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特開2024-2353硬化物、断熱材、及び、硬化物の製造方法
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  • 特開-硬化物、断熱材、及び、硬化物の製造方法 図1
  • 特開-硬化物、断熱材、及び、硬化物の製造方法 図2
  • 特開-硬化物、断熱材、及び、硬化物の製造方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002353
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】硬化物、断熱材、及び、硬化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/38 20060101AFI20231228BHJP
   C08F 20/12 20060101ALI20231228BHJP
   C08F 2/50 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
C08F2/38
C08F20/12
C08F2/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022101490
(22)【出願日】2022-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100163533
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 義信
(74)【代理人】
【識別番号】100199842
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 祥平
(72)【発明者】
【氏名】早瀬 元
(72)【発明者】
【氏名】依田 智
(72)【発明者】
【氏名】竹下 覚
(72)【発明者】
【氏名】小平 哲也
【テーマコード(参考)】
4J011
4J100
【Fターム(参考)】
4J011NA25
4J011NB04
4J011QA03
4J011QA24
4J011SA02
4J011SA14
4J011SA16
4J011SA20
4J011TA10
4J011UA01
4J011VA04
4J011WA07
4J100AL03P
4J100AL63Q
4J100CA04
4J100EA13
4J100FA03
4J100FA04
4J100FA19
4J100GC25
4J100JA43
(57)【要約】
【課題】 優れた断熱性を有する硬化物の提供。
【解決手段】
炭素数が1~8個のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、ラジカル重合開始剤と、架橋剤と、多官能チオールと、溶媒とを含む組成物を硬化させて得られる硬化物であって、組成物の全質量を100質量%としたとき、上記溶媒の含有量が、68~80質量%であり、上記溶媒が、アルコール、及び、グリコールエーテルからなる群より選択される少なくとも1種であり、気孔率が70%以上で、平均細孔径が3×10~1×10nmである、硬化物。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数が1~8個のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、ラジカル重合開始剤と、架橋剤と、多官能チオールと、溶媒とを含む組成物を硬化させて得られる硬化物であって、
組成物の全質量を100質量%としたとき、前記溶媒の含有量が、68~80質量%であり、
前記溶媒が、アルコール、及び、グリコールエーテルからなる群より選択される少なくとも1種であり、
気孔率が70%以上で、平均細孔径が3×10~1×10nmである、硬化物。
【請求項2】
前記溶媒が、炭素数が1~8個の1価アルコール、炭素数が2~8個の2価アルコール、及び、炭素数が3~8個のグリコールエーテルからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の硬化物。
【請求項3】
前記グリコールエーテルが、エチレングリコールモノエーテル、ジエチレングリコールモノエーテル、及び、トリエチレングリコールモノエーテルからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の硬化物。
【請求項4】
前記多官能チオールが、式1で表される部分構造を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の硬化物。
【化1】
(式1中、*は結合位置を表す)
【請求項5】
前記多官能チオールが、式2で表される化合物を含む、請求項4に記載の硬化物。
【化2】
(式2中、pは、2以上の整数を表し、Xは、p価の基を表す)
【請求項6】
前記組成物中における、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、前記架橋剤との合計含有量に対する、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有量のモル基準の比が、0.3~0.7である、請求項1~5のいずれか1項に記載の硬化物。
【請求項7】
前記組成物中における、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、前記多官能チオールとの合計含有量に対する、前記多官能チオールの含有量のモル基準の比が、0.1~0.3である、請求項1~6のいずれか1項に記載の硬化物。
【請求項8】
前記ラジカル重合開始剤が、光重合開始剤を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の硬化物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の硬化物を含む、断熱材。
【請求項10】
炭素数が1~8個のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、ラジカル重合開始剤と、架橋剤と、多官能チオールと、溶媒とを含む組成物であって、
組成物の全質量を100質量%としたとき、前記溶媒の含有量が、68~80質量%であり、
前記溶媒が、アルコール、及び、グリコールエーテルからなる群より選択される少なくとも1種である組成物にエネルギーを付与して、硬化物を得る、硬化物の製造方法。
【請求項11】
前記硬化物の気孔率が70%以上で、平均細孔径が3×10~1×10nmである、請求項10に記載の硬化物の製造方法。
【請求項12】
前記ラジカル重合開始剤が、光重合開始剤を含み、
前記エネルギーの付与が、紫外線照射を含む、請求項10又は11に記載の硬化物の製造方法。
【請求項13】
前記溶媒が、炭素数が1~8個の1価アルコール、炭素数が2~8個の2価アルコール、及び、炭素数が3~8個のグリコールエーテルからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項10~12のいずれか1項に記載の硬化物の製造方法。
【請求項14】
前記グリコールエーテルが、エチレングリコールモノエーテル、ジエチレングリコールモノエーテル、及び、トリエチレングリコールモノエーテルからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項10~13のいずれか1項に記載の硬化物の製造方法。
【請求項15】
前記多官能チオールが、式1で表される部分構造を含む、請求項10~14のいずれか1項に記載の硬化物の製造方法。
【化3】
(式1中、*は結合位置を表す)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化物、断熱材、及び、硬化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
優れた断熱性を有するポリマー多孔体の製造方法が知られている。特許文献1には「透明ポリマーエアロゲルの生成方法であって、ラジカル重合性モノマー及び架橋剤、ラジカル重合開始剤、ならびに連鎖移動剤(CTA)からなるゲル前駆体を、反応溶媒に溶解することと、前記ゲル前駆体を、基材に入れることと、前記基材の前記ゲルを重合させることと、前記ゲルを乾燥させることと、を含む、方法。」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-70111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らの検討によれば、特許文献1に記載された方法により得られる多孔体は断熱性が不十分であり、改善の余地があることを知見している。
