(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024130
(43)【公開日】2024-02-22
(54)【発明の名称】液体組成物中のホルムアルデヒドを低減する方法及び液体組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08K 5/18 20060101AFI20240215BHJP
C08L 61/20 20060101ALI20240215BHJP
C08K 5/37 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
C08K5/18
C08L61/20
C08K5/37
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020219440
(22)【出願日】2020-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100163038
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 武志
(74)【代理人】
【識別番号】100193725
【弁理士】
【氏名又は名称】小森 幸子
(74)【代理人】
【識別番号】100207240
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 喜弘
(72)【発明者】
【氏名】井上 翔太
(72)【発明者】
【氏名】西村 直也
(72)【発明者】
【氏名】畑中 真
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CC161
4J002CC181
4J002CC211
4J002EN076
4J002EN116
4J002EU046
4J002EV056
4J002EV066
4J002EV086
(57)【要約】
【課題】液体組成物中のホルムアルデヒドを、少量のホルムアルデヒド捕捉剤の添加により低減する方法を提供する。
【解決手段】ホルムアルデヒド捕捉剤を液体組成物に添加する工程を含む、液体組成物中のホルムアルデヒドを低減する方法であって、前記ホルムアルデヒド捕捉剤は、芳香族アミノ基及びメルカプト基から選択される基Aを有するとともに、芳香族アミノ基、脂肪族アミノ基、保護基で置換されたアミノ基、ヒドロキシ基及びメルカプト基から選択される基Bを有し、ホルムアルデヒドと前記基Aと前記基Bとが反応することにより5員環又は6員環を形成する化合物である、組成物中のホルムアルデヒドを低減する方法が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホルムアルデヒド捕捉剤を液体組成物に添加する工程を含む、液体組成物中のホルムアルデヒドを低減する方法であって、前記ホルムアルデヒド捕捉剤は、
芳香族アミノ基及びメルカプト基から選ばれる基Aを有するとともに、芳香族アミノ基、脂肪族アミノ基、保護基で置換されたアミノ基、ヒドロキシ基及びメルカプト基から選ばれる基Bを有し、ホルムアルデヒドと前記基Aと前記基Bとが反応することにより5員環又は6員環を形成する化合物である、液体組成物中のホルムアルデヒドを低減する方法。
【請求項2】
前記液体組成物が、N-メチロール基及びN-アルコキシメチル基の少なくともいずれかを有する化合物を含有する液体組成物である、請求項1に記載の液体組成物中のホルムアルデヒドを低減する方法。
【請求項3】
前記基Bが、芳香族アミノ基、脂肪族アミノ基及びメルカプト基から選ばれる、請求項1又は2に記載の液体組成物中のホルムアルデヒドを低減する方法。
【請求項4】
前記ホルムアルデヒド捕捉剤は、2-メルカプトエタノール、2-アミノエタンチオール、1,2-ジチオエタン、3-メルカプトプロパノール、1-アミノ-3-メルカプトプロパン、1,3-ジチオプロパン、α-チオグリセロール、ジメルカプロール、ジメルカプトペンタエリストール、トリメルカプトペンタエリストール、テトラメルカプトペンタエリストール、トリメルカプトトリメチロールプロパン、DL-ジチオトレイトール、L-システイン、N-アセチル-L-システイン、2,3-ジアミノピリジン、3,4-ジアミノ安息香酸及び1,8-ジアミノナフタレンからなる群から選択される少なくとも一種の化合物である、請求項1又は2に記載の液体組成物中のホルムアルデヒドを低減する方法。
【請求項5】
前記ホルムアルデヒド捕捉剤は、2-アミノエタンチオール、α-チオグリセロール、DL-ジチオトレイトール、N-アセチル-L-システイン及び1,8-ジアミノナフタレンからなる群から選択される少なくとも一種の化合物である、請求項4に記載の液体組成物中のホルムアルデヒドを低減する方法。
【請求項6】
前記添加する工程における前記ホルムアルデヒド捕捉剤の添加量は、前記ホルムアルデヒド捕捉剤を添加する前の前記液体組成物中におけるホルムアルデヒドのモル当量に対して、20モル当量以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の液体組成物中のホルムアルデヒドを低減する方法。
【請求項7】
前記N-メチロール基及びN-アルコキシメチル基の少なくともいずれかを有する化合物は、アルコキシメチル化グリコールウリル、アルコキシメチル化ベンゾグアナミン、アルコキシメチル化メラミン、N-メチロール基又はN-アルコキシメチル基で置換されたアクリルアミド化合物もしくはメタクリルアミド化合物並びにウレタン結合の窒素原子にメチロール基及びアルコキシメチル基の少なくともいずれかが結合した構造を有する化合物からなる群から選択される少なくとも一種の化合物である、請求項2~6のいずれか一項に記載の液体組成物中のホルムアルデヒドを低減する方法。
【請求項8】
前記液体組成物は、電子デバイス用の液体の樹脂組成物である、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物中のホルムアルデヒドを低減する方法。
