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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022496
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】抗菌組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/19 20060101AFI20240208BHJP
   C07C 67/30 20060101ALI20240208BHJP
   C07C 57/56 20060101ALI20240208BHJP
   C07C 69/65 20060101ALI20240208BHJP
   C07C 69/734 20060101ALI20240208BHJP
   C07C 69/732 20060101ALI20240208BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20240208BHJP
   A61K 31/4406 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
A61K31/19
C07C67/30 CSP
C07C57/56
C07C69/65
C07C69/734 Z
C07C69/732 Z
A61P31/04
A61K31/4406
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023112375
(22)【出願日】2023-07-07
(31)【優先権主張番号】P 2022124162
(32)【優先日】2022-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100136939
【弁理士】
【氏名又は名称】岸武 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】椎名 勇
(72)【発明者】
【氏名】村田 貴嗣
【テーマコード(参考)】
4C086
4C206
4H006
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC17
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB35
4C206AA01
4C206AA02
4C206DA12
4C206KA04
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZB35
4H006AA01
4H006AA02
4H006AA03
4H006AB29
4H006AC22
4H006AC41
4H006AC80
4H006BJ30
4H006BM10
4H006BM72
4H006BM73
4H006BN10
4H006BP10
4H006BS10
4H006KA31
4H006KC14
4H006KF20
(57)【要約】      (修正有)
【課題】タンザワ酸B類縁体を有効成分として含有する新規な抗菌組成物を提供する。
【解決手段】本発明に係る抗菌組成物は、下記式(1)で表される化合物(但し、タンザワ酸Bを除く。)と、薬学的に許容される担体とを含有する。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物(但し、タンザワ酸Bを除く。)と、薬学的に許容される担体とを含有する抗菌組成物。
【化1】
[式中、R、R~Rは、それぞれ独立に水素原子又はアルキル基を示す。Rは、水素原子、又は-OR若しくは-NRで表される基を示す。Rは、-CHOR、-C(O)OR、-C(O)R、-CHNR、又は-C(O)NRで表される基を示す。R~Rは、それぞれ独立に水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいアリールアルキル基、又は置換基を有していてもよいヘテロアリールアルキル基を示す。R10は、水素原子、アルキル基、臭素原子、又は塩素原子を示す。]
【請求項2】
前記式(1)中、R、R、Rがそれぞれ独立にアルキル基であり、Rが水素原子又は-ORで表される基であり、Rが水素原子又はアルコキシアルキル基であり、R、R、R、Rが水素原子であり、Rが-C(O)OR又は-C(O)NRで表される基であり、Rが水素原子又はヘテロアリールアルキル基であり、Rが水素原子であり、Rがヘテロアリールアルキル基である、請求項1に記載の抗菌組成物。
【請求項3】
細菌感染症の予防又は治療に用いられる、請求項1又は2に記載の抗菌組成物。
【請求項4】
前記細菌感染症が、黄色ブドウ球菌、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、腸球菌、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)、又は枯草菌によって引き起こされる感染症である、請求項3に記載の抗菌組成物。
【請求項5】
下記式(1C)で表される化合物。
【化2】
[式中、R、R~Rは、それぞれ独立に水素原子又はアルキル基を示す。Rは、水素原子、又は-OR若しくは-NRで表される基を示す。Rは、-CHOR、-C(O)OR、-C(O)R、-CHNR、又は-C(O)NRで表される基を示す。R~Rは、それぞれ独立に水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいアリールアルキル基、又は置換基を有していてもよいヘテロアリールアルキル基を示す。]
【請求項6】
前記式(1C)中、R、R、Rがそれぞれ独立にアルキル基であり、Rが水素原子又は-ORで表される基であり、Rが水素原子又はアルコキシアルキル基であり、R、R、R、Rが水素原子であり、Rが-C(O)OR又は-C(O)NRで表される基であり、Rが水素原子又はヘテロアリールアルキル基であり、Rが水素原子であり、Rがヘテロアリールアルキル基である、請求項5に記載の化合物。
【請求項7】
下記式(1C)で表される化合物を製造する製造方法であって、下記式(4C)で表される化合物から下記式(1C)で表される化合物を製造することを含む製造方法。
【化3】
[式中、R、R~Rは、それぞれ独立に水素原子又はアルキル基を示す。Rは、水素原子、又は-OR若しくは-NRで表される基を示す。Rは、-CHOR、-C(O)OR、-C(O)R、-CHNR、又は-C(O)NRで表される基を示す。R~Rは、それぞれ独立に水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいアリールアルキル基、又は置換基を有していてもよいヘテロアリールアルキル基を示す。]
【化4】
[式中、R、R~Rは、前記と同義である。R11は、アルキル基を示す。Zは、ヒドロキシ基の保護基を示す。]
【請求項8】
下記式(6)で表される化合物と下記式(5C)で表される化合物とをホーナー・ワズワース・エモンス反応に付して前記式(4C)で表される化合物を製造することを含む、請求項7に記載の製造方法。
【化5】
[式中、R、R~R、Zは、前記と同義である。]
【化6】
[式中、R11は、前記と同義である。R12は、それぞれ独立にアルキル基を示す。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
タンザワ酸Bは、真菌ペニシリウム・シトリヌムより単離された以下の構造を有する化合物であり、抗菌作用を有することが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【化1】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7-179391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のとおり、タンザワ酸Bは、抗菌作用を有するものであるが、より抗菌活性の高い化合物を得るためには、タンザワ酸Bをリード化合物とした新たな類縁体の開発も望まれる。
【0006】
そこで、本発明は、タンザワ酸B類縁体を有効成分として含有する新規な抗菌組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための具体的な手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1> 下記式(1)で表される化合物(但し、タンザワ酸Bを除く。)と、薬学的に許容される担体とを含有する抗菌組成物。
【化2】
[式中、R、R~Rは、それぞれ独立に水素原子又はアルキル基を示す。Rは、水素原子、又は-OR若しくは-NRで表される基を示す。Rは、-CHOR、-C(O)OR、-C(O)R、-CHNR、又は-C(O)NRで表される基を示す。R~Rは、それぞれ独立に水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいアリールアルキル基、又は置換基を有していてもよいヘテロアリールアルキル基を示す。R10は、水素原子、アルキル基、臭素原子、又は塩素原子を示す。]
【0008】
<2> 前記式(1)中、R、R、Rがそれぞれ独立にアルキル基であり、Rが水素原子又は-ORで表される基であり、Rが水素原子又はアルコキシアルキル基であり、R、R、R、Rが水素原子であり、Rが-C(O)OR又は-C(O)NRで表される基であり、Rが水素原子又はヘテロアリールアルキル基であり、Rが水素原子であり、Rがヘテロアリールアルキル基である、<1>に記載の抗菌組成物。
