(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022799
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】プリント基板コイル、高周波トランス及び電磁誘導加熱装置
(51)【国際特許分類】
H01F 27/28 20060101AFI20240214BHJP
H01F 17/00 20060101ALI20240214BHJP
H01F 19/04 20060101ALI20240214BHJP
H05K 1/16 20060101ALI20240214BHJP
H05K 3/46 20060101ALI20240214BHJP
H05B 6/12 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
H01F27/28 104
H01F17/00 A
H01F19/04 Z
H05K1/16 B
H05K3/46 Q
H05B6/12 308
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022126152
(22)【出願日】2022-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】河口 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】庄司 浩幸
(72)【発明者】
【氏名】折川 幸司
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 悟司
(72)【発明者】
【氏名】村上 直樹
【テーマコード(参考)】
3K151
4E351
5E043
5E070
5E316
【Fターム(参考)】
3K151AA21
3K151BA03
3K151BA12
4E351AA03
4E351BB15
4E351DD04
4E351GG06
4E351GG07
5E043AA08
5E043BA01
5E043BA03
5E070AA11
5E070AB10
5E070CB13
5E070CB17
5E316AA32
5E316AA43
5E316BB01
5E316BB13
5E316CC04
5E316CC09
5E316CC13
5E316CC32
5E316EE02
5E316FF01
5E316GG15
5E316GG28
5E316HH01
5E316HH06
5E316JJ14
(57)【要約】
【課題】
本発明の目的は、電流容量を増加させることができ、高周波交流損失の増加を抑制することができるプリント基板コイルを提供することにある。
【解決手段】
本発明のプリント基板コイル1は、第1巻線パターン101が形成された第1層と第2巻線パターン102が形成された第2層とが絶縁層10を挟んで積層されることで複数ターンのコイルを構成するプリント基板コイルにおいて、第1層101,201,301と第2層102,202,302とを用いて構成される複数のコイル100,200,300を備え、複数のコイル100,200,300は第1層101,201,301と第2層102,202,302とが当該第1層と当該第2層との積層方向(Z軸方向)に交互に配置されるように、絶縁層10を挟んで積層され、複数のコイル100,200,300は並列に接続されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1巻線パターンが形成された第1層と第2巻線パターンが形成された第2層とが絶縁層を挟んで積層されることで複数ターンのコイルを構成するプリント基板コイルにおいて、
前記第1層と前記第2層とを用いて構成される複数のコイルを備え、
前記複数のコイルは、前記第1層と前記第2層とが当該第1層と当該第2層との積層方向に交互に配置されるように、絶縁層を挟んで積層され、
前記複数のコイルは、並列に接続されていることを特徴とするプリント基板コイル。
【請求項2】
請求項1に記載のプリント基板コイルにおいて、
前記第1巻線パターン及び前記第2巻線パターンは、中心軸の周りを旋回しながら中心軸から遠ざかる曲線形状に形成された複数の導体パターンで構成され、
前記第2巻線パターンは、前記積層方向における前記第1巻線パターンの向きを、180度回転させた形態となっていることを特徴とするプリント基板コイル。
【請求項3】
請求項2に記載のプリント基板コイルにおいて、
前記導体パターンは、径方向に分割された複数の平面パターンで構成されることを特徴とするプリント基板コイル。
【請求項4】
請求項1に記載のプリント基板コイルにおいて、
前記第1巻線パターン及び前記第2巻線パターンは、中心軸の周りを旋回しながら中心軸から遠ざかるように巻回された複数のコイルターンを備え、
前記複数のコイルターンは前記コイルの径方向に分割された複数の導体パターンを備え、
前記複数の導体パターンは、所定の中心角θ毎に外周側に向かって遷移することを特徴とするプリント基板コイル。