【請求項9】
ホルムアルデヒド捕捉剤を液体組成物に添加する工程を含む、液体組成物の製造方法であって、前記ホルムアルデヒド捕捉剤は、芳香族アミノ基及びメルカプト基から選ばれる基Aを有するとともに、芳香族アミノ基、脂肪族アミノ基、保護基で置換されたアミノ基、ヒドロキシ基及びメルカプト基から選ばれる基Bを有し、ホルムアルデヒドと前記基Aと前記基Bとが反応することにより5員環又は6員環を形成する化合物である、液体組成物の製造方法。
【請求項10】
前記液体組成物が、N-メチロール基及びN-アルコキシメチル基の少なくともいずれかを有する化合物を含有する液体組成物である、請求項9に記載の液体組成物の製造方法。
【請求項11】
前記基Bが、芳香族アミノ基、脂肪族アミノ基及びメルカプト基から選ばれる、請求項9又は10に記載の液体組成物の製造方法。
【請求項12】
前記ホルムアルデヒド捕捉剤は、2-メルカプトエタノール、2-アミノエタンチオール、1,2-ジチオエタン、3-メルカプトプロパノール、1-アミノ-3-メルカプトプロパン、1,3-ジチオプロパン、α-チオグリセロール、ジメルカプロール、ジメルカプトペンタエリストール、トリメルカプトペンタエリストール、テトラメルカプトペンタエリストール、トリメルカプトトリメチロールプロパン、DL-ジチオトレイトール、L-システイン、N-アセチル-L-システイン、2,3-ジアミノピリジン、3,4-ジアミノ安息香酸及び1,8-ジアミノナフタレンからなる群から選択される少なくとも一種の化合物である、請求項9又は10に記載の液体組成物の製造方法。
【請求項13】
前記ホルムアルデヒド捕捉剤は、2-アミノエタンチオール、α-チオグリセロール、DL-ジチオトレイトール、N-アセチル-L-システイン及び1,8-ジアミノナフタレンからなる群から選択される少なくとも一種の化合物である、請求項12に記載の液体組成物の製造方法。
【請求項14】
前記添加する工程における前記ホルムアルデヒド捕捉剤の添加量は、前記ホルムアルデヒド捕捉剤を添加する前の前記液体組成物中におけるホルムアルデヒドのモル当量に対して、20モル当量以下である、請求項9~13のいずれか一項に記載の液体組成物の製造方法。
【請求項15】
前記N-メチロール基及びN-アルコキシメチル基の少なくともいずれかを有する化合物は、アルコキシメチル化グリコールウリル、アルコキシメチル化ベンゾグアナミン、アルコキシメチル化メラミン、N-メチロール基又はN-アルコキシメチル基で置換されたアクリルアミド化合物もしくはメタクリルアミド化合物並びにウレタン結合の窒素原子にメチロール基及びアルコキシメチル基の少なくともいずれかが結合した構造を有する化合物からなる群から選択される少なくとも一種の化合物である、請求項10~14のいずれか一項に記載の液体組成物の製造方法。
【請求項16】
前記液体組成物は、電子デバイス用の液体の樹脂組成物である、請求項9~15のいずれか一項に記載の液体組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体組成物中のホルムアルデヒドを低減する方法及び液体組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メラミン樹脂や尿素樹脂のようなN-メチロール基及びN-アルコキシメチル基の少なくともいずれかを有する化合物は、同分子間で反応することや他樹脂成分と反応することにより、予てから塗料や建材に使用される樹脂組成物に添加されてきた。特にメラミン誘導体やその他のメチロール化合物は高い反応性と貯蔵安定性を有し、半導体のような電子デバイスに用いられる高機能性材料において、今日でも重要な役割を担っている。
【0003】
しかし、N-メチロール基を有する化合物はアミノ基とホルムアルデヒドが反応することでN-メチロール基を形成して得られることから、原理的にホルムアルデヒドを微量に含有することが多い。ホルムアルデヒドは2020年11月現在において毒物劇物取締法の劇物に指定されており、生体に対して高い毒性を有する。また国際がん研究機関により発癌性を有することが示されている。さらに建材や家具に使用された化合物からホルムアルデヒドが空気中に放出され、シックハウス症候群を引き起こすことが問題になっている。従って、N-メチロール基及びN-アルコキシメチル基の少なくともいずれかを有する化合物を製品に使用する場合は、製造を行う事業者や製品を使用する消費者の安全性を確保するために、組成物中のホルムアルデヒド濃度を低減する、また特に成型品や塗料であれば気相や液層への放出を抑制する必要があった。
【0004】
ところで、樹脂組成物にホルムアルデヒドと相互作用する化合物を添加することで、樹脂組成物中における濃度の低減及び成型品や塗料からの放出抑制を目指す開発がなされてきた。
【0005】
特許文献1は、ビニルエステル樹脂からなる成型品から放散するホルムアルデヒド等の揮発性有機分子を低減するために、組成物中にエチレン尿素やアジピン酸ジヒドラジドを添加することが開示されている。上記化合物のアミノ基又はヒドラジド基が成型品中のホルムアルデヒドと相互作用することでホルムアルデヒドの放散を防止していると考えられる。
【0006】
特許文献2は、ポリアセタール樹脂成型品からのホルムアルデヒド放出を抑制する方法が開示されている。この文献ではホルムアルデヒドを低減する効果を高めるためにホルムアルデヒド捕捉剤として使用されるジヒドラジド化合物以外にもポリエチレンワックス、ポリエチレン樹脂、シリコーン、ヒンダードフェノールを混ぜることで効果を促進している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-085508号公報
【特許文献2】特開2008-214290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ホルムアルデヒドを含有する液体の樹脂組成物等の液体組成物を用いて製造を行う場合には、作業者が揮発したホルムアルデヒドに暴露する可能性があるため、液体組成物中のホルムアルデヒドを低減することが重要となる。しかし先行特許の多くは成型品や塗料、接着剤からのホルムアルデヒドの放出を抑制するためのものが多く、液体組成物中に存在するホルムアルデヒドそのものを低減するための技術は少ない。
