(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024023453
(43)【公開日】2024-02-21
(54)【発明の名称】フッ素樹脂
(51)【国際特許分類】
C08F 24/00 20060101AFI20240214BHJP
【FI】
C08F24/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023202064
(22)【出願日】2023-11-29
(62)【分割の表示】P 2021049844の分割
【原出願日】2021-03-24
(31)【優先権主張番号】P 2020055770
(32)【優先日】2020-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】坂口 孝太
(72)【発明者】
【氏名】岩永 和也
(72)【発明者】
【氏名】下野 智弥
(72)【発明者】
【氏名】長井 智成
(72)【発明者】
【氏名】山川 浩
(57)【要約】 (修正有)
【課題】加熱溶融後の黄変が抑制される、特に肉厚品の成形においても着色が低減されたオキソラン環を含むフッ素樹脂およびその製造方法を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される残基単位と、下記式(2)で表される末端基を含むフッ素樹脂。
(式(1)中、Rf
1、Rf
2、Rf
3、Rf
4はそれぞれ独立してフッ素原子、炭素数1~7の直鎖状のパーフルオロアルキル基、炭素数3~7の分岐状のパーフルオロアルキル基または、炭素数3~7の環状のパーフルオロアルキル基からなる群の1種を示し、Rf
1、Rf
2、Rf
3、Rf
4は互いに連結して環を形成してもよい。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される残基単位と、下記式(2)で表される末端基を含む、フッ素樹脂。
【化1】
(式(1)中、Rf
1、Rf
2、Rf
3、Rf
4は、それぞれ独立して、フッ素原子、炭素数1~7の直鎖状のパーフルオロアルキル基、炭素数3~7の分岐状のパーフルオロアルキル基または炭素数3~7の環状のパーフルオロアルキル基からなる群の1種を示し、前記パーフルオロアルキル基はエーテル性酸素原子を有していてもよく、また、Rf
1、Rf
2、Rf
3、Rf
4は互いに連結して炭素数4以上8以下の環を形成してもよく、該環はエーテル性酸素原子を含む環であってもよい。)
【化2】
(式(2)中、iは3~20の整数である)
【請求項2】
式(2)で表される末端基が下記式(3)で表される構造である、請求項1に記載のフッ素樹脂。
【化3】
【請求項3】
固体19F-NMRスペクトル解析において、-140ppm以上142ppm以下、及び、-143以上145ppm以下の範囲それぞれに極大を示すピークを示す、請求項1または2に記載のフッ素樹脂。
【請求項4】
前記フッ素樹脂が粉末状であり、体積平均粒子径が1~1000μmである、請求項1乃至3いずれか一項に記載のフッ素樹脂。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素樹脂およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂は、耐熱性、電気特性、耐薬品性、防水性、撥液發油性、光学特性に優れるため半導体をはじめとする電子部品の保護膜、インクジェットプリンタヘッドの撥水膜、フィルタの防水防油コート、光学部材などに用いられている。
【0003】
なかでもオキソラン環を含むフッ素樹脂は嵩高い環構造を有するため非晶質で高い透明性および高い耐熱性を有する。また炭素、フッ素、酸素からのみ構成されることで高い電気特性、耐薬品性、防水性、撥液發油性を有する。さらに非晶性であることから溶融成形加工が可能である。
【0004】
非特許文献1には、オキソラン環を含むフッ素樹脂の1種であるパーフルオロ-2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン(PFMMD)を、ラジカル重合開始剤としてパーフルオロベンゾイルパーオキサイドを用いて重合して得られたポリマー(ポリPFMMD)の合成および特性に関する記載がある。ポリPFMMDは耐熱性に優れる。本発明者らの検討によれば、非特許文献1に記載のポリPFMMDは加熱溶融成形後の黄変が著しく、特に厚みのある成形品で黄変が著しいものであった。そのため、ポリPFMMDの厚みのある成形体であっても、より着色の少ない、高い透明性を発現できる技術が切望されている。
【0005】
フッ素樹脂の加熱時の着色を低減する方法として脂肪族全フッ素開始剤を用いて、脂肪族パーフルオロアルキル基末端を有するフッ素樹脂を得る方法が知られている。例えば、非特許文献2には、(CF3CF2CF2COO)2を用いてペルフルオロ(ブテニルビニルエーテル)を塊状重合で環化重合した例が報告されている。しかし、本発明者らの検討によれば、非特許文献2に記載の技術をポリPFMMDの合成に用いても加熱溶融成形後のポリPFMMDの黄変は十分低減されているとは言えないものであった。また、収率が著しく悪く生産性に劣り、分子量分布Mw/Mnが大きいものであった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Macromolecules 2005,38,4237-4245
【非特許文献2】日本化学会誌 2001、No.12、659-668
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はオキソラン環を含むフッ素樹脂における課題を解決することを目的としてなされたものである。具体的には、加熱溶融後の黄変が抑制される、特に厚肉品の成形においても着色が低減されたオキソラン環を含むフッ素樹脂およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討した結果、特定の構造の末端基を有するオキソラン環を含むフッ素樹脂が上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は下記式(1)で表される残基単位と、下記式(2)で表される末端基を含むフッ素樹脂である。
【0010】
【0011】
