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  • 特開-透過型電子顕微鏡用試料の作製方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022515
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】透過型電子顕微鏡用試料の作製方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/28 20060101AFI20240208BHJP
   G01N 23/2202 20180101ALI20240208BHJP
【FI】
G01N1/28 F
G01N1/28 N
G01N23/2202
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023122469
(22)【出願日】2023-07-27
(31)【優先権主張番号】P 2022123823
(32)【優先日】2022-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(72)【発明者】
【氏名】橋本 直樹
【テーマコード(参考)】
2G001
2G052
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA08
2G001CA03
2G001MA04
2G001RA08
2G052AD35
2G052AD55
2G052EC18
2G052FD06
2G052GA34
2G052JA11
(57)【要約】
【課題】粉体試料を含む透過型電子顕微鏡用試料の作製において、粉体試料の変質を抑制する。
【解決手段】粉体試料を含む透過型電子顕微鏡用試料の作製方法であって、粘着層を備える粘着シートを準備する準備工程と、粘着シートの粘着層上に粉体試料を付着させる付着工程と、粘着層上に、粉体試料を覆うように、タングステンを含む保護膜を形成する保護膜形成工程と、粘着シートにおける保護膜が形成される領域の周囲の一部にイオンビームを照射して切削し、粘着層の一部から形成される支持部で支持され、粉体試料が粘着層と保護膜とにより固定された試料片を形成し、試料片を摘出する摘出工程と、を有する、透過型電子顕微鏡用試料の作製方法である。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉体試料を含む透過型電子顕微鏡用試料の作製方法であって、
粘着層を備える粘着シートを準備する準備工程と、
前記粘着シートの前記粘着層上に前記粉体試料を付着させる付着工程と、
前記粘着層上に、前記粉体試料を覆うように、タングステンを含む保護膜を形成する保護膜形成工程と、
前記粘着シートにおける前記保護膜が形成される領域の周囲の一部にイオンビームを照射して切削し、前記粘着層の一部から形成される支持部で支持され、前記粉体試料が前記粘着層と前記保護膜とにより固定された試料片を形成し、前記試料片を摘出する摘出工程と、を有する、
透過型電子顕微鏡用試料の作製方法。
【請求項2】
前記粉体試料は、コア粒子の表面に被覆層が設けられた被覆粒子である、
請求項1に記載の透過型電子顕微鏡用試料の作製方法。
【請求項3】
前記粉体試料の粒径は1μm以上7μm以下である、
請求項1又は2に記載の透過型電子顕微鏡用試料の作製方法。
【請求項4】
前記支持部の幅が2μm以下である、
請求項1又は2に記載の透過型電子顕微鏡用試料の作製方法。
【請求項5】
前記支持部には、前記粘着層に前記イオンビームを照射することで生じる切削屑が付着している、
請求項1又は2に記載の透過型電子顕微鏡用試料の作製方法。
【請求項6】
前記付着工程では、フィルム部材に前記粉体試料を付着した後、前記フィルム部材を前記粘着シートの前記粘着層に押し当て、前記粘着層に前記粉体試料を転写させる、
請求項1又は2に記載の透過型電子顕微鏡用試料の作製方法。
【請求項7】
前記保護膜の厚さは3μm以上である、
請求項1又は2に記載の透過型電子顕微鏡用試料の作製方法。
【請求項8】
前記保護膜形成工程では、炭素を含む堆積膜を、前記粉体試料の粒子表面を覆うように形成した後、タングステンを含む堆積膜を積層させて、前記保護膜を形成する、
