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特開2024-22702ヒト抗SARS-CoV2ウイルス抗体
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  • 特開-ヒト抗SARS-CoV2ウイルス抗体 図1
  • 特開-ヒト抗SARS-CoV2ウイルス抗体 図2
  • 特開-ヒト抗SARS-CoV2ウイルス抗体 図3
  • 特開-ヒト抗SARS-CoV2ウイルス抗体 図4
  • 特開-ヒト抗SARS-CoV2ウイルス抗体 図5-1
  • 特開-ヒト抗SARS-CoV2ウイルス抗体 図5-2
  • 特開-ヒト抗SARS-CoV2ウイルス抗体 図6
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022702
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】ヒト抗SARS-CoV2ウイルス抗体
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/10 20060101AFI20240214BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20240214BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240214BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20240214BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20240214BHJP
【FI】
C07K16/10 ZNA
C07K16/46
A61K39/395 D
A61K39/395 S
A61P31/14
C12N15/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020216173
(22)【出願日】2020-12-25
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】505314022
【氏名又は名称】国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所
(71)【出願人】
【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
(71)【出願人】
【識別番号】504136993
【氏名又は名称】独立行政法人国立病院機構
(74)【代理人】
【識別番号】100110456
【弁理士】
【氏名又は名称】内山 務
(74)【代理人】
【識別番号】100117813
【弁理士】
【氏名又は名称】深澤 憲広
(72)【発明者】
【氏名】石井 健
(72)【発明者】
【氏名】小檜山 康司
(72)【発明者】
【氏名】安居 輝人
(72)【発明者】
【氏名】南谷 武春
(72)【発明者】
【氏名】神谷 亘
(72)【発明者】
【氏名】長▲崎▼ 洋司
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA13
4C085AA14
4C085BA71
4C085BB11
4C085CC08
4C085CC21
4C085DD62
4C085EE01
4C085GG01
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】      (修正有)
【課題】SARS-CoV2ウイルスの感染による生体内におけるSARS-CoV2ウイルスの増幅を抑制し、あるいはSARS-CoV2ウイルスの感染を中和し、SARS-CoV2ウイルスへの感染の治療のために使用することができる、組換え抗体または組換え抗体誘導体、あるいはそのような抗体を1または複数種類含む医薬組成物を提供する。
【解決手段】SARS-CoV2ウイルスを構成するスパイクタンパク質に対して結合性を有し、SARS-CoV2ウイルスの感染を中和する作用を有する、血液由来成分を含まない、抗体または抗体誘導体を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SARS-CoV2ウイルスを構成するスパイクタンパク質に対して結合性を有し、SARS-CoV2ウイルスの感染を中和する作用を有する、血液由来成分を含まない、抗体または抗体誘導体。
【請求項2】
抗体がヒト抗体である、請求項1に記載の抗体または抗体誘導体。
【請求項3】
遺伝子組換えにより製造される、請求項1または2に記載の抗体または抗体誘導体。
【請求項4】
抗体誘導体が、ヒト化抗体、キメラ抗体、多価抗体、および多重特異性抗体から選択されるヒト型抗体改変体またはその機能的断片から選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載の抗体または抗体誘導体。
【請求項5】
機能的断片が、F(ab')2である、請求項4に記載の抗体または抗体誘導体。
【請求項6】
重鎖の相補性決定領域、CDR1(GFTFRNYA、SEQ ID NO: 1)、CDR2(IWYDGSNK、SEQ ID NO: 2)、CDR3(ARDQGFGDNYYYYGMDV、SEQ ID NO: 3)を含み、
軽鎖の相補性決定領域、CDR1(ALPKEY、SEQ ID NO: 4)、CDR2(KDS、SEQ ID NO: 5)、CDR3(QLADSSMHYVV、SEQ ID NO: 6)を含む、
請求項1~5のいずれか1項に記載の抗体または抗体誘導体。
【請求項7】
重鎖可変領域VHドメインが、SEQ ID NO: 7のアミノ酸配列、またはSEQ ID NO: 7のアミノ酸配列のうち、CDR1(SEQ ID NO: 1)、CDR2(SEQ ID NO: 2)、およびCDR3(SEQ ID NO: 3)以外の部分において1または数個のアミノ酸の置換、挿入、または欠失を含むアミノ酸配列を含む、
請求項1~6のいずれか1項に記載の抗体または抗体誘導体。
【請求項8】
軽鎖可変領域VLドメインが、SEQ ID NO: 8のアミノ酸配列、またはSEQ ID NO: 8のアミノ酸配列のうち、CDR1(SEQ ID NO: 4)、CDR2(SEQ ID NO: 5)、およびCDR3(SEQ ID NO: 6)以外の部分において1または数個のアミノ酸の置換、挿入、または欠失を含むアミノ酸配列を含む、
請求項1~7のいずれか1項に記載の抗体または抗体誘導体。
【請求項9】
重鎖が、SEQ ID NO: 9のアミノ酸配列、またはSEQ ID NO: 9のアミノ酸配列のうち、CDR1(SEQ ID NO: 1)、CDR2(SEQ ID NO: 2)、およびCDR3(SEQ ID NO: 3)以外の部分において1または数個のアミノ酸の置換、挿入、または欠失を含むアミノ酸配列を含む、
請求項1~8のいずれか1項に記載の抗体または抗体誘導体。
【請求項10】
軽鎖が、
SEQ ID NO: 10のアミノ酸配列、またはSEQ ID NO: 10のアミノ酸配列のうち、CDR1(SEQ ID NO: 4)、CDR2(SEQ ID NO: 5)、およびCDR3(SEQ ID NO: 6)以外の部分において1または数個のアミノ酸の置換、挿入、または欠失を含むアミノ酸配列、または
SEQ ID NO: 11のアミノ酸配列、またはSEQ ID NO: 11のアミノ酸配列のうち、CDR1(SEQ ID NO: 4)、CDR2(SEQ ID NO: 5)、およびCDR3(SEQ ID NO: 6)以外の部分において1または数個のアミノ酸の置換、挿入、または欠失を含むアミノ酸配列、
