の幅y4は、例えば、第2方向Yにおいて回折格子60の幅の0.1倍以上0.9倍以下である。なお、幅y4は、第2方向Yにおいて、導波路50の一方の側に位置する半導体層部3の幅と、第2方向Yにおいて、導波路50の他方の側に位置する半導体層部3の幅と、の合計である。
【0049】
回折格子60は、幅広部54のうち幅が所定の値以上の部分に配置される。回折格子60は、例えば、幅広部54のうち、幅狭部53における導波路幅の2倍以上4倍以下の導波路幅を有する部分に設けられる。これにより、横モード毎の発振波長のばらつきをさらに小さくすることができる。また、複数存在する横モードの1つに着目するとき、回折格子により波長選択される発振波長の範囲が狭くなる。例えば、1つの横モードに対応する縦モードは1つであることが好ましい。回折格子60は、例えば、幅広部54のうち、導波路幅が30μm以上360μm以下、好ましくは30μm以上100μm以下、より好ましくは30μm以上60μm以下の部分に設けられる。これにより、幅広部54の導波路幅が幅狭部53の導波路幅と比べて十分広くなり、横モード毎の発振波長のばらつきを小さくすることができる。
【0050】
また、通常、導波路の全長にわったって均一な回折格子が設けられた横シングルモードの分布帰還型(DFB:Distributed Feedback)レーザ素子は、λ/4位相シフト領域を設けることで、回折格子の反射帯域の中心、すなわちブラッグ波長で発振することができる。実施形態1の半導体レーザ素子1において、
図4に示すように、回折格子60と反射コート40が形成されている第1端面51との間が距離Lだけ離れていることにより、λ/4位相シフトと同様な効果を有するとみなせる。これにより、発振波長が制御しやすくなり、半導体レーザ素子1のレーザ光の発振波長のばらつきを小さくすることができる。
【0051】
従って、実施形態1の半導体レーザ素子1において、第1端面51と回折格子60とは、例えば、以下の式2を満たす距離Lだけ離れている。すなわち、回折格子60は、第1端面51から距離Lだけ離れた位置から第2端面52に側に設けられる。
【0052】
(式2)
L=(m+1/4)×λ0/neff
【0053】
式2において、neffは各横モードの実効屈折率であり、m(m≧0)は実効屈折率毎に決まる整数であり、λ0は各横モードの真空中の発振波長である。式2において、mを含む第1項で生じる位相差は、波長の整数倍となるので無視できる。したがって、式2において生じる正味の位相差は1/4×λ0/neffとなり、単純なλ/4位相シフトと同様の効果を有する。本実施形態において、mは例えば数千程度の値をとり得る。ただし、この長さLが正確に測定することができない場合は、測定誤差を考慮したときに見積もられるmの範囲に整数が含まれていれば式2を満たしていると考えてよい。
【0054】
なお、距離Lは、回折格子60の第1凸部61の、第1方向Xにおける幅x1(又は第2凸部62の、第1方向Xにおける幅x2)程度のずれを許容誤差として含んでいてもよい。第1凸部61の幅x1(又は第2凸部62の幅x2)は、例えば、第1凸部61の第3方向Zにおける高さz1(又は第2凸部62の第3方向における高さz2)、第1凸部61から活性層30までの第3方向Zにおける距離d1(又は第2凸部62から活性層30までの第3方向における距離d2)等に依拠する。
【0055】
第1凸部61、第2凸部62、及び第1凹部63(または第2凹部64)の形状は特に限定されない。例えば、第2方向Yに直交する断面が鋸歯形状、正弦波形状、矩形形状、台形形状、逆台形状等としてよく、矩形形状、台形形状、逆台形形状等とすることが好ましい。
【0056】
回折格子60のピッチPは、例えば、20nm以上500nm以下、好ましくは、30nm以上250nm以下、より好ましくは40nm以上140nm以下である。なお、第1方向Xにおいて、第1凸部の幅x1と第2凸部62の幅x2は、それぞれ同じであることが好ましいが、異なっていてもよい。
【0057】
第3方向Zにおいて、第1凸部61の高さz1及び第2凸部62の高さz2はそれぞれ、例えば、50nm以上300nm以下、好ましくは50nm以上150nm以下である。なお、第1凸部61の高さz1及び第2凸部62の高さz2は、それぞれ同じであってもよいし、異なっていてもよい。
このような大きさ及び深さにすることにより、所望の結合係数が得られ、横モード毎の波長選択性が向上する。
