(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024135
(43)【公開日】2024-02-22
(54)【発明の名称】植物の生理生態情報の推定装置、推定方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
A01G 7/00 20060101AFI20240215BHJP
G06Q 50/02 20240101ALI20240215BHJP
【FI】
A01G7/00 603
G06Q50/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022126729
(22)【出願日】2022-08-09
(71)【出願人】
【識別番号】504174180
【氏名又は名称】国立大学法人高知大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北野 雅治
(72)【発明者】
【氏名】岩尾 忠重
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】野村 浩一
(72)【発明者】
【氏名】山崎 富弘
(72)【発明者】
【氏名】但田 育直
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049CC01
(57)【要約】
【課題】植物の葉量や樹形を定量的に把握する。
【解決手段】推定装置1は、圃場80において栽培されている植物81の葉を含む、植物81の画像41を取得する植物画像取得部11と、画像41において葉の領域を抽出する葉領域抽出部12と、葉の領域が抽出された画像41の各単位領域の輝度情報に基づいて、各単位領域の受光量を算出する受光量算出部13と、受光量の高さ方向の差分に基づいて、葉面積を算出する葉面積算出部15と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圃場において栽培されている植物の葉を含む、前記植物の画像を取得する植物画像取得部と、
前記画像において前記葉の領域を抽出する葉領域抽出部と、
前記葉の領域が抽出された前記画像の各単位領域の輝度情報に基づいて、各単位領域の受光量を算出する受光量算出部と、
前記受光量の高さ方向の差分に基づいて、葉面積を算出する葉面積算出部と、
を備える、推定装置。
【請求項2】
前記葉面積算出部は、前記画像の前記単位領域毎に前記葉面積を算出する、請求項1に記載の推定装置。
【請求項3】
前記受光量の水平方向の平均値を、前記植物の高さ位置毎に算出する水平平均算出部をさらに備え、
前記葉面積算出部は、前記受光量の前記平均値の高さ方向の差分に基づいて、前記植物の高さ位置毎に前記葉面積を算出する、請求項1に記載の推定装置。
【請求項4】
前記受光量と前記圃場における環境データとに基づいて、前記画像の前記単位領域毎に個葉光合成速度を算出する個葉光合成速度算出部をさらに備える、請求項2に記載の推定装置。
【請求項5】
各単位領域の前記葉面積および前記個葉光合成速度に基づいて、前記画像の前記単位領域毎に群落の光合成量を算出する群落光合成量算出部をさらに備える、請求項4に記載の推定装置。
【請求項6】
前記受光量の前記平均値と前記圃場における環境データとに基づいて、前記植物の高さ位置毎に個葉光合成速度を算出する個葉光合成速度算出部をさらに備える、請求項3に記載の推定装置。
【請求項7】
前記植物の高さ位置毎の前記葉面積および前記個葉光合成速度に基づいて、前記植物の高さ位置毎に群落の光合成量を算出する群落光合成量算出部をさらに備える、請求項6に記載の推定装置。
【請求項8】
前記個葉光合成速度算出部は植物生理生態モデルに従って、前記個葉光合成速度を算出する、請求項4から7のいずれか一項に記載の推定装置。
【請求項9】
前記葉領域抽出部は、人工知能を用いた画像解析により、前記画像において前記葉の領域を抽出する、請求項1に記載の推定装置。
【請求項10】
圃場において栽培されている植物の葉を含む、前記植物の画像を取得する植物画像取得ステップと、
前記画像において前記葉の領域を抽出する葉領域抽出ステップと、
前記葉の領域が抽出された前記画像の各単位領域の輝度情報に基づいて、各単位領域の受光量を算出する受光量算出ステップと、
前記受光量の高さ方向の差分に基づいて、葉面積を算出する葉面積算出ステップと、
を含む、推定方法。
【請求項11】
コンピュータに、
圃場において栽培されている植物の葉を含む、前記植物の画像を取得する機能と、
前記画像において前記葉の領域を抽出する機能と、
前記葉の領域が抽出された前記画像の各単位領域の輝度情報に基づいて、各単位領域の受光量を算出する機能と、
前記受光量の高さ方向の差分に基づいて、葉面積を算出する機能と、
を実現させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の生理生態情報を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
植物の成長は光合成による炭素同化により進行する。光合成に影響を与えることから、植物の葉量や樹形は、植物の生育状況や収穫量を大きく左右する要因として知られている。
【0003】
