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特開2024-2272二酸化炭素還元電極用触媒、その触媒を含む二酸化炭素還元電極、その電極を含む二酸化炭素還元用セル、およびその触媒を用いた一酸化炭素の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002272
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】二酸化炭素還元電極用触媒、その触媒を含む二酸化炭素還元電極、その電極を含む二酸化炭素還元用セル、およびその触媒を用いた一酸化炭素の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/06 20060101AFI20231228BHJP
   C01B 32/40 20170101ALI20231228BHJP
   C25B 11/052 20210101ALI20231228BHJP
   C25B 11/065 20210101ALI20231228BHJP
   C25B 11/077 20210101ALI20231228BHJP
   C25B 1/23 20210101ALI20231228BHJP
   C25B 3/26 20210101ALI20231228BHJP
   C01G 9/00 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
B01J23/06 M
C01B32/40
C25B11/052
C25B11/065
C25B11/077
C25B1/23
C25B3/26
C01G9/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022101366
(22)【出願日】2022-06-23
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、国際科学技術共同研究推進事業「空気中炭素の循環利用による航空用燃料合成」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221589
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 俊博
(72)【発明者】
【氏名】忠永 清治
(72)【発明者】
【氏名】三浦 章
(72)【発明者】
【氏名】ロゼロ ナバロ ナタリー カロリーナ
【テーマコード(参考)】
4G047
4G146
4G169
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4G047AA04
4G047AB02
4G047AC03
4G047AD03
4G146JA01
4G146JB04
4G146JC01
4G146JC24
4G169AA02
4G169AA03
4G169BA08B
4G169BB05A
4G169BB05B
4G169BC16A
4G169BC16B
4G169BC35A
4G169BC35B
4G169CB81
4G169DA06
4G169EA01Y
4G169EB18Y
4G169EC25
4G169EE06
4K011AA23
4K011AA69
4K011DA11
4K021AA09
4K021BA02
4K021DB12
4K021DB18
4K021DB36
(57)【要約】
【課題】銅よりも安い金属を用いて構成でき、かつ二酸化炭素を十分に還元できる二酸化炭素還元電極用触媒を提供する。
【解決手段】ZnおよびAlを含む層状複水酸化物を含み、Cu-Kα線を用いたX線回折パターンにおいて2θ=2°~15°に回折ピークを有する、二酸化炭素還元電極用触媒。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ZnおよびAlを含む層状複水酸化物を含み、Cu-Kα線を用いたX線回折パターンにおいて2θ=2°~15°に回折ピークを有する、二酸化炭素還元電極用触媒。
【請求項2】
Zn:Alのモル比が1:4~5:1である、請求項1に記載の二酸化炭素還元電極用触媒。
【請求項3】
請求項1または2に記載の二酸化炭素還元電極用触媒を含む二酸化炭素還元電極。
【請求項4】
請求項3に記載の二酸化炭素還元電極を含む二酸化炭素還元用セル。
【請求項5】
請求項1または2に記載の二酸化炭素還元電極用触媒を用いて二酸化炭素を還元する工程を含む、一酸化炭素の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、二酸化炭素還元電極用触媒、その触媒を含む二酸化炭素還元電極、その電極を含む二酸化炭素還元用セル、およびその触媒を用いた一酸化炭素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光および風力などの再生可能エネルギーを利用すると余剰電力が発生し得る。そのような余剰電力を有効活用する1つの方法として、二酸化炭素の電気化学的還元が挙げられる。二酸化炭素の電気化学的還元は、産業廃棄物である二酸化炭素を一酸化炭素等の有用な化合物及び/又は化成品等へと変換することが可能であり、温室効果ガス削減と化石資源の消費量低減の観点からも注目されている。