【請求項5】
磁性体コアと、一次側コイル及び二次側コイルと、を備えた高周波トランスにおいて、
前記一次側コイル又は前記二次側コイルのいずれか一方、或いは前記一次側コイル及び前記二次側コイルの両方は、請求項1乃至4の何れか1項に記載のプリント基板コイルであることを特徴とする高周波トランス。
【請求項6】
鍋を載置するトッププレートと、前記トッププレートの下方に位置して前記トッププレートに載置された鍋を加熱するコイルと、を備えた電磁誘導加熱装置において、
前記コイルは請求項1乃至4の何れか1項に記載のプリント基板コイルであることを特徴とする電磁誘導加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平面導体による巻線パターンを基板上に形成したプリント基板コイルと、このプリント基板コイルを用いた高周波トランス及び電磁誘導加熱装置と、に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、面方向に複数に分割された平板導体(平面導体)をビア又はスルーホールを介して他の層の平板導体と接続することで導体パターンを構成し、複数の導体パターンを用いてスパイラル状のコイルを形成するプリント基板コイルが記載されている。特許文献1のプリント基板コイルは、リッツ線と同様に面方向に複数に分割して配置された平板導体間に流れる電流を均等化することが可能となり、高周波磁界に起因する高周波交流損失を低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のプリント基板コイルでは、面方向の表皮効果に起因した電流集中を抑制することは可能であるが、コイルの電流容量を増加させるためには、平板導体の厚みを増加させる、もしくは平板導体を複数積層して多並列化することで、導体の断面積を増加させる必要がある。しかし、平板導体の厚みを増加させた場合には、厚み方向の表皮効果により、高周波交流損失の増加が課題となる。また、平板導体を複数積層して多並列化した場合には、複数の同じパターンが並列に配置されるため、近接効果の影響により、導体パターン間のインピーダンスが不均等となる。このため、並列に配置されたパターン間で循環電流が発生し、高周波交流損失が増加する課題がある。
【0005】
本発明の目的は、電流容量を増加させることができ、高周波交流損失の増加を抑制することができるプリント基板コイルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明のプリント基板コイルは、
第1巻線パターンが形成された第1層と第2巻線パターンが形成された第2層とが絶縁層を挟んで積層されることで複数ターンのコイルを構成するプリント基板コイルにおいて、
前記第1層と前記第2層とを用いて構成される複数のコイルを備え、
前記複数のコイルは、前記第1層と前記第2層とが当該第1層と当該第2層との積層方向に交互に配置されるように、絶縁層を挟んで積層され、
前記複数のコイルは、並列に接続されている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、コイルの並列化により、プリント基板コイルの電流容量を増加させることができると共に、コイルを並列化した場合でも、コイルを構成する複数の巻線パターン間でのインピーダンスを均等化できる。これにより、本発明では、循環電流を抑制し、高周波交流損失の抑制が可能となる。
【0008】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係る第1実施例(実施例1)のプリント基板コイルについて、構成の概略を示す分解図。
【
図2】実施例1のプリント基板コイルを構成する1つのコイル(第1コイル)について、構成の概略を示す平面図。
【
図3】
図2のコイル(第1コイル)を第1層と第2層とに分解して示す平面図。
【
図4】実施例1のプリント基板コイルの概略断面図。
【
図5】実施例1のプリント基板コイルの引出し線の接続構造を示す概略断面図。
【
図6】実施例1のプリント基板コイルを絶縁型DC/DCコンバータの高周波トランスに適用した例を示す回路図。
【
図7】実施例1のプリント基板コイルを絶縁型DC/DCコンバータの高周波トランスに適用した例を示す概略断面図。
【
図8】実施例1のプリント基板コイルとの比較例であるプリント基板コイルについて、構成の概略を示す分解図。
【
図10】実施例2のプリント基板コイルをIHクッキングヒータ用加熱コイルに適用した場合の概略断面図。
【
図11】実施例2のプリント基板コイルをIHクッキングヒータ用加熱コイルに適用した場合の概略平面図。
【
図12A】本発明に係る第2実施例(実施例2)のプリント基板コイルについて、1層目および3層目の巻線パターンの構成の概略を示す平面図。
【
図12B】本発明の第2実施例(実施例2)に係るプリント基板コイルについて、2層目および4層目の巻線パターンの構成の概略を示す平面図。
