(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022821
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】ガラス繊維強化プラスチックのリサイクル方法
(51)【国際特許分類】
B09B 3/45 20220101AFI20240214BHJP
B29B 11/16 20060101ALI20240214BHJP
B09B 101/75 20220101ALN20240214BHJP
【FI】
B09B3/45 ZAB
B29B11/16
B09B101:75
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022126182
(22)【出願日】2022-08-08
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 開催日 令和3年10月25日(月)~27日(水) 集会名 一般社団法人廃棄物資源循環学会 第32回廃棄物資源循環学会研究発表会 岡山コンベンションセンター(岡山県岡山市北区駅元町14-1)
(71)【出願人】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(71)【出願人】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(72)【発明者】
【氏名】硲 昌也
(72)【発明者】
【氏名】岡氏 敏樹
(72)【発明者】
【氏名】北川 武
(72)【発明者】
【氏名】築田 幸祐
(72)【発明者】
【氏名】脇坂 港
(72)【発明者】
【氏名】西田 治男
【テーマコード(参考)】
4D004
4F072
【Fターム(参考)】
4D004AA07
4D004BA01
4D004CA22
4D004CB50
4D004CC03
4F072AB09
(57)【要約】
【課題】ガラス繊維強化プラスチック中のガラス繊維の特性を維持しつつ再利用することが可能なガラス繊維強化プラスチックのリサイクル方法を提供する。
【解決手段】ガラス繊維強化プラスチックを流通する250℃以上500℃以下の温度範囲の過熱水蒸気で加熱処理することによって樹脂成分を部分的に分解除去し、分解前に対する分解後の重量減少を3重量%以上10重量%以下の範囲内とする分解工程を有する構成、または、ガラス繊維強化プラスチックを流通する250℃以上500℃以下の温度範囲の過熱水蒸気で、30分以上6時間以下の範囲内の加熱処理を行うことで易破砕性を付与し、樹脂成分が部分的に分解された部分分解ガラス繊維強化プラスチックを再利用するガラス繊維を再利用する構成とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維強化プラスチックを流通する250℃以上500℃以下の温度範囲の過熱水蒸気で加熱処理することによって樹脂成分を部分的に分解除去し、分解前に対する分解後の重量減少を3重量%以上10重量%以下の範囲内とする分解工程を有するガラス繊維強化プラスチックのリサイクル方法。
【請求項2】
前記分解工程によって得られたガラス繊維を解繊する解繊工程をさらに有する請求項1に記載のガラス繊維強化プラスチックのリサイクル方法。
【請求項3】
ガラス繊維強化プラスチックを流通する250℃以上500℃以下の温度範囲の過熱水蒸気で、30分以上6時間以下の範囲内の加熱処理を行うことで易破砕性を付与し、樹脂成分が部分的に分解された部分分解ガラス繊維強化プラスチックを再利用するガラス繊維強化プラスチックのリサイクル方法。
【請求項4】
前記過熱水蒸気で加熱処理が行われた前記ガラス繊維強化プラスチックに溶剤を用いて膨潤処理を行う請求項1または2に記載のガラス繊維強化プラスチックのリサイクル方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ガラス繊維強化プラスチックに含まれるガラス繊維のリサイクル方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維強化プラスチックに含まれるガラス繊維のリサイクル方法として、多くの方法が提案されている。例えば、下記特許文献1に示す方法においては、高温・高圧(例えば約230℃、約2.7MPa)の水蒸気中で所定時間(例えば30分)加温・加圧した後、圧力を瞬時に開放して水蒸気爆砕処理することにより、ガラス繊維とマトリックスを分離している(特許文献1の段落0025、
