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特開2024-24231インクリメンタルシート成形工具、インクリメンタルシート成形装置、及びインクリメンタルシート成形方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024231
(43)【公開日】2024-02-22
(54)【発明の名称】インクリメンタルシート成形工具、インクリメンタルシート成形装置、及びインクリメンタルシート成形方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 22/18 20060101AFI20240215BHJP
   B29C 53/04 20060101ALI20240215BHJP
   B21D 31/00 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
B21D22/18
B29C53/04
B21D31/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022126906
(22)【出願日】2022-08-09
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 掲載年月日 令和4年1月23日 掲載アドレス https://doi.org/10.1016/j.jmrt.2022.01.103 https://www.sciencedirect.com/journal/journal-of-materials-research-and-technology/vol/17/suppl/C
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】麻 寧緒
(72)【発明者】
【氏名】呉 松
(72)【発明者】
【氏名】宮本 健二
(72)【発明者】
【氏名】三輪 紘敬
【テーマコード(参考)】
4E137
4F209
【Fターム(参考)】
4E137AA07
4E137AA08
4E137AA23
4E137BA05
4E137BB01
4E137CA05
4E137CA29
4E137DA02
4E137EA16
4E137EA22
4E137EA25
4E137GA02
4E137GA16
4F209AC03
4F209AF01
4F209AG01
4F209AG05
4F209NA01
4F209NB01
4F209NG02
4F209NJ21
4F209NK07
(57)【要約】
【課題】先端部位をシート材に継続的に接触させつつ押し当て力に連続的な変化を与えることで、シート材への傷の発生、工具自体の長寿命化、及びシート材の割れを抑制する。
【解決手段】インクリメンタルシート成形工具3は、横断面が円形を有する基軸部31と楕円形状を有する先端軸部32が軸方向に同軸で設けられている。シート材4に押し当てられる先端軸部32の先端部位の周面は、軸周りの全周に正の曲率からなる形状を有し、かつ正の曲率は周方向に一定ではなく、方向性を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒状体をなし、先端部位の周面が軸周りの全周に正の曲率からなる形状を有し、かつ前記曲率が周方向に方向性を有するインクリメンタルシート成形工具。
【請求項2】
前記棒状体は、互いに平行かつ軸方向に連結された基軸部と先端軸部とを備え、前記先端軸部の周面は、前記基軸部の軸周りの全周に正の曲率からなる形状を有し、かつ前記曲率が周方向に方向性を有する請求項1に記載のインクリメンタルシート成形工具。
【請求項3】
前記先端軸部の周面は、楕円形状を有する請求項2に記載のインクリメンタルシート成形工具。
【請求項4】
前記先端軸部の軸は、前記基軸部の軸に対して偏心している請求項2に記載のインクリメンタルシート成形工具。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のインクリメンタルシート成形工具を支持し、前記棒状体の先端部位を成形対象のシート材に押し当てる機構部を備えたインクリメンタルシート成形装置。
【請求項6】
機構部によって、請求項1~4のいずれかに記載のインクリメンタルシート成形工具を支持し、前記棒状体の先端部位を成形対象のシート材に押し当てるインクリメンタルシート成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクリメンタルシートフォーミングのための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、棒状の成形工具を回転させながら、塑性加工対象であるシート材に対して押し当てた状態で、例えば等高線を描くように相対移動させつつ目標形状に成形する型レスインクリメントシートフォーミング(Incremental Sheet Forming:ISF)が知られている(例えば特許文献1)。
