(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024023368
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】無機粒子分散樹脂組成物及び無機粒子分散樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 83/04 20060101AFI20240214BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20240214BHJP
C08K 3/28 20060101ALI20240214BHJP
C08K 9/02 20060101ALI20240214BHJP
C01B 21/072 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
C08L83/04
C08K3/22
C08K3/28
C08K9/02
C01B21/072 R
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023197926
(22)【出願日】2023-11-22
(62)【分割の表示】P 2019142530の分割
【原出願日】2019-08-01
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(72)【発明者】
【氏名】行武 初
(72)【発明者】
【氏名】大塚 雄樹
(72)【発明者】
【氏名】御法川 直樹
(72)【発明者】
【氏名】岡本 英俊
(72)【発明者】
【氏名】新井 敏弘
(57)【要約】
【課題】優れた熱伝導性及び耐湿性を有する無機粒子分散樹脂組成物を提供する。
【解決手段】樹脂と無機粒子とを含有する無機粒子分散樹脂組成物であって、前記無機粒子は、シリカ被覆窒化アルミニウム粒子と、アルミナ粒子とを含み、前記シリカ被覆窒化アルミニウム粒子は、窒化アルミニウム粒子と、前記窒化アルミニウム粒子の表面を覆うシリカ被膜とを備える。前記無機粒子の合計含有量は、60.0体積%以上85.0体積%以下の範囲内であることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と無機粒子とを含有する無機粒子分散樹脂組成物を含むグリースであって、
前記樹脂は、シリコーン樹脂であり、
前記無機粒子は、シリカ被覆窒化アルミニウム粒子と、アルミナ粒子とを含み、
前記シリカ被覆窒化アルミニウム粒子は、窒化アルミニウム粒子と、前記窒化アルミニウム粒子の表面を覆うシリカ被膜とを備える、グリース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機粒子分散樹脂組成物及び無機粒子分散樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器等の高性能化や小型化に伴い発生する熱量が増加しているが、熱により電子機器の動作不良等が生じてしまうため、熱を逃がすための手法が盛んに研究されている。例えば、熱伝導率の高い金属板を用いたヒートシンクが使用されており、ヒートシンクに発熱源からの熱を伝導することにより熱を逃がす。発熱源からヒートシンクに効率的に熱を逃がすために、発熱源と金属板との間に、熱伝導性を有する熱伝導シート(放熱シート)が設けられる。電子機器等に使用する放熱シートには熱伝導性の他に絶縁性も求められるため、例えば、アルミナ、シリカや、酸化亜鉛等の絶縁性及び熱伝導性を有する酸化物をマトリックス樹脂に分散させた放熱性樹脂組成物の硬化物(樹脂を硬化させた放熱性樹脂組成物)が放熱シートとして使用されている。
【0003】
放熱シートの熱伝導率を高くするための技術として、アルミナ、シリカや、酸化亜鉛等の酸化物よりも熱伝導率が高い、窒化アルミニウムや窒化ホウ素といった窒化物を用いた技術が開示されている(例えば特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2018/016566号
【特許文献2】特開2017-210518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2の技術では、窒化アルミニウムが、大気中等の水分と反応して加水分解を引き起こし、熱伝導性の低い水酸化アルミニウムに変性してしまい、熱伝導性が低下する懸念がある。また、窒化アルミニウムの加水分解によって発生したアンモニアによる腐食を招くなど、性能の劣化も懸念される。すなわち、特許文献1及び2の技術では、耐湿性が不十分であることが問題となる。また、特許文献1及び2の技術では、粒径や形状に制限があるため、その他の方法が望ましい。
【0006】
本発明は、上述したような課題を解決するためになされたものであり、優れた熱伝導性及び耐湿性を有する無機粒子分散樹脂組成物、及び、無機粒子分散樹脂組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
【0008】
[1] 樹脂と無機粒子とを含有する無機粒子分散樹脂組成物であって、
前記無機粒子は、シリカ被覆窒化アルミニウム粒子と、アルミナ粒子とを含み、
前記シリカ被覆窒化アルミニウム粒子は、窒化アルミニウム粒子と、前記窒化アルミニウム粒子の表面を覆うシリカ被膜とを備える、無機粒子分散樹脂組成物。
【0009】
[2] 前記無機粒子の合計含有量が、60.0体積%以上85.0体積%以下の範囲内である、[1]に記載の無機粒子分散樹脂組成物。
【0010】
[3] 前記無機粒子中の前記アルミナ粒子の含有量が、20体積%以上80体積%以下である、[1]又は[2]に記載の無機粒子分散樹脂組成物。
【0011】
[4] 前記樹脂は、硬化型シリコーン樹脂である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の無機粒子分散樹脂組成物。
【0012】
[5] 前記硬化型シリコーン樹脂を硬化させた前記無機粒子分散樹脂組成物の熱伝導率が、5.0W/(m・K)以上である、[4]に記載の無機粒子分散樹脂組成物。
【0013】
[6] 前記シリカ被覆窒化アルミニウム粒子は、珪素原子の含有量が、100質量ppm以上5000質量ppm以下である、[1]~[5]のいずれか1つに記載の無機粒子分散樹脂組成物。
【0014】
[7] [1]~[6]のいずれか1つに記載の無機粒子分散樹脂組成物の製造方法であって、
前記シリカ被覆窒化アルミニウム粒子を製造する粒子製造工程と、
前記粒子製造工程で得られた前記シリカ被覆窒化アルミニウム粒子及び前記アルミナ粒子を含む無機粒子と、前記樹脂とを混合する混合工程とを有し、
前記粒子製造工程は、前記窒化アルミニウム粒子の表面を、下記式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物により覆う第1工程と、
前記有機シリコーン化合物により覆われた前記窒化アルミニウム粒子を300℃以上800℃以下の温度で加熱する第2工程とを有する無機粒子分散樹脂組成物の製造方法。
【化1】
(式(1)中、Rは炭素数が4以下のアルキル基である。)
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、優れた熱伝導性及び耐湿性を有する無機粒子分散樹脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の無機粒子分散樹脂組成物の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施の形態について、詳細に説明する。
【0018】
[無機粒子分散樹脂組成物]