図1などを参照)。また、下記特許文献2に示す方法においては、酸化性活性種を含む硫酸溶液にガラス繊維強化プラスチックを浸漬して母材を分解除去している(特許文献2の段落0039~0050を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-307046号公報
【特許文献2】特開2020-203995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示す方法においては、水蒸気爆砕に伴ってガラス繊維に損傷が生じやすく、回収したガラス繊維の強度が大幅に低下する問題がある。さらに、高圧での処理は、装置の大型化や連続処理化の点で難がある。また、特許文献2に示す方法においては、硫酸溶液などの処理溶液によってガラス繊維の劣化が生じるおそれがあるとともに、乾燥処理のエネルギーや、廃液の取り扱いや処分にコストと手間を要する問題がある。
【0005】
そこで、この発明は、ガラス繊維強化プラスチック中のガラス繊維の特性を維持しつつ再利用することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、この発明では、ガラス繊維強化プラスチックを流通する250℃以上500℃以下の温度範囲の過熱水蒸気で加熱処理することによって樹脂成分を部分的に分解除去し、分解前に対する分解後の重量減少を3重量%以上10重量%以下の範囲内とする分解工程を有するガラス繊維強化プラスチックのリサイクル方法を構成した。なお、本発明において、過熱水蒸気で加熱処理することにより起こる主たる分解作用は、加水分解、熱分解、および、酸化分解である。
【0007】
上記処理工程および処理条件に基づいてガラス繊維強化プラスチックを処理することにより、ガラス繊維の引張強度や弾性率などの材料特性を劣化させることなく、高品質のガラス繊維を簡便に回収することができる。
【0008】
前記構成においては、前記分解工程によって得られたガラス繊維を解繊する解繊工程をさらに有するのが好ましい。この解繊工程を行うことにより、ガラス繊維を単繊維~ロービングの任意の状態とすることができ、その再利用性を一層高めることができる。
【0009】
また、上記の課題を解決するため、この発明では、ガラス繊維強化プラスチックを流通する250℃以上500℃以下の温度範囲の過熱水蒸気で、30分以上6時間以下の範囲内の加熱処理を行うことで易破砕性を付与し、樹脂成分が部分的に分解された部分分解ガラス繊維強化プラスチックを再利用するガラス繊維強化プラスチックのリサイクル方法を構成した。
【0010】
このようにすると、過熱水蒸気処理による加熱処理に伴うガラス繊維の強度低下を防止することができるとともに、処理効率の向上、省エネルギー化、処理装置の大型化・連続処理化、さらに、ガラス繊維の表面への炭化物などの付着に起因するリサイクル製品の着色防止を図ることができる。また、過熱水蒸気処理に伴う樹脂成分のダメージが少ないため、再利用の際にこの樹脂成分の反応性や機能性(プレポリマー化、相溶剤化)を活用することができる。さらに、リサイクル作業の際に針状のガラス繊維の粉塵が飛散するのを防止することができるため、作業効率の向上を図ることができる。
【0011】
前記分解工程を有する構成においては、前記過熱水蒸気で加熱処理が行われた前記ガラス繊維強化プラスチックに溶剤を用いて膨潤処理を行うのも好ましい態様である。このようにすると、加熱処理後のマトリックスから、ガラス繊維、または、ロービングの分離回収をスムーズに行うことができる。
【発明の効果】
【0012】
この発明では、ガラス繊維強化プラスチックを流通する250℃以上500℃以下の温度範囲の過熱水蒸気で加熱処理することによって樹脂成分を部分的に分解除去し、分解前に対する分解後の重量減少を3重量%以上10重量%以下の範囲内とする分解工程を有する構成、または、ガラス繊維強化プラスチックを流通する250℃以上500℃以下の温度範囲の過熱水蒸気で、30分以上6時間以下の範囲内の加熱処理を行うことで易破砕性を付与し、樹脂成分が部分的に分解された部分分解ガラス繊維強化プラスチックを再利用する構成としたことにより、ガラス繊維強化プラスチックから高品質のガラス繊維、または、部分分解したガラス繊維強化プラスチックを簡便に回収して再利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】この発明に係る第一のリサイクル方法において、(a)は解繊工程前のガラス繊維を示す写真、(b)は解繊工程後のガラス繊維を示す写真