【0009】
<3> 細菌感染症の予防又は治療に用いられる、<1>又は<2>に記載の抗菌組成物。
【0010】
<4> 前記細菌感染症が、黄色ブドウ球菌、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、腸球菌、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)、又は枯草菌によって引き起こされる感染症である、<3>に記載の抗菌組成物。
【0011】
<5> 下記式(1C)で表される化合物。
【化3】
[式中、R、R~Rは、それぞれ独立に水素原子又はアルキル基を示す。Rは、水素原子、又は-OR若しくは-NRで表される基を示す。Rは、-CHOR、-C(O)OR、-C(O)R、-CHNR、又は-C(O)NRで表される基を示す。R~Rは、それぞれ独立に水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいアリールアルキル基、又は置換基を有していてもよいヘテロアリールアルキル基を示す。]
【0012】
<6> 前記式(1C)中、R、R、Rがそれぞれ独立にアルキル基であり、Rが水素原子又は-ORで表される基であり、Rが水素原子又はアルコキシアルキル基であり、R、R、R、Rが水素原子であり、Rが-C(O)OR又は-C(O)NRで表される基であり、Rが水素原子又はヘテロアリールアルキル基であり、Rが水素原子であり、Rがヘテロアリールアルキル基である、<5>に記載の化合物。
【0013】
<7> 下記式(1C)で表される化合物を製造する製造方法であって、下記式(4C)で表される化合物から下記式(1C)で表される化合物を製造することを含む製造方法。
【化4】
[式中、R、R~Rは、それぞれ独立に水素原子又はアルキル基を示す。Rは、水素原子、又は-OR若しくは-NRで表される基を示す。Rは、-CHOR、-C(O)OR、-C(O)R、-CHNR、又は-C(O)NRで表される基を示す。R~Rは、それぞれ独立に水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいアリールアルキル基、又は置換基を有していてもよいヘテロアリールアルキル基を示す。]
【化5】
[式中、R、R~Rは、前記と同義である。R11は、アルキル基を示す。Zは、ヒドロキシ基の保護基を示す。]
【0014】
<8> 下記式(6)で表される化合物と下記式(5C)で表される化合物とをホーナー・ワズワース・エモンス反応に付して前記式(4C)で表される化合物を製造することを含む、<7>に記載の製造方法。
【化6】
[式中、R、R~R、Zは、前記と同義である。]
【化7】
[式中、R11は、前記と同義である。R12は、それぞれ独立にアルキル基を示す。]
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、タンザワ酸B類縁体を有効成分として含有する新規な抗菌組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<抗菌組成物>
本実施形態に係る抗菌組成物は、下記式(1)で表される化合物(但し、タンザワ酸Bを除く。)と、薬学的に許容される担体とを含有する。
【0017】
【化8】
【0018】
上記式(1)中、R、R~Rは、それぞれ独立に水素原子又はアルキル基を示す。Rは、水素原子、又は-OR若しくは-NRで表される基を示す。Rは、-CHOR、-C(O)OR、-C(O)R、-CHNR、又は-C(O)NRで表される基を示す。R~Rは、それぞれ独立に水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいアリールアルキル基、又は置換基を有していてもよいヘテロアリールアルキル基を示す。R10は、水素原子、アルキル基、臭素原子、又は塩素原子を示す。
【0019】
、R~Rのアルキル基としては、炭素数1~20のアルキル基が好ましく、炭素数1~6のアルキル基がより好ましく、炭素数1~4のアルキル基がさらに好ましい。アルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、及び環状のいずれであってもよい。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0020】
、Rとしては、それぞれ独立にアルキル基(特には炭素数1~4のアルキル基)が好ましく、Rとしては、水素原子又はアルキル基(特には炭素数1~4のアルキル基)が好ましく、R、R、R、Rとしては、水素原子が好ましい。
【0021】
~Rのアルキル基としては、炭素数1~20のアルキル基が好ましく、炭素数1~6のアルキル基がより好ましく、炭素数1~4のアルキル基がさらに好ましい。アルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、及び環状のいずれであってもよい。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0022】
~Rのアリール基としては、炭素数6~20の単環式又は多環式芳香族炭化水素基が好ましく、炭素数6~12の単環式又は多環式芳香族炭化水素基がより好ましい。アリール基の具体例としては、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ピレニル基等が挙げられる。
【0023】
~Rのヘテロアリール基としては、酸素原子、硫黄原子、及び窒素原子から選ばれるヘテロ原子を1~4個含む、環構成炭素数2~9の単環式又は多環式芳香族複素環基が好ましく、環構成炭素数3~5の単環式芳香族複素環基がより好ましい。ヘテロアリール基の具体例としては、ピロリル基、ピリジル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、ピラジニル基、ピリダジニル基、ピリミジニル基、トリアゾリル基、テトラゾリル基、フラニル基、チエニル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、オキサジアゾリル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、チアジアゾリル基、インドリル基、イソインドリル基、ベンズイミダゾリル基、インダゾリル基、ベンゾトリアゾリル基、テトラヒドロキノリル基、キノリル基、テトラヒドロイソキノリル基、イソキノリル基、キノリジニル基、シンノリニル基、フタラジニル基、キナゾリニル基、キノキサリニル基、ナフチリジニル基、ピロロピリジル基、イミダゾピリジル基、ピラゾロピリジル基、ピリドピラジル基、プリニル基、プテリジニル基、ベンゾフラニル基、イソベンゾフラニル基、ベンゾチエニル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾイソオキサゾリル基、ベンゾオキサジアゾリル基、ベンゾチアゾリル基、ベンゾイソチアゾリル基、ベンゾチアジアゾリル基、チアゾロピリジル基等が挙げられる。
【0024】
~Rのアリールアルキル基としては、上記のアリール基で置換された炭素数1~6のアルキル基が好ましく、上記のアリール基で置換された炭素数1~4のアルキル基がより好ましい。アリールアルキル基の具体例としては、ベンジル基、フェネチル基、3-フェニルプロピル基、4-フェニルブチル基、1-フェニルエチル基、2-フェニルプロパン-2-イル基等が挙げられる。
【0025】
~Rのヘテロアリールアルキル基としては、上記のヘテロアリール基で置換された炭素数1~6のアルキル基が好ましく、上記のヘテロアリール基で置換された炭素数1~4のアルキル基がより好ましい。ヘテロアリールアルキル基の具体例としては、ピリジルメチル基、ピリジルエチル基、イミダゾリルメチル基、イミダゾリルエチル基、ピラゾリルメチル基、ピラゾリルエチル基、ピラジニルメチル基、ピラジニルエチル基、ピリダジニルメチル基、ピリダジニルエチル基、ピリミジニルメチル基、ピリミジニルエチル基、オキサゾリルメチル基、オキサゾリルエチル基、チアゾリルメチル基、チアゾリルエチル基等が挙げられる。
【0026】
上記のアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールアルキル基、又はヘテロアリールアルキル基が有していてもよい置換基としては、ヒドロキシ基、アルコキシ基、ヒドロキシアルキル基、アミノ基、モノ又はジアルキルアミノ基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子等が挙げられる。置換基としてのアルコキシ基、ヒドロキシアルキル基、モノ又はジアルキルアミノ基、及びアルコキシカルボニル基は、アルキル部の炭素数が1~4であることが好ましい。置換基の具体例としては、ヒドロキシ基、メトキシ基、エトキシ基、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、アミノ基、モノメチルアミノ基、ジメチルアミノ基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、塩素原子、フッ素原子等が挙げられる。
【0027】