【0009】
また、液体組成物中のホルムアルデヒドを低減する目的で販売されているホルムアルデヒド捕捉剤では組成物に数%から多くて20%程度まで添加することが推奨されており、組成物自体の機能を著しく低下させる恐れがある。特に、特許文献2のように複数の成分を添加する場合においても添加した成分の種類が増えるほど組成物本来の性能に影響が及ぶリスクが高まる。
【0010】
従って、ホルムアルデヒド捕捉剤の添加量がごく少量であっても、液体組成物中に含まれるホルムアルデヒドの量を十分に低減することができる方法が求められている。また、ホルムアルデヒド捕捉剤における単一成分の添加によって、液体組成物中のホルムアルデヒドの量を十分に低減することができる方法が求められている。さらに液体組成物の中でも、特にN-メチロール基及びN-アルコキシメチル基の少なくともいずれかを有する化合物を含有する液体組成物中のホルムアルデヒドを十分に低減する方法が求められている。
【0011】
本発明は、以上の知見や検討結果に基づいてなされたものである。すなわち、本発明の目的は、液体組成物中のホルムアルデヒドを、少量のホルムアルデヒド捕捉剤の添加により低減する方法及び当該方法を用いて液体組成物を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、特定のホルムアルデヒド捕捉剤を、液体組成物に添加する工程を含むことにより、少量の添加であっても液体組成物中のホルムアルデヒド濃度を十分に低減することが可能であることを発見し、以下の要旨を有する本発明を完成させた。
【0013】
すなわち、本発明は以下を包含する。
[1] ホルムアルデヒド捕捉剤を液体組成物に添加する工程を含む、液体組成物中のホルムアルデヒドを低減する方法であって、上記ホルムアルデヒド捕捉剤は、
芳香族アミノ基及びメルカプト基から選ばれる基Aを有するとともに、芳香族アミノ基、脂肪族アミノ基、保護基で置換されたアミノ基、ヒドロキシ基及びメルカプト基から選ばれる基Bを有し、ホルムアルデヒドと上記基Aと上記基Bとが反応することにより5員環又は6員環を形成する化合物である、液体組成物中のホルムアルデヒドを低減する方法。
[2] 上記液体組成物が、N-メチロール基及びN-アルコキシメチル基の少なくともいずれかを有する化合物を含有する液体組成物である、[1]に記載の液体組成物中のホルムアルデヒドを低減する方法。
[3] 上記基Bが、芳香族アミノ基、脂肪族アミノ基及びメルカプト基から選ばれる、[1]又は[2]に記載の液体組成物中のホルムアルデヒドを低減する方法。
[4] 上記ホルムアルデヒド捕捉剤は、2-メルカプトエタノール、2-アミノエタンチオール、1,2-ジチオエタン、3-メルカプトプロパノール、1-アミノ-3-メルカプトプロパン、1,3-ジチオプロパン、α-チオグリセロール、ジメルカプロール、ジメルカプトペンタエリストール、トリメルカプトペンタエリストール、テトラメルカプトペンタエリストール、トリメルカプトトリメチロールプロパン、DL-ジチオトレイトール、L-システイン、N-アセチル-L-システイン、2,3-ジアミノピリジン、3,4-ジアミノ安息香酸及び1,8-ジアミノナフタレンからなる群から選択される少なくとも一種の化合物である、[1]又は[2]に記載の液体組成物中のホルムアルデヒドを低減する方法。
[5] 上記ホルムアルデヒド捕捉剤は、2-アミノエタンチオール、α-チオグリセロール、DL-ジチオトレイトール、N-アセチル-L-システイン及び1,8-ジアミノナフタレンからなる群から選択される少なくとも一種の化合物である、[4]に記載の液体組成物中のホルムアルデヒドを低減する方法。
[6] 上記添加する工程における上記ホルムアルデヒド捕捉剤の添加量は、上記ホルムアルデヒド捕捉剤を添加する前の上記液体組成物中におけるホルムアルデヒドのモル当量に対して、20モル当量以下である、[1]~[5]のいずれかに記載の液体組成物中のホルムアルデヒドを低減する方法。
[7] 上記N-メチロール基及びN-アルコキシメチル基の少なくともいずれかを有する化合物は、アルコキシメチル化グリコールウリル、アルコキシメチル化ベンゾグアナミン、アルコキシメチル化メラミン、N-メチロール基又はN-アルコキシメチル基で置換されたアクリルアミド化合物もしくはメタクリルアミド化合物並びにウレタン結合の窒素原子にメチロール基及びアルコキシメチル基の少なくともいずれかが結合した構造を有する化合物からなる群から選択される少なくとも一種の化合物である、[2]~[6]のいずれかに記載の液体組成物中のホルムアルデヒドを低減する方法。
[8] 上記液体組成物は、電子デバイス用の液体の樹脂組成物である、[1]~[7]のいずれかに記載の組成物中のホルムアルデヒドを低減する方法。
[9] ホルムアルデヒド捕捉剤を液体組成物に添加する工程を含む、液体組成物の製造方法であって、上記ホルムアルデヒド捕捉剤は、芳香族アミノ基及びメルカプト基から選ばれる基Aを有するとともに、芳香族アミノ基、脂肪族アミノ基、保護基で置換されたアミノ基、ヒドロキシ基及びメルカプト基から選ばれる基Bを有し、ホルムアルデヒドと上記基Aと上記基Bとが反応することにより5員環又は6員環を形成する化合物である、液体組成物の製造方法。
[10] 上記液体組成物が、N-メチロール基及びN-アルコキシメチル基の少なくともいずれかを有する化合物を含有する液体組成物である、[9]に記載の液体組成物の製造方法。
[11] 上記基Bが、芳香族アミノ基、脂肪族アミノ基及びメルカプト基から選ばれる、[9]又は[10]に記載の液体組成物の製造方法。