【
図2】第一のリサイクル方法において、番手が#1700のEガラスおよびECRガラスに対する材料試験の結果を示すグラフであって、(a)は引張強度、(b)は最大伸び率、(c)は弾性率、(d)は靭性値
【
図3】第一のリサイクル方法において、番手が#4400のEガラスおよびECRガラスに対する材料試験の結果を示すグラフであって、(a)は引張強度、(b)は最大伸び率、(c)は弾性率、(d)は靭性値
【発明を実施するための形態】
【0014】
この発明に係るガラス繊維強化プラスチックの第一のリサイクル方法は、分解工程を主要な構成としている。
【0015】
分解工程は、ガラス繊維強化プラスチックを流通する過熱水蒸気で加熱処理することによってプラスチックを部分的に分解して除去する工程である。この分解工程においては、流通する過熱水蒸気中にガラス繊維強化プラスチックが設けられ、分解によって生じたプラスチックの分解物は流通する過熱水蒸気によって除去される。
【0016】
本発明において、過熱水蒸気とは、単に常圧で100℃以上の水蒸気に限定されず、0.5~2MPa、好ましくは、0.8~1.5MPaの微減圧~微加圧の範囲の水蒸気を含む。これにより、例えば、連続処理の際の処理ゾーンへの酸素の混入抑制や部分分解物の効率的な系外への取り出しも可能となり、より効率的な処理が可能となる。
【0017】
この加熱処理は、250℃以上500℃以下の温度範囲内、好ましくは300℃以上450℃以下の温度範囲内、さらに好ましくは320℃以上400℃以下の温度範囲内とされる。加熱温度が250℃よりも低いと、プラスチックを十分に分解することができないおそれがあり、加熱温度が500℃よりも高いと、ガラス繊維にダメージを与えるおそれがあるため、いずれも好ましくない。
【0018】
本発明に係るガラス繊維強化プラスチックの第二のリサイクル方法は、熱処理時間が、30分以上6時間以下の範囲内、好ましくは45分以上4時間以下の範囲内、さらに好ましくは1時間以上3時間以下の範囲内とされる。ガラス繊維強化プラスチックは、プラスチック成分の化学構造が単一ではなく、異なる結合基が複数共存しているため、分解の進行度は、単に温度と時間の直線的な相関ではない。低温度域において、特定の結合基を選択的に分解することができ、高温度域ではより多くの種類の結合基を分解することが可能となる。しかしながら、単一の結合基に限って言えば、熱処理時間とともに分解は進行する。したがって、熱処理時間が30分より短いと、プラスチックを十分に分解することができないおそれがあり、熱処理時間が6時間より長いと、ガラス繊維にダメージを与えるおそれがあったり、分解反応がそれ以上進まなくなったりするため、いずれも好ましくない。この熱処理時間は、加熱処理の温度を高くするほど短くすることができ、例えば、320℃以上400℃以下の温度範囲の場合、熱処理時間は1時間以上3時間以下の範囲内とするのが好ましい。
【0019】
本発明に係るガラス繊維強化プラスチックの第一のリサイクル方法と第二のリサイクル方法の相違点は、ガラス繊維強化プラスチックの加熱処理条件を重量減少率でみる方法と、処理時間とともに進行する易破砕性で見る方法の違いである。第一のリサイクル方法において、重量減少は特定の結合基の分解と分解物の脱離を反映しており、処理の進行を分解物の回収量から定量的に判断できる。一方、第二のリサイクル方法は、分解反応によるプラスチックの網目構造の切断を易破砕性という特性により定性的にかつ効率的に判断できる。さらに、第二のリサイクル方法は、破砕によって得られた部分分解ガラス繊維強化プラスチックを必ずしもガラス繊維の単繊維にまで解繊する必要が無く、複合体としてそのまま再利用することも可能である。
【0020】
本発明に係るガラス繊維強化プラスチックの第一のリサイクル方法においては、加熱処理における加熱温度と熱処理時間は、分解前に対する分解後の重量減少が3重量%以上10重量%以下の範囲内となるように適宜調節される。重量減少が3重量%よりも小さいと、ガラス繊維に過剰量のプラスチックが残留したままの状態となりやすく、重量減少が10重量%よりも大きいと、ガラス繊維にダメージを与えるおそれがあるため、いずれも好ましくない。
【0021】