【0003】
二酸化炭素の電気化学的還元には、触媒が使用され得る。触媒を使用することにより、還元反応を促進することができる。特許文献1には、二酸化炭素を還元して一酸化炭素を生成するための二酸化炭素還元電極であって、触媒層と、補助触媒層とを有し、当該触媒層が希土類金属または希土類金属錯体からなり、当該補助触媒が銀、銅または錫等から選ばれる電極が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭64-15388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されているような触媒は、希土類金属、銀、銅及び/又は錫等の、少なくとも銅以上の高価な金属が使用されており、より安価な二酸化炭素還元電極用触媒が望まれている。
【0006】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、その目的の1つは、銅よりも安い金属を用いて構成でき、かつ二酸化炭素を十分に還元できる二酸化炭素還元電極用触媒、その触媒を含む二酸化炭素還元電極、その電極を含む二酸化炭素還元用セル、およびその触媒を用いた一酸化炭素の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様1は、
ZnおよびAlを含む層状複水酸化物を含み、Cu-Kα線を用いたX線回折パターンにおいて2θ=2°~15°に回折ピークを有する二酸化炭素還元電極用触媒である。
【0008】
本発明の態様2は、
Zn:Alのモル比が1:4~5:1である、態様1に記載の二酸化炭素還元電極用触媒である。
【0009】
本発明の態様3は、
態様1または2に記載の二酸化炭素還元電極用触媒を含む二酸化炭素還元電極である。
【0010】
本発明の態様4は、
態様3に記載の二酸化炭素還元電極を含む二酸化炭素還元用セルである。
【0011】
本発明の態様5は、
態様1または2に記載の二酸化炭素還元電極用触媒を用いて二酸化炭素を還元する工程を含む、一酸化炭素の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の実施形態によれば、銅よりも安い金属を用いて構成でき、かつ二酸化炭素を十分に還元できる二酸化炭素還元電極用触媒、その触媒を含む二酸化炭素還元電極、その電極を含む二酸化炭素還元用セル、およびその触媒を用いた一酸化炭素の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施例における触媒aのSEM-EDX分析結果である。
図2図2は、実施例における触媒bのSEM-EDX分析結果である。
図3図3は、実施例における触媒cのSEM-EDX分析結果である。
図4図4は、実施例における触媒a~cのXRDパターンである。
図5図5は、本発明の実施形態の効果を検証するための実験装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは、銅よりも安い金属を用いて構成でき、かつ二酸化炭素を十分に還元できる二酸化炭素還元電極用触媒を実現するべく、様々な角度から検討した。
【0015】
電気化学的に二酸化炭素を一酸化炭素に還元する際、二酸化炭素還元反応が起きる電極(二酸化炭素還元電極又はカソード)および酸化反応が起きる電極(酸化電極又はアノード)では、それぞれ下記式(1)および(2)のような反応が起こり得、全体としては下記式(3)のような反応が起こり得る。

カソード:CO+HO+2e→CO+2OH・・・(1)
アノード:2OH→HO+2e+1/2O・・・(2)
全体:CO→CO++1/2O・・・(3)
【0016】
本発明者らは、上記式(1)および(2)の反応、特に2OHの移動を促進可能な化合物として、層状複水酸化物(LDH)に着目した。さらに、二酸化炭素を還元する金属としてCuがよく知られているところ、本発明者らは、Cuよりも安価ではあるが、二酸化炭素を還元する金属として知られていないZnおよびAlを用いてLDHを構成し、触媒に用いることで、二酸化炭素を十分に還元できることを初めて見出した。なお、本願出願時において、Cuは約10,000USドル/トンであるのに対し、Znは約4,000USドル/トンであり、Alは約3,000USドル/トンである。
【0017】
以下に、本発明の実施形態が規定する各要件の詳細を示す。
【0018】
本発明の実施形態に係る二酸化炭素還元電極用触媒は、ZnおよびAlを含む層状複水酸化物を含み、Cu-Kα線を用いたX線回折パターンにおいて2θ=2°~15°に回折ピークを有する。これにより、銅よりも安い金属を用いて構成でき、かつ二酸化炭素を十分に還元できる。
