(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022298
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】音響拡散パネル
(51)【国際特許分類】
G10K 11/28 20060101AFI20240208BHJP
E04B 1/82 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
G10K11/28
E04B1/82 V
E04B1/82 W
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022125774
(22)【出願日】2022-08-05
(71)【出願人】
【識別番号】501241645
【氏名又は名称】学校法人 工学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 義典
(72)【発明者】
【氏名】牧野 潔夫
【テーマコード(参考)】
2E001
【Fターム(参考)】
2E001DF12
2E001FA03
2E001FA14
(57)【要約】
【課題】平面形状が円形状に近い天井面の広い範囲を覆いやすい音響拡散パネルを提供する。
【解決手段】音響拡散パネル(パネル10)は、複数または1つの反射部材18Aによって円形に形成され、反射部材18Aは、円を径方向に複数の領域に分割する同心円状の径方向境界線B1と、円を周方向に複数の領域に分割する放射線状の周方向境界線B2と、で囲まれる単位領域にそれぞれ反射面12を有し、反射面12は、基準面からの距離が、ランダムな距離である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数または1つの反射部材によって円形に形成され、
前記反射部材は、円を径方向に複数の領域に分割する同心円状の径方向境界線と、円を周方向に複数の領域に分割する放射線状の周方向境界線と、で囲まれる単位領域にそれぞれ反射面を有し、
前記反射面は、基準面からの距離がランダムな距離である円形の音響拡散パネル。
【請求項2】
前記径方向境界線は、拡散対象の音の波長がλ1である場合に、半径が(λ1/4)ずつ異なる2以上の整数であるN個の同心円で規定される境界線であり、
前記周方向境界線は、2以上N以下の整数nを用いて表される(2n-1)π+1に最も近い素数を素数P1とした場合に、(n-1)番目とn番目の前記径方向境界線で挟まれる環状領域を、(P1-1)個に分割する境界線であり、
前記ランダムな距離は、同一の前記環状領域に含まれる(P1-1)個の前記単位領域ごとに、(P1-1)個のランダム値で規定される距離である、
請求項1に記載の音響拡散パネル。
【請求項3】
前記ランダム値は、
前記素数P1の原始根を底として(P1-1)個の連続した整数を冪指数として生成された(P1-1)個の冪乗数をそれぞれP1で除した際の剰余と、(λ1/2P1)と、の積である、
請求項2に記載の音響拡散パネル。
【請求項4】
前記連続した整数は、11から始まる(P1-1)個の整数である、請求項3に記載の音響拡散パネル。
【請求項5】
径方向に隣り合う前記環状領域においてそれぞれ算出される前記素数P1が等しい場合に、それぞれの前記環状領域において前記ランダム値を生成する前記原始根を異なる値とする、請求項3に記載の音響拡散パネル。
【請求項6】
径方向に隣り合う前記環状領域においてそれぞれ算出される前記素数P1が等しい場合に、一方の前記環状領域においては、
前記ランダム値は、前記素数P1の2倍の値である2P1と互いに素である(P1-1)個の整数をそれぞれ2P1で除した際の剰余と、(λ1/4P1)と、の積である、
請求項3に記載の音響拡散パネル。
【請求項7】
径方向に隣り合う前記環状領域においてそれぞれ算出される前記素数P1が等しい場合に、それぞれの前記環状領域に含まれる、基準面からの距離が等しい前記単位領域は、周方向において異なる位置に配置されている、請求項3に記載の音響拡散パネル。
【請求項8】
波長がλ1の音に加えて、波長がλ2の音を拡散対象とし、
前記径方向境界線は、
N番目の前記径方向境界線の外側に、半径が(λ2/4)ずつ異なるM個の同心円で規定される境界線を含み、
前記周方向境界線は、
波長がλ1の音の拡散領域である部分の半径である(λ1/4)Nをrとし、M以下の整数mを用いて表される[(8r/λ)+2m+1]π+1に最も近い素数を素数P2とした場合に、(m-1)番目とm番目の前記径方向境界線で挟まれる環状領域を、(P2-1)個に分割する境界線を含み、
前記ランダム値は、
前記素数P2の原始根を底として(P2-1)個の連続した整数を冪指数として生成された(P2-1)個の冪乗数をそれぞれP2で除した際の冪乗剰余と、(λ2/2P2)と、の積である、
