(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022442
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】パン類の製造方法
(51)【国際特許分類】
A21D 13/00 20170101AFI20240208BHJP
A21D 2/34 20060101ALI20240208BHJP
A21D 2/26 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
A21D13/00
A21D2/34
A21D2/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023010465
(22)【出願日】2023-01-26
(31)【優先権主張番号】P 2022124055
(32)【優先日】2022-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】301049777
【氏名又は名称】日清製粉株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】寶示戸 愛子
(72)【発明者】
【氏名】山本 幸弘
【テーマコード(参考)】
4B032
【Fターム(参考)】
4B032DB01
4B032DB02
4B032DG02
4B032DK03
4B032DK12
4B032DK18
4B032DK22
4B032DK43
4B032DK47
4B032DK48
4B032DK54
4B032DL06
4B032DL20
4B032DP17
4B032DP23
4B032DP33
4B032DP40
(57)【要約】
【課題】焼成前、焼成中、または焼成後におけるパン類の萎みを抑制することができ、かつ腰折れや火ぶくれが抑えられ、良好な内相や外観を有し、さらには、歯切れがよくふわっとした食感と良好な口溶けを有し、食感にも優れたパン類の製造方法の提供。
【解決手段】生地の冷凍工程を含まない、ストレート法によるパン類の製造方法であって、生地に用いる穀粉類100質量部に対して、全卵もしくは卵黄を3~30質量部、および/またはグルテンを0.5~9質量部使用することを含み、ホイロ発酵後に焼成した後のパン類の比容積が6.5~10.0mL/gであることを特徴とする方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生地の冷凍工程を含まない、ストレート法によるパン類の製造方法であって、
生地に用いる穀粉類100質量部に対して、全卵もしくは卵黄を3~30質量部、および/またはグルテンを0.5~9質量部使用することを含み、
ホイロ発酵後に焼成した後のパン類の比容積が6.5~10.0mL/gであることを特徴とする方法。
【請求項2】
ファーモグラフを用いて測定したガス発生量が、生地30gに対して35mL以下となる温度および時間の条件で一次発酵を行う請求項1に記載の方法。
【請求項3】
生地に用いる穀粉類100質量部に対して、糖類を5質量部以上使用する請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記パン類が食パンである請求項1または2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パン類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、パン類は需要者のニーズの多様化に伴い、様々な食感のものが開発されてきた。
【0003】
例えば、より高品質なパン類食品、則ち、従来のものより、均一な外観、優れた内相を有し、食感、風味、保存性のよい、特に、ソフトでしっとりとした食感、風味、保存性の点で優れたパン類食品を得る技術として、アルカリ金属水酸化物水溶液から再生されたセルロースとポリペプチド及び/又は食用多糖類とを含む可食体、並びにヘミセルラーゼを含有する、パン類食品用改良剤が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ソフトな物性でありながら、歯切れがよく、高年齢者や、歯に関する病気の患者等、咀嚼や嚥下が不自由な状況となった、いわゆる咀嚼・嚥下機能低下者であっても、パン本来の香味や食感を楽しみながら咀嚼でき、且つ、安全に嚥下可能なパン類を提供する技術として、穀粉類100質量部に対し、糖類を2~10質量部、油脂類を2~20質量部含有するパン生地を、比容積が5.3~10.0ml/gとなるように焼成してなり、咀嚼・嚥下機能低下者用であるパン類が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
