(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024023164
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】凍結融解ハイドロゲル、その製造方法、眼科用医療器具及びコンタクトレンズ
(51)【国際特許分類】
A61K 9/00 20060101AFI20240214BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20240214BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20240214BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240214BHJP
A61K 31/551 20060101ALI20240214BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20240214BHJP
A61P 27/06 20060101ALI20240214BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240214BHJP
G02C 7/04 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
A61K9/00
A61K47/32
A61K31/7088
A61K48/00
A61K31/551
A61P27/02
A61P27/06
A61P43/00 111
G02C7/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023128851
(22)【出願日】2023-08-07
(31)【優先権主張番号】P 2022126533
(32)【優先日】2022-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】万代 修作
(72)【発明者】
【氏名】風呂 千津子
(72)【発明者】
【氏名】金森 祐哉
(72)【発明者】
【氏名】磯部 潤
【テーマコード(参考)】
2H006
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
2H006BB03
2H006BB06
2H006BC04
2H006BC07
4C076AA94
4C076AA99
4C076BB24
4C076CC10
4C076EE06A
4C076FF31
4C076GG00
4C084AA13
4C084MA11
4C084MA58
4C084NA12
4C084ZA33
4C084ZC20
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC54
4C086GA07
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA11
4C086MA58
4C086NA12
4C086ZA33
4C086ZC20
(57)【要約】
【課題】薬剤の徐放性に優れるハイドロゲル及びその製造方法の提供。
【解決手段】変性ポリビニルアルコール及び薬剤を含む凍結融解ハイドロゲル。水、変性ポリビニルアルコール及び薬剤を含む組成物を-5℃以下の温度に降温して凍結し、凍結した前記組成物を5℃以上の温度に昇温して融解する凍結融解サイクルを2回以上繰り返す凍結融解ハイドロゲルの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
変性ポリビニルアルコール及び薬剤を含む凍結融解ハイドロゲル。
【請求項2】
前記変性ポリビニルアルコールの平均ケン化度が95モル%以上である請求項1に記載の凍結融解ハイドロゲル。
【請求項3】
前記変性ポリビニルアルコールの4質量%水溶液の20℃における粘度が5~100mPa・sである請求項1又は2に記載の凍結融解ハイドロゲル。
【請求項4】
前記変性ポリビニルアルコールがカチオン性基、アニオン性基及びノニオン性基からなる群から選ばれる少なくとも1種を有する請求項1又は2に記載の凍結融解ハイドロゲル。
【請求項5】
前記変性ポリビニルアルコールの変性量が0.1~30モル%である請求項4に記載の凍結融解ハイドロゲル。
【請求項6】
飽和水分率が50~90質量%である請求項1に記載の凍結融解ハイドロゲル。
【請求項7】
37℃における圧縮弾性率が0.001~0.5MPaである請求項1又は6に記載の凍結融解ハイドロゲル。
【請求項8】
前記変性ポリビニルアルコールがカチオン性基を有し、
前記薬剤がアニオン系薬剤を含む請求項1又は2に記載の凍結融解ハイドロゲル。
【請求項9】
前記変性ポリビニルアルコールがアニオン性基を有し、
前記薬剤がカチオン系薬剤を含む請求項1又は2に記載の凍結融解ハイドロゲル。
【請求項10】
以下の徐放性試験において、前記薬剤の1時間後の累積溶出割合が、24時間後の累積溶出割合の80質量%以下である請求項1又は2に記載の凍結融解ハイドロゲル。
徐放性試験:
前記凍結融解ハイドロゲルを24well細胞培養プレートに入れ、1000μLのリン酸緩衝生理食塩水を添加し、37℃で15分静置した後、前記リン酸緩衝生理食塩水を全量採取し、次いで、新たな1000μLのリン酸緩衝生理食塩水を添加し、37℃で15分静置した後(計30分後)、前記リン酸緩衝生理食塩水を全量採取し、次いで、新たな1000μLのリン酸緩衝生理食塩水を添加し、37℃で30分静置した後(計1時間後)、前記リン酸緩衝生理食塩水を全量採取する。これを繰り返し、最初にリン酸緩衝生理食塩水を添加してから15分後、30分後、1時間後、4時間後、8時間後、24時間後に採取したリン酸緩衝生理食塩水を測定サンプルとして前記薬剤の溶出量を求め、各時間での累積溶出割合を算出する。
【請求項11】
水、変性ポリビニルアルコール及び薬剤を含む組成物を調製し、
前記組成物を-5℃以下の温度に降温して凍結し、凍結した前記組成物を5℃以上の温度に昇温して融解するサイクルを2回以上繰り返す凍結融解ハイドロゲルの製造方法。
【請求項12】
請求項1又は2に記載の凍結融解ハイドロゲルを含む眼科用医療器具。
【請求項13】
請求項1又は2に記載の凍結融解ハイドロゲルを含むコンタクトレンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凍結融解ハイドロゲル、その製造方法、眼科用医療器具及びコンタクトレンズに関する。
【背景技術】
【0002】
治療のための薬剤を含むコンタクトレンズを装着することで眼中の患部に薬剤を長期間に渡って送出できる様、薬剤の徐放性を有するコンタクトレンズが検討されている(特許文献1)。
【0003】
コンタクトレンズには化学的に架橋されたハイドロゲルが用いられている。かかるコンタクトレンズに薬剤を含有させる場合、コンタクトレンズに成形された架橋後のハイドロゲルに薬剤を含浸させる必要がある。しかし、徐放性を有するようなハイドロゲルには薬剤が含浸しにくいという問題がある。
【0004】
一方、ポリビニルアルコールの水溶液の凍結と融解を繰り返すことで、ポリビニルアルコールを物理的に架橋させてハイドロゲルとすることができる(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2008-539837号公報
【特許文献2】特開平8-239538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ポリビニルアルコールの水溶液に事前に薬剤を添加しておくことで、薬剤を含有するハイドロゲルを作製することができ、架橋後のハイドロゲルに薬剤を含浸させる必要はなくなる。
しかし、従来のポリビニルアルコールを用いたハイドロゲルでは、薬剤を含有させても、表面近くに存在する薬剤は溶出してくるが、ハイドロゲル内部に存在する薬剤は溶出してこず、徐放性に劣るという問題がある。
【0007】
本発明の目的は、薬剤の徐放性に優れるハイドロゲル、眼科用医療器具及びコンタクトレンズ、並びに薬剤の徐放性に優れるハイドロゲルが得られる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討の結果、変性ポリビニルアルコールを用いることで、物理架橋点の量をコントロールでき、薬剤の徐放性に優れる凍結融解ハイドロゲルが得られることを見出した。
【0009】
本発明は以下の態様を有する。
[1]変性ポリビニルアルコール及び薬剤を含む凍結融解ハイドロゲル。