(式(1)中、Rf1、Rf2、Rf3、Rf4は、それぞれ独立して、フッ素原子、炭素数1~7の直鎖状のパーフルオロアルキル基、炭素数3~7の分岐状のパーフルオロアルキル基または炭素数3~7の環状のパーフルオロアルキル基からなる群の1種を示し、前記パーフルオロアルキル基はエーテル性酸素原子を有していてもよく、また、Rf1、Rf2、Rf3、Rf4は互いに連結して炭素数4以上8以下の環を形成してもよく、該環はエーテル性酸素原子を含む環であってもよい。)
【0012】
【0013】
(式(2)中、iは3~20の整数である)
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、厚みのある成形品の溶融成形を行う際の黄変が抑制されたオキソラン環を含むフッ素樹脂およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の一態様であるフッ素樹脂について詳細に説明する。
【0016】
本発明のフッ素樹脂は、下記式(1)で表される残基単位と、下記式(2)で表される末端基を含む。
【0017】
【0018】
(式(1)中、Rf1、Rf2、Rf3、Rf4はそれぞれ独立してフッ素原子、炭素数1~7の直鎖状のパーフルオロアルキル基、炭素数3~7の分岐状のパーフルオロアルキル基または、炭素数3~7の環状のパーフルオロアルキル基からなる群の1種を示し、前記パーフルオロアルキル基はエーテル性酸素原子を有していてもよく、また、Rf1、Rf2、Rf3、Rf4は互いに連結して炭素数4以上8以下の環を形成してもよく、該環はエーテル性酸素原子を含む環であってもよい。)
【0019】
【0020】
(式(2)中、iは3~20の整数である)
本発明のフッ素樹脂は特定の式(1)に含まれる嵩高い環構造を有するため非晶質で高い透明性および高い耐熱性を有する。また炭素原子、フッ素原子、酸素原子からのみ構成されることで高い電気特性、耐薬品性、防水性、撥液發油性を有する。
【0021】
式(1)中、Rf1、Rf2、Rf3、Rf4基は、それぞれ独立して、フッ素原子、炭素数1~7の直鎖状のパーフルオロアルキル基、炭素数3~7の分岐状のパーフルオロアルキル基、または炭素数3~7の環状のパーフルオロアルキル基からなる群の1種を示す。前記パーフルオロアルキル基はエーテル性酸素原子を有していてもよい。また、Rf1、Rf2、Rf3、Rf4は互いに連結して炭素数4以上8以下の環を形成してもよく、該環はエーテル性酸素原子を含む環であってもよい。
【0022】
炭素数1~7の直鎖状パーフルオロアルキル基としては、例えば、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基、ノナフルオロブチル基、ウンデカフルオロペンチル基、トリデカフルオロヘキシル基、ペンタデカフルオロヘプチル基等が挙げられる。
【0023】
炭素数3~7の分岐状パーフルオロアルキル基としては、例えば、ヘプタフルオロイソプロピル基、ノナフルオロイソブチル基、ノナフルオロsec-ブチル基、ノナフルオロtert-ブチル基等が挙げられる。
【0024】
炭素数3~7の環状パーフルオロアルキル基としては、例えば、ヘプタフルオロシクロプロピル基、ノナフルオロシクロブチル基、トリデカフルオロシクロヘキシル基等が挙げられる。
【0025】
炭素数1~7のエーテル性酸素原子を有していてもよい直鎖状パーフルオロアルキル基としては、例えば、-CF2OCF3基、-(CF2)2OCF3基、-(CF2)2OCF2CF3基等が挙げられる。
【0026】
炭素数3~7のエーテル性酸素原子を有していてもよい環状パーフルオロアルキル基としては、例えば、2-(2,3,3,4,4,5,5,6,6-デカフルオロ)-ピリニル基、4-(2,3,3,4,4,5,5,6,6-デカフルオロ)-ピリニル基、2-(2,3,3,4,4,5,5-ヘプタフルオロ)-フラニル基等が挙げられる。
【0027】
Rf1、Rf2、Rf3、Rf4の少なくともいずれか一つは、炭素数1~7の直鎖状のパーフルオロアルキル基、炭素数3~7の分岐状のパーフルオロアルキル基または炭素数3~7環状のパーフルオロアルキル基からなる群の1種であるフッ素樹脂であることが好ましい。これにより、本発明のフッ素樹脂がより優れた耐熱性を示す。
【0028】
式(1)で表される残基単位の具体例としては、例えば下記式(3)で表される残基単位が挙げられる。
【0029】
【0030】
このなかでも、耐熱性、成型加工性に優れるため、下記式(4)で表される残基単位を含むフッ素樹脂が好ましく、パーフルオロ(4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソラン)残基単位を含むフッ素樹脂がより好ましい。
【0031】
【0032】
本発明のフッ素樹脂は、下記式(2)で表される末端基を含む。これにより、厚みのある成形品の溶融成形を行う際の黄変が抑制されたものとなる。
【0033】
ここで、「末端基」とは、重合体の主鎖の末端部に存在する基を意味する。
【0034】
式(2)で表される末端基は下記式(5)で表される構造であることが好ましい。
【0035】
【0036】
本発明のフッ素樹脂が式(5)で表される末端基単位を含むことは、例えば次の方法で確認することができる。
【0037】
すなわち、フッ素樹脂に対する固体19F-NMRスペクトル解析において、-140ppm以上142ppm以下、及び、-143ppm以上145ppm以下の範囲それぞれに極大を示すピークを示すことが確認できた場合、本発明のフッ素樹脂が式(5)で表される末端基を有していると判断できる。-140ppm以上142ppm以下、及び、-143ppm以上145ppm以下の範囲それぞれに極大を示すピークは、式(5)の3位、4位、5位の-CF2-基に帰属される。
【0038】
なお、フッ素樹脂の固体19F-NMR測定は、一般的な19F-NMR測定装置を用いればよい。例えば、Varian製VNMRS-400を用い、磁場強度376.18MHz(19F)で、1.6mmFASTMASプローブを用い、hahn-echo法にて、パルス幅1.3μs、スペクトル幅250kHz(664.6ppm)、スペクトル中心:-120ppm、待ち時間:10秒、MAS回転数:39kHz、積算回数2048回で、PTFE(-122.0ppm)を基準として、フッ素樹脂約10mgを用いて固体19F-NMR測定を実施する方法を例示できる。
