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  • 特開-廃電池の処理方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024163
(43)【公開日】2024-02-22
(54)【発明の名称】廃電池の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 7/00 20060101AFI20240215BHJP
   C22B 23/00 20060101ALI20240215BHJP
   C22B 1/00 20060101ALI20240215BHJP
   C22B 1/02 20060101ALI20240215BHJP
   H01M 10/54 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
C22B7/00 C
C22B23/00 102
C22B1/00 601
C22B1/02
H01M10/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022126787
(22)【出願日】2022-08-09
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松岡 いつみ
(72)【発明者】
【氏名】竹之内 宏
(72)【発明者】
【氏名】水野 しおり
(72)【発明者】
【氏名】庄司 浩史
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 寛人
(72)【発明者】
【氏名】浅野 聡
【テーマコード(参考)】
4K001
5H031
【Fターム(参考)】
4K001AA02
4K001AA07
4K001AA09
4K001AA10
4K001AA16
4K001AA19
4K001AA34
4K001BA22
4K001CA01
4K001CA02
4K001DB03
4K001DB04
4K001DB05
4K001DB08
4K001DB23
4K001DB24
4K001DB36
4K001HA12
5H031EE01
5H031EE04
5H031RR02
(57)【要約】
【課題】廃電池からニッケルおよび/またはコバルトを含有する溶液を得る処理方法を提供する。
【解決手段】1)廃電池を無害化し、破砕して破砕物を得る前処理工程、2)破砕物にアルカリを添加し、Li、Al、F、Pを含むアルカリ浸出液と、Niおよび/またはCoを含有するアルカリ浸出残渣を得るアルカリ浸出工程、3)アルカリ浸出残渣を酸と還元剤に接触させ、Niおよび/またはCoを還元し酸溶液に浸出した還元浸出液を得る還元浸出工程、4)還元浸出液に硫化剤を添加し、Cuを硫化物で除去した硫化後液を得る硫化工程、5)硫化後液に酸化剤と中和剤を添加してFe、P、Alを沈殿させて除去し、酸化中和液を得る酸化中和工程、6)酸化中和液をイオン交換樹脂に接触させてFをイオン交換樹脂に吸着させて分離し、Niおよび/またはCoを含有するイオン交換後液を得るイオン交換工程をその順に実行する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃電池からニッケルおよび/またはコバルトを含有する溶液を得る処理方法であって、
1)廃電池を無害化し、破砕して破砕物を得る前処理工程、
2)前記破砕物にアルカリを添加し、Li、Al、F、Pを含むアルカリ浸出液と、Niおよび/またはCoを含有するアルカリ浸出残渣を得るアルカリ浸出工程、
3)前記アルカリ浸出残渣を酸と還元剤に接触させ、Niおよび/またはCoを還元し酸溶液に浸出した還元浸出液を得る還元浸出工程、
4)前記還元浸出液に硫化剤を添加し、Cuを硫化物で除去した硫化後液を得る硫化工程、
5)前記硫化後液に酸化剤と中和剤を添加してFe、P、Alを沈殿させて除去し、酸化中和液を得る酸化中和工程、
6)前記酸化中和液をイオン交換樹脂に接触させてFをイオン交換樹脂に吸着させて分離し、Niおよび/またはCoを含有するイオン交換後液を得るイオン交換工程
をその順に実行する
ことを特徴とする廃電池の処理方法。
【請求項2】
前記前処理工程は、廃電池を加熱して無害にする無害化工程を含む
ことを特徴とする請求項1記載の廃電池の処理方法。
【請求項3】
前記前処理工程は、無害化工程を終えた廃電池を破砕する破砕工程を含む
ことを特徴とする請求項1記載の廃電池の処理方法。