【
図13】実施例2のプリント基板コイルを説明する概略断面図。
【
図14】実施例2のプリント基板コイルを説明する概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、平面導体による巻線パターンを基板上に形成したプリント基板コイルと、このプリント基板コイルを用いた機器に関する。本明細書では、プリント基板コイルの実施例の他、本発明に係るプリント基板コイルを用いた機器の例として、高周波トランス及び電磁誘導加熱装置の実施例を説明する。本発明に係るプリント基板コイルを適用可能な機器は高周波トランス及び電磁誘導加熱装置に限定される訳ではなく、その他の機器にも適用可能である。
【0011】
IHクッキングヒータの加熱コイルや、絶縁型DC/DCコンバータの高周波トランスに用いられる巻線には数十kHzの高周波電流が供給されるため、高周波磁界の影響により表皮効果や近接効果に起因した高周波交流損失が発生する。加熱コイルや高周波トランスの巻線は導体をスパイラル状に巻回して構成されており、近接するコイル間で相互に磁界の影響を強く受ける。このため、巻線の導体には高周波交流損失の抑制を目的に、絶縁された素線を複数撚り合わせたリッツ線が用いられる。しかし、リッツ線を用いたコイルは、撚り加工、巻回、端子処理など複数の製造工程が必要となる。また、リッツ線を用いたコイルは、量産時において電気特性のバラつきの管理が難しい課題がある。
【0012】
電気特性のバラつきを抑制する手段として、プリント基板上に巻線パターンを形成する手法が提案されている。プリント基板を用いることで、撚り加工などの製造工程が不要となるため、電気特性のバラつきを低減することが可能となる。しかし、単純な平面導体パターンによりスパイラル状のコイルを形成した場合、導体パターンを流れる電流がコイルの中心側に集中するため、リッツ線コイルと比較して高周波交流損失の抑制が難しい課題がある。
【0013】
以下で説明する本実施例の本発明のプリント基板コイルでは、導体パターンを複数積層して多並列化した場合でも、層間でのインピーダンスを均等化できるため、循環電流を抑制し、高周波交流損失の抑制が可能となる。これにより、多層化によるプリント基板コイルの大電流化を図ることができる。
【0014】
以下、本発明に係る実施例について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
[実施例1]
本発明に係る第1実施例(実施例1)について、
図1~
図9を用いて説明する。
【0016】
図1は、本発明に係る第1実施例(実施例1)のプリント基板コイル1について、構成の概略を示す分解図である。本実施例では、プリント基板コイル1を形成する導体の層数を6層とした場合の例を示している。以下の説明で用いるX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向は、相互に直交する3つの座標軸を構成し、
図1に示すように定義される。
【0017】
本実施例1のプリント基板コイル1は、複数のコイル100,200,300で構成されている。本実施例では、3つのコイル100,200,300でプリント基板コイル1を構成する例を示しているが、プリント基板コイル1を構成するコイルの個数は3つに限定されず、2つ以上であればよい。
【0018】
コイル(第1コイル)100は、巻線パターン101と、巻線パターン102と、巻線パターン101から引き出された引出し線111と、巻線パターン102から引き出された引出し線112と、を有する。引出し線111及び引出し線112は、コイル100の引出し部110を構成する。コイル(第2コイル)200は、巻線パターン201と、巻線パターン202と、巻線パターン201から引き出された引出し線211と、巻線パターン202から引き出された引出し線212と、を有する。引出し線211及び引出し線212は、コイル200の引出し部210を構成する。コイル(第3コイル)300は、巻線パターン301と、巻線パターン302と、巻線パターン301から引き出された引出し線311と、巻線パターン302から引き出された引出し線312と、を有する。引出し線311及び引出し線312は、コイル300の引出し部310を構成する。
【0019】
本実施例では、プリント基板コイル1を形成する巻線パターン(導体)の層数は6層であり、各コイル100,200,300はそれぞれ2層の巻線パターンにより構成される。
【0020】
コイル200,300はコイル100と同様に構成される。このため、以下の説明では、コイル100について説明し、コイル200,300についてはコイル100と異なる部分について説明する。
【0021】
コイル100の巻線パターン101及び巻線パターン102は、X-Y平面と平行に形成される。Z軸方向は、
図1において上下方向に設定されている。以下の説明では、
