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特開2024-22987導電性ペースト、電子部品、及び、積層セラミックコンデンサ
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  • 特開-導電性ペースト、電子部品、及び、積層セラミックコンデンサ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022987
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】導電性ペースト、電子部品、及び、積層セラミックコンデンサ
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/22 20060101AFI20240214BHJP
   C09D 5/24 20060101ALI20240214BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20240214BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20240214BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20240214BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20240214BHJP
   H01G 4/30 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
H01B1/22 A
C09D5/24
C09D7/20
C09D7/63
C09D201/00
C09D7/61
H01G4/30 516
H01G4/30 201D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022126477
(22)【出願日】2022-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100161001
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 篤司
(72)【発明者】
【氏名】小林 宏
(72)【発明者】
【氏名】野中 康信
(72)【発明者】
【氏名】大和田 夏美
(72)【発明者】
【氏名】松村 文彦
(72)【発明者】
【氏名】相川 達男
【テーマコード(参考)】
4J038
5E001
5E082
5G301
【Fターム(参考)】
4J038BA021
4J038HA066
4J038JA55
4J038JB03
4J038MA06
4J038MA10
4J038MA14
4J038MA15
4J038NA20
4J038PB09
5E001AB03
5E001AC09
5E001AH01
5E001AH09
5E001AJ01
5E082AA01
5E082AB03
5E082BC36
5E082BC38
5E082EE04
5E082EE22
5E082EE23
5E082EE35
5E082FF05
5E082FG04
5E082FG26
5E082FG46
5E082PP09
5G301DA03
5G301DA04
5G301DA05
5G301DA06
5G301DA07
5G301DA10
5G301DA11
5G301DA12
5G301DA15
5G301DA39
5G301DA42
5G301DD01
5G301DD02
5G301DD03
5G301DE01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】シートアタックが生じにくく、かつ、スクリーン印刷に適したレオロジー特性を有する導電性ペースト、電子部品及び積層セラミックコンデンサを提供する。
【解決手段】分散剤が、下記一般式(1)で示されるアミン系分散剤を含み、有機溶剤が、ジヒドロターピニルアセテートのみ、ジヒドロターピニルアセテートとアルカンジオールとの混合溶剤のみ、または、ジヒドロターピネオールとアルカンジオールとの混合溶剤のみ、のいずれかであり、25℃におけるずり速度4sec-1における粘度が15Pa・s以上100Pa・s以下である、導電性ペーストにより、シートアタック、レオロジー特性が改善される。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性粉末、分散剤、バインダー樹脂及び有機溶剤を含む導電性ペーストであって、
前記分散剤が、下記一般式(1)で示されるアミン系分散剤を含み、
前記有機溶剤が、ジヒドロターピニルアセテートのみ、ジヒドロターピニルアセテートとアルカンジオールとの混合溶剤のみ、または、ジヒドロターピネオールとアルカンジオールとの混合溶剤のみ、のいずれかであり、
前記導電性ペーストの25℃におけるずり速度4sec-1における粘度が15Pa・s以上100Pa・s以下である、導電性ペースト。
【化1】
【請求項2】
前記アルカンジオールが、2-エチル-1,3-ヘキサンジオールである、請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項3】
前記アミン系分散剤の合計量と前記導電性粉末との質量比は、0.01~4:100であり、
前記導電性粉末の前記導電性ペーストの全体量に対する含有量は40質量%~65質量%である、請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項4】
前記導電性粉末の数平均粒子径が、30nm以上200nm以下である、請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項5】