【請求項4】
前記アルカリ浸出工程において、アルカリ浸出を3回以上5回以下繰り返す
ことを特徴とする請求項1記載の廃電池の処理方法。
【請求項5】
前記廃電池が、廃リチウムイオン電池である
ことを特徴とする請求項1記載の廃電池の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃電池の処理方法に関する。さらに詳しくは、ニッケルおよび/またはコバルトを含む廃電池からニッケルおよび/またはコバルトを含む溶液を得る廃電池の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリット自動車などの車両及び携帯電話、スマートフォンや、パソコンなどの電子機器には、軽量で大出力であるという特徴を有するリチウムイオン電池が搭載されている。
リチウムイオン電池は、アルミニウムや鉄等の金属製あるいは塩化ビニルなどのプラスチック製の外装缶の内部に、銅箔からなる負極集電体の表面に黒鉛等の負極活物質を固着させた負極材と、アルミニウム箔からなる正極集電体にニッケル酸リチウムやコバルト酸リチウム等の正極活物質を固着させた正極材を、ポリプロピレンの多孔質樹脂フィルム等からなるセパレータとともに装入し、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)等の電解質を含んだ有機溶媒を電解液として含浸させた構造である。
【0003】
リチウムイオン電池は上記のような車両や電子機器等の中に組み込まれて使用されると、やがて自動車や電子機器等の劣化、あるいはリチウムイオン電池の寿命などで使用できなくなり、廃リチウムイオン電池となる。なお、廃リチウムイオン電池には、最初から製造工程内で不良品などとして発生したものも含まれる。
これらの廃リチウムイオン電池には、ニッケル、コバルトや銅などの有価成分が含まれており、資源の有効活用のためにも、有価成分を回収して再利用することが望まれる。
【0004】
一般に、金属で作製された装置や部材、材料から有価成分を効率よく回収しようとする場合、炉等に投入して高温で熔解し、有価物を含むメタルとそれ以外のスラグとに分離する乾式処理が一般的で、従来から広く行われている。
たとえば特許文献1には、廃電池を焙焼して酸化する予備酸化工程と酸化された廃電池を熔融して有価金属を分離する乾式工程とを実行する乾式処理を用いて有価金属の回収を行う方法が記載されている。特許文献1の方法を廃リチウムイオン電池に適用すれば、ニッケルやコバルトを含む銅合金を得ることができる。
【0005】
この乾式処理は、炉を用いて高温に加熱するためにエネルギーを大量に消費するという短所があるが、様々な不純物を一括して分離できる利点がある。しかも、乾式処理で得られるスラグは、化学的に安定な性状であり、環境に影響する懸念が少なく、処分しやすい利点もある。
しかしながら、乾式処理で廃リチウムイオン電池を処理した場合、一部の有価成分、とくにコバルトのほとんどがスラグに分配され、コバルトの回収ロスとなることが避けられないという問題があった。
また、乾式処理で得たメタルは、有価成分が共存した合金であり、再利用するためには、この合金から成分ごとに分離し、不純物を除去する精製が必要となっていた。
【0006】
乾式法で一般的に用いられてきた元素分離の方法には、高温の熔解状態から徐冷することで、たとえば銅と鉛との分離や鉛と亜鉛との分離を行う方法がある。しかしながら、廃リチウムイオン電池のように銅とニッケルが主な成分である場合、銅とニッケルは全組成範囲で均一熔融する性質を持つため、徐冷しても銅とニッケルが層状に混合固化するのみで分離することはできない。
さらに、一酸化炭素(CO)ガスを用いてニッケルを不均化反応させ銅やコバルトから揮発させて分離する精製もあるが、有毒性のCOガスを用いるため安全性の確保が難しいという問題がある。
【0007】
また、工業的に行われてきた銅とニッケルを分離する方法として混合マット(硫化物)を粗分離する方法がある。この方法は、製錬工程で銅とニッケルを含むマットを生成させ、これを上述の場合と同様に徐冷することで、銅を多く含む硫化物とニッケルを多く含む硫化物とに分離するものである。
しかしながら、この分離方法でも銅とニッケルの分離は粗分離程度にとどまり、純度の高いニッケルや銅を得るためには、別途電解精製等の処理が必要となる。
その他にも、塩化物を経て蒸気圧差を利用する方法も検討されてきた。しかしながら、有毒な塩素を大量に取り扱うプロセスとなるため、装置の腐食対策や安全対策等が大掛かりなものとなり工業的に適した方法とは言い難い。