図1に基づいて上下方向を設定して説明する場合がある。例えば、巻線パターン101は巻線パターン102に対して上層に形成される。逆に言えば、巻線パターン102は巻線パターン101に対して下層に形成される。この上下方向はプリント基板コイル1の実装状態における上下方向を限定するものではない。
【0022】
図2は、実施例1のプリント基板コイル1を構成する1つのコイル(第1コイル)100について、構成の概略を示す平面図である。
図3は、
図2のコイル(第1コイル)100を第1層(巻線パターン101)と第2層(巻線パターン102)とに分解して示す平面図である。
【0023】
巻線パターン101,102はともに、パターンの一端から引き出された引出し線111,112を介して、外部の回路と接続される。巻線パターン101は、中心軸1xの周りを旋回しながら中心軸1xから遠ざかる曲線形状に形成された複数の平面パターン(分割巻線)131,132,133で構成される導体パターン130を基本としている。言い換えれば、巻線パターン101,102は中心軸1xの周りを旋回しながら中心軸1xに近づく曲線形状に形成された複数の平面パターン(分割巻線)131,132,133で構成される導体パターン130を含む。なお、この説明における「旋回」は、一周(360°)に満たない角度の回転を含む。
【0024】
さらに巻線パターン101,102は、中心軸1xを基準として所定の回転角度θ毎に形成された複数の導体パターン130で構成される。すなわち、隣接する2つの導体パターン130の端部VH23,VH24は、中心軸1xを中心とする円周上に配置されると共に、端部VH23と端部VH24とが中心角θを成すように配置される。導体パターン130のその他の端部VH11~VH22,VH25~VH33も同様に配置される。
【0025】
本実施例のプリント基板コイル1では、導体パターン130は12個設けられ、各導体パターン130は周方向に30度ずつずらして配置される。すなわち角度θは30度に設定されている。導体パターン130の個数は12に限定される訳ではなく、導体パターン130の個数を12以外の数に設定し、角度θを30度とは異なる大きさに設定してもよい。
【0026】
上述した様に本実施例のプリント基板コイル1では、導体パターン130は、径方向に分割された複数の平面パターン131,132,133で構成される。本実施例のプリント基板コイル1では、導体パターン130を構成する平面パターン131,132,133の分割数を3としているが、平面パターンの分割数は3に限定されない。平面パターン131,132,133の分割数は、表皮効果による高周波交流損失を低減する観点から、平面パターン131,132,133の幅がコイル100に供給される電流の周波数により決まる表皮深さの2倍以下となることを目安に決定することが好ましい。表皮深さdは下記式で表すことができる。
【0027】
d=√(2ρ/ωμ) …(式1)
式1中のρは電気抵抗率、ωはコイル100に流れる電流の角周波数を示し、μはコイルパターンの絶対透磁率を示している。角周波数ωはコイル100に流れる電流の周波数をfとした場合、2πfで表される。
【0028】
式1より、例えばコイルパターンの材料に銅を用いた場合の電流の周波数が20kHzにおける表皮深さは約0.46mmとなるため、平面パターン131,132,133の幅は表皮深さの2倍以下を目安として0.9mm以下とするのが好ましい。
【0029】
回転角度θは、式2を参考に求めることができる。
【0030】
θ=360/(N+1) …(式2)
式2中のNはコイルのターン数を示しており、コイル100を設計する際にあらかじめ与えられる定数を用いればよい。
【0031】
巻線パターン102は、巻線パターン101と同様に、中心軸1xの周りを旋回しながら中心軸1xから遠ざかる曲線形状に形成された複数の平面パターン(分割巻線)141,142,143で構成される導体パターン140を基本とし、中心軸1xを基準として所定の回転角度(中心角)θ毎に形成された複数の導体パターン140で構成される。本実施例のプリント基板コイル1では、導体パターン140は、径方向に分割された複数の平面パターン141,142,143で構成される。
【0032】
巻線パターン102は、Z軸方向における巻線パターン101の向きを、180度回転させた形態となっている。
図3において、巻線パターン101の導体パターン130は中心軸1xの周りを右向きに旋回しながら中心軸1xから遠ざかる曲線形状に形成されているのに対して、巻線パターン102の導体パターン140は中心軸1xの周りを左向きに旋回しながら中心軸1xから遠ざかる曲線形状に形成されている。すなわち巻線パターン101と巻線パターン102とは、Z軸方向の同じ側から見た場合に、中心軸1xの周りを旋回する向きが逆向きとなるように形成されている。
【0033】
すなわち本実施例のプリント基板コイル1は、
第1巻線パターン101及び第2巻線パターン102は、中心軸1xの周りを旋回しながら中心軸1xから遠ざかる曲線形状に形成された複数の導体パターン130,140で構成され、