請求項1又は2に記載の透過型電子顕微鏡用試料の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透過型電子顕微鏡用試料の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粉体試料においては、粉体を構成する微小粒子を解析すべく、例えば透過型電子顕微鏡(TEM)等を用いて微小粒子の断面を観察することがある。この粉体試料をTEMに供すべく、例えば、粉体試料と樹脂とを混合して樹脂に粉体試料を埋め込み、この樹脂包埋試料を薄片化させて、TEM用試料を作製する方法が提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-294594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、粉体試料の種類によっては、樹脂に包埋させるときに粉体試料が樹脂で変質してしまうことがある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、粉体試料を含む透過型電子顕微鏡用試料の作製において、粉体試料の変質を抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様は、
粉体試料を含む透過型電子顕微鏡用試料の作製方法であって、
粘着層を備える粘着シートを準備する準備工程と、
前記粘着シートの前記粘着層上に前記粉体試料を付着させる付着工程と、
前記粘着層上に、前記粉体試料を覆うように、タングステンを含む保護膜を形成する保護膜形成工程と、
前記粘着シートにおける前記保護膜が形成される領域の周囲の一部にイオンビームを照射して切削し、前記粘着層の一部から形成される支持部で支持され、前記粉体試料が前記粘着層と前記保護膜とにより固定された試料片を形成し、前記試料片を摘出する摘出工程と、を有する、
透過型電子顕微鏡用試料の作製方法が提供される。
【0007】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、
前記粉体試料は、コア粒子の表面に被覆層が設けられた被覆粒子である。
【0008】
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様において、
前記粉体試料の粒径は1μm以上7μm以下である。
【0009】
本発明の第4の態様は、第1~第3の態様のいずれか1つにおいて、
前記支持部の幅が2μm以下である。
【0010】
本発明の第5の態様は、第1~第4の態様のいずれか1つにおいて、
前記支持部には、前記粘着層に前記イオンビームを照射することで生じる切削屑が付着している。
【0011】
本発明の第6の態様は、第1~第5の態様のいずれか1つにおいて、
前記付着工程では、フィルム部材に前記粉体試料を付着した後、前記フィルム部材を前記粘着シートの前記粘着層に押し当て、前記粘着層に前記粉体試料を転写させる。
【0012】
本発明の第7の態様は、第1~第6の態様のいずれか1つにおいて、
前記保護膜の厚さは3μm以上である。
【0013】
本発明の第8の態様は、第1~第7の態様のいずれか1つにおいて、
前記保護膜形成工程では、炭素を含む堆積膜を、前記粉体試料の粒子表面を覆うように形成した後、タングステンを含む堆積膜を積層させて、前記保護膜を形成する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、粉体試料を含む透過型電子顕微鏡用試料の作製において、粉体試料の変質を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、保護膜が形成された粘着シートを断面視したときの概略図である。
図2図2は、保護膜が形成された粘着シートを上面視したときの概略図である
図3図3は、保護膜が形成された粘着シートの一部をイオンビームにより切削した後の状態を上面視したときの図である。
図4図4は、被覆粒子を含む透過型電子顕微鏡用試料についての透過型電子顕微鏡像である。
図5図5は、図4の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<本発明者等が得た知見>
粉体試料を樹脂に包埋して透過型電子顕微鏡用試料を作製する場合、観察対象である粒子部分を含む試料片を摘出(マイクロサンプリング)する必要がある。具体的には、まず、粉体試料を樹脂と混合し、粉体試料が樹脂に包埋された樹脂包埋試料を作製する。続いて、樹脂包埋試料における試料片として摘出する領域を覆うように保護膜を形成する。続いて、保護膜を形成した領域の周辺部を、集束イオンビーム(以下、FIBともいう)により切削する。このとき、試料片をその他の部分と支持されるように支持部を残して切削する。そして、摘出した試料片を薄片化することで、TEM用試料を作製する。