【0003】
特許文献1には、先端形状が半球状のインクリメンタルシート成形工具を用いた場合に、成形部品のエッジ部分に繋がる傾斜面の角度によってはシート材の引張り量が大きくなって割れが生じるおそれがあることから、先端横断面の形状に、例えば花びら状、半円状、三角等の多角形状、星形状等を採用して、工具の回転によって軸周りのいわゆる山の部分を断続的にシート材に押し当てるようにしたことが記載されている。このように断続的な押し当てを行わせることで、成形量が分断されて1回の成形量を小さくすることで割れの発生を抑制するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-153313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、インクリメンタルシート成形工具の先端横断面として特許文献1の図1に示す花びら状を採用した場合、工具の回転に伴う花びら状の形状とシート材との当接状態の変移に起因して以下の問題が生じ得る。まず、軸周りの花びらの部分、すなわち山の部分がシート材に対向する間、シート材は対向する山の部分に押し当てられる。次いで、工具が回転して、山と次の山との間、すなわち溝の部分と対向すると、シート材は溝の部分から略離反して一時的に押し当て動作を受けなくなる。さらに、工具の回転が進むと、シート材は次の山の部分に衝撃を持って当接する。そして、工具の回転中、かかる押し当て動作が断続的かつ逐次の衝撃を持って繰り返し行われることとなるため、シート材の成形部品に断続的な傷が付き、成形部品の品質を低下させる虞がある。また、工具には繰り返し衝撃荷重が反射的に加わることから、工具の変形、破損等が生じ、工具の長寿命化を損なう虞がある。さらに、特許文献1の図12図13及び図15には、工具の山と山との間に平面状の溝が形成された形状が記載されているが、この溝の平坦面がシート材に一機に当接し、その直後に次の山の部分がシート材に衝撃を持って当接する動作が繰り返されるため、同様の課題がある。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたもので、シート材に継続的に接触させつつ押し当て力に連続的な変化を与えて、成形部品の品質の維持及び工具の長寿命化を可能にするインクリメンタルシート成形工具、インクリメンタルシート成形装置、及びインクリメンタルシート成形方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るインクリメンタルシート成形工具は、棒状体をなし、先端部位の周面が軸周りの全周に正の曲率からなる形状を有し、かつ前記曲率が周方向に方向性を有するものである。
【0008】
また、本発明に係るインクリメンタルシート成形装置は、前記インクリメンタルシート成形工具を支持し、前記棒状体の先端部位を成形対象のシート材に押し当てる機構部を備えたものである。
【0009】
また、本発明に係るインクリメンタルシート成形方法は、機構部によって、前記インクリメンタルシート成形工具を支持し、前記棒状体の先端部位を成形対象のシート材に押し当てるものである。
【0010】
これらの本発明によれば、先端部位の周面がシート材に継続的に接触され、かつ全周に亘って方向性を有する、すなわち周囲方向に一定でない正の曲率を持たせ、先端部位の押し当て力に連続的な強弱変化を与えるようにしたので、先端部位とシート材との衝撃的な当接動作はなく、シート材への傷の発生、工具自体の長寿命化、及びシート材の割れが抑制される。
【0011】
また、前記棒状体は、互いに平行かつ軸方向に連結された基軸部と先端軸部とを備え、前記先端軸部の周面は、前記基軸部の軸周りの全周に正の曲率からなる形状を有し、かつ前記曲率が周方向に方向性を有するものである。この構成によれば、棒状体が基軸部と先端軸部とで構成されるので、基軸部に先端軸部を着脱可能な構成とすれば、種類の異なる工具が組み立てられる。
【0012】
また、前記先端軸部の周面は、楕円形状を有するものである。この構成によれば、先端軸部の横断面を楕円形状とすることで、同軸に設けられても周周りに方向性を有する正の曲率周面が形成される。
【0013】
また、前記先端軸部の軸は、前記基軸部の軸に対して偏心しているものである。この構成によれば、基軸部に対して、周方向における正の曲率の変化が偏心の程度によっても変わることになり、汎用性がある。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、先端部位をシート材に継続的に接触させつつ押し当て力に連続的な変化を与えることで、シート材への傷の発生、工具自体の長寿命化、及びシート材の割れを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係るインクリメンタルシート成形装置の一実施形態を示す概略構成図である。