[2]前記変性ポリビニルアルコールの平均ケン化度が95モル%以上である[1]に記載の凍結融解ハイドロゲル。
[3]前記変性ポリビニルアルコールの4質量%水溶液の20℃における粘度が5~100mPa・sである[1]又は[2]に記載の凍結融解ハイドロゲル。
[4]前記変性ポリビニルアルコールがカチオン性基、アニオン性基及びノニオン性基からなる群から選ばれる少なくとも1種を有する[1]~[3]のいずれかに記載の凍結融解ハイドロゲル。
[5]前記変性ポリビニルアルコールの変性量が0.1~30モル%である[1]~[4]のいずれかに記載の凍結融解ハイドロゲル。
[6]飽和水分率が50~90質量%である[1]~[5]のいずれかに記載の凍結融解ハイドロゲル。
[7]37℃における圧縮弾性率が0.001~0.5MPaである[1]~[6]のいずれかに記載の凍結融解ハイドロゲル。
[8]前記変性ポリビニルアルコールがカチオン性基を有し、
前記薬剤がアニオン系薬剤を含む[1]~[7]のいずれかに記載の凍結融解ハイドロゲル。
[9]前記変性ポリビニルアルコールがアニオン性基を有し、
前記薬剤がカチオン系薬剤を含む[1]~[7]のいずれかに記載の凍結融解ハイドロゲル。
[10]以下の徐放性試験において、前記薬剤の1時間後の累積溶出割合が、24時間後の累積溶出割合の80質量%以下である[1]~[9]のいずれかに記載の凍結融解ハイドロゲル。
徐放性試験:
前記凍結融解ハイドロゲルを24well細胞培養プレートに入れ、1000μLのリン酸緩衝生理食塩水を添加し、37℃で15分静置した後、前記リン酸緩衝生理食塩水を全量採取し、次いで、新たな1000μLのリン酸緩衝生理食塩水を添加し、37℃で15分静置した後(計30分後)、前記リン酸緩衝生理食塩水を全量採取し、次いで、新たな1000μLのリン酸緩衝生理食塩水を添加し、37℃で30分静置した後(計1時間後)、前記リン酸緩衝生理食塩水を全量採取する。これを繰り返し、最初にリン酸緩衝生理食塩水を添加してから15分後、30分後、1時間後、4時間後、8時間後、24時間後に採取したリン酸緩衝生理食塩水を測定サンプルとして前記薬剤の溶出量を求め、各時間での累積溶出割合を算出する。
[11]水、変性ポリビニルアルコール及び薬剤を含む組成物を調製し、
前記組成物を-5℃以下の温度に降温して凍結し、凍結した前記組成物を5℃以上の温度に昇温して融解するサイクルを2回以上繰り返す凍結融解ハイドロゲルの製造方法。
[12][1]~[10]のいずれかに記載の凍結融解ハイドロゲルを含む眼科用医療器具。
[13][1]~[10]のいずれかに記載の凍結融解ハイドロゲルを含むコンタクトレンズ。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、薬剤の徐放性に優れるハイドロゲル、眼科用医療器具及びコンタクトレンズ、並びに薬剤の徐放性に優れるハイドロゲルが得られる製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1~4及び比較例1のハイドロゲルの徐放性試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、「ハイドロゲル」とは、重合体の分子鎖同士が物理的又は化学的に架橋されて形成された網目構造を有し、この網目構造に水を取り込んで膨潤する構造体である。
「凍結融解ハイドロゲル」とは、ポリビニルアルコール(以下、「PVOH」とも記す。)の分子鎖間に水素結合による物理的架橋点が形成されたハイドロゲルであり、より具体的にはPVOHの水溶液について凍結と融解(解凍)を繰り返すことで形成されたハイドロゲルである。PVOHの水溶液について凍結と融解を繰り返すと、PVOHの分子鎖間に水素結合による物理的架橋点が形成され、ハイドロゲルとなる。凍結融解ハイドロゲルは、高温下で再溶解が可能であり、架橋剤を用いたりエネルギー線を照射したりして得られる化学架橋ハイドロゲルとは異なる。再溶解の条件としては、例えば100℃で1時間の条件が挙げられる。
数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0013】
〔凍結融解ハイドロゲル〕
本発明の凍結融解ハイドロゲルは、変性PVOH及び薬剤を含む。
【0014】
<変性PVOH>
変性PVOHは、変性基を有するPVOHである。
PVOHは、ビニルアルコール単位を含む重合体であり、典型的には、ビニルエステル系単量体単位を含む重合体のケン化物である。PVOHは、ビニルエステル系単量体単位を含んだ重合体であってもよい。
変性PVOHは、典型的には、ビニルアルコール単位と、変性基を有する単位とを含む。変性基を有する単位は、ビニルアルコール単位及びビニルエステル系単量体単位以外の単位である。変性PVOHは、ビニルエステル系単量体単位を含んでいてもよい。
変性PVOHは、ビニルエステル系モノマーと他の不飽和単量体との重合体をケン化したり、PVOHを後変性したりすることにより製造することができる。
【0015】
変性基としては、カチオン性基、アニオン性基及びノニオン性基からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。カチオン性基としては、例えばジアリルジメチルアンモニウム塩基、(3-メタクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウム塩基、[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド等の第4級アンモニウム塩基、スルホニウム基、オキソニウム基、ホスホニウム基が挙げられる。アニオン性基としては、例えばカルボキシ基及びその塩、スルホ基及びその塩、リン酸基及びその塩が挙げられる。ノニオン性基としては、例えばアセト酢酸エステル基、アセタール基、ウレタン基、エーテル基、リン酸エステル基、オキシアルキレン基、アルキレン基、アミド基、シラノール基、エポキシ基、オレフィン基、ジオール基が挙げられる。
薬剤としてアニオン系薬剤を用いる場合、変性基としては、アニオン系薬剤との親和性が高く、アニオン系薬剤の徐放性が良好となる点で、カチオン性基が好ましい。薬剤としてカチオン系薬剤を用いる場合、変性基としては、カチオン系薬剤との親和性が高く、カチオン系薬剤の徐放性が良好となる点で、アニオン性基が好ましい。
カチオン性基を有する変性PVOHをカチオン変性PVOHとも記す。アニオン性基を有する変性PVOHをアニオン変性PVOHとも記す。
【0016】
変性PVOHの一例として、共重合変性PVOHが挙げられる。
共重合変性PVOHは、ビニルエステル系単量体と、ビニルエステル系単量体と共重合可能な他の不飽和単量体とを共重合させ、得られた共重合体をケン化することにより製造することができる。
ビニルエステル系単量体としては、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニルおよびバーサティック酸ビニル等が挙げられるが、安定して重合を行えるという観点から酢酸ビニルが好ましい。
【0017】
ビニルエステル系単量体と共重合可能な他の不飽和単量体としては、カチオン性基、アニオン性基及びノニオン性基からなる群から選ばれる少なくとも1種の変性基を有する不飽和単量体が好ましく、カチオン性基を有する不飽和単量体又はアニオン性基を有する不飽和単量体が特に好ましい。
カチオン性基を有する不飽和単量体としては、例えばN-アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジアリルトリメチルアンモニウムクロライドが挙げられる。
アニオン性基を有する不飽和単量体としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、ウンデシレン酸等の不飽和カルボン酸類又はその塩;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等の多価カルボン酸のカルボキシ基の一部がエステル化されたエステル(不飽和ジカルボン酸のモノアルキルエステル等);エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸又はその塩;が挙げられる。