[12] 上記ホルムアルデヒド捕捉剤は、2-メルカプトエタノール、2-アミノエタンチオール、1,2-ジチオエタン、3-メルカプトプロパノール、1-アミノ-3-メルカプトプロパン、1,3-ジチオプロパン、α-チオグリセロール、ジメルカプロール、ジメルカプトペンタエリストール、トリメルカプトペンタエリストール、テトラメルカプトペンタエリストール、トリメルカプトトリメチロールプロパン、DL-ジチオトレイトール、L-システイン、N-アセチル-L-システイン、2,3-ジアミノピリジン、3,4-ジアミノ安息香酸及び1,8-ジアミノナフタレンからなる群から選択される少なくとも一種の化合物である、[9]又は[10]に記載の液体組成物の製造方法。
[13] 上記ホルムアルデヒド捕捉剤は、2-アミノエタンチオール、α-チオグリセロール、DL-ジチオトレイトール、N-アセチル-L-システイン及び1,8-ジアミノナフタレンからなる群から選択される少なくとも一種の化合物である、[12]に記載の液体組成物の製造方法。
[14] 上記添加する工程における上記ホルムアルデヒド捕捉剤の添加量は、上記ホルムアルデヒド捕捉剤を添加する前の上記液体組成物中におけるホルムアルデヒドのモル当量に対して、20モル当量以下である、[9]~[13]のいずれかに記載の液体組成物の製造方法。
[15] 上記N-メチロール基及びN-アルコキシメチル基の少なくともいずれかを有する化合物は、アルコキシメチル化グリコールウリル、アルコキシメチル化ベンゾグアナミン、アルコキシメチル化メラミン、N-メチロール基又はN-アルコキシメチル基で置換されたアクリルアミド化合物もしくはメタクリルアミド化合物並びにウレタン結合の窒素原子にメチロール基及びアルコキシメチル基の少なくともいずれかが結合した構造を有する化合物からなる群から選択される少なくとも一種の化合物である、[10]~[14]のいずれかに記載の液体組成物の製造方法。
[16]
上記液体組成物は、電子デバイス用の液体の樹脂組成物である、[9]~[15]のいずれかに記載の液体組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、液体組成物中のホルムアルデヒドを、少量のホルムアルデヒド捕捉剤の添加により低減する方法及び当該方法を用いて液体組成物を製造する方法を提供することを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、以下に記載する構成要件の説明は、本発明を説明するための例示であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。
【0016】
本発明の方法は、特定のホルムアルデヒド捕捉剤を、液体組成物に添加する工程を含む、液体組成物中のホルムアルデヒドを低減する方法及び液体組成物の製造方法に関する。
【0017】
以下、本発明の方法におけるホルムアルデヒド捕捉剤及び液体組成物について説明した後、液体組成物中のホルムアルデヒドを低減する方法及び液体組成物の製造方法について説明する。
【0018】
(ホルムアルデヒド捕捉剤)
本発明の方法におけるホルムアルデヒド捕捉剤は、芳香族アミノ基及びメルカプト基から選ばれる基Aを有するとともに、芳香族アミノ基、脂肪族アミノ基、保護基で置換されたアミノ基、ヒドロキシ基及びメルカプト基から選ばれる基Bを有し、ホルムアルデヒドと前記基Aと前記基Bとが反応することにより5員環又は6員環を形成する化合物である。
【0019】
理論に縛られるものではないが、本発明の方法におけるホルムアルデヒド捕捉剤を、ホルムアルデヒドを含有する液体組成物に添加すると、まず、求核性に優れる上記基Aとホルムアルデヒドとの反応が生ずるものと推定される。その後、求核性に優れるものの上記基Aと比較して求核性が低い傾向にある上記基Bが、上記基Aとホルムアルデヒドとの反応物と反応することにより、熱力学的に安定な5員環又は6員環を形成するものと推定される。これにより、本発明の方法におけるホルムアルデヒド捕捉剤は、ホルムアルデヒド捕捉能に優れるものと推定される。
【0020】
上記基A及び上記基Bの芳香族アミノ基並びに上記基Bの脂肪族アミノ基におけるアミノ基としては、1級アミノ基及び2級アミノ基が挙げられる。
芳香族アミノ基とは、芳香族基にアミノ基が置換された構造を指す。
脂肪族アミノ基とは、脂肪族基にアミノ基が置換された構造を指す。
ホルムアルデヒド捕捉剤において基A及び基Bの両方が芳香族アミノ基の場合、基A及び基Bは一つの芳香族基を共有していてもよい。例えば、2,3-ジアミノピリジンは芳香族アミノ基である基A及び基Bとしてアミノピリジル基を有し、ピリジン環は基A及び基Bに共有されている。1,8-ジアミノナフタレンは芳香族アミノ基である基A及び基Bとしてアミノナフチル基を有し、ナフタレン環は基A及び基Bに共有されている。
【0021】
上記基Bの保護基で置換されたアミノ基における保護基としては、通常アミンの保護基として使用されるものであれば特に限定されないが、中でも-C(=O)-アルキルが好ましい。アルキルとしては、直鎖又は分枝を有する炭素原子数1乃至10のアルキルが好ましく、例えばメチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、1-メチル-n-ブチル、2-メチル-n-ブチル、3-メチル-n-ブチル、1,1-ジメチル-n-プロピル基、1,2-ジメチル-n-プロピル、2,2-ジメチル-n-プロピル、1-エチル-n-プロピル、n-ヘキシル、1-メチル-n-ペンチル、2-メチル-n-ペンチル、3-メチル-n-ペンチル、4-メチル-n-ペンチル、1,1-ジメチル-n-ブチル、1,2-ジメチル-n-ブチル、1,3-ジメチル-n-ブチル、2,2-ジメチル-n-ブチル、2,3-ジメチル-n-ブチル、3,3-ジメチル-n-ブチル、1-エチル-n-ブチル、2-エチル-n-ブチル、1,1,2-トリメチル-n-プロピル、1,2,2-トリメチル-n-プロピル、1-エチル-1-メチル-n-プロピル及び1-エチル-2-メチル-n-プロピル等が挙げられる。
【0022】
上記基Bとしては、特に制限されるものではないが、反応性の観点から、芳香族アミノ基、脂肪族アミノ基及びメルカプト基から選ばれるのが好ましい。