請求項2に記載の音響拡散パネル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響拡散パネルに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、音を散乱させるための二次元状原始根形拡散器が開示されている。この二次元状原始根形拡散器を形成する各ウェルは長方形ブロックにより形成され、その深さは原始根シーケンス理論を演算することにより決定されている。これにより、各ウェルの深さが他のウェルの深さと異なる深さを有する二次元状原始根形拡散器が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の二次元状原始根形拡散器は、長方形ブロックを格子状に配置して形成され、全体形状が長方形や正方形などの矩形状である。このような二次元状原始根形拡散器を用いた音響拡散パネルは、例えば天井が矩形状の空間には配置し易い。
【0005】
しかしながら、従来から、例えばオープンステージの劇場やコンサートホールなど、天井の平面形状が矩形より円形に近い空間であって、かつ、音の拡散性を高める需要を有した空間が知られている。このような空間の天井に矩形状の音響拡散パネルを配置した場合、パネルの周囲に、パネルで被覆されない部分が残り易い。このため、所望の拡散性能を得難い可能性がある。
【0006】
本開示は、上記事実を考慮して、平面形状が円形状に近い天井面の広い範囲を覆いやすい音響拡散パネルを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第一態様の音響拡散パネルは、円形であり、複数または1つの反射部材によって円形に形成され、前記反射部材は、円を径方向に複数の領域に分割する同心円状の径方向境界線と、円を周方向に複数の領域に分割する放射線状の周方向境界線と、で囲まれる単位領域にそれぞれ反射面を有し、前記反射面は、基準面からの距離がランダムな距離である。
【0008】
第一態様の音響拡散パネルは、反射部材によって形成され、各単位領域における反射面の基準面からの距離(以下、「高さ又は深さ」と称す場合がある)が、ランダムな距離である。
【0009】
このため、反射面に入射する音に対して、反射音の位相がランダムになる。これにより、入射音と反射音との干渉や、反射音同士の干渉によって形成される音の波形がランダムな形状となる。すなわち、入射音及び反射音によって音が増幅される位置の分布が、空間内における特定の場所に集中しない。これにより、音の拡散性を高めることができる。
【0010】
また、この音響拡散パネルは円形である。このため、平面形状が円形状に近い天井面の広い範囲を覆いやすい。
【0011】
なお、音の拡散性能は、拡散対象とする音の波長、反射面を形成する各単位領域の大きさ、及び、反射面の高さ又は深さに影響を受けるが、本態様によれば、円形である音響拡散パネルの形状を保持しつつ、拡散対象とする音の波長に応じて径方向境界線及び周方向境界線の間隔を調整すれば、容易に拡散対象とする音の拡散性を高めることができる。また、複数の波長の音を拡散対象とする場合も、円形である音響拡散パネルの形状を保持することができる。
【0012】
第二態様の音響拡散パネルは、第一態様の音響拡散パネルにおいて、前記径方向境界線は、拡散対象音の波長がλ1である場合に、半径が(λ1/4)ずつ異なる2以上の整数であるN個の同心円で規定される境界線であり、前記周方向境界線は、2以上N以下の整数nを用いて表される(2n-1)π+1に最も近い素数を素数P1とした場合に、(n-1)番目とn番目の前記径方向境界線で挟まれる環状領域を、(P1-1)個に分割する境界線であり、前記ランダムな距離は、同一の前記環状領域に含まれる(P1-1)個の前記単位領域ごとに、(P1-1)個のランダム値で規定される距離である。
【0013】
第二態様の音響拡散パネルは、単位領域が、径方向境界線により、径方向寸法が(λ1/4)の大きさで形成される。また、周方向境界線により、周方向寸法も(λ1/4)に近い大きさで形成される。このため、拡散対象音の波長がλ1である場合に、当該音を拡散し易い。
【0014】
第三態様の音響拡散パネルは、第二態様の音響拡散パネルにおいて、前記ランダム値は、前記素数P1の原始根を底として(P1-1)個の連続した整数を冪指数として生成された(P1-1)個の冪乗数をそれぞれP1で除した際の剰余と、(λ1/2P1)と、の積である。
【0015】
第三態様の音響拡散パネルによれば、環状領域における各単位領域の高さ又は深さを規定するランダム値が冪乗剰余によって生成されている。このため、単位領域の高さ又は深さは、規則性のない並びで形成されている。
【0016】
また、冪乗剰余は整数である。このため、この剰余と(λ1/2P1)との積である各単位領域の高さ又は深さは(λ1/2P1)の整数倍である。これにより、各単位領域に対する法線方向の反射波同士の位相が一致することに伴って反射波が高め合うことが抑制される。このため、反射音は、法線方向以外の方向にも拡散され易くなる。これにより、様々な方向に反射音が発生し、拡散効果が向上する。
【0017】
第四態様の音響拡散パネルは、第三態様の音響拡散パネルにおいて、前記連続した整数は、11から始まる(P1-1)個の整数である。
【0018】
第四態様の音響拡散パネルによれば、11から始まる(P1-1)個の連続した整数を冪指数として冪乗数が生成されている。このため、例えば1から始まる(P1-1)個の連続した整数を冪指数として冪乗数が生成されている場合と比較して、冪剰数の剰余が、冪乗数そのものの値となり難い。なお、冪乗数を整数で除した際の剰余を「冪乗剰余」と称す。
【0019】
このため、径方向に隣り合う環状領域において、高さ又は深さのパターンが類似した単位領域の並びが形成されることを抑制できる。