図2】インクリメンタルシート成形工具を示す図で、(A),(B)は従来の汎用型の工具の斜視図及び底面図であり、(C),(D)は本発明に係る工具の一実施形態の斜視図及び底面図である。
図3】成形限界に関する実験1の結果を示す図表である。
図4】発熱温度に関する実験2の結果を示す図表である。
図5】面内ひずみに関する実験3の結果を示す図表である。
図6】ディンプル破面に関する実験4の結果を示す図表である。
図7】インクリメンタルシート成形工具の他の実施形態を示す図で、(A)は斜視図、(B)は底面図である。
図8】インクリメンタルシート成形工具の他の実施形態を示す底面図である。
図9】インクリメンタルシート成形工具の他の実施形態を示す図で、(A)は側面図、(B)はB―B’矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明に係るインクリメンタルシート成形装置1の一実施形態を示す概略構成図である。図2は、インクリメンタルシート成形工具3を示す図で、(A),(B)は公知の一般的な工具の斜視図及び底面図であり、(C),(D)は本発明に係る工具の一実施形態の斜視図及び底面図である。
【0017】
インクリメンタルシート成形装置1(以下、装置1という。)は、図1に示すように、駆動部10と支持部20とを備える。駆動部10は、制御部11と、制御部11によって制御されるXYZ移動機構部12と、回転機構部13とを備える。回転機構部13の先端部には棒状体のインクリメンタルシート成形工具3(以下、工具3という。)が垂直方向に取り付けられている。支持部20は、XYZ移動機構部12の下方に配置され、塑性加工対象である所定サイズのシート材4の端縁の複数個所を、図略の締結具で上下方向に挟持する支柱21と押さえ部材22とを備える。XYZ移動機構部12は、水平な平行平面の一方平面上でX方向に、他方平面上でY方向に移動する公知のスライダを備えると共に、鉛直のZ方向に回転機構部13を昇降させる機構を備える。XYZ移動機構部12及び回転機構部13は、駆動源として、例えばモータが採用されている。
【0018】
制御部11は、XYZ移動機構部12及び回転機構部13による加工動作の制御を行うプロセッサを備える。制御部11は、予め成形部品の成形加工データを備え、かかる成形加工データを駆動用の信号に変換して、対応するXYZ移動機構部12、回転機構部13に出力することで、工具3を移動させ、かつ回転動作させる。加工中における工具3の移動は、種々の方法が採用可能であり、成形加工データに含まれる例えば所定ピッチ毎に設定された等高線データ(のTool pass)に沿って、白抜き矢印で示すような周回的な移動を順次行わせる態様でもよい。また、制御部11は、回転機構部13にモータ回転信号を出力し、工具3を所定回転数での回転を制御する。
【0019】
次に、図2を用いて工具3について説明する。従来の汎用型の工具Toは、(A),(B)に示すように、所定径を有する棒状体で、シート材4に押し当てられる先端部位が半球状に形成されている。一方、工具3は、(C),(D)に示すように、同軸で、かつ軸方向に一体(又は半一体)に構成された基軸部31と先端軸部32とを備える。基軸部31は、横断面が所定径を有する円形の棒状体である。先端軸部32は、軸方向に直交する横断面が楕円形状を有する棒状体で、その先端部位の周面は、半楕円球に形成されている。工具3は、基軸部31を介して回転機構部13に回転可能に取り付けられる。
【0020】
先端軸部32の形状の一例を図2(D)に示す。工具3の基軸部31の半径は10mm(D10と表記)である。先端軸部32の長軸寸法はD10、短軸寸法はD8であり、先端部位の長軸寸法はD5、短軸寸法はD4である。このように、先端軸部32の少なくとも先端部位は、周面の全周に亘って正の曲率(すなわち凸状)を有して形成されている。また、周方向の曲率は、軸Oに対して1/4周毎に、最大と最小との間で連続的に繰り返し変化し、一定ではなく方向性を有する。従って、加工中の工具3は、1/4周回転する度にシート材4への押し当て力が、強と弱との間で連続的(緩やか)に変化しながら繰り返されることになる。このように、工具3は、全周に亘ってシート材4と常に接触状態にしてシート材4への押し当て状態を維持し、かつ押し当て力の強弱変化を連続的にする。
【0021】
図3は、成形限界に関する実験1の結果を示す図表である。
【0022】
図3は、具体的には、工具の違いによるシート材の成形限界の差異を示すもので、差異を示すパラメータとして、成形深さ(Fracture depth)と板厚減少率(Thinning rate)とを採用した。成形深さとは、シート材4の板面を深さ方向に押し込む際に、シート材4の板面に亀裂などの破損が生じる直前の深さをいう。板厚減少率は、最初の板厚に対する、シート材4の押し込みによってシート材4が板面方向に引き延ばされる際に、シート材4の板面に亀裂などの破損が生じる直前の板厚との比をいう。板厚減少率は、デジタルノギス(モノタロウ社製)で測定した。
【0023】