【0023】
従来のホルムアルデヒド捕捉剤であるヒドラジン系の化合物及び尿素化合物等は、ホルムアルデヒドと反応してイミンを形成することにより、ホルムアルデヒド濃度を低減する効果を有するとされている。これに対して本発明の方法におけるホルムアルデヒド捕捉剤は、上述したように、基A及び基Bがホルムアルデヒドと反応し、5員環又は6員環を形成することにより、ホルムアルデヒド濃度を低減する効果を有する。5員環又は6員環の環式化合物は、通常、イミンよりも熱力学的に安定である傾向がある。このため、本発明の方法におけるホルムアルデヒド捕捉剤は、従来のホルムアルデヒド捕捉剤と比較して熱力学的安定性が高く、ホルムアルデヒド捕捉能に優れるため、従来のホルムアルデヒド捕捉剤と比較してより少ない添加量でホルムアルデヒドを低減する効果を有する。
【0024】
ホルムアルデヒド捕捉剤は、ホルムアルデヒドと反応し5員環又は6員環を形成することができる配置に基A及び基Bを有する必要がある。具体的には、基Aと基Bとが、2又は3の炭素原子を介して結合されている必要がある。ホルムアルデヒド捕捉剤は、基A及び基Bが既成環構造上に置換されたものであることが好ましい。
【0025】
上記の条件を満たし液体組成物中のホルムアルデヒドを低減する効果を有するホルムアルデヒド捕捉剤の具体例としては、2-メルカプトエタノール、2-アミノエタンチオール、1,2-ジチオエタン、3-メルカプトプロパノール、1-アミノ-3-メルカプトプロパン、1,3-ジチオプロパン、α-チオグリセロール、ジメルカプロール、ジメルカプトペンタエリストール、トリメルカプトペンタエリストール、テトラメルカプトペンタエリストール、トリメルカプトトリメチロールプロパン、DL-ジチオトレイトール、L-システイン、N-アセチル-L-システイン、2,3-ジアミノピリジン、3,4-ジアミノ安息香酸、1,8-ジアミノナフタレンが含まれる。特にメルカプト基を有するという点から2-アミノエタンチオール、1,2-ジチオエタン、3-メルカプトプロパノール、1-アミノ-3-メルカプトプロパン、1,3-ジチオプロパン、α-チオグリセロール、ジメルカプロール、ジメルカプトペンタエリストール、トリメルカプトペンタエリストール、テトラメルカプトペンタエリストール、トリメルカプトトリメチロールプロパン、DL-ジチオトレイトール、L-システイン、N-アセチル-L-システインが好ましい。さらにより反応性が高く5員環又は6員環を形成しやすい化合物として2-アミノエタンチオール、ジメルカプトペンタエリストール、トリメルカプトペンタエリストール、テトラメルカプトペンタエリストール、トリメルカプトトリメチロールプロパンが特に好ましい。これらのホルムアルデヒド捕捉剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0026】
また別の観点として、既成環構造は単環式化合物であっても良く、また複素環式化合物であっても良い。さらに既成環構造は芳香環であっても良く、非芳香環であっても良いが、ホルムアルデヒドと反応する基Aと基Bとが物理的に近接しやすいことから、既成環構造は芳香環であることがより好ましい。そして熱力学的な安定性から6員環を形成し得る配置がより一層好ましい。また、ホルムアルデドとの反応性の観点からは、5員環又は6員環の環式化合物が橋かけ構造を有さないのが好ましい。芳香族環式構造に基A及び基Bが置換された化合物は構造的にホルムアルデヒドと反応することで5員環又は6員環を形成しやすいため、2,3-ジアミノピリジン、3,4-ジアミノ安息香酸、1,8-ジアミノナフタレンがホルムアルデヒド捕捉剤として好ましい。さらに基A及び基Bの位置が同一平面上に固定され、6員環を形成しやすい構造を有することから、1,8-ジアミノナフタレンが最も好ましい。
【0027】
上記の条件を満たさないため、ホルムアルデヒドと反応し5員環又は6員環を形成し得ず、液体組成物中のホルムアルデヒド含量を低減する効果を有さない化合物の具体例としては、1,2-エタンジオール、2-アミノエタノール、N-メチルエタノールアミン、1,2-ジアミノエタン、1,3-プロパンジオール、3-アミノプロパノール、1,3-ジアミノプロパン、グリセロール、マロンアミド、アントラニルアミド、サリチルアミド等が挙げられる。なお、先行文献(国際公開第2001/062838号)では、アセトアルデヒドと高い反応性を有することからポリエステル中のアセトデヒド含有量を低減する最も好ましい化合物としてアントラニルアミド、好ましい化合物としてサリチルアミドが記載されている。
【0028】
本発明の方法におけるホルムアルデヒド捕捉剤と、液体組成物中のホルムアルデヒドとの反応の一例を下記に示す。
【0029】
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
上記式1乃至式4中、Aは芳香族アミノ基及びメルカプト基から選ばれる基A、Bは芳香族アミノ基、脂肪族アミノ基、保護基で置換されたアミノ基、ヒドロキシ基及びメルカプト基から選ばれる基Bを示す。上記式3及び4において、R1は既成環構造であり、それぞれ独立して芳香環または非芳香環である。
【0034】
(ホルムアルデヒドを含有する液体組成物)
本発明の方法におけるホルムアルデヒドを含有する液体組成物は、特に限定さないが、N-メチロール基(N-CH2OH)及びN-アルコキシメチル基(N-CH2OR、ここでRはアルキル基)の少なくともいずれかを有する化合物(以下、特定化合物と称する場合がある)を含有する液体組成物が好ましい。特定化合物は同分子間で結合するだけでなく、水酸基のような活性水素原子を有する化合物とも反応し得る。このため、特定化合物を樹脂間の架橋剤として用いた液体の樹脂組成物が、成型品や塗料等に広く使用されてきた。さらにN-メチロール基又はN-アルコキシメチル基とは別の官能基を持ち、アミド結合又はウレタン結合を有する化合物の窒素上に、アルコキシメチル基を付加した下記式5のようなN-アルコキシメチル基を有する化合物では、活性水素原子との高い反応性だけでなく、別の反応点を有する、もしくは重合体のモノマーとして使用可能である点から、電子デバイス用材料のような高度な特性を要求される材料に使用されている。そのため下記式5のような化合物を含有する液体の樹脂組成物がホルムアルデヒドを含有する場合、樹脂組成物の高い機能が失われない範囲でホルムアルデヒド濃度を低減する必要があり、本発明を利用されることがより一層望まれる。高度な特性が要求される電子デバイス用材料に使用されている液体の樹脂組成物としては、特に制限されないが、例えば、円偏光メガネ方式の3Dディスプレイに用いられるパターニングされた位相差材や、有機ELディスプレイの反射防止膜として使用される円偏光板に用いられる位相差材を作製するのに有用な硬化膜形成組成物が挙げられる。