この重量減少は、分解工程の前後において、ガラス繊維強化プラスチックの重量を重量秤を用いて直接測定するのが簡便かつ確実である。あるいは、分解工程において分解された分解物の重量を測定することによって重量減少を算出することもできる。この場合、過熱水蒸気とともに除去された分解物を冷却することによって液化または固化させ、水分と分離することによって、その分解物の重量を測定することができる。
【0022】
解繊工程は、第一のリサイクル方法における分解工程によって得られたガラス繊維を解繊する工程である。分解工程後のガラス繊維は、
図1(a)に示すようにガラス繊維に残留した樹脂成分によって束状または塊状となっているため、このガラス繊維を解して、元の繊維状に戻す必要が生じる場合がある。
【0023】
この解繊工程においては、分解工程で得られた束状または塊状のガラス繊維に溶剤を適用して樹脂成分の膨潤処理を行う方法や、水などの液体にガラス繊維を浸漬して超音波を付与する方法など、種々の方法を採用することが可能である。溶剤を適用する方法においては、ガラス繊維を溶剤中に静的に浸漬した後に濾過する方法、流動する溶液の中で洗浄する方法、ソックスレー抽出法によって分解工程における分解物を抽出する方法など、種々の方法から選択することができる。また、溶剤を適用する方法と超音波を付与する方法を組み合わせることもできる。
【0024】
溶剤として、各種の有機溶剤やリン酸三カリウムを含むベンジルアルコールなどの無機混合溶剤などを用いることができるが、ガラス繊維とプラスチック分解物との分離やガラス繊維の再利用などを考慮すると、有機溶剤を用いるのが特に好ましい。
【0025】
好適な有機溶剤として、クロロホルムなどの塩素系溶剤、アセトンやメチルエチルケトンなどのケトン系溶剤、トルエンやキシレンなどの芳香族系溶剤、ベンジルアルコールなどのアルコール系溶剤、ヘキサンやシクロヘキサンなどの脂肪族系溶剤などを利用可能である。この中でより好適な有機溶剤として、分解物の抽出効果や分離効率が高い、塩素系溶剤、ケトン系溶剤、芳香族系溶剤などを選択することができる。
【0026】
解繊工程で回収されたガラス繊維の引張強度などの材料試験は、引張試験機などの試験機を用いて測定することができる。
【0027】
ガラス繊維強化プラスチックのリサイクル試験の手順、および、回収されたガラス繊維の強度試験の実施例について説明する。このリサイクル試験においては、表1に示すように番手がそれぞれ異なる市販のEガラスおよびECRガラスを用いた4水準の板状ガラス繊維強化プラスチック(長さ5cm、幅5cm、厚さ0.7~0.9mm)をサンプルとして使用した。このガラス繊維強化プラスチックはその製造工程において、既に100℃前後の熱履歴を受けている。
【0028】
【0029】
上記の各サンプルに対し、下記(1)~(3)の工程を行った。
【0030】
(1)分解工程
分解工程においては、オーブン型過熱水蒸気処理装置(山口製作所製SHS-0002)を使用した。この過熱水蒸気処理装置は、高温の過熱水蒸気を生成するスチーム加熱用と、電熱によってオーブンを加熱するオーブン加熱用の二つの加熱装置を備えている。
【0031】
この過熱水蒸気処理装置の使用に際し、まず、オーブン加熱用の電熱加熱装置で、オーブン内の温度を350℃まで加熱した。次に、その温度に加熱されたオーブン内に、スチーム加熱用の加熱装置で生成された常圧の過熱水蒸気を流通させた。そして、このオーブン内でガラス繊維強化プラスチックを2時間加熱処理した。この加熱処理によってプラスチックの分解が進行し、その分解された分解物は過熱水蒸気の流れによってオーブン外に排出される。この分解工程の前後の重量は、必要に応じて乾燥処理を施した後、一般的な重量秤を用いて直接測定することができる。
【0032】
(2)解繊工程
この実施例では、解繊工程においてソックスレー抽出法を採用した。ソックスレー抽出法においては、溶媒として200mLのクロロホルムを使用した。ソックスレー抽出容器内には円筒濾紙が設けられ、この円筒濾紙内には、分解工程で分解されたガラス繊維強化プラスチック300~400mgが入れられる。オイルバス方式によってクロロホルムを加熱すると、クロロホルムが気化および還流して、分解されたガラス繊維強化プラスチックが還流したクロロホルムに浸漬され、分解したプラスチックが溶解される。この実施例では、還流した溶剤(クロロホルム)の滴下量が1秒に2~3滴となるようにオイルバスの温度を調節(最終設定温度:75℃)した上で、常圧の大気雰囲気下において5時間実施した。
【0033】
このソックスレー抽出に続いて、剪断応力を付加する(例えば、機械的に引き裂く)ことで溶剤によって膨潤したガラス繊維を解繊した。この解繊によってその表面積が増大するため、乾燥を速やかに進行させることができる。