を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の抗体または抗体誘導体。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の抗体または抗体誘導体を含む、SARS-CoV2ウイルスの感染を中和するための医薬組成物。
【請求項12】
他の抗体または抗体誘導体と組み合わせて含む、請求項11に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SARS-CoV2ウイルス感染に感染した個体中で、当該ウイルスの感染を中和するための組換え抗体または組換え抗体誘導体、あるいはそのような抗体を含むSARS-CoV2ウイルスの感染を中和するための医薬組成物を提供することに関する。
【背景技術】
【0002】
2019年から2020年にかけて新型コロナウイルス、SARS-CoV2ウイルスの感染による新型コロナウイルス感染症COVID-19が確認されてからこれまで、日本国内において、195,880人の感染者、うち2,873人の死亡者、アメリカ合衆国において、17,655,591人の感染者、うち316,159人の死亡者、全世界まで広げると、76,288,108人の感染者、うち1,685,650人の死亡者という統計になっている(2020年12月20日現在の厚労省公式発表による)。
【0003】
SARS-CoV2は、(1)ヒトの細胞表面のレセプターを通して細胞内に侵入し、(2)ウイルス遺伝子由来の酵素(ヒトには存在しないRNAポリメラーゼ)を用いて複製し、(3)ヒトの細胞内でタンパク質や酵素を作って増殖し、(4)細胞外に出て他の正常な細胞に広がる、というサイクルを繰り返すことで、感染個体内で増幅される。また、重症化すると、サイトカインストームと呼ばれる過剰な免疫反応を起こしたり、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)という重度の呼吸不全を起こしたりすることが知られている。
【0004】
SARS-CoV2ウイルスに対してすでに使用が承認されている抗ウイルス薬や現在も開発が進められている抗ウイルス薬の多くは、このウイルスの(1)侵入、(2)複製、(3)増殖、(4)拡散の過程のいずれかをターゲットとしている。
【0005】
例えば、レムデシビルは、もともとはエボラ出血熱の治療薬として開発中であった抗ウイルス薬であるが、RNAポリメラーゼを阻害し、ウイルスの複製を抑制する効果が期待され、既に米国と欧州、アジアでSARS-CoV2感染に対する使用が緊急的に承認された(非特許文献1)。しかしながら、2020年後半に報告された世界保健機関(WHO)とその関係協力機関が実施している臨床試験の中間結果には、致死率などの改善効果は実証されておらず、また、副作用の可能性や医療現場の負担の問題があるとされている。
【0006】
また、アビガンは、もともと、新型インフルエンザに対して承認された抗ウイルス薬であり、RNAポリメラーゼを阻害し、ウイルスの複製を抑制する効果が期待される薬剤である。この薬剤は、副作用として、催奇形性(女性・男性ともに、内服した際に胎児に悪影響を及ぼす可能性がある)等が明らかになっており、使用に際して制限があったが、2020年後半において、日本では有効性や安全性の検証が進められているが(非特許文献2)、明確な有効性が認められないという報告も出されている。
【0007】
抗ウイルス薬以外には、COVID-19の重症例における肺炎の症状の緩和を目的とした薬の適用も検討されており、デキサメタゾンやアクテムラなどが有望視されている。しかしこれらの薬はSARS-CoV2感染を阻止するために使用するものではなく、対症療法的に使用されるものと考えられている。
【0008】
一方、SARS-CoV2ウイルスに対するワクチンの開発も進んできており、すでに一部で承認申請まで行われる段階まで来ている。SARS-CoV2ウイルスは、スパイクタンパク質が細胞のACE2受容体に結合して細胞に感染し、細胞外から消えるため、このスパイクタンパク質のACE2結合部位を認識する抗体は、感染の中和能を発揮できる場合が多いと考えられている。しかしながら、SARS-CoV2ウイルス感染からの回復者の血液中に存在するSARS-CoV2ウイルスに対する抗体を測定した結果、多くの回復者において、回復後数か月以内に血液中からIgG抗体が消失しているという報告もあり(非特許文献3)、ワクチンの効果が持続的なものかについては議論があるところである。
【0009】
これらの開発とは異なる治療方法の開発の流れとして、2020年3月ころから、中国、シンガポール、韓国、米国で少数の患者に回復期血漿の投与が行われ、有効性が示唆されたことが報告されてきた。同じ考え方に基づいて、日本においても、COVID-19回復者血漿を用いた治療についての安全性と有効性の検討が始まっている(非特許文献4)。このような、SARS-CoV2ウイルス感染からの回復期患者から採取される血清または血漿を利用する血清療法または血漿療法は、SARS-CoV2ウイルスに感染後、回復した患者から提供された血液から、血清または血漿を調製して、SARS-CoV2ウイルスに感染した患者に投与するという古典的な治療法である。SARS-CoV2ウイルス感染から回復した患者の血中には、SARS-CoV2ウイルスの感染を阻害する抗体(中和抗体)が存在するという前提に立った治療法である。
【0010】
しかしながら、血清療法や血漿療法を採用するためには、SARS-CoV2ウイルスに感染後、回復した患者から提供された血液が必要であり、血液原料の不足から安定供給の問題が生じており、また血液製剤に特有な安全性の問題が存在している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】https://www.mhlw.go.jp/content/000628076.pdf
【非特許文献2】https://www.mhlw.go.jp/content/000625757.pdf
【非特許文献3】Clinical and immunological assessment of asymptomatic SARS-CoV2 infections, Quan-Xin Long, et al., Nature Medicine, Letter, Published: 18 June 2020
【非特許文献4】http://www.ncgm.go.jp/news/2020/20201002164301.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、SARS-CoV2ウイルスへの感染により生体内で増幅するSARS-CoV2ウイルスの感染を中和し、SARS-CoV2ウイルスへの感染の治療のために使用することができる、組換え抗体または組換え抗体誘導体、あるいはそのような抗体を1または複数種類含む医薬組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の発明者らは、鋭意検討を行った結果、過去にSARS-CoV2ウイルスに感染し回復した個体からSARS-CoV2ウイルスに対する抗体を産生する複数の細胞を見出し、それらからSARS-CoV2ウイルスに対して結合性を有し、SARS-CoV2ウイルスの増幅を抑制しまたはSARS-CoV2ウイルスの感染を中和する作用を有する、抗体または抗体誘導体を作製することで、上記課題を解決することができることを示した。
【0014】
より具体的には、本件出願は、前述した課題を解決するため、以下の態様を提供する:
[1] SARS-CoV2ウイルスを構成するスパイクタンパク質に対して結合性を有し、SARS-CoV2ウイルスの感染を中和する作用を有する、血液由来成分を含まない、抗体または抗体誘導体;
[2] 抗体がヒト抗体である、[1]に記載の抗体または抗体誘導体;