【0035】
【0036】
<N-メチロール基及びN-アルコキシメチル基の少なくともいずれかを有する化合物>
N-メチロール基及びN-アルコキシメチル基のN、すなわち窒素原子としては、アミドの窒素原子、チオアミドの窒素原子、ウレアの窒素原子、チオウレアの窒素原子、ウレタンの窒素原子、含窒素へテロ環の窒素原子の隣接位に結合した窒素原子等が挙げられる。従って、特定化合物としては、アミドの窒素原子、チオアミドの窒素原子、ウレアの窒素原子、チオウレアの窒素原子、ウレタンの窒素原子、含窒素へテロ環の窒素原子の隣接位に結合した窒素原子等から選ばれる窒素原子に、メチノール基及びアルコキシメチル基の少なくともいずれかが結合した構造を有する化合物を指す。
なお、N-アルコキシメチル基(N-CH2OR、ここでRはアルキル基)におけるアルキル基としては、炭素数1~20の直鎖状又は分岐状のアルキル基等が挙げられ、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、セチル基又はステアリル基等が挙げられる。これらの中でも、同アルキル基としては、炭素数1~6の直鎖状又は分岐状のアルキル基が好ましい。
【0037】
特定化合物の具体例としては、アルコキシメチル化グリコールウリル、アルコキシメチル化ベンゾグアナミン、及びアルコキシメチル化メラミン等の化合物が挙げられる。
【0038】
アルコキシメチル化グリコールウリルの具体例としては、例えば、1,3,4,6-テトラキス(メトキシメチル)グリコールウリル、1,3,4,6-テトラキス(ブトキシメチル)グリコールウリル、1,3,4,6-テトラキス(ヒドロキシメチル)グリコールウリル、1,3-ビス(ヒドロキシメチル)尿素、1,1,3,3-テトラキス(ブトキシメチル)尿素、1,1,3,3-テトラキス(メトキシメチル)尿素、1,3-ビス(ヒドロキシメチル)-4,5-ジヒドロキシ-2-イミダゾリノン及び1,3-ビス(メトキシメチル)-4,5-ジメトキシ-2-イミダゾリノン等が挙げられる。市販品として、日本サイテック・インダストリーズ(株)(旧 三井サイテック(株))製グリコールウリル化合物(商品名:サイメル(登録商標)1170、パウダーリンク(登録商標)1174)等の化合物、メチル化尿素樹脂(商品名:UFR(登録商標)65)、ブチル化尿素樹脂(商品名:UFR(登録商標)300、U-VAN10S60、U-VAN10R、U-VAN11HV)、DIC(株)(旧 大日本インキ化学工業(株))製尿素/ホルムアルデヒド系樹脂(高縮合型、商品名:ベッカミン(登録商標)J-300S、同P-955、同N)等が挙げられる。
【0039】
アルコキシメチル化ベンゾグアナミンの具体例としてはテトラメトキシメチルベンゾグアナミン等が挙げられる。市販品として、日本サイテック・インダストリーズ(株)(旧 三井サイテック(株))製(商品名:サイメル(登録商標)1123)、(株)三和ケミカル製(商品名:ニカラック(登録商標)BX-4000、同BX-37、同BL-60、同BX-55H)等が挙げられる。
【0040】
アルコキシメチル化メラミンの具体例としては、例えば、ヘキサメトキシメチルメラミン等が挙げられる。市販品として、日本サイテック・インダストリーズ(株)(旧 三井サイテック(株))製メトキシメチルタイプメラミン化合物(商品名:サイメル(登録商標)300、同301、同303、同350)、ブトキシメチルタイプメラミン化合物(商品名:マイコート(登録商標)506、同508)、(株)三和ケミカル製メトキシメチルタイプメラミン化合物(商品名:ニカラック(登録商標)MW-30、同MW-22、同MW-11、同MS-001、同MX-002、同MX-730、同MX-750、同MX-035)、ブトキシメチルタイプメラミン化合物(商品名:ニカラック(登録商標)MX-45、同MX-410、同MX-302)等が挙げられる。
【0041】
また、このようなアミノ基の水素原子がメチロール基又はアルコキシメチル基で置換されたメラミン化合物、尿素化合物、グリコールウリル化合物及びベンゾグアナミン化合物を縮合させて得られる化合物であっても良い。例えば、米国特許第6323310号に記載されているメラミン化合物及びベンゾグアナミン化合物から製造される高分子量の化合物が挙げられる。上記メラミン化合物の市販品としては、商品名:サイメル(登録商標)303等が挙げられ、上記ベンゾグアナミン化合物の市販品としては、商品名:サイメル(登録商標)1123(以上、日本サイテック・インダストリーズ(株)(旧 三井サイテック(株))製)等が挙げられる。
【0042】
さらに、特定化合物として、N-ヒドロキシメチルアクリルアミド、N-メトキシメチルメタクリルアミド、N-エトキシメチルアクリルアミド、N-ブトキシメチルメタクリルアミド等のメチロール基又はアルコキシメチル基で置換されたアクリルアミド化合物又はメタクリルアミド化合物を使用して製造されるポリマーも用いることができる。
【0043】
そのようなポリマーとしては、例えば、ポリ(N-ブトキシメチルアクリルアミド)、N-ブトキシメチルアクリルアミドとスチレンとの共重合体、N-ヒドロキシメチルメタクリルアミドとメチルメタクリレートとの共重合体、N-エトキシメチルメタクリルアミドとベンジルメタクリレートとの共重合体及びN-ブトキシメチルアクリルアミドとベンジルメタクリレートと2-ヒドロキシプロピルメタクリレートとの共重合体等が挙げられる。