また近年では、営農現場においても情報通信技術(ICT)を導入する、いわゆるスマート農業への取り組みが進められている。例えば下記特許文献1に記載の方法によると、農作物の生育評価や、農家(生産者)が実施すべき作業の提案を行うことができる。特許文献1に記載の方法では、農園で栽培されている農作物のカラー画像から求められる農作物の葉面積の積算値を、生育の評価や作業の提案を判断するための要素として用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
作物の葉量や樹形を定量的に把握して、摘葉作業や整枝剪定作業を適切に行うことにより作物のより良い栽培環境を実現することは、農業の効率化を進めている営農現場にとって重要となっている。しかしながら、作物の葉量や樹形を定量的に把握することは困難であり、特に、作物の栽培を始めたばかりの若手の生産者が摘葉作業や整枝剪定作業を適切に行うことは困難である。若手の生産者が作物の最適な栽培方法を体得して、品質が高い作物をより多く収穫するベテラン生産者となるには、依然として長年の経験が必要とされている。
【0006】
特許文献1の方法によると、農家(生産者)に対して果樹の葉摘みをすることを推奨作業として提案することができる。しかしながら、提案を受けた生産者は、具体的に果樹のどの位置の葉を摘葉して樹形を整えれば良いのかを判断することができない。
【0007】
このような事情から、営農現場においては、摘葉作業や整枝剪定作業は依然として生産者の経験や勘に基づいてなされている。作物のより良い栽培環境を実現するために、作物の葉量や樹形を定量的に把握することが求められている。
【0008】
本発明は、植物の葉量や樹形を定量的に把握することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明は、例えば以下に示す態様を含む。
【0010】
(項1)
圃場において栽培されている植物の葉を含む、前記植物の画像を取得する植物画像取得部と、
前記画像において前記葉の領域を抽出する葉領域抽出部と、
前記葉の領域が抽出された前記画像の各単位領域の輝度情報に基づいて、各単位領域の受光量を算出する受光量算出部と、
前記受光量の高さ方向の差分に基づいて、葉面積を算出する葉面積算出部と、
を備える、推定装置。
(項2)
前記葉面積算出部は、前記画像の前記単位領域毎に前記葉面積を算出する、項1に記載の推定装置。
(項3)
前記受光量の水平方向の平均値を、前記植物の高さ位置毎に算出する水平平均算出部をさらに備え、
前記葉面積算出部は、前記受光量の前記平均値の高さ方向の差分に基づいて、前記植物の高さ位置毎に前記葉面積を算出する、項1に記載の推定装置。
(項4)
前記受光量と前記圃場における環境データとに基づいて、前記画像の前記単位領域毎に個葉光合成速度を算出する個葉光合成速度算出部をさらに備える、項2に記載の推定装置。
(項5)
各単位領域の前記葉面積および前記個葉光合成速度に基づいて、前記画像の前記単位領域毎に群落の光合成量を算出する群落光合成量算出部をさらに備える、項4に記載の推定装置。
(項6)
前記受光量の前記平均値と前記圃場における環境データとに基づいて、前記植物の高さ位置毎に個葉光合成速度を算出する個葉光合成速度算出部をさらに備える、項3に記載の推定装置。
(項7)
前記植物の高さ位置毎の前記葉面積および前記個葉光合成速度に基づいて、前記植物の高さ位置毎に群落の光合成量を算出する群落光合成量算出部をさらに備える、項6に記載の推定装置。
(項8)
前記個葉光合成速度算出部は植物生理生態モデルに従って、前記個葉光合成速度を算出する、項4から7のいずれか一項に記載の推定装置。
(項9)
前記葉領域抽出部は、人工知能を用いた画像解析により、前記画像において前記葉の領域を抽出する、項1から8のいずれか一項に記載の推定装置。
(項10)
圃場において栽培されている植物の葉を含む、前記植物の画像を取得する植物画像取得ステップと、
前記画像において前記葉の領域を抽出する葉領域抽出ステップと、
前記葉の領域が抽出された前記画像の各単位領域の輝度情報に基づいて、各単位領域の受光量を算出する受光量算出ステップと、
前記受光量の高さ方向の差分に基づいて、葉面積を算出する葉面積算出ステップと、
を含む、推定方法。
(項11)
コンピュータに、
圃場において栽培されている植物の葉を含む、前記植物の画像を取得する機能と、
前記画像において前記葉の領域を抽出する機能と、
前記葉の領域が抽出された前記画像の各単位領域の輝度情報に基づいて、各単位領域の受光量を算出する機能と、
前記受光量の高さ方向の差分に基づいて、葉面積を算出する機能と、
を実現させるためのプログラム。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、植物の葉量や樹形を定量的に把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る植物の生理生態情報推定システムの概略的な構成を模式的に示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る植物の生理生態情報推定システムの機能を説明するためのブロック図である。
【
図3】人工知能を用いた画像解析により葉の領域を抽出した一例を示す図である。
【
図4】透過光と葉面積との関係を説明するための模式的な図である。
【
図5】本発明において導入する植物生理生態モデルを説明するための模式的な図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る推定装置を用いて植物の生理生態情報を推定する手順を説明するためのフローチャートである。