【0039】
本発明のフッ素樹脂に対する固体19F-NMRスペクトル解析において、-140ppm以上142ppm以下、及び、-143ppm以上145ppm以下の範囲に極大を示す末端基に起因する末端ピーク(6F)の面積の積分値は、-81ppmの位置に極大を示す主鎖ピーク(5F)の面積の積分値500に対し、合計で0.001~10であることが好ましく、0.01~5であることが更に好ましく、0.05~5であることが更に好ましい。これにより、フッ素樹脂の黄変がさらに抑制される。ここで、-81ppmの位置に極大を示す主鎖ピーク(5F)は-CF2O-基、-CF3基に帰属される。
【0040】
本発明のフッ素樹脂が式(2)又は式(5)で表される残基単位を含むことは、例えば、フッ素樹脂のオリゴマーを固体13C-NMR測定することでも確認することができる。例えば、製造工程でゼオローラH等の溶媒に溶解したオリゴマー等を単離し、得られたオリゴマーに対して固体13C-NMR測定を行う。この際、式(1)で表さられる残基単位に直接結合したパーフルオロシクロアルキル基の1位のF原子に由来する、90~92ppmの範囲に極大を示すピークが観察されれば、フッ素樹脂が式(2)又は式(5)で表される末端基を含んでいると確認できる。
【0041】
式(2)又は式(5)で表される末端基は他の官能基を介さずに一般式(1)で表さられる残基単位に直接結合していることが好ましい。また、本発明のフッ素樹脂はカルボニル基を含まないことが好ましい。
【0042】
本発明のフッ素樹脂は、重量平均分子量Mwが5×104~3×105の範囲であることが好ましい。重量平均分子量Mwがこの範囲にあることで、溶融成形加工性、溶融時の脱泡性に優れる。また、重量平均分子量Mwがこの範囲にあることで、加熱冷却時のクラック発生の少ないものとなる。本発明のフッ素樹脂は、溶融成形加工性に優れ、溶融時の脱泡性に優れる観点から、更に好ましくは重量平均分子量Mwが5×104~2×105の範囲であることが好ましい。
【0043】
本発明のフッ素樹脂の重量平均分子量Mwは、ゲルパーミッションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、例えば標準試料として分子量既知の標準ポリメタクリル酸メチル、溶離液として標準試料とフッ素樹脂の両方を溶解可能な溶媒を用い、試料と標準試料の溶出時間、標準試料の分子量から算出することができる。前記溶液液としては、アサヒクリンAK-225(旭硝子株式会社製)に、AK-225に対して10wt%の1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール(和光純薬工業製)を添加したものを挙げることができる。
【0044】
本発明のフッ素樹脂の重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比である分子量分布Mw/Mnには特に限定はないが、加熱溶融後の黄変が抑制され、溶融成形加工性に優れ、溶融時の脱泡性に優れ、加熱冷却時のクラック発生の少ないものとなる観点から、分子量分布Mw/Mnは1.2~8であることが好ましく、1.2~5であることが更に好ましく、1.5~3であることが更に好ましく、2.0~3であることが更に好ましい。数平均分子量Mnは前述した重量平均分子量Mwの測定方法と同様の方法で測定でき、分子量分布Mw/Mnは重量平均分子量Mwを数平均分子量Mnで割ることにより算出することができる。
【0045】
本発明のフッ素樹脂は肉厚溶融成形品(直径10mm×高さ約17mmの円柱状成形体、試験管内で280℃24h加熱溶融して成形)を直径方向に測定した黄色度(YI)が10以下であることが好ましく、4以下が更に好ましく、3以下が更に好ましい。本発明者らによれば、開放された環境での加熱に比べ、閉じられた状況で厚みのある成形品の溶融成形を行うとフッ素樹脂の加熱溶融成形後の黄変が著しくなる。厚みのある成形品の溶融成形品の黄色度・着色を評価する方法として、例えば、本発明のフッ素樹脂3gを外径13mmの試験管内で280℃24h加熱品して溶融・成形して得られた円柱形状体(直径10mm×高さ約17mm)を直径方向に測定した黄色度(YI)を評価する方法を挙げることができる。ここで直径方向は、試験管を机等の上に横に倒して置いた際の上下方向である。黄色度は得られた樹脂成型品を試験管に入ったまま、白色の紙の上に試験管を横に倒して置き、上からデジタル写真を撮影し、得られた画像からソフトウェアで成形品のRGB値を読み取り、読み取ったRGB値を次式
X=0.4124R+0.3576G+0.1805B
Y=0.2126R+0.7152G+0.0722B
Z=0.0193R+0.1192G+0.9505B
によりXYZ表色系の三刺激値X、Y、Zを求め、X、Y、ZからJIS K7373の方法にのっとり、C光源(補助イルミナントC)における黄色度(YI)を計算することで測定することができる。
【0046】
本発明のフッ素樹脂は薄片溶融成形品(3mm厚、シャーレ内で280℃24h加熱溶融して成形)の黄色度(YI)が1以下であることが好ましい。成型方法、評価方法は実施例に記載の方法を挙げることができる。
【0047】
本発明のフッ素樹脂には他の単量体残基単位が含まれていても良く、他の単量体残基単位としては、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロイソブチレン、パーフルオロアルキルエチレン、フルオロビニルエーテル、フッ化ビニル(VF)、フッ化ビニリデン(VDF)、パーフルオロ-2,2-ジメチル-1,3-ジオキソール(PDD)、パーフルオロ(アリルビニルエーテル)およびペルフルオロ(ブテニルビニルエーテル)などが挙げられる。
【0048】
本発明のフッ素樹脂の粒径には特に限定は無いが、樹脂粉末の流動性が高く、成型加工機等に対する連続した供給が可能となり、樹脂への溶剤の残留が抑制でき、嵩密度が大きく充填性が増加し、成形加工時の取扱い性に優れたものとなることから、体積平均粒径は1~1000μmであることが好ましく、1~500μmであることが好ましく、1~300μmが更に好ましい。
【0049】
本発明のフッ素樹脂の体積平均粒子径は、レーザー回折散乱法による粒子径分布測定(体積分布)で評価することができる。レーザー回折散乱法による粒子径分布は、樹脂粒子を水中又はメタノール等の有機溶媒中に分散させて測定することで測定することができる。レーザー散乱計として、マイクロトラック・ベル株式会社製のマイクロトラックを例示することができる。