本発明の無機粒子分散樹脂組成物は、樹脂と無機粒子とを含有する無機粒子分散樹脂組成物である。無機粒子は、シリカ被覆窒化アルミニウム粒子と、アルミナ粒子とを含む。シリカ被覆窒化アルミニウム粒子は、窒化アルミニウム粒子と、窒化アルミニウム粒子の表面を覆うシリカ被膜とを備える。無機粒子分散樹脂組成物中の無機粒子の含有量は、60.0体積%以上85.0体積%以下の範囲内であることが好ましい。
本明細書において、「無機粒子分散樹脂組成物」は、無機粒子分散樹脂組成物そのもの、及び、無機粒子分散樹脂組成物の成形体(無機粒子分散樹脂組成物が含む樹脂が硬化性樹脂の場合は、無機粒子分散樹脂組成物の硬化物を指す。)のいずれでもよい。無機粒子分散樹脂組成物そのものとしては、流動性のある形態、例えば接着剤やグリース等が挙げられる。また、無機粒子分散樹脂組成物の成形体としては、テープや、シート等の硬化物が挙げられる。
【0019】
<樹脂>
本発明の無機粒子分散樹脂組成物が含有する樹脂は、特に限定されないが、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂との混合物などが、耐熱性に優れるという点において好ましい。樹脂は、単独又は2種類以上を混ぜ合わせて使用することができる。また、熱硬化性樹脂に、それらの硬化剤や、硬化促進剤を加えた混合物として使用してもよい。
【0020】
熱硬化性樹脂としては、例えば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ビスマレイミド樹脂、シアネート樹脂、ウレタン樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などが挙げられる。特に、シリコーン樹脂は、耐熱性、柔軟密着性を重視する用途において好ましく、エポキシ樹脂は、硬化した後の耐熱性、接着性、電気特性が良いという点において好ましい。
【0021】
シリコーン樹脂には、硬化型シリコーン樹脂として、付加反応硬化型シリコーン樹脂、縮合反応硬化型シリコーン樹脂、有機過酸化物硬化型シリコーン樹脂などがある。これらは、単独又は粘度の異なる2種類以上を組み合わせても使用することができる。
【0022】
特に、シリコーン樹脂は、柔軟密着性を重視する用途において使用される場合には、例えば、気泡などの原因物質となり得る副生成物の生成がない付加反応硬化型液状シリコーン樹脂が好ましく、ベースポリマーであるアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンと架橋剤であるSi-H基を有するオルガノポリシロキサンとを硬化剤の存在下で、常温又は加熱により反応させることでシリコーン樹脂硬化物を得ることができる。ベースポリマーであるオルガノポリシロキサンの具体例としては、例えば、アルケニル基として、ビニル基、アリル基、プロペニル基、ヘキセニル基などを有するものがある。特に、ビニル基は、オルガノポリシロキサンとして好ましい。また、硬化触媒は、例えば、白金金属系の硬化触媒を用いることができ、目的とする樹脂硬化物の硬さを実現するため、添加量を調整して使用することもできる。
【0023】
エポキシ樹脂には、2官能グルシジルエーテル型エポキシ樹脂、グルシジルエステル型エポキシ樹脂、線状脂肪族エポキシ樹脂、複素環型エポキシ樹脂、グルシジルアミン型エポキシ樹脂、多官能グリシジルエーテル型エポキシ樹脂などがあり、単独又は2種類以上を混合して使用することができる。
【0024】
具体的には、例えば、2官能グルシジルエーテル型エポキシ樹脂は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂などがある。また、グルシジルエステル型エポキシ樹脂は、ヘキサヒドロフタル酸グリシジルエステル、ダイマー酸グリシジルエステルなどがある。さらに、線状脂肪族エポキシ樹脂は、エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化大豆油などがある。また、複素環型エポキシ樹脂は、トリグリシジルイソシアヌレートなどがある。さらに、グルシジルアミン型エポキシ樹脂は、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-1,3-ベンゼンジ(メタンアミン)、4-(グリシジロキシ)-N,N-ジグリシジルアニリン、3-(グリシジロキシ)-N,N-ジグリシジルアニリンなどがある。また、多官能グリシジルエーテル型エポキシ樹脂は、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ナフタレンアラルキル型エポキシ樹脂、4官能ナフタレン型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂などがある。
【0025】
エポキシ樹脂を使用した場合には、硬化剤、硬化促進剤を配合していてもよい。
【0026】
硬化剤としては、例えば、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸及び無水ハイミック酸などの脂環式酸無水物、ドデセニル無水コハク酸などの脂肪族酸無水物、無水フタル酸及び無水トリメリット酸などの芳香族酸無水物、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールSなどのビスフェノール類、フェノール・ホルムアルデヒド樹脂、フェノール・アラルキル樹脂、ナフトール・アラルキル樹脂、フェノール-ジシクロペンタジエン共重合体樹脂などのフェノール樹脂類、ジシアンジアミド及びアジピン酸ジヒドラジドなどの有機ジヒドラジドがある。
【0027】
また、硬化触媒としては、例えば、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ジメチルベンジルアミン、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン及びその誘導体などのアミン類、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール及び2-フェニルイミダゾールなどのイミダゾール類及びその誘導体がある。
【0028】
上述したような硬化剤、硬化触媒は、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
無機粒子分散樹脂組成物は、樹脂成分として、上述したものの他に、高分子量の樹脂成分、すなわち高分子量成分を含有していてもよい。高分子量成分を含有することにより、無機粒子分散樹脂組成物をシート状に形成する時のシート形状を保持するシート形成性を良好にすることができる。
【0030】
高分子量成分としては、例えば、フェノキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカルボジイミド樹脂、シアネートエステル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ウレタン樹脂、アクリルゴム等が挙げられる。
【0031】
特に、耐熱性及びフィルム形成性に優れる観点から、フェノキシ樹脂、ポリイミド樹脂、(メタ)アクリル樹脂、アクリルゴム、シアネートエステル樹脂、ポリカルボジイミド樹脂などが好ましく、フェノキシ樹脂、ポリイミド樹脂、(メタ)アクリル樹脂、アクリルゴムがより好ましい。これらは、単独又は2種以上の混合物や共重合体として使用することができる。
【0032】
高分子量成分の分子量としては、10000以上100000以下の重量平均分子量が好ましく、さらに好ましくは20000以上50000以下の範囲である。この範囲の重量平均分子量成分を添加することで、取り扱い性のよい良好なシート形状を保持することができる。ここで、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いたポリスチレン換算重量平均分子量である。具体的には、カラム(ショウデックス (登録商標)LF-804:昭和電工株式会社製)と示差屈折率検出器(ショウデックス(登録商標) RI-71S:昭和電工株式会社製)との組み合わせで測定することができる。