としては、水素原子又は-ORで表される基が好ましく、このときのRとしては、水素原子、アルキル基、又はアルコキシアルキル基が好ましい。好ましいRとしては、水素原子、ヒドロキシ基、メトキシ基、エトキシ基、メトキシメトキシ基等が挙げられる。
【0028】
としては、-CHOR、-C(O)OR、又は-C(O)NRで表される基が好ましく、-C(O)OR又は-C(O)NRで表される基がより好ましい。Rが-CHORで表される基である場合、Rとしては、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基(特には炭素数1~4のアルキル基)が好ましい。この場合のRの具体例としては、水素原子、メチル基等が挙げられる。Rが-C(O)ORで表される基である場合、Rとしては、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、アリールアルキル基、又はヘテロアリールアルキル基が好ましい。この場合のRの具体例としては、水素原子、メチル基、ピリジン-3-イルメチル基、ピリジン-4-イルメチル基、オキサゾール-4-イルメチル基、オキサゾール-5-イルメチル基、チアゾール-2-イルメチル基、チアゾール-5-イルメチル基等が挙げられる。Rが-C(O)NRで表される基である場合、Rとしては、水素原子が好ましく、Rとしては、アリールアルキル基又はヘテロアリールアルキル基が好ましい。この場合のRの具体例としては、ピリジン-2-イルメチル基、ピリジン-3-イルメチル基、オキサゾール-4-イルメチル基、オキサゾール-5-イルメチル基、チアゾール-2-イルメチル基、チアゾール-5-イルメチル基等が挙げられる。
【0029】
10のアルキル基としては、炭素数1~20のアルキル基が好ましく、炭素数1~6のアルキル基がより好ましく、炭素数1~4のアルキル基がさらに好ましい。アルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、及び環状のいずれであってもよい。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0030】
上記式(1)で表される化合物のうち好ましいものとしては、例えば、R、R、Rがそれぞれ独立にアルキル基であり、Rが水素原子又は-ORで表される基であり、Rが水素原子又はアルコキシアルキル基であり、R、R、R、Rが水素原子であり、Rが-C(O)OR又は-C(O)NRで表される基であり、Rが水素原子又はヘテロアリールアルキル基であり、Rが水素原子であり、Rがヘテロアリールアルキル基であるものが挙げられる。アルキル基等の好ましい例示は上記のとおりである。
【0031】
以下、上記式(1)で表される化合物の具体例を挙げるが、これらの例に限定されるものではない。なお、これらの例の中にタンザワ酸Bは含まれないものとする。式中のR10は、上記と同義である。
【0032】
【化9】
【0033】
上記式(1)で表される化合物が酸性官能基又は塩基性官能基を有する場合、当該化合物は、塩の形態であってもよい。例えば、上記式(1)で表される化合物が酸性官能基を有する場合、当該化合物は、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩、マグネシウム塩等)、アンモニウム塩などの形態であってもよい。また、上記式(1)で表される化合物が塩基性官能基を有する場合、当該化合物は、塩酸、リン酸等の無機酸との塩の形態であってもよく、酢酸、フマル酸、メタンスルホン酸等の有機酸との塩の形態であってもよい。
【0034】
薬学的に許容される担体としては、製剤素材として慣用の有機又は無機の担体が挙げられる。この担体は、固形製剤においては、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤等として、液状製剤においては、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤等として配合される。
【0035】
なお、本実施形態に係る抗菌組成物は、防腐剤、抗酸化剤、着色剤等の製剤添加物をさらに含有していてもよい。
【0036】
本実施形態に係る抗菌組成物の剤形は特に制限されない。抗菌組成物の剤形としては、錠剤、カプセル剤、乳剤、懸濁剤等の経口剤;注射剤、点滴剤、外用剤等の非経口剤;などが挙げられる。
【0037】
上記式(1)で表される化合物は、種々の細菌に対して抗菌作用を示す。このため、本実施形態に係る抗菌組成物は、細菌感染症の予防又は治療に好適に使用することができる。細菌感染症としては、グラム陽性菌、グラム陰性菌等によって引き起こされる局所性感染症又は全身性感染症が挙げられる。中でも、黄色ブドウ球菌、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、腸球菌、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)、枯草菌等のグラム陽性菌によって引き起こされる細菌感染症の予防又は治療に好適に使用することができる。なお、「治療」には、細菌感染症の症状を消失又は軽減させることのほか、症状の進行の度合いを抑制することも含まれる。
【0038】
細菌感染症を予防又は治療する際には、本実施形態に係る抗菌組成物の有効量を、それを必要とする対象に投与すればよい。言い換えれば、本実施形態に係る抗菌組成物の有効量を、それを必要とする対象に投与することにより、細菌感染症を予防又は治療することができる。ここで、「有効量」とは、細菌感染症の発症を防止する、症状を消失又は軽減させる等の所望の生物学的結果をもたらす量を意味する。投与対象は特に制限されず、ヒト等の哺乳動物が挙げられる。
【0039】
<式(1)で表される化合物の製造方法>
上記式(1)で表される化合物は、例えば、以下の(A)~(L)の各工程を経て製造することができる。
(A)不斉アルキル化による式(20)で表される化合物の製造
(B)還元による式(19)で表される化合物の製造
(C)酸化、及びエヴァンス不斉補助基を用いた向山アルドール反応による式(16)で表される化合物の製造
(D)式(16)で表される化合物から式(15)で表される化合物(ワインレブアミド)の製造
(E)ヒドロキシ基保護による式(14)で表される化合物の製造
(F)還元及びウィティッヒ反応による式(11)で表される化合物の製造
(G)還元による式(10)で表される化合物の製造
(H)ウィティッヒ反応による式(8)で表される化合物の製造
(I)還元による式(7)で表される化合物の製造
(J)分子内ディールス・アルダー反応による式(6)で表される化合物の製造
(K)ホーナー・ワズワース・エモンス反応及び加水分解による式(3)で表される化合物の製造
(L)式(3)で表される化合物から式(1)で表される化合物の製造
【0040】
以下、本実施形態に係る製造方法の各工程について詳細に説明する。なお、式中のR~R10、R~Rは、上記と同義である。
【0041】
[(A)不斉アルキル化による式(20)で表される化合物の製造]
【化10】
【0042】
上記式(22)中、R13は、アルキル基、アリール基、又はアリールアルキル基を示す。R13のアルキル基としては、炭素数1~6のアルキル基が好ましく、炭素数1~4のアルキル基がより好ましい。アルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよい。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、イソブチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。また、R13のアリール基としては、炭素数6~20の単環式又は多環式芳香族炭化水素基が好ましく、炭素数6~12の単環式又は多環式芳香族炭化水素基がより好ましい。アリール基の具体例としては、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ピレニル基等が挙げられる。また、R13のアリールアルキル基としては、上記のアリール基で置換された炭素数1~6のアルキル基が好ましく、上記のアリール基で置換された炭素数1~4のアルキル基がより好ましい。アリールアルキル基の具体例としては、ベンジル基、フェネチル基、3-フェニルプロピル基、4-フェニルブチル基、1-フェニルエチル基、2-フェニルプロパン-2-イル基等が挙げられる。これらの中でも、R13としては、特にベンジル基、フェニル基、イソプロピル基が好ましい。
【0043】
上記式(21)中、Xは、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)を示す。
【0044】
上記式(22)で表される化合物に塩基を作用させてエノラートを生成し、これに式(21)で表される化合物(ハロゲン化物)をアルキル化剤として反応させると、上記式(20)で表される化合物(光学活性イソオキサゾリジン誘導体)を製造することができる。塩基としては、リチウムジイソプロピルアミド、リチウムビス(トリメチルシリル)アミド、ナトリウムビス(トリメチルシリル)アミド、カリウムビス(トリメチルシリル)アミド等を用いることができる。さらに、触媒としてテトラブチルアンモニウムヨージドを添加してもよい。反応は、テトラヒドロフラン、エーテル等の有機溶媒中で行われる。反応温度は、-78℃~室温程度が好ましい。反応後、目的物を回収し、カラムクロマトグラフィ等で精製する。
【0045】
なお、上記式(20)で表される化合物中のRの立体配置は、上記式(22)で表される化合物中のR13の立体配置によって決定される。