【0050】
体積平均粒子径とは、Mean Volume Diameterとも言われ、体積基準で表した平均粒子径であり、粒子径分布を各粒径チャンネルごとに区切り、各粒径チャンネルの代表粒径値をd、各粒径チャンネルごとの体積基準のパーセントをvとした時に、Σ(vd)/Σ(v)で表される。
【0051】
本発明のフッ素樹脂は粉末状であり、体積平均粒子径が1~1000μmであることが好ましい。
【0052】
以下に本発明の一態様であるフッ素樹脂の製造方法について詳細に説明する。
【0053】
本発明のフッ素樹脂は、下記式(6)で表されるラジカル重合開始剤と、下記式(7)で表される単量体を含む混合物を重合させることで製造することができる。
【0054】
【0055】
(式(6)中、jは3~20の整数である)
【0056】
【0057】
(式(7)中、Rf5、Rf6、Rf7、Rf8は、それぞれ独立してフッ素原子、炭素数1~7の直鎖状のパーフルオロアルキル基、炭素数3~7の分岐状のパーフルオロアルキル基または、炭素数3~7の環状のパーフルオロアルキル基からなる群の1種を示し、前記パーフルオロアルキル基はエーテル性酸素原子を有していてもよく、また、Rf5、Rf6、Rf7、Rf8は互いに連結して炭素数4以上8以下の環を形成してもよく、該環はエーテル性酸素原子を含む環であってもよい。)
式(7)中のRf5、Rf6、Rf7、Rf8は、式(1)中のRf1、Rf2、Rf3、Rf4とそれぞれ同義である。
【0058】
本発明のフッ素樹脂の製造方法においては、式(6)で表されるラジカル重合開始剤を用いることで、厚みのある成形品の溶融成形を行う際の黄変が抑制されたフッ素樹脂を得ることができる。さらに、分子量分布Mw/Mnが狭いフッ素樹脂を得ることができる。分子量分布Mw/Mnが狭くなることで、加熱溶融成形性が向上する。更に、フッ素樹脂を優れた収率、生産性で得ることができる。また、式(6)で表されるラジカル重合開始剤を用いることで、ラジカル重合開始剤が脱炭酸してからポリマーに付加することで、得られるポリマーはカルボニル基を殆ど含まないものとなり、式(2)で表される末端基が直接ポリマーに付加した構造となり、厚みのある成形品の溶融成形を行う際の黄変が抑制されたフッ素樹脂を得るうえで有利である。
【0059】
本発明のフッ素樹脂の製造方法においては、下記式(8)で表されるラジカル重合開始剤を用いることが更に好ましい。下記式(8)で表されるラジカル重合開始剤を用いることで、厚みのある成形品の溶融成形を行う際の黄変が更に抑制されたフッ素樹脂を得ることができる。さらに、分子量分布Mw/Mnが狭いフッ素樹脂を得ることができる。分子量分布Mw/Mnが狭くなることで、加熱溶融成形性が向上する。更に、フッ素樹脂を優れた収率、生産性で得ることができる。本明細書において、下記式(8)で表されるラジカル重合開始剤はビス(パーフルオロシクロヘキシルカルボニル)パーオキサイドと呼ぶこともある。
【0060】
【0061】
ビス(パーフルオロシクロヘキシルカルボニル)パーオキサイドは特開平11-49749やJ.App.Polym.Sci,1999,72,1101-1108に記載の方法などで得ることができる。その際、溶媒として、AK-225に代えて、パーフルオロヘキサン(FC-72、スリーエムジャパン社製)等を用いることもできる。本発明のビス(パーフルオロシクロヘキシルカルボニル)パーオキサイドは上述の文献に記載の方法以外の方法で合成したものであっても良く、例えば、Chem.Rev,1996,96,1779-1808にフッ素化パーオキサイドの合成方法が記載されているが、酸フルオライドと過酸化水素を反応させる方法のほか、酸クロライドと過酸化水素を反応させる方法、酸無水物と過酸化水素を反応させる方法などを例示することができる。その際、水酸化ナトリウムなどの塩基が系中に存在することで反応が進行する。
【0062】
本発明のフッ素樹脂の製造方法においては、分子量を調節する目的で、連鎖移動剤を用いても良い。連鎖移動剤としては水素原子および塩素原子からなる群から選ばれる少なくとも1つの原子を含有する炭素数1~20の有機化合物を挙げることができる。連鎖移動剤の具体例としては、トルエン、アセトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、イソプロパノール等の水素原子を含有する炭素数1~20の有機化合物;クロロホルム、ジクロロメタン、テトラクロロメタン、クロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、ペンタクロロエタン、ヘキサクロロエタン、ベンジルクロリド、ペンタフルオロベンジルクロリド、ペンタフルオロベンゾイルクロリド等の塩素原子を含有する炭素数1~20の有機化合物等が挙げられる。なかでも、加熱溶融後の黄変を抑制する観点から塩素原子を含有する炭素数1~20の有機化合物であることが好ましく、水素原子と塩素原子を含有する炭素数1~20の有機化合物が更に好ましい。連鎖移動剤の量としては、例えば、前記単量体と連鎖移動剤の合計に対し、0.01~50重量%が挙げられる。
【0063】
本発明の樹脂の製造方法においては、重合方法に制限はないが、例えば、溶液重合、沈殿重合、塊状重合、乳化重合、懸濁重合などの方法を挙げることができる。
【0064】
本発明の製造方法は、重合させる工程において、混合物にさらに有機溶媒を混合することが好ましい。
【0065】
本発明の樹脂の製造方法においては、樹脂粉末の流動性が高く、成型加工機等に対する連続した供給が可能となり、樹脂への溶剤の残留が抑制でき、嵩密度が大きく充填性が増加し、成形加工時の取扱い性に優れた紛体が得られることから、有機溶媒として少なくとも式(7)で表される単量体は溶解し、かつ重合により生じた樹脂の少なくとも一部は溶解せず、樹脂の沈殿を生じる有機溶媒であり、前記重合により生じた樹脂は粒子として有機溶媒中に沈殿する有機溶媒を用いることが好ましい。本発明の樹脂の製造方法において、前記有機溶媒を「沈殿重合溶媒」と記載することがある。前記沈殿重合溶媒を用いることにより、重合反応によって生成した樹脂を、特定の体積平均粒子径を有する粒子として析出させることができ、結果として成形性および充填性に優れる樹脂粒子を製造することができる。また、乳化剤および分散剤などの重合助剤を用いることがないため、透明性や耐熱性を損なう原因となる乳化剤および分散剤を含まない樹脂粒子を製造することができる。