【0019】
本発明の実施形態において、二酸化炭素還元電極用触媒が、ZnおよびAlを含む層状複水酸化物を含んでいるか否かは、以下のようにして確認できる。まず二酸化炭素還元電極用触媒に対してEDX等の元素分析を行うことにより、ZnおよびAlの有無を確認できる。また、層状複水酸化物は、Cu-Kα線を用いたX線回折パターンにおいて、(003)面に対応する位置(2θ=2°~15°)に回折ピークを有することが知られている。そのため、二酸化炭素還元電極用触媒のX線回折パターンを取得して、層状複水酸化物特有の(003)面の回折ピークの有無を確認することにより、層状複水酸化物の有無を確認できる。なお、層状複水酸化物を多く含むことにより、より二酸化炭素を還元しやすくなるため、例えば二酸化炭素還元電極用触媒のX線回折パターンにおいて、(003)面に対応する位置に最大の回折ピークを有することが好ましい。
【0020】
本発明の実施形態に係る二酸化炭素還元電極用触媒のZn:Alのモル比は1:4~5:1であることが好ましい。これにより、ZnおよびAlを含む層状複水酸化物を形成しやすくなり、より二酸化炭素を還元しやすくなる。より好ましくは、Zn:Alのモル比は1:3~4:1であり、さらに好ましくは、Zn:Alのモル比は1:2~3:1である。
【0021】
本発明の実施形態において、二酸化炭素還元電極用触媒が、ZnおよびAlを多く含むことが好ましい。そのため、二酸化炭素還元電極用触媒の全質量に対する、ZnおよびAlの含有量は10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましい。
【0022】
本発明の実施形態において、ZnおよびAlを含む層状複水酸化物とは、下記一般式(4)で表され得る。

[Zn2+ 1-xAl3+ (OH)][An- x/n・yHO] ・・・(4)

式(4)において、An-は陰イオンを示し、0<x<1であり、nは1又は2を示し、yは0以上である。
【0023】
式(4)で示される化合物は、Zn2+ 1-xAl3+ (OH)で表され、且つ正電荷を帯びた八面体層からなる層と、An- x/n・yHOで表され正電荷を補償する陰イオンと層間水とからなる層と、が交互に積層した構造を有していることが好ましい。An-としては、nが1又は2の陰イオンであれば特に制限されないが、例えばCO 2-、Cl、NO3 、SO 2-およびドデシル硫酸イオンからなる群から選択されるいずれか一種以上であり得る。なお、上述した層状複水酸化物のCu-Kα線を用いたX線回折パターンにおける、(003)面に対応する位置は、An-の種類によって2θ=2°~15°の範囲内で変化し得、例えばCO 2-だと2θ=11.3~12.3°であり得、Clだと2θ=9.5~10.5°であり得、NO3 だと2θ=9.5~10.5°であり得、SO 2-だと2θ=7.4~8.4°であり得、ドデシル硫酸イオンだと2θ=2.9~3.9°であり得る。
【0024】
式(4)で示される化合物において、xは、0.17~0.80であることが好ましく、より好ましくは、0.20~0.75であり、さらに好ましくは、0.25~0.67である。yの上限値は特に制限されないが、例えば4以下であり得る。
【0025】
ZnおよびAlを含む層状複水酸化物の製造方法は特に制限されず、後述する実施例に記載の製造方法を含む公知の方法で製造できる。本発明の実施形態に係る二酸化炭素還元電極用触媒は、二酸化炭素を電気化学的に還元するために使用できる。
【0026】
本発明の実施形態に係る二酸化炭素還元電極は、上記触媒を含む。本発明の一実施形態において、二酸化炭素還元電極は、上記触媒と、上記触媒とは異なる導電性材料とを含み得る。導電性材料は、公知の導電性材料であればよく、例えばカーボン等が挙げられる。導電性材料の形状及びサイズは特に制限されず、使用目的又は要求される性能により適宜選択することができる。上記触媒は、導電性材料と電気的に接続し得る。
【0027】
本発明の一実施形態において、二酸化炭素還元電極は、上記触媒と、導電性基材とを含み得る。導電性基材の形状は、例えば、シート状、板状、棒状またはメッシュ状等とすることができる。導電性基材のサイズとしては、後述する導電性粒子と区別するために、例えば円相当直径が1mm超であり得る。導電性基材としては、例えばカーボンペーパー(カーボンシート)等が挙げられる。上記触媒は、導電性基材と電気的に接続し得、例えば上記触媒は、導電性基材と直接接していても、導電性基材と触媒との間に、例えば導電性粒子等の他の導電性材料があってもよい。導電性粒子としては、公知の導電性材料からなる粒子であればよく、カーボン粒子等が挙げられる。導電性粒子は円相当直径が1mm以下であり得、平均粒径(平均円相当直径)が100nm以下であることが好ましい。
本発明の一実施形態において、二酸化炭素還元電極は、導電性粒子と触媒とを混合して、該混合物を塗布することなどにより導電性基材に接触させてもよい。導電性粒子と触媒の混合比としては、触媒の質量比を1~99質量%とすることができ、好ましくは1~50質量%である。