[3] 遺伝子組換えにより製造される、[1]または[2]に記載の抗体または抗体誘導体;
[4] 抗体誘導体が、ヒト化抗体、キメラ抗体、多価抗体、および多重特異性抗体から選択されるヒト型抗体改変体またはその機能的断片から選択される、[1]~[3]のいずれかに記載の抗体または抗体誘導体;
[5] 機能的断片が、F(ab')2である、[4]に記載の抗体または抗体誘導体;
[6] 重鎖が、相補性決定領域、CDR1(GFTFRNYA、SEQ ID NO: 1)、CDR2(IWYDGSNK、SEQ ID NO: 2)、CDR3(ARDQGFGDNYYYYGMDV、SEQ ID NO: 3)を含み、
軽鎖が、相補性決定領域、CDR1(ALPKEY、SEQ ID NO: 4)、CDR2(KDS、SEQ ID NO: 5)、CDR3(QLADSSMHYVV、SEQ ID NO: 6)を含む、
[1]~[5]のいずれかに記載の抗体または抗体誘導体;
[7] 重鎖可変領域VHドメインが、SEQ ID NO: 7のアミノ酸配列、またはSEQ ID NO: 7のアミノ酸配列のうち、CDR1(SEQ ID NO: 1)、CDR2(SEQ ID NO: 2)、およびCDR3(SEQ ID NO: 3)以外の部分において1または数個のアミノ酸の置換、挿入、または欠失を含むアミノ酸配列を含む、[1]~[6]のいずれかに記載の抗体または抗体誘導体;
[8] 軽鎖可変領域VLドメインが、SEQ ID NO: 8のアミノ酸配列、またはSEQ ID NO: 8のアミノ酸配列のうち、CDR1(SEQ ID NO: 4)、CDR2(SEQ ID NO: 5)、およびCDR3(SEQ ID NO: 6)以外の部分において1または数個のアミノ酸の置換、挿入、または欠失を含むアミノ酸配列を含む、
[1]~[7]のいずれかに記載の抗体または抗体誘導体;
[9] 重鎖が、SEQ ID NO: 9のアミノ酸配列、またはSEQ ID NO: 9のアミノ酸配列のうち、CDR1(SEQ ID NO: 1)、CDR2(SEQ ID NO: 2)、およびCDR3(SEQ ID NO: 3)以外の部分において1または数個のアミノ酸の置換、挿入、または欠失を含むアミノ酸配列を含む、[1]~[8]のいずれかに記載の抗体または抗体誘導体;
[10] 軽鎖が、
SEQ ID NO: 10のアミノ酸配列、またはSEQ ID NO: 10のアミノ酸配列のうち、CDR1(SEQ ID NO: 4)、CDR2(SEQ ID NO: 5)、およびCDR3(SEQ ID NO: 6)以外の部分において1または数個のアミノ酸の置換、挿入、または欠失を含むアミノ酸配列、または
SEQ ID NO: 11のアミノ酸配列、またはSEQ ID NO: 11のアミノ酸配列のうち、CDR1(SEQ ID NO: 4)、CDR2(SEQ ID NO: 5)、およびCDR3(SEQ ID NO: 6)以外の部分において1または数個のアミノ酸の置換、挿入、または欠失を含むアミノ酸配列、
を含む、[1]~[9]のいずれかに記載の抗体または抗体誘導体;
[11] [1]~[10]のいずれかに記載の抗体または抗体誘導体を含む、SARS-CoV2ウイルスの感染を中和するための医薬組成物;
[12] 他の抗体または抗体誘導体と組み合わせて含む、[11]に記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0015】
SARS-CoV2ウイルスに対するこれまでの血清療法または血漿療法の場合には、ヒトの血液から作製される抗SARS-CoV2ウイルス抗体を含む血清または血漿を投与するが、血液製剤特有の種々の問題が存在している。本発明の組換え抗体または組換え抗体誘導体を使用することにより、血液製剤に起因する問題点をすべて解消することができる。また、これらの抗体は、研究用試薬、診断薬等としても使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、実施例1で得られたSARS-CoV2ウイルス反応性クローンがSARS-CoV2ウイルスの細胞への感染に対して中和活性を有するか否かを検討した結果を示す図である。
図2図2は、精製リコンビナント7G7.1抗体のSARS-CoV2ウイルススパイクタンパク質への反応性の確認した結果を示す図である。
図3図3は、精製リコンビナント7G7.1抗体のin vitroにおけるSARS-CoV2ウイルス感染の中和活性を検討した結果を示す図である。
図4図4は、精製リコンビナント7G7.2抗体のSARS-CoV2ウイルススパイクタンパク質への反応性の確認したELISAの結果を示す図である。
図5-1】図5-1は、精製リコンビナント7G7.1抗体および7G7.2抗体のSARS-CoV2ウイルススパイクタンパク質への結合親和性を確認した表面プラズモン共鳴(SPR)の結果を示す図である。
図5-2】図5-2は、対照抗体のSARS-CoV2ウイルススパイクタンパク質への結合親和性を確認した表面プラズモン共鳴(SPR)の結果を示す図である。
図6図6は、精製リコンビナント7G7.2抗体のin vitroにおけるSARS-CoV2ウイルス感染の中和活性を、7G7.1抗体と比較して検討した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、一態様において、SARS-CoV2ウイルスを構成するスパイクタンパク質に対して結合性を有し、SARS-CoV2ウイルスの感染を中和する作用を有する、血液由来成分を含まない、抗体または抗体誘導体を提供することができる。この発明は、SARS-CoV2ウイルスに感染した個体または感染が疑われる個体に対して、体内におけるSARS-CoV2ウイルスの増幅を抑制しあるいはSARS-CoV2ウイルスの感染を中和することにより、SARS-CoV2ウイルスの感染により発生する新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を予防、治療するために使用することができる。
【0018】
<抗体または抗体誘導体>
本発明において使用する抗体または抗体誘導体は、血清療法や血漿療法で使用される血液製剤に特有の種々の問題(特に、感染性の問題、免疫性の問題)を解決することを目的とするため、血液中に含まれる(血液製剤に混入する危険性がある)B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)などのウイルスなどの病原体を含まず、また血液中に含まれる抗原性タンパク質やヒトタンパク質と結合する抗体といった、投与された個体に免疫異常を生じさせる危険性のある血液由来成分を含まないことを特徴とする。
【0019】
血液由来成分を含まない抗体として、抗体産生細胞に由来する不死化細胞を、血液由来成分を含まない条件下で取得し、その細胞から血液由来成分を含まない培養条件下で調製される抗体や、上記不死化細胞から取得した抗体タンパク質を規定するDNAを使用して組換え的に抗体タンパク質を発現させて調製することができる組換え抗体を使用することができる。
【0020】
すなわち、一態様において、本発明における抗体は、過去にSARS-CoV2ウイルスに感染し回復した個体の血液から、SARS-CoV2ウイルスに対する抗体を産生する細胞クローンを取得・不死化することにより抗体産生細胞に由来する不死化細胞を得て、その不死化抗体産生細胞からin vivoにおいてSARS-CoV2ウイルスの増幅を抑制しまたはSARS-CoV2ウイルスの感染を中和する作用を有するものを選択することにより得ることができる。
【0021】
また別の一態様において、上述した方法により選択されたSARS-CoV2ウイルスの増幅を抑制しまたはSARS-CoV2ウイルスの感染を中和する作用を有する不死化抗体産生細胞から、周知の方法に従って、mRNAの取得、cDNAの作成を経て、抗体タンパク質を規定するDNA配列を取得し、ベクターを介して、血液由来成分を含まない哺乳動物発現系において発現させることにより、組換え抗体として調製することもできる。