そこで、本発明は、優れた断熱性を有する硬化物を提供することを課題とする。また、本発明は、断熱材、及び、硬化物の製造方法を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を解決することができることを見出した。
【0006】
[1] 炭素数が1~8個のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、ラジカル重合開始剤と、架橋剤と、多官能チオールと、溶媒とを含む組成物を硬化させて得られる硬化物であって、組成物の全質量を100質量%としたとき、上記溶媒の含有量が、68~80質量%であり、上記溶媒が、アルコール、及び、グリコールエーテルからなる群より選択される少なくとも1種であり、気孔率が70%以上で、平均細孔径が3×10~1×10nmである、硬化物。
[2] 上記アルコールが、炭素数が1~8個の1価アルコール、炭素数が2~8個の2価アルコール、及び、炭素数が3~8個のグリコールエーテルからなる群より選択される少なくとも1種である、[1]に記載の硬化物。
[3] 上記グリコールエーテルが、エチレングリコールモノエーテル、ジエチレングリコールモノエーテル、及び、トリエチレングリコールモノエーテルからなる群より選択される少なくとも1種である、[1]又は[2]に記載の硬化物。
[4] 上記多官能チオールが、後述する式1で表される部分構造を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の硬化物。
[5] 上記多官能チオールが、後述する式2で表される化合物を含む、[4]に記載の硬化物。
[6] 上記組成物中における、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、上記架橋剤との合計含有量に対する、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有量のモル基準の比が、0.3~0.7である、[1]~[5]のいずれかに記載の硬化物。
[7] 上記組成物中における、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、上記多官能チオールとの合計含有量に対する、上記多官能チオールの含有量のモル基準の比が、0.1~0.3である、[1]~[6]のいずれかに記載の硬化物。
[8] 上記ラジカル重合開始剤が、光重合開始剤を含む、[1]~[7]のいずれかに記載の硬化物。
[9] [1]~[8]のいずれかに記載の硬化物を含む、断熱材。
[10] 炭素数が1~8個のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、ラジカル重合開始剤と、架橋剤と、多官能チオールと、溶媒とを含む組成物であって、組成物の全質量を100質量%としたとき、上記溶媒の含有量が、68~80質量%であり、上記溶媒が、アルコール、及び、グリコールエーテルからなる群より選択される少なくとも1種である、組成物にエネルギーを付与して、硬化物を得る、硬化物の製造方法。
[11] 上記硬化物の気孔率が70%以上で、平均細孔径が3×10~1×10nmである、[10]に記載の硬化物の製造方法。
[12] 上記ラジカル重合開始剤が、光重合開始剤を含み、上記エネルギーの付与が、紫外線照射を含む、[10]又は[11]に記載の硬化物の製造方法。
[13] 上記溶媒が、炭素数が1~8個の1価アルコール、炭素数が2~8個の2価アルコール、及び、炭素数が3~8個のグリコールエーテルからなる群より選択される少なくとも1種である、[10]~[12]のいずれかに記載の硬化物の製造方法。
[14] 上記グリコールエーテルが、エチレングリコールモノエーテル、ジエチレングリコールモノエーテル、及び、トリエチレングリコールモノエーテルからなる群より選択される少なくとも1種である、[10]~[12]のいずれかに記載の硬化物の製造方法。
[15] 上記多官能チオールが、後述する式1で表される部分構造を含む、[10]~[14]のいずれかに記載の硬化物の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、優れた断熱性を有する硬化物を提供できる。また、本発明によれば、断熱材、及び、硬化物も提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】硬化物の製造方法のフロー図である。
図2】実施例1の硬化物の走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
図3】実施例2の硬化物のSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0010】
また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化した一例であって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、及び、配置等を下記の実施形態に特定するものではない。また、図面は模式的なものである。そのため、厚みと平面寸法との関係、比率等は現実のものとは異なる場合があり、また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なることがある。
【0011】
また、本明細書において、(メタ)アクリルとは、アクリル、及び/又は、メタクリルを意味し、(メタ)アクリロイルとは、アクリロイル、及び/又は、メタクリロイルを意味し、(メタ)アクリレートとは、アクリレート、及び/又は、メタクリレートを意味する。
【0012】
[硬化物]
本発明の実施形態に係る硬化物は、炭素数が1~8個のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、ラジカル重合開始剤と、架橋剤と、多官能チオールと、溶媒とを含む組成物を硬化させて得られる硬化物であって、組成物の全質量を100質量%としたとき、上記溶媒の含有量が、68~80質量%であり、溶媒が、アルコール、及び、グリコールエーテルからなる群より選択される少なくとも1種であり、気孔率が70%以上で、平均細孔径が3×10~1×10nmである、硬化物である。
【0013】
従来、ゾル-ゲル法によって低かさ密度多孔体を作製し、これを断熱材等に応用することが検討されてきた。特許文献1には、ビニルモノマーと、架橋剤と、ラジカル重合開始剤と、単官能の連鎖移動剤と、極性非プロトン性有機溶媒とを含む組成物を、窒素ガス下で硬化させて得たウェットゲルを乾燥させることで、優れた断熱性を有する多孔体が得られることが具体的に示されている。
【0014】
しかし、近年、断熱材等に求められる断熱性能は更に高水準となり、本発明者らは、特許文献1の方法で得られる多孔体では、断熱性が不十分であることを知見している。
【0015】
本発明者らは、特許文献1に記載の多孔体が、十分な断熱性を有さない理由について検討したところ、気孔率が具体的に示されたもので高々57%と、小さすぎる点(十分大きくない点)に問題の一端があることを見出した。気孔率が小さいことは、すなわち、硬化物の単位体積中における固相分が多いことを意味し、骨格による熱伝導が大きくなってしまうために、固相・気相の双方からの熱伝導を抑制できず、結果として十分な断熱性が得られないものと推測される。
【0016】
そこで、本発明者らは、特許文献1とは異なるアプローチで(メタ)アクリル酸アルキルエステルの重合体を骨格とする多孔体を作製することとした。その「異なるアプローチ」とは、相分離挙動を制御し、骨格・細孔の構造を所望のものとして、高い気孔率、高強度を有する硬化物を実現することである。
言い換えれば、気孔率を高く、かつ、細孔径が小さい硬化物が得られるよう、相分離挙動を制御する方法を着想した。この方法により得られる硬化物によれば、気相からの熱伝導をより低下させることができると本発明者らは考えたのである。
【0017】
通常、高分子溶液系における相分離は、少数相であるポリマー相が孤立したドメインを形成しやすく、界面張力によって定まるドメインの形は、自己相似的に粗大化していく。そのため、ポリマー(リッチ)相によって構成される骨格構造が肥大して、気孔率が高くなりにくく、十分な断熱性能が得られないことが多い。
【0018】
一方、本発明の硬化物は、骨格を形成するための成分、溶媒、及び、溶媒の量を所定の範囲に制御した組成物を用いて形成される。この組成物は、硬化反応の進行によって、相互連結構造を生じる相分離が起こり得るよう調整されたものである。なお、相互連結構造を生じる相分離としては、粘弾性相分離等が知られ、以下では、「相互連結構造を生じる相分離」について「粘弾性相分離等」ともいう。