【0046】
[(B)還元による式(19)で表される化合物の製造]
【化11】
【0047】
上記式(20)で表される化合物(光学活性イソオキサゾリジン誘導体)は、還元剤で処理することにより、光学純度を損なうことなく上記式(19)で表される化合物(アルコール)に変換することができる。還元剤としては、LiAlH、LiBH-EtOH、NaHAl(OCHCHOMe)等を用いることができる。反応は、テトラヒドロフラン、エーテル等の有機溶媒中で行われる。反応温度は、0℃~室温程度が好ましい。反応後、目的物を回収し、カラムクロマトグラフィ等で精製する。
【0048】
[(C)酸化、及びエヴァンス不斉補助基を用いた向山アルドール反応による式(16)で表される化合物の製造]
【化12】
【0049】
まず、上記式(19)で表される化合物(アルコール)を酸化して上記式(18)で表される化合物(アルデヒド)を製造する。酸化反応には、ジメチルスルホキシド、過ルテニウム酸テトラプロピルアンモニウム、デス・マーチン・ペルヨージナン等の弱い酸化剤を用いることができる。反応は、塩化メチレン等の有機溶媒中で行われる。反応温度は、0℃~室温程度が好ましい。得られた上記式(18)で表される化合物は、単離せずにそのまま次の反応に用いてもよい。
【0050】
次いで、ボロントリフラート及びアミンの存在下で、上記式(18)で表される化合物と上記式(17)で表される化合物を向山アルドール反応に付すことにより、上記式(16)で表される化合物を製造することができる。上記式(17)中、R13は、上記式(22)と同義である。アミンとしては、トリエチルアミン、2,6-ルチジン等を用いることができる。反応は、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン等の有機溶媒中で行われる。反応温度は、-78℃~0℃程度が好ましい。反応後、目的物を回収し、カラムクロマトグラフィ等で精製する。
【0051】
[(D)式(16)で表される化合物から式(15)で表される化合物(ワインレブアミド)の製造]
【化13】
【0052】
上記式(16)で表される化合物をN,O-ジメチルヒドロキシルアミンと反応させることにより、上記式(15)で表される化合物(ワインレブアミド)へと容易に変換することができる。上記式(15)中、Meは、メチル基を示す。反応は、テトラヒドロフラン等の有機溶媒中で行われる。反応温度は、0℃程度が好ましい。反応後、目的物を回収し、カラムクロマトグラフィ等で精製する。
【0053】
[(E)ヒドロキシ基保護による式(14)で表される化合物の製造]
【化14】
【0054】
上記式(14)中、Zは、ヒドロキシ基の保護基を示す。Zとしては、温和な条件でヒドロキシ基を保護することができ、且つ、アルカリ条件下で安定な保護基が好ましい。好ましい保護基としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t-ブチルジメチルシリル基等のトリアルキルシリル基が挙げられる。
【0055】
ヒドロキシ基の保護は、塩化メチレン等の有機溶媒中、弱塩基である2,6-ルチジン等を触媒として用い、トリアルキルシリルトリフラート等を反応させることにより行うことが好ましい。反応温度は、0℃程度が好ましい。反応後、目的物を回収し、カラムクロマトグラフィ等で精製する。
【0056】
[(F)還元及びウィティッヒ反応による式(11)で表される化合物の製造]
【化15】
【0057】
まず、上記式(14)で表される化合物(アミド)を還元して上記式(13)で表される化合物(アルデヒド)を製造する。その際、水素化ジイソブチルアルミニウムを還元剤として用いることが、アルデヒドで還元を止めることができる点から好ましい。反応は、テトラヒドロフラン、トルエン、ヘキサン、塩化メチレン等の有機溶媒中で行われる。反応温度は、-78℃~0℃程度が好ましい。反応後、目的物を回収する。
【0058】
次いで、上記式(13)で表される化合物(アルデヒド)と上記式(12)で表される化合物(ウィティッヒ試薬)とをウィティッヒ反応に付すことにより、上記式(11)で表される化合物を製造することができる。反応は、塩化メチレン等の有機溶媒中で行われる。反応温度は、35℃程度が好ましい。反応後、目的物を回収し、カラムクロマトグラフィ等で精製する。
【0059】
[(G)還元による式(10)で表される化合物の製造]
【化16】
【0060】
上記工程(F)と同様に、上記式(11)で表される化合物(アミド)を還元することにより、上記式(10)で表される化合物(アルデヒド)を製造することができる。反応条件等は上記工程(F)と同様でよい。
【0061】
[(H)ウィティッヒ反応による式(8)で表される化合物の製造]
【化17】
【0062】
上記工程(F)と同様に、上記式(10)で表される化合物(アルデヒド)と上記式(9)で表される化合物(ウィティッヒ試薬)とをウィティッヒ反応に付すことにより、上記式(8)で表される化合物を製造することができる。反応条件等は上記工程(F)と同様でよい。
【0063】
[(I)還元による式(7)で表される化合物の製造]
【化18】
【0064】
上記工程(G)と同様に、上記式(8)で表される化合物(アミド)を還元することにより、上記式(7)で表される化合物(アルデヒド)を製造することができる。反応条件等は上記工程(G)と同様でよい。
【0065】
[(J)分子内ディールス・アルダー反応による式(6)で表される化合物の製造]
【化19】
【0066】
分子内ディールス・アルダー反応は、鎖状構造分子中の8π系が、より安定な環状構造分子中の4π+4σ系に変換される駆動力によって促進される。反応には、ジエチルアルミニウムクロリド等の触媒を用いることが好ましい。反応は、塩化メチレン等の有機溶媒中で行われる。反応温度は、-78℃~室温程度が好ましい。粗生成物には上記式(6)で表される化合物のほかに立体構造の異なる化合物が含まれるため、粗生成物を薄層クロマトグラフィ等で精製し、目的物を回収する。
【0067】
[(K)ホーナー・ワズワース・エモンス反応及び加水分解による式(3)で表される化合物の製造]
【化20】
【0068】
上記式(5)中、R11、R12は、それぞれ独立にアルキル基を示す。R11、R12のアルキル基としては、炭素数1~6のアルキル基が好ましく、炭素数1~4のアルキル基がより好ましい。アルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよい。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、イソブチル基、シクロヘキシル基等が挙げられ、メチル基、エチル基が好ましい。
【0069】
まず、上記式(6)で表される化合物と上記式(5)で表される化合物とをホーナー・ワズワース・エモンス反応に付し、上記式(4)で表される化合物を製造する。具体的には、上記式(5)で表される化合物(アルキルホスホン酸エステル)に塩基を作用させてカルボアニオンを発生させ、これを上記式(6)で表される化合物(アルデヒド)と反応させ、上記式(4)で表される化合物(アルケン)を製造する。塩基としては、リチウムビス(トリメチルシリル)アミド、リチウムジイソプロピルアミド等を用いることが好ましい。反応は、テトラヒドロフラン、塩化メチレン等の有機溶媒中で行われる。反応温度は、-78℃~室温程度が好ましい。粗生成物には上記式(4)で表される化合物のほかに立体構造の異なる化合物が含まれるため、粗生成物を薄層クロマトグラフィ等で精製し、目的物を回収する。
【0070】
次いで、上記式(4)で表される化合物を加水分解することにより、上記式(3)で表される化合物を製造することができる。ヒドロキシ基を保護したまま加水分解を行うには、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム等の塩基触媒下で加水分解を行えばよい。
【0071】
[(L)式(3)で表される化合物から式(1)で表される化合物の製造]
【化21】
【0072】
上記式(3)で表される化合物のカルボキシ基をRへと変換して上記式(2)で表される化合物を製造した後、上記式(2)で表される化合物の-OZをRへと変換することにより、上記式(1)で表される化合物を製造することができる。
【0073】
上記式(3)で表される化合物から上記式(2)で表される化合物への変換は、通常の有機合成で用いられる方法により行えばよく、例えば、エステル化、アミド化、ハロゲン化、酸無水物化、エーテル化、アミノ化、酸化、還元、カップリング反応、保護、脱保護等を種々組み合わせて行えばよい。反応例を以下に示す。
【0074】
【化22】
【0075】
上記式(3)で表される化合物のカルボキシ基を水素化アルミニウムリチウム等の還元剤を用いて還元し、RXで表されるハロゲン化アルキルと反応させるウィリアムソン合成を行えば、Rが-CHORである化合物を得ることができる。また、上記式(3)で表される化合物のカルボキシ基をNHRで表されるアミンと脱水縮合反応させれば、Rが-C(O)NRである化合物を得ることができる。また、Rが-C(O)NRである化合物を水素化アルミニウムリチウム等の還元剤を用いて還元すれば、Rが-CHNRである化合物を得ることができる。また、上記式(3)で表される化合物のカルボキシ基をROHで表されるアルコールと脱水縮合反応させれば、Rが-C(O)ORである化合物を得ることができる。また、上記式(3)で表される化合物のカルボキシ基を還元してヒドロキシメチル基にした後、酸化してホルミル基とし、RMgXで表されるグリニャール試薬と反応させれば、Rが-CH(OH)Rである化合物を得ることができる。そして、Rが-CH(OH)Rである化合物を酸化すれば、Rが-CORである化合物を得ることができる。