このように、湿式法と比して乾式法での各元素分離精製は、粗分離レベルに留まるかあるいは高コストという欠点を有している。
【0008】
特許文献2には、酸や中和や溶媒抽出などの方法を用いる湿式処理が記載されている。この湿式処理は、消費するエネルギーが少なく、混在する有価成分を個々に分離して高純度な品位で回収できる利点がある。
しかしながら、湿式処理を用いて廃リチウムイオン電池を処理する場合、廃リチウムイオン電池に含有される電解液成分の六フッ化リン酸アニオンは、高温、高濃度の硫酸でも完全に分解させることができない難処理物であり、有価成分を浸出した酸溶液に混入することになる。
この六フッ化リン酸アニオンは、水溶性の炭酸エステルであることから、有価物を回収した後の水溶液からリンやフッ素を回収することも困難となり、公共海域等への放出抑制のために種々の対策を講じることが必要になるなど環境面での制約も大きい。
【0009】
さらに、酸だけで廃リチウムイオン電池から有価成分を効率的に浸出して精製に供することができる溶液を得ることは容易でない。廃リチウムイオン電池本体は、電池としての強度を持つ構造体でもあり、酸などで浸出され難く、完全に有価成分を浸出させることは容易でない。
また、酸化力の強い酸を用いるなどして強引に浸出すると、有価成分と共に工業的には回収対象でないアルミニウムや鉄、マンガン等の不純物成分までもが浸出されてしまい、不純物を中和等で処理するための中和剤のコストが増加し、発生する排水量や澱物量が増加する問題が生じる。
さらに、廃リチウムイオン電池には電荷が残留していることがあり、そのまま処理しようとすると、発熱や爆発等を引き起こす恐れがあるため、残留電荷を放電するなどの無害化の処理の手間がかかる。
【0010】
このように湿式処理だけを用いて廃リチウムイオン電池を処理することも、必ずしも有利な方法とは言えなかった。
そこで、上述の乾式処理や湿式処理を単独で用いた場合は処理が困難な廃リチウムイオン電池を乾式処理と湿式処理を組み合わせた方法、つまり廃リチウムイオン電池を焙焼するなど乾式処理により不純物をできるだけ除去して均一な廃リチウムイオン電池の熔解物を得、このような熔解物を湿式処理して有価成分とそれ以外の成分とに分けようとする方法も行われてきた。
しかしながら、廃リチウムイオン電池を焙焼する等の乾式処理によって廃リチウムイオン電池を熔解してメタルとし、これを再び溶解させるのには、エネルギーや薬品コストがかかる。
それに加えてリチウムイオン電池には部材として多量の黒鉛すなわちCが使われている。Cは再利用が難しいが、一方、燃料としても利用できるため、上述の乾式処理を含む処理方法では、高温で燃焼して処理することが一般である。しかし燃焼による二酸化炭素の発生は、近年は環境面で抑制すべきとされており、環境面でも優れた処理方法とは云えなかった。
【0011】
そこで、電池内の電解質を含んだ有機成分のみを分解する程度の比較的低い温度で熱を掛けて爆発などの危険性を除いて無害化したブラックマスとも称せられるNi・Co濃縮滓を得、次いでこのブラックマスを湿式処理しやすいように破砕して細かなサイズに整えて、湿式処理に供する方法も考えられた。
低い温度での加熱は乾式処理での炉の負荷やコストが従来の高温で熔解する方法に比べると軽減されると共に、ある程度均一な原料に整えられるので、湿式処理の際の処理性が全て湿式処理で処理するよりも、向上する利点がある。
しかしながら、上記のブラックマスを原料にした場合、廃リチウムイオン電池に含まれる炭素は多くが残留して物量が増大し、さらに熱分解されたフッ化物イオンが原料中にも残留するので、湿式処理での排水への負荷が増加するという問題もある。
【0012】
以上のように、廃リチウムイオン電池などに由来する合金から、効率的にNiやCoなどの有価物と他の不純物元素を分離し、同時に二酸化炭素の発生をできるだけ低減することは難しかった。
【0013】
なお、上述した課題は、廃リチウムイオン電池以外の廃ニッケル水素電池などでも廃電池以外に由来する銅とニッケルとコバルトとを含む合金からニッケルおよび/またはコバルトを分離する場合においても同様に存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2012-172169号公報