実験1では、比較例1,2、及び実施例1,2を採用した。比較例1,2は、図2(A),(B)に示す工具Toを使用し、比較例1は、回転なしで加工を施した場合であり、比較例2は、3,000rpmで回転させて加工を施した場合である。実施例1,2は、図2(C),(D)に示す工具3を使用し、実施例1は、1,500rpmで回転させて加工を施した場合であり、実施例2は、3,000rpmで回転させて加工を施した場合である。実験1に適用されるシート材は、アルミニウム製で、厚さ0.5mm、1辺240mmの正方形の形状を有する。シート材に成形する形状は、傾斜角度0°~90°を有する凹状の円錐台とした。
【0024】
実験1の結果を示す図3について、まず、成形深さに着目すると、比較例1では29.0mm、比較例2では35.0mmであるが、実施例1では37.5mm、実施例2では42.5mmであり、比較例1,2に対して相対的に深い位置まで押し込みができていることが認められた。なお、図3中の上部に記載された成形部品の写真画は、説明の便宜上、天地反転して表示している。
【0025】
また、板厚減少率に着目すると、比較例1では54.0%、比較例2では66.0%であるが、実施例1では76.0%、実施例2では84.0%であり、比較例1,2に対して相対的に薄い寸法まで加工できることが認められた。また、実施例1と実施例2とを比較すると、工具3の回転数が高くなると、成形深さ及び板厚減少率の各値が増大していることが認められた。これは、例えばFSW(Friction Stir Welding:摩擦攪拌接合)のように、シート材4の表面の金属材が工具3の形状および回転運動によって掻き出されて近隣の材と混ざり合うようにすることで、割れの形成が抑制できていると考えられる。以下、実験1の結果を示す各種の要因に関して実験2~4で考察する。
【0026】
図4は、発熱温度に関する実験2の結果を示す図表である。
【0027】
図4は、具体的には、工具の違いによるシート材の発熱の差異を示すもので、横軸に押し込み深さ(Z-displacement(mm)、Tool pass(図1参照)に対応)を、縦軸に温度(℃)を採用した。一般に金属は降伏点を超えると、応力に対するひずみは塑性変形する。この降伏点は、温度依存性を有し、温度が高い程、下がることが知られている。工具の運動に伴う摩擦熱でシート材の温度が上昇すると降伏点が下がるため、工具からの押し付け力によってシート材に割れを生じたり、勢い変形したりする可能性が高くなる。従って、加工中でのシート材の温度上昇を可及的に抑止して、降伏点を高いレベルに維持することが望まれる。
【0028】
実験2では、比較例1と実施例1とを採用した。比較例1は、図2(A),(B)に示す工具Toを使用し、3,000rpmで回転させて加工を施した場合である。実施例1は、図2(C),(D)に示す工具3を使用し、3,000rpmで回転させて加工を施した場合である。実験2に適用されるシート材は、実験1と同じであり、成形目標の形状も同じである。比較例1では押し込み深さを30mmとし、実施例1では押し込み深さを40mmとした。
【0029】
実験2の結果を示す図4について、比較例1では、押し込み深さが10mmを超えると、温度が150℃程度に上昇し、その後、30mmに達するまで170~180℃の温度を維持していることが認められた。一方、実施例1では、押し込み当初にやや高い温度が見られるものの、その後、40mmに達するまでの間、100℃前後を安定維持していることが認められた。このように、発熱温度が170~180℃と高くなる比較例1では、降伏点の低下があり、加工中のシート材に割れなどが生じやすくなる。一方、実施例1では、発熱温度は相対的に低く低温側に維持されており、降伏点の低下は問題とならず、割れの発生は抑制される。
【0030】
図5は、面内ひずみに関する実験3の結果を示す図表である。
【0031】
図5は、具体的には、工具の違いによる面内ひずみの差異を示すもので、縦軸に縦方向(シート材の傾斜方向)への縦変移比率(DM/D0)を、横軸に横方向(シート材の円周方向)への横変移比率(DC/D0)を採用した。図5は、より具体的には、工具が押し当てられる面(Inner)と裏面(Outer)との成形寸法差に伴うねじれ変形による割れの生じやすさを示す。
【0032】
実験3では、比較例1,2と実施例1とを採用した。比較例1は、図2(A),(B)に示す工具Toを使用し、回転数0rpm、すなわち回転なしで加工を施した場合、比較例2は、同工具Toで回転数3,000rpmの場合である。実施例1は、図2(C),(D)に示す工具3を使用し、3,000rpmで回転させて加工を施した場合である。実験3に適用されるシート材は、実験1と同じであり、成形目標の形状も同じである。
【0033】
実験3では、まず、加工前のシート材の適当な位置であって対向する表裏面に所定径の同一円(Initial hole)を表記し、次いで、工具を動作させて成形を施した。成形動作終了後、予め表記した円の径寸法を計測し、当初に描いた円の径との比率を、縦変移比率(DM/D0)、横変移比率(DC/D0)として求めた。