【0033】
高分子量成分の含有量は、特に限定されないが、成形体がシート性状を保持するためには、無機粒子分散樹脂組成物に対し、0.1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは1質量%以上15質量%以下であり、さらに好ましくは2質量%以上10質量%以下の範囲である。0.1質量%以上20質量%以下の添加量で取り扱い性もよく、良好なシート形成性や膜形成性が得られる。
【0034】
<無機粒子>
本発明の無機粒子分散樹脂組成物が含有する無機粒子は、少なくともシリカ被覆窒化アルミニウム粒子と、アルミナ粒子とを含む。無機粒子は、例えば、窒化ホウ素、シリカ、酸化亜鉛、水酸化アルミニウム等のその他の無機粒子を含んでいてもよい。
【0035】
無機粒子が含むシリカ被覆窒化アルミニウム粒子は、窒化アルミニウム粒子と、窒化アルミニウム粒子の表面を覆うシリカ被膜とを備える。
【0036】
シリカ被覆窒化アルミニウム粒子を構成する窒化アルミニウム粒子は、市販品など公知のものを使用することができる。窒化アルミニウム粒子は、どのような製法で得られたものでもよく、例えば、金属アルミニウム粉と窒素又はアンモニアとを直接反応させる直接窒化法、アルミナを炭素還元しながら窒素又はアンモニア雰囲気下で加熱して同時に窒化反応を行う還元窒化法で得られたものでもよい。
【0037】
また、窒化アルミニウム粒子は、窒化アルミニウム微粒子の凝集体を焼結により顆粒状にした粒子でもよい。特に、体積累計のd50が1μm程度の高純度窒化アルミニウム微粒子を原料とした焼結顆粒は、窒化アルミニウム粒子として好適に用いることができる。
【0038】
ここで、高純度窒化アルミニウム微粒子とは、酸素の含有量が低く、金属不純物も少ない粒子のことである。具体的には、例えば、酸素の含有量が1質量%以下であり、金属不純物(すなわち、アルミニウム以外の金属原子)の総含有量が1000質量ppm以下である高純度窒化アルミニウムは、シリカ被覆窒化アルミニウム粒子に含まれる窒化アルミニウム粒子のより高い熱伝導性を得ることができるため好ましい。
窒化アルミニウム粒子は、単独又は組み合わせて使用することができる。
【0039】
上述した酸素の含有量は、酸素検出用赤外線検出器を付帯する、無機分析装置などで測定できる。具体的には、酸素の含有量は、酸素・窒素・水素分析装置(ONH836:LECOジャパン合同会社製)を使用することにより、測定することができる。
【0040】
また、アルミニウム以外の金属原子の総含有量は、ICP(Inductively Coupled Plasma)質量分析装置などで測定できる。具体的には、アルミニウム以外の金属原子の総含有量は、ICP質量分析計(ICPMS-2030:株式会社島津製作所製)を使用することにより、測定することができる。
【0041】
なお、本明細書において、粒子の体積累計のd50とは、ある粒度分布に対して体積累計の積算値が50%となる粒径を示している。体積累計のd50は、レーザー回折散乱法による粒度分布から求められ、具体的には、体積累計のd50は、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラックMT3300EX2:マイクロトラック・ベル株式会社製)を使用することにより、測定することができる。
【0042】
窒化アルミニウム粒子の形状は、特に限定されず、例えば、無定形(破砕状)、球形、楕円状、板状(鱗片状)などが挙げられる。窒化アルミニウム粒子は、同一の形状、構造を有する同じ種類の窒化アルミニウム粒子(単一物)のみを用いてもよいが、異なる形状、構造を持つ2種類以上の異種の窒化アルミニウム粒子を種々の割合で混合した窒化アルミニウム粒子の混合物の形で用いることもできる。ここで、無機粒子分散脂樹脂組成物に対する、シリカ被覆窒化アルミニウム粒子を構成する窒化アルミニウム粒子の体積比(充填量)が大きいほど、熱伝導率が高くなるため好ましい。熱伝導率を高くする、すなわち窒化アルミニウム粒子の充填量を多くするためには、窒化アルミニウム粒子の形状は、シリカ被覆窒化アルミニウム粒子の添加による無機粒子分散樹脂組成物の粘度上昇の少ない球形に近いことが好ましい。
【0043】
窒化アルミニウム粒子の平均アスペクト比(粒子形状の指標)は、0.8以上1.0以下の範囲が好ましく、より好ましくは、0.85以上1.0以下の範囲であり、さらに好ましくは、0.9以上1.0以下の範囲である。ここで、窒化アルミニウム粒子の平均アスペクト比とは、任意に抽出した粒子100個の電子顕微鏡写真について、それぞれ短径(D1)と長径(D2)とを測定し、その比(D1/D2)の相加平均値である。なお、短径(D1)とは、窒化アルミニウム粒子の電子顕微鏡写真について、2本の平行線で挟まれた最小の長さであり、長径(D2)とは、電子顕微鏡写真について、2本の平行線で挟まれた最大の長さである。
【0044】
本発明で用いる窒化アルミニウム粒子の体積累計のd50は、好ましくは0.2μm以上200μm以下であり、より好ましくは10μm以上100μm以下であり、さらに好ましくは10μm以上50μm以下の範囲である。
【0045】
窒化アルミニウム粒子の体積累計のd50が、上述した範囲内であると、最小の厚みの薄い成形体の形成が可能になるとともに、シリカ被膜が窒化アルミニウム粒子の表面を均一に被覆しやすいためか、窒化アルミニウム粒子の耐湿性がより向上し無機粒子分散樹脂組成物の耐湿性がより向上する。なお、後述する粒子製造工程でシリカ被覆窒化アルミニウム粒子を製造した場合は、厚みの薄いシリカの被覆層を形成できるためか、体積累計のd50が50μm以下の比較的細かい窒化アルミニウム粒子を用いた場合も熱伝導性に与える影響は小さい。
【0046】
シリカ被覆窒化アルミニウム粒子を構成し、上記窒化アルミニウム粒子の表面を覆うシリカ被膜は、例えば、後述する粒子製造工程で製造されたシリカ被膜である。シリカ被膜は、窒化アルミニウム粒子の表面を全部覆っていることが好ましい。
窒化アルミニウム粒子は耐湿性が劣るが、表面がシリカ被膜で覆われているシリカ被覆窒化アルミニウム粒子とすることにより、耐湿性を向上させることができる。また、窒化アルミニウム粒子は熱伝導性に優れるため、シリカ被覆窒化アルミニウム粒子も熱伝導性に優れる。
例えば、このようなシリカ被覆窒化アルミニウム粒子は、pH4に調整した塩酸水溶液に投入し、85℃で2時間の処理(すなわち、シリカ被覆窒化アルミニウム粒子を、pH4に調整した塩酸水溶液に85℃で2時間浸漬)したとき、塩酸水溶液中に抽出されたアンモニアの濃度を20mg/L以下とすることができ、極めて耐湿性に優れる。なお、酸性溶液中では加水分解反応が空気中よりも促進されるため、粒子をpH4に調整した塩酸水溶液に晒すことで、耐湿性の加速試験ができる。したがって、pH4の塩酸水溶液を用いることで、シリカ被覆窒化アルミニウム粒子の耐湿性を評価することができる。上記アンモニアの濃度が20mg/L以下であれば、耐湿性が良いと言える。また、pH4の塩酸水溶液を用いることで合わせて耐薬品性の比較もできる。
上記抽出されたアンモニアの濃度は、10mg/L以下であることが好ましく、6mg/L以下であることがより好ましい。
【0047】
シリカ被覆窒化アルミニウム粒子は、炭素原子の含有量が、1000質量ppm以下であることが好ましく、500質量ppm以下であることがより好ましく、300質量ppm以下であることがさらに好ましい。このようなシリカ被覆窒化アルミニウム粒子は、窒化アルミニウム粒子の高い熱伝導性をより維持することができ、また、耐湿性、絶縁性にも優れる。