ノニオン性基を有する不飽和単量体としては、例えばエチレン、プロピレン、イソブチレン、α-オクテン、α-ドデセン、α-オクタデセン等のオレフィン類;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、ウンデシレン酸等の不飽和カルボン酸類のカルボキシ基の全てがエステル化されたエステル(不飽和ジカルボン酸のジアルキルエステル等);アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類;ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類;アルキルビニルエーテル類;ジメチルアリルビニルケトン;N-ビニルピロリドン;塩化ビニル;塩化ビニリデン;ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシプロピレン(メタ)アリルエーテル等のポリオキシアルキレン(メタ)アリルエーテル;ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート;ポリオキシエチレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリルアミド等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリルアミド;ポリオキシエチレン(1-(メタ)アクリルアミド-1,1-ジメチルプロピル)エステル;ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル等のポリオキシアルキレンビニルエーテル;ポリオキシエチレンアリルアミン、ポリオキシプロピレンアリルアミン等のポリオキシアルキレンアリルアミン;ポリオキシエチレンビニルアミン、ポリオキシプロピレンビニルアミン等のポリオキシアルキレンビニルアミン;3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類又はそのアシル化物、ビニルエチレンカーボネート;2,2-ジアルキル-4-ビニル-1,3-ジオキソラン;グリセリンモノアリルエーテル;3,4-ジアセトキシ-1-ブテン等のビニル化合物;酢酸イソプロペニル;1-メトキシビニルアセテート等の置換酢酸ビニル類、1,4-ジアセトキシ-2-ブテン、ビニレンカーボネート、アセト酢酸ビニル等が挙げられる。
これらの不飽和単量体は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
上記の中でも、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、マレイン酸モノメチルが好ましい。
【0018】
ビニルエステル系単量体と他の不飽和単量体との合計100モル%に対する他の不飽和単量体の割合は、0.2~20モル%が好ましく、0.4~10モル%がより好ましい。他の不飽和単量体の割合が前記範囲内であれば、変性PVOHの変性量が後述する好ましい範囲内となりやすい。他の不飽和単量体の割合は、0.5~20モル%であってもよく、0.8~10モル%であってもよい。
【0019】
共重合は、公知の任意の重合法、例えば、溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合などにより行うことができる。なかでも、反応熱を効率的に除去できる溶液重合を還流下で行うことが好ましい。溶液重合の溶媒としては、通常はアルコールが用いられ、好ましくは炭素数1~3の低級アルコールが用いられる。
得られた共重合体のケン化についても、公知のケン化方法を採用することができる。すなわち、共重合体をアルコール又は水/アルコール溶媒に溶解させた状態で、アルカリ触媒又は酸触媒を用いて行うことができる。
アルカリ触媒としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート、リチウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートを用いることができる。
通常、無水アルコール系溶媒下、アルカリ触媒を用いたエステル交換反応が反応速度の点や脂肪酸塩等の不純物を低減できる等の点で好適に用いられる。
ケン化反応の反応温度は、通常20~60℃である。反応温度が低すぎると、反応速度が小さくなり反応効率が低下する傾向があり、高すぎると反応溶媒の沸点以上となる場合があり、製造面における安全性が低下する傾向がある。なお、耐圧性の高い塔式連続ケン化塔などを用いて高圧下でケン化する場合には、より高温、例えば、80~150℃でケン化することが可能であり、少量のケン化触媒も短時間、高ケン化度のものを得ることが可能である。
【0020】
ケン化後、得られた共重合変性PVOHを、洗浄液で洗浄することが好ましい。
洗浄液としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類が挙げられ、洗浄効率と乾燥効率の観点からメタノールが好ましい。
洗浄方法としては、連続式でもよいが、通常はバッチ式が採用される。浴比(洗浄液の質量/共重合変性PVOHの質量)は、通常、1~30であり、2~20が好ましい。浴比が大きすぎると、大きな洗浄装置が必要となり、コスト増につながる傾向があり、浴比が小さすぎると、洗浄効果が低下し、洗浄回数を増加させる傾向がある。
洗浄時の温度は、通常、10~80℃であり、20~70℃が好ましい。温度が高すぎると、洗浄液の揮発量が多くなり、還流設備を必要とする傾向がある。温度が低すぎると、洗浄効率が低下する傾向がある。
洗浄時間は、通常、5分間~12時間である。洗浄時間が長すぎると、生産効率が低下する傾向があり、洗浄時間が短すぎると、洗浄が不十分となる傾向がある。また、洗浄回数は、通常、1~10回であり、特に1~5回が好ましい。洗浄回数が多すぎると、生産性が悪くなり、コストがかかる傾向がある。
【0021】
洗浄された共重合変性PVOHは、連続式又はバッチ式にて熱風などで乾燥される。
乾燥温度は、通常、50~150℃である。乾燥温度が高すぎると、共重合変性PVOHが熱劣化する傾向があり、乾燥温度が低すぎると、乾燥に長時間を要する傾向がある。
乾燥時間は、通常、1~48時間である。乾燥時間が長すぎると、共重合変性PVOHが熱劣化する傾向があり、乾燥時間が短すぎると、乾燥が不十分となったり、高温乾燥を要したりする傾向がある。
乾燥後の共重合変性PVOHに含まれる溶媒の含有量は、通常、0~10質量%であり、好ましくは0.1~5質量%、より好ましくは0.1~1質量%である。
【0022】
得られる共重合変性PVOHには、通常、ケン化時に用いるアルカリ触媒に由来する酢酸のアルカリ金属塩が含まれている。アルカリ金属塩の含有量は、共重合変性PVOHの総質量に対して通常、0.001~2質量%、好ましくは0.005~1質量%、より好ましくは0.01~0.1質量%である。
アルカリ金属塩の含有量の調整方法としては、ケン化時に用いるアルカリ触媒の量を調節する方法、エタノールやメタノールなどのアルコールで共重合変性PVOHを洗浄する方法等が挙げられる。
アルカリ金属塩の定量法としては、例えば、共重合変性PVOHの粉体を水に溶かし、メチルオレンジを指示薬とし、塩酸にて中和滴定を行い、アルカリ金属塩の含有量を求める方法が挙げられる。
【0023】
変性PVOHの他の例として、後変性PVOHが挙げられる。
後変性PVOHは、未変性のPVOHを後変性することにより製造することができる。未変性のPVOHは、ビニルアルコール単位のみからなるか、又はビニルアルコール単位とケン化前のビニルエステル系単量体単位とからなる。後変性では、典型的には、未変性のPVOHのビニルアルコール単位のOH基の部分に変性基が導入される。
後変性の方法としては、例えば、未変性のPVOHをアセト酢酸エステル化、アセタール化、ウレタン化、エーテル化、リン酸エステル化、オキシアルキレン化、又は酸と脱水縮合する方法が挙げられる。アセト酢酸エステル化の方法としては、未変性のPVOHの水酸基とアセト酢酸エステルとをエステル交換反応させる方法、未変性のPVOHとジケテンとを反応させる方法等が挙げられる。
後変性PVOHとしては、水への溶解性の点から、アセト酢酸エステル化された変性PVOHが好ましい。
【0024】
変性PVOHとしては、上述の変性PVOHのいずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合したものを用いてもよい。また、変性PVOHとして、上述の変性PVOHのいずれか1種以上と未変性PVOHとを混合したものを用いてもよい。
【0025】
変性PVOHの変性量は、変性基の性質によっても異なるが、0.1~30モル%であることが好ましく、0.3~20モル%であることがより好ましく、0.5~10モル%であることがさらに好ましい。変性量が前記下限値以上であれば、凍結融解ハイドロゲルの架橋密度が低くなり、凍結融解ハイドロゲルの表面近くに存在する薬剤だけでなく凍結融解ハイドロゲル内部に存在する薬剤も溶出しやすい傾向がある。変性量が前記上限値以下であれば、凍結融解ハイドロゲルを患部に適用した直後の薬剤の急速な溶出が抑制される傾向がある。変性PVOHの変性量は、0.5~20モル%であってもよく、1~10モル%であってもよい。