【特許文献2】特開昭63-259033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、廃電池からニッケルおよび/またはコバルトを効率よく得ることができる処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
第1発明の廃電池の処理方法は、廃電池からニッケルおよび/またはコバルトを含有する溶液を得る処理方法であって、1)廃電池を無害化し、破砕して破砕物を得る前処理工程、2)前記破砕物にアルカリを添加し、Li、Al、F、Pを含むアルカリ浸出液と、Niおよび/またはCoを含有するアルカリ浸出残渣を得るアルカリ浸出工程、3)前記アルカリ浸出残渣を酸と還元剤に接触させ、Niおよび/またはCoを還元し酸溶液に浸出した還元浸出液を得る還元浸出工程、4)前記還元浸出液に硫化剤を添加し、Cuを硫化物で除去した硫化後液を得る硫化工程、5)前記硫化後液に酸化剤と中和剤を添加してFe、P、Alを沈殿させて除去し、酸化中和液を得る酸化中和工程、6)前記酸化中和液をイオン交換樹脂に接触させてFをイオン交換樹脂に吸着させて分離し、Niおよび/またはCoを含有するイオン交換後液を得るイオン交換工程をその順に実行することを特徴とする。
第2発明の廃電池の処理方法は、第1発明において、前記前処理工程は、廃電池を加熱して無害にする無害化工程を含むことを特徴とする。
第3発明の廃電池の処理方法は、第1発明において、前記前処理工程は、無害化工程を終えた廃電池を破砕する破砕工程を含むことを特徴とする。
第4発明の廃電池の処理方法は、第1発明において、前記アルカリ浸出工程において、アルカリ浸出を3回以上5回以下繰り返すことを特徴とする。
第5発明の廃電池の処理方法は、第1発明において、前記廃電池が、廃リチウムイオン電池であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
第1発明によれば、各工程を順に実行することで、廃電池から不純物を効率よく分離し、選択的にニッケルおよび/またはコバルトを含む溶液を得ることができる。また、本発明の本処理工程は湿式処理であるので、エネルギー消費が少なく、処理物による二酸化炭素の発生量が少なく環境面で優れている。
第2発明によれば、廃電池に含まれるFやPを加熱により無害な形態にできるので、後工程での爆発の危険を無くし、排水負荷を減少することができる。
第3発明によれば、廃電池を破砕することで、本処理工程における湿式処理を行いやすくできる。
第4発明によれば、アルカリ浸出を複数回繰り返すことで、不純物を効率よく浸出して分離でき、ニッケルおよび/またはコバルトの純度の高い溶液を得ることができる。
第5発明によれば、廃リチウムイオン電池は、ニッケルおよび/またはコバルトを含んでいるので、効率良くニッケルおよび/またはコバルトの純度の高い溶液を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は本発明に係る廃電池の処理方法を示す基本的な工程図である。
図2図2図1に示す本処理工程の詳細を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、本明細書において、「X~Y」(X、Yは任意の数値)との表記は、「X以上Y以下」の意味である。
【0020】
本発明に係る処理方法は、廃電池からニッケルおよび/またはコバルトを含有する溶液を得る処理方法であって、
1)廃電池を無害化し、破砕して破砕物を得る前処理工程S1、
2)前記破砕物にアルカリを添加し、Li、Al、F、Pを含むアルカリ浸出液と、Niおよび/またはCoを含有するアルカリ浸出残渣を得るアルカリ浸出工程S2、
3)前記アルカリ浸出残渣を酸と還元剤に接触させ、Niおよび/またはCoを還元し酸溶液に浸出した還元浸出液を得る還元浸出工程S3、
4)前記還元浸出液に硫化剤を添加し、Cuを硫化物で除去した硫化後液を得る硫化工程S4、
5)前記硫化後液に酸化剤と中和剤を添加してFe、P、Alを沈殿させて除去し、酸化中和液を得る酸化中和工程S5、
6)前記酸化中和液をイオン交換樹脂に接触させてFをイオン交換樹脂に吸着させて分離し、Niおよび/またはCoを含有するイオン交換後液を得るイオン交換工程S6、をその順に実行することを特徴とするものである。
【0021】
本発明の処理対象の廃電池には、廃リチウムイオン電池のほかニッケル水素電池なども含まれる。