第2巻線パターン102は、積層方向(Z軸方向)における第1巻線パターン101の向きを、180度回転させた形態となっている。
【0034】
本実施例では、巻線パターン101,102を構成するすべての導体パターン130,140が構造的に対称性を持って構成されている。これにより、導体パターン130,140を貫く磁束を均等化することが可能となるため、リッツ線コイルと同様に近接効果に起因した高周波交流損失の抑制効果が期待できる。
【0035】
なお導体パターン130,140は、図面においてコイル100のみに図示しているが、コイル200,300の巻線パターン201,202,301,302にも、
図3に図示した形態と同様に構成されているものとする。
【0036】
図4は、実施例1のプリント基板コイル1の概略断面図である。
コイル(第1コイル)100の巻線パターン101はプリント基板コイル1の1層目の巻線パターンを構成し、巻線パターン102はプリント基板コイル1の2層目の巻線パターンを構成する。コイル(第2コイル)200の巻線パターン201はプリント基板コイル1の3層目の巻線パターンを構成し、巻線パターン202はプリント基板コイル1の4層目の巻線パターンを構成する。コイル(第3コイル)300の巻線パターン301はプリント基板コイル1の5層目の巻線パターンを構成し、巻線パターン302はプリント基板コイル1の6層目の巻線パターンを構成する。
【0037】
第1コイル100は、巻線パターン101と巻線パターン102とを用いて形成され、巻線パターン101は巻線パターン102に対して基板(絶縁層)10の一端面側(上面側)に形成され、巻線パターン102は巻線パターン102に対して基板10の他端面側(下面側)に形成される。巻線パターン101と巻線パターン102とは相互間に介在する基板10により電気的に絶縁される。
【0038】
第2コイル200は、巻線パターン201と巻線パターン202とを用いて形成され、巻線パターン201は巻線パターン202に対して基板10の一端面側(上面側)に形成され、巻線パターン202は巻線パターン202に対して基板10の他端面側(下面側)に形成される。巻線パターン201と巻線パターン202とは相互間に介在する基板10により電気的に絶縁される。
【0039】
第3コイル300は、巻線パターン301と巻線パターン302とを用いて形成され、巻線パターン301は巻線パターン302に対して基板10の一端面側(上面側)に形成され、巻線パターン302は巻線パターン302に対して基板10の他端面側(下面側)に形成される。巻線パターン301と巻線パターン302とは相互間に介在する基板10により電気的に絶縁される。
【0040】
第1コイル100の巻線パターン101は基板10の一端面(上端面)に形成され、コイル(第3コイル)300の巻線パターン302は基板10の他端面(下端面)に形成される。第1コイル100と第2コイル200とは相互間に介在する基板10により電気的に絶縁される。第2コイル200と第3コイル300とは相互間に介在する基板10により電気的に絶縁される。すなわち、第1コイル100の巻線パターン102と第2コイル200の巻線パターン201との間には基板10が介在し、第2コイル200の巻線パターン202と第3コイル300の巻線パターン301との間には基板10が介在する。
【0041】
巻線パターン101の導体パターン130(
図3参照)と巻線パターン102の導体パターン140(
図3参照)とは、ビアVH11~VH33(
図2参照)により電気的に接続されることで、複数ターンの第1コイル100を形成している。第2コイル200及び第3コイル300も、第1コイル100と同様に、二層を成す巻線パターンの導体パターンがビアVH11~VH33により電気的に接続される。
【0042】
なお本実施例では、ビアVH11~VH22は巻線パターン101,102,201,202,301,302を構成する導体パターン130,140の径方向内側(内周側)の端部に位置し、ビアVH23~VH33は巻線パターン101,102,201,202,301,302を構成する導体パターン130,140の径方向外側(外周側)の端部に位置する。また、引出し線111,112は、巻線パターン101,102,201,202,301,302を構成する導体パターン130,140の径方向外側(外周側)の端部から引き出される。
【0043】
第2コイル200の巻線パターン201及び巻線パターン202と第3コイル300の巻線パターン301及び巻線パターン302とは、第1コイル100の巻線パターン101及び巻線パターン102と同様に構成される。このため、複数のコイル100,200,300は、第1巻線パターン101が形成された第1層101,201,301と第2巻線パターン102が形成された第2層102,202,302とが、当該第1層と当該第2層との積層方向に交互に配置されるように、基板(絶縁層)10を挟んで積層される構成と見なすことができる。
【0044】