【0058】
(半導体レーザ素子)
以上の構成を有する実施形態1に係る半導体レーザ素子1は、DFBレーザ素子として機能する。
図1に示すように、半導体レーザ素子1は、第1面1aと、第1方向Xにおいて第1面1aと反対側に位置する第2面1bとを有する。第1面1a及び第2面1bは、第2方向Y及び第3方向Zに延在する平面上に広がる。第1面1aは、反射コート(HRコート)40が形成されている。第2面1bは、無反射コート(ARコート)41が形成されている。半導体レーザ素子1は、回折格子60を導波路50の幅広部54に備え、第1方向Xを共振方向(光の導波方向)とする光共振器を形成する。第2面1bは主として光を半導体レーザ素子1の外部に出射する機能を有する光出射面である。
【0059】
(電極)
半導体レーザ素子1は、
図2、
図3及び
図4に示すように、第1電極5と第2電極6とを備える。
【0060】
第1電極5は、負電極である。第1電極5は、第2n側半導体層12とオーミックを確保して電気的に接続されて設けられる。第1電極5は、例えば、第2n側半導体層12に接して設けられる。また、第1電極5は、例えば、基板2が導電性を有し、オーミックコンタクト性を確保できる場合、基板2の下面に配置されてもよい。第1電極5は、例えば、金属層の多層構造である。第1電極5の材料としては、例えば、Ni、Rh、Cr、Au、W、Pt、Ti、Al等の金属又は合金、Zn、In、Snから選択される少なくとも1種を含む導電性酸化物等の単層膜又は多層膜が挙げられる。導電性酸化物としては、ITO(Indium Tin Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)、GZO(Gallium-doped Zinc Oxide)等が挙げられる。等である。第1電極5は、例えば、TiとAuとの多層構造である。
【0061】
第2電極6は、正電極である。第2電極6は、リッジ70の上面に接して設けられる。第2電極6は、例えば、金属層の多層構造である。第2電極6の材料としては、第1電極5の材料と同一のもののうちから選択できる。第2電極6は、例えば、NiとAuとの多層構造である。
第2電極6は、リッジ70の上面より広い範囲に設けられてもよい。ただし、この場合、
図2及び
図3に示すように、第2層20の上面のうち、リッジ70の上面を除く部分と、第2電極6との間に絶縁部材4を設ける。
【0062】
上記のように構成された半導体レーザ素子1において、第2端面52から発せられる光の合計出力のうち90%以上の出力が、例えば、波長幅0.01nm以上0.5nm以下の範囲に含まれる。すなわち、該光のうち、複数の発振波長は、例えば、0.01nm以上0.5nm以下の範囲に収まる。これは、回折格子60によって波長選択される、横モード毎のレーザ光の発振波長のばらつきが小さいことを意味する。これは、出力される光のパワーとその波長分散を分析することでわかる。
【0063】
また、上記のように構成された半導体レーザ素子1は、第2端面52から出射される光のM2因子は、例えば、5以上50以下である。これにより、所望の横モード数を得ることができる。例えば、10以上100以下、好ましくは10以上50以下の横モード数を得ることができる。
M2因子とは、実際のビーム形状と理想的なガウシアンビームの形状を比較したものである。M2因子は、半導体レーザ素子1のビームウエストω0と、半導体レーザ素子1の発散角θと、半導体レーザ素子1の発振波長λと、を用いて、以下の式3によって定義される。
【0064】
【0065】
以上、上記のように構成された半導体レーザ素子1では、導波路50が、幅狭部53よりも幅が広い幅広部54を含み、該幅広部54に回折格子60が設けられている。これにより、幅狭部53を伝播する横マルチモードの光が、幅狭部53より各横モードの実効屈折率のばらつきが小さい幅広部で回折格子60により波長選択される。したがって、各横モードの発振波長を所定の波長幅内に収めることができ、半導体レーザ素子において、横モード毎の発振波長のばらつきを小さくすることができる。
【0066】