上記したように、パン類に関する様々な技術が提案されている。しかしながら、焼成前、焼成中、または焼成後におけるパン類の萎みを抑制することができ、かつ腰折れや火ぶくれが抑えられ、良好な内相や外観を有し、さらには、歯切れがよくふわっとした食感と良好な口溶けを有し、食感にも優れたパン類は未だ提供されておらず、その速やかな提供が強く求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001-161258号公報
【特許文献2】特開2006-304692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば、一般的な食パンの焼成後の比容積は4mL/g前後であり、これよりも高い比容積とすることができれば、軽い、よりソフトな食感となると考えられる。しかしながら、従来の技術では、焼成前、焼成中、または焼成後にパン類が萎んでしまうため、焼成後の比容積が高いパン類を製造することは困難であった。
【0008】
本発明は、このような要望に応え、現状を打破し、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、焼成前、焼成中、または焼成後におけるパン類の萎みを抑制することができ、かつ腰折れや火ぶくれが抑えられ、良好な内相や外観を有し、さらには、歯切れがよくふわっとした食感と良好な口溶けを有し、食感にも優れたパン類の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記目的を達成するべく鋭意検討を行った結果、生地の冷凍工程を含まない、ストレート法によるパン類の製造方法において、生地に用いる穀粉類100質量部に対して、全卵もしくは卵黄を3~30質量部、および/またはグルテンを0.5~9質量部使用し、ホイロ発酵後に焼成した後のパン類の比容積を6.5~10.0mL/gとすることで、前記課題を解決できることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、本発明者らの前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 生地の冷凍工程を含まない、ストレート法によるパン類の製造方法であって、
生地に用いる穀粉類100質量部に対して、全卵もしくは卵黄を3~30質量部、および/またはグルテンを0.5~9質量部使用することを含み、
ホイロ発酵後に焼成した後のパン類の比容積が6.5~10.0mL/gであることを特徴とする方法である。
<2> ファーモグラフを用いて測定したガス発生量が、生地30gに対して35mL以下となる温度および時間の条件で一次発酵を行う前記<1>に記載の方法である。
<3> 生地に用いる穀粉類100質量部に対して、糖類を5質量部以上使用する前記<1>または<2>に記載の方法である。
<4> 前記パン類が食パンである前記<1>~<3>のいずれかに記載の方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、焼成前、焼成中、または焼成後におけるパン類の萎みを抑制することができ、かつ腰折れや火ぶくれが抑えられ、良好な内相や外観を有し、さらには、歯切れがよくふわっとした食感と良好な口溶けを有し、食感にも優れたパン類の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(パン類の製造方法)
本発明のパン類の製造方法は、生地の冷凍工程を含まない、ストレート法によるパン類の製造方法であって、生地に用いる穀粉類100質量部に対して、全卵もしくは卵黄を3~30質量部、および/またはグルテンを0.5~9質量部使用することを少なくとも含む。
本発明のパン類の製造方法では、ホイロ発酵後に焼成した後のパン類の比容積が6.5~10.0mL/gである。
【0013】
<生地調製工程>
生地調製工程は、生地に用いる穀粉類100質量部に対して、全卵もしくは卵黄を3~30質量部、および/またはグルテンを0.5~9質量部使用する(以下、「配合する」と称することもある。)ことを含む工程である。
【0014】
-生地-
前記生地は、生地に用いる穀粉類(以下、「原料として用いる穀粉類」と称することもある。)100質量部に対して、全卵もしくは卵黄を3~30質量部、および/またはグルテンを0.5~9質量部使用する以外は、通常のパン類の生地に用いられる公知の成分を適宜選択して配合することができる。