前記導電性ペーストの全体量に対する前記有機溶剤の含有量が、20質量%~60質量%である、請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項6】
セラミック粉末を含む、請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項7】
請求項1に記載の導電性ペーストを用いて形成された、電子部品。
【請求項8】
誘電体層と内部電極層とを積層した積層体を少なくとも有し、
前記内部電極層は、請求項1に記載の導電性ペーストを用いて形成された、積層セラミックコンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ペースト、電子部品、及び、積層セラミックコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やデジタル機器などの電子機器の軽薄短小化に伴い、チップ部品である積層セラミックコンデンサ(Multilayered Ceramic Capacitor、以下「MLCC」という)についても小型化、高容量化、および高性能化が望まれている。これらを実現するための最も効果的な手段は、内部電極層と誘電体層を薄くして多層化を図ることである。
【0003】
MLCCは、一般に次のように製造される。まず誘電体層を形成するために、主成分であるチタン酸バリウム(BaTiO)などの誘電体セラミック粉末、および、ポリビニルブチラールなどのブチラール系樹脂あるいはアクリル系樹脂からなるバインダー樹脂を用いて誘電体グリーンシートを形成する。誘電体グリーンシートの表面上に、導電性粉末をバインダー樹脂および有機溶剤を含む有機ビヒクルに分散させた導電性ペースト組成物を所定のパターンで印刷し、有機溶剤を除去するための乾燥を施し、内部電極層となる乾燥膜を形成する。乾燥膜が形成された誘電体グリーンシートを多層に積み重ねた状態で加熱圧着して一体化した後に、切断してチップを得て、該チップに対して、酸化性雰囲気または不活性雰囲気中にて500℃以下で脱バインダー処理を行う。その後、内部電極層が酸化しないように、還元雰囲気中にて1300℃程度で、脱バインダー処理後のチップの加熱焼成を行い、内部電極層と誘電体グリーンシートである誘電体層とを一体化させて、焼成チップを得る。最後に、焼成チップに対して、外部電極用ペーストを塗布および焼成した後、得られた外部電極上にニッケルメッキなどを施すことにより、MLCCが完成する。
【0004】
上記焼成工程における、チタン酸バリウムなどの誘電体セラミック粉末が焼結および収縮し始める温度は、1200℃程度であり、ニッケルなどの導電性粉末が焼結および収縮し始める温度である400℃~500℃とは、大きく乖離している。このため、デラミネーション(層間剥離)やクラックなどの構造欠陥が発生しやすい。特に、小型化および高容量化に伴って、積層数が多くなるほど、あるいは、誘電体層の厚みが薄くなるほど、構造欠陥の発生が顕著となっている。
【0005】
その対策として、通常、内部電極用の導電性ペースト組成物には、少なくとも誘電体層の焼結および収縮を開始する温度付近まで、内部電極層の焼結および収縮を制御するために、誘電体層を構成する誘電体セラミックの組成に類似したチタン酸バリウム系あるいはジルコン酸ストロンチウム系などのペロブスカイト型酸化物を主成分とするセラミック粉末が添加されている。導電性ペーストへのセラミック粉末の添加は、誘電体層の主成分の構成元素と電極ペーストに含まれる誘電体粉末の構成元素とが大きく異なる場合に生じる構造欠陥に起因する誘電損失の増大などの電気特性の低下を抑制する、すなわち、ニッケル粉末などの導電性粉末の焼結挙動を制御し、内部電極層と誘電体層の焼結収縮挙動のミスマッチを補償することを企図している。
【0006】
内部電極用の導電性ペースト組成物は、一般的には、バインダー樹脂を有機溶剤に溶解して得られる有機ビヒクル中に、導電性粉末、セラミック粉末、および分散剤を分散させて、その粘度を有機溶剤によって調整することにより得られる。この有機ビヒクルを構成するバインダー樹脂には、一般にエチルセルロースなどが使用されており、その有機溶剤には、ターピネオールなどが使用されてきている(例えば、特許文献1)。
【0007】
しかしながら、ターピネオールはブチラール樹脂やアクリル系樹脂に対する溶解性が高いことから、導電性ペーストの塗工により内部電極層を形成する際に、誘電体グリーンシートが導電性ペースト中の溶剤で侵食され、誘電体層が不均一になる、いわゆるシートアタックが生ずる可能性がある。このため、シートアタックを防ぐための溶剤組成が検討されている(例えば、特許文献2)。
【0008】
また、内部電極用に限らず導電性ペーストは、グラビア印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷、スクリーン印刷などの多様な印刷方法で塗工される可能性がある。したがって、導電性ペースト組成物には、それぞれの印刷方法に適したレオロジー特性が必要とされる。たとえば、特許文献3では、スクリーン印刷用のレオロジー特性に適した組成が、それぞれ検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2018-168238号公報
【特許文献2】国際公開WO2014/073530号公報
【特許文献5】国際国会WO2014/104053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、近年の電極パターンの薄膜化に伴い、特に平均粒子径が200nm以下の導電性粉末を使用する導電性ペーストが求められているが、このような導電性ペーストにおいて、シートアタックが生じにくく、かつ、スクリーン印刷に適したレオロジー特性を有する導電性ペーストがなく、これを実現することが求められている。
【0011】