【0044】
また、そのようなポリマーとして、N-アルコキシメチル基とC=C二重結合とを含む重合性基とを有する重合体を用いることも出来る。
【0045】
C=C二重結合を含む重合性基としては、アクリル基、メタクリル基、ビニル基、アリル基、マレイミド基等が挙げられる。
【0046】
液体組成物中に特定化合物を含有することは、例えば、プロトン核磁気共鳴分光法(1H-NMR)、赤外分光法等により液体組成物を測定することによって確認することができる。
【0047】
(液体組成物中のホルムアルデヒドを低減する方法及び液体組成物の製造方法)
本発明の方法は、ホルムアルデヒド捕捉剤を、液体組成物に添加する工程を含むことで液体組成物中のホルムアルデヒドを低減する方法及び液体組成物を製造する方法である。
ホルムアルデヒド捕捉剤を液体組成物に添加する方法については特に制限されない。添加する方法としては、例えば、ホルムアルデヒド捕捉剤を液体組成物にそのまま単体で添加する方法、ホルムアルデヒド捕捉剤の溶剤溶液又は懸濁液を液体組成物に添加する方法等があり、組成物の特性や成形体の要求性能に応じて適宜選択すれば良い。また、液体組成物が液体の樹脂組成物である場合には、ホルムアルデヒド捕捉剤を、樹脂組成物の樹脂重合時もしくは重合後、あるいは樹脂成形時の任意の段階で組成物に添加しても良い。さらに、液体の樹脂組成物を、ホルムアルデヒド捕捉剤の溶剤溶液又は懸濁液に添加しても良い。
【0048】
ホルムアルデヒドの濃度を半分以上低減するための捕捉剤の添加量は、使用するホルムアルデヒド捕捉剤の種類によって変わるため、一概に説明することはできない。特に好ましいホルムアルデヒド捕捉剤として挙げた2-アミノエタンチオールや1,8-ジアミノナフタレンにおいては液体組成物中に存在するホルムアルデヒドのモル比5当量以下の添加で大部分のホルムアルデヒドと反応し、ホルムアルデヒドの濃度を70%から95%の範囲で低減することができる。2-アミノエタンチオールや1,8-ジアミノナフタレン以外の化合物においても先行特許等で示されてきた化合物より少ない添加量でホルムアルデヒド濃度を低減することができる。従って、ホルムアルデヒド捕捉剤の添加量としては、特に制限されるものではないが、ホルムアルデヒド捕捉剤を添加する前の液体組成物中におけるホルムアルデヒドのモル当量に対して、0.1モル当量以上が好ましく、0.3モル当量以上がより好ましく、0.5モル当量以上がさらに好ましく、1モル当量以上が特に好ましいい。また、同添加量は、500モル当量以下が好ましく、100モル当量以下がより好ましく、20モル当量以下がさらに好ましく、5モル当量以下が特に好ましい。
【0049】
ホルムアルデヒド捕捉剤を液体組成物に添加した後、必要に応じて液体組成物を混合しても良い。混合時間は、特に限定されないが、通常5分~300分であり、5分~120分であることが好ましい。また、混合温度は、特に限定されないが、通常5~70℃であり、5~60℃であることが好ましい。
【0050】
またホルムアルデヒドを含む液体組成物の機能を損なわない範囲で、さらなる捕捉効果を期待し液体組成物中のホルムアルデヒドよりも大過剰量のホルムアルデヒド捕捉剤を添加しても良い。さらに従来使用されてきたホルムアルデヒド捕捉剤やその他添加剤と併用しても良い。
【0051】
<その他添加剤>
本発明の方法におけるホルムアルデヒド捕捉剤は、本発明の効果を損なわない限りにおいて、必要に応じて、シランカップリング剤、界面活性剤、レオロジー調整剤、顔料、染料、保存安定剤、消泡剤、酸化防止剤等の他の添加物と併せて添加しても良い。
【0052】
(液体組成物中のホルムアルデヒド濃度の定量方法)
液体組成物中に存在するホルムアルデヒド濃度については、一般的に使用される方法で定量することができる。具体的にはアセチルアセトン法や2,4-ジニトロフェニルヒドラジン法等を使用することができ、またこれらの方法に限定されない。アセチルアセトン法は液中のホルムアルデヒドを以下の式6の反応に従い標識する手法である。反応によってホルムアルデヒド誘導体は波長413nmの光を吸収するため、この吸光を適切な手法で計測することによりホルムアルデヒド濃度を間接的に定量できる。例として誘導体化した溶液を1センチ幅のガラスセルに注ぎ、分光光度計によって直接吸光度を測定する手法が挙げられる。
【0053】
【実施例0054】
以下、例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものでない。
【0055】
実施例1~7及び比較例1~6において、ホルムアルデヒド捕捉剤を用いた液体組成物中のホルムアルデヒド濃度の低減効果の評価を行った。まず、実施例及び比較例におけるホルムアルデヒド濃度の検出方法について説明する。なお、以下の実施例及び比較例中に説明される混合比は特に明示しない限り体積比についてのものである。なお、混合比がppm単位で示されている場合は質量比についてのものである。
【0056】
[液体組成物中のホルムアルデヒドの検出]
液体組成物中のホルムアルデヒドはアセチルアセトン法による誘導体化によって検出した。アセチルアセトン法はサンプル溶液を反応液と混合させ以下の式7の反応に従い標識する手法である。本実施例ではアセチルアセトン法の一般的なプロトコルに従い、酢酸アンモニウム15g、酢酸600μl、アセチルアセトン500μlをMilliQの超純水で200mlにメスアップしたものを反応液として使用した。この反応液と、ホルムアルデヒド捕捉剤を添加した液体組成物とを混合し、50℃で30分間反応させた後、室温で30分静置してホルムデヒド誘導体化液を調製した。ホルムアルデヒド誘導体化液中の誘導体化された化合物であるホルムアルデヒド誘導体を検出した。
【0057】
【0058】