廃電池には、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、銅(Cu)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、リチウム(Li)、アルミニウム(Al)、フッ素(F)、リン(P)、炭素(C)等が含まれており、本発明の処理方法を実行すれば、これらを含む廃電池等から効率よくLi、Al、F、P、Cを分離して、ニッケルおよび/またはコバルトを含む溶液を得ることができる。本明細書において「ニッケルおよび/またはコバルト」とは、「ニッケルおよびコバルト」と「ニッケルのみ」と「コバルトのみ」の3つの態様を含む意味である。
【0022】
本発明にいう廃電池には、使用済みとして廃棄された電池に加え、電池を製造する段階で発生した不良品や製品化の必要がなくなった余剰品が含まれる。さらに、ニッケルおよび/またはコバルトを含むものとして、例えば電気自動車に用いられる電池や、自動車を含め一般の電子回路に使われるコンデンサの電極や半導体素子の端子材なども対象になる。本明細書では、これらを含めて廃電池と総称する。
【0023】
以下では、使用済みとして廃棄された廃リチウムイオン電池を処理対象とする実施形態につき図1および図2に基づき説明する。
[前処理工程S1]
前処理工程S1は、図1に示すように、無害化工程S11、破砕工程S12、および物理分離工程S13とからなる。
【0024】
(無害化工程S11)
無害化工程S11は、廃リチウムイオン電池を500℃程度の温度で加熱し、廃リチウムイオン電池に含まれる電解液のF、Pを無害な形態に分解する工程をいう。
廃リチウムイオン電池にはFやPなどの有機物からなる電解液が含有されており、電荷が残留している場合もあるので、そのまま破砕や浸出等の処理に付すのは、爆発の危険や排水負荷の増加など好ましくない。このため、後工程である破砕工程S12に供給する前に無害化工程S11が実行される。
【0025】
(破砕工程S12)
破砕工程S12は、廃リチウムイオン電池を本処理工程におけるアルカリ浸出工程S2以下の処理を実行しやすくするように破砕する工程をいう。粉砕工程では公知の破砕機を用いることができる。
【0026】
(物理分離工程S13)
物理分離工程S13は、破砕工程S12で得られた破砕物を篩別する工程をいう。
破砕物の大きさは本処理工程における湿式処理が行いやすくハンドリングしやすい寸法であればよい。具体的には、数mm程度の大きさを例示でき、破砕後にこの寸法の目開きの篩を用いて篩別する。
【0027】
[本処理工程]
上記の前処理工程S1を終えた破砕物は、以下の本処理工程に付される。本処理工程は、図1に示すアルカリ浸出工程S2、還元浸出工程S3、硫化工程S4、酸化中和工程S5、イオン交換工程S6を順に実行するものである。
以下、本処理工程を、図2に基づき詳細に説明する。
【0028】
(アルカリ浸出工程S2)
アルカリ浸出工程S2は、前処理工程S1を終えた破砕物を処理対象として、アルカリ剤を添加して浸出しLi、Al、F、Pを含むアルカリ浸出液と、Ni、Co、C、Cu、F、Fe、P、Alを含有するアルカリ浸出残渣とを得る工程である。
アルカリ浸出工程S2に用いるアルカリ剤としては、水酸化ナトリウムがあり、これを1~8mol/Lの濃度で添加することが好ましい。浸出時は常温から80℃程度の液温で浸出できるが、50~60℃付近で浸出することが、工業的に最も効果的なので好ましい。50~60℃でも80℃の場合と浸出速度はあまり変わらず、エネルギーコストが少なくて済む。さらに高温での水酸化ナトリウムは取り扱いの安全上好ましくなく、設備の耐久性にも問題があり、80℃に温度を上げて操業するメリットはほとんどない。
【0029】
このアルカリ浸出工程S2は複数回、たとえば3回以上5回以下を繰り返すことが不純物を効率よく浸出し分離することが可能となるので好ましい。
なお、アルカリ浸出を複数回繰り返すための操作としては、浸出残渣に新たなアルカリ剤を加える方法や、浸出残渣とアルカリ剤をそれぞれ逆の方向に流して浸出させる向流多段方法のいずれでも用いることができる。
【0030】
廃リチウムイオン電池に含有された不純物のなかでLi、Al、P、Fはこのアルカリ浸出工程S2で概ね80%くらいが除去される。しかしNiやCoなどの有価物を再び電池原料として再利用する場合は、さらに不純物を除去することが求められる。
このため本発明では後工程の酸化中和工程S5とイオン交換工程S6が設けられている。
【0031】
(還元浸出工程S3)
還元浸出工程S3は、アルカリ浸出工程S2で得られたアルカリ浸出残渣に対して、還元剤を接触させ、Ni、Coを還元し酸溶液に浸出した還元浸出液を得て、アルカリ浸出残渣と分離する工程である。