【0066】
ここで、沈殿重合溶媒とは、式(1)で表される残基単位を含む樹脂粒子を当該有機溶媒に長時間浸漬した後に樹脂粒子が残存する溶媒を意味する。具体的には一般式(1で表される残基単位を含む重量平均分子量Mwが5×104~70×104の樹脂粒子をこの樹脂粒子に対して10倍量(w/w)の有機溶媒に50℃で5時間以上浸漬した後に、有機溶媒中に肉眼で樹脂粒子の残存が確認できる場合に、当該有機溶媒を沈殿重合溶媒Aとして見なすことができる。沈殿重合溶媒Aは、50℃で5時間以上浸漬した後に前記溶液を25℃に冷却後に、固体状態として残存する樹脂試料を回収し、樹脂試料の重量減少率が20重量%未満である有機溶媒であることが好ましい。樹脂試料の重量減少率は、より好ましくは12重量%未満、さらに好ましくは10重量%未満である。
【0067】
樹脂重量の減少率は以下の方法により計測できる。上記の冷却後の溶液をフィルターろ過後、フィルター上の固体を該溶媒でリンス洗浄し、アセトンで複数回洗浄後に乾燥し、フィルター上の樹脂試料を回収する。回収した樹脂の重量を計測し、当該有機溶媒に浸漬させた樹脂量から回収樹脂重量を引いた値を、当該有機溶媒に浸漬させた樹脂量で除した値の100分率を樹脂減少率とする。
【0068】
沈殿重合溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、ヘキサン、酢酸ブチル等の非ハロゲン系有機溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム等の塩素系有機溶媒のほか、分子内にフッ素原子を含む有機溶媒が挙げられる。
【0069】
さらに、沈殿重合溶媒としてはラジカル重合において連鎖移動反応が生じにくく、重合収率に優れ、高分子量体を得やすいことから分子内にフッ素原子と水素原子を含む有機溶媒が好ましい。具体的な、分子内にフッ素原子と水素原子を含む沈殿重合溶媒としては、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテル、2,2,2-トリフルオロエタノール、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロパノール、1,2,2,3,3,4,4-ヘプタフルオロシクロペンタン、1H,1H-ペンタフルオロプロパノール、1H,1H-ヘプタフルオロブタノール、2-パーフルオロブチルエタノール、4,4,4-トリフルオロブタノール、1H,1H,3H-テトラフルオロプロパノール、1H,1H,5H-オクタフルオロプロパノール、1H,1H,7H-ドデカフルオロヘプタノール、1H,1H,3H-ヘキサフルオロブタノール、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル-1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル、1,1,2,2-テトラフルオロエチルエチルエーテル、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル、ヘキサフルオロイソプロピルメチルエーテル、1,1,3,3,3-ペンタフルオロ-2-トリフルオロメチルプロピルメチルエーテル、1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロピルメチルエーテル、1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロピルエチルエーテル、2,2,3,4,4,4-ヘキサフルオロブチルジフルオロメチルエーテルなどが挙げられる。
【0070】
なかでも、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテル、2,2,2-トリフルオロエタノール、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロパノール、1,2,2,3,3,4,4-ヘプタフルオロシクロペンタンが好ましく、重合収率に優れ、高分子量体を得やすいことから、1,2,2,3,3,4,4-ヘプタフルオロシクロペンタンが好ましい。沈殿重合溶媒の分子内のフッ素原子と水素原子の比率としては、重合収率に優れることから原子の個数比でフッ素原子:水素原子=1:9~9:1であることが好ましく、1:9~7:3であることが更に好ましく、4:6~7:3であることが更に好ましい。沈殿重合溶媒としては、重合収率に優れることから分子内にフッ素原子と水素原子を含み、該溶媒中の水素原子の含有量が該溶媒分子の重量に対し1重量%以上が好ましく、1.5重量%以上が更に好ましい。また、重合収率に優れ、高分子量体を得やすいことから1重量%以上5重量%以下が好ましく、1.5重量%以上4重量%以下が好ましい。また、沈殿重合溶媒としては、重合収率に優れ、高分子量体を得やすいことから分子内に塩素原子を含まないものが好ましい。
【0071】
式(7)で表される単量体と沈殿重合溶媒の比率としては、生産性に優れ、流動特性に優れる粒子が得られることから、重量比で単量体:沈殿重合溶媒=1:99~50:50であることが好ましく、5:95~40:60であることが更に好ましく、5:95~30:70であることが更に好ましい。
【0072】
本発明の製造方法は、式(7)で表される単量体が下記式(9)で表されるパーフルオロ(4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソラン)であり、式(1)で表される残基単位が式(4)で表されるパーフルオロ(4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソラン)残基単位であることが好ましい。
【0073】
【0074】
本発明の方法により製造することで、厚みのある成形品の溶融成形を行う際の黄変が抑制されたフッ素樹脂を得ることができる。さらに、上記特性を発現しながら、分子量分布Mw/Mnが狭いフッ素樹脂を得ることができる。更に、上記特性を発現しながら、フッ素樹脂を優れた収率、生産性で得ることができる。
【実施例0075】