【
図7】推定手順において用いる画像データの一例である。
【
図8】推定手順において用いる画像データの一例である。
【
図9】実施例1において受光量および葉面積を推定した結果のグラフである。
【
図10】実施例2において摘葉の前後それぞれについて葉面積を推定した結果のグラフおよび撮像画像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を、添付の図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明および図面において、同じ符号は同じまたは類似の構成要素を示すこととし、よって、同じまたは類似の構成要素に関する重複した説明を省略する。
【0014】
[推定システム]
図1は、本発明の一実施形態に係る植物の生理生態情報推定システムの概略的な構成を模式的に示す図である。
【0015】
<システムの概要>
本発明の一実施形態に係る植物の生理生態情報推定システム100(以下、単に推定システム100とも記載する)は、推定装置1と撮像装置2と環境測定装置3とを備える。これら推定装置1と、撮像装置2と、環境測定装置3とは、データの送受信が可能な態様で、有線または無線により直接的または間接的に接続されている。生産者89の圃場80には植物81が栽培されており、撮像装置2および環境測定装置3を用いて、植物81の葉を含む画像41と圃場80における環境データ42とが取得される。
【0016】
推定装置1は、取得した植物81の葉を含む画像41に基づいて、植物81の受光量と葉面積とを推定する。本実施形態では、推定装置1はさらに、取得した環境データ42に基づいて、植物81の個葉光合成速度と群落光合成量とを推定する。推定したこれら植物81の生理生態情報は、推定装置1に接続されている表示装置8(図示する例では推定装置1と一体化されている)に表示され、推定装置1のユーザである生産者89に視覚的に提示される。
【0017】
推定装置1は、これら植物81の生理生態情報の推定を、植物81の葉を含む画像41の単位領域(例えば画素)毎に行うことができる。推定した生理生態情報は、葉を含む画像41に対応する画像データとして表示装置8に表示される。または、推定装置1は、これら植物81の生理生態情報の推定を、植物81の高さ位置毎に行うことができる。推定した生理生態情報は、植物81の高さ位置に対応する数値データのグラフとして表示装置8に表示される。
【0018】
これにより、小規模な圃場80における生産者89は、圃場80において栽培している植物81の生理生態情報として、植物81の受光量と、葉面積と、個葉光合成速度と、群落光合成量とを、画像データまたはグラフとして視覚的に把握することが可能となり、視覚的に表示されるこれら生理生態情報を通じて、植物81の葉量や樹形を定量的に把握することが可能となる。
【0019】
例えば、推定装置1に表示されるグラフ43において、受光量が高すぎる部分と受光量が低すぎる部分とが、植物81の高さ方向に沿って上から順に並んでいる場合を考える。この場合、例えば受光量が高すぎる部分に対応する高さの植物81の葉を生産者89が摘葉すれば、受光量が高すぎる部分の受光量が改善されて、植物81の群落全体として受光量が増大することが期待される。
【0020】
また、一実施形態に係る推定システム100によると、作物の栽培を始めたばかりの経験が少ない若手の生産者とベテラン生産者との間で、植物の生理生態情報を視覚的に比較することが可能となる。推定装置1は、同様の推定システム100を利用する他の推定装置1B,1Cとネットワーク90を介して接続されている。生産者89は、自身の圃場80において栽培している植物81の生理生態情報と、他の圃場において他の生産者89B,89Cが栽培している、植物81と同じ種類の植物81B,81Cについて推定される生理生態情報とを、推定装置1を用いて視覚的に比較することが可能となる。
【0021】
これにより、若手の生産者89がこれまで経験や勘に基づいて行っていた摘葉作業や整枝剪定作業を、定量的かつ視覚的に把握される植物81の葉量や樹形に基づいて行うことが可能となる。これにより、植物81のより良い栽培環境が実現され、農業の効率化が促進される。
【0022】
なお、圃場80において栽培される植物81は、ナスやニラ等の食用の作物に限らず、例えば生花とすることができる。圃場80において栽培する植物81は、光合成を行う植物であればよい。
【0023】
<ハードウェア構成>
推定装置1は、例えば汎用コンピュータやタブレットPC、スマートフォン等を用いて構成することができる。推定装置1に例えばスマートフォンを用いると、推定装置1と、撮像装置2と表示装置8と入力装置9とが一体化された統合型の推定装置を構成することができる。スマートフォンを用いたこのような統合型の推定装置に、さらに別体の環境測定装置3を例えばWi-Fi(登録商標)やBluetooth(登録商標)等の無線通信方式を用いて通信可能に接続することにより、営農現場において生産者89が手軽に使用することが可能なユーザ端末を提供することができる。
【0024】
推定装置1は、ハードウェアの構成として、データ処理を行うCPU等のプロセッサ(図示せず)と、プロセッサがデータ処理の作業領域に使用する主記憶装置(図示せず)と、データの一時保存に使用する補助記憶装置10とを備えている。補助記憶装置10には、データ41,42,43,44、および推定プログラム49等が適宜記憶されている。