耐湿性の観点から、炭素原子の含有量は低いほど好ましい。ここで、後述する粒子製造工程では原料として式(1)で示される構造を有する有機シリコーン化合物を用いているため、シリカ被覆窒化アルミニウム粒子は炭素原子を含有する場合が多く、例えば50質量ppm以上、さらには60質量ppm以上含む場合がある。しかしながら、上記のとおり1000質量ppm以下であれば耐湿性が優れる。
【0048】
炭素原子の含有量は、管状電気炉方式による非分散赤外吸収法を用いた炭素・硫黄分析装置などで測定できる。具体的には、炭素・硫黄分析装置(Carbon Anlyzer EMIA-821:株式会社堀場製作所製)を使用することにより測定することができる。
【0049】
また、シリカ被覆窒化アルミニウム粒子は、酸素原子の含有量は1.60質量%以下であることが好ましい。酸素原子の含有量が1.60質量%以下であると、より熱伝導性により優れる。シリカ被覆窒化アルミニウム粒子の酸素原子の含有量は、より好ましくは1.5質量%以下である。また、シリカ被覆窒化アルミニウム粒子の酸素原子の含有量は、0.01質量以上であることが好ましい。
【0050】
また、シリカ被覆窒化アルミニウム粒子は、窒化アルミニウム粒子の表面を覆うシリカ被膜のLEIS分析による被覆率は、70%以上100%以下が好ましく、より好ましくは95%以下であり、さらに好ましくは72%以上90%以下であり、特に好ましくは74%以上85%以下の範囲である。70%以上100%以下であると、より耐湿性に優れる。また、95%超えであると、熱伝導率が低下する場合がある。
【0051】
窒化アルミニウム粒子の表面を覆うシリカ被膜(SiO2)のLEIS分析による被覆率(%)は、下記式で求められる。
(SAl(AlN)-SAl(AlN+SiO2))/SAl(AlN)×100
上記式中、SAl(AlN)は、窒化アルミニウム粒子のAlピークの面積であり、SAl(AlN+SiO2)は、シリカ被覆窒化アルミニウム粒子のAlピークの面積である。Alピークの面積は、イオン源と希ガスとをプローブにする測定方法である低エネルギーイオン散乱(LEIS:Low Energy Ion Scattering)による分析から求めることができる。LEISは、数keVの希ガスを入射イオンとする分析手法で、最表面の組成分析を可能とする評価手法である(参考文献:The TRC News 201610-04(October2016))。
【0052】
また、シリカ被覆窒化アルミニウム粒子の珪素原子の含有量は、特に限定されないが、例えば5000質量ppm以下であり、3000質量ppm以下が好ましく、より好ましくは2800質量ppm以下であり、さらに好ましくは2600質量ppm以下であり、特に好ましくは1500質量ppm以下である。シリカ被覆窒化アルミニウム粒子の珪素原子の含有量は、例えば100質量ppm以上であり、100質量ppm以上5000質量ppm以下が好ましい。珪素原子の含有量は、ICP法で測定することができる。
【0053】
無機粒子中のシリカ被覆窒化アルミニウム粒子の含有量は、例えば、20体積%以上80体積%以下、好ましくは30体積%以上70体積%以下である。20体積%以上であれば、後述の通り、シリカ被覆窒化アルミニウム粒子と組み合わせることにより、熱伝導性に優れる無機粒子分散樹脂組成物が得られる。無機粒子が、シリカ被覆窒化アルミニウム粒子及びアルミナ粒子からなる場合、無機粒子中のシリカ被覆窒化アルミニウム粒子の含有量は下記式で求められる。
無機粒子中のシリカ被覆窒化アルミニウム粒子の含有量(体積%)=シリカ被覆窒化アルミニウム粒子の含有量(体積)/(シリカ被覆窒化アルミニウム粒子の含有量(体積)+アルミナ粒子の含有量(体積))×100
【0054】
無機粒子分散樹脂組成物が含有する無機粒子は、アルミナ粒子を含む。アルミナ粒子は、熱伝導性を有し且つ耐湿性に優れる。
アルミナ粒子は、市販品など公知のものを使用することができる。市販品など公知のアルミナ粒子は、粒径や形状などの種類が豊富で最適なものを選択でき、また、安価である。
アルミナ粒子の製法は、どのような製法で得られたものでもよく、例えば、アンモニウムミョウバンの熱分解法、アンモニウムアルミニウム炭酸塩の熱分解法、アルミニウムの水中火花放電法、気相酸化法や、アルミニウムアルコキシドの加水分解法などで得られたものでもよい。
【0055】
アルミナ粒子の形状は、特に限定されず、例えば、無定形(破砕状)、球形、丸み状、多面体状などが挙げられる。
【0056】
アルミナ粒子の大きさは、特に限定されないが、体積累計のd50が、0.1μm以上50μm以下であることが好ましい。
【0057】
無機粒子中のアルミナ粒子の含有量は、例えば、20体積%以上80体積%以下、好ましくは30体積%以上70体積%以下である。無機粒子にアルミナ粒子を20体積%以上含むことによって、より熱伝導性に優れた無機粒子分散樹脂組成物が得られる。無機粒子が、シリカ被覆窒化アルミニウム粒子及びアルミナ粒子からなる場合、無機粒子中のアルミナ粒子の含有量は下記式で求められる。
アルミナ粒子の含有量(体積%)=アルミナ粒子の含有量(体積)/(シリカ被覆窒化アルミニウムの含有量(体積)+アルミナ粒子の含有量(体積))×100
【0058】
無機粒子は、シリカ被覆窒化アルミニウム粒子及びアルミナ粒子以外に、窒化ホウ素、シリカ、酸化亜鉛、水酸化アルミニウム等のその他の無機粒子を含んでいてもよい。無機粒子中のその他の無機粒子の含有量は、例えば0体積%以上10体積%以下である。
【0059】
無機粒子は、シランカップリング剤で表面処理されていてもよい。シランカップリング剤は特に限定されないが、例えば官能基としてアルキル基を有するn-デシルトリメトキシシランが挙げられる。
【0060】
本発明の無機粒子分散樹脂組成物は、上記シリカ被覆窒化アルミニウム粒子とアルミナ粒子とを含む無機粒子を、合計量で、好ましくは60.0体積%以上85.0体積%以下、より好ましくは65.0体積%以上85.0体積%以下、特に好ましくは70.0体積%以上85.0体積%以下の範囲内で含有する。無機粒子の含有量(体積%)は、無機粒子分散樹脂組成物中の各成分の含有量(質量%)を理論密度により体積換算し、その体積比率を計算したものである。なお、無機粒子の含有量が上記範囲内であれば、無機粒子分散樹脂組成物を使用する時の作業性が良好になる。
【0061】
このように、熱伝導性を有し耐湿性に優れるアルミナ粒子と、優れた熱伝導性を有し、シリカ被覆により窒化アルミニウムの耐湿性が向上したシリカ被覆窒化アルミニウム粒子とを含む無機粒子を含むため、後述する実施例に示すように、熱伝導性及び耐湿性に優れた無機粒子分散樹脂組成物を形成することができる。本発明の無機粒子分散樹脂組成物の熱伝導率は、例えば5.0W/(m・K)以上とすることができる。また、無機粒子分散樹脂組成物について、後述する実施例における[耐湿性の評価]で測定されるアンモニア濃度を、例えば、30mg/L以下、好ましくは26mg/L以下、さらに好ましくは10mg/L以下にすることができる。なお、樹脂が硬化型樹脂の場合、その硬化物は、無機粒子分散樹脂組成物を、例えば120℃で30分以上加熱することで形成される。
熱伝導性及び耐湿性に優れた無機粒子分散樹脂組成物を形成できる理由は、以下のように推測される。アルミナ粒子及びシリカ被覆窒化アルミ粒子は、いずれもアルミニウム原子を含み、また、両者は比熱、熱膨張率、比誘電率、硬さなどの主要物性が類似している。このため、アルミナ粒子及びシリカ被覆窒化アルミ粒子という2種類の無機粒子を混合した無機粒子分散樹脂組成物にしても、互いの特徴を消し合わない。一方、両者は耐湿性に大きな違いがあるが、シリカ被覆窒化アルミニウム粒子を用いることで、窒化アルミニウム粒子の耐湿性を向上させることができたため、アルミナ粒子の良好な耐湿性を損なわず、窒化アルミニウム粒子の良好な熱伝導性能を活かした無機粒子分散樹脂組成物が得られている。
【0062】