【0017】
本発明者等は、粉体試料が種類によっては樹脂で変質してしまうことから、粉体試料を支持固定し、かつマイクロサンプリングする際に支持部を形成できるような部材として、樹脂に代わるものを検討した。その結果、粘着層を備える粘着シートがよいことを見出した。粘着シートでは、樹脂のようにマイクロサンプリングの際に支持部を形成できないと考えられていたが、本発明者等の検討によると、粘着シートの粘着層を切削したときに生じる切削屑が支持部に付着して支持部を補強するように作用し、試料片を好適に支持可能であることを見出した。
【0018】
一方、粉体試料を粘着シートに付着する場合、粉体試料を樹脂に包埋させる場合と比較して、粉体試料の粒子間までを十分に固定できないことがある。粒子間の固定が不十分であると、試料片を薄片化するときに粒子が脱離してしまい、TEM用試料を分析に供することができなくなる。
【0019】
この粒子間の固定について検討したところ、粉体試料を覆うように形成する保護膜をタングステンで形成するとよいことを見出した。保護膜としては、炭素などで形成することもできるが、タングステンによれば、炭素などと比較して、保護膜を、粉体試料の表面だけでなく、その粒子間にまで行きわたるように形成することができ、粒子間をより強固に固定できることを見出した。
【0020】
本発明は上述した知見に基づいて成されたものである。
【0021】
<本発明の一実施形態>
以下、本発明の一実施形態にかかるTEM用試料の作製方法について図1~3を用いて説明する。図1は、保護膜が形成された粘着シートを断面視したときの概略図であり、図2は、保護膜が形成された粘着シートを上面視したときの概略図であり、図3は、保護膜が形成された粘着シートの一部をイオンビームにより切削した後の状態を上面視したときの概略図である。
【0022】
本実施形態のTEM用試料の作製方法は、準備工程、付着工程、保護膜形成工程、摘出工程および薄片化工程を有する。以下、各工程について詳述する。
【0023】
(準備工程)
まず、観察対象である粉体試料を準備する。
【0024】
粉体試料としては、特に限定されず、樹脂で変質しにくい粉体だけでなく、樹脂で変質しやすい粉体などを用いることができる。本実施形態では、樹脂を使用せずに粉体試料を固定するため、樹脂で変質しやすい粉体であっても好適に用いることができる。粉体試料としては、単一粒子を含む粉体だけでなく、例えば、コア粒子表面に被覆層を備える被覆粒子を含む粉体などを用いることができる。粉体試料を構成する成分としては、金属、金属酸化物、もしくは金属複合酸化物などがある。
【0025】
粉体試料に含まれる粒子の粒径は特に限定されず、例えば1μm以上7μm以下であることが好ましく、3μm以上5μm以下であることがより好ましい。後述するように、本実施形態では粉体試料の粒子間を固定できるので、試料片の大きさよりも粒径の小さな粉体試料であってもTEM用試料に作製することができる。
【0026】
また、粉体試料を支持固定するための粘着シートを準備する。図1に示すように、粘着シート10は、基材12と基材12の一方の面に設けられる粘着層11とを備えて構成される。基材12は、粘着層11を支持するものであり、例えば樹脂や導電性を有する金属箔から形成される。粘着層11は、粘着性および導電性を有するものであり、例えば粘着性を有する樹脂にカーボンなどの導電性物質が添加された組成物から形成される。粘着シート10が導電性を有することで、後述のFIB加工の際にチャージアップを抑制することができる。このような粘着シート10としては、例えば、粉体の表面を観察する際に粉体を固定するために使用される粘着シート、または、金属箔に粘着層が設けられた導電性テープなどを用いることができる。
【0027】
なお、粘着シート10の厚さは、特に限定されないが、FIB加工する際の取扱い性の観点からは、例えば0.2mm以上1mm以下であることが好ましい。また、粘着シート10における粘着層11の厚さは、例えば20μm以上50μm以下であることが好ましい。
【0028】
(付着工程)
続いて、粉体試料1を粘着シート10の粘着層11上に付着させる。
【0029】
粉体試料1の付着は、粘着層11上に粉体試料1を散布してもよいが、粉体試料1を高密度、かつ、均一となるように付着させる観点からは、別途準備したフィルム部材上に粉体試料1を載置した後、そのフィルム部材と粘着層11とを押し付けて、粉体試料1を粘着層11に転写させることが好ましい。これにより、粘着層11上に粉体試料1を高密度でしかも均一に付着させることができる。
【0030】