【0019】
粘弾性相分離等は特殊な条件下、すなわち、本発明の硬化物の調製に使用されるような、モノマーと溶媒との相互作用、重合過程で生ずるオリゴマー・ポリマーと溶媒との相互作用、モノマーと溶媒との量比、及び、重合反応速度が厳密に調整された組成物の硬化反応によって引き起こされる相分離である。一般的な(海島構造を生ずる)相分離挙動が、界面張力を駆動力とし、多数相である溶媒リッチ相のマトリクス中に、ポリマーリッチ相のドメインが形成されて進むのに対し、粘弾性相分離等は、相分離初期の濃度ゆらぎの成長の際に過渡的なゲルが形成されることによって溶媒が吐き出され、多数相である溶媒リッチ相によって孤立したドロップレットが形成されていく。そして、ポリマーリッチ相は力学的なつり合いによって互いに連結したネットワーク構造を形成していく。
【0020】
一般的な相分離の結果として得られる粗大化したポリマーリッチ相(固相)と比較して、モノマー種、溶媒種、これらの量比、及び、重合反応速度を制御した組成物を硬化させて(粘弾性相分離等によって)得られるウェットゲルは、網目構造を有する骨格(ポリマーリッチ相、固相)と、連通孔構造の元となる溶媒リッチ相とを有する。
このような粘弾性相分離等による網目構造骨格と連通孔と有する硬化物(例えば、エアロゲル)は、従来の多孔体と比較して、気孔率が高く制御されているにもかかわらず、実用として十分な強度を有する。
【0021】
このような粘弾性相分離等を起こさせるためには、上述のとおり、モノマーと溶媒との相互作用、重合過程で生ずるオリゴマー・ポリマーと溶媒との相互作用、モノマーと溶媒との量比、及び、重合反応速度を適切に制御する必要がある。
詳細は後述するが、本発明の硬化物を得るために用いられる組成物は、まず、モノマーとして、炭素数が1~8個のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含む。アルキル基の炭素数を所定の範囲内とすることで、疎水効果を所定の範囲内に抑制し、海島構造を生じる(意図しない)相分離が起こることを抑制することができる。
【0022】
この特定のモノマーに対して、上記組成物は更に、特定の溶媒を、特定の量含む。これは、モノマーと溶媒との相互作用、重合過程で生ずるオリゴマー・ポリマーと溶媒との相互作用、モノマーと溶媒との量比とを適切に調整するものである。
具体的には、溶媒としてアルコール、及び、グリコールエーテルからなる群より選択される少なくとも1種が選択され、かつ、その量が、組成物の全質量を100質量%としたとき、68~80質量%とされている。溶媒の種類が上記と異なっていたり、又は、溶媒の種類が同一であったとしても溶媒の含有量が68質量%未満であったり、80質量%を超えたりすると、所望の相分離構造を得ることはできない。
【0023】
更に、上記組成物は重合速度の制御のために多官能チオールを含む。これにより重合反応速度が適切に制御される。
上記各要素の有機的な関係によって、はじめて所望の構造を有する硬化物が得られるものである。本発明の硬化物が所望の断熱性(低い熱伝導率)を有するのは、このような特殊な組成物を用いて、所定の気孔率、及び、平均細孔径を実現したためである。
【0024】
更に、本組成物が光重合開始剤を含有する場合、後述する実施例で示されるとおり、大気環境下における重合反応を経て硬化物(多孔体)を製造することが可能となる。これは、従来(特許文献1においても)、不活性ガス下で行われてきたラジカル重合による多孔体の形成とは一線を画し、産業応用への大きな優位性となる。
以下では、まず、本硬化物の製造に使用する組成物について説明する。
【0025】
(組成物)
本硬化物の製造に使用される組成物(以下、「本組成物」ともいう。)は、所定の炭素数のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、ラジカル重合開始剤と、架橋剤と、多官能チオールと、溶媒とを含む。以下では、組成物に含まれる各成分について詳述する。
【0026】
・(メタ)アクリル酸アルキルエステル
(メタ)アクリル酸アルキルエステル(以下、単に「モノマー」ともいう)は、架橋剤、及び、多官能チオールにより硬化して、硬化物の骨格を形成する成分である。
【0027】
組成物中の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有量は特に制限されないが、より優れた本発明の効果が得られる点で、組成物の全質量を100質量%としたとき、1~10質量%が好ましい。なお、(メタ)アクリル酸アルキルエステルは一種を単独で用いても、二種以上を併用してもよい。(メタ)アクリル酸アルキルエステルを二種以上併用する場合には、その合計含有量が上記範囲内であることが好ましい。
【0028】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルが有するアルキル基は、炭素数が1~8個であり、4個以下が好ましく、2個以下がより好ましい。
炭素数が上記数値範囲内であると、疎水作用を一定程度に抑え、後述する溶媒と適度な相溶性を有する。このように調整することで、ポリマー相の粗大化を抑制し、ゾル-ゲル反応過程で粘弾性相分離等を起こしやすくできる。
その結果、3次元網目構造を有する骨格(ポリマーリッチ相)と、連続孔(溶媒リッチ相が除去されたもの)とを有する硬化物が得られる。
【0029】
なお、本明細書において、(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、分子内に(メタ)アクリロイル基を1つ有する化合物を意味する。分子内に2つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物は、後述する「架橋剤」に含まれるものとする。
【0030】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルが有するアルキル基は直鎖状、分枝鎖状、又は、環状のいずれであってもよい。
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、及び、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等が挙げられる。
【0031】
・ラジカル重合開始剤
ラジカル重合開始剤としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、架橋剤、及び、多官能チオールとの反応を進行できれば、公知のラジカル重合開始剤が使用できる。このようなラジカル重合開始剤としては、例えば、熱重合開始剤、及び、光重合開始剤が挙げられ、これらを併用してもよい。
なかでも、反応速度が速く、反応速度の制御が容易である点で、光重合開始剤が好ましい。
【0032】
組成物中のラジカル重合開始剤の含有量は特に制限されないが、より優れた本発明の効果が得られる点で、組成物の全質量を100質量%としたとき、0.01~3質量%が好ましい。なお、ラジカル重合開始剤は一種を単独で用いても、二種以上を併用してもよい。ラジカル重合開始剤を二種以上併用する場合には、その合計含有量が上記範囲内であることが好ましい。
【0033】
熱重合開始剤としては、例えば、2,2′-アゾビスイソブチロニトリル、2,2′-アゾビス-2-メチルブチロニトリル、2,2′-アゾビス(2-メチルプロピオン酸)ジメチル、4,4′-アゾビス-4-シアノバレリアン酸、アゾビスイソバレロニトリル、2,2′-アゾビス(2-アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2′-アゾビス[2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2′-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二硫酸塩、2,2′-アゾビス(N,N′-ジメチレンイソブチルアミジン)、及び、2,2′-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]ハイドレート等のアゾ系開始剤;
【0034】
過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、ジ(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ-sec-ブチルパーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ヘキシルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシピバレート、ジラウロイルパーオキシド、ジ-n-オクタノイルパーオキシド、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジ(4-メチルベンゾイル)パーオキシド、ジベンゾイルパーオキシド、t-ブチルパーオキシイソブチレート、1,1-ジ(t-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、t-ブチルハイドロパーオキシド、及び、過酸化水素等の過酸化物系開始剤;