【0020】
第五態様の音響拡散パネルは、第三態様に記載の音響拡散パネルにおいて、径方向に隣り合う前記環状領域においてそれぞれ算出される前記素数P1が等しい場合に、それぞれの前記環状領域において前記ランダム値を生成する前記原始根を異なる値とする。
【0021】
第五態様の音響拡散パネルでは、径方向に隣り合う環状領域において、各単位領域の高さ又は深さを規定するランダム値を生成する原始根が異なる値とされている。これにより、それぞれの環状領域におけるランダム値の並びを変えることができる。
【0022】
第六態様の音響拡散パネルは、第三態様に記載の音響拡散パネルにおいて、径方向に隣り合う前記環状領域においてそれぞれ算出される前記素数P1が等しい場合に、一方の前記環状領域においては、前記ランダム値は、前記素数P1の2倍の値である2P1と互いに素である(P1-1)個の整数をそれぞれ2P1で除した際の剰余と、(λ1/4P1)と、の積である。
【0023】
第六態様の音響拡散パネルでは、径方向に隣り合う環状領域において、一方の環状領域における各単位領域の高さ又は深さを規定するランダム値が、既約剰余によって生成されている。このため、単位領域の高さ又は深さは、規則性のない並びで形成されている。また、既約剰余は整数であるので、各単位領域の深さは(λ1/4P1)の整数倍である。これにより、各単位領域に対する法線方向の反射波同士が高め合うことが抑制される。これにより、拡散効果が向上する。
【0024】
第七態様の音響拡散パネルは、第三態様に記載の音響拡散パネルにおいて、径方向に隣り合う前記環状領域においてそれぞれ算出される前記素数P1が等しい場合に、それぞれの前記環状領域に含まれる、基準面からの距離が等しい前記単位領域は、周方向において異なる位置に配置されている。
【0025】
径方向に隣り合う前記環状領域においてそれぞれ算出される素数P1が等しい場合、それぞれの環状領域における、各単位領域の高さ又は深さを規定するランダム値の並びが等しい。この場合、それぞれの環状領域における各単位領域の高さ又は深さの並びが等しい。
【0026】
そこで、第七態様の音響拡散パネルでは、高さ又は深さが等しい単位領域が周方向において異なる位置に配置されている。これにより、径方向において同じ深さの単位領域が連続することを抑制できる。これにより、音の拡散効果が低減され難い。
【0027】
第八態様の音響拡散パネルは、第二態様に記載の音響拡散パネルにおいて、波長がλ1の音に加えて、波長がλ2の音を拡散対象とし、前記径方向境界線は、N番目の前記径方向境界線の外側に、半径が(λ2/4)ずつ異なるM個の同心円で規定される境界線を含み、前記周方向境界線は、波長がλ1の音の拡散領域である部分の半径である(λ1/4)Nをrとし、M以下の整数mを用いて表される[(8r/λ)+2m+1]π+1に最も近い素数を素数P2とした場合に、(m-1)番目とm番目の前記径方向境界線で挟まれる環状領域を、(P2-1)個に分割する境界線を含み、前記ランダム値は、前記素数P2の原始根を底として(P2-1)個の連続した整数を冪指数として生成された(P2-1)個の冪乗数をそれぞれP2で除した際の剰余と、(λ2/2P2)と、の積である。
【0028】
第八態様の音響拡散パネルでは、波長がλ1の音と同様の原理で、波長がλ2の音を拡散できる。これにより、拡散できる音の波長域を拡げることができる。
【発明の効果】
【0029】
本開示の音響拡散パネルは、平面形状が円形状に近い天井面の広い範囲を覆いやすい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】(A)は本開示の実施形態に係る音響拡散パネルを示す斜視図であり、(B)は音響拡散パネルの中心を通る音響拡散パネルの立断面図であり、(C)は音響拡散パネルの中央領域に含まれる単位領域を示す模式図であり、(D)は音響拡散パネルの環状領域に含まれる単位領域を示す模式図である。
【
図2】本開示の実施形態に係る音響拡散パネルにおける反射面の、基準面からの距離を算出するために用いる冪乗剰余の一例を示した表である。
【
図3】(A)は本開示の実施形態に係る音響拡散パネルにおける反射面に入射する音波を示した模式図であり、(B)は異なる反射面から反射した音波の位相差を示すグラフである。
【
図4】複数の波長の音波を拡散対象とした音響拡散パネルの一例を示す平面図である。
【
図5】(A)は本開示の変形例に係る音響拡散パネルを示す斜視図であり、(B)は変形例に係る音響拡散パネルの中心を通る音響拡散パネルの立断面図であり、(C)は変形例に係る音響拡散パネルの中央領域に含まれる単位領域を示す模式図であり、(D)は変形例に係る音響拡散パネルの環状領域に含まれる単位領域を示す模式図である。
【
図6】(A)は本開示の実施形態に係る音響拡散パネルを形成する反射部材の変形例を示す立断面図であり、(B)は別の変形例を示す立断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本開示の実施形態に係る音響拡散パネルについて、図面を参照しながら説明する。各図面において同一の符号を用いて示される構成要素は、同一の構成要素であることを意味する。但し、明細書中に特段の断りが無い限り、各構成要素は一つに限定されず、複数存在してもよい。
【0032】