以下、本発明を実施例及び比較例によってより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0076】
[重量平均分子量Mw、分子量分布Mw/Mnの測定]
東ソー(株)製のカラムTSKgel SuperHZM-M、RI検出器を備えたゲルパーミッションクロマトグラフィーを用いて測定を行った。溶離液としてアサヒクリンAK-225(旭硝子株式会社製)に、AK-225に対して10wt%の1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール(和光純薬工業製)を添加したものを用いた。標準試料としてAgilent製の標準ポリメタクリル酸メチルを用い、試料と標準試料の溶出時間からポリメタクリル酸メチル換算の重量平均分子量Mw、分子量分布Mw/Mnを算出した。
【0077】
[固体19F-NMRの測定]
Varian製VNMRS-400を用い、磁場強度376.18MHz(19F)で、1.6mmFASTMASプローブを用い、hahn-echo法にて、パルス幅1.3μs、スペクトル幅250kHz(664.6ppm)、スペクトル中心:-120ppm、待ち時間:10秒、MAS回転数:39kHz、積算回数2048回で、PTFE(-122.0ppm)を基準として、フッ素樹脂約10mgを用いて固体19F-NMR測定を実施した。
【0078】
[固体13C-NMRの測定]
Varian製VNMRS-400を用い、磁場強度100.55MHz(13C)で、4.0mmMASプローブを用い、CP/MAS法にて、スペクトル幅30.5kz、スペクトル中心:77.5ppm、待ち時間:3秒、MAS回転数:10kHz、積算回数4096回で、TMS(0ppm)を基準として、フッ素樹脂約50mgを用いて固体13C-NMR測定を実施した。
【0079】
[肉厚溶融成形品(φ10mm×H17mm、試験管内280℃24h)の黄色度(YI)の測定]
外径φ13mm、全長100mmのガラス製試験管(日電理化ガラス製、ST-13M)にフッ素樹脂3.0gを入れ、アルミ箔及びアルミキャップ(マルエム、M-1)で試験管の口を覆い、試験管立てに立て、オーブンに入れ、280℃で24h加熱し、その後、放冷することで試験管内に円柱状の樹脂成型品を得た(直径:10mm、高さ:約17mm)。得られた樹脂成型品を試験管に入ったまま、白色の紙の上に試験管を横に倒して置き、PowerShotSX620HS(キヤノン社製)を用いて白色蛍光灯下で上からデジタル写真を撮影し、得られた画像からペイント(マイクロソフト社製画像処理ソフトウェア)を用いて成形品のRGB値を読み取った。読み取ったRGB値を次式
X=0.4124R+0.3576G+0.1805B
Y=0.2126R+0.7152G+0.0722B
Z=0.0193R+0.1192G+0.9505B
によりXYZ表色系の三刺激値X、Y、Zを求めた。X、Y、ZからJIS K7373の方法にのっとり、C光源(補助イルミナントC)における黄色度(YI)を計算し、肉厚溶融成形品(φ10mm×H17mm、試験管内280℃24h)の黄色度(YI)を求めた。
【0080】
[薄片溶融成形品(3mm厚、シャーレ内280℃24h)の黄色度(YI)]
内径26.4mmのシャーレ(株式会社フラット製フラットシャーレのフタと受器のセットのうち受器のみ、受器の底部のガラス厚み1mm)にフッ素樹脂2.0gを秤量し、イナートオーブン(ヤマト科学製DN411I)に入れ、エアー気流下(20L/min)で、室温で30分静置した後、30分かけて280℃まで昇温後、280℃で24h加熱した。その後、エアー気流下(20L/min)を維持しながら、オーブンの扉を閉めたままにして、イナートオーブンの電源を切り、12h放冷後、サンプルを取出すことで、シャーレ上に厚さ3mm、直径26.4mmのフッ素樹脂加熱溶融成型品を得た。この時、エアーとしては、コンプレッサーで圧縮した空気を除湿機に通したもの(露点温度-20℃以下)を用いた。得られたフッ素樹脂加熱溶融成形品をシャーレごと、分光光度計(日立ハイテクサイエンス社製U-4100)を用いて、波長200nm~1500nmにおいて、1nm間隔で各波長における透過率を測定した。測定した透過率のデータから波長380nm~780nmにおける5nm間隔のデータを抽出し、JIS Z8701の方法にのっとり、XYZ表色系の三刺激値X、Y、Zを計算した。さらにJIS K7373の方法にのっとり、C光源(補助イルミナントC)における黄色度(YI)を計算し、フッ素樹脂加熱溶融成型品のシャーレ込みの黄色度(YI)を求めた。シャーレ単体(受器のみ)の黄色度(YI)を測定し、フッ素樹脂成型品のシャーレ込みの黄色度(YI)からシャーレ単体(受器のみ)の黄色度(YI)を引くことで、厚さ3mmのフッ素樹脂加熱溶融成型品の黄色度(YI)を求めた。なお、シャーレ単体(受器のみ)の黄色度(YI)は0.21であった。
【0081】
[体積平均粒子径の測定]
マイクロトラック・ベル株式会社製マイクロトラックMT3000を用い、分散媒としてメタノ-ルを使用して体積平均粒子径(単位:μm)を測定した。
【0082】
[実施例1]
パドル型攪拌翼、窒素導入管および温度計を備えた3LのSUS316製オートクレーブの内部を窒素置換した。開始剤であるビス(パーフルオロシクロヘキシルカルボニル)パーオキサイド:2.33g(0.0036モル)をFC-72(スリーエムジャパン社製、パーフルオロヘキサン):230gに溶解した溶液、単量体としてパーフルオロ(4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソラン):175g(0.72モル)、重合溶媒としてFC-72:470gを、溶存酸素を除去してオートクレーブに入れ、攪拌下55℃で24時間保持することで溶液重合を行い、樹脂が溶解した粘稠な液を得た。室温まで冷却後アンプルを開封し、粘度調整のため得られた樹脂溶液をFC-72:875gに投入、希釈して樹脂希釈溶液を作製した。撹拌翼を備えたプラカップ内に、ゼオローラH(日本ゼオン社製、1,2,2,3,3,4,4-ヘプタフルオロシクロペンタン、溶媒分子中の水素原子の含有量:1.55重量%、溶媒分子中のフッ素原子:水素原子=7:3(個数比)) 5250gを入れ、攪拌下、前記の樹脂希釈溶液をプラカップに加えることで樹脂を析出させた。析出させた樹脂をろ過により回収して、アセトン洗浄を2回行い、真空乾燥することにより、粉末状のパーフルオロ(4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソラン)樹脂を得た(収率:93%)。