【0028】
導電性粒子と触媒とは、例えば混合した後、加熱して焼結させてもよく、バインダー樹脂等で結合してもよい。バインダー樹脂としては、特に制限されず公知のものを使用してよい。バインダー樹脂の含有量としては、触媒と導電性粒子の全質量に対して1質量%以上100質量%以下としてもよく、好ましくは1質量%以上50質量%以下であり、より好ましくは1質量%以上20質量%以下である。
【0029】
本発明の実施形態に係る二酸化炭素還元用セルは、上記二酸化炭素還元電極を含む。本発明の一実施形態において、二酸化炭素還元用セルは、電解液を充填可能な槽と、当該槽中に配置された、上記二酸化炭素還元電極と、対極として機能する酸化電極と、それらの電極間に配置されたイオン交換膜と、それらの電極間に電圧を印加可能な電源と、を含み得る。二酸化炭素還元用セルの槽内に、電解液を2つの電極に接触するように充填し、適宜二酸化炭素を槽内に供給して、2つの電極間に電圧を印加することにより二酸化炭素を還元できる。
【0030】
電解液としては、公知のものを用いることができ、特に限定されないが、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン等の陽イオンと、炭酸水素イオン、炭酸イオン、水酸化物イオン等の陰イオンと、水と、を含むもの等が挙げられる。電解液の濃度は、適宜設定することができ、特に限定されないが、例えば、0.01~1.0mol/Lであり得る。当該電解液を充填可能な槽は、公知のものを使用してよい。
【0031】
酸化電極としては、公知の導電性材料、例えば、白金、パラジウム、ニッケル等の金属、または塩基性条件下で機能する公知の酸素発生触媒を含む電極などを用いて構成できる。
【0032】
イオン交換膜は、各電極で発生し得るガス(一酸化炭素、酸素等)を分離しつつ、イオン(水酸化物イオン等)の移動を可能にする。イオン交換膜としては、公知のアニオン交換膜等を使用できる。
【0033】
二酸化炭素還元電極に印加する電圧は、例えば標準電極の電位に対して、-0.1~-2.5Vであり得る。電圧が高いほど二酸化炭素を多く還元し得るが、高すぎると消費電力が増大する。二酸化炭素還元量と消費電力の観点から、印加電圧は-0.7V~-2.0Vであることが好ましく、-0.8~-1.4Vであることがより好ましい。
【0034】
本発明の実施形態に係る一酸化炭素の製造方法は、上記二酸化炭素還元電極用触媒を用いて二酸化炭素を還元する工程を含む。本発明の一実施形態において、上記二酸化炭素還元電極を用いて二酸化炭素を還元して、一酸化炭素を製造してもよい。本発明の別の実施形態において、上記二酸化炭素還元用セルを用いて二酸化炭素を還元して、一酸化炭素を製造してもよい。
【0035】
本発明の実施形態において、二酸化炭素をより多く一酸化炭素(CO)に還元できることが好ましい。例えば、COのファラデー効率が10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましい。また、本発明の実施形態において、COの他、水素(H)などが還元電極から生成し得るが、水素等他のガスは少ない方が好ましい。本発明の一実施形態において、還元電極から生成される、COとHのファラデー効率の合計に対するCOのファラデー効率の比は、0.30以上であることが好ましく、より好ましくは、0.40以上である。
【実施例0036】
以下、実施例を挙げて本発明の実施形態をより具体的に説明する。本発明の実施形態は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前述および後述する趣旨に合致し得る範囲で、適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の実施形態の技術的範囲に包含される。
【0037】
二酸化炭素還元電極用触媒を以下のように作製した。硝酸亜鉛六水和物(Zn(NO・6HO、和光純薬製、特級)および硝酸アルミニウム九水和物(Al(NO・9HO、和光純薬製、特級)を、Znが0.06mol/L、Alが0.03mol/Lとなるように(Zn:Alのモル比が2:1となるように)、蒸留水50mLに溶解させてZn-Al混合水溶液を得た。この混合水溶液を室温で1時間撹拌した後、上記式(4)の層状複水酸化物であってAn-=CO 2-である化合物を得るように、0.3mol/Lの炭酸ナトリウム(NaCO)水溶液(200mL)に滴下して、白色の沈殿物を得た。このとき、pHを10に保つために2.0mol/Lの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を適宜滴下した。
その後、沈殿物を室温で17時間放置した。放置後、濾過を行い、蒸留水で洗浄し、沈殿物を回収した。これを80℃のオーブンで24時間乾燥させ、乾燥した試料を乳鉢で砕くことで、粉末状の二酸化炭素還元電極用触媒(触媒aと称する)を得た。同様に、Zn:Alのモル比が3:1、4:1、1:2、1:3および1:4となるようにして、触媒b~fを作製した。