【0035】
過硫酸塩と亜硫酸水素ナトリウム、過酸化物とアスコルビン酸ナトリウム等の過酸化物と還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤;等が挙げられる。
【0036】
光重合開始剤としては、例えば、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド(商品名「Irgacure819」)、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド(商品名「LUCIRIN TPO」)等の比較的長波長(例えば、400nm以上)の紫外線に対して吸収帯を有する化合物を用いてもよい。
【0037】
また、比較的短波長(例えば、400nm未満)の紫外線に対して吸収帯を有するベンゾインエーテル系光重合開始剤、アセトフェノン系光重合開始剤、α-ケトール系光重合開始剤、光活性オキシム系光重合開始剤、ベンゾイン系光重合開始剤、ベンジル系光重合開始剤、ベンゾフェノン系光重合開始剤、ケタール系光重合開始剤、チオキサントン系光重合開始剤、及び、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤等を用いてもよく、これらを併用してもよい。
【0038】
ベンゾインエーテル系光重合開始剤としては、例えば、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、及び、アニソールメチルエーテル等が挙げられる。
【0039】
アセトフェノン系光重合開始剤としては、例えば、2,2-ジエトキシアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、4-フェノキシジクロロアセトフェノン、及び、4-t-ブチルジクロロアセトフェノン等が挙げられる。
【0040】
α-ケトール系光重合開始剤としては、例えば、2-メチル-2-ヒドロキシプロピオフェノン、及び、1-[4-(2-ヒドロキシエチル)フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン等が挙げられる。
【0041】
光活性オキシム系光重合開始剤としては、例えば、1-フェニル-1,2-プロパンジオン-2-(O-エトキシカルボニル)-オキシム等が挙げられる。
【0042】
ベンゾイン系光重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン等が挙げられる。
【0043】
ベンジル系光重合開始剤としては、例えば、ベンジル等が挙げられる。
【0044】
ベンゾフェノン系光重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、3,3′-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノン、ポリビニルベンゾフェノン、及び、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等が挙げられる。
【0045】
ケタール系光重合開始剤としては、例えば、ベンジルジメチルケタール等が挙げられる。
【0046】
チオキサントン系光重合開始剤としては、例えば、チオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-メチルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントン、及び、ドデシルチオキサントン等が挙げられる。
【0047】
アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤には、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド、及び、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0048】
組成物が光重合開始剤を含有する場合、熱重合開始剤のみを含有する場合と比較して、硬化に要する時間がより少なくなりやすい。そのため、大気環境下において硬化反応を実施しても、より優れた(より低い)熱伝導率を有する硬化物が得られやすい点で好ましい。
なお、光重合開始剤は、一形態として、ベンゾフェノン系光重合開始剤を含むことが好ましい。
【0049】
・架橋剤
架橋剤は、モノマーと反応して硬化し、硬化物の骨格形成する成分である。
組成物中の架橋剤の含有量は特に制限されないが、より優れた本発明の効果が得られる点で、組成物の全質量を100質量%としたとき、10~25質量%が好ましい。なお、架橋剤は一種を単独で用いても、二種以上を併用してもよい。架橋剤を二種以上併用する場合には、その合計含有量が上記範囲内であることが好ましい。
【0050】
架橋剤は特に制限されず、公知の架橋剤を使用できるが、モノマーとの反応中に相分離を起こしにくく、かつ、得られる硬化物がより優れた断熱性(より低い熱伝導率)を有しやすい観点から、多官能(メタ)アクリル酸エステル(多官能(メタ)アクリレート)化合物であることが好ましい。
なお、架橋剤がメルカプト基を有する場合、その個数は1個以下であり、メルカプト基を有しないことが好ましい。
【0051】
2官能(メタ)アクリレート化合物としては、ジオール、又は、ジオールにエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、又は、カプロラクトンを付加して得られたジオール誘導体を(メタ)アクリル酸と反応させてエステル化して得られるジ(メタ)アクリレート化合物が挙げられる。
【0052】
このとき、使用され得るジオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコ-ル、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,10-デカンジオール、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコール、トリシクロデカンジメタノール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA、水添ビスフェノールA、ジオキサングリコール、及び、ビスフェノキシフルオレンエタノール等が挙げられる。
【0053】
なかでも、より優れた本発明の硬化を有する硬化物が得られやすい観点で、上記ジオール、又は、ジオール誘導体の炭素数は、1~12個が好ましく、2~6個がより好ましい。
【0054】
3官能以上の(メタ)アクリレート化合物としては、多価アルコールと(メタ)アクリル酸のエステルが挙げられる。このような化合物としては、例えば、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテルトリ(メタ)アクリレート、エトキシ化イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、ε-カプロラクトン変性トリス(2-(メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、及び、エトキシ化グリセリントリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0055】
なかでも、より優れたより優れた本発明の硬化を有する硬化物が得られやすい観点で、架橋剤である(メタ)アクリレート化合物は、以下の式3で表される化合物が好ましい。
【0056】
【化4】
【0057】
式3中、Rは、水素原子、又は、メチル基を表す。
mは2以上の整数を表し、上限は特に制限されないが、6以下が好ましく、4以下がより好ましい。
Mは、m価の基を表し、ヘテロ原子を有していてもよいm価の炭化水素基を表し、典型的には、上述のジオール、又は、多価アルコールに由来する炭化水素基(例えば、トリメチロールプロパン残基、及び、ペンタエリトリトール残基等)又は、トリアジン環等であることが好ましい。Mの炭化水素基の炭素数としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する硬化物が得られやすい観点では、1~12個が好ましく、2~8個がより好ましく、3~6個が更に好ましい。