粉体試料1の粘着シート10への付着量は、特に限定されない。ただし、粉体試料1が過剰に付着していると、保護膜13を形成したときに粒子間の空隙が増え、粒子間を十分に固定できずに、薄片加工の際に粉体試料1が剥離するおそれがある。そのため、粘着シート10へ粉体試料1を付着させた後、粘着シート10を振動させて、過剰な粉体試料1を振るい落とすとよい。
【0031】
(保護膜形成工程)
続いて、粘着層11の一部の領域に、粉体試料1を被覆するように保護膜13を形成する。保護膜13は、FIB加工の際に粉体試料1の変質を抑制するためのものである。本実施形態では、保護膜13を、タングステンを含む堆積膜で形成する。保護膜13は例えばイオンビーム蒸着によりタングステンを粘着層11に付着させて形成することができる。タングステンによれば、粘着層11上に付着する粉体試料1の表層部分だけでなく、その深さ方向(厚さ方向)の内部にも行きわたるように堆積させることができる。これにより、粉体試料1の隣接する粒子間の空隙の一部をタングステンで充填し、粒子間を固定することができる。
【0032】
保護膜13の厚さ(堆積厚)は、粉体試料1の粒子間にある空隙を埋めることができれば特に限定されず、例えば3μm以上であることが好ましい。ここで、保護膜13の厚さとは、粉体試料1の表層に堆積する保護膜13の厚さを示す。保護膜13の厚さを上記範囲とすることにより、粉体試料1の粒子間の空隙をより確実に埋めることができ、粉体試料1の粒子同士をより強固に固定することができる。
【0033】
保護膜13の形成条件は特に限定されない。タングステンを含む保護膜13の形成方法としては、例えばイオンビーム蒸着法や電子ビーム蒸着法などの公知の方法を用いることができる。また例えば、保護膜13の形成領域は、粘着層11上に載置される粉体試料1のうち、中央部分に位置する粒子群よりも外側部分に位置する粒子群を選択するとよい。例えば保護膜13をイオンビーム蒸着により形成する場合、粉体試料1のうち中央部分に位置する粒子群に対してイオンビームを照射するとイオンガンが粒子の陰になり、堆積膜を形成しにくいことがある。この点、外側部分に位置する粒子群はイオンガンに近く、イオンガンが粒子の陰となりにくいため、堆積膜を形成しやすい。
【0034】
保護膜13はタングステンで形成してもよいが、炭素も含むように形成することが好ましい。具体的には、粘着層11上に、炭素を含む堆積膜を形成した後、タングステンを含む堆積膜を形成して、保護膜13を形成することが好ましい。まず、粉体試料1上に炭素を含む堆積膜を堆積させることで、粉体試料1のうち、その表面側に位置する各粒子の表面を覆うことができる。続いて、炭素を含む堆積膜で粒子表面が覆われた粉体試料1上に、タングステンを含む堆積膜を堆積させる。これにより、粉体試料1の表層部分だけでなく、その深さ方向(厚さ方向)の内部にも行きわたるように堆積させることができ、保護膜13を形成することができる。炭素を含む堆積膜によれば、保護膜13に導電性を付与することができる。これにより、例えばFIBで観察像を取得する際にチャージアップおよびそれに伴う観察像の乱れを抑制することができる。また、粉体試料1の上に、イオンビーム蒸着法によりタングステンを含む堆積膜を直接形成する場合、イオンビームにより粉体試料1の表面が削れて変質してしまうことがある。この点、粉体試料1上に炭素を含む堆積膜を予め形成することにより、粉体試料1の変質を抑制しつつ、タングステンを含む堆積膜を形成して保護膜13を形成することができる。なお、炭素を含む堆積膜は、例えば数百nm程度の厚さで薄く形成されるので、タングステンを含む堆積膜を粉体試料1の粒子間を充填するように形成することができる。
【0035】
なお、炭素を含む堆積膜の形成方法は特に限定されないが、粉体試料1の変質を抑制する観点からは真空蒸着法や電子ビーム蒸着法などが好ましく、真空蒸着法がより好ましい。
【0036】
また、保護膜13の大きさは、マイクロサンプリングにより採取する試料片16の大きさに応じて適宜変更することができ、特に限定されない。
【0037】
(摘出工程)
続いて、保護膜13が形成された粘着シート10から試料片16をマイクロサンプリングする。
【0038】
まず、図1および図2に示すように、保護膜13が形成された粘着シート10に対して、保護膜13が形成される領域の周囲の一部(図中の破線で示される切削領域14)にイオンビームを、例えば収束イオンビーム(FIB)を照射する。このとき、保護膜13が形成される領域の周囲で一部を切削せずに残す。この領域が支持部15となる。続いて、粘着シート10を傾斜させ、保護膜13が形成される領域の底部に対してFIBを照射して切削する。これにより、図3に示すように、粘着シート10における粘着層11に支持部15により支持された試料片16を形成する。試料片16は、支持部15のみで粘着シート10と接続される以外は、粘着シート10から切り離されている。