本発明は、このような状況に鑑み、シートアタックが生じにくく、かつ、スクリーン印刷に適したレオロジー特性を有する導電性ペースト、電子部品、及び、積層セラミックコンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するべく、本発明の導電性ペーストは、導電性粉末、分散剤、バインダー樹脂及び有機溶剤を含む導電性ペーストであって、前記分散剤が、下記一般式(1)で示されるアミン系分散剤を含み、前記有機溶剤が、ジヒドロターピニルアセテートのみ、ジヒドロターピニルアセテートとアルカンジオールとの混合溶剤のみ、または、ジヒドロターピネオールとアルカンジオールとの混合溶剤のみ、のいずれかであり、前記導電性ペーストの25℃におけるずり速度4sec-1における粘度が15Pa・s以上100Pa・s以下である、導電性ペーストである。
【0013】
【化1】
【0014】
前記アルカンジオールが、2-エチル-1,3-ヘキサンジオールであってもよい。
【0015】
前記アミン系分散剤の合計量と前記導電性粉末との質量比は、0.01~4:100であってもよく、前記導電性粉末の前記導電性ペーストの全体量に対する含有量は40質量%~65質量%であってもよい。
【0016】
前記導電性粉末の数平均粒子径が、30nm以上200nm以下であってもよい。
【0017】
前記導電性ペーストの全体量に対する前記有機溶剤の含有量が、20質量%~60質量%であってもよい。
【0018】
本発明の導電性ペーストは、セラミック粉末を含んでもよい。
【0019】
また、上記の課題を解決するため、本発明の電子部品は、本発明の導電性ペーストを用いて形成された電子部品である。
【0020】
また、上記の課題を解決するため、本発明の積層セラミックコンデンサは、誘電体層と内部電極層とを積層した積層体を少なくとも有し、前記内部電極層は、本発明の導電性ペーストを用いて形成された、積層セラミックコンデンサである。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明によれば、シートアタックが生じにくく、かつ、スクリーン印刷に適したレオロジー特性を有する導電性ペースト、電子部品、及び、積層セラミックコンデンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】積層セラミックコンデンサを示す斜視図及び側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の導電性ペースト、電子部品、及び、積層セラミックコンデンサの一実施形態について説明する。
【0024】
[導電性ペースト]
本実施形態の導電性ペーストは、導電性粉末、分散剤、バインダー樹脂及び有機溶剤を含む導電性ペーストであって、前記分散剤が、下記一般式(1)で示されるアミン系分散剤を含み、前記有機溶剤が、ジヒドロターピニルアセテートのみ、ジヒドロターピニルアセテートとアルカンジオールとの混合溶剤のみ、または、ジヒドロターピネオールとアルカンジオールとの混合溶剤のみ、のいずれかである。また、本実施形態の導電性ペーストは、セラミック粉末を含んでも良い。以下、導電性粉末、セラミック粉末、分散剤、バインダー樹脂及び有機溶剤等について、詳細に説明する。
【0025】
(導電性粉末)
導電性粉末は、特に限定されず、金属粉末を用いることができ、例えば、Ni、Pd、Pt、Au、Ag、Cu、及びこれらの合金から選ばれる1種以上の金属粉末を用いることができる。これらの中でも、導電性、耐食性及びコストの観点から、Ni、又はNi合金の粉末が好ましい。Ni合金としては、例えば、Mn、Cr、Co、Al、Fe、Cu、Zn、Ag、Au、Pt及びPdからなる群より選択される少なくとも1種以上の元素とNiとの合金(Ni合金)を用いることができる。Ni合金におけるNiの含有量は、例えば、50質量%以上、好ましくは80質量%以上である。また、Ni粉末は、脱バインダー処理の際、バインダー樹脂の部分的な熱分解による急激なガス発生を抑制するために、数百ppm程度のSを含んでもよい。
【0026】
導電性粉末の数平均粒子径は、好ましくは30nm以上200nm以下であり、より好ましくは30nm以上130nm以下であり、さらに好ましくは、30nm以上100nm以下である。導電性粉末の平均粒径が上記範囲である場合、薄膜化した積層セラミックコンデンサの内部電極用の導電性ペーストとして好適に用いることができ、乾燥膜の平滑性が向上する。ここで、数平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察から求められる値であり、SEMで倍率10,000倍にて観察した画像から、複数の粒子一つ一つの粒径を測定して、得られる平均値である。
【0027】
前記導電性粉末の前記導電性ペーストの全体量に対する含有量は、好ましくは40質量%~65質量%であり、より好ましくは45質量%~60質量%である。導電性粉末の含有量が上記範囲である場合、導電性及び分散性に優れる。
【0028】
(セラミック粉末)
セラミック粉末としては、特に限定されず、例えば、積層セラミックコンデンサの内部電極用の導電性ペーストである場合、適用する積層セラミックコンデンサの種類により適宜、公知のセラミック粉末が選択される。セラミック粉末としては、例えば、Ba及びTiを含むペロブスカイト型酸化物が挙げられ、好ましくはチタン酸バリウム(BaTiO)である。
【0029】
セラミック粉末としては、チタン酸バリウムを主成分とし、酸化物を副成分として含むセラミック粉末を用いてもよい。酸化物としては、Mn、Cr、Si、Ca、Ba、Mg、V、W、Ta、Nb及び1種類以上の希土類元素の酸化物が挙げられる。また、セラミック粉末としては、例えば、チタン酸バリウム(BaTiO)のBa原子やTi原子を他の原子、例えば、Sn、Pb、Zr等で置換したペロブスカイト型酸化物強誘電体のセラミック粉末を用いてもよい。
【0030】