【0022】
本発明においては、これらの抗体の誘導体を使用することもできる。本発明において使用することができる抗体誘導体としては、例えば、ヒト化抗体、キメラ抗体、多価抗体、および多重特異性抗体から選択されるヒト型抗体改変体またはその機能的断片を使用することができるが、これらには限定されない。このうち、機能的断片としては、例えば、F(ab')2を使用することができるが、これらには限定されない。
【0023】
これらの抗体の誘導体は、抗体が得られたのち、当該技術分野において周知の方法に従って作製することができる。
【0024】
上述した方法により取得した抗体または抗体誘導体は、SARS-CoV2ウイルスに対して結合性を有するものであるが、本発明においては、このようなSARS-CoV2ウイルスに対して結合性を有するものの中から、さらにSARS-CoV2ウイルスの増幅を抑制しまたはSARS-CoV2ウイルスの感染を中和する作用を有することに基づいてスクリーニングを行い、当該中和作用を有する抗体または抗体誘導体を提供することを特徴とする。
【0025】
後述する実施例においても実際に取得した抗体を複数種類示しているが、これらに限定されるわけではない。
【0026】
<抗体またはその誘導体が標的とするSARS-CoV2ウイルス由来抗原>
抗体またはその誘導体が標的とするSARS-CoV2ウイルス由来抗原は、SARS-CoV2ウイルスの構成成分であるエンベロープタンパク質、メンブレンタンパク質、ヌクレオカプシドタンパク質、スパイクタンパク質のいずれか1つであるかまたは複数の組み合わせであってもよい。抗体またはその誘導体が結合しやすいSARS-CoV-2ウイルスの外部に存在する(すなわち、表面に露出している)タンパク質(例えば、エンベロープタンパク質、スパイクタンパク質)を抗原とすることが好ましい。
【0027】
本発明において抗体またはその誘導体が標的とすることができるSARS-CoV-2ウイルスを構成するタンパク質は、すでに公的データベースに登録されているSARS-CoV-2ウイルスの完全ゲノム配列に基づいて取得することができるものである。本発明においては、代表性の観点から、NCBI RefSeqデータベースに登録されているSARS-CoV-2ウイルスの参照ゲノム配列NC_045512を使用し、この参照ゲノム配列に基づいて特定されるSARS-CoV-2ウイルスを構成するタンパク質を使用することが好ましい。
【0028】
<抗体または抗体誘導体の作用>
本発明の抗体または抗体誘導体は、上述したSARS-CoV-2ウイルス由来抗原に結合するものであって、結果としてSARS-CoV2ウイルスの感染・増幅を抑制しまたはSARS-CoV2ウイルスの感染を中和する作用を有するものであれば、本発明の目的の達成のために使用することができる。本発明の抗体または抗体誘導体は、SARS-CoV2ウイルス治療薬として使用することを目的としていることから、かかる作用を有することが求められる。
【0029】
抗体または抗体誘導体の上記作用は、in vitroにおいて抗体または抗体誘導体の存在下、SARS-CoV2ウイルスへの感染を引き起こすことができる細胞(例えば、VERO細胞など)にSARS-CoV2ウイルスを感染させ、当該細胞細胞においてSARS-CoV2ウイルスの感染抑制がみられるかどうかにより特定することができる。
【0030】
<本発明の抗体の例>
本発明においては、過去にSARS-CoV2ウイルスに感染し回復した個体から血液を採取し、その中から得られたSARS-CoV2ウイルスに対する抗体を使用することができる。具体的には、過去にSARS-CoV2ウイルスに感染し回復した個体から、前述したSARS-CoV2ウイルス由来抗原に対して結合する抗体を産生する細胞を上述の<抗体または抗体誘導体>の通り採取し、得られた抗体または抗体誘導体に関して上述の<抗体またはその誘導体の作用>の通りSARS-CoV2ウイルスの増幅を抑制しまたはSARS-CoV2ウイルスの感染を中和する作用を調べた。その結果、複数の抗体およびその抗体を産生する細胞が得られた。
【0031】
そのような中で、実施例において検討を行った具体的なものとして、
重鎖の相補性決定領域、CDR1(GFTFRNYA、SEQ ID NO: 1)、CDR2(IWYDGSNK、SEQ ID NO: 2)、CDR3(ARDQGFGDNYYYYGMDV、SEQ ID NO: 3)を含み、
軽鎖の相補性決定領域、CDR1(ALPKEY、SEQ ID NO: 4)、CDR2(KDS、SEQ ID NO: 5)、CDR3(QLADSSMHYVV、SEQ ID NO: 6)を含む;
抗体またはこれらの抗体誘導体を提供することができる。
【0032】
このような抗体または抗体誘導体としては:
重鎖可変領域VHドメインが、SEQ ID NO: 7のアミノ酸配列、またはSEQ ID NO: 7のアミノ酸配列のうち、CDR1(SEQ ID NO: 1)、CDR2(SEQ ID NO: 2)、およびCDR3(SEQ ID NO: 3)以外の部分において1または数個のアミノ酸の置換(例えば、保存的置換)、挿入、または欠失を含むアミノ酸配列を含む抗体または抗体誘導体、
軽鎖可変領域VLドメインが、SEQ ID NO: 8のアミノ酸配列、またはSEQ ID NO: 8のアミノ酸配列のうち、CDR1(SEQ ID NO: 4)、CDR2(SEQ ID NO: 5)、およびCDR3(SEQ ID NO: 6)以外の部分において1または数個のアミノ酸の置換(例えば、保存的置換)、挿入、または欠失を含むアミノ酸配列を含む抗体または抗体誘導体、
として表すこともできる。
【0033】
本明細書の以下の実施例において、具体的な抗体として、
・7G7.1クローン:
重鎖が、SEQ ID NO: 9のアミノ酸配列、またはSEQ ID NO: 9のアミノ酸配列のうち、CDR1(SEQ ID NO: 1)、CDR2(SEQ ID NO: 2)、およびCDR3(SEQ ID NO: 3)以外の部分において1または数個のアミノ酸の置換(例えば、保存的置換)、挿入、または欠失を含むアミノ酸配列を含み、および
軽鎖が、SEQ ID NO: 10のアミノ酸配列、またはSEQ ID NO: 10のアミノ酸配列のうち、CDR1(SEQ ID NO: 4)、CDR2(SEQ ID NO: 5)、およびCDR3(SEQ ID NO: 6)以外の部分において1または数個のアミノ酸の置換(例えば、保存的置換)、挿入、または欠失を含むアミノ酸配列を含む、
抗体または抗体誘導体、および
・7G7.2クローン(7G7.1クローンの軽鎖Igλ鎖の定常領域をIgk鎖定常領域で置き換えたもの):
重鎖が、SEQ ID NO: 9のアミノ酸配列、またはSEQ ID NO: 9のアミノ酸配列のうち、CDR1(SEQ ID NO: 1)、CDR2(SEQ ID NO: 2)、およびCDR3(SEQ ID NO: 3)以外の部分において1または数個のアミノ酸の置換(例えば、保存的置換)、挿入、または欠失を含むアミノ酸配列を含み、および
軽鎖が、SEQ ID NO: 11のアミノ酸配列、またはSEQ ID NO: 11のアミノ酸配列のうち、CDR1(SEQ ID NO: 4)、CDR2(SEQ ID NO: 5)、およびCDR3(SEQ ID NO: 6)以外の部分において1または数個のアミノ酸の置換(例えば、保存的置換)、挿入、または欠失を含むアミノ酸配列を含む、
抗体または抗体誘導体を作製した。
【0034】
<医薬組成物>
本発明においては、一態様において、これまでに説明した抗体または抗体誘導体を含む、SARS-CoV2ウイルスの増幅を抑制しまたはSARS-CoV2ウイルスの感染を中和するための医薬組成物を提供することができる。この医薬組成物は、SARS-CoV2ウイルスに感染した個体または感染が疑われる個体に対して、SARS-CoV2ウイルスに対する抗ウイルス薬として、あるいはSARS-CoV2ウイルスにより生じる症状の発現を予防、治療する目的で、使用することができる。