以上、実施形態1において、第1n側半導体層11をn側光ガイド層とし、また、第2n側半導体層12をn側クラッド層として説明をしたが、本開示はこれに限られない。例えば、第2n側半導体層12と基板2の間に他の半導体層をn側クラッド層として設けてもよい。このとき、第1n側半導体層11と第2n側半導体層12はともにn側光ガイド層であってもよい。また、活性層30と第1n側半導体層11との間に半導体層をn側光ガイド層として設けてもよい。このとき、第1n側半導体層11と第2n側半導体層12はともにn側クラッド層であってもよい。もしくは、第1n側半導体層11がn側光ガイド層であり、第2n側半導体層12がn側クラッド層としてもよい。したがって、回折格子60は、n側光ガイド層とn側光ガイド層との間、n側光ガイド層とn側クラッド層との間、またはn側クラッド層とn側クラッド層との間のいずれの位置に設けられていてもよい。
また、回折格子60は、p側半導体層側に設けてもよい。例えば、活性層30と第1p側半導体層21との間、及び/または第2p側半導体層22と第2電極6との間に他の半導体層を設けてもよい。したがって、回折格子60は、p側光ガイド層とp側光ガイド層との間、p側光ガイド層とp側クラッド層との間、またはp側クラッド層とp側クラッド層との間のいずれの位置に設けられていてもよい。
【0067】
2.製造方法
本実施形態に係る半導体レーザ素子1の製造方法は、
(i)基板を準備する工程と、
(ii)半導体層部及び回折格子を形成する工程と、
(iii)リッジを形成する工程と、
(iv)電極を形成する工程と、
を含む。半導体層部の各半導体層は、MOCVD(有機金属気相成長)法、HVPE(ハライド気相成長)法、MBE(分子線気相成長)法、またはスパッタリング法等、当該分野で公知のいずれの方法によって形成することができる。
【0068】
(i)基板を準備する工程
まず、例えばGaNからなる基板2を準備する。
【0069】
(ii)半導体層部及び回折格子を形成する工程
次に、
図5Aに示すように、基板2上に、第2n側半導体層12を形成する。基板2上に下地層を設けてから第2n側半導体層12を形成してもよい。
【0070】
回折格子60を形成する方法としては、まず、第2n側半導体層12を形成した後、
図5Bに示すように、マスクパターン80を形成する。マスクパターン80を形成する方法としては、例えば、二重レジスト法、密着マスク露光法、電子線描画法、位相シフト法等の当該分野で公知の方法を利用した、フォトリソグラフィ工程及びエッチング工程等がある。次に、該マスクパターン80をマスクとしてエッチングして第1凹部63と第1凸部61とを形成する。その後、
図5Cに示すように、マスクパターン80を除去し、第2n側半導体層12の第1凹部63を、第1n側半導体層11の第2凸部62で埋め込むことにより形成することができる。
【0071】
この際のマスクパターン80は、種々のレジスト、Al2O3、ZrO2、SiO2、TiO2、Ta2O5、AlN、SiN等の酸化物や窒化物、ニッケル、クロム等の金属の単層膜又は多層膜を用いて形成することができる。これらの膜厚は、例えば、10nm以上500nm以下で形成することが好ましい。これにより、第1凸部61及び第2凸部62の高さを所望の高さに形成することが可能となる。
【0072】
特に、マスクパターン80として、低屈折率の部材、例えば、SiO2、TiO2、ZrO2、Al2O3、SiN、AlN等を用いてパターニングする場合、マスクパターン80を除去しないまま、第1n側半導体層11を成長させてもよい。これにより、第1凸部61上面に、窒化物半導体よりも低屈折率の部材が配置されることになるが、この低屈折率の部材により、回折格子60の効果をより向上させることができる。
【0073】
また、マスクパターン80を用いて半導体層をエッチングして第1凸部61と第1凹部63とを形成する場合のエッチングは、例えば、ドライエッチングにより行う。例えば、ドライエッチングを利用する場合には、0.05Pa~10Paの範囲内の圧力(一定圧力又は適宜変更した圧力)でエッチングすることが好ましい。これにより、所望の深さのエッチングを効率的に行うことができる。
【0074】
第1n側半導体層11を形成した後、
図5Dに示すように、第1n側半導体層11の上に、活性層30、第2層20を順に形成し、半導体層部3を準備する。第2層20は、基板2側から順に、第1p側半導体層21、第2p側半導体層22を形成してもよい。
活性層30が多重量子井戸構造である場合、基板2側から順に障壁層と井戸層とを所望の層数だけ交互に形成し、活性層30を形成する。なお、この場合、活性層30を形成する工程は、障壁層を形成する工程で終了される。