【0015】
--全卵もしくは卵黄--
前記全卵もしくは卵黄は、いずれか一方を単独で使用してもよいし、両者を併用してもよい。全卵もしくは卵黄を用いることで、高比容積を維持し、腰折れしにくく、内相や外観に優れ、食感も良好となる。
前記全卵もしくは卵黄は、食品用途に使用できるもの(グレード)であれば特に制限はなく、適宜選択することができ、市販品を用いてもよいし、適宜調製したものを用いてもよい。
【0016】
前記全卵もしくは卵黄の合計使用量としては、生地に用いる穀粉類100質量部に対して、3~30質量部であれば、特に制限はなく、適宜選択することができるが、3~20質量部が好ましく、5~15質量部がより好ましい。前記全卵もしくは卵黄の合計使用量が3質量部未満であると、本発明の効果が奏されない恐れがあり、30質量部を超えると、パン類の風味に好ましくない影響が出る。
なお、前記全卵もしくは卵黄の使用量は、全卵は生の液全卵、卵黄は生の液卵黄に換算した場合の値である。
【0017】
--グルテン--
本明細書において、前記グルテンは、穀粉から抽出、精製されたもののことをいい、原料として用いる穀粉類に含有されている成分は含まない。グルテンを用いることで、高比容積を維持し、腰折れしにくく、内相や外観に優れ、食感も良好となる。
前記グルテンは、食品用途に使用できるもの(グレード)であれば特に制限はなく、適宜選択することができ、市販品を用いてもよいし、適宜調製したものを用いてもよい。
前記グルテンの種類としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、小麦グルテン、トウモロコシグルテンなどが挙げられる。これらの中でも小麦グルテンが好ましい。
【0018】
前記グルテンの使用量としては、生地に用いる穀粉類100質量部に対して、0.5~9質量部であれば、特に制限はなく、適宜選択することができるが、0.7~7質量部が好ましい。前記グルテンの使用量が0.5質量部未満であると、本発明の効果が奏されない恐れがあり、9質量部を超えると、パン類の風味に好ましくない影響が出る恐れがある。
【0019】
前記全卵もしくは卵黄、および前記グルテンは、いずれか一方を使用してもよいし、両者を併用してもよい。
【0020】
--生地に用いる穀粉類--
前記生地に用いる穀粉類としては、特に制限はなく、公知の成分を目的に応じて適宜選択することができ、例えば、小麦粉、小麦粉以外の穀粉類、小麦ふすまなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記小麦粉としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、強力粉、デュラム粉、中力粉、薄力粉、全粒粉(グラハム粉含む)などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記小麦粉以外の穀粉類としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、ライムギ粉、米粉、コーンフラワー、そば粉等の穀粉、澱粉類(加工澱粉含む)などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記生地に用いる穀粉類は、食品用途に使用できるもの(グレード)であれば特に制限はなく、適宜選択することができ、市販品を用いてもよいし、適宜調製したものを用いてもよい。
【0021】
--その他の成分--
前記生地におけるその他の成分としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、パン類の製造に通常用いられる副原料などが挙げられる。該副原料としては、増粘多糖類;糖類;サワー種、ルバン種等の各種発酵種;生イースト、セミドライイースト、ドライイースト等のパン酵母;イーストフード;脱脂粉乳、全脂粉乳、チーズ粉末、ヨーグルト粉末、ホエー粉末、クリームなどの乳製品;蛋白質;粉末または液状油脂、バター、マーガリン等の油脂類;乳化剤;膨張剤;甘味料;香料;着色料;アスコルビン酸;食塩等の無機塩類;麦芽粉末、麦芽エキス;市販の生地改良剤(以下、「パン品質改良剤」と称することもある);発酵風味液;食物繊維;日持ち向上剤;pH調整剤などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記副原料は、生地の調製の前に予め原料として用いる穀粉類に添加しておいてもよく、あるいは生地の調製の際に、原料として用いる穀粉類に添加してもよい。該副原料の使用量としては、特に制限はなく、適宜選択することができる。