また、各図面において重複する構成及び符号については、説明を省略する場合がある。なお、本開示は以下の実施形態に限定されるものではなく、本開示の目的の範囲内において構成を省略する、異なる構成と入れ替える、一実施形態及び各種の変形例を組み合わせて用いる等、適宜変更を加えて実施することができる。
【0033】
<音響拡散パネル>
(構成の概要)
図1(A)には、本開示の一実施形態に係るパネル10が記載されている。パネル10は、反射部材18Aによって円形に形成された音響拡散パネルである。パネル10は、建物の天井に敷設できるほか、壁等に敷設してもよい。
【0034】
パネル10は、例えば、円盤状に形成された反射部材18Aを、NC加工などによって上面から所定の深さにくり抜くことにより製造できる。また、反射部材18Aは一つの部材によって円盤状に形成してもよいし、複数の部材を組み合わせて円盤状に形成してもよい。反射部材18Aは、木材、樹脂、金属などの各種の素材を用いて形成することができる。
【0035】
反射部材18Aは、複数の反射面12を有している。反射面12は、パネル10の全体に亘って形成された、パネル10の面内方向に沿う平滑面である。なお、パネル10の面内方向は、例えばパネル10が敷設される建物の天井面や壁面の面内方向と一致する方向である。反射面12は、複数の境界線によって区画される。反射面12を区画する境界線とは、径方向境界線B1及び周方向境界線B2である。
【0036】
このうち、径方向境界線B1とは、円を径方向に複数の領域に分割する境界線であり、パネル10の中心点Oを中心とする同心円状に配置された複数の境界線の総称である(すなわち、「径方向に沿う」境界線の意味ではない)。
【0037】
また、周方向境界線B2とは、円(より詳しくは、後述する環状領域及び中心領域)を周方向に複数の領域に分割する境界線であり、複数の放射線状の境界線の総称である(すなわち、周方向に沿う境界線の意味ではない)。
【0038】
なお、本明細書においては、パネル10の径方向において互いに隣り合う径方向境界線B1によって挟まれる領域を環状領域R2、R3、…と称す。なお、
図1に示す環状領域R3の外側には、任意の数の環状領域を形成できる。
【0039】
環状領域を示す符号に付された数字を「n」(但し、n≧2)とすると、この「n」は、当該環状領域が、パネル10の中心点Oから数えて(n-1)番目とn番目の径方向境界線B1で挟まれる環状領域であることを示す。
【0040】
例えば、環状領域R4は、当該環状領域が、中心から数えて3番目と4番目の径方向境界線B1で挟まれる環状領域であることを示す。
【0041】
なお、中央領域R1は、パネル10の中心から数えて1番目の径方向境界線の内側の領域であり、円形状の領域である。以下の説明においては、円形状領域である中央領域R1と、環状領域R2、R3、…を総称して領域R1、R2、…と称す場合がある。
【0042】
各領域R1、R2、…において、それぞれの領域R1、R2、…を周方向に分割する周方向境界線B2によって挟まれる領域を、単位領域R1/1、R1/2、…と称す。
【0043】
単位領域を示す符号において、「/の左側の部分」は、当該単位領域が含まれる領域(円形状領域又は環状領域)を示している。一方、「/の右側の数字」は単位領域の識別用数字である。なお、以下の説明においては、必要がない場合は、符号を省略して単に「単位領域」と称す。
【0044】
パネル10において、径方向境界線B1に対応する位置には、壁体14が形成されている。また、周方向境界線B2に対応する位置には、壁体16が形成されている。壁体14、16は、各単位領域を、構造上、区画している壁体であり、各反射面12と垂直に形成されている。
【0045】
図1(B)に示すように、各壁体14、16の上端面は、基準面F内に配置されている。換言すると、各壁体14、16の上端面の高さは揃えられている。そして、反射面12は、基準面Fから距離dだけ離間して形成されている。
【0046】
この距離dは、各単位領域における反射面12毎に異なる距離であり、反射面12毎にランダムな距離である。この「ランダムな距離」は、具体的態様を後述するが、適宜の方法を用いて決定することができる。なお、壁体14、16は省略してもよい。
【0047】
<効果>
パネル10は、上記構成を備えている。つまり、パネル10は反射部材18Aによって形成され、各単位領域における反射面12の基準面Fからの距離dが、ランダムな距離である。
【0048】
このため、反射面12に入射する音に対して、反射音の位相がランダムになる。これにより、入射音と反射音との干渉や、反射音同士の干渉によって形成される音の波形がランダムな形状となる。すなわち、入射音及び反射音によって音が増幅される位置の分布が、空間内における特定の場所に集中しない。これにより、音の拡散性を高めることができる。
【0049】
また、このパネル10は円形である。このため、平面形状が円形状に近い天井面の広い範囲を覆いやすい。
【0050】
なお、音の拡散性能は、拡散対象とする音の波長、反射面を形成する各単位領域の大きさ、及び、反射面の高さ又は深さ(基準面Fからの距離)に影響を受ける。
【0051】
そこで、以下に展開例として詳述するように、円形であるパネル10の形状を保持しつつ、拡散対象とする音の波長に応じて、径方向境界線B1の間隔、周方向境界線B2の間隔及び反射面の基準面Fからの距離を調整することが好ましい。これにより、拡散対象とする音の拡散性を高めることができる。また、複数の波長の音を拡散対象とする場合も、円形である音響拡散パネルの形状を保持することができる。