内部電極用の導電性ペーストにおいては、積層セラミックコンデンサのグリーンシートを構成する誘電体セラミック粉末と同一組成の粉末を、セラミック粉末として用いてもよい。これにより、焼結工程における誘電体層と内部電極層との界面での収縮のミスマッチによるクラック発生が抑制される。このようなセラミック粉末としては、上記以外に、例えば、ZnO、フェライト、PZT、BaO、Al、Bi、R(希土類元素)、TiO等の酸化物が挙げられる。なお、セラミック粉末は、1種類を用いてもよく、2種類以上を用いてもよい。
【0031】
セラミック粉末の数平均粒子径は、例えば、10nm~100nmであり、好ましくは10nm~70nmの範囲である。セラミック粉末の数平均粒子径が上記範囲であることにより、内部電極用の導電性ペーストとして用いた場合、十分に細く薄い均一な内部電極を形成することができる。数平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察から求められる値であり、SEMで倍率50,000倍にて観察した映像から、複数の粒子一つ一つの粒径を測定して、得られる平均値である。
【0032】
導電性ペーストがセラミック粉末を含む場合、セラミック粉末の含有量は、導電性粉末100質量部に対して、好ましくは1質量部~30質量部であり、より好ましくは3質量部~30質量部である。導電性粉末の含有量が上記範囲である場合、導電性及び分散性に優れる。
【0033】
また、導電性ペーストがセラミック粉末を含む場合、セラミック粉末の含有量は、導電性ペースト全体に対して、好ましくは1質量%~20質量%であり、より好ましくは3質量%~20質量%以下である。導電性粉末の含有量が上記範囲である場合、導電性及び分散性に優れる。
【0034】
(バインダー樹脂)
バインダー樹脂としては、特に限定されないが、例えば、質量平均分子量が30000~150000であり、エトキシ基含有量が45~50質量%のエチルセルロースを採用することができる。このようなエチルセルロースであれば、後述する有機溶剤に溶解するため、導電性ペーストを製造することができる。また、導電性ペーストを内部電極へ加工する過程において、導電性ペーストを乾燥させた塗膜を焼成する工程があるが、この焼成後の残留炭素分が過度に増加することなく、印刷性を充分に確保することができる。
【0035】
なお、エチルセルロースの質量平均分子量が30000未満の場合には、スクリーン印刷を行うために充分な粘度を得ることが困難になるおそれがある。また、同分子量が150000よりも大きいと、得られる導電性ペーストが増粘して、スクリーン印刷における印刷性が悪くなるおそれがある。
【0036】
また、エチルセルロースのエトキシ基含有量が45~50質量%であれば、後述する有機溶剤に対する相溶性に優れ、溶解性が良好となる。エチルセルロースのエトキシ基含有量は、より好ましくは、47~50質量%である。
【0037】
バインダー樹脂としては、上記のエチルセルロースのみを単独で使用しても良く、エチルセルロース以外の樹脂をさらに含んでも良い。例えば、前記バインダー樹脂が、エチルセルロースに加えて、メチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ニトロセルロース及びポリビニルブチラールから選ばれる樹脂のうち、少なくとも1種以上をさらに含んでもよい。
【0038】
例えば、内部電極用の導電性ペーストとして用いる場合、グリーンシートとの接着強度を向上させる観点からポリビニルブチラールを使用してもよい。
【0039】
メチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ニトロセルロース及びポリビニルブチラールから選ばれるバインダー樹脂において、質量平均分子量は、例えば、20000~300000程度であることが好ましい。質量平均分子量が20000未満であると、スクリーン印刷を行うために充分な粘度を得ることが困難になる。質量平均分子量のより好ましい下限は30000である。かかる下限が30000以上であれば残留炭素分の増加を生じることなく、印刷性を充分に確保することができる。一方で、質量平均分子量が300000を超えると、得られる導電性ペーストが増粘してスクリーン印刷における印刷性が悪くなるおそれがある。質量平均分子量が300000以下であれば、エチルセルロースとの相溶性を確保しつつ、印刷性に優れる導電性ペーストを得ることができる。質量平均分子量の好ましい上限については、エチルセルロースとの配合比等にもよるが、300000以下とすることで、導電性ペーストを乾燥させた塗膜を焼成後の残留炭素を低減させることが可能となる。
【0040】
バインダー樹脂としてエチルセルロース以外の樹脂を含む場合には、質量比でエチルセルロース:エチルセルロース以外の樹脂=30~70:70~30とすることが好ましい。
【0041】
バインダー樹脂の含有量は、導電性粉末100質量部に対して、好ましくは1質量部~10質量部以下であり、より好ましくは1質量部~8質量部である。バインダー樹脂の含有量が上記範囲である場合、導電性及び分散性に優れる。
【0042】
バインダー樹脂の含有量は、導電性ペースト全体に対して、好ましくは0.5質量%~10質量%であり、より好ましくは1質量%~6質量%である。バインダー樹脂の含有量が上記範囲である場合、導電性及び分散性に優れる。
【0043】
(有機溶剤)
導電性ペーストの有機溶剤として、(1)ジヒドロターピニルアセテートのみを用いる場合、(2)ジヒドロターピニルアセテートとアルカンジオールとの混合溶剤のみを用いる場合、(3)ジヒドロターピネオールとアルカンジオールとの混合溶剤のみを用いる場合、の3通りが挙げられる。これらのいずれかの有機溶剤を用いれば、誘電体グリーンシートに対してシートアタックがない導電性ペーストが得られる。ここで、アルカンジオールとしては、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、へキシレングリコール(2-メチル-2,4-ペンタンジオール)、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオールが挙げられる。これらのジオールを単独または組み合わせて用いることができる。