前記その他の成分は、食品用途に使用できるもの(グレード)であれば特に制限はなく、適宜選択することができ、市販品を用いてもよいし、適宜調製したものを用いてもよい。
【0022】
前記全卵もしくは卵黄、および/またはグルテンのうち、卵黄を使用する場合は、前記その他の成分として、増粘多糖類を使用することが、パンの腰折れ防止効果がより優れる点で、好ましい。
前記増粘多糖類としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、アルギン酸類、ペクチン、キサンタンガム、グァーガム、カラギーナンなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、アルギン酸類が、パンの腰折れ防止効果がより優れる点で、好ましい。
【0023】
前記アルギン酸類としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、アルギン酸、アルギン酸塩(アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸カルシウム等)、アルギン酸エステル(アルギン酸プロピレングリコール等)などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0024】
前記増粘多糖類の使用量としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、生地に用いる穀粉類100質量部に対して、0.01~1質量部であることが好ましい。前記増粘多糖類の使用量が前記好ましい範囲内であると、パンの腰折れ防止効果がより優れ、また食感が優れる点で、有利である。
【0025】
なお、前記全卵、前記グルテンを用いる場合に前記増粘多糖類を使用してもよい。
【0026】
前記生地は、その他の成分として、糖類を含むことが、生地の伸展性がより優れる点で、好ましい。
前記糖類としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、砂糖、ブドウ糖、果糖、転化糖、水あめ、麦芽糖、乳糖などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
前記糖類の使用量としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、生地に用いる穀粉類100質量部に対して、5質量部以上であることが好ましく、5~30質量部であることがより好ましく、7~30質量部であることがさらに好ましく、10~30質量部であることが特に好ましい。前記糖類の使用量が前記好ましい範囲内であると、生地の発酵およびパン類の風味が優れる点で、有利である。
【0028】
前記生地への加水量(水の使用量)としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、前記原料として用いる穀粉類100質量部に対して、35~65質量部などが挙げられる。
【0029】
前記生地調製工程におけるミキシングの条件および捏上温度としては、特に制限はなく、適宜選択することができる。
【0030】
<その他の工程>
本発明のパン類の製造方法におけるその他の工程としては、生地の冷凍工程を含まない、ストレート法によるパン類の製造方法である限り、特に制限はなく、従来のストレート法に準じて公知の工程を適宜選択することができる。
【0031】
例えば、前記生地調製工程で調製した生地(製パン原料を混捏して形成したパン生地)について、一次発酵(以下、「フロアタイム」と称することがある。)を行った後、分割し、必要に応じて丸めを行い、さらに必要に応じてベンチタイムをとり、次いで、成形した後、ホイロ発酵(以下、「二次発酵」、「最終発酵」と称することがある。)を行い、その後焼成することにより、パン類を製造することができる。
【0032】
[一次発酵]
本発明では、一次発酵においては、発酵を抑えることが好ましい。一次発酵での発酵を抑えることで、焼成後に腰折れがよりしにくく、また外観や内相、食感もより優れたパン類を製造することができる。
【0033】
一次発酵における発酵の程度については、ファーモグラフを用いて測定したガス発生量を指標とすることができる。
【0034】
前記ファーモグラフは、微生物発酵などによって発生するガス量の計測装置である。
本明細書において、前記ファーモグラフによる発生したガス量の測定は、下記のようにして行うことができる。