変性量は、変性PVOHを構成する全単位100モル%に対する変性基の割合である。変性量は、NMRや滴定により測定される。
なお、凍結融解ハイドロゲルとする前と後で、変性PVOHの変性量は変化しない。凍結融解ハイドロゲルを再溶解することで、変性PVOHの変性量を測定できる。凍結融解ハイドロゲルを再溶解する方法としては、高温高圧での溶解が挙げられる。
【0026】
変性PVOHの平均ケン化度は、95モル%以上であることが好ましく、96モル%以上であることがより好ましく、97モル%以上であることがさらに好ましく、100モル%であってもよい。平均ケン化度が前記下限値以上であれば、ゲル化しやすく、ゲルの溶出率を低減できる傾向がある。
平均ケン化度は、JIS K 6726:1994の3.5に準じて測定される。
なお、凍結融解ハイドロゲルとする前と後で、変性PVOHの平均ケン化度は変化しない。凍結融解ハイドロゲルを再溶解することで、変性PVOHの平均ケン化度を測定できる。
【0027】
変性PVOHの平均重合度は、一般的に水溶液の粘度で示すことができる。
変性PVOHの4質量%水溶液の20℃における粘度は、5~100mPa・sであることが好ましく、13~70mPa・sであることがより好ましく、17~40mPa・sであることがさらに好ましい。粘度が前記下限値以上であれば、ゲル化しやすく、ゲルの溶出率を低減できる傾向があり、一方、粘度が前記上限値以下であれば、PVOH水溶液の扱いやすさと、薬物の放出性がより優れる傾向がある。
粘度は、JIS K 6726:1994の3.11.2に準じて測定される。
なお、凍結融解ハイドロゲルとする前と後で、変性PVOHの平均重合度は変化しない。凍結融解ハイドロゲルを再溶解することで、変性PVOHの平均重合度を測定できる。
【0028】
<薬剤>
薬剤としては、特に制限は無く、治療しようとする疾患に応じ、公知の薬剤のなかから適宜選定できる。
薬剤は、例えば、核酸、タンパク質、炭水化物(多糖等)、その他の有機化合物、無機化合物、又はこれらの2以上の組み合わせであってよい。
【0029】
眼科疾患に適用される薬剤の例としては、特に限定するものではないが、抗感染症剤(抗菌剤、抗ウイルス剤、抗真菌剤、抗原虫剤等)、血管新生抑制剤(抗血管内皮細胞増殖因子(VEGF)剤等)、抗炎症剤、眼圧降下剤、抗悪性腫瘍剤、麻酔剤、自律神経剤、ステロイド(コルチコステロイド等)、抗ヒスタミン剤、肥満細胞安定化剤、免疫抑制剤、有糸分裂阻害剤等が挙げられる。
【0030】
抗菌剤の非限定的な例としては、バシトラシン、クロラムフェニコール、シプロフロキサシン、エリスロマイシン、モキシフロキサシン、ガチフロキサシン、ゲンタマイシン、レボフロキサシン、スルファセタミド、ポリミキシンB、バンコマイシン、トブラマイシン、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
抗ウイルス剤の非限定的な例としては、トリフルリジン、ビダラビン、アシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビル、フォスカーネット、ガンシクロビル、フォルミビルセン、シドフォビル、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
抗真菌剤の非限定的な例としては、アンフォテリシンB、ナタマイシン、フルコナゾール、イトラコナゾール、ケトコナゾール、ミコナゾール、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
抗原虫剤の非限定的な例としては、ポリミキシンB、ネオマイシン、クロトリマゾール、ミコナゾール、ケトコナゾール、プロパミジン、ポリヘキサメチレンビグアニド、クロルヘキシジン、イトラコナゾール、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
【0031】
抗炎症剤の非限定的な例としては、任意の公知のステロイド性抗炎症剤(SAIDs)、任意の公知の非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDs)、又はそれらの組み合わせが挙げられる。SAIDsの非限定的な例としては、デキサメタゾン、プレドニゾロン、フルオロメトロン、ロテプレドノール、メドリゾン、リメキソロン等のグルココルチコイドが挙げられる。NSAIDsの非限定的な例としては、ジクロフェナク、フルルビプロフェン、ケトロラック、ブロモフェナク、ネパフェナク、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
【0032】
抗悪性腫瘍剤の非限定的な例としては、当該分野で周知の化学療法剤が挙げられる。
麻酔剤の非限定的な例としては、アミノアミド、アミノエステル、又はそれらの組み合わせが挙げられる。アミノアミドの非限定的な例としては、リドカイン、プリロカイン、メピバカイン、ロピバカイン、又はそれらの組み合わせが挙げられる。可能なアミノエステルの非限定的な例としては、ベンゾカイン、プロカイン、プロパラカイン、テトラカイン、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
【0033】
自律神経剤の非限定的な例としては、アセチルコリン、カルバコール、ピロカルピン、フィゾスチグミン、エコチオフェート、アトロピン、スコポラミン、ホモトラピン、シクロペントレート、トロピカミド、ジピベフリン、エピネフリン、フェニレフリン、アプラクロニジン、ブリモニジン、コカイン、ヒドロキシアンフェタミン、ナファゾリン、テトラヒドロゾリン、ダピプラゾール、ベタキソロール、カルテオロール、レボブノロール、メチプラノロール、チモロール、ベポタスチンベシル酸塩、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
【0034】
抗ヒスタミン剤の非限定的な例としては、フェニラミン、アンタゾリン、ナファゾリン、エメダスチン、レボカルバスチン、クロモリン、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
肥満細胞安定化剤の非限定的な例としては、ロドキサミド、ペミロラスト、ネドクロミル、オロパタジン、ケトチフェン、アゼラスチン、エピナスチン、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
【0035】
薬剤としては、ゲルへ吸着しやすく放出を制御しやすい点から、アニオン系薬剤、両性薬剤又はカチオン性薬剤が好ましい。
アニオン系薬剤は、アニオン性基を有し、水中で負電荷を示す薬剤である。
アニオン系薬剤の非限定的な例としては、核酸、トラニラスト、アシタザノラスト水和物、クロモグリク酸ナトリウム、グルタチオン、プラノプロフェン、ブロムフェナクナトリウム、ジクロフェナクナトリウム、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
薬剤としての核酸としては、例えばアンチセンスオリゴヌクレオチドが挙げられる。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、アンチセンス核酸とも称され、標的遺伝子の転写産物又は標的転写産物の少なくとも一部にハイブリダイズすることが可能な(すなわち、相補的な)塩基配列を含み、主にアンチセンス効果により標的遺伝子の転写産物の発現又は標的転写産物のレベルを抑制し得る、一本鎖オリゴヌクレオチドを指す。
アンチセンス効果によってその発現が抑制され、変更され、あるいは改変される標的遺伝子又は標的転写産物は特に限定されないが、例えば、核酸複合体を導入する生物由来の遺伝子、例えば、様々な疾患においてその発現が増加している遺伝子が挙げられる。また、標的遺伝子の転写産物は、標的遺伝子をコードするゲノムDNAから転写されるmRNAであり、さらにまた、塩基修飾を受けていないmRNA、プロセシングされていないmRNA前駆体などを含む。標的転写産物は、mRNAだけでなく、miRNAなどのノンコーディングRNA(non-coding RNA、ncRNA)も含み得る。さらに一般的には、転写産物は、DNA依存性RNAポリメラーゼによって合成される任意のRNAであってよい。一実施形態では、標的転写産物は、例えば、転移関連肺腺癌転写産物1(metastasis associated lungadenocarcinoma transcript 1、malat1)ノンコーディングRNA、スカベンジャー受容体B1(scavenger receptor B1、SR-B1) mRNA、又はDMPK(dystrophia myotonica-protein kinase) mRNAであってもよい。遺伝子及び転写産物の塩基配列は、例えばNCBI(米国国立生物工学情報センター)データベースなどの公知のデータベースから入手できる。