無機粒子分散樹脂組成物において、無機粒子として粒径の異なるものを用いる、例えば、粒径の小さいアルミナ粒子(例えばd50が0.1μm以上50μm以下)とアルミナ粒子よりも粒径の大きいシリカ被覆窒化アルミニウム粒子(例えばd50が10μm以上100μm以下)とで構成することにより、無機粒子分散樹脂組成物中の無機粒子充填量(体積%)を多くすることができるため、無機粒子分散樹脂組成物の熱伝導率をより高くすることができる。
【0063】
無機粒子分散樹脂組成物の熱伝導性及び電気絶縁性は、高いほど好ましい。無機粒子分散樹脂組成物の熱伝導性及び電気絶縁性は、無機粒子分散樹脂組成物中のシリカ被覆窒化アルミニウム粒子の含有量が増えるほど向上する。
【0064】
無機粒子分散樹脂組成物は、必要に応じてシリコーン、ウレタンアクリレート、ブチラール樹脂、アクリルゴム、ジエン系ゴム及びその共重合体などの可撓性付与剤、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、無機イオン補足剤、顔料、染料、希釈剤、反応促進剤、分散安定剤など、無機粒子や樹脂以外のその他の添加剤を含有していてもよい。
【0065】
[無機粒子分散樹脂組成物の製造方法]
上記本発明の無機粒子分散樹脂組成物は、シリカ被覆窒化アルミニウム粒子を製造する粒子製造工程と、粒子製造工程で得られたシリカ被覆窒化アルミニウム粒子及びアルミナ粒子を含む無機粒子と、樹脂とを混合する混合工程とを有し、粒子製造工程は、窒化アルミニウム粒子の表面を、下記式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物により覆う第1工程と、有機シリコーン化合物により覆われた窒化アルミニウム粒子を300℃以上800℃以下の温度で加熱する第2工程とを有する、本発明の無機粒子分散樹脂組成物の製造方法により製造することができる。
このような本発明の無機粒子分散樹脂組成物の製造方法について、
図1を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の無機粒子分散樹脂組成物の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【化2】
(式(1)中、Rは炭素数が4以下のアルキル基である。)
【0066】
<粒子製造工程>
粒子製造工程は、シリカ被覆窒化アルミニウム粒子を製造する工程である。そして、粒子製造工程は、窒化アルミニウム粒子の表面を、上記式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物により覆う第1工程と、有機シリコーン化合物により覆われた窒化アルミニウム粒子を300℃以上800℃以下の温度で加熱する第2工程とを有する。
【0067】
シリカ被覆窒化アルミニウム粒子を構成するシリカ被膜の原料として用いられる有機シリコーン化合物は、上記式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物であれば、直鎖状、環状又は分岐鎖状の形態にかかわらず、特に制限なく使用できる。式(1)で表される構造は、珪素原子に直接水素が結合した、ハイドロジェンシロキサン単位である。
【0068】
上記式(1)において、炭素数が4以下のアルキル基であるRとしては、メチル基、エチル基、プロピル基、t-ブチル基などが好ましく、特に好ましいのはメチル基である。粒子製造工程において、原料として用いられる有機シリコーン化合物は、例えば、式(1)で示される構造を含むオリゴマ又はポリマーである。
【0069】
有機シリコーン化合物として、例えば、下記式(2)で示される化合物や及び下記式(3)で示される化合物の少なくとも一方が好適である。
【化3】
(式(2)中、R1及びR2は、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基であり、R1及びR2の少なくとも一方は水素原子であり、mは0~10の整数である。)
【化4】
(式(3)中、nは3~6の整数である。)
【0070】
特に、上記式(3)においてnが4の環状ハイドロジェンシロキサンオリゴマーが、窒化アルミニウム粒子表面に均一な被膜を形成できる点で優れている。式(1)で示す構造を含む有機シリコーン化合物の重量平均分子量は、好ましくは100以上2000以下であり、より好ましくは150以上1000以下であり、さらに好ましくは180以上500以下の範囲である。この範囲の重量平均分子量の、式(1)で示す構造を含む有機シリコーン化合物を用いることで、窒化アルミニウム粒子表面に薄くて均一な被膜を形成しやすいと推測される。なお、式(2)において、mが1であることが好ましい。
【0071】
本明細書において、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いたポリスチレン換算重量平均分子量であり、具体的には、カラム(ショウデックス (登録商標)LF-804:昭和電工株式会社製)と示差屈折率検出器(ショウデックス(登録商標) RI-71S:昭和電工株式会社製)との組み合わせで測定することができる。
【0072】
窒化アルミニウム粒子は、上記<無機粒子分散樹脂組成物>で述べたとおりである。
【0073】
第1工程では、上記窒化アルミニウム粒子の表面を、上記式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物により覆う。
第1工程では、上記窒化アルミニウム粒子の表面を、上記式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物により覆うことができれば、特に方法は限定されない。第1工程の方法としては、一般的な粉体混合装置を用いて、原料の窒化アルミニウム粒子を撹拌しながら有機シリコーン化合物を噴霧などで添加して、乾式混合することで被覆する乾式混合法などが挙げられる。粉体混合装置としては、例えば、ヘンシェルミキサー(日本コークス工業株式会社製)、容器回転型のVブレンダー、ダブルコーン型ブレンダーなど、混合羽根を有するリボンブレンダー、スクリュー型ブレンダー、密閉型ロータリーキルン、マグネットカップリングを用いた密閉容器の撹拌子による撹拌などが挙げられる。この場合における温度条件は、式(1)で示される構造を含むシリコーン化合物の沸点、蒸気圧にもより、特に限定されないが、好ましい温度は10℃以上200℃以下であり、より好ましくは20℃以上150℃以下であり、さらに好ましくは40℃以上100℃以下の範囲である。
【0074】
また第1工程の方法として、式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物の蒸気単独もしくは窒素ガスなどの不活性ガスとの混合ガスを、静置した窒化アルミニウム粒子表面に付着又は蒸着させる気相吸着法を用いることもできる。この場合の温度条件としては、式(1)で示される構造を含むシリコーン化合物の沸点、蒸気圧にもより、特に限定されないが、好ましい温度は10℃以上200℃以下であり、より好ましくは20℃以上150℃以下であり、さらに好ましくは40℃以上100℃以下の範囲である。さらに必要な場合には、系内を加圧あるいは減圧させることもできる。この場合に使用できる装置としては、密閉系、且つ、系内の気体を容易に置換できる装置が好ましく、例えば、ガラス容器、デシケーター、CVD装置などを使用できる。窒化アルミニウム粒子を撹拌せずに有機シリコーン化合物で被覆する場合の処理時間は、長めに取る必要がある。しかしながら、処理容器を間歇的にバイブレーター上に置くことで、粉体同士が接触して陰になっている場所や、上の気相部から遠い粉体に対しても、位置を動かすことにより効率よく処理できる。
【0075】