【0075】
(iii)リッジを形成する工程
リッジ70は、
図5Eに示すように、半導体層部3を形成した後、半導体層部3の表面に形成する。リッジ70は、幅狭部と、幅狭部よりも導波路幅広い幅広部を形成するように設けられる。
例えば、第2p側半導体層22(p側クラッド層)のほぼ全面にCVD装置により、Si酸化物(主としてSiO
2)よりなる保護膜を形成し、その後、保護膜の上に所定の形状のマスクを形成し、反応性イオンエッチング(RIE)装置等を利用し、フォトリソグラフィ技術により、ストライプ状およびテーパー状の保護膜81を形成する。保護膜81のうち、テーパー状の部分の幅はストライプ状の部分の幅よりも大きくする。この保護膜81をマスクとして用いて、例えば、第2p側半導体層22をエッチングすることにより、リッジ70を形成することができる。リッジ70は、通常、第2p側半導体層22からエッチングされ、活性層30よりも第2層20側に形成することが好ましい。例えば、リッジ70は、第2p側半導体層22の途中までエッチングして形成されてもよいし、第2p側半導体層22から第1p側半導体層21の途中に至るまでエッチングして形成されてもよい。
【0076】
(iv)電極を形成する工程
図5Fに示すように、リッジ70の上面に第2電極6を形成し、基板2の下面に第1電極5を形成する。
第2電極6は、リッジ70の上面に接し、かつリッジ70の上面を被覆して形成される。第2電極6がリッジ70の上面以外と接触して形成されることを防止するために、半導体層部3の上面うち、リッジ70の上面にマスクをして、半導体層部3の上面に絶縁部材4を配置する。絶縁部材4は、例えば、スパッタリング等で配置される。その後、マスクとマスク上に配置された絶縁部材4を、例えば、エッチングで除去する。これにより露出したリッジ70の上面に、例えばスパッタリングで第2電極6を形成する。
【0077】
第1電極5は、第2p側半導体層22と電気的に接続するように配置される。基板2が導電性を有する場合、第1電極5は、基板2の下面に形成することができる。第1電極5は、例えば、スパッタリングで形成される。
第1電極5及び第2電極6は、スパッタリング以外に、公知の方法を適宜用いて形成することができる。第1電極5及び第2電極6は、例えば、レジストを用いたリフトオフプロセスやエッチングプロセスにより形成することができる。
なお、第1電極5と基板2との間に透光性電極を形成してもよい。また、第1電極は、第1n側半導体層11又は第2n側半導体層12に直接形成してもよい。
【0078】
電極を形成する工程の後、第1面1aに反射コートを形成し、第2面1bに無反射コートを形成してもよい。反射コート及び無反射コートは、蒸着、スパッタ等で形成することができる。反射コート及び無反射コートは、半導体層部及び回折格子を形成する工程であればいずれのタイミングで形成してもよい。
【0079】
3.実施形態2
実施形態2に係る半導体レーザ素子101は、
図6に示すように、幅広部が、幅が一定である第2領域56を有する点で実施形態1に係る半導体レーザ素子1と異なる。ここで、一定とは、例えば、0%以上10%以下の範囲で幅が変化することを含む。
第2領域56は、第1領域55に連続して接続する。第2領域56は、例えば、第1領域55と第2端面52との間に位置する。第2領域56の一端面56aは、例えば、第2端面52に含まれる。回折格子60は、例えば、第2領域56に設けられる。回折格子60は、第1領域55と第2領域56とにまたがって設けられてもよい。
【0080】
このように第2領域56に回折格子60を設けることで、回折格子60における光の伝播方向D1が回折格子60に直交する。具体的には、回折格子60における光の伝播方向D1が、各第1凸部61が延びる方向及び各第2凸部62が延びる方向、すなわち第2方向Yに直交する。これにより、回折格子60を伝播する光の波面と回折格子60とが平行になり、伝播する光の損失を低減できる。また、半導体レーザ素子1の発振波長のばらつきを小さくできる。
【0081】
4.実施形態3
実施形態3に係る半導体レーザ素子201は、
図7に示すように、上面視において、回折格子260が第1端面51から第2端面52に向けて凸状に湾曲して配置されている点で実施形態1に係る半導体レーザ素子1と異なる。