【0038】
上記の方法で得た二酸化炭素還元電極用触媒に対してSEM-EDX分析を行った。例として、触媒a~cのSEM-EDX分析結果を図1図3に示す。図1図3は、それぞれ触媒a~cの、表面SEM像(左)、EDXによるZnマッピング図(中央)、およびEDXによるAlマッピング図(右)である。図1図3に示すように、ZnおよびAlは、ほぼ同様の位置に均一に分布していた。触媒a~cのZnおよびAlのモル比を算出すると、それぞれ、0.67:0.33、0.77:0.23、および0.79:0.21であり、添加量比(2:1、3:1および4:1)とほぼ等しいことがわかった。また、触媒a~fにつき、触媒の全質量に対する、ZnおよびAlの含有量は少なくとも20質量%以上であった。
【0039】
上記の方法で得た二酸化炭素還元電極用触媒の、Cu-Kα線を用いた粉末XRDパターンを取得した。例として、触媒a~c(ならびに、参照用にZnOおよびCo-Al系層状複水酸化物(An-は炭酸イオン))のXRDパターンを図4に示す。図4に示すように、2θ=11.3~12.3°の位置に層状複水酸化物特有の(003)面のピークが観測された。触媒bおよびcについては、層状複水酸化物に起因するピークの他、ZnOに起因するピークが観察された。これは触媒中のZn比が高いことに起因すると考えられる。触媒d~fのXRDパターンにおいても、同様に層状複水酸化物特有の(003)面のピークを観測した。
【0040】
触媒aを含む二酸化炭素還元電極(電極Aと称する)を以下のように作製した。導電性基材としてカーボンペーパーA(ElectroChem Inc.製、EC-TPI-060T)を用意した。触媒aを5質量部、導電性粒子としてカーボンブラックA(キャボット製、VULCAN(登録商標)XC72、平均粒径50nm)を5質量部、およびバインダー樹脂溶液としてアニオン交換樹脂溶液(固形分濃度10質量%)を、触媒と導電性粒子の合計質量:10mgに対し4μLの割合で混合し、導電性基材に塗布した。その後、塗布物に対して10MPa、30秒でプレスし、1cm×1cmとなるようにカットして、二酸化炭素還元電極(電極Aと称する)を得た。
【0041】
上記電極Aを用いて二酸化炭素を電気化学的に還元する実験を行った。図5は、本発明の実施形態の効果を検証するための実験装置の模式図である。図5に示すように、槽1内に電解液2が充填されている。電解液2内に、作用極(二酸化炭素還元電極)3、対極(酸化電極)4、参照極5およびイオン交換膜6が配置されている。槽1の作用極側は、CO等のガスを導入できるように構成されている。電解液2として0.1mol/Lの炭酸水素カリウム(KHCO)水溶液を、作用極3として電極Aを、対極4としてPt電極を、参照電極5としてAg/AgCl電極を、イオン交換膜6としてアニオン交換膜(アストム製、AHA型)を、それぞれ使用した。
【0042】
作用極側の電解液を二酸化炭素飽和状態にするように、作用極側の電解液に30mL/分の流量で15分間二酸化炭素ガスを流した。その後、作用極側の電解液に10mL/分の流量で二酸化炭素ガスを流しながら、電極に一定電圧を印加した。電圧印加後10分後から40分後までの30分間に発生した気体を集め、ガスクロマトグラフ(GC)で分析した。なお、印加電圧としては、参照電極5で測定した電位を、水素電極電位(RHE)に変換したものを、-1.0~-1.4Vに変化させた。
ガスクロマトグラフ装置において、TCD(熱伝導度検出器)で水素と酸素を、FID(水素炎イオン化検出器)で一酸化炭素と二酸化炭素を定量した。GCで得られた一酸化炭素と水素ピーク面積から、標準ガスで作製した検量線を用いて体積濃度を算出した。
体積濃度および測定時の電流、二酸化炭素ガスの流量から、流れた電子の反応への寄与を表すファラデー効率(%)を計算した。
【0043】
表1に示すように、電極Aから、触媒、導電性粒子及び/又は導電性基材を変更することで電極B~Fを得た。具体的には、触媒について、触媒aに代えて、触媒b~fに変更した。導電性粒子について、カーボンブラックAに代えてカーボンブラックB(デンカ製、デンカブラック(粉状)、平均粒径35nm)を使用することがあった。導電性基材について、カーボンペーパーAに代えてカーボンペーパーB(東レ製、TGP-H-090)を使用することがあった。
電極Aを電極B~Fに代えて、上記二酸化炭素還元の実験を行い、各ガスのファラデー効率を求めた。表1に結果を示す。なお、表1において「-」は、該当の実験をしていないことを意味する。
【0044】
【表1】
【0045】
表1に示すように、試験No.1~6のいずれの場合においても、二酸化炭素を一酸化炭素に十分に還元できた(具体的には、測定電位-1.0V(vs RHE)で20%以上のCOのファラデー効率が得られた)。
【符号の説明】
【0046】
1 槽
2 電解液
3 作用極
4 対極
5 参照極
6 イオン交換膜
図1
図2
図3
図4
図5