【0076】
上記式(2)で表される化合物から上記式(1)で表される化合物への変換は、通常の有機合成で用いられる方法により行えばよく、例えば、エステル化、エーテル化、ハロゲン化、アミノ化、酸化、還元、保護、脱保護等を種々組み合わせて行えばよい。変換する中間体として、Rにヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基等が導入された場合、その後に行う反応において必要があれば、これらの基の保護、脱保護を行えばよい。反応例を以下に示す。
【0077】
【化23】
【0078】
まず、上記式(2)で表される化合物の-OZから保護基Zを脱離させ、ヒドロキシ基とした後、種々の基へと変換する。例えば、ヒドロキシ基をRXで表されるハロゲン化アルキルと反応させるウィリアムソン合成を行えば、Rが-ORである化合物を得ることができる。また、ヒドロキシ基をRCOOHで表されるカルボン酸と脱水縮合反応させれば、Rが-O(CO)Rである化合物を得ることができる。また、ヒドロキシ基を有するアルコールを酸化してケトンとし、これを水素化ジイソブチルアルミニウム等の還元剤を用いて還元すると、R及びRの置換基の向きの反対側からヒドリド攻撃が進行するため、立体が反転したアルコールが得られる。このアルコールのヒドロキシ基を、アゾジカルボン酸ジエチル及びトリフェニルホスフィンで活性化させ、RNHと反応させる光延反応を行えば、再度立体が反転したアミノ基が導入され、Rが-NRである化合物を得ることができる。また、ヒドロキシ基を1,1’-チオカルボニルジイミダゾールと反応させてチオカルバマートとした後、水素化トリブチルスズ及びアゾビスイソブチロニトリルを用いてラジカル還元を行うと、Rが水素原子である化合物を得ることができる。
【0079】
なお、上記の例では、上記式(4)で表される化合物を加水分解して上記式(3)で表される化合物を製造した後、上記式(3)で表される化合物から上記式(1)で表される化合物を製造するものとして説明したが、この例に限定されるものではない。例えば、上記式(1)で表される化合物のうちRがカルボキシ基である化合物を製造する場合には、上記式(4)で表される化合物を下記式(23)で表される化合物に変換した後、下記式(23)で表される化合物を加水分解して上記式(1)で表される化合物を製造するようにしても構わない。上記式(4)で表される化合物から下記式(23)で表される化合物への変換方法は、上記式(2)で表される化合物から上記式(1)で表される化合物への変換方法と同様である。
【0080】
【化24】
【0081】
上記式(1)で表される化合物は、R10の種類に応じて、R10がアルキル基である下記式(1A)で表される化合物と、R10が臭素原子である下記式(1B)で表される化合物と、R10が塩素原子である下記式(1C)で表される化合物と、R10が水素原子である下記式(1D)で表される化合物とに大別される。下記式(1A)中、R14は、アルキル基を示す。
【0082】
【化25】
【0083】
上記式(1A)で表される化合物を製造する場合には、上記式(2)~(5)を式(2A)~(5A)と読み替えることができる。同様に、上記式(1B)で表される化合物を製造する場合には、上記式(2)~(5)を式(2B)~(5B)と読み替えることができ、上記式(1C)で表される化合物を製造する場合には、上記式(2)~(5)を式(2C)~(5C)と読み替えることができ、上記式(1D)で表される化合物を製造する場合には、上記式(2)~(5)を式(2D)~(5D)と読み替えることができる。
【実施例0084】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0085】
<合成例1:2-クロロタンザワ酸Bの合成>
【化26】
【0086】
[ホーナー・ワズワース・エモンス反応]
【化27】
【0087】
ジエチルホスホノクロロ酢酸エチル(化合物2)(702mg,2.71mmol)を含むテトラヒドロフラン溶液(26.0mL)に対し、-78℃でリチウムビス(トリメチルシリル)アミドのテトラヒドロフラン溶液(1.0M,2.53mL,2.53mmol)を滴下した。反応混合液を-78℃で30分間撹拌した後、化合物Trans-trans-1(328mg,0.905mmol)を含むテトラヒドロフラン溶液(4.0mL)を加え、室温まで昇温して12時間撹拌した。反応系に飽和塩化アンモニウム水溶液を0℃で加えて反応を停止し、酢酸エチルを加えて有機層を分取した後、水層を酢酸エチルで抽出した。有機層を合わせて、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、濾過及び減圧濃縮して粗生成物を得た。得られた粗生成物を薄層クロマトグラフィ(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=4/1)で粗精製を行った後、分取薄層クロマトグラフィ(展開溶媒:ヘキサン/ジエチルエーテル=8/1)で精製し、エチル(2Z,4E)-2-クロロ-5-((1’S,2’S,4’aR,6’R,7’S,8’S,8’aS)-7’-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)-2’,6’,8’-トリメチル-1’,2’,4’a,5’,6’,7’,8’,8’a-オクタヒドロナフタレン-1’-イル)ペンタ-2,4-ジエノエート(化合物Trans-trans-trans-3)(193mg,46%)、及びエチル(2E,4E)-2-ブロモ-5-((1’S,2’S,4’aR,6’R,7’S,8’S,8’aS)-7’-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)-2’,6’,8’-トリメチル-1’,2’,4’a,5’,6’,7’,8’,8’a-オクタヒドロナフタレン-1’-イル)ペンタ-2,4-ジエノエート(Trans-trans-cis-3)(86.6mg,20%)を得た。化合物の物性値は以下のとおりである。
【0088】
エチル(2Z,4E)-2-クロロ-5-((1’S,2’S,4’aR,6’R,7’S,8’S,8’aS)-7’-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)-2’,6’,8’-トリメチル-1’,2’,4’a,5’,6’,7’,8’,8’a-オクタヒドロナフタレン-1’-イル)ペンタ-2,4-ジエノエート(化合物Trans-trans-trans-3):
H NMR(300MHz,CDCl):δ 7.43(d,J=10.2Hz,1H,H-3),6.42(dd,J=15.3,10.2Hz,1H,H-3),6.28(dd,J=15.3,10.2Hz,1H,H-3),5.62-5.53(m,1H,H-4’),5.53-5.43(m,1H,H-4’),4.29(q,J=7.2Hz,2H,OEt),2.85(dd,J=9.6,9.3Hz,1H,H-7’),2.52(ddd,J=10.2,9.0,5.4Hz,1H,H-1’),2.39-2.11(m,1H,H-2’),1.93-1.80(m,1H,H-4’a),1.79-1.70(m,1H,H-5’),1.62-1.44(m,3H,H-8’,H-6’,H-5’),1.46-1.36(m,1H,H-8’a),1.34(t,J=7.2Hz,3H,OEt),0.99(d,J=6.3Hz,3H,2’-Me),0.97(d,J=5.7Hz,3H,8’-Me),0.95(d,J=6.9Hz,3H,6’-Me),0.90(s,9H,TBS),0.06(s,6H,TBS).
【0089】
エチル(2E,4E)-2-クロロ-5-((1’S,2’S,4’aR,6’R,7’S,8’S,8’aS)-7’-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)-2’,6’,8’-トリメチル-1’,2’,4’a,5’,6’,7’,8’,8’a-オクタヒドロナフタレン-1’-イル)ペンタ-2,4-ジエノエート(化合物Trans-trans-cis-3):
H NMR(300MHz,CDCl):δ 7.02(dd,J=14.7,11.4Hz,1H,H-4),6.87(d,J=11.4Hz,1H,H-3),6.07(dd,J=14.7,10.5Hz,1H,H-5),5.62-5.53(m,1H,H-4’),5.52-5.45(m,1H,H-3’),4.30(q,J=7.2Hz,2H,OEt),2.84(dd,J=9.3,9.3Hz,1H,H-7’),2.48(dd,J=10.5,8.7,5.7Hz,1H,H-1’),2.31-2.15(m,1H,H-2’),1.92-1.76(m,1H,H-4’a),1.81-1.70(m,1H,H-5’),1.60-1.45(m,3H,H-5’,H-6’,H-8’),1.40-1.28(m,1H,H-8’a),1.36(t,J=7.2Hz,3H,OEt),0.99(d,J=6.6Hz,3H,2’-Me),0.96(d,J=6.9Hz,3H,8’-Me),0.94(d,J=7.2Hz,3H,6’-Me),0.90(s,9H,TBS),0.06(s,6H,TBS).