【0044】
有機溶剤として(2)の混合溶剤のみを用いる場合、混合溶剤中のジヒドロターピニルアセテートの含有量は50質量%以上であることが好ましく、混合溶剤中のアルカンジオールの含有量は1質量%以上50質量%以下であることが好ましく、より好ましくは5質量%以上40質量%以下である。
【0045】
また、有機溶剤として(3)の混合溶剤のみを用いる場合、混合溶剤中のジヒドロターピネオールの含有量は50質量%以上であることが好ましく、混合溶剤中のアルカンジオールの含有量は1質量%以上50質量%以下であることが好ましく、より好ましくは5質量%以上40質量%以下である。
【0046】
混合溶剤における溶剤の比率を上記の質量比とすることにより、導電性ペーストのスクリーン印刷への使用時に適した粘度とすることができ、また、誘電体グリーンシートに対してシートアタックがない導電性ペーストを得ることができる。上記の質量比に該当しない場合、導電性ペーストのスクリーン印刷への使用に適さない高い粘度となったり、誘電体グリーンシートに対してシートアタックしてしまうおそれがある。
【0047】
有機溶剤の含有量の合計は、導電性粉末100質量部に対して、好ましくは40質量部~100質量部であり、より好ましくは65質量部~95質量部である。有機溶剤の含有量が上記範囲である場合、導電性及び分散性に優れる。
【0048】
有機溶剤の含有量の合計は、導電性ペースト全体に対して、20質量%~60質量%が好ましく、35質量%~55質量%がより好ましい。有機溶剤の含有量が上記範囲である場合、導電性及び分散性に優れる。
【0049】
(分散剤)
本発明の導電性ペーストが含む分散剤は、下記一般式(1)で示されるアミン系分散剤である。このようなアミン系分散剤を含むことにより、導電性ペーストのスクリーン印刷への使用時に適した粘度とすることができる。
【0050】
【化2】
【0051】
一般式(1)において、nは10~17の整数である。nがこの範囲内である場合、導電性ペースト中の粉末が十分な分散性を有し、また、溶剤への溶解性に優れる。nが9以下の場合には、導電性ペースト中の粉末が十分に分散せず、凝集してしまうおそれがある。また、nが18以上の場合には、分散剤の熱分解温度が高くなることで、導電性ペーストを乾燥させた塗膜を焼成処理後の残留炭素分が多くなるおそれがある。
【0052】
導電性ペーストは、上記アミン系分散剤を、導電性粉末100質量部に対し、0.01質量部~4質量部、好ましくは0.02質量部~3質量部以下含んでもよい。上記アミン系分散剤を上記範囲で含む場合、経時的な粘度変化が抑制され、粘度安定性を向上させることが出来る。また、シートアタックやグリーンシートの剥離不良を抑制することができる。なお、アミン系分散剤の含有量が4質量部を超える場合、導電性ペーストをグリーンシートに印刷した際、印刷面にメッシュ跡が発生したり、ペーストの粘度が大きく低下したりすることがある。
【0053】
アミン系分散剤は、例えば、市販の製品から、上記特性を満たすものを選択して用いることができる。また、上記アミン系分散剤は、従来公知の製造方法を用いて、上記特性を満たすように製造してもよい。
【0054】
また、アミン系分散剤の含有量は、導電性ペースト全体に対して3質量%以下であることが好ましい。アミン系分散剤の含有量の上限は、好ましくは2.5質量%以下であり、より好ましくは2質量%以下である。アミン系分散剤の含有量の下限は、特に限定されないが、例えば、0.01質量%以上であり、好ましくは0.05質量%以上である。アミン系分散剤の含有量が上記範囲である場合、導電性ペーストの粘度を適切な範囲に調整することができ、また、シートアタックやグリーンシートの剥離不良を抑制することができる。
【0055】
なお、導電性ペーストは、上記のアミン系分散剤以外の分散剤を、本発明の効果を阻害しない範囲で含んでもよい。上記以外の分散剤としては、例えば、高級脂肪酸、高分子界面活性剤等を含む酸系分散剤及びアミノ酸系分散剤、酸系分散剤以外のカチオン系分散剤、ノニオン系分散剤、両性界面活性剤及び高分子系分散剤等を含んでもよい。また、これらの分散剤は、1種又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0056】
(導電性ペーストの粘度)
スクリーン印刷に好適な粘度とするべく、本実施形態の導電性ペーストは、25℃におけるずり速度(せん断速度)4sec-1における粘度が15Pa・s以上100Pa・s以下である。より好ましくは、25℃におけるずり速度(せん断速度)4sec-1における粘度が15Pa・s以上80Pa・s以下であり、さらに好ましくは15Pa・s以上60Pa・s以下である。かかる粘度が60Pa・s以下であればスクリーン印刷により適した導電性ペーストとなる。なお、導電性ペーストの粘度は、例えば、実施例に記載した方法(アントンパール社製 レオメーターMCR501)にてフローカーブ測定において回転数4sec-1)の条件で測定する方法)等により測定することができる。
【0057】
(導電性ペーストの製造方法)
本実施形態の導電性ペーストの製造方法は、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。導電性ペーストは、例えば、上記の各成分を用意し、3本ロールミル、ボールミル、ミキサー等で攪拌・混練することにより製造することができる。その際、導電性粉末表面に予め分散剤を塗布すると、導電性粉末が凝集することなく十分にほぐれて、その表面に分散剤が行きわたるようになり、均一な導電性ペーストを得やすい。また、バインダー樹脂をビヒクル用の有機溶剤に溶解させ、有機ビヒクルを作製し、ペースト用の有機溶剤へ、導電性粉末、セラミック粉末、有機ビヒクル及び分散剤を添加し、ミキサーで攪拌・混練し、導電性ペーストを作製してもよい。
【0058】