還元浸出工程S3では、アルカリ浸出残渣を酸溶液と混合してスラリーとし、さらに還元剤を添加してアルカリ浸出残渣に含まれるNiやCoを難溶性の3価から浸出されやすい2価に還元すると同時に酸溶液中に浸出して還元浸出液を得るために実行される。この還元浸出液にはNiとCoのほかCu、F、Fe、P、Alが含まれている。アルカリ浸出残渣にはCが含まれており、この段階で系外に排出される。
【0032】
還元のための酸溶液には硫酸、塩酸、硝酸などの溶液を使うことができる。硫酸を用いる場合、濃度は1mol/Lであればよく、pHが概ね0~3になる程度に添加を調整するのが良い。液温は室温~80℃程度で行えるが50~60℃くらいが、工業的には最も実用的なので好ましい。50~60℃でも80℃の場合と浸出速度はあまり変わらず、エネルギーコストが少なくて済む。さらに高温での水酸化ナトリウムは取り扱いの安全上好ましくなく、設備の耐久性にも問題があり、80℃に温度を上げて操業するメリットはほとんどない。
【0033】
還元剤には、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウムなど亜硫酸塩の化合物を用いることができる。SOガスであっても良い。さらに水硫化ナトリウムのような硫化剤を用いることもできる。
還元剤の添加方法としては、たとえば酸化還元電位(以下、ORPともいう)がAg/AgCl電極を参照極(以下同じ)とする電位が600~800mVの範囲を基準とし、この基準よりも上がると還元剤を添加する方法で制御できる。なお、ORPが下がりすぎると浸出されたニッケルやコバルトが沈殿してしまうので残渣と分離できなくなる。
【0034】
本発明では、既述のごとく無害化工程S11では廃リチウムイオン電池を完全に熔融し合金化するまでは加熱していないので、Cはアルカリ浸出残渣に残留している。しかし、還元浸出工程S3では、目的とするニッケルやコバルトを浸出する一方で、Cはアルカリ浸出残渣中に留まるので、ニッケルおよび/またはコバルトとCと分離することができる。
【0035】
また、従来の乾式法では、廃リチウムイオン電池中のCを酸化して除去するので二酸化炭素が発生するが、本発明では湿式処理をするので、二酸化炭素を発生させることはなく環境面でも優れている。
【0036】
(硫化工程S4)
硫化工程S4は、還元浸出工程S3で得られた還元浸出液に硫化剤を添加し、Cuを硫化物で除去した硫化後液を得る工程である。還元浸出工程S3での還元浸出液には、NiやCo以外にもCuが浸出されている。このため、還元浸出液に硫化剤を添加して酸化還元電位が-200~50mV付近まで低下(還元)させる。そうすると、溶出したCuを硫化銅として固定し、ニッケルやコバルトと分離できる。硫化での液温は80℃以下で行えるが、50~60℃の範囲が、工業的には最も実用的なので好ましい。その理由はアルカリ浸出工程S2や還元浸出工程S3の場合と同じである。
硫化剤には、たとえば水硫化ナトリウム、硫化水素ガスなどを用いることができる。
なお、硫化後液には、Ni、Co、F、Fe、P、Alが残っている。なお、Liは回収対象ではないが、硫化後液に含まれている。
【0037】
(酸化中和工程S5)
酸化中和工程S5は、硫化工程S4で得られた硫化後液に対して、酸化剤と中和剤を添加してFe、P、Alを沈殿させて除去し、酸化中和液を得る工程である。酸化中和工程S5の実行中の液温は40~80℃で良く、50~60℃がより好ましい。
中和剤には水酸化ナトリウムなどのアルカリ剤を使用できる。pHはFe、Al、P、亜鉛などを除去できるpHに合わせればよく、pH4~6、好ましくは5~6程度とすればよい。
酸化でのORPは含有するFeイオンが3価の形態になる範囲、具体的には350~400mV程度に維持することが良い。
なお、酸化中和液には、Ni、Co、F、Liが残っている。
【0038】
(イオン交換工程S6)
イオン交換工程S6は、酸化中和工程S5で得られた酸化中和液をイオン交換樹脂に接触させてFをイオン交換樹脂に吸着させて分離し、Ni、Coを含有するイオン交換後液を得る工程である。
本発明では、既述のごとく従来の乾式処理で行われるほど高温にはしないので、廃リチウムイオン電池に含有された電解液中のFは分解はされたとしても除去はされない。したがって、前述のアルカリ浸出工程S2でFを浸出しても、一部のFは酸化中和液中にも残留している。