【0025】
推定装置1には、ハードウェアの構成として、撮像装置2と環境測定装置3とが接続されている。撮像装置2および環境測定装置3は、推定装置1のユーザである生産者89が、植物81の葉を含む画像41と圃場80における環境データ42とを取得するために用いられる。
【0026】
撮像装置2は、圃場80において栽培されている植物81の葉を含む画像41を撮像し、画像データを取得する。撮像装置2にはデジタルカメラ2を用いることができる。
【0027】
環境測定装置3は、圃場80における環境データ42として、光合成光量子束密度(photosynthetic photon flux density; PPFD)(単位[μmol・m-2・s-1])と、雰囲気のCO2濃度Ca(単位[μmol・mol-1])と、雰囲気の気温Ta(単位[℃])と、雰囲気の湿度VPDa(vapor pressure deficit)(単位[kPa])とを測定する。環境測定装置3は、これら環境データのそれぞれを測定するための各種のセンサを備えている。例えば、光合成光量子束密度PPFDを測定するセンサには、公知のPPFDセンサを用いることができる。CO2の濃度を測定するセンサには公知のCO2センサを用いることができ、気温および湿度を測定するセンサには公知の温湿度センサを用いることができる。これらセンサはすべて手持ち型の機器で実現することができ、環境測定装置3は手軽に使用することが可能である。
【0028】
なお後述する
図2に示すように、本実施形態では、推定装置1は表示装置8を備えている。表示装置8には、例えば液晶モニタを用いることができ、推定装置1のユーザである生産者89に情報を表示する。また、推定装置1には、任意の構成として入力装置9を接続することができる。入力装置9には、例えばキーボード、タッチパネル、マウス等を用いることができ、ユーザからの入力操作を受け付ける。推定装置1は、例えばユーザが環境測定装置3を用いて測定した環境データ42の値を、入力装置9を介して取得することもできる。表示装置8と入力装置9とが一体化されたタッチパネルを、推定装置1に接続してもよい。
【0029】
<機能ブロック>
図2は、本発明の一実施形態に係る植物の生理生態情報推定システムの機能を説明するためのブロック図である。
【0030】
推定装置1は、機能ブロックとして、植物画像取得部11と、葉領域抽出部12と、受光量算出部13と、水平平均算出部14と、葉面積算出部15と、環境データ取得部16と、個葉光合成速度算出部17と、群落光合成量算出部18と、画像表示部19とを備えている。これらの機能ブロックは、集積回路等を用いてハードウェアとして実装することができる。或いは、これらの機能ブロックは、推定装置1のプロセッサが、推定プログラム49を推定装置1の主記憶装置に読み出して実行することにより、ソフトウェアとして実装することもできる。
【0031】
植物画像取得部11は、圃場80において栽培されている植物81の葉を含む画像を撮像装置2から取得する。本実施形態では、撮像装置2が撮像する画像は植物81の葉を含む群落の画像であり、植物81の樹形が概ね撮像範囲に含まれている画像である。好ましくは、撮像装置2が撮像する画像は、植物81の葉を含む群落の畝と畝との間が分離されている画像である。画像41の色空間はRGB形式であり、画像41は植物81の葉の受光に関する輝度情報を含んでいる。
【0032】
葉領域抽出部12は、人工知能を用いた画像解析により、植物81の葉を含む画像41において葉の領域を抽出する。本実施形態では、葉領域抽出部12は、人工知能の一例である深層学習を用いた公知の画像認識の手法に基づいて、画像41において葉の領域を抽出する。葉領域抽出部12は、葉以外の領域であると判別した領域を白色に置き換える。後述するように、本実施形態では、白色の領域は受光量(後述するRGB長)の値が441.67 (√(2552+2552+2552))である。
【0033】
図3は、人工知能を用いた画像解析により葉の領域を抽出した一例を示す図である。(A)は葉の領域を抽出する前の画像であり、(B)は人工知能により葉の領域を抽出した後の画像である。
【0034】
(A)および(B)において、符号101で示す領域は植物の葉の領域である。(A)において符号102で示す領域は、植物を栽培する土壌や土壌を覆うビニールシートである。例えば葉領域抽出部12は、人工知能を用いた画像解析により、(A)において符号102で示すこのような土壌やビニールシートの領域を、葉以外の領域であると判別する。これら土壌やビニールシートの領域のように、葉以外の領域であると判別された領域は、(B)において符号103で示すように白色で表示されている。
【0035】
再び
図2を参照する。受光量算出部13は、葉の領域が抽出された画像41の各単位領域(画素)の輝度情報に基づいて、各単位領域(画素)の受光量を算出する。各単位領域(画素)について算出した受光量は、植物81の受光量の空間分布を表しており、空間分布を表すデータ44として一時保存される。
【0036】
本実施形態では、各画素のRGB長を算出し、算出したRGB長を各画素の受光量とする。画像41の色空間が例えば24ビットカラーのRGB形式の場合、RGB長は次の式1により計算することができる。
【数1】
【0037】