なお、すでに説明したとおり、組成物は、架橋剤として上述の(メタ)アクリレート化合物を単独で含有していてもよく、2種以上を含有してもよい。
【0058】
・多官能チオール
多官能チオール(多官能メルカプタン)は、いわゆる連鎖移動剤としての性質を有し、ラジカル反応の反応速度を向上させ、硬化を促進する機能を有する。
組成物中の多官能チオールの含有量は特に制限されないが、より優れた本発明の効果が得られる点で、多官能チオールの全質量を100質量%としたとき、1~10質量%が好ましい。なお、多官能チオールは一種を単独で用いても、二種以上を併用してもよい。多官能チオールを二種以上併用する場合には、その合計含有量が上記範囲内であることが好ましい。
【0059】
多官能チオール化合物としては、例えば、エチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオナート)、1,4-ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタン、1,3,5-トリス(3-メルカプトブチルオキシエチル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、トリメチロールエタントリス(3-メルカプトブチレート)、ペンタエリトリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)、ペンタエリトリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリトリトールテトラキス(メルカプトアセタート)、ジペンタエリトリトールヘキサキス(3-メルカプトプロピオネート)、及び、テトラエチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)等が挙げられる。
【0060】
なかでも、モノマー、及び、架橋剤とより優れた相溶性を有する点、並びに、硬化反応がより均一進行しやすい点で、多官能チオール化合物は、以下の式1で表される部分構造を有することが好ましく、分子内に2個以上有することがより好ましく、3個以上有することが更に好ましい。なお、上限の個数は特に制限されないが、6個以下が好ましく、4個以下がより好ましい。なお、式1中、*は結合位置を表す。
【0061】
【化5】
【0062】
また、より優れた本発明の効果を有する硬化物が得られやすい観点では、多官能チオール化合物は、以下の式2で表される化合物が好ましい。
【0063】
【化6】
【0064】
式2中、pは2以上の数を表し、3以上が好ましく、上限は特に制限されないが6以下が好ましく、4以下がより好ましい。また、Xはp価の基を表し、ヘテロ原子を有していてもよいp価の炭化水素基が好ましく、すでに説明したMと同様の基が挙げられる。
【0065】
・溶媒
組成物は、溶媒を含み、上記溶媒は、アルコール、及び、グリコールエーテルからなる群より選択される少なくとも1種である。すなわち、組成物が含む溶媒は、アルコール、及び、グリコールエーテルから選択される。
なお、本明細書において、アルコールとは、(アルコール性)ヒドロキシ基を1つ以上有する化合物であって、エーテル結合を含まない化合物を意味する。一方、グリコールエーテルとは、1気圧、25℃の環境下に置いて液体である化合物であって、分子内に少なくとも1つのエーテル結合を含み、かつ、ヒドロキシ基を含まないか、又は、1つ含む化合物を意味する。典型的には、ジオール、又は、その縮合体におけるヒドロキシ基の一方、又は、両方がエーテル化した化合物等が挙げられる。
【0066】
組成物中の溶媒の含有量は68~80質量%である。溶媒の含有量が、下限値未満であると、得られる硬化物に割れ、及び/又は、反りが発生しやすい。一方、上限値を超えると、得られる硬化物が脆くなりやすい。
なお、溶媒は一種を単独で用いても、二種以上を併用してもよい。溶媒を二種以上併用する場合には、その合計含有量が上記範囲内である。
【0067】
割れや反りは、系中の硬化反応の進行に不均一が生じていることを反映していると考えられる。割れや反りが生じた場合には、粘弾性相分離等による所期の連続構造が形成されておらず、結果として、気孔率、及び、平均細孔径が本願発明の所定の範囲に含まれないことの現れである。
【0068】
なお、より優れた本発明の効果が得られる点では、組成物中における溶媒の含有量は、70質量%以上が好ましく、72質量%以上がより好ましい。なお、組成物中の溶媒の含有量(質量%)は、少数第1位を四捨五入して求めるものとする。
【0069】
溶媒であるアルコールとしては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する硬化物が得られやすい点で、1価アルコール、及び、2価アルコールからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
このうち、1価アルコールとしては特に制限されないが、炭素数が1~12個であることが好ましく、1~8個であることがより好ましく、1~6個であることが更に好ましい。
1価アルコールの具体例としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-ブタノール、2-メチル-2-プロパノール、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、及び、3-ヘキサノール等が挙げられる。
【0070】
2価アルコールとしては特に制限されないが、アルカンジオールが好ましく、その炭素数が2~12個であることが好ましく、2~8個であることがより好ましく、1~6個であることが更に好ましい。
2価アルコールの具体例としては、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、及び、1,6-ヘキサンジオール等が挙げられる。
【0071】
グリコールエーテルとしては、特に制限されないが、具体的には、以下の化合物が挙げられる。
【0072】
エチレングリコールモノメチルエーテル(2-メトキシエタノール、炭素数3個)、エチレングリコールモノエチルエーテル(2-エトキシエタノール、炭素数4個)、エチレングリコールモノ-n-プロピルエーテル(2-プロポキシエタノール、炭素数5個)、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル(2-イソプロポキシエタノール、炭素数5個)、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル(2-ブトキシエタノール、炭素数6個)、エチレングリコールモノイソブチルエーテル(2-イソブトキシエタノール、炭素数6個)、エチレングリコールモノ-t-ブチルエーテル(2-tert-ブトキシエタノール、炭素数6個)、エチレングリコールモノ-2-メチルペンチルエーテル、エチレングリコールモノ-n-ヘキシルエーテル(2-(Hexyloxy)ethanol)、エチレングリコールモノ-2,4-ヘキサジエンエーテル、エチレングリコールモノ-2,6,8-トリメチル-4-ノニルエーテル、エチレングリコールモノアリルエーテル(アリルグリコール)、エチレングリコールモノビニルエーテル(2-ビニルオキシエタノール)、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノメチルフェニルエーテル、及び、エチレングリコールモノベンジルエーテル等のエチレングリコールモノエーテル;
【0073】
エチレングリコールジメチルエーテル(1,2-ジメトキシエタン、炭素数4個)、及び、エチレングリコールジエチルエーテル(炭素数6個)等のエチレングリコールジエーテル;
【0074】
ジエチレングリコールモノメチルエーテル(2-(2-メトキシエトキシ)エタノール、炭素数5個)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(エトキシジグリコール、炭素数6個)、ジエチレングリコールモノ-n-プロピルエーテル(2-(2-プロポキシエトキシ)エタノール)、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル(2-(2-ブトキシエトキシ)エタノール)、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル(2-(2-イソブトキシエトキシ)エタノール)、ジエチレングリコールモノ-n-ヘキシルエーテル(2-(2-ヘキシルオキシエトキシ)エタノール)、ジエチレングリコールモノメチルフェニルエーテル(2-(2-エトキシエトキシ)エタノール)、及び、ジエチレングリコールモノベンジルエーテル(2-[2-(ベンジルオキシ)エトキシ]エタノール)等のジエチレングリコールモノエーテル;