ミキシングした生地(生地調製工程で調製した生地)30gを225mL容の試料ビンに入れ、生地のセット完了後、5分程経過した時点で三方活栓を閉じ、計測を開始し、実際の生地の一次発酵と同様の温度および時間の条件で発生するガスの量を測定する。
前記ファーモグラフは、市販の装置を用いることができ、例えば、アトー株式会社製のファーモグラフII(AF-1101W型)、ファーモグラフIII(WSF-2000 MH型)が挙げられる。
【0035】
前記一次発酵における発酵の程度の指標とする、ファーモグラフを用いて測定したガス発生量としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、生地30gに対して、45mL以下が好ましく、35mL以下がより好ましく、1~35mLがさらに好ましく、1~25mLが特に好ましい。前記好ましい範囲内であると、高比容積のパン類を製造しやすい点で、有利である。
なお、通常の食パンの製造では、前記ファーモグラフを用いて測定したガス発生量は、生地30gに対して、50~80mL程度(60~75分間の発酵)であることが多い。
【0036】
前記一次発酵における温度および時間の条件としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、上記したファーモグラフを用いて測定したガス発生量となる温度および時間の条件とすることが好ましい。
【0037】
また、発酵を抑えた製法にするためには、発酵時間を短くするほか、イースト配合量を減らす、イーストが資化できる糖類(特に砂糖)を多く配合する、などの方法が挙げられる。
【0038】
また、前記一次発酵における膨倍としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、2.0以下であることが好ましい。
【0039】
前記膨倍とは、発酵前に対する発酵後の生地の高さの割合のことをいい、例えば、下記のようにして測定し、算出することができる。
ミキシングした生地を平らに伸ばし円柱状のケースに入れ、実際の生地の一次発酵と同様の温度および時間の条件で発酵させる。発酵前後の生地の高さを目視にて測定し、発酵前に対する発酵後の生地の高さの割合算出する。
【0040】
[分割]
前記分割における生地の分割重量としては、特に制限はなく、適宜選択することができる。
【0041】
[ベンチタイム]
前記ベンチタイムの時間としては、特に制限はなく、適宜選択することができる。
【0042】
[成形]
前記成形の方法としては、特に制限はなく、適宜選択することができる。
【0043】
[ホイロ発酵]
前記ホイロ発酵の条件としては、特に制限はなく、生地比容積などに応じて適宜選択することができる。
前記生地比容積の目安としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、5~10倍程度などが挙げられる。
【0044】
前記ホイロ発酵時の生地の重さとしては、特に制限はなく、型に合わせて適宜選択することができる。また、本発明は生地が軽いものだけでなく、200gを超えるような生地の重さでも良質な高比容積のパンを得ることができることが特徴である。
【0045】
[焼成]
前記焼成の手段としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、オーブンなどが挙げられる。
前記焼成の温度および時間の条件としては、特に制限はなく、適宜選択することができる。
【0046】
本発明の製造方法で製造されるパン類は、ホイロ発酵後に焼成した後の比容積が6.5~10.0mL/gである。前記比容積は、パン類の容積(mL)をパン類の重量(g)で除した値である。
本明細書において、ホイロ発酵後に焼成した後のパン類の比容積とは、焼成後、常温で30分間放置したときのパン類の比容積のことをいう。前記比容積は、前記パン類の重量と体積を測定し、これらの値から算出することができる。前記パン類の体積は、例えば、レーザー体積計により測定することができる。
【0047】
前記ホイロ発酵後に焼成した後のパン類の比容積としては、6.5~10.0mL/gである限り、特に制限はなく、適宜選択することができるが、より優れた効果が得られる点で、7.0~9.0mL/gが好ましい。
【0048】
<パン類>