【0035】
この医薬組成物に含まれる本発明の抗体または抗体誘導体は血液原料に由来しないものであることから、この医薬組成物は、血液製剤に混入する危険性があるリスク因子(例えば、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)などのウイルスなどの病原体、抗原性タンパク質やヒトタンパク質と結合する抗体などの投与された個体に免疫異常を生じさせる危険性のある血液由来成分)を含まないことを特徴とする。
【0036】
本発明における医薬組成物には、上述した抗体または抗体誘導体を1種類含んでいてもよいし、複数種類含んでいてもよい。
【0037】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に示す。下記に示す実施例はいかなる方法によっても本発明を限定するものではない。
【実施例0038】
実施例1:改変EBV法を用いた抗体の単離
本実施例においては、エプスタイン・バー・ウイルス(EBV)を用いるEBV法により、SARS-CoV2ウイルスに対する抗体を産生する細胞クローンを取得し、そこから抗体を単離することを目的として実験を行った。
【0039】
EBVは、ガンマヘルペスウイルス亜科に属するdsDNAウイルスであり、様々な癌に関わっている。主にB細胞に感染することが知られており、ヒトB細胞にEBVをin vitroで感染させると、B細胞は持続増殖して不死化ヒトリンパ芽球様細胞(LCL)に形質転換することが知られている。
【0040】
(1-1)PBMCの単離とLCLへの分化
過去にSARS-CoV2ウイルスに感染し回復したドナー(n=1)より血液を採取し(国立病院機構九州医療センターより入手)、Lymphoprep(Abbott Diagnostics Technologies AS)を用いて末梢血単核球(PBMC、リンパ球・単球)を採取した。細胞懸濁液に対してAnti-human IgM 磁気ビーズ(Miltenyi)を加えて除去することでネガティブセレクションし、IgMを細胞表面に発現していない細胞を採取した。
【0041】
ネガティブセレクションした細胞を回収し、EBV(B95-8株)とともに、37℃にて、1時間、インキュベートした。インキュベート後、遠心して細胞を回収し、LCL培養培地に懸濁した。この細胞懸濁液を200μLずつ(104 cells / well)、96穴プレート(U底 delta: NUNC)に播種した後に、2週間培養を行い、不死化ヒトリンパ芽球様細胞(LCL)への分化を行った。
【0042】
本実施例で使用するLCL培養培地として、15%FBS(SIGMA)、L-glutamine(GIBCO)、Penicillin/streptomycin(Nacalai tesque)、Sodium Pyruvate(Nacalai tesque)、2-Mercaptoethanol(GIBCO)、Non-essential amino acids(GIBCO)、K3(GeneDesign)、シクロスポリン(ノバルティスファーマ)、各種添加物を添加したRPMI培地(Nacalai tesque)を使用した。同様の操作を2回行った。
【0043】
(1-2)SARS-CoV2ウイルス反応性クローンのスクリーニング
SARS-CoV2ウイルスのスパイクタンパク質(SARS-CoV2 Spike ECD protein(GenScript社))1μg/mLをELISA用96穴プレートに50μL/wellで添加し固相化し、LCLの培養上清(抗SARS-CoV2ウイルスIgGを含む可能性があるもの)を50μL/well添加して、抗原-抗体の結合反応を行った。この後、2次抗体としてGoat Anti-Human IgG-AP(SouthernBiotech)、発色基質としてPhosphatase substrate(SIGMA)を用い、405 nmおよび650 nmの吸光度を測定した。
【0044】
この結果、1回目のスクリーニングでは10クローン、2回目のスクリーニングでは18クローンで、合計28クローンが、SARS-CoV2ウイルススパイクタンパク質に対して結合性を有する抗体を産生するクローンとして得られた。
【0045】
実施例2:in vitroにおける機能解析(Vero細胞を用いたSARS-CoV2ウイルス感染中和実験)
本実施例においては、実施例1で得られたSARS-CoV2ウイルス反応性クローンのin vitroにおける機能およびin vivoにおける機能を解析することを目的として実験を行った。
【0046】
SARS-CoV2ウイルスのスパイクタンパク質は標的細胞表面にある受容体への結合およびそれに引き続く細胞侵入に中心的な役割を果たしていると考えられている。そのため、細胞表面の受容体へのスパイクタンパク質の結合阻害がSARS-CoV2ウイルスの感染の中和活性に重要であると考えられることから、実施例1で得られたクローンのうち、実施例1で得られた28クローンのSARS-CoV2ウイルス反応性クローンが、SARS-CoV2ウイルスの細胞への感染を中和する活性を有するか否かについて検討した。
【0047】
感染実験1日前、Vero細胞(1×105個/ml)を1ウェルあたり細胞培養液D10(DMEM(High Glucose)、10%FBS、ペニシリン/スプレプマイシン添加)にて調製し、96ウェルプレートに各100μL分注して、1×104個の細胞を播種し、37℃、5%CO2雰囲気下で18から20時間培養した。
【0048】
感染実験当日に、実施例1で得られた28クローンそれぞれについてのLCL培養上清30μLに対して、細胞培養液R15(RPMI1640、15%FBS、2 mM L-グルタミン、1 mMピルビン酸ナトリウム、非必須アミノ酸、2-メルカプトメタノール、ペニシリン/スプレプマイシ添加)を70μL添加し、全量100μLにした。そこに、感染MOI 0.01になるように1×105 TCID50/mLのSARS-CoV2ウイルス懸濁液を1μL添加し、全量101μLとした。このウイルス再懸濁液を37℃で1時間インキュベーションした。
【0049】
Vero細胞培養物において、培養液D10(100μL)を取り除き、代わりに28クローンそれぞれについてのウイルス再懸濁液の全量(101μL)を添加し、37℃、5%CO2雰囲気下で1時間培養し、細胞にSARS-CoV2ウイルスを感染させた。その後、ウイルス再懸濁液を取り除き、細胞培養液D1(DMEM(High Glucose)、1%FBS、ペニシリン/スプレプマイシン添加)100μLを添加して、37℃、5%CO2雰囲気下で3日間培養した。
【0050】
3日後に、細胞培養液D1を取り除き、10%中性緩衝ホルムアルデヒド液100μLを添加して固定し、CPE(細胞変性効果)を観察し、実施例1で得られたSARS-CoV2ウイルス反応性クローンがSARS-CoV2ウイルスの細胞への感染に対して中和活性を有するか否かを検討した。CPEは死細胞数をカウントすることで判断した。
【0051】
本実施例のスクリーニングは2回にわけて行い、それぞれの結果を図1Aおよび図1Bとして示す。その結果、28クローンのSARS-CoV2ウイルススパイクタンパク質への結合抗体のうち、7G7.1、#8、#10、#18、#20、#26、#28の7クローンの抗体が、感染に対する中和活性が陽性であった(図1)。
【0052】
実施例3:組換え抗体の機能解析
この実施例においては、実施例2においてSARS-CoV2ウイルスの細胞への感染に対して中和活性を有すると判明した1クローンに関して、抗体遺伝子のクローニングを行い、組換え抗体を作製することを目的として実験を行った。
【0053】