【0075】
ジエチレングリコールジメチルエーテル(炭素数6個)、及び、ジエチレングリコールジビニルエーテル等のジエチレングリコールジエーテル;
【0076】
トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、及び、トリエチレングリコールモノビニルエチルエーテル等のトリエチレングリコールモノエーテル;
【0077】
トリエチレングリコールジメチルエーテル、及び、トリエチレングリコールジビニルエーテル等のトリエチレングリコールジエーテル;
【0078】
テトラエチレングリコールモノフェニルエーテル等のテトラエチレングリコールモノエーテル;
【0079】
テトラエチレングリコールジエチルエーテル等のテトラエチレングリコールジエーテル;
【0080】
ポリエチレングリコールモノメチルエーテル等のポリエチレングリコールモノエーテル;
【0081】
プロピレングリコールモノメチルエーテル(1-メトキシ-2-プロパノール、炭素数4個)、プロピレングリコールモノエチルエーテル(1-エトキシ-2-プロパノール、炭素数5個)、プロピレングリコール-n-モノプロピルエーテル(1-プロポキシ-2-プロパノール、炭素数6個)、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール(炭素数6個)、プロピレングリコールモノイソプロピルエーテル(炭素数6個)、プロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノイソブチルエーテル、プロピレングリコールモノベンジルエーテル、プロピレングリコールモノアリルエーテル、及び、プロピレングリコールモノフェニルエーテル等のプロピレングリコールモノエーテル;
【0082】
プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール-n-ジプロピルエーテル、プロピレングリコールジイソプロピルエーテル、プロピレングリコールジn-ブチルエーテル、プロピレングリコールジイソブチルエーテル、プロピレングリコールジアリルエーテル、及び、プロピレングリコールジフェニルエーテル等のプロピレングリコールジエーテル;
【0083】
ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノイソブチルエーテル、及び、ジプロピレングリコールアリルエーテル等のジプロピレングリコールモノエーテル;
【0084】
ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジn-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールジイソブチルエーテル、及び、ジプロピレングリコールアリルエーテル等のジプロピレングリコールジエーテル;
【0085】
トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノイソブチルエーテル、及び、トリプロピレングリコールモノアリルエーテル等のトリプロピレングリコールモノエーテル;
【0086】
トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールジn-ブチルエーテル、トリプロピレングリコールジイソブチルエーテル、及び、トリプロピレングリコールジアリルエーテル等のトリプロピレングリコールジエーテル;
【0087】
ポリプロピレングリコールモノブチルエーテル等のポリプロピレングリコールモノエーテル;
【0088】
ブチレングリコールモノメチルエーテル(炭素数5個)、ブチレングリコールモノエチルエーテル(炭素数6個)、及び、ブチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル等のブチレングリコールモノエーテル;
【0089】
ブチレングリコールジメチルエーテル(炭素数6個)、ブチレングリコールジエチルエーテル、及び、ブチレングリコールジn-ブチルエーテル等のブチレングリコールジエーテル;等である。
【0090】
なかでも、より優れた本発明の効果を有する硬化物が得られやすい観点では、グリコールエーテルは、エチレングリコールモノエーテル、ジエチレングリコールモノエーテル、及び、トリエチレングリコールモノエーテルからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、エチレングリコールモノエーテル、又は、ジエチレングリコールモノエーテルがより好ましい。
【0091】
エチレングリコールモノエーテルとしては、他の成分との親和性により優れ、粘弾性相分離等を起しやすい観点から、エチレングリコールモノメチルエーテル(2-メトキシエタノール)、エチレングリコールモノエチルエーテル(2-エトキシエタノール)、エチレングリコールモノ-n-プロピルエーテル(2-プロポキシエタノール)、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル(2-イソプロポキシエタノール)、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル(2-ブトキシエタノール)、エチレングリコールモノイソブチルエーテル(2-イソブトキシエタノール)、エチレングリコールモノ-t-ブチルエーテル(2-tert-ブトキシエタノール)、エチレングリコールモノ-2-メチルペンチルエーテル、及び、エチレングリコールモノ-n-ヘキシルエーテル(2-(Hexyloxy)ethanol)からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、エチレングリコールモノメチルエーテル(2-メトキシエタノール)、エチレングリコールモノエチルエーテル(2-エトキシエタノール)、エチレングリコールモノ-n-プロピルエーテル(2-プロポキシエタノール)、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル(2-イソプロポキシエタノール)、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル(2-ブトキシエタノール)、エチレングリコールモノイソブチルエーテル(2-イソブトキシエタノール)、及び、エチレングリコールモノ-t-ブチルエーテル(2-tert-ブトキシエタノール)からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、エチレングリコールモノメチルエーテル(2-メトキシエタノール)、エチレングリコールモノエチルエーテル(2-エトキシエタノール)、エチレングリコールモノ-n-プロピルエーテル(2-プロポキシエタノール)、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル(2-イソプロポキシエタノール)、及び、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル(2-ブトキシエタノール)からなる群より選択される少なくとも1種が更に好ましい。
【0092】
また、グリコールエーテルの炭素数としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する硬化物が得られやすい点で、3~8個が好ましく、3~6個がより好ましい。なお、組成物が2種以上のグリコールエーテルを含有する場合、炭素数は、モル分率と炭素数との積の合計とする(上述のアルコールについても同様の計算方法とする)。
【0093】
・その他の成分
本組成物は、本発明の効果を奏する範囲内において、上記以外のその他の成分を含有していてもよい。その他の成分としてはフィラー、紫外線吸収剤、増白剤、酸化防止剤、及び、レベリング剤等が挙げられる。
【0094】
フィラーとしては、例えば、有機粒子、及び、無機粒子等などが挙げられ、無機粒子が好ましい。無機粒子としては、シリカ、ジルコニア、アルミナ、チタニア、酸化亜鉛、酸化ゲルマニウム、酸化インジウム、酸化スズ、インジウムスズ酸化物、酸化アンチモン、及び、酸化セリウム等の金属酸化物粒子;カーボンブラック、カーボンナノチューブ、及び、カーボンナノファイバー等の炭素材料粒子等が挙げられる。これらのフィラーは単独、又は、2種以上を組合せて使用できる。
また、フィラーとしては、セルロースナノファイバー、セルロースナノクリスタル、キチンナノファイバー、キチンナノクリスタル、及び、キトサンナノファイバー等のバイオ材料も使用できる。
【0095】
フィラーの形状は、球状、フレーク状、及び、繊維状のいずれであってもよく、これらを組み合わせたものであってもよい。粒径は特に制限されないが、一形態として、1~1000nmが好ましい。