アニオン系薬剤と他の薬剤とを併用してもよい。
【0036】
両性薬剤は、アニオン性基及びカチオン性基を有し、水中での電荷がゼロとなる薬剤である。眼科用薬のオロパタジンは単一の正に荷電した三級アミン基、及び単一の負に荷電したカルボン酸基を有するので、ゼロの正味電荷を有するとみなされる。
両性薬剤の非限定的な例としては、塩酸レボカバスチン、アンレキサノクス、オロパタジン、ロメフロキサシン塩酸塩、オフロキサシン、ノルフロキサシン、レボフロキサシン、トスフロキサシン、ピレノキシン、ラパマイシン、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
両性薬剤と他の薬剤とを併用してもよい。
【0037】
カチオン性薬剤は、カチオン性基を有し、水中で正電荷を示す薬剤である。
一例では、カチオン性薬剤はポリマーである。例となるカチオン性ポリマーとしては、複数のアルギニン及び/又はリジン基を含む抗菌性ペプチドであるイプシロンポリリジン(εPLL)、ポリコート(polyquat)等が挙げられる。
他の一例では、カチオン性薬剤は、3個の窒素原子に共有結合した中心炭素原子を含み、1個の窒素原子と中心炭素との間に二重結合を有する、正に荷電した基であるグアニジウム基を含む。少なくとも1つのグアニジウム基を含む眼科用途に典型的な有益な薬剤としては、抗ヒスタミン薬、例えばエピナスチン及びエメダスチン;緑内障薬、例えばアプラクロニジン及びブリモニジン;グアニン誘導体抗ウイルス薬、例えばガンシクロビル及びバルガンシクロビル;アルギニン含有抗菌性ペプチド、例えばデフェンシン及びインドリシジン;並びにビグアナイド系抗菌剤、例えばクロルヘキシジン、アレキシジン、及びポリヘキサメチレンビグアナイド(PHMB)が挙げられる。
眼科用途の他のカチオン性薬剤としては、ケトチフェン、カチオン性ステロイド、メチル硫酸ネオスチグミン、塩酸オキシブプロカイン、硝酸ナファゾリン、塩酸ナファゾリン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、塩酸ピロカルピン、臭化ジスチグミン、ヨウ化エコチオパート、エピネフェリン、酒石酸水素エピネフェリン、塩酸カルテオロール、塩酸ベフノロール、リパスジル塩酸塩水和物が挙げられる。
カチオン系薬剤と他の薬剤とを併用してもよい。
【0038】
凍結融解ハイドロゲルは、必要に応じて、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、変性PVOH及び薬剤以外の他の成分をさらに含んでいてもよい。
例えば凍結融解ハイドロゲルが眼科疾患の治療に用いられる場合、眼科疾患用の製剤(点眼剤等)における薬剤以外の配合成分として公知の成分を含有させることができる。
例えば凍結融解ハイドロゲルがコンタクトレンズに用いられる場合、コンタクトレンズにおける薬剤以外の配合成分として公知の成分(酸化防止剤、安定化剤、防腐剤、浸透圧調整整剤等)を含有させることができる。
他の成分は1種を単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
凍結融解ハイドロゲルにおいて、変性PVOHの含有量は、凍結融解ハイドロゲルの総質量に対し、5~50質量%が好ましく、10~40質量%がより好ましい。変性PVOHの含有量が前記下限値以上であれば、レンズの強度がより優れる傾向がある。変性PVOHの含有量が前記上限値以下であれば、酸素透過性がより優れる傾向がある。
【0040】
凍結融解ハイドロゲルにおいて、薬剤の含有量は、薬剤の投与量、放出量等を考慮して設定される。
薬剤の含有量は特に限定するものではないが、例えば、凍結融解ハイドロゲルの総質量に対し、0.1~20質量%の範囲で設定することができる。また、変性PVOHに対し、0.2~80質量%の範囲で設定することができる。
【0041】
凍結融解ハイドロゲルの飽和水分率は、50~90質量%であることが好ましく、60~88質量%であることがより好ましい。飽和水分率が前記下限値以上であれば、酸素透過性がより優れる傾向がある。飽和水分率が前記上限値以下であれば、ゲルの強度がより優れる傾向がある。
凍結融解ハイドロゲルの飽和水分率は、37℃の精製水に24時間浸漬させた凍結融解ハイドロゲルの水分率である。飽和水分率は、乾燥重量法により測定され、下記式で算出される。凍結融解ハイドロゲルの乾燥は、140℃1時間の条件で行われる。
飽和水分率={(浸漬後の質量)-(乾燥後の質量)}/(浸漬後の質量)×100
【0042】
凍結融解ハイドロゲルの37℃における圧縮弾性率は、0.001~0.5MPaであることが好ましく、0.005~0.4MPaであることがより好ましく、0.01~0.3MPaであることがさらに好ましい。圧縮弾性率が前記下限値以上であれば、装着感がより優れる傾向がある。圧縮弾性率が前記上限値以下であれば、装着感がより優れる傾向がある。
圧縮弾性率は、熱機械分析(TMA法)により測定される。
凍結融解ハイドロゲルの圧縮弾性率は、後述する凍結融解サイクルの繰り返し回数、変性PVOHのケン化度、重合度等によって調節できる。例えば、凍結融解サイクルの繰り返し回数が増えるにつれて、圧縮弾性率が高くなる傾向がある。
【0043】
凍結融解ハイドロゲルは、以下の徐放性試験において、薬剤の1時間後の累積溶出割合が、24時間後の累積溶出割合の90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることがさらに好ましい。1時間後の累積溶出割合が前記上限値以下であれば、徐放性に優れる。
【0044】
徐放性試験:
凍結融解ハイドロゲルを24well細胞培養プレートに入れ、1000μLのリン酸緩衝生理食塩水(以下、「PBS」とも記す。)を添加し、37℃で15分静置した後、前記PBSを全量採取し、次いで、新たな1000μLのPBSを添加し、37℃で15分静置した後(計30分後)、前記PBSを全量採取し、次いで、新たな1000μLのPBSを添加し、37℃で30分静置した後(計1時間後)、前記PBSを全量採取する。これを繰り返し、最初にPBSを添加してから15分後、30分後、1時間後、4時間後、8時間後、24時間後に採取したPBSを測定サンプルとして前記薬剤の溶出量を求め、各時間での累積溶出割合を算出する。
ここで、「累積溶出割合」は、「凍結融解ハイドロゲルの薬剤含有量」に対する「各時間までに溶出した薬剤の合計」の質量百分率である。薬剤の溶出量は、高速液体クロマトグラフィ(以下、「HPLC」とも記す。)や分光光度計で、薬剤に対応した吸光度を測定することで求められる。
【0045】
凍結融解ハイドロゲルの形状に特に制限は無く、例えばシート状、レンズ状等であってよい。凍結融解ハイドロゲルがシート状である場合、その上面視での形状にも特に制限は無く、例えば四角形等の多角形状、環状、半円形状、三日月形状、アーチ状等であってよい。
【0046】
<凍結融解ハイドロゲルの製造方法>
上述の凍結融解ハイドゲルの製造方法としては、例えば、水、変性PVOH及び薬剤を含有する組成物を調製し、前記組成物を-5℃以下の温度に降温して凍結し、凍結した前記組成物を5℃以上の温度に昇温して融解するサイクル(以下、「凍結融解サイクル」とも記す。)を2回以上繰り返す方法が挙げられる。
【0047】
組成物は、水、変性PVOH及び薬剤を混合することにより調製できる。
組成物中の変性PVOHの含有量は、組成物の総質量に対し、5~30質量%であることが好ましく、10~20質量%であることがより好ましい。変性PVOHが前記下限値以上であれば、ゲル強度がより優れる傾向がある。変性PVOHが前記上限値以下であれば、酸素透過性がより優れる傾向がある。
組成物中の水の含有量は、組成物の総質量に対し、60~95質量%であることが好ましく、70~90質量%であることがより好ましい。
【0048】
組成物の凍結温度は、物理架橋のしやすさの点から、-5℃以下が好ましく、-10℃以下がより好ましい。
凍結後、凍結した組成物を融解する前に、組成物を凍結温度で保持することが好ましい。凍結温度での保持時間は、30分以上が好ましく、1時間以上がより好ましい。凍結温度での保持時間の上限は特に限定されないが、例えば24時間である。