ここで、R(赤色)、G(緑色)、およびB(青色)の画素値はいずれも、本実施形態では0から255までの正の整数値(例えば、unsigned char型)である。本実施形態では、RGB長の最小値は値0であり、最大値は値441.67である。式1に示すように、本明細書でいうRGB長とは、RGBカラーモデルでいう3つの原色である赤色(R)、緑色(G)および青色(B)の強度信号(画素値)のベクトル長と表現することができる。
【0038】
水平平均算出部14は、受光量の水平方向の平均値を、植物81の高さ位置毎に算出する。本実施形態では、画像41内において水平方向に位置する同じ高さの単位領域(画素)について、それら単位領域が有する受光量の平均値を算出する。植物81の高さ位置毎に算出した受光量の平均値は、植物81の受光量の鉛直分布を表しており、鉛直分布を表すデータ43として一時保存される。
【0039】
図2に示す機能ブロック図において、水平平均算出部14による処理を受けない場合、葉面積算出部15は、葉面積を画像41の単位領域毎に算出する。同様に、個葉光合成速度算出部17は、個葉光合成速度を画像41の単位領域毎に算出し、群落光合成量算出部18は、群落の光合成量を画像41の単位領域毎に算出する。これら画像41の単位領域毎に算出される生理生態情報は、後述する画像表示部19により、葉を含む画像41に対応する画像データとして表示される。
【0040】
図2に示す機能ブロック図において、水平平均算出部14による処理を受ける場合は、受光量の水平方向の平均値を、後段の処理において受光量の入力値として用いる。この場合、水平平均算出部14の後段に位置する葉面積算出部15は、葉面積を植物81の高さ位置毎に算出する。同様に、個葉光合成速度算出部17は、個葉光合成速度を植物81の高さ位置毎に算出し、群落光合成量算出部18は、群落の光合成量を植物81の高さ位置毎に算出する。これら植物81の高さ位置毎に算出される生理生態情報は、後述する画像表示部19により、植物81の高さ位置に対応する数値データのグラフとして表示される。
【0041】
葉面積算出部15は、受光量の高さ方向の差分に基づいて葉面積を算出する。水平平均算出部14による処理を受けない場合、葉面積算出部15は、受光量の高さ方向の差分に基づいて、画像41の単位領域毎に葉面積を算出する。算出した葉面積は、空間分布を表すデータ44として一時保存される。水平平均算出部14による処理を受ける場合、葉面積算出部15は、受光量の平均値の高さ方向の差分に基づいて、植物81の高さ位置毎に葉面積を算出する。算出した葉面積は、鉛直分布を表すデータ43として一時保存される。
【0042】
図4は、透過光と葉面積との関係を説明するための模式的な図である。
【0043】
或る植物の高さ方向の明るさについて、最上部の明るさをB
0とし、最下部の明るさをB
2とし、葉面積を算出しようとする部分の明るさをB
1とする。Beer Lambertの法則に従うと、明るさがB
0~B
1の区間について、光の透過率と葉面積との関係は次の式2で表される。
【数2】
【0044】
ここでkは吸光係数である。よって、明るさがB
0~B
1の区間に対応する葉面積は、次の式3で表される。
【数3】
【0045】
図4および式3に示すように、植物の高さ方向の受光量の減衰から、植物の高さ位置毎の葉面積の変化を推定することができる。受光量の減衰とは、輝度情報であるRGB長の変化を意味する。
【0046】
再び
図2を参照する。環境データ取得部16は、圃場80における環境データを環境測定装置3から取得する。本実施形態では、環境測定装置3を用いて、圃場80における環境データとして、光合成光量子束密度PPFDと、雰囲気のCO
2濃度C
aと、雰囲気の気温T
aと、雰囲気の湿度VPD
aとを取得する。
【0047】
個葉光合成速度算出部17は、受光量と、圃場80における環境データ42とに基づいて、個葉光合成速度を算出する。水平平均算出部14による処理を受けない場合、個葉光合成速度算出部17は、受光量と圃場80における環境データ42とに基づいて、画像41の単位領域毎に個葉光合成速度を算出する。算出した個葉光合成速度は、空間分布を表すデータ44として一時保存される。水平平均算出部14による処理を受ける場合、個葉光合成速度算出部17は、受光量の平均値と圃場80における環境データ42とに基づいて、植物81の高さ位置毎に個葉光合成速度を算出する。算出した個葉光合成速度は、鉛直分布を表すデータ43として一時保存される。
【0048】
本実施形態では、個葉光合成速度算出部17は、植物生理生態モデル(plant physio-ecological model)に従って、個葉光合成速度(single-leaf photosynthetic rate)を算出する。画像41の単位領域毎に個葉光合成速度を算出する場合、以下で説明する植物生理生態モデルに入力する各単位領域(画素)の光合成光量子束密度PPFDは、式4により算出する値を用いる。
【数4】
本実施形態では、圃場でのPPFD測定値は、環境データ42に含まれている光合成光量子束密度PPFDであり、受光量はRGB長である。最大受光量および最小受光量は、画像41内のすべての単位領域におけるRGB長の最大値および最小値である。植物81の高さ位置毎に個葉光合成速度を算出する場合も同様である。
【0049】
図5は、本発明において導入する植物生理生態モデルを説明するための模式的な図である。(A)は葉緑体を示しており、(B)は葉の断面図を示している。
【0050】