【0090】
[脱保護]
【化28】
【0091】
エチル(2Z,4E)-2-クロロ-5-((1’S,2’S,4’aR,6’R,7’S,8’S,8’aS)-7’-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)-2’,6’,8’-トリメチル-1’,2’,4’a,5’,6’,7’,8’,8’a-オクタヒドロナフタレン-1’-イル)ペンタ-2,4-ジエノエート(化合物Trans-trans-trans-3)(193mg,0.413mmol)を含むメタノール(1.0mL)及びテトラヒドロフラン(1.0mL)の混合溶液に対し、0℃で12M 塩酸(0.2mL,2.4mmol)を加え、室温まで昇温して12時間撹拌した。反応系に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を0℃で加えて反応を停止し、酢酸エチルを加えて有機層を分取した後、水層を酢酸エチルで抽出した。有機層を合わせて、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、濾過及び減圧濃縮して粗生成物を得た。得られた粗生成物を薄層クロマトグラフィ(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=8/1、5回展開)で精製し、エチル(2Z,2E)-2-クロロ-5-((1’S,2’S,4’aR,6’R,7’S,8’S,8’aS)-7-ヒドロキシ-2’,6’,8’-トリメチル-1’,2’,4’a,5’,6’,7’,8’,8’a-オクタヒドロナフタレン-1-イル)ペンタ-2,4-ジエノエート(91.5mg,63%)(化合物Trans-trans-trans-4)を得た。化合物の物性値は以下のとおりである。
【0092】
エチル(2Z,2E)-2-クロロ-5-((1’S,2’S,4’aR,6’R,7’S,8’S,8’aS)-7-ヒドロキシ-2’,6’,8’-トリメチル-1’,2’,4’a,5’,6’,7’,8’,8’a-オクタヒドロナフタレン-1-イル)ペンタ-2,4-ジエノエート(化合物Trans-trans-trans-4):
H NMR(300MHz,CDCl):δ 7.45(d,J=9.9Hz,1H,H-3),6.45(dd,J=15.3,9.9Hz,1H,H-4),6.33(dd,J=15.3,9.9Hz,1H,H-5),5.59(ddd,J=9.6,4.2,3.3Hz,1H,H-4’),5.46(ddd,J=9.6,1.8,1.8Hz,1H,H-3’),4.29(q,J=7.2Hz,2H,OEt),2.73(dd,J=9.6,9.6Hz,1H,H-7’),2.54(ddd,J=9.6,5.7,5.4Hz,1H,H-1’),2.35-2.10(m,1H,H-2’),1.96-1.79(m,1H,H-4’a),1.82-1.62(m,3H,H-5’,H-8’,H-6’),1.59-1.33(m,1H,H-8’a),1.35(t,J=7.2Hz,3H,OEt),1.07(d,J=6.0Hz,3H,8’-Me),1.04(d,J=6.0Hz,3H,6’-Me),0.96(d,J=7.2Hz,3H,2’-Me).
【0093】
[チオ炭酸エステル化]
【化29】
【0094】
エチル(2Z,2E)-2-クロロ-5-((1’S,2’S,4’aR,6’R,7’S,8’S,8’aS)-7-ヒドロキシ-2’,6’,8’-トリメチル-1’,2’,4’a,5’,6’,7’,8’,8’a-オクタヒドロナフタレン-1-イル)ペンタ-2,4-ジエノエート(67.9mg,0.192mmol)(化合物Trans-trans-trans-4)を含むテトラヒドロフラン(6.4mL,0.03M)溶液に対し、1,1’-チオカルボジイミダゾール(514mg,2.89mmol)を加えた。反応混合液を65℃で12時間撹拌した後、反応混合液をシリカゲルカラムクロマトグラフィ(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=1/1)にて精製した。得られた混合液を濃縮した後、分取薄層クロマトグラフィ(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=3/1、2回展開)にて精製し、エチル(2Z,2E)-5-((1’S,2’S,4’aR,6’R,7’S,8’S,8’aS)-7-((1H-イミダゾール-1’’-カルボノチオイル)オキシ)-2’,6’,8’-トリメチル-1’,2’,4’a,5’,6’,7’,8’,8’a-オクタヒドロナフタレン-1-イル)ペンタ-2,4-ジエノエート(68.5mg,77%)(化合物Trans-trans-trans-5)を得た。化合物の物性値は以下のとおりである。
【0095】
エチル(2Z,2E)-5-((1’S,2’S,4’aR,6’R,7’S,8’S,8’aS)-7-((1H-イミダゾール-1’’-カルボノチオイル)オキシ)-2’,6’,8’-トリメチル-1’,2’,4’a,5’,6’,7’,8’,8’a-オクタヒドロナフタレン-1-イル)ペンタ-2,4-ジエノエート(化合物Trans-trans-trans-5):
H NMR(300MHz,CDCl):δ 8.54(s,1H,H-2’’),7.65(d,J=0.6Hz,1H,H-5’’’),7.43(d,J=10.2Hz,1H,H-3),7.04(d,J=0.6Hz,1H,H-4’’’),6.46(dd,J=15.3,10.2Hz,1H,H-4),6.31(dd,J=15.3,10.2Hz,1H,H-5),5.65(ddd,J=9.6,3.6,2.7Hz,1H,H-4’),5.54-5.44(m,1H,H-3’),5.32(dd,J=10.5,9.9Hz,1H,H-7’),4.28(q,J=7.2Hz,2H,OEt),2.61(ddd,J=9.6,5.4,5.4Hz,1H,H-1’),2.39-2.15(m,1H,H-2’),2.08-1.72(m,4H,H-5’,H-6’,H-8’),1.36-1.23(m,1H,H-8’a),1.33(t,J=7.2Hz,3H,OEt),0.99(d,J=7.8Hz,3H,2’-Me),0.97(d,J=5.7Hz,3H,8’-Me),0.97(d,J=5.7Hz,3H,6’-Me).
【0096】
[脱官能基化]
【化30】
【0097】
エチル(2Z,2E)-5-((1’S,2’S,4’aR,6’R,7’S,8’S,8’aS)-7-((1H-イミダゾール-1’’-カルボノチオイル)オキシ)-2’,6’,8’-トリメチル-1’,2’,4’a,5’,6’,7’,8’,8’a-オクタヒドロナフタレン-1-イル)ペンタ-2,4-ジエノエート(79.7mg,0.172mmol)(化合物Trans-trans-trans-5)を含むトルエン(6.0mL)溶液に対し、水素化トリブチルスズ(0.1mL,0.371mmol)及びアゾビス(イソブチロニトリル)(2.8mg,0.0172mmol)を加えた。反応混合液を110℃で5分間撹拌した後、反応混合液をシリカゲルカラムクロマトグラフィ(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=2/1)にて精製した。得られた混合液を濃縮した後、分取薄層クロマトグラフィ(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=2/1、その後展開溶媒:ジクロロメタン/四塩化炭素=1/1で2回展開)にて精製し、エチル(2Z,2E)-2-クロロ-5-((1’S,2’S,4’aR,6’R,7’S,8’S,8’aS)-2’,6’,8’-トリメチル-1’,2’,4’a,5’,6’,7’,8’,8’a-オクタヒドロナフタレン-1-イル)ペンタ-2,4-ジエノエート(34.1mg,59%)(化合物Trans-trans-trans-6)を得た。化合物の物性値は以下のとおりである。
【0098】
エチル(2Z,2E)-2-クロロ-5-((1’S,2’S,4’aR,6’R,7’S,8’S,8’aS)-2’,6’,8’-トリメチル-1’,2’,4’a,5’,6’,7’,8’,8’a-オクタヒドロナフタレン-1-イル)ペンタ-2,4-ジエノエート(化合物Trans-trans-trans-6):
H NMR(300MHz,CDCl):δ 7.45(d,J=9.9Hz,1H,H-3),6.50-6.30(m,2H,H-4,H-5),5.58(ddd,J=9.6,4.2,2.7Hz,1H,H-4’),5.44(ddd,J=9.6,1.5,1.5Hz,1H,H-3’),4.29(q,J=7.2Hz,2H,OEt),2.50(ddd,J=9.6,9.6,5.4Hz,1H,H-1’),2.30-2.10(m,1H,H-2’),1.90-1.74(m,1H,H-4’a),1.78-1.58(m,2H,H-5’,H-7’),1.62-1.42(m,1H,H-8’a),1.48-1.18(m,2H,H-5’,H-7’),1.34(t,J=7.2Hz,3H,OEt),0.95(d,J=7.2Hz,3H,2’-Me),0.93-0.66(m,2H,H-6’,H-8’),0.90(d,J=6.9Hz,3H,6’-Me),0.88(d,J=6.9Hz,3H,8’-Me).