式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物の第1工程での使用量は、特に限定されない。第1工程で得られる、式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物により覆われた窒化アルミニウム粒子において、式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物の被覆量が、窒化アルミニウム粒子のBET法から求めた比表面積(m2/g)から算出した表面積1m2当たり0.1mg以上1.0mg以下であることが好ましく、より好ましくは0.2mg以上0.8mg以下の範囲であり、さらに好ましくは0.3mg以上0.6mg以下の範囲である。この理由としては、0.1mg以上とすることで、詳しくは後述する第2工程を経て得られるシリカ被覆窒化アルミニウム粒子において、被覆量が多い均一なシリカ被膜を形成でき、また、1.0mg以下とすることで、得られるシリカ被覆窒化アルミニウム粒子における熱伝導率を低下させることの少ない薄いシリカ被膜を形成できるためである。なお、上記窒化アルミニウム粒子のBET法から求めた比表面積(m2/g)から算出した表面積1m2当たりの、式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物の被覆量は、有機シリコーン化合物で被覆する前後の窒化アルミニウム粒子の質量差を、窒化アルミニウム粒子のBET法から求めた比表面積(m2/g)から算出した表面積(m2)で除すことで求めることができる。
【0076】
なお、BET法から求める比表面積は、ガス流動法による窒素吸着BET1点法から測定することができる。評価装置としては、Mountech社製Macsorb HM model-1210を用いることができる。
【0077】
第2工程では、第1工程で得られた有機シリコーン化合物により覆われた窒化アルミニウム粒子を、300℃以上800℃以下の温度で加熱する。これにより、窒化アルミニウム粒子表面にシリカ被膜を形成することができる。
第2工程では、第1工程で得られた有機シリコーン化合物により覆われた窒化アルミニウム粒子を、300℃以上800℃以下の温度で加熱することができれば、すなわち、第1工程で得られた有機シリコーン化合物により覆われた窒化アルミニウム粒子を、300℃以上800℃以下の温度範囲に保持できるものであれば、一般の加熱炉を使用することができる。
【0078】
第2工程の熱処理(300℃以上800℃以下の温度での加熱)では、熱処理の初期段階で窒化アルミニウム粒子表面を被覆している式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物が脱水素反応により、有機シリコーン化合物同士、又は窒化アルミニウム粒子表面の水酸基などと結合し、被覆がさらに強固になると考えられる。そして、熱処理の終期では、有機シリコーン化合物の有機基(炭素数4以下のアルキル基)が分解して揮散する。したがって、形成されるシリカ被膜は炭素原子の含有量が少なくなり、ひいては、シリカ被覆窒化アルミニウム粒子の炭素原子の含有量も少なくなる。よって炭素原子の含有量が1000質量ppm以下のシリカ被覆窒化アルミニウム粒子を得ることができる。シリカ被覆窒化アルミニウム粒子の炭素原子の含有量が1000質量ppm以下であれば、耐湿性が良好であり、また、偏在した炭素粒子が熱伝導性、絶縁性などの特性を劣化させるような影響を与えにくい。
【0079】
なお、シリカ被覆とは、シリカを主成分とする薄膜でコートされていることを意味する。ただし、コートされたシリカと窒化アルミニウム粒子との界面には、複数の無機複合物が存在する可能性があるので、ToF-SIMS(Time of Flight Secondary Ion Mass Spectrometry:飛行時間二次イオン質量分析、ION-TOF社、TOF.SIMS5)で分析した場合には、二次イオン同士の再結合やイオン化の際の分解なども重なり、AlSiO4イオン、SiNOイオンなどのセグメントが副成分として同時に検出される場合もある。このToF-SIMS分析で分析される複合セグメントも、窒化アルミニウムをシリカ化した場合の部分検出物と定義することができる。目安としては、シリカの2次電子量が、その他のフラクションより多い状態であれば、シリカが主成分であると見なすことができる。
【0080】
さらに精度を上げてシリカの純度を確認する実験として、窒化アルミニウム多結晶基板上に同様の方法でシリカ被膜を形成させた試料表面を、光電子分光測定装置(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy、アルバック・ファイ社、Quantera II)で測定し、検出されるSi由来の光電子の運動エネルギーが、シリカの標準ピーク103.7eVとほぼ一致することから、ほとんどがSiO2構造になっていると推測される。なお、加熱温度によっては、有機成分が残るケースもありうる。本発明の効果を損なわない範囲であれば、有機シロキサン成分が混在することは十分ありうる。
【0081】
第2工程の加熱温度(熱処理温度)は、300℃以上800℃以下である。この温度範囲で行うことで、耐湿性及び熱伝導性の良好なシリカ被膜が形成できる。具体的には、300℃以上で加熱すると、シリカ被膜が緻密化し水分を透過し難くなるためか、耐湿性が良好になる。また、800℃以下で加熱すると熱伝導性が良好になる。また、加熱温度が、300℃以上800℃以下であれば窒化アルミニウム粒子の表面に均一にシリカ被膜が形成される。また、加熱温度が300℃以上であれば、シリカ被膜は絶縁性に優れたものになり、800℃以下であれば、エネルギーコスト的にも有効である。加熱温度は、より好ましくは400℃以上であり、さらに好ましくは500℃以上である。
【0082】
加熱時間としては、30分以上6時間以下が好ましく、より好ましくは45分以上4時間以下であり、さらに好ましくは1時間以上2時間以下の範囲である。熱処理時間は、30分以上であれば有機シリコーン化合物の有機基(炭素数4以下のアルキル基)の分解物の残存がなく、窒化アルミニウム粒子表面に炭素原子の含有量の非常に少ないシリカ被膜が得られる点で好ましい。また、加熱時間を6時間以下とすることが、シリカ被覆窒化アルミニウム粒子を生産効率よく製造することができる点で好ましい。
【0083】
第2工程の熱処理の雰囲気は、酸素ガスを含む雰囲気下、例えば大気中(空気中)で行うことが好ましい。
【0084】
第2工程の熱処理後に、シリカ被覆窒化アルミニウム粒子同士が、部分的に融着することがある。その場合には、これを解砕することで、固着・凝集のないシリカ被覆窒化アルミニウム粒子を得ることができる。なお、解砕に使用する装置は、特に限定されるものではないが、ローラーミル、ハンマーミル、ジェットミル、ボールミルなどの一般的な粉砕機を使用することができる。
【0085】
また、第2工程終了後に、さらに、第1工程及び第2工程を順に行ってもよい。すなわち、第1工程及び第2工程を順に行う工程を、繰り返し実行してもよい。
【0086】
第1工程において気相吸着法により窒化アルミニウム粒子の表面を有機シリコーン化合物により覆う場合、気相吸着法による被覆方法は、液体処理で行う被覆方法と比較して、均一で薄いシリカ被膜を形成することが可能である。したがって、第1工程及び第2工程を順に行う工程を複数回、例えば2~5回程度繰り返しても、窒化アルミニウム粒子の良好な熱伝導率を発揮させることができる。
【0087】
一方、耐湿性に関しては、第1工程及び第2工程を順に行う工程の回数と耐湿性との間には、正の相関が認められる。したがって、実際の用途で求められる耐湿性のレベルに応じて、第1工程及び第2工程を順に行う工程の回数を自由に選択することができる。
【0088】
上記粒子製造工程で得られた、シリカ被覆窒化アルミニウム粒子は、窒化アルミニウム粒子本来の高熱伝導性を維持し、且つ、耐湿性にも優れている。特に、シリカ被膜が、窒化アルミニウム粒子の表面を均一に被覆しやすいため、シリカ被覆窒化アルミニウム粒子の耐湿性が十分に向上する。