本明細書において、パン類とは、一般に、穀粉類と副原料を含む生地を発酵させた後、加熱(例えば、焼成、蒸し、揚げ等)することで製造される食品をいう。前記パン類としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、食パン(角型食パン、イギリスパン等)、ロールパン、菓子パン(あんパン、クリームパン等)、総菜パン(カレーパン等)、フランスパン(バゲット、バタール等)、ドイツパン(カイザーゼンメル、ライ麦パン等)、ベーグル、ピザ、イタリアパン(フォカッチャ、パネトーネ等)、ベルギーパン(ワッフル等)、中近東パン(ナン、ピタパン等)などが挙げられる。これらの中でも、食パンが好適に挙げられる。
【0049】
本発明のパン類の製造方法によれば、配合に関わらず、焼成前、焼成中、または焼成後におけるパン類の萎みを抑制することができ、かつ腰折れや火ぶくれが抑えられ、良好な内相や外観を有し、さらには、歯切れがよくふわっとした食感と良好な口溶けを有し、食感にも優れたパン類を製造することができる。
【0050】
また、本発明は、生地の冷凍工程を含まない、ストレート法によるパン類の品質向上方法であって、生地に用いる穀粉類100質量部に対して、全卵もしくは卵黄を3~30質量部、および/またはグルテンを0.5~9質量部使用することを含み、ホイロ発酵後に焼成した後のパン類の比容積が6.5~10.0mL/gであることを特徴とする方法にも関する。
【0051】
前記品質向上方法は、上記した本発明のパン類の製造方法の項目に記載した方法と同様にして行うことができ、配合に関わらず、焼成前、焼成中、または焼成後におけるパン類の萎みを抑制することができ、かつ腰折れや火ぶくれが抑えられ、良好な内相や外観を有し、さらには、歯切れがよくふわっとした食感と良好な口溶けを有し、食感にも優れたパン類とすることができる。
【実施例0052】
以下、試験例を示して本発明を説明するが、本発明は、これらの試験例に何ら限定されるものではない。
【0053】
(試験例1)
下記の配合および工程(ストレート法)で食パンを製造した。
<配合>
・ 強力粉 ・・・ 100質量部
・ 生イースト ・・・ 3質量部
・ パン品質改良剤 ・・・ 2質量部
(ドーナチュラルフリーズエース(オリエンタル酵母工業株式会社製))
・ 食塩 ・・・ 2質量部
・ 砂糖 ・・・ 5質量部
・ 全卵 ・・・ 表1に記載の量
・ ショートニング ・・・ 5質量部
・ 水 ・・・ 表1に記載の量
【0054】
<工程>
・ ミキシング : 低速4分→中低速4分→中高速2分(油脂添加)低速3分→中低速3分→中高速3分~
・ 捏上温度 : 27℃
・ 一次発酵(フロアタイム) : 温度27℃、相対湿度75%で、15~75分間
・ 分割重量 : 139g
・ ベンチタイム : 20分
・ 成形 : モルダー成形、2斤型(3300cc)に3個詰め
・ ホイロ発酵 : 温度38℃、相対湿度85%で、目視にて、生地比容積が約8倍になるまで
・ 焼成 : 上150℃、下170℃にて、約30分間
【0055】
<評価>
[一次発酵におけるガス発生量]
ファーモグラフ(ファーモグラフII(AF-1101W型、アトー株式会社製)を用い、一次発酵におけるガス発生量に相当するガス発生量(生地30gあたり)を下記のようにして測定した。結果を表1のガス発生量の項目に示す。
-測定-
ミキシングした生地30gを225mL容の試料ビンに入れ、生地のセット完了後、5分程経過した時点で三方活栓を閉じ、計測を開始し、実際の生地の一次発酵と同様の温度および時間の条件で発生するガスの量を測定した。
【0056】
[膨倍]
ミキシングした生地を平らに伸ばし円柱状のケースに入れ、実際の生地の一次発酵と同様の温度および時間の条件で発酵させた。発酵前後の生地の高さを目視にて測定し、発酵前に対する発酵後の生地の高さの割合(膨倍)を算出した。結果を表1に示す。
【0057】
[焼成後比容積]
焼成後、常温で30分間放置した食パンの重量と体積を測定し、焼成後の食パンの比容積を算出した。なお、パンの体積は、レーザー体積計により測定した。結果を表1に示す。
【0058】
[腰折れ、火ぶくれ]
焼成後、常温で30分間放置した食パンの腰折れ、火ぶくれについて、訓練された10名の評価者が下記基準で評価し、最も人数の多かった評価結果を表1に記載した。
-腰折れ-
3点 : ほぼ腰折れがない。
2点 : やや腰折れがあるが、支障がない程度である。
1点 : かなり腰折れている。
-火ぶくれ-
5点 : ほぼ火ぶくれがない。
4点 : 火ぶくれがあるがわずかである。
3点 : やや火ぶくれがあるが、支障がない程度である。
2点 : かなり火ぶくれがある。
1点 : 火ぶくれが顕著である。
【0059】
[内相、食感]
焼成後、常温で30分間放置した食パンの内相、食感について、訓練された10名の評価者が下記基準で評価した。内相は最も人数の多かった評価結果を表1に記載し、食感は平均点を表1に記載した。