このブラックマスでのFの不完全な残留は環境負荷の増加という問題が生ずる。そこで、本発明ではFを除去するためイオン交換樹脂に接触させてFイオンを吸着させて除去し、イオン交換樹脂に吸着しなかったNi、Coを含む溶液を得るようにしている。
【0039】
Fイオンを吸着できるイオン交換樹脂には、たとえばセリウムの水酸化物やジルコニウムの水酸化物を含んだものがある。これらのイオン交換樹脂を使用すると、溶液中のFイオンを概ね1/10程度の濃度にまで軽減することができる。なお、セリウムの水酸化物を主な母材とする吸着材(イオン交換樹脂)としては、株式会社日本海水社製の商品名READ-F(HG)がある。
【0040】
以上に説明した各工程S1~S6を順に実行することで、廃リチウムイオン電池から不純物を効率よく分離し、選択的にニッケルおよび/またはコバルトを含む溶液を得ることができる。また、本発明の本処理工程は湿式処理であるので、エネルギー消費が少なく、処理物による二酸化炭素の発生量が少なく環境面で優れている。
【実施例0041】
(実施例1)(アルカリ浸出は1回のみ)
廃リチウムイオン電池を500℃の大気(空気)雰囲気下で加熱処理(無害化工程S11)した後、破砕(破砕工程S12)、つぎに目開き5mmの篩で選別した(物理分離工程S13)。
篩別後のリチウムイオン電池破砕物(ブラックマスともいう)の品位を表1に示す。なお品位の質量%の合計が100%に未達なのは酸化物の形態で存在するためである。
【0042】
【表1】
【0043】
次に表1の組成の破砕物を以下の本処理工程に付した。
アルカリ浸出処理は、室温で濃度1mol/Lの水酸化ナトリウム溶液0.2~2Lをスラリー濃度が100g/lになるように添加して攪拌し、破砕物を浸出した(アルカリ浸出工程S2)。Al:90%、F:80%、P:99%がアルカリ浸出液側に分離し(なお、Liも20%がアルカリ浸出液に分配される)、濾紙とヌッチエで固液分離してアルカリ浸出残渣を得た。
得られたアルカリ浸出残渣にpH1に調整した硫酸溶液を添加してスラリーとし、液温を60℃に維持した。次いで、還元剤として濃度1mol/Lの亜硫酸水素ナトリウム(NaHSO)溶液を添加した(還元浸出工程S3)。添加に伴ってORPの上昇が止まった時点を終点とした。
その後、濾過瓶と濾紙を用いて濾液固液分離し、得られたろ液(還元浸出液)をICP分析装置により分析し、各元素成分の濃度を求めた。表2に結果を示す。
【0044】
次に、得られた還元浸出液を液温60℃に維持しつつ硫化水素ナトリウムを添加し、ORPが0mV未満となるように硫化した(硫化工程S4)。その後固液分離し得られたろ液(硫化後液)をICP分析装置により分析し、各元素成分の濃度を求めた。表2に結果を示す。
続いて、得られた硫化後液の液温を60℃に維持して濃度25%の水酸化ナトリウム溶液と30%の過酸化水素水を用い、pHが5かつORPを300mV以上に維持した。その後固液分離を行い、酸化中和液を得た(酸化中和工程S5)。この液(酸化中和液)をICP分析装置により分析し、各元素成分の濃度を求めた。結果を表2に示す。
続いて、得られた酸化中和液を、株式会社日本海水製のイオン交換樹脂商品名READ-F(HG)を充填したカラムに室温で通液してFイオンを樹脂に吸着させて分離し(イオン交換工程S6)、カラムから排出されたイオン交換後液を得た。
このイオン交換後液をICP分析装置により分析し、各元素成分の濃度を求めた。結果を表2に示す。
【0045】
【表2】
【0046】
―実施例1の評価―
実施例1では、廃リチウムイオン電池等から効率よくCu、Fe、Mn、Li、Al、F、P、Cを分離して、ニッケルおよび/またはコバルトを含む溶液が得られたことが分かる。
【0047】
以下の実施例2~5は、アルカリ浸出工程S2における浸出処理の回数を変えて行った実験例である。
(実施例2)(アルカリ浸出を5回繰り返し)
上記実施例1で用いたのとは別の種類の廃リチウムイオン電池を実施例1と同じく500℃で処理(無害化工程S11)した後、破砕(破砕工程S12)して篩別した(物理分離工程S13)。
得られた廃リチウムイオン電池破砕物の篩別後の品位を表3に示す。なお合計が100%に未達なのは酸化物の形態で存在するためである。
【0048】
【表3】
【0049】
アルカリ浸出処理として、80℃に維持し濃度1mol/Lの水酸化ナトリウム溶液を用いて破砕物を浸出し、浸出液を取り除き新たな同濃度の水酸化ナトリウム溶液を同量添加して再び浸出する処理を計5回繰り返した(アルカリ浸出工程S2)。
表5に示すように、5回の浸出を繰り返した後は、廃リチウムイオン電池破砕物のLi:96%、Al:88%、F:94%、P:93%がアルカリ浸出液側に分離し、Ni、Coを主とする残渣を得た。