【0089】
<混合工程>
混合工程は、上述した粒子製造工程で得られたシリカ被覆窒化アルミニウム粒子及びアルミナ粒子を含む無機粒子と、樹脂とを混合する。
【0090】
混合する樹脂は、上記<無機粒子分散樹脂組成物>で述べたとおりである。
【0091】
混合工程における混合方法は、樹脂に無機粒子が分散できる方法であれば特に限定されず、例えばシリカ被覆窒化アルミニウム粒子、アルミナ粒子、樹脂、及び必要に応じて配合するその他の添加剤などを、一括又は分割して、分散・溶解装置へ供給し、混合、溶解、混練する。分散・溶解装置は、例えば、らいかい器、プラネタリーミキサー、自転・公転ミキサー、ニーダー、ロールミルなどを、単独又は適宜組み合わせ、必要に応じて加熱しながら混合、溶解、混練する方法が挙げられる。
【0092】
なお、無機粒子分散樹脂組成物をシート状にする目的で、基材フィルム状に塗布する場合、作業性を良くするために溶剤を用いることができる。溶剤としては特に限定するものではないが、ケトン系溶剤のアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、エーテル系溶剤の1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、グリコールエーテル系溶剤のメチルセロソルブ、エチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、その他ベンジルアルコール、N-メチルピロリドン、γ-ブチロラクトン、酢酸エチル、N,N-ジメチルホルムアミドなどを単独あるいは2種以上混合して使用することができる。ただし、溶剤は製造工程中に除去し、無機粒子分散樹脂組成物には含まれないようにする。
【0093】
[硬化物]
樹脂が硬化型である場合、上述した無機粒子分散樹脂組成物を、熱や光で硬化させることで、硬化物(樹脂を硬化させた無機粒子分散樹脂組成物)が得られる。上述した無機粒子分散樹脂組成物の樹脂を硬化させることで、熱伝導性及び耐湿性に優れた硬化物が得られる。硬化物の熱伝導率は、例えば5.0W/(m・K)以上である。また、硬化物は絶縁性が高く、体積抵抗率は、例えば1.0×1012Ω・cm以上である。
【0094】
この硬化物は、シートなど、様々な形態で使用することができる。例えば、硬化物からなるシートは、放熱シートとして、パワーデバイス、パワーモジュールなどのサーマルインターフェースマテリアル(TIM)に好適に用いることができる。
【0095】
無機粒子分散樹脂組成物の硬化物からなるシートを製造する場合には、例えば、以下の方法を用いることができる。
【0096】
まず、基材フィルムで両面を挟む形で無機粒子分散樹脂組成物を圧縮プレスなどで成形する、又は、基材フィルム上に無機粒子分散樹脂組成物をバーコーター、スクリーン印刷、ブレードコーター、ダイコーター、コンマコーターなどの装置を用いて塗布する。
【0097】
次に、成形又は塗布された無機粒子分散樹脂組成物を加熱することで、シート状の硬化物が得られる。このときの加熱条件(硬化条件)は、樹脂の種類などに応じて適宜設定されるが、例えば、120℃で30分以上の加熱処理である。
【0098】
シート状の硬化物の製造時に使用する基材フィルムは、硬化物の製造時の加熱などの条件に耐えうるものであれば、特に限定されるものではない。例えば、ポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリイミドフィルム、ポリエーテルイミドフィルムなどが挙げられる。これらのフィルムは、2種以上組み合わせた多層フィルムであってもよく、表面がシリコーン系などの離型剤処理されたものであってもよい。基材フィルムの厚さは、10μm以上100μm以下が好ましい。
【0099】
硬化物からなるシートの厚さは、好ましくは20μm以上500μm以下、より好ましくは50μm以上200μm以下の範囲である。シートの厚さが上記範囲内であると、均一な組成のシートが容易に得られやすく、良好な放熱性が得られる。
【実施例0100】
次に、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0101】
[窒化アルミニウム粒子のBET法から求めた比表面積(m2/g)から算出した表面積1m2当たりの有機シリコーン化合物の被覆量の測定]
窒化アルミニウム粒子のBET法から求めた比表面積(m2/g)から算出した表面積1m2当たりの有機シリコーン化合物の被覆量(mg)は、[有機シリコーン化合物で被覆した窒化アルミニウム粒子の質量(mg)]、[窒化アルミニウム粒子の質量(mg)]及び後述する方法で求められる[窒化アルミニウム粒子のBET法から求めた比表面積(m2/g)]から、以下の式で求めた(重量変化法)。結果を、表において「有機シリコーン化合物の被覆量」欄に記載した。
[窒化アルミニウム粒子のBET法から求めた比表面積(m2/g)から算出した表面積1m2当たりの有機シリコーン化合物の被覆量(mg/m2)]
=[有機シリコーン化合物で被覆する前後の窒化アルミニウム粒子質量差(mg)]/[窒化アルミニウム粒子のBET法から求めた比表面積(m2/g)から算出した表面積(m2)]
(式中、[有機シリコーン化合物で被覆する前後の窒化アルミニウム粒子の質量差(mg)]=[有機シリコーン化合物で被覆した窒化アルミニウム粒子の質量(mg)]-[窒化アルミニウム粒子の質量(mg)]であり、
[窒化アルミニウム粒子のBET法から求めた比表面積(m2/g)から算出した表面積(m2)]=[窒化アルミニウム粒子のBET法から求めた比表面積(m2/g)]×[窒化アルミニウム粒子の質量(g)]である。
【0102】
[シリカ被覆窒化アルミニウム粒子の炭素原子の含有量の測定]
シリカ被覆窒化アルミニウム粒子の炭素原子の含有量は、管状電気炉方式による非分散赤外吸収法を用いた炭素・硫黄分析装置(Carbon Anlyzer EMIA-821:株式会社堀場製作所製)により測定した。
【0103】
[シリカ被覆窒化アルミニウム粒子の酸素原子の含有量の測定]
シリカ被覆窒化アルミニウム粒子の酸素原子の含有量は、シリカ被覆窒化アルミニウム粒子を、大気中で、105℃で2時間加熱した後に、酸素・窒素・水素分析装置(ONH836:LECOジャパン合同会社製)により測定した。
【0104】
[シリカ被覆窒化アルミニウム粒子の珪素原子の含有量の測定]
シリカ被覆窒化アルミニウム粒子の珪素原子の含有量は、以下の手順で測定した。
(1)20ccのテフロン(登録商標)容器に、97質量%の硫酸(超特級、和光純薬製)とイオン交換水とを1:2(体積比)で混合した溶液10ccと、サンプル(シリカ被覆窒化アルミニウム粒子)0.5gとを投入した。
(2)テフロン(登録商標)容器ごとステンレスの耐圧容器に入れ、230℃で15時間維持し、投入したサンプルを溶解させた。
(3)(1)で混合した溶液を取り出し、ICP(島津製作所製、ICPS-7510)を用いて測定した珪素原子の濃度から、シリカ被覆窒化アルミニウム粒子の珪素原子の含有量(質量ppm(μg/g))を算出した。
【0105】
[窒化アルミニウム粒子の表面を覆うシリカ被膜のLEIS分析による被覆率の測定]
窒化アルミニウム粒子の表面を覆うシリカ被膜の被覆率は、イオン源と希ガスとをプローブにする低エネルギーイオン散乱(LEIS:Low Energy Ion Scattering)による分析から求めた。LEISは、IONTOF社製Qtac100の装置を用いた。入射イオンは、ヘリウムが3keV及び6keV、ネオンが5keVである。なお、酸素クリーニング後に、後方散乱粒子のエネルギースペクトルを得た。そして、エネルギースペクトルの窒化アルミニウム粒子のAlピークの面積及びシリカ被覆窒化アルミニウム粒子のAlピークの面積の値に基づいて、下記式により、窒化アルミニウム粒子の表面を覆うシリカ被膜の被覆率(%)を算出した。