各第1凸部261及び各第2凸部262はそれぞれ、上面視において、第1端面51から第2端面52に向けて凸状に湾曲して配置されている。各第1凸部261の内周の接線L1及び各第2凸部262の内周の接線L2はそれぞれ、例えば、伝播する光の波面に対して平行である。
【0082】
このように回折格子260が第1端面51から第2端面52に向けて凸状に湾曲して配置されていることで、回折格子260における光の伝播方向D2を回折格子260に直交させることができる。これにより、回折格子260を伝播する光の波面と回折格子260とが平行になり、伝播する光の損失を低減できる。また、半導体レーザ素子1の発振波長のばらつきを小さくできる。
【0083】
なお、上記のように湾曲した回折格子260は、実施形態2に係る半導体レーザ素子101において、回折格子が第1領域55に設けられる場合にも適用可能である。
【0084】
5.実施形態4
図8に示すように、実施形態4は、上記の実施形態1から実施形態3に係る半導体レーザ素子1、101、201のいずれかを含む、光源装置400に関する。光源装置400は、波長ビーム結合WBC:Wavelength Beam Combining)に用いることができる。これにより、光源装置の出力を向上させることができる。
【0085】
光源装置400は、複数の光源部91と、合波用回折格子93と、を備える。複数の光源部91はそれぞれ、実施形態1から実施形態3のいずれかに係る半導体レーザ素子1(又は101、又は201)と、コリメートレンズ92と、を備える。各光源部91の半導体レーザ素子1の発振波長λ1、λ2、・・・、λqは、それぞれ異なる。qは複数の光源部91を区別するための整数である。なお、半導体レーザ素子1は縦マルチモード型の半導体レーザであり、各光源部91から出力される発振波長λqには複数の発振波長が含まれる。ただし、すべての発振波長λqにおいて、縦モード数は一致しなくてもよい。コリメートレンズ92は、半導体レーザ素子1(又は101、又は201)から出射される光が入射する位置に配置される。なお、光源部91は、1つの半導体レーザ素子1(又は101、201)と、1つのコリメートレンズ92の組のみからなる必要はなく、これらを複数組備えていてもよい。これにより、光源部91の発振波長λq毎の出力を高めることができる。
【0086】
合波用回折格子93は、複数の光源部91から出射される光を合波する。合波用回折格子93は、例えば、周期的に配列された溝と突起とを含む。各光源部91は、コリメートレンズ92から出射された光が合波用回折格子93に入射する入射角度αと、合波用回折格子93によって回折された光の回折角度βと、の関係が以下の式4を満たすように、配置される。
【0087】
【0088】
式4において、Gは合波用回折格子93の回折格子の溝本数(g/mm)、lは次数、λは半導体レーザ素子1の発振波長(nm)である。
【0089】
各光源部91から出力される発振波長λqは複数の発振波長を含み、各発振波長と対応する回折角度βは異なる。しかし、光源部91に含まれる半導体レーザ素子1は幅広部に回折格子が設けられており、発振波長のばらつきが小さい。例えば、横モード毎の発振波長は、波長幅0.01nm以上0.5nm以下の範囲に含まれる。これにより、横モード毎の発振波長と対応する回折角度βのずれが小さくなる。したがって、各光源部91から出射された光を合波用回折格子93によってほぼ同じ回折角度として合波することができる。これにより、光源装置400から出射される光は、高い光出力を有する。
上記のように構成された光源装置400から出射される光は、例えば、マルチモードファイバに導入される。マルチモードファイバのコア径は、各半導体レーザ素子1の第2端面(光出射面)52の幅よりも大きい。マルチモードファイバのコア径は、例えば、90μm以上400μm以下である。
【0090】
6.変形例
実施形態1から実施形態4に係る半導体レーザ素子1、101、201は、DFB型の半導体レーザ素子であったが、分布反射型(DBR:Distributed Bragg Reflector)レーザの半導体レーザ素子であってもよい。DBR型の半導体レーザ素子の場合、回折格子60が設けられる位置の直上または直下には、電極は含まれない。例えば、幅狭部は活性層を含み、また幅広部は活性層を含まない。
【0091】
7.他の構成
また、例えば、本開示は、以下のような構成をとることができる。
(項1)
基板と、
活性層を含む導波路を備え、前記基板上に配置される半導体層部と、