導電性ペーストは、積層セラミックコンデンサやバリスタ等の電子部品に好適に用いることができる。積層セラミックコンデンサは、誘電体グリーンシートを用いて形成される誘電体層及び導電性ペーストを用いて形成される内部電極層を有する。
【0059】
積層セラミックコンデンサは、誘電体グリーンシートに含まれる誘電体セラミック粉末と導電性ペーストに含まれるセラミック粉末とが同一組成の粉末であることが好ましい。本実施形態の導電性ペーストを用いて製造される積層セラミックコンデンサは、誘電体グリーンシートの厚さが、例えば2μm以下である場合でも、シートアタックやグリーンシートの剥離不良が抑制される。
【0060】
[電子部品]
以下、本発明の導電性ペーストを用いて製造することのできる電子部品等の実施形態について、図面を参照しながら説明する。図面においては、適宜、模式的に表現することや、縮尺を変更して表現することがある。また、部材の位置や方向等を、適宜、図1等に示すXYZ直交座標系を参照して説明する。このXYZ直交座標系において、X方向及びY方向は水平方向であり、Z方向は鉛直方向(上下方向)である。
【0061】
図1A及び図1Bは、実施形態に係る電子部品の一例である、積層セラミックコンデンサ1を示す斜視図及び側面断面図である。積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層12及び内部電極層11を交互に積層したセラミック積層体10と外部電極20とを備える。
【0062】
以下、上記導電性ペーストを使用した積層セラミックコンデンサ1の製造方法について説明する。まず、セラミックグリーンシートからなる誘電体層上に、導電性ペーストを印刷して、乾燥し、乾燥膜を形成する。この乾燥膜を上面に有する複数の誘電体層を、圧着により積層させて積層体を得た後、積層体を焼成して一体化することにより、内部電極層11と誘電体層12とが交互に積層したセラミック積層体10を作製する。その後、セラミック積層体10の両端部に一対の外部電極20を形成することにより積層セラミックコンデンサ1が製造される。以下に、より詳細に説明する。
【0063】
まず、未焼成のセラミックシートであるセラミックグリーンシートを用意する。このセラミックグリーンシートとしては、例えば、チタン酸バリウム等の所定のセラミックの原料粉末に、ポリビニルブチラール等の有機バインダーとターピネオール等の溶剤とを加えて得た誘電体層用ペーストを、PETフィルム等の支持フィルム上にシート状に塗布し、乾燥させて溶剤を除去したもの等が挙げられる。なお、セラミックグリーンシートからなる誘電体層の厚みは、特に限定されないが、積層セラミックコンデンサの小型化の要請の観点から、0.05μm以上3μm以下が好ましい。
【0064】
次いで、このセラミックグリーンシートの片面に、スクリーン印刷法等の公知の方法によって、上述の導電性ペーストを印刷(塗布)して乾燥し、乾燥膜を形成したものを複数枚、用意する。なお、印刷後の導電性ペースト(乾燥膜)の厚みは、内部電極層11の薄層化の要請の観点から、乾燥後1μm以下とすることが好ましい。
【0065】
次いで、支持フィルムから、セラミックグリーンシートを剥離するとともに、セラミックグリーンシートからなる誘電体層とその片面に形成された乾燥膜とが交互に配置されるように積層した後、加熱・加圧処理により積層体を得る。なお、積層体の両面に、導電性ペーストを塗布していない保護用のセラミックグリーンシートを更に配置する構成としても良い。
【0066】
次いで、積層体を所定サイズに切断してグリーンチップを形成した後、当該グリーンチップに対して脱バインダー処理を施し、還元雰囲気下において焼成することにより、セラミック積層体10を製造する。なお、脱バインダー処理における雰囲気は、大気又はNガス雰囲気にすることが好ましい。脱バインダー処理を行う際の温度は、例えば200℃以上400℃以下である。また、脱バインダー処理を行う際の、上記温度の保持時間を0.5時間以上24時間以下とすることが好ましい。また、焼成は、内部電極層に用いる金属の酸化を抑制するために還元雰囲気で行われ、また、積層体の焼成を行う際の温度は、例えば、1000℃以上1350℃以下であり、焼成を行う際の、温度の保持時間は、例えば、0.5時間以上8時間以下である。
【0067】
グリーンチップの焼成を行うことにより、グリーンシート中の有機バインダーが完全に除去されるとともに、セラミックの原料粉末が焼成されて、セラミック製の誘電体層12が形成される。また乾燥膜中の有機ビヒクルが除去されるとともに、ニッケル粉末又はニッケルを主成分とする合金粉末が焼結もしくは溶融、一体化されて、内部電極が形成され、誘電体層12と内部電極層11とが複数枚、交互に積層された積層セラミック焼成体が形成される。なお、酸素を誘電体層の内部に取り込んで信頼性を高めるとともに、内部電極の再酸化を抑制するとの観点から、焼成後の積層セラミック焼成体に対して、アニール処理を施してもよい。
【0068】
そして、作製した積層セラミック焼成体に対して、一対の外部電極20を設けることにより、積層セラミックコンデンサ1が製造される。例えば、外部電極20は、外部電極層21及びメッキ層22を備える。外部電極層21は、内部電極層11と電気的に接続される。なお、外部電極20の材料としては、例えば、銅やニッケル、又はこれらの合金が好適に使用できる。なお、電子部品は、積層セラミックコンデンサに限定されず、バリスタ等の積層セラミックコンデンサ以外の電子部品であってもよい。
【実施例0069】
以下、本発明を実施例と比較例に基づき詳細に説明するが、本発明は実施例によって何ら限定されるものではない。
【0070】
[評価方法]
(導電性ペーストの粘度)
導電性ペーストの粘度は、レオメーター(アントンパール社製、レオメーターMCR501)を用いて、製造から室温(25℃)で1日静置後の導電性ペースト組成物の25℃、ずり速度(せん断速度)4sec-1における粘度を測定した。
【0071】
(シートアタック評価)