(3-1)抗体遺伝子の取得
本実施例においては、実施例1で作製したLCLから、ハイブリドーマの作成を行わずに、直接的にRNAを抽出し、これを用いたRT-PCR法により抗体遺伝子のクローニングを行った。
【0054】
実施例2(2-1)のin vitro機能性試験で実施例2において感染に対する中和活性が示されたクローンのうちの7G7,1クローンの抗体遺伝子(重鎖、軽鎖)のクローニングを行い、発現ベクターを構築した。すなわち、7G7.1クローンのLCLから、miRNeasy Micro kit(QIAGEN)を用い、添付プロトコールに従って、total RNAの抽出を行った。
【0055】
抗体遺伝子の重鎖IgG1遺伝子、および、軽鎖IgL遺伝子を単離するために、上記の方法より抽出したtotal RNAを鋳型として、5’全長cDNAの増幅が可能なSMART cDNA Library Construction Kit(TAKARA)を用いて、添付プロトコールに従い逆転写反応を行い、cDNAを作製した。
【0056】
上記の方法により合成したcDNAを鋳型として、KOD FX(TOYOBO)を用いて2回のPCR(1st PCR、2nd PCR)を行った。1st PCRは、各LCLから逆転写したcDNA 1μlを鋳型として、プライマーとして以下のフォワードプライマー(Primer 1)およびリバースプライマー(Primer 2)を使用して、94℃・2分間の後、「98℃・10秒、55℃・30秒、68℃・2分]を35サイクル、最後に68℃・3分の反応でPCR反応を行った。
【0057】
【表1】
【0058】
2nd PCRは、1st PCRの伸長生成物0.5μlを鋳型として使用し、プライマーとして以下のフォワードプライマー(Primer 3)およびリバースプライマー(Primer 4)を使用して、94℃・2分間の後、「98℃・10秒、60℃・30秒、68℃・2分]を35サイクル、最後に68℃・3分の反応でPCR反応を行った。
【0059】
【表2】

【0060】
PCRサンプルは、QIAquick Purification Kit(QIAGEN)に供し、未反応プライマーおよび酵素の除去を行い、精製物を得た。
【0061】
精製したPCR精製物を制限酵素処理し、アガロースゲル電気泳動により分離、精製した後、ベクターに組み込んだ。重鎖遺伝子を含むベクター調製のためにはpQEFIP vector(pQCXIP(TAKARA)をバックボーンとしてCMVプロモーターをヒトEF1 alphaプロモーターに置き換えたレトロウイルスベクター)を、軽鎖遺伝子を含むベクター調製のためにはpQEFIN vector(pQCXIN(TAKARA)をバックボーンとしてCMVプロモーターをヒトEF1 alphaプロモーターに置き換えたレトロウイルスベクター)をそれぞれ使用した。Ligation high(TOYOBO)を使用してPCR生成物をベクターに組み込み、コンピテントセル(DH-5alpha:ニッポンジーン)を形質転換させた。
【0062】
アンピシリン含有LB液体培地中で培養した大腸菌から、NucleoSpin Plasmid EasyPure(MACHEREY-NAGEL)を用いて、添付プロトコールに従い、プラスミドの抽出を行った。
【0063】
(3-2)リコンビナント抗体の発現
実施例3(3-1)の方法で得られた重鎖、軽鎖の発現プラスミドベクターを、Expi293 Expression System(Thermo Fisher Scientific)を用いてExpi 293F細胞(Thermo Fisher Scientific)に一過性にコトランスフェクションし、リコンビナント抗体の発現、分泌を行った。
【0064】
ExpiFectamine 293試薬80μLと重鎖と軽鎖のプラスミド(各15μg)を、それぞれ1.5 mLのOpti-MEM I(gibco)と混合し、5分間室温で静置した。静置後、2つの溶液を合わせ室温で20分間静置し、125 mLフラスコ(Corning)で培養した4.5~5.5×106 cells / mL(30 mL)の細胞に加えて旋回培養(37℃、8%CO2)した。18~20時間培養後、Expi Fectamine 293 Transfection Enhancer 1 50μLとExpi Fectamine 293 Transfection Enhancer 2 1.5 mLを加えて5~6日旋回培養した。
【0065】
Expi 293F細胞を用いた発現系により発現させたリコンビナント抗体は、Protein Gアフィニティークロマトグラフィー(GE Hitrap protein GHP(1 mL))を使用して精製した。
【0066】
(3-3)精製リコンビナント7G7.1抗体のSARS-CoV2ウイルススパイクタンパク質への反応性の確認
精製リコンビナント抗体のSARS-CoV2ウイルススパイクタンパク質への反応性の検討のために、前述の(1-2)と同様の方法を用いてELISAを行った。SARS-CoV2ウイルススパイクタンパク質への反応性の検討は、1μg/mLのSARS-CoV2ウイルスのスパイクタンパク質(SARS-CoV2 Spike ECD protein(GenScript社))を96穴プレートに50μL/wellでコートした96穴ELISA用プレートを使用し、1次抗体として精製リコンビナント抗体を0.001、0.01、0.1、1、10μg/mLで添加し、2次抗体としてGoat Anti-Human IgG-APを用いた。なお、ネガティブコントロールとしては、発明者らが単離したヒト由来抗体(以下、コントロール抗体という)を使用した。
【0067】
結果を図2に示す。この図において示されるように、精製リコンビナント7G7.1抗体は、SARS-CoV2ウイルススパイクタンパク質に対して用量依存的に結合することが確認された。
【0068】
(3-4)精製リコンビナント7G7.1抗体のin vitroにおける機能解析
実施例2のVero細胞を用いたSARS-CoV2ウイルス感染中和実験でSARS-CoV2ウイルスの感染阻害活性が認められた精製7G7.1抗体について、ルシフェラーゼアッセイを行い、細胞へのSARS-CoV2ウイルス感染の中和活性を検討した。
【0069】
感染実験1日前、Vero細胞(1×105個/ml)を1ウェルあたり細胞培養液D10(DMEM(High Glucose)、10%FBS、ペニシリン/スプレプマイシン添加)にて調製し、96ウェルプレートに各100μL分注して、1×104個の細胞を播種し、37℃、5%CO2雰囲気下で18から20時間培養した。
【0070】
感染実験当日に、精製抗体を10、3、1、0.3、0.1、0.03、0.01、0.003、0μg/mLになるように、細胞培養液D1(DMEM(High Glucose)、1%FBS、ペニシリン/スプレプマイシン添加)を使って、各濃度の溶液を各250μLずつ調製した。そこに、感染MOI 0.1になるように1×105 TCID50/mLルシフェラーゼ遺伝子を導入したSARS-CoV2ウイルス懸濁液を25μLずつ添加し、全量275μLとした。このウイルス再懸濁液を37℃で1時間インキュベーションした。
【0071】
Vero細胞培養物において、培養液D10を取り除き、ウイルス再懸濁液を100μL添加し、37℃、5%CO2雰囲気下で1時間培養し、細胞にSARS-CoV2ウイルスを感染させた。その後、ウイルス再懸濁液を取り除き、細胞培養液D1(DMEM(High Glucose)、1%FBS、ペニシリン/スプレプマイシン添加)100μLを添加して、37℃、5%CO2雰囲気下で24時間培養した。
【0072】
24時間後に、細胞培養液D1を取り除き、Passive lysis bufferを50μL添加し、感染細胞を溶解させた。感染細胞溶解液25μLと基質液25μLを混合し、ルシフェラーゼの発光を測定した。発光強度とウイルス感染には正の相関関係が認められる。