【0039】
本実施形態では、粘着層11の切削により粘着層11に由来する切削屑が生じるが、この切削屑が支持部15に付着する。切削屑の付着により支持部15が補強される。これにより、試料片16をより確実に支持することができる。
【0040】
支持部15の幅は、試料片16を支持できれば特に限定されないが、1μm以上2μm以下であることが好ましい。このような幅で支持部15を形成することにより、試料片16をより確実に支持しながらも、切削による加工時間を短くすることができる。
【0041】
なお、FIB加工により切削する深さは、粘着シート10の基材12まで達してもよいが、加工時間を短くする観点からは、粘着シート10の粘着層11までに留めることが好ましい。また、図2では、支持部15の形状が矩形状である場合を図示するが、支持部15の形状はこれに限定されない。
【0042】
続いて、試料片16の端部に、例えば支持部15とは反対側の端部にプローブを接着する。プローブの接着方法は従来公知の方法を採用することができる。
【0043】
続いて、プローブを接着した後、支持部15にFIBを照射し切削する。これにより、粘着シート10から試料片16を切り離し、プローブにより試料片16を摘出(マイクロサンプリング)する。
【0044】
摘出された試料片16は、粘着シート10に由来する粘着層11と、その上に付着する粉体試料1と、粉体試料1を覆うとともに粉体試料1の粒子間を充填するように設けられるタングステンを含む保護膜13と、を備えて構成される。試料片16においては、粉体試料1は粘着層11に固定されるとともに、粉体試料1の表面を覆うとともに粉体試料1の粒子間に行き渡る保護膜13により固定されている。つまり、試料片16では、粉体試料1が粘着層11と保護膜13とで支持固定される。
【0045】
試料片16は、薄片化したTEM用試料を透過型電子顕微鏡に供することが可能な大きさに適宜変更することができ、特に限定されない。
【0046】
(薄片化工程)
続いて、得られた試料片16を薄片化し、TEM用試料を作製する。具体的には、試料片を加工用治具であるメッシュに取り付ける。続いて、試料片からプローブを取り除く。続いて、公知の方法により、試料片16の左右両端部分を厚く残しつつ、その中央部分を薄片化する。
【0047】
以上により、TEM用試料が得られる。
【0048】
<本実施形態に係る効果>
本実施形態によれば、以下に示す1つ又は複数の効果を奏する。
【0049】
本実施形態では、粉体試料1を樹脂に包埋させる代わりに、粘着シート10を用いて、その粘着層11に粉体試料1を付着させて支持固定している。そのため、樹脂との混合による粉体試料1の変質を抑制することができる。そのため、例えば、粉体試料1が、コア粒子の表面に被覆層が設けられた被覆粒子を含む場合であっても、樹脂による被覆層の溶解などの変質を抑制することができる。また、粘着シート10によれば、試料片16をマイクロサンプリングする際、樹脂と同様、粘着層11により試料片16を支持する支持部15を形成することができる。しかも、粘着層11の切削屑が支持部15に付着することで、試料片16をより確実に支持することができる。また、保護膜13をタングステンで形成することにより、粘着層11上に付着した粉体試料1の表層部分だけでなく、その深さ方向の内部にある粉体試料1の粒子間の空隙にまで行き渡るように保護膜13を形成することができる。これにより、粉体試料1の粒子間を強固に固定することができ、試料片16を薄片化する際に粉体試料1の剥離などを抑制することができる。以上のように、本実施形態によれば、粉体試料1の変質を抑制しつつ、TEM用試料を作製することができる。
【0050】
なお、保護膜13をタングステンで形成する場合に粉体試料1の粒子間までに行きわたるようにタングステンを堆積できる理由は、タングステンが粘りを有するため、と推測される。例えば炭素は、一般的にタングステンと比較して粘りが小さく、粒子間に堆積させたとしても割れてしまい、粒子間を充填するように存在できないと考えられる。一方、タングステンは、金属として粘りが大きいので、粒子間に堆積したときに割れることなく、粒子間を充填することができると考えられる。
【0051】