【0052】
<単位領域の大きさの展開例>
本開示においては、上述した各単位領域の大きさ、すなわち、各単位領域の周方向寸法及び径方向寸法は任意であって、反射面12の基準面Fからの距離dがランダムな値であれば、音の拡散性を高める効果を発揮できる。但し、好適には、さらに以下の構成を備えていることが好ましい。
【0053】
(中央領域における単位領域の大きさ)
図1(C)には、領域R1に含まれる単位領域R1/1が示されている。領域R1を区画する径方向境界線B1は、拡散対象音の波長がλ
1である場合に、半径が(λ
1/4)である円である。そして、周方向境界線B2は、領域R1を周方向に6等分する境界線である。
【0054】
すなわち、領域R1に含まれる単位領域R1/1、R1/2~R1/6の「外周部の」周方向寸法L1は、2π×(λ1/4)×(1/6)=(λ1/12)πである。また、径方向寸法は(λ1/4)である。基準面Fからの離間距離(深さ)dについては後述する。
【0055】
(環状領域における単位領域の大きさ-径方向寸法)
図1(D)には、一例として、環状領域R3に含まれる単位領域R3/1が示されている。環状領域R2、3、4、…を区画する径方向境界線B1は、それぞれ、拡散対象音の波長がλ
1である場合に、半径が(λ
1/4)ずつ異なる同心円である。すなわち、環状領域R2、3、4、…の径方向寸法は(λ
1/4)である。
【0056】
(環状領域における単位領域の大きさ-周方向寸法)
周方向境界線B2は、環状領域R2、3、4、…における径方向の中心を、周方向に(λ1/4)に「近い長さ」の単位領域に分割する境界線である。すなわち、環状領域R2、3、4、…の周方向寸法は(λ1/4)に「近い」長さである。係る点について、以下に詳細に説明する。
【0057】
環状領域Rn[すなわち、パネル10の中心から数えて(n-1)番目とn番目の径方向境界線B1で挟まれる環状領域]において、内側の径方向境界線B1の円周は、2π×(n-1)×(λ1/4)であり、外側の径方向境界線B1の円周は、2π×n×(λ1/4)である。
【0058】
したがって、内側及び外側の径方向境界線B1の中央にある円の円周は、(2n-1)π×(λ1/4)である。この円周を(λ1/4)の長さの単位領域に分割しようとすると、当該円は、計算上、(2n-1)π個の部分に分割される。しかしながら、(2n-1)πは整数ではないため、当該円を(2n-1)π個の部分に分割することはできず、この円周を(λ1/4)の長さの単位領域に分割することもできない。
【0059】
そこで、内側及び外側の径方向境界線B1の中央にある円を(λ1/4)に「近い長さ」の単位領域に分割することが好ましい。そのためには、円周を(2n-1)πに「近い整数」で示される個数の領域に分割することが好ましい。
【0060】
そこで、本態様では、周方向境界線B2によって、(2n-1)π+1に最も近い素数をP1とした場合に、環状領域Rnを(P1-1)個に分割する。すなわち、上述した(2n-1)πに「近い整数」として、(P1-1)を採用する。これにより、環状領域Rnにおける各単位領域の周方向寸法は(λ1/4)に近い長さとなる。
【0061】
ここで、
図2には、(n-1)番目とn番目の径方向境界線B1で挟まれる環状領域Rnに関して、「n」がリング番号として各行に記載され、当該リング番号としてのnから導出される素数P
1が、リング番号の隣の列に記載されている。
【0062】
例えば、リング番号が「3」である環状領域R3では、(2×3-1)π+1(≒16.7)に最も近い素数は「17」である。そして、環状領域R3は、周方向境界線B2によって、(17-1)=16個に分割される。
【0063】
なお、環状領域Rnは、(2n-1)πに最も近い素数で分割してもよいが、(2n-1)π+1に最も近い素数P1を用いることで、後述するように、基準面Fからの離間距離(基準面Fからの深さ)dとしてランダムな値を導出し易い。
【0064】
(環状領域における単位領域の大きさ-基準面からの離間距離)
環状領域Rnに含まれる各単位領域において、反射面12の基準面Fからの距離は、同一の環状領域に含まれる(P1-1)個の単位領域ごとに、(P1-1)個のランダム値で規定される。
【0065】
このランダム値は、環状領域Rnに含まれる各単位領域において、素数P1の原始根を底として(P1-1)個の連続した整数を冪指数として生成された(P1-1)個の冪乗数をそれぞれP1で除した際の剰余と、(λ1/2P1)と、の積である。なお、冪乗数を整数で除した際の剰余を「冪乗剰余」と称すが、以下の説明においては、必要がない場合は単に「剰余」と称す場合がある。
【0066】
ここで、
図2には、(n-1)番目とn番目の径方向境界線B1で挟まれる環状領域Rnに関して、それぞれのリング番号n及び素数P
1に応じた、原始根及び(P
1-1)個の冪乗数をそれぞれP
1で除した際の剰余が示されている。
【0067】
例えば、環状領域R3においては、まず、導出された素数17の原始根のうち、一例として最も小さな原始根3を底として、(17-1)=16個の「連続した整数」を冪指数として、16個の冪乗数を生成する。つまり、16個の冪乗数31、32、33、34、…、316を生成する。