【0096】
硬化物中におけるフィラーの含有量としては特に制限されないが、一形態として、硬化物の全質量を100質量%としたとき、0.1~60質量%が好ましい。
【0097】
(組成物の調製方法)
組成物は、上記の各成分を混合することにより製造できる。各成分の混合の順番としては特に制限されず、任意の順番で混合すればよい。例えば、溶媒に、ラジカル重合開始剤以外の成分を添加して攪拌、混合し、その後、ラジカル重合開始剤を添加することで調製できる。
【0098】
(硬化物の製造方法)
次に、硬化物の製造方法について、図面を参照しながら説明する。図1は、硬化物の製造方法のフロー図である。まず、ステップS1として、すでに説明した各成分を混合して、組成物を調製する。各成分の混合比、及び、調製方法についてはすでに説明したとおりであり、ここでは説明を省略する。
【0099】
次に、ステップS2として、組成物にエネルギーを付与して硬化させ、硬化済みの組成物(ウェットゲル)を得る。付与するエネルギーは、組成物に配合されるラジカル重合開始剤の種類に応じて適宜選択されればよい。例えば、組成物に熱重合開始剤が配合される場合には、少なくとも熱エネルギーを付与すればよく、組成物に光重合開始剤が配合される場合には、その吸収帯に応じた光エネルギーを少なくとも付与すればよい。なお、熱エネルギー、及び、光エネルギーの両方を付与してもよい。
【0100】
より具体的には、熱重合開始剤が配合される場合にあっては、窒素等の不活性ガス気流下で、50~150℃、1~30時間程度加熱すればよい。また、光重合開始剤が配合される場合にあっては、波長が200~500nm、より好ましくは、300~450nmの紫外線を照射すればよい。その際の照度は特に制限されないが、一形態として、5~200mW/cmが好ましい。また、紫外線の積算光量は、一形態として、100~20000mJ/cmが好ましいが、照射対象とする組成物(型)の形状、厚み、組成物中の成分等によって、積算光量は任意に調整すればよい。
【0101】
ステップS2は、組成物にエネルギーを付与する前に、更に組成物を所望の形状に成形する工程を有していてもよい。組成物を所望の形状に成形することで、その形状に応じた硬化物を得ることができる。
例えば、シート状の硬化物を得る場合には、組成物を公知の塗布技術を用いて、シート状の組成物層とすればよい。また、塊状の硬化物を得る場合には、内部にキャビティを有する型に組成物を注入すればよい。この際、硬化物を型から外しやすくするために、型に離型剤を塗布したり、型、又は、その表面をフッ素樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレン)で形成してもよい。
【0102】
次に、ステップS3で、ウェットゲルに含まれる溶媒等を、別の溶媒に置換(交換)する(溶媒交換工程)。更に、この工程は、同じ溶媒、又は、異なる溶媒を用いて、繰り返し行われてもよい。なお、本工程は必須ではなく、ステップS2でウェットゲルを得た後、本工程を経ずに、後述する乾燥工程を実施してもよい。
【0103】
溶媒交換工程で使用される溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール(2-プロパノール)、1-ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、キシレン、1,2-ジメトキシエタン、アセトニトリル、ヘキサン、トルエン、ジエチルエーテル、クロロホルム、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、塩化メチレン、N、N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、酢酸、及び、ギ酸等が挙げられる。上記の溶媒は単独で、又は、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0104】
溶媒工交換工程では、これらのうち、メタノール、エタノール、2-プロパノール、アセトン、及び、メチルエチルケトン等によって、ウェットゲルの洗浄を兼ねて複数回行った後、これを、より沸点の低く、及び/又は、より表面張力の低い溶媒に置換することが好ましい。
【0105】
表面張力のより低い溶媒を用いることで、乾燥工程における収縮による硬化物の構造の変化(ダメージ)をより抑制することができる。このような溶媒としては、例えば、20℃における表面張力が45mN/m以下の溶媒が挙げられる。より具体的には、ジメチルスルホキシド(43.5mN/m)、シクロヘキサン(25.2mN/m)、イソプロピルアルコール(21mN/m)、ヘプタン(20.2mN/m)、n-ヘキサン(18.4mN/m)、及び、ペンタン(15.5mN/m)等が挙げられる。
【0106】
なお、溶媒交換工程に用いる溶媒としては、20℃における表面張力が、45mN/m以下が好ましく、30mN/m以下がより好ましく、25mN/m以下がより好ましく、20mN/m以下が更に好ましい。なかでも、20℃における表面張力が15~40mN/mの範囲である脂肪族炭化水素を含む溶媒が好ましい。なお、上記溶媒は、単独で、又は、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0107】
溶媒交換工程において使用される溶媒の量は、溶媒交換の温度、装置(容器)にもよるが、一形態として、ウェットゲルの容量に対し、2~100倍の量を使用することが好ましい。溶媒交換は1回行ってもよく、複数回行ってもよい。
また、溶剤交換の方法は、全置換、部分置換、及び、循環置換のいずれの方法であってもよい。
【0108】
また、溶媒交換を複数回行う場合には、使用する溶媒の種類、温度、及び、処理時間等を各回で独立に設定してよい。
【0109】
次に、ステップS4において、ウェットゲルから揮発成分(未反応のモノマー、オリゴマー、及び、溶媒等)が除去され、所定の気孔率、及び、平均細孔径を有する硬化物を得る(乾燥工程)。
【0110】
乾燥の方法は特に制限されず、蒸発乾燥法、超臨界乾燥法、及び、凍結乾燥法等が使用できる。
蒸発乾燥法は、一形態としては、硬化後の組成物(ウェットゲル)を密閉容器中で、24~72時間かけて室温で乾燥させ、その後、加熱(例えば90℃程度まで)して揮発成分を除去する方法が挙げられる。なお、この際、減圧してもよい。
【0111】
また、超臨界乾燥法は、一形態としては、ウェットゲルに含まれる揮発成分の臨界点以上の温度、及び、圧力にて揮発成分を除去する方法が挙げられる。他の形態としては、ウェットゲルを、液化二酸化炭素中に、例えば、20~25℃、5~20MPa程度の条件で浸漬することで、ウェットゲルに含まれる揮発成分の全部又は一部を二酸化炭素に置換した後、これを除去する方法が挙げられる。
【0112】
(硬化物の物性)
・気孔率
上記により得られる硬化物の気孔率は、70%以上である。気孔率が70%未満であると、断熱性に劣る。上限は特に制限されないが、硬化物がより優れた強度を有する観点では、90%以下が好ましく、80%以下がより好ましい。気孔率が75%以下であると、断熱性がより高くなりやすく、(言い換えれば、熱伝導率がより低くなりやすく)、強度とのバランスにもより優れる。
なお、本明細書において、「気孔率」は、実施例に記載した方法により測定・計算した気孔率(%)を意味し、少数第1位を四捨五入して求めるものとする。
【0113】
・平均細孔径
本硬化物の平均細孔径は3×10~1×10nmである。平均細孔径が3×10nm未満である場合、又は、平均細孔径が1×10nmを超える場合、断熱性に劣る。なかでも、硬化物が、より優れた本発明の効果を有する点で、平均細孔径は5×10nm以下であることが好ましい。
なお、本明細書において、「平均細孔径」は、実施例に記載した方法により測定・計算した平均細孔径を意味し、有効数字1桁で求めるものとする。
【0114】
本硬化物は優れた断熱性(低い熱伝導)率を有しており、一形態として、0.0400W/m/K以下が好ましく、0.0300W/m/K以下がより好ましい。下限としては特に制限されないが、一形態としては、0.0100W/m/K以上が好ましく、0.0200W/m/K以上がより好ましい。
【0115】
また、本発明の硬化物は上記のような高い気孔率、小さな細孔径を有しているにもかかわらず、断熱材等に十分に適用可能な程度に十分な強度を有していることが好ましい。また、板材として成形した場合に、反りや割れが生じず、表面にタックを有しないことが好ましい。
【0116】
上述の組成物を硬化して得られる硬化物は、後段の実施例において示されたSEM画像のとおり、3次元網目構造の骨格と、連続孔とを有している。そのため、気孔率が高くても、重合体により形成された骨格が全体を支え、結果として実用的な強度が得られるものと推測される。