を備え、
前記導波路は、
回折格子を備える幅広部と、
前記幅広部よりも導波路幅が狭く、前記活性層で生じる光が横マルチモードで伝播する幅狭部と、
を含み、
前記導波路は、前記幅狭部の端面を含む第1端面と、前記第1端面の反対側に位置する第2端面と、を備え、
前記幅広部は、
前記幅狭部と連続して接続され、前記第1端面側から前記第2端面側に向けて導波路幅が広がる第1領域と、
を備える、半導体レーザ素子。
(項2)
前記導波路は、第2領域をさらに含み、
前記第2領域は前記第1領域と連続して接続され、
前記第2領域における導波路幅は一定であり、
前記第2領域は、前記回折格子を含む、項1に記載の半導体レーザ素子。
(項3)
前記半導体層部は、第1屈折率を有する第1半導体層と、前記第1屈折率とは異なる第2屈折率を有する第2半導体層とを含み、
前記回折格子では、該回折格子における光伝播方向において、前記第1半導体層の表面に設けられた1以上の第1凸部と、前記第2半導体層の表面に設けられた1以上の第2凸部とが、周期的に配置されている、項1又は2に記載の半導体レーザ素子。
(項4)
前記第1半導体層は、前記活性層と前記第2半導体層との間に配置されている、項3に記載の半導体レーザ素子。
(項5)
前記各第1凸部と前記各第2凸部はそれぞれ、前記第2端面に平行に配置されている、項3または4に記載の半導体レーザ素子。
(項6)
前記各第1凸部と前記各第2凸部とはそれぞれ、前記第1端面側から前記第2端面側に向けて凸状に湾曲して配置されている、項3または4に記載の半導体レーザ素子。
(項7)
前記各第1凸部の内周の接線及び前記各第2凸部の内周の接線はそれぞれ、伝搬光の波面に対して平行である、項6に記載の半導体レーザ素子。
(項8)
前記第2端面から発せられる光の合計出力のうち90%以上の出力が、波長幅0.01nm以上0.5nm以下の範囲に含まれる、項1から7のいずれか1つに記載の半導体レーザ素子。
(項9)
前記回折格子が設けられる部分の導波路幅は、前記幅狭部における導波路幅の2倍以上4倍以下である、項1から8のいずれか1つに記載の半導体レーザ素子。
(項10)
前記幅狭部において、導波路幅は15μm以上90μm以下である、項1から9のいずれか1つに記載の半導体レーザ素子。
(項11)
前記回折格子が設けられる部分の導波路幅は、30μm以上360μm以下である、項1から10のいずれか1つに記載の半導体レーザ素子。
(項12)
前記第1端面から前記回折格子までの距離は、整数mと、各横モードの実効屈折率neffと、各横モードの真空中での波長λ0と、を用いて、
(m+1/4)×λ0/neff
と表される、項1から11のいずれか1つに記載の半導体レーザ素子。
(項13)
前記第2端面から出射される光のM2因子は、5以上50以下である、項1から12のいずれか1つに記載の半導体レーザ素子。
(項14)
複数の光源部と、
合波用回折格子と、を備え、
前記複数の光源部のそれぞれは、
項1から13のいずれか1つに記載の半導体レーザ素子と、
前記半導体レーザ素子から出射される光が入射する位置に設けられたコリメートレンズと、を備え、
前記合波用回折格子は、前記複数の光源部から出射される光を合波する、光源装置。
【0092】
以上、本開示の実施形態及び変形例を説明したが、開示内容は構成の細部において変化してもよく、実施形態及び変形例における要素の組合せや順序の変化等は請求された本開示の範囲および思想を逸脱することなく実現し得るものである。
【符号の説明】
【0093】
1、101、201 半導体レーザ素子
1a 第1面
1b 第2面
2 基板
3 半導体層部
4 絶縁部材
5 第1電極
6 第2電極
10 第1層
11 第1n側半導体層
12 第2n側半導体層
20 第2層
21 第1p側半導体層
22 第2p側半導体層
30 活性層
50、150 導波路
51 第1端面
52 第2端面
53 幅狭部
54、154 幅広部
55 第1領域
56 第2領域
60、260、560 回折格子
61、261 第1凸部
62、262 第2凸部
63 第1凹部
70 リッジ
80 マスクパターン
81 保護膜
91 光源部
92 コリメートレンズ
93 合波用回折格子
400 光源装置
d1、d2 距離
z1、z2 高さ
y1~y4 幅
x1、x2 幅
D 光の伝播方向
L1、L2 接線
P ピッチ
X 第1方向
Y 第2方向
Z 第3方向