組成物の融解温度は、物理架橋のしやすさの点から、5℃以上が好ましく、10℃以上がより好ましい。融解温度の上限は特に限定されないが、例えば40℃である。
融解後、次回の凍結融解サイクルで組成物を凍結する前に、組成物を融解温度で保持することが好ましい。融解温度での保持時間は、30分以上が好ましく、1時間以上がより好ましい。融解温度での保持時間の上限は特に限定されないが、例えば24時間である。
1回の凍結融解サイクルによっても凍結融解ハイドロゲルを得ることができるが、強度が充分高い凍結融解ハイドロゲルが得られる点で、凍結融解サイクルを2回以上繰り返すことが好ましく、3回以上繰り返すことがより好ましい。凍結融解サイクルを繰り返す回数の上限は特に限定されないが、例えば20回である。
【0049】
基材上に組成物の塗膜を形成し、凍結融解サイクルを行うことで、フィルム状の凍結融解ハイドロゲルを得ることができる。基材から剥離した凍結融解ハイドロゲルに対し、さらに、裁断等の加工を行ってもよい。
任意の形状の型に組成物を注型し、凍結融解サイクルを行うことで、型に対応した形状の凍結融解ハイドロゲルを得ることができる。型から取り出した凍結融解ハイドロゲルに対し、さらに、裁断等の加工を行ってもよい。
【0050】
本実施形態の凍結融解ハイドロゲルの製造方法としては、PVOHの水溶液を1段目の凍結融解処理によりハイドロゲルとした後、前記ハイドロゲルの含水率を75質量%以下とし、さらに2段目の凍結融解処理を行う方法が好ましい。
【0051】
1段目の凍結融解処理では、PVOHの水溶液を降温して凍結し、凍結した水溶液を昇温して融解する操作(以下、「凍結融解サイクル」とも記す)を1回以上行う。1回の凍結融解サイクルによってもハイドロゲルを得ることができるが、強度が充分高いハイドロゲルが得られる点で、凍結融解サイクルを2回以上繰り返すことが好ましく、3回以上繰り返すことがより好ましい。凍結融解サイクルを繰り返す回数の上限は特に限定されないが、例えば20回、さらには10回である。
水溶液の凍結温度は、物理架橋のしやすさの点から、-5℃以下が好ましく、-10℃以下がより好ましい。
水溶液の凍結後、凍結した水溶液を融解する前に、凍結した水溶液を凍結温度で保持することが好ましい。凍結温度での保持時間は、30分以上が好ましく、1時間以上がより好ましい。凍結温度での保持時間の上限は特に限定されないが、例えば24時間である。
水溶液の融解温度は、物理架橋のしやすさの点から、5℃以上が好ましく、10℃以上がより好ましい。
融解後、次回の凍結融解サイクルで水溶液を凍結する前に、又はハイドロゲルの含水率の調整を行う前に、水溶液を融解温度で保持することが好ましい。融解温度での保持時間は、30分以上が好ましく、1時間以上がより好ましい。融解温度での保持時間の上限は特に限定されないが、例えば24時間である。
【0052】
1段目の凍結融解処理を行った後、ハイドロゲルを乾燥することで、ハイドロゲルの含水率を75質量%以下とする。一旦、ハイドロゲルを大きく(例えば含水率10質量%以下まで)乾燥したのち、加湿することにより含水率を調整してもよい。含水率を75質量%以下とすることで、示差走査熱量測定での吸収ピークの低温側のオンセット温度が-5℃以下となる。これにより、溶出が少なく、透明性の高いハイドロゲルとなる。オンセット温度については後で詳しく説明する。
ハイドロゲルの含水率は、60質量%以下にすることがより好ましく、50質量%以下にすることがさらに好ましい。含水率の下限としては10質量%以上が好ましく、20質量%以上が特に好ましく、30質量%以上が殊に好ましい。
【0053】
含水率は、ハイドロゲルの質量に対する水の質量の割合である。含水率は、ハイドロゲルの質量とハイドロゲルを140℃1時間の条件で乾燥させた後の質量(乾燥後の質量)から下記式により算出される。
含水率(質量%)=(ハイドロゲルの質量-乾燥後の質量)/ハイドロゲルの質量×100
【0054】
含水率を調整したのち、2段目の凍結融解処理を行う。2段目の凍結融解処理の条件は前述の1段目の凍結融解処理と同様であってよい。
【0055】
基材上にPVOHの水溶液の塗膜を形成し、上記1段目の凍結融解処理、含水率の調整及び2段目の凍結融解処理を行うことで、フィルム状の凍結融解ハイドロゲルを得ることができる。基材から剥離した凍結融解ハイドロゲルに対し、さらに、裁断等の加工を行ってもよい。
任意の形状の型にPVOHの水溶液を注型し、上記1段目の凍結融解処理、含水率の調整及び2段目の凍結融解処理を行うことで、型に対応した形状の凍結融解ハイドロゲルを得ることができる。型から取り出した凍結融解ハイドロゲルに対し、さらに、裁断等の加工を行ってもよい。
【0056】
<DSCオンセット温度>
本発明の凍結融解ハイドロゲルは、-50℃から150℃、昇温速度10℃/minの条件での示差走査熱量測定(以下、「DSC」とも記す。)において0℃以下の範囲に観察される吸熱ピークのオンセット温度(以下、「DSCオンセット温度」とも記す。)が-5℃以下であることが好ましい。
DSCオンセット温度は、氷の融解が起こる温度であり、凍結融解ハイドロゲル中の水の融点ともいえる。
DSCオンセット温度が-5℃以下であることで、溶出が少なく、透明性に優れた凍結融解ハイドロゲルとなる。DSCオンセット温度は-7℃以下がより好ましく、-8℃以下が特に好ましい。DSCオンセット温度の下限は通常-20℃以上である。
【0057】
DSCオンセット温度の測定方法の詳細を以下に示す。
ハイドロゲルを30℃で1時間水に浸漬させた後、約5mgのハイドロゲルを切り出して測定試料とし、測定用の高圧パンに密閉する。メトラー・トレド社製示差走査熱量計を用いて、測定試料をホルダー内にて-50℃で1分間保持した後、10℃/minで-50℃から150℃まで昇温させた時の吸熱ピークを測定する。0℃以下にハイドロゲル中の水の吸熱ピークがあり、その吸熱ピークの低温側(融解開始側)の変曲点における接線とベースラインの延長線との交点の温度をDSCオンセット温度とする。
【0058】
DSCオンセット温度が-5℃以下であることで溶出が少なく透明性に優れたハイドロゲルとなる理由は明らかではないが、凍結融解によってポリビニルアルコールの結晶化が進む際により緻密かつ均一に結晶が生成されるためと推測される。
ハイドロゲル中の水のクラスターが占める領域が小さくなると、表面自由エネルギーが小さくなり融解温度が下がるため、オンセット温度が低温側にシフトする。凍結融解処理によりポリビニルアルコールの結晶が一部、形成している状態で、含水率を調整し再度、凍結融解処理を行うことによってハイドロゲル中の水が綺麗に分散した状態でポリビニルアルコールの結晶が均一かつ緻密に生成されることでオンセット温度が下がり、溶出が少なく、透明性に優れたハイドロゲルが得られる。
【0059】
<作用効果>
本発明の凍結融解ハイドロゲルは、薬剤の徐放性に優れる。
本発明の凍結融解ハイドロゲルは、PVOHが物理的に架橋されていることで、PVOHが化学的に架橋されたハイドロゲルに比べ、未架橋の低分子が残存しにくく安全性が高い。また、PVOHが変性されているので、PVOHが変性されていない場合に比べ、ビニルアルコール単位の含有割合が少なく、架橋密度が低い。そのため、薬剤がハイドロゲル中を拡散しやすく、凍結融解ハイドロゲルの表面近くに存在する薬剤だけでなく凍結融解ハイドロゲル内部に存在する薬剤成分も溶出するので、薬剤成分の溶出が長時間にわたって持続する。
【0060】
本発明の凍結融解ハイドロゲルは、眼科疾患の治療に用いることができる。本発明の凍結融解ハイドロゲルを角膜や結膜に接触させると、凍結融解ハイドロゲルから涙液へ薬剤が徐々に溶出する。
眼科疾患の非限定的な例としては、眼(皮膚、眼瞼、結膜又は涙液排出系を含む)の感染症、眼窩蜂巣炎、涙腺炎、麦粒腫、眼瞼炎、結膜炎、角膜炎、角膜浸潤、潰瘍、眼内炎、全眼球炎、ウイルス性角膜炎、真菌性の角膜炎眼部帯状疱疹、ウイルス性結膜炎、ウイルス性網膜炎、ぶどう膜炎、斜視、網膜の壊死、強膜炎、ムコール菌症、涙管炎、アカントアメーバ角膜炎、トキソプラズマ症、ジアルジア症、リーシュマニア症、マラリア、蠕虫感染、緑内障が挙げられる。
【0061】
本発明の凍結融解ハイドロゲルは、眼科用医療器具、具体的にはコンタクトレンズ、涙点プラグ、眼内レンズ、眼内リング等とすることができる。
本発明の凍結融解ハイドロゲルは、薬剤の徐放性に優れるので、凍結融解ハイドロゲルを含む眼科用医療器具も、薬剤の徐放性に優れる。
【0062】
〔コンタクトレンズ〕
本発明のコンタクトレンズは、本発明の凍結融解ハイドロゲルを含む。
本発明のコンタクトレンズは、本発明の凍結融解ハイドロゲルのみからなるものであってもよく、本発明の凍結融解ハイドロゲルと他のレンズ材料とからなるものであってもよい。