【0099】
[加水分解]
【化31】
【0100】
エチル(2Z,2E)-2-クロロ-5-((1’S,2’S,4’aR,6’R,7’S,8’S,8’aS)-2’,6’,8’-トリメチル-1’,2’,4’a,5’,6’,7’,8’,8’a-オクタヒドロナフタレン-1-イル)ペンタ-2,4-ジエノエート(化合物Trans-trans-trans-6)(25.9mg,0.0769mmol)を含むメタノール(1.0mL)及びテトラヒドロフラン(2.0mL)の混合溶液に対し、0℃で4.0M 水酸化リチウム水溶液(1.0mL,4.00mmol)を加え、室温まで昇温して12時間撹拌した。反応系に1.0M 塩酸を0℃で加えて反応を停止し、酢酸エチルを加えて有機層を分取した後、水層を酢酸エチルで抽出した。有機層を合わせて、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、濾過及び減圧濃縮して、2-クロロタンザワ酸B(23.7mg,quant.)を得た。化合物の物性値は以下のとおりである。
【0101】
2-クロロタンザワ酸B:
H NMR(500MHz,CDCl):δ 7.70-7.40(m,1H,H-3),6.55-6.25(m,2H,H-4,H-5),5.65-5.50(m,1H,H-4’),5.50-5.35(m,1H,H-3’),2.60-2.40(m,1H,H-1’),2.30-2.08(m,1H,H-2’),1.90-1.72(m,1H,H-4’a),1.77-1.55(m,2H,H-5’,H-7’),1.62-1.44(m,1H,H-8’a),1.44-1.23(m,2H,H-5’,H-7’),0.94(d,J=7.5Hz,3H,2’-Me),0.89(d,J=8.0Hz,3H,6’-Me),0.88(d,J=6.0Hz,3H,8’-Me),0.84-0.69(m,2H,H-6’,H-8’).
【0102】
<合成例2:2-ブロモタンザワ酸Bの合成>
【化32】
【0103】
ホーナー・ワズワース・エモンス反応において、ジエチルホスホノクロロ酢酸エチルの代わりにジエチルホスホノブロモ酢酸エチルを用いたほかは合成例1と同様にして、2-ブロモタンザワ酸Bを合成した。化合物の物性値は以下のとおりである。
【0104】
2-ブロモタンザワ酸B:
H NMR(500MHz,CDCl):δ 7.79(d,J=10.5Hz,1H,H-3),6.54(dd,J=15.0,10.5Hz,1H,H-4),6.42(dd,J=15.0,10.5Hz,1H,H-5),5.57(ddd,J=9.5,4.0,2.0Hz,1H,H-4’),5.45(ddd,J=9.5,2.0,2.0Hz,1H,H-3’),2.54(ddd,J=10.5,10.0,5.5Hz,1H,H-1’),2.30-2.16(m,1H,H-2’),1.90-1.76(m,1H,H-4’a),1.79-1.67(m,H,H-5’),1.62-1.46(m,1H,H-8’a),1.47-1.33(m,2H,H-5’,H-7’),0.96(d,J=7.0Hz,3H,2’-Me),0.90(d,J=6.0Hz,3H,6’-Me),0.88(d,J=6.0Hz,3H,8’-Me),0.85-0.70(m,2H,H-6’,H-8’).
【0105】
<合成例3:2-メチルタンザワ酸Bの合成>
【化33】
【0106】
ホーナー・ワズワース・エモンス反応において、ジエチルホスホノクロロ酢酸エチルの代わりに2-ホスホノプロピオン酸トリエチルを用いたほかは合成例1と同様にして、2-メチルタンザワ酸Bを合成した。化合物の物性値は以下のとおりである。
【0107】
2-メチルタンザワ酸B:
H NMR(500MHz,CDCl):δ 7.31(d,J=9.5Hz,1H,H-3),6.34-6.18(m,2H,H-4,H-5),5.57(ddd,J=10.0,4.0,3.0Hz,1H,H-4’),5.44(ddd,J=10.0,1.5,1.5Hz,1H,H-3’),2.46(ddd,J=9.5,9.5,4.0Hz,1H,H-1’),2.24-2.13(m,1H,H-2’),1.86-1.77(m,1H,H-4’a),1.74-1.68(m,1H,H-5’),1.68-1.59(m,1H,H-7’),1.58-1.46(m,1H,H-8’a),1.43-1.31(m,2H,H-5’,H-7’),0.95(d,J=6.5Hz,3H,2’-Me),0.91(d,J=6.0Hz,3H,6’-Me),0.88(d,J=6.0Hz,3H,8’-Me),0.84-0.70(m,2H,H-6’,H-8’).
【0108】
<合成例4:タンザワ酸Bの合成>
【化34】
【0109】
ホーナー・ワズワース・エモンス反応において、ジエチルホスホノクロロ酢酸エチルの代わりにジエチルホスホノ酢酸メチルを用いたほかは合成例1と同様にして、タンザワ酸Bを合成した。化合物の物性値は以下のとおりである。
【0110】
タンザワ酸B:
H NMR(500MHz,CDCl):δ 7.36(dd,J=15.0,11.0Hz,1H,H-3),6.27(dd,J=14.5,11.0Hz,1H,H-4),6.12(dd,J=14.5,10.5Hz,1H,H-5),5.78(d,J=15.0Hz,1H,H-2),5.63-5.49(m,1H,H-4’),5.49-5.36(m,1H,H-3’),2.42(ddd,J=10.5,10.5,5.5Hz,1H,H-1’),2.26-2.10(m,1H,H-2’),1.86-1.75(m,1H,H-4’a),1.77-1.66(m,1H,H-5’),1.69-1.56(m,1H,H-7’),1.59-1.44(m,1H,H-8’a),1.44-1.30(m,2H,H-5’,H-7’),0.94(d,J=7.0Hz,3H,2’-Me),0.89(d,J=6.5Hz,3H,6’-Me),0.87(d,J=7.0Hz,3H,8’-Me),0.84-0.68(m,2H,H-6’,H-8’).