【0083】
得られたフッ素樹脂の重量平均分子量は9.5×104、分子量分布Mw/Mnは3.74であった。フッ素樹脂の評価結果を表1に示す。
【0084】
得られたフッ素樹脂に対して固体19F-NMR測定を行った結果、-140.7ppm、-143.9ppmに、末端のパーフルオロシクロヘキシル基に由来するピークが確認された。-81.3ppmの主鎖ピーク(5F)の積分値500に対し、前記末端基由来のピーク(6F)の積分値は、合計で1.46であった。
【0085】
また、上記操作中にゼオローラHで樹脂を析出させた際のろ液を乾固させ、固体をアセトン洗浄、真空乾燥することによりオリゴマーを得た。
【0086】
得られたオリゴマーに対して固体13C-NMR測定を行った結果、91ppmに、ポリマーの末端に直接結合したパーフルオロシクロヘキシル基の1位のF原子に由来するピークが確認された。一方、130~150ppmにおけるカルボニル基の領域にはピークが見られなかった。
【0087】
[実施例2]
パドル型攪拌翼、窒素導入管および温度計を備えた3LのSUS316製オートクレーブの内部を窒素置換した。
【0088】
開始剤であるビス(パーフルオロシクロヘキシルカルボニル)パーオキサイド0.80g(0.0012モル)をFC-72:80gに溶解した溶液、単量体としてパーフルオロ(4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソラン):300g(1.23モル)、重合溶媒としてゼオローラ-H:1120g、連鎖移動剤としてクロロホルム(和光純薬製):33.33g(0.279モル、連鎖移動剤の量:単量体と連鎖移動剤の合計に対し10重量%)を、溶存酸素を除去してオートクレーブに入れ、攪拌下40℃で24時間保持することで沈殿重合を行い、白濁状の、樹脂が重合溶媒に析出したスラリーを得た。スラリーを室温まで冷却し、生成した樹脂粒子を濾別により回収し、アセトンで洗浄し、真空乾燥することより粉末状のパーフルオロ(4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソラン)樹脂を得た(収率:90%)。
【0089】
得られたフッ素樹脂の重量平均分子量は8.8×104、分子量分布Mw/Mnは2.48であった。また、得られたフッ素樹脂の体積平均粒子径は26μmであり、粉末の流動性に優れるものであり、実施例1よりも粉末の流動性に優れるものであった。
【0090】
[実施例3]
実施例2により得られたフッ素樹脂の固体19F-NMR測定を行った結果、-140.2ppm、-144.4ppmに、末端のパーフルオロシクロヘキシル基に由来するピークが確認された。-81.3ppmの主鎖ピーク(5F)の積分値500に対し、前記末端基由来のピーク(6F)の積分値は、合計で0.23であった。
【0091】
[比較例1]
容量75mLのガラスアンプルに開始剤としてビス(2,3,4,5,6-ペンタフルオロベンゾイル)パーオキサイド:0.173g(0.000410モル)、単量体としてパーフルオロ(4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソラン):10.0g(0.0410モル)、重合溶媒としてFC-72:40.0gを入れ、凍結脱気による窒素置換と抜圧を繰り返したのち減圧状態で熔封した(単量体/溶剤=20/80(wt/wt))。このアンプルを55℃の恒温槽に入れ、24時間保持することによりラジカル溶液重合を行い、樹脂が溶解した粘稠な液を得た。室温まで冷却後アンプルを開封し、得られた樹脂溶液を粘度調整のためFC-72:50gに投入、希釈して樹脂希釈溶液を作製した。撹拌子を備えたビーカーにゼオローラH:240gを入れ、攪拌下、前記の樹脂希釈溶液をビーカーに加えることで樹脂を析出させた。析出させた樹脂をろ過により回収して、アセトン洗浄を2回行い、真空乾燥することにより、塊状のパーフルオロ(4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソラン)樹脂を得た(収率94%)。
【0092】
得られたフッ素樹脂の重量平均分子量は21×104、分子量分布Mw/Mnは2.8あった。また、得られたフッ素樹脂は塊状であり、粉末の流動性に劣るものであった。フッ素樹脂の評価結果を表1に示す。
【0093】
フッ素樹脂の固体19F-NMR測定を行ったところ、-140~142ppm、-143~145ppmに極大を示すピークは検出されなかった。上記操作でゼオローラHに樹脂を析出させたろ液を乾固させ、固体をアセトン洗浄、真空乾燥後、得られたオリゴマーを固体13C-NMR測定したところ、80~100ppmの領域にはピークが確認されなかった。また、139ppmおよび143ppmにカルボニル基のピークが検出された。
【0094】
[比較例2]
磁気撹拌子を備えた直径30mmのガラスアンプルに開始剤としてビス(2,3,4,5,6-ペンタフルオロベンゾイル)パーオキサイド:0.0865g(0.000205モル)、単量体としてパーフルオロ(4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソラン):10.0g(0.0205モル)、重合溶媒としてゼオローラ-H(日本ゼオン製、1,2,2,3,3,4,4-ヘプタフルオロシクロペンタン):40.0g、連鎖移動剤としてクロロホルム(和光純薬製):1.111g(0.00931モル)を入れ、凍結脱気による窒素置換と抜圧を繰り返したのち減圧状態で熔封した(連鎖移動剤の量:単量体と連鎖移動剤の合計に対し10重量%)。このアンプルが直立した状態で磁気撹拌子をスターラーにより撹拌しながら、55℃で24時間保持することにより沈殿重合を行ったところ、白濁し、樹脂が重合溶媒に析出したスラリーが得られた。室温まで冷却後アンプルを開封し、生成した樹脂粒子を含む液を濾別し、アセトンで洗浄し、真空乾燥することより粒子状のパーフルオロ(4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソラン)樹脂を得た(収率:82%)。
【0095】
得られたフッ素樹脂の重量平均分子量は9.6×104、分子量分布Mw/Mnは2.6であった。