【0034】
実験3の結果を示す図5において、図表中の下半部に記載の3つの楕円形の図は、左側から順に比較例1,2、実施例1の成形後のInner側(実線)とOuter側(破線)の描画図形を示している。図5から、比較例1は、黒円及び破線円で示すように、いずれの比率も1.0を大きく超えていることが認められ、割れが生じやすい。比較例2は、比較例1より改善されているものの、いずれの比率も1.0を超えていることが認められる。これに対し、実施例1は、黒三角形及び破線三角形に示すように、いずれの比率も1.0に近く、特に黒三角形(Inner側)は、1.0よりも小さいことが認められるから、割れの発生は抑制されると考えられる。
【0035】
図6は、ディンプル破面に関する実験4の結果を示す写真図である。
【0036】
図6は、具体的には、工具の違いによる加工面のディンプル(Dimple:窪み)の差異を示すものである。実験4では、比較例1と実施例1とを採用した。比較例1は、図2(A),(B)に示す工具Toを使用し、回転数3,000rpmで成形した場合である。実施例1は、図2(C),(D)に示す工具3を使用し、回転数3,000rpmで成形した場合である。図6(A)は、比較例1によるディンプル破面であり、多数のディンプルが形成されている。図6(B)は、実施例1によるディンプル破面であり、ディンプルのサイズが、図6(A)に比して相対的に小さいことが認められた。
【0037】
比較例1のように、工具を回転させてシート材の表面に均一の成形応力を与え続けると、シート材の表面の材料が引き剥がされてディンプルが形成され、それを起点に亀裂が発生しやすくなる。一方、実施例1の工具のように、シート材への接触状態を維持しつつ押し付け力が連続的(緩やか)に変化する場合、形成されたディンプルに対して近隣の表面金属材が局所的に移動して、すなわち金属材が混ざり合う現象によってディンプルが解消され、亀裂の発生が抑制される。
【0038】
図7は、インクリメンタルシート成形工具の他の実施形態を示す図で、(A)は斜視図、(B)は底面図である。工具3Aは、軸Oを有する円柱状の基軸部31Aを介して、先端に軸Qを有する円柱状の先端軸部32Aが偏心して設けられている。軸Oは、図7(B)に示すように、先端軸部32Aの横断面内に位置するように配置され、先端軸部32Aが継続的に(常に)シート材4に接触するように形成されている。なお、円柱状の先端軸部32Aの径は、基軸部31Aの径よりも小さくてもよいし、大きくてもよい。この構成によれば、先端軸部32Aをシート材4に継続的に接触させつつ押し当て力を連続的に変化させることができ、シート材4への傷の発生、工具3Aの長寿命化、及びシート材4の割れを抑制することができる。
【0039】
図8は、インクリメンタルシート成形工具の他の実施形態を示す底面図である。工具3Bは、軸Oを有する円柱状の基軸部31Bを介して、先端に軸Qを有する楕円柱状の先端軸部32Bが偏心して設けられている。軸Oは、先端軸部32Bの横断面内に位置するように配置され、先端軸部32Bが継続的に(常に)シート材4に接触するように形成されている。なお、円柱状の先端軸部32Bの径は、基軸部31Bの径よりも小さくてもよいし、大きくてもよい。この構成によれば、先端軸部32Bをシート材4に継続的に接触させつつ押し当て力を連続的に変化させることができ、シート材4への傷の発生、工具3Bの変形、及びシート材4の割れを抑制することができる。
【0040】
図9は、インクリメンタルシート成形工具の他の実施形態を示す図で、(A)は側面図、(B)はB―B’矢視図である。工具3Cは、棒状体31Cの先端部位の半周分が互いに異なる正の曲率を持つ半球部311C及び半球部312Cを有して構成されている。半球部312Cは、半球部311Cに比して大きな曲率で形成されている。なお、半球部312Cは、周方向の半周分を有する形状の他、半球部311Cに比して半周以上又は半周以下でもよい。かかる構成によっても、棒状体31Cをシート材4に継続的に(常に)接触させつつ、半球部311Cと半球部312Cとで押し当て力を連続的に変化させることで、シート材4側への傷の発生、工具3Bの変形、及びシート材4の割れを抑制することができる。
【0041】
なお、本実施形態では、工具3が回転(自転)する構成として説明したが、本発明は、回転を伴わない構成にも適用可能である。回転を伴わない構成であっても、成形部品の形状に沿って、例えば等高線(Tool pass)に沿って周回させることで、シート材4と当接する工具3の軸周りの位相が順次移動し、一周する。従って、少なくとも前記実施形態と同種の作用効果を奏する。
【符号の説明】
【0042】
1 インクリメンタルシート成形装置
10 駆動部
20 支持部
3,3A,3B,3C 工具
31,31A,31B 基軸部(棒状体)
31C 棒状体
32,32A,32B 先端軸部(棒状体)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9