-内相-
5点 : 気泡が均一に分散され、非常に良好である。
4点 : 気泡がほぼ均一に分散され、良好である。
3点 : 気泡が多少均一に分散され、やや良好である。
2点 : 気泡の大きさにばらつきがあり、やや粗く、やや不良である。
1点 : 気泡の大きさのばらつきが顕著であり、粗く、不良である。
-食感-
5点 : 非常に歯切れがよく、口溶けが非常に良好である。
4点 : 歯切れがよく、口溶けが良好である。
3点 : やや歯切れがよく、口溶けがやや良好である。
2点 : ややくちゃつき、あるいはやや重い食感であり、口溶けがやや不良である。
1点 : くちゃつき、あるいは重い食感であり、口溶けが不良である。
【0060】
【0061】
なお、試験例1-1の腰折れの評価結果は「3」となっているが、これは、焼成直前~焼成中に萎んでいるため、腰折れにはならなかったものである。
【0062】
(試験例2)
下記の配合および工程(ストレート法)で食パンを製造した。
<配合>
・ 強力粉 ・・・ 100質量部
・ 生イースト ・・・ 3.5質量部
・ パン品質改良剤 ・・・ 0.1質量部
(ドーナチュラルS(オリエンタル酵母工業株式会社製))
・ 食塩 ・・・ 1.8質量部
・ 砂糖 ・・・ 15質量部
・ 脱脂粉乳 ・・・ 3質量部
・ 全卵 ・・・ 表2に記載の量
・ 発酵風味液 ・・・ 5質量部
(ヴェッキオ(オリエンタル酵母工業株式会社製))
・ クリーム ・・・ 10質量部
(LC-アップ(月島食品工業株式会社製))
・ マーガリン ・・・ 7質量部
・ バター ・・・ 5質量部
・ 水 ・・・ 表2に記載の量
【0063】
<工程>
試験例1と同様の工程とした。
【0064】
<評価>
試験例1と同様にして、一次発酵におけるガス発生量、膨倍、焼成後比容積、腰折れ、火ぶくれ、内相、食感の測定または評価を行った。結果を表2に示す。
【0065】
【0066】
(試験例3)
下記の配合および工程(ストレート法)で食パンを製造した。
<配合>
・ 強力粉 ・・・ 100質量部
・ 生イースト ・・・ 3.5質量部
・ パン品質改良剤 ・・・ 0.1質量部
(ドーナチュラルS(オリエンタル酵母工業株式会社製))
・ 食塩 ・・・ 1.8質量部
・ 砂糖 ・・・ 15質量部
・ 脱脂粉乳 ・・・ 3質量部
・ 卵黄 ・・・ 5質量部
・ パン品質改良剤 ・・・ 0.4質量部
(リシェイパー(オリエンタル酵母工業株式会社製);アルギン酸エステルを24質量%含有する。)
・ 発酵風味液 ・・・ 5質量部
(ヴェッキオ(オリエンタル酵母工業株式会社製))
・ クリーム ・・・ 10質量部
(LC-アップ(月島食品工業株式会社製))
・ マーガリン ・・・ 7質量部
・ バター ・・・ 5質量部
・ 水 ・・・ 49質量部
【0067】
<工程>
試験例1と同様の工程とした。
【0068】
<評価>
試験例1と同様にして、一次発酵におけるガス発生量、膨倍、焼成後比容積、腰折れ、火ぶくれ、内相、食感の測定または評価を行った。結果を表3に示す。
【0069】
【0070】
(試験例4)
下記の配合および工程(ストレート法)で食パンを製造した。
<配合>
・ 強力粉 ・・・ 100質量部
・ 生イースト ・・・ 3.5質量部
・ パン品質改良剤 ・・・ 0.1質量部
(ドーナチュラルS(オリエンタル酵母工業株式会社製))
・ 食塩 ・・・ 1.8質量部
・ 砂糖 ・・・ 15質量部
・ 脱脂粉乳 ・・・ 3質量部
・ グルテン ・・・ 表4に記載の量
・ 発酵風味液 ・・・ 5質量部
(ヴェッキオ(オリエンタル酵母工業株式会社製))
・ クリーム ・・・ 10質量部
(LC-アップ(月島食品工業株式会社製))
・ マーガリン ・・・ 7質量部
・ バター ・・・ 5質量部
・ 水 ・・・ 表4に記載の量
【0071】
<工程>
試験例1と同様の工程とした。
【0072】
<評価>
試験例1と同様にして、一次発酵におけるガス発生量、膨倍、焼成後比容積、腰折れ、火ぶくれ、内相、食感の測定または評価を行った。結果を表4に示す。
【0073】
【0074】
以上のように、本発明の製造方法によれば、油脂類や糖類の配合量の少ないリーンな配合のパン類、油脂類や糖類の配合量の多いリッチな配合のパン類のいずれにおいても、焼成前、焼成中、または焼成後におけるパン類の萎みを抑制することができ、かつ腰折れや火ぶくれが抑えられ、良好な内相や外観を有し、さらには、歯切れがよくふわっとした食感と良好な口溶けを有し、食感にも優れたパン類を製造できることが確認された。