得られたアルカリ浸出残渣をpH1に調整した硫酸溶液に投入し、液温を60℃に維持しつつ、濃度1mol/Lの亜硫酸水素ナトリウム(NaHSO)溶液を添加した(還元浸出工程S3)。添加に伴ってORPが上昇しなくなった点を終点とした。その後、固液分離を行い、得られたろ液(還元浸出液)をICP分析装置により分析し、各元素成分の濃度を求めた。結果を表4に示す。
【0050】
次に、得られた還元浸出液の液温を60℃として硫化水素ナトリウムを添加し、ORPを0mV未満にまで低下させ銅を硫化銅として除去した(硫化工程S4)。その後固液分離し得られたろ液(硫化後液)をICP分析装置により分析し、各元素成分の濃度を求めた。結果を表4に示す。
続いて、得られた還元液を60℃として濃度25%水酸化ナトリウム溶液と30%過酸化水素水を用いて、pH5でORP300mV以上となる範囲に維持した。その後固液分離を行い、ろ液(酸化中和液)を得た(酸化中和工程S5)。この酸化中和液をICP分析装置により分析し、各元素成分の濃度を求めた。結果を表4に示す。
続いて、得られた酸化中和液をカラムに充填した株式会社日本海水製イオン交換樹脂READ-F(HG)と常温で接触させるイオン交換処理を行い(イオン交換工程S6)、カラムの排出側からイオン交換後液を得た。結果を表4に示す。
【0051】
【表4】
【0052】
―実施例2の評価―
実施例2でも、廃リチウムイオン電池等から効率よくCu、Fe、Mn、Li、Al、F、P、Cを分離して、ニッケルおよび/またはコバルトを含む溶液が得られたことが分かる。
【0053】
(実施例3)(アルカリ浸出を3回繰り返し)
上記実施例2と同じ廃リチウムイオン電池を用い、アルカリ浸出工程S2におけるアルカリ浸出処理として80℃で濃度1mol/Lの水酸化ナトリウム溶液を用いて破砕物を浸出する操作を3回繰り返した。
表5に示すように、Li:84%、Al:69%、F:94%、P:12%がアルカリ浸出液側に分離し、NiとCoを主とするアルカリ浸出残渣を得た。
【0054】
(実施例4)(アルカリ浸出を2回繰り返し)
上記実施例2と同じ廃リチウムイオン電池を用い、アルカリ浸出工程S2におけるアルカリ浸出処理として、80℃で濃度1mol/Lの水酸化ナトリウム溶液を用いて破砕物を浸出する操作を2回行った。
表5に示すように、Li:70%、Al:47%、F:94%、P:7%がアルカリ浸出液側に分離し、NiとCoを主とするアルカリ浸出残渣を得た。
【0055】
(実施例5)(アルカリ浸出を1回のみ)
上記実施例2と同じ廃リチウムイオン電池を用い、アルカリ浸出工程S2におけるアルカリ浸出処理として、80℃で濃度1mol/Lの水酸化ナトリウム溶液を用いて破砕物を浸出する操作を1回行った。
表5に示すように、Li:68%、Al:44%、F:94%、P:5%がアルカリ浸出液側に分離した。
【0056】
―実施例2~5の評価―
表5に示すように、実施例5から2においては、浸出回数を1回から5回に増加するのに伴って、リチウムやアルミニウムやリンを浸出する割合は増加することがわかる。
アルカリ浸出残渣に不純物が多く残ると、後の還元浸出工程S3では溶解のため多くの酸が必要となるほか、酸化中和工程でS5は多くのアルカリが必要となる。このような事情を考慮すると、アルカリ浸出工程S2におけるアルカリ浸出の回数を多くすることで酸やアルカリの使用量を減少させることができることが分かる。
なお、実施例1は1回浸出にも関わらず実施例5の1回浸出よりも液分配が高いが、実施例1と実施例2~5とは原料の廃リチウムイオン電池の種類が異なり、アルカリへの溶解の差が生じたためと考えられる。また、実施例1において、Liもリサイクル対象であるがAl、F、Pのように完全に除去する必要はないので、本実施例では除去率が低いままとした。
【0057】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、使用済みの廃リチウムイオン電池のほか、ニッケル水素電池などニッケルを含む電池、それらの不良品、電気自動車に用いられる電池や、自動車を含め一般の電子回路に使われるコンデンサの電極や半導体素子の端子材などの処理にも利用できる。
【符号の説明】
【0059】
S1 前処理工程
S11 無害化工程
S12 破砕工程
S13 物理分離工程
S2 アルカリ浸出工程
S3 還元浸出工程
S4 硫化工程
S5 酸化中和工程
S6 イオン交換工程
図1
図2