4μm厚の誘電体グリーンシート上に、直径5mmの円をくり抜いたPETフィルム(0.1mm厚)を置き、その上から導電性ペーストを塗布することにより、導電性ペーストを0.1mm厚、直径5mmで塗布した。そして、塗布した導電性ペーストを熱対流オーブンで80℃、20分乾燥してオーブンから取り出した後、誘電体グリーンシートの導電性ペーストを塗付した部分の裏面が侵食されていないかを目視で確認した。グリーンシートの裏面は白色であり、導電性粉末としてNiを用いた導電性ペーストを乾燥させた膜は黒色であることから、導電性ペーストを塗布したグリーンシートの裏面の変色の程度でシートアタックの程度を評価することが可能である。具体的には、グリーンシートの裏面が白色のまま変色していないものを〇(優良)、グリーンシートの裏面は白色ではあるが、やや導電性ペーストの黒色が透けて見えるものを△(良)、導電性ペーストを乾燥させた膜が剥き出しになり、グリーンシートの裏面が変色したものを×(不良)と評価した。
【0072】
[使用材料]
(導電性粉末)
導電性粉末としては、Ni粉末(数平均粒径60nm)を下記の手法で作製し、使用した。
【0073】
<湿式ニッケル粉末の製造>
[ニッケル塩及びニッケルよりも貴な金属の金属塩の溶液の調製]
塩化ニッケル六水和物(NiCl・6HO、分子量:237.69)を、100gのNi金属が1Lの純水中に存在するように溶解した水溶液(「100g-Ni/L水溶液」とする)と、ニッケルよりも貴な金属の金属塩として塩化パラジウム(II)アンモニウム(別名:テトラクロロパラジウム(II)酸アンモニウム)((NHPdCl、分子量:284.31)を、1.2gのPd金属が1Lの純水中に存在するように溶解した水溶液(「2g-Pd/L水溶液」とする)を調製した。そして、100g-Ni/L水溶液1000mLと1.2g-Pd/L水溶液8.5mL、自己分解抑制補助剤としての硫黄含有化合物として分子内にスルフィド基(-S-)を1個含有するL-メチオニン(CHSCCH(NH)COOH、分子量:149.21)1.27gを、純水881mLに溶解して、主成分としてニッケル塩と、硫黄含有化合物と、ニッケルより貴な金属の金属塩である核剤とを含有する水溶液であるニッケル塩核剤含有溶液を調製した。ここで、ニッケル塩核剤含有溶液において、スルフィド化合物であるL-メチオニンはニッケルに対してモル比で0.005(0.5モル%)と微量で、パラジウム(Pd)はニッケル(Ni)に対し100質量ppm(55.16モルppm)である。
【0074】
[還元剤溶液の調製]
還元剤として抱水ヒドラジン(N・HO、分子量:50.06)を純水で1.67倍に希釈した市販の工業グレードの60%抱水ヒドラジン(エムジーシー大塚ケミカル株式会社製)を207g秤量し、水酸化アルカリを含まず、主成分としてのヒドラジンを含有する水溶液である還元剤溶液を調製した。
【0075】
[水酸化アルカリ溶液]
水酸化アルカリとして、水酸化ナトリウム(NaOH、分子量:40.0)を純水に溶解し、水酸化ナトリウムを382g/Lの濃度で含有する水溶液である水酸化アルカリ溶液を757mL用意した。
【0076】
[アミン化合物溶液]
アミン化合物として、分子内に第1級アミノ基(-NH)を2個含有するアルキレンアミンであるエチレンジアミン(略称:EDA)(HNCNH、分子量:60.1)1.02gを、純水18mLに溶解して、エチレンジアミンを含有する水溶液であるアミン化合物溶液を用意した。なお、上記ニッケル塩核剤含有溶液、還元剤溶液、水酸化アルカリ溶液、及びアミン化合物溶液における使用材料には、60%抱水ヒドラジンを除き、いずれも和光純薬工業株式会社製の試薬を用いた。
【0077】
[晶析工程]
ニッケル塩核剤含有溶液を撹拌羽根付テフロン(登録商標)被覆ステンレス容器内に入れ、液温が85℃になるように撹拌しながら加熱した後、液温27℃の還元剤溶液を、Ni金属と抱水ヒドラジンとのモル比が1:1.46となるように、混合時間10秒で添加混合してニッケル塩・還元剤含有液とした。このニッケル塩・還元剤含有液に液温27℃の水酸化アルカリ溶液を、Ni金属と水酸化ナトリウムとのモル比が1:3.54となるように、混合時間120秒で添加混合し、液温70℃の反応液(塩化ニッケル+パラジウム塩+ヒドラジン+水酸化ナトリウム)を調合し、還元反応(晶析反応)を開始した(反応開始温度70℃)。反応開始後8分後から28分後までの20分間にかけて上記アミン化合物溶液を、Ni金属とエチレンジアミンとのモル比が1:0.01(1.0モル%)となるように、上記反応液に滴下混合し、ヒドラジンの自己分解を抑制しながら還元反応を進めてニッケル晶析粉を反応液中に析出させた。反応開始から60分以内に還元反応は完了し、反応液の上澄み液は透明であることから、反応液中のニッケル成分はすべて金属ニッケルに還元されて、ニッケル晶析粉となったことを確認した。ニッケル晶析粉を含む反応液はスラリー状であり、このニッケル晶析粉含有スラリーにメルカプト酢酸(チオグリコール酸)(HSCHCOOH、分子量:92.12)の水溶液を加えて、ニッケル晶析粉の表面処理(硫黄コート処理)を施した。
【0078】
[湿式解砕工程]
表面処理後、ニッケル晶析粉含有スラリーに対してデカンテーションと純水(導電率1μS/cm)の投入を繰り返してスラリー中の導電率が15μS/cm以下になるまで洗浄し、ニッケル濃度が25質量%のニッケル晶析粉含有スラリーとし湿式解砕を施した。
【0079】
[酸洗浄工程]
湿式解砕工程後のニッケル晶析粉含有スラリーに、1質量%硫酸水溶液(HSO、分子量:98.08)を滴下して中和し、20分間ニッケル晶析粉含有スラリーのpHを4~5に維持した。このときのニッケル晶析粉含有スラリーのニッケル濃度は、5質量%であった。なお、中和の反応式は、Ni(OH)+HSO→NiSO+2HOとなる。
【0080】
[溶媒置換工程、固液分離工程]