【0068】
そして、16個の冪乗数をそれぞれP1=17で除した際の剰余を求める。つまり、16個の31/17、32/17、33/17、34/17、…、316/17の剰余として、3、9、10、13、…、1を求める。
【0069】
さらに、これらの16個の剰余それぞれと、(λ1/2P1)との積を算出することで、16個の単位領域におけるそれぞれの反射面12の、基準面Fからの距離dが、16個の、互いに一致しないランダム値として導出される。
【0070】
(ランダム値の好適な例)
なお、上記実施例では、冪指数として用いる「連続した整数」として、「1」から始まる連続した整数を用いている。但し、この「連続した整数」としては、他の整数から始まるものを用いてもよい。「他の整数」は特に限定されるものではないが、具体的には、例えば「11」から始まる連続した整数を用いることができる。
【0071】
ここで、冪指数として用いる「連続した整数」として、「1」から始まる連続した整数を用いた具体例について、まず説明する。
図2に示されるように、例えば環状領域R9及びR10において原始根を2とした場合に、それぞれ、冪指数として「1」から始まる連続した整数を用いる。
【0072】
この場合、原始根2を底とする冪乗数21、22、23、24を、例えば環状領域R9において導出された素数53と、環状領域R10において導出された素数61で割った冪剰数の剰余は、2、4、8、16、32と算出される。この剰余は、原始根2を底とする冪乗数21、22、23、24そのものと等しい。また、例えば、環状領域R6、R11等においても、同様の剰余が算出される。
【0073】
すなわち、異なる環状領域Rnにおいて、反射面12の基準面Fからの距離dのパターンとして、「相似する」パターンが生成されやすい。
【0074】
そこで、冪指数として用いる「連続した整数」として、「11」から始まる連続した整数を用いた具体例について説明する。
図2に示されるように、例えば環状領域R9及びR10において原始根を2とした場合に、それぞれ、冪指数として「11」から始まる連続した整数を用いる。
【0075】
この場合、原始根2を底とする冪乗数211、212、213、214を、環状領域R9において導出された素数53で割った冪剰数の剰余は、34、15、30、7と算出される。一方、原始根2を底とする冪乗数211、212、213、214を、環状領域R10において導出された素数61で割った冪剰数の剰余は、35、9、18、36と算出される。
【0076】
すなわち、異なる環状領域Rnにおいて、反射面12の基準面Fからの距離dのパターンとして、相似するパターンが生成され難い。
【0077】
<効果>
以上、単位領域の大きさの展開例について詳述したが、係る構成によると、パネル10は、
図1(C)、(D)に示すように、単位領域が、径方向境界線B1により、径方向寸法が(λ
1/4)の大きさで形成される。また、周方向境界線B2により、周方向寸法も(λ
1/4)に近い大きさで形成される。このため、拡散対象の音の波長がλ
1である場合に、当該音や、当該音より短い波長の音(高い音)を拡散し易い。(例えば、日本音響学会誌 第42巻11号、884--893、1986参照。)
【0078】
また、このパネル10によれば、環状領域Rnにおける各単位領域の高さ又は深さ(上記の説明においては基準面Fからの距離d)を規定するランダム値が、冪乗剰余によって生成されている。このため、単位領域の基準面Fからの距離dは、規則性のない並びで形成されている。
【0079】
また、冪乗剰余は整数であるので、このため、この冪乗剰余と(λ1/2P1)との積である各単位領域の基準面Fからの距離dは、(λ1/2P1)の整数倍である。これにより、波長がλ1の音に関して、各単位領域に対する法線方向の反射波同士の位相が一致することに伴って反射波同士が高め合うことが抑制される。このため、反射音は、法線方向以外の方向にも拡散され易くなる。したがって、様々な方向に反射音が発生し、拡散効果が向上する。
【0080】
ここで、音の拡散効果が向上する理由について詳述する。
図3(A)には、同じ環状領域Rnにおいて互いに隣り合う単位領域における一方の反射面12Aと、他方の反射面12Bと、が示されている。反射面12Aの基準面Fからの距離dを距離d
1、反射面12Bの基準面Fからの距離dを距離d
2、反射面12Aと12Bとの高低差を高低差δd(=d
2-d
1)とする。
【0081】
また、
図3(A)には、反射面12Aに法線方向から入射する音波W1を実線で模式的に示し、反射面12Bに法線方向から入射する音波W2を破線で模式的に示している。音波W1、W2それぞれの反射音の間には、反射面12Aと12Bとの高低差δdの影響を受けて、「2×δd」の位相差が生じる。
【0082】
上述したように、距離d1及びd2は何れも、(λ1/2P1)の整数倍である。これらの整数(冪乗剰余)をそれぞれT1、T2とすると、距離d1、d2及びδd、及び位相差(2×δd)はそれぞれ次のように示される。
【0083】
d1=T1×(λ1/2P1)
d2=T2×(λ1/2P1)
δd=(T2-T1)×(λ1/2P1)
2×δd=2×(T2-T1)×(λ1/2P1)・・・(1)式
【0084】