【0073】
結果を図3に示す。7G7.1抗体は、0.01μg/mlの濃度において、ウイルスによる細胞の感染を50%以下にまで低下させ、それ以上の濃度においても用量依存的にウイルスによる細胞の感染を低下させることができることを明らかにした。
【0074】
実施例4:リコンビナント7G7.1抗体の改変と機能解析
本実施例においては、実施例3で作製されたリコンビナント7G7.1抗体を改変し、その活性を確認することを目的として実験を行った。
【0075】
(4-1)7G7.1抗体の改変(7G7.2)とリコンビナント抗体の発現
実施例3(3-1)で得られた7G7.1抗体は、重鎖がIgG1、軽鎖がIgλであることが明らかになったが、このうちの軽鎖Igλの定常領域を、Igkのものに置換することにより改変することとした。すなわち、重鎖については上述の(3-1)で得られたプラスミドをそのまま使用し、軽鎖については(3-1)で得られたIgλのプラスミドに含まれるIgλ遺伝子の内、定常領域を規定する部分を、別途調製したIgk定常領域を規定する部分と置換して、改変抗体を作製した。
【0076】
ヒトIgk発現プラスミドベクター(自家調製品)を鋳型として、以下のプライマーを使用して、ヒトIgk定常領域を含むフラグメントをPCR増幅した(TOYOBO KOD plus neoを使用)(反応条件:94℃・2分→[98℃・10秒、58℃・30秒、68℃・4.5分]×30サイクル→68℃・5分)。
【0077】
【表3】
【0078】
これに対して、実施例3(3-1)で作製された7G7.1抗体Igλ2軽鎖発現プラスミドベクターを鋳型として、以下のプライマーを使用して、7G7.1抗体軽鎖(Igλ2)の可変領域を含むフラグメントをPCR増幅した(TOYOBO KOD plus neoを使用)(反応条件:94℃・2分→[98℃・10秒、58℃・30秒、68℃・30秒]×30サイクル→68℃・3分)。
【0079】
【表4】
【0080】
上述した工程で得られた2種類のPCR産物(ヒトIgk定常領域および7G7.1抗体(Igλ2)の可変領域)のそれぞれを、制限酵素Dpn I(NEB)により37℃で30分間処理し、アガロースゲル電気泳動により分離した後、ゲルよりDNAを抽出した。
【0081】
得られた2種類のDNAを混合し、NEBuilder HiFi DNA Assembly Master Mix(NEB)により50℃にて15分間処理し、各フラグメントを結合した。この結合したDNAを、常法に従い、大腸菌にトランスフォームし、単一コロニーを得て、7G7.2軽鎖発現プラスミドベクターを取得した。
【0082】
実施例3(3-1)の方法で得られた重鎖の発現プラスミドベクター、および上記の方法で得られた軽鎖の発現プラスミドベクター(Igλ2定常領域をIgk定常領域により置換したもの)を、実施例(3-2)と同様にして、リコンビナント抗体を発現、精製した。具体的には、これらの発現プラスミドベクターを、Expi293 Expression System(Thermo Fisher Scientific)を用いてExpi 293F細胞(Thermo Fisher Scientific)に一過性にコトランスフェクションし、リコンビナント抗体の発現、分泌を行った。得られた改変体抗体を、以下においては7G7.2抗体と呼ぶ。
【0083】
(4-2)7G7.1抗体および7G7.2抗体の抗原への結合強度の解析
上記(4-1)において得られた7G7.2抗体の抗原への結合強度を、7G7.1抗体の抗原への結合強度と比較することにより、SARS-CoV2ウイルススパイクタンパク質への反応性を確認した。結合強度の比較は、実施例3(3-3)において記載したELISA法と同様にELISA法により測定した。なお、ネガティブコントロールとしては、コントロール抗体を使用した。
【0084】
結果を図4に示す。この図において示されるように、7G7.2抗体の場合にも、7G7.1抗体の場合と同様、用量依存的な抗原への結合が見られることが確認された。
【0085】
(4-3)7G7.1抗体および7G7.2抗体の表面プラズモン共鳴(Surface plasmon resonance: SPR)による親和性解析
本実施例において得られた7G7.1抗体および7G7.2抗体の抗原への結合親和性を表面プラズモン共鳴(Surface plasmon resonance、以下SPR)解析により確認した。ネガティブコントロールとしては、コントロール抗体を使用した。
【0086】
SPR解析にはBiacore T200(Cytiva)を使用し、機器の操作および実験試薬の準備はBiacore T200 version2 日本語取扱説明書に従った。
【0087】
ランニングバッファーとして、PBS-T(1×Phsophate Buffered Saline、0.05%Tween 20)を作成し、使用前に0.22μmのフィルターでろ過し、以下のすべての工程においてランニングバッファーは常温で使用した。
【0088】
一次抗体としてAnti-Human IgG (Fc) antibody(0.5 mg/mL)を使用し、Human Antibody Capture Kit(Cytiva)を使用して、Series S Sensor Chip CM5(Cytiva)(以下、CM5センサーチップ)の金属薄膜基板上に、アミンカップリング法(Amine Coupling Kit、Cytiva)により一次抗体を固定化させた。すなわち、Anti-Human IgG (Fc) antibody(一次抗体、0.5 mg/mL)を、Human Antibody Capture Kitの付属品であるImmobilization bufferを用いて25μg/mLに希釈し、基板上の一次抗体固定化量が1フローセルあたり約10,000 RU(Response unit)となるように、希釈したAnti-Human IgG (Fc) antibodyを流速10μL/minで360秒間基板上へ送液し、基板上に一次抗体を固定化した。
【0089】
3種の被検抗体(7G7.1抗体、7G7.2抗体およびコントロール抗体)を以下の濃度:
7G7.1抗体:1.0μg/mL
7G7.2抗体:0.8μg/mL
コントロール抗体:0.8μg/mL
となるようにランニングバッファーに溶解し、流速30μL/min、解析温度25℃、リガンド固定化時間:60秒にて基板上の一次抗体に対してそれぞれの被検抗体を固定化した。この固定化条件は、基板上への抗体固定化量が約150 RUとなるように抗体濃度および送液時間を調整したものである。
【0090】
次に、3種の抗体(7G7.1抗体、7G7.2抗体およびコントロール抗体)を固定化した基板上に、ランニングバッファーに溶解した抗原タンパク質(SARS-CoV2 Spike protein(ECD, His & Flag Tag))(GenScript、Z03481)(135 kDa)を0.625 nM、1.25 nM、2.5 nM、5 nM、10 nM、20 nM、40 nM、80 nMの濃度で調整し、順番にアナライト添加時間:240秒、アナライト解離時間:900秒でSPR測定を実施した。それぞれの濃度の抗原タンパク質についてのSPR測定を終了するごとに、Regeneration solution(3 M MgCl2)を送液して、CM5センサーチップ基板上に固定化されたそれぞれの被検抗体を除去した。
【0091】
結果を以下の表5および図5に示す。KDは、抗体親和性を評価するためのパラメータであり、結合速度定数kaと解離速度定数kdから算出される(KD=kd/ka)。Rmaxは、抗体に対する抗原の理論的な最大結合量である。
【0092】