また本実施形態によれば、粉体試料1を粘着層11とタングステンの保護膜13とで支持固定できるので、摘出する試料片16よりも粉体試料が小さく、例えば粒径が1μm以上7μm以下となるような場合であっても、TEM用試料を好適に作製することができる。
【0052】
また、試料片16を支持する支持部15の幅は2μm以下であることが好ましい。このような幅を有する支持部を形成することにより、マイクロサンプリングの際に試料片16をより確実に支持することができる。
【0053】
保護膜13の厚さは3μm以上とすることが好ましい。このような厚さとなるように保護膜13を形成することにより、粉体試料1の表層部分だけでなく、その内部にまでタングステンを堆積させることができる。これにより、粉体試料1の粒子間にある空隙にタングステンを充填させ、粒子間の固定をより高めることができる。
【0054】
また、粉体試料1を粘着層11に付着させるときに、フィルム部材に粉体試料1を載置し、このフィルム部材と粘着シートとを押し付けて、粘着層11に粉体試料1を転写させることが好ましい。これにより、粉体試料1を粘着層11に対して高密度で付着させることができる。
【0055】
また本実施形態によれば、粉体試料1を樹脂包埋により固定していないため、粉体試料1として炭素を含むものも採用することができる。例えば、炭素を含む粉体試料1を樹脂包埋する場合、TEM用試料を観察したときに、粉体試料1と固定する樹脂とのコントラストの違いがなく、粉体試料1を精度よく分析できないことがある。この点、タングステンを含む保護膜13で固定する場合、炭素との間でもコントラストを出せるため、分析精度を損ねず維持することができる。
【0056】
また本実施形態においては、保護膜13を炭素をさらに含むように形成することが好ましい。具体的には、粉体試料1上に炭素を含む堆積膜およびタングステンを含む堆積膜を積層させて保護膜13を形成することが好ましい。炭素を含む堆積膜を例えば真空蒸着や電子ビーム蒸着法により予め形成することにより、タングステンを含む堆積膜を例えばイオンビーム蒸着法により形成する場合に粉体試料1の変質を抑制することができる。そのため、粉体試料1についてより精度よく分析することができる。
【0057】
<他の実施形態>
以上、本開示の実施形態について具体的に説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能である。
【0058】
上述の実施形態では、炭素を含む堆積膜を形成した後、タングステンを含む堆積膜を形成し、保護膜13を形成する場合を説明したが、本発明はこれに限定されない。保護膜13は、タングステンを含む堆積膜のみで形成することもできる。この場合、例えば電子ビーム蒸着法により、粉体試料1上に、タングステンを含む堆積膜を堆積させる。これにより、タングステンを含む堆積膜で粉体試料1の粒子表面を覆う。続いて、例えばイオンビーム蒸着法により、タングステンを含む堆積膜をさらに堆積させて、タングステンを含む保護膜13を形成することができる。イオンビーム蒸着法では、スパッタ効果により粉体試料1の粒子表面が削れてしまうことがある。この点、電子ビーム蒸着法により、タングステンを含む堆積膜を予め形成することで、イオンビーム蒸着による削れを抑制することができる。
【実施例0059】
以下、本発明をさらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0060】
本実施例では、粉体試料として、コア粒子表面に被覆層を備える被覆粒子を含む粉体を、粘着シートとしてカーボン両面シート(応研商事株式会社製)をそれぞれ準備した。
【0061】
まず、粉体試料をフィルムに載置した。続いて、このフィルム上にカーボン両面シートの一方の粘着層を押し当て、フィルム上の粉体試料をカーボン両面シートの粘着層に転写し、余剰の粉体試料を除去した。続いて、粉体試料を転写させたカーボン両面シートを、その他方の粘着層を介して、FIB用の試料台に貼り付け固定した。
【0062】
次に、カーボン両面シートの一方の粘着層側に、転写した粉体試料を覆うように、炭素を含む堆積膜を形成した。具体的には、まず、カーボン両面シートを貼り付けたFIB用の試料台を真空蒸着装置(株式会社真空デバイス製の「VE-2012卓上真空蒸着装置」)に導入した。また、2つの電極にC棒(株式会社真空デバイス製の「SLC-30」)をそれぞれ1本ずつセットした。そして、真空度5×10-3Pa以下、電流値20Aで10秒の条件で電極を切り替えて炭素の蒸着(C蒸着)を行い、カーボン両面シートの一方の粘着層上に炭素を含む堆積膜を形成した。本実施例では、上記条件でC蒸着を2回行い、厚さが100nmであるCを含む堆積膜を形成した。これにより、Cを含む堆積膜で粉体試料の表面を覆った。