図3(B)には、音波W1の波形が曲線K1で示され、音波W2の波形が曲線K2で示されている。音波W1及びW2の波長はλ
1である。波長λ
1に対する音波W1、W2の位相差(2×δd)の値は、(1)式を参照すると、次の通り示される。
【0085】
2×δd/λ1=[2×(T2-T1)×(λ1/2P1)]/λ1=(T2-T1)/P1
【0086】
(T2-T1)は、何れも冪乗数をそれぞれP1で除した際の剰余であるため、P1より小さい。このため、(T2-T1)/P1が整数値となることはない。
【0087】
ここで、仮に、音波W1、W2の波長λ
1に対する位相差(2×δd)の値が整数値となる場合は、
図3(B)に示す曲線K1、K2が重なりあって、合成波の振幅が音波W1、W2の振幅の2倍となる。すなわち、音波W1、W2におけるそれぞれの反射波が干渉して高め合い、反射面12A、12Bの法線方向に対して、大きな反射音が生成される。
【0088】
一方、音波W1、W2の波長λ1に対する位相差(2×δd)の値が波長λ1の整数値と「ならない」場合は、曲線K1、K2が重なり合わないので、音波W1、W2におけるそれぞれの反射波の干渉が、上記の場合と比較して抑制される。このため、反射面12A、12Bの法線方向に対する大きな反射音の生成が抑制される。つまり、反射音が拡散される。
【0089】
すなわち、各単位領域の基準面Fからの距離dが(λ1/2P1)の整数倍であることにより、波長λ1である音波が各単位領域に入射した際の、反射波の位相差(2×δd)が波長λ1の整数値と「ならない」。これにより、波長がλ1の音に関して、各単位領域に対する法線方向の反射波同士の位相が一致することに伴って反射波同士が高め合うことが抑制される。
【0090】
なお、本実施形態においては、波長λ1の音の拡散性を高めることができるが、この効果は、波長λ1(すなわち、周波数1/λ1)の音のみに限定されず、この音より0.5オクターブ低い音から、1オクターブ高い音まで作用する。
【0091】
<ランダム値の決定方法の展開例>
パネル10の径方向に隣り合う環状領域Rnにおいては、それぞれ算出される素数P1が、等しい値となる場合がある。このような場合においては、隣り合う環状領域Rnにおけるランダム値が等しい値となる。
【0092】
隣り合う環状領域Rnにおけるランダム値が等しい値となると、これらの環状領域Rnにおいて、反射面12の基準面Fからの距離dのパターンとして「同一の」パターンが生成される。
【0093】
本開示のパネル10においては、部分的にこのような「同一の」パターンが生成されてもよいが、以下に示す展開例を採用することで、「同一の」パターンが生成されることを抑制できる。または、「同一の」パターンが生成されても、音の拡散効果の低減を抑制できる。
【0094】
(第一展開例)
第一展開例では、隣り合う環状領域Rnにおいて、それぞれ算出される素数P1が等しい値となる場合は、ランダム値を生成する原始根を異なる値とする。
【0095】
例えば
図2に示されるように、隣り合う環状領域R33、R34においては、それぞれ算出される素数P
1が何れも「211」となる。この場合、環状領域R33においてランダム値を生成する原始根を2として、環状領域R34においてランダム値を生成する原始根を3とする。
【0096】
これにより、隣り合う環状領域Rnにおいて、反射面12の基準面Fからの距離dのパターンとして「同一の」パターンが生成されることが抑制される。また、「相似する」パターンが生成されることも抑制できる。
【0097】
なお、本例では、ランダム値を生成する原始根として「2」及び「3」を用いているが、互いに異なる原始根であれば、どのような数字を用いてもよい。
【0098】
(第二展開例)
第二展開例では、隣り合う環状領域Rnにおいて、それぞれ算出される素数P1が等しい値となる場合は、一方の環状領域Rnにおいては、ランダム値を、素数P1の2倍の値である2P1と互いに素である(P1-1)個の整数をそれぞれ2P1で除した際の剰余(既約剰余)と、(λ1/4P1)と、の積とする。
【0099】
「2P1と互いに素である整数を2P1で除した際の剰余(既約剰余)」は、「P1の原始根を底として(P1-1)個の連続した整数を冪指数として生成された(P1-1)個の冪乗数をそれぞれP1で除した際の剰余(冪乗剰余)」と、一致しない。
【0100】
これにより、隣り合う環状領域Rnにおいて、反射面12の基準面Fからの距離dのパターンとして「同一の」パターンが生成されることが抑制される。また、「相似する」パターンが生成されることも抑制できる。
【0101】
(第三展開例)
第三展開例では、隣り合う環状領域Rnにおいて、それぞれ算出される素数P1が等しい値となる場合は、それぞれの環状領域Rnに含まれる各単位領域を、周方向にずらして配置する。
【0102】
より具体的には、素数P1が等しい場合、上述したように、隣り合う環状領域Rnにおいて、反射面12の基準面Fからの距離dのパターンとして「同一の」パターンが生成される。そこで、隣り合う環状領域Rnにおいて、基準面からの距離dが等しい単位領域を、周方向において異なる位置に配置する。
【0103】
これにより、隣り合う環状領域Rnにおいて、反射面12の基準面Fからの距離dのパターンとして「同一の」パターンが生成されても、音の拡散効果が低減されることを抑制できる。
【0104】
<拡散対象音の展開例>