【0096】
[比較例3]
容量75mLのガラスアンプルに開始剤として(CF3CF2CF2COO)2:0.52g(0.0012モル)をFC-72:52gで希釈した溶液、単量体としてパーフルオロ(4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソラン):30.0g(0.12モル)を入れ、凍結脱気による窒素置換と抜圧を繰り返したのち減圧状態で熔封した。このアンプルを25℃で24時間保持することによりラジカル重合を行った。アンプルを開封し、内容物を撹拌下、ヘキサン600gの入ったビーカーに入れ、ろ過で固体を回収後、アセトンで2回洗浄し、真空乾燥することにより、塊状のパーフルオロ(4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソラン)樹脂を得た(収率18%)。フッ素樹脂の評価結果を表1に示す。得られたフッ素樹脂の重量平均分子量は86×104、分子量分布Mw/Mnは26.2であった。収率が非常に低く、また、分子量分布が非常に大きいものであった。
【0097】
[比較例4]
撹拌子を備えた重合用ガラス管に単量体としてパーフルオロ(4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソラン):4.8g(0.020モル)、溶媒としてジクロロペンタフルオロプロパン(AGC社製、AK-225):3mL、乳化剤としてパーフルオロオクタン酸アンモニウム:0.21g、pH調整剤としてNa2HPO4・7H2O:0.24g、開始剤として(NH4)2S2O8:0.15g、そして、溶媒としてN2で脱気した蒸留水:50mLを仕込んだ。この溶液の上に存在するヘッドスペースをN2でパージした後、N2微加圧状態とした。次に、この管の内容物を撹拌子で撹拌しながら75℃で5時間加熱した。その結果として生じた反応混合物をHCl水溶液(6.3M):80mLで処理することでポリマーを沈殿させた。このポリマーを蒸留水200mLで3回洗浄後、アセトン200mLで3回洗浄した。次に、このポリマーを真空オーブンに入れて真空(150mmHg)下150℃で24時間乾燥させ、白色粉末状のポリマーを得た(収率:3%)。上記の重合から乾燥までの操作を別途、更に2回行い、得られたポリマーを混合することで評価用のポリマーを得た。得られたポリマーの評価結果を表2に示す。得られたフッ素樹脂の重量平均分子量は34×104、分子量分布Mw/Mnは25であった。収率が非常に低く、また、分子量分布が非常に大きいものであった。フッ素樹脂の固体19F-NMR測定を行ったところ、-140~142ppm、-143~145ppmに極大を示すピークは検出されなかった。
【0098】
[比較例5]
容量75mLのガラスアンプルに単量体としてパーフルオロ(4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソラン):10.0g(0.041モル)、溶媒としてAK-225:35g、開始剤として4,4-ビス(t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート(日油製、パーロイルTCP):0.02gを仕込んだ。凍結脱気による窒素置換と抜圧を繰り返したのち減圧状態で熔封した。このアンプルを恒温振盪機で振とう下60℃で3時間加熱した。このアンプルから取り出したポリマーを真空(150mmHg)下100℃で24時間乾燥させることによりポリマーを得た(収率:76%)。上記の重合から乾燥までの操作を別途、更に2回行い、得られたポリマーを混合することで評価用のポリマーを得た。得られたポリマーの評価結果を表2に示す。得られたフッ素樹脂の重量平均分子量は12×104、分子量分布Mw/Mnは1.8であった。フッ素樹脂の固体19F-NMR測定を行ったところ、-140~142ppm、-143~145ppmに極大を示すピークは検出されなかった。
【0099】
[比較例6]
比較例2により得られたフッ素樹脂の固体19F-NMR測定を行ったところ、-140~142ppm、-143~145ppmに極大を示すピークは検出されなかった。
【0100】
[比較例7]
比較例3により得られたフッ素樹脂の固体19F-NMR測定を行ったところ、-140~142ppm、-143~145ppmに極大を示すピークは検出されなかった。
【0101】
【0102】
【0103】
[参考例1]
実施例2で得られた樹脂粒子を10倍量の各種溶媒に50℃で5時間浸漬し、樹脂粒子が残存するかを肉眼で観察した。
【0104】
・樹脂粒子の残存が肉眼で確認された有機溶媒は以下の通りである:
1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテル、2,2,2-トリフルオロエタノール、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロパノール、1,2,2,3,3,4,4-ヘプタフルオロシクロペンタン、クロロホルム。
【0105】
その後、25℃に冷却し、フィルターろ過後、該溶媒によりリンス洗浄することにより樹脂粒子を取出した後、樹脂粒子を10倍量のアセトンで2回洗浄し、真空乾燥し、乾燥重量から回収率を求めたところ、いずれも回収率は90%以上であった。また、上記で得られたろ液を留去し、ろ液中の固形分量を求めたところ、用いた樹脂粒子に対しろ液中の固形分量は10%未満であった。上記の結果より、樹脂重量の重量減少率は10重量%未満であることが確認された。
【0106】
本発明のフッ素樹脂は実施例1~2に示すように、比較例1~3に比べ、肉厚溶融成形品(φ10mm×H17mm、試験管内280℃24h)の黄色度が小さく、厚みのある成形体であっても黄変が抑制されている。
【0107】
本発明のフッ素樹脂の製造方法は、比較例3の方法に比べて収率が高く、実施例1~2に示すように、80%以上の収率でフッ素樹脂を製造することができ、条件によっては85%以上、更には90%以上の収率でフッ素樹脂を製造することができる。
【0108】
本発明のフッ素樹脂の製造方法で得られるフッ素樹脂は、試験管内280℃24h加熱品の黄色度が改善されているとともに、比較例3の方法に比べて分子量分布が狭く、分子量分布Mw/Mnが5以下、条件によっては4以下、更には3以下のフッ素樹脂を製造することができる。