ホルムアルデヒド誘導体は413nmの波長の光を吸収するため、この波長の吸光度を測定することで、ホルムアルデヒドを間接的に検出することができる。本実施例では、分光光度計(島津製作所製紫外可視近赤外(UV-VIS-NIR)分光光度計UV-3600)を使用し、ホルムアルデヒド誘導体化液を1センチセルガラスに入れて413nmの吸光度を測定しホルムアルデヒドの減少量を計算した。
【0059】
分光光度計を用いた検出では、ホルムアルデヒド溶液の代わりに純水と反応液を混合した溶液をベースラインとした。これにより吸光スペクトルから反応液自体に由来する吸収が除かれるため、ホルムアルデヒド誘導体の吸収を見ることができる。本実施例では純水又は後述するホルムアルデヒド抽出液を1、反応液を9の割合で混合して使用した。
以下の実施例1~7及び比較例1~6は、上述した検出方法により実施した。
【0060】
[水溶液中のホルムアルデヒド低減評価]
<実施例1、2及び比較例1~3>
ホルムアルデヒド標品(富士フイルム和光純薬(株)製ホルムアルデヒド0.1%メタノール溶液)を純水によって、ホルムアルデヒド濃度が質量比10ppmになるように希釈した。この溶液に対し、以下の表1の通りに実施例1、2及び比較例1~3のホルムアルデヒド捕捉剤を添加した。次いで、添加後の水溶液中のホルムアルデヒドを検出し、液体組成物である水溶液中のホルムアルデヒド低減効果を評価した。結果を表1に示す。
【0061】
【0062】
表1中の「ホルムアルデヒド検出量比」は、ホルムアルデヒド10ppmの標品を誘導体化処理し、分光光度計で検出を行った際の413nmにおける吸光度を基準とし、実施例及び比較例のサンプルにおける吸光度の倍数を示したものである。
そのため1,8-ジアミノナフタレンを100ppm添加した、本発明の方法である実施例1の場合には、吸光度は0.49倍になっており、減少した吸光度分のホルムアルデヒドがホルムアルデヒド捕捉剤と反応、捕捉されているものと考えられる。
【0063】
先行文献(国際公開第2001/062838号)では、アセトアルデヒドと高い反応性を有することからポリエステル中のアセトデヒド含有量を低減する最も好ましい化合物としてアントラニルアミドが記載されている。また、先行文献(国際公開第2005/044917号)ではホルムアルデヒドと高い反応性を有することからホルムアルデヒド抑制剤としてヒドラジン系化合物が記載されている。しかし、アントラニルアミドを用いた比較例1及びヒドラジン系化合物である4-メチルベンゾヒドラジンを用いた比較例3は、ホルムアルデヒドに対して質量比100倍もの量を添加しているにも関わらず、一割程度しかホルムアルデヒドが低減されていなかった。これに対して、1,8-ジアミノナフタレンを用いた、本発明の方法である実施例2では、比較例1及び3の添加量の100分の1量で同程度の低減効果が得られていることから、本発明の方法におけるホルムアルデヒド捕捉剤のホルムアルデヒド捕捉能の高さが示された。また、基A及び基Bを備えず、本発明の方法に係るホルムアルデヒド捕捉剤ではないジアミン化合物を用いた比較例2は、ホルムアルデヒド低減効果が低かった。
【0064】
[樹脂溶液中のホルムアルデヒド低減評価]
<実施例3~7及び比較例4~6>
液体組成物としてホルムアルデヒド100ppmを含有する、N-メチロール基及びN-アルコキシメチル基の少なくともいずれかを有する化合物である、重合物PBMAA(ポリN-ブトキシメチルアクリルアミド)のPGME(プロピレングリコールモノメチルエーテル)溶液を用いて樹脂溶液中のホルムアルデヒド低減効果を評価した。PBMAAのモノマーであるN-BMAA(N-ブトキシメチルアクリルアミド)は先行文献(特許第3945834号)で示されるように、合成時にホルムアルデヒドを使用し、アクリルアミドにメチロール基を付加している。そのためこの合成時からの持ち込みやブトキシ基及びメチロール基の脱離によってホルムアルデヒドがPBMAA溶液中に存在すると考えられる。
【0065】
PBMAAのPGME溶液中のホルムアルデヒド検出は、水と樹脂溶液を混合させ遠心分離を行った後、上澄みの水層を回収し、これをホルムアルデヒド抽出液として使用した。PBMAAは水に不溶であることから遠心分離によって底部に沈殿し、PGME及びホルムアルデヒドのみが水層へと移行する。この樹脂溶液に対して以下の表2の通りに実施例3~7及び比較例4~6のホルムアルデヒド捕捉剤を添加した。次いで、樹脂溶液1、水9の割合で混合し遠心分離(1分間に10000回転、室温、5分間)後、上層の水層を回収することでホルムアルデヒド抽出液を得た。得られたホルムアルデヒド抽出液中のホルムアルデヒドを検出し、樹脂溶液中のホルムアルデヒド低減効果を評価した。結果を表2に示す。
【0066】
【0067】
表2中の「ホルムアルデヒド検出量比」はホルムアルデヒド捕捉剤を添加していないPBMAA溶液から得たホルムアルデヒド抽出液を誘導体化処理し、分光光度計で検出を行った際の413nmにおける吸光度を基準としている。本発明の方法である実施例3~7のホルムアルデヒド捕捉剤を添加した場合には、ホルムアルデヒドの検出量を数十%、特に実施例3の1,8-ジアミノナフタレン及び実施例6の2-アミノエタンチオールを添加した場合には、検出量を70%以上低減することに成功した。一方、先行文献(特開2020-022996号公報、特開2004-352924号公報)においてホルムアルデヒドの検出量を低減する効果があると示されていた比較例4~6のホルムアルデヒド捕捉剤では、実施例3~7のホルムアルデヒド捕捉剤よりも大量に添加したがそれ以上の低減効果は見られなかった。これは実施例3~7のホルムアルデヒド捕捉剤がホルムアルデヒドと反応するとき5員環又は6員環を形成し、安定な構造を形成し得るためであると考えられる。
【0068】
以上の結果から液体組成物中に存在するホルムアルデヒドを低減する方法として、芳香族アミノ基及びメルカプト基から選ばれる基Aを有するとともに、芳香族アミノ基、脂肪族アミノ基、保護基で置換されたアミノ基、ヒドロキシ基及びメルカプト基から選ばれる基Bを有し、ホルムアルデヒドと上記基Aと上記基Bとが反応することにより5員環又は6員環を形成する化合物が有用であることが示された。