本発明の凍結融解ハイドロゲルが不透明又は半透明である場合には、コンタクトレンズの光軸が通る領域を他のレンズ材料で構成することが好ましい。
【0063】
他のレンズ材料としては、例えば、コンタクトレンズの分野で公知のレンズ材料を使用できる。他のレンズ材料は、ハイドロゲルであってもよい。
他のレンズ材料の非限定的な例としては、Polymacon、Ocufilcon D、Etafilcom、Omafilcon A、Nelfilcon、 Hilafilcom B、Lotrafilcon B、 Senofilcon A、Galyfilcon A、Netrafilcon A、Lidofilcon B、Bufilcon A、Deltafilcon A、Phemfilcon、Hioxifilcon A、Perfilcon A、Methafilcon A等が挙げられる。
【0064】
本発明の凍結融解ハイドロゲルと他のレンズ材料とからなるコンタクトレンズの形態例として、(1)レンズ状の他のレンズ材料に本発明の凍結融解ハイドロゲルが埋め込まれた形態、(2)レンズ状の他のレンズ材料と本発明の凍結融解ハイドロゲルとが積層された形態、(3)レンズ状の他のレンズ材料に本発明の凍結融解ハイドロゲルが点在している形態等が挙げられる。
【0065】
上記(1)の形態において、他のレンズ材料に埋め込まれる凍結融解ハイドロゲルは1つでも2つ以上でもよい。凍結融解ハイドロゲルの一部がコンタクトレンズの表面(例えば角膜や結膜との接触面)に露出していてもよい。
凍結融解ハイドロゲルは、コンタクトレンズの光軸が通る領域以外の領域に配置されることが好ましい。この場合、凍結融解ハイドロゲルの形状は、環状、半円形状、三日月形状、アーチ状等であってよい。
【0066】
本発明の凍結融解ハイドロゲルと他のレンズ材料とからなるコンタクトレンズは、公知の方法(例えば特表2012-511395号公報に記載の方法)を参照して製造できる。例えば、コンタクトレンズの型の中に本発明の凍結融解ハイドロゲルを配置し、液状のレンズ材料前駆体を注入し、注入したレンズ材料前駆体を硬化させることで、上記(1)の形態のコンタクトレンズを製造できる。
【0067】
本発明のコンタクトレンズは、容器に収容してコンタクトレンズ製品とすることができる。容器としては、公知のコンタクトレンズの容器と同様のものが使用できる。
容器に、コンタクトレンズとともに、薬剤の水溶液を収容してもよい。薬剤の水溶液には、必要に応じて、酸化防止剤、安定化剤、防腐剤、浸透圧調整剤等を含有させてもよい。
【0068】
本発明のコンタクトレンズは、本発明の凍結融解ハイドロゲルを含むので、薬剤の徐放性に優れる。
本発明のコンタクトレンズは、例えば、眼科疾患の治療に用いることができる。眼科疾患としては、前記と同様のものが挙げられる。
【実施例0069】
以下、実施例によって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は実施例によって何ら限定されるものではない。「部」は「質量部」を示す。
【0070】
〔PVOHの製造〕
<製造例1>
カチオン性基である4級アンモニウム塩基を有する変性PVOH(以下、「PVOH1」とも記す。)を以下の手順で製造した。
還流冷却機、滴下漏斗、攪拌機を備えた反応缶に、メタノール20部、酢酸ビニル100部、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドの65質量%水溶液0.7部を仕込み、開始剤としてアセチルパーオキサイドを用い、窒素気流下で加熱還流させ重合を開始した。ジアリルジメチルアンモニウムクロライドの65質量%水溶液2.7部を重合開始直後から5時間かけて滴下し、重合率71%となった時点で重合禁止剤としてm-ジニトロベンゼンを投入し、重合を終了した。続いてメタノール蒸気を吹き込む方法により、未反応モノマーを系外に除去し、共重合体のメタノール溶液を得た。
次いで、得られたメタノール溶液をメタノールで希釈して固形分濃度を32質量%に調整し、ニーダーに仕込み、溶液温度を35℃に保ちながら、水酸化ナトリウムのメタノール溶液を、共重合体中の酢酸ビニル単位1モルに対して水酸化ナトリウムが20ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。生成した固形物を濾別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、目的物であるPVOH1を得た。得られたPVOH1の平均ケン化度は99.4mol%、4質量%水溶液粘度は25.9mPa・s、4級アンモニウム変性量は1mol%であった。
【0071】
<製造例2>
アニオン性基であるマレイン酸基を有する変性PVOH(以下、「PVOH2」とも記す。)を以下の手順で製造した。
還流冷却器、滴下漏斗、撹拌機を備えた反応缶に、メタノール26部、酢酸ビニル100部、マレイン酸モノメチル0.1部を仕込み、撹拌しながら窒素気流下で60℃まで上昇させてから、重合触媒としてt-ブチルパーオキシネオデカノエート(半減期が1時間になる温度が65℃)0.001モル%(酢酸ビニル総量に対して)を投入し、重合を開始した。重合開始直後にマレイン酸モノメチル2.2部(酢酸ビニル総量に対して2モル%)、t-ブチルパーオキシネオデカノエート0.008モル%(酢酸ビニル総量に対して)を重合速度に合わせて連続追加し、酢酸ビニルの重合率が73%となった時点で、4-メトキシフェノール0.01部及び希釈・冷却用のメタノール58部を添加して重合を終了した。重合終了時における残存活性触媒量は、反応液総量に対して2ppmであった。続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合体のメタノール溶液を得た。
次いで、得られたメタノール溶液をメタノールで希釈して固形分濃度を40質量%に調整し、水酸化ナトリウムの4質量%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル単位1モルに対して水酸化ナトリウムが30ミリモルとなる割合で混合し、温度を40~50℃にて25分間ケン化反応を行った。ケン化反応により固化した樹脂をカットし、目的物であるPVOH2を得た。得られたPVOH2の平均ケン化度は99mol%、4質量%水溶液粘度は29mPa・s、マレイン酸変性量は2.1mol%であった。
【0072】
<製造例3>
ノニオン性基であるアセトアセチル基を有する変性PVOH(以下、「PVOH3」とも記す。)を以下の手順で製造した。
還流冷却器、滴下装置、撹拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニル100部、メタノール33部を仕込み、撹拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、沸点に到達した後、アセチルパーオキサイドを1.3部投入し、重合を開始した。酢酸ビニルの重合率が81%となった時点で、ヒドロキノンモノメチルエーテルを所定量添加して重合を終了し、続いて、メタノール蒸気を吹き込みつつ蒸留することで未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し酢酸ビニル重合体のメタノール溶液を得た。
次いで、得られたメタノール溶液をメタノールで希釈して固形分濃度を47質量%に調整し、ニーダーに仕込み、溶液温度を35℃に保ちながら、水酸化ナトリウムのメタノール溶液を、共重合体中の酢酸ビニル単位1モルに対して水酸化ナトリウムが7ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行すると共にケン化物が析出し、粒子状となった時点で濾別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、平均ケン化度98.0mol%、4質量%水溶液の粘度28mPa・sの未変性PVOHを得た。
得られた未変性PVOHをニーダーに100部仕込み、これに酢酸30部を入れ、膨潤させ、回転数20rpmで撹拌しながら、60℃に昇温後、ジケテン5部を5時間かけて滴下し、更に1時間反応させた。反応終了後、メタノールで洗浄した後、70℃で12時間乾燥し、目的物であるPVOH3を得た。得られたPVOH3の平均ケン化度は98.6mol%、4質量%水溶液粘度は27.5mPa・s、アセトアセチル基変性量は2.1mol%であった。
【0073】
<製造例4>
未変性のPVOH(以下、「PVOH4」とも記す。)を以下の手順で製造した。