上記実施例においては、拡散対象音の波長がλ1である場合のパネルの構成について説明したが、本開示の実施例はこれに限らない。例えば、波長がλ1である音に加えて、異なる波長の音を拡散対象音とすることができる。すなわち、本開示のパネルは複数の波長の音を拡散対象音とすることができる。
【0105】
例えば
図4には、拡散対象音を、波長λ
1(4kHz)、波長λ
2(1.4kHz)、波長λ
3(0.5kHz)の3波長としたパネル10Aの概略が示されている。パネル10Aは、中心部に波長λ
1(4kHz)の音を拡散させるパネル10を含んで構成されている。また、パネル10の周囲に、波長λ
2(1.4kHz)の音を拡散させる環状のパネル20が配置されている。さらに、パネル20の周囲に、波長λ
3(0.5kHz)の音を拡散させる環状のパネル30が配置されている。
【0106】
(環状領域における単位領域の大きさ-径方向寸法)
ここで、波長がλ1の音を拡散させるパネル10の最も外側の径方向境界線B1を、中心から数えてN番目の境界線とする(上記のnはN以下の整数)。
【0107】
パネル20における径方向境界線B3は、パネル10におけるN番目の径方向境界線B1の外側に、半径が(λ2/4)ずつ異なる同心円で規定される境界線である。これにより、パネル20に含まれる単位領域の径方向寸法は(λ2/4)となる。
【0108】
(環状領域における単位領域の大きさ-周方向寸法)
パネル20における周方向境界線B4は、パネル20において、径方向境界線B3で挟まれる各環状領域Rmを、(λ2/4)に「近い長さ」の単位領域に分割する境界線である。
【0109】
そこで、本態様では、[(8r/λ)+2m+1]π+1に最も近い素数をP2とした場合に、(m-1)番目とm番目の径方向境界線で挟まれる環状領域Rmを、(P2-1)個に分割する。
【0110】
このうち、rは、波長がλ1の音の拡散領域である部分(パネル10)の半径(λ1/4)×Nである。mは整数である。これにより、パネル20に含まれる単位領域の周方向寸法は(λ2/4)に近い値となる。なお、周方向境界線B4による環状領域Rmの分割方法は、周方向境界線B2による環状領域Rnの分割方法と同様であり説明は省略する。
【0111】
(環状領域における単位領域の大きさ-基準面からの離間距離)
パネル20における各単位領域に形成される反射面を、反射面22とする。環状領域Rmに含まれる各単位領域において、反射面22の基準面F(
図1(B)参照)からの距離は、同一の環状領域に含まれる(P
2-1)個の単位領域ごとに、(P
2-1)個のランダム値で規定される。
【0112】
このランダム値は、素数P2の原始根を底として(P2-1)個の連続した整数を冪指数として生成された(P2-1)個の冪乗数をそれぞれP2で除した際の冪乗剰余と、(λ2/2P2)と、の積である。
【0113】
これにより、波長がλ2の音に関して、各単位領域に対する法線方向の反射波同士が高め合うことが抑制される。したがって、拡散効果が向上する。
【0114】
なお、パネル20においても、上述した第一展開例、第二展開例、第三展開例を適用することができる。パネル30も、波長λ3に応じて、同様の構成によって形成できる。
【0115】
<変形例>
上記実施形態においては、円盤状に形成された反射部材18Aを、上面から所定の深さにくり抜くことにより、パネル10を形成するものとして説明した。また、反射面12の基準面Fからの距離dを、基準面Fからの深さとして説明した。
【0116】
しかし、本開示の実施形態はこれに限らない。例えば
図5(A)~(D)に示すパネル10Bのように、本開示のパネルは、複数の反射部材18Bを組み合わせて形成してもよい。この際、反射部材18Bは、単位領域ごとにブロック状に形成してもよい。
【0117】
そして、
図5(B)に示すように、反射面12の基準面Fからの距離dは、基準面Fからの「高さ」としてもよい。すなわち、本開示においては、反射面12からみて音の入射方向側にある基準面Fからの距離dをランダム値としてもよいし(
図1に示した例)、反射面12からみて音の入射方向と「反対側」にある基準面Fからの距離dをランダム値としてもよい(
図5に示した例)。
【0118】
また、反射部材18Bをブロック状に形成する場合、
図6(A)に示すように、各ブロックは、制御装置19からの制御により矢印Mvで示すように、基準面Fから接離する方向へ動かして、反射面12の、基準面Fからの距離dを調整できるようにしてもよい。
【0119】
このような制御装置19を備えていれば、各反射面12の基準面Fからの距離dを自由に調整できる。これにより、例えばパネル10の各反射面12を同一の平面上に配置し、音を拡散させる必要性に応じて距離dを調整することもできる。
【0120】
また、本開示の反射部材は、
図6(B)に示す反射部材18Cのように、一枚の板材から形成してもよい。この反射部材18Cは、例えばプレス加工によって形成される。このように、本開示は様々な態様で実施し得る。
【符号の説明】
【0121】
10 パネル(音響拡散パネル)
10A パネル(音響拡散パネル)
10B パネル(音響拡散パネル)
12 反射面
18A 反射部材
18B 反射部材
18C 反射部材
B1 径方向境界線
B2 周方向境界線
B3 径方向境界線
B4 周方向境界線
F 基準面
Rn 環状領域
Rm 環状領域