本実施形態では、植物生理生態モデルは、光合成生化学モデル(biochemical model of photosynthetic)と、輸送方程式と、気孔コンダクタンスモデルと、熱収支モデルとを含む。光合成生化学モデルは、(A)に示す葉緑体における作用に関連する。輸送方程式、気孔コンダクタンスモデル、および熱収支モデルは、(B)に示す葉における作用に関連する。本実施形態では、これら4つのモデルを表す以下のそれぞれの数式に環境データ42の値を代入して、連立方程式を解くことにより、個葉光合成速度ALを算出する。
【0051】
光合成生化学モデルは次の式5~式8で表される。
【数5】
【0052】
光合成生化学モデルでは、光合成速度を、CO2濃度に律速されるRubisco-limited段階における光合成速度AL,cと、光量により主に律速されるRuBP-limited段階における光合成速度AL,jとの2つの律速段階における2つの光合成速度に分けて、これら2つの光合成速度AL,c,AL,jのうち、速度が低い方を個葉光合成速度ALとしている。
【0053】
なお、
図5の(B)に示す葉肉コンダクタンスg
mは実測が困難である。そのため、本実施形態において導入する光合成生化学モデルでは、葉緑体内のCO
2濃度C
cと葉内細胞間のCO
2濃度C
iとの間にほとんど差が無いと仮定して、C
c=C
iとしている。
【0054】
輸送方程式は次の式9および式10で表される。
【数6】
【0055】
気孔コンダクタンスモデルは次の式11で表される。
【数7】
【0056】
熱収支モデルは次の式12で表される。
【数8】
式5~式12および
図5中に表されている変数について説明する。
【0057】
PPFD、Ca、Ta、およびVPDaはそれぞれ、光合成光量子束密度PPFD、雰囲気のCO2濃度、雰囲気の気温、および雰囲気の湿度であり、圃場80において環境データとして取得される。
【0058】
AL,AL,c,AL,jは光合成速度(単位[μmol・m-2・s-1])を意味する。ALは個葉光合成速度である。AL,cはRubisco-limited段階における光合成速度である。AL,jはRuBP-limited段階における光合成速度である。
【0059】
Vcmaxは、カルボキシル化の最大速度(単位[μmol・m-2・s-1])であり、植物の種類毎に定める値である。Rdは、日中の呼吸数(day respiration rate)(単位[μmol・m-2・s-1])である。Γ*は、日中の呼吸数Rdが無い場合のCO2同化のCO2補償点(単位[μmol・m-2・s-1])である。
【0060】
Ci,Cc,Csは葉のCO2濃度(単位[μmol・mol-1])を意味する。Ciは葉内細胞間のCO2濃度である。Ccは葉緑体内のCO2濃度である。Csは葉の表面のCO2濃度である。Oは葉内細胞間のO2濃度(単位[mol・mol-1])である。
【0061】
Kc,KOはMichaelis-Menten定数(単位[μmol・mol-1])である。Kcはカルボキシル化のMichaelis-Menten定数である。KOはカルボキシル化酸素化のMichaelis-Menten定数である。
【0062】
Jは電子伝達速度(単位[μmol・m-2・s-1])であり、植物の種類毎に定める値である。Jmaxは電子伝達速度Jの最大値である。θはJ-PPFD曲線のコンベクシティ(convexity)である。φはJ-PPFD曲線の初期勾配(initial slope)である。
【0063】
gs,ga,gmは葉のコンダクタンス(単位[mol・m-2・s-1])を意味する。gsは気孔コンダクタンスである。gaは葉面境界層コンダクタンスである。gmは葉肉コンダクタンスである。g0,g1は、気孔コンダクタンスgsのフィッティング・パラメータである。VPDLは葉面と雰囲気との飽差(単位[Pa])である.
ρaは空気の密度(1.204kg・m-3)である。Cpは定圧力での空気の比熱(1010J・kg-1・K-1)である。
【0064】
TL,γ,Rni,s,gHR,gLWは熱収支モデルを記述する変数である。TLは葉温(単位[K])である。γは乾湿計定数(単位[Pa・K-1])である。Rniは等温純放射(単位[W・m-2・s-1])である。sは温度に対する飽和水蒸気圧の傾き(単位[Pa・K-1])である。gHRは放射と葉面境界層における顕熱輸送との合計コンダクタンス(単位[m・s-1])である。gLWは葉面境界層と気孔における水分子輸送の合成コンダクタンス(単位[m・s-1])である。
【0065】
式5~式12中に表されている変数のうち、別の測定により予め値を決定しておく変数およびその値を以下に示す。以下に示す値はすべて葉温が25℃における値である。
【0066】
Vcmax=90.58[μmol・m-2・s-1]
Jmax=154.99[μmol・m-2・s-1]
Rd=1.39[μmol・m-2・s-1]
Kc=404.9[μmol・mol-1]
KO=278.4[μmol・mol-1]
Γ*=42.75[μmol・mol-1]
θ=0.7
φ=0.36
g0=0.034[mol・m-2・s-1]
g1=4.43
【0067】
変数Vcmax,Jmax,Rd,Kc,KO,Γ*は温度依存性を有するパラメータである。変数Vcmax,Rd,Kc,KO,Γ*の値は、葉温が25℃のときの値をもとにアレニウス式により求める。変数Jmaxは葉温が25℃のときの値をもとに修正アレニウス式により求める。アレニウス式は公知であるので本明細書における詳細な説明は省略する。
【0068】
再び