【0063】
次に、Cを含む保護膜上にタングステンを含む保護膜を形成した。具体的には、まず、C蒸着を行ったカーボン両面シートをFIB用の試料台ごと収束イオンビーム加工観察装置(株式会社日立ハイテクフィールディング製の「FB-2100」)に導入した。続いて、加速電圧40kvのビーム電流値0.02nm(ビーム名40-0-40)の条件で観察倍率1000倍にてFIB用の試料台を試料採取位置に移動させた。続いて、タングステン蒸着用の加工枠を縦3μm×横20μmに設定し、電流値0.32nA(ビーム名40-1-80)で15分間、タングステンの蒸着(W蒸着)を行った。これにより、Cを含む堆積膜上にWを含む堆積膜を積層して形成し、カーボン両面シート上の粉体試料を覆うようにCおよびWを含む保護膜が形成された試料を得た。W蒸着により形成された保護膜の厚さは2μmであった。
【0064】
次に、W蒸着を行った試料から試料片をマイクロサンプリングした。具体的には、まず、保護膜が形成される領域の周辺(上下左右4箇所)を電流値37.1nA(ビーム名40-1-650)の条件で15分ずつ切削した。このとき、カーボン両面シートと試料片とを接続する支持部を残すように切削した。続いて、観察倍率2000倍で試料を60°傾斜させた後、保護膜から深さ方向に7μm程度下の位置を縦2μm×横32μmの加工枠で電流値6.56nA(ビーム名40-1-30015)の条件で支持部を残るように底切した。これにより、試料片を、試料と支持部により接続された状態となるように加工した。続いて、試料の傾斜を0°にしてWプローブを保護膜の上部中央付近にセットして、縦2.4μm×横3.6μmの加工枠にセットして電流値0.07μAの条件で7分間デポジションしてWプローブと試料とを固定した。そして、支持部を縦10μm×1μmの加工枠で電流値6.56nA(ビーム名40-1-300)の条件で支持部を切り離し、Wプローブに付けた試料片ごとプローブを格納した。
【0065】
次に、摘出した試料片を試料ホルダに取り付けた。具体的には、予めメッシュを取り付けた試料ホルダを準備し、このメッシュまで試料片を移動させ、W蒸着により試料片の一部(右上)をメッシュに固定した。続いて、Wプローブを切り離した。そして、W蒸着により試料片の一部(左上)をメッシュにさらに固定した。
【0066】
次に、試料片に段階的に薄片加工を施し、TEM用試料を作製した。具体的には、試料片を保護膜から上面視したときの上下部分を切削した。まず、所定の大きさに設定した加工枠で所定の電流値とした条件にてビームを照射し、厚さが3μm、2μm、1μm、0.5μm、0.15μm、0.1μm、0.1μm未満となるように、段階的に薄片加工を施した。
【0067】
最後に、得られたTEM用試料を透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製の「JEM-ARM200F球面収差補正型透過電子顕微鏡」)に導入し、加速電圧200kVの条件で薄片化した箇所を観察した。得られた観察像を図4および図5に示す。図4は、被覆粒子を含む透過型電子顕微鏡用試料についての透過型電子顕微鏡像(TEM像)である。図5は、図4の部分拡大図である。
【0068】
図4に示すように、試料片を薄片加工した後のTEM用試料では、タングステンが、粘着層に付着する粉体試料の表層部分だけでなく、その深さ方向の内部にある粉体試料の粒子間にまで堆積していることが確認できる。そして、タングステンが、隣接する粒子間の空隙に充填され、粒子同士がより強く固定されていることが分かる。また、深さ方向で最深部に位置する被覆粒子は、粘着層に付着して固定されていることが分かる。これらのことから、本実施形態のTEM用試料では、粉体試料を樹脂に包埋せずとも、粉体試料を強固に支持固定することができ、薄片加工の際に粉体試料の剥離を抑制できることが確認された。
【0069】
また、図5に示すように、被覆粒子を観察したときに、被覆層が溶解せずに残存していることが確認され、被覆層を分析できることが分かった。
【0070】
以上のように、粘着シートに粉体試料を付着させ、粉体試料を覆うようにタングステンを含む保護膜を形成することにより、粉体試料を含む試料片を薄片化する際に粉体試料の脱離を抑制できることが確認された。また、粉体試料を樹脂に包埋させないため、樹脂による粉体試料の劣化を抑制できることが確認された。
【符号の説明】
【0071】
1 試料
10 粘着シート
11 粘着層
12 基材
13 保護膜
14 切削領域
15 支持部
16 試料片
図1
図2
図3
図4
図5