(SAl(AlN)-SAl(AlN+SiO2))/SAl(AlN)×100
上記式中、SAl(AlN)は、窒化アルミニウム粒子のAlピークの面積であり、SAl(AlN+SiO2)は、シリカ被覆窒化アルミニウム粒子のAlピークの面積である。
【0106】
[窒化アルミニウム粒子のBET法から求めた比表面積の測定]
窒化アルミニウム粒子のBET法から求めた比表面積は、Mountech社製Macsorb HM model-1210を用いて測定した。なお、吸着ガスとして、He70体積%とN230体積%の混合ガスを用いた。表において「BET比表面積」欄に記載した。
【0107】
[シリカ被覆窒化アルミニウム粒子の耐湿性の評価]
シリカ被覆窒化アルミニウム粒子の耐湿性は、50mlのサンプル管にpH4に調整した塩酸水溶液を17gとシリカ被覆窒化アルミニウム粒子3gとを投入して密封した後、振とう式恒温槽で60℃又は85℃、80rpm、2時間の条件で振とうし、静置後、室温(25℃)まで冷却し、上澄み液中のアンモニア濃度を、25℃の温度条件でアンモニア電極(アンモニア電極5002A:株式会社堀場製作所製)を用いて測定した。表1において「耐湿性アンモニア濃度」欄に記載し、測定温度も併記した。
【0108】
[熱伝導率の評価]
樹脂成形体(硬化物)の熱伝導率評価は、以下のように実施した。
京都電子製ホットディスク法熱物性測定装置(TPS2500S)を用いて、樹脂成形体の厚み方向の熱拡散率を25℃の条件下で測定した。
熱拡散率測定用のサンプルは、直径3cm厚さ5mmの樹脂成形体である。
また、各成分について単純に加成性が成り立つと仮定して、各成分の配合量を考慮した加重平均により、樹脂成形体の理論比熱と理論密度とを求めた。そして、熱拡散率に理論比熱と理論密度を掛けることにより算出した値を、樹脂成形体の熱伝導率とした。各実施例及び比較例の樹脂成形体の理論比熱は、窒化アルミニウム粒子及びシリカ被覆窒化アルミニウム粒子の理論比熱を0.73J/g・K、アルミナ粒子の理論比熱を0.83J/g・K、樹脂成分(シリコーン樹脂)の理論比熱を1.60J/g・Kとして計算した。また、各実施例及び比較例の樹脂成形体の理論密度は、窒化アルミニウム粒子及びシリカ被覆窒化アルミニウム粒子の理論密度を3.30g/cm3、アルミナ粒子の理論密度を3.94g/cm3、樹脂成分の理論密度を1.00g/cm3として計算した。なお後述の処理剤(シランカップリング剤)は硬化物中で樹脂成分や無機粒子と一体化しており、またその量も少量であるため熱伝導率の計算からは除外した。
【0109】
[耐湿性の評価]
樹脂成形体の耐湿性の評価は、直径3cm厚さ5mmの樹脂成形体を耐圧容器に入れ、イオン交換水30gを投入して密封した後、熱風オーブンで120℃、24時間の加熱を行った。そして、加熱が終了した後、室温まで冷却し、水酸化ナトリウム水溶液で抽出液のpHを12以上に調整し、上澄み液のアンモニア濃度を、25℃の温度条件でアンモニア電極を用いて(アンモニア電極5002A:株式会社堀場製作所製)測定した。
【0110】
[シリカ被覆窒化アルミニウム粒子の作製]
(シリカ被覆窒化アルミニウム粒子1の作製)
第1工程は、板厚20mmのアクリル樹脂製で内寸法が260mm×260mm×100mmであり、貫通孔を有する仕切りで上下二段に分けられた構造の真空デシケーターを使用して、窒化アルミニウム粒子の表面被覆を行った。真空デシケーターの上段に、体積累計のd50が80μm、BET法から求めた比表面積が0.05m2/gの球状の窒化アルミニウム粒子-A(FAN-f80-A1:古河電子社製)約30gをステンレストレーに均一に広げて静置した。次に、真空デシケーターの下段には、式(3)においてn=4である有機シリコーン化合物-A(環状メチルハイドロジェンシロキサン4量体:東京化成工業社製)を10g、ガラス製シャーレに入れて静置した。その後、真空デシケーターを閉じ、80℃のオーブンで30時間の加熱を行った。なお、反応により発生する水素ガスは、真空デシケーターに付随する開放弁から逃がすなどの安全対策を取って操作を行った。第1工程終了後に、窒化アルミニウム粒子表面を被覆した式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物の被覆量は、窒化アルミニウム粒子のBET法から求めた比表面積から算出した表面積1m2当たり0.72mgであった。第1工程を終了した後、デシケーターから取り出したサンプルをアルミナ製のるつぼに入れ、大気中で、サンプルを650℃、1.5時間の条件で第2工程の熱処理を行うことでシリカ被覆窒化アルミニウム粒子1を得た。各特性値を表1に示す。
【0111】
(シリカ被覆窒化アルミニウム粒子2の作製)
原料に用いた窒化アルミニウム粒子-Aを体積累計のd50が30μm、BET法から求めた比表面積が0.11m2/gの球状の窒化アルミニウム粒子-B(FAN-f30-A1:古河電子社製)に置換えた以外は、シリカ被覆窒化アルミニウム粒子1の作製と同様にして、シリカ被覆窒化アルミニウム粒子2を作製した。各特性値を表1に示す。
【0112】
(実施例1~4、比較例1~4)
[無機粒子分散樹脂組成物及び硬化物の製造]
まず、表2に記載した種類の無機粒子(シリカ被覆窒化アルミニウム粒子又は窒化アルミニウム粒子、及び、アルミナ粒子)を、表2に記載した配合で容器に入れ、自公転ミキサーに投入して、2000rpm、30秒の条件で混合して、無機粒子混合品を作製した。なお、アルミナ粒子は、体積累計のd50が39μmの丸み状アルミナ-A(AS-10:昭和電工社製。破砕状アルミナの角が取れたアルミナ。)、体積累計のd50が6μmの多面体状アルミナ-B(AA-5:住友化学社製)、体積累計のd50が0.4μmの多面体状のアルミナ-C(AA-03:住友化学社製)を使用した。
【0113】
得られた無機粒子混合品に、処理剤(Z-6210:東レ・ダウコーニング社製、シランカップリング剤)のn-デシルトリメトキシシランを加え、自公転ミキサーに投入して、2000rpm、30秒の条件で2回撹拌した後、熱風オーブン中で120℃、1時間の加熱処理を施した。
【0114】
次に、表2に記載した配合で、上述したn-デシルトリメトキシシランで表面処理した無機粒子混合品に、シリコーン樹脂を加え、自公転ミキサーに投入して、2000rpm、30秒の条件で3回撹拌して混合することで、無機粒子分散樹脂組成物を得た。シリコーン樹脂は、2液付加硬化型シリコーンゴム(KE-109E:信越化学工業社製)をA液とB液の比率1:1で使用した。
得られた無機粒子分散樹脂組成物を、直径3cm、厚さ5mmの筒状の金型へ入れ、両面(底面及び天面)を銅箔で挟み、さらに両面をステンレス板で挟んだものを、120℃、30分間の熱プレスを実施し、硬化させることで、樹脂成形体(硬化物)を作製した。
【0115】
シリカ被覆窒化アルミニウム粒子の製造条件及び特性を表1に、配合及び測定結果を表2に示す。
なお、各粒子の含有量(体積%)は、窒化アルミニウム粒子及びシリカ被覆窒化アルミニウム粒子の理論密度を3.30g/cm3、アルミナ粒子の理論密度を3.94g/cm3、処理剤の理論密度を0.90g/cm3、シリコーン樹脂の理論密度を1.00g/cm3として計算した。なお、シリカ被覆量が窒化アルミニウム粒子に対して極微量であるため、窒化アルミニウム粒子及びシリカ被覆窒化アルミニウム粒子は同じ密度として計算した。
【0116】
これらの結果から、シリカ被覆窒化アルミニウム粒子及びアルミナ粒子を含む無機粒子と樹脂とを含む実施例1~4の無機粒子分散樹脂組成物は、優れた熱伝導性及び耐湿性を有する成形体を形成でき、樹脂とシリカ被覆していない窒化アルミニウム粒子とアルミナ粒子を含む、比較例1~4の組成物と比べて、高い熱伝導性を維持しつつ耐湿性が向上した成形体を形成できることが分かる。
【0117】
【0118】