図2を参照する。群落光合成量算出部18は、葉面積および個葉光合成速度に基づいて、群落の光合成量を算出する。本実施形態では、葉面積と個葉光合成速度との積により群落の光合成量を求める。
【0069】
水平平均算出部14による処理を受けない場合、群落光合成量算出部18は、各単位領域の葉面積および個葉光合成速度に基づいて、画像41の単位領域毎に群落の光合成量を算出する。算出した群落の光合成量は、空間分布を表すデータ44として一時保存される。水平平均算出部14による処理を受ける場合、群落光合成量算出部18は、植物81の高さ位置毎の葉面積および個葉光合成速度に基づいて、植物81の高さ位置毎に群落の光合成量を算出する。算出した群落の光合成量は、鉛直分布を表すデータ43として一時保存される。
【0070】
画像表示部19は、植物81の葉を含む画像41の単位領域毎に算出された、または、植物81の高さ位置毎に算出された、植物81の生理生態情報を、画像データまたはグラフとして視覚的に表示する。本実施形態では、画像データまたはグラフとして表示する生理生態情報は、受光量と、葉面積と、個葉光合成速度と、群落光合成量との少なくともいずれかを含む。
【0071】
[推定の手順]
図6は、本発明の一実施形態に係る推定装置を用いて植物の生理生態情報を推定する手順を説明するためのフローチャートである。
図7および
図8は、推定手順において用いる画像データの一例である。
【0072】
推定の手順は、例えば小規模な圃場80における生産者により、推定装置1を用いて行われる。推定の手順は例えば次のステップS1~ステップS9を含む。
【0073】
ステップS4の水平平均算出ステップを実行する場合は、ステップS5~S8において、生理生態情報を植物81の高さ位置毎に算出する。算出した生理生態情報は、ステップS9において、
図7の(iv)に示すような植物81の高さ位置に対応する数値データのグラフとして、視覚的に表示する。
【0074】
ステップS1(植物画像取得ステップ)において、圃場80において栽培されている植物81の葉を含む、植物81の画像41を取得する。
図1に示すように、植物81の葉を含む画像41は、例えば植物81を栽培する農家における生産者が、圃場80において撮像装置2を用いて取得する。取得した画像41の一例を
図7の(i)に示す。
【0075】
ステップS2(葉領域抽出ステップ)において、植物81の葉を含む画像41において葉の領域を抽出する。葉の領域を抽出した後の画像41の一例を
図7の(ii)に示す。
【0076】
ステップS3(受光量算出ステップ)において、葉の領域が抽出された画像41の各単位領域(画素)の輝度情報に基づいて、各単位領域(画素)の受光量を算出する。本実施形態では、受光量を算出する前に、撮影角度による画像の歪みを補正(例えば、台形補正)する。各単位領域について受光量を算出した後の画像41の一例を
図7の(iii)に示す。
【0077】
ステップS4(水平平均算出ステップ)において、受光量の水平方向の平均値を、植物81の高さ位置毎に算出する。植物81の高さ位置毎に算出した受光量は、後述するステップS9において、例えば
図7の(iv)の左端のグラフに示すように表示される。
【0078】
ステップS5(葉面積算出ステップ)において、受光量の高さ方向の差分に基づいて、葉面積を算出する。本実施形態では、ステップS4において受光量の水平方向の平均値を算出している。葉面積は、受光量の平均値の高さ方向の差分に基づいて、植物81の高さ位置毎に算出される。植物81の高さ位置毎に算出した葉量は、後述するステップS9において、例えば
図7の(iv)の左から2番目のグラフに示すように表示される。
【0079】
ステップS6(環境データ取得ステップ)において、圃場80における環境データ42を取得する。環境データ42は、
図1に示すように、例えば植物81を栽培する農家における生産者が、圃場80において環境測定装置3を用いて取得する。なおこのステップS6の処理は、ステップS1の処理とあわせて実行してもよい。
【0080】
ステップS7(個葉光合成速度算出ステップ)において、受光量と、圃場80における環境データ42とに基づいて、個葉光合成速度を算出する。本実施形態では、ステップS4において、受光量の水平方向の平均値を、植物81の高さ位置毎に算出している。個葉光合成速度は、受光量の平均値と圃場80における環境データ42とに基づいて、植物81の高さ位置毎に算出される。個葉光合成速度は、本実施形態では植物生理生態モデルに従って算出される。植物81の高さ位置毎に算出した個葉光合成速度は、後述するステップS9において、例えば
図7の(iv)の右から2番目のグラフに示すように表示される。
【0081】
ステップS8(群落光合成量算出ステップ)において、葉面積および個葉光合成速度に基づいて、群落の光合成量を算出する。本実施形態では、ステップS4において受光量の水平方向の平均値を算出している。群落の光合成量は、植物81の高さ位置毎の葉面積および個葉光合成速度に基づいて、植物81の高さ位置毎に算出される。植物81の高さ位置毎に算出した群落の光合成量は、後述するステップS9において、例えば
図7の(iv)の右端のグラフに示すように表示される。
【0082】
ステップS9(データ表示ステップ)において、算出した植物81の生理生態情報を、画像データまたはグラフとして視覚的に表示する。本実施形態では、ステップS4において受光量の水平方向の平均値を算出している。植物81の生理生態情報は、推定装置1のユーザである生産者89にグラフとして視覚的に提示される。