すなわち本実施例のプリント基板コイル1は、
第1巻線パターン101が形成された第1層と第2巻線パターン102が形成された第2層とが絶縁層10を挟んで積層されることで複数ターンのコイルを構成するプリント基板コイルにおいて、
第1層101,201,301と第2層102,202,302とを用いて構成される複数のコイル100,200,300を備え、
複数のコイル100,200,300は、第1層101,201,301と第2層102,202,302とが当該第1層と当該第2層との積層方向(Z軸方向)に交互に配置されるように、絶縁層10を挟んで積層され、
複数のコイル100,200,300は、並列に接続されている。
【0045】
図5は、実施例1のプリント基板コイルの引出し部110~310の接続構造を示す概略断面図である。
各コイル100,200,300は、引出し部110~310でスルーホールTH11,TH12(
図5参照)により並列接続されている。すなわち、第1コイル100の引出し線111と第2コイル200の引出し線211と第3コイル300の引出し線311とがスルーホールTH11で接続され、第1コイル100の引出し線112と第2コイル200の引出し線212と第3コイル300の引出し線312とがスルーホールTH12で電気的に接続されている。
【0046】
図6および
図7を用いて本実施例1のプリント基板コイル1を絶縁型DC/DCコンバータ60の高周波トランスTrに適用した場合の例を説明する。
図6は、実施例1のプリント基板コイルを絶縁型DC/DCコンバータ60の高周波トランスTrに適用した例を示す回路図である。
図7は、実施例1のプリント基板コイル1を絶縁型DC/DCコンバータ60の高周波トランスTrに適用した例を示す概略断面図である。
【0047】
絶縁型DC/DCコンバータは、平滑コンデンサC11と、IGBTQ1~Q4で構成されたフルブリッジ回路と、高周波トランスTrと、整流ダイオードD21~D24と、平滑リアクトルLrと、平滑コンデンサC21で構成される。高周波トランスTrは、一次側コイルN1と、二次側コイルN2と、磁性体コアT1,T2とを備える。プリント基板コイル1は、一次側コイルN1又は二次側コイルN2のいずれか一方、或いは一次側コイルN1及び二次側コイルN2の両方として用いられる。
【0048】
すなわち本実施例の高周波トランスTrは、磁性体コアT1,T2と、一次側コイルN1及び二次側コイルN2と、を備えた高周波トランスにおいて、一次側コイルN1又は二次側コイルN2のいずれか一方、或いは一次側コイルN1及び二次側コイルN2の両方が上述した本実施例のプリント基板コイル1により構成される。
【0049】
以上のように、本実施例のプリント基板コイル1では、上下2層の巻線パターン101,102,201,202,301,302で構成されたコイルを複数形成し、巻線パターンの一端の引出し部110~310を並列接続した構成において、同一の巻線パターンが隣り合って配置されることがない。このような構成とすることで、多層基板を用いて巻線パターンを並列化した場合でも、巻線パターン間のインピーダンスの均等化を図ることができるため、巻線パターンを平行に配置した場合に問題となる近接効果の影響、すなわち巻線パターン間のインピーダンス差に起因する循環電流を低減し、高周波交流損失の抑制が期待できる。
【0050】
次に、
図8及び
図9を用いて比較対象とする従来のプリント基板コイル2の構成について説明する。
図8は、実施例1のプリント基板コイル1との比較例であるプリント基板コイル400について、構成の概略を示す分解図である。
図9は、
図8のプリント基板コイル400の概略断面図である。
【0051】
プリント基板コイル1’は、本実施例のプリント基板コイル1と同様に6層の基板で構成されている。プリント基板コイル1’のコイル400は、巻線パターン401と巻線パターン402とを用いて構成される。巻線パターン401の導体パターン430を構成する平面パターン431~433は本実施例の巻線パターン101の導体パターン130(
図3参照)と同様な形状に形成され、巻線パターン402の導体パターン440を構成する平面パターン441~443は本実施例の巻線パターン102の導体パターン140(
図3参照)と同様な形状に形成されている。なお、巻線パターン401からは引出し線411が引き出され、巻線パターン402からは引出し線412が引き出されている。
【0052】
本実施例と異なる点は、
図9に示すように、巻線パターン401の導体パターン430を構成する平面パターン431a,431b,431cが1層目から3層目に纏めて配置され、巻線パターン402の導体パターン440を構成する平面パターン441a,441b,441cが4層目から6層目に纏めて配置されている点である。巻線パターン401の平面パターン431a,431b,431cと巻線パターン402の平面パターン441a,441b,441cとがスルーホールTH41,TH42で電気的に接続されることで、平面パターン431a,431b,431cおよび平面パターン441a,441b,441cのそれぞれが並列化される。