【0111】
<試験例1:抗菌作用試験>
合成例1~4で製造した化合物を試験化合物とし、各試験化合物の抗菌活性を、寒天培地を用いた寒天培地希釈法における最小発育阻止濃度(MIC,μg/mL)を求めることにより評価した。試験菌、使用培地、及び試験方法は以下のとおりである。
【0112】
1.試験菌
試験菌1:Staphylococcus aureus subsp. aureus NRBC12732
試験菌2:Staphylococcus aureus(MRSA) IID1677
試験菌3:Staphylococcus aureus(MRSA) ATCC43300
試験菌4:Enterococcus faecalis ATCC29212
試験菌5:Enterococcus faecalis(VRE) ATCC51575
試験菌6:Bacillus subtilis NRBC3134
【0113】
2.使用培地
SCD寒天培地(富士フイルム和光純薬(株))
陽イオン調整ミュラー・ヒントンブロス(BD社、以下、「CAMHB」と記す)(試験菌1~3、6用の感受性測定用培地)
ヘモサプリ添加CAMHB(CAMHBにストレプト・ヘモサプリメント(栄研化学(株))を添加したもの)(試験菌4、5用の感受性測定用培地)
【0114】
3.試験方法
(1)試験菌液の調製
凍結保存された菌株をSCD寒天培地に塗布し、35±1℃で18~24時間培養した。さらに、同培地に接種して一夜培養した後、発育したコロニーをかき取り、滅菌生理食塩水に懸濁して約10~10CFU/mLに調整し、試験菌液とした。
(2)試験液の調製
各試験化合物を1mLの50%エタノール(2-メチルタンザワ酸Bのみ約70%エタノール)に溶解した。この溶液をCAMHBで10倍希釈し、さらにCAMHB又はヘモサプリ添加CAMHBで3倍希釈し、333μg/mLの試験液を調製した。以降は、各感受性測定用培地で2倍段階希釈し、希釈列の試験化合物濃度をそれぞれ333,167,83,42,21,10,5.2,2.6,1.3,0.7μg/mLとした。
(3)MIC測定
作製した各希釈列をU字型マイクロプレートに100μLずつ分注した。次いで、マイクロプレートの各ウェルに試験菌液5μLを滴下し、35±1℃で18~24時間培養した。培養後、菌発育の有無を肉眼で判定し、菌発育の見られない最小濃度をMICとした。
【0115】
各試験化合物の試験菌に対するMIC測定結果を下記表1に示す。
【0116】
【表1】
【0117】
表1に示すとおり、2-クロロタンザワ酸B、2-ブロモタンザワ酸B、及び2-メチルタンザワ酸Bは、タンザワ酸Bに比べて、黄色ブドウ球菌、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、腸球菌、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)、及び枯草菌に対するMICが顕著に小さく、優れた抗菌活性を有していた。
【0118】
<合成例5:タンザワ酸B 3-ピコリルアミドの合成>
【化35】
【0119】
タンザワ酸Bを原料とし、2-メチル-6-ニトロ安息香酸無水物、N,N-ジメチルアミノピリジン、及び3-ピコリルアミンを用いてアミド化することで、タンザワ酸B 3-ピコリルアミドを合成した。化合物の物性値は以下のとおりである。
【0120】
タンザワ酸B 3-ピコリルアミド:
H NMR(500MHz,CDCOCD):δ 8.58(d,J=1.5Hz,1H,H-2’’),8.48(dd,J=4.5,1.0Hz,1H,H-6’’),7.75-7.68(brt,J=5.5Hz,1H,NH),7.74(ddd,J=8.0,2.0,1.0Hz,1H,H-4’’),7.33(dd,J=8.0,4.5Hz,1H,H-5’’),7.26(dd,J=15.0,10.5Hz,1H,H-3),6.28(dd,J=14.5,10.5Hz,1H,H-4),6.19(dd,J=14.5,10.0Hz,1H,H-5),6.05(d,J=15.0Hz,1H,H-2),5.62(ddd,J=10.0,4.5,2.5Hz,1H,H-4’),5.47(ddd,J=10.0,2.0,1.5Hz,1H,H-3’),4.52(d,J=5.5Hz,2H,CHAr),2.47(ddd,J=10.0,9.5,6.0Hz,1H,H-1’),2.26-2.15(m,1H,H-2’),1.92-1.83(m,1H,H-4’a),1.78-1.72(m,1H,H-5’),1.71-1.63(m,1H,H-7’),1.63-1.52(m,1H,H-8’a),1.50-1.31(m,2H,H-5’,H-7’),1.00(d,J=7.0Hz,3H,2’-Me),0.98(d,J=6.0Hz,3H,6’-Me),0.91(d,J=6.0Hz,3H,8’-Me),0.87-0.76(m,2H,H-6’,H-8’).
【0121】
<合成例6:2-メチル-7’-メトキシメチルタンザワ酸Bの合成>
【化36】
【0122】
ホーナー・ワズワース・エモンス反応において、合成例1のジエチルホスホノクロロ酢酸エチルの代わりに2-ホスホノプロピオン酸トリエチルを用いて増炭した後に、ジイソプロピルエチルアミン及びメトキシメチルクロリドを用いた水酸基のメトキシメチル化、続く加水分解によって、2-メチル-7’-メトキシメチルタンザワ酸Bを合成した。化合物の物性値は以下のとおりである。
【0123】
2-メチル-7’-メトキシメチルタンザワ酸B:
H NMR(300MHz,CDOD):δ 7.09(d,J=10.8Hz,1H,H-3),6.26(dd,J=14.7,10.8Hz,1H,H-4),6.04(dd,J=14.7,9.6Hz,1H,H-5),5.52(ddd,J=9.3,3.6,3.3Hz,1H,H-4’),5.40(d,J=9.3Hz,1H,H-3’),4.60(s,2H,CHOMe),3.30(s,3H,OMe),2.61(dd,J=9.9,9.9Hz,1H,H-7’),2.44(ddd,J=9.6,9.6,5.4Hz,1H,H-1’),2.22-2.04(m,1H,H-2’),1.84-1.72(m,1H,H-4’a),1.82(s,3H,2-Me),1.75-1.63(m,1H,H-5’),1.60-1.43(m,1H,H-5’),1.43-1.26(m,1H,H-8’a),1.43-1.26(m,2H,H-8’a),0.98(d,J=6.3Hz,3H,2’-Me),0.96-0.80(m,2H,H-6’,H-8’),0.94(d,J=6.6Hz,3H,8’-Me),0.89(d,J=6.0Hz,3H,6’-Me).
【0124】
<試験例2:抗菌作用試験>
合成例5、6で製造した化合物、及び市販の抗菌薬であるエリスロマイシン(富士フイルム和光純薬(株))を試験化合物とし、各試験化合物の抗菌活性を、寒天培地を用いた寒天培地希釈法における最小発育阻止濃度(MIC,μg/mL)を求めることにより評価した。試験菌、使用培地、及び試験方法は以下のとおりである。
【0125】
1.試験菌
試験菌1:Staphylococcus aureus(MRSA) IID1677
試験菌2:Staphylococcus aureus(MRSA) ATCC43300
試験菌3:Enterococcus faecalis(VRE) ATCC51575
【0126】
2.使用培地
Tryptic Soy Agar(BD社、以下、「TSA」と記す)
陽イオン調整ミュラー・ヒントンブロス(BD社、以下、「CAMHB」と記す)(試験菌1、2用の感受性測定用培地)
ヘモサプリ添加CAMHB(CAMHBにストレプト・ヘモサプリメント(栄研化学(株))を添加したもの)(試験菌3用の感受性測定用培地)
【0127】
3.試験方法
(1)試験菌液の調製
凍結保存された菌株をTSAに塗布し、35±1℃で18~24時間培養した。さらに、同培地に接種して一夜培養した後、発育したコロニーをかき取り、滅菌生理食塩水に懸濁後、脱脂綿で濾過し、禁数を約10~10CFU/mLに調整し、試験菌液とした。調製した試験菌液は、滅菌生理食塩水で10倍段階希釈し、35±1℃で45時間培養して菌数を測定した。
(2)試験液の調製
各試験化合物を1mLの80~99.5%エタノールに溶解した。この溶液をCAMHBで希釈し、試験液原液(1000μg/mL)とした後、さらにCAMHB又はヘモサプリ添加CAMHBで3倍希釈し、333μg/mLの試験液を調製した。以降は、各感受性測定用培地で2倍段階希釈し、希釈列の試験化合物濃度をそれぞれ333,167,83,42,21,10,5.2,2.6,1.3,0.7μg/mLとした。
(3)MIC測定
作製した各希釈列をU字型マイクロプレートに100μLずつ分注した。次いで、マイクロプレートの各ウェルに試験菌液5μLを滴下し、35±1℃で23時間培養した。培養後、菌発育の有無を肉眼で判定し、菌発育の見られない最小濃度をMICとした。なお、試験化合物不含有の感受性測定用培地に試験液を同様に添加したものをコントロールとした。
【0128】
各試験化合物の試験菌に対するMIC測定結果を下記表2に示す。
【0129】
【表2】
【0130】
表2に示すとおり、タンザワ酸B 3-ピコリルアミド及び2-メチル-7’-メトキシメチルタンザワ酸Bは、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)及びバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)に対して抗菌作用を示したが、エリスロマイシンは、これらの薬剤耐性菌に対して抗菌作用を示さなかった。