還流冷却器、滴下装置、撹拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニル100部、メタノール33部を仕込み、撹拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、沸点に到達した後、アセチルパーオキサイドを1.3部投入し、重合を開始した。酢酸ビニルの重合率が81%となった時点で、ヒドロキノンモノメチルエーテルを所定量添加して重合を終了し、続いて、メタノール蒸気を吹き込みつつ蒸留することで未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し酢酸ビニル重合体のメタノール溶液を得た。
次いで、得られたメタノール溶液をメタノールで希釈し、固形分濃度を47質量%に調整し、ニーダーに仕込み、溶液温度を35℃に保ちながら、水酸化ナトリウムのメタノール溶液を、共重合体中の酢酸ビニル単位1モルに対して水酸化ナトリウムが7ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行すると共にケン化物が析出し、粒子状となった時点で濾別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、目的物であるPVOH4を得た。得られたPVOH4の平均ケン化度は98.5mol%、4質量%水溶液粘度は27mPa・sであった。
【0074】
〔実施例1~3、比較例1〕
<薬剤含有ハイドロゲルコンタクトレンズの製造>
表1に示すPVOHを精製水に攪拌しながら添加し、90℃に昇温して1時間攪拌して完全に溶解させた。攪拌しながら室温まで徐冷した後、精製水を加えてPVOHの濃度が15質量%となるように調整し、オートクレーブ中で120℃、30分間滅菌処理した。室温に冷却後、PVOHの水溶液にモデル薬剤として核酸をPVOHに対し0.8質量%混合し、薬剤含有PVOH溶液を得た。核酸としては、Malat1アンチセンスであってCdsTdsAdsGdsTdsTdsCdsAdsCdsTdsGdsAdsAdsTdsGdsCdで示されるオリゴヌクレオチド(式中、各核酸塩基はA=アデニン、T=チミン、G=グアニン、C=シトシンで示され、各糖部分はd=2’-デオキシリボースで示され、各ヌクレオシド間結合はs=ホスホロチオエートで示される。)を用いた。
得られた薬剤含有PVOH溶液をDIA11mm、B.C.(ベースカーブ)6.5のコンタクトレンズ型に注入し、オス型とメス型で挟み込み、-20℃で4時間凍結させ、20℃で2時間溶解する工程を5回繰り返し、コンタクトレンズ状の薬剤含有ハイドロゲルを作成した。コンタクトレンズメス型を外しオス型の上でハイドロゲルを40℃のオーブン内で1時間乾燥したのち、60℃、100%RHの恒温恒湿機内で吸湿させ、ハイドロゲルの含水率が75質量%以下となる様に調整を行った後、再度、ハイドロゲルをコンタクトレンズ型に挟み、-20℃、4時間の凍結と20℃、2時間の溶解を5回繰り返し、薬剤含有ハイドロゲルコンタクトレンズを得た。
得られた薬剤含有ハイドロゲルコンタクトレンズを、保存液としてリン酸緩衝生理食塩水(PBS)1mL(コンタクトレンズの乾燥質量に対して約150倍の質量)とともに容器に入れ、PBSが漏れ出ないよう容器を密閉し、直ちに-1℃/min以上の冷却速度で-20℃まで冷却し、冷凍庫内にて-20℃で72時間保管した。保管後、容器を冷凍庫から取り出し、10分間で室温まで加温して、評価用の飽和含水した薬剤含有ハイドロゲルコンタクトレンズを得た。
【0075】
<飽和水分率の測定方法>
飽和含水した薬剤含有ハイドロゲルコンタクトレンズの質量(浸漬後の質量)を測定した。次いで、薬剤含有ハイドロゲルコンタクトレンズを140℃1時間の条件で乾燥させた後、その質量(乾燥後の質量)を測定した。測定結果から、下記式により飽和水分率を算出した。結果を表1に示す。
飽和水分率={(浸漬後の質量)-(乾燥後の質量)}/(浸漬後の質量)×100
【0076】
<圧縮弾性率の測定方法>
飽和含水した薬剤含有ハイドロゲルコンタクトレンズについて、熱機械分析装置(TMA法)を用いて針入測定により圧縮弾性率を測定した。具体的には、薬剤含有ハイドロゲルコンタクトレンズを水中に浸漬して飽和含水状態とした後、アルミパンに水とサンプルを入れた状態で直径1mm、断面面積0.785mm2のプローブを針入し、37℃で試料温度が安定するまで荷重10mNで30分間ホールドした後、37℃で300mNまで5mN/minで荷重をかけ応力ひずみ曲線を算出し、圧縮弾性率を測定した。結果を表1に示す。
【0077】
<徐放性試験1>
飽和含水した薬剤含有ハイドロゲルコンタクトレンズを24well細胞培養プレートに入れ、1000μLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を添加し、37℃で15分静置した後、PBSを全量採取した。次いで、新たに1000μLのPBSを添加し、37℃で15分静置した後(計30分後)、PBSを全量採取した。次いで、新たに1000μLのPBSを添加し、37℃で30分静置した後(計1時間後)、PBSを全量採取した。その後も、新たなPBSの添加、37℃で30分の静置及びPBSの全量採取を繰り返した。最初にPBSを添加してから15分後、30分後、1時間後、4時間後、8時間後、24時間後に採取したPBSを測定サンプルとし、HPLC[Agilent Technologies社製]で、0.1Mトリエチレンアミン水溶液と0.1Mトリエチルアミンの50%アセトニトリル/水溶液でグラジエントをかけ、波長260nmの吸光度を測定し、事前に作成した検量線を用いて薬剤濃度を求め、各時間での累積溶出割合を算出した。結果を表1及び
図1に示す。
【0078】
〔実施例4〕
実施例2において、モデル薬剤として低分子カチオン性薬剤のリパスジル塩酸塩水和物(4-Fluoro-5-{[(2S)-2-methyl-1,4-diazepan-1-yl]sulfonyl}isoquinoline monohydrochloride dihydrate)を用いた以外は実施例2と同様にして、評価用の飽和含水した薬剤含有ハイドロゲルコンタクトレンズを得、飽和水分率及び圧縮弾性率を評価した。また、以下の徐放試験2を行った。結果を表1及び
図1に示す。
【0079】
<徐放性試験2>
飽和含水した薬剤含有ハイドロゲルコンタクトレンズを24well細胞培養プレートに入れ、1000μLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を添加し、37℃で15分静置した後、PBSを全量採取した。次いで、新たに1000μLのPBSを添加し、37℃で15分静置した後(計30分後)、PBSを全量採取した。次いで、新たに1000μLのPBSを添加し、37℃で30分静置した後(計1時間後)、PBSを全量採取した。その後も、新たなPBSの添加、37℃で30分の静置及びPBSの全量採取を繰り返した。最初にPBSを添加してから15分後、30分後、1時間後、4時間後、8時間後、24時間後に採取したPBSを測定サンプルとし、分光光度計[ジャスコエンジニアリング株式会社製分光光度計JASCO V-750]で波長279nmの吸光度を測定し、事前に作成した検量線を用いて薬剤濃度を求め、各時間での累積溶出割合を算出した。
【0080】
【0081】
未変性PVOHを用いた比較例1の薬剤含有ハイドロゲルコンタクトレンズでは、30分程度で薬剤の溶出が止まっており、また溶出割合も低く徐放性に劣っていた。これは、ハイドロゲルの架橋密度が高く、ハイドロゲルの表面付近に存在する薬剤は一気に溶出するが、ハイドロゲル内部の薬剤は溶出しなかったためと考えられる。
これに対し、変性PVOHを用いた実施例1~4の薬剤含有ハイドロゲルコンタクトレンズは、1時間以降も徐々に薬剤が溶出されており、溶出割合も高い傾向があり、徐放性に優れていることが確認された。これは、変性によりハイドロゲルの架橋密度が制御され、ハイドロゲルの表面付近だけでなく、内部からも薬剤が溶出したためと考えられる。
特にカチオン性基を有するPVOH1と核酸とを組み合わせた実施例1、及びアニオン性基を有するPVOH2とリパスジルとを組み合わせた実施例4の薬剤含有ハイドロゲルコンタクトレンズは、より溶出が緩やかで徐放性に優れていた。具体的には、初期の溶出の絶対量は少ないものの、4時間以降も薬剤が溶出していた。また、
図1から、24時間以降も溶出が続くことが予想された。これは、カチオン性基を有するPVOH1を用いたハイドロゲルはアニオン系薬剤との親和性が高く、アニオン性基を有するPVOH2を用いたハイドロゲルはカチオン系薬剤との親和性が高いためと考えられる。