【0117】
硬化物の大きさ、形状等は特に制限されず、用途に応じて適宜調整されればよい。本硬化物は、上述のとおり所定の多官能チオールを含有する組成物を硬化させて形成される。そのため、厚肉の成形体でも、薄膜でも、均一に硬化反応が進みやすい。更に、組成物が光重合開始剤を含有する場合、紫外線照射によって大気下で迅速に反応が進むため、形状を問わず、より均一な構造を有する硬化物が得られやすい。
【0118】
(硬化物の用途)
本硬化物は、複雑な形状であっても、簡単に成形することができ優れた断熱性能(低い熱伝導率)を有するため、断熱材として好ましく使用可能である。
また、繊維等のフィラーによって強度を高めることで、建材等様々な用途に適用可能である。
【0119】
本発明の硬化物を含む断熱材は、食品用、及び/又は、医療用の保冷温容器;冷凍庫、及び、冷蔵庫等の保冷温機器;にも利用可能である。
また、本発明の硬化物は、薄膜とすることができるため、電子基板用の断熱材等としても利用可能である。
【実施例0120】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0121】
(実施例1)
2-エトキシエタノールの14.5g(0.16mol)に、メタクリル酸メチルの0.94g(9.4mmol)、トリメタクリル酸トリメチロールプロパンの3.2g(9.4mmol)、ペンタエリトリトールテトラキス(メルカプトアセタート)の0.7g(1.6mmol)を加えてよく撹拌し、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンの0.1gを溶解させ、組成物を得た。
【0122】
得られた組成物(反応ゾル)をPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製の型に注いだ後、石英ガラスをかぶせ、ハンディUV1200mW(マリオネットワーク社製)を10cmの距離に固定して150秒間照射し、硬化(ゲル化)させた。
型からゲルを取りだして2-プロパノールで浸漬洗浄を繰り返した後、ヘキサンに浸漬して、室温で溶媒交換を行った。その後、40℃、10MPaの条件で超臨界乾燥を行い、実施例1の硬化物を得た。
【0123】
(実施例2)
2-エトキシエタノールを19.3g(0.21mol)用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2の硬化物を得た。
【0124】
(実施例3)
2-エトキシエタノールに代えて、2-メトキシエタノールを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3の硬化物を得た。
【0125】
(比較例1~3)
組成物中の2-エトキシエタノールの量を表1に記載されたとおりとしたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1~3の硬化物を得た。
【0126】
(比較例4)
ペンタエリトリトールテトラキス(メルカプトアセタート)を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして、比較例4の硬化物を得た。
【0127】
(比較例5)
ペンタエリトリトールテトラキス(メルカプトアセタート)の1.6mmolに代えて、以下の構造を有する3-メルカプトプロピオン酸イソオクチルの1.5mmolを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例5の硬化物を得た。
【化7】
【0128】
(比較例6)
ペンタエリトリトールテトラキス(メルカプトアセタート)の1.6mmolに代えて、3-メルカプトプロピオン酸イソオクチルの6mmolを用いたこと以外は、実施例2と同様にして、比較例6の硬化物を得た。
【0129】
(比較例7)
2-エトキシエタノールに代えて、質量基準で同量のDMF(N,N-ジメチルホルムアミド)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例7の硬化物を得た。
【0130】
(比較例8)
2-エトキシエタノールに代えて、質量基準で同量のDMFを用いたこと以外は、実施例2と同様にして、比較例8の硬化物を得た。
【0131】
(気孔率測定)
硬化物の体積をノギスで各辺を測定することで求め、精密天秤にて測定した質量から、硬化物の嵩密度を計算した。このかさ密度をPMMA(ポリメチルメタクリレート)の一般的な真密度値1.2g・cm-3で除することで空間に占める骨格の割合(%)を求めた。100%から求めた数値を引いたものを気孔率とした。
【0132】
(平均細孔径測定)
SEM(走査型電子顕微鏡、日立ハイテク製「SU8000」)によって得られた、倍率2~5万倍の像に対し、ソフトウェア「ImageJ2/Fiji」で画像解析を行なった。画像上に直線をランダムに20本以上引き、細孔部の平均長を用いた。
図2、及び、図3は、それぞれ実施例1、及び、実施例2のSEM像である。なお、画像の倍率は、上記(2~5万倍)とは異なる。
【0133】
平均細孔径の測定方法について、より詳細には以下のとおりである。
・測定箇所:試料の中央部切断面とする。表面は構造が乱れるスキン層となるため使用しない。
・倍率の決定方法:細孔径が視野の長辺に対しての10~30%程度になるような倍率とする。
・画像の使用枚数:3~5枚とする。
・直線の引き方:各画像の端から端まで引く。
・直線本数の決定方法:細孔の大きさ・数により目視で必要本数を決定する。
・直線の引き方:画像中の細孔がない部分を避けてマニュアル操作にて引く。各直線は交わってよい。
細孔部の平均長の算出方法:細孔部の長さを合計し、細孔部の数で割って求める。なお、明らかな外れ値(他の値より3割以下)は除くものとする。上記により、有効数字1桁で求める。
【0134】
(熱伝導率測定)
35×35×3mmのサンプルを18枚作製して隙間なく敷き詰め、105×105×6mmの大きさとした。熱伝導率測定装置「NETZSCH HFM 446 Lambda Small」を用いてHFM法で上面25℃/下面15℃(平均20℃)における熱伝導率を測定した。
【0135】
(結果)
表1は、実施例、及び、比較例の硬化物の作製に用いた組成物の成分と各試験の結果の表である。なお、「-」は測定を行わなかった(又は、行えなかった)ことを表している。
実施例1、及び、実施例2の硬化物は、いずれも割れ、反り、べたつき等はなく、また、十分な強度を有していた。これらの硬化物はいずれも気孔率が70%以上であり、かつ、平均細孔径が3×10~1×10nmであり、優れた(低い)熱伝導率を有していた。
【0136】
また、気孔率が75%以下であって、かつ、平均細孔径が、5×10nm以下である、実施例1の硬化物は、実施例2の硬化物と比較して、より優れた(より低い)熱伝導率を有していた。
【0137】
一方、グリコールエーテルの含有量が、組成物の全質量に対して、68質量%未満である比較例1、及び、比較例2の組成物を硬化させて得られた硬化物は、備考欄に記載のとおり、「反り」が発生(比較例1は「割れ」も発生)した。そのため、熱伝導率の測定は実施できなかった。
【0138】
また、グリコールエーテルの含有量が、組成物の全質量に対して80質量%を超える比較例3の組成物を硬化させて得られた硬化物は、脆く、強度が不十分であった。そのため、熱伝導率の測定は実施しなかった。
【0139】
また、多官能チオールを含有しない比較例4の組成物は、十分硬化せず、熱伝導率の測定は実施できなかった。
【0140】
また、多官能チオールに代えて、単官能チオールを用いた比較例5、6の組成物を硬化させて得られた硬化物は、「反り」が発生した。そのため、熱伝導率の測定は実施できなかった。
【0141】
また、2-エトキシエタノールに代えて、DMFを用いて比較例7、及び、比較例8の硬化物は、べたつきを生じ、また、再現性に劣り、熱伝導率の測定は実施しなかった。
【0142】
一方、2-エトキシエタノールに代えて、2-メトキシエタノールを用いた実施例3の硬化物は、実施例1の硬化物と概ね同等の性能を有していた。
【0143】
【表1】
【0144】
なお、表1中、「モノマー」とあるのは、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを意味し、「MMA」はメタクリル酸メチルを意味する。また、「TMPMP」は、トリメタクリル酸トリメチロールプロパンを意味し、「TECH」はペンタエリトリトールテトラキス(メルカプトアセタート)を意味し、「5C」は、3-メルカプトプロピオン酸イソオクチル」を意味し、「EEOH」は2-エトキシエタノールを意味する。
図1
図2
図3