酸洗浄工程後、ヌッチェにろ紙をのせ、そこにニッケル晶析粉含有スラリーを投入してろ過し、その後、導電率が1μS/cmの純水をろ紙上のニッケル晶析粉に投入して、ろ過後のろ液の導電率が30μS/cm以下になるまでろ過洗浄した。その後、純度99.9%以上のエタノール(沸点:78.3℃)をヌッチェに投入して通液し、ニッケルスラリー中の溶媒を水からエタノールへ置換した。なお、溶媒置換後のニッケルスラリーの溶媒に含まれるエタノール濃度は、92.4質量%、残りの7.6質量%は水であった。ここで、エタノール濃度は、固液分離工程の最終ろ液(最後の50mL)を回収し、カールフィッシャー水分率(150℃)を測定し、「100-水分率(%)=ろ液中の溶剤濃度(%)」の計算で得られるろ液中の溶剤濃度を、エタノール濃度とした。他の実施例等でも同様に算出した。溶媒置換後、固形分濃度を40質量%以上となるまでろ過を継続して固液分離し、ニッケル粉ケーキを得た。
【0081】
[乾燥工程]
前記ニッケル粉ケーキを、120℃の温度に設定した真空乾燥機中で6時間乾燥して湿式ニッケル粉末を得た。
【0082】
<評価及びその結果>
(数平均粒径)
得られた湿式ニッケル粉末を、走査型電子顕微鏡(SEM、JEOL Ltd.製、JSM-7100F)で観察し、SEM画像を画像処理することにより全体の形状が確認できる100~200個の粒子の面積を測定し、測定した面積から真円換算によりそれぞれの粒子の直径を算出して、さらに算出した直径の平均値を算出し、これを数平均粒径とした。得られたニッケル粉末の数平均粒径は60nmであった。
【0083】
(バインダー樹脂)
バインダー樹脂としては、エチルセルロース樹脂(重量平均分子量100×10、エトキシ基含有率が48.0~49.5質量%)を使用した。バインダー樹脂を溶剤に20質量%溶解させたものをビヒクルとし、導電性ペーストを作製する際にはビヒクルを用いた。なお、溶剤は実施例1~4は、ジヒドロターピニルアセテート、実施例5~7はジヒドロターピネオールを使用した。
【0084】
(分散剤)
アミン系分散剤としてドデシルアミン(式(1)のn=10)を用いた。
【0085】
[実施例1]
Ni粉末、ビヒクル、アミン系分散剤および有機溶剤を使用し、導電性ペーストを作製した。具体的には、まず、Ni粉末の含有量が44質量%、バインダー樹脂の含有量が3質量%、アミン系分散剤としてドデシルアミン(式(1)のn=10)の含有量が0.5質量%、残部を有機溶剤のジヒドロターピニルアセテートのみとし、全体として合計が100質量%となるようこれらを混合した。そして、これらの混合物を3本ロールミルで分散して、実施例1の導電性ペーストを作製した。得られた導電性ペーストの1日後の粘度は59.8Pa・sであり、シートアタック性は〇(優良)の評価であった。
【0086】
[実施例2]
Ni粉末、ビヒクル、アミン系分散剤および有機溶剤を使用し、導電性ペーストを作製した。具体的には、まず、Ni粉末の含有量が44質量%、バインダー樹脂の含有量が3質量%、アミン系分散剤としてドデシルアミン(式(1)のn=10)の含有量が0.5質量%、残部を有機溶剤とし、全体として合計が100質量%となるようこれらを混合した。有機溶剤としては、ジヒドロターピニルアセテートと、アルカンジオールである2-エチル-1,3-ヘキサンジオールの混合溶剤のみを使用し、ジヒドロターピニルアセテートと2-エチル-1,3-ヘキサンジオールの混合比を質量比で7:3とした。そして、これらの混合物を3本ロールミルで分散して、実施例2の導電性ペーストを作製した。得られた導電性ペーストの1日後の粘度は18.5Pa・sであり、シートアタック性は〇(優良)の評価であった。
【0087】
[実施例3]
Ni粉末の含有量を46質量%とした以外は、実施例2と同様にして実施例3の導電性ペーストを作製した。ジヒドロターピニルアセテートと2-エチル-1,3-ヘキサンジオールの混合比を質量比で7:3とした。得られた導電性ペーストの1日後の粘度は34.7Pa・sであり、シートアタック性は〇(優良)の評価であった。
【0088】
[実施例4]
Ni粉末の含有量を52質量%とした以外は、実施例2と同様にして実施例4の導電性ペーストを作製した。ジヒドロターピニルアセテートと2-エチル-1,3-ヘキサンジオールの混合比を質量比で7:3とした。得られた導電性ペーストの1日後の粘度は67.4Pa・sであり、シートアタック性は〇(優良)の評価であった。
【0089】
[実施例5]
Ni粉末、ビヒクル、アミン系分散剤および有機溶剤を使用し、導電性ペーストを作製した。具体的には、まず、Ni粉末の含有量が44質量%、バインダー樹脂の含有量が3質量%、アミン系分散剤としてドデシルアミン(式(1)のn=10)の含有量が0.5質量%、残部を有機溶剤とし、全体として合計が100質量%となるようこれらを混合した。有機溶剤としては、ジヒドロターピネオールと2-エチル-1,3-ヘキサンジオールの混合溶剤のみを使用し、ジヒドロターピネオールと2-エチル-1,3-ヘキサンジオールの混合比を質量比で7:3とした。そして、これらの混合物を3本ロールミルで分散して、実施例5の導電性ペーストを作製した。得られた導電性ペーストの粘度の1日後の粘度は、25.9Pa・sであった。シートアタック性は〇(優良)の評価であった。
【0090】
[実施例6]
Ni粉末の含有量を46質量%とした以外は、実施例5同様にして実施例6の導電性ペーストを作製した。得られた導電性ペーストの1日後の粘度は32.3Pa・sであり、シートアタック性は〇(優良)の評価であった。
【0091】
[実施例7]
Ni粉末の含有量を52質量%とした以外は、実施例5同様にして実施例7の導電性ペーストを作製した。得られた導電性ペーストの1日後の粘度は80.3Pa・sであり、シートアタック性は〇(優良)の評価であった。
【0092】
以上より、本発明であれば、シートアタックが生じにくく、かつ、スクリーン印刷に適したレオロジー特性を有する導電性ペーストを提供することができるため、産業上有用である。
【符号の説明】
【0093】
1…積層セラミックコンデンサ
10…セラミック積層体
11…内部電極層
12…誘電体層
20…外部電極
21…外部電極層
22…メッキ層
図1