【0053】
比較例のような構成とした場合、例えば平面パターン431a,431b,431cでは、各パターンにおける巻線パターン402に対するZ方向(積層方向)の位置関係が構造的な対称性を保つことが出来ない。すなわち、平面パターン431aと巻線パターン402とのZ軸方向距離と、平面パターン431bと巻線パターン402とのZ軸方向距離と、平面パターン431cと巻線パターン402とのZ軸方向距離とは、異なる大きさになる。このため、各平面パターンを貫く磁束密度が不均等になる。これにより、並列接続された導体パターン間で循環電流が発生し、高周波交流損失が増加するため多層化による導体断面積を増加させる効果を得ることが難しい課題がある。
【0054】
本実施例では、
図4に示すように、コイル100,200,300において、巻線パターン101と巻線パターン102とのZ軸方向距離が均等化され、各巻線パターン101,102,201,202,301,302を構成する平面パターン130と平面パターン140とのZ軸方向距離が均等化される。このため本実施例では、各平面パターン130,140を貫く磁束密度を均等化することができる。
【0055】
[実施例2]
本発明に係る第2実施例(実施例2)について、
図10~
図14を用いて説明する。上述した実施例1の説明と重複する部分は記載を省略する。
【0056】
図10は、実施例2のプリント基板コイル2をIHクッキングヒータ用加熱コイルに適用した場合の概略断面図である。
図11は、実施例2のプリント基板コイル2をIHクッキングヒータ用加熱コイルに適用した場合の概略平面図である。
図10は上下方向に沿う断面を図示しており、
図11は
図10からトッププレート7及び鍋8を取り除いた状態で図示している。
【0057】
コイル521及び522は、基板(絶縁層)10と、基板10の一方の表面に形成された巻線パターン501と、基板10の他方の表面に形成された巻線パターン502と、を備えており、コイル521とコイル522とを基板(絶縁層)11を挟んで積層することでプリント基板コイル2が構成される。基板11は、紙やガラス布にフェノール樹脂やエポキシ樹脂などを含侵した材料が用いられる。IHクッキングヒータ(電磁誘導加熱装置)70は、調理器具である鍋8を載置するトッププレート7を備え、このトッププレート7の下方には鍋8を加熱するプリント基板コイル2を備えている。プリント基板コイル2は、プリント基板コイル2から生じる磁束の磁路となるフェライトコア5の上面に配置される。トッププレート7の上面に置かれた鍋8は、プリント基板コイル2から発生した磁束により誘導加熱される。プリント基板コイル2及びフェライトコア5は支持部材6により支持される。
図11に示すように、フェライトコア5は、プリント基板コイル3の中心から放射状に配置される。
【0058】
すなわち本実施例の電磁誘導加熱装置70は、鍋8を載置するトッププレート7と、トッププレート7の下方に位置してトッププレート7に載置された鍋8を加熱するコイル521,522と、を備えた電磁誘導加熱装置において、コイル521,522は
図12A及び
図12Bで説明するプリント基板コイルを備える。
【0059】
図12Aは、本発明に係る第2実施例(実施例2)のプリント基板コイル2について、1層目および3層目の巻線パターン501の構成の概略を示す平面図である。
図12Bは、本発明の第2実施例(実施例2)に係るプリント基板コイルについて、2層目および4層目の巻線パターンの構成の概略を示す平面図である。
【0060】
プリント基板コイル2は、複数ターンに亘ってスパイラル状に巻回された巻線パターン501,502を用いて構成される。巻線パターン501,502は、コイルターン510~560からなる6ターン構成であり、コイルターン510が最内周ターンを構成し、コイルターン560が最外周ターンを構成する。各コイルターン510~560は、径方向に分割された5本の導体パターン511~515で構成されている。導体パターン511~515は、基板10を挟んで複数の層に分割して配置された複数の平面導体をスルーホール(例えば
図12A及び
図12Bに示すH11,H12)を用いて接続することでコイルとして形成される。
【0061】
なお導体パターン511~515は、スルーホールH11~H52の径方向列によって区別される。各スルーホールH11~H52はそれぞれ径方向に列を成すように複数配置されており、例えば、スルーホールH11としては、径方向に並んだ6個のスルーホールがある。またスルーホールH12としては、径方向に並んだ5個(TH51,TH52を含めて7個)のスルーホールがある。例えば、導体パターン511のうち最内周に配置されるものは、スルーホールTH51とこのスルーホールTH51に対して径方向外側で隣接するスルーホールH12との間に形成される。さらにその外周側に配置される導体パターン511は、径方向に隣接する2つのスルーホールH12の間に形成される。