【0034】
(3)評価工程
必要に応じて乾燥処理を行った後、分解工程の前後の重量を一般的な重量秤を用いて直接測定し、分解前に対する分解後の重量減少を評価した。
【0035】
また、解繊工程の前後の各サンプルの表面形態をレーザー顕微鏡(キーエンス社製VK-X1000)を用いて観察した。このレーザー顕微鏡は、深度方向の合成画像を生成する機能を有し、この合成画像からガラス繊維の状態を評価した。
【0036】
さらに、解繊工程によって得られたガラス繊維の材料試験を多目的材料試験機(井元製作所製IMC-18E0)を用いて実施した。この材料試験に際しては、解繊工程によって得られた各サンプルのガラス繊維を1本取り出し、その両端にエポキシ樹脂系接着剤を用いて掴み部分を形成することによって試験片を作成した。この材料試験は、23℃の室温下において各サンプル水準に対し複数回実施した。そして、得られた応力-変位曲線から、引張強度、弾性率(ヤング率)、伸び、および、靭性値を算出した。また、得られた各物性値の平均値と標準偏差を算出した。
【0037】
上記の各サンプルに対する評価結果について説明する。
【0038】
分解工程の前後の重量減少率は表2に記載の通りである。いずれのサンプルの重量減少率も、3重量%以上10重量%以下の所定範囲内であった。重量減少率をこの所定範囲内に収めることにより、ガラス繊維にダメージが生じるのを防止しつつプラスチックの部分分解を行うことができ、ガラス繊維を解繊によって取り出すことができた。
【0039】
【0040】
レーザー顕微鏡で観察した解繊工程の前後のサンプル(Eガラスの#1700)の表面形態を一例として
図1(a)(b)に示す。解繊工程前(分解工程後)のガラス繊維は、
図1(a)に示すように一塊の束状となっている。これに対し解繊工程を行うことにより、
図1(b)に示すように、元の繊維状に解すことができた。
【0041】
番手が#1700のEガラスおよびECRガラスに対する材料試験の結果を
図2(a)~(d)に、番手が#4400のEガラスおよびECRガラスに対する材料試験の結果を
図3(a)~(d)に示す。各図において(a)は引張強度、(b)は最大伸び率、(c)は弾性率、(d)は靭性値の結果をそれぞれ示す。また、各グラフ中において「処理後」と記載のサンプルは、350℃2時間の分解工程を行った後に解繊工程を行ったものであり、「未処理」と記載のサンプルは、分解工程および解繊工程を行っていない処理前の状態のままのガラス繊維である。
【0042】
いずれのサンプルにおいても、(a)引張強度および(c)弾性率が、未処理に対して処理後において顕著に向上した。また、(b)最大伸び率および(d)靭性値においても未処理に対して処理後が同等または向上する結果となった。この結果から、上記の一連の工程によって回収されたガラス繊維は、新品のガラス繊維と同等以上の引張強度や弾性率などの材料特性を備えており、回収されたガラス繊維を用いたガラス繊維強化プラスチックは、新品のガラス繊維を用いて製造したガラス繊維強化プラスチックと同等以上の品質を備え得る。回収されたガラス繊維の高い材料特性は、ガラス繊維強化プラスチックの分解工程、および、解繊工程において付与された熱に起因している可能性がある。
【0043】
上記の各リサイクル方法は、加熱処理を過熱水蒸気の流通下で行うため、過熱水蒸気処理装置を大型化・連続化することが容易で、従って、高い作業効率を確保することができる。
【0044】
本発明の各リサイクル方法においては、過熱水蒸気処理に伴うガラス繊維の強度低下を防止することができるとともに、処理効率の向上、省エネルギー化、ガラス繊維の表面への炭化物などの付着に起因するリサイクル製品の着色防止を図ることができる。また、過熱水蒸気処理に伴う樹脂成分のダメージが少ないため、再利用の際にこの樹脂成分の反応性や機能性(プレポリマー化、相溶剤化)を活用することができる。特に第二のリサイクル方法においては、リサイクル作業の際に針状のガラス繊維の粉塵が飛散するのを防止することができるため、作業効率の向上を図ることができる。
【0045】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。したがって、本発明の範囲は上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味およびすべての変更が含まれることが意図される。