【0083】
これにより、小規模な圃場80における生産者89は、圃場80において栽培している植物81の生理生態情報として、植物81の受光量と、葉面積と、個葉光合成速度と、群落光合成量とを、画像データまたはグラフとして視覚的に把握することが可能となり、視覚的に表示されるこれら生理生態情報を通じて、植物81の葉量や樹形を定量的に把握することが可能となる。
【0084】
ステップS4の水平平均算出ステップを実行しない場合は、ステップS5~S8において、生理生態情報を画像41の単位領域毎に算出する。算出した生理生態情報は、ステップS9において、
図8の(B)、(C)に示すような葉を含む画像41に対応する画像データとして、視覚的に表示する。
【0085】
図8の(A)は、植物81の葉を含む群落の画像41の一例である。ステップS5~S8において、この(A)に示す画像41を用いて、生理生態情報を画像41の単位領域毎に算出する。
図8の(B)は、(A)に示す画像41を用いて画像41の単位領域毎に算出された受光量の画像である。同様に、
図8の(C)は、(A)に示す画像41を用いて画像41の単位領域毎に算出された群落の光合成量の画像である。
【0086】
以上、本発明の一実施形態に係る植物の生理生態情報の推定装置、推定方法およびプログラムによると、植物81の生理生態情報として、植物81の受光量と、葉面積と、個葉光合成速度と、群落光合成量との少なくともいずれかを、画像データまたはグラフとして視覚的に把握することが可能となる。これにより、植物81を栽培している圃場80において、植物の葉量や樹形を定量的に把握することが可能となる。作物の葉量や樹形を定量的に把握して、摘葉作業や整枝剪定作業を適切に行うことにより、営農現場において作物のより良い栽培環境を実現することが可能となり、農業の効率化が促進される。
【0087】
また、作物の栽培を始めたばかりの経験が少ない生産者とベテラン生産者との間で、植物の生理生態情報を視覚的に比較することが可能となる。これにより、若手の生産者89がこれまで経験や勘に基づいて行っていた摘葉作業や整枝剪定作業を、定量的かつ視覚的に把握される植物81の葉量や樹形に基づいて行うことが可能となる。これにより、植物81のより良い栽培環境が実現され、農業の効率化が促進される。
【0088】
[その他の形態]
以上、本発明を特定の実施形態によって説明したが、本発明は上記した実施形態に限定されるものではない。
【0089】
上記実施形態では、植物81の葉を含む画像41の単位領域として、画像の画素毎にデータ処理を行っているが、データ処理を行う対象の単位領域は一画素に限定されない。データ処理は、複数の画素を含む領域を単位領域として行ってもよい。
【0090】
上記実施形態では、推定装置1は一体の装置として実現されているが、推定装置1は一体の装置である必要はなく、プロセッサ、主記憶装置、補助記憶装置10等が別所に配置され、これらが互いにネットワークで通信可能に接続されていてもよい。また、推定装置1に接続される撮像装置2、環境測定装置3、表示装置8、および入力装置9についても、これらが一箇所に配置される必要はなく、それぞれが別所に配置されて互いにネットワークで通信可能に接続されていてもよい。
【0091】
上記実施形態では、推定装置1の各機能ブロックは、単一のプロセッサで実行されているが、これら各機能ブロックは単一のプロセッサで実行される必要はなく、複数のプロセッサで分散して実行されてもよい。また、推定装置1の各機能ブロックは、一部または全部が、ネットワーク90を介して接続されるサーバ装置(図示せず)においてクラウド化されていてもよい。
【0092】
上記実施形態では、複数の推定装置1,1B,1Cはネットワーク90を介して互いに通信可能に接続されているが、これら複数の推定装置1,1B,1Cは、ネットワーク90に代えて例えばDVD-ROMやメモリカード等の記録媒体を介してデータ交換可能に接続することができる。
【0093】
[実施例]
以下に本発明の実施例を示し、本発明の特徴をより明確にする。
【実施例0094】
実施例1では、受光量および葉面積の推定を複数の日に亘って行い、画像を撮影条件の違いによる受光量および葉面積の差異を確認した。
【0095】
図9は、受光量および葉面積を推定した結果のグラフである。(A)は受光量の推定結果であり、(B)は葉面積の推定結果である。(i)~(iv)に示すグラフの作成に使用した植物画像の撮影条件(天候および撮影時刻)は次の通りである。
【0096】
(i)晴れ12時、(ii)曇り12時、(iii)晴れ6時、(iv)晴れ18時
(A)および(B)に示すように、撮影時刻や天候により若干の変化はあるものの、絶対値(値の大きさ)については、受光量および葉面積のどちらも、植物の高さ方向の変化について概ね決まったパターンを有していることが確認された。
【0097】
これにより、受光量および葉面積のグラフの波形は、植物の高さ方向に関する変化を概ね反映していることが確認された。
(A)に示す撮像画像(i)において枠で囲む部分の植物の葉を実際に摘葉し、摘葉後の撮像画像(ii)を取得した。撮像画像(i)および(ii)のそれぞれについて葉面積を推定し、(B)に示すグラフを得た。
(B)に示す葉面積の推定結果のグラフを参照すると、植物の摘葉した高さ位置において、符号(i)および(ii)で示すように葉面積が減少していた。これにより、算出している葉面積が、摘葉前後の葉量の変化を概ね反映していることが確認された。