【0062】
コイルターン(第1コイルターン)510を一例として、撚り線構造の詳細を説明する。
【0063】
図13は、実施例2のプリント基板コイルを説明する概略断面図である。
図14は、実施例2のプリント基板コイルを説明する概略断面図である。
実施例2の第1コイルターン510は、
図12A及び
図12Bに示すように、導体パターン511~516が周方向に分割して形成され、基板10の一方の面と他方の面とにそれぞれ分割して形成された導体パターンを、スルーホールH11~H52を介して接続することで、コイルが構成される。
【0064】
ここでは、
図13に示すように、第1コイルターン510を構成する導体パターンの位置を、基板10の上面側の最内周側から外周側に向かって、レーンA、レーンB、レーンC、と定義し、基板10の下面側の最外周側から内周側に向かってレーンD、レーンE、レーンFと定義する。
【0065】
次に、
図12A及び
図12Bと共に
図14を用いて、第1コイルターン510を構成する導体パターンの遷移を導体パターン511に着目して説明する。
【0066】
<State1~State3>
導体パターン511は、最内周側に位置するレーンAを始点として、コイルパターン501の中心軸から所定の角度θ1毎に外周側に向かって順次レーンを遷移する。すなわち、導体パターン511はState2でレーンBに遷移し、State3でレーンCに遷移する。
【0067】
導体パターン511が最外周側のレーンCに到達するとState4に移行する。このとき、所定の角度(中心角)θ1は式3を参考に決定される。式3中のNstdは導体パターンの分割数を示している。
【0068】
θ1=180/Nstd …(式3)
<State4>
導体パターン511は、最外周側に位置するレーンCに位置しており、スルーホールH11を介して他方の面のレーンDに接続される。
【0069】
<State5~State8>
導体パターン511は、他方の面においてレーンDを始点として、所定の角度θ1毎に内周側に向かって順次レーンを遷移する。すなわち、導体パターン511はState6でレーンEに遷移し、State7でレーンFに遷移する。
【0070】
導体パターン511がレーンFに到達すると、スルーホールH12を介してコイルターン(第2コイルターン)520に接続される。
【0071】
さらに本実施例のプリント基板コイル2では、
巻線パターン501,502は、中心軸1xの周りを旋回しながら中心軸1xから遠ざかるように巻回された複数のコイルターン510~560を備え、
複数のコイルターン510~560はコイルの径方向に分割された複数の導体パターン511~515を備え、
複数の導体パターン511~515は、所定の中心角θ1毎に外周側に向かって遷移する。
【0072】
また、巻線パターン501の導体パターン511~515は、所定の中心角θ1毎に外周側に向かって遷移する遷移部591を有し、巻線パターン502の導体パターン511~515は、所定の中心角θ1毎に内周側に向かって遷移する遷移部591を有する。
【0073】
詳細な説明は省略するが、導体パターン512~515も同様である。導体パターン512~515は、外周側に向かって順次レーンを遷移し、レーンCに到達後、スルーホールH21,H31,H41,H51を介して他方の面のレーンDに接続し、他方の面において内周側に向かって順次レーンを推移し、レーンFに到達後、スルーホールH22,H32,H42,H52を介してコイルターン(第2コイルターン)120に接続される。
【0074】
このように、実施例2に記載のプリント基板コイル3では、コイルターンを構成する導体パターンに撚り線構造を用いることで、所定の角度毎に導体パターンの位置を内周側と外周側に入れ替えることでインピーダンスの均等化を図っている。このため、実施例1に記載のプリント基板コイルと比べて楕円や四角形などコイル形状を同心円以外とした場合においても導体パターン間でのインピーダンスの均等化が容易となる。
【0075】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成を置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0076】
1…プリント基板コイル、1x…中心軸、7…トッププレート、10…絶縁層(基板)、70…電磁誘導加熱装置、100…コイル(第1コイル)、101…第1巻線パターン(第1層)、102…第2巻線パターン(第2層)、130…導体パターン、131,132,133…平面パターン、140…導体パターン、141,142,143…平面パターン、200…コイル(第2コイル)、300…コイル(第3コイル)、501,502…巻線パターン、510~560…コイルターン、511~515…導体パターン、521,522…コイル、N1…一次側コイル、N2…二次側コイル、T1,T2…磁性体コア、Tr…高周波トランス、θ1…中心角。