抗原タンパク質(SARS-CoV2 Spike protein)は、7G7.1抗体および7G7.2抗体に対してほぼ同じ親和性(それぞれ2.04 nM、1.55 nMのKD値)(表5)で結合した(図5)。なお、この表で示される各パラメータは図1図3の結果をもとに、Biacore T200 Evaluation Software ver.2.0の1:1結合モデルを用いて算出したものである。一般的に、医薬品として用いられる抗体のKD値は10-9~10-10 M程度であることから、これらの抗体は抗ヒトSARS-CoV2抗体として十分な親和性を有することが示された。
【0093】
他方で、Rmax(CM5センサーチップ基板上に固定化した被検抗体に抗原タンパク質が最大量結合したときの反応を示すパラメータ)は、7G7.1抗体および7G7.2抗体ではほぼ同程度の値(それぞれ164.1 RU、151.3 RU)であったのに対し、比較対照としたコントロール抗体では約1/10程度(15.24 RU)であったことから(表5)、7G7.1抗体および7G7.2抗体は陰性コントロールと比較して、抗原タンパク質に対し高い親和性を有することが示された。。
【0094】
【表5】
【0095】
(4-4)精製リコンビナント7G7.2抗体のin vitroにおける機能解析
上記(4-1)で作製された精製7G7.2抗体について、ルシフェラーゼアッセイを行い、細胞へのSARS-CoV2ウイルス感染の中和活性を検討した。中和活性の測定は、精製7G7.2抗体を精製7G7.1抗体の代わりに使用した以外は実施例3(3-4)と同様の方法によりルシフェラーゼアッセイを行うことにより検討した。
【0096】
結果を図6に示す。7G7.2抗体は、7G7.1抗体よりは活性が低いものの、7G7.1抗体と同様に、0.03μg/mlの濃度において、ウイルスによる細胞の感染を50%以下にまで低下させ、それ以上の濃度においても用量依存的にウイルスによる細胞の感染を低下させることができることを明らかにした。
【0097】
実施例5:組換え抗体の配列解析
本実施例は、実施例3で得られたリコンビナント7G7.1抗体および実施例4で得られたリコンビナント7G7.2抗体改変体の2種類の抗体の配列解析を行うことを目的とした。
【0098】
リコンビナント7G7.1抗体および7G7.2改変体抗体のそれぞれの抗体を発現するためのベクターのDNA配列を解析し、それに基づいてアミノ酸配列を特定した。なお、7G7.1抗体と7G7.2抗体は、いずれも同一の重鎖可変領域および軽鎖可変領域を有している。それぞれの抗体のアミノ酸配列は以下の通りであった:
・7G7.1クローン:
重鎖IgG1鎖(SEQ ID NO: 9)(VH領域(SEQ ID NO: 7)に下線を引いた);
MEFGLSWVFLVALLRGVQCQVQLVESGGGVVQPGRSLRLSCIASGFTFRNYAMYWVRQAPGKGLEWVAVIWYDGSNKFYTDSVKGRFTISRDNSKNSLYLQMNSLRAEDTAVYFCARDQGFGDNYYYYGMDVWGQGTTVTVSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKVEPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNIFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK
軽鎖Igλ2鎖(SEQ ID NO: 10)(VL領域(SEQ ID NO: 8)に下線を引いた):
MAWIPLLLPLLTLCTGSEASYELTQPPSVSVSPGQTARISCSGDALPKEYAYWYQQKPGQAPVLVIYKDSERPSGIPERFSGSSSGTTVTLTISGVQAEDEADYYCQLADSSMHYVVFGGGTKLTVLGQPKAAPSVTLFPPSSEELQANKATLVCLISDFYPGAVTVAWKADSSPVKAGVETTTPSKQSNNKYAASSYLSLTPEQWKSHRSYSCQVTHEGSTVEKTVAPTECS
・7G7.2クローン(7G7.1クローンの軽鎖Igλ鎖の定常領域をIgk鎖定常領域で置き換えたもの):
重鎖IgG1鎖(SEQ ID NO: 9);
軽鎖(7G7.1クローンの軽鎖Igλ鎖の定常領域をIgk鎖定常領域で置き換えたもの)(SEQ ID NO: 11)(VL領域(SEQ ID NO: 8)に下線を引いた):
MAWIPLLLPLLTLCTGSEASYELTQPPSVSVSPGQTARISCSGDALPKEYAYWYQQKPGQAPVLVIYKDSERPSGIPERFSGSSSGTTVTLTISGVQAEDEADYYCQLADSSMHYVVFGGGTKLTVLRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC。
【0099】
これらの配列を解析した結果、それぞれのクローンの重鎖および軽鎖の可変領域のうちの相補性決定領域(CDR1~CDR3)はそれぞれ以下の通りであることが確認された:
・7G7.1クローンおよび7G7.2クローン:
VH鎖(SEQ ID NO: 7)(CDR1(SEQ ID NO: 1)、CDR2(SEQ ID NO: 2)、CDR3(SEQ ID NO: 3)に下線を引いた):
QVQLVESGGGVVQPGRSLRLSCIASGFTFRNYAMYWVRQAPGKGLEWVAVIWYDGSNKFYTDSVKGRFTISRDNSKNSLYLQMNSLRAEDTAVYFCARDQGFGDNYYYYGMDVWGQGTTVTVSS
VL鎖(SEQ ID NO: 8)(CDR1(SEQ ID NO: 4)、CDR2(SEQ ID NO: 5)、CDR3(SEQ ID NO: 6)に下線を引いた):
SYELTQPPSVSVSPGQTARISCSGDALPKEYAYWYQQKPGQAPVLVIYKDSERPSGIPERFSGSSSGTTVTLTISGVQAEDEADYYCQLADSSMHYVVFGGGTKLTVL。
【産業上の利用可能性】
【0100】
SARS-CoV2ウイルスに対するこれまでの血清療法または血漿療法の場合には、ヒトの血液から作製される抗SARS-CoV2ウイルス抗体を含む血清または血漿を投与するが、血液製剤特有の種々の問題が存在している。本発明の組換え抗体または組換え抗体誘導体を使用することにより、血液製剤に起因する問題点をすべて解消することができる。また、これらの抗体は、研究用試薬、診断薬等としても使用することができる。
【配列表フリーテキスト】
【0101】
7G7.1抗体および7G7.2抗体の重鎖の相補性決定領域:CDR1(GFTFRNYA、SEQ ID NO: 1)、CDR2(IWYDGSNK、SEQ ID NO: 2)、およびCDR3(ARDQGFGDNYYYYGMDV、SEQ ID NO: 3)
7G7.1抗体および7G7.2抗体の軽鎖の相補性決定領域:CDR1(ALPKEY、SEQ ID NO: 4)、CDR2(KDS、SEQ ID NO: 5)、およびCDR3(QLADSSMHYVV、SEQ ID NO: 6)
7G7.1抗体および7G7.2抗体の重鎖可変領域VHドメインのアミノ酸配列:SEQ ID NO: 7
7G7.1抗体および7G7.2抗体の軽鎖可変領域VLドメインのアミノ酸配列:SEQ ID NO: 8
7G7.1抗体および7G7.2抗体の重鎖全長のアミノ酸配列:SEQ ID NO: 9
7G7.1抗体の軽鎖全長のアミノ酸配列:SEQ ID NO: 10
7G7.2抗体の軽鎖全長のアミノ酸配列:SEQ ID NO: 11
実施例3(3-1)で使用したプライマー配列:SEQ ID NO: 12~SEQ ID NO: 18
実施例4(4-1)で使用したプライマー配列:SEQ ID NO: 19~SEQ ID NO: 22
図1
図2
図3
図4
図5-1】
図5-2】
図6
【配列表】
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